(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-23
(45)【発行日】2022-03-31
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及び樹脂層付金属箔
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20220324BHJP
B32B 38/10 20060101ALI20220324BHJP
B32B 25/14 20060101ALI20220324BHJP
H05K 3/20 20060101ALI20220324BHJP
【FI】
B32B15/08 J
B32B38/10
B32B15/08 Q
B32B25/14
H05K3/20 A
(21)【出願番号】P 2021014706
(22)【出願日】2021-02-02
(62)【分割の表示】P 2017555028の分割
【原出願日】2016-11-29
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2015238793
(32)【優先日】2015-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 敏文
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-001034(JP,A)
【文献】特開平10-173316(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125873(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/105650(WO,A1)
【文献】特開平08-048849(JP,A)
【文献】特開2005-262506(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0094970(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00 - 43/02
H05K 3/10 - 3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と樹脂層とを有する樹脂層付金属箔における該金属箔をエッチングすることにより所定のパターンを形成する工程と、
前記樹脂層付金属箔における前記パターンが形成された面側に、基材を積層する工程と、
前記樹脂層を剥離する工程と、を備え、
前記樹脂層が、主としてスチレンブタジエン共重合体を含み、更に、スチレン系化合物を含み、
スチレン系化合物は、スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる少なくとも一種であり、
前記ポリマーであるスチレン系化合物は、スチレン系モノマーの単独重合体又はスチレン系モノマーから選ばれる2種以上のモノマーの共重合体であり、
前記樹脂層において、前記スチレン系化合物が、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して10質量部以上70質量部以下含まれており、
前記樹脂層は、30℃での貯蔵弾性率が0.1GPa以上0.32GPa以下である、金属のパターンを有する積層体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂層は、30℃での貯蔵弾性率が0.15GPa以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂層において、ポリフェニレンエーテル樹脂が、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して1質量部以上60質量部以下含まれている、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂層において、スチレンブタジエン共重合体が該樹脂層中の樹脂成分に対して45質量%以上80質量%以下含まれている、請求項1
ないし3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂層付金属箔は、前記金属箔を挟んで前記樹脂層と反対側の面に、剥離層及びキャリアをこの順で有し、前記キャリアを前記剥離層において剥離した後に、前記樹脂層付金属箔における該金属箔をエッチングすることにより所定のパターンを形成する工程を行う、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属箔と前記樹脂層とが直接に接している請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記キャリアと前記金属箔との間の剥離強度Pcよりも、前記金属箔と前記樹脂層との間の剥離強度Prの方が大きい、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
剥離強度Pcが1gf/cm以上50gf/cm以下であり、
剥離強度Prが2gf/cm以上100gf/cm以下である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
金属箔と剥離用樹脂層とを有する樹脂層付金属箔において、
前記金属箔と前記樹脂層とが直接に接して積層されており、
前記樹脂層が、主としてスチレンブタジエン共重合体を含み、更に、スチレン系化合物を含み、
スチレン系化合物は、スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる少なくとも一種であり、
前記ポリマーであるスチレン系化合物は、スチレン系モノマーの単独重合体又はスチレン系モノマーから選ばれる2種以上のモノマーの共重合体であり、
前記樹脂層において、前記スチレン系化合物が、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して10質量部以上70質量部以下含まれており、
前記樹脂層は、30℃での貯蔵弾性率が0.1GPa以上0.32GPa以下である、樹脂層付金属箔。
【請求項10】
前記樹脂層において、ポリフェニレンエーテル樹脂が、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して1質量部以上60質量部以下含まれている、請求項9に記載の樹脂層付金属箔。
【請求項11】
前記樹脂層において、スチレンブタジエン共重合体が該樹脂層中の樹脂成分に対して45質量%以上80質量%以下含まれている、請求項9又は10に記載の樹脂層付金属箔。
【請求項12】
金属箔と樹脂層とが直接に接して積層させた樹脂層付金属箔における樹脂層の剥離層としての使用であって、該樹脂層に、主としてスチレンブタジエン共重合体を含有させ、更にスチレン系化合物とを含有させ、スチレン系化合物は、スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる少なくとも一種であり、
前記ポリマーであるスチレン系化合物は、スチレン系モノマーの単独重合体又はスチレン系モノマーから選ばれる2種以上のモノマーの共重合体であり、
前記スチレン系化合物を、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して10質量部以上70質量部以下含有させ、前記樹脂層は、30℃での貯蔵弾性率が0.1GPa以上0.32GPa以下である、剥離層としての使用。
【請求項13】
金属箔と樹脂層とが直接に接して積層させた樹脂層付金属箔における樹脂層を剥離層として使用する方法であって、該樹脂層に、主としてスチレンブタジエン共重合体を含有させ、更にスチレン系化合物を含有させ、スチレン系化合物は、スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる少なくとも一種であり、
前記ポリマーであるスチレン系化合物は、スチレン系モノマーの単独重合体又はスチレン系モノマーから選ばれる2種以上のモノマーの共重合体であり、
前記スチレン系化合物を、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して10質量部以上70質量部以下含有させ、前記樹脂層は、30℃での貯蔵弾性率が0.1GPa以上0.32GPa以下である、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層上の導体回路パターンを基材に転写する積層体の製造方法及び、この用途に用いられる樹脂層付金属箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を収納するパッケージに使用されるプリント配線板やディスプレイパネル用の配線等の製造方法として、導体回路パターンを絶縁性基板に転写する方法が提案されている。この方法では、まず樹脂フィルム表面に金属箔を貼付し、エッチング法等を用いて金属箔の不要な部分を除去して導体回路パターンとし、これを転写シートとして絶縁性基板と圧着させ、次いで樹脂フィルムを引き剥がすことにより導体回路パターンの転写を行う。この方法によれば、金属箔を基板に積層し、エッチング法等により金属箔の不要部分を除去して導体回路パターンを形成する方法に比べ、基板が各種の薬液に接触することがないので、薬液による基板の特性低下を防止できる等の利点を有している。
【0003】
例えば特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートから成る樹脂のフィルム表面に、紫外線硬化型のアクリル系樹脂から成る粘着剤を塗布して粘着層を形成し、この粘着層上に銅箔を接着した後エッチングにより導体回路パターンを形成してなる転写シート、及びこれを転写する積層体の製造方法が記載されている。
特許文献1では、粘着剤として、紫外線硬化型のアクリル系樹脂を用いることで、粘着層が基板上の回路非形成部分に接着することを防止できるとしている。
特許文献2にも同様の転写シート、及びこれを転写する積層体の製造方法が記載されている。同文献では粘着層を、アクリルポリマーをカルボキシル基との反応性を有する多官能性化合物により架橋して得られる粘着剤を用いて形成する。前記アクリルポリマーは(メタ)アクリル酸エステルとカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体とを共重合して得られる。同文献では、この構成の粘着層により、樹脂フィルムを金属箔から引き剥がすことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-178255号公報
【文献】特開2002-134881号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されたような、アクリル系樹脂の粘着層を用いると、樹脂フィルム剥離後、転写された金属箔表面への樹脂残りが存在し、転写後に形成する最終製品への耐熱信頼性等に影響を及ぼす恐れがあった。また、特許文献1及び2に記載されたアクリル系樹脂の粘着層は樹脂フィルムを剥離する際に破断しやすく、またポリエチレンテレフタレート等の支持体なしでは使用し難いため、コスト削減の観点からも課題があった。
【0006】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る積層体の製造方法及び樹脂層付金属箔を提供することにある。
【0007】
本発明は、金属箔と樹脂層とを有する樹脂層付金属箔における該金属箔をエッチングすることにより所定のパターンを形成する工程と、
前記樹脂層付金属箔における前記パターンが形成された面側に、基材を積層する工程と、
前記樹脂層を剥離する工程と、を備え、
前記樹脂層が、主としてスチレンブタジエン共重合体を含み、更に、スチレン系化合物を含み、
スチレン系化合物は、スチレン系モノマー、該スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる少なくとも一種であり、
前記樹脂層において、前記スチレン系化合物が、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して10質量部以上70質量部以下含まれている、
金属のパターンを有する積層体の製造方法(以下本発明の第1の積層体の製造方法ともいう)を提供するものである。
【0008】
また本発明は、剥離性樹脂層と、金属箔と、第二剥離層と、キャリアとをこの順に有し、
前記金属箔と前記樹脂層とは直接に接して積層されており、
前記キャリアと前記金属箔との間の剥離強度Pcよりも、前記金属箔と前記樹脂層との間の剥離強度Prの方が大きい積層シートを準備する工程、
前記積層シートのキャリアを剥離層において剥離する工程、
前記金属箔をエッチングすることにより所定のパターンを形成する工程、
前記積層シートにおける前記パターンが形成された面側に、基材を積層する工程、及び、
前記樹脂層を剥離する工程、をこの順に備えた、金属のパターンを有する積層体の製造方法(以下本発明の第2の積層体の製造方法ともいう)を提供するものである。
【0009】
また本発明は、金属箔と剥離用樹脂層とを有する樹脂層付金属箔において、
前記金属箔と前記樹脂層とが直接に接して積層されており、
前記樹脂層が、主としてスチレンブタジエン共重合体を含み、更に、スチレン系化合物を含み、
スチレン系化合物は、スチレン系モノマー、該スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる少なくとも一種であり、
前記樹脂層において、前記スチレン系化合物が、100質量部のスチレンブタジエン共重合体に対して10質量部以上70質量部以下含まれる、樹脂層付金属箔を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、金属箔と樹脂層とが直接に接して積層させた樹脂層付金属箔における該樹脂層の剥離層としての使用であって、該樹脂層に前記の樹脂組成を有させる使用を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、金属箔と樹脂層とが直接に接して積層させた樹脂層付金属箔における該樹脂層を剥離層として使用する方法であって、該樹脂層に前記の樹脂組成を有させる使用方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本実施形態は転写法に用いる樹脂層付金属箔に係るものである。以下本実施形態の樹脂層付金属箔についてまず説明する。樹脂層付金属箔は、特定の樹脂構成を有する剥離用樹脂層(A)、及びこの樹脂層(A)の一面に積層された金属箔(B)を有する。
【0013】
本実施形態は、樹脂層(A)がスチレンブタジエン共重合体を主として含有し、更にスチレン系化合物をスチレンブタジエン共重合体に対して特定比で含有している点に特徴の一つを有する。
本発明者は、転写法に用いる樹脂層付金属箔の構成と、樹脂層(A)の金属箔(B)に対する剥離容易性について鋭意検討した。その結果、従来用いられてきたアクリル樹脂系の粘着層及びポリエチレンテレフタレートの支持体という構成に代えて、特定の樹脂構成の樹脂層(A)を用いた場合、回路転写後、該樹脂層(A)を金属箔(B)界面から容易に剥離することができ、樹脂残りを効果的に防止できることを知見した。このため、本実施形態の樹脂層付金属箔を用いて転写した配線パターン上には、洗浄や粗化といった表面処理のムラが生じにくく、表面清浄性や表面処理均質性に優れ、信頼性の高い回路付き積層体を得ることができる。
【0014】
更に、本実施形態では、樹脂層付金属箔における樹脂層(A)は、金属箔(B)からの剥離性のみならず、パターン形成時の変形に耐えうる剛直性及び、樹脂層(A)単体で、剥離においても変形しない強靭性を兼ね備えている。このため、本実施形態ではポリエチレンテレフタレート等の支持体を用いる必要がない。従って、本実施形態では、剥離用樹脂層に粘着剤を塗工する必要がなく、製造コストを低減することができる。
【0015】
これに対して、従来のアクリル樹脂系の粘着層は、上述したように配線パターン上に樹脂残りを生じやすい。この樹脂残りは、転写後の金属箔表面に対して表面処理を施した時に、表面処理ムラの原因となっており、このような銅箔を内層とする積層体は、パターンが光沢ムラとなり外観的に異常となるためディスプレイ用途として不向きである他、積層体を高温で使用した時の耐熱信頼性を損なう恐れがある。更に、アクリル樹脂は加熱圧着処理に対する耐性に劣っている。このため、アクリル系粘着層と同様の成分をフィルム状に成形して、得られた成形体を加熱圧着処理により金属箔と積層した場合、回路形成後にこの成形体を剥離しようとしても樹脂層が内部破断してしまい、剥がすことが非常に困難となるか、又は不可能となる。
【0016】
本明細書中、「剥離用樹脂層」及び「剥離層」とは金属箔から剥離させて用いる層をいう。
また、前記の理由から、本実施形態の樹脂層(A)を剥離性樹脂層とも呼ぶことができる。本明細書中、剥離性とは、樹脂層付金属箔における前記パターンが形成された面側に、後述する圧着条件にて後述する樹脂種類のいずれかからなる基材を積層してなる積層体において、樹脂層(A)を金属箔(B)から剥離しようとしたときに、樹脂層(A)内の破断及び金属箔(B)の基材からの剥離を生じさせずに、樹脂層(A)が金属箔(B)から、或いは必要に応じて金属箔(B)及び基材から剥離する性質を意味する。剥離性は、樹脂層(A)を含むいずれか一の積層体において示されればよく、その場合は他の積層体において示されなくてもよい。
【0017】
本明細書中、樹脂層(A)を金属箔(B)から剥離するという場合、ここでいう「金属箔(B)」には、樹脂層(A)一面全体を被覆する、パターン形成前の金属箔(B)、及び、金属箔(B)から形成された金属パターンの両方を含みうる。
【0018】
以下、本実施形態で用いる樹脂層付金属箔について更に説明する。
<スチレンブタジエン共重合体>
本実施形態では、樹脂層(A)が、スチレンブタジエン共重合体を主成分として含むことを特徴の一つとしている。これにより、本実施形態の樹脂層付金属箔は、金属箔に対する良好な密着性及び剥離性を兼ね備えるものとなり、且つ、樹脂層(A)自身が優れた弾性及び柔軟性を有するものとなる。スチレンブタジエン共重合体には、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等があるが、樹脂層(A)剥離時の強度を有利に保持する点からブロック共重合体が好ましい。ブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-(スチレン-ブタジエン)-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いられる。
【0019】
スチレンブタジエン共重合体におけるスチレンユニットの含有率(対共重合体全量)は、樹脂層(A)を剥離させた後、より確実に樹脂残渣を低減させる点から、20重量%以上が好ましい。一方、柔軟性保持の点からは80重量%以下が好ましい。これらの点からスチレンブタジエン共重合体におけるスチレンユニットの前記の重量比は30重量%以上かつ70重量%以下、更に好ましくは45重量%以上かつ65重量%以下がより好ましい。
また、剥離用樹脂層(A)の剥離の際に可撓性と破断体制をより優位に保つ点からスチレンブタジエン共重合体のGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析法による数平均分子量(Mn)は、50,000以上500,000以下であることが好ましい。
【0020】
熱硬化性等の機能を付与させる目的で、スチレンブタジエン共重合体には、各種の変性が加えられていてもよい。変性の例としては、例えば、グリシジルエーテル変性、オキシラン導入、水酸基変性、カルボキシル基変性などが挙げられる。
【0021】
樹脂層(A)が、スチレンブタジエン共重合体を主(主成分)として含有するとは、好ましくは、スチレンブタジエン共重合体が樹脂層(A)の樹脂成分中、45質量%以上含まれていることを意味する。スチレンブタジエン共重合体が樹脂層(A)中の樹脂成分に対して45質量%以上含まれていることで、樹脂層(A)は樹脂層内部での破断を防止しながら容易に金属箔(B)からの剥離が可能なものとなる。また、スチレンブタジエン共重合体の量は樹脂層(A)の樹脂成分中、80質量%以下とすることで、スチレンブタジエン共重合体以外のスチレン系化合物及び必要に応じて含有される後述するポリフェニレンエーテル樹脂の量を一定以上とすることができ、樹脂層に剛直性、耐熱性、耐薬品性等を付与することができる。これらの観点から、樹脂層(A)の樹脂成分中に、スチレンブタジエン共重合体は、47質量%以上77質量%以下含まれていることがより好ましく、49質量%以上75質量%以下含まれていることが特に好ましい。
【0022】
<スチレン系化合物>
スチレン系化合物は、本実施形態の樹脂層付金属箔における樹脂層(A)に、剛直性及び強靭性、剥離容易性を付与するために用いられる。樹脂層(A)において、スチレン系化合物は、スチレン系モノマー、及び該スチレン系モノマーを構成ユニットとするオリゴマー及びポリマー並びに該オリゴマー又は該ポリマーの誘導体から選ばれる1種又は2種以上の化合物である。
従ってスチレン系化合物は、スチレンと他の不飽和炭化水素とのブロック共重合体は含まない。重合体であるスチレン系化合物は通常、スチレン鎖を主鎖とする。
【0023】
構成ユニットとしてのスチレン系モノマーとしては、スチレン及び置換スチレンが挙げられ、置換スチレンとしては、スチレンを構成するベンゼン環に結合する1又は2以上の水素原子が、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、ハロゲン原子である塩素、臭素、フッ素等の置換基に置換されたものが挙げられる。スチレン系モノマーの具体例としては、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、フルオロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。
【0024】
スチレン系モノマーを単位ユニットとしたオリゴマーとしては、上記で挙げたスチレン系モノマーを重合させて得られるオリゴマーが挙げられ、例えば、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2,4-ジフェニル-1-ブテン、1,2-ジフェニルシクロブタン、1-フェニルテトラリン、2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセン、1-フェニル-4-(1’-フェニルエチル)テトラリン、1,3,5-トリフェニルシクロヘキサン等が挙げられる。なおオリゴマーには、ダイマー、トリマーが含まれる。オリゴマーは通常構成モノマー数2~20程度のものをいう。
【0025】
スチレン系モノマーを単位ユニットとしたポリマーとしては、上記のスチレン系モノマー、及び/又は上記のオリゴマーを重合させて得られるポリマーが挙げられる。
【0026】
上記のスチレン系オリゴマー又はポリマーの誘導体としては、例えばスチレン系オリゴマー又はポリマーに末端修飾や置換基導入などの、各種の変性がなされたものが挙げられる。変性の例としては、例えば、グリシジルエーテル変性、オキシラン導入、水酸基変性、カルボキシル基変性などが挙げられる。
【0027】
ここで、樹脂層(A)を剥離する際、剥離を急速に行った場合には、樹脂層(A)には強い応力がかかる。そのような場合においてもより安定して剥離性能を保持する点から、上記のスチレン系化合物は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析法による数平均分子量(Mn)が15,000以上350,000以下であることが好ましい。
【0028】
スチレン系化合物は、上記スチレン系モノマー並びにスチレン系モノマーを単位ユニットとしたオリゴマー及びポリマー並びにそれらの誘導体の合計量として、本実施形態の樹脂層付金属箔における樹脂層(A)に、スチレンブタジエン共重合体100質量部に対して10質量部以上70質量部以下含まれている。スチレン系化合物の量が10質量部以上であることで、樹脂層(A)は十分な剛直性及び金属箔(B)からの剥離容易性が得られ、ポリエチレンテレフタレート等の支持体を有さずに剥離用樹脂層として機能可能となる。またスチレン系化合物の量が70質量部以下であることで、樹脂層(A)は強靭性を保持でき、これにより金属箔(B)からの剥離容易性が得られる。これらの観点から、樹脂層(A)中に、スチレン系化合物の量は、スチレンブタジエン共重合体100質量部に対して15質量部以上67質量部以下含まれていることがより好ましく、20質量部以上65質量部以下含まれていることが特に好ましい。スチレン系化合物中、スチレン系モノマー並びにそれを構成ユニットとしたオリゴマー及びその誘導体の比率は限定されない。本実施形態の樹脂層(A)は以上の量でスチレン系化合物を含有することにより、樹脂層(A)を破断なく安定的に剥離でき、樹脂残りを低減するという本発明の効果を奏することができる。
【0029】
<好適材料:ポリフェニレンエーテル樹脂>
樹脂層(A)に含まれる各成分のうち、好ましい材料として含有されるポリフェニレンエーテル樹脂は、その構造に起因して耐熱性をより優位に付与する好適な成分である。本実施形態の樹脂層付金属箔は、樹脂層(A)がポリフェニレンエーテル樹脂を含むと、樹脂層付金属箔を基材と高温条件下で積層した場合においても、樹脂層(A)を破断なく、より一層安定的に金属箔から剥離でき、樹脂残りを更に効果的に低減できる。
【0030】
ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、以下に示す一般式(1)で表される構造を有するものが用いられる。例えばポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、一般式(2)で表される構造を有していてもよい。
【0031】
【化1】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ、同一の又は異なる水素原子又は炭素数1以上3以下の炭化水素基を表す。nは1以上の整数を表す。)
【0032】
【化2】
(式中、R1、R2、R3及びR4は一般式(1)と同じである。また、a及びbはそれぞれ1以上100以下の整数を表す。Aは直接結合、又は、炭素数20以下の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基である。なお、複数存在するR1は互いに同一であっても異なってもよく、R2、R3及びR4も同様である。)
【0033】
R1、R2、R3及びR4で表される炭素原子数1~3の炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。Aで表される炭素数20以下の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基としては、直鎖又は分岐状アルキレン基、アルキル基で置換されていてもよいフェニレン基、アルキル基で置換されていてもよいビフェニレン基、及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えばポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレン)エーテル等を用いることができる。
【0034】
樹脂層の耐熱性をより高めるために、ポリフェニレンエーテル樹脂の末端は、熱硬化性官能基で変性されていることが好ましい。熱硬化性官能基としては、例えば水酸基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、グリシジルエーテル基、ビニルベンジル基及びアリル基などが挙げられる。ポリフェニレンエーテルの優れた誘電特性を保持したまま、反応性の高い熱硬化性を付与する官能基である点から、これらの中でもビニルベンジル基、アクリル基、メタクリル基等で変性されたポリフェニレンエーテル樹脂が好ましい。
【0035】
ポリフェニレンエーテル樹脂のGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)分析法による数平均分子量(Mn)は、500以上4,000以下であることが好ましく、600以上3,500以下であることがより好ましい。この範囲とすることで、ポリフェニレンエーテル樹脂が溶剤に溶解しやすくワニス化加工しやすいと共に、樹脂層の強靭性を保持することが可能となる。
【0036】
上述したポリフェニレンエーテル樹脂の利点を有意に作用させるため、樹脂層におけるポリフェニレンエーテル樹脂の含有率は、スチレンブタジエン共重合体100質量部に対し、1質量部以上60質量部以下であることが好ましく、2質量部以上55質量部以下であることがより好ましく、4質量部以上50質量部以下であることが更に一層好ましく、5質量部以上20質量部以下であることが特に好ましい。
【0037】
樹脂層(A)には、剥離容易性を損なわない範囲で、スチレンブタジエン共重合体、スチレン系化合物及びポリフェニレンエーテル樹脂以外の成分が含まれていてもよい。そのような成分としては、無機フィラーや分散剤、熱重合抑制剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、レべリング剤、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。樹脂層(A)の上述した特性をより一層高いものとする観点から、樹脂層(A)中の樹脂成分は、好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは、80質量%以上である。また同様の観点から、樹脂層(A)におけるスチレンブタジエン共重合体、スチレン系化合物及びポリフェニレンエーテル樹脂以外の成分の含有量は、好ましくは、50質量%以下であり、より好ましくは、20質量%以下である。
【0038】
樹脂層(A)は、上記特定成分を上記特定量で含有することに加えて、30℃での貯蔵弾性率が特定範囲のものとなることが好ましい。具体的には、本実施形態における樹脂層(A)は30℃での貯蔵弾性率が、0.1GPa以上であることが、樹脂の剛直性及び強靭性を高めて、剥離の際の樹脂層の変形をより一層防止しやすいため好ましい。剥離の際に樹脂層が変形しやすいと、剥離時に樹脂層が伸びて引き千切れやすく、安定的に金属箔界面から引き剥がしにくい事及び、樹脂残りが生じやすいという問題がある。また30℃での貯蔵弾性率は0.50GPa以下であることが、樹脂層の柔軟性を確保し、剥離の際の樹脂層の脆性をより一層低減できるため好ましい。剥離の際に樹脂層が脆いと樹脂破壊を起こしやすく安定的に金属箔界面から引き剥がしにくい事及び、樹脂残りが生じやすいという問題がある。これらの観点より、樹脂層(A)の前記貯蔵弾性率は、0.12GPa以上0.40GPa以下であることがより好ましく、0.15GPa以上0.32GPa以下であることがより一層好ましい。貯蔵弾性率は後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0039】
樹脂層(A)の成形方法としては、押出成形法、射出成型法、コーティング法などが挙げられるが、金属箔(B)への濡れ性、工程の簡略化等の観点からコーティング法が最も好ましい。コーティング法において用いる溶剤としては、樹脂組成物を溶解又は分散しうる有機溶媒を樹脂の溶解度パラメータ等に応じて適宜選択し用いることができる。また、コーティング後、塗布により得られる樹脂フィルム又はシートは溶剤を揮発する目的などから加熱しても加熱しなくてもよく、加熱する場合は、適宜溶剤に対応した温度及び時間を選択できる。樹脂層(A)は、コーティング法などを用いて金属箔(B)に直接形成してもよく、或いは、上記各種方法を用いて(コーティング法であれば金属箔(B)とは別の基板にコーティング液を塗工して)フィルム状又はシート状の樹脂層(A)を製造し、これを金属箔(B)に加熱圧着や真空ラミネート等の公知の積層方法で積層してもよい。
【0040】
樹脂層(A)の厚さは、金属箔(B)からの剥離容易性及びハンドリング性の点から12μm以上1000μm以下が好ましく、18μm以上、300μm以下であることがより好ましい。
【0041】
樹脂層(A)は、金属箔(B)と直接接するように積層されていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲で他の層を介して積層されていてもよい。他の層を介して積層している場合であっても、樹脂層(A)は、金属箔(B)に対して容易に剥離(分離)するので、金属パターンにおける表面清浄性や表面処理均質性を与えうるものである。上記特定成分を特定比で用いたことによる樹脂層(A)の剥離容易性の効果をより高める観点、及び、製造コストの観点から樹脂層(A)は金属箔(B)と直接接するように積層されていることが好ましい。樹脂層(A)と金属箔(B)との間に他の層を形成する場合、他の層の構成成分としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の離型層を介在させることが挙げられる。
【0042】
樹脂層(A)と金属箔(B)との間の剥離強度Prは、100gf/cm以下であることが、樹脂層(A)の金属箔(B)からの剥離容易性の観点から好ましい。また樹脂層(A)と金属箔(B)との間の剥離強度Prは、2gf/cm以上であることが、樹脂層(A)の金属箔(B)への密着性を一定程度とさせて、樹脂層付金属箔のハンドリング性を向上させる観点から好ましい。これらの観点から、樹脂層(A)と金属箔(B)との間の剥離強度Prは3gf/cm以上80gf/cm以下であることがより好ましく、4gf/cm以上75gf/cm以下であることがより一層好ましい。剥離強度Prを上記の範囲とするためには、樹脂層(A)を上記の特定組成で製造し且つ金属箔(B)における樹脂層(A)側の面の表面粗さを下記の範囲としたり、樹脂層(A)と金属箔(B)とを積層する際の条件を適宜調整すればよい。例えば、金属箔(B)を電解銅としたときの光沢面を樹脂層(A)と接するように樹脂層(A)と金属箔(B)とを積層することも、剥離強度Prを上記範囲とし易いため好ましい。剥離強度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。ここでいう光沢面とは、陰極ドラムを用いた電解法で得られる銅箔において、製造時にドラム側と面していた面である。しかしながら、この方法には限定されず、後述するように、樹脂付金属箔の金属箔が電解法によるキャリア付金属箔である場合、電解法で製造したキャリア(D)のドラム面(光沢面)側に剥離層(C)及び金属箔(B)を設け、且つ該金属箔(B)における電解液面側を樹脂層(A)と接させた状態で該金属箔(B)を樹脂層(A)と積層させるようにしてもよい。
【0043】
次に、金属箔(B)について説明する。金属箔(B)における金属は、所謂導体回路パターンを形成するためのものであり、金、銀、銅、アルミニウム等の低抵抗金属、或いはその合金等が好適であり、とりわけ銅を用いることが導電性及び加工性等の観点から好ましい。銅を用いる場合、金属箔が純銅又は銅合金であり、典型的には銅の割合が95質量%以上であることが導電性、エッチング加工性等の点から好ましい。金属箔(B)の厚さは、樹脂層付金属箔のハンドリング性の点、及び、エッチングのしやすさの点から、例えば、3μm以上、70μm以下であることが好ましく、5μm以上、35μm以下であることがより好ましい。金属箔(B)は製造方法に特に限定はなく、例えば電解法及び圧延法、気相法等のいずれで形成されてもよい。
【0044】
金属箔(B)における樹脂層(A)側の面は、表面粗さ(Rzjis)が4.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは3.0μm以下であり、更に好ましくは2.0μm以下である。表面粗さ(Rzjis)をこの範囲とすることで、金属箔(B)と直接積層した場合の樹脂層(A)の剥離容易性を向上させることができる。また、樹脂層(A)と金属箔(B)との密着性保持の観点から、金属箔における樹脂層(A)側の面の表面粗さ(Rzjis)は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.02μm以上であり、更に好ましくは0.05μm以上である。表面粗さ(Rzjis)はJIS B0601-1994に準拠して測定される。
【0045】
樹脂層付金属箔は、金属箔(B)の厚さが9μm以下と薄い場合、ハンドリング性の向上のために、金属箔(B)における樹脂層(A)と反対側の面に、剥離層(C)(第二剥離層)及びキャリア(D)をこの順で有することが好ましい。
【0046】
キャリア(D)としては、銅、鉄、アルミニウム等の金属、それらの金属を主成分とする合金、ポリエステル、エンジニアリングプラスチックス等の耐熱性樹脂を挙げることができ、金属箔との剥離強度を安定的に確保する点から、好ましくは銅箔である。キャリアの厚さは、搬送性や剥離性の観点から12μm以上100μm以下が好ましく、15μm以上40μm以下がより好ましい。
【0047】
剥離層(C)は金属箔(B)とキャリア(D)との剥離を容易にする目的で使用され、公知の有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられ、中でもトリアゾール化合物は剥離性が安定しやすい点で好ましい。トリアゾール化合物の例としては、1,2,3-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’-ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H-1,2,4-トリアゾール及び3-アミノー1H-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。硫黄含有有機化合物の例としては、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸、2-ベンズイミダゾールチオール等が挙げられる。カルボン酸の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Zn等のうち少なくとも一種からなる金属若しくは合金、又は/及びこれらの酸化物が挙げられる。剥離層(C)の厚さは、典型的には1nm以上1μm以下であり、好ましくは5nm以上500nm以下である。
【0048】
樹脂層付金属箔が剥離層(C)及びキャリア(D)を有する場合、キャリア(D)と金属箔(B)との間の剥離強度Pc(剥離層(C)における剥離の剥離強度)は、樹脂層(A)と金属箔(B)との間の剥離強度Prに比べて、通常小さいものとなる。これにより樹脂層付金属箔は、キャリア(D)をパターン形成前に剥離し、転写後に樹脂層(A)を剥離するという2段階剥離を要する用途に使用しやすいものとなる。
【0049】
キャリア(D)と金属箔(B)との間の剥離強度Pcは、典型的には、100gf/cm以下であることが、キャリア(D)の金属箔(B)からの剥離容易性の観点から好ましい。またキャリア(D)と金属箔(B)との間の剥離強度Pcは、1gf/cm以上であることが、キャリア(D)の金属箔(B)への密着性を一定程度とさせて、樹脂層付金属箔のハンドリング性を向上させる観点から好ましい。これらの観点から、キャリア(D)と金属箔(B)との間の剥離強度Pcは2gf/cm以上50gf/cm以下であることがより好ましく、3gf/cm以上30gf/cm以下であることがより一層好ましい。剥離強度Pcを上記の範囲とするためには、剥離層(C)の厚さやキャリア(D)の厚さや剥離層側の表面粗さ等を適宜調整することで制御が可能である。剥離強度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。また積層体の製造過程中で、キャリア(D)を金属箔(B)から剥離する際における樹脂層(A)の金属箔(B)からの剥離を一層効果的に防止する点から、剥離強度Pcと剥離強度Prとの差Pr-Pcは、好ましくは2gf/cm以上30gf/cm以下であり、より好ましくは3gf/cm以上20gf/cm以下である。
【0050】
剥離層(C)及びキャリア(D)を備えた樹脂層付金属箔を製造する際には、例えば、金属箔(B)、剥離層(C)及びキャリア(D)がこの順に積層されてなるキャリア付き金属箔を用意し、このキャリア付き金属箔を、金属箔(B)が樹脂層(A)と対面するように積層する方法を採用できる。この場合のキャリア付き金属箔と樹脂層(A)との積層方法は、上記で述べたコーティング法等の各種の方法及びその好ましい条件を採用できる。また、金属箔(B)、剥離層(C)及びキャリア(D)を積層して前記のキャリア付き金属箔を得る方法としては、例えば、キャリア(D)が銅箔の場合には、圧延法、電解法などの方法で形成することが可能である。
【0051】
上記の樹脂層付金属箔を用いた本実施形態の積層体の製造方法を更に詳細に説明する。本製造方法では、
(1)樹脂層付金属箔における該金属箔(B)をエッチングして所定のパターンを形成する工程と、
(2)前記樹脂層付金属箔における前記パターンが形成された面側に、基材を積層する工程と、
(3)樹脂層(A)を機械的に剥離する工程と、を備える。
樹脂層付金属箔が剥離層(C)及びキャリア(D)を備えている場合には、この樹脂層付金属箔からキャリア(D)を機械的に剥離した後に(1)の工程を行う。
【0052】
(1)の工程は通常、サブトラクティブ法により行うことができる。この場合、樹脂層付金属箔における金属箔(B)の上面の全面にフォトレジストからなる層を設け、次いでこの層に配線パターンを露光し、更に配線パターンとなる部位以外を現像除去することにより銅層が露出する開口部が形成されたエッチングレジスト層を得る。次いでエッチング処理により、エッチングレジスト層の開口部における銅を除去して、所定のパターンを形成する。エッチング液は、サブトラクティブ法で用いられる従来公知のものが特に制限なく使用できる。その後、苛性ソーダ水溶液等を用いて、エッチングレジストを除去する。このようにして、回路配線層付き転写用積層体である樹脂層付金属箔が得られる。
【0053】
上記の通り、(2)の工程では、樹脂層付金属箔における前記パターンが形成された面側に基材を積層する。基材は板状又はシート状の形状を有しており、その構成材料としては、樹脂等の有機系材料と、ガラスクロス、無機フィラー等の無機系材料との複合材料が挙げられる。例えば、基材を樹脂で構成する場合、熱可塑性樹脂や半硬化状態の熱硬化性樹脂が挙げられる。基材構成材料が熱可塑性樹脂である場合、樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、液晶ポリマー、ポリフェンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。ここでいう熱硬化性樹脂としては、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ビスマレイミド樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、トリアジン樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリウレタン樹脂等があり、この中でもBステージ状態が形成できるものが好ましい。この場合基材には、任意の無機又は有機質のフィラーが含有されていてもよい。
【0054】
基材の厚みは、最終目的の積層体の用途に応じて適宜設定されるが、一般に50μm以上2000μm以下が好ましい。
【0055】
(2)の工程では、先に述べた樹脂層付金属箔におけるパターンが形成された面が基材と対面するように、樹脂層付金属箔と基材とを重ね合わせて圧着する。
この圧着条件は、基材の溶融粘弾性とパターン転写性に応じ適宜調整され得るものであるが、転写されるパターンの密着強度保持や樹脂層の熱分解を鑑み、40℃以上280℃以下、0.15MPa以上5MPa以下の条件で使うことが好ましい。
【0056】
次いで(3)の工程で、樹脂層(A)を金属箔(B)(及び必要に応じて基材)から機械的に剥離することにより、基材上にパターンが形成された配線積層体(本明細書では単に「積層体」という場合がある)を形成することができる。機械的な剥離は、例えば手動による剥離や、オートピーラーによる剥離装置等を用いて行うことができる。基材を熱硬化性樹脂から構成する場合、この配線積層体を更に加熱して基材を完全に硬化させる。
【0057】
本実施形態の積層体の製造方法では、上記特定の樹脂層(A)を有する樹脂層付金属箔を用いていることにより、上記積層体におけるパターン表面に樹脂残りがない。このため、上記積層体はパターン表面の清浄性が優れている。また、例えば、積層体はパターン表面に表面処理を施した場合、この表面処理を均質に行え、得られるパターン表面の状態が均質になるというメリットがある。このような表面処理方法としては、水等での洗浄以外に粗化処理やソフトエッチング、各種の貴金属めっき処理等が挙げられる。粗化処理は、例えば化学エッチング法、物理エッチング法、電解法等、様々な工法が採用可能である。本実施形態の方法で得られる積層体は、配線パターン表面に樹脂残りがほとんど存在しないため、耐熱信頼性の高いものとなる。
【0058】
以上のようにして得られた積層体は、その信頼性の高さをリジッド多層配線板、フレキシブルプリント配線板等のプリント配線板や、ディスプレイパネル用配線、窓ガラスの中間層に貼り付けられた配線やデフロスタ、デフォッガ、太陽電池パネル用配線等として好適に用いることができる。
【0059】
以上の通り、好ましい実施形態に基づき本発明の樹脂層付金属箔及び積層体の製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の樹脂層付金属箔は、(1)の工程を、例えばアディティブ法により行う積層体の製造方法に適用してもよい。また、本発明において、樹脂層付金属箔は、上述したように、樹脂層(A)における金属箔(B)の反対側の面にポリエチレンテレフタレート等の支持体が積層することを要しない。しかしながら、そのような支持体を設けて、転写時において、樹脂層(A)とともに支持体を剥離する形態も、本発明の樹脂層付金属箔及び積層体の製造方法に含まれることはいうまでもない。また本発明の第1の積層体の製造方法のみならず、本発明の第2の積層体の製造方法においても、特許文献1及び2における、上述した金属箔等からの剥離時に粘着層が破断する、及び、金属箔上における粘着層に加えて支持体としての樹脂フィルムが必要であるという課題を解決することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
なお、実施例及び比較例にて樹脂組成物の調製に採用した成分は、それぞれ下記の通りである。
1.スチレンブタジエン共重合体(実施例及び比較例)
(1)SB1
試料:JSR株式会社 TR2250
数平均分子量Mn:100,000
スチレンユニット含有率:52重量%
(2)SB2
試料:JSR株式会社 TR2003
数平均分子量Mn:100,000
スチレンユニット含有率:43重量%
2.スチレン系化合物(実施例及び比較例)
(1)ST1
ポリスチレン(DIC株式会社 CR2500)
数平均分子量Mn:230,000
(2)ST2
2,4-ジフェニルー4-メチル-1-ペンテン:67質量%
ポリスチレン(DIC株式会社 CR2500):33質量%
上記2成分を上記の割合で混合した混合物の数平均分子量Mn:76,000
3.ポリフェニレンエーテル樹脂(実施例及び比較例)
三菱ガス化学株式会社 OPE-2St(1200)
数平均分子量Mn:1,150
4.アクリル樹脂系組成物(比較例のみ)
ブチル-2-メチル-アクリレート:100質量部に対し、
アクリル酸:10質量部
イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社 L-45):3質量部
ベンゾトリアゾール:3質量部
の割合で配合したもの
【0061】
〔実施例1〕
樹脂層(A)及び、金属箔(B)としての銅箔をこの順で積層した樹脂層付金属箔を以下の手順で用意した。
まず、銅箔は、電解法によって形成され且つ樹脂層(A)側の表面粗さ(Rzjis)が0.8μm、反対側の表面粗さ(Rzjis)が1.5μmであり、厚さが18μmのものであった。
【0062】
一方、下記表1に記載の組成の樹脂組成物を、溶剤であるトルエンに溶解し、樹脂固形分25%の樹脂ワニスを調製し、上記銅箔上に塗布し、風乾後、150℃、3分の加熱処理を行って、樹脂層(A)の厚さが50μmの樹脂層付金属箔を得た。
【0063】
露出した金属箔(B)の表面に、フォトレジスト(厚さ20μm)を用いて、レジストマスクを形成した。次いで、パターンを形成する部分をマスクしたフォトマスクを用いて、紫外線照射を行って配線パターン(配線形成部のライン/スペース(L/S):100μm/100μm)が形成されたピース(150mm sq.)を20ピース形成した後、現像液として炭酸ナトリウムの5%溶液を用いて現像を行い、配線パターン部分以外を除去して、エッチングレジスト層を形成した。エッチング液(塩化第二銅の濃度約135g/L、塩酸濃度105g/Lの水溶液)に、樹脂層付金属箔を浸漬させてエッチングを行った。エッチング後、水で回路を洗浄した後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてレジストを除去し、再度水で洗浄し、乾燥させ、配線パターンが形成された転写用の樹脂層付金属箔を得た。
【0064】
次いで、プリプレグ(三菱ガス化学株式会社製:GHPL-830NS、厚さ100μm)に、転写用の樹脂層付金属箔における金属箔(B)の、樹脂層と反対側の表面を重ね合わせ、0.2MPaの圧力で、60秒加圧して、前記転写用積層体の配線パターンをプリプレグに埋め込んだ配線積層体前駆体を得た。
積層温度は下記の2種類とした。
(1)積層温度1:90℃
(2)積層温度2:130℃
得られた配線積層体前駆体に対して、下記の評価を行った。
【0065】
〔評価〕
<剥離強度の測定>
樹脂層(A)と金属箔(B)との剥離強度Prについて、90℃で積層された配線積層体前駆体における金属箔がベタパターンの領域を用い、JIS C6481(引張速度:50mm/min)に準拠して測定した。測定結果を表1に示す。
比較例1~比較例5では、引き剥がしに伴い樹脂層(A)の内部で破壊が発生したため、剥離強度Prを測定できなかった。
【0066】
<樹脂層の剥離耐久性及び剥離残渣の評価>
更に、樹脂層について下記の2通りの剥離速度にて評価を行った。
(1)剥離速度1:50mm/min
(2)剥離速度2:300mm/min
前記配線積層体前駆体の樹脂層(A)をピーラーを用いて機械的に引き剥がし、配線パターンが転写された配線積層体を得た。
この積層体においては、配線パターンが硬化後の樹脂からなる絶縁シート表面にほぼ完全に埋め込まれており、絶縁シート表面と配線パターン表面とが略同一平面上に位置していることを確認した。
この後、圧力3.0MPa、220℃、90分の条件で更に配線積層体のプリプレグ樹脂を硬化して配線積層板を得た。
更に、樹脂層(A)剥離後の配線パターンの表面を亜塩素酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムの混合溶液を用いた黒化処理と、ジメチルアミンボランと水酸化ナトリウムの混合溶液を用いた還元処理により粗化処理した。
剥離時においては、樹脂層(A)の破断耐久性を目視で確認した。また、黒化処理後においては、樹脂層(A)の微視的な残渣による配線パターンの黒化処理不良が発生したピースを目視及び50倍の実体顕微鏡にて確認し、以下の評価基準に基づき判定を行った。(%の数値は不良率(観察した20ピースのうちの処理不良が発生したピースの割合)を指す)。
(評価基準)
AA:樹脂破断なし、且つ黒化処理不良率 0%(最良)
A :樹脂破断なし、且つ黒化処理不良率 0%超10%以下(良)
B :樹脂破断なし、且つ黒化処理不良率 10%超20%以下(可)
C :樹脂破断又は/及び引剥し不可且つ
配線パターン上残渣不良率 20%超(不可)
【0067】
<貯蔵弾性率>
貯蔵弾性率の測定は、配線パターンから剥離した後の樹脂層(A)について、動的粘弾性測定装置(DMA)にてJIS K7244(1999)記載の引張振動-非共振法に準拠し、測定は、大気雰囲気、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにて行った貯蔵弾性率を測定し、30℃における貯蔵弾性率E’を得た。
【0068】
〔実施例2、4~8、比較例1~5〕
樹脂層(A)における樹脂の組成を、表1と同様にした以外は、実施例1と同様にした。なお、比較例5は、上記特許文献2の粘着層と同様の成分を樹脂層の形成に用いた例である。
【0069】
〔実施例3〕
本実施例では、金属箔として下記(1)~(3)に示す手順で製造したキャリア付銅箔を用いた点、樹脂層における樹脂の組成を表1に記載の通りとした点、キャリア付銅箔における極薄銅箔のキャリアと反対側の面上に樹脂層(A)を形成した後にキャリアを手動で機械的に剥離して、樹脂層付き銅箔を得た点以外は実施例1と同様にした。なお、キャリア付銅箔におけるキャリアと銅箔との剥離強度Pcは以下のようにして測定した。
(1)キャリア用電解銅箔の製造
銅電解液として硫酸酸性硫酸銅溶液を用い、陰極に表面粗さRaが0.20μmのチタン製の回転電極ドラムを用い、陽極にはDSA(寸法安定性陽極)を用いて、溶液温度45℃、電流密度55A/dm2で電解し、厚さ12μmのキャリア用電解銅箔(以下、銅箔Aという)を得た。
(2)有機剥離層(第二剥離層)の形成
酸洗処理された銅箔Aのドラム面側を、CBTA(カルボキシベンゾトリアゾール)1000重量ppm、硫酸150g/L及び銅10g/Lを含むCBTA水溶液に、液温30℃で30秒間浸漬して引き上げた。こうしてCBTA成分を銅箔のドラム面側に吸着させて、CBTA層を有機剥離層として形成させた。
(3)銅箔の形成
有機剥離層を形成した銅箔Aのドラム面側に対して酸性硫酸銅溶液中で、電流密度8A/dm2で厚さ7μmの極薄銅箔を有機剥離層上に形成した。この極薄銅箔の表面(有機剥離層と反対側の表面)は、表面粗さ(Rzjis)が0.8μmであった。
【0070】
<キャリアと金属箔の剥離強度Pc>
キャリアと金属箔の剥離強度Pcは、上記のキャリア付銅箔の銅箔と、ガラス基板とを両面テープで張り付けた積層体についてJIS C6481に準拠して測定した(引張速度:50mm/min)。剥離強度Pcは15gf/cmであった。
【0071】
【0072】
表1に示すように、各実施例では、配線パターンから樹脂層(A)を剥離したときに樹脂層内部で破断することがなく、また、樹脂層(A)を金属箔(B)との界面で安定的に剥離することが可能であり、表面処理ムラも観察されなかった。これに対し、比較例1~5では、剥離の際に樹脂層内部で破断してしまい、表面処理ムラが観察された。
従って本発明の積層体の製造方法では、特定の樹脂構成の樹脂層(A)を用いることにより、樹脂層(A)を破断なく安定的に剥離でき、かつ、配線パターン表面への樹脂残りが少ないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の積層体の製造方法及び樹脂層付金属箔によれば、ポリエチレンテレフタレート等の支持体を用いずとも、パターンを転写した後に樹脂層を機械的に剥離する際、樹脂層の破断なく安定に剥離することが可能である。
また、本発明の積層体の製造方法及び樹脂層付金属箔によれば、樹脂層を機械的に剥離した後の金属箔表面における樹脂残りを極度に低減することができる。このため、本発明の積層体の製造方法及び樹脂層付金属箔によれば、配線パターン表面状態の均一性に優れた金属の配線パターンが形成された積層体を転写法により容易に形成できる。