(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】ポリチオウレタン系プラスチックレンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 1/04 20060101AFI20220324BHJP
C08G 18/38 20060101ALI20220324BHJP
C08G 18/66 20060101ALI20220324BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20220324BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20220324BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
G02B1/04
C08G18/38 076
C08G18/66 066
C08G18/75
C08G18/73
G02B3/00
(21)【出願番号】P 2020537564
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 KR2019000462
(87)【国際公開番号】W WO2019139410
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-07
(31)【優先権主張番号】10-2018-0004259
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508148079
【氏名又は名称】エスケイシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SKC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジョンファン
(72)【発明者】
【氏名】ミョン、ジョンファン
(72)【発明者】
【氏名】シム、ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ヒョクヒ
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031975(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/032010(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125736(WO,A1)
【文献】特開2014-145083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00- 1/08
G02B 3/00- 3/14
G02C 1/00-13/00
C08G18/38
C08G18/66
C08G18/73
C08G18/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能以上のポリチオール化合物と、
2官能以上のイソシアネート化合物とを含む重合性組成物から得られたポリチオウレタン系プラスチックレンズにおいて、
前記ポリチオール化合物は、2官能以上4官能以下であり、220g/mol~2000g/molの重量平均分子量を有し、
前記
ポリチオウレタン系プラスチックレンズは、(i)常温(25℃)での貯蔵モジュラス/70℃における貯蔵モジュラスの比が1~10であり、
(ii)前記常温(25℃)における貯蔵モジュラスが100MPa~3000MPaであり、
(iii)下記数学式1による常温(25℃)におけるエネルギー減衰(KEL)が1~50であり、
[数1]
KEL(エネルギー減衰)=tanδ×10
12/[E'(@25℃)×(1+(tanδ)
2)]
(前記式において、E'(@25℃)は、常温(25℃)における貯蔵モジュラスであり、tanδは常温(25℃)における損失モジュラス/貯蔵モジュラスの比である。)
(iv)ガラス転移温度(Tg)が70℃~160℃である、ポリチオウレタン系プラスチックレンズ。
【請求項2】
前記ポリチオール化合物が、
第1ポリチオール化合物及び第2ポリチオール化合物を含み、
前記第1ポリチオール化合物は、グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)、4,8-ジ(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、および5,9-ジ(メルカプトエチル)-1,12-ジメルカプト-3,7,10-トリチアドデカンからなる群より選択される1種以上であり、
前記第2ポリチオール化合物は、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラ(メルカプトアセテート)、および
(x、y、zは、それぞれ独立して1~10の整数であり、x+y+z=20)からなる群より選択される1種以上
である、
請求項1に記載のポリチオウレタン系プラスチックレンズ。
【請求項3】
前記第2ポリチオール化合物がエステル基を含み、400g/mol~3000g/molの重量平均分子量を有する、
請求項2に記載のポリチオウレタン系プラスチックレンズ。
【請求項4】
前記イソシアネート化合物が2官能以上4官能以下であり、150g/mol~510g/molの重量平均分子量を有する、請求項1に記載のポリチオウレタン系プラスチックレンズ。
【請求項5】
前記イソシアネート化合物が、イソホロンジイソシアネート、1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、m-キシレンジイソシアネート、および1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキシル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオンからなる群より選択される1種以上である、
請求項4に記載のポリチオウレタン系プラスチックレンズ。
【請求項6】
前記重合性組成物が、ポリチオール化合物およびイソシアネート化合物を20:80~80:20の重量比で含む、請求項1に記載のポリチオウレタン系プラスチックレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施例は、ポリチオウレタン系プラスチックレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック光学材料は、ガラスのような無機材料からなる光学材料に比べ、軽量でありながら割れ難く、染色性に優れているので、様々な樹脂のプラスチック材料が眼鏡レンズ、カメラレンズ等の光学材料として広く利用されている。最近では、より一層光学材料の高性能化が求められており、具体的には高透明性、高屈折率、低比重、高耐熱性、高耐衝撃性などが要求されている。
【0003】
ポリチオウレタン系化合物は、その優れた光学特性および機械的物性により、光学材料として広く使用されている。ポリチオウレタン系化合物は、ポリチオール化合物とイソシアネート化合物とを反応させて調製することができ、前記ポリチオール化合物およびイソシアネート化合物の物性は、調製されるポリチオウレタン系化合物の物性に大きな影響を与える。
【0004】
具体的に、前記ポリチオウレタン系化合物から製造される光学レンズは、モノマーの構造および/または硫黄含有量などを調節することにより屈折率を高めることができ、前記モノマーの含有量、種類などを適切に設計することにより、アクリル系をはじめとする他のプラスチック系レンズ素材より耐衝撃性を向上させ得る。
【0005】
最近では、チオール系化合物に柔軟基であるエステル基を導入させ、これから得られるポリチオウレタン系光学材料の耐衝撃性を向上させるための研究が試みられた。一例として、特許文献1は、ポリチオールにエステル基を与えてペンタエリトリトールメルカプトカルボン酸エステルを調製する技術を開示しているが、前記特許では、ポリチオールが少量のエステル基を含んでおり、耐衝撃性の向上に制限を有する。
【0006】
また、耐衝撃性の向上のみのために組成物を設計していると、耐熱性が不足してレンズのキャスティング後のコーティングや着色などの後工程において、熱によりレンズの変形が発生することになる。また、真夏など高温の環境条件などにレンズが長時間さらされる場合は、レンズの焦点距離が歪むなどと、長期信頼性の面からも問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、実施例は、耐熱性と耐衝撃性のいずれにも優れたポリチオウレタン系プラスチックレンズを提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施例は、2官能以上のポリチオール化合物および2官能以上のイソシアネート化合物を含む重合性組成物から得られたポリチオウレタン系プラスチックレンズにおいて、前記レンズは、(i)常温(25℃)での貯蔵モジュラス/70℃における貯蔵モジュラスの比が1~10であり、(ii)前記常温(25℃)における貯蔵モジュラスが100MPa~3000MPaであり、(iii)下記数学式1による常温(25℃)におけるエネルギー減衰(KEL)が1~50であり、(iv)ガラス転移温度(Tg)が70℃~160℃であるポリチオウレタン系プラスチックレンズを提供する。
【0010】
[数1]
KEL(エネルギー減衰)=tanδ×1012/[E'(@25℃)×(1+(tanδ)2)]
前記式において、E'(@25℃)は常温(25℃)における貯蔵モジュラスであり、tanδは常温(25℃)における損失モジュラス/貯蔵モジュラスの比である。
【発明の効果】
【0011】
実施例は、ポリチオウレタン系プラスチックレンズの重合の際、ポリチオール化合物およびイソシアネート化合物の種類、含有量等を調整して、常温および高温における貯蔵モジュラス並びにこれらの変化量、これらから得られたエネルギー減衰(KEL)値、およびガラス転移温度を制御することにより、耐衝撃性および耐熱性が向上されたポリチオウレタン系プラスチックレンズを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、温度による貯蔵モジュラスを示したグラフである。
【
図2】
図2は、温度によるtanδ値を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施例に係るポリチオウレタン系プラスチックレンズは、2官能以上のポリチオール化合物および2官能以上のイソシアネート化合物を含む重合性組成物から得られ、(i)常温(25℃)での貯蔵モジュラス(E'(@25℃))/70℃における貯蔵モジュラス(E'(@70℃))の比が1~10であり、(ii)前記常温(25℃)における貯蔵モジュラスが100MPa~3000MPaであり、(iii)下記数学式1による常温(25℃)におけるエネルギー減衰(KEL;Energy Loss Factor)が1~50であり、(iv)ガラス転移温度(Tg)が70℃~160℃である。
【0014】
[数1]
KEL(エネルギー減衰)=tanδ×1012/[E'(@25℃)×(1+(tanδ)2)]
前記式において、E'(@25℃)は常温(25℃)における貯蔵モジュラスであり、tanδは常温(25℃)における損失モジュラス/貯蔵モジュラスの比である。
【0015】
前記KEL値は、ASTM-D4092-90(standard Terminology Relating to Dynamic Mechanical Measurements of Plastics)に基づいて、各変形において失われた単位体積あたりのエネルギーと定義し得る。
【0016】
ポリチオウレタン系プラスチックレンズにおいて、前記常温(25℃)および70℃における貯蔵モジュラスの比(E'(@25℃)/E'(@70℃))は、1~10、1~8、または1~5であり得る。さらには、前記レンズにおいて常温(25℃)における貯蔵モジュラスは、100MPa~3000MPa、100MPa~2800MPa、または100MPa~2500MPであり得る(実験例(1)を参照)。また、前記レンズのガラス転移温度(Tg)は、70℃~160℃、70℃~150℃、80℃~120℃、または90℃~115℃であり得る(実験例(2)を参照)。前記レンズは、ガラス転移温度(Tg)以前のモジュラス値の差が小さいほど耐衝撃性がより向上され得るので、前記範囲内のモジュラス値を有することが重要である。
【0017】
また、前記ポリチオウレタン系プラスチックレンズは、前記数学式(1)に基づく常温(25℃)におけるKEL値が、1~50、1~40、1~30、1~20、または5~20であり得る(実験例(1)を参照)。前記範囲内であると、レンズの耐衝撃性をより向上させ得る。具体的に、レンズはKEL値が高いほど、レンズが自主的に吸収して消滅させるエネルギーが大きいため、外部の衝撃に容易に破壊されない。一般に、KEL値を増加させる方法としては、レンズを軟質化させる方法がある。そのためには、前記重合性組成物の平均官能基の数を下げるか、分子量の大きいモノマーを選択して架橋密度を調節することができる。しかし、過剰に軟質化させると、レンズの耐熱性が不足することになり、コーティング、着色などの後工程において変形が起こりやすく、レンズが高温にさらされる場合、レンズの焦点距離が歪むなどの問題が発生し得るので、前記KEL値を有することが重要である。
【0018】
したがって、前述のように、常温、レンズ製造時の温度および使用温度において一定値以上の貯蔵モジュラスを保持しなければならない上に、ガラス転移温度、以前の貯蔵モジュラスの変化量も一定レベル以下に設計する必要がある。また、ガラス転移温度は、後工程に影響を与えない程度に高くなければならず、前記範囲内のKEL値を有することが重要である。
【0019】
前記ポリチオール化合物は、多数の硫黄を含むことができ、2官能以上、または2官能以上4官能以下のポリチオール化合物であり得る。前記ポリチオール化合物は、200g/mol~3000g/mol、または220g/mol~2000g/molの重量平均分子量を有し得る。前記範囲内であると、架橋点間の分子量、すなわち、架橋密度を必要な範囲内で調節することができ、レンズキャスティングの際、適切なレベルの粘度を有するようになって作業性が容易になるので、レンズ製造時の歩留まりを向上させ得る。
【0020】
前記ポリチオール化合物は、公知の方法により調製することができ、市販のものを購入して使用し得る。
【0021】
前記ポリチオール化合物は、1,9-ジメルカプト-3,7-ジチアノナン(1,9-dimercapto-3,7-dithianonane)、1,13-ジメルカプト-3,7,11-トリチアトリデカン(1,13-dimercapto-3,7,11-trithiatridecane)、グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)(glycol di(3-mercaptopropionate))、1,4-ジチアン-2,5-ジイルメタンチオール(1,4-dithiane-2,5-diyldimethanethiol)、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン(4-mercaptomethyl-1,8-dimercapto-3,6-dithiaoctane)、2-メルカプトメチル-1,5-ジメルカプト-3-チアペンタン(2-mercaptomethyl-1,5-dimercapto-3-thiapentane)、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)(trimethylolpropane tri(3-mercaptopropionate))、4,8-ジ(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン(4,8-di(mercaptomethyl)-1,11-dimercapto-3,6,9-trithiaundecane)、5,9-ジ(メルカプトエチル)-1,12-ジメルカプト-3,7,10-トリチアドデカン(5、9-di(mercaptoethyl)-1,12-dimercapto-3,7,10-trithiadodecane)、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)(pentaerythritol tetra(3-mercaptopropionate))、ペンタエリトリトールテトラ(メルカプトアセテート)(pentaerythritol tetra(mercaptoacetate))、
(x、y、zは、それぞれ独立して1~10の整数であり、x+y+z=20)からなる群より選択される1種以上であり得る。
【0022】
具体的に、前記ポリチオール化合物は、グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ジチアン-2,5-ジイルメタンチオール、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3、6-ジチアオクタン、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)、4,8-ジ(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,9-ジ(メルカプトエチル)-1,12-ジメルカプト-3,7,10-トリチアドデカン、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラ(メルカプトアセテート)、および
(x、y、zは、それぞれ独立して1~10の整数であり、x+y+z=20)からなる群より選択される1種以上であり得る。
【0023】
より具体的に、前記ポリチオール化合物は、エステル基(ester group)の含有有無および分子量により、第1および第2ポリチオール化合物に分けられる。具体的に、第1ポリチオール化合物は、前記第2ポリチオール化合物とは異なるポリチオール化合物であり得、200g/mol~1500g/mol、または220g/mol~1400g/molの重量平均分子量を有し得る。前記第2ポリチオール化合物は、末端にエステル基を有しながら、400g/mol以上、400g/mol~3000g/mol、または400g/mol~2000g/molの重量平均分子量を有し得る。
【0024】
例えば、第1ポリチオール化合物は、グリコールジ(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ジチアン-2,5-ジイルメタンチオール、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトプロピオネート)、4,8-ジ(メルカプトメチル)-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、および5,9-ジ(メルカプトエチル)-1,12-ジメルカプト-3,7,10-トリチアドデカンからなる群より選択される1種以上であり得る。さらに、第2ポリチオール化合物は、ペンタエリトリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラ(メルカプトアセテート)、および
(x、y、zは、それぞれ独立して1~10の整数であり、x+y+z=20)からなる群より選択される1種以上であり得る。
【0025】
前記ポリチオール化合物の総重量を基準に、前記第1ポリチオール化合物は、45重量部~70重量部、または50重量部~70重量部の量で含まれ得、前記第2ポリチオール化合物は、50重量部~75重量部、または55重量部~75重量部の量で含まれ得る。前記含有量の範囲内のとき、より透明なレンズの製造が可能であり、耐熱性および耐衝撃性の点でより有利である。
【0026】
前記イソシアネート化合物は、2官能以上、または2官能以上4官能以下のイソシアネート化合物であり得る。前記イソシアネート化合物は、150g/mol~510g/mol、160g/mol~505g/molまたは160g/mol~500g/molの重量平均分子量を有し得る。前記範囲内のとき、架橋密度および粘度を適正レベルに調整して、レンズ製造の歩留まりを向上させ得る。
【0027】
前記イソシアネート化合物は、イソホロンジイソシアネート(isophorone diisocyanate)、1,6-ジイソシアナトヘキサン(1,6-diisocyanatohexane)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,3-bis(isocyanatomethyl)cyclohexane)、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(bis(4-isocyanatocyclohexyl)methane)、m-キシレンジイソシアネート(m-xylene diisocyanate)、および1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキシル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン(2,4,6-tris(6-isocyanatohexyl)-1,3,5-triazinane-2,4,6-trione)からなる群より選択される1種以上であり得る。
【0028】
具体的に、前記イソシアネート化合物は、1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、m-キシレンジイソシアネート、および1,3,5-トリス(6-イソシアナトヘキシル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオンからなる群より選択される1種以上であり得る。
【0029】
一実施例によると、前記ポリチオール化合物は2官能以上4官能以下であり、200g/mol~3000g/mol、または220g/mol~2000g/molの重量平均分子量を有し、前記イソシアネート化合物は、2官能以上4官能以下であり、150g/mol~510g/mol、160g/mol~505g/molまたは160g/mol~500g/molの重量平均分子量を有し得る。
【0030】
一実施例によると、前記ポリチオール化合物は2官能以上4官能以下であり、200g/mol~1500g/mol、または220g/mol~1400g/molの重量平均分子量を有し、前記イソシアネート化合物は2官能以上4官能以下であり、150g/mol~510g/mol、160g/mol~505g/mol、または160g/mol~500g/molの重量平均分子量を有し得る。
【0031】
一実施例によると、前記ポリチオール化合物は末端にエステル基を有し、400g/mol以上、400g/mol~3000g/mol、または400g/mol~2000g/molの重量平均分子量を有する2官能以上4官能以下の第2ポリチオール化合物、および前記第2ポリチオール化合物と異なり、200g/mol~1500g/mol、または220g/mol~1400g/molの重量平均分子量を有する2官能以上4官能以下の第1ポリチオール化合物であり得、前記イソシアネート化合物は2官能以上4官能以下であり、150g/mol~510g/mol、160g/mol~505g/mol、または160g/mol~500g/molの重量平均分子量を有するものであり得る。
【0032】
前記重合性組成物は、ポリチオール化合物およびイソシアネート化合物を20:80~80:20の重量比で含み得る。さらに、前記重合性組成物は、(NCO)/(OH+SH)当量比(官能基のモル比)が、0.8~1.2、0.9~1.1、または1~1.1であり得る。前記範囲内であるとき、硬化物の数値安定性を確保することができ、反応速度を制御して外観不良を抑制することができ、適切な硬化密度を保持して耐熱性および強度を向上させ得る。
【0033】
前記重合性組成物は、目的に応じて、内部離型剤、熱安定剤、反応触媒、紫外線吸収剤、ブルーイング剤(bluing agent)などの添加剤をさらに含み得る。
【0034】
前記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、シアノアクリレート系、オキサニリド系などが1種以上使用され得る。
【0035】
前記内部離型剤としては、パーフルオロアルキル基、ヒドロキシアルキル基、またはリン酸エステル基を有するフッ素系非イオン界面活性剤と、ジメチルポリシロキサン基、ヒドロキシアルキル基、またはリン酸エステル基を有するシリコーン系非イオン界面活性剤と、トリメチルセチルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩、ジメチルエチルセチルアンモニウム塩、トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジエチルシクロヘキシルデシルアンモニウム塩などのアルキル系第4級アンモニウム塩と、酸性リン酸エステルとの中から選択された成分が、単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用され得る。
【0036】
前記反応触媒としては、ポリチオウレタン系樹脂の調製に使用される公知の反応触媒を適宜添加し得る。例えば、ジブチルスズジクロリド、ジメチルスズジクロリドなどのジアルキルスズハロゲン化物と、ジメチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタノエート、ジブチルスズジラウレートなどのジアルキルスズジカルボン酸と、ジブチルスズジブトキシド、ジオクチルスズジブトキシドなどのジアルキルスズジアルコキシドと、ジブチルスズジ(チオブトキシド)などのジアルキルスズジ(チオアルコキシド)と、ジ(2-エチルヘキシル)スズオキシド、ジオクチルスズオキサイド、ビス(ブトキシブチルスズ)オキシドなどのジアルキルスズ酸化物と、ジブチルスズスルフィドなどのジアルキルスズ硫化物とからなる群より1種以上選択され得る。具体的に、ジブチルスズジクロリド、ジメチルスズジクロリドなどのジアルキルスズハロゲン化物からなる群より1種以上選択され得る。
【0037】
前記熱安定剤としては、金属脂肪酸塩系、リン系、鉛系、有機スズ系などが1種以上使用され得る。
【0038】
前記ブルーイング剤は、可視光領域の中でオレンジ色から黄色までの波長域に吸収帯を有し、樹脂からなる光学材料の色相を調整する機能を有する。前記ブルーイング剤は、具体的に、青色から紫色を示す物質を含み得るが、特に限定されるものではない。また、前記ブルーイング剤の例としては、染料、蛍光増白剤、蛍光顔料、無機顔料などが挙げられるが、製造される光学部品に求められる物性や樹脂色などに合わせて適宜選択され得る。前記ブルーイング剤は、それぞれ単独または2種以上の組み合わせを使用し得る。重合性組成物に対する溶解性および得られる光学材料の透明性の観点から、前記ブルーイング剤として染料が好ましい。吸収波長の観点から、前記染料は具体的に極大吸収波長520nm~600nmの染料であり得、より具体的に、極大吸収波長540nm~580nmの染料であり得る。また、化合物の構造の観点から、前記染料としてはアントラキノン系染料が好ましい。ブルーイング剤の添加方法は特に限定されず、予めモノマー系に添加し得る。具体的に、前記ブルーイング剤の添加方法は、モノマーに溶解しておく方法、または高濃度のブルーイング剤を含有するマスター溶液を調製しておき、前記マスター溶液を使用するモノマーや他の添加剤で希釈して添加する方法など、様々な方法を使用し得る。
【0039】
実施例は、前述のような重合性組成物をモールドで加熱硬化させ、ポリチオウレタン系プラスチックレンズを製造することができる。
【0040】
具体的に、前記重合性組成物を減圧下で脱気(degassing)した後、レンズ成形用モールドにろ過してから注入する。このような脱気およびモールド注入は、例えば、10℃~40℃の温度範囲で10分~60分間行われ得る。モールドに注入した後は、通常、低温から高温へと徐々に加熱して重合を行う。前記重合反応の温度は、例えば10℃~150℃であり得、具体的に25℃~120℃であり得る。
【0041】
前記ろ過された重合性組成物は、粘着テープによって組み立てられたガラスモールドに窒素圧力を利用して注入することができる。前記組成物が注入されたガラスモールドは、強制循環式オーブンにて段階的に温度を昇温させることにより重合され得る。具体的に、25℃から120℃まで5℃/分の速度で昇温させ、120℃にて18時間重合させた後、130℃にて4時間さらに硬化し、ガラスモールドから離型させて、プラスチックレンズを得ることができる。
【0042】
ポリチオウレタン系プラスチックレンズは、製造時に使用するモールドを変えることにより、様々な形状に製造され得る。具体的に、眼鏡レンズ、カメラレンズ等の形状であり得る。具体的に、前記方法によって製造された眼鏡レンズは、ユーザーの好みに応じて中心厚を多様に製造することができる。
【0043】
前記重合反応において、前記ポリチオール化合物とイソシアネート化合物との反応モル比は、0.5~1.2:1、または0.5~1.1:1であり得る。
【0044】
前記ポリチオウレタン系プラスチックレンズは、必要に応じて反射防止、高硬度付与、耐摩耗性の向上、耐薬品性の向上、防曇性(anti-fogging)付与、またはファッション性付与のために、表面研磨、帯電防止処理、ハードコート処理、無反射コート処理、染色処理、調光処理などの物理的、化学的処理を施して改良することができる。
【0045】
このように、実施例は、ポリチオウレタン系プラスチックレンズ重合の際、ポリチオール化合物およびイソシアネート化合物の種類、含有量などを調整して、常温および高温における貯蔵モジュラス並びにこれらの変化量、これらから得られたエネルギー減衰(KEL)値、およびガラス転移温度を制御することにより、耐衝撃性および耐熱性が向上されたポリチオウレタン系プラスチックレンズを製造することができる。
【0046】
(実施例)
以下、下記実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するためのものであるのみ、本発明の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
【0047】
下記実施例で使用したポリチオール化合物およびイソシアネート化合物は、下記表1および2の化合物を使用した。
【0048】
【0049】
【0050】
(参考例1:プラスチックレンズの製造)
[重合性組成物の調製]
ポリチオール化合物として、第1ポリチオール化合物(ポリチオール化合物2番)56重量部と、第2ポリチオール化合物(ポリチオール化合物9番)56重量部とを混合した後、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(イソシアネート化合物2番)109.8重量部を添加して均一に混合した。これに、重合触媒としてジブチルスズジクロリド0.01重量部、内部離型剤としてZelec(登録商標)UNを0.1重量部、および紫外線安定剤Seesorb(登録商標)709を0.2重量部で添加し、均一に混合して重合性組成物を調製した。
【0051】
[プラスチックレンズの製造]
前記重合性組成物を600Paで1時間脱気した後、3μmのテフロンフィルターでろ過した。ろ過された重合性組成物を、テープで組み立てられたガラスモールドに注入した。前記モールドを25℃から120℃まで5℃/分の速度で昇温させ、120℃にて18時間重合させた。その後、ガラスモールドで硬化された樹脂を130℃にて4時間さらに硬化した後、ガラスモールドから成形体(プラスチックレンズ)を離型させた。
【0052】
(実施例2~5および比較例1~3)
下記表3に記載のように、ポリチオール化合物およびイソシアネート化合物の種類および/または重量比を変化させたことを除いては、参考例1の方法と同様に行ってプラスチックレンズを製造した。
【0053】
【0054】
(実験例:物性確認)
前記調製された重合性組成物を対象に、下記記載の通りにして物性を測定し、測定結果を下記表4に示した。
【0055】
(1)貯蔵モジュラスおよびKEL
参考例1、実施例2~5および比較例1~3で製造されたプラスチックレンズについて、動的機械分析装置(DMA-Q800)を使用して、4℃/分、1Hzで動的機械熱分析(Dynamic Mechanical Thermal Analysis)を行い、25℃における貯蔵モジュラス(E'(@25℃))と、70℃における貯蔵モジュラス(E'(@70℃))およびtanδと得た。前記結果値について、常温(25℃)での貯蔵モジュラス/70℃における貯蔵モジュラスの比(E'(@25℃)/E'(@70℃))と、下記数学式1による常温(25℃)におけるエネルギー減衰(KEL)を計算した。
【0056】
[数1]
KEL(エネルギー減衰)=tanδ×1012/[E'(@25℃)×(1+(tanδ)2)]
【0057】
(2)ガラス転移温度(Tg、℃)
参考例1、実施例2~5および比較例1~3で製造されたプラスチックレンズについて、TMA-Q400(TA Instruments社)を用いて、ペネトレーション法(50g荷重、ピン先0.5mmΦ、昇温速度10℃/分)でガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0058】
(3)耐衝撃性
参考例1、実施例2~5および比較例1~3で製造されたプラスチックレンズを固定させた後、127cmの高さから16gの鉄球(steel ball)を落下させて、レンズの割れ、亀裂などの破損有無を観察した。レンズ面のひび割れや、レンズが割れる場合はFail、割れずに表面状態が良好であればPassと評価した。
【0059】
(4)耐熱変形
参考例1、実施例2~5および比較例1~3で製造された成形体を、ISO75に基づく基準数値(長さ×幅×厚さ=80mm×10mm×4mm)でそれぞれ5個作製し、熱変形試験機(HDT:Heat Deflection Temperature、HD-PC、安田精機製作所)を用いて、平均90℃以上にて変形が起こるサンプルはPass、平均90℃以下にて変形が起こるサンプルはFailと評価した。
【0060】
【0061】
前記表4から分かるように、参考例1、実施例2~5で製造されたポリチオウレタン系プラスチックレンズのほとんどは、比較例1~3で製造されたポリチオウレタン系プラスチックレンズよりも常温(25℃)における貯蔵モジュラス、および常温(25℃)での貯蔵モジュラス/70℃における貯蔵モジュラスの比が低く測定されており、これらから得られたKEL値もやはり著しく低い数値で表れた。また、参考例1、実施例2~5のレンズは、比較例1~3のレンズに比べて、ガラス転移温度が高く表れた。さらに、参考例1、実施例2~5のレンズは耐衝撃性および耐熱変形の面においてもすべて優れた結果を示したが、比較例1~3のレンズは、耐衝撃性は優れているものの、耐熱変形面において低調な結果を示した。