(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/08 20060101AFI20220325BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
B01J19/08 J
H05H1/24
(21)【出願番号】P 2017095597
(22)【出願日】2017-05-12
【審査請求日】2020-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】石島 達夫
(72)【発明者】
【氏名】森本 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】上杉 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 康規
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-032940(JP,A)
【文献】特開2005-135736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00-12/02
14/00-19/32
A61L 2/00- 2/28
11/00-12/14
H05H 1/00- 1/54
A23L 3/00- 3/3598
B01F 27/00-27/96
35/00-35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で構成され、粉粒体を保持する反応容器と、
前記反応容器に設けられた第1電極および第2電極と、
前記反応容器の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転可能な導電性の攪拌羽根と、
前記攪拌羽根を回転させるモーターと、
前記第1電極と前記第2電極との間に交流電圧またはパルス電圧を印加する電源と、
を備え
、
前記攪拌羽根は、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられているプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記反応容器の少なくとも一部は円筒体であり、
前記攪拌羽根の回転軸は、前記円筒体の中心軸に配置され、
前記攪拌羽根は、前記円筒体の内面に沿って回転する、
請求項
1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記第1電極および第2電極は、前記円筒体に設けられている、
請求項
2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記反応容器は、蓋部が蓋板で閉じられ、
前記第1電極は前記蓋板に設けられ、前記第2電極は前記円筒体に設けられている、
請求項
2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
誘電体で構成され、粉粒体を保持する反応容器と、
前記反応容器に設けられた第1電極および第2電極と、
前記反応容器の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転可能な導電性の攪拌羽根と、
前記攪拌羽根を回転させるモーターと、
前記第1電極と前記第2電極との間に交流電圧またはパルス電圧を印加する電源と、
を備え、
前記反応容器の少なくとも一部は円筒体であり、
前記攪拌羽根の回転軸は、前記円筒体の中心軸に配置され、
前記攪拌羽根は、前記円筒体の内面に沿って回転し、
前記第1電極および第2電極は、前記円筒体に設けられており、
前記反応容器は、底部が底板で閉じられ、
前記反応容器の底部に、前記攪拌羽根とともに回転する円盤体が設けられて
おり、
前記攪拌羽根は、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられている、
プラズマ処理装置。
【請求項6】
誘電体で構成され、粉粒体を保持する反応容器と、
前記反応容器に設けられた第1電極および第2電極と、
前記反応容器の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転可能な導電性の攪拌羽根と、
前記攪拌羽根を回転させるモーターと、
前記第1電極と前記第2電極との間に交流電圧またはパルス電圧を印加する電源と、
を備え、
前記反応容器の少なくとも一部は円筒体であり、
前記攪拌羽根の回転軸は、前記円筒体の中心軸に配置され、
前記攪拌羽根は、前記円筒体の内面に沿って回転し、
前記反応容器は、蓋部が蓋板で閉じられ、
前記第1電極は前記蓋板に設けられ、前記第2電極は前記円筒体に設けられており、
前記反応容器は、底部が底板で閉じられ、
前記反応容器の底部に、前記攪拌羽根とともに回転する円盤体が設けられて
おり、
前記攪拌羽根は、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられている、
プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記
モーターの出力軸と前記攪拌羽根の回転軸とは、絶縁性のジョイントを介して連結され、前記攪拌羽根は、前記電源に接続されていない、
請求項1から
6のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置と、
前記プラズマ処理装置の反応容器に接続された導入管と、
前記反応容器に接続された排気管と、
前記排気管に接続され、前記排気管から気体を吸引するポンプと、
粉粒体を前記導入管内へ供給する供給器と、
前記排気管内で粉粒体を濾過回収する回収器と、
を備えるプラズマ処理システム。
【請求項9】
第1電極および第2電極が設けられた反応容器に粉粒体を導入し、
導電性の攪拌羽根を、前記反応容器の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転させながら、前記第1電極および前記第2電極に交流電圧またはパルス電圧を印加し、前記空隙にプラズマを発生さ
せ、
前記攪拌羽根は、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられている、
プラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置およびプラズマ処理方法に関し、特にプラズマにより粉粒体を処理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマにより粉粒体を処理するプラズマ処理装置が知られている(例えば、特許文献1の活性化装置)。特許文献1の第39図には、プラズマ処理装置の応用例として、かくはん室の内部に誘電体製のライナを嵌合せしめ、かくはん機を励起電極としたかくはん摩砕ミルが示されている。励起電極は粉砕室とは軸受部にて絶縁されており、ブラシを介して、交流電源と接続される。このかくはん摩砕ミルによれば、対象物を粉砕すると同時に活性化(プラズマ処理)することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、プラズマにより粉粒体食品素材を殺菌処理するプラズマ処理装置について検討している。粉粒体食品素材を処理するプラズマ処理装置では、プラズマの熱による食品素材への影響を抑えつつ、処理効率を高めることが求められる。
【0005】
粉粒体は容器(以下、反応容器とも言う)に付着しやすく、粉粒体が重なりあって付着すると、プラズマによって生成された活性種が下層の粉粒体に届かず、処理効率が低下する。そこで、反応容器内で攪拌羽根を回転させて反応容器内に旋回気流を形成し、粉粒体の反応容器への付着を抑制し、粉粒体を反応容器内に分散させることを検討する。
【0006】
反応容器内で攪拌羽根を回転させるプラズマ処理装置は、構成において、粉砕室内でかくはん機を回転させる従来のかくはん摩砕ミルと類似する。しかしながら、旋回気流の形成を主な目的とする攪拌羽根は、粉粒体の摩砕を主な目的とするかくはん機と異なり、極めて高速に回転させる必要がある。そのため、従来のかくはん摩砕ミルに倣い、攪拌羽根にブラシを介して電圧を印加する構成を採用すると、装置の信頼性やメンテナンス性が低下することが懸念される。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、プラズマにより粉粒体を処理し、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明の1つの態様に係るプラズマ処理装置は、誘電体で構成され、粉粒体を保持する反応容器と、前記反応容器に設けられた第1電極および第2電極と、前記反応容器の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転可能な導電性の攪拌羽根と、前記攪拌羽根を回転させる回転器と、前記第1電極と前記第2電極との間に交流電圧またはパルス電圧を印加する電源と、を備える。
【0009】
このような構成によれば、第1電極と第2電極との間に印加された電圧によって導電性の攪拌羽根に静電誘導が生じ、第1電極と攪拌羽根との間、および、第2電極と攪拌羽根との間に電界が集中する。そのため、ブラシなどの摺動部材を用いて攪拌羽根を電源に接続することなく、集中した電界によって空隙に放電を生ぜしめ、プラズマを生成させることができる。
【0010】
攪拌羽根を回転させることで、攪拌羽根の軌跡に沿った広い領域でプラズマが生成されるとともに反応容器内に旋回気流が形成される。旋回気流は、粉粒体の反応容器への付着を抑制し、粉粒体を反応容器内に分散させる。また、反応容器内の局所的な温度上昇も抑制する。
【0011】
その結果、粉粒体に対しプラズマの熱による影響を抑えながらプラズマ処理を施すことができ、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理装置が得られる。
【0012】
また、前記反応容器の少なくとも一部は円筒体であり、前記攪拌羽根の回転軸は、前記円筒体の中心軸に配置され、前記攪拌羽根は、前記円筒体の内面に沿って回転してもよい。
【0013】
このような構成によれば、攪拌羽根の回転の全周で空隙の大きさが一定に保たれ、プラズマが安定的に生成されるので、処理効率の向上に役立つ。
【0014】
また、前記第1電極および第2電極は、前記円筒体に設けられていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、円筒体の内面に沿った広い領域においてプラズマを生成させることができるので、処理効率の向上に役立つ。
【0016】
また、前記反応容器は、蓋部が蓋板で閉じられ、前記第1電極は前記蓋板に設けられ、前記第2電極は前記円筒体に設けられていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、反応容器内の蓋部の内面付近を含むさらに広い領域においてプラズマを生成させることができるので、処理効率のさらなる向上に役立つ。
【0018】
また、前記反応容器は、底部が底板で閉じられ、前記反応容器の底部に、前記攪拌羽根とともに回転する円盤体が設けられていてもよい。
【0019】
このような構成によれば、反応容器の底板に降下した粉粒体を円盤体の回転によって巻き上げ、粉粒体の反応容器底板への付着を抑制するので、処理効率のさらなる向上に役立つ。
【0020】
また、前記回転器の出力軸と前記攪拌羽根の回転軸とは、絶縁性のジョイントを介して連結され、前記攪拌羽根は、前記電源に接続されていないとしてもよい。
【0021】
このような構成によれば、攪拌羽根を電源に接続するためのブラシなどの摺動部材を用いないので、信頼性に優れたプラズマ処理装置が得られる。
【0022】
また、本発明の1つの態様に係るプラズマ処理システムは、前記プラズマ処理装置と、前記プラズマ処理装置の反応容器に接続された導入管と、前記反応容器に接続された排気管と、前記排気管に接続され、前記排気管から気体を吸引するポンプと、粉粒体を前記導入管内へ供給する供給器と、前記排気管内で粉粒体を濾過回収する回収器と、を備える。
【0023】
このような構成によれば、プラズマ処理装置の利点を活かして、粉粒体に対しプラズマの熱による影響を抑えながらプラズマ処理を施すことができ、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理システムが得られる。
【0024】
また、本発明の1つの態様に係るプラズマ処理方法は、第1電極および第2電極が設けられた反応容器に粉粒体を導入し、導電性の攪拌羽根を、前記反応容器の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転させながら、前記第1電極および前記第2電極に交流電圧またはパルス電圧を印加し、前記空隙にプラズマを発生させるものである。
【0025】
このような方法によれば、第1電極と第2電極との間に印加された電圧による電界を、攪拌羽根に生じる静電誘導を利用して空隙に集中させ、ブラシなどの摺動部材を用いて攪拌羽根を電源に接続することなく、プラズマを生成させることができる。
【0026】
また、攪拌羽根を回転させることで、攪拌羽根の軌跡に沿った広い領域でプラズマを生成するとともに反応容器内に旋回気流を形成し、粉粒体とプラズマとの接触を促進させながら反応容器内の局所的な温度上昇も抑制する。
【0027】
その結果、プラズマの熱による影響を抑えながら粉粒体にプラズマ処理を施すことができ、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理が可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の態様に係るプラズマ処理装置によれば、プラズマの熱による影響を抑えながら粉粒体にプラズマ処理を施すことができ、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施の形態1に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す模式図
【
図2】実施の形態1に係るプラズマ処理装置を用いた実験結果の一例を示すグラフ
【
図3】実施の形態1に係るプラズマ処理装置を用いた実験結果の一例を示す写真
【
図4】実施の形態1に係るプラズマ処理装置を用いた実験結果の一例を示すグラフ
【
図5】実施の形態2に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す模式図
【
図6】実施の形態3に係るプラズマ処理システムの機能的な構成の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態に係るプラズマ処理装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
なお、以下で説明する実施の形態は、本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図1には、後述する実験のために製作した試作機での要部の寸法の一例が斜字体で示されている。
【0033】
図1に示されるように、プラズマ処理装置1は、反応容器10、電極21、22、攪拌羽根41、42、モーター50、および電源60を備える。
【0034】
反応容器10は、誘電体で構成される有蓋有底の円筒体であり、円筒11、蓋板12、および底板13からなる。円筒11、蓋板12、および底板13は、例えば、ポリアセタールまたはアクリルなどの樹脂で構成されてもよい。円筒11、蓋板12、および底板13は、ボルトおよびナットなどの締結部材(図示せず)で互いに固定されて反応容器10を構成する。試作機では円筒11に、内径70mm、高さ50mm、厚さ2mmのポリアセタール円筒を用いた。
【0035】
なお、本明細書では、円筒体を、中心軸に直交する断面が円環である筒体と定義し、径が一定であることは限定しない。したがって、円筒体には、側面にテーパーが付いた円錐状の筒体や、側面の中ほどが膨らみまたは縮んだドラム状の筒体が含まれる。さらには、らせん状のねじりが入った筒体を円筒体に含めてもよい。
【0036】
電極21、22は、円筒11の外面に設けられている。電極21、22は、例えば、アルミニウムなどの金属の箔体で構成されてもよく、円筒11の中心軸Aに対称な位置に貼り付けられている。
【0037】
攪拌羽根41、42は、回転軸44に取り付けられた導電性の板であり、回転軸44から互いに反対方向に延びる同じ大きさの部分を有している。攪拌羽根41、42は、例えば、アルミニウム合金などの金属の板体で構成されてもよい。試作機では、攪拌羽根41、42に、高さ13mm、長さ68mm、厚さ1mmのアルミニウム合金板を用い、長さの中点を回転軸44に固定した。
【0038】
回転軸44は、底板13に嵌め込まれたベアリング(図示せず)で支持され、円筒11の中心軸Aに配置されている。
【0039】
円盤体45は、回転軸44の攪拌羽根41、42よりも下方に位置する部分に取り付けられている。底板13の中心部には、円盤体45よりもわずかに大きい窪みが設けられ、円盤体45は、底板13の窪みに収容される。
【0040】
モーター50は、回転軸44を介して、攪拌羽根41、42および円盤体45を回転させる動力源である。モーター50の出力軸51と回転軸44とは、絶縁性のジョイント52で連結される。
【0041】
モーター50によって回転軸44が駆動されると、攪拌羽根41、42の両側辺は、円筒11の内面に沿って、円筒11の内面との間に空隙31~34を保って回転する。試作機では、空隙31~34の長さは1mmである。円盤体45は、底板13の窪みの中で、攪拌羽根41、42とともに回転する。
【0042】
電源60は、交流電圧またはパルス電圧を生成する高電圧生成器である。電源60によって生成された交流電圧またはパルス電圧は、電極21、22間に印加される。電極21、22間に印加された電圧によって攪拌羽根41、42に静電誘導が生じ、電極21と攪拌羽根41、42との間、および、電極22と攪拌羽根41、42との間に電界が集中する。電界の集中により、空隙31~34に、反応容器10を誘電体として誘電体バリア放電が生じ、プラズマが生成される。生成されるプラズマは、高い電子温度と常温程度の気体温度とを併せ持つ熱的に非平衡のプラズマであり、対象物を常温処理するために適している。
【0043】
次に、このように構成されたプラズマ処理装置1を用いたプラズマ処理方法について説明する。
【0044】
プラズマ処理装置1の反応容器10に粉粒体を導入し、攪拌羽根41、42を回転させながら、電極21、22間に交流電圧またはパルス電圧を印加する。
【0045】
攪拌羽根41、42を回転させることで、攪拌羽根41、42の軌跡に沿って空隙31~34の位置が移動し、円筒11の内面に沿った広い領域でプラズマが生成される。また、反応容器10内に旋回気流が形成される。
【0046】
プラズマに含まれる荷電粒子が、反応容器10内の雰囲気ガスを構成する元素と衝突することによって、活性種が発生する。例えば、雰囲気ガスが大気の場合、酸素および水蒸気から、オゾンおよびOHラジカルを含む活性種が発生する。粉粒体は、活性種によって処理(例えば、殺菌)される。
【0047】
旋回気流は、粉粒体の反応容器への付着を抑制し、粉粒体を反応容器内に分散させるので、より多くの粉粒体が活性種と接触し、優れた処理効率が得られる。また、円盤体45を回転させることで、反応容器10の底板13に降下した粉粒体を巻き上げ、粉粒体の底板13への付着を抑制できるので、処理効率がさらに向上する。
【0048】
また、旋回気流は、反応容器内の局所的な温度上昇を抑制するので、プラズマの熱による粉粒体への影響が抑えられる。
【0049】
また、プラズマ処理装置1では、回転する攪拌羽根41、42を電源60に接続せず、攪拌羽根41、42に生じる静電誘導に基づいて、空隙31~34にプラズマが生成される。そのため、ブラシなどの摺動部材が不要となり、プラズマ処理装置1の信頼性やメンテナンス性を向上させることができる。
【0050】
以上のように、プラズマ処理装置1によれば、プラズマにより粉粒体を処理し、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理装置が得られる。
【0051】
次に、プラズマ処理装置1の試作機を用いて行った実験について説明する。実験では、プラズマ処理装置1によって粉粒体食品素材の殺菌処理を試みた。粉粒体食品素材には、そば粉とそば粉から単離した芽胞形成菌(Bacillus系)の混合物(以下、試料と言う)を用いた。試料に対しプラズマ処理を施し、(1)試料中の菌数の変化、(2)反応容器内の温度、および(3)試料中の澱粉の損傷率、の3項目を評価した。
【0052】
実験条件を表1に示す。
【0053】
【0054】
室温15℃の実験室において、蓋板12を外した円筒11内に、大気開放下で試料5gを導入した。蓋板12を閉じ、モーター50(定格12V、18800RPMの直流モーター)を直流4Vの動作電圧で回転させ、電極21、22間に、電源60から26kVの交流電圧を印加して、プラズマ処理を開始した。0分間(未処理の原試料)、5分間、10分間、20分間プラズマ処理を行った試料を回収した。
【0055】
図2は、処理時間ごとの試料について評価した菌数を表すグラフである。菌数は、食品衛生検査指針にしたがった菌数評価法であるコロニーカウント法により評価した。
【0056】
具体的には、試料を106倍に希釈し、希釈された試料の1mlを寒天培地に散布して一定の条件で培養し、培養が終わったときに寒天培地上に発生が認められるコロニー数をカウントした。カウントされたコロニー数は、試料の単位量あたりの菌数に比例する。
【0057】
図2の結果から、プラズマ処理装置1によれば、少なくとも10分間のプラズマ処理により、菌数を1/100以下に減少させる殺菌処理が可能であることが確認された。
【0058】
図3は、20分間プラズマ処理を行った直後の反応容器10内の温度分布を示す写真(サーモグラフィー)である。
【0059】
図3のサーモグラフィーによれば、20分間のプラズマ処理により、反応容器10の円筒11の内面が26.2℃、底板13が28.8℃になっている。この結果から、プラズマ処理装置1によれば、15℃の室温下で、少なくとも20分間は常温でのプラズマ処理が可能であることが確認された。30℃以下で処理される限り、粉粒体食品素材(例えば、そば粉の澱粉)の品質が熱的に劣化する懸念は小さい。
【0060】
図4は、処理条件ごとの試料について評価した澱粉の損傷率を表すグラフである。澱粉の損傷率は、損傷した澱粉のみを選択的に分解する酵素で試料を分解し、分解生成物を吸光度測定することにより定量的に評価した。
【0061】
図4において、試料1は未処理の原試料であり、試料に含まれる澱粉の元々の損傷率を示す。試料2は、電極21、22間に電圧を印加せず攪拌羽根41、42を10分間回転させてから回収した試料であり、攪拌羽根41、42の回転による澱粉の損傷率を示す。試料3は、電極21、22間に26kVの電圧を印加しつつ攪拌羽根41、42を10分間回転させてから回収した試料であり、プラズマ処理装置1におけるプラズマ処理によって生じる澱粉の損傷率を示す。
【0062】
図4の結果から、試料1~3の全てで澱粉の損傷率が2.2~2.5%の間に収まっていることから、プラズマ処理装置1におけるプラズマ処理は、澱粉の損傷率を悪化させないことが確認された。
【0063】
以上のように、プラズマ処理装置1の有効性は、試作機による実験によっても確かめられた。
【0064】
(実施の形態2)
実施の形態1に係るプラズマ処理装置1では、蓋板12の内面にプラズマを発生させないため、蓋板12の内面付近では、粉粒体に十分なプラズマ処理を施すことができない。そのため、プラズマ処理が十分でない粉粒体が、回収の際に処理済みの粉粒体に混入し、処理効率が損なわれる懸念がある。
【0065】
そこで、実施の形態2に係るプラズマ処理装置では、攪拌羽根と円筒11との間の空隙だけでなく、攪拌羽根と蓋板との12との間の空隙にもプラズマを発生させ、より優れた処理効率を得ることを検討する。
【0066】
図5は、実施の形態2に係るプラズマ処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図5には、要部の寸法の一例が斜字体で示されている。
【0067】
図5に示されるように、プラズマ処理装置2は、
図1のプラズマ処理装置1と比べて、電極23、24の配置および攪拌羽根43の形状が相違する。以下、プラズマ処理装置1の構成要素と同等の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
プラズマ処理装置2において、電極23、24は、それぞれ、蓋板12および円筒11の外面に設けられている。電極23は、蓋板12の円筒11に対応する位置に貼り付けられ、電極24は、円筒11の全周に貼り付けられている。蓋板12は、例えば、厚さ2mmの樹脂板で構成される。
【0069】
攪拌羽根43は、回転軸44に取り付けられた根本部から両側辺へ向かって広がった形状を有している。攪拌羽根43の両側辺は、円筒11の内面に沿って、円筒11の内面との間に空隙35、36を保って回転する。また、攪拌羽根43の上辺は、蓋板12の内面に沿って、蓋板12の内面との間に空隙37を保って回転する。空隙35~37の長さは1mmである。
【0070】
このように構成されたプラズマ処理装置2によれば、円筒11の内面と攪拌羽根43との間の空隙35、36だけでなく、蓋板12の内面と攪拌羽根43との間の空隙37においてもプラズマを生成させることができるので、処理効率のさらなる向上に役立つ。
【0071】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1、2で説明したプラズマ処理装置を用いたプラズマ処理システムについて説明する。
【0072】
図6は、実施の形態3に係るプラズマ処理システムの機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0073】
図6に示されるように、プラズマ処理システム100は、プラズマ処理装置3、導入管71、排気管72、ポンプ73、供給器74、および回収器75を備える。
【0074】
プラズマ処理装置3には、プラズマ処理装置1または2、もしくはそれらを組み合わせたものが用いられ、当業者が思いつく各種変形をさらに含んでもよい。以下、プラズマ処理装置1、2の構成要素と同等の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0075】
プラズマ処理装置3は、プラズマ処理装置1の攪拌羽根41、42と、プラズマ処理装置2の電極23、24とを有し、さらに、接続口14、規制板46、モーター容器53を有している。
【0076】
接続口14は、導入管71および排気管72を接続するための開口であり、限定されない一例として、蓋板12に設けられる。他の一例として、接続口を蓋板12および底板13のそれぞれに設け、導入管71を底板13の接続口に接続し、排気管72を蓋板12の接続口に接続してもよい(図示せず)。
【0077】
規制板46は、回転軸44に取り付けられ、攪拌羽根41、42とともに回転する円盤体である。規制板46は、粉粒体が反応容器10の中央部を通らないように規制するとともに、粉粒体を反応容器10の外周部へ移動させる。規制板46によって、粉粒体とプラズマとの接触が促進され、処理効率が向上する。規制板46は、導入管71を底板13に接続し、排気管72を蓋板12に接続する構成において、特に有効である。
【0078】
モーター容器53は、モーター50を密封する。
【0079】
ポンプ73は、排気管72に接続され、排気管72から気体を吸引することにより、導入管71、反応容器10、および排気管72内に、粉粒体を輸送するための気流を形成する。
【0080】
供給器74は、導入管71に接続され、粉粒体81を導入管71内へ供給する。
【0081】
回収器75は、カプラ76、77を介して排気管72に着脱自在に接続され、排気管72内で粉粒体82を濾過回収する。粉粒体82の回収には、例えば、円筒濾紙が用いられる。
【0082】
このように構成されたプラズマ処理システム100によれば、粉粒体に対しプラズマの熱による影響を抑えながら連続的にプラズマ処理を施すことができ、かつ処理効率および信頼性に優れたプラズマ処理システムが得られる。
【0083】
以上、本発明の1つまたは複数の態様に係るプラズマ処理装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0084】
例えば、実施の形態では、有蓋有底の円筒体である反応容器10の例を用いて説明したが、この例には限定されない。反応容器は、少なくとも一部が円筒体であればよく、反応容器の残部の構成は、特には限定されない。反応容器の少なくとも一部が円筒体であれば、反応容器10の残部の構成にかかわらず、攪拌羽根を、円筒体の内面に沿って前記内面との間に空隙を保って回転させることができるので、プラズマを広い領域で生成させ、粉粒体を効率よく処理することができる。
【0085】
また、反応容器が蓋板と底板とを有していることも必須ではない。例えば、反応容器が両端開放の円筒体であってもよく、そのような反応容器を備えるプラズマ処理装置では、円筒の一方端から円筒内に粉粒体を導入し、円筒内でプラズマ処理を行った後、処理済みの粉粒体を円筒の他方端から取り出す連続処理が可能である。
【0086】
また、粉粒体に対するプラズマ処理は、粉粒体食品素材の殺菌処理に限られず、様々な産業分野における機能素材の表面処理に広く利用可能である。具体例として、天然ムコ多糖類の粉体であるキトサンを、ヘリウムおよびアンモニアを含有する原料ガスから生成したプラズマで処理することにより、キトサンをアミノ基などの官能基で修飾することができる。これにより、キトサンの血液凝固促進剤としての薬効が向上(凝固時間が短縮)する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、プラズマにより粉粒体を処理するプラズマ処理装置として、例えば、粉粒体食品素材の殺菌やキトサンのアミノ基による修飾などに広く利用できる。
【符号の説明】
【0088】
1~3 プラズマ処理装置
10 反応容器
11 円筒
12 蓋板
13 底板
14 接続口
21~24 電極
31~37 空隙
41~43 攪拌羽根
44 回転軸
45 円盤体
46 規制板
50 モーター
51 出力軸
52 ジョイント
53 モーター容器
60 電源
71 導入管
72 排気管
73 ポンプ
74 供給器
75 回収器
76、77 カプラ
81、82 粉粒体
100 プラズマ処理システム