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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】熱間工具鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220324BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20220324BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220324BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20220324BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20220324BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20220324BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/00 302E
C22C38/54
B22F1/00 S
B22F3/16
B22F3/105
C21D6/00 L
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018531092
(86)(22)【出願日】2016-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 SE2016051174
(87)【国際公開番号】W WO2017111680
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-09-03
(31)【優先権主張番号】1551702-2
(32)【優先日】2015-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】517189825
【氏名又は名称】ウッデホルムズ アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】メドベージェワ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン,ジャーカー
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン,リカルド
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,チェリン
(72)【発明者】
【氏名】アイナーマーク,セバスチャン
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-95181(JP,A)
【文献】特表2002-509986(JP,A)
【文献】特開2000-017384(JP,A)
【文献】特開2001-214238(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00939140(EP,A1)
【文献】特開2013-087322(JP,A)
【文献】特開2015-193867(JP,A)
【文献】特開2015-221933(JP,A)
【文献】特開2012-201909(JP,A)
【文献】特開2014-177710(JP,A)
【文献】特表2014-512456(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0150772(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103834869(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/02- 1/84
C21D 6/00- 6/04
B22F 1/00- 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%(wt%)で、
C 0.27~0.38
Si 0.10~0.25
Mn 0.2~0.7
Cr 4.5~5.5
Mo 2.05~2.90
V 0.4~0.6
N 0.011~0.12
H ≦0.0004
S ≦0.0015
Al 0.001~0.06
と、必要に応じて、以下の一つ又は複数:
Ni ≦1.5
Cu ≦2
Co ≦8
W ≦0.5
Nb ≦0.5
Ti ≦0.05
Zr ≦0.05
Ta ≦0.05
B ≦0.01
Ca 0.00005~0.009
Mg ≦0.01
REM ≦0.2
と、残部 鉄とその他の不純物
からなり、
以下の条件を満たし、
V/C 1.40~1.60
一次析出MXの含有量が0.3~1.0vol%である、
熱間加工用鋼。
【請求項2】
以下の条件の少なくとも一つを満たし、
C 0.30~0.38
Si 0.15~0.25
Mn 0.4~0.6
Cr 4.6~5.4
Mo 2.1~2.8
V 0.5~0.6
N 0.011~0.08
H ≦0.0003
Cu 0.02~1
Co ≦1
W ≦0.3
Nb ≦0.05
Ti ≦0.01
Zr ≦0.01
Ta ≦0.01
B ≦0.005
Mg ≦0.01
Ca 0.0001~0.00
P、SおよびOの混入含有量が以下の条件を満たす、
P ≦0.03
S ≦0.0010
O ≦0.0015
請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
以下の条件の少なくとも1つを満たす、請求項1または2に記載の鋼。
C 0.33~0.38
Si 0.15~0.25
N 0.012~0.07
H ≦0.0002
Cu 0.02~0.5
Co ≦0.3
W ≦0.1
B 0.001~0.004
Mg 0.00005~0.001
Ca 0.0001~0.00
【請求項4】
以下の条件の少なくとも1つを満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼。
C 0.33~0.37
Si 0.16~0.25
Mn 0.45~0.55
Cr 4.8~5.2
Mo 2.2~2.6
V 0.51~0.58
N 0.011~0.056
H ≦0.0003
Cu 0.02~0.3
Co ≦0.3
W ≦0.1
Nb ≦0.05
Mg 0.0001~0.001
Ca 0.0001~0.001
V/C 1.45~1.55
P ≦0.01
S ≦0.0005
O ≦0.0008
V+8.8(N-0.005)/C 1.55~1.9
【請求項5】
以下の条件を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼。
C 0.30~0.38
Si 0.15~0.25
Mn 0.4~0.6
Cr 4.5~5.5
Mo 2.1~2.8
V 0.5~0.6
N 0.011~0.08
H ≦0.0003
【請求項6】
以下の条件を満たす、請求項1~3またはのいずれか1項に記載の鋼。
C 0.33~0.37
Si 0.16~0.25
Mn 0.45~0.55
Cr 4.8~5.2
Mo 2.2~2.6
V 0.51~0.58
N 0.011~0.07
【請求項7】
マトリックスが焼戻しマルテンサイトおよび/またはベイナイトを含み、残留オーステ
ナイトの量が6vol%以下に制限される、請求項1~のいずれか1項に記載の鋼。
【請求項8】
前記鋼が、5~150μmの範囲の粒径分布を有する粉の形態であり、前記粉粒子の平
均径が25~50μmの範囲にある、請求項1~のいずれか1項に記載の鋼。
【請求項9】
付加製造のための、とりわけ射出成形工具の製作または修理のための、請求項に記載
の鋼粉の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間工具鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウム合金系マトリックス工具鋼は何十年も市場に出回っており、高い耐摩耗性と優れた寸法安定性とを兼ね備えるという事実のため、および良好な靱性を有するため、かなりの関心を得ている。これらの鋼は、ダイカストおよび鍛造のような幅広い用途を有する。鋼は、一般に、従来の冶金法に続いてエレクトロスラグ再溶解(ESR)によって製造される。
【0003】
ESRによって製造されたバナジウム合金系マトリックス工具鋼は、ヒートチェック、大割れ、熱間摩耗、および塑性変形に関して、従来法で製造された工具鋼よりも良好な特性を有するが、高圧ダイカストでのヒートチェックおよび大割れなどの、熱間加工工具の不具合のリスクを低減するために、さらなる改善の必要がある。加えて、熱間工具鋼の熱間強度および焼戻し抵抗をさらに改善することは有益であろう。
【発明の概要】
【0004】
発明の開示
本発明の目的は、工具の寿命の延長につながる改善された特性プロファイルを有する熱間工具鋼を提供することである。
【0005】
本発明の別の目的は、良好な耐熱間磨耗性および大割れに対する良好な耐性を依然として維持しながら、ヒートチェックを改善することである。さらに別の目的は、粉末形態が付加製造(AM)に適した、具体的には射出成形工具およびダイの製作または修理に適した鋼組成物を提供することである。
【0006】
前述の目的は、さらなる利点とともに、合金の請求項に記載された組成を有する熱間工具鋼を提供することによって、かなりの程度まで達成される。
【0007】
本発明は、特許請求の範囲において定義される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
別個の元素の重要性およびそれらの互いの相互作用、ならびに特許請求された合金の化学成分の限界は以下で簡単に説明される。鋼の化学組成についての全てのパーセンテージは、明細書を通して重量%(wt%)で与えられる。硬質相の量は体積%(vol%)で与えられる。個々の元素の上限および下限は、特許請求の範囲に記載された限界内で自由に組み合わせることができる。
【0009】
炭素(0.27~0.38%)
炭素は0.27%の最小含有量で、好ましくは少なくとも0.28、0.29、0.30、0.31、0.32、0.33または0.34%存在する。炭素の上限は0.38%であり、0.37、0.36または0.35%に設定されてもよい。好ましい範囲は0.30~0.38%および0.33~0.37%である。いずれの場合も、炭素の量は、鋼中のM23、MおよびMC型の一次炭化物の量が制限されるように、好ましくは鋼がそのような一次炭化物を含まないように、制御すべきである。
【0010】
ケイ素(0.10~0.35%)
ケイ素は脱酸素のために使用される。Siは溶解した形態で鋼中に存在する。Siは強力なフェライト形成剤であり、炭素活量を増加させ、したがって衝撃強度に悪影響を及ぼす望ましくない炭化物の形成のリスクを増加させる。ケイ素はまた、界面偏析を生じやすく、その結果、靱性および熱疲労耐性が低下し得る。したがってSiは0.35%に制限される。上限は、0.34、0.32、0.31、0.30、0.29、0.28、0.27、0.26、0.25、0.24、0.23および0.22%であってもよい。下限は、0.12、0.14、0.16、0.18および0.20%であってもよい。好ましい範囲は0.10~0.25%および0.15~0.24%である。
【0011】
マンガン(0.2~0.7%)
マンガンは、鋼の焼入れ性の改善に寄与し、硫黄とともに硫化マンガンを形成することによって被削性の改善に寄与する。したがって、マンガンは0.2%の最小含有量で存在するものとする。下限は、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45または0.5%に設定されてもよい。高硫黄含有量側では、マンガンは鋼における赤熱脆性を防止する。鋼は最大0.7%のMnを含有するものとする。上限は、0.65、0.6、0.55または0.5%に設定されてもよい。
【0012】
クロム(4.5~5.5%)
クロムは、熱処理中、より広い断面で良好な焼入れ性を提供するために、少なくとも4.0%の含有量で存在するべきである。クロム含有量が多すぎると高温フェライトの形成につながる場合があり、熱間加工性が低下する。下限は、4.6、4.7、4.8または4.9%であってもよい。上限は、5.4、5.3、5.2または5.1%であってもよい。
【0013】
モリブデン(2.05~2.90%)
Moは焼入れ性に非常に好ましい効果を有することが知られている。モリブデンは、良好な二次硬化反応を得るために不可欠である。最小含有量は2.05%であり、2.1、2.15、2.2、2.25、または2.3%に設定されてもよい。モリブデンは強力な炭化物形成元素であり、強力なフェライト形成剤でもある。したがって、モリブデンの最大含有量は2.9%である。好ましくは、Moは2.8、2.7、2.6、2.5、2.4または2.35%に制限される。
【0014】
バナジウム(0.4~0.6%) バナジウムは、鋼のマトリックス中に一様に分布した一次析出炭化物およびV(N,C)型の炭窒化物を形成する。この硬質相はMXと表される場合もあり、ここでMは主にVであるが、CrおよびMoが存在してもよく、XはC、NおよびBの1つまたは複数である。したがって、バナジウムは0.4~0.6%の量で存在するものとする。上限は、0.59、0.58、0.57、0.56または0.55%に設定されてもよい。下限は、0.42、0.43、0.44、0.45、0.46、0.47、0.48、0.49、0.50、0.51または0.52%であってもよい。
【0015】
V/C比 (1.35~1.65)
本発明者らは、室温および高温での引張強さが、鋼中の炭化物形成元素バナジウム対炭素含有量の比に影響されることを見出した。その理由は、これらの特性がマトリックス中の炭素の溶解量および析出した炭素の両方に依存するという事実に関連していると考えられている。靱性もまた、この比に影響される。これらの理由から、この比は1.35~1.65であることが好ましく、より好ましくは1.40~1.60、さらに好ましくは1.45~1.55である。
【0016】
V+8.8(N-0.005)/C比 (1.55~1.90)
より顕著な二次硬化が望まれる場合、より安定な窒化物に結合したバナジウムの一部または全てを補うために、バナジウムの総量を増加させてもよい。これらの理由から、この比は1.55~1.90であることが好ましい。1.60~1.85、またはより好ましくは1.65~1.80に設定されてもよい。
【0017】
アルミニウム(0.001~0.06%)
アルミニウムは、SiおよびMnと組み合わせて脱酸素に使用される。下限は、良好な脱酸素を確実にするために、0.001、0.003、0.005または0.007%に設定される。上限は、AlNのような望ましくない相の析出を避けるために0.06%に制限される。上限は、0.05、0.04、0.03、0.02または0.015%であってもよい。
【0018】
窒素(0.01~0.12%)
所望の型および量の硬質相、具体的にはV(C,N)を得るために、窒素は0.010~0.12%に制限される。窒素含有量をバナジウム含有量に対して適切にバランスをとると、バナジウムリッチな炭窒化物V(C,N)が形成されるであろう。これらは、オーステナイト化工程中に部分的に溶解し、次いで、焼戻し工程中にナノメートルサイズの粒子として析出するであろう。バナジウム炭窒化物の熱安定性は炭化バナジウムの熱安定性よりも優れていると考えられ、ゆえに工具鋼の焼戻し抵抗が改善され得、高オーステナイト化温度での粒成長に対する抵抗性が向上する。下限は、0.011、0.012、0.013、0.014、0.015、0.016、0.017、0.018、0.019または0.02%であってもよい。上限は0.11、0.10、0.09、0.08、0.07、0.06、0.05、0.04または0.03%であってもよい。
【0019】
水素(0.0004%以下)
水素は、鋼の特性に有害な影響を及ぼし、処理中に問題を引き起こすことが知られている。水素に関連する問題を避けるために、溶鋼は真空脱ガスにさらされる。上限は0.0004%(4ppm)であり、3、2.5、2、1.5または1ppmに制限されてもよい。
【0020】
ニッケル(1.5%以下)
ニッケルは1.5%以下の量で存在してもよい。それは鋼に良好な焼入れ性および靭性を与える。しかしながら、その費用のために、鋼のニッケル含有量は制限されるべきである。したがって、上限は、1.0、0.8、0.5または0.3%に設定されてもよい。しかしながら、Niは通常は意図的に添加されない。
【0021】
銅(2.0%以下)
Cuは任意選択の元素であり、鋼の硬度および耐食性の向上に寄与する場合がある。使用する場合、好ましい範囲は0.02~1%である。しかしながら、一度銅が添加されると、鋼から銅を抽出することは不可能である。これはスクラップの取り扱いを大幅に難しくする。この理由から、銅は通常は意図的に添加されない。
【0022】
コバルト(8%以下)
Coは任意選択の元素である。Coは、固相線温度を上昇させ、これにより、焼入れ温度を上昇(Coなしの場合よりも15~30℃)させる機会を提供する。したがって、オーステナイト化中、より大きな割合の炭化物を溶解させ、それにより焼入れ性を高めることが可能である。CoはM温度も上昇させる。しかしながら、多量のCoは靱性および耐摩耗性の低下をもたらし得る。最大量は8%であり、添加する場合、有効量は2~6%、具体的には4~5%であり得る。しかしながら、スクラップの取り扱いのような実用的な理由から、Coの意図的な添加は行われない。そして、最大混入含有量は、1%、0.5%、0.3%、0.2%または01%に設定されてもよい。
【0023】
タングステン(0.5%以下)
原則的には、モリブデンはその化学的類似性のために、2倍の量のタングステンで置き換えられてもよい。しかしながら、タングステンは高価であり、またスクラップ金属の取り扱いを複雑にする。したがって、最大量は0.5%、好ましくは0.3%に制限され、より好ましくは意図的な添加は行わない。
【0024】
ニオブ(0.5%以下)
ニオブは、M(N,C)型の炭窒化物を形成するという点でバナジウムに類似しており、原則的にはバナジウムの一部を置き換えるために使用されてもよいが、バナジウムに比べて2倍の量のニオブを必要とする。しかしながら、Nbはより角張った形状のM(N,C)をもたらす。したがって、最大量は0.5%、好ましくは0.05%であり、最も好ましくは意図的な添加は行わない。
【0025】
Ti、ZrおよびTa
これらの元素は炭化物形成剤であり、硬質相の組成を変えるために特許請求の範囲で規定された範囲で合金中に存在してもよい。しかしながら、これらの元素は通常は添加されない。
【0026】
ホウ素(0.01%以下)
鋼の硬度をさらに高めるために、Bが使用されてもよい。その量は0.01%、好ましくは0.005%以下に制限される。Bの添加の好ましい範囲は0.001~0.004%である。
【0027】
Ca、MgおよびREM(希土類金属)
これらの元素は、非金属介在物を改質するために、ならびに/または被削性、熱間加工性および/もしくは溶接性をさらに改善するために、特許請求の範囲で規定された量で鋼に添加されてもよい。
【0028】
不純物元素
P、SおよびOが主な不純物であり、鋼の機械的特性に悪影響を及ぼす。したがって、Pは0.03%に、好ましくは0.01%に制限されてもよい。Sは0.0015%に制限され、0.0012、0.0010、0.0008または0.0005%に制限されてもよい。Oは、0.0015、0.0012、0.0010、0.0008、0.0006または0.0005%に制限されてもよい。
【0029】
鋼の製造
特許請求の範囲に記載された化学組成を有する工具鋼は、アーク炉(EAF)中での溶解、および取鍋でのさらなる精錬、および真空処理を含む従来の冶金術によって製造することができる。必要に応じて、清浄度および微細構造の均一性をさらに改善するために、鋼はエレクトロスラグ再溶解(ESR)を受けてもよい。
【0030】
通常、鋼は使用前に焼入れおよび焼戻しを受ける。オーステナイト化は、1000~1070℃、好ましくは1030~1050℃の範囲のオーステナイト化温度(T)で実施されてもよい。典型的なTは1040℃であり、保持時間は30分であり、続いて急冷する。焼戻し温度は、硬度要求にしたがって選択され、600~650℃で2時間、少なくとも2回(2x2h)実施され、続いて空気中で冷却される。
【0031】
実施例1
この例では、以下の組成(wt%)を有する鋼を、EAF溶解、取鍋精錬および真空脱ガス(VD)によって製造した。
【表1】
【0032】
真空脱ガス後、鋼をコアードワイヤ注入により窒素合金化した。該トリミング後の最終窒素含有量は0.0142wt%であった。
【0033】
鋼をインゴットに鋳造し、熱間加工した。
【0034】
鋼は1040℃で30分間オーステナイト化され、ガス急冷および600℃で2時間、2回(2x2h)の焼戻し、続いて空気中での冷却によって焼入れされた。
【0035】
マトリックスの組成および3つの異なるオーステナイト化温度での一次MXの量に対する窒素合金化の効果を、Thermo-Calcを使用して計算した。結果を表1に示す。
【表2】
【0036】
表1は、窒素合金化鋼中の未溶解硬質相(MX)の量が、3つの温度すべてにおいて窒素合金化されていない鋼中の量よりも有意に高いことを明らかにする。MX相は粒界のピン止めに関与し、それにより粒子の成長を妨げる。したがって、本発明の窒素合金化鋼は、焼入れ温度において粒成長を受けにくい。これは実験によっても確認され、窒素含有量の低い鋼は1060℃で粒径が著しく増加したが、窒素合金化鋼は1080℃を超える温度まで粒成長に対して安定であったことを示した。したがって、窒素合金化鋼に対して、有害な粒成長を伴うことなく、より高い焼入れ温度を使用できる。これにより、ヒートチェックおよび/または大割れの傾向を低減し、それによってダイの寿命を延ばすために、ダイ材料の特性のバランスに影響を与えることが可能である。
【0037】
実施例2
合金を誘導炉で溶解し、窒素ガス(5N)アトマイズした。
【表3】
【0038】
粉を500μm未満にふるいにかけ、直径63mmおよび高さ150mmの鋼製カプセルに充填した。温度1150℃、保持時間2時間、圧力110MPaでHIP処理を実施した。冷却速度は1℃/s未満であった。このようにして得られた材料を1130℃で寸法20×30mmに鍛造した。900℃で、750℃まで10℃/hの冷却速度で軟化焼鈍を実施した後、空気中で自然に冷却した。未溶解MXの量は前の実施例よりも高く、窒素含有量はより高かった。この事実および窒素リッチ炭窒化バナジウム(MX)の微細分布のため、鋼は粒成長に対して非常に安定であることが見出された。
【0039】
実施例3
実施例2と同じ組成を有する粉をふるいにかけ、10~60μmの範囲の狭い粒径分布を有する粉を得た。粉は、ダイのレーザークラッディング修理、ならびに、例えばコンフォーマルな冷却チャネルを有するダイなどの迅速な試作にうまく使用され得ることが見出された。したがって、合金鋼粉は付加製造に適していると思われる。
【0040】
産業上の利用可能性
本発明の工具鋼は、良好な焼入れ性ならびにヒートチェックおよび大割れに対する良好な耐性を必要とする大型のダイ(金型)に有用である。本合金のアトマイズ粉は、優れた構造均一性を有するHIP処理製品を製造するために使用できる。本合金の粉は、ダイの、具体的には付加製造方法による、製造または修理に使用できる。