IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人東京女子医科大学の特許一覧

特許7045723LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法
<>
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図1
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図2
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図3
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図4
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図5
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図6
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図7
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図8
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図9
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図10
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図11
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図12
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図13
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図14
  • 特許-LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】LYPD1阻害剤及びそれを用いた生体組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220325BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20220325BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220325BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220325BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220325BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220325BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220325BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P9/00
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P9/04
A61P9/10 103
A61P9/12
A61P7/02
A61P37/06
A61P35/00
A61P17/00
A61P29/00
A61K31/7088 ZNA
A61K31/7105
A61K31/711
A61K38/18
A61K38/48
A61L27/38 300
A61L27/38
A61L27/54
A61K48/00
C12Q1/02
C07K16/18
C12N15/113 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019504615
(86)(22)【出願日】2018-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2018008630
(87)【国際公開番号】W WO2018164141
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2017042200
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、(再生医療実現拠点ネットワークプログラム(技術開発個別課題))「再生医療用製品の大量生産に向けたヒトiPS細胞用培養装置開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勝久
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】青木 信奈子
(72)【発明者】
【氏名】阪本 覚
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2016-0021055(KR,A)
【文献】特表2007-531695(JP,A)
【文献】Exp Cell Res,2006年,Vol.312, No.6,p.865-876
【文献】PNAS,2015年,Vol.112, No.16,p.5153-5158
【文献】BioChip J,2014年,Vol.8, No.2,p.91-101
【文献】Mol Cancer Ther,2015年,Vol.14, No.4,p.1035-1047
【文献】Exp Cell Res,2006年,Vol.312, No.6,p.865-876
【文献】PNAS,2015年,Vol.112, No.16,p.5153-5158
【文献】BioChip J,2014年,Vol.8, No.2,p.91-101
【文献】Mol Cancer Ther,2015年,Vol.14, No.4,p.1035-1047
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 31/33-33/44
A61K 38/00-38/58
A61L 15/00-33/18
A61K 48/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LYPD1阻害剤を有効成分として含む、血管新生障害を治療及び/又は予防するための医薬組成物であって、
前記LYPD1阻害剤が、LYPD1の選択的阻害剤、LYPD1発現の阻害剤、及びそれらの組合せからなる群から選択されるものであって、
前記LYPD1の選択的阻害剤が、LYPD1に特異的に結合するアプタマー、抗体、抗体フラグメント及びそれらの組合せからなる群から選択されるものであり、
前記LYPD1発現の阻害剤が、直接的にLYPD1遺伝子の発現を阻害するアンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、ゲノム編集核酸及びそれらの発現ベクター有機低分子並びにそれらの組合せからなる群から選択されるものであり、前記有機低分子が、11βH,13-ジメチルアミノパルテノライド(DMAPT);11βH,13-ジエチルアミノパルテノライド;11βH,13-(tert-ブチルアミノ)パルテノライド;11βH,13-(ピロリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(モルホリン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(4-メチルピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(4-メチルピペラジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ホモピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ヘプタメチレンイミン-1-イル)パルテノライド、11βH,13-(アゼチジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-ジアリルアミノパルテノライド;及びこれらの医薬的に許容される塩からなる群から選択されるパルテノライド誘導体であり、
前記ゲノム編集核酸が、LYPD1遺伝子をターゲティングするgRNA又は前記gRNAを発現するベクター及び遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼを発現する核酸を含む、
医薬組成物。
【請求項2】
前記血管新生障害が、脳血管疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作、モヤモヤ病、狭心症、(末梢)動脈閉塞症、動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、虚血、心筋症、鬱血性心不全、冠動脈疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症、虚血性心疾患、血管内膜肥厚、血管閉塞、動脈硬化性末梢血管疾患、門脈圧亢進症、リウマチ性心疾患、高血圧、血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化、血管形成術後の再狭窄、肺動脈高血圧、静脈移植片疾患、高血圧性心疾患、心臓弁膜症、川崎病、拡張型心筋症、肥大型心筋症、サルコイドーシス、全身性強皮症、大動脈炎症候群、無症候性心筋虚血、内頚動脈狭窄症、椎骨動脈狭窄症、透析心筋症、糖尿病性心筋症、肺動脈性肺高血圧、虚血性心筋症、冠動脈バイパス術後、経皮的冠動脈形成術後、急性心筋梗塞、亜急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞、労作性狭心症、不安定狭心症、急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全、僧房弁閉鎖不全及び僧房弁狭窄症からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
LYPD1を発現する生体組織を治療及び/又は予防する、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、アンギオポエチン、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、胎盤成長因子(PIGF)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、それらのファミリータンパク質及びそれらの組合せからなる群から選択される1以上の血管新生誘導因子をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織をインビトロで製造する方法であって、
以下の工程:
(a1)LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群をLYPD1阻害剤で処理する工程であって、前記LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群が、
i)少なくとも前記第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を含む、被験体由来の生体組織;又は
ii)組織工学的に作製された、少なくとも前記第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を含む、生体組織である;並びに
(a2)前記工程(a1)により得られた細胞群を、培養する工程、
或いは、
(b1)LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群を、LYPD1阻害剤で処理する工程;
(b2)前記工程(b1)により得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させる工程;並びに
(b3)前記工程(b2)により得られた細胞群を用いて組織工学的に生体組織を作製し、培養する工程、
を含む、方法であって、
前記第1の細胞が、間質細胞又は線維芽細胞であり、
前記LYPD1阻害剤が、直接的にLYPD1遺伝子の発現を阻害するアンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、ゲノム編集核酸、及びそれらの発現ベクター;有機低分子;LYPD1に特異的に結合するアプタマー、抗体及び抗体フラグメント並びにそれらの組合せからなる群から選択されるものであり、
前記有機低分子が、11βH,13-ジメチルアミノパルテノライド(DMAPT);11βH,13-ジエチルアミノパルテノライド;11βH,13-(tert-ブチルアミノ)パルテノライド;11βH,13-(ピロリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(モルホリン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(4-メチルピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(4-メチルピペラジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ホモピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ヘプタメチレンイミン-1-イル)パルテノライド、11βH,13-(アゼチジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-ジアリルアミノパルテノライド;及びこれらの医薬的に許容される塩からなる群から選択されるパルテノライド誘導体であり、
前記ゲノム編集核酸が、LYPD1遺伝子をターゲティングするgRNA又は前記gRNAを発現するベクター及び遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼを発現する核酸を含む、
方法。
【請求項6】
前記第1の細胞が、心臓、筋肉、腎臓及び/又は脳由来の間質細胞又は線維芽細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
LYPD1阻害剤をスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(i-1)LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を候補物質で処理する工程であって、前記LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群が、
i)少なくとも前記第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を含む、被験体由来の生体組織;又は
ii)組織工学的に作製された、少なくとも前記第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を含む、生体組織である;
(i-2)前記工程(i-1)により得られた細胞群を培養する工程;並びに
(i-3)前記工程(i-2)により得られた細胞群における血管内皮ネットワークの形成を評価する工程、
或いは、
(ii-1)LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群を、候補物質で処理する工程;
(ii-2)前記工程(ii-1)により得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させる工程;
(ii-3)前記工程(ii-2)により得られた細胞群を用いて組織工学的に生体組織を作製し、培養する工程;並びに
(ii-4)前記工程(ii-3)により得られた細胞群における血管内皮ネットワークの形成を評価する工程、
を含み、
前記第1の細胞が、間質細胞又は線維芽細胞である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織において血管内皮ネットワークの形成を促進するためのLYPD1の阻害剤に関する。また、本発明は、血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造する方法に関する。なお、本出願は日本国特許庁に2017年3月6日に出願した特願2017-42200を基礎とする優先権を主張出願であり、参照によってその明細書全体が本明細書中に取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
虚血性心疾患は、日本の死因第2位であり、現在も解決すべき重要な疾患の1つである。従来、虚血性心疾患に対する血管新生療法としては、血管内皮成長因子(VEGF)などの血管新生誘導因子の投与や、血管内皮前駆細胞の移植など、血管新生を促進する治療法が広く開発されてきた。一方で、これらの治療法は、全身における血管新生を促進する懸念があり、担癌患者へ適用することが困難であった。また、血管新生増殖因子を用いる場合は、血管浮腫などの副作用が起こってしまい、臨床に応用するためには課題を有していた。
【0003】
全身の臓器又は組織において血管新生を促進することなく、治療の対象となる臓器又は組織の血管新生のみを促進する治療法として、細胞シートを用いた治療法が開発されている。例えば、虚血性心疾患を含む心臓疾患を治療する治療法として、細胞シートによる治療法が開発されており、一部は臨床で使用されている(特許文献1~3参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1~3に記載の細胞シートは、適用した患部に当該細胞シートから分泌されるサイトカイン等の作用により治療効果を発揮する治療法であり、重度の疾患により不可逆的な損傷を受けた臓器又は組織の治療には不十分な治療法であると考えられている。そのため、このような臓器又は組織を治療するためには、その部位を代替する機能を有する生体組織と置換する(移植する)必要があると考えられている。
【0005】
疾患を有する臓器又は組織と置換可能な生体組織を作製する手法として、種々のティッシュエンジニアリング技術が開発されている。特に、厚みをもった生体組織を構築する方法の開発が試みられている。厚みを持った生体組織を構築させるためには、当該生体組織内に血管内皮ネットワークを構築し、機能的な血管網を構築させる必要がある。例えば、インビトロにおいて、機能的な血管網を有し、厚みをもった生体組織を構築する方法として、特許文献4及び5に記載の方法が開示されている。
【0006】
生体組織において、機能的な血管網を構築した生体組織を得るためには、上述の方法のみでは十分ではなく、より簡便に機能的な血管網を構築する新たな方法の開発が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2005/011524号
【文献】国際公開第2011/067983号
【文献】国際公開第2014/148321号
【文献】国際公開第2012/036224号
【文献】国際公開第2012/036225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような、簡便に、生体組織において血管内皮ネットワークの形成を促進させるための問題点を解決することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、驚くべきことに、LYPD1を阻害することにより、生体組織において血管内皮ネットワークの形成が促進されることを見出した。すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
【0010】
[1] 生体組織において、血管内皮ネットワークの形成を促進するためのLYPD1阻害剤。
[2] 血管新生障害の治療及び/又は予防のための、[1]に記載のLYPD1阻害剤。
[3] 前記血管新生障害が、脳血管疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作、モヤモヤ病、狭心症、(末梢)動脈閉塞症、動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、虚血、心筋症、鬱血性心不全、冠動脈疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症、虚血性心疾患、血管内膜肥厚、血管閉塞、動脈硬化性末梢血管疾患、門脈圧亢進症、リウマチ性心疾患、高血圧、血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化、血管形成術後の再狭窄、肺動脈高血圧、静脈移植片疾患、高血圧性心疾患、心臓弁膜症、川崎病、拡張型心筋症、肥大型心筋症、サルコイドーシス、全身性強皮症、大動脈炎症候群、無症候性心筋虚血、内頚動脈狭窄症、椎骨動脈狭窄症、透析心筋症、糖尿病性心筋症、肺動脈性肺高血圧、虚血性心筋症、冠動脈バイパス術後、経皮的冠動脈形成術後、急性心筋梗塞、亜急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞、労作性狭心症、不安定狭心症、急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全、僧房弁閉鎖不全及び僧房弁狭窄症からなる群から選択される、[2]に記載のLYPD1阻害剤。
[4] 前記血管新生障害が、狭心症、心筋梗塞、心筋症、鬱血性心不全、冠動脈疾患、虚血性心疾患、リウマチ性心疾患、心臓血管形成術後の再狭窄、高血圧性心疾患、心臓弁膜症、川崎病、拡張型心筋症、肥大型心筋症、全身性強皮症、大動脈炎症候群、無症候性心筋虚血、内頚動脈狭窄症、椎骨動脈狭窄症、透析心筋症、糖尿病性心筋症、肺動脈性肺高血圧、虚血性心筋症、冠動脈バイパス術後、経皮的冠動脈形成術後、急性心筋梗塞、亜急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞、労作性狭心症、不安定狭心症、急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全、僧房弁閉鎖不全及び僧房弁狭窄症からなる群から選択される、[2]に記載のLYPD1阻害剤。
[5] 前記生体組織が、LYPD1を発現する生体組織である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のLYPD1阻害剤。
[6] 前記LYPD1阻害剤が、LYPD1の選択的阻害剤である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のLYPD1阻害剤。
[7] 前記LYPD1の選択的阻害剤が、有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント及びそれらの組合せからなる群から選択される、[6]に記載のLYPD1阻害剤。
[8] 前記LYPD1阻害剤が、LYPD1発現の阻害剤及び/又はLYPD1発現の阻害剤で処理された細胞である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のLYPD1阻害剤。
[9] 前記細胞が、細胞懸濁液又は細胞シートの形態で提供される、[8]に記載のLYPD1阻害剤。
[10] 前記LYPD1発現の阻害剤が、アンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、ゲノム編集核酸及びそれらの発現ベクター、有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、[8]又は[9]に記載のLYPD1阻害剤。
【0011】
[11] [1]~[10]のいずれか1項に記載のLYPD1阻害剤を有効成分として含む、血管新生障害を治療及び/又は予防するための医薬組成物。
[12] 血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、アンギオポエチン、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、胎盤成長因子(PIGF)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、それらのファミリータンパク質及びそれらの組合せからなる群から選択される1以上の血管新生誘導因子をさらに含む、[11]に記載の医薬組成物。
【0012】
[13] 血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造する方法であって、
以下の工程:
(a1)LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を提供する工程;
(a2)前記工程(a1)により得られた細胞群を、LYPD1阻害剤で処理する工程;並びに
(a3)前記工程(a2)により得られた細胞群を、培養する工程、
或いは、
(b1)LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群を、LYPD1阻害剤で処理する工程;
(b2)前記工程(b1)により得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させる工程;並びに
(b3)前記工程(b2)により得られた細胞群を、培養する工程、
を含む、方法。
[14] 前記第1の細胞が、心臓、筋肉、腎臓及び/又は脳由来の細胞である、[13]に記載の方法。
[15] 前記LYPD1阻害剤が、アンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、ゲノム編集核酸、それらの発現ベクター、それらの発現ベクターが導入された細胞、前記第1の細胞のLYPD1発現量よりもLYPD1発現量が低い若しくは発現していない第2の細胞、有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント及びそれらの組合せからなる群から選択される、[13]又は[14]に記載の方法。
[16] 前記第2の細胞が、皮膚、食道、肺、及び/又は肝臓由来の細胞である、[15]に記載の方法。
【0013】
[17] 血管新生障害を治療及び/又は予防するための医薬品組成物を製造するための、[1]~[10]のいずれか1項に記載のLYPD1阻害剤の使用。
【0014】
[18] LYPD1阻害剤をスクリーニングする方法であって、以下の工程:
(i-1)LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を提供する工程;
(i-2)前記工程(i-1)により得られた細胞群を、候補物質で処理する工程;
(i-3)前記工程(i-2)により得られた細胞群を培養する工程;並びに
(i-4)前記工程(i-3)により得られた細胞群における血管内皮ネットワークの形成を評価する工程、
或いは、
(ii-1)LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群を、候補物質で処理する工程;
(ii-2)前記工程(ii-1)により得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させる工程;
(ii-3)前記工程(ii-2)により得られた細胞群を培養する工程;並びに
(ii-4)前記工程(ii-3)により得られた細胞群における血管内皮ネットワークの形成を評価する工程、
を含む、方法。
[19] 前記第1の細胞が、心臓、筋肉、腎臓及び/又は脳由来の細胞、或いは、LYPD1を発現するベクターが導入された細胞である、[18]に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体組織において、血管内皮ネットワークの形成を促進することが可能となる。特に、本発明によれば、LYPD1が高発現し、血管新生障害を有する生体組織において、血管新生を促進することが可能となる。また、本発明によれば、血管新生障害を有する被験体において、血管内皮ネットワークの構築を促進することが可能となる。さらにまた、本発明によれば、血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、心臓線維芽細胞が血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又は心臓線維芽細胞(心房はNHCF-a、心室はNHCF-v)とヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)とを共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
図2図2は、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又はヒト心臓線維芽細胞(心房はNHCF-a、心室はNHCF-v)と、iPS細胞由来血管内皮細胞(iPS-CD31+)又はヒト心臓由来微小血管内皮細胞(HMVEC-C)とを共培養後の、血管内皮ネットワークを示す図である。
図3図3は、マウス心臓線維芽細胞が血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)マウス皮膚線維芽細胞(DF)又はマウス心臓線維芽細胞(CF)と、マウスES細胞由来心筋細胞、マウスES細胞由来血管内皮細胞とを共培養後の心筋細胞(緑)及びCD31陽性細胞(赤)を示す図である。
図4図4は、ラット心臓線維芽細胞が血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)新生仔ラット皮膚線維芽細胞(RDF)又は心臓線維芽細胞(RCF)と、ラット新生仔心臓由来血管内皮細胞とを共培養後の血管内皮ネットワークを示す図である。CD31陽性細胞(緑)及び核(Hoechst33342(青))を表す。(C)(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
図5図5は、皮膚線維芽細胞と心臓線維芽細胞の遺伝子発現を比較した図である。(A)糖タンパク質関連遺伝子についてのヒートマップを示す。(B)血管新生に関連する遺伝子についてのヒートマップを示す。
図6図6は、LYPD1が発現する部位を示す図である。(A)ラット由来の各臓器におけるLYPD1の相対的発現量をqPCRにより評価したグラフである。(B)ラット心臓組織の免疫染色画像を示す図である(cTnT:心筋トロポニンT(緑)、LYPD1(赤)、DAPI:核(青)、Merged:マージ)。
図7図7は、ヒト及びラットの初代培養細胞におけるLYPD1遺伝子発現を比較した図である。(A)ヒト初代皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト初代心臓線維芽細胞(心房:NHCF-a、心室:NHCF-v)のLYPD1の相対的発現量をqPCRにより評価したグラフである。(B)ラット初代皮膚線維芽細胞及びラット初代心臓線維芽細胞のLYPD1の相対的発現量をqPCRにより評価したグラフである。
図8図8は、血管ネットワーク形成がLYPD1の阻害(siRNA)により回復することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)ヒト心臓線維芽細胞にLYPD1に対するsiRNAを導入した後にHUVECと共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)ヒト心臓線維芽細胞にコントロールsiRNAを導入した後にHUVECと共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(D)(B)及び(C)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。
図9図9は、血管ネットワーク形成がLYPD1の阻害(抗LYPD1抗体)により回復することを示す図である。(A)ヒト心臓線維芽細胞とHUVECとを抗LYPD1抗体存在下で共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(B)ヒト心臓線維芽細胞とHUVECとをコントロールIgG存在下にて共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
図10図10は、血管ネットワーク形成がLYPD1の阻害(抗LYPD1抗体)により回復することを示す図である。(A)ラット新生仔心臓線維芽細胞とラット新生仔心臓由来血管内皮細胞とを抗LYPD1抗体存在下で共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(B)ラット新生仔心臓線維芽細胞とラット新生仔心臓由来血管内皮細胞とをコントロールIgG存在下にて共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
図11図11は、ヒト皮膚芽細胞(NHDF)及びヒト心臓線維芽細胞(NHCF)、iPS由来間質細胞、間葉系幹細胞(MSC)における遺伝子発現をマイクロアレイで解析した結果を示した図である。クラスター解析を右に示す。
図12図12は、ヒトiPS由来間質細胞(iPS fibro-like)がヒトiPS CD31陽性細胞(iPS CD31+)由来の血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又はヒトiPS由来間質細胞を、ヒトiPS CD31陽性細胞と共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。赤は、CD31陽性細胞を示す。(C)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)、ヒト心臓線維芽細胞(NHCFa)及びヒトiPS由来間質細胞(iPS fibro-like)におけるLYDP1の発現をqPCRで評価したグラフを示す。
図13図13は、リコンビナントLYPD1が、血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)抗DYKDDDDKタグ抗体磁気ビーズを用いて精製したFLAG-LYPD1タンパク質をドデシル硫酸-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び免疫ブロッティングに供し、ペルオキシダーゼ結合抗-DYKDDDDKタグモノクローナル抗体(上段)及びウサギポリクローナル抗-LYPD1抗体(下段)で検出した。(B)リコンビナントLYPD1タンパク質で処理した後の血管内皮ネットワーク(チューブ)形成の様子を示す。CD31(緑)及び核(Hoechst33342(青))を染色した。スケールバーは400μmを表す。(C)リコンビナントLYPD1タンパク質で処理した後の血管内皮ネットワーク(チューブ)の長さの合計を示す。CD31陽性細胞が形成するチューブの長さを合計して算出した。値は、3回の独立した実験から、平均値±標準偏差を算出した。P<0.05。
図14図14は、血管内皮ネットワーク形成回復が、LYPD1の抑制を介していることを示す図である。(A)コントロールsiRNA又はLYPD1 siRNAを遺伝子導入したヒト心臓線維芽細胞(2.4×10 cells/cm)とHUVEC(2×10 cells/cm)とを共培養し、3日間培養後に固定後、CD31抗体およびHoechst33342で染色した。rLYPD1は、1.5ug/mL濃度で添加した。-rLYPD1では、等量の緩衝液(組成:500ug/ml DYKDDDDKペプチド、10mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl)を添加した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(molecular device)を用いて取得した画像を示す。青:Hoechst33342(核)、緑:CD31。(B)(A)で取得した画像をMetaXpress softwear(Molecular Device)を用いてCD31陽性細胞の長さを測定し、合計の長さをグラフとして示した。
図15図15は、マトリゲル(登録商標)上におけるHUVECの管腔形成に対するrLYPD1の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1-1.LYPD1タンパク質
本明細書において、用語「LYPD1」は、当該技術分野において一般的に使用される意味と同義のものとして使用され、LY6/PLAUR domain containing 1、PHTS、LYPDC1とも称されるタンパク質をいう(以下、「LYPD1」という)。LYPD1は、哺乳動物において広く保存されているタンパク質であり、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット等においても見出されている。天然のヒトLYPD1のmRNA及びアミノ酸の配列は、例えば、GenBankデータベース及びGenPeptデータベースにおいて、受入番号NM_001077427(配列番号1)及びNP_001070895(配列番号2)、NM_144586(配列番号3)、及びNP_653187(配列番号4)、NM_001321234(配列番号5)及びNP_001308163(配列番号6)、並びにNM_001321235(配列番号7)及びNP_001308164(配列番号8)として提供される。また、天然のマウスLYPD1のmRNA及びアミノ酸の配列は、例えば、GenBankデータベース及びGenPeptデータベースにおいて、受入番号NM_145100(配列番号9)及びNP_659568(配列番号10)、NM_001311089(配列番号11)及びNP_001298018(配列番号12)、並びに、NM_001311090(配列番号13)及びNP_001298019(配列番号14)として提供されている。
【0018】
本明細書において、用語「LYPD1」は、天然に存在するLYPD1並びにその変異体及びその修飾体が含まれてもよい。この用語はまた、少なくとも1種のLYPD1活性を保持したLYPD1のドメインが、例えば、他のポリペプチドと融合した融合タンパク質を意味するものであってもよい。LYPD1はいかなる生物由来であってもよいが、好ましくは、哺乳動物由来(例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等)、より好ましくは、ヒト及びヒト以外の霊長類由来、特に好ましくはヒトのLYPD1である。
【0019】
LYPD1は、脳において高発現しているタンパク質として知られているが、その機能についてはほとんど知られていない。LYPD1のアミノ酸モチーフから、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型のタンパク質であると考えられている。
【0020】
発明者らは、組織工学的に三次元生体組織を構築する研究を行う過程において、マウス、ラット及びヒトのいずれの哺乳動物由来の心臓線維芽細胞と血管内皮細胞を共培養した場合、血管内皮細胞のネットワーク形成を著しく抑制する現象を見出した。その原因について詳細に調べた結果、LYPD1を阻害することにより、血管網の形成不全が改善されることを見出した。本発明は、当該知見を基にして完成したものである。
【0021】
1-2.血管内皮ネットワーク
本明細書において、用語「血管内皮ネットワーク」とは、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞が生体組織において構築する毛細血管様のネットワークである。血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の細胞表面マーカーとしてはCD31タンパク質が知られており、任意の方法によってCD31タンパク質を検出することで、生体組織における血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の存在を検出することができる。血管内皮ネットワークは、管腔構造を構築し、流体、特に血液が通る血管網となる。生体組織が生存するためには、栄養や酸素が含まれる血液をその隅々まで行き渡らせる必要があり、そのためには密度の高い血管網を構築する必要がある。生体組織では、血管内皮ネットワークの網目構造の密度が高い程、血液等を当該組織内に運搬する能力が高く好ましい。本発明のLYPD1阻害剤が、血管内皮ネットワークの形成が促進されているか否かについては、上述のように構築された血管内皮ネットワークの長さ及び/又は分岐点を評価することに判断することができる。血管内皮ネットワークの長さとは、単位面積あたりの血管内皮ネットワークを総合した長さをいい、血管内皮ネットワークの分岐点とは、単位面積あたりに存在する血管内皮ネットワーク同士が繋がった部位の総数をいう。すなわち、上記のLYPD1阻害剤のスクリーニングにおいて、LYPD1阻害剤を用いない場合(又はネガティブコントロールとしての化合物)と比較して、血管内皮ネットワークの長さ及び/又は分岐点が高い程、血管内皮ネットワークの形成を促進する能力が高いLYPD1阻害剤と評価することができる。血管内皮ネットワークの長さ及び/又は分岐点は、共焦点蛍光顕微鏡等により取得した画像を、例えば、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて、CD31陽性領域を血管内皮細胞として、血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出することができる。
【0022】
1-3.生体組織
本明細書において、用語「生体組織」とは、哺乳動物を構成する任意の部分をいい、一般に2以上の細胞が集合して構成されている組織をいう。本発明において、「生体組織」は、被験体の任意の部分であってもよく、被験体から採取された生体組織であってもよく、生体外(エクスビボ)若しくは生体内(インビボ)において組織工学的に作製された生体組織であってもよい。本明細書において、用語「被験体」は、哺乳動物、例えば、ウシ、ウマ、齧歯類(ラット、マウスなど)、ネコ、イヌ及び霊長類などを意味する。好ましくは、本発明による被験体は、ヒトである。本発明において、生体組織は、好ましくは血管内皮細胞及び/又は血管内皮細胞が含まれる。
【0023】
生体外(エクスビボ)又は生体内インビボにおいて、組織工学的に生体組織を作製する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、血管床上において細胞シートを積層して生体組織を構築する方法(国際公開第2012/036224号及び国際公開第2012/036225号を参照)、三次元プリンター技術を用いて生体組織を構築する方法(国際公開第2012/058278号を参照)、接着膜で被覆された細胞を用いて三次元構造体を作製する方法(特開第2012-115254号公報を参照)、生体内において臓器を構築する方法(Kobayashi T.,Nakauchi H.[From cell therapy to organ regeneration therapy: generation of functional organs from pluripotent stem cells].Nihon Rinsho.2011 Dec;69(12):2148-55;国際公開第2010/021390号;国際公開第2010/097459号を参照)の他、公知の製造方法により得られる生体組織も、本発明に適用することが可能であり、本発明の範囲に含まれる。
【0024】
生体外(エクスビボ)において、組織工学的に生体組織を作製する際に用いられる「細胞シート」とは、複数の任意の細胞を含む細胞群を細胞培養基材上で培養し、細胞培養基材上から剥離することで得られる1層又は複数層のシート状の細胞群をいう。細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光等の刺激によって分子構造が変化する高分子を被覆した刺激応答性培養基材上で細胞を培養し、温度、pH、光等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養基材表面を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養基材から細胞をシート状に剥離する方法や、任意の培養基材上で細胞培養し、物理的にピンセット等により剥離して得る方法等が挙げられる。細胞シートを得るための刺激応答性培養基材としては、0~80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した温度応答性培養基材が知られている。温度応答性培養基材上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで細胞をシート状に剥離して回収することができる。
【0025】
細胞シートを得るために用いられる温度応答性培養基材は、細胞が培養可能な温度域でその表面の水和力を変化させる基材であることが好ましい。その温度域は、一般に細胞を培養する温度、例えば33℃~40℃であることが好ましい。細胞シートを得るために用いられる培養基材に被覆される温度応答性高分子は、ホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2-211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。
【0026】
刺激応答性高分子、特に温度応答性高分子としてポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いた場合を例(温度応答性培養皿)に説明する。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集して白濁する。逆に31℃未満の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆されて固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、培養基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に固定されているため、培養基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃未満の温度では、培養基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に被覆されているため、培養基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着し、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できない表面となる。そのため、該基材を31℃未満に冷却すると、細胞が基材表面から剥離する。細胞が培養面一面にコンフルエントになるまで培養されていれば、該基材を31℃未満に冷却することによって細胞シートを回収できる。温度応答性培養基材は、同一の効果を有するものであれば限定されるものではないが、例えば、セルシード社(東京、日本)が市販するUpCell(登録商標)などを使用することができる。
【0027】
本発明で用いられる生体組織は、複数枚の細胞シートを積層した細胞シート(積層化細胞シート)であってもよい。積層化細胞シートを作製する方法としては、ピペット等によって培養液中に浮かんでいる細胞シートを培養液ごと吸い取り、別の培養皿の細胞シート上に放出して液流によって積層する方法や、細胞移動治具を用いて積層する方法等が挙げられる。その他、公知の方法によって積層化細胞シートを含む生体組織が得られる。
【0028】
2.LYPD1阻害剤
本明細書において、用語「LYPD1阻害剤」は、広義に理解される用語であり、直接的及び/又は間接的にLYPD1の活性を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を示す、天然の、又は合成された化合物或いは細胞(例えば、細胞懸濁液又は細胞シートの形態で提供される細胞)を意味する。例えば、LYPD1阻害剤は、以下に説明するLYPD1の選択的阻害剤及びLYPD1発現の阻害剤を含む。特に、本発明において、LYPD1阻害剤は、血管内皮ネットワークの形成が阻害されていた生体組織で発現しているLYPD1に直接的及び/又は間接的に作用し、血管内皮ネットワークの形成を促進する物質である。一実施態様において、本発明のLYPD1阻害剤は、その医薬的に許容される塩であってもよい。本明細書において「医薬的な」又は「医薬的に許容される」とは、哺乳動物、特にヒトに適切に投与されたとき、副作用、アレルギー作用又はその他の有害作用を生じない分子及び組成物を意味する。医薬的に許容される担体又は賦形剤とは、非毒性の固形、半固形又は液体の注入剤、希釈剤、カプセル化物質又は任意の種類の製剤補助物を意味する。また、LYPD1阻害剤は、LYPD1が低発現の細胞、例えば、心臓由来の線維芽細胞よりもLYPD1が低発現の細胞(例えば、食道、精巣、皮膚、腎臓、肺、肝臓、筋肉由来の細胞、好ましくは、食道、精巣、皮膚、肺、肝臓由来の細胞、さらに好ましくは、食道、精巣、皮膚、肺、肝臓由来の線維芽細胞、最も好ましくは皮膚由来の線維芽細胞)を含んでもよい。
【0029】
本明細書において、「LYPD1の選択的阻害剤」という用語は、LYPD1以外のLYPDタンパク質(例えば、LYPD2、LYPD3、LYPD4、LYPD5、LYPD6)と比較して、LYPD1を選択的に阻害する阻害剤を意味する。「選択的」とは、阻害剤のLYPD1に対するKiがその他のタンパク質に対するKi値の1/5倍、好ましくは1/10倍、より好ましくは1/25倍、さらに好ましくは1/100倍以下であることを意味する。LYPD1の阻害剤のKi値は、当技術分野で周知の種々の方法を使用して測定することができる。LYPD1の選択的阻害剤とは、例えば、有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント及びそれらの組合せであってもよい。
【0030】
2-1.有機低分子
本明細書において、用語「有機低分子」は、医薬品で一般的に使用される有機分子と同程度の大きさの分子のことである。本発明において用いることができるLYPD1阻害剤としての有機低分子の大きさは、好ましくは、約5000Da以下、より好ましくは約2000Da以下、最も好ましくは約1000Da以下の範囲である。本発明において、LYPD1阻害剤としての有機低分子とは、LYPD1に直接的及び/又は間接的に作用し、生体組織における血管内皮ネットワークの形成を促進するものをいい、後述のスクリーニング方法によって選択することが可能である。
【0031】
2-2.アプタマー
本明細書において、用語「アプタマー」は、特異的に標的物質に結合する能力を持つ合成DNA又はRNA分子及びペプチド性分子をいい、試験管内において化学的に短時間で合成することができる。本発明に用いられるアプタマーは、LYPD1に結合し、LYPD1の活性を阻害し得るものである。本発明に用いられるアプタマーは、例えば、SELEX法を用い、小分子、タンパク質、核酸など各種の分子標的への結合を、インビトロで反復して選択することにより得ることができる(Tuerk C.,Gold L.,Science,1990,249(4968),505-510;Ellington AD,Szostak JW.,Nature,1990,346(6287):818-822;米国特許第6,867,289号明細書;米国特許第5,567,588号明細書;米国特許第6,699,843号明細書を参照)。本発明において、LYPD1阻害剤としてのアプタマーは、LYPD1に直接的及び/又は間接的に作用し、生体組織における血管内皮ネットワークの形成を促進するものであってもよく、後述のスクリーニング方法によって選択することが可能である。
【0032】
本発明に用いることができる核酸アプタマーは、血流中ではヌクレアーゼにより速やかに分解及び除去されるため、必要に応じてポリエチレングリコール(PEG)鎖などによる分子修飾を行って半減期を延ばしておくことが好ましい。
【0033】
2-3.抗体、抗体フラグメント
本発明に用いることができるLYPD1阻害剤は、LYPD1に結合し、LYPD1活性を部分的に、又は完全に阻害できる抗体若しくは抗体フラグメントであってもよい。本発明において用いることができるLYPD1に対する抗体又は抗体フラグメントは、LYPD1に結合し、LYPD1活性を阻害するものであれば、ヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ウサギ由来抗体又はヤギ由来抗体のいずれの抗体でもよく、さらにそれらのポリクローナル若しくはモノクローナル抗体、完全型若しくは短縮型(例えば、F(ab’)2、Fab’、FabまたはFvフラグメント)抗体、キメラ化抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。本明細書において、抗体フラグメントとは、F(ab’)2、Fab’、Fab又はscFv抗体フラグメントであり、プロテアーゼ酵素により処理し、場合により還元して得ることができる。
【0034】
本発明に用いることができる抗体又は抗体フラグメントは、LYPD1タンパク質又はその一部を抗原として、公知の抗体又は抗血清の製造法に従って製造することができる。LYPD1タンパク質又はその一部は、公知のタンパク質発現法及び精製法によって調製することができる。また、本発明に用いることができる抗体又は抗体フラグメントは、ファージ・ディスプレー法(例えば、FEBS Letter,1998年,第441巻,p.20-24を参照)を介して作製することもできる。この方法は、環状一本鎖DNAにヒト抗体遺伝子を組み込んだファージを利用して、ファージを構成する外殻タンパク質と融合した形で、ヒト型抗体をファージの表面に発現される。
【0035】
本発明において、LYPD1阻害剤としての抗体又は抗体フラグメントは、LYPD1に直接的及び/又は間接的に作用し、生体組織における血管内皮ネットワークの形成を促進するものであってもよく、後述のスクリーニング方法によって選択することが可能である。
【0036】
3.LYPD1発現の阻害剤
本発明において用いられる「発現の阻害剤」とは、直接的及び/又は間接的に遺伝子の発現を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を示す天然の、又は合成された化合物を意味する。従って、「LYPD1発現の阻害剤」とは、直接的及び/又は間接的にLYPD1遺伝子をコードする遺伝子の発現を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を有する天然の、又は合成された化合物を意味する。また、本発明のLYPD1阻害剤は、LYPD1発現の阻害剤により処理され、LYPD1発現が阻害された細胞であってもよい。
【0037】
LYPD1発現の阻害剤としては、例えば、アンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)又は低分子ヘアピンRNA(shRNA))、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム、ゲノム編集核酸及びそれらの発現ベクター、並びにそれらの組合せを適用することができる。また、LYPD1発現の阻害剤は、直接的及び/又は間接的にLYPD1遺伝子の発現を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を示す有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント並びにそれらの組合せを適用することもできる。さらに、LYPD1阻害剤は、上記のLYPD1発現の阻害剤により処理された細胞であってもよい。
【0038】
3-1.アンチセンスRNA又はDNA分子
本発明にアンチセンスRNA又はDNA分子とは、メッセンジャーRNA(mRNA)など、ある機能を持つRNA(センスRNA)と相補的な塩基配列を持ち、センスRNAと2本鎖を形成することで、そのセンスRNAが担うべきタンパク質の合成を阻害する機能を有する分子である。本発明において、アンチセンスRNA又はDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、LYPD1のmRNAに結合することによってタンパク質に翻訳されることを阻害する。それにより、LYPD1の発現量を低減させ、LYPD1の活性を阻害することができる。アンチセンスRNA又はDNA分子を合成する方法は、当該技術分野で周知であり、本発明に用いることができる。
【0039】
3-2.RNAi誘導性核酸
本発明で用いることができるRNAi誘導性核酸は、細胞内に導入されることにより、RNA干渉(RNAi)を誘導し得るポリヌクレオチドをいい、通常、19~30ヌクレオチド、好ましくは19~25ヌクレオチド、より好ましくは19~23ヌクレオチドを含むRNA、DNA、又はRNAとDNAのキメラ分子であってよく、任意の修飾が施されていてもよい。RNAiは、mRNAに対して生じてもよいし、プロセッシング前の転写直後のRNA、すなわちエキソン、イントロン、3’非翻訳領域、及び5’非翻訳領域を含むヌクレオチド配列のRNAであってもよい。本発明で使用可能なRNAi法は、(1)短い二重鎖RNA(siRNA)を細胞内に直接導入するか、(2)低分子ヘアピンRNA(shRNA)を各種発現ベクターに組み込み、そのベクターを細胞内に導入するか、或いは(3)対立方向に並ぶ2個のプロモーターを持つベクターに、siRNAに対応する短い二重鎖DNAをプロモーター間に挿入してsiRNAを発現させるベクターを作製し、細胞内に導入する、などの手法によりRNAiを誘導させてもよい。RNAi誘導性核酸は、LYPD1のRNAの切断又はその機能抑制を可能にするsiRNA、shRNA又はmiRNAを含んでもよく、これらのRNAi核酸は、リポソームなどを用いて直接導入されてもよいし、これらのRNAi核酸を誘導する発現ベクターを用いて導入されてもよい。
【0040】
本発明で用いられるLYPD1に対するRNAi誘導性核酸は、RNAi誘導性核酸の標的となるLYPD1配列に基づいて、周知の化学合成技術を用いて合成することができる。例えば、固相ホスホアミダイト法などのDNA合成技術を利用したDNA(/RNA)自動合成装置を使用して化学的に合成するか、或いは、siRNA関連の受託合成会社(例えばLife Technologies社など)に委託して合成することも可能である。本発明の実施形態によれば、本発明に用いられるsiRNAは、その前駆体であるshort-hairpin型二本鎖RNA(shRNA)から、細胞内RNaseであるダイサー(Dicer)によるプロセシングを介して誘導されてもよい。本発明において、使用されるRNAi誘導性核酸は、配列番号15又はその相補配列(配列番号16)に由来の連続する19~30ヌクレオチド、好ましくは19~25ヌクレオチド、より好ましくは19~23ヌクレオチドを含むRNAである。このようなRNAは、5’又は3’末端に1又は数個、例えば2個の付加配列(例えば、tt、uu、tgなど)が追加されてもよく、それにより細胞内で分解を妨げ、安定性を高めることができる。本発明で用いられるLYPD1に対するRNAi誘導性核酸は、LYPD1の発現を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を示す核酸であればよく、当業者であれば、LYPD1の塩基配列を参考に合成することが可能である。例えば、以下の配列を含むLYPD1のsiRNAとして使用することができるが、以下のものに限定されることを意図するものではなく、下記の配列に相補する配列を用いてもよい:
5’-GGCUUUGCGCUGCAAAUCC-3’(配列番号15)
5’-GGAUUUGCAGCGCAAAGCC-3’(配列番号16)
【0041】
3-3.マイクロRNA(miRNA)
マイクロRNA(miRNA)は21~25塩基長の1本鎖RNA分子であり、真核生物において遺伝子の転写後発現調節に関与する。miRNAは、一般にmRNAの3’UTRを認識して、標的mRNAの翻訳を抑制し、タンパク質産生を抑制する。従って、LYPD1の発現量を直接的及び/又は間接的に低減させることができるmiRNAも、本発明の範囲に含まれる。
【0042】
3-4.リボザイム
リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することができる酵素的RNA分子の総称である。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(例えば、小泉誠及び大塚栄子、タンパク質核酸酵素、1990、35、2191を参照)。
【0043】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3’側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15又はU15でも切断され得ることが示されている(例えば、Koizumi,M.et al.,FEBS Lett,1988,228,228.を参照)。基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UU又はUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを得ることが可能であり、当業者であれば、以下の文献を参考に製造可能である:Koizumi,M.et al.,FEBS Lett,1988,239,285.;小泉誠及び大塚栄子,タンパク質核酸酵素,1990,35,2191.;Koizumi,M.et al.,Nucl.Acids Res.,1989,17,7059.。
【0044】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明に用いることができる。このリボザイムは、例えば、タバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan,JM.,Nature,1986,323,349.)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(例えば、Kikuchi,Y.&Sasaki,N.,Nucl.Acids.Res.,1991,19,6751.;菊池洋,化学と生物,1992,30,112.を参照)。リボザイムを用いてLYPD1をコードする遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、LYPD1遺伝子の発現を阻害することができる。従って、LYPD1を対象とするリボザイムも、本発明の範囲に含まれる。
【0045】
3-5.ゲノム編集核酸
本発明の一実施形態において、LYPD1発現の阻害剤は、直接的及び/又は間接的にLYPD1遺伝子の発現を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を示すゲノム編集核酸を用いることができる。本明細書において、ゲノム編集核酸とは、遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼを利用したシステムにおいて、所望の遺伝子を編集するために用いられる核酸をいう。遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼは、公知のヌクレアーゼの他、今後遺伝子ターゲッティングのために使用される新たなヌクレアーゼも包含される。例えば、公知のヌクレアーゼとしては、CRISPR/Cas9(Ran,F.A.,et al.,Cell,2013,154,1380-1389)、TALEN(Mahfouz,M.,et al.,PNAS,2011,108,2623-2628)、ZFN(Urnov,F.,et al.,Nature,2005,435,646-651)等が挙げられる。
【0046】
本発明の一実施態様に用いることができる、CRISPR/Cas9を用いたCRISPR/Cas9システムについて説明する。
【0047】
CRISPR/Cas9システムは、DNAの任意の部位に二本鎖切断を導入することを可能とする。CRISPR/Cas9システムを用いるためには、少なくとも、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM配列)、ガイドRNA(gRNA)、Casタンパク質(Cas,Cas9)の3つの要素を必要とする。
【0048】
PAM配列(5’-NGG)に隣接する標的部位に相補的な配列を形成するようにgRNAを設計し、所望の細胞にCasタンパク質と共に導入する。導入されたgRNAとCasタンパク質は複合体を形成する。gRNAがゲノム上の標的配列に結合し、Casタンパク質がそのヌクレアーゼ活性によって標的のゲノムDNAの二重鎖を切断する。
【0049】
その後、ヌクレアーゼによる二本鎖切断を受けた細胞では、相同組換え型修復(Homology Directed Repair(HDR))、又は非相同性末端結合修復(non-homologous end joining(NHEJ))が生じる。当該細胞内に適切なDNA断片(例えば、HDR修復用鋳型)が存在する場合には、相同組換えが生じ、任意のゲノムにおいて欠失、挿入、破壊などの改変を行うことができる。HDR修復用鋳型が存在しない場合は、NHEJの過程で数塩基の欠失又は追加が生じる場合がある。これにより、タンパク質をコードする領域においてフレームシフトが生じ、タンパク質の読み取り枠が崩壊したり、未成熟な終止コドンが導入され、結果として、所望のタンパク質をノックアウトすることが可能となる。
【0050】
本発明の一実施態様において、ゲノム編集核酸は、LYPD1遺伝子をターゲティングするgRNAであってもよく、該gRNAを発現するベクターであってもよい。他の実施態様において、ゲノム編集核酸は、さらに、遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼを発現する核酸を含んでもよい。gRNAと遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼ(好ましくは、Casタンパク質)は、同一のベクターにコードされたものであってもよく、別々にコードされたベクターを用いてもよい。他の実施態様において、ゲノム編集核酸は、さらに、HDR修復用鋳型核酸を含んでも良い。ゲノム編集核酸は、プラスミドベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。ゲノム編集核酸によって、任意の細胞に導入する方法については、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0051】
3-6.LYPD1発現の阻害剤としての有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント
本発明の一実施形態において、LYPD1発現の阻害剤は、直接的及び/又は間接的にLYPD1遺伝子の発現を阻害する、又は有意に抑制する生物学的効果を示す有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメント又はそれらの組合せとして提供される。そのような物質の例としては、例えば、NF-κBの阻害剤を用いることができる。NF-κBの阻害剤であるパルテノライド誘導体、特にジメチルアミノパルテノライド(DMAPT)は、LYPD1の発現を抑制することが知られている(Burnett RM.,et al.Oncotarget 6:12682-12696(2015))。すなわち、一実施態様において、本発明のLYPD1阻害剤は、以下のパルテノライド誘導体であってもよく、これに限定されない:11βH,13-ジメチルアミノパルテノライド(DMAPT);11βH,13-ジエチルアミノパルテノライド;11βH,13-(tert-ブチルアミノ)パルテノライド;11βH,13-(ピロリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(モルホリン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(4-メチルピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(4-メチルピペラジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ホモピペリジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-(ヘプタメチレンイミン-1-イル)パルテノライド、11βH,13-(アゼチジン-1-イル)パルテノライド;11βH,13-ジアリルアミノパルテノライド;及びこれらの医薬的に許容される塩。本発明の一実施形態において用いることができるこれらのパルテノライド誘導体は、国際公開第2005/007103号を参照して得ることができ、本発明の範囲に含まれる。
【0052】
3-7.LYPD1発現の阻害剤の発現ベクター
本発明の一実施態様において、LYPD1阻害剤としてのLYPD1発現の阻害剤は、上述のアンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム又はゲノム編集核酸が任意のベクターにコードされた発現ベクターとして提供されてもよい。本発明において、LYPD1発現の阻害剤を発現させるために使用されるベクターは特に限定されず、公知のものを適宜選択可能である。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。LYPD1発現の阻害剤をベクターに導入する方法は、公知の遺伝子組換え技術を用いて導入することが可能であり、特に限定されない。
【0053】
3-8.LYPD1発現の阻害剤で処理された細胞
本発明の一実施態様において、LYPD1阻害剤は、上述のアンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、マイクロRNA(miRNA)、リボザイム又はゲノム編集核酸が、任意のベクターにコードされた発現ベクターによって処理された細胞であってもよい。また、本発明の一実施態様において、LYPD1阻害剤は、LYPD1発現の阻害剤の発現ベクターで細胞を処理した結果、LYPD1発現の阻害剤の発現ベクターが導入された細胞であってもよい。LYPD1発現の阻害剤の発現ベクターを細胞へ導入する方法についても公知の方法に従えばよく、特には限定されない。また、当該発現ベクターが導入されて、LYPD1発現の阻害剤を一時的又は持続的に発現する細胞を選択する方法も限定されず、例えば、発現ベクターにコードされている薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤(例えば、ネオマイシン、ハイグロマイシン等)を使用して選択すればよい。
【0054】
また、本発明の一実施態様において、LYPD1阻害剤は、上述の有機低分子、アプタマー、抗体、抗体フラグメントによって処理された細胞であってもよい。
【0055】
4.医薬組成物
本発明は、LYPD1阻害剤を有効成分として含む、血管新生障害を治療及び/又は予防するための医薬組成物であってもよい。
【0056】
本発明において用いられるLYPD1阻害剤又はLYPD1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物は、LYPD1を発現する生体組織、例えば、LYPD1を高発現する脳、心臓、腎臓又は筋肉の生体組織において、血管内皮ネットワークの形成を促進する。それにより、LYPD1阻害剤又はLYPD1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物は、血管内皮ネットワークの形成を促進し、血管新生障害を治療及び/又は予防することを可能とする。本発明のLYPD1阻害剤又はLYPD1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物により、治療及び/又は予防することができる血管新生障害は、例えば、脳血管疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作、モヤモヤ病、狭心症、(末梢)動脈閉塞症、動脈硬化症、バージャー病、心筋梗塞、虚血、心筋症、鬱血性心不全、冠動脈疾患、遺伝性出血性毛細血管拡張症、虚血性心疾患、血管内膜肥厚、血管閉塞、動脈硬化性末梢血管疾患、門脈圧亢進症、リウマチ性心疾患、高血圧、血栓塞栓症、アテローム性動脈硬化、血管形成術後の再狭窄、肺動脈高血圧、静脈移植片疾患、高血圧性心疾患、心臓弁膜症、川崎病、拡張型心筋症、肥大型心筋症、サルコイドーシス、全身性強皮症、大動脈炎症候群、無症候性心筋虚血、内頚動脈狭窄症、椎骨動脈狭窄症、透析心筋症、糖尿病性心筋症、肺動脈性肺高血圧、虚血性心筋症、冠動脈バイパス術後、経皮的冠動脈形成術後、急性心筋梗塞、亜急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞、労作性狭心症、不安定狭心症、急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全、僧房弁閉鎖不全及び僧房弁狭窄症、などが挙げられる。
【0057】
一実施態様において、本発明の医薬組成物には、さらに、血管新生誘導因子を含んでいても良い。例えば、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、アンギオポエチン、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、胎盤成長因子(PIGF)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、又はそれらのファミリータンパク質等が挙げられる。これらの血管新生誘導因子は、上述の中から1つを選択しても良く、2以上の組み合わせであっても良い。
【0058】
本発明のLYPD1阻害剤又はLYPD1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物は、それを必要とする被験体に適用し、血管新生障害の治療及び/又は予防が可能となる。
【0059】
LYPD1の選択的阻害剤は、以下に定義したように、医薬組成物の形態で投与することができる。
【0060】
好ましくは、LYPD1阻害剤は被験体に治療有効量で投与される。「治療有効量」とは、血管新生障害を治療及び/又は予防する所望の効果を発揮するのに必要かつ十分なLYPD1阻害剤の量を意味する。
【0061】
本発明に含まれるLYPD1阻害剤の一日の使用量は、医者による医学的判断の範囲で、決定される。治療有効用量は、治療及び/又は予防の対象となる障害及びその障害の重症度、使用する化合物の活性、使用する組成物、患者の年齢、体重、患者の健康状態、性別及び食事、投与時間、投与経路並びに使用する化合物の排泄率、治療期間、同時に使用される薬剤、及びその他医療分野で周知のファクターによって変化する。例えば、所望する治療効果を実現するために必要な量よりも低い量でLYPD1阻害剤の投与を開始し、所望する効果が実現するまで投薬量を徐々に増加させることは当業者が実現可能な範囲である。LYPD1阻害剤の用量は、成人1日当たり0.01~1000mgの広い範囲で変化させることができる。好ましくは、LYPD1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物は、治療する患者の症状に合わせて投薬するために、活性成分を0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgを含有する。医薬組成物は、通常、活性成分を約0.01mg~約500mg、好ましくは活性成分を1mg~約100mg含有する。薬物の有効量は通常、1日当たり0.0002mg/kg体重~約20mg/kg体重、特に1日当たり約0.001mg/kg体重~7mg/kg体重までの投薬量で供給される。
【0062】
5.血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造する方法
本発明のLYPD1阻害剤を適用することにより、生体組織内に血管内皮ネットワークの形成が促進される。これにより、生体組織内に、機能的な血管網が構築され、厚みをもった三次元生体組織を得ることが可能となる。
【0063】
一実施態様において、本発明は、血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造する方法を提供する。該方法は、以下の工程:
(a1)LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を提供する工程;
(a2)前記工程(a1)により得られた細胞群を、LYPD1阻害剤で処理する工程;並びに
(a3)前記工程(a2)により得られた細胞群を、培養する工程、
或いは、
(b1)LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群を、LYPD1阻害剤で処理する工程;
(b2)前記工程(b1)により得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させる工程;並びに
(b3)前記工程(b2)により得られた細胞群を、培養する工程、
を含む、方法である。
【0064】
LYPD1を発現する第1の細胞とは、例えば、LYPD1が発現することにより、血管内皮ネットワークの形成を阻害する活性を有する細胞であり、例えば、LYPD1を発現する生体組織由来、好ましくはLYPD1を高発現する脳、心臓、腎臓又は筋肉の生体組織由来の細胞、特に好ましくは、脳、心臓、腎臓又は筋肉の生体組織に存在する間質細胞又は線維芽細胞である。LYPD1を発現する第1の細胞は、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。本発明において、多能性幹細胞とは、自己複製能と多分化能を有する細胞であり、体を構成するあらゆる細胞を形成する能力(pluriopotent)を備える細胞をいう。自己複製能とは、1つの細胞から自分と同じ未分化な細胞を2つ作る能力のことをいう。本発明で用いられる多能性幹細胞は、例えば、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、胚性癌腫細胞(embryonic carcinoma cell:EC細胞)、栄養芽幹細胞(trophoblast stem cell:TS細胞)、エビブラスト幹細胞(epiblast stem cell:EpiS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、多能性生殖細胞(multipotent germline stem cell:mGS細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)などが含まれる。これらの多能性幹細胞を分化誘導する方法としては、例えば、Matsuuraらの方法(Matsuura K.,et al.,Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells.Biochem.Biophys.Res.Commun.,2012 Aug.24;425(2):321-327)に従って実施できる。
【0065】
本発明に用いることができる血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞は、血管を構成する細胞であれば使用することが可能であり、例えば、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)、ヒト心臓由来微小血管内皮細胞(HMVEC-C)又は多能性幹細胞由来血管内皮細胞、或いは、ヒト以外の哺乳動物の血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞も用いることが可能である。適用する被験体がヒトである場合、ヒト由来の血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞であることが好ましい。
【0066】
一実施態様において、該工程(a1)の「LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群」とは:
i)少なくとも該第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群;
ii)少なくとも該第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を含む、被験体由来の生体組織;又は
iii)組織工学的に作製された、少なくとも該第1の細胞と、少なくとも血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を含む、生体組織
であってもよい。
【0067】
該工程(a1)により得られた上記の細胞群に対し、LYPD1阻害剤で処理し(工程(a2))、数日間(例えば、1日、2日、3日、4日、又は5日以上)培養することにより(工程(a3))、血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造することが可能となる。すなわち、本実施態様では、LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とが共に存在する状態において、LYPD1阻害剤で処理する方法である。工程(a3)において培養する期間は、細胞数、細胞密度、細胞の種類などによって適宜変更される。
【0068】
一実施態様において、血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造する方法は、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞と共培養する前に、LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群をLYPD1阻害剤で処理する方法であってもよい(工程(b1))。工程(b1)に得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させ(工程(b2))、数日間(例えば、1日、2日、3日、4日、又は5日以上)培養することにより(工程(b3))、血管内皮ネットワークの形成が促進された生体組織を製造することが可能となる。工程(a3)において培養する期間は、細胞数、細胞密度、細胞の種類などによって適宜変更される。
【0069】
本発明において、「LYPD1阻害剤で処理する」とは、前述のLYPD1阻害剤を、公知の方法によって、第1の細胞に発現するLYPD1又はLYPD1遺伝子(例えば、mRNA)に作用させ、LYPD1の活性を阻害することを指す。例えば、LYPD1阻害剤を添加した培地で培養する方法;LYPD1阻害剤(例えば、アンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、miRNA、リボザイム及びそれらの発現ベクター)を含むリポソームやウイルスベクター(例えばレトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター)に曝露させる方法;LYPD1阻害剤(例えば、アンチセンスRNA又はDNA分子、RNAi誘導性核酸、miRNA、リボザイム及びそれらの発現ベクター)をリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法又はリポフェクション法により導入する方法、などを適用できる。LYPD1阻害剤の種類や特性に応じて、最適な方法を選択すればよい。
【0070】
一実施態様において、本発明の「LYPD1阻害剤で処理する」とは、該第1の細胞のLYPD1発現量よりもLYPD1発現量が低い若しくは発現していない第2の細胞を、該第1の細胞と混合させて、又は、接触させて培養する方法であってもよい。例えば、第1の細胞と第2の細胞とを混合して培養してもよく;第1の細胞を含む細胞群と、第2の細胞を含む細胞群をそれぞれシート状の細胞(細胞シート)にして、それらを積層して接触させる方法であってもよい。第1の細胞:第2の細胞の比率は、例えば、199:1、99:1、95:5、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80、10:90、5:95、1:99、1:199であってもよく、これに限定されない。使用する細胞の種類、LYPD1の発現量などに応じて適宜変更される。
【0071】
さらに、一実施形態において、本発明の方法は、LYPD1阻害剤を添加した培地で灌流培養する方法であってもよい。これにより、継続的にLYPD1阻害剤が供給され、血管内皮ネットワークの形成が促進される。
【0072】
一実施態様において、該第2の細胞は、例えば、皮膚、食道、肺、及び/又は肝臓由来の細胞である。これらの細胞は、心臓、筋肉、腎臓又は脳由来の細胞と比較して、LYPD1の発現量が低い。好ましくは、皮膚由来の線維芽細胞である。
【0073】
一実施態様において、第1の細胞のLYPD1発現量よりもLYPD1発現が低い又は発現していない第2の細胞は、第1の細胞のLYPD1発現量の1/2倍以下、好ましくは1/5倍以下、より好ましくは1/10倍以下、さらに好ましくは1/50倍以下である。本発明において、LYPD1発現量は、例えば、定量的PCR法(qPCR)、ウエスタンブロット法、フローサイトメータ法(FACS)、ELISA法、免疫組織化学法など、周知の技術を用いて評価することができる。
【0074】
6.医薬品組成物を製造するためのLYPD1阻害剤の使用
一実施態様において、本発明のLYPD1阻害剤は、血管新生障害を治療及び/又は予防するための医薬品組成物を製造するために使用することができる。
【0075】
7.LYPD1阻害剤のスクリーニング法
本発明のLYPD1阻害剤はさらに、公知のスクリーニング方法を応用することによって候補物質の中から同定することができる。例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0076】
スクリーニング方法は、候補化合物に直接的に、又は間接的に結合させた標識によって、候補化合物のLYPD1又はLYPD1を有する細胞若しくは膜、又はそれらの融合タンパク質に対する結合を評価することにより選択することができる。或いは、スクリーニング方法には、候補化合物と標識した競合物質(例えば、阻害剤又は基質)について、LYPD1に対する競合結合の測定又は定性的若しくは定量的な検出によって選択することができる。
【0077】
例えば、LYPD1のcDNAが挿入された発現ベクターを、宿主細胞に導入した、ベクター/宿主細胞を用いることができる。例えば、バキュロウイルス/Sf9昆虫細胞や、レトロウイルス/哺乳動物細胞系、発現ベクター/哺乳動物細胞系などを使用することができる。使用する細胞としては、例えば、HeLa、HepB3、LLC-PK1、MDCKII、CHO、HEK293などを用いることができるが、これに限定されない。また、本発明のLYPD1阻害剤のスクリーニング方法においては、LYPD1の発現量が高い組織由来の細胞、例えば、脳由来、心臓由来、筋肉由来又は腎臓由来の細胞、特に心臓由来の線維芽細胞を用いることもできる。
【0078】
本発明において用いられるLYPD1阻害剤は、前述のように得られた細胞又はLYPD1を高発現する細胞(例えば、2.4×105cells/cm2)と、血管網を構築する血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞(例えば、2.0×104cells/cm2)と、候補物質とを予めインキュベートし、培養皿に播種して37℃、5%CO2にて数日間培養し、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞が形成する血管内皮ネットワークを顕微鏡(好ましくは蛍光顕微鏡)にて観察し、血管内皮ネットワークの長さ及び分岐点の数を評価することにより選択することができる。候補物質は、前述のように得られた細胞又はLYPD1を高発現する細胞と、血管網を構築する血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを混合して予め播種された細胞群に、後から添加して培養してもよい。
【0079】
血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞が形成する血管内皮ネットワークは、蛍光標識された抗CD31抗体又は血管内皮細胞特異的抗体を用いて検出して評価してもよい。また、例えば、GFPなどの蛍光タンパク質を発現する血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を用い、蛍光を検出することにより評価してもよい。
【0080】
一実施態様において、LYPD1阻害剤をスクリーニングする方法は、例えば、以下の工程を含んでもよい:
(i-1)LYPD1を発現する第1の細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群を提供する工程;
(i-2)前記工程(i-1)により得られた細胞群を、候補物質で処理する工程;
(i-3)前記工程(i-2)により得られた細胞群を培養する工程;並びに
(i-4)前記工程(i-3)により得られた細胞群における血管内皮ネットワークの形成を評価する工程、
或いは、
(ii-1)LYPD1を発現する第1の細胞を含む細胞群を、候補物質で処理する工程;
(ii-2)前記工程(ii-1)により得られた細胞群に、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を接触させる工程;
(ii-3)前記工程(ii-2)により得られた細胞群を培養する工程;並びに
(ii-4)前記工程(ii-3)により得られた細胞群における血管内皮ネットワークの形成を評価する工程。
【0081】
本実施態様に用いることができる第1の細胞は、例えば、LYPD1が比較的高発現している、心臓、筋肉、腎臓及び/又は脳由来の細胞を用いてもよい。また、LYPD1を発現するベクターが導入された細胞を用いてもよい。
【0082】
また、一実施態様において、LYPD1阻害剤をスクリーニングする方法は、例えば、LYPD1が比較的高発現している、心臓、筋肉、腎臓及び/又は脳由来の細胞を、候補物質で処理し、LYPD1の発現を低下させる候補物質を選択する工程、を実施するものであってもよく、上記方法と組み合わせた方法であってもよい。LYPD1の発現は、公知の方法を用いて検出することが可能であり、例えば、定量的PCR法(qPCR)、ウエスタンブロット法、フローサイトメータ法(FACS)、ELISA法、免疫組織化学法など、周知の技術を用いて検出することができる。
【実施例
【0083】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0084】
<使用した細胞及び調整方法>
以下の実施例中で使用した細胞は以下の通りである。
・ヒト皮膚線維芽細胞(Lonzaより購入。NHDF-Ad 正常ヒト皮膚線維芽細胞(CC-2511))
・ヒト心臓線維芽細胞(Lonzaより購入。NHCF-a(正常ヒト心臓線維芽細胞-心房(CC-2903))、NHCF-v(正常ヒト心臓線維芽細胞-心室(CC-2904))
・ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)(Lonzaより購入。Cat.#C2517A))
・正常ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(Lonzaより購入。Cat.#CC-7030)
・ヒトiPS由来間質細胞:ヒトiPS細胞から心筋細胞を分化誘導する際に得られる細胞群より培養皿への接着性が心筋細胞よりも高い細胞群を分取すると線維芽様の細胞が得られる。これをヒトiPS由来間質細胞とした(図12(A)参照)。ヒトiPS細胞から心筋細胞への分化は、Matsuura K.,et al.Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells.Biochem Biophys Res Commun.2012 Aug 24;425(2):321-7.に記載の方法により行った。
・ヒトiPS細胞由来血管内皮細胞(iPS-CD31+)は、以下を参照して、調製することにより得た(White MP.,et al.,Stem Cells.2013 Jan;31(1):92-103)。
・Cos-7細胞(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクより入手)
【0085】
<実施例1>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図1
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又は心臓線維芽細胞(心房由来:NHCF-a、心室由来:NHCF-v)(2.4×10cells/cm)と、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)(2.0×10cells/cm)とを3日間、5%CO、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0086】
血管内皮ネットワーク形成はヒト皮膚線維芽細胞との共培養で促進されるが、ヒト心臓線維芽細胞との共培養では阻害された。
【0087】
<実施例2>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図2
ヒト皮膚線維芽細胞又は心臓線維芽細胞(2.4×10cells/cm)と、iPS細胞由来血管内皮細胞(iPS-CD31+)又は正常ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(2.0×10cells/cm)とを3日間、5%CO、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0088】
ヒトiPS由来血管内皮細胞やヒト心臓微小血管内皮細胞の血管内皮ネットワーク形成でもヒト皮膚線維芽細胞との共培養による促進、ヒト心臓線維芽細胞との共培養による阻害がみられた。
【0089】
<実施例3>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図3
マウス皮膚線維芽細胞又は心臓線維芽細胞(6×10cells/cm)と、マウスES細胞由来心筋細胞(2.4×10cells/cm)と、マウスES細胞由来血管内皮細胞(2.0×10cells/cm)とを3日間、5%CO、37℃で共培養後、抗CD31抗体(PE Rat Anti-Mouse CD31,553373,BD Biosciences)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0090】
マウスES細胞由来血管内皮細胞の血管内皮ネットワーク形成はマウス皮膚線維芽細胞の存在下で促進されるが、マウス心臓線維芽細胞の存在下では阻害された。
【0091】
<実施例4>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図4
SDラット(Jcl:SD、三共ラボ、日本)より採取したプライマリーの新生仔ラット皮膚線維芽細胞(RDF)又は心臓線維芽細胞(RCF)(2.4×105cells/cm2)と、ラット新生仔心臓由来血管内皮細胞(2.0×104cells/cm2)とを3日間、5%CO2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Mouse anti Rat CD31 Antibody,MCA1334G,Bio-Rad)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0092】
血管内皮ネットワーク形成はラット皮膚線維芽細胞との共培養で促進されるが、ラット心臓線維芽細胞との共培養では阻害された。
【0093】
<実施例5>
皮膚線維芽細胞と心臓線維芽細胞の遺伝子発現比較(図5
ヒト皮膚線維芽細胞及び心臓線維芽細胞(心房由来及び心室由来)よりトータルRNAを抽出し遺伝子発現をマイクロアレイで解析した(DNAチップ研究所(日本)へ委託)。糖タンパク質関連遺伝子及び血管新生関連遺伝子についてヒートマップを示した(図5)。
【0094】
ヒト皮膚線維芽細胞及び心臓線維芽細胞における遺伝子発現パターンは大きく異なっていた。アレイの結果を元に候補分子のスクリーニングを行い、心臓線維芽細胞に高発現する血管新生抑制因子LYPD1(Gen Bank受入番号:NM_144586.6、配列番号1)を同定した。
【0095】
<実施例6>
LYPD1はラット心臓間質に発現する(図6
ラット由来の各臓器におけるLYPD1の発現をqPCRで評価した。ラット各臓器よりトータルRNAを抽出し、トータルRNA画分に含まれるmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、qPCRの鋳型とした。qPCRはTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Rn01295701_m1,Thermo Fisher Scientific)を用いて比較CT法により行った(図6(A))。ラット由来の各臓器におけるLYPD1の発現を評価したところ心臓で高発現していた。
【0096】
図6(B)はラット心臓組織の免疫染色画像を示す。抗cTnT(cardiac Troponin T抗体(Anti-Troponin T,Cardiac Isoform,Mouse-Mono(13-11),AB-1,MS-295-P,Thermo Fisher Scientific))、抗LYPD1抗体(ab157516,abcam)及びDAPI(核)を染色した。
【0097】
ラット心臓組織における発現を免疫染色により評価したところ、cardiac Troponin T陽性の心筋細胞とは共染されず、心臓間質に発現していた。
【0098】
<実施例7>
ヒト及びラット初代培養細胞におけるLYPD1の遺伝子発現比較(図7
ヒト及び新生仔ラット由来の皮膚線維芽細胞及び心臓線維芽細胞におけるLYPD1の発現をqPCRで評価した。各細胞よりトータルRNAを抽出し、トータルRNA画分に含まれるmRNAを鋳型としてcDNAを合成しqPCRの鋳型とした。qPCRはTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Hs00375991_m1(human),Rn01295701_m1(rat),Thermo Fisher Scientific)を用いて比較CT法により行った。
【0099】
ヒト及び新生仔ラット由来の皮膚線維芽細胞ではLYPD1はほとんど検出されなかったが、心臓線維芽細胞では高発現していた。
【0100】
<実施例8>
血管ネットワーク形成はLYPD1の阻害により回復する(図8
Lipofectamine(商標)RNAiMAX Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いてヒト心臓線維芽細胞にLYPD1に対するsiRNA(Silencer(登録商標)Select siRNA,Cat.#4392420,Thermo Fisher Scientific)(1nM)又はコントロールSiRNA(Silencer(登録商標)Select Negative Control No.2 siRNA,Cat.#4390846)(1nM)を導入し2日間培養した後、siRNAを導入したヒト心臓線維芽細胞(2.4×10cells/cm)とHUVEC(2.0×104cells/cm2)とを3日間、5%CO2、37℃で共培養し、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さを算出した。
【0101】
LYPD1に対するSiRNAの配列は以下の通りである。
【表1】
【0102】
siRNAによりLYPD1の発現を抑制したヒト心臓線維芽細胞ではLYPD1による血管新生抑制効果が阻害され、共培養したHUVECの血管ネットワーク形成がみられた(図8(B)~(D)参照)。
【0103】
<実施例9>
血管ネットワーク形成はLYPD1の阻害により回復する(図9
ヒト心臓線維芽細胞(2.4×105cells/cm2)とHUVEC(2.0×104cells/cm2)とを抗LYPD1抗体(5μg/mL)(ab157516,abcam)存在下又はコントロール抗体の存在下(5μg/mL)(正常ウサギIgG、Wako、日本、Cat.#148-09551)にて4日間、5%CO2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した(図9(A)及び(B))。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて、抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した(図9(C)及び(D))。
【0104】
LYPD1に対する抗体の存在下では、ヒト心臓線維芽細胞に発現するLYPD1による血管新生抑制効果が阻害され、共培養したHUVECの血管ネットワーク形成がみられた。
【0105】
<実施例10>
血管ネットワーク形成はLYPD1の阻害により回復する(図10
ラット新生仔心臓線維芽細胞(2.4×10cells/cm)とラット新生仔心臓由来血管内皮細胞(2.0×10cells/cm)とをLYPD1抗体(ab157516,abcam)存在下(5μg/mL)又はコントロール抗体の存在下(5μg/mL)(正常ウサギIgG、Wako、日本、Cat.#148-09551)にて4日間、5%CO、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Mouse anti Rat CD31 Antibody,MCA1334G,Bio-Rad)で免疫染色した(図10(A)及び(B))。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した(図10(C)及び(D))。
【0106】
LYPD1に対する抗体の存在下ではラット心臓線維芽細胞に発現するLYPD1による血管新生抑制効果が阻害され、共培養したラット心臓由来血管内皮細胞の血管ネットワーク形成がみられた。
【0107】
<実施例11>
iPS由来間質細胞は心臓線維芽細胞と同一のクラスターに分類される(図11
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト心臓線維芽細胞(NHCF)、ヒトiPS由来間質細胞、ヒト間葉系幹細胞(Lonza、Cat.#PT-2501)における遺伝子発現をマイクロアレイで解析しクラスタリングした。iPS由来間質細胞は心臓線維芽細胞と同一のクラスターに分類された。
【0108】
<実施例12>
iPS由来間質細胞はiPS CD31陽性細胞の血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図12
ヒトiPS由来間質細胞をヒトiPS CD31陽性細胞と共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得した(図12(B))。
【0109】
ヒトiPS CD31陽性細胞の血管内皮ネットワーク形成はヒト皮膚線維芽細胞との共培養で促進されるが、ヒトiPS由来間質細胞との共培養では阻害された。
【0110】
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)、ヒト心臓線維芽細胞(NHCFa)及びヒトiPS由来間質細胞(iPS fibro-like)のLYPD1の発現をqPCRで評価した。各細胞よりトータルRNAを抽出し、トータルRNA画分に含まれるmRNAを鋳型としてcDNAを合成しqPCRの鋳型とした。qPCRはTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Hs00375991_m1,Thermo Fisher Scientific)を用いて比較CT法により行った(図12(C))。
【0111】
ヒトiPS由来間質細胞はヒト心臓線維芽細胞と同様、LYPD1の発現が高かった。
【0112】
<実施例13>
組換えLYPD1発現及び精製、並びに血管内皮ネットワークの阻害効果の確認(図13
ヒトLYPD1 cDNA配列をコードするタンパク質を、公表された配列データに従って選択した。シグナル配列の後に挿入されたFLAG配列を有するヒトLYPD1を、GenScript(Piscataway、NJ、USA)によって合成し、pcDNA3.1ベクター(以下、「pFLAG-LYPD1」という。)に挿入した。
【0113】
COS-7細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地;Invitrogen)中、37℃、5%CO雰囲気中で維持培養した。pFLAG-LYPD1を、Lipofectamine(登録商標)3000(Invitrogen)を用いて、製造者の指示に従ってCOS-7細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞をRIPA緩衝液(Wako、日本)で溶解した。
【0114】
FLAG-LYPD1タンパク質を、抗DYKDDDDKタグ抗体磁気ビーズ(Wako、日本)を用いて4℃で3時間免疫沈降させた。続いてビーズをRIPA緩衝液で3回洗浄し、FLAG-LYPD1タンパク質を、DYKDDDDKペプチド(Wako、日本)を添加することによってビーズから溶出させた。溶出液を12.5%SDS-PAGEゲルで分離し、Immobilon-P(Merck、ドイツ)にブロットした。
【0115】
FLAG-LYPD1タンパク質を、ペルオキシダーゼ結合-抗DYKDDDDKタグモノクローナル抗体(Wako、日本)及びウサギポリクローナル抗LYPD1抗体(abcam)を用いて検出した。
【0116】
ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GE Healthcare UK Ltd.、英国)を製造者の指示に従って使用し、バンドを可視化し、dig tal imaging system(LAS3000、GE Healthcare UK Ltd)によって検出した。標準としてウシ血清アルブミンを用いて、クーマシー(Bradford)プロテインアッセイキット(Thermo Scientific、Rockford、イリノイ州、米国)によりタンパク質収量を測定した(図13A)。
【0117】
ヒト皮膚線維芽細胞(2.4×10cells/cm)とHUVEC(2.0×104cells/cm2)を混合した細胞群に、FLAG-LYPD1タンパク質(1.25μg/mL)又はコントロールIgG(1.25μg/mL、正常ウサギIgG、Wako、日本、Cat.#148-09551)を添加し、10%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地(5%CO、37℃)で培養した。抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さを算出した。
【0118】
その結果、リコンビナントLYPD1タンパク質を添加することによって、血管内皮ネットワーク形成が阻害されることが明らかとなった(図13B及びC)。
【0119】
<実施例14>
血管内皮ネットワーク形成回復は、LYPD1の抑制を介する(図14)。
実施例8と同様の方法により、LYPD1 siRNAを遺伝子導入したヒト心臓線維芽細胞(2.4×10 cells/cm)に、HUVEC(2×10 cells/cm)を混合し、播種した。さらに、実施例13のリコンビナントLYPD1(1.5ug/mL)又は等量の緩衝液(組成:500ug/ml DYKDDDDKペプチド、10mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl)を添加し、3日間培養した。コントロールとして、実施例8と同様の方法により、コントロールsiRNAを遺伝子導入したヒト心臓線維芽細胞(2.4×10 cells/cm)に、HUVEC(2×10 cells/cm)を混合し、3日間培養した。
【0120】
培養後に固定し、CD31抗体およびHoechst33342で染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(molecular device)を用いて画像を取得し、MetaXpress softwear(Molecular Device)を用いてCD31陽性細胞の長さを測定した。
【0121】
その結果、ヒト心臓線維芽細胞にLYPD1 siRNAを遺伝子導入することで認められた血管内皮細胞ネットワーク形成回復が、リコンビナントLYPD1の添加によって、再抑制された。この結果は、LYPD1 siRNA遺伝子導入で認められた作用が、LYPD1の抑制を介していることを説明するものである。
【0122】
<実施例15>
HUVECの管腔形成に対するrLYPD1の効果(図15
96ウェルプレート(Corning)の1ウェル(0.32cm)あたり、Matrigel(登録商標)(Corning、#356231)46.2uLを添加してコーティングした。HUVEC(1×10 cells/cm)をEGM-2(Lonza)100uLに懸濁し、rLYPD1の存在下(1、2又は5μg/mL)又は非存在下で、Matrigel(登録商標)上に播種した。20時間後に顕微鏡観察を行った。
【0123】
1μg/mLのrLYPD1添加は、血管内皮細胞の管腔形成に影響しないが、2μg/mLの濃度では血管内皮細胞の遊走抑制が認められ、5μg/mLでは、血管内皮細胞の管腔形成が完全に抑制された。このことは、LYPD1タンパク自体に血管内皮細胞の管腔形成、遊走抑制作用を有することを説明するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
0007045723000001.app