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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】架橋ゴム積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/10 20060101AFI20220325BHJP
   B32B 38/06 20060101ALI20220325BHJP
   B32B 38/18 20060101ALI20220325BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
B32B37/10
B32B38/06
B32B38/18 B
B32B38/18 F
B32B25/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017189951
(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公開番号】P2019064066
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 均
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 英明
(72)【発明者】
【氏名】北 晋次
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-264643(JP,A)
【文献】特開平10-113934(JP,A)
【文献】特開2008-195840(JP,A)
【文献】特開2008-120093(JP,A)
【文献】特開2009-073057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
H01M 8/00-8/0297、8/08-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の構成部材である架橋ゴム積層体の製造方法であって、
基材と未架橋ゴム部材とが積層した積層体を作製する積層体作製工程と、
該未架橋ゴム部材を収容する凹部を有し該積層体を積層方向から押圧する押しジグを用いて該積層体を押圧し、該基材と該未架橋ゴム部材とを密着させると共に該押しジグの形状を利用して該未架橋ゴム部材に形状を付与する押圧工程と、
活性エネルギー線を照射して該未架橋ゴム部材を架橋する架橋工程と、
を有する架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項2】
前記架橋工程の前に、前記積層体における前記未架橋ゴム部材をハーフカット加工する工程を有する請求項1に記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項3】
燃料電池の構成部材である架橋ゴム積層体の製造方法であって、
シート状の基材とシート状の未架橋ゴム部材とをロール押圧加工により圧着して積層シートを作製する積層シート作製工程と、
該未架橋ゴム部材を成形する成形工程と、
活性エネルギー線を照射して該未架橋ゴム部材を架橋する架橋工程と、
を有し、
該成形工程は、該未架橋ゴム部材を収容する凹部を有し該未架橋ゴム部材を押圧する押しジグを用い、該押しジグの形状を利用して該未架橋ゴム部材に形状を付与する工程、および該積層シートにおける該未架橋ゴム部材をハーフカット加工する工程、の少なくとも一方を有する架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項4】
前記押しジグは、金属製である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項5】
前記未架橋ゴム部材が配置される前記基材の表面には、予め接着剤が塗布されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項6】
前記未架橋ゴム部材は、接着成分を含む請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項7】
前記活性エネルギー線は、電子線および紫外線の少なくとも一方である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項8】
前記基材は、樹脂または金属からなる請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【請求項9】
前記未架橋ゴム部材は、ソリッドゴムからなる請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の架橋ゴム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に架橋ゴム部材が接着された架橋ゴム積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムの架橋方法としては、原料のゴムに硫黄や有機過酸化物などの架橋剤を配合した組成物に熱エネルギーを加える熱架橋が知られている。熱架橋の場合、架橋剤の反応温度と接着剤の反応温度とを合わせることにより、ゴムを架橋するのと同時に接着剤と反応させて、ゴムを基材に接着することができる。熱架橋には、金型やオーブンなどが用いられ、前者では金型からの伝熱で、後者では空気などの雰囲気からの伝熱で、組成物に熱が加えられる。生産効率の向上を図るためには、架橋時間の短縮が有効であるが、熱架橋においては、伝熱経路の熱伝導率に依存するため容易ではない。例えば、加熱温度を上げることが考えられるが、この場合、高温に耐えられる架橋剤を選択しなければならないし、ゴムの物性への影響、装置や作業性の問題などを考慮する必要がある。
【0003】
熱架橋以外の架橋方法として、ゴムに電子線を照射して架橋する電子線架橋が知られている。電子線を照射すると、ゴムの分子鎖の水素が外れ、そこに別の分子鎖が結合することにより架橋が進行する。例えば、特許文献1には、基板にゴム状弾性材製の接着層を配置し、その上に同じくゴム状弾性材製のシール材を配置して、接着層およびシール材を電子線架橋することにより、接着層の接着性を利用して基板にシール材を接着する方法が記載されている。特許文献2には、上型および下型を有する金型で未加硫ゴムの成形体を予備成形し、下型のみを、基体が載置されている別の下型と入れ替えて、当該別の下型と上型により未加硫ゴムの成形体を基体上に配置した後、未加硫ゴムの成形体を金型から取り出し、放射線などを照射して非加熱で架橋する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-28306号公報
【文献】特許第4290655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子線架橋には、架橋時間が短くて済み、寸法変化も少ないという利点がある。しかし、電子線の照射時には金型を使用できず、解放系で実施せざるを得ないため、架橋時に接着対象物同士の密着度を上げることができないという問題がある。接着対象物同士の密着性が充分ではない場合、具体的には、接着対象物の間に空気などが入り込んで気泡が存在したり、接触界面にミクロンオーダーの微小な隙間が存在すると、接着対象物間の化学結合が阻害され、接着対象物同士を接着できないおそれがある。上記特許文献1には、基板上に接着層およびシール材を配置して電子線架橋する方法が記載されているが、基板上の接着層およびシール材は加圧されていない。このため、基板、接着層、シール材の密着度は低く、架橋後におけるシール材の接着力は充分とはいえない。架橋と接着とを同時に行う場合、接着対象物同士を密着させておくことは、所望の接着性を確保する上で欠かせない。このため、従来、電子線架橋を行う場合には、架橋と接着とを別々に行わざるを得なかった。すなわち、まず電子線を照射してゴムを架橋させてから、接着剤が塗布された基材に架橋ゴムを押しつけて接着していた。
【0006】
一方、上記特許文献2に記載されている方法においては、金型を用いて基体の所望の位置に未加硫ゴムの成形体を配置しており、予備成形用の下型と位置決め用の下型とを別々に準備する必要がある。この方法によると、金型を使用するため設備コストが大きく、下型の入れ替えに手間がかかる。また、特許文献2の段落[0034]に「ゴムシール部104はゴムの張力、粘力等により成形された状態を保っているが、基体101と強固に接合されているわけではない。」と記載されているように、架橋前における基体と未加硫ゴムの成形体との密着状態も充分とはいえない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ゴムの架橋を非加熱で行うと共に金型を用いずに基材と接着させて、基材に架橋ゴム部材が接着された架橋ゴム積層体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の第一の架橋ゴム積層体の製造方法は、基材と未架橋ゴム部材とが積層した積層体を作製する積層体作製工程と、該積層体を押しジグで押圧して該基材と該未架橋ゴム部材とを密着させる押圧工程と、活性エネルギー線を照射して該未架橋ゴム部材を架橋する架橋工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
(2)上記課題を解決するため、本発明の第二の架橋ゴム積層体の製造方法は、シート状の基材とシート状の未架橋ゴム部材とをロール押圧加工により圧着して積層シートを作製する積層シート作製工程と、該未架橋ゴム部材を成形する成形工程と、活性エネルギー線を照射して該未架橋ゴム部材を架橋する架橋工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の第一の架橋ゴム積層体の製造方法(以下適宜、「本発明の第一の製造方法」と称す)においては、加熱するのではなく活性エネルギー線を照射することにより、未架橋ゴム部材の架橋と基材への接着を行う。そして、未架橋ゴム部材を架橋する前に、積層体を押しジグで押圧して基材と未架橋ゴム部材とを密着させる。架橋する前に基材と未架橋ゴム部材との密着性を高めておくことにより、架橋後における基材と架橋ゴム部材との接着性を向上させることができる。また、基材と未架橋ゴム部材との密着性が高まるため、押しジグに対する積層体の離型性も良好である。
【0011】
押しジグに、未架橋ゴム部材に形状を付与する機能を持たせてもよい。こうすることにより、押圧工程において、密着性向上と未架橋ゴム部材の成形との両方を行うことができる。活性エネルギー線による架橋では、未架橋ゴム部材の寸法変化が小さいため、未架橋ゴム部材を予め所定の形状に成形しておいても、寸法精度を確保することができる。この場合、押しジグで押圧して未架橋ゴム部材の形状を確定することで、寸法精度を高めることができる。
【0012】
(2)本発明の第二の架橋ゴム積層体の製造方法(以下適宜、「本発明の第二の製造方法」と称す)においては、本発明の第一の製造方法と同様に、加熱するのではなく活性エネルギー線を照射することにより、未架橋ゴム部材の架橋と基材への接着を行う。本発明の第二の製造方法においては、予めロール押圧加工によりシート状の基材とシート状の未架橋ゴム部材とを圧着して、積層シートを作製しておく。ロール押圧加工は、シート状の材料を一対のロールを通して押圧変形させることにより所定の厚さにする加工である。よって、積層シート作製工程で、基材と未架橋ゴム部材とは押圧され充分に密着される。このため、別途、基材と未架橋ゴム部材とを押圧する工程は必要ない。基材と未架橋ゴム部材とを密着した状態で、未架橋ゴム部材を架橋することにより、架橋後における基材と架橋ゴム部材との接着性を向上させることができる。本発明の第二の製造方法によると、ロールツーロール方式により連続生産することが可能になり、生産効率の向上に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第一実施形態において製造する架橋ゴム積層体の上面図である。
図2】第一実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法の工程を説明する模式図であり、(A)、(B)は積層体作製工程を、(C)は押圧工程を、(D)は架橋工程を示す。
図3】同製造方法における積層体作製工程で作製される積層体の上面図である。
図4】第二実施形態において製造する架橋ゴム積層体の上面図である。
図5】第二実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法の工程を説明する模式図であり、(A)、(B)は積層体作製工程を、(C)は押圧工程を、(D)は架橋工程を示す。
図6】同製造方法における積層体作製工程で作製される積層体の上面図である。
図7】第三実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法の工程を説明する模式図であり、(A)は積層シート作製工程を、(B)は成形工程を、(C)は架橋工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の架橋ゴム部材の積層体の製造方法の実施の形態を示す。第一および第二実施形態は本発明の第一の製造方法の実施の形態に、第三実施形態は本発明の第二の製造方法の実施の形態に、対応している。
【0015】
<第一実施形態>
図1に、本実施形態において製造する架橋ゴム積層体の上面図を示す。図1に示すように、架橋ゴム積層体10は、枠状の基材と、基材の上に接着され基材と同じ枠状の架橋ゴム部材20と、を有している。
【0016】
架橋ゴム積層体10の製造方法は、積層体作製工程と、押圧工程と、架橋工程と、を有している。図2に、各工程を説明する模式図を示す。図2の(A)、(B)は積層体作製工程を示し、(C)は押圧工程を示し、(D)は架橋工程を示している。図3に、積層体作製工程で作製される積層体の上面図を示す。図3の(A)は図2の(A)に対応し、図3の(B)は図2の(B)に対応している。説明の便宜上、図3においては、未架橋ゴム部材をハッチングで示している。
【0017】
(1)積層体作製工程
本工程においては、まず、図2(A)、図3(A)に示すように、基材21と未架橋ゴム部材22とが積層した第一積層体23を作製する。基材21は樹脂フィルムであり、矩形シート状を呈している。未架橋ゴム部材22が重なる基材21の上面には、接着剤が塗布されている。未架橋ゴム部材22はエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)をゴム成分とするソリッドゴムからなり、基材21よりも一回り小さい矩形シート状を呈している。未架橋ゴム部材22を基材21の接着剤が塗布された上面に配置して、第一積層体23を作製する。
【0018】
次に、図2(B)、図3(B)に示すように、第一積層体23を打ち抜き加工して、第二積層体24を作製する。すなわち、打ち抜き型(図略)を用いて、基材21および未架橋ゴム部材22を製品と同じ枠状に打ち抜く。図2(B)中、打ち抜かれた部分を点線で示す。このようにして、枠状の第二積層体24を作製する。第二積層体24は、本発明における積層体の概念に含まれる。
【0019】
(2)押圧工程
本工程においては、図2(C)に示すように、第二積層体24を押しジグ30で押圧して、基材21と未架橋ゴム部材22とを密着させる。押しジグ30は金属製であり、下面に第二積層体24を収容する凹部31を有している。凹部31の深さは、第二積層体24の厚さよりもやや小さい。これにより、第二積層体24は上方から押圧され、基材21と未架橋ゴム部材22とが密着する。
【0020】
(3)架橋工程
本工程においては、図2(D)に示すように、第二積層体24の上方から電子線Eを照射して、未架橋ゴム部材22を架橋する。未架橋ゴム部材22は架橋して架橋ゴム部材20になり、同時に基材21に接着される。このようにして、架橋ゴム積層体10(前出の図1参照)が製造される。
【0021】
[作用効果]
本実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法においては、電子線Eを照射することにより、未架橋ゴム部材22の架橋と基材21への接着を行う。よって、架橋時間が短く、未架橋ゴム部材22と架橋ゴム部材20との間の寸法変化も少ない。また、未架橋ゴム部材22を架橋する前に、第二積層体24を押しジグ30で押圧して、基材21と未架橋ゴム部材22とを密着させる。これにより、基材21、接着剤、および未架橋ゴム部材22間の気泡や微小な隙間をなくすことができ、接着剤を介して基材21と未架橋ゴム部材22とを確実に接着することができる。また、本実施形態においては、第一積層体23を架橋する前に打ち抜き加工して、製品と同じ形状の第二積層体24にした。この場合、押しジグ30で押圧することで、未架橋ゴム部材22の形状を確定することができ、寸法精度を高めることができる。また、基材21と未架橋ゴム部材22との密着性が高まるため、押しジグ30に対する第二積層体24の離型性も良好である。
【0022】
<第二実施形態>
本実施形態の架橋ゴム部材の製造方法と、第一実施形態の架橋ゴム部材の製造方法との相違点は、架橋ゴム部材の形状、基材の上面に接着剤が塗布されていない点、および押圧工程において形状付与を行う点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
【0023】
図4に、本実施形態において製造する架橋ゴム積層体の上面図を示す。図4に示すように、架橋ゴム積層体11は、基材と、基材の上に接着され基材と同じ形状の架橋ゴム部材25と、を有している。基材および架橋ゴム部材25は、四隅に小さな四角形枠部を有する枠状を呈している。架橋ゴム部材25は、上方に突出するリップ部250を有している。
【0024】
架橋ゴム積層体11の製造方法は、積層体作製工程と、押圧工程と、架橋工程と、を有している。図5に、各工程を説明する模式図を示す。図5の(A)、(B)は積層体作製工程を示し、(C)は押圧工程を示し、(D)は架橋工程を示している。図6に、積層体作製工程で作製される積層体の上面図を示す。図6の(A)は図4の(A)に対応し、図6の(B)は図4の(B)に対応している。説明の便宜上、図6においては、未架橋ゴム部材をハッチングで示している。
【0025】
(1)積層体作製工程
本工程においては、まず、図5(A)、図6(A)に示すように、基材21と未架橋ゴム部材26とが積層した第一積層体27を作製する。未架橋ゴム部材26はEPDMをゴム成分とするソリッドゴムからなり、基材21よりも一回り小さい矩形シート状を呈している。未架橋ゴム部材26には、接着成分が配合されている。未架橋ゴム部材26を基材21の上面に配置して、第一積層体27を作製する。
【0026】
次に、図5(B)、図6(B)に示すように、第一積層体27をハーフカットして、第二積層体28を作製する。すなわち、未架橋ゴム部材26のみを製品の形状になるように抜き加工する。図5(B)中、カットされた部分を点線で示す。このようにして、第二積層体28を作製する。第二積層体28は、本発明における積層体の概念に含まれる。
【0027】
(2)押圧工程
本工程においては、図5(C)に示すように、第二積層体28を押しジグ32で押圧して、基材21と未架橋ゴム部材26とを密着させる。押しジグ32は金属製であり、下面に未架橋ゴム部材26を収容する凹部33を有している。凹部33の深さは、未架橋ゴム部材26の厚さよりもやや小さい。加えて、凹部33の底面は、架橋ゴム部材25の上面のリップ部250と型対称な形状を有している。このように、押しジグ32は、未架橋ゴム部材26を押圧するだけでなく、未架橋ゴム部材26にリップ部を形成する役割も果たす。押しジグ32で第二積層体28を上方から押圧することにより、基材21と未架橋ゴム部材26とが密着すると共に、未架橋ゴム部材26の上面にリップ部260(図5(D)参照)が形成される。
【0028】
(3)架橋工程
本工程においては、図5(D)に示すように、第二積層体28の上方から電子線Eを照射して、未架橋ゴム部材26を架橋する。未架橋ゴム部材26は架橋して架橋ゴム部材25になり、同時に基材21に接着される。この後、基材21の不要部分を打ち抜き加工などにより取り除き、製品形状にすることにより、架橋ゴム積層体11(前出の図4参照)が製造される。
【0029】
[作用効果]
本実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法と、第一実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態においては、積層体作製工程において、未架橋ゴム部材26のみを製品形状になるようにハーフカットし、最後に基材21を加工して製品形状にする。この場合、第一実施形態のように基材21も一緒に製品形状に成形する形態と比較して、次の二つの利点がある。第一に、ハーフカットした場合には、製品(架橋ゴム積層体11)において架橋ゴム部材25の周りに基材21のみの部分が若干残る。これが、他の部材(例えば燃料電池のセパレータ)と接着させる際ののりしろとなるため、接着性の向上につながる。第二に、未架橋ゴム部材26と基材21とを別々に除去するため、各々の材料の再利用が容易になる。すなわち、基材21の樹脂フィルムと、未架橋ゴム部材26のソリッドゴムと、を再利用する際、これらを分別する工程が不要になる。
【0030】
本実施形態においては、押圧工程において、未架橋ゴム部材26を基材21に密着させると共に、未架橋ゴム部材26に形状を付与する。これにより、シート状の未架橋部材から、微細な形状を有する架橋ゴム部材を、形状付与のための別工程を設けることなく容易に製造することができる。また、押しジグ32を用いることで、未架橋ゴム部材26の形状を確定することができ、寸法精度を高めることができる。本実施形態においては、未架橋ゴム部材26に接着成分が含まれる。このため、基材21に接着剤を塗布する必要がなく、作業負担を軽減することができる。
【0031】
<第三実施形態>
本実施形態においては、前出の図1に示す架橋ゴム積層体10を、ロール押圧加工を利用して製造する。架橋ゴム積層体10の製造方法は、積層シート作製工程と、成形工程と、架橋工程と、を有している。図7に、各工程を説明する模式図を示す。図7の(A)は積層シート作製工程を示し、(B)は成形工程を示し、(C)は架橋工程を示している。
【0032】
(1)積層シート作製工程
本工程においては、まず、図7(A)に示すように、シート状の基材40とシート状の未架橋ゴム部材41とを、ロール押圧加工により圧着して積層シート42を作製する。シート状の基材40は樹脂フィルムであり、図示しない供給ロールにより供給されている。供給途中に、基材40の上面には接着剤が塗布される。シート状の未架橋ゴム部材41は、EPDMをゴム成分とするソリッドゴムをカレンダーロール(図略)を用いて成形したものである。供給された基材40と未架橋ゴム部材41とを、ガイドロール50a、50bにより押圧しながら重ね合わせて積層シート42を作製する。
【0033】
(2)成形工程
本工程においては、シート状の未架橋ゴム部材41を成形する。図7(B)に示すように、抜き型51a、51bを用いて、積層シート42をハーフカットする。すなわち、未架橋ゴム部材41のみを製品の形状になるように抜き加工する。これにより、未架橋ゴム部材41は枠状に成形される。
【0034】
(3)架橋工程
本工程においては、図7(C)に示すように、枠状の未架橋ゴム部材41の上方から電子線Eを照射して、未架橋ゴム部材41を架橋する。未架橋ゴム部材41は架橋して架橋ゴム部材20になり、同時に基材40に接着される。この後、基材40の不要部分を打ち抜き加工などにより取り除き、基材40を製品形状にすることにより、架橋ゴム積層体10(前出の図1参照)が製造される。
【0035】
[作用効果]
本実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法と、第一実施形態の架橋ゴム積層体の製造方法とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態によると、積層シート42を作製する工程において、基材40と未架橋ゴム部材41とを密着させることができる。このため、別途、基材40と未架橋ゴム部材41とを押圧する工程を設けることなく、電子線架橋により、接着性に優れた架橋ゴム部材積層体を製造することができる。また、本実施形態によると、ロールツーロール方式により連続生産することが可能であり、生産効率の向上に有効である。
【0036】
<その他>
以上、本発明の架橋ゴム積層体の製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0037】
上記実施形態においては、基材を下側に、未架橋ゴム部材を上側に配置したが、これらの上下は逆でもよい。基材と未架橋ゴム部材との位置関係は、上下に限定されるものでもなく、これらを左右に配置してもよい。未架橋ゴム部材を架橋するための活性エネルギー線は、上記実施形態で使用した電子線の他、紫外線でも構わない。
【0038】
基材の材質は特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリオレフィンなどの樹脂の他、チタン、ステンレスなどの金属でもよい。本発明の第二の製造方法においては、基材の形状はシート状(薄板状)であるが、本発明の第一の製造方法においては、基材の形状は特に限定されない。
【0039】
未架橋ゴム部材は、架橋していないゴム部材であればよい。例えば、常温において混練可能な固体であるソリッドゴムを用いると、押出成形などにより容易に未架橋ゴム部材を製造することができる。ソリッドゴムとしては、上記実施形態で使用したEPDMの他、ニトリルゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)などの合成ゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマーが挙げられる。未架橋ゴム部材は、ゴム成分の他に、接着成分、架橋促進剤、架橋助剤、軟化剤などを含んでいてもよい。
【0040】
本発明の第二の製造方法においては、未架橋ゴム部材の形状はシート状であるが、本発明の第一の製造方法においては、未架橋ゴム部材の形状は特に限定されない。上記第一、第二実施形態では、積層体を作製する過程で、未架橋ゴム部材を加工して所定の形状に成形した。しかし、予め所定の形状に成形済みの未架橋ゴム部材を基材に積層させてもよい。あるいは、架橋工程の前または後に、未架橋ゴム部材を加工して成形してもよい。基材を成形する場合も、どの段階で行っても構わない。基材の成形は、必ずしも未架橋ゴム部材の成形と同時に行う必要はない。第二実施形態のように、まず未架橋ゴム部材のみハーフカットなどにより加工してから、後で基材を成形してもよい。
【0041】
上記実施形態においては、基材と未架橋ゴム部材とを接着剤または接着成分を用いて接着した。基材に塗布する接着剤や、未架橋ゴム部材に配合する接着成分は、基材と未架橋ゴム部材とを化学結合できるものであれば特に限定されない。例えば、カップリング剤、ポリオレフィン系接着剤、塩素ゴム系接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、塩化ビニル系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、ポリエステル系接着剤、フェノール系接着剤、シリコーン系接着剤などが挙げられる。また、基材を表面処理するなどして架橋ゴム部材との接着性を確保することができれば、接着剤や接着成分を用いなくてもよい。表面処理としては、酸洗浄、アルカリ洗浄、レーザー処理、真空プラズマ処理、大気圧プラズマ処理などが挙げられる。
【0042】
押しジグは、積層体を積層方向から押圧できれば、その材質、形状などは限定されない。押しジグとして、ロールを用いてもよい。第二実施形態のように、押しジグにより、未架橋ゴム部材に形状を付与してもよい。ロール押圧加工を用いた本発明の第二の製造方法において、成形工程は、第三実施形態のように未架橋ゴム部材のみをハーフカットなどにより加工する形態の他、基材と未架橋ゴム部材との両方を所定の形状に加工する形態、押しジグ、ロールなどにより未架橋ゴム部材に形状を付与する形態を含む。
【実施例
【0043】
架橋ゴム積層体のテストピースを製造し、その接着性を評価した。
【0044】
<テストピースの製造>
[実施例]
本発明の第一の製造方法によりテストピースを製造した。基材には、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂フィルム(三井化学(株)製「アドマー(登録商標)NF518」、厚さ0.1mm)を用いた。まず、基材の表面に、接着剤のシランカップリング剤(ロードファーイースト社製「ケムロック(登録商標)607」)を塗布し、その上にEPDMシート(厚さ1mm)を配置して積層体を作製した。EPDMシートは、EPDM100質量部、カーボンブラック50質量部、パラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380」)20質量部からなる組成物を押出加工によりシート状に成形した未架橋ゴム部材である。次に、積層体をEPDMシート側から金属板で押圧して(面圧1MPa)、基材とEPDMシートとを密着させた。金属板は、本発明における押しジグの概念に含まれる。最後に、積層体のEPDMシート側から電子線を照射して(吸収線量200kGy)、EPDMシートを架橋した。テストピースにおけるEPDMシートの接着面の大きさは、幅5mm、長さ40mmである。
【0045】
[比較例]
積層体を金属板で押圧しない(基材とEPDMシートとを密着させない)点以外は、実施例と同様にしてテストピースを製造した。
【0046】
<接着性の評価>
実施例および比較例のテストピースについて、JIS K 6256-2:2013に規定される90°剥離試験を行い、基材に対するEPDMシートの接着性を評価した。90°剥離試験の結果、EPDMシートが凝集破壊した場合を接着性良好(後出の表1において〇印で示す)、EPDMシートが界面剥離した場合を接着性不良(同表において×印で示す)とした。表1に、接着性の評価結果を示す。
【表1】
【0047】
表1に示すように、押圧工程を行って製造した実施例のテストピースにおいては、凝集破壊となりEPDMシートの接着性は良好であった。一方、押圧工程を行わずに製造した比較例のテストピースにおいては、界面剥離となり充分な接着性が得られなかった。以上より、電子線を照射して未架橋ゴム部材を架橋する場合、予め基材と未架橋ゴム部材とを密着させておくことが接着性向上に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の架橋ゴム積層体の製造方法は、燃料電池の構成部材、太陽光発電装置の構成部材など、ガスや液体をシールする部材の製造方法として好適である。
【符号の説明】
【0049】
10:架橋ゴム積層体、11:架橋ゴム積層体、20:架橋ゴム部材、21:基材、22:未架橋ゴム部材、23:第一積層体、24:第二積層体、25:架橋ゴム部材、26:未架橋ゴム部材、27:第一積層体、28:第二積層体、30:押しジグ、31:凹部、32:押しジグ、33:凹部、40:基材、41:未架橋ゴム部材、42:積層シート、50a、50b:ガイドロール、51a、51b:抜き型、250:リップ部、260:リップ部、E:電子線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7