(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】使用感を改善したアルコール系擦り込み式手指消毒組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 31/02 20060101AFI20220325BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20220325BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220325BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
A01N31/02
A01N25/02
A01P1/00
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2022503830
(86)(22)【出願日】2022-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2022001044
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2021109697
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福居 孝之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 貴之
(72)【発明者】
【氏名】隈下 祐一
(72)【発明者】
【氏名】松村 玲子
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505576(JP,A)
【文献】特開2014-5209(JP,A)
【文献】特開2011-168524(JP,A)
【文献】特開2010-126488(JP,A)
【文献】特開2008-255101(JP,A)
【文献】医薬品インタビューフォーム 「速乾性すり込み式手指消毒剤 ラビショット」,日本,2016年,https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2016/11/f91f6c118b64a055fd33c5c10d9bc837.pdf,[令和3年11月02日検索]、インターネット
【文献】医薬品インタビューフォーム 「速乾性すり込み式手指消毒剤 ラビジェル」,日本,2016年,https://www.kenei-pharm.com/cms/wp-content/uploads/2016/11/f9c5795036cab85e653b703c2a977d44.pdf,[令和1年9月19日検索]、インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分を含有する、pH5.5~7.5の擦り込み式手指消毒組成物:
(A)低級アルコール:50~90容量%、
(B)グリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール:0.01~1.0質量%、
(C)ミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステル:各々0.01~0.12質量%、及び
(D)水。
【請求項2】
前記低級アルコールが、エタノール、n-プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【請求項3】
前記(C)成分のミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルとの割合が、ミリスチン酸イソプロピル100質量部に対してグリセリン脂肪酸エステル8~1200質量部である、請求項1又は2に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【請求項4】
前記(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンの一つのヒドロキシ基に炭素数6~16の飽和又は不飽和脂肪酸がエステル結合したものである、請求項1~3のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【請求項5】
さらに(E)pH調整剤を含有する、請求項1~4のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【請求項6】
液状の手指消毒組成物である、請求項1~5のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【請求項7】
さらに下記成分を含有する、請求項1~5に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(F)カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のアクリル酸系重合体。
【請求項8】
粘稠状の手指消毒組成物である、請求項7に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【請求項9】
前記(F)成分のカルボキシビニルポリマーが下記の特性を有するものである、請求項7又は8に記載する擦り込み式手指消毒組成物:
0.2w/v%水溶液(pH7.0-7.5、20±1℃)を、ブルックフィールド型回転粘度計(2号又は4号、12回転)を用いて測定した場合の粘度が、1500~50000mPa・s。
【請求項10】
前記(F)成分のアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体が下記の特性を有する(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマーである、請求項7又は8に記載する擦り込み式手指消毒組成物:
0.5w/v%水溶液(pH7.0-7.5、20±1℃)を、ブルックフィールド型回転粘度計(2号又は4号、12回転)を用いて測定した場合の粘度が、25000~65000mPa・s。
【請求項11】
前記(E)成分のpH調整剤が、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トロメタミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、及びPEG-15コカミンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性又はアルコール可溶性のアミン化合物である、請求項7~10のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールなどの低級アルコールをベースとしたアルコール系擦り込み式手指消毒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、感染対策として手指衛生が重要であるとの認識が高まっている。こうしたなか、日本国厚生労働省から高濃度アルコール(エタノール濃度:70~83vol%)が有効であるといった通達が出された。このため、手洗いだけなく、日常生活の消毒においても、低級アルコールをベースとしたアルコール系消毒剤の需要が高まっている。
【0003】
一方、アルコール系手指消毒剤が使用される機会が増えたことで、アルコール系手指消毒剤に対する問題点が多く指摘されるようになっている。まず、アルコール系手指消毒剤全般の問題は、アルコールの蒸発に伴い皮膚内の水分も減少してうるおいがなくなり、「手が荒れる」というものである。また、液状の手指消毒剤(リキッドタイプ)では、「手から液が溢れ落ちる」という問題やスプレー時に「液が飛び散る」といった問題が指摘されている。一方、粘稠状の手指消毒剤(ジェルタイプ)では、前記リキッドタイプの問題は解消できるものの、新たに「ぬるつき」などといった使用感の悪さという問題がある。
【0004】
アルコール系手指消毒剤は、新型コロナウイルスに対してだけでなく、季節性のインフルエンザや食中毒などの対策にも非常に有用である。このため、新型コロナウイルス感染症が収束したアフターコロナの場面においても、手指のアルコール消毒を日常の習慣として広く世間で定着させるためには、上述の問題点を解消し、毎日気持ちよく使用できるアルコール系手指消毒剤の開発が必要である。
【0005】
従来、エタノール等の低級アルコールをベースとした手指殺菌用の組成物が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、使いやすい適度な粘稠性を有し、使用後の殺菌効力の持続性に優れ、手肌が滑らか(すべすべした感触)である実用的価値の高い粘稠状殺菌剤組成物として、エタノール50~95容量%、カルボキシビニルポリマー0.1~3.0重量%、アルカノールアミン0.01~2.0重量%、及び水5~50容量%からなる、pH5~8の粘稠状殺菌剤組成物が記載されており、さらに第4級アンモニウム塩または脂肪酸エステルを配合することができることが記載されている。しかし、脂肪酸エステルとしてグリセリン脂肪酸エステルとミリスチン酸イソプロピルとを特定の割合で併用することは記載も示唆もされていない。
【0006】
また、特許文献2には、広範囲な微生物に有効な殺菌力と安全性(低毒性)を有し、しかも手指消毒に使用しても手荒れが防止されてなる、安価な外用殺菌消毒剤として、エタノール80~85vol%、イソプロパノール3.7~10vol%、並びに手荒れ防止のためにグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸塩、尿素の1種又は2種以上の保湿成分を含有する外用殺菌消毒剤が記載されている。しかし、脂肪酸エステルを配合することや、脂肪酸エステルとしてグリセリン脂肪酸エステルとミリスチン酸イソプロピルとを特定の割合で併用することは記載も示唆もされていない。
【0007】
さらに、特許文献3には、低級アルコールとしてエタノールを含有する擦式手指消毒組成物において、皮膚に関する感触を向上させるために、少なくとも0.2w/w%のミリスチン酸イソプロピルを抗ピリング剤として配合することや、さらにグリコール及び/又はフェノキシエタノールを配合できることが記載されている。なお、特許文献3には、エタノール70v/v%、カーボポール0.3w/w%、ジプロピレングリコール0.5w/w%、及びミリスチン酸イソプロピル0.2w/w%を含有するゲル状の擦式手指消毒組成物において、ミリスチン酸イソプロピルの配合量を0.1w/w%にまで減量すると、滑らかさが消失し、ミリスチン酸イソプロピルを配合しない場合よりもむしろ乾燥感が増強することが記載されている(表8参照)。またミリスチン酸イソプロピルに代えて、軟化剤であるラウリン酸グリセリルを配合すると重くベタベタした皮膚感触になることが記載されている(表4)。
【0008】
また市場では、有効成分としてエタノールを76.9~81.4v/v%含有し、添加物としてリン酸を配合し、弱酸性(pH3.0~4.0)とすることで、ノンエンベロープウイルスを含む広範囲な微生物に効果を有する速乾性擦り込み式手指消毒剤が流通している(非特許文献1及び2)。従来、アルコール溶液のpHを酸性あるいはアルカリ性領域に調整することでノンエンベロープウイルスに対する不活化効果が高まる一方、pHを中性に近づけることでその不活化作用が低下することが知られている(非特許文献3)。このため、これらの速乾性擦り込み式手指消毒剤は、こうしたアルコール溶液の特性を活かした消毒剤である。この擦り込み式手指消毒剤には、添加物として、前記リン酸以外に、グリセリン、アラントイン、ミリスチン酸イソプロピル、グルセリン脂肪酸エステル、パラオキシ安息香酸エチル、N-ヤシ油脂肪酸アシル-L-アルギニンエチル、及びDL-ピロリドンカルボン酸塩を含有するリキッドタイプの消毒剤(非特許文献1)、ならびにさらにヒドロキシプロピルセルロースを含有するジェルタイプの消毒剤(非特許文献2)の2種類がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-305504号公報
【文献】特開2004-155712号公報
【文献】特表2016-505576号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】医薬品インタビューフォーム「速乾性すり込み式手指消毒剤 ラビショット(登録商標)」2016年6月改訂(第3版)
【文献】医薬品インタビューフォーム「速乾性すり込み式手指消毒剤 ラビジェル(登録商標)」2016年6月改訂(第3版)
【文献】松村ら、「殺ウイルス性アルコール系手指消毒剤の有効性評価」、日本防菌防黴学会誌 Vol.41, No.8, pp.421-425 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、エタノールなどの低級アルコールをベースとしたアルコール系擦り込み式手指消毒組成物を提供することを課題とする。好ましくは、本発明は、新型コロナウイルスを始めとする各種微生物に起因する感染症の予防に有効であり、且つ手指に対する使用感に優れたアルコール系擦り込み式手指消毒組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、日々、研究開発業務を行っているなかで、低級アルコールを、各種微生物に起因する感染症の予防に有効な50~90v/v%の割合で含有する液状の消毒組成物において、保湿剤として知られているグリセリン等の多価アルコールを配合すると、擦り込み後の手指のうるおいはやや改善するものの、手指への擦り込み時に抵抗感が生じ、また擦り込み後にギシギシとしたきしみが生じ、配合量を多くするほど、その傾向が増加する問題があることを知見した。この問題を解決するために、さらに検討を重ねたところ、所定量の多価アルコールに加えて、脂肪酸エステルとして所定量のミリスチン酸イソプロピルと所定量のグリセリン脂肪酸エステルとを組み合わせて配合することで、擦り込み時の抵抗感、及び擦り込み後のきしみが減少し、さらにうるおいが一層増加することを確認した。
【0013】
また、本発明者らは、手から溢れ落ちたり周りに飛び散るといった液状消毒組成物の問題を解消するために、低級アルコール濃度50~90v/v%の液状消毒組成物に、増粘剤としてチキソトロピー性を有するカルボキシルビニルポリマー等のアクリル酸系重合体を配合することで、吐出時は粘稠性で前記問題が解消するとともに、手に擦り込むときには液状になることを確認した。一方、これに保湿剤としてグリセリン等の多価アルコールを配合すると、前記液状消毒組成物と同様に、擦り込み後の手指のうるおいはやや改善するものの、擦り込み時に抵抗感が生じ、また擦り込み後にきしみが生じることを知見した。この解決手段として、前述する方法、つまり所定量の多価アルコールに加えて、脂肪酸エステルとして所定量のミリスチン酸イソプロピルと所定量のグリセリン脂肪酸エステルを配合する方法が有効であり、しかも両者を組み合わせて配合することで、一方だけを配合することで生じる、ぬるつき感やべたつき感が有意に抑制されて、しっとりとうるおいのある良好な感触が得られることを確認した。
【0014】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を包含する。
(I)液状擦り込み式手指消毒組成物
(I-1)下記成分を含有する、pH5.5~7.5の擦り込み式手指消毒組成物:
(A)低級アルコール:50~90容量%、
(B)グリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール:0.01~1.0質量%、
(C)ミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステル:各々0.01~0.12質量%、及び
(D)水。
(I-2)前記低級アルコールが、エタノール、n-プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種、好ましくはエタノールである、(I-1)に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(I-3)(C)成分のミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルとの割合が、ミリスチン酸イソプロピル100質量部に対してグリセリン脂肪酸エステル8~1200質量部である、(I-1)又は(I-2)に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(I-4)前記(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンの一つのヒドロキシ基に炭素数6~16の飽和又は不飽和脂肪酸がエステル結合したものである、(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(I-5)前記(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルが、ラウリン酸脂肪酸エステル以外のグリセリン脂肪酸エステルであること、好ましくはカプリン酸脂肪酸エステルである、(I-1)~(I-4)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(I-6)液状の手指消毒組成物である、(I-1)~(I-5)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【0015】
(II)粘稠状擦り込み式手指消毒組成物
(II-1)下記成分を含有する、pH5.5~7.5の擦り込み式手指消毒組成物:
(A)低級アルコール:50~90容量%、
(B)グリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール:0.01~1.0質量%、
(C)ミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステル:各々0.01~0.12質量%、
(E)カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のアクリル酸系重合体、
(F)pH調整剤、及び
(D)水。
(II-2)前記低級アルコールが、エタノール、n-プロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールから選択される少なくとも1種、好ましくはエタノールである、(II-1)に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(II-3)(C)成分のミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルとの割合が、ミリスチン酸イソプロピル100質量部に対してグリセリン脂肪酸エステル8~1200質量部、好ましくは10~100質量部である、(II-1)又は(II-2)に記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(II-4)前記(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンの一つのヒドロキシ基に炭素数6~16の飽和又は不飽和脂肪酸がエステル結合したものである、(II-1)~(II-3)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(II-5)前記(C)成分のグリセリン脂肪酸エステルが、ラウリン酸脂肪酸エステル以外のグリセリン脂肪酸エステルであること、好ましくはカプリン酸脂肪酸エステルである、(II-1)~(II-4)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(II-6)前記(C)成分のカルボキシビニルポリマーが下記の特性を有するものである、(II-1)~(II-5)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物:
0.2w/v%水溶液(pH7.0-7.5、20±1℃)を、ブルックフィールド型回転粘度計(2号又は4号、12回転)を用いて測定した場合の粘度が、1500~50000mPa・s、好ましくは1500~30000mPa・s、より好ましくは1500~7500mPa・s。
(II-7)前記(C)成分のアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体が下記の特性を有する(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロスポリマーである、(II-1)~(II-6)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物:
0.5w/v%水溶液(pH7.0-7.5、20±1℃)を、ブルックフィールド型回転粘度計(2号又は4号、12回転)を用いて測定した場合の粘度が、25000~65000mPa・s、好ましくは45000~65000mPa・s。
(II-8)前記(C)成分のpH調整剤が、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トロメタミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、及びPEG-15コカミンからなる群より選択される少なくとも1種の水溶性又はアルコール可溶性のアミン化合物である、(II-1)~(II-7)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
(II-9)粘稠状の手指消毒組成物である、(II-1)~(II-8)のいずれかに記載する擦り込み式手指消毒組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の手指消毒組成物は、高いアルコール含量にも拘わらず、手指に優しく、使用感に優れることを特徴とする。具体的には、液状の手指消毒組成物は、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみが少なく、また手指にうるおい感を付与することができる。また粘稠状の手指消毒組成物は、液状の手指消毒組成物のように手指から溢れ落ちたり滴り落ちるという問題なく、ジェル状液を手指等の消毒対象物全体に行き渡らすことができる。吐出時は粘度があるものの、手指に擦り込み際にはリキッドのようになり、抵抗が少なく擦り込みやすい。さらに、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきが少なく、さらに手指にうるおい感を付与することができる。このように、本発明によれば、使用感に優れながらも、手指などの皮膚等を有効に消毒することができる手指消毒組成物を調製し提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の擦り込み式手指消毒組成物には、液状の手指消毒組成物(リキッドタイプ)と粘稠状の手指消毒組成物(ジェルタイプ)が含まれる。
【0018】
(I)液状擦り込み式手指消毒組成物
液状の手指消毒組成物は、下記の(A)~(D)を含有し、pHが5.5~7.5の範囲にあることを特徴とする:
(A)全組成物あたり50~90容量%の量で存在する低級アルコール、
(B)全組成物あたり0.01~1.0質量%の量で存在するグリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール、
(C)全組成物あたり各々0.01~0.12質量%の量で存在するミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステル、並びに
(D)全組成物を100質量%とする量で存在する水。
【0019】
以下、これらの各成分について説明する。
(A)低級アルコール
本発明で用いられる低級アルコールは、殺菌作用を有する低級炭化水素鎖アルコールである。具体的には、エタノール、n-プロピルアルコール及びイソプロピルアルコールを挙げることができる。好ましくはエタノールである。これらの低級アルコールは1種単独で使用してもよいし、また2種を組み合わせて使用することもできる。
【0020】
本発明の手指消毒組成物(100容量%)には、当該低級アルコールを50~90容量%の範囲で配合することができる。下限値は、50容量%を限度として特に制限されないものの、殺菌力の点から好ましくは60容量%以上、より好ましくは70容量%以上を挙げることができる。また上限値は、90容量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは85容量%以下であり、より好ましくは80容量%以下である。制限されないものの、低級アルコールとしてエタノールを単独で使用する場合、具体的な範囲として、例えば50~90容量%、好ましくは70~85容量%、特に好ましくは75~82容量%の範囲を挙げることができる。また、低級アルコールとしてn-プロピルアルコール又はイソプロピルアルコールを単独で使用する場合、具体的な範囲として、例えば50~90容量%、好ましくは70~85容量%、特に好ましくは75~82容量%の範囲を挙げることができる。
【0021】
(B)多価アルコール
本発明で用いられる多価アルコールは、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である。これらの多価アルコールは1種単独で使用されてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくはグリセリンである。
【0022】
本発明の手指消毒組成物(100質量%)には、当該多価アルコールを総量で0.01~1.0質量%の範囲で配合することができる。多価アルコールをこの範囲で含有することで、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきがなく、また手指にうるおい感を付与することができる手指消毒組成物を得ることができる。下限値は、0.01質量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上を挙げることができる。また上限値は、1.0質量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。具体的には、好適な範囲として、0.05~0.8質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%の範囲を例示することができる。
【0023】
(C)ミリスチン酸イソプロピル、及びグリセリン脂肪酸エステル
本発明の手指消毒組成物は、ミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルを特定の割合で含有することを特徴とする。
【0024】
ミリスチン酸イソプロピルは、ミリスチン酸のカルボキシ基とイソプロピルアルコールの水酸基とがエステル結合してなる脂肪酸エステルである。本発明の手指消毒組成物(100質量%)には、ミリスチン酸イソプロピルを0.01~0.12質量%の範囲で配合することができる。前述する(A)低級アルコール、及び(B)多価アルコール、並びに後述する(C)グリセリン脂肪酸エステルに加えて、ミリスチン酸イソプロピルをこの範囲で含有することで、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきがなく、また手指にうるおい感を付与することができる手指消毒組成物を得ることができる。下限値は、0.01質量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上を挙げることができる。また上限値は、0.12質量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下である。具体的には、好適な範囲として、0.02~0.1質量%、より好ましくは0.03~0.08質量%の範囲を例示することができる。
【0025】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの3つの水酸基のうち、1つまたは2つの水酸基に脂肪酸がエステル結合したモノアシルグリセロールまたはジアシルグリセロールである。本発明ではモノアシルグリセロールが好適に使用される。グリセリンの水酸基に結合する脂肪酸としては、炭素数6~16の飽和脂肪酸を挙げることができる。好ましくは炭素数8~14、より好ましくは炭素数8~12の飽和脂肪酸、特に好ましくは炭素数10の飽和脂肪酸である。
本発明の手指消毒組成物(100質量%)には、グリセリン脂肪酸エステルを0.01~0.12質量%の範囲で配合することができる。前述する(A)低級アルコール、(B)多価アルコール、及び(C)ミリスチン酸イソプロピルに加えて、グリセリン脂肪酸エステルをこの範囲で含有することで、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきがなく、また手指にうるおい感を付与することができる手指消毒組成物を得ることができる。下限値は、0.01質量%を限度として特に制限されない。また上限値は、0.12質量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.06質量%以下である。具体的には、好適な範囲として、0.01~0.1質量%、より好ましくは0.01~0.06質量%の範囲を例示することができる。
【0026】
(C)成分のミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルとの割合は、制限されないものの、好ましくはミリスチン酸イソプロピル100質量部に対してグリセリン脂肪酸エステル8~1200質量部から選択することができる。好ましくは10~100質量部である。
【0027】
(D)水
本発明の手指消毒組成物は、水を溶媒として含有する水性組成物である。
【0028】
本発明の手指消毒組成物は、抗微生物作用(抗ウイルス作用、抗菌作用)を有し、手指の消毒処理に使用される。従って、その溶媒として使用される水は、これらの効果(抗微生物性)を損なうものでないことが求められる。具体的には浄水を用いることができる。ここで浄水とは、原水(原料となる河川水や地下水)に必要な水処理操作を加えて清浄化した水をいい、好ましくは水道水として水道法および水質基準に関する省令に定められた水質基準以上の条件を満たすものを挙げることができる。具体的には、水道水、滅菌水、RO水、イオン交換水、滅菌水、蒸留水、精製水、アルカリイオン水、海洋深層水等を挙げることができる。好ましくは精製水である。
【0029】
水は、本発明の手指消毒組成物を総量100質量%とする量で配合することができる。
【0030】
(E)手指消毒組成物のpH、pH調整剤
本発明の手指消毒組成物はpH5.5~7.5に調整されていることを特徴とする。 pHの好適な範囲としては、使用感及び手指の皮膚に優しいことから、pH6.0~7.2、より好ましくはpH6.2~7.0の範囲を挙げることができる。
【0031】
本発明の手指消毒組成物を上記pHの範囲に調整するために、必要に応じてpH調整剤を用いることができる。但し、前述する(A)~(D)成分の配合により上記pHの範囲に調整することができれば、特段pH調整剤の配合を必要とするものではない。ここでpH調整剤としては、(A)~(D)成分等の配合により調製される手指消毒組成物のpHに応じて、酸、塩基、アミン及び/またはその塩を適宜選択して用いることができる。具体的には、酸として、塩酸、硫酸、及び硝酸等の無機酸;乳酸、クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸等の有機酸;塩基として、水酸化ナトリム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等の無機塩基;アミンとして、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、トロメタミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、及びPEG-15コカミンを例示することができる。アミンとして、比較的高濃度のアルコール含有水溶液に親和性が高い点で、トリエタノールアミン、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、及びPEG-15コカミンが好適に使用される。
【0032】
(G)他の成分
本発明の手指消毒組成物は、抗微生物作用に加えて、本発明の効果及び液状(リキッド)の性状を損なわないことを限度として、他の成分を含有することができる。かかる他の成分としては、香料、顔料(着色料)、抗酸化剤、血行促進剤などを例示することができる。
【0033】
本発明の手指消毒組成物は、前述するように、中に含まれる高濃度の低級アルコール成分が消毒作用物質(抗ウイルス作用物質、抗菌物質)として作用するため、別途、抗菌剤を配合する必要はない。しかし、本発明の効果を損なわないことを限度として、抗菌剤を配合することを制限するものではない。但し、皮膚への刺激性が強い抗菌剤や手荒れの原因となりえる抗菌剤、例えばポビドンヨードやトリクロサンなどは配合しないことが好ましい。なお、配合しえる抗菌剤としては、クロルヘキシジングルコン酸塩やオラネキシジングルコン酸塩などのビグアナイド系抗菌剤;ベンザルコニウム塩化物やベンゼトニウム塩化物などの第四級アンモニウム塩;ジアルキルアミノエチルグリシンなどのグリシン系両性界面活性剤;精油や植物エキス、ポリフェノール、カテキン、キチン、キトサン、ヒノキチオール、リゾチーム、アミノ酸、ジペプチドなどの天然系抗菌剤等を例示することができる。
【0034】
また、本発明の手指消毒組成物は、前述する(A)~(D)成分の配合により、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきがなく、また手指にうるおい感を付与することができる手指消毒組成物を得ることができる。このため、別途、エモリエント剤または保湿剤と称される他の成分を配合する必要はない。むしろ、(A)~(D)成分の配合のバランスが崩れるため配合しないことが好ましい。なお、ここで「エモリエント剤」という用語は、手指などの皮膚に反復使用したときに、皮膚の水分レベル、コンプライアンス、又は外観を維持又は改善できる材料を広く指す。この意味で保湿剤を包含するものでもある。
ちなみに、エモリエント剤としては、アラントイン、アミノ酸(例えばグリシン、アラニンなど)、糖アルコール(例えばソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール)、アジピン酸ジイソブチル、ラノリン、ビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオール(例えばグリセリルオレエート、またはソルビトール)、ポリエチレングリコール、ココグルコシド、脂肪アルコール(例えばセチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、アルコキシル化セチルアルコール、またはパルミチルアルコール)、及びセテアレス20、デスクパンテノール、スクワレン、トリイソオクタン酸グリセリン、ヤシ油脂肪酸PEG-7グリセリル、セラミド、植物油(例えばホホバ種子油、シュガースクワラン、オリブ油など)、ヒアルロン酸ナトリウム、2-ピロリドン-5-カルボン酸ナトリウム、尿素、乳酸ナトリウム、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体液、カミツレエキス等の植物エキス等を例示することができる。
【0035】
また、本発明の手指消毒組成物は、皮膚への刺激性が強い成分や手荒れの原因になる成分を配合しないものであることが好ましい。かかる成分としては、防腐剤、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド系消毒剤、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系消毒剤、ポビドンヨードなどのヨウ素系消毒剤、クレゾールなどのフェノール系消毒剤などを例示することができる。
【0036】
液状の手指消毒組成物は、手指消毒組成物を、液剤として吐出することができるヒンジキャップ付き容器や、霧状の液滴として吐出することができる噴霧式容器等に充填して、手指に噴霧吐出して使用することができる。噴霧式容器としてはスプレー式の携帯容器や手押し式スプレーポンプ又はディスペンサー付き容器を制限なく例示することができる。好ましくはノンガス型吐出容器である。液状の性状とは、通常の噴霧式容器(ノンガス型容器)に充填し、噴霧吐出が可能な性状を意味し、この限り、特に制限されるものではない。液状の手指消毒組成物を収容する吐出容器は、制限されないものの、例えば噴霧式容器の場合、1プッシュあたり、1~3mLの噴霧状化液体(液体量に換算した容量)を吐出することができるものであることができる。
【0037】
(II)粘稠状擦り込み式手指消毒組成物
粘稠状の手指消毒組成物は、下記の(A)~(F)を含有し、pHが5.5~7.5の範囲にあることを特徴とする:
(A)全組成物あたり50~90容量%の量で存在する低級アルコール、
(B)全組成物あたり0.01~1.0質量%の量で存在するグリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール、
(C)全組成物あたり各々0.01~0.12質量%の量で存在するミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステル、
(E)pH調整剤、
(F)カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のアクリル酸系重合体、並びに
(D)全組成物を100質量%とする量で存在する水。
【0038】
これらの成分のうち、(A)~(E)は、配合割合も含めて、前述する液状擦り込み式手指消毒組成物において説明した通りであり、前述する記載をここに援用することができる。
【0039】
(F)アクリル酸系重合体
本発明で用いられるアクリル酸系重合体は、カルボキシビニルポリマー、及びアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である。これらのアクリル酸系重合体は、1種単独で使用されてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくはカルボキシビニルポリマーである。
【0040】
カルボキシビニルポリマーは、アクリル酸を主鎖としてアリルショ糖やペンタエリスリトールなどを架橋した水溶性のアクリル酸重合体である。カルボキシル規含有量が、好ましくは57.7~63.4%、より好ましくは58~63%であるカルボキシビニルポリマーが好適に使用される。
カルボキシビニルポリマーは、医薬品添加物規格2018(日本国厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)(以下、「薬添規2018」とも称する)に適合したものであればよい。具体的には、乾燥したカルボキシビニルポリマー0.4gを200mlの水に分散させた後、水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0~7.5に調整した試料溶液(20±0.1℃)を、10時間静置して気泡を除去した後、ブルックフィールド型回転粘度計で測定した粘度が、1500mPa・s(2号、12回転、30秒)~50000mPa・s(4号、12回転、安定)であるカルボキシビニルポリマーを用いることができる。好ましくは、粘度が1500~30000mPa・s、より好ましくは1500~7,500mPa・sのカルボキシビニルポリマーである。
【0041】
本発明の手指消毒組成物(100質量%)への配合割合は、使用するカルボキシビニルポリマーの前記粘度に応じて適宜調整することができる。
例えば、前記粘度が1500~10000mPa・sにあるカルボキシビニルポリマーを用いる場合は、0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.9質量%、より好ましくは0.1~0.8質量%の範囲を;前記粘度が10000~30000mPa・sにあるカルボキシビニルポリマーを用いる場合は、0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.8質量%、より好ましくは0.1~0.7質量%の範囲を;前記粘度が30000~50000mPa・sにあるカルボキシビニルポリマーを用いる場合は、0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.7質量%、より好ましくは0.1~0.6質量%の範囲を例示することができる。
【0042】
カルボキシビニルポリマーは、塩(アルカリ)を用いて中和することにより、ポリマー骨格に沿ってカルボキシル基のマイナスチャージができ、その反発力によって増粘する。このため、カルボキシビニルポリマーは、前述する(E)pH調整剤のうち、無機塩基又はアミンと併用して使用される。カルボキシビニルポリマーと併用される(E)pH調整剤として、好ましくはアミンである。より好ましくは、比較的高濃度のアルコール含有水溶液に親和性が高い点で、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、及びPEG-15コカミンが用いられる。特に好ましくはトリエタノールアミンである。
【0043】
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体は、ポリアクリル酸に炭素数10~30のメタクリル酸アルキル基を導入した共重合体である。別名、(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロルポリマーとも称される。
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体は、医薬品部外品原料規格2021(日本国厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課)(以下、「外原規2021」とも称する)に適合したものであればよい。例えば、0.5w/v%水溶液(pH7.0-7.5、20±1℃)をブルックフィールド型回転粘度計(2号又は4号、12回転)を用いて測定した場合の粘度が、25000~65000mPa・s、好ましくは45000~65000mPa・sであるものを例示することができる。
【0044】
本発明の手指消毒組成物(100質量%)への配合割合は、使用するアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体の粘度に応じて適宜調整することができる。
例えば、粘度が25000~45000mPa・sにあるアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合は、0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.8質量%、より好ましくは0.1~0.7質量%の範囲を;前記粘度が45000~65000mPa・sにあるアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体を用いる場合は、0.01~1.0質量%、好ましくは0.05~0.7質量%、より好ましくは0.1~0.6質量%の範囲を例示することができる。
【0045】
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体は、塩(アルカリ)を用いて中和することにより、ポリマー骨格に沿ってカルボキシル基のマイナスチャージができ、その反発力によって増粘する。このため、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体もカルボキシビニルポリマーと同様に、前述する(E)pH調整剤のうち、無機塩基又はアミンと併用して使用される。カルボキシビニルポリマーと併用される(E)pH調整剤として、好ましくはアミンである。より好ましくは、比較的高濃度のアルコール含有水溶液に親和性が高い点で、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、テトラヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジイソプロパノールアミン、及びPEG-15コカミンが用いられる。特に好ましくはトリエタノールアミンである。
【0046】
(G)他の成分
粘稠状の手指消毒組成物も、前述する液状手指消毒組成物と同様に、抗微生物作用に加えて、本発明の効果及び粘稠状(ジェル)の性状を損なわないことを限度として、他の成分を含有することができる。前記液状手指消毒組成物と同様、皮膚への刺激性が強い成分や肌荒れの原因となる成分など、本発明の効果を損なう成分は配合しないことが好ましい。また、本発明の粘稠状の手指消毒組成物は、前述する(A)~(F)成分の配合により、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきがなく、また手指にうるおい感を付与することができる手指消毒組成物を得ることができる。このため、前記液状手指消毒組成物と同様、別途、エモリエント剤または保湿剤と称される他の成分を配合する必要はない。むしろ、(A)~(F)成分の配合のバランスが崩れるため配合しないことが好ましい。
【0047】
粘稠状の手指消毒組成物は、手指消毒組成物をジェル状の液として吐出することができる容器に充填して、手指に吐出して使用することができる。容器としてはジェルが吐出できるチューブ容器、押し出し式容器(ヒンジキャップ付き容器を含む)、又は手押し式ポンプ付き又はディスペンサー付き容器を制限なく例示することができる。粘稠状の手指消毒組成物を収容する吐出容器は、制限されないものの、1吐出あたり、1~2mLのジェル状の液体(液体量に換算した容量)を吐出することができるものであることができる。
【0048】
前述するように、本発明の液状及び粘稠状の手指消毒組成物は、組成物の全体量(100容量%)に対してアルコール含量を、90容量%を限度として50容量%以上、好ましくは60容量%以上有する。このため、他の付加的な抗菌作用を有する添加剤(抗菌剤)等なしに、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、及びC型やB型肝炎ウイルス等のエンベロープで被覆されたウイルス(エンベロープウイルス)に対して抗ウイルス活性を発揮する。よって本発明の手指消毒組成物は、手指を含む皮膚の消毒(抗菌処理、抗ウイルス処理)のために好適に使用することができる。
【0049】
また本発明の手指消毒組成物は、高いアルコール含量にも拘わらず、手指に優しく、使用感に優れることを特徴とする。具体的には、液状の手指消毒組成物は、手指に擦り込む際の抵抗が少なく擦り込みやすく、また擦り込んだ後は、きしみが少なく、また手指にうるおい感を付与することができる。また粘稠状の手指消毒組成物は、液状の手指消毒組成物のように手指から溢れ落ちたり滴り落ちるという問題なく、ジェル状液を手指等の消毒対象物全体に行き渡らすことができる。吐出時は粘度があるものの、手指に擦り込み際にはリキッドのようになり、抵抗が少なく擦り込みやすい。さらに、また擦り込んだ後は、きしみやぬるつきが少なく、さらに手指にうるおい感を付与することができる。このように、本発明によれば、使用感に優れながらも、手指などの皮膚等を有効に消毒することができる手指消毒組成物を調製し提供することができる。
【0050】
製造方法
本発明の液状手指消毒組成物は、前述する(A)~(D)、並びに必要に応じてその他の成分を混合して、pHを5.5~7.5の所望のpHに調整することで製造することができる。また本発明の粘稠状手指消毒組成物は、前述する(A)~(F)、並びに必要に応じてその他の成分を混合して、pHを5.5~7.5の所望のpHに調整することで製造することができる。斯くして調製される本発明の手指消毒組成物は、性状に応じた前述する吐出容器に収容することで、実際に使用される実製品として調整することができる。また入れ替え用容器に収容することもできる。
【0051】
(II)本発明の消毒組成物の用途
本発明の手指消毒組成物は、前述するその抗微生物作用に基づいて、皮膚消毒剤、特に手指の消毒剤として使用することができる。ここで「消毒」とは、有害な微生物の生育を阻止して死滅させ、または微生物の数を減少させることを意味する。この意味で「消毒」は、「抗菌(抗ウイルス)」や「殺菌(ウイルス不活化)」を包含する意味で用いられる。特に本発明で対象とする有害な微生物には、前述するように、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、及びC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルス等のエンベロープウイルスが含まれる。斯くしてこれらウイルスによる感染症の予防に効果的に使用することができる。
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0053】
下記の実施例で使用した成分は以下の通りである。
エタノール:日本薬局方エタノール95v/v%
イソプロピルアルコール:99%以上
n-プロピルアルコール:99%以上
グリセリン:濃グリセリン(グリセリン濃度≧98%)
1,3-ブチレングリコール:99%以上
プロピレングリコール:99%以上
ミリスチン酸イソプロピル:NIKKOL IPM-EX(日光ケミカルズ(株)製)
グリセリン脂肪酸エステル:サンソフトNo.760-C(カプリン酸グリセリル、中鎖脂肪酸モノグリセリド:太陽化学(株)製)
カルボキシビニルポリマー:AQUPEC HV-801EG([メーカー情報」0.2%水溶液粘度:2,500-6,400mPa・s、0.5%水溶液粘度:5,400-11,400mPa・s、pH:2.7~3.3)(住友精化(株)製)
(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロルポリマー:Carbopol SC-500 Polymer(Lubrizol製)
【0054】
実験例1 液状擦り込み式手指消毒組成物の調製とその評価
表2及び3に記載する各成分を配合して、液状の擦り込み式手指消毒組成物(被験試料1-1~1-30、pH6.5~7)を調製した。これらを各々1回吐出量が1mlに設定された噴霧式容器に入れた。
【0055】
各被験試料1-1~1-30を手指に擦り込んだときの使用感(擦り込み中、擦り込み後)を、パネル10名で、下記の方法により評価した。なお、これらのパネル10名はいずれも官能評価における専門の訓練を受けた研究者であり、社内の官能評価試験に合格している者である。
【0056】
[試験方法]
1.各被験試料を擦り込む前に、毎回、5%カリ石けんと流水(水道水)で両手をよく洗浄し、乾いたペーパータオルで水分を軽く拭きとった。
2.次いで噴霧式容器に入れた被験試料を、手に1回吐出(1ml)して、両手を擦り合わせて、液が乾燥するまで、手指全体に擦り込んだ。
3.擦り込んだ後、表1に記載する判定表に従って、各パネル毎、使用感(擦り込み中、擦り込み後)を評価した。
4.各評価項目について、各パネルの評価得点の平均値を算出し、下記の基準に従って評価を行った。
○:平均値が2.0点以上
△:平均値が1.0~2.0点未満
×:平均値が1.0点未満
【0057】
なお、パネル10名は、事前に表1に記載する判定表の各項目の判定基準をお互いに協議し、全員が同じ基準で評価できる状態になったことを確認したうえで、前記本試験を実施した。
【表1】
【0058】
試験結果を表2及び3に合わせて示す。
【表2】
【表3】
【0059】
エタノールだけよりも、多価アルコールを配合することで、少しうるおいが得られるものの、乾く直前に僅かに抵抗感を感じて擦り込みにくく、また擦り込み後は僅かにギシギシとしてきしみが感じられた(表2:被験試料1-2~1-6)。またきしみは多価アルコールの配合量を増加することで増強する傾向が見られた(表2:被験試料1-5~1-6)。これに対して、ミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルを特定の割合で組み合わせて配合すると、擦り込み時の抵抗感がなくなり擦り込みやすさが改善され、また擦り込み後のきしみも解消された。さらに、うるおいも増強し、しっとりとした感触が得られた(表2:被験試料1-7~1-8、1-10、1-12及び1-13)。しかし、ミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルの少なくとも1方の配合量が0.12質量%を超えて0.15質量%以上になると、擦り込み後にぬるつきが残留し、使用感が低下することが確認された(表2:被験試料1-9、1-11、及び1-14)。
また、表3に示すように、エタノール濃度を50容量%または90容量%にした場合、及び低級アルコールとしてイソプロピルアルコール又はn-プロピルアルコールを用いた場合も同じ傾向が認められた(被験試料1-15~1-30)。
【0060】
実験例2 粘稠状擦り込み式手指消毒組成物の調製とその評価
表4~8に記載する各成分を配合して、粘稠状の擦り込み式手指消毒組成物(被験試料2-1~2-47:pH6.5~7)を調製した。これらを各々1回吐出量が1mlに設定された吐出容器に入れた。
【0061】
各被験試料2-1~2-47を手指に擦り込んだときの使用感(擦り込み中、擦り込み後)を、実験例1と同様に、パネル10名で評価した。結果を表4~8に合わせて記載する。
【表4】
【0062】
表4に示すように、エタノールに、増粘剤としてカルボキシビニルポリマー、及び多価アルコールを配合した粘稠状の消毒組成物は、エタノールだけよりも(表2:被験試料1-1参照)、少しうるおいが得られるものの、乾く直前に抵抗感を感じて擦り込みにくく、また擦り込み後は僅かにギシギシとしてきしみが感じられた(被験試料2-1~2-5)。また多価アルコールの配合量が0.5質量%以下と少ないと、擦り込み時の抵抗感が高く、擦り込み難くなる傾向が見られた(被験試料2-1~2-1)。また、これに、ミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステルの一方を配合しても、擦り込み時の抵抗(擦り込みやすさ)、擦り込み後のきしみ、及びうるおいのいずれも改善は認められなかった(被験試料2-6及び2-7)。
【0063】
【0064】
表5に示すように、エタノールに、増粘剤としてカルボキシビニルポリマー、及び多価アルコールを配合した粘稠状の消毒組成物は、さらにミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルとを、それぞれ0.01~0.12質量%の割合で組み合わせて配合することで、擦り込み時の抵抗がなく擦り込みやすく、また擦り込み後のきしみやぬるつきがなく、しっとりとうるおいのある、使用感が良好な手指消毒組成物が得られることが確認された(被験試料2-8~10、2-12~13、2―15~16)。これに対して、表5及び6に示すように、ミリスチン酸イソプロピルとグリセリン脂肪酸エステルのいずれか一方の配合量が0.12質量%を超えて0.15質量%以上になると、擦り込み後にぬるつきが残留し、使用感が低下することが確認された(被験試料2-11、2-14、2-17~21)。
【0065】
【0066】
表7に示すように、グリセリン等の多価アルコールは、エタノール、カルボキシビニルポリマー、ミリスチン酸イソプロピル、及びグリセリン脂肪酸エステルを配合した粘稠状の消毒組成物において、1.5質量%以上配合すると、擦り込み時及び擦り込み後の使用感が低下することが確認され(被験試料2-26~27)、0.01~1.0質量%の配合量で、良好な使用感が得られることが確認された(被験試料2-22~25)。また、グリセリンに代えて、1,3-ブチレングリコールまたはプロピレングリコールを用いても同様に使用感が良好な擦り込み式手指消毒組成物が得られること(被験試料2-28~30)、さらにカルボキシビニルポリマーに代えてまたは組み合わせて、同じくアクリル酸系共重合体である(アクリレーツ/アクリル酸アルキル(C10-30))クロルポリマーを用いても同様に使用感が良好な擦り込み式手指消毒組成物が得られること(表7:被験試料2-31~32、表8:被験試料2-33~38)が確認された。
また、表8に示すように、エタノール濃度を50容量%または90容量%にした場合、及び低級アルコールとしてイソプロピルアルコール又はn-プロピルアルコールを用いた場合も、エタノール濃度を83容量%の消毒組成物と同様の良好な使用感が認められた(被験試料2-39~47)。
【要約】
本発明は、使用感が良好なアルコール系擦り込み式手指消毒組成物を提供する。本発明のアルコール系擦り込み式手指消毒組成物は、下記成分を含有するpH5.5~7.5の液状または粘稠状の組成物である:
(A)低級アルコール:50~90容量%、
(B)グリセリン、1,3-ブチレングリコール、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種の多価アルコール:0.01~1.0質量%、
(C)ミリスチン酸イソプロピル及びグリセリン脂肪酸エステル:各々0.01~0.12質量%、及び
(D)水。