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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】気液分離装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20220325BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
F02M25/08 K
F02M37/00 301H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018056975
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167899
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 依史
(72)【発明者】
【氏名】小高 義紀
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-032752(JP,A)
【文献】特開2015-189465(JP,A)
【文献】特開2006-214700(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021431(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110500830(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクとキャニスタとを接続する通路に設けられた気液分離装置であって、
内部空間、および、上部に位置すると共に前記燃料タンクから燃料の気液二相流を前記内部空間に流入するハウジング入口、下部に位置すると共に分離された燃料蒸気を前記内部空間から排出するハウジング蒸気出口、および、下部に位置すると共に分離された液体燃料を前記内部空間から排出するハウジング液体出口を有するハウジングと、
前記ハウジングの前記内部空間に配置されており、上部に位置する前記ハウジング入口から前記内部空間に流入された流体を下部に位置する前記ハウジング蒸気出口および前記ハウジング液体出口流通させる複数の貫通孔を備えるベース部材と、
前記複数の貫通孔にそれぞれ挿通されており、前記複数の貫通孔の内周面との径方向隙間により気液分離室を形成する複数の軸部材と、
を備え、
各前記気液分離室は、
前記ハウジング入口側に形成され、前記気液二相流を流入する第一領域と、
前記第一領域の下流側に配置され前記第一領域より大きな流路断面積を有しており前記燃料蒸気を誘導する拡大空間部、および、前記拡大空間部に並設され前記貫通孔の内周面および前記軸部材の外周面の少なくとも一方に形成され前記液体燃料を表面張力によって付着させながら下部へ誘導する溝状誘導部を備える第二領域と、
を備える、気液分離装置。
【請求項2】
前記ハウジングの前記内部空間は、複数の前記気液分離室と前記ハウジング入口との上下方向間に、前記ハウジング入口から流入した前記気液二相流を拡散する上部拡散層を有し、
各前記気液分離室は、前記上部拡散層にて拡散された流体を、前記ハウジング蒸気出口および前記ハウジング液体出口側へ流通させる、請求項1に記載の気液分離装置。
【請求項3】
前記気液分離装置は、さらに、
前記ハウジングの前記内部空間に配置され、複数の前記気液分離室と前記上部拡散層との上下方向間に、前記上部拡散層に拡散された前記気液二相流の流速を低下させる布を備える、請求項2に記載の気液分離装置。
【請求項4】
前記ハウジング蒸気出口は、前記ハウジングの前記下部における側面に設けられ、
前記ハウジング液体出口は、前記ハウジングの前記下部における下面に設けられる、請求項1-3の何れか一項に記載の気液分離装置。
【請求項5】
前記ハウジングの前記内部空間は、さらに、
複数の前記気液分離室と前記ハウジング液体出口との上下方向間に、前記燃料蒸気が拡散する下部拡散層を有し、
前記ハウジング液体出口は、前記気液分離室にて分離され且つ前記下部拡散層にて落下した前記液体燃料を排出し、
前記ハウジング蒸気出口は、前記気液分離室にて分離され且つ前記下部拡散層にて拡散された前記燃料蒸気を排出する、請求項4に記載の気液分離装置。
【請求項6】
前記複数の軸部材は、相互に連結されている、請求項1-5の何れか一項に記載の気液分離装置。
【請求項7】
前記貫通孔の内周面は、前記貫通孔の全長に亘って、貫通方向に延びると共に周方向に複数形成された溝を有し、
前記軸部材は、上方から下方に向かって縮径するテーパ状に形成され、
前記第一領域は、前記貫通孔の前記溝と前記テーパ状の大径側部分との径方向隙間により構成され、
前記第二領域は、前記貫通孔の前記溝と前記テーパ状の小径側部分との径方向隙間により構成され、
前記第二領域の前記拡大空間部は、前記テーパ状の小径側部分と前記貫通孔の前記溝との径方向の環状隙間により構成され、
前記第二領域の前記溝状誘導部は、前記テーパ状の小径側部分に対向する前記貫通孔の前記溝により構成される、請求項1-6の何れか一項に記載の気液分離装置。
【請求項8】
前記貫通孔の内周面は、前記貫通孔の全長に亘って、貫通方向に延びると共に周方向に複数形成された溝を有し、
前記軸部材は、大径部と、前記大径部に対して段差を介して設けられた小径部と、を備え、
前記第一領域は、前記貫通孔の前記溝と前記大径部との径方向隙間により構成され、
前記第二領域は、前記貫通孔の前記溝と前記小径部との径方向隙間により構成され、
前記第二領域の前記拡大空間部は、前記小径部と前記貫通孔の前記溝との径方向の環状隙間により構成され、
前記第二領域の前記溝状誘導部は、前記小径部に対向する前記貫通孔の前記溝により構成される、請求項1-6の何れか一項に記載の気液分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載した自動車において、自動車が走行を停止している場合や、気温の上昇などによって、燃料タンク内の温度が上昇することにより、燃料タンク内に燃料蒸気が発生する。ガソリン燃料の給油時には、燃料タンク内に充満した燃料蒸気が、給油燃料によって押し出されることになる。燃料タンクから押し出される燃料蒸気は、キャニスタにて吸着され、大気へ燃料蒸気が放出されることが防止されている。
【0003】
また、インテークマニホールドに発生する負圧を利用して、エンジンへ供給される空気の一部がキャニスタを通過して送気される。このとき、キャニスタに吸着されていた燃料蒸気は脱離し、エンジンへ空気と共にパージエアとして運ばれる。このように、キャニスタは、燃料タンクとエンジンとの間で燃料蒸気の吸脱着を繰り返す。
【0004】
近年、環境規制が強化され、燃料蒸気の排出量を低下させることが求められている。そこで、高い吸脱着性能を有するキャニスタを用いることが考えられるが、キャニスタの大型化を招来すると共に、高コストとなる。また、エンジンとモータのハイブリッド自動車においては、近年のエンジンの効率向上によるパージ機会の損失が大きくなると共に、エンジンが停止している状態が存在することによりインテークマニホールドの負圧を利用したパージ機会自体が少なくなる。このことからも、高い吸脱着性能を有するキャニスタが求められる原因となっている。
【0005】
ここで、燃料タンクから押し出された流体には、燃料蒸気に液体燃料が混流することがある。この場合、燃料タンクから燃料の気液二相流がキャニスタへ送出されている。そこで、燃料タンクとキャニスタとを接続する通路に、気液分離装置を設けることにより、キャニスタには液体燃料が送出されないようにすることで、キャニスタの小型化を図ることが可能となる(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5844661号公報
【文献】特開2001-3818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、燃料の気液二相流を液体燃料と燃料蒸気とに分離する構成として従来とは異なる新たな構成を採用することで、キャニスタに液体燃料が送出されることを効果的に防止することができる気液分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る気液分離装置は、燃料タンクとキャニスタとを接続する通路に設けられた気液分離装置であって、内部空間、および、上部に位置すると共に前記燃料タンクから燃料の気液二相流を前記内部空間に流入するハウジング入口、下部に位置すると共に分離された燃料蒸気を前記内部空間から排出するハウジング蒸気出口、および、下部に位置すると共に分離された液体燃料を前記内部空間から排出するハウジング液体出口を有するハウジングと、前記ハウジングの前記内部空間に配置されており、上部に位置する前記ハウジング入口から前記内部空間に流入された流体を下部に位置する前記ハウジング蒸気出口および前記ハウジング液体出口流通させる複数の貫通孔を備えるベース部材と、前記複数の貫通孔にそれぞれ挿通されており、前記複数の貫通孔の内周面との径方向隙間により気液分離室を形成する複数の軸部材とを備える。
【0009】
各前記気液分離室は、前記ハウジング入口側に形成され、前記気液二相流を流入する第一領域と、前記第一領域の下流側に配置され前記第一領域より大きな流路断面積を有しており前記燃料蒸気を誘導する拡大空間部、および、前記拡大空間部に並設され前記貫通孔の内周面および前記軸部材の外周面の少なくとも一方に形成され前記液体燃料を表面張力によって付着させながら下部へ誘導する溝状誘導部を備える第二領域とを備える。
【0010】
上記のとおり、気液分離室が、第一領域および第二領域を備えている。第二領域の拡大空間部が第一領域より流路断面積を大きくすることによって、第一領域に流入した燃料の気液二相流に含まれる燃料蒸気が、気液二相流から分離されて第二領域の拡大空間部に移動する。さらに、気液二相流から燃料蒸気が分離されて残った液体燃料が、拡大空間部に併設された溝状誘導部によって誘導される。これは、液体燃料の表面張力によって、燃料蒸気が拡大空間部へ移動せずに、溝状誘導部に付着した状態が維持されるためである。
【0011】
このように、ベース部材の貫通孔と軸部材との径方向隙間に形成される気液分離室によって、燃料の気液二相流を燃料蒸気と液体燃料とに分離することができる。さらに、ベース部材が複数の貫通孔を備えると共に、複数の軸部材のそれぞれが複数の貫通孔のそれぞれに挿通されている。従って、ハウジングの内部空間に多数の気液分離室が形成されており、燃料タンクから流入された燃料の気液二相流を、より効果的に、燃料蒸気と液体燃料とに分離することができる。その結果、キャニスタに液体燃料が送られることを抑制できる。従って、キャニスタの小型化を図ることができる。つまり、エンジンのみにより駆動する自動車においても、さらにはハイブリッド自動車においても、キャニスタの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】燃料ラインの全体構成図である。
図2図1の気液分離装置の拡大図である。図の上下方向が、重力方向の上下方向に一致する。
図3図2のIII-III断面図である。
図4図2のIV-IV断面図である。
図5】第一例の気液分離室1つの拡大図である。
図6図5のVI-VI断面の拡大図である。
図7図5のVII-VII断面の拡大図である。
図8】第二例の気液分離室1つの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.燃料ライン1の構成)
自動車の燃料ライン1の全体構成について、図1を参照して説明する。図1において、実線矢印は、液体燃料を示し、破線矢印は、燃料蒸気を示す。燃料ライン1は、給油口11、燃料タンク12、給油口11から燃料タンク12に燃料を供給するフィラー配管13、燃料タンク12から給油口11側に燃料蒸気を還流させるブリーザ配管14を備える。燃料ライン1は、燃料タンク12からエンジン16に燃料を供給するフィード配管15を備える。
【0014】
さらに、燃料ライン1は、キャニスタ17、燃料タンク12とキャニスタ17とを接続する通路であるエバポ配管18(第一エバポ配管18aおよび第二エバポ配管18b)、キャニスタ17とエンジン16とを接続するパージ配管19、エバポ配管18に設けられる気液分離装置20を備える。なお、図示しないが、各配管には、バルブやポンプなどが設けられる。
【0015】
気液分離装置20には、給油口11からの燃料の給油などによって、燃料タンク12内の上方空間から、エバポ配管18のうちの上流側の一部である第一エバポ配管18aを介して、燃料蒸気および液体燃料からなる燃料の気液二相流が流入される。気液分離装置20は、燃料の気液二相流を、燃料蒸気と液体燃料とに分離する。
【0016】
そして、気液分離装置20は、分離された燃料蒸気を、エバポ配管18のうちの残りの下流側の一部である第二エバポ配管18bを介して、キャニスタ17に送出する。キャニスタ17は、気液分離装置20から排出された燃料蒸気を吸着する。キャニスタ17に吸着された燃料蒸気は、エンジン16へ供給される空気によってキャニスタ17から脱離して、パージ配管19を介してパージエアとしてエンジン16に送出される。一方、気液分離装置20は、液返還配管21を介して分離された液体燃料を燃料タンク12に戻す。
【0017】
(2.気液分離装置20の全体構成)
気液分離装置20の全体構成について、図2図4を参照して説明する。気液分離装置20は、ハウジング30と、ベース部材40と、軸部材ユニット50と、布60とを備えて構成される。
【0018】
ハウジング30は、複数種類の樹脂材料を積層することにより形成されている。ハウジング30は、燃料タンク12と同様に、耐燃料透過性能などを有する。ハウジング30は、燃料タンク12と同様の構成としてもよいし、異なる構成としてもよい。ハウジング30は、内部空間31、第一エバポ配管18aに接続されるハウジング入口32、第二エバポ配管18bに接続されるハウジング蒸気出口33、液返還配管21に接続されるハウジング液体出口34を備える。
【0019】
内部空間31は、上方から下方に向けて、上部拡散層31a、布配置層31b、気液分離層31c、下部拡散層31d、および、液誘導層31eを備える。各層31a-31eは、それぞれの高さ範囲において、内部空間31の水平方向の全領域に亘って存在する。上部拡散層31aは、水平方向に仕切り部材を有しない領域であって、流入された気液二相流が自由に拡散できる領域である。布配置層31bは、後述する布60が配置される領域である。気液分離層31cは、気液二相流を燃料蒸気と液体燃料に分離する領域である。
【0020】
下部拡散層31dは、水平方向に仕切部材を有しない領域であって、分離された燃料蒸気が自由に拡散できる領域である。また、下部拡散層31dは、分離された液体燃料をハウジング30下面に向かって落下させる領域としても機能する。液誘導層31eは、分離された液体燃料をハウジング液体出口34へ誘導する領域である。液誘導層31eは、例えば漏斗状に形成されており、液体燃料を、上方の広い開口から、下方に位置するハウジング液体出口34である狭い開口へ向かって誘導することができる。
【0021】
ハウジング入口32は、ハウジング30の上部に位置すると共に、燃料タンク12から第一エバポ配管18aを介して燃料の気液二相流を内部空間31に流入する。ハウジング入口32は、図2に示すように、ハウジング30の上面に形成されるようにしてもよいし、図示しないが、ハウジング30の上部のうちの側面に形成されるようにしてもよい。つまり、ハウジング入口32は、内部空間31の上部拡散層31aに連続している。
【0022】
ハウジング蒸気出口33は、ハウジング30の下部に位置すると共に、内部空間31にて分離された燃料蒸気を内部空間31から第二エバポ配管18bを介してキャニスタ17に排出する。ハウジング蒸気出口33は、図2に示すように、ハウジング30の下部の側面に形成されている。ハウジング蒸気出口33は、内部空間31の下部拡散層31dの同一高さに設けられている。つまり、ハウジング蒸気出口33は、下部拡散層31dに連続している。
【0023】
ハウジング液体出口34は、ハウジング30の下部に位置すると共に、内部空間31にて分離された液体燃料を内部空間31から液返還配管21を介して燃料タンク12に排出する。ハウジング液体出口34は、図2に示すように、ハウジング30の下部の下面に形成されている。つまり、ハウジング液体出口34は、内部空間31の最下領域である液誘導層31eに連続している。
【0024】
ベース部材40は、樹脂により成形されており、ほぼ直方体状のブロック形状の外形に形成されている。ベース部材40の外周面(上下面以外の側面)は、ハウジング30の気液分離層31cの内壁面に対応した形状を有している。そして、ベース部材40は、ハウジング30の気液分離層31cに配置されており、ベース部材40の外周面とハウジング30の気液分離層31cの内壁面との間には、隙間を有しないか、僅かな隙間を有する程度となる。
【0025】
ベース部材40は、図2に示すように、上下方向(図2の上下方向に等しい)に貫通する複数の貫通孔41を備える。図2図4に示すように、本実施形態では、ベース部材40が25個の貫通孔41を備える例を示している。つまり、複数の貫通孔41の上方開口は、ハウジング入口32側に位置し、下方開口は、ハウジング蒸気出口33およびハウジング液体出口34側に位置する。従って、複数の貫通孔41は、上部に位置するハウジング入口32から内部空間31に流入された流体を、下部に位置するハウジング蒸気出口33およびハウジング液体出口34側流通させる。なお、ベース部材40の下面が、内部空間31における気液分離層31cと下部拡散層31dとの境界を構成する。
【0026】
軸部材ユニット50は、複数の軸部材51と、連結部材52と、高さ位置決め部材53とを備える。各軸部材51は、各貫通孔41に挿通されている。軸部材51の上端側の一部が、貫通孔41の入口開口より上方に突出している。また、軸部材51の下端側の一部が、貫通孔41の出口開口より下方に突出している。つまり、軸部材51の下端側の一部は、下部拡散層31dに存在している。そして、各軸部材51は、各貫通孔41の内周面との径方向隙間により気液分離室70を形成する。軸部材51の外周面と貫通孔41の内周面との径方向隙間である気液分離室70は、貫通孔41の全長に亘って形成される。
【0027】
連結部材52は、複数の軸部材51の上端同士を相互に連結している。連結部材52は、上方から見た場合に、格子状に形成されており、連結部材52の上方領域と連結部材52の下方領域とを連通することができる構造を有する。高さ位置決め部材53は、連結部材52の下面から下方に延びており、ベース部材40の上面に支持されている。つまり、高さ位置決め部材53がベース部材40に支持されることで、各軸部材51と貫通孔41との上下方向の相対位置が所望位置に位置決めされる。
【0028】
布60は、シート状の不織布または織布により形成されている。布60は、例えば、フェルトにより形成されている。布60は、内部空間31の布配置層31bに配置されている。つまり、布60は、上部拡散層31aとベース部材40との上下方向間に配置されている。布60は、通過する気液二相流の流速を低下させる機能を有する。つまり、布60は、上部拡散層31aにて拡散された気液二相流の流速を低下させる。従って、気液二相流は、布60を通過する前の気液二相流の流速よりも、布60を通過した後の流速の方が低くなる。
【0029】
(3.気液分離装置20内における流体の流れ)
燃料の気液二相流が、燃料タンク12から第一エバポ配管18aを介してハウジング入口32に到達し、内部空間31の上部拡散層31aに流入する。上部拡散層31aに流入した気液二相流は、上部拡散層31aにて、内部空間31の水平方向に拡散する。上部拡散層31aには、仕切り部材など何ら部材が存在しないため、流入した気液二相流は自由に拡散できる。従って、ハウジング入口32が狭い場合であっても、上部拡散層31aにより、気液二相流を確実に水平方向に拡散できる。
【0030】
上部拡散層31aの下流(重力方向下方)には、布配置層31bが連続して位置する。そして、上部拡散層31aに流入した気液二相流は、布配置層31bに配置されている布60を通過する。布60は、ハウジング30の内部空間31の水平方向の全範囲に亘って配置されている。そして、布60は、気液二相流の流速を低減する機能を有する。そのため、上部拡散層31aにて水平方向に拡散された気液二相流は、布60を通過することで、流速が低下する。
【0031】
布配置層31bの下流(重力方向下方)には、気液分離層31cが連続して位置する。気液分離層31cには、ベース部材40および軸部材ユニット50が配置されている。そのため、布60を通過した気液二相流は、ベース部材40の複数の貫通孔41と複数の軸部材51との径方向隙間である気液分離室70に流入する。つまり、ハウジング入口32と気液分離室70との上下方向間に上部拡散層31aおよび布60が配置されることで、水平方向に拡散され且つ流速が低下された状態の気液二相流が、複数の気液分離室70に流入する。従って、気液二相流は、複数の気液分離室70に、満遍なく流入することができる。
【0032】
そして、気液二相流が気液分離室70を下方に向かって移動することで、気液分離室70内にて、気液二相流が燃料蒸気と液体燃料とに分離される。複数の気液分離室70に流入される気液二相流は、流速が低下しているため、気液分離機能をより効果的に発揮することができる。さらに、気液二相流が複数の気液分離室70に満遍なく流入することで、複数の気液分離室70のそれぞれが気液分離機能を確実に発揮することができる。つまり、複数の気液分離室70全体としての気液分離機能は、非常に高い状態となる。
【0033】
気液分離層31cの下流(重力方向下方)には、下部拡散層31dが連続して位置する。下部拡散層31dには、ベース部材40は存在しないものの、複数の軸部材51の下端側の一部が存在している。ただし、下部拡散層31dでは、軸部材51によって仕切られた状態ではない。そのため、気液分離室70によって分離された燃料蒸気は、下部拡散層31dにて水平方向に拡散できる。さらに、気液分離室70によって分離された液体燃料は、下部拡散層31dにて、ベース部材40から落下することが可能となる。
【0034】
下部拡散層31dの下流(重力方向下方)には、液誘導層31eが連続して位置する。液誘導層31eは、漏斗状に形成されているため、内部空間31の下面に落下した液体燃料は、漏斗状の液誘導層31eに誘導されて、下方に位置するハウジング液体出口34に向かって誘導される。このように、分離された液体燃料は、内部空間31に滞留することなく、ハウジング液体出口34から排出される。ハウジング液体出口34から排出された液体燃料は、液返還配管21を介して燃料タンク12に戻される。
【0035】
気液分離室70によって分離された燃料蒸気は、上述したように、下部拡散層31dにて拡散される。ここで、気液分離室70から抜け出た燃料蒸気は、内部空間31のうちベース部材40の下方領域(下部拡散層31dおよび液誘導層31e)において、相対的に上方に位置する下部拡散層31dに存在しやすい状態となる。下部拡散層31dの側方には、ハウジング蒸気出口33が設けられている。つまり、気液分離室70にて分離された燃料蒸気は、下部拡散層31dにて拡散した後に、ハウジング蒸気出口33から第二エバポ配管18bに排出される。第二エバポ配管18bへ排出された燃料蒸気は、キャニスタ17に吸着される。
【0036】
(4.第一例の気液分離室70の構成および作用)
次に、第一例の気液分離室70の構成について、図5図7を参照して説明する。図5に示すように、気液分離室70は、貫通孔41の内周面と軸部材51の外周面との径方向隙間によって形成される。つまり、気液分離室70は、上下方向(重力方向)に延びるように形成されている。
【0037】
まず、気液分離室70を、形状的側面から説明する。図5図7に示すように、貫通孔41の内周面は、貫通孔41の全長に亘って、貫通方向に延びると共に周方向に複数形成された溝41aを有する。図6および図7においては、30個の溝41aが貫通孔41に形成されている。溝41aは、貫通孔41の径方向内方に向かって溝幅を広くするように形成され、貫通孔41の径方向外方に向かって溝幅を狭くするように形成されている。ただし、溝41aの溝幅は、貫通孔41の径方向に向かって同一としてもよい。貫通孔41の溝41aの内接円は、貫通孔41の全長に亘って、貫通孔41の貫通方向において同一とされている。一方、軸部材51の外周面は、上方から下方に向かって縮径するテーパ状に形成されている。軸部材51の外周面の径方向断面は、円である。従って、貫通孔41の溝41aの内接円と軸部材51の外周面との径方向隙間は、図6に示すように、貫通孔41の上方ほど狭く、図7に示すように、貫通孔41の下方ほど広くなる。
【0038】
次に、気液分離室70を、機能的側面から説明する。気液分離室70は、上方、すなわちハウジング入口32側に形成される第一領域71と、下方、すなわち、ハウジング蒸気出口33およびハウジング液体出口34側に形成される第二領域72とを備える。そして、第二領域72は、拡大空間部72aと、溝状誘導部72bとを備える。つまり、気液分離室70は、狭い第一領域71に気液二相流が流入し、第一領域71から拡大空間部72aと溝状誘導部72bとに分けられる。
【0039】
つまり、狭い空間である第一領域71の下流において、空間が拡大する拡大空間部72aと、狭い空間が維持された溝状誘導部72bとが存在する。この場合において、第一領域71に流入された気液二相流のうち燃料蒸気が、拡大空間部72aに誘導されるのに対して、気液二相流のうち液体燃料が、狭い空間である溝状誘導部72bに付着した状態となる。このように、狭い第一領域71と、第一領域71の下流側に、拡大空間部72aと溝状誘導部72bとを設けることにより、気液二相流が燃料蒸気と液体燃料とに分離される。
【0040】
以下に、より詳細に説明する。第一領域71は、上部拡散層31aによって水平方向に拡散され、且つ、布60によって流速を低下された気液二相流を流入する。第一領域71は、流路断面積が非常に小さな領域である。詳細には、第一領域71は、図6に示すように、貫通孔41の溝41aと軸部材51のテーパ状の大径側部分との径方向隙間により構成されている。そして、第一領域71において、貫通孔41の溝41aの内接円と軸部材51のテーパ状の大径側部分との径方向の環状隙間は、溝41aの流路断面積に比べて小さい。従って、第一領域71は、実質的に、溝41aにより形成される領域となる。このように、第一領域71は、非常に狭い領域となる。
【0041】
第二領域72は、第一領域71に比べて、貫通孔41の下方の大部分を構成している。そして、第二領域72は、貫通孔41の溝41aと軸部材51のテーパ状の小径側部分との径方向隙間により構成されている。第二領域72は、上述したように、且つ、図5に示すように、第二領域72は、拡大空間部72aと溝状誘導部72bとを備える。
【0042】
図5に示すように、拡大空間部72aは、第一領域71の下流側に配置されている。そして、拡大空間部72aは、図7に示すように、貫通孔41の溝41aの内接円と軸部材51のテーパ状の小径側部分との径方向の環状隙間により構成される。軸部材51は下方に向かって縮径するテーパ状に形成されている。そのため、拡大空間部72aは、下方に行くほど、大きな環状隙間となるように形成されている。
【0043】
そして、拡大空間部72aのうち下方側においては、第一領域71より大きな流路断面積を有している。つまり、第一領域71から第二領域72の拡大空間部72aへ行くに際して、流路断面積が拡大している。特に、本実施形態においては、流路断面積が緩やかに拡大している。従って、拡大空間部72aは、気液二相流の中に含まれる燃料蒸気を分離して、下部拡散層31dへ誘導することができる。
【0044】
溝状誘導部72bは、図5に示すように、拡大空間部72aに並設されている。溝状誘導部72bは、軸部材51のテーパ状の小径側部分に対向する貫通孔41の溝41aにより構成されている。溝状誘導部72bを構成する各溝41aは、拡大空間部72aに比べて、流路断面積が小さい。そのため、溝状誘導部72bには、液体燃料が表面張力によって付着した状態となる。つまり、溝状誘導部72bは、第一領域71に流入した気液二相流の中に含まれる液体燃料を分離して、液体燃料を付着させながら下部拡散層31dへ誘導することができる。
【0045】
従って、ベース部材40の貫通孔41と軸部材51との径方向隙間に形成される気液分離室70によって、燃料の気液二相流を燃料蒸気と液体燃料とに確実に分離することができる。さらに、ベース部材40が複数の貫通孔41を備えると共に、複数の軸部材51のそれぞれが複数の貫通孔41のそれぞれに挿通されている。従って、ハウジング30の内部空間31に多数の気液分離室70が形成されており、燃料タンク12から流入された燃料の気液二相流を、より効果的に、燃料蒸気と液体燃料とに分離することができる。その結果、キャニスタ17に液体燃料が送られることを抑制できる。従って、キャニスタ17の小型化を図ることができる。つまり、エンジン16のみにより駆動する自動車においても、さらにはハイブリッド自動車においても、キャニスタ17の小型化を図ることができる。
【0046】
(5.第二例の気液分離室170の構成)
第二例の気液分離室170の構成について図8を参照して説明する。図8に示すように、軸部材51が、大径部51aと、大径部51aに対して段差を介して設けられた小径部51bとを備える。つまり、大径部51aは、軸部材51の上方に位置し、小径部51bは、下方に位置する。第一領域71が、貫通孔41の溝41aと大径部51aとの径方向隙間により構成される。第二領域72は、貫通孔41の溝41aと小径部51bとの径方向隙間により構成される。第二領域72の拡大空間部72aは、貫通孔41の溝41aの内接円と小径部51bとの径方向の環状隙間である。第二領域72の溝状誘導部72bは、小径部51bに対向する貫通孔41の溝41aにより構成される。この場合も、第一例の気液分離室70と同様の効果を奏する。なお、第二例の気液分離室170は、第一領域71から第二領域72の拡大空間部72aへ行くに際して、流路断面積を急拡大させている。
【0047】
(6.その他)
上記実施形態においては、軸部材51の外周面の径方向断面は、円形とした。これに限られず、軸部材51の外周面にも、貫通孔41と同様に、溝を形成するようにしてもよい。この場合、貫通孔41の内周面および軸部材51の外周面に、貫通方向に延びる複数の溝が形成される。さらに、貫通孔41の溝の内接円と軸部材51の溝の外接円との径方向の環状隙間が、下方に向かって大きくなる。この場合、液体燃料を付着させる面積が広くなる。また、軸部材51の外周面に複数の溝を形成し、貫通孔41の内周面の径方向断面を円形としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1:燃料ライン、 11:給油口、 12:燃料タンク、 13:フィラー配管、 14:ブリーザ配管、 15:フィード配管、 16:エンジン、 17:キャニスタ、 18:エバポ配管、 18a:第一エバポ配管、 18b:第二エバポ配管、 19:パージ配管、 20:気液分離装置、 21:液返還配管、 30:ハウジング、 31:内部空間、 31a:上部拡散層、 31b:布配置層、 31c:気液分離層、 31d:下部拡散層、 31e:液誘導層、 32:ハウジング入口、 33:ハウジング蒸気出口、 34:ハウジング液体出口、 40:ベース部材、 41:貫通孔、 41a:溝、 50:軸部材ユニット、 51:軸部材、 51a:大径部、 51b:小径部、 52:連結部材、 53:高さ位置決め部材、 60:布、 70,170:気液分離室、 71:第一領域、 72:第二領域、 72a:拡大空間部、 72b:溝状誘導部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8