IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 江崎工業株式会社の特許一覧

特許7045748疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム
<>
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図1
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図2
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図3
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図4
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図5
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図6
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図7
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図8
  • 特許-疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20220325BHJP
   G01M 3/26 20060101ALI20220325BHJP
   G01N 3/34 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
G01M7/02 Z
G01M3/26 M
G01N3/34 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021541770
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019033115
(87)【国際公開番号】W WO2021038638
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310019637
【氏名又は名称】江崎工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127328
【弁理士】
【氏名又は名称】八木澤 史彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 友昭
(72)【発明者】
【氏名】武藤 英二
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 隆広
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌信
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-132347(JP,A)
【文献】特開平09-236528(JP,A)
【文献】実開昭48-101690(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0041083(KR,A)
【文献】特開2000-171338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/00 - 7/06
G01M 3/26 - 3/34
G01N 3/32 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
内部空間を有する試験対象の振動による疲労破壊に至るまでの時間を測定するための振動試験における疲労破壊検出装置を制御するコンピュータを、
前記試験対象に疲労破壊が生じていない状態において、前記内部空間内の気体の圧力を所定の圧力に設定する圧力設定手段、
前記試験対象を振動させている間において、前記内部空間内の気体の圧力を測定する圧力測定手段、
前記圧力測定手段によって測定した前記圧力の低下が所定値を超えたか否かを評価する圧力評価手段、
前記圧力評価手段によって、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記圧力の低下が前記所定値を超えた時刻を疲労破壊発生時刻として記録する時刻記録手段、及び、
前記圧力評価手段によって、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記試験対象の振動を停止する振動停止手段、
として機能させるためのプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動試験における疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの疲労破壊に対する性能の判定のために、振動試験が実施されている。振動試験においては、振動発生機に振動試験の対象となる部品(以下、「試験対象」という。)を取り付け、所定の振動周波数において試験対象に振動を与え、試験対象が疲労破壊に至るまでの時間を測定することにより、疲労破壊に対する性能が判定されている。疲労破壊に至るまでの時間を正確に測定するための方法として、試験対象の変位量を検出するための変位センサ(レーザー変位計や加速度センサ等)を試験装置に配置し、試験対象の変位量が所定の閾値を超えたときを疲労破壊が生じた時刻とする技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-171338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
疲労破壊は、瞬時に大きな破壊に至るとは限らず、微細な変形や亀裂が生じる破壊の初期段階から、大きな変形や亀裂が生じる最終段階までの過程がある。上述の技術においては、例えば、試験対象が変形した場合など、変位量が相応に増加した場合には、疲労破壊を検出することができる。しかし、疲労破壊は、そもそも、変位量の測定対象とした部位に生じるとは限らない。また、疲労破壊の初期段階であって、小さな亀裂が生じても、変位量が相応に増大しない場合においては、疲労破壊を検出することができない場合がある。
【0005】
本発明は、上記を踏まえて、小さな亀裂が生じた場合に効果的に疲労破壊を検出することができる振動試験における疲労破壊検出装置、疲労破壊検出方法及びプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、内部空間を有する試験対象の振動による疲労破壊に至るまでの時間を測定するための振動試験における疲労破壊検出装置であって、前記試験対象に疲労破壊が生じていない状態において、前記内部空間内の気体の圧力を所定の圧力に設定する圧力設定手段と、前記試験対象を振動させている間において、前記内部空間内の気体の圧力を測定する圧力測定手段と、前記圧力測定手段によって測定した前記圧力の低下が所定値を超えたか否かを評価する圧力評価手段と、前記圧力評価手段によって、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記圧力の低下が前記所定値を超えた時刻を疲労破壊発生時刻として記録する時刻記録手段と、前記圧力評価手段によって、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記試験対象の振動を停止する振動停止手段と、を有する疲労破壊検出装置である。
【0007】
第一の発明の構成によれば、試験対象を振動させている間において、試験対象の内部空間内の気体の圧力(以下、「気圧」という。)を測定し、その圧力の低下(以下、「圧力低下」という。)が所定値を超えたと評価した場合には、圧力低下が所定値を超えた時刻を疲労破壊発生時刻として記録することができる。本発明は、試験対象において気体の漏れが生じた場合には、圧力低下が生じることに着目し、圧力低下が所定値を超えた場合に疲労破壊が生じたと判断するように構成されている。すなわち、試験対象の振動状態に検知可能な程度の振動状態の変化は生じていない場合であっても、小さな亀裂が生じた場合に効果的に疲労破壊を検出し、その時刻を記録することができる。さらに、振動停止手段によって、圧力低下が所定値を超えた場合、すなわち、疲労破壊が生じた場合に、試験対象の振動を停止することができる。
【0008】
第二の発明は、第一の発明の構成において、前記内部空間と可撓性チューブを介して連通する測定空間を有する測定室を有し、前記圧力設定手段は、前記測定空間内の前記気体の圧力を設定し、前記圧力測定手段は、前記可撓性チューブを介して伝達された前記内部空間内の圧力を前記測定室において測定するように構成されている、疲労破壊検出装置である。
【0009】
第二の発明の構成によれば、試験対象の内部空間に圧力センサーを配置しなくても、内部空間の気体の圧力を測定することができる。
【0010】
第三の発明は、第二の発明の構成において、前記内部空間と前記可撓性チューブの内側の空間を含む閉鎖空間を形成する空間閉鎖手段を有する、疲労破壊検出装置である。
【0011】
第三の発明の構成は、例えば、試験対象が円筒状であり、両端の開口部以外に開口部が存在しない場合など、内部空間を封止または密閉することが可能な場合に有効である。
【0012】
第四の発明は、第二の発明の構成において、前記内部空間と前記可撓性チューブの内側の空間を含んで形成される空間である制限空間に対して、所定の圧力の気体を継続的に送ることによって、前記制限空間内の気圧を維持する気圧維持手段を有する、疲労破壊検出装置である。
【0013】
第四の発明の構成は、例えば、試験対象に複数の小孔が存在する場合など、内部空間を封止または密閉することが困難な場合に有効である。
【0014】
第五の発明は、内部空間を有する試験対象の振動による疲労破壊に至るまでの時間を測定するための振動試験における疲労破壊検出方法であって、前記試験対象に疲労破壊が生じていない状態において、前記内部空間内の気体の圧力を所定の圧力に設定する圧力設定ステップと、前記試験対象を振動させている間において、前記内部空間内の気体の圧力を測定する圧力測定ステップと、前記圧力測定ステップにおいて測定した前記圧力の低下が所定値を超えたか否かを評価する圧力評価ステップと、前記圧力評価ステップにおいて、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記圧力の低下が前記所定値を超えた時刻を疲労破壊発生時刻として記録する時刻記録ステップと、前記圧力評価ステップにおいて、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記試験対象の振動を停止する振動停止ステップと、を有する疲労破壊検出方法である。
【0015】
第六の発明は、内部空間を有する試験対象の振動による疲労破壊に至るまでの時間を測定するための振動試験における疲労破壊検出装置を制御するコンピュータを、前記試験対象に疲労破壊が生じていない状態において、前記内部空間内の気体の圧力を所定の圧力に設定する圧力設定手段、前記試験対象を振動させている間において、前記内部空間内の気体の圧力を測定する圧力測定手段、前記圧力測定手段によって測定した前記圧力の低下が所定値を超えたか否かを評価する圧力評価手段、前記圧力評価手段によって、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記圧力の低下が前記所定値を超えた時刻を疲労破壊発生時刻として記録する時刻記録手段、及び、前記圧力評価手段によって、前記圧力の低下が前記所定値を超えたと評価した場合に、前記試験対象の振動を停止する振動停止手段、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、小さな亀裂が生じた場合に効果的に疲労破壊を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施形態にかかる疲労破壊検出装置の概略側面図である。
図2】振動発生機等の概略平面図である。
図3】試験対象及び試験対象の近傍の概略斜視図である。
図4】試験対象及び試験対象の近傍の概略断面図である。
図5】空間の連通状態等を示す概略図である。
図6】エアリークテスタの機能ブロックを示す概略図である。
図7】疲労破壊検出装置の動作を示す概略フローチャートである。
図8】本発明の第二の実施形態にかかる疲労破壊検出装置の動作を示す概略フローチャートである。
図9】本発明の第三の実施形態にかかる疲労破壊検出装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以下の説明においては、同様の構成には同じ符号を付し、その説明を省略又は簡略する。なお、当業者が適宜実施できる構成については説明を省略し、本発明の基本的な構成についてのみ説明する。
【0019】
<第一の実施形態>
図1は、本実施形態の疲労破壊検出装置1(以下、「装置1」と呼ぶ。)を示す概略側面図である。装置1は、振動発生機10、振動制御装置22(以下、「制御装置22」と呼ぶ。)、パワーアンプリファイア(Power Amplifier)24(以下、「アンプ24」と呼ぶ。)、エアリークテスタ26(以下、「テスタ26」と呼ぶ。)、及び、コンプレッサー28を有する。
【0020】
装置1は、内部空間を有する試験対象の振動による疲労破壊に至るまでの時間を測定するための振動試験における疲労破壊を検出するための装置である。本明細書において、試験対象を「ワーク(被検物)」と呼び、ワークの内部の空間を「内部空間」と呼ぶ。ワークは、例えば、円筒状であるが、内部空間が存在すればよく、円筒状の形状に限らない。装置1は、ワークの内部空間からの気体の漏れを、内部空間の気体の圧力(以下、「気圧」と呼ぶ。)の低下(以下、「圧力低下」と呼ぶ。)として検出し、圧力低下が所定値を超えた場合に、ワークに疲労破壊が生じたと判断するように構成されている。装置1は、疲労破壊検出装置の一例である。
【0021】
図1に示すように、振動発生機10は、基部10a及び振動部10bを有する。振動部10bには、テーブル10cが配置されている。振動部10bは、設定された所定の振幅及び振動周波数において、矢印Zに示す上下方向に振動する。振動発生機10は、例えば、IMV株式会社製のi250/SA5Mである。
【0022】
振動発生機10は、アンプ24から電力の供給を受けて振動する。アンプ24は、制御装置22から、振動発生機10の振幅と振動周波数を示す制御信号を受信し、その制御信号に対応する電力を振動発生機10に供給する。
【0023】
上述のように、振動発生機10の振動は、制御装置22によって制御される。制御装置22は、テスタ26と電気的に接続されている。制御装置22は、テスタ26から、信号発生機10が振動を開始するための準備が完了したことを示す準備完了信号、及び、ワークに疲労破壊が生じた場合に振動発生機10の振動を停止するための停止信号を受信する。
【0024】
図2は、装置1のうち、振動発生機10を中心とする部分の概略平面図である。図1及び図2示すように、テーブル10cには、加速度計20が配置されている。加速度計20によって、テーブル10cの加速度を測定する。加速度計20で測定した加速度は、制御装置22にフィードバックされる。制御装置22は、加速度計20で測定した加速度から振動数を判断し、設定した振動数(以下、「設定周波数」と呼ぶ。)と一致するように振動発生機10の振動を制御する。このように、装置1において、設定周波数とテーブル10cの実際の振動数が一致するように制御可能に構成されている。設定周波数は、例えば、20ヘルツ(Hz)乃至250ヘルツの範囲において規定され、本実施形態においては、120ヘルツである。
【0025】
テーブル10cには、ワーク(試験対象)50を固定するための固定装置12が配置されている。ワーク50は、内部に内部空間S1を有する(図4参照)。ワーク50は、内部空間を有する試験対象の一例である。内部空間S1は内部空間の一例である。
【0026】
図1乃至図4に示すように、ワーク50は、円筒状の部品である。ワーク50は金属部品であり、金属は、例えば、SUS304であるが、これに限定されない。図3及び図4に示すように、ワーク50は、直径が相対的に小さい筒状部材50aと、直径が相対的に大きい筒状部材50bで構成されている。筒状部材50aの外径は、筒状部材50bの内径と等しい。筒状部材50aの外径は、例えば、20ミリメートル(mm)であり、肉厚は1ミリメートルである。筒状部材50bの内径は20ミリメートルであり、肉厚は1ミリメートルである。筒状部材50aの一方の端部近傍の所定範囲が、筒状部材50bの一方の端部近傍に挿入された状態において、筒状部材50aと筒状部材50bは溶接部50cにおいて溶接されて一体化されている。ワーク50の長さは、例えば、220ミリメートルである。なお、ワーク50は内部空間を有すれば足り、本実施形態とは異なり、円筒状でなくてもよく、その形状は円筒状に限定されない。
【0027】
ワーク50において、溶接部50cの機械的強度は他の部分に比べて弱い。このため、装置1によって、ワーク50の疲労破壊に対する耐性を測定することは、溶接部50cの疲労破壊に対する耐性を測定することを意味する。言い換えると、ワーク50に疲労破壊が生じた場合には、その位置は、溶接部50cである可能性が高い。
【0028】
図1及び図2に示すように、ワーク50は、固定装置12によってテーブル10cに固定されている。振動部10bが振動することによって、ワーク50が矢印Zに示す上下方向に振動するように構成されている。
【0029】
振動試験において、ワーク50の開口部は、気体の漏れが制限されている。図1乃至図4に示すように、ワーク50の右側の端部にはプラグ60が配置されている。ワーク50の左側の端部にはプラグ62が配置されている。プラグ60とプラグ62は、気体漏れ制限手段の一例である。
【0030】
プラグ60は、封止用の蓋部材である。ワーク50の右側の端部は、プラグ60によって封止されている。プラグ60は、図1乃至図4における右方の円形底部と、筒状部材50aの外径と等しい内径を有する周壁部から構成される。これに対して、図3に示すように、ワーク50の左側の端部に配置されるプラグ62は、蓋部材であり、図1乃至図4における左方の円形底部と、筒状部材50bの外形と等しい内径を有する周壁部から構成され、その円形底部には貫通孔62Sが形成されている。貫通孔62Sを規定する内周面62bには、雌ねじ(図示せず)が形成されている。貫通孔62Sには、貫通孔64Sを有する空圧継手64が配置される。空圧継手64は、雄ねじが形成されている第一筒部64a、拡径部64b、及び、ねじが形成されていない第二筒部64cで形成される。プラグ62の内周面62bの雌ねじと第一筒部64aの雄ねじが係合し、拡径部64bはプラグ62の外面62aに当接する。そして、第二筒部64cの外周面には、チューブ32の内周面32aが当接し、固定される。
【0031】
プラグ62の貫通孔62Sに配置された空圧継手64を介して、内部空間S1とチューブ32の内側の空間である貫通空間S3(図4参照)が連通する。チューブ32は、可撓性チューブの一例であり、可撓性を有する。チューブ32は円筒状の部材であり、図4に示すように内部は貫通空間S3となっている。チューブ32の材質は、例えば、樹脂であり、具体的には、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート等である。
【0032】
図5に示すように、チューブ32の一端はワーク50と接続され、他端はテスタ26と接続されている。テスタ26には、気圧を測定するための測定室26aが配置されており、測定室26aの内部は気圧を測定するための空間である測定空間S2となっている。測定室26aの内壁には、測定空間S2の気圧を測定するためのセンサーとして、気圧センサー26bが配置されている。気圧センサー26bは、例えば、シリコンピエゾ抵抗型圧力センサーと信号処理ICで構成される。なお、気圧センサーの種類はシリコンピエゾ抵抗型圧力センサーと信号処理ICに限定されない。
【0033】
測定空間S2は、チューブ32によって、内部空間S1と連通している。すなわち、内部空間S1、測定空間S2及び貫通空間S3は連通している。このため、内部空間S1、測定空間S2及び貫通空間S3における気圧は等しい。
【0034】
テスタ26は、コンプレッサー28と信号線28aで電気的に接続されている。測定室26aは、チューブ28bによって、コンプレッサー28と連通している。テスタ26には、チューブ28bの気体通路を開閉するためのバルブ26cが配置されている。コンプレッサー28は、例えば、レシプロコンプレッサーである。レシプロコンプレッサーのピストンの往復速度は、ピストンを往復させるモーターの回転数によって制御される。
【0035】
テスタ26は、コンプレッサー28に対して、信号線28aを介して、コンプレッサー28が生成すべき気体の圧力(気圧)を示す制御信号を送信する。コンプレッサー28は、テスタ26から受信した制御信号に対応する気圧の圧縮空気を生成し、チューブ28bを介してテスタ26の測定室26aに送る。このとき、コンプレッサー28とテスタ26を連通させているチューブ28bの気体通路を開閉するためのバルブ26cは開状態であり、気体が通過可能な状態に制御される。
【0036】
テスタ26は、コンプレッサー28からチューブ28bを介して所定の気圧の気体を受け取り、チューブ32を介してその気体をワーク50の内部空間S1に送る。このとき、コンプレッサー28、テスタ26及びワーク50は連通している。
【0037】
テスタ26は、また、制御部22と電気的に接続されている。テスタ26は、制御部22に対して、上述の準備完了信号及び停止信号を送信し、振動発生機10の振動の開始及び停止を制御する。
【0038】
テスタ26は、気圧センサー26bによって計測した測定空間S2の気圧が所定の圧力になるようにコンプレッサー28に制御信号を送信する。測定空間S2の気圧は、気圧センサー26bによって測定する。テスタ26は、気圧センサー26bによって測定した測定空間S2の気圧が所定の設定気圧になるように、コンプレッサー28を制御する。所定の設定気圧は、ワーク50が気圧によって膨張しない限り、高い方が望ましい。このため、設定気圧は、ワーク50の肉厚や材質によって規定される。本実施形態のワーク50の肉厚や材質においては、設定気圧は、例えば、0.15メガパスカル(Mpa)乃至0.35メガパスカルの範囲において規定され、本実施形態においては、0.26メガパスカルである。
【0039】
上述のように、測定室26aの測定空間S2は、ワーク50の内部空間S1と連通しているから、測定空間S2の気圧と内部空間S1の気圧は等しい。このため、テスタ26は、測定空間S2の気圧を測定することによって、内部空間S1の気圧を測定することができる。また、テスタ26が、測定空間S2の気圧を設定することは、内部空間S1の気圧を設定することと同義である。このため、テスタ26は、ワーク50に疲労破壊が生じておらず、亀裂が生じていない状態において、内部空間S1の気圧を所定の気圧に設定することができる。
【0040】
テスタ26がコンプレッサー28に送信する制御信号は、コンプレッサー28の動作についての所定の条件を示す。所定の条件は、例えば、コンプレッサー28のモーターの回転数でもよいし、ピストンの往復速度でもよいし、コンプレッサー28が生成すべき気体の気圧でもよい。制御信号に示される回転数などの条件は、所定条件の一例である。
【0041】
テスタ26は、測定空間S2が所定の設定気圧において安定すると、バルブ26cを閉鎖し、コンプレッサー28とテスタ26の間の気体の通路を閉鎖する。コンプレッサー28から圧縮気体を測定空間S2に送り始めると、測定空間S2の気圧は急速に上昇し(加圧状態)、所定時間が経過すると、設定圧力において安定する(平衡状態)。加圧状態にする処理を加圧工程、平行状態にする処理を平行工程とも呼ぶ。設定圧力に対して、所定範囲内の気圧の状態が、所定時間継続した場合に、気圧が安定したと判断する。例えば、設定圧力に対して、上下1パーセントの範囲内の気圧の状態が、30秒(second)継続した場合に、気圧が安定したと判断する。平衡状態において、内部空間S1、測定空間S2及び貫通空間S3は設定気圧において安定する。
【0042】
測定空間S2の気圧が設定気圧において安定すると、テスタ26は、信号線28aを介してコンプレッサー28にバルブ26cを閉鎖するための制御信号を送信する。これにより、内部空間S1、測定室26aの測定空間S2及び貫通空間S3は、外部から閉鎖され、閉鎖空間となる。この閉鎖空間の気圧は、いずれの位置においても等しい。このため、測定室26aに配置された気圧センサー26bの測定値は、内部空間S1の気圧に等しい。
【0043】
テスタ26は、測定空間S2の気圧が所定の設定気圧において安定し、バルブ26cを閉鎖して上述の閉鎖空間を形成すると、制御部22に対して、振動試験の準備が完了したことを示す準備完了信号を送信する。制御部22は、この準備完了信号を受信すると、アンプ24を介して振動発生機10の振動を開始する。
【0044】
ワーク50に亀裂が生じていない場合には、内部空間S1は所定の気圧が維持される。これに対して、ワーク50に疲労破壊が生じ、亀裂が生じると、内部空間S1の気圧は低下する。内部空間S1の気圧の低下は、測定空間S2の気圧の低下でもある。
【0045】
テスタ26は、測定室26aの測定空間S2の気圧を測定し、所定値を超えて圧力が低下(圧力低下)した場合には、その圧力低下が生じたときの時刻を疲労破壊が生じた時刻として記録する。また、テスタ26は、所定値を超える圧力低下が生じると、制御装置22を介してアンプ24に対して、振動発生機10による振動を停止するための停止信号を送信し、振動を停止させる。所定値は、例えば、設定した所定の気圧の約94パーセントの大きさの気圧であり、本実施形態においては、0.245メガパスカルである。なお、本実施形態とは異なり、テスタ26は、制御装置22を介さずに、アンプ24に対して停止信号を送信してもよいし、振動発生機10に直接的に停止信号を送信してもよい。
【0046】
以下、図6を参照して、テスタ26の機能構成の概略を説明する。テスタ26は、CPU(Central Processing Unit)100、記憶部102、コンプレッサー制御部106、圧力測定部108、振動制御部110、及び電源部112を有する。
【0047】
テスタ26は、コンプレッサー制御部106によって、コンプレッサー28へ制御信号を送信する。圧力測定部108は、気圧センサー26b(図5参照)に対応する。振動制御部110は、制御装置22へ準備完了信号及び停止信号を送信する。
【0048】
記憶部102には、圧力設定プログラム、空間閉鎖プログラム、振動開始プログラム、圧力測定プログラム、圧力評価プログラム、時刻記録プログラム、及び、振動停止プログラムが格納されている。CPU100と圧力設定プログラムは、圧力設定手段の一例である。CPU100と空間閉鎖プログラムは、空間閉鎖手段の一例である。CPU100と振動開始プログラムは、振動開始手段の一例である。CPU100と圧力測定プログラムは、圧力測定手段の一例である。CPU100と圧力評価プログラムは、圧力評価手段の一例である。CPU100と時刻記録プログラムは、時刻記録手段の一例である。CPU100と振動停止プログラムは、振動停止手段の一例である。
【0049】
テスタ26は、圧力設定プログラムによって、測定空間S2の気圧を所定の設定気圧に設定する。測定空間S2の気圧を所定の設定気圧に設定することによって、内部空間S1の気圧が所定の設定気圧に設定される。このとき、ワーク50には、振動は加えられておらず、亀裂は生じていない。
【0050】
テスタ26は、測定空間S2の気圧が所定の設定気圧において安定すると、空間閉鎖プログラムによって、内部空間S1、測定空間S2及び貫通空間S3から構成される閉鎖空間を形成する。具体的には、バルブ26c(図5参照)を閉鎖して、上述の閉鎖空間を形成する。
【0051】
テスタ26は、振動開始プログラムによって、制御装置22に対して準備完了信号を送信し、アンプ24を介して振動発生機10に振動を開始させる。
【0052】
テスタ26は、圧力測定プログラムによって、ワーク50に振動が加えられている状態において、測定空間S2(図5参照)の気圧を測定する。上述のように、測定空間S2は、チューブ32の貫通空間S3を介して内部空間S1は連通しているから、測定空間S2の気圧は内部空間S1の気圧と等しい。
【0053】
テスタ26は、圧力評価プログラムによって、測定空間S2の気圧が所定の閾値を超えて低下したか否かを評価する。
【0054】
テスタ26は、時刻記録プログラムによって、測定空間S2の気圧が所定の閾値を超えて低下したときの時刻を疲労破壊が生じた時刻として記録する。疲労破壊が生じた時刻は、最初の亀裂が生じた時刻であり、疲労破壊が始まった時刻である。
【0055】
テスタ26は、振動停止プログラムによって、測定空間S2の気圧が所定の閾値を超えて低下したときに、制御装置22へ停止信号を送信し、振動発生機10によるワーク50の振動を停止する。
【0056】
図7を参照して、装置1の動作を説明する。ワーク50が固定装置12に固定されると、装置1は、ワーク50の内部空間S1の圧力を設定し(図7のステップST1)、コンプレッサー28との気体通路を閉鎖する(ステップST2)。続いて、装置1は、ワーク50の振動を開始し(ステップST3)、測定空間S2の気圧の測定を開始する(ステップST4)。装置1は、内部空間S1の気圧低下が所定値を超えたか否かを判断し(ステップST5)、気圧が所定値を超えて低下した場合には、時刻を記録し(ステップST6)、振動を停止する(ステップST7)。
【0057】
<第二の実施形態>
次に、第二の実施形態について説明する。第一の実施形態と共通する事項は説明を省略する。
【0058】
装置1において、テスタ26の記憶部102(図6参照)には、気圧維持プログラムが格納されている。CPU100と気圧維持プログラムは、気圧維持手段の一例である。
【0059】
テスタ26は、測定空間S2が所定の設定気圧において安定した後も、コンプレッサー28の動作を維持しつつ、バルブ26c(図5参照)を閉鎖せず、開放状態に維持する。この場合の内部空間S1、測定室26aの測定空間S2及びチューブ32の貫通空間S3で形成される空間を「制限空間」と呼ぶ。制限空間に対して、所定の圧力の気体を継続的に送ることによって、制限空間内の気圧を所定の設定圧力に維持する。所定の設定圧力は、第一の実施形態と同様に、例えば、0.26メガパスカルである。
【0060】
第二の実施形態においては、ワーク50に振動を与えている間において、コンプレッサー28とテスタ26の間のチューブ28bのバルブ26cを閉鎖せず、コンプレッサー28は所定の圧力の気体をチューブ28bを介してテスタ26に継続的に送る。このとき、コンプレッサー28は、測定空間S2の気圧が所定の設定圧力で安定したときの動作条件を維持する。すなわち、コンプレッサー28の気体圧縮用のモーターの回転数は、測定空間S2の気圧が所定の設定圧力で安定したときの回転数に維持する。そうすると、ワーク50に亀裂が生じた場合には、測定空間S2の気圧が低下する。
【0061】
例えば、ワーク50の設計仕様として、複数の小孔を有する場合には、ワーク50に継続的に気体を送り込まない場合には、ワーク50に亀裂が生じなくても小孔を介して内部空間S1の気体が漏れ、気圧が低下するから、気圧低下によっては、ワーク50に亀裂が生じたか否かを判断することができない。この点、本実施形態においては、コンプレッサー28によって、気体を継続的に送り、測定室26aの測定空間S2の気圧が設定気圧において安定した場合には、そのときのコンプレッサー28のモーターの回転数を維持する。この状態において、ワーク50に振動を与えた場合、測定空間S2の気圧が低下したことは、ワーク50に亀裂が生じ、内部空間S1の気体が漏れたことを意味する。また、ワーク50の設計仕様として、小孔を有しない場合であっても、内部空間S1、測定空間S2及びチューブ貫通空間S3によって完全な閉鎖空間を形成できない場合には、疲労破壊が生じなくても空気の漏れが生じるから、やはり、本実施形態における方法は有効である。
【0062】
以下、図8を参照して、第二の実施形態の装置1の動作を説明する。ワーク50が固定装置12に固定されると、装置1は、ワーク50の内部空間S1の圧力を設定し(図8のステップST1)、コンプレッサー28との気体通路の開放状態を維持し、コンプレッサーの運転を継続する(ステップST2A)。続いて、装置1は、振動を開始し(ステップST3)、測定空間S2の気圧の測定を開始する(ステップST4)。装置1は、測定空間S2の気体の気圧低下が所定値を超えたか否かを判断し(ステップST5)、気圧低下が所定値を超えた場合には、時刻を記録し(ステップST6)、振動を停止する(ステップST7)。
【0063】
<第三の実施形態>
図9を参照して、第三の実施形態について説明する。第一の実施形態及び第二の実施形態と共通する事項は説明を省略する。
【0064】
図9に示すように、第二の実施形態の装置1Aにおいては、ワーク50の自由端近傍に重り72が配置されている。重り72には、加速度センサー(図示せず)が配置されている。重り72によって、ワーク50の自由端側の慣性力が増加し、重り72が存在しない場合に比べて、大きな振幅を有するようになる。
【0065】
ワーク50の自由端側の振幅が増加することによって、設定周波数と乖離する場合がある。そうすると、所定の設定周波数における疲労破壊を計測することが困難になる。この点、重り72に配置した加速度センサーによって、重り72の加速度を測定することができる。そして、制御部22は、重り72の加速度センサーの出力値と設定周波数に基づいて、重り72の実際の振動周波数と設定周波数との一致度を算出することができる。重り72の実際の振動周波数と設定周波数の相違が小さいほど、設定周波数における疲労破壊の測定の精度が向上する。
【0066】
装置1Aが疲労を検出するための制御は、第一の実施形態または第二の実施形態と同様である。
【0067】
なお、本発明の疲労破壊検出装置及び疲労破壊検出方法は、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、第一の実施形態において、内部空間S1、測定空間S2及び貫通空間S3を閉鎖空間としたが、制限空間としてもよい。また、例えば、第一の実施形態及び第二の実施形態において、テスタ26に圧力設定プログム等が記憶されている構成としたが、これに限らず、制御装置22等の他の構成に圧力設定プログム等が記憶されている構成にしてもよいし、テスタ26、制御装置22、アンプ24、振動発生機10、コンプレッサー28が、それらのプログラムを分散して記憶する構成にしてもよい。また、第一の実施形態及び第二の実施形態において、設定圧力の設定、閉鎖空間または制限空間の形成、圧力の測定、圧力低下が所定の閾値を超えて低下したか否かの評価、時刻の記録及び振動の停止をプログラムによって実施する構成としたが、一部または全部を回路によって実施してもよいし、機械的に実施するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,1A 疲労破壊検出装置
10 振動発生機
22 振動制御装置
24 パワーアンプリファイア
26 エアリークテスタ
28 コンプレッサー
32 チューブ


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9