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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】流体制御バルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/12 20060101AFI20220325BHJP
   F16K 7/17 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
F16K7/12 B
F16K7/17 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017235673
(22)【出願日】2017-12-08
(65)【公開番号】P2019100525
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501417929
【氏名又は名称】株式会社キッツエスシーティー
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】堀口 肇
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-229159(JP,A)
【文献】米国特許第05413311(US,A)
【文献】特表2002-513457(JP,A)
【文献】特開2007-064333(JP,A)
【文献】特開2012-189165(JP,A)
【文献】特開平07-139649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/00 - 7/20
F16K 1/00 - 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口と流出口とを有するボデー内に設けた環状弁座と、この環状弁座に対向し、かつアクチュエータ用ロッド又は手動用ロッドの昇降動で接離するダイヤフラムを備えたバルブであって、前記環状弁座の上部面であるダイヤフラムの接離面には、前記環状弁座の求心方向に沿ったテーパ面を形成し、前記ロッドの昇降動にダイヤフラムピースを連動させ、このダイヤフラムピースの下面は、軸対称形状の凸曲面であり、この下面により前記ダイヤフラムを挟んだ状態で前記テーパ面に合わせるように押し付け可能に設け、前記テーパ面の傾斜角度は、前記ダイヤフラムピースの下面に形成された傾斜面の前記接離面の内径と外径からなる傾斜角度より0.5度以上1度以下の範囲で小さい角度に形成して、弁閉シール時に前記傾斜面を前記テーパ面の内径側から外径側に密着させるようにしたことを特徴とする流体制御バルブ。
【請求項2】
前記ダイヤフラムを動作させるためのアクチュエータを有し、このアクチュエータは、往復運動によりダイヤフラムピースを介してダイヤフラムを開閉するロッドと、エア圧を受けてロッドを動作させるためのピストンとを有し、別部材である前記ロッドと前記ピストンとが所定のシール材により連結されている請求項1に記載の流体制御バルブ。
【請求項3】
常温と200度とのCV値の差が0.15以下である請求項1又は2に記載の流体制御バルブ。
【請求項4】
高温下において0回から1000万回までバルブを開閉動作させる間、バルブのCv値の変動幅が、初期Cv値に対して10%以内に維持される請求項1乃至の何れか1項に記載の流体制御バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下において極めて多数回の開閉動作を経ても高精度にCv値変動の安定性を発揮できる流体制御バルブと流体制御バルブの組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高温環境下において使用される流体制御バルブとして、所謂ダイレクトタッチ型のメタルダイヤフラムバルブが知られており、その基本構造は、高強度高弾性かつ高い耐食性を有する円盤状金属薄膜(メタルダイヤフラム)が弁膜となり、外周側がボデーとボンネットとの間に挟持された状態で外部シール部が弁室外周囲に環状に構成され、中央部は昇降動するアクチュエータなどのロッドに押圧されることで、弁室内の1次側流路開口部周縁に設けられた環状弁座の上面と当接・密着してバルブを閉じる一方、ロッドによる押圧から解放された際は自己の形状復帰力で環状弁座上面から離間することでバルブが開かれる構造となっている。また、環状弁座はボデーとは別体のリング状部材であり、特に、樹脂製シートリングとして溝部にカシメ固定されている場合が多い。
【0003】
この種のバルブは、半導体や液晶等のエレクトロニクス分野のほか、原子力関連分野や、ファインケミカル、バイオテック、更に医療・食品分野など、様々な製造分野において種々の形態で需要があるが、特に半導体製造プロセスのガス供給系において従来から需要が高い。半導体製造プロセスでは、真空チャンバーやエッチング装置、拡散炉など、高温環境下で稼働しなければならない装置があり、このような装置に伴って内外・周辺に配設されるバルブには、例えば80~200度の高温雰囲気に浸漬された状態であっても常時安定稼働可能(サブマージブル)であることが必要とされることが多い。
【0004】
そして、近年の半導体の更なる微細化・高集積化に伴い、成膜プロセスなどへの供給ガスを制御するバルブにおいては、このような高温装置に対し、益々近接位置への高集積化が要求されると共に、高精度の流量制御も求められる。このため、上記のようなバルブには、高温条件下における多数回開閉を経ても、極めて高くCv値変動を抑制できることが要求されている。
【0005】
特に、近年は薄膜成長プロセスとして、所謂ALDプロセスの需要が高まっている。ALDプロセスにおいては、原子・ナノレベルで一層ずつ積み上げるようにして薄膜成長をコントロールするため、ガス供給ラインでは、異なる流体を極めて高速で切り替えてチャンバーへの供給・排出サイクルを連続的を繰り返す必要がある。薄膜成長を原子層レベルでコントロールすることから、ウェハ上に製品要求レベルの薄膜成長を得るために、通常1000万回レベルのバルブ開閉寿命が必要となり、よって、バルブにも従来想定されていたレベルを遥かに超えたレベルの使用回数に耐え得る高耐久性が必須となると共に、バルブ開閉の高速応答性も必須である。また、ALDプロセスでは、供給ガスを安定供給するために温度を約200度に保つ必要があり、よって、バルブにはこのレベルの耐高温性が必須となる。
【0006】
ところで、本願発明者らは、上記のようなバルブが、高温環境下で多数回の開閉を経た後であってもCv値変動を高精度に安定化させることを課題として設定し、その変動要因を鋭意研究する中で、弁室内における流路断面積の変動からの寄与、特に1次側流路から弁室内へと流入する開口面積を直接規定している可撓変形部材に着目した際、とりわけ環状弁座が、高温環境下においてダイヤフラムピースの下面により上部面が多数回の押圧・打撃を受け続けることで、僅かながらも形状変化してしまうことからの影響が大きいという事実を知得した。特に弁座が樹脂製の場合は、膨張を促進し易い高温と、クリープを促進し易い高速で持続的な打撃が作用することで特有の形状変形が齎され、このような変形がCv値変動の第1次的な要因となっていると推測した。
【0007】
これに対し、ALDプロセスなど、高温流体に曝された状態で多数かつ高速でバルブが開閉されることによる部材の経時変化に起因したCv値変動を課題とした従来技術は、既にいくつか知られており、弁座の変形に関しては特許文献1が提案されており、その他、例えば特許文献2が提案されている。
【0008】
特許文献1には、流体制御弁の弁座構造が示されている。同文献の流体制御弁の弁座部材は、断面略矩形状のフッ素系樹脂からなり、この弁座部材のダイヤフラムと当接離間する接離面は、完全に水平方向(流体制御弁の軸線方向に対する垂直方向)に平坦な上部面から成るもののみ開示されている。同文献では、この弁座部材が、高さ方向の肉厚と径方向の肉厚とが所定の比率範囲内となるように形成され、この形状により、高温流体が流れている間における弁座部材の熱膨張や、バルブ開閉に伴う沈み込み量・復元量を低減するようにすることで、Cv値変動の低減が図られている。
【0009】
特許文献2には、ボンネットに対するアクチュエータの支持用筒部のねじ込み長さを調整してステムの上下方向位置を設定位置に調整固定するバルブストローク調整機構を備えたダイレクトタッチ型メタルダイヤフラムバルブが示されている。同文献では、図面にのみ弁座の断面形状が示されており、図面には、上部面は突起状に設けられ、この突起状部の頂面がメタルダイヤフラムと当接離間する接離部となった弁座のみが開示されており、この接離部の形状は、ダイヤフラムが押圧された全閉状態の図面を参照すると、幅の狭いリング状の水平面乃至は円形の突状部を呈していることがわかる。
【0010】
また同文献2では、バルブストローク調整機構によって、バルブの最大ストロークをメタルダイヤフラムの膨出高さの55~70%とすることにより、最大ストローク分に応じたダイヤフラムの最大幅の変形を防止し、ダイヤフラムの耐久性の向上が図られていると共に、弁の出荷前に所定の温度下で3000~10000回の連続開閉動作を行って合成樹脂製弁座の馴らしを行い、弁座の形態を安定化させてからバルブストローク調整を行うことで、弁座の径時変化を抑えてCv値の安定化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5243513号公報
【文献】特許第5054904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1は、上記のようなバルブにおいて、高温環境下においてCv値変動を小さく抑制する目的をもって環状弁座に着目している従来技術として、唯一発見されたものではあるものの、あくまで弁座部材が単独で考慮され、その熱膨張のみが課題とされたものであり、弁体押えと弁座部材、及びこの両者の関係が全く考慮されていない。すなわち、弁体当接離間部の上部面(接離面)形状はあくまで水平な平坦面であり、弁体押えの下面形状もあくまで単なる凸状曲面である。よって同文献を参照しても、上述した本願発明者らの着眼した課題、すなわち弁閉時にダイヤフラムピースが環状弁座を持続的に高速押圧することによる環状弁座の変形による影響、とりわけ高温環境下のダイヤフラムピースとの関係におけるバルブのCv値変動に関し、有益な知見を得ることができない。
【0013】
しかも、同文献1では、ダイヤフラム側の可撓変形に関しても全く考慮がなされていない。ダイヤフラム側も流路断面積に直接影響を与える部位であり、場合によっては、弁座側よりも高温環境や高速多数回開閉を経たバルブのCv値変動に大きな影響を及ぼすものであるから、Cv値変動を考慮するに際して不可欠な要素である。この意味でも、同文献1に開示の手段は不十分であると言わざるを得ない。
【0014】
一方で、特許文献2では、ダイヤフラム側のみが考慮されたものであり、上述したように、高温環境下における多数回開閉後のCv値の経年変化をより小さくする課題に対し、バルブストローク調整機構を用いた解決の提案であって、本願発明者らも着眼した弁座に関しては、熱膨張・経年変化に言及はあるものの、このような課題についての弁座やダイヤフラム押さえ、或はこれら相互の関係に関する具体的な情報は全く示されていない。すなわち、同文献の弁座の上部面(接離面)もあくまで幅の狭いリング状の水平面乃至は円形の突状部に過ぎず、やはり弁座とダイヤフラム押さえやこれらの関連性に関し、何も知見を得ることができない。その他、上記課題とその解決手段を開示した従来技術は皆無である。
【0015】
本発明は、上記の問題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、高温条件で用いられ、多数回の動作に対しても高い耐久性を発揮し得ると共に、CV値の安定性を図ることが可能な流体制御バルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、流入口と流出口とを有するボデー内に設けた環状弁座と、この環状弁座に対向し、かつアクチュエータ用ロッド又は手動用ロッドの昇降動で接離するダイヤフラムを備えたバルブであって、環状弁座の上部面であるダイヤフラムの接離面には、環状弁座の求心方向に沿ったテーパ面を形成し、ロッドの昇降動にダイヤフラムピースを連動させ、このダイヤフラムピースの下面は、軸対称形状の凸曲面であり、この下面によりダイヤフラムを挟んだ状態でテーパ面に合わせるように押し付け可能に設け、テーパ面の傾斜角度は、ダイヤフラムピースの下面に形成された傾斜面の接離面の内径と外径からなる傾斜角度より0.5度以上1度以下の範囲で小さい角度に形成して、弁閉シール時に傾斜面をテーパ面の内径側から外径側に密着させるようにした流体制御バルブである。
【0022】
請求項に係る発明は、ダイヤフラムを動作させるためのアクチュエータを有し、このアクチュエータは、往復運動によりダイヤフラムピースを介してダイヤフラムを開閉するロッドと、エア圧を受けてロッドを動作させるためのピストンとを有し、別部材であるロッドとピストンとが所定のシール材により連結されている流体制御バルブである。
【0023】
請求項に係る発明は、常温と200度とのCV値の差が0.15以下である流体制御バルブである。
【0024】
請求項に係る発明は、高温下において0回から1000万回までバルブを開閉動作させる間、バルブのCV値の変動幅が、初期Cv値に対して10%以内に維持される流体制御バルブである。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に係る発明によると、環状弁座のダイヤフラムとの接離面がテーパ面であることにより、多数回の動作や温度変化などによる環状弁座の変形が生じ難く、耐久性が著しく向上すると共に、優れたCv値の安定性を得ることが可能となる。
【0028】
しかも、環状弁座の接離面がダイヤフラムピースの下面の形状に合わせたテーパ面となっているため、環状弁座の一部に極端に偏って荷重が加わることがなく、これにより多数回動作させても環状弁座の劣化が生じ難く、耐久性が著しく向上する。しかも、流体制御バルブ(ダイヤフラムバルブ)の組み立て後、出荷前に所定の開閉を行い、環状弁座を実使用条件に馴染ませる「馴らし工程」を経ることで、環状弁座の接離面が水平面やその他の形状である場合に比して、環状弁座に均一に荷重が加わり、馴染ませが一層良好に生じ、Cv値の安定など、耐久性向上に一層有利となる。
【0029】
さらに、多数回動作させても環状弁座は劣化を生じる事がなく、耐久性に優れ、しかも面圧を均一に維持しつつも、バルブの開閉によるCv値の変化を抑えることができ、Cv値の安定性を図ることが可能となる。
【0030】
なお、環状弁座の接離面が平面の場合に比べてダイヤフラムにより均一に押圧されるため、多数回の開閉動作の場合であっても、形状変化の虞がなく、耐久性に極めて優れている。
【0031】
また、環状弁座の頭頂部の出シロ距離を極小としたので、高温環境下で多数回のバルブ開閉を経ても、弁座の高さ方向の変動が極めて小さく抑制され、もって、バルブのCv値変動の抑制に極めて有効となる。
【0032】
しかも、環状弁座のカシメ時に、基部のやや肉厚にした位置に応じてカシメで折れ曲がりやすい位置を調整することができ、例えば、折れ曲がる位置が深くなり過ぎないようにすることができ、これにより、カシメ治具が正確に真っ直ぐ降下しないような場合や、押圧力が適正でないような場合などに、理想的な位置以外で折れ曲がるリスクを低減することができる。
【0033】
請求項に係る発明によると、別部材であるロッドとピストンが所定のシール材により連結されているから、ロッドやピストンに不均一な力が加わったりズレが生じたりしても、連結部分に設けられたシール材によってその力が吸収され、ロッドとピストンとがシールを保ったまま良好に追従運動できる。よって、ロッドとピストンとが一体的に形成されている場合に、全体が傾いたままアクチュエータ内で動作して想定外の箇所に接触し、アクチュエータが損傷するなどの不具合が防止でき、アクチュエータの耐久性を向上させることができる。
【0034】
請求項に係る発明によると、従来技術に比して更に高精度にCv値変動の抑制が可能となり、上記した類のバルブにおいて、近年益々増大する高い流量安定性への需要に応えることができる。
【0035】
請求項に係る発明によると、高速かつ持続的な開閉が要される上記の類のバルブにおいても、極めて高精度な流量安定性を発揮できる。
【0036】
なお、バルブの組み立てを、常温ではなく、それより高い温度で行うことで、予めある程度熱膨張が生じた状態にてバルブを組み立てることで、組立後に高温で使用する場合であっても、ダイヤフラムに発生する応力は常温で組み立てた場合に比べて小さく、熱膨張に起因するダイヤフラムの割れ等が生じ難く、耐久性が向上する。
【0037】
さらには、組み立て温度を80度程度に設定することにより、作業者が手作業などで組み立て作業が可能な温度範囲内であって、かつバルブの使用温度になるべく近づけた温度においてバルブを組み立てることができ、バルブの耐久性と生産性の両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本例の環状弁座を用いたバルブの一例を示した縦断面図である。
図2】本例の環状弁座を用いたバルブの他の例を示した縦断面図である。
図3】本例の環状弁座をバルブの弁室内にカシメ固定した状態でダイヤフラムピースと共に拡大した部分拡大断面図である。同図(a)はバルブの全開状態であり、(b)はバルブの全閉状態である。
図4】本例の環状弁座をバルブの弁室内にカシメ固定した状態の要部を拡大すると共に、接離面の傾斜角度φを傾斜面の傾斜角度θと共に示した模式図である。
図5】本例の環状弁座の頭頂部を拡大して示した要部拡大断面図である。
図6図4に示した傾斜角度θを縦軸とし、(a)は距離rを横軸としたグラフ図であり、(b)は(a)の要部Pを拡大したグラフ図である。
図7】本発明のカシメ部の他例構造を拡大した要部拡大断面図である。
図8】本例のバルブの環状弁座の潰れ量を測定したグラフ図である。
図9】本例のバルブのダイヤフラムの落ち込み量を測定したグラフ図である。
図10】本例のバルブのCv値変動(対加熱時間)を測定したグラフ図である。
図11】本例のバルブのCv値変動(対開閉回数)を測定したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の流体制御バルブの実施形態(本例)を図面を参照して詳細に説明する。本例の流体制御弁はダイヤフラムを用いたダイヤフラム弁であり、図1、2に示すように、流入口4と流出口5とを有するボデー14、32内に設けた環状弁座2と、この環状弁座2に対向し、かつロッド12、40の昇降動で接離するダイヤフラム1を備えたバルブであって、図1は本発明のバルブの一例の縦断面図、図2は本発明のバルブの他の例の縦断面図を示している。
【0040】
なお、後述のように、これらのバルブ構造はそれぞれアクチュエータ本体11、33を搭載した構造であり、同図のロッド12、40はアクチュエータ用ロッドであるが、本発明のバルブは自動弁に限らず、図示していないが、手動ハンドルなどに連結された手動用ロッドを備えた手動弁であってもよい。
【0041】
図1、2を用いて後述するように、本発明のバルブの流体の流路は、1次側流路15、36から環状に開口した流入口4を経てボデー14、32内に形成された弁室6へと連通し、この流入口4の開口周縁部には、本発明の環状弁座2を固着できる装着溝部8が形成されている。この装着溝部8は、内側と外側の両壁がそれぞれカシメ部9、10となっており、環状弁座2は装着溝部8にカシメ固定されている。
【0042】
また、弁室6の上側にはダイヤフラム1が覆っており、このダイヤフラム1の外周囲には外部シール部7が構成され、ダイヤフラム1の上側にはダイヤフラムピース3が載置されている。環状弁座2の外側には弁室6の底部が環状に形成されると共に、1箇所に円形状の流出口5が開口して2次側流路18、37へと連通している。
【0043】
先ず、図3~6において、本発明のバルブの使用状態における弁室6の構造、特に環状弁座2とダイヤフラムピース3の構造を説明する。図3~5に示すように、本発明の環状弁座2の上部面である接離面20には、環状弁座2の求心方向に沿ったテーパ面20を形成している。
【0044】
図3は、本例のバルブの弁室6を、環状弁座2とダイヤフラム1、及びダイヤフラムピース3と共に拡大した部分拡大断面図であり、同図(a)はバルブの全開状態を、同図(b)はバルブの全閉状態を示している。アクチュエータと連動したバルブ開閉の詳細は後述するが、本発明のバルブでは、同図に示すように、ロッド12、40の昇降動にダイヤフラムピース3を連動させ、このダイヤフラムピース3の下面30によりダイヤフラム1を挟んだ状態でテーパ面20に合わせるように押し付け可能に設けている。
【0045】
具体的には、テーパ面20の傾斜角度φは、ダイヤフラムピース3の下面30に形成された傾斜面30の傾斜角度θに等しいか、若しくはその角度より0.5~1度程度小さい角度であると共に、テーパ面の傾斜角度φは、略3度に設定している。
【0046】
図4は、本例の環状弁座2をバルブの弁室6内にカシメ固定した状態の要部を拡大すると共に、接離面20の傾斜角度φを傾斜面30の傾斜角度θと共に表わして説明した模式図である。同図下側には本例のバルブの弁室6内でカシメ固定された状態の環状弁座2の部分拡大断面図が示され、同図上側にはxy軸と共に所定のグラフを模式的に示している。このxy軸において、x軸は円形状の流入口4が規定する平面に並行であり、y軸は流入口4に繋がる鉛直方向に穿設された筒状の1次側流路の中心軸(縦方向の一点鎖線)に一致するように描画している。
【0047】
図4において、環状弁座2の上部面は、弁閉時においてダイヤフラム1の下面側と接離する接離面20であり、この接離面20は、一点鎖線で示した上記中心軸を心として、この求心方向に沿って傾斜したテーパ面20となっており、同図では、x軸方向(水平方向)に対する傾斜角度をφとして示している。
【0048】
本発明のバルブにおいて環状弁座2の接離面20の好適な傾斜角度φは、以下のようにして導出している。図4において、xy座標には、x+(y-R)=Rで示される半径Rの円方程式を描画しており、この円は、ダイヤフラムピース3の下面30(傾斜面30)に対応する下に凸状の曲面を中心軸位置で切断した断面の曲線として近似させたものを模式的に示したものである。すなわちこの場合、下面30を(曲率)半径Rの球面の一部で近似させている。この円方程式において、yについて解いた後にxで微分すると、この微分係数は、傾斜面30の傾斜角度θの正接(タンジェント)に等しい。よって次の数1を得る。
【0049】
【数1】
【0050】
上記数1を、θについて解くと、以下の数2を得る。なお、図4の半径rは、環状弁座2の半径を代表する基準位置として設定しており、本例では環状弁座2(より具体的には、接離面20)の外径と内径の中間位置を、計算上環状弁座2の半径rとしたものであるが、任意に適宜設定できる。
【0051】
【数2】
【0052】
図6(a)は、上記数2を、いくつかの半径Rについて描画したグラフ図であり、同図(b)は、(a)において示したP部を拡大した拡大グラフ図である。同図に示すように、半径Rが大きくなるにつれてグラフ全体の傾きが倒れてくることがわかる。例えば、ダイヤフラムピース3の径Rが50mm程度の場合(同図において一点鎖線に対応)、環状弁座2の径rが3mm程度であれば、グラフから傾斜角度θはおよそ3.5mm弱となる。よって、接離面20の傾斜角度φを、この傾斜角度θに等しく3.5mm弱に設定してもよい。このように傾斜角度はφ=θとして設定してもよいが、本例のバルブでは、Φをθより僅かに小さく設定している(φ=θ-α、α>0)。
【0053】
具体的には、θが3.5~4.0度程度であればφを3度程度に設定(α=0.5~1.0)すれば好適である。ここで、φ=θと設定した場合も、弁閉シール時に接離面20に加わる荷重はシール面内で概ね均一性が確保でき、このようなシール面圧の均一化により、環状弁座2の歪んだ形状変形、特に高さ方向の変化を抑制できるようになる。
【0054】
しかしながら、バルブの製造時において、部品製品の加工精度にはある程度バラツキが生じることが通常であるため、ダイヤフラムピース3の傾斜面30の傾斜角度θと環状弁座2の傾斜角度φが常に一致するとは限らない。特に角度θとφとが一致していない場合は、弁閉シール時に傾斜面30がダイヤフラム1を介して接離面20と密着した状態において、接離面20の外径側か内径側の何れかに必ず偏った面圧が生じることとなり、特に環状弁座2がPFA製などの軟質部材の場合、偏った面圧が高温環境下で極めて高速多数回の開閉を経た後には、環状弁座2は偏って歪んだように変形し易く、特に高さ形状が変化してしまうことでCv値に直接影響して変動させてしまう虞がある。
【0055】
これに対して、傾斜角度φをθより僅かに小さく設定しておけば、部品加工精度のバラツキに依らず、弁閉シール時には、常に傾斜面30は接離面20と内径側から外径側に向けて密着していくことになる。この際、φとθの角度差αは僅かなので、シール面全体、つまり内径側から外径側への密着は時間差がほとんどなく、しかもφがθより大きい場合と比べれば、接離面20の外径側から先に押圧されて変形することがないため、内径側より断面薄肉状の外径側が先に潰されていくことがなく、環状弁座2の変形量を小さく抑えることができる。
【0056】
このため、シール面圧の均一化と併せて、シール面圧の作用形態を製品加工精度のバラツキに依らず常に一定形態に均一化させることができる。よって、環状弁座2の形状変形の形態も均一化されて安定し、流路開口面積の変動も安定化することにより、Cv値変動の安定化に寄与するものとなる。角度差αは、上記の場合0.5~1.0程度であれば僅かな面圧の不均一さを生じても問題なく、実質的にはシール面圧の均一性が損なわれない範囲といえる。このような理由から、本例では角度φを、僅かに角度θより小さく設定している。
【0057】
さらに、本例のバルブでは、傾斜面30と接離面20は互いに同じ傾斜状面部であるから、弁閉時のシール性と共に開閉の応答性も極めて良好であり、しかも、環状弁座2に大きな歪み変形が生じ難く、特に局所的な応力集中が発生し難いため、劣化が生じ難くバルブの耐久性も向上する。同様に、シール面が傾斜状面部であるから、平坦面である場合に比してシール面積も増大しており、よって同じ押圧力(バネ23、44)においてもシール面圧が減少し、このため同じシール力でありながら環状弁座2の形状変形・潰れ量も抑制され、バルブの耐久性とCv値安定性との両立にますます有利である。
【0058】
このように、本発明では、少なくともダイヤフラムピース3の下面30における環状弁座2に対向して離間する環状部位(傾斜面30)の傾斜角度θに応じて、環状弁座2の接離面20(テーパ面20)の傾斜角度φを、上記効果が発揮されるように最適に設定することにより、高温環境下において高速かつ多数回のバルブ開閉を経ても、高いシール面圧の均一化が保たれることによって常に押圧力による負荷が全体へ均一に分散され、よって環状弁座2に歪みや変形を生じ難くなり、特に図8を用いて後述するように、高さ方向の潰れ量が効果的に抑制され、結果的にバルブCv値変動が抑制できる。なお、図4では、ダイヤフラムピース3の下面30を、簡易にθを導出可能な曲面として球面の一部を選択しているが、実施状況(バルブの使用条件や目的・効果等)に応じて、より一般の曲面(下面30と更に高い近似精度の曲面等)で近似した上で傾斜角度θを導出し、これに応じて傾斜角度φを適宜設定するようにしてもよい。
【0059】
さらに、環状弁座2の接離面20が傾斜していることで、図示していないが、接離面20の断面上最も高い最外径部位と同じ高さ(肉厚)で接離面が平坦(水平)状に形成された断面矩形状の従来の環状弁座の場合に比べて、常温時に対する高さ方向への熱膨張量も低減できる。これは、環状弁座2にはテーパ面20が形成されている分だけ断面積が減少しているから、少なくともこの部材量の分だけ熱膨張の影響が抑制され、熱膨張による寸法差(常温時と高温時との高さの差)が低減されると考えられることによる。この観点で言えば、環状弁座2の断面形状として、少なくとも高さ方向を低く抑えた断面扁平形状であれば、高温環境下においても高さ方向への熱膨張変形量を抑制することができるので、常温時と高温時とのバルブのCv値変動を抑制するにあたって好適である。
【0060】
また、図3、4において、環状弁座2は、樹脂製(PFA製)であると共に、カシメ固定により装着溝部8に固着される。また、本例のカシメ部9、10の基部は、それぞれやや肉厚に形成されている。図4において、カシメ部は装着溝部8の内径側となるカシメ部9と外径側となるカシメ部10から成り、バルブの組み立て工程において、装着溝部8に環状弁座2を装着した後、これらカシメ部9、10をそれぞれ所定の治具などでカシメ変形させて、環状弁座2を弁室6内に固着させる。
【0061】
図4において、カシメ部9、10の基部9b、10bは、それぞれ起点部9a、10aを境として図面上側は薄肉、下側はやや厚肉に形成されているので、カシメ変形により環状弁座2側にそれぞれが屈曲変形する際、これら起点部9a、10aを起点として屈曲し易くなる。このように、基部9b、10bを肉厚に形成する起点部9a、10aの位置を、適切な位置に設けておくことにより、カシメ変形の位置を調整することができる。このため、例えばカシメ治具が正確に真っ直ぐ降下しなかったり、何らかの原因でカシメの圧力が適正でなかったりした場合において、カシメ変形・屈曲が不適切な位置を起点に生じ、適切なカシメ固定ができなくなるようなリスクを低減できる。
【0062】
図7は、カシメ部の他例構造であり、装着溝部53に本発明の環状弁座を装着する前のカシメ部を拡大した部分拡大断面図である。同図においても、内径側となるカシメ部51と外径側となるカシメ部52には、それぞれ基部51b、52bが肉厚となる起点部51a、52aが設けられている。具体的には、装着溝部53の底部から、内径側のカシメ部51の上端51cまでの高さを1、外径側のカシメ部52の上端52cまでの高さを1.1とすると、起点部51a、52aまでの高さはそれぞれ約0.3となるように設定されている。
【0063】
また、本発明では、環状弁座2をカシメ固定する際に、カシメ部9、10、51、52の上端9c、10c、51c、52cより突出させた環状弁座2の頭頂部2aの出シロ距離Lを極小としている。図4において、距離Lは、外径側のカシメ部10の上端10cと接離面20の外径側端部との間の高さ方向(バルブの軸心方向)の距離であり、距離Lは、内径側のカシメ部9の上端9cと接離面20の内径側端部との間の高さ方向の距離である。また、以下の表1は、本例のバルブと比較例1~8とにおけるこれらの出シロ距離L、Lとを比較した比較表であり、何れのバルブにおいても、常温環境下において環状弁座を装着溝部へカシメ固定した後における出シロ距離L、Lを、それぞれ設計図(CAD)上で測った距離である。また、比較例1~8は、何れも本例のバルブと概ね同じサイズ(環状弁座径が同程度)の製品である。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、本例のバルブの出シロ距離は、内側・外側に依らず概ね0.20mm程度であったのに対し、比較例では何れもこれより大きく、概ね0.30~0.50mm程度であり、本例バルブ製品では従来製品よりも出シロ距離が小さく抑えられている。
【0066】
図3、4において、内側・外側の出シロ距離L、Lを極小にするとは、ダイヤフラムピース3の下面30でダイヤフラム1上面を押圧して環状弁座2の接離面20にダイヤフラム1下面を圧着させてバルブを閉じた際、バルブのサイズや構成、或はバルブの使用条件等に応じて、バルブの実質的な使用寿命の間、ダイヤフラム1が内側及び外側のカシメ部9、10の上端9c、10cに触れることでバルブの性能に支障が生じることがない程度の範囲まで、環状弁座20をカシメ部9、10にカシメ固定した状態において可能な限り出シロ距離L、Lが小さくなるようにバルブの各部品を設計することを意味する。具体的には本例のバルブの場合、出シロ距離Lの範囲として0.05~0.20mmが好適である。
【0067】
また、上記本例のバルブにおいて、バルブ開閉前に、後述の熱アニール処理を予め施し、その後、常温環境下において、バルブのCv値を計測しながら1000万回バルブ開閉を繰り返した後、出シロ距離L、Lを実際に計測したところ、距離Lは0.07~0.08mm程度、距離Lは0.05~0.07mm程度であったと共に、その間のバルブのCv値の変動はほとんど計測されなかった。
【0068】
これは、熱アニール処理によって環状弁座20の形状がダイヤフラムピース3からの押圧による弁閉状態に十分に馴染んだことにより、上記のようにサイズ1/2、サイズ1/4の内側・外側の出シロ距離Lは何れも概ね0.20mm程度であったものが、何れも概ね0.10mm程度まで潰され、その後は、バルブの開閉を受けてもほとんど出シロ距離Lは変化することなく、1000万回開閉後でも何れとも概ね0.07mm程度(0.05~0.08mm)の距離を維持できていたものと推測される。
【0069】
よって、上記のように出シロ距離Lを可能な限り極小化すること、及び、使用開始前の熱アニール処理とを組み合わせることにより、少なくとも1000万回レベルの極めて多数回のバルブ開閉作用に対し、環状弁座20の高さ方向の変化を極めて小さく抑えることができること、すなわちバルブのCv値変動の低減に極めて有効であることが実証された。そして、これは200度などの高温の流体或は環境下にバルブを用いた際にも、熱膨張による影響は考えられるものの、上記のような常温環境下に準じた有効な効果を齎すと推測できる。
【0070】
なお、図4において、装着溝部8(ボデー14、32)と環状弁座2の各材質の線膨張係数の差等によれば、常温時に装着溝部8の外径と環状弁座2の外径が同じとすると、200度に加熱された際は環状弁座2の外径が装着溝部8の外径より膨張することが予測できるため、両者の外径が常温時に同じ場合は200度に加熱された際には環状弁座2がラジアル方向に突っ張ることになる。このラジアル方向へ突っ張る膨張代が、装着溝部8によって拘束された圧縮変形によりスラスト方向への歪み量(膨張代)となれば、環状弁座2の高さ方向が大きく変動してバルブCv値が大きく変動する要因となるおそれがある。このため、常温下において、環状弁座2の外径を装着溝部8の外径より小さく縮径設計されるが、この縮径を通常のバルブの場合よりもさらに小さく設計することで、環状弁座2の加熱膨張による圧迫・上昇を抑制するようにしている。
【0071】
次いで、本例のバルブの各構造を説明する。図1は、本例のバルブの一例構造であり、図2は、本例のバルブの他の例の構造である。何れも、ダイヤフラム1を介して、上述した本例の環状弁座2とダイヤフラムピース3が弁室6内に設けられており、バルブが全開した状態を示している。また、何れの構造においても、ダイヤフラム1を動作させるためのアクチュエータ本体11、33を有し、このアクチュエータ本体11、33は、往復運動によりダイヤフラムピース3を介してダイヤフラム1を開閉するロッド12、40と、エア圧を受けてロッド12、40を動作させるためのピストン13、34、35とを有し、別部材であるロッド12、40とピストン13、34、35とが所定のシール材により連結されている。
【0072】
図1は、本例のバルブにおいて、ピストンが1段のアクチュエータを備えた自動弁の構造の一例である。同図において、アクチュエータ本体11は内部に1枚のピストン13を備えており、このアクチュエータ本体11は、ボデー14に備えられている。
【0073】
図1において、ボデー14はSUS316L製の機械加工製品であり、水平方向の1次側流路15が垂直方向に屈曲して流入口4に繋がり弁室6内へと連通しており、流入口4開口周縁部に設けられた環状溝部8には環状弁座2が加締め固定され、その外周側には凹状空間が環状に設けられて弁室6の容積を規定し、その外周側にはダイヤフラム1を挟着する外部シール部7が断面略台形状となるように凸設されている。この弁室6の上側は筒状のボンネット16外周を嵌合できる筒状に形成され、その外周側には、ベース体17のメネジ部と螺合するオネジ部が設けられている。また、弁室6の底部には流出口5が開口して水平方向の2次側流路18に垂直に繋がっている。
【0074】
図1において、ベース体17は、SUS304製であり、下部内周面にはメネジ部が設けられてボデー14と螺着可能であり、上部外周側にはオネジ部が設けられてシリンダ19のメネジ部と螺着可能となっている。また、中央部にはロッド12が貫通・嵌合できる穴部17aが設けられている。
【0075】
図1において、ボンネット16は、SUS304製であり、外周面は略円柱形状に形成されて弁室6上部に嵌合可能となっており、中央部には、上側はロッド12が嵌合し、下側はダイヤフラムピース3が嵌り込めるように所定形状の貫通孔が形成されている。また、バルブに組み込まれた状態における下面側は、ダイヤフラム1の膨出形状に適合するように、求心方向に沿った略テーパ状面部となっており、この下面外周側は、ベース体17のメネジ部とオネジ部との螺着に伴い上面側がベース体17から弁室6側に向けて押し込まれることにより、ダイヤフラム1外周囲を挟んだ状態で弁室6外周に凸設された外部シール部7に押圧されてダイヤフラム1を弁室6内に挟着固定できる。
【0076】
図1において、ダイヤフラム1は、Co合金製で必要枚数を積層するようにして用いられ、自然状態では緩やかな凸曲面から成る丸皿形状を呈しており、中央部が所定範囲内で凹み変形しても自己復帰力でこの自然形状に戻ることができる。バルブに組み込まれた状態では、外周囲が外部シール部7として上下から狭圧されて弁室6内に固定され、その上には、ダイヤフラムピース3が遊嵌状に設けられている。
【0077】
図1において、ダイヤフラムピース3は、SUS304製であり、全体の形状は筒状部と鍔部からなる略傘状を呈しており、バルブに組み込まれた状態においては、筒状部が上側、鍔部が下側となってボンネット16の貫通孔下側に昇降動可能な遊嵌状に嵌合固定され、鍔部の外表面(下面30)は以下のように軸心対称的な凸曲面形状として形成されている。
【0078】
図3において、ダイヤフラムピース3の下面30は、同図下側に凸となった緩やかな曲面であり、同図(b)に示すように、少なくとも弁閉時にダイヤフラム1を介して環状弁座2に押圧された際に接離面20と対向する部位となる傾斜面30は、接離面20(テーパ面20)に形成された傾斜角度φに応じて形成された傾斜角度θのテーパ面乃至曲面状に形成されており、特に図4では、少なくともこの傾斜面30部分は、真円(球面)の一部として近似して示している。角度φとθとの具体的関係は上述の通りであるが、このような関連性以外にも、実施に応じて適宜設定可能である。
【0079】
図1において、アクチュエータ本体11は、ボデー14上部に備えられており、空圧式で所定の制御装置を用いて適宜の自動運転が可能である。
【0080】
シリンダ(カバー)19は、外観略円筒形状を呈し、軸心位置には図示しないエア供給源と接続可能な接続部と、その奥側には調整ネジ21を螺着可能なメネジ部が設けられる。調整ネジ21はSUS304製による先端平先タイプのセットスクリューの加工品であり、後述のようにバルブCv値調整用として設けられている。なお、シリンダ19はアルミを母材としており、調整ネジ21のオネジ部の螺着によりネジ山が潰れないように、メネジ部に所定の補強(Eサート挿入など)が施されてもよい。また、このメネジ部に続いてロッド12上部が昇降動可能に嵌合できる軸装部22が貫通している。
【0081】
図1において、シリンダ19の内側には、同軸状に圧縮バネ23が収容され、一端はシリンダ19側へ向けて、他端はピストン13側へ向けて弾発可能に設けられている。本例のバネ23は、高温における耐性を考慮したSUS631J1製であり、ピストン13を介してダイヤフラム1を弾発してバルブを閉じる一方で、エア室24へのエア圧によるピストン13の推力により圧縮されてバルブを開けることになるので、必要となる基本性能としては、アクチュエータ本体11内に組み込まれてセット長(初期たわみ長)まで圧縮された状態において、流体圧力が作用してもダイヤフラム1を変形させて環状弁座2と密着させることで十分にバルブを閉じることができる程度の大きさの荷重が必要であると同時に、アクチュエータ本体11へのエア供給に伴うピストン13の上昇推力よりも小さな荷重となるように、バルブが全開となる長さまでバネ23が圧縮されている状態の長さ(総たわみ長)における荷重を設計する必要がある。また、本例のバネ23は、出来るだけ内径を小さくすることで、軸心方向に作用する力は軸心に近い位置で発生するようにしてピストン13を傾斜させる方向に働く力が極力小さくなるようにしている。
【0082】
なお、本例のバルブにおいて、バネ23の荷重設計に際しては、バルブのシール面(接離面20)が傾斜したテーパ面20であることから、このシール荷重を、シール面が平坦な従来のバルブのシール面圧と同じになるように設定すると(すなわち、テーパ面による影響の分だけ僅かに大きく設定すると)、環状弁座2の潰れ量(変形量)も同じ程度になってしまいテーパ面20による効果が発揮されなくなる虞があるため、シール面の計算面積は単純に環状弁座2の内外径差(厚み)に基づいて計算して荷重設計しておき、その後の要素試験等で問題等が発生し次第、バネ23の荷重設定を変更して対応するようにするとよい。
【0083】
また、上述のように、本例のバルブでは、ロッド12とピストン13とは一体構造ではなく、別体構造を互いにシール材を介して組み立てている。図1において、ロッド12は、筒状の上部側にはOリング27が設けられ、シリンダ19の軸装部22内に、この内周面に対してシールが維持された状態で昇降動可能に嵌合されており、ロッド12の上端面は、調整ネジ21下端に当接可能となっていることで調整ネジ21によって上死点が規定され、これにより、ロッド12の昇降動ストローク、すなわちバルブストロークが調整ネジ21のねじ込み量によって直接調整可能となっている。
【0084】
また、ロッド12の軸心は縦方向にエア流路12aの主流路が連通しており、調整ネジ21に設けられたエア流路を介して、接続部に接続された図示していないエア供給源からのエアを連通・給排可能となっており、ロッド12中腹の横方向に連通したエア流路12aの支流路を介してエア室24へエアを供給可能となっている。ロッド12の下部側は、Oリング25を介してベース体17の穴部17aに昇降動可能に嵌合しており、ロッド12の下端面は、ダイヤフラムピース3の上端面と当接可能となっていることで、ダイヤフラムピース3をロッド12の降下に伴いダイヤフラム1を凹状に変形させながら押し下げて環状弁座2に密着させ、バルブを閉じることができるようになっている。さらに、耐摩耗性を向上させるため、ロッド12には所定の硬質アルマイト処理が施されている。ロッド12は、直進性を高めるためできる限り長い1ピース構造であれば好適である。
【0085】
図1において、ピストン13は、中央部に取付穴13aを有した略円盤状に一体形成されており、この取付穴13aにロッド12中腹のOリング26が設けられた位置に嵌合している。組み付けの際には、ロッド12の鍔部12bと取付穴13aに設けられた段部とを係合させた上で、ピストン13の上側に止め輪28を介して割リング29をロッド12に装着させているから、ピストン13は上下から挟まれて固定され、ロッド12に対して摺動不能に位置決めされる。これによりロッド12とピストン13とは一体的に固着されるが、あくまでロッド12とピストン13とはOリング26を介して別体であるから、ロッド12外径と取付穴13a内径の差やOリング26の弾性などに応じて、両者はシール性を維持しながらも揺動可能となる。
【0086】
ピストン13の外周側は、略円柱形状に形成され、Oリング31が設けられており、シリンダ19の筒状内周面に対してシール性を維持したまま上下に摺動可能となっており、また、ピストン13の下面側は、ベース体17との間で1つのエア室24が形成されている。
【0087】
昇降動部材(ロッド12とピストン13)は、部材全体として高い同軸性が要求されるが、上記構造のように、軸部品(ロッド12)と推力発生部品(ピストン13)に分離してそれぞれを弾力のあるOリングで連結することで、加工精度による同軸性に依存しないようにしている。これにより、シリンダ19内周面などの加工誤差の組み合わせに由来する偏芯から生じてくる、推力方向以外の変形作用に対して、柔軟に対応できる。
【0088】
本例のバルブでは、ロッド12とピストン13とをOリング26を介した分離構造としたことにより、ピストン13が受けるバネ23の荷重の偏りやシリンダ19に接するOリング31の摺動により生じる抵抗の偏り、さらに、加工誤差や組立誤差による軸ずれを、間に挟んだOリング26、31によって適切に吸収することでロッド12自身はピストン13の影響を受けることが無く直進することができるので、Oリング26、31へのストレスや編摩耗を防止する事ができる。
【0089】
なお、ロッド12やピストン13に設けられるOリング25、26、27、31を装着する各溝部は、200度の高温時における膨張を念頭に、使用箇所や摺動方向なども考慮して、常温時における基準よりも適当に大きい溝幅に形成されている。更に、これらのOリングの素材も耐熱用素材から適宜選定されていると共に、適当なグリス塗布も施されている。
【0090】
一方、図2は、ピストンが2段のアクチュエータを備えた自動弁の構造の一例である。同図において、アクチュエータ本体33は内部に2枚のピストン34、35を備えており、このアクチュエータ本体33は、ボデー32上部に備えられる。
【0091】
図2において、ボデー32は、垂直方向に穿設された1次側流路36が流入口4を介して弁室6内へ連通しており、弁室6内からは流出口5を介して垂直方向に穿設された2次側流路37へと繋がっている。また、弁室6の上側はボンネット38の外周下部を嵌合可能に筒状に形成され、その更に上部内周面には、ベース体39と螺着可能なメネジ部が設けられている。なお、図2のバルブの弁室6内部構造やダイヤフラム1、ダイヤフラムピース3の構造は、図1のバルブにおいて前述した構造と同様である。
【0092】
図2において、ベース体39は、SUS304製の機械加工品であり、上部外周面にはケーシングのメネジ部と螺着可能なオネジ部が設けられると共に、下部外周面にはボデー32のメネジ部と螺着可能なオネジ部が設けられ、中央部にはロッド40の下部が貫通・嵌合できる穴部39aが設けられている。
【0093】
図2において、ボンネット38は、SUS304製であり、鍔部38aと筒状部とから成る全体が略傘形状に形成され、鍔部38aの外周面は短尺の略円柱形状に形成されて弁室6の上側に嵌合可能となっており、中央部には、上側はロッド40下部が嵌合し、下側はダイヤフラムピース3が嵌り込めるように所定形状の貫通孔が形成されている。また、ボンネット38の鍔部38aの表面側は、バルブに組み込まれた状態における下面側となり、ダイヤフラム1の膨出形状に適合するように求心方向に沿った略テーパ状面部となっていると共に、この下面の外周側は、ベース体39のオネジ部とメネジ部との螺着に伴い鍔部38a裏面側外周囲に沿って環状に形成された凸部38bがベース体39下端面と当接して弁室6側に向けて押し込まれることにより、ダイヤフラム1外周囲を挟んだ状態で弁室6外周に凸設された外部シール部7に押圧されてダイヤフラム1を弁室6内に挟着固定できる。
【0094】
図2において、アクチュエータ本体33は、ボデー32上部に備えられ、空圧式で所定の制御による自動運転が可能である。シリンダ(カバー)41は、図1に示したシリンダ41と概ね同様の構造であり、接続部、調整ネジ42、軸装部43、バネ44が内部に備えられ、下部外周面には、ケーシング45上部のメネジ部と螺着可能なオネジ部が設けられている。ケーシング45は、所定の硬質アルマイト処理が施されており、外周は略円柱形状に形成され、ベース体39とシリンダ41との間にネジ部を介して接合されてアクチュエータ本体33の筐体の一部を構成している。また、中央部には、内周面にOリング46が設けられた位置にロッド40中腹に形成された拡径部の外周面が嵌合できる穴部が設けられている。
【0095】
図2において、ロッド40は、筒状の上部側にはOリング47が設けられ、シリンダ41の軸装部43内に、この内周面に対してシールが維持された状態で昇降動可能に嵌合されており、ロッド40の上端面は、調整ネジ42下端に当接可能となっていることで調整ネジ42によって上死点が規定され、これにより、ロッド40の昇降動ストローク、すなわちバルブストロークが調整ネジ42のねじ込み量によって直接調整可能となっている。
【0096】
同図において、ロッド40の軸心は縦方向にエア流路40aの主流路が連通しており、調整ネジ42に設けられたエア流路を介して、接続部に接続される図示しないエア供給源からのエアを給排可能となっており、ロッド40の横方向に連通したエア流路40aの2つの支流路を介して2つのエア室48、49へそれぞれエアを供給可能となっている。また、ロッド40の下部側は、Oリング50を介してベース体39の穴部39aに昇降動可能に嵌合しており、ロッド40の下端面は、ダイヤフラムピース3の上端面と当接可能となっていることで、ダイヤフラムピース3をロッド40の降下に伴いダイヤフラム1を凹状に変形させながら押し下げて環状弁座2に密着させ、バルブを閉じることができるようになっている。さらに、耐摩耗性を向上させるため、ロッド40には所定の硬質アルマイト処理が施されている。ロッド40は、直進性を高めるためできる限り長い1ピース構造であれば好適である。
【0097】
図1において、2枚のピストン34、35は、それぞれ中央部に取付穴34a、35aを有した略円盤状に一体形成されており、この取付穴34a、35aにロッド40のOリング54、55が設けられた位置にそれぞれ嵌合しており、外径側にはOリング56、57が備えられて筒状のケーシング45内周面、ベース体39の内周面にそれぞれシール性を保ったまま摺動可能となっているので、ピストン34、35の下側に形成されるエア室48、49の内圧が損なわれることはない。また、ロッド40中腹は拡径した拡径部が形成されており、この拡径部の上下端部には段状の係合部40b、40cがそれぞれ形成され、上側のピストン35は、上面側がバネ44の下側となる他端から常時下に向けて弾発付勢されており、下面内径側は係合部40bに係合しているため、バネ44に係合部40bへ向けて常時押圧固定されていることで、ピストン35はロッド40に対して位置が固定され両者は常時一体的に連動する。
【0098】
一方で、下側のピストン34は、同図に示すように、エア充填時のエア圧による上昇動が係合部40cに係止されるのみであり、ロッド40に対して位置が固定されていないが、ピストン34の外径側はOリング56にシールされ、内径側はOリング54にシールされており、これらのシール性が維持される範囲で昇降動するので、エア室48の内圧が損なわれることはない。
【0099】
上記のようにロッド40とピストン34、35とを別体に分離した構造とすることで、図1において前述したロッド12とピストン13との分離構造と同様の効果を得ることができる。また、図1に示した1段タイプのアクチュエータの場合と異なり、図2の2段タイプのアクチュエータの場合は、ロッド40と2枚のピストン34、35とを完全に連動させる(ロッド40に対して位置決め固定する)必要はなく、同図のようにピストン34、35がロッド40に対して相対的にある程度の範囲内で摺動できるように構成されている場合であっても、バルブの使用状態においてピストンとロッドとの間でシール性が常時維持されて、エア室の内圧が損なわれることが無ければ十分である。
【0100】
続いて、本例のバルブの作用を説明する。図1、2、及び3(a)は、それぞれ本例のバルブの全開状態を示している。以下、図1、2のバルブを共通して説明する。
【0101】
この全開状態では、エア室24、48、49へのエア充填が完了しており、これらエア室の内圧によってバネ23、44による付勢力に抗ってピストン13、34、35が所定の推力で上昇し、ロッド12、40上端が調整ネジ21、42の下端に突き当たって上死点(バルブストロークの上限位置)まで上昇している。このため、ロッド12、40下端面も上限位置まで上がり、ダイヤフラムピース3の上端面が自由となるためにダイヤフラム1の自己復帰力で持ち上げられ、ダイヤフラム1は自然形状まで形状復帰し、これによりバルブが全開状態となっている。なお後述するように、調整ネジ21、42のねじ込み調整(ストローク調整)によりロッド12、40の上限位置を最大ストローク位置(上死点位置)より下の位置に設定しておくことで、最大流量はある程度減少するもののCv値変動抑制に極めて有効となる。
【0102】
全開状態において、エア室24、48、49からエア流路12a、40aを介してエアを抜いていくと、これに伴いバネ23、44の弾発力が勝っていき、ピストン13、34、35を押下げてエア室24、48、49の容積が減少していき、これに伴いロッド12、40も押し下げられていく。すなわち、図1ではピストン13の段部が鍔部12bに係合してバネ23の力を伝えることでロッド12が押し下げられ、図2ではピストン35の係合部40bに係合してバネ44の力を伝えてロッド40が押し下げられる。これに伴いロッド12、40の下端面がダイヤフラムピース3の上端面に当たって押下げていき、この押下げ力がダイヤフラム1或は流体からの反力に打ち勝ってダイヤフラムピース3を押下げていくことでダイヤフラム1の中央部が凹状に変形し、最終的には傾斜面30がダイヤフラム1を介して接離面20に圧着することでバルブが全閉状態となる。この全閉状態は、図3(b)に示されている。
【0103】
続いて、本発明のバルブの組み立て方法について説明する。本発明のバルブにおいては、バルブの構成部品を常温より高い温度で加温処理した状態でバルブを組み立てるようにしており、この常温より高い温度として、例えば80度程度を選択している。
【0104】
本例のダイヤフラムバルブは、200度程度の高温(熱浴)に浸漬された状態での使用を想定しているため、常温仕様の製品に比べ特に部材の熱膨張の影響を受けやすい。そこで、常温よりも高い温度、つまりなるべく使用温度に近い温度環境下においてバルブの組み立てを行うことで、通常通り常温で組み立てた場合に比べて、使用環境温度との差を小さくできるため、予め部品を使用温度に馴染んだ状態で相互に組み付けることができ、よって、熱膨張に起因する変形等が生じ難い。特に、高温環境下で各部品により規定されている流路形状の変形・歪み等も生じ難くなくなるので、結果的にはバルブCv値変動の安定化にも寄与するばかりか、バルブの強度・耐久性の向上も期待できる。さらに、パーティクルは熱泳動の影響で部品から遠ざけられるから、パーティクルが部品に付着し難く、クリーン性の観点からも好適である。また、このバルブ組み立て温度は、バルブの使用最高温度で組み立てを行うことが最適なので、本例のバルブの場合は200度が理想的であるが、現実的には人間による作業を想定し、80度程度で行うことが好ましい。
【0105】
部品を常温より高い温度に保った状態でバルブの組み立てを行う手段としては、実施に応じて任意に選択できるが、実際に作業者による手作業で簡易に行われる手段の一例としては、バルブの部品群をホットプレートの上に載置して、部品群が全体的に80度程度の温度になる所定の基準時間の間放置して加熱を待った後、作業者は耐熱グローブなどを装着して手作業で一品ずつ部品を組み立てる、といった工程を採ることができる。ホットプレートは所定の加熱装置が内蔵された作業台であるが、この他、加熱装置としては台上方に設けたランプヒータなどで照射加熱するようにしてもよく、さらに、被覆カバーや気流発生装置などと組み合わせや、加熱位置の限定などにより、加熱・作業効率の向上を図ることも可能である。
【0106】
特に、上記の類のバルブにおいて、ダイヤフラム1に関し、ダイヤフラム1を常温でバルブに組み込んだ(外部シール部7に挟着させた)状態における自然形状の膨出高さ(中央部の外周囲部分に対する高さ)は、バルブを200度環境下に曝した後においては、熱の影響を受けやすい円盤状のダイヤフラム1の内径側が略均一に径方向に熱膨張しようとすることで中央部が突っ張る傾向が有り、更に外部シール部7等の部材の熱膨張の影響に基づき、結果的に約5%高さが落ち込むことが判明している。
【0107】
これに対し、上記のように組立工程の温度環境を80度程度に設定して組み立てられた本例のバルブの場合、80度環境においてダイヤフラム1や外部シール部7などの部材が予め所定の熱膨張を済ませた状態であるから、この状態で組み立てられたバルブ、特にダイヤフラム1と外部シール部7は、熱膨張による影響が有効に低減されている。実際、本例のバルブが200度環境下に曝された後であっても、ダイヤフラム1の自然形状の膨出高さは、常温時に対して、つまり組み立て後にいったん常温環境に冷やした状態での膨出高さに比べて、約3~4%であることが判明しており、常温組み立て品に対し組み立て時と使用時との変化、特に流路開口面積の変化を、更に小さくできていることが実証されている。
【0108】
なお、図2に示した本例のバルブの組み立ての一例としては、アクチュエータ本体33を組み立てる際には、先ずシリンダ41にEサートを挿入して調整ネジ42を取付けると共にバネ44を挿入しておき、次に、2つのピストン34、35の外周にOリング56、57を装着し、ロッド40下部にOリング50、54を装着してピストン34を下部に組み付ける。次いで、ベース体39の穴部39aにロッド40下部を取り付けると共に、ケーシング45中央の穴部にOリング46を装着しておき、このケーシング45の穴部にロッド40の拡径部を通してベース体39と螺合する。
【0109】
次いで、ロッド40上部にOリング47、55を装着してピストン35を組み付け、これにシリンダ41を螺合させて組立が完成する。また、ボデー32を組み立てる際には、環状弁座2が装着溝部8にカシメ固定されたボデー32の弁室6上部にダイヤフラム1を載置した後、ダイヤフラムピース3を装着したボンネット38を、この弁室6上部に適切に挿入しておく。その後、組み立てたアクチュエータ本体33のベース体39のオネジ部を、ボデー32のメネジ部と適切に螺着させると、弁室6を密封する外部シール部7が適切に構成され、図2に示したバルブの組み立てが完了する。
【0110】
また、本例のバルブの組み立て後は、使用開始前(出荷前)に予め、バルブの馴らし(馴染ませ)工程が施される。本例では、組み立て完了後のバルブに対して、バルブを閉じた状態において所定時間・所定温度でアニール処理が施される。例えば本例のバルブの場合、使用条件に応じた所定の弁閉力でバルブを閉じた状態で、230度環境下で所定時間アニール処理が施される。初期状態の環状弁座2は無負荷状態であったため、弁閉動作による押圧負荷で寿命中最も潰れやすい状態、つまり形状(特に高さ)変形し易い状態にあるので、このまま出荷してしまうと、弁開閉によって大きな形状変形量が生じてバルブの大きなCv値変動を生じやすい。
【0111】
これに対し、前記馴らし工程を経ることにより、環状弁座2の形状が適度に馴染み、押圧負荷に対して安定した状態にすることができ、結果としてバルブのCv値変動安定化に寄与するものとなる。特に本発明ではダイヤフラムピース3の傾斜面30(傾斜角度θ)に応じて接離面20に傾斜角度φのテーパを形成しているから、馴らし工程においてもシール面に高い均一性の面圧が作用し、よって、この種の従来のバルブに比して、馴らし効果(形状安定化効果)を一層高めることができる。
【0112】
最後に、本発明のバルブの使用状態における特性変化について説明する。先ず、本例のバルブにおいて、常温と200度とにおけるバルブの特性変化に関しては、ダイヤフラム1の落ち込み量が0.12mm以内であると共に、Cv値の差が0.15以内が実現されている。
【0113】
先ず、本例のバルブでは、使用開始前に、昇降動するロッド12、40の上端が突き当たる調整ネジ21、42のねじ込み量の調整によって、ロッド12、40上端の上死点、すなわちバルブストローク上限位置を、ダイヤフラム1の最大膨出高さに対応した最高位置より下げる(ストローク調整)ことにより、バルブのCv値を調整するようにしている。これは、バルブの個体差を解消させて個体に依らず均一なCv値が確保できるようにするための個体差調整であり、例えばバルブの200度でのCv値が0.6~0.7程度に設計されている場合は、このストローク調整によって、Cv値を0.5程度になるように抑えられる。この調整によって、個体差のバラツキに依らず常温と200度におけるバルブのCv値の差を例えば±5%以内まで高精度に解消できる。また、ダイヤフラム1が最大幅で変形することが防止され、ダイヤフラム1の耐久性も向上する。このようなストローク調整によっても、例えば、バルブの常温と200度とのCv値の差を、0.15以下、好ましくは0.12以下に収めることも可能である。
【0114】
Cv値の安定性については、本例のバルブは、200度もの高温で多数回動作されることを想定している。また、200度に限らず、ユーザーの使用条件によっては、常温から200度までの様々な温度範囲で動作することができなければならない。このようなバルブにおいては、高い耐久性に加えて、動作の安定性も必要となる。具体的には、動作中、Cv値の変動がなるべく少ない特性が必要とされる。
【0115】
これに対して、本発明のバルブでは、ダイヤフラムピース3の傾斜面30と環状弁座2の接離面20(テーパ面20)との効果によって、従来のこの種のバルブに比して、シール面圧の均一化が実現されている上に、環状弁座2の形状変形量の低減も実現されている。
【0116】
図8は、この形状変形量の低減を実証した実験結果として、環状弁座2の弁座潰れ量を計測したグラフ図である。同図に示した実験では、常温環境下で、環状弁座2がカシメ固定されたボデー32にダイヤフラム1を載置し、その上から押圧推力を計測可能な所定器具(ロードセル)を用いてダイヤフラムピース3によってダイヤフラム1を押圧し、このロードセルの負荷(N)と環状弁座2の潰れ量(mm)の計測値を幾つかプロットしたグラフ図であり、カーブ(実線)はその多項式近似曲線(回帰分析)である。併せて同図には、接離面が平坦形状である従来の環状弁座の一例(比較例)を用意して同様の計測を行い、比較例としてのプロットとカーブ(点線)を示している。
【0117】
図8に示すように、本発明の環状弁座2においては、推力400N程度(本例のバルブにおいてアクチュエータ本体11、33が実際に環状弁座2を押圧する推力に匹敵する)の時点でも弁座潰れ量は0.02mmを超えない程度しか潰れておらず、接離面20(テーパ面20)がダイヤフラムピース3の押圧を受けることによる形状変形に対する高い耐性が実証されている。しかも比較例構造では、予めカシメ固定された環状弁座に対して、前述した所定の馴らし(馴染ませ)工程が施されたものを用いているので、潰れ変形に対してはある程度耐性を有したものであるが、このような比較例よりも大幅に潰れ量が小さい。よって、本例のバルブの環状弁座2は、弁閉力に対する高い耐潰れ性(特に高さ方向の潰れ)が発揮されている。
【0118】
なお図示していないが、図8の実験データは常温環境下であり、例えば環状弁座がPFAなどの樹脂製の場合、200度などの高温では材質の硬さがかなり軟化するので、この高温環境下で図8と同じ実験をすれば潰れ量の絶対量は同図の場合よりかなり大きくなると推測されるが、材質等、温度条件以外の条件が同じであれば従来例との相対的な関係(潰れ量が小さくなる関係)は同じであり、むしろ差は広がるものと推測できるので、本例のバルブの環状弁座2は、200度などの高温環境下においても、常温環境下と同様に弁閉力に対する高い耐潰れ性が発揮されることが期待できる。
【0119】
また、図9は、図2に示した本例のバルブにおいて、加熱による常温時と高温時とで比較したダイヤフラム1の落ち込み量をグラフに示したものである。同図に示した実験では、ボデー32にダイヤフラム1の所定枚数を重ねた上で締め付けて外部シール部7を構成した状態とし、先ず常温において、自然形状に膨出しているダイヤフラム1の中央部の高さとして、ボデー32の底部からの距離を計測した。次いで、この状態のボデー32をホットプレートに乗せて200度まで加熱し、この状態を保って再びダイヤフラム1の中央部の高さを同様に計測した。また、この200度までの途中温度(50度、100度、150度)でも、同様に中央部の高さを計測した。図9は、この計測高さを温度上昇を横軸としてグラフ化したものである。なお、同図における実線は、前述したアニール処理を予め施して馴染ませ工程を経たサンプルであり、点線は、アニール処理を施していないサンプルのデータである。
【0120】
同図に示されるように、本例のバルブでは、常温から200度までのダイヤフラム1の落ち込み量が0.12mm以内であり、落ち込み量が小さく抑えられていることがわかる。この落ち込み量は、流路開口面積の変動に直接関連しているから、バルブのCv値変動に直接影響を及ぼす要因であり、より小さく抑えられている方が好ましいため、例えば0.10mm以内であれば更に好適である。また、ダイヤフラム1の落ち込み量が0.12mm以内というのは、従来のこの種のバルブにおいてはかなり小さい量であり、このように小さく抑えることができている要因の一つとして、例えば、上述したバルブの組立工程を高温環境下で行うこと(ダイヤフラム1の膨出高さの低減)が考えられる。
【0121】
図10は、図2に示した本例のバルブにおいて、バルブボデーの加熱時間を横軸として、バルブのCv値の時間変化と加熱による温度変化を計測したグラフの一例を示したものである。同図に示した実験では、Cv値の計算式としては一般的に定義された式を用いており、この実験では流体がガスの場合に定義される以下の数3に基づき算出している。なお、実験計測はしていないが、流体が清水の場合にも一般的に定義される計算式で算出可能であることは勿論である。また、本例のバルブのCv値は、概ね図3に示した弁室6内の構造に基づくことから、図1に示したバルブにおいても、概ね同様の結果になると考えられる。
【0122】
【数3】
【0123】
また、この実験計測では、ボデー32を所定の加熱治具(ボデー32加熱用)で把持固定し、ボデー32外の1次側流路の下流側には所定のマスフローメータ(流量q[Nm/hr]計測用)と熱交換器(ガス加熱用)を流路に直結し、また、ボデー32外の一次側と二次側流路の直近にそれぞれ所定の差圧計測装置(1次側流路36内と2次側流路37内の圧力ΔP[kPa]と、1次側流路36内の絶対圧P[kPa]の計測用)を接続し、試験ラインを構成しておく。Sgはガスの比重(窒素ガス:0.97[g/cm])であり、温度T[K]は、ボデー32の1次側流路36の出口付近に固定した熱電対によって計測される。
【0124】
この実験計測では、先ず、上記のように構成した試験ラインの加熱治具に本例のバルブをラインにガスを流せるように固定した後、バルブを開いて常温の窒素ガスを所定量流す。次いで、測定圧力ΔPやPが安定してきたら、熱交換器と加熱治具の電源を投入して窒素ガスの加熱を開始すると共に、各データ(q、ΔP、P、T)の計測とCv値の算出をスタートする。その後、測定温度Tが安定した200度を示すようになるまで放置する(約1時間)。図10は、このようにして計測・算出されたCv値の時間変化と、この際のボデー32の加熱温度を示している。同図に示されるように、本例のバルブでは、常温から200度までのCv値の差が0.15以下が実現されていることがわかる。また、ボディや配管が十分に加熱されて高温度で安定化するまでの時間は、配管形状や容量、流体の流量などで異なってくるが、本例では200度に安定化するまでは、少なくとも1時間(3600秒)程度かかることがわかる。
【0125】
更に、本例のバルブでは、高温環境下(例えば200度)において0回から1000万回までバルブを開閉動作させる間、バルブのCV値の変動幅が、初期Cv値に対して10%以内に維持される。これは、上記のようにダイヤフラム1の落ち込み量が小さいことに加えて、環状弁座2にテーパ面20が形成されている点も寄与していると考えられる。上述したように、環状弁座2はこのテーパ面20によってダイヤフラムピース3からの押圧に対する変形耐性が高いため、バルブ開閉を多数回繰返した後であっても、変形量が少ないため流路断面積の変動も生じ難くバルブのCv値安定化に寄与している。
【0126】
なお、上記実験計測に用いたバルブは、前述した調整ネジによるバルブストロークの調整により、200度環境下におけるバルブのCv値が0.6となるように予め調整されたバルブを用いている。図10に示されるように、計測開始直後の短い時間帯においては、Cv値が僅かに増加したピークが見られるが、その後の長い時間帯において、特に加熱温度が安定している領域においては、Cv値が安定化していることがわかる。
【0127】
図11は、図2に示した本例のバルブにおいて、バルブの開閉回数を横軸として、従来構造のバルブとの比較で、200度環境下(200度の高温流体を流している状態下)においてバルブのCv値の時間変化を計測したグラフの一例を示したものであり、Cv値の測定方法は、図10で前述した計測方法と同様である。同図において、発明品1、2とあるのは同一条件で製造された本例のバルブを2例用意したサンプル品から取得したデータであり、従来品とあるのは、本例のバルブと同様のタイプの従来構造のバルブを1例用意してデータを取得した参考データである。また、同図(a)は、実際の開閉回数(横軸:0回~1000万回)とCv値(縦軸:0.40~0.60)とのグラフ図であり、同図(b)は、縦軸を初期Cv値からの変化率としたグラフ図である。
【0128】
同図において、発明品1では、バルブ開閉回数が0回時点である初期Cv値が0.504であり、0~1000万回開閉の間、最小Cv値が0.478、最大Cv値が0.504であったため、変動幅は0.026であった。発明品2では、バルブ開閉回数が0回時点である初期Cv値が0.503であり、0~1000万回開閉の間、最小Cv値が0.497、最大Cv値が0.508であったため、変動幅は0.011であった。一方で、従来品では、バルブ開閉回数が0回時点である初期Cv値が0.503であり、1000万回開閉を待たずに、約400万回開閉の時点において、既に最小Cv値が0.503、最大Cv値が0.574であったため、変動幅は0.071であった。このグラフ傾向からすれば、400万回以上の領域では変動幅は更に大きくなることが推測できる。
【0129】
図11(b)は、上記実験例を変化率としてグラフ化したものである。同図に示されるように、本発明品1、2においては何れも、200度高温流体使用状態において、バルブを0~1000万回開閉動作させた際のCv値変動は、初期Cv値に対して10%の範囲内に収まっており、対して従来品では約400万回開閉の時点において、既に10%を大きく超えている。よって、本発明品では極めて多数回のバルブ開閉に対しても極めて高いバルブの耐Cv値変動性が実現されていることがわかる。なお、同図において、発明品1では僅かに-5%を下回っているデータがあるが、同図のデータからは、発明品のサンプルによっては、さらにCv値変動幅が小さい発明品も実現可能であることが十分に推測できるデータであり、例えば、変動幅が5%未満であれば更に好適と言える。
【0130】
さらに、以下の表2は、前述のバルブストローク調整によって、200度の高温環境下においてバルブCv値が0.5となるように調整された本例のバルブの実施例1~3を用いて、Cv値変動を計測した実験データである。表2において、「常温」とは、実施例のバルブを常温環境下に曝した状態で0~1000万回バルブを開閉させ、その間の所定の回数となった時点で流体を流してCv値を計測したデータであり、「200℃」とは、実施例のバルブを200℃環境下に曝した状態で0~1000万回バルブを開閉させ、その間の所定の回数となった時点で流体を流してCv値を計測したデータであり、「差」とは、その回数の時点での常温と200℃とのCv値の差である。
【0131】
【表2】
【0132】
表2に示されるように、実施例1~3の何れも、少なくとも、0~1000万回のバルブ開閉の全ての時点において、常温と200度とのCv値の差(すなわち表2の「差」に示された全てのデータ)は0.15以下であると共に、200℃において1000万回バルブを開閉した後のCv値の変動(すなわち列「200℃」の最上行のデータ(初期)と最下行のデータとの差)は、初期Cv値に対して10%以下となっていることが実証されている。
【0133】
更に、本発明は、前記実施の形態の記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
【符号の説明】
【0134】
1 ダイヤフラム
2 環状弁座
2a 頭頂部
3 ダイヤフラムピース
4 流入口
5 流出口
9 10 51 52 カシメ部
9b 10b 51b 52b 基部
11 33 アクチュエータ本体
12 40 ロッド
13 34 35 ピストン
14 32 ボデー
20 接離面(テーパ面)
25 54 55 Oリング(シール材)
30 下面(傾斜面)
L 出シロ距離
θ 傾斜角度(傾斜面)
φ 傾斜角度(テーパ面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11