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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】木造建築物の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/26 20060101AFI20220325BHJP
【FI】
E04B1/26 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018067629
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178527
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小野 将臣
(72)【発明者】
【氏名】川畑 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】高田 友和
(72)【発明者】
【氏名】野村 武史
(72)【発明者】
【氏名】安西 博
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-249799(JP,A)
【文献】特開平10-292667(JP,A)
【文献】米国特許第06067769(US,A)
【文献】特開2005-344324(JP,A)
【文献】特開2014-047469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/26
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の柱と、当該柱の上側で水平に配設される上横架材と、前記柱の下側で水平に配設される下横架材とで構成される木造建築物のフレームを補強する構造であって、
前記フレーム内の上側で前記一対の柱間へ水平に架設される追加横架材と、
前記追加横架材よりも下方で前記フレーム内に配置され、前記追加横架材と前記一対の柱との少なくとも一方に固定される補強体と、
前記追加横架材又は前記追加横架材と前記柱との仕口部に設けられ、前記フレームの面と平行な方向での前記追加横架材の回転を許容する回転許容部と、
を含んでなることを特徴とする木造建築物の補強構造。
【請求項2】
前記回転許容部は、前記追加横架材と前記一対の柱との少なくとも一方の対向面間に部分的に形成され、前記フレームの面外方向へ連続する隙間であることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項3】
前記追加横架材は、ブラケット金具により、前記追加横架材の端部が前記柱へ部分的に接触する状態で固定され、前記端部における前記柱との非接触部分に前記隙間が形成されることを特徴とする請求項2に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項4】
前記回転許容部は、前記追加横架材と前記一対の柱との少なくとも一方の対向面間に緩衝材を介在させることで形成されることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項5】
前記回転許容部は、長手方向に分割された前記追加横架材の分割部材同士を、隙間を介在させた状態で長手方向に連結することで形成されることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項6】
前記隙間には、緩衝材が介在されることを特徴とする請求項5に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項7】
前記緩衝材は、予圧縮された状態で介在されることを特徴とする請求項4又は6に記載の木造建築物の補強構造。
【請求項8】
前記追加横架材と前記一対の柱とは、ブラケット金具を介して互いに固定されており、前記回転許容部は、前記ブラケット金具において前記追加横架材と前記一対の柱との少なくとも一方の長手方向に沿って延びるように形成されるスリットであることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の木造建築物の補強構造。
【請求項9】
前記補強体は、前記追加横架材の下側の前記フレーム内で一方の対角線上に架設されるブレースであり、前記回転許容部は、前記追加横架材における前記ブレースが架設されない端部側に設けられることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の木造建築物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の木造建築物に対して耐震補強や制震補強を施すための補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、相次ぐ震災の発生等に伴って防災意識が高まり、木造建築物においても耐震性や制震性を高めた構造とするケースが増加しつつある。特許文献1には、コンクリートの土台の上面に固定される下梁と、下梁より上方に伸びる一対の柱と、柱の上端に架設される上梁と、上梁の下面に固定される上側伝達部材と、下梁の上面に固定される高さ調整用の板材と、板材の上端に固定される下側伝達部材と、上側伝達部材と下側伝達部材との間に連結される油圧ダンパとからなり、壁内に組み込まれる制振装置の発明が開示されている。
しかし、既存の木造建築物に対して耐震性や制震性を付与する補強工事を行う場合、壁面や天井、床を構成する壁材や天井材、床材を剥がして柱や梁、土台等のフレームを露出させる必要があり、補強工事の完了後には改めて壁面や天井、床を張り直すことになるため、工費がかさむ上、工期も長くなる問題があった。
この問題に鑑み、特許文献2には、左右の柱の間に、間柱と、天井板よりも下方で柱と間柱との間に架設される上支持材と、床板よりも上方で柱と間柱との間に架設される下支持材と、柱に沿って固定される柱補強材と、上支持材と間柱と柱補強材と下支持材とで囲まれる空間内に取り付けられる平板等を含む制震部材とからなる制震装置を構成することで、天井や床を剥がすことなく建物のフレーム内に制震装置を取り付け可能とした補強構造の発明が開示されている。
また、特許文献3には、左右の柱の間に、天井高さよりも下方で上部ブラケットを、床面よりも上方で下部ブラケットをそれぞれ柱に沿った固定板を介して架設して、上部ブラケットと下部ブラケットとの間に、上部伝達部材及び下部伝達部材を介して油圧ダンパを支持してなる制震装置を組み込んだ補強構造の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5153440号公報
【文献】特開2014-237946号公報
【文献】特許第4041743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2,3の補強構造では、一対の柱の側面に柱補強材や固定板を設けてその内側に上支持材や上部ブラケットを架設し、上支持材や上部ブラケットに制震部材や上部伝達部材を固定する構造となっているため、柱に柱補強材や固定板を取り付ける手間や時間が必要となって工数の増加に繋がる。また、上支持材や上部ブラケットが柱補強材等を介して柱にのみ固定されるため、梁に変位が入力された際の柱の曲げ変形を抑制できず、柱が曲げ破壊を起こしたり、ダンパー等の制震部材へ効率よく変位を入力できなかったりするおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、天井や床を剥がすことなく工数を削減して施工可能とすると共に、柱の曲げ変形を抑制して必要な制震性や耐震性も確保することができる木造建築物の補強構造を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、一対の柱と、当該柱の上側で水平に配設される上横架材と、柱の下側で水平に配設される下横架材とで構成される木造建築物のフレームを補強する構造であって、
フレーム内の上側で一対の柱間へ水平に架設される追加横架材と、追加横架材よりも下方でフレーム内に配置され、追加横架材と前記一対の柱との少なくとも一方に固定される補強体と、追加横架材又は追加横架材と柱との仕口部に設けられ、フレームの面と平行な方向での追加横架材の回転を許容する回転許容部と、を含んでなることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、回転許容部は、追加横架材と一対の柱との少なくとも一方の対向面間に部分的に形成され、フレームの面外方向へ連続する隙間であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2の構成において、追加横架材は、ブラケット金具により、追加横架材の端部が柱へ部分的に接触する状態で固定され、当該端部における柱との非接触部分に隙間が形成されることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1の構成において、回転許容部は、追加横架材と一対の柱との少なくとも一方の対向面間に緩衝材を介在させることで形成されることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1の構成において、回転許容部は、長手方向に分割された追加横架材の分割部材同士を、隙間を介在させた状態で長手方向に連結することで形成されることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5の構成において、隙間には、緩衝材が介在されることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項4又は6の構成において、緩衝材は、予圧縮された状態で介在されることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7の何れかの構成において、追加横架材と一対の柱とは、ブラケット金具を介して互いに固定されており、回転許容部は、ブラケット金具において追加横架材と一対の柱との少なくとも一方の長手方向に沿って延びるように形成されるスリットであることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8の何れかの構成において、補強体は、追加横架材の下側のフレーム内で一方の対角線上に架設されるブレースであり、回転許容部は、追加横架材におけるブレースが架設されない端部側に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、フレーム内の上側で一対の柱間へ水平に架設される追加横架材又は追加横架材と柱との仕口部に設けられ、フレームの面と平行な方向での追加横架材の回転を許容する回転許容部を設けたことで、天井や床を剥がすことなく工数を削減して施工可能となると共に、柱の曲げ変形を抑制して必要な制震性や耐震性も確保することができる。特に、回転許容部の設置により、加振時には追加横架材の回転によって柱に加わる曲げモーメントや発生荷重を効果的に抑制可能となる。よって、既存の木造建築物に対して簡易に制震補強や耐震補強を施すことが可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、上記効果に加えて、回転許容部を、追加横架材と一対の柱との少なくとも一方の対向面間に部分的に形成され、フレームの面外方向へ連続する隙間としているので、ピン接合に近い状態で追加横架材を柱と接合して回転許容部を簡単に形成することができる。
請求項3に記載の発明によれば、上記効果に加えて、追加横架材を、ブラケット金具により、追加横架材の端部が柱へ部分的に接触する状態で固定し、当該端部における柱との非接触部分に隙間を形成したので、ブラケット金具を用いて隙間を有する接合を容易に行うことができる。
請求項4に記載の発明によれば、上記効果に加えて、回転許容部を、追加横架材と一対の柱との少なくとも一方の対向面間に緩衝材を介在させることで形成したので、追加横架材と柱との間のクリアランスによってピン接合に近い状態を得ることができる。また、緩衝材によって対向面間に異物が侵入するおそれもなくなる。
請求項5に記載の発明によれば、上記効果に加えて、回転許容部を、長手方向に分割された追加横架材の分割部材同士を、隙間を介在させた状態で長手方向に連結することで形成したので、追加横架材自体をピン接合に近い構造にでき、柱に加わる曲げモーメントや発生荷重を抑制することができる。
請求項6に記載の発明によれば、上記効果に加えて、隙間には、緩衝材が介在されることで、分割部材の間に異物が侵入するおそれがなくなる。
請求項7に記載の発明によれば、上記効果に加えて、緩衝材は、予圧縮された状態で介在されることで、脱落のおそれが低減される。
請求項8に記載の発明によれば、上記効果に加えて、追加横架材と一対の柱とを、ブラケット金具を介して互いに固定し、回転許容部を、ブラケット金具において追加横架材と一対の柱との少なくとも一方の長手方向に沿って延びるように形成されるスリットとしたことで、ブラケット金具を利用して追加横架材と柱との仕口部をピン接合に近い状態とすることできる。
請求項9に記載の発明によれば、上記効果に加えて、補強体を、追加横架材の下側のフレーム内で一方の対角線上に架設されるブレースとし、回転許容部を、追加横架材におけるブレースが架設されない端部側に設けたことで、加振時の追加横架材の回転を確実に許容することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】制震補強を行うフレームの説明図で、(A)が正面、(B)が右側面(右側の柱は省略)をそれぞれ示す。
図2】壁材を部分的に除去したフレームの説明図で、(A)が正面、(B)が右側面(右側の柱は省略)をそれぞれ示す。
図3】上補強材を取り付けたフレームの説明図で、フレームの説明図で、(A)が正面、(B)が右側面(右側の柱は省略)をそれぞれ示す。
図4】(A)は上補強材を取り付けた左側の仕口部の拡大図、(B)は上補強材の平面図、(C)は正面図である。
図5】上下に追加横架材を取り付けたフレームの説明図で、(A)が正面、(B)が右側面(右側の柱は省略)をそれぞれ示す。
図6】上側の追加横架材の取付部分を拡大して示す説明図である。
図7】制震ダンパーを固定したフレームの説明図で、(A)が正面、(B)が右側面(右側の柱は省略)をそれぞれ示す。
図8】壁材の除去部分を再度壁材で塞いだフレームの説明図で、(A)が正面、(B)が右側面(右側の柱は省略)をそれぞれ示す。
図9】(A)(B)はそれぞれ追加横架材の端部形状の変更例を示す説明図である。
図10】緩衝材を追加横架材の両端に用いた変更例を示す説明図である。
図11】緩衝材を追加横架材の一端に用いた変更例を示す説明図である。
図12】(A)は追加横架材を分割して隙間を形成した変更例を示す説明図、(B)は分割部材同士の間に緩衝材を介在させた変更例を示す説明図である。
図13】(A)はブラケット金具の変更例の説明図、(B)は当該ブラケット金具を用いた追加横架材の取付部分の説明図である。
図14】(A)はブラケット金具の変更例の説明図、(B)は当該ブラケット金具を用いた追加横架材の取付部分の説明図である。
図15】(A)はブラケット金具の変更例の説明図、(B)は当該ブラケット金具を用いた追加横架材の取付部分の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、壁を構成するフレーム1の説明図で、(A)は正面図、(B)は右側面図で、右側の柱は省略している。フレーム1は、上横架材としての梁2と、下横架材としての土台3と、梁2と土台3との間に鉛直方向に架設される一対の柱4,4とを備えてなる。5は、フレーム1の前後を覆う壁材で、点線L1は、図示しない天井材によって形成される天井面を、点線L2は、図示しない床材によって形成される床面をそれぞれ示している。
【0010】
ここで、フレーム1に対して制震補強を施す手順を説明する。
まず図2に示すように、フレーム1の正面側の壁材5において、天井面L1と床面L2との間と、左右の柱4,4の間との中間部分5aを除去して、フレーム1内を正面側に露出させる。
【0011】
次に、図3に示すように、天井面L1のやや下側で梁2と柱4,4との間に上補強材6を取り付ける。この上補強材6は、図4に示すように、帯状の金属板の左右の長手辺をそれぞれ直角に折り返して、長手辺全長に亘って折り返し部7,7を形成すると共に、長手方向の両端を折り返し部7側へ斜めに折り曲げて、直線状の本体部8と、その両端の取付部9,9とを形成した斜め材である。各取付部9の折り曲げ部分には、補強リブ10がそれぞれ固定されている。但し、本体部は図4に示すような断面コ字状に限らず、断面を湾曲形状にするなど、その形状は問わない。直線状でなくてもよい。
この取付部9の一方を梁2の下面に、他方を柱4の内側面にそれぞれ釘や木ねじ等の固定具11で固定することで、梁2と柱4との間へ方杖状に取り付けられる。この上補強材6は、下側の取付部9が天井面L1よりも下方へ突出する位置で左右対称に一対取り付けられる。
【0012】
次に、図5に示すように、天井面L1より下側と、床面L2より上側とにおいて、柱4,4の間に追加横架材12をそれぞれ水平に架設する。この追加横架材12は、図6にも示すように、左右の両端面が、短手方向の一端から他端へ行くに従って徐々に外側へ突出するように斜めに傾斜した傾斜面13となって、長手方向の寸法が短手方向で変化している。以下、上下の追加横架材12を区別する際には、上側(天井面L1側)の追加横架材を12A、下側(床面L2側)の追加横架材を12Bとして説明を行う。
【0013】
天井面L1の下側に架設される追加横架材12Aは、両端の傾斜面13,13によって長手寸法が長くなる側を下にして、上面が左右の上補強材6,6の各取付部9よりも低くなる高さで、傾斜面13,13の下端が柱4,4の側面にそれぞれ接触する状態で柱4,4間に配置する。そして、追加横架材12Aの左側の端部では、柱4の側面と追加横架材12Aの下面とに跨がってL字状のブラケット金具14をあてがい、固定具11で固定する。一方、右側の端部では、フレーム1のフレーム面と平行な矩形板部16と、矩形板部16の短辺で手前側に折曲形成される水平板部17と、矩形板部16の長辺で手前側に折曲形成される鉛直板部18とからなるブラケット金具15を用いて、水平板部17を追加横架材12Aの下面に、鉛直板部18を柱4の側面にそれぞれ固定具11で固定する。これにより、追加横架材12Aの左右両端には、フレーム1内及びフレーム1の面外方向へ連続し、柱4,4との間で上方へ行くに従って広くなる回転許容部としての隙間19,19が形成される。
【0014】
一方、床面L2より上側に配置される追加横架材12Bは、上側と逆に、長手寸法が長くなる側を上にして、全体が床面L2より上側となる高さで、傾斜面13,13の上端が柱4,4の側面にそれぞれ接触する状態で柱4,4間に配置する。そして、左右両端は、上側の追加横架材12Aと左右が逆となるように、右側の端部をブラケット金具14によって、左側の端部をブラケット金具15によってそれぞれ接合する。これにより、追加横架材12Bの左右両端にも、フレーム1内及びフレーム1の面外方向へ連続し、柱4,4との間で下方へ行くに従って広くなる隙間19,19が形成される。
なお、このとき下側の追加横架材12Bは、上面のみが床面L2より上側となる高さで架設してもよい。
【0015】
次に、図7に示すように、左右の柱4,4と上下の追加横架材12A,12Bとで構成される内フレーム20内に、補強体としての制震ダンパー30を設置する。この制震ダンパー30は、同軸で重合する外筒31と内筒32との間に図示しない粘弾性体を接着させた粘弾性ダンパーで、外筒31の外側端部と内筒32の外側端部とにそれぞれ延長線上に固定された延長木材33,33を、柱4と追加横架材12Aとの仕口部に位置するブラケット金具15の矩形板部16に、柱4と追加横架材12Bとの仕口部に位置するブラケット金具15の矩形板部16にそれぞれ固定具11で固定することで、内フレーム20内でブレース状に架設される。
【0016】
なお、制震ダンパー30の設置に際しては、追加横架材12A,12Bをブラケット金具14及びブラケット金具15で固定した後、制震ダンパー30の延長木材33,33を矩形板部16の裏側に差し込んで固定する手順としてもよいし、追加横架材12A,12Bを接合する際、ブラケット金具15,15を取り付ける前に、先に制震ダンパー30を内フレーム20内に配置し、その後各仕口部にブラケット金具15,15を配置して、ブラケット金具15を固定する作業(矩形板部16を延長木材33に固定する作業と、水平板部17を追加横架材12A,12Bに固定する作業と、鉛直板部18を柱4に固定する作業)を最後に行うようにしてもよい。
そして、図8に示すように、天井面L1と床面L2との間と、左右の柱4,4との間を再び壁材5bで塞げば、制震補強の施工が完了する。
【0017】
よって、このフレーム1においては、地震等によって水平方向に加振されて左右へ変形すると、内フレーム20内の制震ダンパー30に圧縮力と引張力とが交互に入力され、外筒31と内筒32との間に接着される粘弾性体を剪断変形させて震動エネルギーを減衰させる。
このとき、フレーム1では、梁2と追加横架材12Aとの間に上補強材6が設けられているため、柱4,4の曲げ変形が抑制されて曲げ破壊が生じにくくなると共に、制震ダンパー30への軸方向力が効率よく入力される。特に、追加横架材12A,12Bの両端は、傾斜面13,13により柱4との間に隙間19を形成してピン接合に近い状態となっているため、柱4に加わる曲げモーメントや発生荷重は、追加横架材12A,12Bの両端がフレーム1の面と平行な方向で回転することで抑制され、柱4の損傷のおそれが低減される。
【0018】
このように、上記形態の木造建築物の補強構造によれば、フレーム1内の上下で一対の柱4,4間へ水平に架設される追加横架材12A,12Bと、追加横架材12A,12Bの間で内フレーム20に配置され、追加横架材12A,12Bと一対の柱4,4とに固定される制震ダンパー30と、追加横架材12A,12Bと柱4との仕口部に設けられ、フレーム1の面と平行な方向での追加横架材12A,12Bの回転を許容する回転許容部(隙間19)とを含んでなることで、天井や床を剥がすことなく工数を削減して施工可能となると共に、柱4,4の曲げ変形を抑制して必要な制震性や耐震性も確保することができる。特に、回転許容部(隙間19)の設置により、加振時には追加横架材12A,12Bの回転によって柱4,4に加わる曲げモーメントや発生荷重を効果的に抑制可能となる。よって、既存の木造建築物に対して簡易に制震補強や耐震補強を施すことが可能となる。
【0019】
特にここでは、回転許容部を、追加横架材12A,12Bと柱4,4との対向面間へ部分的に形成され、フレーム1の面外方向へ連続する隙間19,19としているので、ピン接合に近い状態で追加横架材12A,12Bを柱4と接合して回転許容部を簡単に形成することができる。
また、追加横架材12A,12Bを、ブラケット金具14により、追加横架材12A,12Bの端部が柱4へ部分的に接触する状態で固定し、当該端部における柱4との非接触部分に隙間19を形成しているので、ブラケット金具14を用いて隙間19を有する接合を容易に行うことができる。
さらに、補強体を、追加横架材12A,12Bの間で内フレーム20内の一方の対角線上に架設されるブレース(制震ダンパー30)とし、回転許容部を、追加横架材12A,12Bにおけるブレースが架設されない端部側に設けているので、加振時の追加横架材12A,12Bの回転を確実に許容することができる。
【0020】
なお、上記形態では、追加横架材の左右の端面全体を傾斜面として柱との間に隙間を形成しているが、この形状に限らず、例えば図9(A)に示すように、追加横架材12Aの端面の下側部分(追加横架材12Bでは上側部分)を傾斜させずに柱4の側面と平行な平面21とし、上側部分を傾斜面13として隙間19を設けてもよい。この平面21と傾斜面13との割合は適宜変更できる。
また、端面全体が傾斜面であっても、図9(B)に示すように、上側部分と下側部分とで上下逆に傾斜する傾斜面13a、13bを形成して山形形状の端部とし、当該端部の上下方向の中央部分のみが柱4の側面に接触する状態で固定して上下に隙間19,19を設けてもよい。傾斜面でなく円弧状の曲面としてもよい。
さらに、上記形態では、追加横架材12の左右両端に隙間19,19を形成しているが、制震ダンパー30が接合されるブラケット金具15側の端部には傾斜面13等を設けず、反対側の端部のみに傾斜面13等を形成して隙間19を設けても差し支えない。
【0021】
一方、回転許容部としては隙間に限らず、例えば図10に示すように、追加横架材12の長手方向の寸法を柱4,4の内法寸法よりも短くして、追加横架材12の両端と柱4,4との対向面間に、ゴムやスポンジ等の緩衝材22を予圧縮状態で介在させて回転許容部を形成することもできる。
このように、回転許容部を、追加横架材12と柱4,4との対向面間に緩衝材22を介在させることで形成しても、追加横架材12と柱4,4との間のクリアランスによってピン接合に近い状態を得ることができる。また、緩衝材22によって対向面間に異物が侵入するおそれもなくなる。特に、緩衝材22を予圧縮された状態で介在させれば、脱落のおそれが低減される。
また、図11に示すように、ここでもブラケット金具15側の端部と反対側の端部にのみ緩衝材22を設けて回転許容部を形成してもよい。この変更例では、ブラケット金具14aを、追加横架材12の端部に被さる側面視コ字状の上側金具23と、上端の水平部25が上側金具23の下面に連設されて下端の鉛直部26が柱4の側面に取り付けられる逆L字状の下側金具24とから構成している。
【0022】
そして、上記形態や変更例では、追加横架材と柱との仕口部に回転許容部を形成しているが、例えば図12(A)に示すように、追加横架材12を中央部分で分断して長手方向に分割される2つの分割部材40,40からなるものとして、各分割部材40の柱4側の端部をそれぞれブラケット金具14とブラケット金具15とで柱4,4に固定し、分割部材40,40同士の対向面間に回転許容部となる隙間41を形成してもよい。この場合、互いに対向する分割部材40,40の端部同士は、両分割部材40,40に跨がって上下に配置されて両端がそれぞれ固定具11で分割部材40に固定される連結板42,42によって接合される。よって、隙間41はフレーム1の面外方向へ連続することになる。
【0023】
この場合、フレーム1への加振時に柱4に曲げモーメントや応力集中が生じると、分割部材40,40を接合する連結板42,42が塑性変形し、分割部材40,40がフレーム1の面と平行な方向で回転することを許容する。これにより、曲げモーメントや応力集中が抑制される。
このように、回転許容部を、長手方向に分割された追加横架材12の分割部材40,40同士を、隙間41を介在させた状態で長手方向に連結することで形成すれば、追加横架材12自体をピン接合に近い構造にでき、柱4に加わる曲げモーメントや発生荷重を抑制することができる。
なお、分割部材40,40の端部同士の形状は上記形態に限らず、例えば図9(B)で示した山形形状としたり、半円形状としたり等、適宜変更可能である。また、図12(B)に示すように、分割部材40,40の端部同士の対向面間に緩衝材43を予圧縮状態で充填しても差し支えない。
【0024】
さらに、回転許容部は、追加横架材と柱との仕口部又は追加横架材自体に設ける場合に限らず、ブラケット金具に設けることもできる。
図13(A)は、回転許容部を設けたブラケット金具50を示すもので、このブラケット金具50は、上側の短辺に水平板部52を折曲形成した第1矩形板51と、右側の長辺に鉛直板部54を折曲形成した第2矩形板53とからなる。第1矩形板51は、第2矩形板53よりも長手方向の寸法が長くなっており、水平板部52の下側には、水平板部52と平行に左右方向へ延びる2つの長円状のスリット55,55が、左右方向の一直線上に並設されている。
【0025】
このブラケット金具50は、図13(B)に示すように、第1矩形板51と第2矩形板53とを下端同士を合わせて重ねた状態で、水平板部52が追加横架材12に、鉛直板部54が柱4にそれぞれ固定される。両矩形板51,53は、両者を貫通させた固定具11で例えば制震ダンパー30の延長木材33に固定される。この状態で、回転許容部となるスリット55,55に第2矩形板53は重ならない。
よって、フレーム1への加振時に柱4に曲げモーメントや応力集中が生じると、ブラケット金具50の第1矩形板51におけるスリット55,55の形成部分が塑性変形し、追加横架材12がフレーム1の面と平行な方向で回転することを許容する。
【0026】
なお、スリット55,55は、追加横架材12に沿って形成する場合に限らず、図14に示すように、第2矩形板53の長辺寄りで鉛直板部54と平行に設けてもよいし、図15に示すように、第1、第2矩形板51,53の両方に設けてもよい。数も増減して差し支えない。また、ブラケット金具50自体も、2枚の矩形板から形成する構造に限らず、一枚の金属板から形成してもよい。
このように、回転許容部を、ブラケット金具50において追加横架材12と柱4との少なくとも一方の長手方向に沿って延びるように形成されるスリット55とすれば、ブラケット金具50を利用して追加横架材12と柱4との仕口部をピン接合に近い状態とすることできる。よって、曲げモーメントや応力集中が抑制されて柱4の損傷のおそれが低減される。
このブラケット金具に回転許容部を設ける各補強構造は、先に説明した追加横架材に隙間等の回転許容部を設ける実施形態と併用することもできる。
【0027】
そして、上記形態及び変更例では、追加横架材を下側(床面側)にも設けているが、これを省略して追加横架材を上側(天井面側)のみに設けてもよい。上補強材も省略できる。
また、補強体として、粘弾性ダンパーと延長木材とからなる制震ダンパーを対角線上に架設しているが、これに限らず、複数の鋼板とその間に接着される粘弾性体とからなる積層型の制震ダンパーや、K型の制震ダンパーとする等、適宜変更できる。さらに、粘弾性ダンパーでなく油圧ダンパー等も採用できるし、ダンパーでなく単純な木製や金属製のブレースも採用できる。この場合のブレースは、追加横架材の下側のフレーム内で一方の対角線上に架設し、回転許容部は、追加横架材におけるブレースが架設されない端部側に設けるのが望ましい。このように回転許容部を、追加横架材におけるブレースが架設されない端部側に設ければ、加振時の追加横架材の回転を確実に許容することができる。
【符号の説明】
【0028】
1・・フレーム、2・・梁、3・・土台、4・・柱、5・・壁材、6・・上補強材、11・・固定具、12(12A,12B)・・追加横架材、13,13a・・傾斜面、14・・ブラケット金具、15,50・・ブラケット金具、19,41・・隙間、20・・内フレーム、22,43・・緩衝材、30・・制震ダンパー、31・・外筒、32・・内筒、33・・延長木材、40・・分割部材、51・・第1矩形板、53・・第2矩形板、55・・スリット、L1・・天井面、L2・・床面。
図1
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