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特許7045701シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤を含む薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤を含む薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220325BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/32 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 25/36 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/635 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/485 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/135 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/32
A61P25/36
A61K31/44
A61K31/635
A61K38/39
A61K31/198
A61K31/485
A61K31/135
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018515344
(86)(22)【出願日】2016-06-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2016085002
(87)【国際公開番号】W WO2016192687
(87)【国際公開日】2016-12-08
【審査請求日】2019-05-17
(31)【優先権主張番号】62/171,315
(32)【優先日】2015-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517423730
【氏名又は名称】チャイナ メディカル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェ チア-フン
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523802(JP,A)
【文献】国際公開第2008/042795(WO,A1)
【文献】特表2009-508940(JP,A)
【文献】国際公開第2015/031735(WO,A1)
【文献】Effects of Sulfasalazine on BOLD Response to Alcohol Cues,NCT01312129,ClinicalTrials.gov,2014年09月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷を治療、防止、または、改善する薬剤であって、治療に有効な量のシスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤を含み、前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤はシステムxc -阻害剤であり、前記システムx c - 阻害剤は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、スルファサラジン、エラスチン、L-グルタミン酸、L-シスチン、L-α-アミノアジピン酸、L-α-アミノピメリン酸、L-ホモシステイン酸、L-β-N-オキサリル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸(β-L-ODAP)、L-アラノシン、イボテン酸、L-セリン-O-硫酸塩、(RS)-4-ブロモホモイボテン酸、キスカル酸、(S)-4-カルボキシフェニルグリシン、2-アミノ-3-(5-メチル-3-オキソ-1,2-オキサゾール-4-イル)プロパン酸(AMPA)、アラキドニルシクロプロピルアミド(ACPA)、N-アセチルアミノ-3-クロロ-N-(2-ジエチルアミノエチル)ベンズアミド(NACPA)、ビス-トリフルオロメチル-フェニル-イソキサゾール-4-ヒドラゾン(TFMIH)、5-ナフチルエチルイソオキサゾール-4-(2,4-ジニトロフェノール)ヒドラゾン-ジニトロフェノール(NEIH)、(S)-4-カルボキシフェニルグリシン(4-S-CPG)、スルホン酸フェニルグリシン(4-S-SPG)、R,S-4-スルホチエニルグリシン(TSA)、または、(R,S)-4-[4’-カルボキシフェニル]-フェニルグリシン(CPPG)である、薬剤。
【請求項2】
前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、前記物質関連障害および嗜癖障害、または、前記物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷の身体的または組織学的症状の発生前または後に投与される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記物質関連障害および嗜癖障害は、薬物嗜癖、薬物乱用、薬物習慣、薬物依存症、離脱症候群、または、過量摂取である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項4】
前記物質関連障害および嗜癖障害は、薬物嗜癖である、請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
前記物質関連障害および嗜癖障害は、アルコール摂取、アルコール依存症、または、アルコール乱用である、請求項3に記載の薬剤。
【請求項6】
前記物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷は、精神活性物質の使用による精神および行動障害をもたらす、請求項1に記載の薬剤。
【請求項7】
前記精神活性物質の使用による精神および行動障害は、精神障害、統合失調症のような、妄想的、幻覚的、抑うつ性の、躁病的、精神病的現象、健忘症、攻撃的行動および記憶喪失による意識の豹変、認知症、幻覚症、ヴェルニッケ脳症、または、コルサコフ症候群である、請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
前記物質関連障害または嗜癖障害を引き起こす薬物は、オピエート、オピオイド、コカイン、モルヒネ、アンフェタミン、ニコチン、アルコール、ヘロイン、ケタミン、メトアンフェタミン、大麻、カンナビノイド、ベンゾジアゼピン、幻覚剤、エクスタシー、バルビツール剤、マリファナ、フェンシクリジン、麻薬性鎮痛薬、麻薬性鎮痛薬の組合せ、抗不安薬、鎮静薬、または、催眠薬である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項9】
前記システムxc -阻害剤は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、または、スルファサラジンである、請求項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記治療に有効な量は、50mg/kg/回~1000mg/kg/回である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項11】
前記スルファサラジンの前記治療に有効な量は、50mg/kg/回~1000mg/kg/回であり、前記ソラフェニブの前記治療に有効な量は、50mg/kg/回~400mg/kg/回であり、前記レゴラフェニブの前記治療に有効な量は、50mg/kg/回~400mg/kg/回である、請求項に記載の薬剤。
【請求項12】
前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、追加の治療薬、または、代替療法と共に投与される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項13】
前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤と前記追加の治療薬は、同時に、別々に、または、連続して投与される、請求項12に記載の薬剤。
【請求項14】
前記追加の治療薬は、モルヒネ、メタドン、ノルイボガイン、イボガイン、麻薬性鎮痛薬、麻薬性鎮痛薬の組合せ、抗不安薬、鎮静薬、および、睡眠薬を含む、請求項12に記載の薬剤。
【請求項15】
前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、ソフトチュー組成物、粉末、エマルション組成物、水溶性組成物、カプセル、錠剤、ゲル剤、または、長時間作用型注射液として調製される、請求項1に記載の薬剤。
【請求項16】
前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、経口で、非経口で、皮下に、筋肉内に、腹腔内に、静脈内に、局所的に、肺内に、または、経鼻で投与される、請求項1に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤の新規な使用に関し、特に、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷を改善するための薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
物質使用障害は、嗜癖および脳損傷を引き起こすが、そのための確実かつ成功した治療法がないのは、主に、その病理生理学の理解の欠如が原因である。世界的にも、嗜癖の1つである薬物への依存は主要な健康問題の原因となっている。例えば、アルコール乱用およびアルコール依存症は、肝臓、脾臓、腎臓、および、心臓病を引き起こし、ガン、不眠症、うつ病、不安神経症、さらには自殺などのさまざまな事象の発生率を高める。ニコチン嗜癖は、白血病、白内障、および、肺炎といった病状と関係しており、すべてのがん死亡の原因の約三分の一を占めており、中でも、肺がんの原因のトップである。他の主な健康問題は、コカインの乱用が原因である。コカインの使用による身体的な影響は、血管収縮、瞳孔散大、および、体温、心拍数、血圧の上昇などがある。薬物乱用および依存症は多くの側面をもち、グルタミン酸の神経伝達に変化が起きることも指摘されている。
【0003】
グルタミン酸は、嗜癖の発症および維持の原因となっているプロセスにおいて中心的な役割を果たしていることが認められている(Tzschentke,T.M.およびW.J.Schmidt,嗜癖におけるグルタミン酸作動性メカニズム、Mol Psychiatry,2003.8(4):p.373-82)。それらのプロセスは、強化、感作、習慣の学習、強化学習、文脈条件付け、渇望、および、再発を含む。アルコール、コカイン、ニコチン、ケタミン、アンフェタミン、および、オピエートなどの多くの物質が細胞外のグルタミン酸量の増加を促進し得ることがわかっている(Ding,Z.M.,et al.,飲酒およびアルコールの欠乏による基底細胞外グルタミン酸濃度の変化、および、アルコール嗜好性(P)ラットの中脳辺縁系における除去。Addict Biol,2013.18(2):p.297-306;Williams,J.M.およびJ.D.Steketee,コカインはコカイン感作ラットの内側前頭前皮質からのグルタミン酸の溢れを増大させる、a time course study.Eur J Neurosci,2004.20(6):p.1639-46;Saellstroem Baum,S.,et al.,エタノール離脱症状のラットの側坐核における細胞外グルタミン酸量の生体内ニコチン刺激、Alcohol Clin Exp Res,2006.30(8):p.1414-21;Moghaddam,B.,et al.,ケタミンによるグルタミン酸作動性の神経伝達の活性化:NMDA受容体遮断から前頭葉に関連するドーパミン作動性認知障害までの経路における新規なステップ、J Neurosci,1997.17(8):p.2921-7;Del Arco,A.,et al.,アンフェタミンは覚醒ラットの線条体におけるグルタミン酸の細胞外濃度を上昇させる:高親和性トランスポーター機構の関与、Neuropharmacology,1999.38(7):p.943-54;Peters,J.およびT.J.De Vries,麻酔中の記憶下にあるグルタミン酸機構、Cold Spring Harb Perspect Med,2012.2(9):p.a012088)。しかしながら、物質によって細胞外のグルタミン酸量が増加するメカニズムはあまり知られていない。
【0004】
アルコールは、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に拮抗することにより、グルタミン酸作動性の神経伝達を阻害するということが判明しているが、慢性的なアルコール曝露によってグルタミン酸の神経伝達を慢性的に阻害することが原因で、代償機構としてNMDA受容体のアップレギュレーションを招くということが実証されている(Gonzales,R.A.およびJ.N. Jaworski,アルコールおよびグルタミン酸、Alcohol Health Res World,1997.21(2):p.120-7)。また、慢性的なアルコール曝露によって細胞外のグルタミン酸量が増加し、アルコール依存症または離脱症状の脳におけるNMDA感受性を高める。これは、グルタミン酸が媒介する興奮毒性は、慢性アルコール中毒に関連する神経細胞の損失、および、認知障害をもたらす機構を提供することを示唆している。さらに、グルタミン酸が媒介する興奮毒性は、細胞外のグルタミン酸量の増加による、他の物質によって引き起こされた神経細胞の損失、その結果としての精神病においても役割を果たすことは当然推測できる。
【0005】
シスチン・グルタミン酸アンチポーター、または、システムx は、膜結合型ナトリウムイオン非依存性アミノ酸トランスポーターであって、すべてのアミノ酸トランスポーターに共通する重鎖サブユニット4F2hc、および、軽鎖サブユニットxCTからなる構造を有する(Bridges,R.J.,N.R.Natale,およびS.A.Patel,システムxc(-)シスチン・グルタミン酸アンチポーター:分子薬理学の最新情報およびCNS内での役割、Br J Pharmacol,2012.165(1):p.20-34、および、Sato,H.,et al.,2つの異なるタンパク質からなる原形質膜型シスチン・グルタミン酸トランスポーターのクローニングおよび発現、J Biol Chem,1999.274(17):p.11455-8)。システムx は、細胞内のグルタミン酸を細胞外のシスチンと交換するので、非小胞型グルタミン酸放出だけでなく、細胞内グルタチオン(GSH)の合成も支援する。したがって、研究のほとんどは、ガン、または、他の疾患における酸化的ストレスに対するシステムx の役割に焦点を合わせている(Buckingham,S.C.,et al.,原発性脳腫瘍から放出されたグルタミン酸は、てんかん性活動を誘発する、Nat Med,2011.17(10):p.1269-74、および、Albrecht,P.,et al.,酸化的グルタミン酸毒性のメカニズム:神経保護剤標的としてのグルタミン酸・シスチンアンチポーターであるシステムxc-、CNS Neurol Disord Drug Targets,2010.9(3):p.373-82)。しかしながら、x ノックアウトマウスから導かれた最近の結果は、システムx の損失によって酸化的ストレスが誘発されることはないが、脳の細胞外グルタミン酸が減少することを示している。これは、システムx は、グルタミン酸作動性神経伝達およびグルタミン酸が媒介する興奮毒性に関係する細胞外グルタミン酸の重要な供給源であることを示唆している(De Bundel,D.,et al.,システムx(c)-の損失によって酸化的ストレスが誘発されることはないが、海馬における細胞外グルタミン酸が減少し、空間作業記憶、および、辺縁系発作の感受性に影響を及ぼす、J Neurosci,2011.31(15):p.5792-803)。
【0006】
システムx の調節不全は嗜癖と関連付けられてきた。なぜなら、コカインまたはニコチンを慢性的に摂取した後に細胞外グルタミン酸が減少するのは、システムx の活性が低下し、側坐核におけるxCT発現量が減少するからである(Baker,D.A.,et al.,コカイン再発の根底にあるシスチン-グルタミン酸交換における神経順応、Nat Neurosci,2003.6(7):p.743-9;Knackstedt,L.A., et al.,ラットおよびヒトのニコチン依存症におけるシスチン-グルタミン酸交換の役割、Biol Psychiatry,2009.65(10):p.841-5)。さらに、システムx の活性をその活性剤であるN-アセチルシステイン(NAC)によって回復させることで、コカインまたはニコチン探索行動の再発を防止する。しかしながら、マウスにおけるシステムx のダウンレギュレーションの期間は、はっきり決まっていない。最近の研究では、脳内におけるシステムx のサブユニットxCTの発現は、アルコール依存症のマウスではアップレギュレーションされるが、アルコール離脱症状のラットではダウンレギュレーションされることが明らかにされた(Peana,A.T.,G.MuggironおよびF.Bennardini,アルコール依存症ラットにおけるシスチン・グルタミン酸アンチポーターの発現の変化、Front Neurosci,2014.8:p.311)。これは、嗜癖中のxCT発現およびその活性の動的変化を示唆している。それに加えて、システムx だけがNACの標的というわけではなく、システムx の活性の研究に一般的に用いられているすべての薬理学的阻害剤がオフターゲット効果を有する(Lewerenz,J.,et al.,健康および疾病におけるシスチン・グルタミン酸アンチポーターシステムx(c)(-):分子機構から新規の治療機会まで、Antioxid Redox Signal,2013.18(5):p.522-55)。これらの問題は、嗜癖におけるシステムx の役割がまだ明らかにされていないことを示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、まず、システムxc-をノックアウトすることにより、アルコールおよびコカインが媒介する嗜癖および脳の損傷を阻止することを見出した。薬物によってシステムxc-を遮断することにより、物質探索および渇望行動を改善し、物質によって引き起こされる脳の損傷を阻止する。これらの発見は、システムxc-の阻害剤が、物質関連および嗜癖障害に対する新種の薬剤を提供することを示している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷を治療、防止、または、改善する薬剤であって、治療に有効な量のシスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤を含み、前記シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤はシステムx c - 阻害剤である、薬剤を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷の身体的または組織学的症状の発生前または後に投与されてよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、物質使用障害は、これらに限定されないが、薬物嗜癖、薬物乱用、薬物習慣、薬物依存症、離脱症候群、および、過量摂取を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、物質関連障害または嗜癖障害を引き起こす薬物は、これらに限定されないが、オピエート、オピオイド、コカイン、モルヒネ、アンフェタミン、ニコチン、アルコール、ヘロイン、ケタミン、メトアンフェタミン、大麻、カンナビノイド、ベンゾジアゼピン、幻覚剤、エクスタシー、バルビツール剤、マリファナ、フェンシクリジン、麻薬性鎮痛薬、麻薬性鎮痛薬の組合せ、抗不安薬、鎮静薬、および、催眠薬を含む。
【0012】
一実施形態では、シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、システムx 阻害剤である。好ましくは、システムx 阻害剤は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、スルファサラジン、エラスチン、L-グルタミン酸、L-シスチン、L-α-アミノアジピン酸、L-α-アミノピメリン酸、L-ホモシステイン酸、L-β-N-オキサリル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸(β-L-ODAP)、L-アラノシン、イボテン酸、L-セリン-O-硫酸塩、(RS)-4-ブロモホモイボテン酸、キスカル酸、(S)-4-カルボキシフェニルグリシン、RS-4-Br-Homo-IBO、2-アミノ-3-(5-メチル-3-オキソ-1,2-オキサゾール-4-イル)プロパン酸(AMPA)、アラキドニルシクロプロピルアミド(ACPA)、N-アセチルアミノ-3-クロロ-N-(2-ジエチルアミノエチル)ベンズアミド(NACPA)、TFMIH、NEIH、または、CPPGである。
【0013】
一実施形態では、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷に治療に有効な量は、約50mg/kg/回~1000mg/kg/回である。
【0014】
特定の実施形態では、スルファサラジンの治療に有効な量は、約100mg/kg/回~1000mg/kg/回であり、前記ソラフェニブの前記治療効果のある投与量は、約50mg/kg/回~400mg/kg/回であり、レゴラフェニブの前記治療効果のある投与量は、約50mg/kg/回~400mg/kg/回である。
【0015】
スルファサラジン、ソラフェニブ、および、レゴラフェニブの治療効果のある投与量の好ましい範囲は、上記のとおりである。
【0016】
いくつかの実施形態では、シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、追加の治療薬、または、代替療法と共に投与されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)~(D)は、xCTノックアウト(xCT KO)マウス、および、野生型(WT)マウスのアルコールの消費量、嗜好性、味の好み、水の消費量を示す。2つのボトルから自由に飲料を選択する実験におけるxCTノックアウトマウスの(A)は、アルコールの消費量を示し、(B)は、アルコール嗜好性を示す。サッカリン(甘い)およびキニーネ(苦い)に対する味の好み(C)、または、水の消費量(D)に違いは見られない。データは、平均値±標準偏差(n=6~8)である。野生型マウスと比較してP<0.01。
図2】(A)および(B)は、システムx の遺伝的欠損および薬理学的阻害によって毎日のアルコール摂取量が減少することを示す。(A)は、慢性的なアルコール曝露の後、自由に飲料を選択した野生型(WT)マウスおよびxCTノックアウト(xCT KO)マウスの毎日のアルコール消費量を示す。xCTノックアウトマウスおよび野生型マウスは、14日間アルコール入り流動食を与えられることによって慢性的なアルコール曝露を受け、2つのボトルから自由に飲料を選ぶ実験を7日間続けた。2つのボトルのうちの一方には希釈エタノールが入っており、他方には水が入っている。(B)は、野生型マウスの毎日のアルコール消費量を示す。慢性的なアルコール曝露の後、7日間の自由に飲料を選ぶ実験の間、野生型マウスを、対照の溶媒、スルファサラジン(SAS、15mg/kg/日を腹腔内投与)、ソラフェニブ(30mg/kgを腹腔内投与)、および、レゴラフェニブ30mg/kgを腹腔内投与)で処置した。データは、平均値±標準偏差(n=6~8)である。水と比較してP<0.0001。野生型マウスまたは対照の溶媒処理と比較してP<0.0001。
図3】(A)~(D)は、システムx の遺伝的欠損および薬理学的阻害によって毎日のコカイン摂取量が減少することを示す。(A)および(B)は、慢性的なコカイン曝露の後、自由に飲料を選択した野生型(WT)マウスおよびxCTノックアウト(xCT KO)マウスの毎日のコカイン消費量を示す。xCTノックアウトマウスおよび野生型マウスは、7日間コカインを腹腔内注射(15mg/kg)されることによって慢性的なコカイン曝露を受け、2つのボトルから自由に飲料を選ぶ実験を8日間続けた。2つのボトルのうちの一方には希釈コカインが入っており、他方には水が入っている。(C)および(D)は、野生型マウスの毎日のコカイン消費量を示す。慢性的なコカイン曝露の後、6日間の自由に飲料を選ぶ実験の間、野生型マウスを、対照の溶媒、および、スルファサラジン(SAS、15mg/kg/日を腹腔内投与)で処置した。データは、平均値±標準偏差(n=6~12)である。水と比較してP<0.001。
図4】(A)および(B)は、システムx の遺伝的欠損および薬理学的阻害によって、慢性的なアルコール曝露により誘発される脳のアポトーシスを阻止することを示す。(A)は、慢性的なアルコール曝露を受けたまたは受けない野生型(WT)マウスおよびxCTノックアウト(xCT KO)マウスからの前頭皮質におけるTUNEL陽性細胞の数を示す。xCTノックアウトマウスおよび野生型マウスは、14日間アルコール入り流動食を与えられることにより慢性的にアルコール曝露を受けた。(B)は、慢性的なアルコール曝露の後、対照の溶媒、スルファサラジン(SAS、15mg/kg/日を腹腔内投与)、ソラフェニブ(30mg/kgを腹腔内投与)、および、レゴラフェニブ(30mg/kgを腹腔内投与)で14日間処置した野生型マウスからの前頭皮質におけるTUNEL陽性細胞の数を示す。データは、平均値±標準偏差(n=6)である。対照群と比較してP<0.001。
図5】(A)および(B)は、システムx の遺伝的欠損および薬理学的阻害によって、慢性的なコカイン曝露により誘発される脳のアポトーシスを阻止することを示す。(A)は、慢性的にコカイン曝露を受けたまたは受けない野生型(WT)マウスおよびxCTノックアウト(xCT KO)マウスからの前頭皮質におけるTUNEL陽性細胞の数を示す。xCTノックアウトマウスおよび野生型マウスは、7日間コカインを腹腔内注射(15mg/kg)されることにより慢性的にコカイン曝露を受けた。(B)は、慢性的なコカイン曝露の後、対照の溶媒、または、スルファサラジン(SAS、15mg/kg/日を腹腔内投与)で7日間処置した野生型マウスからの前頭皮質におけるTUNEL陽性細胞の数を示す。データは、平均値±標準偏差(n=6)である。対照群と比較してP<0.001。
図6】システムx の薬理学的阻害によって、アルコールまたはコカイン曝露の間に一次皮質細胞を保護することを示す。アルコールまたはコカインに曝露され、対照の溶媒(DMSO)、スルファサラジン(SAS、500μM)、ソラフェニブ(10μM)、および、レゴラフェニブ(10μM)で18時間処置したまたはしない野生型マウスの皮質細胞のアポトーシスを示す。対照の溶媒と比較してP<0.0001。データは、平均値±標準偏差(n=3)である。対照の溶媒と比較してP<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来技術は、コカイン離脱症状のラットではシステムx の活性が低下することを開示しており、これは、システムx を活性化させることによってコカインまたはニコチン探索行動が復活することを示唆している。従来技術に反して、本発明は、x を阻害する薬剤を物質関連障害および嗜癖障害の治療に介入させることにより、脳損傷を治療、および/または、予防するという驚くべき発見をした。また、システムx は、物質関連障害および嗜癖障害、および、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷の有望な治療標的であることを確認した。
【0019】
本明細書および添付の請求項で使用される単数形は、特に明示しない限り複数形も含む。
【0020】
本明細書において用いられる用語「予防する」、および同様の「予防」は、病気または症状の発生または再発を防ぐためのアプローチ、または、任意で、病気または症状の発生または再発を遅らせるか、もしくは、病気または症状の兆候の発生または再発を遅らせるためのアプローチを意味する。
【0021】
本明細書において用いられる病状を「治療する」または病状の「治療」という用語は、1)病状を阻止する、すなわち、病状またはその臨床症状の進行を阻む、または、2)病状を緩和させる、すなわち、病状またはその臨床症状を一時的または永久に軽減することを意味する。
【0022】
本明細書において用いられる用語「同時投与」または同様の用語は、選択した治療薬を単一の患者に投与することを含み、薬剤が同じもしくは異なる投与ルートで、または、同じもしくは異なる時間に投与される治療計画を含むことが意図される。
【0023】
本明細書において用いられる用語「治療に有効な量」とは、以下に定義するように、治療を要する患者に投与される場合に、本明細書に記載される阻害剤が治療効果をもたらすのに十分な量を意味する。治療に有効な量は、使用中の治療薬の比活性、および、患者の年齢、体調、他の病状の存在、および、栄養状態によって変化する。
【0024】
本明細書において用いられる用語「物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷」は、精神活性物質の使用による精神および行動障害を招く(疾病及び関連保健問題の国際統計分類ICD-10のF10~F19、精神活性物質使用による精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン、WHO(世界保健機関)参照)。障害は、これらに限定されないが、精神障害、統合失調症のような、主に、妄想的、幻覚的、抑うつ性の、躁病的、精神病性の現象、健忘症、攻撃的行動および記憶喪失による意識の豹変、認知症、幻覚症、ヴェルニッケ脳症、および、コルサコフ症候群を含む。
【0025】
本明細書において用いられる用語「嗜癖」とは、それによって薬物への身体的および/または精神的依存が進行する過程を広く含む。離脱症状は嗜癖を強め得るので、使用者に薬物の摂取を継続させることとなる。
【0026】
本明細書において用いられる用語「物質使用障害」とは、薬物使用障害としても知られており、1つ以上の物質の使用が臨床的に重大な欠陥または窮迫に至る状態を意味する。用語「薬物嗜癖」とは、(天然または合成)薬物を繰り返し消費することにより起きる周期的または慢性中毒を意味する。
【0027】
本明細書において用いられる用語「身体的依存症」(または「薬物依存症」)とは、薬物の習慣的使用によって生じる状態を指し、突然の中止によって負の身体的離脱症状が起きる。
【0028】
本明細書において用いられる用語「嗜癖障害を引き起こす薬物」は、対象者が身体的および/または精神的に中毒になり得るあらゆる薬剤を含む。上記したように、嗜癖は、衝動調節障害において見られるような行動への嗜癖だけでなく、薬物のような化学物質への嗜癖を含む。本明細書において用いられる用語「哺乳類の被検体」は、人間に限らず、人間以外の霊長類、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウサギ、ブタ、および、齧歯類を含むすべての哺乳類を含む。
【0029】
本明細書において用いられる用語「システムx 」は、一般的に、細胞外L-シスチンと細胞内L-グルタミン酸との交換を、細胞膜を通じて媒介するアミノ酸アンチポーターのことを指す。
【0030】
本発明の一態様によれば、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷を治療、予防、または、改善する方法が提供される。方法は、治療に有効な量のシスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤を被検体に投与することを含む。したがって、本発明は、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷を治療、予防、または、改善する薬剤の製造におけるシスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤の使用も提供する。あるいは、本発明は、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷を治療、予防、または、改善するシスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤を提供する。
【0031】
シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、物質関連障害および嗜癖障害、または、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷の身体的または組織学的症状の発生前または後に投与されてよい。
【0032】
いくつかの実施形態では、物質関連障害は、これらに限定されないが、薬物嗜癖、薬物乱用、薬物習慣、薬物依存症、離脱症候群、および、過量摂取を含む。さらなる実施形態では、物質関連障害は、薬物嗜癖である。いくつかの実施形態では、物質関連障害または嗜癖障害を引き起こす薬物は、これらに限定されないが、オピエート、オピオイド、コカイン、モルヒネ、アンフェタミン、ニコチン、アルコール、ヘロイン、ケタミン、メトアンフェタミン、大麻、カンナビノイド、ベンゾジアゼピン、幻覚剤、エクスタシー、バルビツール剤、マリファナ、フェンシクリジン、麻薬性鎮痛薬、麻薬性鎮痛薬の組合せ、抗不安薬、鎮静薬、および、催眠薬を含む。さらなる実施形態では、物質関連障害は、アルコール消費、アルコール依存症、または、アルコール乱用を含む。
【0033】
一実施形態では、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳損傷は、精神活性物質の使用による精神および行動障害を招く。いくつかの実施形態では、障害は、これらに限定されないが、精神障害、統合失調症のような、主に、妄想的、幻覚的、抑うつ性の、躁病的、精神病的現象、健忘症、攻撃的行動および記憶喪失による意識の豹変、認知症、幻覚症、ヴェルニッケ脳症、および、コルサコフ症候群を含む。
【0034】
一実施形態では、シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、システムx 阻害剤である。
【0035】
一実施形態では、システムx 阻害剤は、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、スルファサラジン、エラスチン、L-グルタミン酸、L-シスチン、L-α-アミノアジピン酸、L-α-アミノピメリン酸、L-ホモシステイン酸、L-β-N-オキサリル-L-α,β-ジアミノプロピオン酸(β-L-ODAP)、L-アラノシン、イボテン酸、L-セリン-O-硫酸塩、(RS)-4-ブロモホモイボテン酸、キスカル酸、(S)-4-カルボキシフェニルグリシン、RS-4-Br-Homo-IBO、2-アミノ-3-(5-メチル-3-オキソ-1,2-オキサゾール-4-イル)プロパン酸(AMPA)、アラキドニルシクロプロピルアミド(ACPA)、N-アセチルアミノ-3-クロロ-N-(2-ジエチルアミノエチル)ベンズアミド(NACPA)、TFMIH、NEIH、(S)-4-カルボキシフェニルグリシン(4-S-CPG)、4-S-SPG、TSA、または、CPPGである。
【0036】
一実施形態では、物質関連障害および嗜癖障害、および、物質関連障害および嗜癖障害によって引き起こされる脳障害に治療に有効な量は、約50mg/kg/回~1000mg/kg/回、約50mg/kg/回~900mg/kg/回、約50mg/kg/回~800mg/kg/回、約50mg/kg/回~700mg/kg/回、約50mg/kg/回~600mg/kg/回、約50mg/kg/回~500mg/kg/回、約50mg/kg/回~400mg/kg/回、約50mg/kg/回~300mg/kg/回、約50mg/kg/回~200mg/kg/回、約50mg/kg/回~100mg/kg/回、約100mg/kg/回~1000mg/kg/回、約100mg/kg/回~900mg/kg/回、約100mg/kg/回~800mg/kg/回、約100mg/kg/回~700mg/kg/回、約100mg/kg/回~600mg/kg/回、約100mg/kg/回~500mg/kg/回、約100mg/kg/回~400mg/kg/回、約100mg/kg/回~300mg/kg/回、約100mg/kg/回~200mg/kg/回、約200mg/kg/回~1000mg/kg/回、約200mg/kg/回~900mg/kg/回、約200mg/kg/回~800mg/kg/回、約200mg/kg/回~700mg/kg/回、約200mg/kg/回~600mg/kg/回、約200mg/kg/回~500mg/kg/回、約200mg/kg/回~400mg/kg/回、約200mg/kg/回~300mg/kg/回、約300mg/kg/回~1000mg/kg/回、約300mg/kg/回~900mg/kg/回、約300mg/kg/回~800mg/kg/回、約300mg/kg/回~700mg/kg/回、約300mg/kg/回~600mg/kg/回、約300mg/kg/回~500mg/kg/回、約300mg/kg/回~400mg/kg/回、約400mg/kg/回~1000mg/kg/回、約400mg/kg/回~900mg/kg/回、約400mg/kg/回~800mg/kg/回、約400mg/kg/回~700mg/kg/回、約400mg/kg/回~600mg/kg/回、約400mg/kg/回~500mg/kg/回、約500mg/kg/回~1000mg/kg/回、約500mg/kg/回~900mg/kg/回、約500mg/kg/回~800mg/kg/回、約500mg/kg/回~700mg/kg/回、約500mg/kg/回~600mg/kg/回、約600mg/kg/回~1000mg/kg/回、約700mg/kg/回~1000mg/kg/回、約800mg/kg/回~1000mg/kg/回、または、約900mg/kg/回~1000mg/kg/回である。
【0037】
いくつかの実施形態では、シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、追加の治療薬、または、代替療法と共に投与されてよい。投与は、単独で、または、1つ以上のさらなる治療薬と「組み合わせて」行われてよく、同時(並行)投与、および、任意の順序での連続投与を含む。いくつかの実施形態では、追加の治療薬は、モルヒネ、メタドン、ノルイボガイン、イボガイン、麻薬性鎮痛薬、麻薬性鎮痛薬の組合せ、抗不安薬、鎮静薬、および、睡眠薬を含む。
【0038】
シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、さまざまな形状の組成物としての製剤であってよい。例えば、ソフトチュー組成物、粉末、エマルション組成物、水溶性組成物、カプセル、錠剤、または、ゲル剤であってよい。
【0039】
本発明によるこれらの組成物の投与は、いかなる一般的な経路を介してもよく、その経路を介して標的組織に到達できさえすればよい。これは、経口、経鼻、または、口腔内を含む。あるいは、投与は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または、静脈注射によって行われてよい。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、静脈内、または、皮下投与用に調製される。このような組成物は、通常、本明細書に記載されるような薬学的に許容可能な組成物として投与される。
【0040】
シスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤は、非経口で、または、腹腔内に投与されてもよい。例として、遊離塩基、または、薬学的に許容可能な塩としてのシスチン・グルタミン酸トランスポーター阻害剤の溶液は、界面活性剤と適切に混合した水の中で調製され得る。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、その混合物、および、油中に分散されてよい。通常の保存および使用状態では、これらの製剤は、微生物の成長を防止するための保存剤を一般的に含む。
【0041】
非経口投与に適した剤形は、製剤が意図するレシピエントの血液と等張になるような抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、および、溶質を含み得る水溶性および非水溶性滅菌注射液を含む他、懸濁剤、および、増粘剤を含み得る水溶性および非水溶性滅菌懸濁液を含む。
【0042】
経口投与に適した剤形は、それぞれが予め決められた量の有効成分を含むカプセル、小袋、または、錠剤など、個別に分けられているもの;粉末または顆粒;水性または非水性溶液、または、水中油型液状エマルションもしくは油中水型液状エマルションとして提供されてよい。有効成分は、ボーラス、舐剤、または、ペーストとして提供されてもよい。
【0043】
錠剤は、任意で1つ以上の賦形剤もしくは担体と共に圧縮、または、成形されることによって形成されてよい。圧縮錠剤は、結合剤、不活性希釈剤、防腐剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシルメチルセルロースナトリウム)、界面活性、または、分散剤と任意で混合した粉末または顆粒などの自由に流動する形状の有効成分を適切な機械で圧縮することによって調製されてよい。成形錠剤は、不活性希釈液で湿らせた粉末組成物を適切な機械で成形することによって形成されてよい。錠剤は、任意でコーティングされるかまたは刻み目が付けられてよく、例えば、所望の放出プロフィールを実現するよう、ヒドロキシメチルプロピルセルロースをさまざまな配合で用いることにより、中の有効成分をゆっくり放出するかまたは放出を制御できるよう調製されてよい。錠剤は、任意で溶腸コーティングされてよい。
【0044】
口内への局所投与に適した剤形は、通常は、スクロース、アラビアゴム、または、トラガカントで味付けされた基剤中に有効成分を含む舐剤;ゼラチンおよびグリセリン、または、ショ糖およびアラビアゴムなどの不活性基剤中に有効成分を含むトローチ;適切な液体担体中に有効成分を含む洗口剤を含む。
【0045】
直腸投与に適した剤形は、例えば、カカオ脂、または、サリチル塩酸を含む適切な基剤を有する座薬として提供されてよい。
【0046】
肺内または経鼻投与に適した剤形は、肺胞嚢に達するよう、鼻腔を介した急速注入、または、口からの吸入によるものであってよい。適切な剤形は、有効成分の水性溶液または油性溶液を含む。エアロゾール投与または乾燥粉末投与に適した剤形は、従来の方法に従って調製されてよい。
【実施例
【0047】
材料および方法
【0048】
動物
すべての動物は、中国医薬大学の学内のガイドラインに従って処置され、中国医薬大学の学内動物保護および使用委員会の認可を受けている。野生型マウスとして用いられるC57BL/6Jマウスは、科技部(NSC)の動物施設から購入した。129/Svj-C57BL/6Jの交配した遺伝的背景を有するxCTホモ接合性ノックアウト(xCT-/-)マウス、および、それらの遺伝子タイピングは、以前に記載した通りである[25]。xCT-/-マウスは、サトウヒデヨ博士からいただいた。
【0049】
2つのボトルから自由に飲料を選択する行動試験
2つのボトルから水を飲むことを1週間でマウスに習慣づけ、その後、2つのボトルに24時間アクセスできるようにした。2つのボトルのうちの一方には水が入り、他方にはアルコール溶液が入っている。アルコール濃度を14日おきに高めた。アルコールおよび水の消費量、および、マウスの体重を2日間のインターバルをおいて各アルコール濃度について4回記録した。味の好みの潜在的な違いについては、上記マウスにアルコールの自己投与を始めてから2週間後、サッカリン(甘い)およびキニーネ(苦い)の流体摂取および好みについてテストした。どちらのボトルも0.055%のサッカリン溶液にして1週間投与した。1週間2つのボトルを水にして回復させた後、どちらのボトルも20μMのキニーネ溶液にしてマウスを1週間処置した。サッカリンおよびキニーネ溶液の消費量を各濃度について2回、2日間のインターバルを開けて決定した。アルコール自己摂取の実験中、各測定の平均アルコール消費量/日/体重を計算した。計算は、アルコール濃度(0.79g/l)を考慮に入れて行った。慢性的なアルコール曝露では、まず始めに、マウスにはエタノールを含まない流動食を7日間与えた。その後、アルコール依存症を誘発させるべく、流動食のアルコール濃度を2.4%(3日間)、4.8%(4日間)、7.2%(14日間)と徐々に高めていった。慢性的なアルコール曝露の後、マウスが2つのボトルから自由に飲料を選択する実験を7日間行った。2つのボトルのうちの一方には希釈エタノール(7.2%)が入り、他方には水が入っている。慢性的なコカイン曝露では、マウスに15mg/kgのコカインを7日間腹腔内注射し、自由に飲料を選択する実験の前にコカイン依存症マウスにした。2つのボトルから自由に飲料を選択する実験で、水および0.15mg/mlのコカインを6日間与えた。摂取量を毎日記録した。
【0050】
一次皮質細胞の調製
胎生17日目の野生型C57BL/6JまたはxCTホモ接合性ノックアウト(xCT KO)マウスの胚の大脳皮質から一次皮質細胞を調製した(Shyu,W.C.,et al.,セクレトニューリンは、卒中のマウスモデルにおけるJak2/Stat3経路を介した神経保護および神経可塑性を促進させる、J Clin Invest,2008.118(1):p.133-48)。
【0051】
TUNEL染色
製造者のプロトコルに従い、TUNELアポトーシス検出キット(ミリポア)によって脳組織のTUNEL染色を行った。簡単に説明すると、10μmの凍結切片をプロテイナーゼKと共に15分間室温でインキュベートした。切片をTUNEL(ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニック末端標識)混合溶液にて、37℃で60分間インキュベートした。洗浄およびブロッキングの後、切片にアビジン-フルオレセインイソチオシアネート(1:10)を添加し、暗所にて30分間37℃でインキュベートした。核の染色は、各脳の1000個の細胞におけるTUNEL陽性アポトーシス細胞のパーセンテージとして表された。TUNEL陽性アポトーシス細胞は、2つの脳のそれぞれの10個の異なる切片において40倍の高倍率視野で数えられた(100細胞/切片)。
【0052】
アポトーシスアッセイ
細胞アポトーシスを決定すべく、製造者の説明書に従い、Annexin V-FITCアポトーシス検出キット(シグマアルドリッチ)を用いて、Annexin V染色を室温で10分間行ない、その後、フローサイトメトリー分析を行った。
【0053】
統計分析
すべてのデータには、平均値±標準偏差が付与されている。統計分析は、ソフトウエアSPSS 18.0を用い、必要に応じて、対応のないスチューデントt検定、および、ボンフェローニまたはテューキーの多重比較の事後検定によるANOVAを用いて行った。
【0054】
実施例1 嗜癖におけるシステムx の役割
嗜癖におけるシステムxcの役割を見出すという試みにおいて、アルコールの自己投与および嗜好性を決定するために、まず、2つのボトルから自由に飲料を選択する行動試験を用いた。xCTノックアウト(xCT KO)マウスのアルコール消費量は、野生型(WT)マウスと比べて有意に少なかった(図1の(A))。さらに、xCTノックアウトマウスのアルコール嗜好性は、野生型マウスに比べて有意に低かった(図1の(B))。また、図1の(C)に示すxCTノックアウトマウスと野生型マウスとの間のサッカリンまたはキニーネの嗜好性の違いはほとんどなく、これは、xCTノックアウトマウスがアルコールを避けるのは、味覚性新奇恐怖によるものではないことを示している。2つの遺伝子型のマウスの水の消費量は、実験期間中を通じてほとんど違いはなかった(図1の(D))。アルコール依存症マウスにすべく、xCTノックアウトマウス、および、野生型マウスに14日間アルコール入りの流動食を与えて慢性的にアルコール曝露させ、その後、エタノールに24時間アクセスできる期間である7日間において2つのボトルから自由に飲料を選択させる実験を行った。2つのボトルのうちの一方には希釈エタノールが入り、他方には水が入っている。慢性的にアルコール曝露させた後、野生型マウスは、アルコール嗜好性行動を示した。しかしながら、xCTノックアウトマウスはアルコール嗜好性行動を示さなかった。さらに、2つのボトルから自由に飲料を選択する実験の間、xCTノックアウトマウスの毎日のアルコール摂取量は、野生型マウスより有意に少なかった(図2の(A))。これらの発見は、システムx の遺伝的欠損は、アルコール嗜癖を低減させることを示している。
【0055】
実施例2 システムx を操作することによるアルコール依存症の治療の可能性
システムx を操作することによるアルコール依存症の治療の可能性を詳しく調査した。システムx を遮断するスルファサラジン、ソラフェニブ、および、レゴラフェニブによりアルコール依存症のマウスを処置した(Buckingham,S.C.,et al.,原発性脳腫瘍からのグルタミン酸の放出は、てんかん性活動を誘発する、Nat Med,2011.17(10):p.1269-74;Chung,W.J.,et al.,シスチン取り込みを阻止することにより、原発性脳腫瘍の成長を妨げる、J Neurosci,2005.25(31):p.7101-10)。2つのボトルから自由に飲料を選択する実験の間、スルファサラジン、ソラフェニブ、および、レゴラフェニブは、対照の水溶液(DMSO)に比べて毎日のアルコール消費量を有意に減少させた(図2の(B))。これらの結果は、その阻害剤(すなわち、ソラフェニブ、レゴラフェニブ、および、スルファサラジン)を介したシステムx の薬理学的阻害は、アルコール嗜癖を改善することを示唆している。
【0056】
実施例3 コカイン嗜癖およびアルコール嗜癖を改善するためのアッセイ
システムx が他の物質使用障害でも同じ役割を果たすかどうかを試験すべく、xCTノックアウトマウス、および、野生型マウスに7日間コカインを腹腔内注射し、その後8日間、2つのボトルから自由に飲料を選択する実験を行った。2つのボトルのうちの一方には希釈コカインが入り、他方には普通の水が入っている。慢性的なコカイン曝露の後、野生型マウスは、アルコール依存症マウスと同様にコカイン嗜好性行動を示し、渇望行動を示した(図3の(A))。しかしながら、xCTノックアウトマウスは、普通の水を飲もうとした。これは、システムx の遺伝的欠如がコカイン嗜癖を抑制することを示唆している。さらに、慢性的なコカイン曝露の後、コカイン依存症の野生型マウスをスルファサラジンまたは対照の水溶液で毎日処置した。驚くべきことに、対照の水溶液で処置した場合に比べ、スルファサラジンで処置した方のコカイン嗜癖性および渇望行動が完全に抑制された(図3の(D))。これらの結果は、システムx の遮断により、アルコール嗜癖ばかりでなく、コカイン嗜癖も改善できることを示している。
【0057】
実施例4 慢性的なアルコール曝露によって引き起こされたアポトーシスへのシステムx の影響
慢性的なアルコール曝露によって引き起こされるアポトーシスへのシステムx の影響を決定した。TUNEL免疫蛍光染色を用いて、慢性的にアルコール曝露を受けたまたは受けないマウスからの脳組織におけるアポトーシスを起こした細胞の数を観察した。慢性的にアルコール曝露を受けない野生型マウスからの脳組織に比べ、慢性的にアルコール曝露を受けた野生型マウスからの脳組織のTUNEL陽性細胞ではアポトーシスを起こした細胞数が有意に増加した(図4の(A))。これは、慢性的なアルコール曝露が脳のアポトーシスの引き金になり得ることを示唆している。興味深いことに、慢性的にアルコール曝露を受けたまたは受けないxCTノックアウトマウスでは、アポトーシスを起こした細胞数に有意差はなかった(図4の(A))。これは、システムx が慢性的なアルコール曝露によって引き起こされるアポトーシスに重要な役割を果たしていることを示している。さらに、慢性的なアルコール曝露の間に野生型マウスをスルファサラジン、ソラフェニブ、および、レゴラフェニブで処置することにより、対照の溶液での処置と比較してアポトーシスを抑制した(図4の(B))。慢性的なコカイン曝露においても同様の効果が観察された。慢性的にコカイン曝露を受けた野生型マウスにおけるアポトーシスを起こした細胞数は、対照群のマウスよりも有意に増加した(図5の(A))。しかしながら、xCTノックアウトマウスでは、慢性的にコカイン曝露を受けたものと対照群との間で有意差はなかった。さらに、慢性的なコカイン曝露の間にスルファサラジンで処置した野生型マウスにおけるアポトーシスを起こした細胞数は、対照群のマウスより有意に減少した(図5の(B))。一方、野生型マウスの皮質細胞をアルコールまたはコカイン曝露する間にスルファサラジン、ソラフェニブ、および、レゴラフェニブで18時間処置した。スルファサラジン、ソラフェニブ、および、レゴラフェニブによって、物質誘発アポトーシスは有意に抑制された(図6)。これらの結果は、システムx 阻害剤の投与によるシステムx の薬理学的阻害は、物質によって引き起こされる脳損傷を著しく改善することを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6