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特許7045366炭素含有モダクリル及びアラミド二成分フィラメント糸
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  • 特許-炭素含有モダクリル及びアラミド二成分フィラメント糸 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】炭素含有モダクリル及びアラミド二成分フィラメント糸
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/44 20060101AFI20220324BHJP
   D01F 8/12 20060101ALI20220324BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220324BHJP
   D03D 15/00 20210101ALI20220324BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20220324BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20220324BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20220324BHJP
   A41D 31/06 20190101ALI20220324BHJP
   A41D 31/08 20190101ALI20220324BHJP
   A41D 31/26 20190101ALI20220324BHJP
【FI】
D02G3/44
D01F8/12
D03D15/20 100
D03D15/00
D04B1/16
D04B21/16
A41D31/00 502A
A41D31/06
A41D31/00 503E
A41D31/08
A41D31/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019512268
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2017046594
(87)【国際公開番号】W WO2018044532
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-07
(31)【優先権主張番号】62/382,572
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン マーク ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】アロンソン マーク ティー
(72)【発明者】
【氏名】ニュートン クリストファー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ステインラック トーマス ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】ワイズマン ビー リン
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ レイヤオ
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-297684(JP,A)
【文献】特開2008-007876(JP,A)
【文献】特開平05-263318(JP,A)
【文献】特開平06-081211(JP,A)
【文献】特開昭50-000042(JP,A)
【文献】特表2004-532367(JP,A)
【文献】米国特許第04473617(US,A)
【文献】米国特許第04457973(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00-3/48
D01F 8/00-8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の二成分フィラメントを含む糸であって、
前記二成分フィラメントが第1のポリマー組成物を含む第1の領域と第2のポリマー組成物を含む第2の領域とを有し、第1及び第2の領域のそれぞれは二成分フィラメントの中で識別可能であり;
それぞれの二成分フィラメントは5~60重量%の前記第1のポリマー組成物と95~40重量%の前記第2のポリマー組成物を含み;
前記第1のポリマー組成物は、前記第1の組成物量を基準として、前記フィラメントの前記第1の領域に均一に分散された0.5~20重量%の素粒子を含むアラミドポリマーを含み;
前記第2のポリマー組成物は、素粒子を含まないモダクリルポリマーを含み;
前記糸が0.1~5重量%の素粒子の総含有率を有する、糸。
【請求項2】
前記第2のポリマー組成物が少なくとも1種のマスキング顔料を更に含有する、請求項1に記載の糸。
【請求項3】
前記二成分フィラメントが、前記第1の領域が芯であり前記第2の領域が鞘である鞘-芯構造を有する、請求項1又は2に記載の糸。
【請求項4】
前記二成分フィラメントが、前記第1の領域が前記フィラメントの第1の側部であり前記第2の領域が前記フィラメントの第2の側部であるサイドバイサイド構造を有する、請求項1又は2に記載の糸。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の糸を含む生地。
【請求項6】
二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各前記フィラメントが、素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な鞘と、中に均一に分散された素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な芯とを含み、鞘が芯を取り囲んでおり:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であって前記アラミドポリマー溶液が素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)前記第1のポリマー溶液及び前記第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)前記排出キャピラリを通して前記第1及び前記第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、前記第2のポリマー溶液の鞘と前記第1のポリマー溶液の芯とを有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)前記複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法。
【請求項7】
サイドバイサイド構造を有する二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、イドバイサイド構造が、中に均一に分散された素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な第1の側部と、素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な第2の側部とを含み:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であってアラミドポリマー溶液が素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)前記第1のポリマー溶液及び前記第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)前記排出キャピラリを通して前記第1及び前記第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、前記第1のポリマー溶液の第1の側部と前記第2のポリマー溶液の第2の側部とをサイドバイサイドの配向で有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)前記複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク保護における使用に適した二成分フィラメント糸であって、各フィラメントが中に均一に分散された離散炭素粒子を有するアラミドポリマーの識別可能な領域と、中に離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な領域とを有する、二成分アラミドフィラメント糸に関する。
【背景技術】
【0002】
Hullらの米国特許第4,803,453号明細書は、熱可塑性合成ポリマー中に分散された導電性カーボンブラックからなる導電性ポリマー芯を取り囲む合成熱可塑性繊維形成ポリマーの連続的な非導電性鞘を含む、帯電防止特性を有する溶融紡糸フィラメントを開示している。
【0003】
Nakamuraらの米国特許第4,309,476号明細書では、単一の芳香族ポリアミド材料から作製された、満足できる染色特性を有する芯鞘型の芳香族ポリアミド繊維を開示している。芯鞘型の繊維が酸性染料で染色される場合、鞘部分のみが着色される。Sasakiらの米国特許第4,398,995号明細書では、紙におけるNakamuraの繊維の使用を開示している。
【0004】
Mouldsの米国特許第3,038,239号明細書では、クリンプ可逆性を有する改良された複合材料フィラメントを開示している。フィラメントは、偏心関係の少なくとも2つの疎水性ポリマーを有し、この中の疎水性ポリマーの1つは、高い吸水率を有する少量のポリマーと混合されたものを更に含有する。
【0005】
Zhuらの米国特許第7,065,950号明細書及び第7,348,059号明細書は、アーク保護及び防炎において使用するための、モダクリル、p-アラミド、及びm-アラミド繊維を含む糸、生地、及び衣類を開示している。これらの繊維ブレンドはアーク保護において非常に有用であることが見出されている一方で、これが救命の可能性を有していることから、アーク保護におけるあらゆる改良が歓迎される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の二成分フィラメントを含む糸であって、二成分フィラメントが第1のポリマー組成物を含む第1の領域と第2のポリマー組成物を含む第2の領域とを有し、第1及び第2の領域のそれぞれは二成分フィラメントの中で識別可能であり;それぞれの二成分フィラメントは5~60重量%の第1のポリマー組成物と95~40重量%の第2のポリマー組成物を含み;第1のポリマー組成物は、第1の組成物中の炭素粒子の量を基準として、フィラメントの第1の領域に均一に分散された0.5~20重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含み;第2のポリマー組成物は、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーを含み;糸が0.1~5重量%の離散炭素粒子の総含有率を有する、糸に関する。
【0007】
本発明は、更に、二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各フィラメントが、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な鞘と、中に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な芯とを含み、鞘が芯を取り囲んでおり:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であってアラミドポリマー溶液が離散炭素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)排出キャピラリを通して第1及び第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、第2のポリマー溶液の鞘と第1のポリマー溶液の芯とを有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法に関する。
【0008】
本発明は、サイドバイサイド構造を有する二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各フィラメントが、中に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な第1の側部と、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な第2の側部とを含み:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であってアラミドポリマー溶液が離散炭素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)排出キャピラリを通して第1及び第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、第1のポリマー溶液の第1の側部と第2のポリマー溶液の第2の側部とをサイドバイサイドの配向で有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの鞘と、炭素粒子を含むポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)ポリマーの芯とを有する鞘-芯二成分フィラメントの断面の光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、労働者及び他の職員にアーク防護を提供する物品の製造に有用な糸に関する。アークフラッシュは電気アークによって引き起こされるエネルギーの爆発的な放出である。電気アークは、典型的には数千ボルト及び数千アンペアの電流を含み、衣類を強い入射熱及び放射エネルギーに暴露する。着用者を保護するために、防護衣料品は、この入射エネルギーが通り抜けて着用者に伝わることに抵抗しなければならない。これは、防護衣料品がいわゆる「破れ」に耐えながらも入射エネルギーの一部を吸収する場合に最もよく生じると考えられてきた。「破れ」の際に、物品に穴が形成される。そのため、アーク保護用の防護物品又は衣類は、衣類内の生地層のいずれかの破れを回避又は最小化するように設計されてきた。
【0011】
耐火性(すなわち21より大きい限界酸素指数を有する)のポリマー及び熱的に安定な繊維の中に離散炭素粒子を添加することにより、生地及び衣類のアーク性能をほぼ2倍程度向上できることが見出された。本明細書において、用語「熱的に安定」は、毎分10℃の速度で425℃に加熱された場合にポリマー又は繊維がその重量の少なくとも90%を保持することを意味する。
【0012】
生地の重量基準で、生地中の離散炭素粒子の総量が生地中の繊維の総量を基準として0.1~3重量%である場合に、劇的な改善が見られた。これらの炭素粒子の存在は、ATPVによって測定されるように、非常に低い添加量であっても、生地のアーク性能に大きな影響を及ぼし得る。最良の性能は、生地中で約0.5重量%を超える炭素粒子量で見出され、12cal/cm2以上の好ましい性能は、約0.75重量%以上の炭素粒子を有する生地で生じ、特に望ましい範囲は生地中で0.75~2重量%の炭素粒子である。
【0013】
具体的には、本発明は、第1のポリマー組成物を含む第1の領域と第2のポリマー組成物を含む第2の領域とを有する複数の二成分フィラメントを含む糸であって、領域が二成分フィラメント中で識別可能であり好ましくは均一な密度である糸に関する。好ましくは、領域は、第1の領域が芯であり第2の領域が鞘である鞘-芯構造の形態である。あるいは、領域はサイドバイサイド二成分構造の形態である。第1のポリマー組成物は、第1の組成物中の炭素粒子の量を基準として0.5~20重量%の、フィラメントの第1の領域に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有する。第2のポリマー組成物は、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーを含有する。糸は、糸の中の全ての二成分フィラメント中の炭素粒子の量を基準として、0.1~5重量%の離散炭素粒子の総含有率を有する。
【0014】
そのため、本発明は、米国特許第7,065,950号明細書及び第7,348,059号明細書に開示されているようなモダクリル繊維とアラミド繊維とのブレンドに対してアーク性能が劇的に改善した、分散された炭素粒子を有する二成分フィラメントの糸に関する。いくつかの実施形態では、フィラメントは、繊維中の黒色炭素粒子の存在を隠すのを助けるために、糸、生地、又は物品の形態で更に着色されていてもよい。いくつかの実施形態では、二成分フィラメントは、糸、生地、又は物品中の黒色炭素含有繊維の存在を隠すために、モダクリルポリマー鞘の中に紡糸顔料を更に含む。
【0015】
糸は複数の二成分フィラメントを含む。「二成分」とは、フィラメントが、何らかの形で異なる少なくとも2つのポリマー組成物から形成されることを意味する。二成分フィラメントの製造には少なくとも2つの異なるポリマー組成物が必要とされるため、これは2つの異なるポリマー溶液が製造されることを意味するが、2つの異なるポリマー溶液は同じ又は異なる溶媒を使用することができる。好ましくは、溶媒は2つの異なるポリマー溶液で同じである。
【0016】
二成分フィラメントは、第1のポリマー組成物を含む第1の領域と、第2のポリマー組成物を含む第2の領域とを有する。領域は、鞘-芯構造又はサイドバイサイド構造において識別可能であり、好ましくは均一な密度である。鞘-芯構造の1つの典型的な領域は鞘であり、他方の典型的な領域は芯である。サイドバイサイド構造は、断面がより楕円形又はドッグボーン形状を有していてもよく、あるいは断面がより豆型又は円形であってもよく、そのため典型的な領域はフィラメントの一方の側部又は他方の側部である。更に、2種のポリマーの相対量が類似している場合、2つの側部又は領域が類似の大きさで実質的に対称であるサイドバイサイド構造を作製することができる。あるいは、一方の側部又は領域が他方の側部又は領域と重なるサイドバイサイド構造、つまり一方の側部又は領域がもう一方の側部又は領域の周囲の50%超を覆っている構造を作製することができる。これは、2つのポリマーの相対量が非常に異なり、一方の側部又は領域が他方の側部又は領域の円周の75%以上を覆うことができる場合に当てはまる。
【0017】
「識別可能」とは、第1と第2のポリマー組成物がフィラメント中で目に見えて混じり合っておらず、2つのポリマー領域の間に、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いた適切な倍率下での目視検査によって見ることができる明確な可視境界が存在することを意味する。鞘-芯構造中では、好ましくは鞘は連続的である。「連続的」とは、鞘-芯フィラメントの鞘の場合においては、鞘ポリマーが芯ポリマーを完全に放射状に取り囲み、ポリマー鞘による芯ポリマーの被覆がフィラメントの長さに沿って実質的に直線的に連続していることを意味する。好ましくは、芯は連続的又は半連続的である。鞘-芯フィラメントの芯について言及する場合の「連続的」とは、芯ポリマーがフィラメントの長さに沿って実質的に直線的に連続していることを意味し、「半連続」とは芯中の炭素粒子がフィラメント中で望まれる通りに機能するための能力にほとんど影響を与えない不連続性を、芯がフィラメントに沿って直線的にわずかに有し得ることを意味する。サイドバイサイド構造では、好ましくは各側部は「連続的」であり、これは二成分フィラメントの各側部のポリマー領域がその長さに沿って実質的に直線的に連続していることを意味する。しかしながら、いくつかの実施形態においては、炭素粒子を含む領域又は側部は、連続的であっても半連続的であってもよく、半連続的とは、フィラメント中の炭素粒子がフィラメント中で望まれる通りに機能するための能力にほとんど影響を与えない不連続性を、炭素粒子含有領域がフィラメントに沿って直線的にわずかに有し得ることを意味する。鞘に関しての「均一密度」という語句は、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を使用して適切な倍率で目視検査することにより、フィラメントの断面が、鞘が概して固体であり、好ましくない多孔性を有さないことを示すことを意味する。好ましい実施形態では、フィラメント中に均一な密度の芯も存在する。芯に関しての、及びサイドバイサイド構造の各側部に関しての「均一な密度」とは、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を使用した適切な倍率での目視検査により、フィラメントの断面の大部分が、固体の緻密な中心又は特徴を有し、好ましくない多孔性及び空隙を比較的有さないフィラメントを示すことを意味する。つまり、いくつかの好ましい実施形態では、芯は、実質的に固体の断面及び均一な密度を有する。更に、いくつかの実施形態では、鞘-芯フィラメントは、卵形、楕円形、豆形、繭形、ドッグボーン形、又はこれらの混合である。
【0018】
それぞれのフィラメントは、形成時、フィラメントにおける全ての力を制御することができないため、形状にわずかな差を有し得ることから、芯が鞘の中心にある必要はなく、又は鞘若しくは芯の厚さは、それぞれのフィラメントにおいて全く同じである必要はない。しかしながら、使用されるポリマー又はポリマー溶液の相対量は、平均最終寸法を与えることができる。
【0019】
第1のポリマー組成物は、0.5~20重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有し、それらの炭素粒子はフィラメントの第1の領域に均一に分散している。二成分構造が鞘芯である場合、第1の領域はフィラメントの芯である。二成分構造がサイドバイサイドである場合、第1の領域はフィラメントの側部のうちの1つである。「均一に分散した」という語句は、炭素粒子が繊維中の望まれる領域の軸方向及び半径方向の両方に一様に分布した領域の中で見られることを意味する。いくつかの実施形態では、第1のポリマー組成物は、0.5~15重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有し、いくつかの別の実施形態では、第1のポリマー組成物は、0.5~10重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有する。いくつかの実施形態では、第1のポリマー組成物は、0.5~6重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有する。いくつかの実施形態では、第1のポリマー組成物は、5~10重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有することが望ましい。いくつかの実施形態では、各二成分フィラメントは、各フィラメントの総重量を基準として0.5~3重量%の離散炭素粒子の総含有率を有する。
【0020】
第1のポリマー組成物は、好ましくは空気中の酸素濃度より大きい(すなわち21超、好ましくは25超)限界酸素指数(LOI)を有するアラミドポリマーを含有する。これは、繊維又はその繊維のみから製造された生地が空気中の通常の酸素濃度で炎を維持することができず、耐火性とみなされることを意味する。第1のポリマーは、更に好ましくは、毎分10℃の割合で425℃まで加熱された場合にその重量の少なくとも90%を保持し、これはこのポリマーが高い熱安定性を有することを意味する。この耐火性かつ熱安定性のポリマーと離散炭素粒子との組み合わせは、改善されたアーク性能を相乗的に与えると考えられる。
【0021】
繊維中に存在する炭素粒子は、10μm以下、好ましくは平均0.1~5μmの平均粒径を有し、いくつかの実施形態では、0.5~3μmの平均粒径が好ましい。いくつかの実施形態では0.1~2μmの平均粒径が望ましく、いくつかの実施形態では0.5~1.5μmの平均粒径が好ましい。炭素粒子としては、重質石油製品及び植物油の不完全燃焼によって製造されたカーボンブラックのようなものが挙げられる。カーボンブラックは、すすよりも高いが活性炭よりも低い表面積対体積の比を有する準結晶質炭素の形態である。この粒子は、紡糸による繊維の形成前に紡糸ドープに炭素粒子を添加することによって繊維の中に組み込まれ得る。鞘-芯フィラメントの場合において、好ましくは、炭素粒子を含む第1のポリマー組成物はフィラメントの芯の中に存在する。
【0022】
アラミドポリマー組成物に離散炭素粒子を供給するために、本質的に任意の市販のカーボンブラックを使用することができる。ある好ましい実施においては、ポリマー溶液、好ましくはアラミドポリマー溶液中のカーボンブラックの別個の安定な分散液が最初に製造され、その後均一な粒子分布を得るために分散液が粉砕される。この分散液は、好ましくは、第1のポリマー組成物を形成するために紡糸する前にアラミドポリマー溶液に注入される。
【0023】
第2のポリマー組成物はモダクリルポリマーを含むが、離散炭素粒子は含まない。つまり、この組成物を中に含むフィラメント領域が、本明細書で定義される炭素粒子を含まない。
【0024】
モダクリルポリマーとは、好ましくは、ポリマーが30~70重量%のアクリロニトリルと、70~30重量%のハロゲン含有ビニルモノマーとを含むコポリマーであることを意味する。ハロゲン含有ビニルモノマーは、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデンなとから選択される少なくとも1種のモノマーである。
【0025】
いくつかの実施形態では、モダクリルコポリマーは、塩化ビニリデンと組み合わされたアクリロニトリルのものである。いくつかの実施形態では、モダクリルコポリマーは、更にアンチモン酸化物又はアンチモン酸化物類を有する。いくつかの好ましい実施形態では、モダクリルコポリマーは、1.5重量%未満のアンチモン酸化物又はアンチモン酸化物類を有するか、コポリマーはアンチモンを全く含まない。製造中にコポリマーに添加されるあらゆるアンチモン化合物の量を制限するか完全に排除することによって、非常に低いアンチモン含有率のポリマー及びアンチモンを含まないポリマーを製造することができる。この方法で変性することができるものを含むモダクリルポリマーのための代表的な方法は、2重量%の三酸化アンチモンを有する米国特許第3,193,602号明細書;少なくとも2重量%、好ましくは8重量%以下の量で存在する様々なアンチモン酸化物を用いて製造される米国特許第3,748,302号明細書;並びに8~40重量%のアンチモン化合物を有する米国特許第5,208,105号明細書及び同第5,506,042号明細書に開示されている。
【0026】
いくつかの実施形態では、モダクリルポリマーは、少なくとも26のLOIを有する。1つの好ましい実施形態では、モダクリルポリマーは、少なくとも26のLOIを有しながらもアンチモンを含まない。
【0027】
ある代替の実施形態では、第2のポリマー組成物、すなわちモダクリルポリマー組成物は、その第2のポリマー組成物が存在する領域がフィラメントの他の領域中の炭素粒子の存在を好ましくは隠すことを可能にするのを助けるためにその中に均一に分散された少なくとも1種の顔料を更に有する。いくつかの実施形態では、少なくとも1種のマスキング顔料は、5~25重量%の量でモダクリルポリマー組成物中に存在する。いくつかの別の実施形態では、少なくとも1種のマスキング顔料は10~20重量%の量でモダクリルポリマー組成物中に存在する。いくつかの実施形態では、少なくとも1種のマスキング顔料は、二成分フィラメントの総重量を基準として2.5~22.5重量%の量で二成分フィラメント中に存在する。1つの特に好ましい顔料は二酸化チタン(TiO2)である。
【0028】
本明細書で使用される「アラミド」は、アミド(-CONH-)結合の少なくとも85%が2つの芳香環に直接結合しているポリアミドを意味する。アラミドと共に添加物を使用することができ、実際、10重量%と同量までのその他のポリマー材料をアラミドとブレンドできること、又はアラミドのジアミンを10%と同量のその他のジアミンで置き換えた、若しくはアラミドの二酸塩化物を10%と同量のその他の二酸塩化物で置き換えたコポリマーを使用できることが判明した。適切なアラミド繊維は、Man-Made Fibers-Science and Technology,Volume 2,Section titled Fiber-Forming Aromatic Polyamides,page 297,W.Black et al.,Interscience Publishers,1968に記載されている。アラミド繊維は、米国特許 第4,172,938号明細書;同第3,869,429号明細書;同第3,819,587号明細書;同第3,673,143号明細書;同第354,127号明細書;及び同第3,094,511号明細書にも開示されている。
【0029】
いくつかの好ましい実施形態では、アラミドポリマーはメタ-アラミドである。メタ-アラミドは、アミド結合が互いに対してメタ位にあるアラミドである。好ましくは、メタ-アラミドポリマーは、典型的には少なくとも約25のLOIを有する。1つの好ましいメタ-アラミドはポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である。
【0030】
二成分フィラメントは、アラミドポリマー組成物である第1のポリマー組成物5~60重量%と、モダクリルポリマー組成物である第2のポリマー組成物95~40重量%を含む。つまり、鞘/芯フィラメントの場合、鞘/芯の重量比は95:5~40:60の範囲である。いくつかの実施形態では、二成分フィラメントは、5~50重量%の第1のポリマー組成物と95~50重量%の第2のポリマー組成物とを含む、又は95:5~50:50の範囲の鞘/芯重量比を有する。いくつかの実施形態では、二成分フィラメントは、30~60重量%の第1のポリマー組成物と70~40重量%の第2のポリマー組成物とを含む、又は鞘/芯重量比が70:30~40:60の範囲である。
【0031】
ある実施形態では、本発明は、更に、二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各フィラメントが、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な好ましくは均一な密度の鞘と、中に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な芯とを含み、鞘が芯を取り囲んでおり:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であってアラミドポリマー溶液が離散炭素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーを含む第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)排出キャピラリを通して第1及び第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、第2のポリマー溶液の鞘と第1のポリマー溶液の芯とを有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法に関する。
【0032】
必要に応じて、第2のポリマー溶液組成物は、少なくとも1種のマスキング顔料を更に含有する。
【0033】
いくつかの実施形態では、方法は、乾式紡糸を使用することで行われる。この実施形態では、複数のドープフィラメントから溶媒を抽出して糸を製造する工程は:
i)ドープフィラメントから溶媒を除去して、溶媒が減少したフィラメントを形成するために、ドープフィラメントを紡糸セルの中で加熱されたガスと接触させる工程;
ii)溶媒が減少したフィラメントを水性液体でクエンチしてフィラメントを冷却し、ポリマーフィラメントの糸を形成する工程;及び
iii)糸を洗浄及び加熱することによりポリマーフィラメントの糸から溶媒を更に抽出する工程;
を含む。
【0034】
ある実施形態では、本発明は、サイドバイサイド構造を有する二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各フィラメントが、粒子と、中に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な第1の側部と、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な好ましくは均一な密度の第2の側部とを含み:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であってアラミドポリマー溶液が離散炭素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)排出キャピラリを通して第1及び第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、第1のポリマー溶液の第1の側部と第2のポリマー溶液の第2の側部とをサイドバイサイドの配向で有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法に関する。
【0035】
必要に応じて、第2のポリマー溶液組成物は、少なくとも1種のマスキング顔料を更に含有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、サイドバイサイド構造の形成方法は、乾式紡糸を使用することで行われる。この実施形態では、複数のドープフィラメントから溶媒を抽出して糸を製造することは:
i)ドープフィラメントから溶媒を除去して、溶媒が減少したフィラメントを形成するために、ドープフィラメントを紡糸セルの中で加熱されたガスと接触させる工程;
ii)溶媒が減少したフィラメントを水性液体でクエンチしてフィラメントを冷却し、ポリマーフィラメントの糸を形成する工程;及び
iii)糸の洗浄及び加熱によりポリマーフィラメントの糸から溶媒を更に抽出する工程;
を含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明は更に、均一に分散された炭素粒子を中に含む芯を有する鞘-芯二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、糸が、炭素含有芯の存在を隠すための二成分フィラメントの鞘の中の顔料、好ましくは二酸化チタン顔料を更に含む、形成方法に関する。あるいは、本発明は、更に、中に均一に分散された炭素粒子を含む第1の側部を有するサイドバイサイド構造を有する二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、糸が、炭素を含有する側部の存在を隠すための顔料、好ましくは二酸化チタン顔料を二成分フィラメントの第2の側部の中に更に含む方法に関する。
【0038】
一実施形態では、方法は、芯鞘型のフィラメントの糸を乾式紡糸することを含む。一般的に、「乾式紡糸」という用語は、紡糸口金孔を通して、連続流におけるポリマー溶液を、加熱されたガス雰囲気を備えた紡糸セルとして知られる加熱されたチャンバーに押し出し、ドープフィラメントを形成することによってフィラメントを作製するプロセスを意味する。加熱されたガス雰囲気は、ドープフィラメントから溶媒のかなりの部分、一般的には40%以上を除去して、更に処理することができる十分な物理的完全性を有する半固体のフィラメントを残す。この「乾式紡糸」は、ポリマー溶液が液体浴又は凝固媒体に押し出されて又は直接押し出されてポリマーフィラメントを再生する「湿式紡糸」又は「エアギャップ湿式紡糸」(エアギャップ紡糸とも称される)と異なる。換言すると、乾式紡糸では、ガスが主要な初期の溶媒抽出媒体であり、且つ湿式紡糸(及びエアギャップ湿式紡糸)では、液体が主要な初期の溶媒抽出媒体である。乾式紡糸では、ドープフィラメントからの溶媒の十分な除去及び半固体のフィラメントの形成後、次いで、フィラメントを更なる液体で処理してフィラメントを冷却し、場合によりこれから更なる溶媒を抽出することができる。その後の洗浄、延伸、及び熱処理は、糸におけるフィラメントから溶媒を更に抽出することができる。
【0039】
好ましい実施形態では、加熱された紡糸セルにおいて、ドープフィラメントは、本質的に不活性な加熱されたガス及びドープフィラメントから除去された溶媒の量のみを含有する環境に接触又は曝される。好ましい不活性ガスは、室温でガスであるものである。
【0040】
方法は、異なる溶液中で少なくとも2つの異なるポリマー組成物を形成することを含み、1つのポリマー溶液は、溶媒中にモダクリルポリマーを含み炭素粒子を含まないが、カーボンブラックではないマスキング顔料を更に含んでいてもよく;もう1つのポリマー溶液は、アラミドポリマーを好ましくは同じ溶媒中に含みかつ炭素粒子を含む。
【0041】
溶媒は、好ましくは、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のプロトン受容体としても機能する溶媒からなる群から選択される。また、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として使用することもできる。ジメチルアセトアミド(DMAc)が好ましい溶媒の1つである。
【0042】
任意の特定の溶媒における任意の特定の溶媒の溶解性は、ポリマー及び溶媒の相対量、ポリマーの分子量又は固有粘度、システムの温度を含む様々なパラメーターに依存する。更に、ポリマーは最初に溶媒に溶解することができる一方、時間と共にポリマーは溶媒から沈殿する場合があり、溶液が安定な溶液ではないことを意味する。
【0043】
好ましい実施形態では、方法は、安定なポリマー紡糸溶液である少なくとも2つのポリマー溶液を使用する。「安定なポリマー紡糸溶液」とは、ポリマーが、繊維を紡糸するのに適した濃度及び温度で溶媒又は溶媒系に溶解性であり、且つポリマーが溶媒に無制限に溶解したままであることを意味する。「溶媒系」という用語は、溶媒と、無機塩などの可溶化/安定化助剤とを含むことを意味する。
【0044】
いくつかの実施形態では、アラミドポリマーは、可溶化/安定化塩が存在する場合のみに有用な安定ポリマー紡糸溶液を形成する。そのため、望まれ必要とされる場合には、アラミドポリマー溶液は、溶液中のポリマーを維持するために、溶液中の塩、ポリマー、及び溶媒の量を基準として、少なくとも4重量%の無機塩を含む。いくつかの実施形態では、溶液は、少なくとも7重量%の無機塩を含む。
【0045】
使用され得る無機塩としては、カルシウム、リチウム、マグネシウム、又はアルミニウムからなる群から選択されるカチオンを有する塩化物又は臭化物が挙げられる。塩化カルシウム又は塩化リチウム塩が好ましい。本明細書において使用される場合、「塩」という語は、選択された溶媒におけるポリマーの溶解性を増加させるか、又は安定した紡糸溶液を供給することを促進する化合物を含むこと、及び塩であり得るがポリマーの限界酸素指数を増加させるために単に添加される任意の添加剤(特に難燃性添加剤)を除外することを意味する。同様に、「塩を含まない」という用語は、これらのLOI増加添加剤が存在しないことを意味するのではなく、前述した無機塩が存在しないことのみを意味する。
【0046】
いくつかの実施形態では、モダクリルポリマーは、可溶化/安定化塩が存在しなくても有用な安定ポリマー紡糸溶液を形成するであろう。そのような溶液は塩を含まないとみなされ、また好ましい。
【0047】
有用なポリマー溶液は、押し出され、好ましくは乾式紡糸されて、有用なドープフィラメントを形成することができるものである。有用なポリマー溶液を形成するために平衡させることができるパラメーターとしては、ポリマー分子量及び溶媒におけるポリマーの濃度が挙げられる。明らかに、特定のパラメーターは、選択されるポリマー及び溶媒に依存する。しかしながら、特定の粘度の特定のポリマー溶液は、有用なフィラメントを作製する傾向があることが知られている。例えば、温度、濃度、ポリマー、及び溶媒の種類、ポリマー分子量等の粘度に影響を及ぼす可能性のある全ての変数を用いて、有用なポリマー溶液を作製することができる。一般的には、こうした溶液は、約10~1000パスカル秒(Pa-sec)、好ましくは約50~500Pa-secのいわゆるゼロ剪断速度又はニュートン粘度を有する。
【0048】
少なくとも第1及び第2の組成物及び溶液を形成した後、乾式紡糸プロセスは、第1の溶液及び第2の溶液のための別個の注入口を有する紡糸口金アセンブリと、ドープフィラメントを押し出す(紡糸する)ための複数の排出キャピラリとを提供することを含む。ドープフィラメントを紡糸するのに有用な1つの好ましい紡糸口金アセンブリは、Daviesの米国特許第5,505,889号明細書に開示されている。しかしながら、他の紡糸口金アセンブリも潜在的に有用であり、米国特許第2,936,482号明細書及び同3,541,198号明細書に示されている紡糸口金アセンブリのような多くの異なる特徴を有し得る。これらは使用し得る可能な紡糸口金アセンブリのほんの一部である。
【0049】
方法は、好ましくは炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの連続した鞘と、炭素粒子を含むアラミドポリマーの連続した芯とを有する複数のドープフィラメントを形成することを更に含み得る。芯は、二成分フィラメントが望み通りに機能するために十分な炭素粒子を与えるために厳密に連続的である必要はない。あるいは、炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの連続領域を有する複数のドープフィラメントは、サイドバイサイド二成分フィラメント構造中に炭素粒子を含むアラミドポリマーの連続領域と一緒に紡糸される。これらのフィラメント構造は、共に、紡糸口金アセンブリにおける排出キャピラリを通して第1及び第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことによって製造される。本明細書の目的のためには、「紡糸セル」は、ドープフィラメントから溶媒を除去することができる任意の種類のチャンバー又は浴を含むことが意図されている。
【0050】
好ましい実施形態では、第1の溶液及び第2の溶液は、別個の注入口を介して紡糸口金アセンブリに且つその中に供給され、ここでこれらは組み合わされる。いくつかの実施形態では、紡糸口金アセンブリは、2つの溶液が共に紡糸口金アセンブリにおけるそれぞれの排出キャピラリに供給されるように2つの溶液を分配し、これは、紡糸口金のそれぞれの排出キャピラリにおいて第1及び第2のポリマー溶液を合わせることによって製造される、モダクリルポリマー溶液の連続した鞘と、アラミドポリマー溶液の半連続の若しくは連続した芯とを好ましくは有する二成分ドープフィラメントを形成する。すなわち、溶液は、鞘-芯フィラメント構造を与えるために適した方法で供給され、次いで、同じ排出キャピラリを通して押し出され、それぞれの排出キャピラリは、紡糸口金アセンブリにおける複数の排出キャピラリのうちの1つである。これは好ましい実施形態である一方で、第1及び第2のポリマー溶液を合わせて、代替のサイドバイサイド構造などの望みの構造の適切な二成分ドープフィラメントにする排出キャピラリ若しくは開口部の任意の構成又は方法を使用することができる。
【0051】
好ましい方法は、複数のドープフィラメントから溶媒を除去して溶媒が減少したフィラメントを形成するために、ドープフィラメントを紡糸セルの中で加熱されたガスと接触させることを継続する。一般的には、加熱されたガスは、窒素などの不活性ガスである。いくつかの実施形態では、ドープフィラメントは、紡糸セルにおける加熱されたガスのみと接触する。
【0052】
いくつかの実施形態では、ドープフィラメントから、複数のドープフィラメントの中の全溶媒の50~85%もの溶媒が紡糸セル中で除去される。そのため、ドープフィラメントは、紡糸セルの中で溶媒が減少したフィラメントへと変換される。次いで、溶媒が減少したフィラメントは、フィラメントを冷却するために水性液体でクエンチされ、ポリマーフィラメントの糸を形成する。また、クエンチは、より効率的な下流での処理のためにフィラメントから表面粘着性の一部を除去するのにも役立つ。更に、クエンチは、いくらかの更なる溶媒を除去することができ、クエンチ後、ドープフィラメントにおける全ての元の溶媒の75%以上を除去することが可能である。次いで、ポリマーフィラメントの糸から溶媒を更に抽出するための更なる工程が行われる。これらの工程は、必要に応じて、更なる洗浄、延伸、及び/又は加熱若しくは熱処理を含むことができる。
【0053】
「糸」とは、一緒に紡糸又は撚り合わされて連続ストランドを形成する繊維の集合体を意味する。本明細書において、糸は、通常、連続マルチフィラメント糸として知られている紡糸された二成分フィラメントの集合体を指す。しかしながら、本明細書で紡糸されたフィラメントは、ステープルファイバーへと切断して当技術分野で単糸として知られているものに変換することができ、これは織り及び編み加工などの作業に適した最も単純な繊維製品材料のストランドである。例えば、ステープルファイバー糸は、二成分繊維からステープルファイバー形態で形成することができ、この糸は多少の撚りを有する。単糸に撚りが存在する場合、それは全て同じ方向である。本明細書中で使用される「諸撚糸(ply yarn及びplied yarn)」という語句は、互換的に使用することができ、2本以上の糸、すなわち撚り合わされている又は重ね合わせられている単糸を指す。
【0054】
本明細書の目的のためには、「繊維」及び「フィラメント」という用語は互換的に使用され、その長さに垂直な断面積の幅に対する長さの比率が大きい、比較的柔軟で巨視的に均一な物体として定義される。また、このような繊維は、繊維製品用途における十分な強度のために、好ましくは概して密な断面を有する。すなわち、繊維は好ましくはあまり空隙を有さないか多量の好ましくない空隙を有さない。
【0055】
必要に応じて、糸は、連続マルチフィラメント又はステープル形態のいずれかで、他の繊維とブレンドされた本明細書に記載の二成分繊維を含んでいてもよい。また、二成分フィラメントの糸はステープルファイバーへと切断されてもよい。本明細書で使用される用語「ステープルファイバー」は、望みの長さに切断されているか若しくはけん切されている繊維、又はその長さに垂直な断面積の幅に対する長さの比率が連続フィラメントと比較した場合に小さくなるように製造された繊維を指す。人工ステープルファイバーは、例えば綿、羊毛、又は梳毛糸の紡糸装置での加工に適した長さに切断されるか製造される。ステープルファイバーは、(a)実質的に均一な長さを有していてもよく、(b)可変又はランダムな長さを有していてもよく、又は(c)ステープルファイバーの部分集団が実質的に均一な長さを有し、他の部分集団のステープルファイバーが異なる長さを有し、これらの部分集団中のステープルファイバーが一緒に混合されて実質的に均一な分布を形成していてもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、好適なステープルファイバーは、1~30cm(0.39~12インチ)の切断長さを有する。いくつかの実施形態では、好適なステープルファイバーは、2.5~20cm(1~8インチ)の長さを有する。いくつかの好ましい実施形態では、短ステープルプロセスによって製造されたステープルファイバーは、6cm(2.4インチ)以下の切断長さを有する。いくつかの好ましい実施形態では、短ステープルプロセスによって製造されたステープルファイバーは、1.9~5.7cm(0.75~2.25インチ)のステープルファイバー長を有し、3.8~5.1cm(1.5~2.0インチ)の繊維長が特に好ましい。長いステープル、梳毛、又は羊毛系の紡糸のためには、最大16.5cm(6.5インチ)の長さを有する繊維が好ましい。
【0057】
ステープルファイバーは任意の方法で製造することができる。例えば、ステープルファイバーは、ロータリーカッター又はギロチンカッターを使用して連続直線繊維から切断することができ、結果として直線(すなわち非捲縮)ステープルファイバーが得られる。あるいはステープルファイバーの長さに沿って鋸歯状捲縮を有し、好ましくは1cm当たり8捲縮以下の捲縮(又は繰り返し曲げ)回数を有する捲縮連続繊維から更に切断することができる。好ましくは、ステープルファイバーは捲縮を有する。
【0058】
ステープルファイバーは、連続繊維のけん切によって形成することもでき、結果として、捲縮として作用する変形部分を有するステープルファイバーが得られる。けん切されたステープルファイバーは、所定の距離の1つ以上のけん切ゾーンを有するけん切作業中にトウ又は連続フィラメントの束を破断することによって製造することができ、破断ゾーン調整によって制御される平均切断長を有する繊維のランダムな可変の塊が形成される。
【0059】
紡糸されたステープルヤーンは、当該技術分野において周知の従来の長及び短ステープルリング紡糸法を用いてステープルファイバーから製造することができる。しかし、糸はエアジェット紡糸、オープンエンド紡糸、及びステープルファイバーを利用可能な糸へと変換する他の多くの種類の紡糸を使用して紡糸することもできることから、これはリング紡糸に限定することを意図していない。紡糸されたステープルヤーンは、けん切トウ紡糸ステープルプロセスを使用するけん切によって直接製造することもできる。従来のけん切プロセスによって形成された糸の中のステープルファイバーは、典型的には最大18cm(7インチ)の長さを有する。しかしながら、例えばPCT出願国際公開第0077283号に記載されているような方法によって、けん切により製造された紡糸されたステープルヤーンは、最大長さ約50cm(20インチ)のステープルファイバーも有し得る。けん切プロセスはある程度の捲縮を繊維に付与することから、けん切されたステープルファイバーは通常は捲縮を必要としない。
【0060】
必要に応じて、二成分フィラメントから製造されたステープルファイバー、又は二成分フィラメント自体を、繊維ブレンドの中で更に使用することができる。繊維ブレンドとは、2つ以上のステープルファイバーの種類、又は2種以上の連続フィラメントを任意の方法で組み合わせることを意味する。好ましくは、ステープルファイバーブレンドは「均質ブレンド」であり、これはブレンド中の様々なステープルファイバーが比較的均一な繊維の混合物を形成することを意味する。いくつかの実施形態では、2つ以上のステープルファイバーの種類は、様々なステープルファイバーがステープルヤーンの束の中に均一に分布するようにステープルファイバーヤーンが紡糸される前に又は最中にブレンドされる。
【0061】
ブレンドは帯電防止繊維を含んでいてもよい。1つの好適な繊維は、De Howittの米国特許第4,612,150号明細書及び/又はHullの米国特許第3,803,453号明細書に記載のものなどの、1~3重量%の量の溶融紡糸熱可塑性帯電防止繊維である。これらの繊維は、カーボンブラックを含有しているが、繊維ポリマーは難燃性と熱安定性の組み合わせを有していないため、アーク性能にはほとんど影響を及ぼさない。すなわち、これは、21を超えるLOIを組み合わせて有しておらず、また毎分10℃の速度で425℃まで加熱された場合にその重量の少なくとも90%を保持しない。実際、そのような熱可塑性帯電防止繊維は、毎分10℃の速度で425℃まで加熱にされた場合に35重量%超を失う。本明細書の目的のために、及びいかなる混乱も避けるために、離散炭素粒子の重量%単位での総含有率は、あらゆる少量の帯電防止繊維を除いた繊維ブレンドの総重量を基準とする。
【0062】
生地は糸から製造することができ、いくつかの実施形態では、好ましい生地としては、限定するものではないが、織り生地又は編み生地が挙げられ得る。一般的な生地の設計及び構造は当業者に周知である。「織り」生地とは、平織り、千鳥綾織り、篭目織り、サテン織り、綾織りなどの任意の織られた生地を生成するために、縦糸又は長さ方向の糸を、横糸又は横方向の糸と互いに織り合わせることによって織機で通常形成される生地を意味する。平織り及び綾織りは、業界で使用される最も一般的な織り方であると考えられており、多くの実施形態において好ましい。
【0063】
「編み」生地とは、針を使用することによって糸ループを織り合わせることによって通常形成される生地を意味する。多くの場合、編み生地を製造するために、紡糸されたステープルヤーンは、その糸を生地へと変換する編み機に供給される。必要に応じて、撚り合わされていてもいなくてもよい複数の端部又は糸を編み機に供給してもよい。すなわち、糸の束又は諸撚糸の束を編み機に同時に供給し、従来の技術を用いて、生地へと、あるいは手袋などの衣料品へと直接、編むことができる。編物の締まり具合は、任意の具体的な要求を満たすように調節することができる。防護衣料品の特性の非常に効果的な組み合わせは、例えばシングルジャージーニットパターン及びテリーニットパターンで見出されている。
【0064】
いくつかの特に有用な実施形態では、紡糸されたステープルヤーンは、耐アーク性かつ難燃性の衣類を製造するために使用することができる。いくつかの実施形態では、衣類は、紡糸されたステープルヤーンから製造された本質的に1層の保護生地を有することができる。この種の衣類としては、極度の熱的事象が起こり得る化学加工産業又は工業若しくは電気設備などの状況で着用することができるジャンプスーツ、カバーオール、ズボン、シャツ、手袋、袖などが挙げられる。ある好ましい実施形態では、衣類は本明細書に記載の糸を含む生地から製造される。
【0065】
この種の防護物品又は防護衣類としては、電気技師及びプロセス制御の専門家などの産業関係者並びにその他の電気アーク電位環境で作業する可能性がある人々によって使用される防護コート、ジャケット、ジャンプスーツ、カバーオール、フードなどが挙げられる。好ましい実施形態では、防護衣類は、電気パネル又は変電所での作業が必要とされる場合に衣類及び他の防護具の上に通常使用される七分丈のコートを含む、コート又はジャケットである。
【0066】
好ましい実施形態では、単一の生地層の防護物品又は防護衣類は、2cal/cm2/ozよりも大きいATPVを有し、これは、アーク評価のための2つの一般的な等級区分体系のいずれかによって測定される、少なくともカテゴリー1又は2のアーク等級又はそれ以上である。全米防火協会(National Fire Protection Association、NFPA)は、4つの異なるカテゴリーを有しており、カテゴリー1が最も性能が低く、カテゴリー4が最も性能が高い。NFPA 70E体系では、カテゴリー1、2、3、及び4は、それぞれ1平方センチメートル当たり4、8、25、及び40カロリーの、生地を通る最小しきい値熱流束に対応する。米国電気安全規程(National Electric Safety Code、NESC)も、3つの異なるカテゴリーを有する等級体系を有しており、カテゴリー1が最も性能が低く、カテゴリー3が最も性能が高い。NESC体系では、カテゴリー1、2、及び3は、それぞれ1平方センチメートル当たり4、8、及び12カロリーの、生地を通る最小しきい値熱流束に対応する。したがって、カテゴリー2のアーク等級を有する生地又は衣類は、標準設定法ASTM F1959又はNFPA 70Eに従って測定される1平方センチメートル当たり8カロリーの熱流束に耐えることができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、生地及び物品は、好ましくは30~70の範囲の「L*」値を有する。
【0068】
試験方法
耐アーク性。本発明の生地の耐アーク性は、ASTM F-1959-99“Standard Test Method for Determining the Arc Thermal Performance Value of Materials for Clothing”に従って決定される。好ましくは、本発明の生地は、少なくとも0.8カロリー毎平方センチメートル毎オンス毎平方ヤード、より好ましくは少なくとも2カロリー毎平方センチメートル毎オンス毎平方ヤードの耐アーク性(ATPV)を有する。
【0069】
熱重量分析(TGA)。毎分10℃の速度で425℃まで加熱した場合にその重量の少なくとも90%を保持する繊維は、Newark,DelawareのTA Instruments(Waters Corporationの一部門)から入手可能な2950型熱重量分析計(TGA)を使用して決定することができる。TGAは、温度の上昇に対する試料の重量損失のスキャンを与える。TA Universal分析プログラムを使用して、任意の記録された温度で%重量損失を測定することができる。プログラムプロファイルは、試料を50℃で平衡化すること;毎分10℃で、50℃から1000℃まで昇温すること;10ml/分で供給される気体として空気を使用すること;及び500μLのセラミックカップ(PN 952018.910)試料容器を使用すること;からなる。具体的な試験手順は以下の通りである。TGAは、TA Systems 2900コントローラのTGAスクリーンを使用してプログラムした。試料IDを入力し、毎分20℃の計画された温度上昇プログラムを選択した。空の試料カップは、装置の風袋機能を使用して風袋秤量した。繊維試料を約1/16インチ(0.16cm)の長さに切断し、試料パンを試料でゆるく満たした。試料重量は10~50mgの範囲である必要がある。TGAは天秤を有しているため、正確な重量を事前に決定する必要はない。いずれの試料もパンの外側にあってはならない。熱電対がパンの上端に近いが接触していないことを確認して、充填した試料パンを天秤ワイヤに載せた。炉をパンの上に上げてTGAを開始する。プログラムが完了した後、TGAは自動的に炉を下げ、試料パンを取り外し、冷却モードに入る。その後、TA Systems 2900 Universal分析プログラムを使用して分析し、温度範囲全体にわたる重量損失率についてのTGAスキャンを生成する。
【0070】
限界酸素指数。本発明の生地の限界酸素指数(LOI)は、ASTM G-125-00“Standard Test Method for Measuring Liquid and Solid Material Fire Limits in Gaseous Oxidants”に従って決定する。
【0071】
色測定。色及び分光反射率を測定するために使用したシステムは、1976 CIELABカラースケール(Commission Internationale de l’Eclairageによって開発されたL*-a*-b*システム)である。CIE「L*-a*-b*」システムでは、色は、3次元空間の点として見られる。「L*」値は、高い値が最も明るい明度座標であり、「a*」値は、赤色の色相を示す「+a*」と緑色の色相を示す「-a*」とを有する赤色/緑色座標であり、「b*」値は、黄色の色相を示す「+b*」と青色の色相を示す「-b*」とを有する黄色/青色座標である。示されているように、分光光度計を使用して、繊維のパフ又は生地若しくは衣類の形態のいずれかで試料の色を測定した。具体的には、業界標準の10°の観察者及びD65光源を含むHunter Lab Ultra Ultrascan(登録商標)PRO分光光度計を使用した。本明細書で使用されるカラースケールは、旧Hunterカラースケールの座標がアスタリスクなしの(「L-a-b」)で指定されるのとは対照的に、アスタリスクと共にCIE(「L*-a*-b*)カラースケールの座標を使用する。
【0072】
炭素粒子の重量%。繊維を製造する際の繊維中のカーボンブラックの公称量は、成分の単純な物質収支によって決定される。繊維が製造された後、繊維中に存在するカーボンブラックの量は、繊維試料の重量を測定し、カーボンブラック粒子に影響を及ぼさない適切な溶媒にポリマーを溶解することにより繊維を除去し、炭素ではないあらゆる無機塩を除去するために残りの固形分を洗浄し、残りの固形分を秤量することによって決定することができる。ある具体的な方法は、約1gの試験する繊維、糸、又は生地を秤量し、水分を除去するためにその試料を105℃のオーブン中で60分間加熱し、その後試料をデシケーターの中に入れて室温まで冷却し、その後試料を秤量して0.0001gの精度までの初期重量を得ることを含む。その後、試料を攪拌機付きの250mlの平底フラスコの中に入れ、例えば96%硫酸などの適切な溶媒150mlを添加する。その後、フラスコを、蒸気がコンデンサーの頂部から出るのを防ぐのに十分な流量で作動する冷却水コンデンサーを備えた一体型の撹拌機/ヒーターの上に置く。その後、糸が溶媒中に完全に溶解するまで撹拌しながら加熱する。その後、フラスコをヒーターから取り外し、室温まで放冷する。その後、フラスコの内容物を、風袋秤量済みの0.2ミクロンPTFE濾紙を備えたMillipore真空フィルターユニットを用いて真空濾過する。真空を解除した後、同様にフィルターを通過させた追加の溶媒25mlでフラスコを洗い流す。その後、Milliporeユニットを真空フラスコから取り外し、新しい清浄なガラス製真空フラスコをはめ直す。真空で、濾紙上のpH紙チェックが洗浄水が中性であることを示すまで、ろ紙上の残渣を水で洗浄する。その後、最後に残渣をメタノールで洗浄する。残渣試料を有する濾紙を取り出し、皿に置き、105℃のオーブン中で加熱して20分間乾燥させる。その後、残渣試料を有する濾紙をデシケーターに入れて室温まで冷却し、引き続き残渣試料を有する濾紙を秤量して0.0001gの精度までの最終重量を得る。濾紙の重量を、残渣試料を有する濾紙の重量から差し引く。次に、この重量を糸又は繊維又は生地の初期重量で割り、100を掛ける。これにより、繊維、糸、又は生地中のカーボンブラックの重量%が得られる。
【0073】
粒径。カーボンの粒径は、ASTM B822-10-“Standard Test Method for Particle Size Distribution of Metal Powders and Related Compounds by Light Scattering”の総則を用いて測定することができる。
【0074】
顔料の重量%。繊維を製造する際の繊維中のカーボンブラックではない顔料の公称量は、成分の単純な物質収支によって決定される。繊維を製造した後、繊維中に存在する顔料の量は、繊維の試料の重量を測定し、試料を灰化し、残った固形分を秤量して重量パーセントを計算する一般的な方法により決定することができる。繊維試料中のTiO2の量を決定するための1つの具体的な方法は、試験する繊維を約5g秤量すること、その試料を105℃のオーブン中で60分間加熱して水分を除去すること、その後試料を約15分間デシケーターの中に入れて室温まで冷却することを含む。その後、合成石英るつぼを800℃で運転しているマッフル炉の中に15分間入れ、その後これを取り出してデシケーターの中で15分間冷ます。その後、るつぼを0.0001gの精度でまで秤量する。乾燥した糸試料も秤量して0.0001gの精度でまで秤量し、その初期重量を得る。乾燥した糸試料をるつぼの中に入れ、その後試料が入っているるつぼを800℃で運転しているマッフル炉の中に60分間入れる。その後、るつぼを取り出し、デシケーターに入れて15分間冷却した後、最終試料プラスるつぼを0.0001gの精度まで秤量する。その後、最初に最終試料プラスるつぼの重量からるつぼの重量を引き、次いでその量を繊維試料の初期重量で割ってから100を掛けることによってTiO2の量を計算する。これにより重量%でのTiO2の量が得られる。
【0075】
収縮。高温での繊維収縮を試験するために、試験するマルチフィラメント糸の試料の両端を、固い結び目で1つに繋いで、ループ全体の内部長さが長さ約1メートルになるようにする。その後、ループを、ぴんと張ってほぼ0.1cmと測定されるループの2倍の長さまで引っ張る。その後、糸のループをオーブンの中に185℃で30分間吊るす。その後、糸のループを冷まし、再度引っ張り、2倍の長さを再測定する。その後、パーセント収縮率をループの直線長の変化から計算する。
【実施例
【0076】
実施例1
この実施例では、鞘/芯複合繊維を、モダクリルポリマーの40%の鞘と、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(MPD-I)を含む60%の芯とを用いて紡糸した。芯中へのカーボンブラック添加量は2.5重量%であり、鞘中には顔料を全く含まなかった(繊維中に1.5重量%のカーボンブラック添加量)。
【0077】
DMAc中のモダクリルポリマーの30重量%溶液は、DMAc中にモダクリルポリマーから製造された適切な量の繊維を溶解させることによって調製した。DMAc中のMPD-Iポリマーの19.3重量%溶液も、その溶媒中でポリマーを重合することによって得た。
【0078】
その後、モダクリルポリマー溶液及びMPD-Iポリマー溶液の別個に制御された流れを、MPD-Iポリマーの芯上でモダクリルポリマーの鞘を乾式紡糸するために紡糸セルに供給した。紡糸セルは、紡糸セルの頂部に入る前に鞘/芯フィラメントを生成するための紡糸口金アセンブリを備えていた。米国特許第5,505,889号明細書の図1~3に詳述されているような紡糸口金アセンブリは、2つの溶液から望みの鞘-芯構造を製造するための計量プレート及び紡糸口金を含んでいた。紡糸口金は、それぞれ0.005インチの直径及び0.01インチの長さを有する791個の穴を備えていた。紡糸口金アセンブリは、溶液が計量プレート及び紡糸口金を通って移動する際の溶液の温度を100℃~150℃に制御するための蒸気通路を更に含んでいた。
【0079】
流れ中のモダクリル及びMPD-Iポリマーの溶液の流量は、2つの異なる計量ポンプで独立して制御した。ある量のカーボンブラックをMPD-I溶液と混合し、次いで分散液を粉砕して均一な粒子分布を得ることによって、カーボンブラックを含有する別の添加剤分散液を製造した。その後、この分散液を、この流れ中で2.5重量%のカーボンブラック添加量を得るのに適切な流量で、紡糸口金の前にMPD-Iポリマー溶液の芯の流れに注入した。
【0080】
フィラメントからDMAcの一部を除去するために、紡糸口金アセンブリを出るカーボンブラックを有する個々のモダクリル/MPD-I鞘/芯フィラメントの束を、加熱された窒素ガスに暴露した。紡糸セルの出口でフィラメントを水性液体で更にクエンチした。
【0081】
この方法により製造した糸条束の試料をクエンチ後に採取し、鞘-芯複二成分フィラメントの断面の光学顕微鏡像を撮影した。これは図1に示されている。繊維の鞘芯構造は黒色の芯と共に明白である。
【0082】
カーボンブラックを含むクエンチしたモダクリル/MPD-Iの鞘/芯繊維を洗浄/延伸機で更に処理して、フィラメントを更に3.6倍延伸し、残留濃度が1重量%未満になるように追加のDMAc溶媒を抽出した。その後、繊維を乾燥し、蒸気乾燥機及び電気加熱ドラムを使用して更に熱処理し、引き続き紡糸仕上げ剤を塗布してからボビンに巻き取った。
【0083】
実施例2
実施例1を繰り返したが、炭素粒子を含むアラミドポリマーの第1の側部と炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2の側部との重量比がその実施例のように60:40である、サイドバイサイド二成分フィラメント構造を与える紡糸口金を用いた。第1の側部に付加的な質量があるため、この側部は第2の側部の周囲の50%超を囲み、鞘-芯と同様に機能するサイドバイサイド二成分フィラメントが形成される。
【0084】
実施例3
実施例1及び2に示した手順を繰り返すが、モダクリル流は更にDMAc中のルチル型二酸化チタン(TiO2)顔料の分散液を含有する。この安定な分散液はDMAc中にポリマー及び約30重量%のTiO2を含み、これは分散液中でTiO2が均一に分散するように粉砕される。その後、この粉砕された分散液を、モダクリルポリマー中のTiO2の最終濃度が15重量%に相当する量でモダクリルポリマーの流れに添加する。ここでは、鞘中にTiO2顔料を有する鞘-芯フィラメント、及び片側にTiO2顔料を有するサイドバイサイドフィラメントが製造される。
本発明は、以下の事項を含んでいるともいえる。
(付記1)
複数の二成分フィラメントを含む糸であって、
前記二成分フィラメントが第1のポリマー組成物を含む第1の領域と第2のポリマー組成物を含む第2の領域とを有し、第1及び第2の領域のそれぞれは二成分フィラメントの中で識別可能であり;
それぞれの二成分フィラメントは5~60重量%の前記第1のポリマー組成物と95~40重量%の前記第2のポリマー組成物を含み;
前記第1のポリマー組成物は、前記第1の組成物中の炭素粒子の量を基準として、前記フィラメントの前記第1の領域に均一に分散された0.5~20重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含み;
前記第2のポリマー組成物は、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーを含み;
前記糸が0.1~5重量%の離散炭素粒子の総含有率を有する、糸。
(付記2)
各二成分フィラメントが、30~60重量%の前記第1のポリマー組成物と、70~40重量%の前記第2のポリマー組成物とを含む、付記1に記載の糸。
(付記3)
前記第1のポリマー組成物が、0.5~10重量%の離散炭素粒子を含むアラミドポリマーを含有する、付記1又は2に記載の糸。
(付記4)
前記第2のポリマー組成物が少なくとも1種のマスキング顔料を更に含有する、付記1~3のいずれか1項に記載の糸。
(付記5)
前記少なくとも1種のマスキング顔料が、5~25重量%の量で前記第2のポリマー組成物中に存在する、付記4に記載の糸。
(付記6)
前記少なくとも1種のマスキング顔料が、10~20重量%の量で前記第2のポリマー組成物中に存在する、付記5に記載の糸。
(付記7)
前記少なくとも1種のマスキング顔料が、2.5~22.5重量%の量で前記二成分フィラメント中に存在する、付記1~6のいずれか1項に記載の糸。
(付記8)
前記二成分フィラメントが、前記第1の領域が芯であり前記第2の領域が鞘である鞘-芯構造を有する、付記1~7のいずれか1項に記載の糸。
(付記9)
前記二成分フィラメントが、前記第1の領域が前記フィラメントの第1の側部であり前記第2の領域が前記フィラメントの第2の側部であるサイドバイサイド構造を有する、付記1~7のいずれか1項に記載の糸。
(付記10)
前記糸が、0.1~3重量%の離散炭素粒子の総含有率を有する、付記1~9のいずれか1項に記載の糸。
(付記11)
付記1~10のいずれか1項に記載の糸を含む生地。
(付記12)
付記11に記載の生地を含む熱防護衣料品。
(付記13)
付記1~10のいずれか1項に記載の糸を含む熱防護衣料品。
(付記14)
二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各前記フィラメントが、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な鞘と、中に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な芯とを含み、鞘が芯を取り囲んでおり:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であって前記アラミドポリマー溶液が離散炭素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)前記第1のポリマー溶液及び前記第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)前記排出キャピラリを通して前記第1及び前記第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、前記第2のポリマー溶液の鞘と前記第1のポリマー溶液の芯とを有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)前記複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法。
(付記15)
前記複数のドープフィラメントから溶媒を抽出して糸を製造する前記d)の工程が:
i)前記ドープフィラメントから溶媒を除去して溶媒が減少したフィラメントを形成するために、前記ドープフィラメントを前記紡糸セルの中で加熱されたガスと接触させる工程;
ii)前記溶媒が減少したフィラメントを水性液体でクエンチして前記フィラメントを冷却し、ポリマーフィラメントの糸を形成する工程;及び
iii)前記糸の洗浄及び加熱により前記ポリマーフィラメントの糸から溶媒を更に抽出する工程;
を含む、付記14に記載の方法。
(付記16)
前記第2のポリマー溶液組成物が少なくとも1種のマスキング顔料を更に含有する、付記14又は15に記載の方法。
(付記17)
前記アラミドポリマーがポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である、付記14~16のいずれか1項に記載の方法。
(付記18)
サイドバイサイド構造を有する二成分フィラメントを含む糸の形成方法であって、各フィラメントが、粒子と、中に均一に分散された離散炭素粒子を含むアラミドポリマーの識別可能な第1の側部と、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの識別可能な第2の側部とを含み:
a)溶媒中にアラミドポリマーを含む第1のポリマー溶液であってアラミドポリマー溶液が離散炭素粒子を更に含む溶液を形成し、同じ又は異なる溶媒中で、離散炭素粒子を含まないモダクリルポリマーの第2のポリマー溶液を形成する工程;
b)前記第1のポリマー溶液及び前記第2のポリマー溶液のための別個の注入口と、ドープフィラメントを紡糸するための複数の排出キャピラリとを有する紡糸口金アセンブリを提供する工程;
c)前記排出キャピラリを通して前記第1及び前記第2の溶液の複数の結合流を紡糸セルに押し出すことにより、前記第1のポリマー溶液の第1の側部と前記第2のポリマー溶液の第2の側部とをサイドバイサイドの配向で有する複数のドープフィラメントを形成する工程;並びに
d)前記複数のドープフィラメントから溶媒を抽出してポリマーフィラメントの糸を製造する工程;
を含む方法。
(付記19)
前記複数のドープフィラメントから溶媒を抽出して糸を製造する前記工程d)が:
i)前記ドープフィラメントから溶媒を除去して溶媒が減少したフィラメントを形成するために、前記ドープフィラメントを前記紡糸セルの中で加熱されたガスと接触させる工程;
ii)前記溶媒が減少したフィラメントを水性液体でクエンチして前記フィラメントを冷却し、ポリマーフィラメントの糸を形成する工程;及び
iii)前記糸の洗浄及び加熱により前記ポリマーフィラメントの糸から溶媒を更に抽出する工程;
を含む、付記18に記載の方法。
(付記20)
前記第2のポリマー溶液組成物が少なくとも1種のマスキング顔料を更に含有する、付記18又は19に記載の方法。
(付記21)
前記アラミドポリマーがポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)である、付記18~20のいずれか1項に記載の方法。
図1