(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】乗物用フロア構造
(51)【国際特許分類】
B60N 3/04 20060101AFI20220325BHJP
【FI】
B60N3/04 A
(21)【出願番号】P 2018075129
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大策
(72)【発明者】
【氏名】酒向 慎貴
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0050735(US,A1)
【文献】特開2007-314160(JP,A)
【文献】特開2010-6194(JP,A)
【文献】特開2003-127796(JP,A)
【文献】実開昭64-48377(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 3/04
A47G 27/00-06
B60R 13/01-04、08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物のフロアパネルに敷設されるマット部材と、
前記フロアパネルに室内側から取り付けられる室内部品と、を有し、
前記フロアパネルと前記マット部材との間には、空気層が形成され、
前記マット部材を、前記室内部品の下方に位置する第1領域と、前記第1領域以外の領域である第2領域とに区画した場合に、前記空気層は、前記マット部材における単位面積当たりの占有率が、前記第1領域よりも前記第2領域の方が低いことを特徴とする乗物用フロア構造。
【請求項2】
前記第2領域に形成される前記空気層は、平面視ハニカム構造であることを特徴とする請求項1に記載の乗物用フロア構造。
【請求項3】
前記第1領域に形成される前記空気層は、前記第1領域の全域に亘って形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗物用フロア構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用フロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗物用フロア構造として、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載の乗物用フロア構造では、 車体パネルの室内面側に防音材を取り付けてなる車両の防音構造において、防音材は、車体パネルの室内面形状に合わせて成形された緻密多孔質吸音体の単一層から構成され、車体パネルとの間で所定クリアランスの空気層を介して車体パネルの室内面に取り付けられ、緻密多孔質吸音体の密度及び厚みと、空気層の厚みとを車体パネルから室内側に伝播する騒音の周波数レベルに応じて調整することが開示されている。そしてこのような構成により、製品重量を低減化することで、燃費効率を高め、かつ車体パネルへの取付作業性を高めることができる。また、良好な遮音特性を発揮することができるとともに、室内側から反射する反射騒音に対しても、緻密多孔質吸音体から再度内部に吸音することができ、吸音特性に優れる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば乗物のフロアパネル上では、防音性に加えて、断熱性も備えた乗物用フロア構造の提供が望まれる。しかし、このような場所に提供される乗物用フロア構造は、乗員の踏み心地を確保するため、適度な剛性が必要となる部分が存在する。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、踏み心地を損なうことなく、防音性や断熱性を向上することができる乗物用フロア構造を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、乗物のフロアパネルに敷設されるマット部材と、フロアパネルに室内側から取り付けられる室内部品と、を有し、フロアパネルとマット部材との間には、空気層が形成され、マット部材を、室内部品の下方に位置する第1領域と、第1領域以外の領域である第2領域とに区画した場合に、空気層は、マット部材における単位面積当たりの占有率が、第1領域よりも第2領域の方が低いことに特徴を有する。
【0007】
このような乗物用フロア構造によると、乗員がマット部材を踏むことで圧力がかかりやすい場所(第2領域)と、そうではない場所(第1領域)とで、マット部材における単位面積当たりの空気層の占有率が変化することとなる。そして、その占有率は第1領域よりも第2領域の方が低い。従って、マット部材において、踏み心地が不要な第1領域では、十分な空気層によって防音性や断熱性を確保しつつ、第2領域では、剛性を保って、踏み心地を確保することが可能となる乗物用フロア構造を提供することができる。
【0008】
上記構成において、前記第2領域に形成される前記空気層は、平面視ハニカム構造であることとすることができる。このような乗物用フロア構造によると、フロアパネルとマット部材との間の限られた空間に形成された空気層を効率的に得るとともに、第2領域のマット部材の剛性を高めることができる。すなわち、第2領域において、防音性及び断熱性と、踏み心地とを両得することが可能な乗物用フロア構造を提供することができる。
【0009】
上記構成において、前記空気層は、前記第1領域の全域に亘って形成されていることとすることができる。このような乗物用フロア構造によると、マット部材において踏み心地が不要な第1領域の全域で音や熱を遮蔽することができる。従って、マット部材において、第2領域で踏み心地を保ちつつ、第1領域で防音性や断熱性を向上させることが可能な乗物用フロア構造を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、踏み心地を損なうことなく、防音性や断熱性を向上することができる乗物用フロア構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係る車両の室内を上方から視た図
【
図2】フロントシート及び乗物用フロア構造の断面図(
図1のII―II線断面)
【
図3】乗物用フロア構造の断面図(
図2のIII-III線断面)
【
図4】実施形態2に係る乗物用フロア構造の断面図(
図3に対応)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を
図1ないし
図3によって説明する。なお、矢指方向Lを左方、矢指方向Rを右方、矢指方向FRを前方、矢指方向RRを後方、矢指方向Tを上方、矢指方向Bを下方として説明する。
【0013】
車両(乗物)1は、
図1に示すように、車室前方に配されて運転席や助手席となるフロントシート30、車室後方に配されるリアシート40、計器類を有するインストルメントパネル5等を備える。車両1の床下には、
図2及び
図3に示すように、車両1の前後方向及び左右方向(車幅方向)に延在する平面視長方形状のフロアパネル2が形成されている。本実施形態において、フロアパネル2およびフロントシート30は乗物用フロア構造10を構成している。
【0014】
フロントシート30は、乗員が着座するシートクッション(室内部品)31と、着座した際の背もたれとなるシートバック34と、を有する。シートクッション31の下方には、フロントシート30を車両前後方向にスライドするためのスライド装置32と、フロアパネル2にフロントシート30を取り付けるための一対の取付部材33,33と、が配されている。
【0015】
フロアパネル2は、車室内側に膨出して車幅方向に延在し、一対の取付部材33,33が取り付けられる平面視長方形状の一対の被取付部20,20と、車室内側に膨出して車両前後方向に延在し、被取付部20,20の左右の端とつながる側端部21,21と、を有する。被取付部20,20と側端部21,21は、互いに直交するようにして配されている。
【0016】
一対の取付部材33,33は、シートクッション31の下方であって、シートクッション31の前方の端部及び後方の端部に対応する位置にそれぞれ配されている。同様に、一対の被取付部20,20は、シートクッション31の下方であって、シートクッション31の前方の端部及び後方の端部に対応する位置にそれぞれ配されている。シートクッション31は、取付部材33,33及び被取付部20,20を介することで、車室内側からフロアパネル2に取り付けられている。
【0017】
また、
図1ないし
図3に示すように、乗物用フロア構造10は、フロアパネル2上に敷設され、被取付部20,20と側端部21,21によって仕切られたマット部材12(第1マット部材12a及び第2マット部材12b)と、マット部材12の上面に接着したカーペット11と、を有する。カーペット11は、
図2及び
図3に示すように、マット部材12の上面以外の部分、例えば被取付部20,20の上面や側端部21,21の上面も覆うように延在している。
【0018】
マット部材12は、一対の被取付部20,20の内側に配された平面視四角形状かつ板状の第1マット部材12aと、一対の被取付部20,20の外側に配された板状の第2マット部材12bとから成る。すなわち、マット部材12は、シートクッション31の下方に位置する第1領域A1と、第1領域A1以外の領域である第2領域A2とに区画されているともいえる。なお、マット部材12において、リアシート40を構成するシートクッションの下方の区画も第1領域A1とする。
【0019】
マット部材12a,12bの材質としては、織布もしくは不織布といった繊維材や、ウレタン素材の発泡材等を採用することができる。そのため、マット部材12a,12bは、乗員に快適な踏み心地を提供することができる程度の弾性を有する。
【0020】
フロアパネル2とマット部材12a,12bとの間には、空気層13a,13bが形成されている。具体的には、フロアパネル2と第1マット部材12aとの間の空間に、第1領域A1の全域に行き渡る、すなわち、第1領域A1を連通する第1空気層13aが形成されている。そして、フロアパネル2と第2マット部材12bとの間の空間に、複数の第2空気層13bが形成されている。
【0021】
なお、防音性や断熱性を効果的に得るため、フロアパネル2から車室内側へ向かう方向における空気層13a,13bの高さ(厚み)は7mm以下が好ましい。本実施形態において、空気層13a,13bの高さは、車両前後方向および左右方向に亘って一定の高さに設定されている。
【0022】
第1空気層13aは、第1領域A1の全域に亘って形成されている。すなわち、第1空気層13aは、平面視した場合に、第1マット部材12aの形状と同一の四角形状を成し、第1マット部材12aと重なっている。ところで、第1マット部材12aは、例えば、カーペット11から剥がれない程度の接着力でカーペット11に接着したり、図示しない支持体によって支持されたりしてその位置を保持している。従って、第1空気層13aは、第1マット部材12aによって潰されることがなく、その空間を維持している。
【0023】
1つの第2空気層13bは、
図2に示す断面視ではフロアパネル2上から車室内側へ窪んだ台形状を成し、
図3に示す平面視では正六角形状を成している。複数の第2空気層13bは、その1つ1つが車両前後方向に亘って等間隔に並びつつ、左右方向に亘って互い違いに配されて平面視ハニカム構造を形成している。
【0024】
ところで、第2マット部材12bは、
図2及び
図3に示すように、フロアパネル2上まで延出して当接することで第2マット部材12bを支持しつつ、第2空気層13bの側壁を成す支持壁部14を有する。従って、1つの第2空気層13bは、その周囲が支持壁部14によって平面視正六角形状に囲まれることで形成されている。言い換えれば、1つの第2空気層13bの周囲の支持壁部14は、平面視正六角形状を形成しているので、支持壁部14全体として平面視ハニカム構造を形成している。
【0025】
ここで、乗物用フロア構造10を空気層13a,13bの高さの中間で断面視した
図3にて、第1領域A1と第2領域A2のそれぞれの領域について、マット部材12a,12bにおける単位面積当たりの空気層13a,13bの占有率を百分率で表すと次のようになる。第1領域A1では、第1空気層13aがその全域に亘って形成されているため、上記占有率は100%となる。一方、第2領域A2では、1つの第2空気層13bとその隣の第2空気層13bとの間に第2マット部材12bの支持壁部14が存在しているので、上記占有率は100%よりも小さくなる(例えば80%程度)。すなわち、空気層13a,13bは、マット部材12a,12bにおける単位面積当たりの占有率が、第1領域A1よりも第2領域A2の方が低い構成となっている。
【0026】
尚、
図2に示すように、空気層13a,13bの高さは一定なので、空気層13a,13bは、マット部材12a,12bにおける単位体積当たりの占有率についても、第1領域A1より第2領域A2の方が低い構成となる。
【0027】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、乗物1のフロアパネル2に敷設されるマット部材12a,12bと、フロアパネル2に室内側から取り付けられる室内部品31と、を有し、フロアパネル2とマット部材12a,12bとの間には、空気層13a,13bが形成され、マット部材12a,12bを、室内部品31の下方に位置する第1領域A1と、第1領域A1以外の領域である第2領域A2とに区画した場合に、空気層13a,13bは、マット部材12a,12bにおける単位面積当たりの占有率が、第1領域A1よりも第2領域A2の方が低いことに特徴を有する。
【0028】
このような乗物用フロア構造10によると、乗員がマット部材12a,12bを踏むことで圧力がかかりやすい場所(第2領域A2)と、そうではない場所(第1領域A1)とで、マット部材12a,12bにおける単位面積当たりの空気層13a,13bの占有率が変化することとなる。そして、その占有率は第1領域A1よりも第2領域A2の方が低い。従って、マット部材12a,12bにおいて、踏み心地が不要な第1領域A1では、十分な第1空気層13aによって防音性や断熱性を確保しつつ、第2領域A2では、剛性を保って、踏み心地を確保することが可能となる乗物用フロア構造10を提供することができる。
【0029】
また、本実施形態では、第2領域A2に形成される第2空気層13bは、平面視ハニカム構造であることとすることができる。このような乗物用フロア構造10によると、フロアパネル2と第2マット部材12bとの間の限られた空間に形成された第2空気層13bを効率的に得ることができる。また、1つの第2空気層13bの周囲の支持壁部14は、平面視正六角形状を形成し、支持壁部14全体として平面視ハニカム構造を形成しているので、第2領域A2の第2マット部材12bの剛性を高めることができる。すなわち、第2領域A2において、防音性及び断熱性と、踏み心地とを両得することが可能な乗物用フロア構造10を提供することができる。
【0030】
また、本実施形態では、第1空気層13aは、第1領域A1の全域に亘って形成されていることとすることができる。このような乗物用フロア構造10によると、マット部材12a,12bにおいて踏み心地が不要な第1領域A1の全域で音や熱を遮蔽することができる。従って、マット部材12において、第2領域A2で踏み心地を保ちつつ、第1領域A1で防音性や断熱性を向上させることが可能な乗物用フロア構造10を提供することができる。
【0031】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を
図4によって説明する。本実施形態では、実施形態1とは第2空気層および支持壁部の構成が異なる乗物用フロア構造を例示する。なお、本実施形態では、上記実施形態と同じ部位には、同一の符号を用い、構造及び効果について重複する説明は省略する。
【0032】
1つの第2空気層213bは、その周囲が支持壁部214によって平面視正方形状に囲まれることで形成されている。複数の第2空気層213bは、その1つ1つが車両前後方向及び左右方向に亘って等間隔に並んで配されている。従って、支持壁部214全体としては、平面視格子状を形成している。
【0033】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0034】
(1)上記実施形態以外にも、室内部品は適宜変更可能である。上記実施形態では、室内部品は、フロントシート30のシートクッション31としたが、これに限られない。例えば、室内部品は、リアシート40のシートクッションであってもよい。
【0035】
(2)上記実施形態以外にも、第1空気層の形状は適宜変更可能である。上記実施形態では、第1空気層の形状は、平面視四角形状かつ連通する1つの空気層としたが、これに限られない。例えば、第1マット部材が支持壁部を有することで、第1空気層は、支持壁部によって分割された形状であってもよい。
【0036】
(3)上記実施形態以外にも、1つの第2空気層の形状は適宜変更可能である。上記実施形態では、1つの第2空気層の形状は、平面視正六角形状や平面視正四角形状としたが、これに限られない。例えば、1つの第2空気層の形状は、平面視円形状や平面視三角形状であってもよい。
【0037】
(4)上記実施形態以外にも、空気層の高さは適宜変更可能である。上記実施形態では、空気層の高さは、車両前後方向および左右方向に亘って一定の高さに設定された構成としたが、これに限られない。例えば、第2空気層の高さが、第1空気層の高さよりも低くなるように設定された構成であってもよい。
【0038】
(5)上記各実施形態で例示した乗物用フロア構造は、車両用に提供されるもの限られず、種々の乗物において提供されるものであってもよい。例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物についても上記乗物用フロア構造を適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…車両(乗物)、2…フロアパネル、10…乗物用フロア構造、11…カーペット、12a,12b…マット部材、13a,13b…空気層、14,214…支持壁部、20,20…被取付部、21,21…側端部、30…フロントシート、31…シートクッション(室内部品)、32…スライド装置、33,33…取付部材、A1…第1領域、A2…第2領域