(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】絶縁性無機粉体およびその製造方法ならびに粉体処理剤
(51)【国際特許分類】
B22F 1/17 20220101AFI20220325BHJP
C23C 22/20 20060101ALI20220325BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20220325BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220325BHJP
【FI】
B22F1/17 100
C23C22/20
H01F1/24
C22C38/00 303S
(21)【出願番号】P 2018082190
(22)【出願日】2018-04-23
【審査請求日】2021-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【氏名又は名称】下田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】豊島 幹人
(72)【発明者】
【氏名】速水 仁
(72)【発明者】
【氏名】石井 覚
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216964(JP,A)
【文献】特開2005-213619(JP,A)
【文献】特開2017-145506(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107190252(CN,A)
【文献】国際公開第2005/083725(WO,A1)
【文献】特開2017-188680(JP,A)
【文献】特開2012-119708(JP,A)
【文献】国際公開第2002/058085(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C23C 22/00-22/86
H01F 1/12-1/38
H01F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体の表面上に、少なくともNi、AlおよびPを含み、P/(Ni+Al)モル比が0.5以上15.0以下の範囲内である皮膜を有する絶縁性無機粉体。
但し、皮膜中にシリカを含有するものを除く。
【請求項2】
前記皮膜のAl/Niモル比が0.003以上0.500以下の範囲内である請求項1に記載の絶縁性無機粉体。
【請求項3】
少なくともNiイオンと、Alイオンと、リンを含むイオンと、水性媒体と、を含み、NiイオンおよびAlイオンの金属換算合計100質量部に対して、リンを含むイオンの供給源の配合量が100質量部以上3000質量部以下の範囲内であり、水性媒体の量が1000質量部以上40000質量部以下の範囲内である粉体処理剤。
但し、粉体処理剤中にシリカを含有するものを除く。
【請求項4】
前記粉体処理剤の遊離酸度(FA)が0.3ポイント以上30.0ポイント以下の範囲内である請求項3に記載の粉体処理剤。
【請求項5】
無機粉体と、請求項3または4に記載の粉体処理剤と、を含む組成物を加熱して、前記組成物中の揮発分を蒸発させる工程を含む、無機粉体の表面上に皮膜を形成した絶縁性無機粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や電子部品に有用な、絶縁性に優れた無機粉体およびその製造方法ならびにその製造方法に使用可能な粉体処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や電気機器の小型化に伴い、それらに使用される電子部品には、優れた磁気特性を有することが要求されている。そのため、電子部品に使用される磁性粉体には高い絶縁性が必要である。よって、表面に皮膜を有する絶縁性磁性粉体が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、軟磁性の鉄基粒子の外周に絶縁被膜が被覆された被覆軟磁性鉄基粒子を複数具える被覆軟磁性鉄基粉末が開示されている。
【0004】
特許文献2には、鉄基軟磁性粉末表面に、リン酸系化成皮膜が形成されており、前記リン酸系化成皮膜にはニッケル元素が含まれており、かつ前記リン酸系化成皮膜中のアルミニウム元素の含有率が、前記粉末中のアルミニウム元素の含有率以下である、圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-131676号公報
【文献】特開2013-216964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の被覆軟磁性鉄基粉末においては、絶縁性が十分ではないため、電子部品に使用される磁性粉体には適さない場合がある。また、特許文献2に記載の圧粉磁心用鉄基軟磁性粉末においては、粉末を電子部品に成型する際の圧粉成型時に絶縁性が低下し、成型した電子部品が十分な絶縁性を有さない可能性がある。そこで、本発明は、絶縁性に優れ、且つ、圧粉成型時の絶縁性低下を抑制できる性質(以下、耐プレス圧性とも称する。)に優れた無機粉体およびその製造方法、ならびにその製造方法に使用可能な粉体処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の粉体処理剤を用いて、無機粉体の表面上に、Ni、AlおよびPを含み、P/(Ni+Al)モル比がそれぞれ所定の範囲内である皮膜を形成することで、絶縁性および耐プレス圧性に優れた無機粉体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)無機粉体の表面上に、少なくともNi、AlおよびPを含み、P/(Ni+Al)モル比は0.5以上15.0以下の範囲内である皮膜を有する絶縁性無機粉体;
(2)前記皮膜のAl/Niモル比は0.003以上0.500以下の範囲内である(1)に記載の絶縁性無機粉体;
(3)少なくともNiイオンと、Alイオンと、リンを含むイオンと、水性媒体と、を含み、NiイオンおよびAlイオンの金属換算合計100質量部に対して、リンを含むイオンの供給源の配合量が100質量部以上3000質量部以下の範囲内であり、水性媒体の
量が1000質量部以上40000質量部以下の範囲内である粉体処理剤;
(4)前記粉体処理剤の遊離酸度(FA)が0.3ポイント以上30.0ポイント以下の範囲内である(3)に記載の粉体処理剤;
(5)(3)または(4)のいずれかに記載の粉体処理剤を無機粉体に接触させた後、加熱して前記粉体処理剤の揮発分を蒸発させることにより得られる皮膜を有する、絶縁性無機粉体;
(6)無機粉体と、(3)または(4)のいずれかに記載の粉体処理剤と、を含む組成物を加熱して、前記組成物中の揮発分を蒸発させる工程を含む、無機粉体の表面上に皮膜を形成した絶縁性無機粉体の製造方法;
などである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、絶縁性および耐プレス圧性に優れた無機粉体およびその製造方法、ならびにその製造方法に使用可能な粉体処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態である絶縁性無機粉体は、無機粉体の表面上に、少なくともNi、AlおよびPを含み、P/(Ni+Al)モル比が0.5以上15.0以下の範囲内である皮膜を有する。
その原料として用いられる無機粉体は、無機物質からなる粉体であれば特に粒径、形状、組成等に制限されるものではない。原料無機粉体としては、例えば、電子部品の材料として有用であることから、磁性を有する無機粉体であることが好ましく、磁性を有する無機粉体としては、鉄を含むものが好ましい。また、無機粉体は導体であるものが好ましく、導体であるとは、例えば電気伝導度が1×106S/m以上であってよく、1×105S/m以上であってよい。
【0011】
鉄を含む無機粉体としては例えば、Fe(純鉄粉)や、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Ni系、Fe-Si-Al系、Fe-Cr系、Fe-Co系、Feアモルファス等の金属化合物が挙げられる。また、他の無機粉体の例として、金属の、酸化物、窒化物、硼化物等の無機化合物が挙げられ、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、
窒化硼素(BN)、フェライト(MFe2O4;Mは2価の金属元素を表す)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、炭化珪素(S
iC)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO2)、ジルコン(ZrO2・SiO2)
、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)、等が挙げられる。
【0012】
無機粉体の粒径は特段限定されないが、その累積分布の50体積%粒径(D50)が通常0.1μm以上であり、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、また通常1000μm以下であり、500μm以下であってよく、200μm以下であってよく、100μm以下であってよい。
無機粉体の形状も特段限定されず、アスペクト比が通常50以下であり、20以下であってよく、10以下であってよく、また通常1以上である。
【0013】
絶縁性無機粉体が有する皮膜は、少なくともNi、AlおよびPを含み、他の元素を含むものであってもよい。他の元素としては、例えば、無機粉体に含有される成分等を挙げることができる。その他、水分や原料由来のHおよびOや、後述するリンを含むイオン供給源に含まれる元素等を挙げることができる。
【0014】
本実施形態においては、皮膜中のNiおよびAlの合計に対するPのモル比(P/(N
i+Al))が0.5以上15.0以下の範囲内である。これらのモル比が一定の範囲内であることにより、プレス圧に影響を受けにくい、優れた絶縁性を有する皮膜を、無機粉体の表面上に均一に形成することができる。
(P/(Ni+Al))のモル比は、0.9以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましい。また、10.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。
【0015】
また、皮膜中のNiに対するAlのモル比(Al/Ni)が0.003以上0.500以下の範囲内であることが好ましく、0.004以上0.400以下の範囲内であることがより好ましく、0.005以上0.300以下の範囲内であることが更に好ましい。
【0016】
皮膜中のNi、AlおよびPの含有量は、以下の方法により求めることができる。まず、絶縁性無機粉体と硬化性樹脂(樹脂と硬化剤との組成物であってもよい。)との混合物を硬化させる。次に、硬化物を機械研磨した後、イオンミリングを用いて薄片を作製する。続いて、透過型電子顕微鏡(TEM)付帯のエネルギー分散型X線分光分析(EDS)および電子線エネルギー損失分光分析(EELS)を用いて、薄片における絶縁性無機粉体の皮膜を元素分析する。得られた各元素の元素分析値(強度)から、各元素の含有量を算出できる。
【0017】
前記皮膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、1nm以上50nm以下の範囲内であることが好ましく、2nm以上40nm以下の範囲内であることがより好ましく、4nm以上30nm以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0018】
皮膜厚は、作製した薄片を、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することで測定することができる。
【0019】
上記皮膜を形成するための粉体処理剤は、少なくともNiイオンと、Alイオンと、リンを含むイオンと、水性媒体と、を含むものであれば特に制限されるものではなく、他の成分を含むものであってもよい。粉体処理剤に配合される、リンを含むイオン供給源の量は、NiイオンおよびAlイオンの金属換算合計100質量部に対して、100質量部以上3000質量部以下の範囲内であること好ましい。また、粉体処理剤に含まれる水性媒体は、NiイオンおよびAlイオンの金属換算合計100質量部に対して、1000質量部以上40000質量部以下の範囲内であることが好ましい。
なお、Niイオン、Alイオン、リンを含むイオン以外の他の成分は、粉体処理剤に含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。「粉体処理剤に含まれていない」とは、意図的に配合しないことを意味し、不可避的に混入されることを排除するものではない。
【0020】
粉体処理剤に含まれるNiイオンとしては、ニッケルイオン、ニッケルを含む錯体イオン等があげられる。粉体処理剤中に含まれるNiイオンの供給源は特に限定されず、一般的に市販されている試薬を用いることができる。具体的には、硫酸ニッケル・6水和物、塩化ニッケル・6水和物、塩基性炭酸ニッケル・4水和物、酢酸ニッケル・4水和物、硝酸ニッケル・6水和物などが挙げられる。なお、これらの試薬は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
粉体処理剤中に含まれるNiイオン濃度は、上記皮膜中のNi濃度を充足する限り特段限定されないが、粉体処理剤1kgあたりのNiイオン濃度は、金属換算質量濃度で通常1g以上であり、2g以上であってよく、また通常75g以下であり、60g以下であってよい。
【0021】
粉体処理剤に含まれるAlイオンとしては、アルミニウムイオン、アルミニウムを含む錯体イオン等があげられる。粉体処理剤中に含まれるAlイオンの供給源は特に限定され
ず、一般的に市販されている試薬を用いることができる。具体的には、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム・6水和物、硫酸アルミニウム・14~18水和物、硝酸アルミニウム・9水和物などが挙げられる。なお、これらの試薬は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
粉体処理剤に含まれるリンを含むイオンとしては、リン酸イオン、次亜リン酸イオン、ポリリン酸イオン、ホスホン酸イオンなどが挙げられる。粉体処理剤中に含まれるリンを含むイオンの供給源は特に限定されず、無機リン化合物および有機リン化合物のいずれも用いることができ、無機リン酸、有機リン酸、及びそれらの塩(例えば、アルカリ金属塩等の金属塩、アンモニウム塩等)であってもよい。具体的には、リン酸、次亜リン酸(ホスフィン酸)、ポリリン酸、ホスホン酸、及びそれらの塩、並びにリン酸エステル等を挙げることができる。なお、これらのリンを含むイオンの供給源は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
リン酸は、例えば、75%や85%などの任意の質量パーセントのリン酸水溶液やリン酸ナトリウム水溶液を使用できる。次亜リン酸(ホスフィン酸)は、例えば、50%次亜リン酸水溶液、ホスフィン酸ナトリウム一水和物、フェニルホスフィン酸等を使用できる。ポリリン酸は、例えば、トリポリリン酸、テトラリン酸、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム等を使用できる。リン酸エステルは、水溶化のために親水基、例えばエポキシ基、を有する(ポリ)オキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが好ましい。ホスホン酸としては、例えば、水溶性のフェニルホスホン酸が使用できる。
【0024】
上記の、Niイオンの供給源とAlイオンの供給源とリンを含むイオンとの組み合わせは特に限定されないが、具体的には、硫酸ニッケル・6水和物と酸化アルミニウムと85%リン酸との組み合わせの他、塩化ニッケル・6水和物と塩化アルミニウム・6水和物と50%次亜リン酸との組み合わせ、塩基性炭酸ニッケル・4水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物とトリポリリン酸ナトリウムとの組み合わせ、硝酸ニッケル・6水和物と硝酸アルミニウム・9水和物とフェニルホスホン酸との組み合わせ、酢酸ニッケル・4水和物と酸化アルミニウムと85%リン酸との組み合わせ、硝酸ニッケル・6水和物と塩化アルミニウム・6水和物と50%次亜リン酸との組み合わせ、塩化ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物とトリポリリン酸ナトリウムとの組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硝酸アルミニウム・9水和物とフェニルホスホン酸との組み合わせ、塩基性炭酸ニッケル・4水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物と85%リン酸との組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硝酸アルミニウム・9水和物と85%リン酸との組み合わせ、塩化ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物と85%リン酸との組み合わせ、塩基性炭酸ニッケル・4水和物と塩化アルミニウム・6水和物と85%リン酸との組み合わせ、硝酸ニッケル・6水和物と酸化アルミニウムと85%リン酸との組み合わせ、酢酸ニッケル・4水和物と酸化アルミニウムと85%リン酸との組み合わせ、硝酸ニッケル・6水和物と酸化アルミニウムと85%リン酸との組み合わせ、塩基性炭酸ニッケル・4水和物と塩化アルミニウム・6水和物と85%リン酸との組み合わせ、塩化ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物と85%リン酸との組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硝酸アルミニウム・9水和物と85%リン酸との組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物と85%リン酸との組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物と50%次亜リン酸との組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物とトリポリリン酸ナトリウムとの組み合わせ、硫酸ニッケル・6水和物と硫酸アルミニウム・14~18水和物とフェニルホスホン酸との組み合わせ、等が挙げられる。
【0025】
粉体処理剤中に含まれる水性媒体は、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒
体の体積を基準として50質量%以上の水を含有するもの)であれば特に限定されるものではない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
【0026】
粉体処理剤は、遊離酸度(FA)が通常0.3ポイント以上30.0ポイント以下の範囲内であればよいが、0.4ポイント以上20.0ポイント以下の範囲内であることが好ましく、0.5ポイント以上10.0ポイント以下の範囲内であることがより好ましい。遊離酸度の調整については、市販の酸性溶液またはアルカリ性溶液を用いて行うことができる。酸性溶液としては、例えば、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、蟻酸、蓚酸、フッ化水素酸等の水溶液を、アルカリ性溶液としては、例えば、アンモニア、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液があげられる。
【0027】
遊離酸度(FA)の測定は、粉体処理剤を10ml採取し、日本パーカライジング株式会社製「D-11」を2~3滴加えた後、日本パーカライジング株式会社製「T-11」で滴定したときの「T-11」の量(ml)をポイントとして表したものを意味する(1ml=1ポイント)。
【0028】
上記説明した粉体処理剤に含まれる成分以外の、他の成分としては、例えば、界面活性剤や潤滑剤等の添加剤が挙げられる。この添加剤成分は、本発明の効果を損なわない程度に、粉体処理剤に含まれてもよい。
【0029】
粉体処理剤の調製方法は、特段限定されず、上記説明した粉体処理剤に配合する成分を、一度に又は順に、水に配合して混合することで、得ることができる。成分の配合の順番は特段限定されない。
【0030】
絶縁性無機粉体の製造は、上記粉体処理剤を無機粉体に接触させた後、加熱して粉体処理剤の揮発分を蒸発させることにより皮膜を無機粉体上に形成することで、行うことができる。より具体的には、粉体処理剤と無機粉体とを含む組成物を加熱して、該組成物中の揮発分(該粉体処理剤中の揮発分)を蒸発させることにより行うことができる。粉体処理剤と無機粉体との接触は、混合する方法により行ってもよいが、それ以外の接触方法を採用してもよい。なお、絶縁性無機粉体の製造を安定的・効率的に行うために、上記組成物を空気又は不活性ガス(窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等)中で加熱し、組成物中の揮発分を蒸発させることが好ましい。揮発分の蒸発は、例えば、スプレードライヤーを用いて実施できる。
なお、絶縁性無機粉体の製造において、揮発分を蒸発させた後、皮膜を有する無機粉体の表面上に潤滑剤を接触させて潤滑皮膜を形成させる工程をさらに設けてもよい。接触方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、潤滑剤に浸漬する方法、潤滑剤と混合する方法等があげられる。また、絶縁性無機粉体の製造において、潤滑剤との接触後、潤滑剤を接触させた絶縁性無機粉体の表面上を乾燥する工程をさらに含んでいてもよい。乾燥方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、空気又は不活性ガス中で加熱する方法があげられるが、この方法に制限されるものではない。以上の絶縁性無機粉体の製造方法により、潤滑皮膜を有する絶縁性無機粉体を得ることができる。
【0031】
前記組成物の加熱は、所定の温度に達するように徐々に行ってもよいし、最終的に所定の温度に達するように段階的に行ってもよい。所定の温度の上限は特に制限ないが、40
0℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが特に好ましい。また、潤滑剤を接触させた絶縁性無機粉体の表面上の乾燥温度は特に制限ないが、200℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。
【0032】
絶縁性無機粉体は、電子部品として使用する際には圧粉成型される。本実施形態の絶縁性無機粉体は、圧力13MPaの加圧条件下において、薄膜でも優れた絶縁性を有し、且つ、圧力64MPaの加圧条件下における体積抵抗率を、圧力13MPaの加圧条件下における体積抵抗率で除した値を示す、耐プレス圧性についても優れた性能を有する。よって、本実施形態の絶縁性無機粉体は、加圧成型によって製造される各種電子機器や電子部品の材料として有用である。
特に、本実施形態の絶縁性無機粉体を用いることで、インダクタ、コンデンサ、サーミスタ、バリスタ等の各種電子機器や電子部品の小型化や高性能化を実現することができることに加え、プレス成型後でも良好な絶縁性を維持できるので、実用上極めて有用である。なお、本実施形態の絶縁性無機粉体には、無機粉体の表面に皮膜を有するものだけでなく、無機粉体と皮膜との間に、1又は2以上の皮膜(例えば、酸化膜等)を有するものも含まれる。
【実施例】
【0033】
次に実際の処理について実施例および比較例を示し、本発明の効果を具体的に説明する。なお、実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0034】
「無機粉体」
市販のアトマイズ純鉄粉(ヘガネス社製、ABC100.29、体積平均粒径(D50)=106μm、以下「純鉄粉」と称する。)、または、Fe-5.5%Si-4%Crアトマイズ粉(日本アトマイズ加工株式会社製軟磁性粉末、体積平均粒径=10μm、以下「合金粉」と称する。)を用いて、後述のように絶縁性無機粉体を製造した。
【0035】
(粉体処理剤の調製)
表1に示すように、各成分及び純水を所定量で混合し、実施例1~22及び比較例1~7の粉体処理剤を調製した。遊離酸度の調整は、リン酸、硫酸、水酸化ナトリウム等で行った。
なお、表1における「成分記号」の欄に示す記号は、それぞれ以下のとおりである。
A:硫酸ニッケル・6水和物
B:塩化ニッケル・6水和物
C:塩基性炭酸ニッケル・4水和物
D:硝酸ニッケル・6水和物
E:酢酸ニッケル・4水和物
F:酸化アルミニウム
G:塩化アルミニウム・6水和物
H:硫酸アルミニウム・14~18水和物
I:硝酸アルミニウム・9水和物
J:85%リン酸
K:50%次亜リン酸
L:トリポリリン酸ナトリウム
M:フェニルホスホン酸
【0036】
【0037】
(絶縁性無機粉体の製造方法)
表2に示す無機粉体をそれぞれ20g秤量し、調製した実施例1~22及び比較例1~7の粉体処理剤の1/2量に、秤量した無機粉体を添加して、25℃で10分間攪拌を行った。次に、乾燥工程として、攪拌混合物を100℃に保持した恒温器に静置して5分間保持した。続いて、残りの粉体処理剤に乾燥させた無機粉体を加え、再度、25℃で10分間攪拌を行った。乾燥工程として、攪拌混合物を100℃に保持した恒温器に静置して5分間保持した。次に、恒温器から取り出した混合物を再度攪拌し、120℃に保持した恒温器に静置して30分間保持し、絶縁性無機粉体1~29を得た。
【0038】
(Al/Niのモル比、P/(Ni+Al)のモル比および膜厚の測定)
エポマウントAセット(リファインテック株式会社製;27-770)を用いて埋込用樹脂を調製した後、埋込用樹脂と、絶縁性無機粉体1~29とをそれぞれ混合した。各混合物を型に流し込んで硬化させた。各硬化物を機械研磨した後、イオンミリング(日立ハイテクノロジーズ製IM-4000型)にて薄片を作製した。透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製 JEM-2100型)付帯のEDSおよびEELSを用いて、薄片における絶縁性無機粉体の皮膜を元素分析した。得られた各元素の元素分析値から、各元素の含有量を求め、その後、モル量に換算して、Al/Niのモル比、及びP/(Ni+Al)のモル比をそれぞれ算出した。また、膜厚は、TEMによる観察にて測定した。
これらの結果を表2に示す。
【0039】
【0040】
(絶縁性の評価)
株式会社三菱化学アナリテック製粉体抵抗測定システムMCP-PD51と、ハイレスタ-UXまたはロレスターGXを用いて、所定量の絶縁性無機粉体に圧力をかけて体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。なお、圧力は13MPaから64MPaまで変動させ、所定の圧力における体積抵抗率をそれぞれ測定した。評価基準は以下のとおりとした。
・皮膜を形成していない純鉄粉の圧力13MPaにおける体積抵抗率に比べ、皮膜を形成した純鉄粉の圧力13MPaにおける体積抵抗率が、
1.0×105倍以上を「○」、
1.0×104倍以上1.0×105倍未満を「△」、
1.0×104倍未満を「×」とした。
・皮膜を形成していない合金粉の圧力13MPaにおける体積抵抗率に比べ、皮膜を形成した合金粉の圧力13MPaにおける体積抵抗率が、
1.0×108倍以上を「○」、
1.0×107倍以上1.0×108倍未満を「△」、
1.0×107倍未満を「×」とした。
これらの結果を表3に示す。なお、「〇」を実用レベルであると判断した。また、皮膜を形成していない純鉄粉の圧力13MPaにおける体積抵抗率は、1.51×10-2Ω・cmであった。皮膜を形成していない合金粉の圧力13MPaにおける体積抵抗率は、1.12×101Ω・cmであった。
【0041】
(耐プレス圧性の評価)
絶縁性の評価にて得られた、圧力が13MPaおよび64MPa時の体積抵抗率を用いて、下記式(1)により体積抵抗率の低下率を算出し、以下の評価基準にて耐プレス圧性
を評価した。評価基準としては、
低下率85%未満を「○」、
低下率85%以上90%未満を「△」、
低下率90%以上を「×」、
とした。なお、「〇」を実用レベルであると判断した。これらの結果を表3に示す。
低下率(%)=(1-(64MPa時の体積抵抗率/13MPa時の体積抵抗率))×100 (式1)
【0042】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の実施形態に係る絶縁性無機粉体は、優れた絶縁性および耐プレス圧性を有するので、これらの性能が求められるあらゆる用途に適用することができる。また、本発明の実施形態に係る粉体処理剤を用いることによって、無機粉体表面にNi、Al、およびPを含む皮膜を形成することができ、当該皮膜の性能(絶縁性及び耐プレス圧性)を無機粉体に付与できる。このように、本発明の実施形態に係る粉体処理剤は、種々の用途に適用可能な絶縁性無機粉体の製造に有用である。