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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】乗員拘束装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/26 20110101AFI20220324BHJP
   B60R 21/239 20060101ALI20220324BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20220324BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B60R21/26
B60R21/239
B60R21/207
B60N2/427
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553209
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2019040532
(87)【国際公開番号】W WO2020080374
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2018194381
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】松下 徹也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 博之
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-029182(JP,A)
【文献】特開2014-121924(JP,A)
【文献】特開2014-012495(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039160(WO,A1)
【文献】特開2013-220714(JP,A)
【文献】特開2014-034356(JP,A)
【文献】米国特許第6029993(US,A)
【文献】特開2009-241643(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、
前記座席のシートバック内に収納されていて該座席に着座した乗員の側方に膨張展開するエアバッグと、
前記収納されているエアバッグの前記乗員とは反対側を通って前記座席のシートバック内から前記シートクッション内にわたって収納されている張力布と、
前記シートバックのリクライニング角度を検知する角度検知手段と、
前記リクライニング角度に応じて前記エアバッグの膨張展開時の内圧を制御する内圧制御手段とを備え、
前記張力布は、前記エアバッグの膨張展開によって前記座席の表皮を開裂することにより該座席の側部に展開し、前記シートバックから前記シートクッションまで張り渡されて該エアバッグの前記乗員とは反対側の面を保持し、
前記内圧制御手段は、前記エアバッグの膨張展開時に前記シートバックのリクライニング角度が所定角度以上であったら、該エアバッグの内圧を低下させることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項2】
当該乗員拘束装置は、前記エアバッグにガスを供給する第1および第2のインフレータからなるデュアルインフレータを備え、
前記内圧制御手段は、前記デュアルインフレータのうち、前記第2のインフレータのガス噴出タイミングを前記第1のインフレータより遅らせることにより前記エアバッグの内圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項3】
当該乗員拘束装置は、前記エアバッグに形成されてエアバッグ内外を連通するベントホールを備え、
前記内圧制御手段は、前記ベントホールの開閉により前記エアバッグの内圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記内圧制御手段は、前記エアバッグ内に配置され前記ベントホールに接続されたテザーを有し、該テザーを切断することにより前記ベントホールを開状態とすることを特徴とする請求項3に記載の乗員拘束装置。
【請求項5】
前記張力布は、前記座席の表皮を開裂することにより該座席の側部に展開することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項6】
当該乗員拘束装置は、前記座席の側部に配置され前記エアバッグ、前記張力布を収容するケースを備え、
前記張力布は、前記ケースから前記座席の側部に展開することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧で膨張展開して乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば特許文献1の乗員拘束装置では、座席の両側の側部に乗員のすぐ脇へ膨張展開するサイドエアバッグが設けられている。
【0003】
特に特許文献1の乗員拘束装置では、エアバッグの膨張展開時に張力を与えられてエアバッグとシートクッションの両側面との間に広がる張力布を設けている。これにより、張力布によって、乗員から離れる方向、特に左右方向へのエアバッグの移動を規制することができる。したがって、エアバッグによる乗員拘束性能を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/039160号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の座席は、一般にシートクッションに対してシートバックを傾斜させる、すなわちリクライニングさせることが可能である。以下、シートバックをリクライニングさせていない(リクライニングを完全に戻した)状態を通常位置と称し、シートバックをリクライニングさせている状態をリクライニング位置と称する。
【0006】
特許文献1のように張力布を備える構成では、シートバックが通常位置にある場合には、張力布は、シートバックとシートクッションとの間で適切な張力で張りわたされる。このため、張力布は適度な強さでエアバッグを付勢し、エアバッグの内圧は適正な範囲に維持される。これに対し、シートバックがリクライニング位置にある場合、張力布は、シートバックとシートクッションとの間で強く張りわたされた状態となり、張力布の張力が高くなる。このため、張力布によって強く付勢されたエアバッグの内圧が高くなり、乗員への負荷が大きくなってしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、エアバッグの膨張展開時にシートバックがリクライニング位置にある場合において、張力布によって付勢されたエアバッグによる乗員への負荷を大幅に軽減することが可能な乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる乗員拘束装置の代表的な構成は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、座席のシートバック内に収納されていて座席に着座した乗員の側方に膨張展開するエアバッグと、収納されているエアバッグの前記乗員とは反対側を通って座席のシートバック内からシートクッション内にわたって収納されている張力布と、シートバックのリクライニング角度を検知する角度検知手段と、リクライニング角度に応じてエアバッグの膨張展開時の内圧を制御する内圧制御手段とを備え、張力布は、エアバッグの膨張展開によって座席の側部に展開し、シートバックからシートクッションまで張り渡されてエアバッグの乗員とは反対側の面を保持し、内圧制御手段は、エアバッグの膨張展開時にシートバックのリクライニング角度が所定角度以上であったら、エアバッグの内圧を低下させることを特徴とする。
【0009】
上記の所定角度は、車両の形や剛性などの車両本体の諸元、および、NCAPなどの自動車安全性能評価試験等に基づいて、各車両ごとに求められる仕様・性能などから、車両ごとに定められる。この所定角度とは、たとえば、エアバッグの膨張展開時に、張力布によってエアバッグ内圧が大きくなり、乗員への負荷が大きくなって乗員へのダメージの影響を無視できなくなるような角度である。これは影響の程度によって多段階であってもよい。所定角度以上とは、上記の決められた角度から更にシートバックを倒していった状態を示す。そして、シートバックがシート前方に向けて押され、乗員をホールド可能な状態で、シートバックが最も立ち上がったときのシートバック傾斜角度を0°とし、そこから、シート後方に倒していった時の角度を正方向(プラス方向の正数の値)に見ることとしている。従ってシートバックを最も倒したときの傾斜角度が最も大きな数値となる。
【0010】
上記構成によれば、エアバッグの膨張展開時にシートバックのリクライニング角度が所定角度以上であったら、内圧制御手段はエアバッグの内圧を低下させる。これにより、張力布によるエアバッグの過剰な付勢を抑制し、エアバッグの拘束力を適正な範囲に調整することができる。したがって、エアバッグによる乗員への負荷を大幅に軽減することができる。
【0011】
当該乗員拘束装置は、エアバッグにガスを供給する第1および第2のインフレータからなるデュアルインフレータを備え、内圧制御手段は、デュアルインフレータのうち、第2のインフレータのガス噴出タイミングを第1のインフレータより遅らせることによりエアバッグの内圧を制御するとよい。かかる構成によれば、デュアルインフレータの第1および第2のインフレータのガス噴出タイミングを同一とした場合に比してエアバッグの内圧が低下する。したがって、上述した効果が良好に得られる。
【0012】
当該乗員拘束装置は、エアバッグに形成されてエアバッグ内外を連通するベントホールを備え、内圧制御手段は、ベントホールの開閉によりエアバッグの内圧を制御するとよい。これにより、シートバックが通常位置の場合にはベントホールを閉状態とし、シートバックがリクライニング位置の場合にはベントホールを開状態とすることで、エアバッグの内圧を好適に調整することが可能となる。
【0013】
上記内圧制御手段は、エアバッグ内に配置されベントホールに接続されたテザーを有し、テザーを切断することによりベントホールを開状態とするとよい。これにより、テザーを切断することでベントホールを確実に開状態とすることが可能となる。
【0014】
上記張力布は、座席の表皮を開裂することにより座席の側部に展開するとよい。当該乗員拘束装置は、座席の側部に配置されエアバッグ、張力布を収容するケースを備え、張力布は、ケースから座席の側部に展開するとよい。いずれの構成によっても、上述した効果を良好に得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エアバッグの膨張展開時にシートバックがリクライニング位置にある場合において、張力布によって付勢されたエアバッグによる乗員への負荷を大幅に軽減することが可能な乗員拘束装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施例にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図2図1の座席に着座した乗員Pを側方から観察した状態を例示する図である。
図3図1の第1実施例をより詳細に示す図である。
図4図3のデュアルインフレータの他のバリエーションを例示する図である。
図5図3の内圧制御手段によるデュアルインフレータ制御時のエアバッグの内圧カーブを例示する図である。
図6図1のシートバックのリクライニング姿勢を例示する図である。
図7図6の各リクライニング姿勢における内圧制御手段によるデュアルインフレータの制御時のエアバッグの内圧カーブを例示する図である。
図8】本発明の第2の実施例にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図9】本発明の第3の実施例にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図10】本実施形態の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
なお、本実施形態においては、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称する。また乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称する。更に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称する。そして、以下の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した乗員を基準とした前後左右上下方向を、Fr、Rr、L、R、Up、Downと示す。
【0019】
(乗員拘束装置)
図1は、本発明の第1の実施例にかかる乗員拘束装置100を例示する図である。理解を容易にするために、図1では、座席110の内部に収納されている部材を仮想線にて示している。また図1では、エアバッグ120a・120bが非膨張展開時の座席110を例示している。
【0020】
本実施例の乗員拘束装置100は、座席110に着座した乗員を拘束するための装置である。座席110は、乗員の上半身を支持するシートバック112を備える。シートバック112の下方には乗員が着座するシートクッション114が設けられている。シートバック112の上方には乗員の頭部を支持するヘッドレスト116が設けられている。
【0021】
図1に例示するように、本実施例の乗員拘束装置100は、一対のエアバッグ120a・120b、一対の張力布130a・130b、角度検知手段140および内圧制御手段150を備える。エアバッグ120a・120b(サイドエアバッグ)は、図1に例示するように座席110のシートバック112の左右両側の内部にそれぞれ収納されている。エアバッグ120a・120bは、車両の衝突時等に、座席110に着座した乗員の両側方にそれぞれ膨張展開する。
【0022】
図2は、図1の座席110に着座した乗員Pを側方から観察した状態を例示する図である。図2(a)は、シートバック112が通常位置(リクライニングを全くしていない、すなわちリクライニングを完全に戻した位置)にある場合を例示していて、図2(b)は、シートバック112がリクライニング位置にある場合を例示している。なお、左側のエアバッグ120aおよび張力布130a、ならびに右側のエアバッグ120bおよび張力布130bは左右対称な構成であるため、図2では、左側のエアバッグ120aおよび張力布130aを例示して説明する。
【0023】
図1に例示するように、本実施例の乗員拘束装置100では、エアバッグ120a・120bそれぞれに対して一対の張力布130a・130bが設けられている。張力布130a・130bは、収納されている一対のエアバッグ120a・120bそれぞれの乗員とは反対側を通って座席110のシートバック112内からシートクッション114内にわたって収納されている。
【0024】
図2(a)および(b)に例示するように、エアバッグ120aが膨張展開すると、張力布130aは、座席110の表皮を開裂することにより座席110の側部に展開する。これにより、張力布130aがシートバック112からシートクッション114まで張り渡され、エアバッグ120aの乗員Pとは反対側の面が張力布130aによって保持される。そして、エアバッグ120aが張力布130aによって乗員Pに対して付勢されることにより、エアバッグ120aの乗員拘束性能を高めることが可能となる。
【0025】
図1に例示する角度検知手段140は、シートバック112のリクライニング角度を検知する。具体的には、図2(a)に例示するように、シートバック112がリクライニングしていない通常位置では、シートバック112のリクライニング角度θは0である。図2(b)に例示するように、シートバック112がシートクッション114に対して傾斜しているリクライニング位置では、シートバック112のリクライニング角度θは所定角度となる。
【0026】
図2(a)に例示するように、シートバック112が通常位置にある場合には、張力布130aは、シートバック112とシートクッション114との間で適切な張力で張りわたされる。したがって、張力布130aは適度な強さでエアバッグ120aを付勢し、エアバッグ120aの内圧は適正な範囲に維持される。
【0027】
図2(b)に例示するように、シートバック112がリクライニング位置にある場合、張力布130aは、シートバック112とシートクッション114との間で強く張りわたされた状態となる。すると、張力布130aの張力が高くなるため、張力布130aによって強く付勢されたエアバッグ120aの内圧が高くなる。このため、エアバッグ120aによる拘束時の乗員Pへの負荷が大きくなってしまう可能性がある。
【0028】
そこで本実施例の乗員拘束装置100では、リクライニング角度θに応じてエアバッグ120a・120bの膨張展開時の内圧を制御する内圧制御手段150を設けている。内圧制御手段150は、エアバッグ120a・120bの膨張展開時にシートバック112のリクライニング角度θが所定角度以上であったら、エアバッグ120a・120bの内圧を低下させる。
【0029】
上記構成によれば、エアバッグ120a・120bの膨張展開時にシートクッション114に対してシートバック112が所定角度以上傾斜していたら、内圧制御手段150はエアバッグ120a・120bの内圧を低下させる。これにより、エアバッグ120a・120bの拘束力を適正な範囲に調整することができ、エアバッグ120a・120bによる乗員Pへの負荷を大幅に軽減することができる。
【0030】
上述した角度検知手段140の1つとしては、エンコーダ等の回転角センサを例示することができる。回転角センサを座席110のリクライナ(不図示)の回転部に取り付けることにより、シートバック112のリクライニング角度を検知することができる。
【0031】
また角度検知手段140の他の例としては、加速度センサがあげられる。加速度センサをシートバック112に取り付け、シートバック112の移動距離を計測する。そして、計測した移動距離を角度に変換することにより、シートバック112の回転角を検知することができる。なお、加速度センサは、シートバック112の上部に取り付けることが好ましい。これにより、シートバック112の移動距離ひいてはリクライニング角度を正確に検知することが可能となる。
【0032】
更に角度検知手段140の他の例としては、ジャイロセンサがあげられる。ジャイロセンサをシートバック112に取り付け、三次元での角速度および加速度を計測する。そして、それらを角度に変換することにより、シートバック112のリクライニング角度を検知することができる。なお、ジャイロセンサは、座席110の水平回転状態(後向きや横向き)の検知にも好適に用いることが可能である。
【0033】
(内圧制御手段によるエアバッグの内圧制御)
以下、図面を用いて、内圧制御手段150によるエアバッグ120a・120bの内圧制御の実施例について説明する。図3は、図1の第1実施例をより詳細に示す図である。図3(a)は、座席110におけるデュアルインフレータ160の配置を例示する図である。図3(b)および(c)は、デュアルインフレータのバリエーションを例示する図である。
【0034】
図3(a)に例示するように、第1実施例では、乗員拘束装置100に、エアバッグ120a・120bにガスを供給する第1のインフレータ162および第2のインフレータ164からなるデュアルインフレータ160が設けられている。デュアルインフレータ160は、エアバッグ120a・120bに隣接して配置される。第1のインフレータ162は、緊急時に先に点火され、第2のインフレータ164は、第1のインフレータ162の点火から遅延して点火される。
【0035】
図3(b)に例示するデュアルインフレータ160aは、1本の円筒状の部材からなる。第1のインフレータ162aと第2のインフレータ164aとは仕切られていて、それらの間にはガス噴出孔166aが形成されている。第1のインフレータ162aと第2のインフレータ164aには、それぞれガス発生剤が充填されていて、それぞれに点火器(図示省略)が接続されている。
【0036】
そして、第1のインフレータ162aの点火器によって第1のインフレータ162aに充填されたガス発生剤が点火される。これにより、第1のインフレータ162aに充填されたガス発生剤がガスとなってガス噴出孔166aから噴出される。その後、遅延して第2のインフレータ164aの点火器によって第2のインフレータ164aに充填されたガス発生剤が点火される。これにより、第2のインフレータ164aに充填されたガス発生剤がガスとなってガス噴出孔166aから噴出される。
【0037】
図3(c)に例示するデュアルインフレータ160bでは、第1のインフレータ162bおよび第2のインフレータ164bは、それぞれ別の円筒状の部材からなる。すなわち図3(c)のデュアルインフレータ160bは、2本の円筒状の部材を備える。第1のインフレータ162bおよび第2のインフレータに164bは、それぞれガス発生剤が充填されていて、それぞれに点火器(図示省略)が接続されている。
【0038】
図3(c)に例示するデュアルインフレータ160bにおいても、第1のインフレータ162bのガス発生剤が先に点火され、ガス噴出孔166cからガスが噴出される。その後、第2のインフレータ164bのガス発生剤が遅延して点火され、ガス噴出孔166bから噴出される。これにより、デュアルインフレータ160bにおいても、ガスが2段階でエアバッグ120a・120bに供給される。
【0039】
図4は、図3のデュアルインフレータの他のバリエーションを例示する図である。図4に例示するデュアルインフレータ160cは、座席110のシートバック112の内部に配置され、内部に第1のインフレータ162cおよび第2のインフレータ164cを備える。第1のインフレータ162cおよび第2のインフレータ164cは互いに区画されていて、それぞれにガス発生剤や充填され、それぞれに点火器(図示省略)が接続されている。エアバッグ120a・120bの近傍には、エアバッグ120a・120bに対してガスを供給するガス供給管168a・168bが設けられている。ガス供給管168a・168bとデュアルインフレータ160cとは連結管169a・169bによって連結されている。
【0040】
図4のデュアルインフレータ160cでは、まず第1のインフレータ162cのガス発生剤が先に点火される。ガスは、連結管169a・169bを通ってガス供給管168a・168bに供給され、ガス供給管168a・168bを介してエアバッグ120a・120bに供給される。その後、第2のインフレータ164cのガス発生剤が遅延して点火される。ガスは、連結管169a・169bを通ってガス供給管168a・168bに供給され、ガス供給管168a・168bを介してエアバッグ120a・120bに供給される。このような構成によっても、ガスが2段階でエアバッグ120a・120bに供給される。
【0041】
図5は、図3の内圧制御手段150によるデュアルインフレータ160制御時のエアバッグの内圧カーブを例示する図である。図5(a)では、シートバック112のリクライニング角度θが「0<θ<α」のときのエアバッグの内圧カーブ、およびシートバック112のリクライニング角度θが「α≦θ」のときのエアバッグの内圧カーブを例示している。すなわち図5(a)では、シートバック112のリクライニング角度θの所定角度をαとしている。内圧制御手段150は、エアバッグ120a・120bの膨張展開時にシートバック112のリクライニング角度θが所定角度α以上であったら、デュアルインフレータ160のうち、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを第1のインフレータ162より遅らせることによりエアバッグ120a・120bの内圧を制御する。
【0042】
シートバック112のリクライニング角度θが「0<θ<α」の場合には、内圧制御手段150は、デュアルインフレータ160の第1のインフレータ162および第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを同一とする。一方、シートバック112のリクライニング角度θが「α≦θ」の場合には、内圧制御手段150は、デュアルインフレータ160の第1のインフレータ162および第2のインフレータ164のうち、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを遅らせる(例えば100msec)。
【0043】
シートバック112のリクライニング角度θが「α≦θ」のときのデュアルインフレータ160のタンク圧力は、リクライニング角度θが「0<θ<α」のときのデュアルインフレータ160のタンク圧力よりも低い。図5(a)を参照して明らかなように、タンク圧力が低いとき、デュアルインフレータ160のタンク(不図示)からガスが供給されるエアバッグ120a・120bの内圧も当然にして低くなる。このことから、デュアルインフレータ160のうち、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを第1のインフレータ162より遅らせることが、エアバッグ120a・120bの内圧の低下、ひいては乗員Pへの負荷の軽減に有効であることが理解できる。
【0044】
図5(b)では、リクライニング角度θを、「0<θ<α」「α≦θ<β」「β≦θ<τ」「τ≦θ」の4つに場合分けした際のエアバッグの内圧カーブを例示している(α<β<τ)。すなわち図5(b)では、シートバック112のリクライニング角度θの所定角度を3つ設定した場合を例示している。乗員への影響の度合いに応じて多段階で制御している。
【0045】
リクライニング角度が「0<θ<α」のときは、第1のインフレータ162と第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを同時としている。リクライニング角度が「α≦θ<β」のときは、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを30msec遅らせている。リクライニング角度が「β≦θ<τ」のときは、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを50msec遅らせている。リクライニング角度θが「τ≦θ」のときは、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングを100msec遅らせている。上記のガス噴出タイミングは,インフレータの特性や拘束システムの仕様に応じて任意に決めることができる。
【0046】
図5(b)を参照して明らかなように、エアバッグ内部の圧力は、第2のインフレータ164のガス噴出タイミングが遅くなるにしたがって低くなる。このことから、リクライニング角度θにおいて複数の所定角度(閾値)を設定し、所定角度間ごとにエアバッグ120a・120bの内圧を調整可能であることが理解できる。
【0047】
図6は、図1のシートバック112のリクライニング姿勢を例示する図であり、図6(a)~(c)は、図1の座席110に着座した乗員Pを側方から観察した状態を例示している。図6(a)に例示する座席110のシートバック112は、リクライニング角度θが0<θ<αであり、ドライビングポジションに位置する。
【0048】
図6(b)に例示する座席110のシートバック112は、リクライニング角度θがα≦θ<βであり、中間状態のリクライニングポジションに位置する。図6(c)に例示する座席110のシートバック112は、リクライニング角度θがβ≦θであり、最大リクライニング角度のポジションに位置する。
【0049】
本願発明における「最大リクライニング角度」とは、ミニバン(ワンボックスカー)などに見受けられれる「フルフラットシート(シートクッションとシートバックとをほぼ水平につないでベッドのようになったシートの配列状態)」と呼ばれるようなシートのリクライニング状態を含まず、車両走行中に、通常の着座状態の乗員に対してシートベルトが所定の機能を果たすことができる最大のシートバックのリクライニング角度を示す。
【0050】
図7は、図6の各リクライニング姿勢における内圧制御手段150によるデュアルインフレータ160の制御時のエアバッグの内圧カーブを例示する図である。図7(a)に例示する系列Aは、第1のインフレータ162と第2のインフレータ164のガス噴出タイミング(点火タイミング)を同時とした場合のエアバッグの内圧カーブである。図7(a)に例示する系列Bは、第1のインフレータ162のみを点火した場合のエアバッグの内圧カーブである。
【0051】
図7(a)に例示する系列Cは、第1のインフレータ162を点火した後に、タイミングT1で第2のインフレータ164を点火した場合のエアバッグの内圧カーブである。図7(a)に例示する系列Dは、第1のインフレータ162を点火した後に、タイミングT2(タイミングT1よりも遅延したタイミング)で第2のインフレータ164を点火した場合のエアバッグの内圧カーブである。
【0052】
第1実施例の乗員拘束装置100では、内圧制御手段150は、角度検知手段140によって検知されたシートバッグ112のリクライニング角度θを参照する。内圧制御手段150は、リクライニング角度θにより、シートバッグ112のリクライニングポジションを判断する。
【0053】
内圧制御手段150は、シートバッグ112が図6(a)に例示するドライビングポジションであると判断した場合には、第1のインフレータ162および第2のインフレータ164を同時に点火する。これにより、図7(a)の系列Aのようにデュアルインフレータ160の出力は最大出力レベルとなり、エアバッグ120a・120bの内圧が最も高くなる。したがって、ドライビングポジションで着座している乗員Pを確実に拘束することができる。
【0054】
内圧制御手段150は、シートバッグ112が図6(c)に例示するような最大リクライニング角度のポジションにあると判断した場合には、第1のインフレータ162のみを点火する。これにより、図7(a)の系列Bのようにデュアルインフレータ160の出力は最低出力レベルとなり、エアバッグ120a・120bの内圧が最も低くなる。したがって、張力布130a・130bがシートバック112からシートクッション114まで張り渡された際のエアバッグ120a・120bの内圧の過度な上昇が抑制される。これにより、この状態で最大リクライニング角度のポジションで着座している乗員Pへの負荷を大幅に軽減することができる。
【0055】
なお、上述したように第1のインフレータ162のみを点火する場合(使用する場合)には、エアバッグ120a・120bの膨張展開が完了して乗員Pを拘束し終わった後(例えば50msec後程度)に、第2のインフレータ164を点火するとよい。
【0056】
内圧制御手段150は、シートバッグ112が図6(b)に例示する中間状態のリクライニングポジション(ドライビングポジションと最大リクライニング角度のポジションとの間)にあると判断した場合には、第1のインフレータ162を先に点火する。その後、内圧制御手段150は、第2のインフレータ164を遅延して点火する。これにより、系列Cおよび系列Dに例示するように、デュアルインフレータ160のエアバッグ内部の圧力は、系列Aと系列Bの間程度となる。このため、エアバッグ120a・120bの内圧を適切な範囲に制御し、中間状態のリクライニングポジションで着座している乗員Pを好適に拘束することが可能となる。
【0057】
特に図7(a)に例示した系列Cでは、第2のインフレータ164をタイミングT1で点火する。系列Dでは、第2のインフレータ164をタイミングT2で点火する。このように、同じ第2のインフレータ164を用いる場合であっても、タイミングを異ならせることにより、デュアルインフレータ160のタンク圧力を変化させることができる。したがって、デュアルインフレータ160の出力をより細かく最適化することが可能となる。
【0058】
図7(b)に例示する系列Eは、第1のインフレータ162として高出力インフレータを用いている。図7(b)に例示する系列Fは、第1のインフレータ162として低出力インフレータを用いている。系列Eおよび系列Fでは、第1のインフレータ162を点火した後に、タイミングT3で第2のインフレータ164を点火している。図7(b)に例示する系列Gは、第1のインフレータ162のみを点火した場合のエアバッグの内圧カーブであり、第1のインフレータ162として、系列Bよりも低出力のインフレータを用いている。
【0059】
また系列Eのように第1のインフレータ162として高出力インフレータを用いると、系列Fのように第1のインフレータ162として低出力インフレータを用いた場合と比して、デュアルインフレータ160のタンク圧力が高くなる。したがって、第2のインフレータ164の点火タイミングを所定タイミングに固定した場合であっても、デュアルインフレータ160のタンク圧力を変化させることができる。これにより、デュアルインフレータ160の出力をより細かく最適化することが可能となる。
【0060】
また系列Bおよび系列Gでは、第1のインフレータ162として出力の異なるインフレータを用いている。これにより、系列Bおよび系列Gを参照してわかるように、第1のインフレータ162のみを点火する場合であっても、インフレータの出力によってエアバッグ内部の圧力をより細かく制御可能であることが理解できる。
【0061】
なお、系列A、系列Eおよび系列Fのように第1のインフレータ162および第2のインフレータ164を点火させる場合において、いずれの系列においても第1のインフレータ162および第2のインフレータ164の合計のガス発生剤の量は同量とするとよい。これにより、第1のインフレータ162および第2のインフレータ164のタイミングを異ならせて点火する場合に、デュアルインフレータ160のタンク圧力を所定タイミングT4において同一とすることが可能となる。
【0062】
図8は、本発明の第2の実施例にかかる乗員拘束装置を例示する図である。図8(a)および(b)では、一対のエアバッグのうち、左側のエアバッグ220aの断面図を例示し、説明に不要な部材については不図示としている。
【0063】
第2実施例では、ベントホール122を用いてエアバッグ220aの内圧を制御する。図8(a)に例示するように、エアバッグ220aには、エアバッグ220a内外を連通するベントホール122が形成されている。ベントホール122にはキャップ170が嵌められていて、キャップ170には開閉手段172が接続されている。開閉手段172は、内圧制御手段150からの信号によって動作する。
【0064】
第2実施例では、内圧制御手段150は、ベントホール122の開閉によりエアバッグ220aの内圧を制御する。詳細には、例えばリクライニング角度θが「0<θ<α」(シートバック112のリクライニング角度θが所定角度α未満)の場合には、内圧制御手段150は開閉手段172への信号を送信しない。これにより、図8(a)に例示するように、ベントホール122はキャップ170によって閉状態が保たれる。したがって、エアバッグ220aでは、乗員Pを拘束するのに適切な内圧が維持される。
【0065】
一方、シートバック112のリクライニング角度θが「α≦θ」(シートバック112のリクライニング角度θが所定角度α以上)の場合には、内圧制御手段150は、開閉手段172への信号を送信する。これにより、図8(b)に例示するように、ベントホール122からキャップ170が外れ、ベントホール122が開状態となる。これにより、エアバッグ220aの過度な内圧の上昇を抑制することができる。したがって、乗員Pへの負荷を抑制することが可能となる。
【0066】
なお、第2実施例では開閉手段172を設ける構成を例示したが、これに限定するものではない。例えば、エアバッグ220aの圧力が所定圧力に達した際にキャップ170がベントホール122から外れる構成としてもよい。かかる構成によれば、エアバッグ220aの内圧は一瞬高まるが、その後にキャップ170が外れることでガスが外部に流出する。したがって、エアバッグ220aの内圧を低下させることができる。
【0067】
図9は、本発明の第3の実施例にかかる乗員拘束装置を例示する図である。図9においても、左側のエアバッグ320aの断面図を例示し、説明に不要な部材については不図示としている。第3実施例では、ベントホール122およびテザー180を用いたエアバッグ320aの内圧制御について説明する。なお、図8に例示する第2実施例と共通する構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0068】
図9(a)に例示するように、ベントホール122は、エアバッグ320aの膨張展開時にはカバー184によって覆われていて、カバー184にはテザー180が接続されている。またテザー180の端部近傍にはテザーカッター182が配置されている。テザーカッター182は内圧制御手段150からの信号によって動作する。
【0069】
第3実施例では、内圧制御手段150は、テザー180を切断することによりベントホール122を開状態とする。詳細には、シートバック112のリクライニング角度θが「0<θ<α」の場合には、内圧制御手段150は、テザーカッター182への信号を送信しない。これにより、図9(a)に例示するように、ベントホール122はカバー184によって閉状態が保たれる。したがって、エアバッグ320aでは、乗員を拘束するのに適切な内圧が維持される。
【0070】
一方、シートバック112のリクライニング角度θが「α≦θ」の場合には、内圧制御手段150は、テザーカッター182への信号を送信する。これにより、図9(b)に示すようにテザーカッター182によってテザー180が切断され、カバー184がベントホール122から外れてベントホール122が開状態となる。
【0071】
その後、図9(c)に示すように、エアバッグ320aのガスがベントホール122から外部に流れることにより、カバー184およびテザー180がエアバッグ320aの外部に押し出された状態となる。かかる構成によれば、エアバッグ320aの過度な内圧の上昇を抑制することができる。したがって、乗員Pへの負荷を抑制することが可能となる。
【0072】
なお、第3実施例では、テザーカッター182を設ける構成を例示したが、これに限定するものではない。例えば、テザー180の中途部に脆弱部を形成し、エアバッグ320aの圧力が所定圧力に達した際にテザー180が脆弱部において破断することでキャップ170がベントホール122から外れる構成としてもよい。かかる構成によれば、エアバッグ320aの内圧は一瞬高まるが、その後にキャップ170が外れることでガスが外部に流出する。したがって、エアバッグ320aの内圧を低下させることができる。
【0073】
図10は、本実施形態の他の例を説明する図である。図10に例示する乗員拘束装置200は、座席110の側部に配置されるケース118a・118bを備える。ケース118aは、エアバッグ120a・120bを収容するケースであり、ケース118bは、張力布130a・130bを収容するケースである。図10に例示する乗員拘束装置200では、エアバッグ120a・120bの膨張展開時に、張力布130a・130bは、ケース118bから座席110の側部に展開する。このような構成によっても、上述した乗員拘束装置100と同様の効果を得ることができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0075】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
100…乗員拘束装置、110…座席、112…シートバック、114…シートクッション、116…ヘッドレスト、118a・118b…ケース、120a、220a、320a…エアバッグ、120b…エアバッグ、122…ベントホール、130a…張力布、130b…張力布、140…角度検知手段、150…内圧制御手段、160・160a・160b・160c…デュアルインフレータ、162・162a・162b・162c…第1のインフレータ、164・164a・164b・164c…第2のインフレータ、166a・166b・166c…ガス噴出孔、168a・168b…ガス供給管、169a・169b…連結管170…キャップ、172…開閉手段、180…テザー、182…テザーカッター、200…乗員拘束装置、P…乗員
図1
図2
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図10