(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】輻射熱利用建築物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20220325BHJP
E04H 1/02 20060101ALI20220325BHJP
E04B 1/70 20060101ALI20220325BHJP
H02S 20/23 20140101ALI20220325BHJP
【FI】
E04B1/76 200C
E04B1/76 300
E04B1/76 400B
E04H1/02
E04B1/70 B
H02S20/23 Z
(21)【出願番号】P 2019039833
(22)【出願日】2019-03-05
(62)【分割の表示】P 2017233072の分割
【原出願日】2017-12-05
【審査請求日】2020-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】517425169
【氏名又は名称】株式会社住まいる館
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木 貢
(72)【発明者】
【氏名】安藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】三木 雅弘
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051874(JP,A)
【文献】特開2009-150643(JP,A)
【文献】登録実用新案第3197430(JP,U)
【文献】特開2017-057673(JP,A)
【文献】特開2001-152568(JP,A)
【文献】登録実用新案第3156275(JP,U)
【文献】特開2014-062727(JP,A)
【文献】特開平03-051650(JP,A)
【文献】特表2015-522727(JP,A)
【文献】特開2008-038589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
E04H 1/02-1/04
H02S 20/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気と断熱された断熱空間を形成するための断熱要素と、
前記断熱空間の中に形成された居室と、
該居室と前記断熱要素との間または前記居室同士の間の空間の少なくともいずれか一方で、前記居室の外側の空気を上下に連通させる連通空間と、
前記断熱空間の上部の屋根裏空間に備えられている冷房用空調設備と、
前記断熱空間の下部の床下空間に備えられている暖房用空調設備と、
前記
床下空間に備えられており、熱交換機能を有する換気設備と、が設けられ、
前記冷房用空調設備から吐出される冷気、または前記暖房用空調設備から吐出される暖気のいずれかを前記連通空間を通じて循環させ、前記居室の構成要素からの輻射熱により前記居室の温度調整を行うとともに、
前記暖気または前記冷気が、前記居室の床面から給気され、
前記床下空間に隣接する前記居室にのみ、前記暖気または前記冷気が給気されている、
ことを特徴とする輻射熱利用建築物。
【請求項2】
前記連通空間が、
前記居室と前記断熱要素との間、および前記居室同士の間の空間のいずれにも設けられている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の輻射熱利用建築物。
【請求項3】
前記屋根裏空間の空気を前記床下空間に向けて送風する第1送風設備と、
前記床下空間の空気を前記屋根裏空間に向けて送風する第2送風設備と、が設けられており、
前記居室内の温度制御を行う制御装置が設けられ、
該制御装置は、温度指示信号により、前記冷房用空調設備または前記暖房用空調設備を制御するとともに、
前記冷房用空調設備を稼働した際には前記第2送風設備を稼働させ、前記暖房用空調設備を稼働した際には前記第1送風設備を稼働させる、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の輻射熱利用建築物。
【請求項4】
前記輻射熱利用建築物の屋根には、太陽光発電設備が設けられており、
該太陽光発電設備で発電された電気により、前記冷房用空調設備または前記暖房用空調設備が稼働している、
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の輻射熱利用建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輻射熱利用建築物に関する。さらに詳しくは、居室を構成する要素からの輻射熱を利用した輻射熱利用建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる全館冷暖房システムは、戸建住宅の各居室または廊下などに、温度調整がされた空気を送り込むことで全館を温度管理するシステムである。この全館冷暖房システムが採用された戸建住宅では、家の中のどこでも温度変化がなく、部屋を移動する際の温度変化に対するストレスがない。また、全館冷暖房システムは、冬場の入浴時のヒートショックを抑制できるなどのメリットもある。
【0003】
しかし、全館冷暖房システムを採用した戸建住宅では、各部屋に温度管理された空気を送り込む必要がある。空気が直接送り込まれるため、居住者がその空気に接すると、暑い風の場合は気温より暑く感じたり、冷たい風の場合は気温より冷たく感じたりする。特に内外の温度差が大きい場合は、送り込む空気の量を増やす必要があり、居住者は送り込まれる風によるストレスを感じることが多くなる。
【0004】
特許文献1では、輻射熱冷暖房システムが開示されている。この冷暖房システムは、全館冷暖房システムとは異なり、仕切壁と居室の内壁との間に温度管理された空気を流して、居室を構成する内壁等の温度を所望の温度とし、それらからの輻射熱を利用して居室内を冷暖房するシステムである。このシステムでは、各部屋には換気のための最低限の空気を送り込むに止まり、送り込まれた空気が居住者に与えるストレスは大幅に軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、特許文献1に開示の輻射熱冷暖房システムは、床下空間の空気を屋根裏にある排出口から単に排出するため、暖められた空気または冷やされた空気がそのまま屋外へ排出される。このように、居室を冷暖房するための媒体である空気が排出されるため、常時熱源を高出力で稼働する必要があり、輻射熱冷暖房のためのランニングコストがかかるとともに、二酸化炭素排出量が増えるという問題がある。
また、熱源が床下空間に設置されていることから、暖められた空気は連通空間内を上昇することで、暖房については理想的な空気の流れを得ることができるものの、冷房については冷やされた空気が床下空間に滞留し、冷房が不十分になるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、居室内への空気の流入を極力抑制した輻射熱冷暖房を利用しながら、ランニングコストを抑えるとともに、冷暖房のいずれも十分な性能を確保することができる輻射熱利用建築物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の輻射熱利用建築物は、外気と断熱された断熱空間を形成するための断熱要素と、前記断熱空間の中に形成された居室と、該居室と前記断熱要素との間または前記居室同士の間の空間の少なくともいずれか一方で、前記居室の外側の空気を上下に連通させる連通空間と、前記断熱空間の上部の屋根裏空間に備えられている冷房用空調設備と、前記断熱空間の下部の床下空間に備えられている暖房用空調設備と、前記床下空間に備えられており、熱交換機能を有する換気設備と、が設けられ、前記冷房用空調設備から吐出される冷気、または前記暖房用空調設備から吐出される暖気のいずれかを前記連通空間を通じて循環させ、前記居室の構成要素からの輻射熱により前記居室の温度調整を行うとともに、記暖気または前記冷気が、前記居室の床面から給気され、前記床下空間に隣接する前記居室にのみ、前記暖気または前記冷気が給気されていることを特徴とする。
第2発明の輻射熱利用建築物は、第1発明において、前記連通空間が、前記居室と前記断熱要素との間、および前記居室同士の間の空間のいずれにも設けられていることを特徴とする。
第3発明の輻射熱利用建築物は、第1発明または第2発明において、前記屋根裏空間の空気を前記床下空間に向けて送風する第1送風設備と、前記床下空間の空気を前記屋根裏空間に向けて送風する第2送風設備と、が設けられており、前記居室内の温度制御を行う制御装置が設けられ、該制御装置は、温度指示信号により、前記冷房用空調設備または前記暖房用空調設備を制御するとともに、前記冷房用空調設備を稼働した際には前記第2送風設備を稼働させ、前記暖房用空調設備を稼働した際には前記第1送風設備を稼働させることを特徴とする。
第4発明の輻射熱利用建築物は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記輻射熱利用建築物の屋根には、太陽光発電設備が設けられており、該太陽光発電設備で発電された電気により、前記冷房用空調設備または前記暖房用空調設備が稼働していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、輻射熱利用建築物の断熱空間に熱交換機能を有する換気設備が設けられていることにより、新しく取り入れる空気の温度を、室内の空気の温度に近づけることができるので、換気を行っても、空調設備により暖められたり冷やされたりした空気の温度を変化させることを抑制できる。これにより輻射熱を利用した冷暖房を行いながらランニングコストを低く抑えることができる。また、冷房用空調設備を屋根裏空間に備えることにより、冷やされた空気が下向きに移動する自然の流れに逆らうことなく、冷房についても理想的な空気の流れを確保できるので、冷房時の性能を十分に確保することができる。
第3発明によれば、屋根裏空間の空気を床下空間に向けて送風する第1送風設備が設けられていることにより、床下空間にある暖房用空調設備に向けて空気を循環させることができる。また、床下空間の空気を屋根裏空間に向けて送風する第2送風設備が設けられていることにより、屋根裏空間にある冷房用空調設備に向けて空気を循環させることができる。よって、温まった空気および冷えた空気のいずれに対しても、理想的な空気の流れを作ることを補助することができ、冷暖房時のいずれの場合でも、より効率的な温度調整を行うことができる。
また、制御装置が冷房用空調設備を稼働した際には、第2送風設備により床下空間の空気を屋根裏空間へ送風し、暖房用空調設備を稼働した際には、第1送風設備により屋根裏空間の空気を床下空間へ送風することで、居住者が複雑な操作をすることなく、効率的な温度調整を行うことができる。
第4発明によれば、太陽光発電設備で発電された電気により空調設備を稼働させることにより、空調に必要なランニングコストをさらに低く抑えることができる。輻射熱利用建築物では、24時間空調を止めることなく運転することを前提としているため、太陽光発電設備の稼働により、より効果的にランニングコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る輻射熱利用建築物(冷房時)の正面方向からの断面模式図である。
【
図2】
図1の輻射熱利用建築物(暖房時)の正面方向からの断面模式図である。
【
図3】
図1の輻射熱利用建築物の床と壁との交差部分の部分拡大図である。
【
図4】
図1の輻射熱利用建築物の天井と壁との交差部分の部分拡大図である。
【
図5】
図1の輻射熱利用建築物の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための輻射熱利用建築物を例示するものであって、本発明は輻射熱利用建築物を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0012】
(第1実施形態)
図1、
図2は、本発明の第1実施形態に係る、輻射熱利用建築物である戸建住宅10の正面方向からの断面模式図である。
図1、
図2内の矢印は、空気の流れ方向を指しており、
図1は冷房時の空気の流れを示しており、
図2は暖房時の空気の流れを示している。
【0013】
戸建住宅10は、外壁等を構成している複数の断熱要素により住宅全体が外気と断熱された断熱空間となっている。ここで断熱空間とは、断熱材などの断熱要素を利用して外部の温度の影響を受けにくい空間を意味しており、外部の温度と厳密に断熱された空間ではない。複数の断熱要素とは、例えば外壁に用いられている壁用断熱材11a、床部分に用いられている基礎断熱材11b、屋根部分に用いられている屋根用断熱材11cなどである。他にも断熱機能を有しているガラス戸などが該当する。なお本実施形態では基礎断熱材11bは、基礎のコンクリートと断熱材を組み合わせた構成である。
【0014】
図1では、戸建住宅10の住宅全体が断熱空間となっているが、これに限定されない。例えば、住宅の一部が断熱空間となっていない場合であっても、本発明の輻射熱利用建築物に該当する。
【0015】
戸建住宅10の断熱空間の中には、複数の居室16が設けられている。本実施形態では4つの居室16が設けられており、1階に2つの居室16が、2階に2つの居室16が設けられている。この居室16は、居室内壁30、居室内床31、居室内天井32を含んで構成されている(
図3、
図4参照)。
【0016】
図1に示すように、本実施形態では、居室16と、断熱要素である壁用断熱材11aとの間に連通空間12が設けられている。この連通空間12は、断熱空間内にある空気であって、居室16の外側に位置するものを上下に連通させる。
図3に本実施形態に係る輻射熱利用建築物である戸建住宅10の居室16の床と壁との交差部分の部分拡大図を示す。図内の居室内壁30と居室内床31の一部は、非表示としている。連通空間12は、例えば
図3に示すように、外壁用支柱34に支持された壁用断熱材11aと、居室16を構成する居室内壁30との間の空間である。この連通空間12は、床下空間18と連通している。また、居室内壁30は、複数の内壁用支柱33によって支持されている。
【0017】
加えて本実施形態では、
図1に示すように、2階に位置する2つの居室16同士の間の空間、1階に位置する2つの居室16の間の空間、または2階の居室16と1階の居室16との間の空間に連通空間12が設けられている。これらの連通空間12も居室の外側の空気を上下に連通させる。
【0018】
本実施形態では、壁用断熱材11aのさらに外側に最外壁24が設けられ、壁用断熱材11aおよび最外壁24の間に空気層25が設けられている。また屋根用断熱材11cのさらに外側に同じように最外壁24が設けられ、屋根用断熱材11cおよび最外壁24の間に空気層25が設けられている。この最外壁24があることで、断熱要素に直接日光が当たることを防止できるとともに、温まった空気が空気層25内を下から上に流れ、断熱要素の外側の空気の温度が上がりすぎないようになっている。
【0019】
本実施形態では断熱空間の上部に位置する屋根裏空間17内に冷房用空調設備13が設けられている。冷房用空調設備13は、冷暖房が可能な空調設備とすることも可能であるが、冷房専用の空調設備であることが好ましい。冷房専用である場合、空調設備の設置スペースを小さくしたり、購入コストを抑えたりすることができるからである。しかし少なくとも冷房が可能な空調設備である必要がある。なお屋根裏空間17は、断熱空間の上部に位置すれば特に問題なく、厳密に最も高い位置の居室16の上方である必要はない。
【0020】
本実施形態では断熱空間の下部に位置する床下空間18内に暖房用空調設備14が設けられている。暖房用空調設備14は、冷暖房が可能な空調設備とすることも可能であるが、暖房専用の空調設備であることが好ましい。暖房専用である場合、空調設備の設置スペースを小さくしたり、購入コストを抑えたりすることができるからである。暖房用空調設備14は、ヒートポンプ式のいわゆるエアコンと呼ばれている設備のほか、ファンヒータなどの暖房設備を含む場合がある。しかし少なくとも暖房が可能な空調設備である必要がある。なお床下空間18は、断熱空間の下部に位置すれば特に問題なく、厳密に最も低い位置の居室16の下方である必要はない。例えば1階から2階へ通じる階段の下側の空間も床下空間18に含まれる。
【0021】
本実施形態では、断熱空間の下部に位置する床下空間18に、熱交換機能を有する換気設備15が設けられている。熱交換機能は、顕熱交換式と全熱交換式があるがいずれの方式であっても問題ない。全熱交換式の熱交換機能は、例えば気体遮蔽性と透湿性を有する伝熱板からなる全熱交換素子により達成される。この全熱交換素子に、新鮮な室外空気を流入させるとともに、汚れた室内空気を流入させる。全熱交換素子内では、伝熱板が積層されており、伝熱板を介して、熱量と湿度が交換される。その結果、新鮮な室外空気には、流出までに室内空気の熱量と湿度が移動するため、室内には新鮮な空気が全熱交換素子から流出する。この際、室外には室内の汚れた空気が流出する。
【0022】
本実施形態では屋根裏空間17の空気を床下空間18に向けて送風する第1送風設備20が設けられている。この第1送風設備20は、第1送風器20aと第1ダクト20bとを含んで構成されている。第1送風器20aを稼働させることにより、第1ダクト20bを通って屋根裏空間17の空気が床下空間18に移動する。本実施形態では、第1送風器20aは屋根裏空間17に設置されているが、第1ダクト20bのもう一方の端部がある床下空間18に設置することも可能である。また、戸建住宅10が平屋住宅である場合など、戸建住宅10の形態によってはこの第1送風設備20は設けられないこともある。
【0023】
本実施形態では床下空間18の空気を屋根裏空間17に向けて送風する第2送風設備21が設けられている。この第2送風設備21は、第2送風器21aと第2ダクト21bとを含んで構成されている。第2送風器21aを稼働させることにより、第2ダクト21bを通って床下空間18の空気が屋根裏空間17に移動する。本実施形態では、第2送風器21aは床下空間18に設置されているが、第2ダクト21bのもう一方の端部がある屋根裏空間17に設置することも可能である。また、第1送風設備20と同様、戸建住宅10の形態によっては、第2送風設備21は設けられないこともある。
【0024】
本実施形態では、冷房用空調設備13から吐出される冷気を、この冷気がいきわたりにくい場所に導くための補助ダクト26が設けられている。補助ダクト26は、戸建住宅10の形態により複数本設けられたり、設けられなかったりする。
【0025】
本実施形態では、屋根の上に太陽光発電設備19が設けられている。この太陽光発電設備19で発電された電気により冷房用空調設備13または暖房用空調設備14が稼働している。なお、太陽光発電設備19については、日照時間が少ない地域などでは設けられないこともある。
【0026】
太陽光発電設備19で発電された電気により空調設備を稼働させることにより、空調に必要なランニングコストをさらに低く抑えることができる。本実施形態の輻射熱利用建築物では、24時間空調を止めることなく運転することを前提としているため、太陽光発電設備19の稼働により、より効果的にランニングコストを低く抑えることができる。
【0027】
図4には、本実施形態の輻射熱利用建築物である戸建住宅10を構成する居室16の天井と壁との交差部分の部分拡大図を示す。図内の居室内壁30と居室内天井32の一部は、非表示としている。
【0028】
本実施形態では、居室16の居室内壁30を構成する内壁用支柱33の上側に、グラスウール35が備えられている。このグラスウール35は連通空間12を塞ぐように設けられている。ただしグラスウール35は、所定の通気性を有する。すなわち、グラスウール35は、連通空間12内の空気の移動を極力妨げない密度である。
図4では、グラスウール35は、断面が「L」字になるように折曲げられ、内壁用支柱33の上側に備えられるとともに、その重量は主に居室内天井32を構成する天井用支柱36に付加されている。なおこのグラスウール35は、省令準耐火構造が必要とされない場合は設けられない場合がある。
【0029】
居室16の居室内壁30を構成する内壁用支柱33の上側にグラスウール35が備えられていることにより、グラスウール35が火災の延焼を防ぐことができる。よって、火災の延焼を防ぐ構造として、規格で定められている省令準耐火構造でありながら、グラスウール35の通気性により、空気の流れを確保することができる。
【0030】
(空気の流れとその作用)
第1実施形態での空気の流れについて説明する。外気の気温が高いシーズンの夏場は、冷房が使用され、
図1に示すように断熱空間内を空気が流れる。すなわち、冷房用空調設備13から吐出された冷気は、屋根裏空間17から、居室16と断熱要素との間の連通空間12および居室16同士の間の空間である連通空間12を通り、床下空間18へ移動する。このように冷気が移動することで、居室16を構成する居室内壁30、居室内床31、居室内天井32等が冷やされ、これらからの輻射熱により居室16の温度調整が行われる。
【0031】
冷気は重いので、連通空間12を通過した冷気は、自然に床下空間18に移動する。そして床下空間18の空気は、第2送風設備21により屋根裏空間17へ導かれ、屋根裏空間17で冷房用空調設備13により冷やされ冷気となり、再び連通空間12を通じて循環する。
【0032】
なお、冷房用空調設備13から吐出された冷気のうち、空気の入替等の必要最小限のものは、居室16内に取りいれられ、換気が促される。そして、居室16内からほこりなどと一緒に出てきた空気などは、換気設備15によって外部に排出される。この際換気設備15には熱交換機能があるので、外部から取りいれる空気を、排出される空気が冷やすようになり、冷やされた空気の温度が換気により大きく変化することを抑制できる。
【0033】
また、断熱要素の外側にある最外壁24と断熱要素との間の空気層25では、日光により、空気層25内の空気が暖められるため、上方向への空気の流れが生じ、暖められた空気は屋根用断熱材11cの外側にある最外壁24内を通って、屋根の頂部から排出されている。
【0034】
外気の気温が低いシーズンの冬場は、暖房が使用され、
図2に示すように断熱空間内を空気が流れる。すなわち、暖房用空調設備14から吐出された暖気は、床下空間18から居室16と断熱要素との間の連通空間12および居室16同士の間の空間である連通空間12を通り、屋根裏空間17へ移動する。このように暖気が移動することで、居室16を構成する居室内壁30、居室内床31、居室内天井32等が暖められ、これらからの輻射熱により居室16の温度調製が行なわれる。
【0035】
暖気は軽いので、連通空間12を通過した暖気は、自然に屋根裏空間17に移動する。そして屋根裏空間17の空気は、第1送風設備20により床下空間18へ導かれ、床下空間18で暖房用空調設備14により暖められ暖気となり、再び連通空間12を通じて循環する。
【0036】
なお冷房の時と同様、空気の入替等必要最小限の空気は、居室16に取りいれられ、換気が促される。そして、熱交換機能のある換気設備15により、一部の空気は外部に排出される。その際、熱交換機能により外部から取りいれる空気は、排出される空気により暖められるようになり、暖められた空気の温度が換気により大きく変化することを抑制できる。また、断熱要素の外側にある最外壁24と断熱要素との間の空気層25では、冷房時と同じように上方向への空気の流れが生じる。
【0037】
輻射熱利用建築物の床下空間18に熱交換機能を有する換気設備15が設けられていることにより、換気を行う際も、空調設備により暖められたり冷やされたりした空気の温度を変化させることを抑制できる。これにより輻射熱を利用した冷暖房を行いながらランニングコストを低く抑えることができる。
【0038】
また、冷房用空調設備13を屋根裏空間17に備えることにより、冷やされた空気が下向きに移動する自然の流れに逆らうことなく、冷房についても理想的な空気の流れを確保できるので、冷房時の性能を十分に確保することができる。
【0039】
屋根裏空間17の空気を床下空間18に向けて送風する第1送風設備20が設けられていることにより、床下空間18にある暖房用空調設備14に向けて空気を循環させることができる。また、床下空間18の空気を屋根裏空間17に向けて送風する第2送風設備21が設けられていることにより、屋根裏空間17にある冷房用空調設備13に向けて空気を循環させることができる。よって、温まった空気および冷えた空気のいずれに対しても、理想的な空気の流れを作ることを補助することができ、冷暖房時のいずれの場合でも、より効率的な温度調整を行うことができる。
【0040】
(制御方法)
図5には、本実施形態の輻射熱利用建築物の制御ブロック図を示す。制御装置22は居室16内の温度制御を行う装置である。制御装置22に対して、主に入力信号を送信する要素を左側に、主に出力信号を出力する要素を右側に記載する。この制御装置22には、液晶画面等の入出力装置23が電気的に接続している。制御装置22は、居室16内に備えられており、居住者は入出力装置23から所望の温度を入力する。
【0041】
制御装置22には、居室16内の温度を計測するための空調センサ27が電気的に接続しており、この居室16内の温度を居住者の所望する温度に制御する。なお空調センサ27は複数設けられることがある。
【0042】
制御装置22には、冷房用空調設備13、暖房用空調設備14、第1送風器20a、第2送風器21aが電気的に接続している。制御装置22は、入出力装置23の温度指示信号により、これらの要素を動作させる。居室16内の温度が温度指示信号の温度よりも高い場合、制御装置22は、冷房用空調設備13を稼働して冷気を吐出させるとともに、必要に応じて第2送風設備21の第2送風器21aを稼働させる。これとは逆に居室16内の温度が温度指示信号の温度よりも低い場合、制御装置22は、暖房用空調設備14を稼働して暖気を吐出させるとともに、必要に応じて第1送風設備20の第1送風器20aを稼働させる。
【0043】
制御装置22が冷房用空調設備13を稼働した際には、第2送風設備21により床下空間18の空気を屋根裏空間17へ送風し、暖房用空調設備14を稼働した際には、第1送風設備20により屋根裏空間17の空気を床下空間18へ送風することで、居住者が複雑な操作をすることなく、効率的な温度調整を行うことができる。
【0044】
本実施形態では、制御装置22が冷房用空調設備13等を統括して制御する方式であったが、この制御方式に限定されない。例えば冷房用空調設備13、暖房用空調設備14、第1送風器20a、第2送風器21aそれぞれに入出力装置23を居室16内に備えることも可能である。この場合居住者は、居住者の意思にしたがって、これらの機器の運転を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本実施形態は、戸建住宅10について説明したが、本発明は特にこれに限定されるものではない。例えば、マンション等のビルについても輻射熱利用建築物に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10 戸建住宅(輻射熱利用建築物)
12 連通空間
13 冷房用空調設備
14 暖房用空調設備
15 換気設備
16 居室
17 屋根裏空間
18 床下空間
19 太陽光発電設備
20 第1送風設備
21 第2送風設備
22 制御装置
30 居室内壁
31 内壁用支柱
35 グラスウール