(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】ポリオレフィン樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 210/00 20060101AFI20220324BHJP
C08F 4/654 20060101ALI20220324BHJP
C08F 4/6592 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
C08F210/00
C08F4/654
C08F4/6592
(21)【出願番号】P 2018519838
(86)(22)【出願日】2015-10-12
(86)【国際出願番号】 CN2015091733
(87)【国際公開番号】W WO2017063116
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2018-06-12
【審判番号】
【審判請求日】2020-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】511096558
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF CHEMISTRY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No. 2, Zhongguancun North First Street, Haidian District, Beijing, 100190, P. R. China
(73)【特許権者】
【識別番号】518127716
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシズ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No. 19(A) Yuquan Road, Shijingshan District, Beijing 100040 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】董 金勇
(72)【発明者】
【氏名】秦 ▲亞▼▲偉▼
【合議体】
【審判長】杉江 渉
【審判官】佐藤 健史
【審判官】蔵野 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-518139(JP,A)
【文献】特開平1-294720(JP,A)
【文献】特開平2-153951(JP,A)
【文献】特表昭63-502285(JP,A)
【文献】特開2013-68914(JP,A)
【文献】特開2008-266502(JP,A)
【文献】特開平10-512915(JP,A)
【文献】特開2002-371112(JP,A)
【文献】特開2005-314521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4/60-4/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下にオレフィン単量体をオレフィン重合反応させることを含む製造方法であって、
前記オレフィン重合反応の前及び/又は前記オレフィン重合反応の過程において、重合反応系に有機シランを加えることをさらに含み、
前記有機シランの一般式はR
1mSiX
n(OR
2)
k(式中、R
1は炭素数4~20の炭化水素基であり、且つR
1の末端には、α-オレフィン二重結合、ノルボルネニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R
2は炭素数1~20の直鎖または分岐のアルキル基であり、mは1~3の整数であり、nは1~3の整数であり、kは0~2の整数であり、且つm+n+k=4である。)であり(但し、5-トリクロロシリル-2-ノルボルネンを除く)、
前記触媒はメタロセン触媒であることを特徴とするポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項2】
触媒の存在下にオレフィン単量体をオレフィン重合反応させることを含む製造方法であって、
前記オレフィン重合反応の前及び/又は前記オレフィン重合反応の過程において、重合反応系に有機シランを加えることをさらに含み、
前記有機シランは、7-オクテニルトリクロロシラン、5-ヘキセニルトリクロロシラン、2-(5-エチリデン-2-ノルボルネニル)エチルトリクロロシラン、2-(3-シクロヘキセニル)エチルトリクロロシラン、4-(2,7-シクロオクタジエン)ブチルトリクロロシラン、及び2-(ジシクロペンタジエン)エチリデントリクロロシランのうちの少なくとも1種であり、
前記触媒はメタロセン触媒であることを特徴とするポリオレフィン樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記有機シランの使用量は、オレフィン単量体100重量部に対して、0.0001~20重量部である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記オレフィン単量体はエチレン及び/又はα-オレフィンであり、
前記α-オレフィンはプロピレン、1-ブチレン、1-アミレン、1-ヘキセン、及び1-オクテンのうちの少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリオレフィン重合反応の完了後、得られたポリオレフィン重合反応の生成物を20~120℃で、水及び/又はアルコールを使用して洗浄することをさらに含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合の分野に関し、具体的には、ポリオレフィン樹脂の製造における有機シランの使用、ポリオレフィン樹脂の製造方法、及び該方法によって得られたポリオレフィン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、新構造や新性能を有するオレフィン重合変性剤が絶えず発見され、ポリオレフィンに関する高性能化の研究に応用されているにもかかわらず、幅広く応用の可能性がある高性能ポリオレフィン樹脂の一部は、効果的な触媒重合の製造方法がまだ得られていない。例えば、高溶融強度を有する架橋ポリプロピレンは、ブロー成形・発泡の分野で幅広い応用の可能性を有しているが、現在、重合釜の中でこのようなポリプロピレンが直接製造可能で且つ効果的な重合方法はまだ得られていない。また例えば、耐衝撃性ポリプロピレン共重合体(hiPP)を代表とするポリプロピレン釜内アロイは、自動車、機器及び耐久消費製品の分野において応用される大きな潜在力を有している。しかしながら、ポリプロピレン釜内アロイ樹脂は、ポリプロピレンとエチレンプロピレンゴム相の間の界面接着力が低く、相分離のスケールが不安定であるなどの問題があるため、ポリプロピレン釜内アロイ樹脂の溶融体強度が低くなり、且つ力学的性質が劣り、その使用性能に深刻に影響している。
【0003】
ポリプロピレン樹脂の溶融体強度と力学的強度を高めるため、現在、主に放射線変性、グラフト変性などの手段によって長鎖分岐や架橋構造を有するポリプロピレン樹脂を得て、或いは高分子量ポリプロピレンの組成、無機充填材、共重合成分を導入する手段によって、ポリプロピレン樹脂の溶融体強度と力学的強度を向上させている。しかし、これらの方法を採用することで、ポリプロピレン樹脂の溶融体強度をある程度向上させ、その力学的性質を改善することはできるが、生産コストが高く製品性能が単一であるなどの欠陥が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、既存の方法によって得られたポリオレフィン樹脂の溶融体強度が低いという問題を克服するために、ポリオレフィン樹脂の製造における有機シランの使用、ポリオレフィン樹脂の製造方法、及び該方法によって得られたポリオレフィン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
具体的に、本発明はポリオレフィン樹脂の製造における有機シランの使用を提供し、前記有機シランの一般式はR1
mSiXn(OR2)kである(式中、R1は炭素数2~20の炭化水素基であり、且つR1の末端には、α-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R2は炭素数1~20の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であり、mは1~3の整数であり、nは1~3の整数であり、kは0~2の整数であり、且つm+n+k=4である。)。
【0006】
本発明は、さらに、触媒の存在下にオレフィン単量体をオレフィン重合反応させることを含むポリオレフィン樹脂の製造方法を提供し、該方法は、前記オレフィン重合反応の前及び/又は前記オレフィン重合反応の過程において、重合反応系に有機シランを加えることをさらに含み、前記有機シランの一般式はR1
mSiXn(OR2)kである(式中、R1は炭素数2~20の炭化水素基であり、且つR1の末端には、α-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R2は炭素数1~20の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であり、mは1~3の整数であり、nは1~3の整数であり、kは0~2の整数であり、且つm+n+k=4である。)。
【0007】
また、本発明は、上述した方法によって得られるポリオレフィン樹脂をさらに提供する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記一般式R1
mSiXn(OR2)kで示される有機シランと一般式Si(OR’)4(式中、R’は炭素数1~20の炭化水素基である)で示される有機シラン、及び一般式SiX’4(式中、X’はハロゲンである)で示されるハロゲン化シランは、オレフィン重合反応過程において全く異なる挙動を示し、前記オレフィン重合反応の前及び/又は前記オレフィン重合反応の過程において、重合反応系に一般式R1
mSiXn(OR2)kで示される有機シランを加えて釜内で重合させることにより、比較的高い溶融体強度と力学的強度を有するポリオレフィン樹脂を得られることを見出した。また、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法は、有機シランの種類と使用量を調節することにより、得られるポリオレフィン樹脂の分岐化又は架橋程度を調整・制御するという目的を実現でき、その結果、調節可能な溶融体強度、制御可能な力学的性質を有する一連の高溶融体強度ポリオレフィン樹脂を得ることができ、架橋ポリオレフィン樹脂を得ることもできる。こうして、低コストで高性能、多様な性質の釜内ポリオレフィン樹脂の製造を達成できることを見出した。
【0009】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記有機シラン中のR1は炭素数2~20の炭化水素基であり、且つR1の末端には、α-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R2は炭素数1~10の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であり、mは1又は2であり、nは2又は3であり、kは0であり、且つm+n+k=4である場合;或いはR1は炭素数2~18の炭化水素基であり、且つR1の末端には、α-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R2は炭素数1~5の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であり、mは1であり、nは3であり、kは0である場合、得られたポリオレフィン樹脂は、より高い溶融体強度と力学的強度を有する。
【0010】
本発明の他の特徴と利点は、後記する実施例で詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。ここに説明される実施形態は、本発明の説明や解釈のみに用いるためのものであって、本発明を限定するものではないと理解すべきである。
【0012】
本発明は、ポリオレフィン樹脂の製造における有機シランの使用を提供し、前記有機シランの一般式はR1
mSiXn(OR2)kであり、式中、同一の一般式中の複数のR1は同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立して炭素数2~20の炭化水素基であり、且つR1の末端にα-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含む;同一の一般式で表される複数のXは同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立してハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含む)であってもよい;同一の一般式で表される複数のR2は同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立して炭素数1~20の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であってもよい;mは1~3の整数であり、nは1~3の整数であり、kは0~2の整数であり、且つm+n+k=4である。
【0013】
本発明によれば、好ましくは、同一の一般式で表される複数のR1は同じものであってもよいし、異なるものであってもよいが、それぞれは独立して炭素数2~20の炭化水素基であり、且つR1の末端にα-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含む;同一の一般式で表れる複数のXは同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立してハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含む)であってもよい;同一の一般式で表される複数のR2は同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立して炭素数1~10の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であってもよい;mは1又は2であり、nは2又は3であり、kは0であり、且つm+n+k=4である。より好ましくは、同一の一般式で表される複数のR1は同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立して炭素数2~18の炭化水素基であり、且つR1の末端にα-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含む;同一の一般式で表れる複数のXは同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立してハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含む)であってもよい;同一の一般式で表される複数のR2は同じものであってもよいし、異なるものであってもよく、またそれぞれが独立して炭素数1~5の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であってもよい;mは1であり、nは3であり、kは0である。前記好ましい有機シランを用いて変性剤とすることは、ポリオレフィン樹脂の溶融体強度及び力学的強度を高めるためにより有利である。
【0014】
前記R1の末端にα-オレフィン二重結合(CH2=CH-)を有する場合、α-オレフィン二重結合以外の直鎖炭化水素基(二重結合、三重結合など)又はその異性体を含むR1中間部分の構造は限定されない。ここで、有機シランの具体例としては、7-オクテニルトリクロロシラン、5-ヘキセニルトリクロロシラン、アリルトリクロロシラン、ビス(7-オクテニル)ジクロロシラン、ビス(アリル)ジクロロシラン等のうちの少なくとも1種であるが、これらに限らない。
【0015】
R1の末端にノルボルニル基を含む場合、R1の好ましい構造を式(1)に示す。
【0016】
【0017】
式中、ケイ素原子と結合する官能基はR3であってもよいし、R4であってもよく、またR5であってもよく、且つR3、R4及びR5は、それぞれ独立してH又は炭素数1~10の炭化水素基(オレフィン、アルケン、アルキニル、シクロアルキル基などを含む)であり、直鎖炭化水素基又はその異性体を含むが、これらに限らない。例えば、R1は式(1)に示す構造を有し、且つR3は水素原子であり、R4はケイ素原子に結合しているエチリデンであり、R5はエチル基であり、m=1,n=3,k=0,Xは塩素である場合、前記有機シランは2-(5-エチリデン-2-ノルボルニル)エチルトリクロロシランである。
【0018】
前記R1の末端にシクロオレフィン官能基を含む場合、前記シクロオレフィン官能基の炭素数は3~10であってもよく、ここで、二重結合の数量は1~3であってもよいし、シクロオレフィン官能基とケイ素原子を結合する炭化水素基チェーンにおける炭素数は1~10であってもよく、直鎖炭化水素基又はその異性体を含む。また、前記シクロオレフィン官能基の環に分岐鎖を有してもよく、該分岐鎖は、好ましくは炭素数1~5のアルキル基である。ここで、有機シランの具体例としては、2-(3-シクロヘキセニル)エチルトリクロロシラン及び/又は4-(2,7-シクロオクタジエン)ブチルトリクロロシランを含むが、これらに限らない。
【0019】
前記R1の末端にジシクロペンタジエン官能基を含む場合、R1の好ましい構造を式(2)に示す。
【0020】
【0021】
式中、ケイ素原子と結合する官能基はR6であってもよいし、R7であってもよく、またR8であってもよく、且つR6、R7及びR8は、それぞれ独立してH又は炭素数1~10の炭化水素基であり、直鎖炭化水素基又はその異性体を含むが、これらに限らない。例えば、R1は式(2)に示す構造を有し、且つR6とR7はいずれも水素原子であり、R8はケイ素原子と結合するエチリデンであり、m=1,n=3,k=0,Xは塩素である場合、前記有機シランは2-(ジシクロペンタジエン)エチリデントリクロロシランである。
【0022】
上述したように、前記有機シランの具体例としては、7-オクテニルトリクロロシラン、5-ヘキセニルトリクロロシラン、アリルトリクロロシラン、ビス(7-オクテニル)ジクロロシラン、ビス(アリル)ジクロロシラン、2-(5-エチリデン-2-ノルボルニル)エチルトリクロロシラン、2-(3-シクロヘキセニル)エチルトリクロロシラン、4-(2,7-シクロオクタジエン)ブチルトリクロロシラン、及び2-(ジシクロペンタジエン)エチリデントリクロロシランのうちの少なくとも1種である。好ましくは、前記有機シランは7-オクテニルトリクロロシラン、5-ヘキセニルトリクロロシラン、アリルトリクロロシラン、2-(5-エチリデン-2-ノルボルニル)エチルトリクロロシラン、2-(3-シクロヘキセニル)エチルトリクロロシラン、4-(2,7-シクロオクタジエン)ブチルトリクロロシラン、及び2-(ジシクロペンタジエン)エチリデントリクロロシランのうちの少なくとも1種であるが、これらに限らない。上記好ましい有機シランを用いて変性剤とすることは、ポリオレフィン樹脂の溶融体強度及び力学的強度を高めるためにより有利である。
【0023】
本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法は、触媒の存在下にオレフィン単量体をオレフィン重合反応させることを含み、該方法は、前記オレフィン重合反応の前及び/又は前記オレフィン重合反応の過程において、重合反応系に有機シランを加えることをさらに含む。前記有機シランの一般式はR1
mSiXn(OR2)kである(式中、R1は炭素数2~20の炭化水素基であり、且つR1の末端には、α-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R2は炭素数1~20の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であり、mは1~3の整数であり、nは1~3の整数であり、kは0~2の整数であり、且つm+n+k=4である。)。
【0024】
また、前記有機シランの具体的な選択は、既に前述したため、ここでは説明を省略する。
【0025】
本発明では、前記有機シランの使用量は特に限定されないが、前記有機シランの使用量は、オレフィン単量体100重量部に対して0.0001~20重量部であることが好ましく、より好ましくは0.0001~5重量部であり、更に好ましくは0.0005~1重量部であり、特に好ましくは0.001~0.5重量部である。このようにして、さらに、ポリオレフィン樹脂の溶融体強度及び力学的強度を向上することができる。
【0026】
本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法の主な改善点は、前記オレフィン重合反応の前及び/又は前記オレフィン重合反応の過程において、重合反応系に一般式R1
mSiXn(OR2)kで表れる有機シランを加えることにあるが、オレフィン単量体及び触媒の種類と、オレフィン重合反応の方法及び条件は、いずれも本分野の通常の選択であってもよい。
【0027】
例えば、前記オレフィン単量体は、いずれも既存の各種、且つオレフィン重合反応が可能な単量体であってもよく、具体的には、エチレン及び/又はα-オレフィンであってもよい。ここで、前記α-オレフィンは、二重結合が分子チェーンの末端にある既存の各種モノオレフィンであってもよく、例えば、プロピレン、1-ブチレン、1-アミレン、1-ヘキセン、及び1-オクテンのうちの少なくとも1種であってもよい。前記オレフィン重合反応によって得られたポリオレフィン樹脂は、ホモポリオレフィン樹脂、共重合ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン釜内アロイ等であってもよい。前記ポリオレフィン樹脂は共重合ポリオレフィン樹脂である場合に、オレフィン単量体の含有量は本分野において通常の選択であってもよいため、ここでは記載しない。
【0028】
前記触媒は、オレフィン単量体の重合反応を行うための既存の各種物質であってもよく、具体例としては、チーグラー・ナッタ(Ziegler-Natta)触媒、メタロセン触媒及び非メタロセン触媒のうちの少なくとも1種であってもよいが、これらに限らない。ここで、これら触媒の具体的な組成は当業者にはよく知られており、例えば、前記Ziegler-Natta触媒は、塩化マグネシウム担持触媒システム、VOCl3-AlEt2Cl触媒システムであってもよい。具体的に、塩化マグネシウム担持触媒システムは、通常MgCl2、TiCl4、アルキルアルミニウム及び/又はアルコキシアルミニウム、並びに選択的に含有する内部電子供与体及び/又は外部電子供与体を含み、詳細は当業者にはよく知られているため、ここでは記載しない。
【0029】
本発明では、前記オレフィン重合反応の条件は特に限定されず、通常、重合温度が30~90℃であってもよく、40~80℃であることが好ましく、重合圧力が1~10大気圧であってもよく、1~7大気圧であることが好ましく、重合時間が0.05~10時間であってもよく、0.05~2時間であることが好ましい。本発明における前記圧力はいずれもゲージ圧を意味する。また、前記重合反応はスラリー重合反応であってもよいし、バルク重合反応であってもよい。前記重合反応がスラリー重合反応である場合、前記重合反応は、有機溶媒の存在下に行なわれるべきである。前記有機溶媒は炭素数5~10のアルキル又は炭素数6~8の芳香族炭化水素であってもよく、ここで、前記炭素数5~10のアルキルはヘプタン、n-ヘキサン、及びシクロヘキサンのうちの少なくとも1種であることが好ましく、前記炭素数6~8の芳香族炭化水素はメチルベンゼンであることが好ましい。また、前記有機溶媒の使用量は本分野において通常の選択であってもよく、ここでは記載しない。
【0030】
また、ポリオレフィン樹脂の溶融指数を調節するために、通常、前記ポリオレフィン樹脂の製造工程において、反応系に水素ガスを通してもよい。前記オレフィン単量体100重量部に対して、前記水素ガスの使用量は0~10重量部であってもよく、0~5重量部であることが好ましい。
【0031】
本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法によれば、好ましくは、該方法は、前記オレフィン重合反応の完了後、得られたオレフィン重合反応の生成物を20~120℃で、水及び/又はアルコールを使用して洗浄することをさらに含む。このようにして得られたオレフィン重合反応の生成物は、ある程度の分岐化又は架橋程度を有しているため、その溶融体強度及び力学的強度を向上するためにより有利である。ここで、前記アルコールの種類は、本分野において通常の選択であってもよく、具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びn-ブチルアルコールのうちの少なくとも1種を含むが、これらに限らない。
【0032】
また、本発明は、上述した方法によって得られたポリオレフィン樹脂を更に提供する。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0034】
以下の実施例と対比例において、ポリオレフィン樹脂のゲル含有量は、下記の方法により測定した。ポリオレフィン樹脂を真空乾燥炉で50℃にて恒量まで乾燥し、重量を量ってW1と表記し、その後、乾燥されたポリオレフィン樹脂をジメチルベンゼンで溶解し、135℃で十分に振動させて溶かした後、200目のステンレス網で濾過を行い、ステンレス網に残留した不溶性ポリマーを収集した。収集した溶解しないポリマーを、真空乾燥炉で100℃にて4時間乾燥し、重量を量ってW2と表記した。ポリオレフィン樹脂のゲル含有量の計算式は、下記の通りである。
ゲル含有量(重量%)=(W2/W1)×100(重量%)
【0035】
実施例1
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0036】
スラリー重合:真空雰囲気下で450gの気相プロピレン単量体を反応釜に加えた後、50mLのヘキサン、5.5mmolのトリエチルアルミニウムを含有するヘプタン3mL、0.1mLの7-オクテニルトリクロロシラン、及び20mgのオレフィン重合触媒(MgCl2/TiCl4/BMMF、ここで、BMMFは内部電子供与体9,9-ジメトキシフルオレンであり、MgCl2とTiCl4とBMMFの質量比は80:12:8である)を順次加えた。反応釜内の圧力を5.0大気圧に制御し、反応温度を60℃に制御し、0.5時間重合反応させて重合完了した後、酸化エタノールを加えて重合反応を終了し、その後、それぞれ60℃の脱イオン水及び50℃のエタノールで3回洗浄し、最後に60℃で真空乾燥することにより、20.0gのホモポリプロピレン樹脂(homopolymerized polypropylene resin)を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における7-オクテニルトリクロロシランの濃度は5000ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐や架橋構造を有し、そのゲル含有量は20重量%であった。
【0037】
実施例2
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0038】
バルク重合:真空雰囲気下で450gの液相プロピレン単量体を反応釜に加えた後、0.25molのトリエチルアルミニウム、0.005gの水素ガス、0.02mLの7-オクテニルトリクロロシラン、及び18mgのオレフィン重合触媒(MgCl2/TiCl4/BMMF、ここで、MgCl2とTiCl4とBMMFの質量比は80:12:8である)を順次加え、反応温度を70℃に制御し、30分重合反応させて、反応を完了した後、反応釜の中のガスを排出して生成物を得た。続いて、得られた生成物をお湯(90℃)にて洗浄し、60℃で真空乾燥することによりホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における7-オクテニルトリクロロシランの濃度は57ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は1.1重量%であった。
【0039】
実施例3
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0040】
7-オクテニルトリクロロシランの代わりに7-オクテニルジメトキシクロロシランを同じ体積で使用すること以外は、実施例2と同様の製法によりホモポリオレフィン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における7-オクテニルジメトキシクロロシランの濃度は250ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は1重量%であった。
【0041】
比較例1
該比較例は、参照用ポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0042】
7-オクテニルトリクロロシランを加えないこと以外は、実施例2と同様の製法により参照用ホモポリプロピレン樹脂を得た。
【0043】
比較例2
該比較例は、参照用ポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0044】
7-オクテニルトリクロロシランの代わりにテトラクロロシランを同じ体積で使用すること以外は、実施例2と同様の製法により参照用ホモポリプロピレン樹脂を得た。
【0045】
比較例3
該比較例は、参照用ポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0046】
7-オクテニルトリクロロシランの代わりにテトラメトキシシランを同じ体積で使用すること以外は、実施例2と同様の製法により参照用ホモポリプロピレン樹脂を得た。
【0047】
実施例4
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0048】
バルク重合:真空雰囲気下で450gの液相プロピレン単量体を反応釜に加えた後、0.25molのトリエチルアルミニウム、0.025mLのメチルシクロヘキシルジメトキシシラン、0.05mLの7-オクテニルトリクロロシラン及び18mgのオレフィン重合触媒(MgCl2/TiCl4/DIBP、ここで、DIBPは内部電子供与体フタル酸ジイソブチルであり、MgCl2とTiCl4とDIBPの質量比は85:8:7である)を順次加え、反応温度を70℃に制御し、30分重合反応させて、重合反応完了した後、反応釜の中のガスを排出し、300gのホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における7-オクテニルトリクロロシランの濃度は167ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は0.2重量%であった。
【0049】
実施例5
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0050】
バルク重合:真空雰囲気下で450gの液相プロピレン単量体を反応釜に加えた後、0.25molのメチルアルミノキサン(methylaluminoxane)、0.02mLの7-オクテニルトリクロロシラン、及び0.0025gの遷移金属化合物rac-Me2Si(2-Me-4-PhInd)2ZrCl2(式中、rac-はラセミ化を示し、Meはメチル基であり、Phはフェニル基であり、Indはインデニル基である)を順次加え、反応温度を70℃に制御し、30分重合反応させて重合反応を完了した後、反応釜の中のガスを排出し、300gのホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における7-オクテニルトリクロロシランの濃度は67ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は15.2重量%であった。
【0051】
実施例6
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0052】
バルク重合:真空雰囲気下で450gの液相プロピレン単量体を反応釜に加えた後、0.25molのメチルアルミノキサン、0.01mLの7-オクテニルトリクロロシラン、及び0.0025gの遷移金属化合物Me2C(Cp)(Flu)ZrCl2(式中、Meはメチル基であり、Cpはシクロペンタジエニル基であり、Fluはフルオレニル基である)を順次加え、反応温度を70℃に制御し、30分重合反応させて、重合反応を完了した後、反応釜の中のガスを排出し、360gのホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における7-オクテニルトリクロロシランの濃度は28ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は12.0重量%であった。
【0053】
実施例7
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0054】
7-オクテニルトリクロロシランの代わりに2-(5-エチリデン-2-ノルボルニル)エチルトリクロロシランを同じ体積で使用すること以外は、実施例6と同様の製法によりホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における2-(5-エチリデン-2-ノルボルニル)エチルトリクロロシランの濃度は150ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は8.5重量%であった。
【0055】
実施例8
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0056】
7-オクテニルトリクロロシランの代わりに2-(3-シクロヘキセニル)エチルトリクロロシランを同じ体積で使用すること以外は、実施例6と同様の製法によりホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における2-(3-シクロヘキセニル)エチルトリクロロシランの濃度は60ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は5.2重量%であった。
【0057】
実施例9
該実施例は、本発明のポリオレフィン樹脂の製造方法を説明するために用いられるものである。
【0058】
7-オクテニルトリクロロシランの代わりに2-(ジシクロペンタジエン)エチリデントリクロロシランを同じ体積で使用すること以外は、実施例6と同様の製法によりホモポリプロピレン樹脂を得た。測定の結果、該ホモポリプロピレン樹脂における2-(ジシクロペンタジエン)エチリデントリクロロシランの濃度は120ppmであり、前記ホモポリプロピレン樹脂は分岐又は架橋構造を有し、そのゲル含有量は6.0重量%であった。
【0059】
特性の測定
下記の説明は、ポリオレフィン樹脂の特性測定を説明するために用いられるものである。
【0060】
(1)溶融体強度の測定
溶融体強度の実験装置としては、キャピラリーが配置される単軸スクリュー押出機とGottfert Rheotens溶融体強度測定装置からなるものを用いた。まず、溶融体強度測定前のポリオレフィン樹脂溶融体を押出機の出口金型から押し出し、その後、得られた押出熔体束状スプラインは、バランスビームに取り付けられた2つの逆方向ロールにより引っ張られた。溶融体束が引っ張られる時に受ける力はロール速度と時間の関数である。溶融体束が断裂するまでロールを均一に回転し、溶融体束が断裂する時に受ける力を溶融体強度であると定義した。得られた結果を表1に示した。
【0061】
(2)力学的性質の測定
衝撃強度は、ASTM D256Aに定める方法により測定し、結果を表1に示した。
引張強度は、ISO527-2-5Aに定める方法により測定し、結果を表1に示した。
曲げ弾性率は、ASTM 638-Vに定める方法により測定し、結果を表1に示した。
【0062】
【0063】
以上の結果から分かるように、本発明の方法で製造することによって得られたポリオレフィン樹脂は高い溶融体強度及び力学強度を有する。実施例2と実施例3との比較から、前記有機シラン中のR1は炭素数2~18の炭化水素基であり、且つR1の末端にはα-オレフィン二重結合、ノルボルニル基、シクロアルケン基、又はジシクロペンタジエン基を含み、Xはハロゲンであり、R2は炭素数1~5の直鎖、分岐或いは異性化のアルキル基であり、mは1であり、nは3であり、kは0である場合、得られたポリオレフィン樹脂はより高い溶融体強度及び力学強度を有することがわかる。実施例3と比較例2~3との比較から、本発明の有機シランと4ハロゲン化ケイ素及びテトラアルコキシシランは、オレフィン重合反応の過程で異なる挙動を示し、本発明の有機シランを採用することによって得られたポリオレフィン樹脂はより高い溶融体強度及び力学強度を有することがわかる。
【0064】
以上、本発明の好ましい実施例を詳細に説明したが、本発明は上記のような具体的な実施の形態に限らず、本発明の技術思想の範囲内で各種の簡単な変更を実施でき、これらの全ての簡単な変更は本発明の範疇である。
【0065】
また、上記の具体的な実施例において説明された各具体的な技術的特徴は、矛盾しない限り、如何なる適切な方式でも組み合わせることができる。不要な繰り返しを回避するため、本発明は各種の可能な組み合わせの方法について特に説明しない。
【0066】
また、本発明の様々な実施方式も任意の組み合わせで行うことができ、本発明の思想に反しない限り、本発明の公開内容として同様に扱われる。