IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニマテック株式会社の特許一覧

特許7045454パーフルオロポリエーテルリン酸エステルの製造法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテルリン酸エステルの製造法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/327 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
C08G65/327
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020525445
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021819
(87)【国際公開番号】W WO2019239927
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018113614
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】浦田 公彦
(72)【発明者】
【氏名】小田 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】金海 吉山
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03492374(US,A)
【文献】米国特許第03306855(US,A)
【文献】特開2012-201709(JP,A)
【文献】特表2002-510697(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043118(WO,A1)
【文献】特開平05-222070(JP,A)
【文献】国際公開第2007/080949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-67/04
B29C 33/60
C09K 3/00、3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2OH
(ここで、nは1~20の整数である)で表されるパーフルオロポリエーテルアルコールをオキシ塩化リンと塩化カルシウム脱水剤の存在下で反応させ、得られた一般式
〔C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2O〕2POCl
(ここで、nは1~20の整数である)で表される化合物を加水分解することを特徴とする、一般式
〔C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2O〕2PO(OH)
(ここで、nは1~20の整数である)で表されるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルの製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテルリン酸エステルの製造法関する。さらに詳しくは、離型剤として有効に用いられるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルの製造法関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3には、(CH2CF2)a単位を有しないパーフルオロアルキルアルキルリン酸エステル(塩)を主成分とし、これに界面活性剤、シリコーンオイル、100℃以上の沸点を有する高度にフッ素化された有機化合物の少なくとも一種またはシリコーンワニスを加えた離型剤が記載されている。
【0003】
これらの離型剤は、良好な離型性を示し、また従来のものと比べて離型寿命が長いとされてはいるものの、昨今の成形品形状の複雑化に伴い、離型剤としてなお一層の性能の向上が求められている。また、離型性能の向上、離型寿命の延長には、界面活性剤やシリコーン系物質の添加を必要としている。なお、リン酸エステルの製造法については触れられていない。
【0004】
また、特許文献4には、一般式
HO(CH2CH2O)nCH2RfCH2(OCH2CH2)mOH
Rf:2価の直鎖パーフルオロポリエーテル基
n、m:1または2
で表されるジオール化合物とP2O5とを、1:0.25~0.7のモル比で反応させて得られるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルが、摩擦や高温高湿環境に対してすぐれた耐久性を有する防汚性を硬質表面に付与することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭53-23270号公報
【文献】特公昭53-23271号公報
【文献】特公昭57-48035号公報
【文献】特開2012-201709号公報
【文献】WO 2007/080949 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、その表面エネルギーが非常に小さいため、撥水撥油性、耐薬品性、潤滑性、離型性、防汚性などを有し、こうした諸性質を利用して機器の防油剤、離型剤、化粧料、保護膜等に幅広く利用されている。
【0007】
本発明の目的は、特に撥油性にすぐれ、耐久試験後においても撥油性が大きく低下しないパーフルオロポリエーテルリン酸エステルの製造法提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、一般式
C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2OH
(ここで、nは1~20の整数である)で表されるパーフルオロポリエーテルアルコールをオキシ塩化リンと塩化カルシウム脱水剤の存在下で反応させ、得られた一般式
〔C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2O〕2POCl
(ここで、nは1~20の整数である)で表される化合物を加水分解することによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る製造法により製造されたパーフルオロポリエーテルリン酸エステルは、それを有機溶媒溶液、好ましくは含フッ素有機溶媒溶液として、各種基材、好ましくは金属表面に処理することで油に対する撥油性が現れ、耐久試験後もその撥油性は大きく低下しないという効果を奏する。
【0010】
具体的には、含フッ素有機溶媒溶液を塗布した金型からの樹脂成形品の離型性に関しては、離型荷重が小さく、これを一度塗布すると、50N以下の離型荷重で10回前後の離型を行うことができる。
【0011】
したがって、かかるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルまたはその塩は、離型剤としてだけではなく、撥水撥油剤、防汚加工剤、潤滑性向上剤等として有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
パーフルオロポリエーテルリン酸エステルは、パーフルオロポリエーテルアルコール(特許文献5参照)
C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2OH
n:1~20の整数、好ましくは3~10
に、これに対して約1~20モル比で用いられる塩化カルシウム脱水剤の存在下でオキシ塩化リンを反応させ、得られた
〔C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2O〕2POCl
を水で加水分解することにより得られる。
〔C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2O〕2PO(OH)
【0013】
オキシ塩化リンは、パーフルオロポリエーテルに対して過剰量、一般には約5~10、好ましくは約7~9のモル比になるような量で用いられ、この中間生成物は次いで水で加水分解される。最終生成物たるパーフルオロポリエーテルリン酸エステルは、若干の〔C3F7O{CF(CF3)CF2O}nCF(CF3)CH2O〕PO(OH)2の化合物を含み、それの分離は困難である。
【0014】
反応は、第1段の反応が約100~120℃で約10~30時間程度行われ、内温90~110℃で減圧下で低沸物を除去した後減圧蒸留することにより行われ、次いで内温が60℃を超えないようにゆっくりと水を滴下し、加水分解反応される。生成物は、反応混合物から減圧下で水を除去することにより得られる。
【0015】
得られたパーフルオロポリエーテルリン酸エステルは、これを中和して塩の形で用いることもできる。塩の形成は、一般的にはpHで等量点を確認しながら、例えば水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、トリエチルアミン、モルホリン、トリエタノールアミン、トリス(2-ヒドロキシエチル)等の塩形成用反応剤で滴定し、酸性の1~3価金属塩、アミン塩またはアンモニウム塩とすることにより行われる。
【0016】
得られるパーフルオロポリエーテルリン酸エステル塩としては、例えばパーフルオロポリエーテルリン酸エステルのナトリウム、カリウム、リチウム、バリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛等の金属塩、アンモニウム塩、モノエチル、モノイソプロピル、ジエチル、ジシクロヘキシル、トリエチル等のアルキル基またはシクロアルキル基で置換されたアンモニウム塩、モノエタノール、ジエタノール、トリエタノール、ジイソプロパノール等のヒドロキシアルキル基で置換されたアンモニウム塩などが挙げられる。
【0017】
パーフルオロポリエーテルリン酸エステルまたはその塩を用いた表面処理剤の調製は、固形分濃度が約0.01~30重量%、好ましくは約0.03~3重量%の有機溶媒溶液となるように有機溶媒により希釈することにより行われる。用いられる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール等の多価アルコール誘導体類、四塩化炭素、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、トリクロロフルオロメタン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素類などの少なくとも一種が挙げられ、好ましくは含フッ素有機溶媒が用いられる。含フッ素有機溶媒としては、市販品、例えば3M社製品NOVEC 7200等が用いられる。
【0018】
表面処理剤溶液中には、必要に応じて、表面処理剤の濡れ性を改善するイオン系、非イオン系等の各種界面活性剤、離型性、潤滑性を更に改善するシリコーンオイル、シリコーンワニス等を添加することもできる。
【0019】
離型剤溶液の金型への塗布は、浸せき、吹き付け、刷毛塗り、エアゾル噴射、含浸布による塗布など、通常用いられる任意の方法によって行うことができる。また、離型剤が塗布された金型で形成される成形材料としては、例えばポリウレタン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂類、天然ゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム等のゴム類が挙げられる。
【実施例
【0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
実施例1
(1) 容量2Lのフラスコに、オキシ塩化リン 1226g(8.0モル)および塩化カルシウム 5.5g(0.05モル)を仕込み、10分間攪拌した後、
CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}4CF(CF3)CH2OH 〔PO-6-OH〕
1000g(1.0モル)を添加し、内温が110℃になる迄昇温し、24時間攪拌した。1H NMRにより、PO-6-OHが消失したことを確認し、反応を終了させた。
【0022】
内温90~110℃で4.5KPaの減圧下で低沸物を除去した後、減圧度を0.1KPaとし、内温160℃で減圧蒸留し、純度99.2GC%の
〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}4CF(CF3)CH2O〕2POCl 〔PO6PAECl〕
937.9g(収率85%)を得た。
【0023】
(2) 容量1Lのフラスコに、得られたPO6PAECl 937.9gを仕込み、水7.8gを内温が60℃を超えないようにゆっくりと滴下し、内温50℃で激しく攪拌した。24時間攪拌した後、1H NMRによりPO6PAEClが消失したことを確認し、反応を終了させた。
【0024】
内温50℃で0.1KPaの減圧下で脱水を行い、透明な液体808.9g(収率90%)を得た。1H NMRおよび19F NMR測定を行い、スペクトル帰属から目的物であることを確認した。
〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}4CF(CF3)CH2O〕2PO(OH) 〔PO6PAE〕
〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}4CF(CF3)CH2O〕PO(OH)2
(〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}4CF(CF3)CH2O〕PO(OH)2は少量で、分離不能)
1H NMR(CDCl3、TMS):ppm 4.4ppm(CFCH 2)
10.9ppm(OH)
19F NMR(CDCl3、C6F6):ppm -85.3ppm(CF 3 )
-83.0~-85.3ppm(CF3CF2 CF 2 )
-83.0~-85.3ppm CH2CFCF3(OCF2CFCF 3 )
-83.0~-85.3ppm CH2CFCF3(OCF 2 CFCF3)
-83.0~-85.3ppm CH2CFCF 3 (OCF2CFCF3)
-132.8ppm(CF3 CF 2 )
-137.6ppm CH2 CFCF3(OCF2CFCF3)
-147.5ppm CH2CFCF3(OCF2 CFCF3)
【0025】
実施例2
(1) 容量500mlのフラスコに、オキシ塩化リン 215g(1.4モル)および塩化カルシウム 0.94g (0.0085モル)を仕込み、10分間攪拌した後、
CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}7CF(CF3)CH2OH 〔PO-L-OH〕
300g(0.17モル)を添加し、内温が110℃になる迄昇温し、24時間攪拌した。1H NMRにより、PO-L-OHが消失したことを確認し、反応を終了させた。
【0026】
内温90~110℃で4.5KPaの減圧下で低沸物を除去した後、減圧度を0.1KPaとし、内温100℃で減圧蒸留し、
〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}7CF(CF3)CH2O〕2POCl 〔POLPAECl〕
255g(収率78%)を得た。
【0027】
(2) 容量300mLのフラスコに、得られたPOLPAECl 255g(0.13モル)を仕込み、水7.8gを内温が60℃を超えないようにゆっくりと滴下し、内温50℃で激しく攪拌した。24時間攪拌した後、1H NMRにより、POLPAEClが消失したことを確認し、反応を終了させた。
【0028】
内温50℃で0.1KPaの減圧下で脱水を行い、褐色白濁液体189g(収率77%)を得た。1H NMRおよび19F NMR測定のスペクトルの帰属は、実施例1と同様であった。
〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}7CF(CF3)CH2O〕2PO(OH) 〔POLPAE〕
〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}7CF(CF3)CH2O〕PO(OH)2
(〔CF3CF2CF2O{CF(CF3)CF2O}7CF(CF3)CH2O〕PO(OH)2は少量で、分離不能)
【0029】
参考例1
含フッ素有機溶媒(3M社製品NOVEC 7200)99.5g中に、実施例1で得られたPO6PAE 0.5gを加え、約30分間攪拌して、調製液A-1を調製した。
【0030】
この調製液A-1中に、クロムメッキ銅板テストピース(25×75×1.2mm)を浸漬時間5秒間、引上げ速度2mm/秒の条件下でディップコーティングし、150℃で1時間焼付けを行った。
【0031】
初期性能(ヘキサデカンを用いた静的接触角を測定)は73°であり、耐久性能(綿100%の布を用いてテストピースに20g/cm2の荷重をかけ、2000回の摺動を行った後、ヘキサデカンを用いて静的接触角を測定)は65°であった。
【0032】
参考例2
参考例1において、PO6PAEの代りに実施例2で得られたPOLPAEを用いて調製液B-2を調製し、これを用いて初期性能および耐久性能を測定すると、それぞれ73°と66°という値が得られた。
【0033】
比較参考例1
実施例1において、PO6PAEの代りに
(CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2O)2PO(OH) 〔C6PAE〕
(CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2O)PO(OH)2
((CF3CF2CF2CF2CF2CF2CH2CH2O)PO(OH)2は少量で、分離不能)
を用いて調製液C-3を調製し、これを用いて初期性能および耐久性能を測定すると、それぞれ60°と30°という値が得られた。
【0034】
参考例3
実施例1で得られたPO6PAE 0.1gにイソプロパノール 65gおよび水 34.7gを加え、攪拌しながらトリエチルアミン 0.2gを添加し、約30分間攪拌し、表面処理剤A-4を調製した。
【0035】
この表面処理剤A-4をスプレー塗布し、80℃に予熱されたアルミニウム製金型(直径45mm、深さ50mm)内に、80℃に加熱されたポリウレタンプレポリマー(日本ポリウレタン製品コロネート C-4090)100重量部と加熱溶融されたメチレンビス-o-クロロアニリン硬化剤(イハラケミカル製品イハラキュアミンMT)12.8重量部とを、気泡を巻込まないようにしながら攪拌混合して注入する。
【0036】
加熱硬化前に、注入部中央に硬化成形品取出し用のフックを設置した。注入物を120℃で1時間加熱硬化させた後、フックを引張って成形品を金型から取出す際の離型荷重を測定すると、10Nであった。
【0037】
また、このようにして金型離型性を求めた後、離型剤(表面処理剤A-4)を1回塗布し、50N以下の離型荷重条件下での離型回数を測定すると、9回迄離型が可能であった。
【0038】
参考例4
参考例3において、表面処理剤A-4の代りに、実施例2で得られたPOLPAEを用いて調製された表面処理剤A-5を用いると、金型離型性は10N、離型寿命は11回という結果が得られた。
【0039】
比較参考例2
参考例3において、表面処理剤A-4の代りに、比較参考例1で用いられたC6PAEを用いて調製された調製液C-5を用いると、金型離型性は15N、離型寿命は2回という結果が得られた。
【0040】
比較参考例3
参考例3において、表面処理剤をスプレー塗布しないアルミニウム製金型を用いて離型試験を行うと、ポリウレタン成形品が金型に密着し、離型させることができなかった。