(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】トランスデューサおよびそれを用いた発電システム
(51)【国際特許分類】
H01L 41/053 20060101AFI20220325BHJP
H01L 41/113 20060101ALI20220325BHJP
H01L 41/04 20060101ALI20220325BHJP
H01L 41/083 20060101ALI20220325BHJP
H02N 2/18 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
H01L41/053
H01L41/113
H01L41/04
H01L41/083
H02N2/18
(21)【出願番号】P 2018015185
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】高橋 渉
(72)【発明者】
【氏名】大坪 繁宏
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072285(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185530(WO,A1)
【文献】特開2017-028323(JP,A)
【文献】特開2008-277729(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/053
H01L 41/113
H01L 41/04
H01L 41/083
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーおよび圧電粒子を含む圧電層と、該圧電層を挟んで配置される電極層と、積層方向の少なくとも最外層に配置される弾性体層と、を有する圧電素子と、
該圧電素子を収容し、エラストマーを有する外装材と、を備え、
該圧電素子の該最外層の二つの該弾性体層は該外装材に被覆されており、
押圧により該圧電素子が伸張する方向における該外装材と該圧電素子との間には、気体、不揮発性の液体、および該弾性体層よりも弾性率が小さい固体の少なくとも一つが収容される緩衝部が区画され
、
該圧電素子の該最外層の伸張方向に延在する面を表面とした場合、該圧電素子の該表面は該外装材に接着されていないことを特徴とするトランスデューサ。
【請求項2】
前記緩衝部には、気体が収容される請求項1に記載のトランスデューサ。
【請求項3】
前記圧電素子は、複数の前記圧電層を有し、該圧電層は前記電極層を介して積層される請求項1または請求項2に記載のトランスデューサ。
【請求項4】
前記弾性体層は、隣接する前記電極層間に介装される請求項3に記載のトランスデューサ。
【請求項5】
前記弾性体層の弾性率は、50MPa以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項6】
前記圧電層と、該圧電層を挟んで配置される一対の前記電極層と、からなるユニットの破断伸びは、10%以上である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項7】
前記電極層の、自然状態およびそれから一軸方向に10%伸張した状態に至るまでの伸張状態の体積抵抗率は、100Ω・cm以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項8】
前記外装材は、袋状を呈する請求項1ないし
請求項7のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項9】
前記圧電素子は、シート状の該圧電素子が巻回されてなり、
該圧電素子の積層方向断面は渦巻き状を呈する請求項1ないし
請求項8のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項10】
前記外装材は、前記圧電素子と共に巻回される
請求項9に記載のトランスデューサ。
【請求項11】
前記外装材は、ブチルゴムを有する請求項1ないし
請求項10のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項12】
前記外装材は、タルク、クレー、モンモリロナイト、合成スメクタイトから選ばれる一種以上を有する請求項1ないし
請求項11のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項13】
前記外装材は、吸水性ポリマーを有する請求項1ないし
請求項12のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項14】
発電装置として用いられる請求項1ないし
請求項13のいずれかに記載のトランスデューサ。
【請求項15】
請求項14に記載のトランスデューサと、
該トランスデューサから電気エネルギーを取り出すための電気回路と、
を備える発電システム。
【請求項16】
前記トランスデューサを複数有する
請求項15に記載の発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟な圧電素子を備えるトランスデューサ、およびそれを発電装置として用いた発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、圧力を加えて歪みが生じると電荷を発生する。この圧電材料の特性を生かして、環境振動などの振動エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する発電システムが開発されている。例えば特許文献1には、道路の路面に圧電素子を設置して、その上を人や車両が通過することにより発電する発電システムが記載されている。この種の発電システムにおいては、圧電素子を広範囲に設置する必要があるし、発電量が大きいことが要求される。また、圧電素子においては、繰り返しの変形に対する耐久性が必要になると共に、水分や粉塵などの環境からの影響を極力排除しなければならない。
【0003】
圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミックス、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリ乳酸などの高分子、高分子マトリックス中に圧電粒子が充填された複合体などが知られている。このうち、セラミックスを用いると、面積を大きくすることは容易ではない。高分子を用いると、大面積にすることは容易になるが、発電量が小さいという問題がある。特に、樹脂の場合は、柔軟性に乏しいため、曲面などに設置しにくく耐久性にも問題がある。
【0004】
高分子材料を用いた圧電素子における発電量を大きくする技術として、例えば特許文献2には、エレクトレット誘電体と電極とを部分的に接合することにより両者の間に隙間を形成した発電体を用いると共に、複数の当該発電体を積層し、発電体間に支持部材を介在させた積層発電体が記載されている。特許文献2に記載された積層発電体においては、エレクトレット誘電体と電極との間に形成された隙間の距離変化に応じた静電誘導により発電しており、支持部材で外力を伝わりやすくすることにより、隙間の距離変化を大きくしている。
【0005】
特許文献3には、複数の気孔を有する樹脂フィルム、およびその両側に配置される一対の電極を有する発電素子と、当該発電素子に積層される弾性体と、を備える発電デバイスが記載されている。特許文献3に記載された発電デバイスにおいては、樹脂フィルムに複数の気孔を設け、凹凸を有する弾性体で当該樹脂フィルムを押圧することにより、気孔の変形量を大きくし、圧電性を向上させている。
【0006】
特許文献4には、移動体が移動する際の外部流体の相対的な流れに基づいて発電する移動体用発電装置の構成部材として、圧電フィルムと弾性変形可能な平板状の基盤材とが交互に積層された発電ユニットが記載されている。特許文献4に記載された発電ユニットにおいては、基盤材の変形により圧電フィルムを変形させている。また、特許文献4の
図7には、発電ユニットの表面が樹脂製の被覆材で被覆された形態が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-197704号公報
【文献】特開2014-121201号公報
【文献】特開2014-207391号公報
【文献】国際公開第2015/068427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、圧電素子には、発電量が大きいことに加えて耐久性も必要になる。圧電素子に耐久性を付与し、環境からの影響を排除するための手法として、上記特許文献4の
図7に記載されているように、圧電素子を被覆材で覆う方法が考えられる。しかしながら、被覆材が樹脂製の場合、柔軟性に乏しいため、圧電素子の変形を阻害してしまう。このため、圧電素子を変形しやすくするなどして発電量を増加させることができたとしても、被覆材の存在でその効果が減殺され、発電量の増加効果を発揮させることができなくなる。このように、圧電素子において、発電量の増加と耐久性の向上とを両立させることは困難であった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、柔軟な圧電素子を用いて、発生電荷量が大きく、耐久性に優れたトランスデューサを提供することを課題とする。また、当該トランスデューサを用いて、発電量が大きく、耐久性に優れた発電システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するため、本発明のトランスデューサは、エラストマーおよび圧電粒子を含む圧電層と、該圧電層を挟んで配置される電極層と、少なくとも最外層に配置される弾性体層と、を有する圧電素子と、該圧電素子を収容する外装材と、を備え、押圧により該圧電素子が伸張する方向における該外装材と該圧電素子との間には、気体、不揮発性の液体、および該弾性体層よりも弾性率が小さい固体の少なくとも一つが収容される緩衝部が区画されることを特徴とする。
【0011】
(2)上記課題を解決するため、本発明の発電システムは、本発明のトランスデューサと、該トランスデューサから電気エネルギーを取り出すための電気回路と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明のトランスデューサによると、圧電素子を構成する圧電層のマトリックス(母材)はエラストマーであり、圧電素子の最外層に配置されるのは弾性体層である。圧電素子は柔軟であり、押し出し法やコーティング法による製造が可能であるため、大面積化が容易である。また、外装材にも比較的柔軟な材料を用いれば、曲面などの複雑な形状を有する場所にも配置することができる。圧電素子の少なくとも最外層には、弾性体層が配置される。すなわち、弾性体層は、圧電層および電極層の積層方向外側に配置される。圧電素子に対して、圧電層および電極層の積層方向(厚さ方向)に力を加えると(圧電素子を圧縮すると)、弾性体層が面方向に伸張することにより、圧電層にせん断力が作用する。これにより、圧電層には、厚さ方向の押圧力に加えて面方向の引張力が加わることになり、圧電層の歪みが増大する。その結果、圧電層で発生する電荷量が増加して、圧電素子における感度(S/N比(Signal-Noise Ratio:信号雑音比))や発電量が向上する。
【0013】
本発明のトランスデューサにおいては、外装材と圧電素子との間に緩衝部が区画される。緩衝部には、気体、不揮発性の液体、および弾性体層よりも弾性率が小さい固体の少なくとも一つが収容される。緩衝部は、圧電素子が厚さ方向に押圧された場合に伸張する方向に配置される。
図1に、本発明のトランスデューサの一例の断面模式図を示す。
図1(a)に圧縮前の状態を示し、
図1(b)に圧縮後の状態を示す。
【0014】
図1(a)に示すように、トランスデューサ10は、圧電素子20と外装材30とを備えている。外装材30は、エラストマー製であり袋状を呈している。圧電素子20は、外装材30の内部に収容されている。圧電素子20と外装材30との間には、緩衝部31が配置されている。緩衝部3は、圧電素子20の側面、換言すると外周を囲むように配置されている。緩衝部31には、空気が収容されている。圧電素子20は、圧電層21と、一対の電極層22a、22bと、一対の弾性体層23a、23bと、を有している。圧電層21は、エラストマーおよび圧電粒子を含んでいる。一対の電極層22a、22bは、圧電層21を挟んで厚さ方向の両面に一つずつ配置されている。弾性体層23aは、電極層22aの上面(外側)に配置されている。弾性体層23bは、電極層22bの下面(外側)に配置されている。
【0015】
図1(b)に白抜き矢印で示すように、トランスデューサ10の上方から荷重が加わると、外装材30が下側に凹むように変形すると共に、圧電素子20の弾性体層23aも押圧され面方向に伸張する。これに伴い、圧電層21および電極層22a、22bも面方向に伸張する。圧電素子20が伸張する方向、すなわち外周側には、空気が収容されている緩衝部31があるため、圧電素子20が外周方向に膨出しても、その変形は外装材30により規制されにくい。
【0016】
このように、外装材と圧電素子との間に緩衝部が存在することにより、外装材が柔軟性に乏しい場合でも、圧電素子の伸張変形が外装材により阻害されにくい。したがって、本発明のトランスデューサによると、弾性体層による発生電荷量増加効果と外装材による耐久性向上効果との両立を実現することができる。
【0017】
本発明のトランスデューサは、圧電素子の発電量が大きいため、発電装置として好適である。また、圧電素子の感度が高いため、小さな荷重を検出しやすい。このため、本発明のトランスデューサは、発電装置としてだけでなく、人体の皮膚に直接的に、あるいは服を介して間接的に配置して、脈拍数や呼吸数を測定する生体情報センサとして用いることができる。
【0018】
(2)本発明の発電システムは、上述した本発明のトランスデューサを備える。このため、発電量が大きく、耐久性に優れる。また、トランスデューサを大面積にして、広範囲に設置することができる。したがって、本発明の発電システムは、道路、橋梁、鉄道のレールなどに埋め込んで、そこを通過する移動体からの押圧により発電するシステムに適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のトランスデューサの一例の断面模式図であって、
図1(a)は圧縮前の状態を示し、
図1(b)は圧縮後の状態を示す。
【
図2】第一実施形態の発電システムの概略図である。
【
図3】同発電システムを構成するトランスデューサの厚さ方向断面図である。
【
図5】第二実施形態のトランスデューサの透過上面図である。
【
図6】第三実施形態のトランスデューサの透過上面図である。
【
図7】第四実施形態のトランスデューサの透過上面図である。
【
図8】第五実施形態のトランスデューサの径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のトランスデューサおよび発電システムの実施の形態について説明する。
【0021】
(1)第一実施形態
まず、第一実施形態のトランスデューサおよび発電システムの構成について説明する。
図2に、第一実施形態の発電システムの概略図を示す。
図3に、同発電システムを構成するトランスデューサの厚さ方向断面図を示す。
図4に、同発電システムの回路図を示す。
図2中、トランスデューサは上面図で示されており、説明の便宜上、外装材を透過して示す。
【0022】
<発電システム>
図2に示すように、発電システム1は、トランスデューサ10と、電気回路40と、を備えている。トランスデューサ10は、配線41を介して電気回路40に電気的に接続されている。
図4中、一点鎖線で囲って示すように、電気回路40は、整流回路42と、コンデンサ43と、スイッチ44と、負荷45と、を備えている。整流回路42は、トランスデューサ10から出力される交流電圧を直流電圧に変換する。コンデンサ43は、整流された電力を蓄える。コンデンサ43に蓄えられた電力は、スイッチ44を介して負荷45に供給される。このように、電気回路40により、トランスデューサ10から電気エネルギーが取り出される。
【0023】
<トランスデューサ>
図2に透過上面図を、
図3に厚さ方向断面図を示すように、トランスデューサ10は、圧電素子20と外装材30とを備えている。圧電素子20は、矩形シート状を呈しており(
図2中、実線ハッチングで示す)、五つのユニット24と、六つの弾性体層230と、を有している。ユニット24と弾性体層230とは、厚さ方向(上下方向)に交互に配置されている。
【0024】
五つのユニット24は、各々、圧電層とそれを挟んで配置されている一対の電極層とを有している(電極層/圧電層/電極層、図略)。圧電層は、エラストマーおよび圧電粒子を含んでいる。一対の電極層は、エラストマーおよび導電材を含んでいる。一対の電極層は、圧電層の厚さ方向(上下方向)両面に一つずつ配置されている。すなわち、圧電素子20は、五つの圧電層を有しており、当該圧電層は、電極層を介して積層されている。電極層には、各々、配線41が接続されている。電極層と電気回路40とは、配線41により電気的に接続されている。
【0025】
六つの弾性体層230は、いずれも熱可塑性エラストマー製であり、弾性率は19MPaである。六つの弾性体層230は、最上部のユニット24の上面および最下部のユニット24の下面(つまり圧電素子20の最外層)と、隣接するユニット24同士の間と、に配置されている。
【0026】
外装材30は、上側シートおよび下側シートからなり、両シートの周縁部が張り合わされている(
図2中、点線ハッチングで示す)ことにより袋状を呈している。上側シートおよび下側シートは、いずれも耐久性および耐湿性に優れるエラストマー製である。圧電素子20は、外装材30の内部に収容されている。外装材30の周縁部の一部には、トランスデューサ10に接続されている配線41を取り出すための挿通孔が形成されている。
【0027】
圧電素子20と外装材30との間には、緩衝部31が配置されている。緩衝部31は、圧電素子20の厚さ方向側面、換言すると圧電素子20の外周を囲むように配置されている。緩衝部31には、空気が収容されている。すなわち、圧電素子20の外周と外装材30との間には、隙間が存在している。圧電素子20の上下面は、外装材30に接触しているが接着されていない。
【0028】
<作用効果>
次に、第一実施形態のトランスデューサおよび発電システムの作用効果について説明する。トランスデューサ10の上方から荷重が加わると、圧電素子20の弾性体層230が押圧され面方向に伸張する。すると、弾性体層230に引っ張られるようにして、ユニット24も面方向に伸張する。この時、ユニット24を構成する圧電層には、押圧力に加えて面方向の引張力が加わるため、圧電層の歪みが大きくなる。ここで、弾性体層230およびユニット24(圧電素子20)の外周側には、空気が収容されている緩衝部31(隙間)が存在している。また、圧電素子20の上下面は、外装材30と接着されていない。よって、圧電素子20が外周方向に膨出しても、その変形は外装材30により規制されにくい。したがって、圧電素子20により、多くの電荷を発生させることができる。また、圧電素子20は、五つのユニット24を有している。このため、ユニット24を単独で用いる場合(前出
図1参照)と比較して、電荷発生量がより大きくなる。また、外装材30は、耐久性および耐湿性に優れるエラストマー製である。よって、トランスデューサ10においては、弾性体層230による発生電荷量増加効果と、外装材30による耐久性向上効果と、が両立されている。また、トランスデューサ10は、主にエラストマー材料から構成されているため、大面積化しやすく、曲面などの複雑な形状を有する場所にも配置しやすい。
【0029】
(2)第二実施形態
本実施形態のトランスデューサおよび発電システムと第一実施形態のそれとは、トランスデューサを構成する圧電素子の形状および配置形態のみが相違する。したがって、ここでは相違点を中心に説明する。
図5に、本実施形態のトランスデューサの透過上面図を示す。
図5は、前出
図2に示したトランスデューサに対応している。
図5中、
図2と対応する部材については同じ符号で示す。
【0030】
図5に示すように、トランスデューサ10は、五つの圧電素子20と外装材30とを備えている。五つの圧電素子20は、各々、帯状を呈している(
図5中、実線ハッチングで示す)。五つの圧電素子20は、各々、短手方向に所定の間隔で離間して、互いに平行に配置されている。各々の圧電素子20の外周は、緩衝部31を隔てて外装材30で囲まれている。すなわち、外装材30は、周縁部だけでなく、隣接する圧電素子20同士の間も貼着されている(
図5中、点線ハッチングで示す)。緩衝部31は、圧電素子20と外装材30との間、すなわち圧電素子20の外周を囲むように配置されている。緩衝部31には、空気が収容されている。個々の圧電素子20の構成は、第一実施形態の圧電素子20の構成と同じである(前出
図3参照)。
【0031】
本実施形態においては、外装材30の中に、複数の圧電素子20を配置する。これにより、形状の自由度が向上し、例えば、発電させたい場所だけを発電させたり、用途に応じて圧電素子を間引いて、柔軟性を向上させたりすることができる。また、本実施形態のトランスデューサ10をセンサとして用いた場合には、荷重が加わった場所の特定が容易になる。
【0032】
(3)第三実施形態
本実施形態のトランスデューサおよび発電システムと第二実施形態のそれとは、トランスデューサを構成する圧電素子の一部の長さのみが相違する。したがって、ここでは相違点を中心に説明する。
図6に、本実施形態のトランスデューサの透過上面図を示す。
図6は、前出
図5に対応している。
図6中、
図5と対応する部材については同じ符号で示す。
【0033】
図6に示すように、トランスデューサ10は、五つの圧電素子20と外装材30とを備えている。五つの圧電素子20は、各々、帯状を呈しており、長さのみが異なる(
図5中、実線ハッチングで示す)。すなわち、上方から見て左側三つの圧電素子20は、右側二つの圧電素子20よりも短い。五つの圧電素子20は、各々、短手方向に所定の間隔で離間して、互いに平行に配置されている。各々の圧電素子20の外周は、緩衝部31を隔てて外装材30で囲まれている。
【0034】
(4)第四実施形態
本実施形態のトランスデューサおよび発電システムと第二実施形態のそれとは、トランスデューサを構成する圧電素子の数および配置形態のみが相違する。したがって、ここでは相違点を中心に説明する。
図7に、本実施形態のトランスデューサの透過上面図を示す。
図7は、前出
図5に対応している。
図7中、
図5と対応する部材については同じ符号で示す。
【0035】
図7に示すように、トランスデューサ10は、十個の圧電素子200~209と外装材30とを備えている。十個の圧電素子200~209は、各々、帯状を呈している(
図7中、実線ハッチングで示す)。十個の圧電素子200~209は、五つずつ上下二層に配置されている。上側の五つの圧電素子200~204は、前後方向に延在しており、左右方向に所定の間隔で離間して互いに平行に配置されている。下側の五つの圧電素子205~209は、左右方向に延在しており、前後方向に所定の間隔で離間して互いに平行に配置されている。上方から見て、上側の五つの圧電素子200~204と下側の五つの圧電素子205~209とは、格子状に並んでいる。圧電素子200~209における電極層と電気回路40とは、配線410、411により電気的に接続されている。
【0036】
外装材30は、周縁部だけでなく、圧電素子200~209が配置されていない区間も部分的に貼着されている(
図7中、点線ハッチングで示す)。緩衝部31は、圧電素子200~209と外装材30との間に配置されている。緩衝部31には、空気が収容されている。個々の圧電素子200~209の構成は、第一実施形態の圧電素子20の構成と同じである(前出
図3参照)。
【0037】
本実施形態においては、外装材30の中に、複数の圧電素子20を二段に配置する。これにより、発電量がより大きくなる。また、発電させたい場所だけを発電させたり、用途に応じて圧電素子を間引いて、柔軟性を向上させたりすることができる。また、本実施形態のトランスデューサ10をセンサとして用いた場合には、荷重が加わった場所の特定が容易になることに加えて、検出領域を大きくすることができる。
【0038】
(5)第五実施形態
本実施形態のトランスデューサおよび発電システムと第一実施形態のそれとは、トランスデューサの使用形態のみが相違する。したがって、ここでは相違点を中心に説明する。
図8に、本実施形態のトランスデューサの径方向断面図を示す。
図8中、前出
図2と対応する部材については同じ符号で示す。
【0039】
図8に示すように、トランスデューサ10は、第一実施形態のシート状のトランスデューサ10を、一端を内側にして他端に向かって巻き付けたものである。トランスデューサ10の径方向断面を見ると、圧電素子20が径方向に六層積層された渦巻き状を呈している。本実施形態によると、トランスデューサ10を第一実施形態のようにシート状に製造しておき、それを巻回するだけで、圧電素子20が多数積層した形態を実現することができる。したがって、トランスデューサ10の径方向から荷重を加えると、より大きな発電量を得ることができる。また、本実施形態によると、シート状のトランスデューサを配置することが難しい場所にも適用が可能になる。
【0040】
(6)その他の実施形態
本発明のトランスデューサおよび発電システムは、上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、一つのトランスデューサと電気回路とから発電システムを構成したが、積層するなどした複数のトランスデューサを電気回路に接続して発電システムを構成してもよい。上記実施形態においては、トランスデューサを発電装置として用いたが、本発明のトランスデューサは、センサとして用いても構わない。センサとして用いると、S/N比が高いため、小さな荷重を検出しやすい。以下に、本発明のトランスデューサの構成要素を詳しく説明する。
【0042】
<圧電素子>
圧電素子は、エラストマーおよび圧電粒子を含む圧電層と、該圧電層を挟んで配置される電極層と、少なくとも最外層に配置される弾性体層と、を有する。圧電層の数は、一層でも二層以上でも構わない。発電量を大きくするという観点から、複数、例えば数十~数百層程度の圧電層を、電極層を介して積層することが望ましい。弾性体層は、少なくとも最外層に配置すればよい。しかしながら、上記実施形態に示したように、複数の圧電層が電極層を介して積層される場合には、当該積層体の中間の隣接する電極層間に配置してもよい。すなわち、圧電層とそれを挟む電極層とからなるユニット間に弾性体層を配置してもよい。この場合、発電量をより大きくすることができる。上記第五実施形態においては、一つの圧電素子を外装材ごと巻回して使用する形態を示したが、圧電素子のみを巻回し、それを筒状の外装材に収容してもよい。
【0043】
[圧電層]
圧電層を構成するエラストマーとしては、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いればよい。弾性率が比較的小さく柔軟なエラストマーとして、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、ブチルゴム、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレンなどが挙げられる。また、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。変性エラストマーとしては、例えば、カルボキシル基変性ニトリルゴム(X-NBR)、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH-NBR)などが挙げられる。
【0044】
圧電層に荷重が加わった時に発生する発生電荷量(C)は、圧電層の圧電歪み定数(C/N)および加わった荷重(N)により、次式(a)で示される。
発生電荷量=圧電歪み定数×荷重 ・・・(a)
圧電粒子は、圧電性を有する化合物の粒子である。圧電性を有する化合物としては、ペロブスカイト型の結晶構造を有する強誘電体が知られており、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、ニオブ酸カリウムナトリウムリチウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、チタン酸ビスマスランタン(BLT)、タンタル酸ビスマスストロンチウム(SBT)などが挙げられる。圧電粒子としては、これらのうちの一種類あるいは二種類以上を用いればよい。
【0045】
圧電粒子の粒子径は、特に限定されない。例えば、平均粒子径が異なる複数種の圧電粒子粉末を用いると、エラストマー中に大粒径の圧電粒子と小粒径の圧電粒子とを混在させることができる。この場合、大粒径の圧電粒子の間に小粒径の圧電粒子が入り込み、圧電粒子に圧力が伝わりやすくなる。これにより、圧電層の圧電歪み定数が大きくなり、発生電荷量を大きくすることができる。
【0046】
圧電粒子の配合量は、圧電層、ひいては圧電素子の柔軟性と、圧電層の圧電性能と、を考量して決定すればよい。圧電粒子の配合量が多くなると、圧電層の圧電性能は向上するが柔軟性は低下する。したがって、使用するエラストマーと圧電粒子との組み合わせにおいて、所望の柔軟性を実現できるよう、圧電粒子の配合量を調整することが望ましい。
【0047】
圧電層は、エラストマーおよび圧電粒子に加えて、圧電粒子よりも比誘電率が小さい補強粒子を含んでいてもよい。補強粒子の比誘電率は、圧電粒子の比誘電率よりも小さいことを条件として、例えば100以下、さらには30以下であることが望ましい。
【0048】
比誘電率が大きい圧電粒子が連結した構造は、外力が圧電粒子に伝わりやすいため、前述した式(a)の圧電歪み定数の向上が期待できる。しかしながら、比誘電率が大きい圧電粒子が連結することで、圧電層全体としての誘電率が上昇してしまう。これに対して、圧電層に圧電粒子と補強粒子との両方が含まれる場合、比誘電率が大きい圧電粒子同士の繋がりが、それよりも比誘電率が小さい補強粒子の介在により分断される。これにより、圧電層全体としての誘電率の上昇を抑制することができる。一方、補強粒子と圧電粒子とにより粒子の連結構造は維持されているため、圧電歪み定数を維持することができる。すなわち、圧電層に補強粒子が含まれる場合には、圧電歪み定数を維持したまま、圧電粒子のみが含まれる場合よりも圧電層全体の誘電率を小さくすることができる。よって、前述した式(a)により、大きな発生電荷量を得ることができる。
【0049】
補強粒子としては、電気抵抗が大きい粒子が望ましい。補強粒子の電気抵抗が大きいと、圧電層の絶縁破壊強度が大きくなる。これにより、後述する圧電層の分極処理において、高い電界を印加して処理時間を短くすることができる。加えて、分極処理中に破壊する圧電素子の数を減らすことができるため、生産性が向上する。
【0050】
また、補強粒子は、エラストマーに化学結合していることが望ましい。この場合、エラストマー中に補強粒子のネットワークが形成されるため、架橋剤、添加剤、空気中の水分などがイオン化した不純物イオンが動きにくくなり、圧電層の電気抵抗が増加する。補強粒子とエラストマーとの化学結合は、例えば、補強粒子を表面処理するなどして実現することができる。表面処理の方法としては、エラストマーポリマーと反応可能な官能基を有する表面処理剤を補強粒子に予め反応させておき、当該補強粒子をエラストマーポリマーと混合する方法や、補強粒子の表面を酸、アルカリまたは亜臨界水で溶解して水酸基を生成させた後、水酸基と反応可能な官能基を有するエラストマーポリマーと混合する方法などが挙げられる。補強粒子がエラストマーに化学結合していると、伸縮を繰り返しても補強粒子が位置ずれしにくい。また、エラストマーから補強粒子が剥離しにくいため、物性や出力の初期値からの変動が少なくなる。このため、出力が安定すると共に、圧電層の耐へたり性が向上する。また、圧電層の破断伸びが大きくなるため、伸張時に局所破壊などによる圧電性能の低下を抑制することができる。その結果、伸張した状態においても高い圧電性能を維持することができる。
【0051】
補強粒子の種類は特に限定されない。例えば、二酸化チタン、シリカ、チタン酸バリウムなどの酸化物、ゴム、樹脂などの粒子を用いることができる。但し、ゴム粒子などの比較的柔らかい粒子を含む場合には、加わった荷重が樹脂粒子にて減衰し、圧電粒子に伝わりにくくなるおそれがある。圧電粒子に力を伝達しやすくして、前述した式(a)における圧電層の圧電歪み定数を大きくし、発生電荷量を大きくするという観点から、補強粒子としては、マトリックスのエラストマーよりも弾性率が大きい粒子を採用する方がよい。例えば、比誘電率が小さく、耐絶縁破壊性の向上効果が大きいなどの理由から、二酸化チタンなどの金属酸化物粒子が好適である。金属酸化物粒子の製造方法としては、結晶性が低く比誘電率が小さい粒子が得られるという理由から、ゾルゲル法が好適である。
【0052】
圧電層は、エラストマーポリマーに圧電粒子の粉末や架橋剤などを加えた組成物を、所定の条件下で硬化させて製造される。その後、圧電層には分極処理が施される。すなわち、圧電層に電圧を印加して、圧電粒子の分極方向を所定の方向に揃える。
【0053】
[電極層]
電極層は、圧電粒子の分極方向に対向するように配置すればよい。電極層は、圧電層の表面全体に形成してもよく、一部のみに形成してもよい。電極層は、圧電層に追従して変形可能であることが望ましい。柔軟性を有する電極層としては、例えば、バインダーに導電材を配合した導電材料、導電性繊維などから形成することができる。バインダーとしては、エラストマー、すなわち架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いることが望ましい。弾性率が比較的小さく柔軟であり、圧電層に対する粘着性が良好なエラストマーとして、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、H-NBRなどが挙げられる。また、エポキシ基変性アクリルゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴムなどのように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。
【0054】
導電材の種類は、特に限定されない。例えば、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金などからなる金属粒子、酸化亜鉛、酸化チタンなどからなる金属酸化物粒子、チタンカーボネートなどからなる金属炭化物粒子、銀、金、銅、白金、およびニッケルなどからなる金属ナノワイヤ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、薄層黒鉛、グラフェンなどの導電性炭素材料の中から、適宜選択すればよい。また、銀被覆銅粒子など、金属で被覆された粒子を用いてもよい。導電材としては、これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0055】
導電材の配合量は、電極層が所望の体積抵抗率を実現できるよう、適宜決定すればよい。導電材の配合量が多くなると、電極層の体積抵抗率を小さくすることができるが柔軟性は低下する。電極層は、その他の成分として、架橋剤、架橋促進剤、分散剤、補強材、可塑剤、老化防止剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0056】
例えば、バインダーとしてエラストマーを用いる場合、当該エラストマー分のポリマーを溶剤に溶解したポリマー溶液に、導電材、必要に応じて添加剤を添加して、攪拌、混合することにより、導電塗料を調製することができる。調製した導電塗料を、圧電層の一面に直接塗布することにより、電極層を形成すればよい。あるいは、離型性フィルムに導電塗料を塗布して電極層を形成し、形成した電極層を、圧電層の一面に転写してもよい。
【0057】
電極層の体積抵抗率は、自然状態およびそれから一軸方向に10%伸張した状態に至るまでの伸張状態のいずれにおいても100Ω・cm以下であることが望ましい。10Ω・cm以下であるとより好適である。電極層の電気抵抗が大きい、あるいは伸張により電気抵抗が大きくなると、圧電層で発生した起電圧が電極層で降下してしまい、出力される電圧が小さくなるからである。自然状態とは、荷重が加わっておらず変形していない状態(無荷重状態)を意味する。一軸方向に10%伸張した状態とは、一軸方向における長さが自然状態の1.1倍である状態を意味する。本発明においては、電極の体積抵抗率を自然状態と一軸方向に10%伸張した状態との両方において測定し、いずれの体積抵抗率も100Ω・cm以下であれば、「自然状態およびそれから一軸方向に10%伸張した状態に至るまでの伸張状態の体積抵抗率が100Ω・cm以下」という条件を満たすと判断する。なお、本発明における圧電素子は、一軸方向だけでなく二軸方向、拡径方向などに伸張可能であることは言うまでもない。
【0058】
圧電素子を柔軟にするという観点から、圧電層と、これを挟んで配置される一対の電極層と、からなるユニット(電極層/圧電層/電極層)の破断伸びは、10%以上であることが望ましい。30%以上であるとより好適である。本明細書において、破断伸びは、単層、ユニットなどの形態を問わず、JIS K6251:2010に規定される引張試験により測定される切断時伸びの値である。引張試験は、ダンベル状5号形の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行うものとする。
【0059】
[弾性体層]
弾性体層は、例えば最外層の電極層を被覆するように配置すればよい。弾性体層を配置すると、弾性体層が面方向に伸張することにより、圧電層にせん断力を作用させることができる。これにより、圧電層には、積層方向の押圧力に加えて面方向の引張力が加わることになり、圧電層の面方向の歪みが増大する。圧電層の面方向の歪みが増加すると、発生する電荷量が大きくなる。その結果、圧電素子の感度が向上し、発電量が大きくなる。
【0060】
弾性体層による発生電荷量増加効果は、弾性体層の伸張方向における弾性率が小さい程顕著である。例えば、弾性体層の弾性率は、50MPa以下であることが望ましい。また、伸張時に弾性体層が破断して圧電素子が破壊することを防ぐため、弾性体層の破断伸びは圧電層の破断伸びよりも大きいことが望ましい。本明細書において、弾性率は、JIS K7127:1999に規定される引張試験により得られる応力-伸び曲線から算出した値である。引張試験は、試験片タイプ2の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行うものとする。
【0061】
弾性体層は、エラストマー製であることが望ましい。すなわち、弾性体層には、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いればよい。弾性率が比較的小さく柔軟であり、電極層に対する粘着性が良好なエラストマーとして、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、NBR、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリエステルなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性ポリウレタンは、熱を加えて一時的に溶融することで電極層、圧電層と強固な接着が可能になる。弾性体層を強固に接着することにより、繰り返し歪みを加えて伸張した場合などに感度低下を小さくすることができる。
【0062】
エラストマーのポアソン比は略0.5である。このため、エラストマー製の弾性体層においては、厚さ方向に加えられた力がそのまま面方向の力として作用する。このため、弾性体層の厚さが大きいほど、圧電層の歪み増大効果が大きく、発生電荷量増加効果が大きくなる。一方、弾性体層の厚さが大きくなると、圧電素子が厚くなるため、単位体積あたりの発電量が小さくなるおそれがある。このため、弾性体層一層あたりの厚さは、例えば、5μm以上1000μm以下にするとよい。
【0063】
<外装材>
圧電素子を収容する外装材に要求される特性は、繰り返し加わる荷重に対する耐久性、耐水性、耐湿性、難燃性などがあり、トランスデューサの用途により異なる。よって、外装材の材質は、トランスデューサの用途に応じて適宜決定すればよい。
【0064】
例えば、道路に埋め込んだり道路上にて使用する形態においては、耐久性に加えて、耐水性、耐湿性、耐オゾン性などが要求される。この場合、外装材の材料としては、ブチルゴム、シリコーンゴム、NBR、H-NBR、アクリルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、EPDMなどが好適である。ブチルゴムには、レギュラーブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどがある。これらの一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いればよい。また、水分の透過を抑制するために、タルク、クレー、モンモリロナイト、合成スメクタイトなどの低透湿材などを配合してもよい。低透湿材などのフィラーの添加は、トランスデューサを配置する場所によって適宜調整すればよい。例えば、道路に埋め込む場合には、道路上に配置する場合と比較して、耐水性、耐湿性、耐オゾン性はそれほど高くなくてもよい。一方、コンクリートなどの硬い物の下に配置すると、圧電素子に力が加わりにくいため、感度を高める必要がある。この場合、耐久性を向上させるフィラーの量を減らして柔軟性を高めるなどの施策が必要となる。道路上に配置する場合には、荷重源に近いため感度を優先するよりも、水やオゾンなどの条件が厳しくなるため、これらに対する耐久性を高めるような配合にするとよい。
【0065】
外装材の材質によっては、圧電素子の表面(伸張方向に延在する面)の一部または全部が外装材と接着されていてもよい。しかし、圧電素子の変形をできるだけ阻害しないようにするには、圧電素子の表面と外装材とは接着されていないことが望ましい。外装材は、内部を密閉するものでもよく、内部と外部との間で緩衝部の収容物が移動可能な連通孔を有するものでもよい。また、外装材の外部に、緩衝部の収容物を一時的に収容可能な袋部を設けてもよい。
【0066】
<緩衝部>
押圧により圧電素子が伸張する方向における外装材と圧電素子との間には、気体、不揮発性の液体、および弾性体層よりも弾性率が小さい固体の少なくとも一つが収容される緩衝部が区画される。気体としては、空気の他、窒素、アルゴンなどの不活性ガスが挙げられる。不揮発性の液体としては、プロセスオイル、イオン性液体などが挙げられる。固体としては、弾性体層よりも弾性率が小さいエラストマー、発泡体などが挙げられる。
【実施例】
【0067】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。圧電層、電極層、弾性体層、外装材を製造し、これらを適宜組み合わせてトランスデューサを製造してその感度、発生電荷量、および耐久性を評価した。
【0068】
<圧電層の製造>
[圧電層1]
まず、エラストマーとしてのカルボキシル基変性水素化ニトリルゴムポリマー(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)100質量部をアセチルアセトンに溶解して、ポリマー溶液を調製した。次に、調製したポリマー溶液に、圧電粒子としてのニオブ酸カリウムナトリウム((K0.5Na0.5Nb1.0)O3)の粉末(d50%粒子径(メジアン径):3μm)385質量部を加えて混練した。続いて、混練物を三本ロールに五回繰り返し通して、スラリーを得た。そして、得られたスラリーに、架橋剤のテトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン5質量部を加えてエア攪拌機で混練した後、スラリーをバーコート法により基材上に塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ0.06mm(60μm)の圧電層1を製造した。圧電層1における圧電粒子の含有量は、エラストマーを100体積%とした場合の42体積%である。圧電層1の破断伸びは320%であった。
【0069】
使用したニオブ酸カリウムナトリウムの粉末は、以下の工程により製造した。
(1)第一混合工程
原料として、K2CO3、Na2CO3、Nb2O5の粉末を用いた。これらの粉末を、目的とする焼結体(K0.5Na0.5Nb1.0)O3の組成に基づいて秤量した後、無水アセトン中で16時間湿式混合した。得られた混合粉末を、エバポレーションし、さらにオーブンで乾燥して、アセトンを揮発させた。
(2)仮焼成工程
アセトンを揮発させた後の混合粉末を、アルミナるつぼの中に入れ、そのるつぼを一回り大きなるつぼの中に入れた。内側のるつぼは、混合粉末を覆うように伏せた状態で配置した。この二重るつぼを電気炉の中に入れ、910℃で10時間仮焼成を行った。
(3)第二混合工程
得られた仮焼成物を、乳鉢で粉砕して粉末にした後、この粉末を無水アセトン中で16時間湿式混合した。得られた混合粉末を、エバポレーションし、さらにオーブンで乾燥して、アセトンを揮発させた。
(4)本焼成工程
アセトンを揮発させた後の混合粉末を、(2)と同様に二重るつぼの中に入れ、150℃で1時間、550℃で3時間、1098℃で2時間焼成を行った。
(5)粉砕工程
得られた焼成物を、ボールミルで単粒子に粉砕した。
(6)分級工程
得られた粉末を、メチルエチルケトンに混合し、遠心分離機(日立工機(株)製「CR22G」)にて分級を行い、デカンテーションで分離した後、乾燥させて、ニオブ酸ナトリウムカリウムの単粒子の粉末を得た。
【0070】
[圧電層2]
エラストマーに対する圧電粒子の配合量を840質量部に変更した点以外は、圧電層1と同様にして圧電層2を製造した。圧電層2における圧電粒子の含有量は、エラストマーを100体積%とした場合の67.7体積%である。圧電層2の破断伸びは5%であった。
【0071】
<電極層の製造>
[電極層1]
まず、エチルアクリレート(EA)、アクリロニトリル(AN)、およびアリルグリシジルエーテル(AGE)という三種類のモノマーを懸濁重合して、エラストマーとしてのグリシジルエーテル基変性アクリルゴムポリマーを製造した。モノマーの配合割合は、EAを96質量%、ANを2質量%、AGEを2質量%とした。次に、グリシジルエーテル基変性アクリルゴムポリマー68質量部を、ブチルセロソロブアセテートに溶解し、このポリマー溶液に、導電材35質量部、分散剤25質量部、架橋剤6質量部、および架橋促進剤1質量部を添加して液状組成物を調製した(導電材などの原料の詳細は後述する)。続いて、液状組成物を、湿式ジェットミル(吉田機械興業(株)製「ナノヴェイタ(登録商標)」)により粉砕処理した。粉砕処理は、パス運転により、合計6回行った(6パス処理)。1パス目は、ストレート型ノズル(ノズル径170μm)、処理圧力90MPaで行い、2パス目以降は、クロス型ノズル(ノズル径170μm)、処理圧力130MPaで行った。粉砕処理後の液状組成物を離型処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で2時間加熱して、厚さ0.015mm(15μm)の電極層1を製造した。電極層1の破断伸びは320%、自然状態の体積抵抗率は0.05Ω・cm、10%伸張状態の体積抵抗率は0.1Ω・cmであった。電極層1の自然状態および10%伸張状態の体積抵抗率は、抵抗率計((株)三菱ケミカルアナリテック製「ロレスタ(登録商標)GP」)により測定した(以下、電極層2についても同じ)。
【0072】
液状組成物を調製するのに使用した原料の詳細は以下のとおりである。
導電材:薄層黒鉛、(株)アイテック製「iGurafen-α」。
分散剤:高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、楠本化成(株)「ディスパロン(登録商標)DA7301」。
架橋剤:アミノ基末端ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、CVC Thermoset Specialties Ltd.「ATBN1300×16」。
架橋促進剤:亜鉛錯体、KING INDUSTRIES,INC「XK-614」。
【0073】
[電極層2]
導電性銀ペースト(東洋紡(株)製「DW250-H-5」)を、離型処理されたPET製のフィルム上にバーコート法により塗布した。これを150℃で1時間加熱して、厚さ0.015mm(15μm)の電極層2を製造した。電極層2の破断伸びは4%、自然状態の体積抵抗率は0.0002Ω・cmであり、10%伸張状態の体積抵抗率は破断により測定できなかった。
【0074】
<弾性体層>
[弾性体層1]
熱可塑性のポリエーテル系ポリウレタンシート(日本マタイ(株)製「エスマー(登録商標)URS」、厚さ0.25mm)を弾性体層1とした。弾性体層1の破断伸びは600%、弾性率は23MPaであった。
【0075】
[弾性体層2]
熱可塑性ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン(株)製「ハイトレル(登録商標)3046」)を厚さ0.18mm(180μm)のシート状に成形して、弾性体層2とした。弾性体層2の破断伸びは550%、弾性率は19MPaであった。
【0076】
[弾性体層3]
熱可塑性ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン(株)製「ハイトレル4047」)を厚さ0.18mm(180μm)のシート状に成形して、弾性体層3とした。弾性体層3の破断伸びは500%、弾性率は46MPaであった。
【0077】
[弾性体層4]
ポリエステルフィルム(三菱ケミカル(株)製「ダイアホイル(登録商標)」、厚さ0.1mm(100μm))を弾性体層4とした。弾性体層4の破断伸びは90%、弾性率は1500MPaであった。
【0078】
<外装材>
まず、塩素化ブチルゴム(JSR(株)製「HT1066」)90質量部と、レギュラーブチルゴム(JSR(株)製「JSR ブチル365」)10質量部と、吸水性ポリマーのポリアクリル酸塩粉末((株)日本触媒製「アクアリック(登録商標)CS-S6」、平均粒子径15μm)150質量部と、架橋助剤の酸化亜鉛5質量部と、架橋剤(田岡化学工業(株)製「タッキロール(登録商標)201」)10質量部と、タルク(日本タルク(株)製「ミクロエース(登録商標)K-1」)200質量部と、をロールにより練り合わせ、マスターバッチを作製した。次に、マスターバッチをトルエンに溶解して、塗料を調製した。そして、調製した塗料を基材に塗布し、塗膜を乾燥させた後、150℃で20分間加熱して硬化させた。得られたシートを外装材として用いた。得られたシートの弾性率は60MPa、破断伸びは60%であった。
【0079】
<トランスデューサの製造>
製造した圧電層、電極層、弾性体層を適宜組み合わせて積層体を製造し、それを外装材に収容してトランスデューサを製造した。積層体は、次のようにして製造した。まず、圧電層の厚さ方向の二面(上面および下面)に各々電極層を配置して、ラミネーター(フジプラ(株)製「LPD3223」)を用いて圧電層と電極層とを圧着した。次に、弾性体層を上側の電極層、または上下両方の電極層に積層し、弾性体層の表面にアイロンをあて、弾性体層を軟化させることにより、電極層に弾性体層を融着させた。前者の場合、積層体の構成は、「弾性体層/ユニット(電極層/圧電層/電極層)」になり(以下「第一の積層体」と称す)、後者の場合、積層体の構成は、「弾性体層/ユニット(電極層/圧電層/電極層)/弾性体層」になる(以下「第二の積層体」と称す)。いずれの積層体も、縦30mm、横30mmの正方形薄板状を呈している。積層体の電極層に直流電源を接続し、圧電層に20V/μmの電界を5分間印加して、分極処理を行った。その後、120℃で30分間保持してエージング処理を行った。
【0080】
[実施例1]
圧電層1、電極層1、弾性体層1を用いた第一の積層体と第二の積層体とを組み合わせてトランスデューサを製造した。まず、第一の積層体を四つ重ね、さらに第二の積層体を一つ重ねて、合計五つの積層体からなる圧電素子を製造した。製造した圧電素子の構成(各層の積層構造)は、上記第一実施形態のトランスデューサと同じである(前出
図3参照)。
【0081】
圧電素子の厚さ方向の二面(上面および下面)に、縦40mm、横40mmの正方形状の外装材シートを一枚ずつ、各々の面の中心が一致するように配置した。そして、外装材シートの外周より1mmから2mmまでの周縁部を、テクノインパルスクリップシーラーZ1で溶着した。このようにして、圧電素子の拡径方向において、圧電素子と外装材シートとの間に幅4mmの枠状の緩衝部を区画した。緩衝部には空気が収容されている。製造したトランスデューサを、実施例1のトランスデューサと称す。
【0082】
[実施例2]
圧電層1、電極層1、弾性体層1を用いた第二の積層体(弾性体層1/電極層1/圧電層1/電極層1/弾性体層1)のみから圧電素子を構成した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、実施例2のトランスデューサと称す。
【0083】
[実施例3]
緩衝部に空気ではなく、弾性体を収容した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。弾性体としては、シリコーンゴムシート(信越化学工業(株)製「KE1950-10」、弾性率0.4MPa)を用いた。緩衝部への弾性体の収容方法は、以下のとおりである。まず、縦35mm、横35mmの正方形状のシリコーンゴムシートを準備し、その中央部分を縦30mm、横30mmの正方形状にくり抜いた。次に、シリコーンゴムシートのくり抜き部に圧電素子を配置して、圧電素子の外周をシリコーンゴムで囲んだ状態にした。この状態で、圧電素子の厚さ方向の二面に、縦40mm、横40mmの正方形状の外装材シートを一枚ずつ、各々の面の中心が一致するように配置した。そして、外装材シートの外周より4mmから5mmまでの周縁部を、テクノインパルスクリップシーラーZ1で溶着した。このようにして、圧電素子の拡径方向において、圧電素子と外装材シートとの間にシリコーンゴムが収容された幅5mmの枠状の緩衝部を区画した。製造したトランスデューサを、実施例3のトランスデューサと称す。
【0084】
[実施例4]
圧電素子の弾性体層を、弾性体層2に変更した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、実施例4のトランスデューサと称す。
【0085】
[実施例5]
圧電素子の弾性体層を、弾性体層3に変更した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、実施例5のトランスデューサと称す。
【0086】
[実施例6]
圧電素子の厚さ方向の二面(上面および下面)全体を外装材に接着した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。まず、縦40mm、横40mmの正方形状の外装材シートに、縦30mm、横30mmの正方形状の接着シート(日本マタイ(株)製「エルファン(登録商標)UH370」)を、各々の面の中心が一致するように貼り合わせた。次に、この積層シートを圧電素子の厚さ方向の二面に一枚ずつ、各々の面の中心が一致するように配置した。そして、接着シートの部分に対応する積層シートの表面をアイロンで加熱することにより、接着シートを介して圧電素子と外装材とを接着した。それから、外装材シートの外周より1mmから2mmまでの周縁部を、テクノインパルスクリップシーラーZ1で溶着した。このようにして、圧電素子の拡径方向において、圧電素子と外装材シートとの間に幅4mmの枠状の緩衝部を区画した。緩衝部には空気が収容されている。製造したトランスデューサを、実施例6のトランスデューサと称す。
【0087】
[実施例7]
接着シートの大きさを縦5mm、横5mmに変更した点以外は、実施例6と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、実施例7のトランスデューサと称す。実施例7のトランスデューサにおいては、圧電素子の厚さ方向の二面(上面および下面)の一部(5mm四方)が外装材に接着されている。
【0088】
[比較例1]
接着シートの大きさを、外装材の大きさと同じ縦40mm、横40mmに変更した点以外は、実施例6と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、比較例1のトランスデューサと称す。比較例1のトランスデューサにおいては、圧電素子の厚さ方向の二面(上面および下面)の全体が外装材に接着されている。また、圧電素子と積層されていない外装材の周縁部も接着シートを介して接着されているため、圧電素子の拡径方向において、圧電素子と外装材シートとの間には緩衝部は区画されていない。
【0089】
[比較例2]
弾性体の種類を、ポリエステルフィルム(三菱ケミカル(株)製「ダイアホイル(登録商標)」、弾性率1500MPa)に変更した点以外は、実施例3と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、比較例2のトランスデューサと称す。
【0090】
[比較例3]
外装材を用いない点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、比較例3のトランスデューサと称す。比較例3のトランスデューサは、合計五つの積層体からなる圧電素子のみからなる。
【0091】
[参考例1]
圧電素子の圧電層および電極層を、圧電層2および電極層2に変更した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、参考例1のトランスデューサと称す。
【0092】
[参考例2]
圧電素子の弾性体層を、弾性体層4に変更した点以外は、実施例1と同様にしてトランスデューサを製造した。製造したトランスデューサを、参考例2のトランスデューサと称す。
【0093】
<トランスデューサの評価>
表1に、製造したトランスデューサの構成および評価結果を示す。表1中、ユニットの破断伸び、電極層の体積抵抗率、発生電荷量、感度、耐久性の評価方法は、以下のとおりである。
【0094】
[ユニットの破断伸び]
圧電層およびそれを挟んで配置される一対の電極層からなるユニットの破断伸びを、上述した方法で測定し、破断伸びが10%以上なら良好(表1中、○印で示す)、10%未満なら不良(表1中、×印で示す)と評価した。
【0095】
[電極層の体積抵抗率]
電極層の自然状態の体積抵抗率と、10%伸張状態の体積抵抗率と、の両方が100Ω・cm以下の場合を良好(表1中、○印で示す)、いずれか一方が100Ω・cmを超える、あるいは測定不可の場合を不良(表1中、×印で示す)と評価した。
【0096】
[発生電荷量]
トランスデューサを疲労耐久試験機((株)島津製作所製「MMT-101N」)に設置して、直径10mmの円柱状の治具で圧縮荷重6Nのsin波(周波数1Hz)を加えた。その時の発生電荷量を、チャージアンプ(ブリュエル・ケアー社製「NEXUS Charge Amplifier type2692」)とオシロスコープ(横河電機(株)「DLM2022」)とを用いて測定した。
【0097】
[感度]
トランスデューサを疲労耐久試験機(同上)に設置して、直径10mmの円柱状の治具で圧縮荷重2N、4N、6Nのsin波(周波数1Hz)を順に加えた。その時の発生電荷量を、チャージアンプ(同上)とオシロスコープ(同上)とを用いて測定した。そして、各々の圧縮荷重ごとに測定された発生電荷量を加えた応力で除し、その平均値を算出して、トランスデューサの感度とした。
【0098】
[耐久性]
トランスデューサを温度60℃、湿度90%の環境下で3000時間静置した。それから、トランスデューサを疲労耐久試験機(同上)に設置して、直径10mmの円柱状の治具で圧縮荷重10Nのsin波(周波数10Hz)を10万回加えた後、引張方向に定変位振動5%のsin波(周波数10Hz)を1万回加えた。その後、上述した方法で、感度および発生電荷量を測定した。感度および発生電荷量の両方の値が、疲労耐久試験前の値に対して80%以上である場合を耐久性良好(表1中、○印で示す)、80%未満である場合を耐久性不良(表1中、×印で示す)と評価した。
【表1】
【0099】
表1に示すように、緩衝部を有する実施例1~7のトランスデューサによると、いずれも発生電荷量が10-9Cオーダーと大きくなり、感度も良好であった。発生電荷量が大きいことから、発電量が大きいことがわかる。また、変位を繰り返した後の耐久性も満足いくレベルであった。これに対して、緩衝部を有さない比較例1のトランスデューサによると、発生電荷量が10-10Cオーダーと小さくなり、感度も大幅に低下した。また、緩衝部に弾性体層よりも弾性率が大きい固体(ポリエステルフィルム)を配置した比較例2のトランスデューサにおいても、発生電荷量が小さく、感度が低くなった。また、外装材を有しない比較例3のトランスデューサによると、発生電荷量は大きく、感度も良好であったが、耐久性が悪くなった。なお、参考例1のトランスデューサにおいては、圧電層および電極層が柔軟性に乏しかったため、電極層の体積抵抗率、ユニットの破断伸びがいずれも不良であった。このため、発生電荷量が大きく感度も満足いくレベルであったが、耐久性が悪くなった。また、参考例2のトランスデューサは、弾性体層に弾性率が非常に大きいポリエステルフィルムを用いたため、弾性体層による圧電層の歪み増大効果が発揮されず、所望の発生電荷量および感度が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のトランスデューサは、発電量が大きく耐久性に優れるため、道路に埋め込んで人や車からの振動により発電する発電装置などに有用である。また、本発明のトランスデューサは、感度が高く小さな荷重を検出可能であるため呼吸状態や心拍数を測定する生体情報センサとして好適である。この他、ロボット(産業用、コミュニケーション用を含む)、医療用、介護用、健康用、スポーツ機器、自動車などの圧力センサとして好適である。
【符号の説明】
【0101】
1:発電システム、10:トランスデューサ、20、200~209:圧電素子、21:圧電層、22a、22b:電極層、23a、23b、230:弾性体層、24:ユニット(電極層/圧電層/電極層)、30:外装材、31:緩衝部、40:電気回路、41、410、411:配線、42:整流回路、43:コンデンサ、44:スイッチ、45:負荷。