(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】隠しスライドファスナー用スライダー
(51)【国際特許分類】
A44B 19/30 20060101AFI20220324BHJP
【FI】
A44B19/30
(21)【出願番号】P 2020570281
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2019004350
(87)【国際公開番号】W WO2020161848
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】特許業務法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岸 宏次
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-234429(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027340(WO,A1)
【文献】特開2009-145(JP,A)
【文献】特開2018-89450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B19/30ー19/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に対向する一対のテープ(4,4)と一対の当該テープ(4,4)の対向する側縁部のうち下側に折り返された一対のテープ折返し部(4b,4b)に対して下側に固定された一対のエレメント列(5,5)とを案内する胴体(7)、
前記胴体(7)に対する後側への倒伏姿勢によって前記胴体(7)の前後への移動を規制すると共に起立姿勢によって前記胴体(7)の前後への移動を規制解除する引手(9)、
一対の前記エレメント列(5,5)に対して接触することによって前記胴体(7)の前後位置をロックすると共に前記胴体(7)と協働して前記引手(9)の後側への倒伏姿勢と起立姿勢を維持するロック部材(8)を備え、
前記胴体(7)は、下翼板(71)、前記下翼板(71)の前部において対向する上翼板(72)、前記上翼板(72)と前記下翼板(71)とを接合する案内柱(73)、前記下翼板(71)の左右両端部から上方に突出する一対の側板(74,74)、一対の前記側板(74,74)の上端部から左右内側に延びる一対のフランジ(75,75)、前記上翼板(72)から上方に隆起する隆起部(76)を備え、
前記引手(9)は、前記ロック部材(8)に係り合うカム部(91a)を有する軸(91)を備え、
前記胴体(7)と前記ロック部材(8)とは協働して引手取付部(31)を形成し、
前記引手取付部(31)は、前記軸(91)を支持すると共に左右方向に貫通する軸孔(32)を備え、
前記軸孔(32)の下面は、前記隆起部(76)の上面を含むと共に、一対の前記フランジ(75,75)の上面よりも上方に位置し、
後側への倒伏姿勢の前記引手(9)と一対の前記フランジ(75,75)との上下間には、一対の前記テープ(4,4)の上側に固定された一対の生地(6,6)を収容すると共に前記隆起部(76)によって左右に仕切られた一対の生地収容空間部(33,33)が形成されることを特徴とする隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項2】
一対のフランジ(75,75)の上面に対して真上範囲(75R,75R)は、前記引手(9)に対して下側に一対の前記生地収容空間部(33,33)のみを備えることを特徴とする請求項1に記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項3】
前記胴体(7)は、前記一対のフランジ(75,75)と前記上翼板(72)との間にテープ溝(7b)の一対の分岐路(7e,7e)を備え、
一対の前記分岐路(7e,7e)に対して真上範囲(7R,7R)は、前記引手(9)に対して下側に一対の前記生地収容空間部(33,33)のみを備えることを特徴とする請求項2に記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項4】
前記胴体(7)は、前記隆起部(76)から前後に間隔をあけて上方に突出する前取付柱(77)および後取付柱(78)を備え、
前記ロック部材(8)は前記前取付柱(77)と前記後取付柱(78)とに架設されるものであり、
前記引手取付部(31)は前記ロック部材(8)と前記前取付柱(77)と前記後取付柱(78)と前記隆起部(76)との協働によって形成されるものであることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項5】
前記引手(9)は、前記軸(91)の両端部から前記軸(91)を中心とする半径方向に延びる一対の棒部(92,92)、一対の前記棒部(92,92)を前記軸(91)とは反対側で接合する摘まみ部(93)、一対の前記棒部(92,92)から前記軸(91)に対して前記摘まみ部(93)とは反対側にそれぞれ突出する一対の突出部(94,94)を備え、
一対の前記突出部(94,94)は、前記引手(9)の後側への倒伏姿勢の場合に前記前取付柱(77)を挟むものであり、前記引手(9)が左右方向に傾いた場合には前記前取付柱(77)に衝突するものであることを特徴とする請求項4に記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項6】
前記隆起部(76)は、前記軸孔(32)よりも前側において前記前取付柱(77)に対して段差状に張り出す段差部(76a)であって前側への倒伏姿勢となった前記引手(9)に衝突して引手(9)の前側への倒伏姿勢を定める前記段差部(76a)を備えることを特徴とする請求項4又は5に記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項7】
前記カム部(91a)と前記軸孔(32)とは、前記引手(9)の後側への倒伏姿勢の場合に面接触する平面部(91d,32a)をそれぞれ備えることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【請求項8】
前記引手(9)は後側への倒伏姿勢の場合において前記軸孔(32)の前記下面よりも上方に位置することを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の隠しスライドファスナー用スライダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生地の厚み方向の裏面側にスライダーの胴体が隠され、生地の厚み方向の表面側にスライダーの引手が表れる、隠しスライドファスナー用スライダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナー用スライダーには自動停止機能を備えたものが存在する。自動停止機能を備えるスライドファスナー用スライダーは、二種類存在する。
【0003】
そのうちの一種類目は俗にオートマチックスライダーと称されるものである。これは、引手に対する引張り操作の有無によって、一対のエレメント列に対するロック部材の接触および離隔が切り替わるものである。その切り替わりによって胴体の前後方向への移動が規制されたり、規制解除されたりする。より詳しくは、オートマチックスライダーの機能は二つある。第一の機能は、引手から手を離すことによってロック部材が一対のエレメント列に自動的に接触し、その結果、スライダーの前後位置がロックされ、スライダーが移動し難くなるという機能である。第二の機能は、引手を引っ張ることによってロック部材が一対のエレメント列から離隔し、その結果、ロック解除され、スライダーが移動しやすくなるという機能である。
【0004】
また自動停止機能を備えるスライドファスナー用スライダーの二種類目は、俗にセミオートマチックスライダーと称されるものである。これは、胴体に対する引手の姿勢によって、一対のエレメント列に対するロック部材の接触および離隔が切り替わるものである。より詳しくは、セミオートマチックスライダーの機能は、引手に対する引張り操作とは無関係に胴体に対する引手の倒伏姿勢のときにはスライダーの前後位置がロックされ、胴体に対する引手の起立姿勢のときにはロック解除されるものである。
【0005】
特許文献1にはオートマチックスライダーが開示されている。これは、胴体の上面に一対のテープ溝を備えているので、隠しスライドファスナー用スライダーである。より詳しくは以下の通りである。
【0006】
このオートマチックスライダーは、胴体と、胴体の前後位置をロック可能であると共に胴体の上部に対して前後に固定されたロック部材と、胴体とロック部材によって取り付けられると共に前後に回動可能に且つ左右に揺動可能な引手とを備える。
【0007】
胴体の上部は、左右のフランジ、左右のフランジの間に配置された上翼板、上翼板と左右の各フランジと間に形成された一対のテープ溝を備える。一対のテープ溝にはテープが通される。テープは、フランジの下面・上面に対向するように折り曲げられ、上面に対向する部分に生地が固定される。そして一対の生地は胴体の上面の左右側部を覆い隠すようになっている。したがって特許文献1のオートマチックスライダーは隠しスライドファスナー用スライダーである。
【0008】
また胴体とロック部材とは協働して引手取付部を形成している。そして引手取付部はその内側に引手の連結環を通す孔を備えている。この孔の下面はフランジの上面よりも低い構成である。またフランジの上方にはテープを介して生地が配置される。そして引手を引っ張ってスライダーを移動させようとすると、連結環が引き上げられてフランジの上面よりも上方に浮き、一対の生地が引手(連結環)によって損傷しないようにしてある。
【0009】
特許文献2,3にはセミオートマチックスライダーが開示されている。これは、胴体の左右の側面にテープ溝を備えるので、隠しスライドファスナー用スライダーではない。より詳しくは以下の通りである。
【0010】
このセミオートマチックスライダーは、胴体と、軸を中心にして前後に回動可能な引手と、胴体の上部における前部に固定されると共に軸のカム部によって上下に変位するロック部材とを備えるものである。また胴体は、上下に対向する上翼板と下翼板の左右縁部同士の間、つまり左右の側面にテープ溝を備えるものである。そしてテープ溝には一対のテープが通され、一対のテープに対してテープ溝よりも左右外側に一対の生地が固定される。そうすると、一対の生地の間に胴体の上面全部が露出しており、生地によって胴体の上面が全く隠されていないので、特許文献2,3に開示されたセミオートマチックスライダーは、隠しスライドファスナー用スライダーではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許6273371号公報
【文献】特許6125013号公報
【文献】国際公開第2016/092637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述したように特許文献2,3に開示されたスライダーはセミオートマチックスライダーではあるが、隠しスライドファスナー用ではない。また特許文献1に開示されたスライダーは前述したようにオートマチックスライダーであり、セミオートマチックスライダーではない。そこで本発明者はセミオートマチックスライダーの機能(引手に対する引張り操作とは無関係に引手の胴体に対する倒伏姿勢のときにはスライダーの前後位置がロックされ、胴体に対する引手の起立姿勢のときにはロック解除される機能)を保持する隠しスライドファスナー用スライダーの開発に着手した。
【0013】
ちなみに、特許文献1に開示されたスライダーの胴体とロック部材と、特許文献2に開示されたスライダーの引手とを単純に組み合わせて、スライダーを形成した場合を考えてみる。そうすると、この場合のスライダーは隠しスライドファスナー用スライダーにはなるが、引手が一対の生地に常時接触するので、一対の生地が損傷しやすい。つまり特許文献1のスライダーは、引手取付部の孔の下面がフランジの上面よりも低くなっている。そうすると、引手取付部の孔の下面に軸の下面を押し付けようとロック部材が作用するので、軸を含む引手が一対のフランジに接近して一対の生地に接触する。
【0014】
本発明の隠しスライドファスナー用スライダーは上記実情を考慮して創作されたもので、その目的はセミオートマチックスライダーの機能を保持しながらも、一対の生地の損傷をできる限り抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の隠しスライドファスナー用スライダーは、胴体、引手、ロック部材を備える。 胴体は、左右に対向する一対のテープと、一対のエレメント列とを案内する。一対のエレメント列は、一対のテープの対向する側縁部のうち下側に折り返された一対のテープ折返し部に対して下側に固定されたものである。また胴体は、下翼板、下翼板の前部において対向する上翼板、上翼板と下翼板とを接合する案内柱、下翼板の左右両端部から上方に突出する一対の側板、一対の側板の上端部から左右内側に延びる一対のフランジ、上翼板から上方に隆起する隆起部を備える。
引手は、胴体に対する後側への倒伏姿勢によって胴体の前後への移動を規制すると共に起立姿勢によって胴体の前後への移動を規制解除する。また引手はロック部材に係り合うカム部を有する軸を備える。
ロック部材は、一対のエレメント列に対して接触することによって胴体の前後位置をロックすると共に胴体と協働して引手の後側への倒伏姿勢と起立姿勢を維持する。
そして胴体とロック部材とは協働して引手取付部を形成する。引手取付部は、軸を支持すると共に左右に貫通する軸孔を備える。軸孔の下面は、隆起部の上面を含むと共に、一対のフランジの上面よりも上方に位置する。
そのうえで後側への倒伏姿勢の引手と一対のフランジとの上下間には一対の生地収容空間部が形成される。一対の生地収容空間部は、一対のテープの上側に固定された一対の生地を収容すると共に隆起部によって左右に仕切られる。
【0016】
また一対のフランジの上面に対して真上範囲は次のようにすることが望ましい。
すなわち一対のフランジの上面に対して真上範囲は、引手に対して下側に一対の生地収容空間部のみを備えることである。
【0017】
また胴体は次のようにすることが望ましい。
すなわち胴体は、一対のフランジと上翼板との間にテープ溝の一対の分岐路を備えるものとする。そして一対の分岐路に対して真上範囲は、引手に対して下側に一対の生地収容空間部のみを備えることである。
【0018】
また胴体、ロック部材、引手取付部は次のようにすることが望ましい。
すなわち、胴体は、隆起部から前後に間隔をあけて上方に突出する前取付柱および後取付柱を備えるものとする。またロック部材は前取付柱と後取付柱とに架設されるものとする。そして引手取付部はロック部材と前取付柱と後取付柱と隆起部との協働によって形成されるものとする。
【0019】
また詳しく言えば、引手は軸の他に、軸の両端部から軸を中心とする半径方向に延びる一対の棒部、一対の棒部を軸とは反対側で接合する摘まみ部を備えるものである。そして引手は、一対の棒部から軸に対して摘まみとは反対側にそれぞれ突出する突出部を備えるか否かを問わないが、後側への倒伏姿勢の場合に引手の左右方向への傾きをできるだけ小さくするには次のようにすることが望ましい。
すなわち引手は、一対の棒部から軸に対して摘まみ部とは反対側にそれぞれ突出する一対の突出部を備えるものとする。そして一対の突出部は、引手の後側への倒伏姿勢の場合に前取付柱を挟むものであり、引手が左右方向に傾いた場合には前取付柱に衝突するものにする。
【0020】
また引手は前側への倒伏姿勢を保持できるか否かを問わないが、引手による生地の損傷をできるだけ抑えるには次のようにすることが望ましい。
すなわち隆起部は、軸孔よりも前側において前取付柱に対して段差状に張り出す段差部を備えるようにする。そして段差部は前側への倒伏姿勢となった引手に衝突して引手の前側への倒伏姿勢を定める。
【0021】
またカム部と軸孔とは引手の後側への倒伏姿勢の場合に面接触するか否かは問わない。しかしカム部と軸孔以外の部分で引手の後側への倒伏姿勢を維持しようとすると、スライダーが大型化するので望ましくない。したがってスライダーを小型化して一対の生地に対して表側に現れる部分をできるだけ小さくするには次のようにすることが望ましい。
すなわちカム部と軸孔とは引手の後側への倒伏姿勢の場合に面接触する平面部をそれぞれ備えることである。
【0022】
また後側への倒伏姿勢の場合において引手は軸孔の下面よりも下方に位置する部分を含むものであっても良いが、一対の生地収容空間部の上下方向の寸法をできるだけ広くするには次のようにすることが望ましい。
すなわち引手は後側への倒伏姿勢の場合において軸孔の下面よりも上方に位置することである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のスライダーは、上翼板の上に隆起部を備え、軸孔の下面を隆起部によって一対のフランジの上面よりも上方に位置するようにしてあるので、例えば軸孔の下面を一対のフランジの上面よりも下方に位置するスライダーに比べれば、引手が一対の生地に接触し難くなり、一対の生地の損傷を抑えられる。
【0024】
また本発明のスライダーは、一対のフランジの上面に対して真上範囲には、引手に対して下側に一対の生地収容空間部のみを備えるものとした場合には、例えば隆起部が一対のフランジの上面に対して真上範囲に張り出すものと比べれば、引手が一対の生地に接触し難くなり、一対の生地の損傷を抑えられる。
【0025】
また本発明のスライダーは、一対の分岐路に対して真上範囲には、引手に対して下側に一対の生地収容空間部のみを備えるものとした場合には、例えば隆起部が一対の分岐路に対して真上範囲に張り出すものと比べれば、引手が一対の生地に接触し難くなり、一対の生地の損傷を抑えられる。
【0026】
また本発明のスライダーは、引手に一対の突出部を備えるものとした場合には、後側への倒伏姿勢の場合に一対の突出部が前取付柱を挟むので、引手の左右方向への傾きをできるだけ小さくでき、引手の倒伏姿勢が安定したものとなる。
【0027】
また本発明のスライダーは、隆起部に段差部を備えるものとした場合には、引手の前側への倒伏姿勢の場合に一対の生地収容空間部を保持できるので、一対の生地の損傷を抑えることができる。
【0028】
また本発明のスライダーは、カム部と軸孔とが引手の後側への倒伏姿勢の場合に面接触する平面部をそれぞれ備えるものとした場合には、たとえば引手の後側への倒伏姿勢を維持する部分をカム部と軸孔以外の部分に備えるスライダーに比べれば、スライダーを小型化して一対の生地に対して表側に現れる部分をできるだけ小さくできる。
【0029】
また本発明のスライダーは、後側への倒伏姿勢の引手を軸孔の下面よりも上方に位置するものとした場合には、例えば後側への倒伏姿勢の引手を軸孔の下面よりも下方に位置する部分を含むようにしたスライダーに比べれば、一対の生地収容空間部の上下方向の寸法をできるだけ広くすることができ、一対の生地の損傷をより抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第一実施形態の隠しスライドファスナー用スライダーを示す平面図である。
【
図2】第一実施形態の隠しスライドファスナー用スライダーを示す右側面図である。
【
図3】第一実施形態の隠しスライドファスナー用スライダーを示す正面図である。
【
図8】引手の前側への倒伏姿勢を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
隠しスライドファスナー1は
図5に示すように、一対のファスナーストリンガー2,2と、一対のファスナーストリンガー2,2を開閉するスライダー3を備えるものである。
【0032】
一対のファスナーストリンガー2,2は、対向する一対のテープ4,4と、一対のテープ4,4の対向する側縁部に別々に固定された一対のエレメント列5,5とを備えるものである。ちなみに図示の例ではエレメント列5は、モノフィラメントをコイル状に曲げ、そのコイルの一巻分のエレメントが多数連続するものである。
【0033】
また
図5に示す隠しスライドファスナー1は、一対のテープ4,4の対向する側縁部を折り返して、その折返し部分に一対のエレメント列5,5を固定したものである。より詳しく言えば、一対のテープ4,4は長手方向と厚み方向に直交するものである。そして一対のテープ4,4は、表側の一対のテープ本体4a,4aと、一対のテープ本体4a,4aのうち対向する側縁部に対して連続すると共に裏側に折り返された一対のテープ折返し部4b,4bとを備える。そしてテープ折返し部4bの裏面側にエレメント列5が図示しない縫糸によって固定されている。
【0034】
また一対のテープ本体4a,4aの表側には、隠しスライドファスナー1の取付対象である一対の生地6,6がその対向する側縁部を裏側に折り返して図示しない縫糸によって固定されている。より詳しく言えば、一対の生地6,6は、対向する表側の一対の生地本体6a,6aと、一対の生地本体6a,6aのうち対向する側縁部に対して連続すると共に裏側に折り返された一対の生地折返し部6b,6bとを備える。
【0035】
以下では、互いに直交する三本の直線方向を用いて、方向を定める。
第1の直線方向は、一対のファスナーストリンガー2,2を対向させる方向、言い換えれば一対のエレメント列5,5が対向する方向であり、左右方向と言う。ちなみにファスナーストリンガー2(テープ4)は表裏重なるように折り返した帯状であり、その帯幅方向が左右方向である。左右方向とは、
図5の左右方向である。
第2の直線方向は、一対のファスナーストリンガー2,2の長手方向、言い換えればファスナーストリンガー2の延長する方向であり、前後方向と言う。
前方向とは、一対のファスナーストリンガー2,2を閉じるときに(一対のエレメント列5,5を噛合させるときに)スライダー3を移動させる方向である。前方向とは、
図5の紙面に対して直交する方向のうち奥を向く方向である。
後方向とは一対のファスナーストリンガー2を開くときに(一対のエレメント列5,5を分離させるときに)スライダー3を移動させる方向である。後方向とは
図5の紙面に対して直交する方向のうち手前を向く方向である。
第3の直線方向は、ファスナーストリンガー2の厚み方向、言い換えればテープ4の厚み方向であり、上下方向と言う。上方向とは、
図5の上方向である。下方向とは、
図5の下方向である。
【0036】
本発明の第一実施形態のスライダー3は
図1又は
図5に示すように、一対のテープ折返し部4b,4bと一対のエレメント列5,5とを案内する胴体7と、胴体7の一対のエレメント列5,5に対して接触および離隔可能であり且つ接触することによって胴体7の前後位置をロックするロック部材8と、ロック部材8と胴体7とによって前後方向に回動可能なように胴体7に取り付けられる引手9とを備える。
【0037】
引手9は、軸91、軸91の延びる方向に対向すると共に軸91の両端部からその半径方向に延びる一対の棒部92,92、一対の棒部92,92を軸91とは反対側で接合すると共に操作するときに摘まむ摘まみ部93と、一対の棒部92,92から軸91に対して摘まみ部93とは反対側にそれぞれ突出する一対の突出部94,94とを備える。
図8に示すように引手9は回動範囲の前側の限界位置に達したときに胴体7に対して倒伏して安定した姿勢、すなわち前側への倒伏姿勢となり、軸91側に対して摘まみ部93側が上方に位置する傾斜状態になっている。また
図4に示すように引手9は回動範囲の後側への限界位置に達したときに胴体7に対して倒伏して安定した姿勢、すなわち後側への倒伏姿勢となる。また後側への倒伏姿勢の引手9は、前後方向に対して平行な状態である。また
図6,7に示すように引手9は回動範囲の途中で胴体7に対して起立して安定した姿勢、すなわち起立姿勢となる。
【0038】
図4に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合に棒部92と突出部94は軸91の下端91B以上の高さとなっている。また
図2に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合に摘まみ部93の下端93Bは引手9の下端9Bよりも上方に位置する。
また
図8に示すように引手9の前側への倒伏姿勢の場合に棒部92の一部と突出部94の一部は軸91の下端91Bよりも低い高さとなっている。また
図1に示すように一対の棒部92,92と軸91と摘まみ部93とは協働して環状となる。そして環状の内側には貫通穴9aが形成される。
【0039】
軸91は、引手9が回動するときの中心になるもので、左右方向に延びる。軸91はその長手方向(左右方向)の中間部をロック部材8に係り合うカム部91aとするものである。また軸91はカム部91aに対して左右両側の部分を引手9の回動時に後述する引手取付部31の軸孔32に支持される一対の軸本体部91b,91bとしてある。カム部91aは軸91の中心線に対して一定でない外周を有するものである。また
図4に示すようにカム部91aはその外周面には、一対の軸本体部91b,91bの外周面を延長した仮想面に対して軸91の半径方向に凹んだカム凹部91cを備えている。
【0040】
図1~5に示すように胴体7は、下翼板71、下翼板71の前部において下翼板71の幅中央部に対向する上翼板72、上翼板72と下翼板71とを接合すると共に上下方向に延びる案内柱73、下翼板71の左右両端部から上方に突出する一対の側板74,74、一対の側板74,74の上端から左右内側に接近するように延びる一対のフランジ75,75、上翼板72から上方に隆起する隆起部76、隆起部76から前後に間隔をあけて上方に突出する前取付柱77および後取付柱78を備える。なお胴体7のうち下翼板71と上翼板72と案内柱73と一対の側板74,74と一対のフランジ75,75とを備える部分は、胴部とも称され、一対の生地6,6の裏側に配置される部分である。
【0041】
また胴体7は、空間部として、その前後面には前後方向に貫通すると共に一対のエレメント列5,5を通すエレメント路7aを備え、その上面には前後方向に貫通する状態でエレメント路7aに通じると共に一対のテープ4,4を通すテープ溝7bを備えるものである。
エレメント路7aは、胴体7の前部において左右に分岐した一対の分岐路7c,7cと、胴体7の後部において一対の分岐路7c,7cが合流して一本となった合流路7dとを備える。
図9に示すようにテープ溝7bも、胴体7の前部において左右に分岐した一対の分岐路7e,7eと、胴体7の後部において一対の分岐路7e,7eが合流して一本となった合流路7fとを備える。
【0042】
また胴体7とエレメント列5との関係は以下のようになっている。
図5に示すように下翼板71の上面は一対のエレメント列5,5の下側を案内する。一対の側板74,74の内側面(左右に対向する面)は一対のエレメント列5,5の左右外側を案内する。案内柱73の側面は一対のエレメント列5,5の左右内側を案内する。一対のフランジ75,75の上面は一対のテープ本体4a,4aの下側を案内する。ちなみに一対のフランジ75,75の上面は水平面となっている。また一対のエレメント列5,5の上側(上面)は、左右外側には一対のテープ折返し部4b,4bが固定され、左右内側には何も固定されていない。そして一対のフランジ75,75の下面は一対のテープ折返し部4b,4bの上側を案内し、上翼板72の下面は一対のエレメント列5,5の上側を案内する。また上翼板72の下面は一対のフランジ75,75の下面よりも下方に位置する。このようにして一対のエレメント列5,5と一対のテープ折返し部4b,4bを胴体7が案内することから、スライダー3内を摺動する一対のストリンガー2,2の姿勢が安定する。
また平面視すると、
図9に示すように一対のフランジ75,75の後部間にはテープ溝7bの合流路7fが形成され、一対のフランジ75,75の前部と上翼板72との間にはテープ溝7bの一対の分岐路7e,7eが形成される。
【0043】
上翼板72は前後方向に延びるものである。
図9に示すように上翼板72の前部は一対のフランジ75,75に対して前側に位置する。また上翼板72の後部は、案内柱73の後方に延び、一対のフランジ75,75の間であって且つテープ溝7bの一対の分岐路7e,7eの間に存在する。
図4に示すように上翼板72の下面(下端72B)は一対のフランジ75,75の下面(下端75B)よりも下方に位置する。また上翼板72と隆起部76が上下に連続しているので、上翼板72と隆起部76との境界を視認することはできないが、便宜上、上翼板72の上面(上端72T)の高さは一対のフランジ75,75の上面(上端75T,75T)に一致するものとする。このような上翼板72の上面に対して上側に隆起しているのが隆起部76である。したがって隆起部76は、一対のフランジ75,75の上面に対して上側の部分であって、後述する軸孔32の下面に対してその下面を含む下側の部分である。
【0044】
図5に示すように隆起部76は左右方向に関して一対のフランジ75,75の間に形成される。より詳しく言えば、隆起部76は上翼板72の左右両端の範囲内に形成されている。言い換えると、隆起部76はテープ溝7bの一対の分岐路7e,7eに対して左右内側の範囲に形成されている。また
図4に示すように隆起部76の上面の前部からは前取付柱77が突出し、隆起部76の上面の後部からは後取付柱78が突出する。また
図1,5に示すように左右方向に関して前取付柱77と後取付柱78は、隆起部76の左右両端の範囲内に形成され、より詳しく言えば本実施形態では隆起部76の左右両端よりも内側に形成される。
また
図7に示すように引手9の起立姿勢の場合に隆起部76は引手9の一対の突出部94,94に隙間を介して挟まれるように形成されている。したがって起立姿勢の引手9を左右方向に傾けようとすると、一対の突出部94,94のうち一方が隆起部76に衝突しし、それを阻止する。
また隆起部76ではないが、
図1に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合に前取付柱77は引手9の一対の突出部94,94に隙間を介して挟まれるように形成されている。したがって後側への倒伏姿勢の引手9を左右方向に傾けようとしても、一対の突出部94,94のうち一方が前取付柱77に衝突し、それを阻止する。
また隆起部76ではないが、引手9の前側への倒伏姿勢の場合に前取付柱77は引手9の一対の棒部92,92に隙間を介して挟まれるように形成されている。したがって前側への倒伏姿勢の引手9を左右方向に傾けようとしても、一対の棒部92,92が前取付柱77に衝突し、それを阻止する。
また
図4に示すように前方向に関して前取付柱77は、隆起部76の前端よりも後側に形成される。したがって隆起部76は前取付柱77に対して前側に段差状に張り出す段差部76aを備える。段差部76aは前取付柱77よりも前側において軸孔32の下面よりも隆起している。また
図2に示すように段差部76aは前取付柱77に対して左右両側にも段差状に張り出している。しかも段差部76aは前取付柱77と後取付柱78との間の部分に対しても段差状に左右両側に張り出している。
そして段差部76aには前側に倒伏した引手9が載る。段差部76aは前取付柱77よりも前側の部分が最も高く形成されており、その前側の部分に前側に倒伏した引手9が接触することにより、引手9の回動範囲の前側への限界位置が定まり、引手9は前側への倒伏姿勢になる。
【0045】
図1,4に示すように前取付柱77は、その上面の幅中央部にロック部材8の前部を収容する前収容溝77aを備える。前取付柱77は、前収容溝77aの底面を形成する前底部77bと、前収容溝77aの左右側面を形成すると共に前底部77bに対して左右両側から上方に突出する一対の前方側壁部77c,77cと、一対の前方側壁部77c,77cの上端から接近するように左右内側にそれぞれ突出すると共にロック部材8の前部を上から覆う一対の前凸部77d,77dとを備える。
【0046】
後取付柱78はその上面の幅中央部にロック部材8の後部を収容する後収容溝78aを備える。後取付柱78は、後収容溝78aの底面を形成する後底部78bと、後収容溝78aの左右側面を形成すると共に後底部78bに対して左右両側から上方に突出する一対の後方側壁部78c,78cと、一対の後方側壁部78c,78cの上端から接近するように左右内側にそれぞれ突出する一対の後凸部78d,78dとを備える。
【0047】
隆起部76と前取付柱77と後取付柱78とは協働して、左右方向に貫通すると共に上方向に開口する開口部(符号省略)を形成する。ちなみにこの開口部の上側は
図1,2に示すように、前取付柱77の上部と後取付柱78との上部に架設されたロック部材8に覆われる。そして開口部とロック部材8とによって引手9を胴体7に取り付ける(連結する)引手取付部31が形成される。
【0048】
引手取付部31は側面視して環状であり、その環状の内側に引手9の軸91を支持する軸孔32を備える。軸孔32は左右方向に貫通している。
【0049】
また
図4に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合に、その倒伏姿勢を安定させるために軸孔32とカム部91aとは、面接触する平面部32a,91dをそれぞれ備える。軸孔32の平面部32aは、軸孔32の下面であり、前取付柱77と後取付柱78との間の上面である。カム部91aの平面部91dは、引手9の後側への倒伏姿勢の場合における下面部である。そして軸孔32の平面部32aとカム部91aの平面部91dとは上下方向に直交する平面となっている。
【0050】
また軸孔32の下面(隆起部76の上面)は引手9の軸91(カム部91aの平面部91d)が載る面である。なお引手9の後側への倒伏姿勢の場合に引手9のカム部91aの平面部91d(軸91の下端91B)は隆起部76の上面(上端76T)に重なり合って載る。そして後側への倒伏姿勢の引手9の下端は軸91である。したがって後側への倒伏姿勢の引手9は軸孔32の下面よりも上方に位置する。ちなみに、後側への倒伏姿勢における引手9の摘まみ部93は、操作性を考慮して、軸91の下面よりも上方に位置する。したがって引手9の後側への倒伏姿勢の場合に摘まみ部93の下端93Bは引手9のカム部91aの平面部91dよりも上方に位置する。また、引手9の後側への倒伏姿勢の場合に、摘まみ部93の下端93Bによって、引手9のカム部91aの平面部91dの下端91Bと水平な線であって、引手9のカム部91aの平面部91dの下端91Bよりも上方に位置する仮想線が定義される。この仮想線とフランジ75,75の上面との間に、後述する生地収容空間部33が形成される。
【0051】
またカム部91aは、引手9の後側への倒伏姿勢の場合に平面部91dに対して前側に別の平面部91eを備える。この平面部91eは前後方向に直交する平面であり、
図6に示すように引手9の起立姿勢を安定させるものである。
【0052】
このように引手9の起立姿勢および後側への倒伏姿勢の場合に、軸孔32とカム部91aが面接触することによって、その姿勢は安定したものとなり、その安定した姿勢をロック部材8が維持する。
【0053】
また
図4に示すように軸孔32の下面は隆起部76の上面であり、フランジ75の上面よりも上方に位置する。言い換えれば隆起部76は、その上面(軸孔32の下面)がフランジ75の上面よりも上方に位置するような厚みを有するように形成される。
図5に示すように一対のフランジ75,75と引手9との間には、一対の生地6,6を収容する一対の生地収容空間部33,33が隆起部76に対して左右両側に仕切られた状態で形成される。
【0054】
図5に示すように生地収容空間部33の上限位置は引手9の下面によって確定される。生地収容空間部33の下限位置は一対のフランジ75,75の上面とテープ溝7bの一対の分岐路7e,7eの上面とによって確定される。なお一対の分岐路7e,7eの上面の高さは、一対のフランジ75,75の上面(上端75T)に一致するものとする。生地収容空間部33の左右方向の内側の限界位置が隆起部76の左右方向の側面によって確定される。ちなみに生地収容空間部33の左右方向の外側の限界位置は確定されない。
【0055】
そして一対のフランジ75,75の上面に対して真上範囲75R,75Rは、引手9に対して下側に一対の生地収容空間部33,33のみを備える。言い換えれば、当該真上範囲75R,75Rは、一対のフランジ75,75の上端75Tと引手9の下端9Bとの間に一対の生地収容空間部33,33のみを備える。したがって一対のフランジ75,75の上面に対して真上範囲75R,75Rに存在する有体物は引手9のみである。そのため、スライダー3をファスナーストリンガー2に取り付けていないとき、引手9を後側に倒伏させた状態で、真上範囲75R,75Rにおいて引手9とフランジ75,75の上面とが対面している。また隆起部76は一対のフランジ75,75の上面に対して真上範囲75R,75Rに存在しない。
また
図7に示すように一対の分岐路7e,7eに対して真上範囲7R,7Rは、引手9に対して下側に一対の生地収容空間部33,33のみを備える。これは、前述したように隆起部76が上翼板72の左右両端の範囲内に形成されていることによる。したがって一対の分岐路7e,7eの上面に対して真上範囲7R,7Rに存在する有体物は、引手9のみである。また隆起部76は一対の分岐路7e,7eの上面に対して真上範囲7R,7Rに存在しない。
【0056】
またフランジ75に対して上側にはテープ本体4aが配置されることから、生地収容空間部33には生地6だけでなくテープ本体4aも収容される。より詳しく言えば、生地収容空間部33には、対向する側縁部が裏側に折り返されて二重になった生地6とフランジ75の上面側に位置するテープ本体4aとが収容される。
一対の生地収容空間部33,33の上下間隔は、引手9と一対のフランジ75,75との上下間隔であり、その最短距離は2mm以上に設定することが望ましい。ちなみに
図7に示すように引手9の起立姿勢の場合、一対の突出部94,94は軸91よりも下方に位置しており、
図4に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合、軸91の下端91Bと一対の棒部92,92の下端と一対の突出部94,94の下端はいずれも同じ高さとなっており、
図8に示すように引手9の前側への倒伏姿勢の場合、一対の突出部94,94の下端および一対の棒部92,92の下端は軸91の下端91Bよりも下方に位置している。どのような姿勢であっても、生地収容空間部33は2mm以上に設定することが望ましい。ちなみに本実施形態では一対の生地収容空間部33,33は左右対称である。
また生地収容空間部33をできるだけ大きくするために、
図5に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合における一対の棒部92,92は、下面のうち軸91とは反対側の部分に、軸91から離れるにつれて上方へ向かう第1の斜面95,95をそれぞれ備える。また図示しないが、第1の斜面95は突出部94にも連続して形成される。
また生地収容空間部33をできるだけ大きくするために、
図7に示すように引手9の起立姿勢の場合における一対の突出部94,94は、下面のうち軸91とは反対側の部分に、軸91から離れるにつれて上方へ向かう第2の斜面96,96をそれぞれ備える。一対の第2の斜面96,96は一対の棒部92,92にも連続して形成される。
【0057】
ロック部材8は、前述したように一対のエレメント列5,5に対して接触することによって一対のエレメント列5,5に対する胴体7の前後位置をロックし、その反対に一対のエレメント列5,5に対して離隔することによって一対のエレメント列5,5に対する胴体7の前後位置をロック解除する。またロック部材8は、金属板を所定形状に折り曲げたもので、いわゆる板バネである。
図4に示すようにロック部材8は、上下に対向する上板81および下板82と、上板81と下板82の前端同士を接合する接合板83と、上板81の後端から下方に延びると共に後取付柱78の後収容溝78aの後部に挿入する挿入板84と、下板82の後端から下方に延びる爪板85とを備える。
【0058】
接合板83は前方に向かって膨らむ形状、より詳しく言えば円弧状に湾曲したものである。
【0059】
上板81はその前後方向の両端を結ぶ仮想の直線よりも、前後方向の中間が上方に位置する形状をしたものである。また上板81は側面から見て湾曲した板である。より詳しく言えば側面から見て上板81は、その前後方向の全長のうち前部と後部とを直線部とし、その前後方向の中間部を前後の直線部に対し湾曲する状態で滑らかに連続する湾曲部とするものである。また後部の直線部は、前部の直線部を後方に向かって延長した仮想の直線よりも下側に位置するものである。また湾曲部の前後の両端に対する接線方向は、前後の直線部の延びる方向に一致する。
上板81の前部は、前収容溝77aに収容され、その左右両側と下側を一対の前方側壁部77c,77cによって支えられ、その上側を一対の前凸部77d,77dによって押さえられている。上板81の下側を支えるために一対の前方側壁部77c,77cの下部は、一対の前方側壁部77c,77cの上部に対して左右内側に接近するようにそれぞれ張り出す一対の棚部77e,77eとなっている。一対の棚部77e,77eの上には上板81が載せられる。
ちなみに上板81の上側は一対の前凸部77d,77dだけでなく、一対の前方側壁部77c,77cによっても押さえられている。そのために
図5に示すように一対の前方側壁部77c,77cの上端部はそれよりも下側に対して上板81を上方から覆う状態に曲がっている。
【0060】
下板82もその前後方向の両端を結ぶ仮想の直線よりも前後方向の中間が上方に位置する形状をしたものである。また下板82は側面から見て屈曲した板である。より詳しく言えば側面から見て下板82は、その前後方向の前部と後部とを直線部とし、前部の直線部と後部の直線部とを屈曲する状態で連続するものである。下板82の前部の直線部は前方に向かうにつれて下方に向かう。下板82の後部の直線部は後方に向かうにつれて下方に向かう。また下板82は引手9の軸91のカム部91aの上に載り、その復元力によってカム部91aを上から押さえるものである。
また引手9の後側への倒伏姿勢の場合、下板82は軸91の上面であるカム凹部91cを上から押さえ、軸91ひいては引手9の倒伏姿勢を安定させる。さらに引手9の姿勢が後側への倒伏姿勢と起立姿勢との間の姿勢である場合、下板82はその復元力によりカム部91aを上から押さえ、引手9を後側への倒伏姿勢となるように押し込む。なお引手9の起立姿勢および前側への倒伏姿勢の場合においても、下板82はその復元力によりカム部91aを上から押さえ、それらの姿勢を安定させる。
【0061】
爪板85の先部(下部)は胴体7のエレメント路7aに突入するものである。そのために後取付柱78と隆起部76と上翼板72には後収容溝78aとエレメント路7a(合流路7d)とに通じると共に上下方向に貫通する爪孔7hが形成される。爪孔7hには爪板85が収容される。
またロック部材8の下板82と軸91のカム部91aとの係り方によって、爪板85の先部がエレメント路7aに突入する量(長さ)は変化する。
図4に示すように引手9の後側への倒伏姿勢の場合、爪板85の先部はエレメント路7aに深く挿入され、図示しないエレメント列に挿入されて接触し、それによって一対のエレメント列に対する胴体7の前後位置をロックし、スライダー3の前後方向への移動を規制する。
図6に示すように引手9の起立姿勢の場合、爪板85の先部はエレメント路7aに挿入されないように離隔して爪孔7h内に収容され、それによって一対のエレメント列に対する胴体7の前後位置をロック解除し、スライダー3の前後方向への移動を規制解除する。
図8に示すように引手9の前側への倒伏姿勢の場合、爪板85の先部はエレメント路7aに挿入されないように離隔して爪孔7hに収容され、それによってスライダー3を前後方向への移動を規制解除する。
【0062】
挿入板84は後収容溝78aのうち爪孔7hに対して後方に収容される。
【0063】
上記した第一実施形態のスライダー3は以下の効果を有する。
スライダー3は、引手9の胴体7に対する起立姿勢および前側への倒伏姿勢および後側への倒伏姿勢によって胴体7の前後方向への移動を規制したり、規制解除したりするものである。また
図4,5に示すようにスライダー3は、隆起部76を上翼板72の上に備えることによって、引手9と一対のフランジ75,75との上下間隔を広げてある。そしてスライダー3は、一対の生地収容空間部33,33を引手9と一対のフランジ75,75との上下間において隆起部76によって左右に仕切られたものとしてあるので、一対の生地6,6に対して表側には引手9と前取付柱77と後取付柱78とロック部材8とが現れるものとなる。
またスライダー3は、軸孔32の下面を隆起部76によって一対のフランジ75,75の上面よりも上方に位置するようにして一対の生地収容空間部33,33が形成されるので、例えば軸孔の下面を一対のフランジの上面よりも下方に位置するスライダーに比べれば、引手9が一対の生地6,6に接触し難くなり、一対の生地6,6の損傷を抑えられる。また引手9が一対の生地6,6に接触しないことは、スライダー3の前後方向への移動の規制が解除されるのを防止することである。仮に引手9が一対の生地6,6に接触すると、引手9が起立姿勢に近くなり、爪板85の先部がエレメント路7aに突出しなくなり、スライダー3の前後方向への移動の規制が解除される。
【0064】
またスライダー3は、一対のフランジ75,75の上面に対して真上範囲75R,75Rには、引手9に対して下側に一対の生地収容空間部33,33のみを備えるので、例えば隆起部76が一対のフランジ75,75の上面に対して真上範囲75R,75Rに張り出すものと比べれば、引手9が一対の生地6,6に接触し難くなり、一対の生地6,6の損傷を抑えられる。より詳しく言えばスライダー3は、一対の分岐路7e,7eに対して真上範囲には、引手9に対して下側に一対の生地収容空間部33,33のみを備えるので、例えば隆起部76が一対の分岐路7e,7eに対して真上範囲7R,7Rに張り出すものと比べれば、引手9が一対の生地6,6に接触し難くなり、一対の生地6,6の損傷を抑えられる。
【0065】
またスライダー3は、カム部91aと軸孔32とが引手9の後側への倒伏姿勢の場合に面接触する平面部91d,32aをそれぞれ備えるので、たとえば引手の後側への倒伏姿勢を維持する部分をカム部91aと軸孔32以外の部分に備えるスライダーに比べれば、スライダー3を小型化して一対の生地6,6に対して表側に現れる部分をできるだけ小さくできる。
【0066】
またスライダー3は、後側への倒伏姿勢の引手9を軸孔32の下面よりも上方に位置するものとしてあるので、たとえば後側への倒伏姿勢の引手(より詳しくは引手の下面)を軸孔32の下面よりも下方に位置する部分を含むようにしたスライダーに比べれば、一対の生地収容空間部33,33の上下方向の寸法をできるだけ広くすることができ、引手9が一対の生地6,6に接触し難くなり、その結果、一対の生地6,6の損傷をより抑えることができる。しかも一対の第1の斜面95,95によって、一対の生地収容空間部33,33を広げてあるので、一対の生地6,6の損傷をより抑えることができる。
【0067】
またスライダー3は、引手9の後側への倒伏姿勢の場合に一対の突出部94,94が前取付柱77を隙間を介して挟むようになっているので、引手9を左右方向に傾けると、一方の突出部94が前取付柱77に衝突し、それによって引手9の左右方向への傾きをできるだけ小さくでき、引手9の後側への倒伏姿勢が安定したものとなる。
【0068】
また
図7に示すようにスライダー3は、引手9の起立姿勢の場合に引手9の一対の突出部94,94が隆起部76を隙間を介して挟むようになっているので、引手9を左右方向に傾けようとすると、一方の突出部94,が隆起部76に衝突し、それによって引手9の左右方向への傾きをできるだけ小さくでき、引手9の起立姿勢が安定したものとなる。
【0069】
またスライダー3は、引手9の前側への倒伏姿勢の場合に段差部76aの上に引手9が載るようにしてあるので、引手9の前側への倒伏姿勢が安定するし、一対の生地収容空間部33,33を保持できるので、一対の生地6,6の損傷を抑えることができる。しかも一対の第2の斜面96,96によって、一対の生地収容空間部33,33を広げてあるので、一対の生地6,6の損傷をより抑えることができる。
またスライダー3は、引手9の前側への倒伏姿勢の場合に引手9の前端部を軸91の下端よりも上方に位置するものとしているので、一対の生地収容空間部33,33よりも引手9の前端部が高くなり、引手9を操作しやすくなる。
さらにスライダー3は、引手9の前側への倒伏姿勢の場合に引手9の一対の棒部92,92が前取付柱77を隙間を介して挟むようにしてあるで、引手9を左右方向に傾けようとすると、一対の棒部92,92が前取付柱77に衝突し、それによって引手9の左右方向への傾きをできるだけ小さくでき、引手9の前側への倒伏姿勢が安定したものとなる。
【0070】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えばスライダー3は、上記実施形態ではロック部材8の前部と後部の両方を胴体7に固定し、引手9を引手取付部31のみで支持するものであったが、本発明ではこれに限らず、たとえばロック部材の前部を胴体に固定すると共に、後部を上下方向に変位可能に保持し、引手取付部に対して左右に形成された一対の補強部と引手取付部とによって引手を支持するものであっても良い。この場合、ロック部材は、上下に対向するように折り曲げられたものではなく、胴体の前部から後部に向かって上下方向に折り曲げられたものとする。またこの場合、引手取付部は隆起部とロック部材によって形成される。またこの場合、各補強部は、引手取付部に対して左または右において前後に間隔をあけて上翼板から上方に突出する一対の柱部を備えるものである。そして引手を胴体に取り付ける前段階では一対の柱部の上部の間隔は軸の直径よりも離隔し、それによって軸を一対の柱部に対して上方から落とすようにして挿入できるようにしておく。また軸を一対の柱部に対して挿入した後段階では、一対の柱部の上部を互いに接近するように塑性変形させることによって、一対の柱部の上部の間隔は軸の直径よりも狭くなり、それによって軸を一対の柱部に対して上方に移動できないようにする。
【符号の説明】
【0071】
1 隠しスライドファスナー
2 ファスナーストリンガー
3 スライダー
31 引手取付部
32 軸孔
32a 平面部
33 生地収容空間部
4 テープ
4a テープ本体
4b テープ折返し部
5 エレメント列
6 生地
6a 生地本体
6b 生地折返し部
7 胴体
7a エレメント路
7b テープ溝
7c,7e 分岐路
7d,7f 合流路
7h 爪孔
7R 分岐路に対して真上範囲
71 下翼板
72 上翼板
72T 上翼板の上端
72B 上翼板の下端
73 案内柱
74 側板
75 フランジ
75B フランジの下端
75R フランジの上面に対して真上範囲
75T フランジの上端
76 隆起部
76T 隆起部の上端
76a 段差部
77 前取付柱
77a 前収容溝
77b 前底部
77c 前方側壁部
77d 前凸部
77e 棚部
78 後取付柱
78a 後収容溝
78b 後底部
78c 後方側壁部
78d 後凸部
8 ロック部材
81 上板
82 下板
83 接合板
84 挿入板
85 爪板
9 引手
9a 貫通穴
9B 引手の下端
91 軸
91a カム部
91b 軸本体部
91c カム凹部
91d,91e 平面部
91B 軸の下端(カム部の平面部の下端)
92 棒部
93 摘まみ部
93B 摘まみ部の下端
94 突出部
95 第1の斜面
96 第2の斜面