(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】EZH2阻害剤を用いた髄芽腫の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/5377 20060101AFI20220325BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220325BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220325BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20220325BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20220325BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20220325BHJP
A61K 31/4436 20060101ALI20220325BHJP
A61K 31/4468 20060101ALI20220325BHJP
A61K 31/501 20060101ALI20220325BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
A61K31/5377
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K31/44
A61K31/4545
A61K31/496
A61K31/4436
A61K31/4468
A61K31/501 ZNA
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2018517399
(86)(22)【出願日】2016-10-05
(86)【国際出願番号】 US2016055554
(87)【国際公開番号】W WO2017062495
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-09-30
(32)【優先日】2015-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513137330
【氏名又は名称】エピザイム,インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】512156305
【氏名又は名称】ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・コロラド,ア・ボディー・コーポレイト
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100117422
【氏名又は名称】堀川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】ハイク キールハック
(72)【発明者】
【氏名】ナイジェル ジェイ. ウォーターズ
(72)【発明者】
【氏名】ラジーバ ヴィブハカール
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/062720(WO,A3)
【文献】ACS Med Chem Lett,2015年03月04日,Vol.6,pp.491-495
【文献】Front Oncol,2014年,Vol.4, No.176,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
髄芽腫の
患者の治療
に用いられ、zesteホモログ2のエンハンサー(EZH2)阻害剤
を治療有効量含む医薬組成物であって、
前記EZH2阻害剤は、以下の化合物またはそれらの薬学的に許容される塩であり、
前記治療は、髄芽腫の増殖を予防及び/又は阻害することを含
み、
前記治療有効量は、230mg/m
2
以上600mg/m
2
以下の用量に対応し、
前記医薬組成物は、6か月から21歳の患者に投与されるものである医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
経口
用の形態である請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
経口錠剤として製剤化されている請求項1又は2に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
100mg、200mg、400mg、800mgまたは1600mgの
治療有効量が含有されている請求項1~
3のいずれか1つに記載の
医薬組成物。
【請求項5】
経口懸濁剤として製剤化されている請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
脳脊髄液(CSF)への投与のために製剤化されているか、脊髄内経路、頭蓋内経路、髄腔内経路または鼻腔内経路により脳脊髄液に投与される形態である請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
1日2回(BID
)投与される形態である請求項
5又は6に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
前記治療有効量が、230mg/m
2
以上305mg/m
2
以下に対応する用量である請求項5又は6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記
治療有効量が、
240mg/m
2
又は300mg/
m
2
に対応する用量
である請求項5又は6に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
1歳以上18歳以下
の患者に投与されるものである請求項1~
9のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項11】
10歳またはそれ未満の患者に投与されるものである請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
5歳またはそれ未満用の患者に投与されるものである請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、各々の内容を全体として本明細書に援用する2015年10月6日に出願された米国仮特許出願第62/238,074号明細書、および2016年2月24日に出願された同第62/299,312号明細書の優先権および利益を主張する。
【0002】
本開示は、小分子治療、癌および稀な癌種を処置する方法の分野を対象とする。
【背景技術】
【0003】
EZH2依存的な腫瘍形成の原因となる、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットの遺伝子変化または機能の喪失により引き起こされる特定の癌の効果的な処置は長い間、切実だが満たされない要求となっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、髄芽腫の処置を必要とする被検体の髄芽腫を処置する方法であって、被検体に治療有効量のzesteホモログ2のエンハンサー(EZH2)阻害剤を投与することを含む方法を提供する。本開示の髄芽腫を処置する方法は、髄芽腫細胞の増殖を予防および/または阻害することを含んでもよい。
【0005】
本開示の方法のある種の実施形態では、EZH2阻害剤は、下記
【化1】
またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0006】
本開示の方法のある種の実施形態では、EZH2阻害剤は、下記
【化2】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶媒和物を含む。
【0007】
本開示の方法のある種の実施形態では、EZH2阻害剤は、下記
【化3】
またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0008】
本開示の方法のある種の実施形態では、EZH2阻害剤は、下記
【化4】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶剤和物を含む。
【0009】
本開示の方法のある種の実施形態では、EZH2阻害剤は、下記
【化5】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶剤和物を含む。
【0010】
本開示の方法のある種の実施形態では、EZH2阻害剤は、下記
【化6】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶剤和物を含む。
【0011】
本開示のEZH2阻害剤は、経口投与してもよい。たとえば、EZH2阻害剤は、経口錠剤または懸濁剤として製剤化してもよい。
【0012】
本開示のEZH2阻害剤は、任意の経路による脳脊髄液(CSF)への投与のために製剤化してもよい。CSFへの例示的な投与経路として、脊髄内経路、頭蓋内経路、髄腔内経路または鼻腔内経路があるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
以下に限定されるものではないが、EZH2阻害剤が経口錠剤として製剤化される実施形態を含む、本開示の方法のある種の実施形態では、本開示のEZH2阻害剤は、10mg/kg/日~1600mg/kg/日の用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、約100mg、約200mg、約400mg、約800mgまたは約1600mgの用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、約800mgの用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、1日1回または1日2回(BID)投与してもよい。たとえば、本開示のEZH2阻害剤は、10mg/kg/日 BID~1600mg/kg/日 BIDの用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、800mg BIDの用量で投与してもよい。
【0014】
以下に限定されるものではないが、EZH2阻害剤が経口懸濁剤として製剤化されるおよび/または任意の経路によるCSFへの投与のために製剤化される、実施形態を含む本開示の方法のある種の実施形態では、本開示のEZH2阻害剤は、EZH2阻害剤の定常状態(AUCSS)の血漿中および/またはCSF中濃度の曲線下面積(AUC)の値の50%、60%、70%、80%、90%またはそれらの間の任意の割合の用量で投与してもよく、AUCSSはEZH2阻害剤を10mg/kg/日 BID~1600mg/kg/日 BIDの用量で成人被検体へ投与後に決定される。
【0015】
以下に限定されるものではないが、EZH2阻害剤が経口懸濁剤として製剤化されるおよび/または任意の経路によるCSFへの投与のために製剤化される、実施形態を含む本開示の方法のある種の実施形態では、本開示のEZH2阻害剤は、端点を含む230mg/m2~600mg/m2の用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、300mg/m2~600mg/m2の用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、端点を含む230mg/m2~305mg/m2の用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、240mg/m2の用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、300mg/m2の用量で投与してもよい。本開示のEZH2阻害剤は、1日1回または1日2回(BID)投与してもよい。たとえば、本開示のEZH2阻害剤は、端点を含む230mg/m2 BID~600mg/m2 BIDの用量で投与してもよい。
【0016】
たとえば、本開示のEZH2阻害剤は、成人被検体に1600mgの1日2回投与後の定常状態(ACUSS)で曲線下面積(AUC)の約60%の用量にて投与してもよい。そのため、成人被検体に1600mgの1日2回投与後の定常状態(ACUSS)で曲線下面積(AUC)の約60%の用量にて投与される本開示のEZH2阻害剤は、1日約600mg/m2または少なくとも1日600mg/m2の用量で投与される。この例のある態様では、EZH2阻害剤で処置される被検体は小児被検体である。
【0017】
たとえば、本開示のEZH2阻害剤は、成人被検体に800mgの1日2回投与後の定常状態(ACUSS)で曲線下面積(AUC)の約80%の用量にて投与してもよい。そのため、成人被検体に800mgの1日2回投与後の定常状態(ACUSS)で曲線下面積(AUC)の約80%の用量にて投与される本開示のEZH2阻害剤は、1日約390mg/m2または1日少なくとも390mg/m2の用量で投与される。この例のある態様では、EZH2阻害剤で処置される被検体は小児被検体である。
【0018】
本開示の被検体は、小児被検体であってもよい。たとえば、本開示の小児被検体は、端点を含む生後6ヶ月~21歳であってもよい。本開示の小児被検体は、端点を含む1歳~18歳であってもよい。本開示の小児被検体は、10歳またはそれ未満であってもよい。本開示の小児被検体は、5歳またはそれ未満であってもよい。本開示の小児被検体は、端点を含む生後6ヶ月~1歳であってもよい。
【0019】
本開示は、髄芽腫の処置を必要とする被検体の髄芽腫を処置する方法であって、被検体に治療有効量のタゼメトスタットを投与することを含み、治療有効量は1日2回(BID)少なくとも300mg/m2であり、かつ被検体は端点を含む生後6ヶ月~21歳である方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A-1B】
図1Aおよび1Bは、野生型(RDおよびSJCRH30)およびミュータントSNF5を有する細胞株の一連のウエスタンブロット解析結果である。
【
図2A-2E】
図2A~2Eは、SNF5ミュータント細胞株A204(C)、G401(D)およびG402(E)が、野生型細胞株RD(A)およびSJCRH30(B)と比較してEZH2化合物(化合物D)に選択的に応答することを立証する一連のグラフである。
【
図3A-3D】
図3A~3Dは、SNFミュータント細胞株G401が、軟寒天中で7日後に化合物Dに応答していることを、野生型細胞RDと比較して示す一連の棒グラフである。
図3Aは、細胞株RD(5,000細胞/ウェル)を示す。
図3Bは、G401細胞(5,000細胞/ウェル)を示す。
図3Cは、2D成長のG401細胞を示す。
図3Dは、G401細胞(10,000細胞/ウェル)を示す。
【
図4A-4D】
図4A~4Dは、SNF5ミュータント細胞株G401がインビトロで化合物Aに感受性があることを示す4つのグラフである。野生型細胞株SJCRH30(A)およびRD(C)とSNF5ミュータント細胞株G401(B)およびA204(D)とを表記の濃度の化合物Aで7日間前処理し、0日目に再び蒔いた。細胞生存率は、CellTiter-Glo(登録商標)発光細胞生存率アッセイにより測定した。
【
図5A-5E】
図5A~5Eは、化合物A処置によるG401異種移植片(悪性ラブドイド腫瘍モデル)の持続的退縮を示す一連のグラフである。(A)表記の用量で化合物Aにより誘導された腫瘍退縮。(B)表記の用量で化合物Aの1日2回投与により誘導された腫瘍退縮。データは、平均値±SEM(n=8)を表す。化合物投与は28日目に停止した。(C)21日目にマウスの並行コホートから採取したG401異種移植腫瘍組織におけるEZH2標的阻害。各点は、全H3に対するH3K27Me3の比率を示す。水平線は、群の平均値を表す。BLLQ=定量下限未満。(D、E)(125mg/kgで)ビヒクル処置(D)および化合物A処置(E)したマウス由来の腫瘍サンプルの腫瘍におけるヒストンメチル化の免疫組織化学的染色。
【
図6】
図6は、SCLC細胞株で同定されたATRX突然変異の位置を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、LNCAP前立腺癌細胞が、インビトロでの化合物D処理により、用量依存的細胞成長阻害を示すことを示すグラフである。
【
図7B】
図7Bは、WSU-DLCL2細胞およびLNCAP細胞に対して11日目および14日目の化合物DのIC50値を示すグラフである。
【
図8A-8C】
図8A~8Cは、ATRXミュータントSCLC系NCI-H446(A)、SW1271(B)およびNCI-H841(C)が化合物Dに応答していることを立証する3つのグラフである。
【
図9A-9C】
図9A~9Cは、SCLC系NCI-H841が、ビヒクル(A)または4.1E-02uM(B)または3.3uM(C)の濃度の化合物Dによる処理後に形態を変化させることを示す3つの顕微鏡画像である。
【
図10A-10C】
図10A~10Cは、細胞内全体のヒストンメチル化および細胞生存率に対する化合物Aの作用を示す一連のグラフである。(A)化合物A(またはタゼメトスタット)の化学構造。(B)G401細胞およびRD細胞における細胞内H3K27Me3レベルの濃度依存性阻害。(C)インビトロでの化合物AによるSMARCB1欠失G401細胞の増殖の選択的阻害(ATP含有量により測定)。G401細胞(図aおよびb)およびRD細胞(図cおよびd)を7日目に最初の播種密度で再び蒔いた。各点は、濃度毎の平均を表す(n=3)。
【
図11A-11B】
図11Aおよび11Bは、生化学的作用機序研究を示す一連のグラフである。化合物AのIC
50値は、SAM濃度の増加に伴い上昇するが(A)、オリゴヌクレオソーム濃度の増加による影響は最小限である(B)ことから、SAM競合的かつヌクレオソーム非競合的作用機序が示される。
【
図12A-12B】
図12Aおよび12Bは、細胞株におけるSMARCB1およびEZH2の発現と、細胞内ヒストンメチル化の阻害に対する化合物Aの特異性との検証を実証する一連の図である。(A)細胞ライセートを、SMARCB1、EZH2およびアクチン(ローディングコントロール)に特異的な抗体を用いてイムノブロットにより解析した。(B)G401細胞およびRD細胞における細胞内H3K27メチル化の選択的阻害。細胞を化合物Aと4日間インキュベートし、酸抽出したヒストンをイムノブロットにより解析した。
【
図13A-13B】
図13Aおよび13Bは、化合物AがSMARCB1欠失MRT細胞においてG
1期停止およびアポトーシスを誘発することを実証する一連の棒グラフである。ビヒクルあるいは1μMの化合物Aのいずれかとの最大14日間のインキュベーションにおけるRD細胞(
図A)またはG401細胞(
図B)の細胞周期解析(フローサイトメトリーによる)およびアポトーシスの判定(TUNELアッセイによる)。G
1期停止は7日目時点で観察され、アポトーシスは、11日目時点で誘導された。データは、平均値±SEM(n=2)で表した。図示したDMSO対照値は、各時点の平均値±SEMである。細胞を4日目、7日目および11日目に剥離し最初の播種密度で再び播いた。
【
図14A-14C】
図14A~14Cは、化合物AがSMARCB1制御遺伝子の発現および細胞形態の変化を誘導することを示す一連のグラフである。(A)G401 SMARCB1欠失細胞におけるSMARCB1制御遺伝子の、RD対照細胞と比較した基礎発現(qPCRにより測定、n=2)。(B)G401細胞およびRD細胞をDMSOあるいは1μMの化合物Aのいずれかと2日間、4日間および7日間インキュベートした。遺伝子発現は、qPCRにより判定し(n=2)、各時点のDMSO対照と比較して表す。図a~jはそれぞれ、遺伝子GLI1、PTCh1、DOCK4、CD133、PTPRK、BIN1、CDKN1A、CDKN2A、EZH2およびMYCに対応する。(C)G402細胞をDMSO(左図)あるいは1μMの化合物A(右図)のいずれかと14日間インキュベートした。細胞を7日目に剥離し最初の播種密度に再び蒔いた。
【
図15A-15D】
図15A~15Dは、化合物Aで処置したG401異種移植片を持つマウスの体重、腫瘍退縮および血漿レベルを実証する一連のグラフである。(A)体重は、BIDスケジュールにて化合物Aで28日間処置した動物について週2回判定した。データは平均値±SEMで表す(21日目までn=16、22~60日目までn=8)。(B)表記の用量で21日間化合物Aの1日2回(BID)投与により誘導された腫瘍退縮(平均値±SEM、n=16)。
*p<0.05、
**p<0.01、反復測定ANOVA、ダネットの事後検定対ビヒクル。(C)21日目に安楽死させた8匹のマウスの腫瘍重量。
****p<0.0001、フィッシャーの正確確率検定。(D)21日目の化合物Aの投与5分前および3時間後に血漿を採取し、化合物レベルをLC-MS/MSにより測定した。動物を安楽死させ、腫瘍を21日目の投与から3時間後に採取した。腫瘍ホモジネートを作製し、LC-MS/MS解析に供して化合物A濃度を判定した。21日目の異種移植片は小さすぎたため、特に高用量群ではすべての動物から腫瘍内化合物レベルを判定できたわけではないことに留意されたい。点は個々の動物の値を表し、水平線は群の平均値を表す。
【
図16A-16C】
図16A~16Cは、化合物AによりSCIDマウスのSMARCB1欠失MRT異種移植片が根絶されることを示す一連のグラフである。(A)表記の用量で28日間化合物Aの1日2回(BID)投与により誘導された腫瘍退縮。化合物投与は28日目に停止し、腫瘍を2000mm
3になるまで再成長させた(データを平均値±SEMで示す、n=8)。(B)21日目に安楽死させたマウスから採取したG401異種移植片腫瘍組織におけるEZH2標的阻害。各点は、ELISAにより測定した全H3に対するH3K27Me3の比率を示す。水平線は、群の平均値を表す。灰色の符号はELISA標準曲線外の値である。(C)21日間化合物Aで処置したマウスから採取したG401異種移植片腫瘍組織における遺伝子発現の変化。図a~dはそれぞれ遺伝子CD133、PTPRK、DOCK4およびGLI1に相当する。データは、ビヒクル±SEM(n=6、500mg/kg群ではn=4)と比較した倍率変化で示す。
*p<0.05、
**p<0.01、
****p<0.0001、対ビヒクル、フィッシャーの正確確率検定。
【
図17】
図17は、遺伝子発現のエピジェネティック制御を図示する模式図である。ヒストン修飾の組み合わせは、遺伝的プログラムの協調的活性化または抑制のほか、発生過程での細胞同一性および細胞運命の決定を支配する情報をコードする。
【
図18】
図18は、EZH2が髄芽腫で過剰発現し、7番染色体増幅と関連していることを示すグラフである。黒塗りのバーはバランスの取れた7番染色体を示す一方、斜線のバーは7番染色体の増加を示す。
【
図19】
図19は、EZH2およびMLLによるヒストンリジンメチル化の制御を図示する模式図である。
【
図20A】
図20Aは、全生存(OS)率を髄芽腫と診断されてからの期間(月単位)の関数として示すグラフである。ヒストンリジンメチル化は、髄芽腫において変化する。H3K27me3存在量は、対照と比較して髄芽腫細胞で増加する。
【
図20B】
図20Bは、全生存(OS)率を髄芽腫と診断されてからの期間(月単位)の関数として示すグラフである。ヒストンリジンメチル化は、髄芽腫において変化する。H3K27me3存在量は、対照と比較して髄芽腫細胞で増加する。
【
図21A】
図21Aは、髄芽腫細胞のH3K4me3およびH3K27Me3の存在量を示す一連の写真およびグラフである。データから、髄芽腫のヒストンコードの解除が実証される。
【
図21B】
図21Bは、H3K4me3および/またはH3K27Me3のヒストンメチル化が解除された髄芽腫被検体の全生存率を、診断からの期間(月単位)の関数として図示するグラフである。
【
図22A】
図22Aは、ショートヘアピンEZH2(shEZH2)コンストラクトによるEZH2の阻害が、陰性対照コンストラクトと比較して髄芽腫細胞成長(DAOY髄芽腫細胞株の成長)を抑制すること実証するグラフである。
【
図22B】
図22Bは、ショートヘアピンEZH2(shEZH2)コンストラクトによるEZH2の阻害が、陰性対照コンストラクトおよび/または空のpSIFベクター対照と比較して髄芽腫細胞成長(DAOY髄芽腫細胞株の成長)を抑制することを実証する一連の写真およびグラフである。
【
図23A】
図23Aは、INI1喪失により、腫瘍における発癌のEZH2への依存性が生じるメカニズムを図示する模式図である。
【
図23B】
図23Bは、INI1欠損マウスの無再発生存率のパーセントを、EZH2がノックアウトされている期間(日数)の関数として示すグラフである。EZH2のノックアウトによって、INI1喪失により誘導された腫瘍形成が消失する。
【
図24A】
図24Aは、処理後1日、3日、5日および7日の対照またはEZH2阻害剤処理(DNZep処理)した非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(ATRT)を示す一連の写真である。EZH2の阻害によりATRT細胞の自己複製が抑制される。
【
図24D】
図24Dは、処理後3日、5日、8日および10日の対照またはEZH2阻害剤処理(DNZep処理)した非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(ATRT)を示す一連の写真である。EZH2の阻害によりATRT細胞の自己複製が抑制される。
【
図25A】
図25Aは、2Gyの放射線に曝露した未処理またはDZNEP処理ATRT細胞(BT-16 ATRT細胞株由来)の生存率を示す1組のグラフである。EZH2の阻害によりATRTの放射線増感が得られる。
【
図25B】
図25Bは、2Gyの放射線に曝露した未処理またはDZNEP処理ATRT細胞(UPN737 ATRT細胞株「737」由来)の生存率を示す1組のグラフである。EZH2の阻害によりATRTの放射線増感が得られる。
【
図26A】
図26Aは、EZH2の小分子阻害剤GSK-126による処理後の髄芽腫細胞の濃度(1ミリリットルあたりの総細胞数)を時間(日数)の関数として示すグラフである。EZH2の小分子阻害剤は、髄芽腫細胞成長を低下させる。
【
図26B】
図26Bは、EZH2の小分子阻害剤UNC 1999による処理後の髄芽腫細胞の濃度(1ミリリットルあたりの総細胞数)を時間(日数)の関数として示すグラフである。EZH2の小分子阻害剤は、髄芽腫細胞成長を低下させる。
【
図26C】
図26Cは、EZH2の小分子阻害剤タゼメトスタット(EPZ 6438)による処理後の髄芽腫細胞の濃度(1ミリリットルあたりの総細胞数)を時間(日数)の関数として示すグラフである。EZH2の小分子阻害剤は、髄芽腫細胞成長を低下させる。
【
図26D】
図26Dは、GSK-126、UNC 1999およびタゼメトスタット(EPZ 6438)による処理後の髄芽腫細胞の濃度(1ミリリットルあたりの総細胞数)を時間(日数)の関数として示すグラフである。タゼメトスタットは、試験対象の小分子阻害剤のうち髄芽腫細胞成長に対して最も大きな作用を有する。
【
図27】
図27は、EZH2に対するタゼメトスタットの相対的選択性を図示する1組の模式図である。
【
図28A】
図28Aは、初代髄芽腫細胞成長をエキソビボで評価するプロセスを図示する模式図である。
【
図28B】
図28Bは、様々な細胞周期ステージ(sub Go/G1、Go/G1、SまたはG2/M)の未処理またはタゼメトスタット(EPZ 6438)処理初代髄芽腫細胞の相対存在量(細胞のパーセント)を図示するグラフである。髄芽腫のスライス培養を、5歳の被検体から新たに単離した。スライス培養を、フローサイトメトリーにより解離および解析する前にタゼメトスタットで4日間処理した。タゼメトスタット処理は、初代髄芽腫細胞成長をエキソビボで低下させる。
【
図28C】
図28Cは、
図28Bで解析した細胞のBrdU発現を図示するグラフである。タゼメトスタット処理は、初代髄芽腫細胞成長をエキソビボで低下させる。
【
図29A】
図29Aは、インビボでビヒクルまたはタゼメトスタット(EPZ 6438)処理したATRT細胞の生存率を、処理後の時間(日数)の関数として図示するグラフである。タゼメトスタットは、インビボでATRTを減少させる。
【
図29B】
図29Bは、
図29Aのビヒクルまたはタゼメトスタット(EPZ 6438)処理したATRT細胞におけるH2K27me3およびH3の相対量を示すウエスタンブロットの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示は、髄芽腫の処置を必要とする被検体の髄芽腫を処置する方法であって、被検体に治療有効量のzesteホモログ2のエンハンサー(EZH2)阻害剤を投与することを含む方法を提供する。本開示の髄芽腫を処置する方法は、髄芽腫細胞の増殖を予防および/または阻害することを含んでもよい。
【0022】
本開示は、SWI/SNF関連癌の症状の処置または緩和を必要とする被検体に治療有効量のEZH2阻害剤を投与することにより、被検体のSWI/SNF関連癌の症状を処置または緩和するための方法を提供する。たとえば、SWI/SNF関連癌は、SWI/SNF複合体またはSWI/SNF複合体の1つもしくは複数の成分の発現の減少および/または機能の喪失を特長とする。好ましい実施形態では、癌は髄芽腫である
【0023】
髄芽腫は、SWI/SNF複合体またはSWI/SNF複合体の1つもしくは複数の成分、以下に限定されるものではないが、SNF5、ATRXおよびARID1Aの発現の減少ならびに/または機能の喪失に起因する。たとえば、機能の喪失は、点突然変異、欠失および/または挿入に起因する機能喪失型変異により引き起こされる。
【0024】
たとえば、被検体はSNF5の欠失を有する。
【0025】
たとえば、被検体は、配列番号5のアミノ酸位置688の野生型残基リジン(K)のアスパラギン(N)による置換(K688N)、および配列番号5のアミノ酸位置366の野生型残基メチオニン(M)のイソロイシン(I)による置換(M366I)からなる群から選択されるATRXの突然変異を有する。
【0026】
たとえば、被検体は、配列番号11のアミノ酸位置884の野生型残基システイン(C)のナンセンス突然変異(C884*)、アミノ酸位置966の野生型残基グルタミン酸(E)のリジン(K)による置換(E966K)、配列番号11のアミノ酸位置1411の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q1411*)、配列番号11のアミノ酸位置1720の野生型残基フェニルアラニン(F)のフレームシフト突然変異(F1720fs)、配列番号11のアミノ酸位置1847の野生型残基グリシン(G)後のフレームシフト突然変異(G1847fs)、配列番号11のアミノ酸位置1874の野生型残基システイン(C)のフレームシフト突然変異(C1874fs)、アミノ酸位置1957の野生型残基アスパラギン酸(D)のグルタミン酸(E)による置換(D1957E)、配列番号11のアミノ酸位置1430の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q1430*)、配列番号11のアミノ酸位置1721の野生型残基アルギニン(R)のフレームシフト突然変異(R1721fs)、アミノ酸位置1255の野生型残基グリシン(G)のグルタミン酸(E)による置換(G1255E)、配列番号11のアミノ酸位置284の野生型残基グリシン(G)のフレームシフト突然変異(G284fs)、配列番号11のアミノ酸位置1722の野生型残基アルギニン(R)のナンセンス突然変異(R1722*)、配列番号11のアミノ酸位置274の野生型残基メチオニン(M)のフレームシフト突然変異(M274fs)、配列番号11のアミノ酸位置1847の野生型残基グリシン(G)のフレームシフト突然変異(G1847fs)、配列番号11のアミノ酸位置559の野生型残基Pのフレームシフト突然変異(P559fs)、配列番号11のアミノ酸位置1276の野生型残基アルギニン(R)のナンセンス突然変異(R1276*)、配列番号11のアミノ酸位置2176の野生型残基グルタミン(Q)のフレームシフト突然変異(Q2176fs)、配列番号11のアミノ酸位置203の野生型残基ヒスチジン(H)のフレームシフト突然変異(H203fs)、配列番号11のアミノ酸位置591の野生型残基アラニン(A)のフレームシフト突然変異(A591fs)、配列番号11のアミノ酸位置1322の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q1322*)、配列番号11のアミノ酸位置2264の野生型残基セリン(S)のナンセンス突然変異(S2264*)、配列番号11のアミノ酸位置586の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q586*)、配列番号11のアミノ酸位置548の野生型残基グルタミン(Q)のフレームシフト突然変異(Q548fs)、および配列番号11のアミノ酸位置756の野生型残基アスパラギン(N)のフレームシフト突然変異(N756fs)からなる群から選択されるARID1Aの突然変異を有する。
【0027】
本開示はまた、(a)被検体から採取されたサンプルにおいてニューロン分化遺伝子、細胞周期阻害遺伝子および腫瘍抑制因子遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを判定すること;(b)ステップaで少なくとも1つの遺伝子の発現レベルが低下した被検体を選択すること;および(c)ステップbで選択された被検体に有効量のEZH2阻害剤を投与し、それにより被検体の癌の症状を処置または緩和すること、によってSWI/SNF関連癌の症状の処置または緩和を必要とする被検体のSWI/SNF関連癌の症状を処置または緩和する方法を提供する。好ましい実施形態では、癌は髄芽腫である。
【0028】
本開示はさらに、(a)被検体から採取されたサンプルにおいてヘッジホッグ経路遺伝子、myc経路遺伝子およびヒストンメチルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを判定すること;(b)ステップaで少なくとも1つの遺伝子の発現レベルが増加した被検体を選択すること;および(c)ステップbで選択された被検体に有効量のEZH2阻害剤を投与し、それにより被検体の癌の症状を処置または緩和すること、によってSWI/SNF関連癌の症状の処置または緩和を必要とする被検体のSWI/SNF関連癌の症状を処置または緩和する方法を提供する。好ましい実施形態では、癌は髄芽腫である。
【0029】
たとえば、ニューロン分化遺伝子はCD133、DOCK4またはPTPRKである。
【0030】
たとえば、細胞周期阻害遺伝子はCKDN1AまたはCDKN2Aである。
【0031】
たとえば、腫瘍抑制因子遺伝子はBIN1である。
【0032】
たとえば、ヘッジホッグ経路遺伝子はGLI1またはPTCH1である。
【0033】
たとえば、myc経路遺伝子はMYCである。
【0034】
たとえば、ヒストンメチルトランスフェラーゼ遺伝子はEZH2である。
【0035】
本開示はまた、EZH2阻害剤と細胞を接触させることによりニューロン分化、細胞周期阻害または腫瘍抑制を誘導する方法を提供する。EZH2阻害剤は、CD133、DOCK4、PTPRK、CKDN1A、CDKN2AおよびBIN1からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を増加させるのに十分な量であればよい。
【0036】
本開示はまた、EZH2阻害剤と細胞を接触させることによりヘッジホッグシグナル伝達を阻害する方法を提供する。EZH2阻害剤は、GLI1および/またはPTCH1の発現を減少させるのに十分な量であり得る。
【0037】
本開示はまた、EZH2阻害剤と細胞を接触させることにより遺伝子発現を誘導する方法を提供する。EZH2阻害剤は、ニューロン分化、細胞周期阻害および/または腫瘍抑制を誘導するのに十分な量であり得る。たとえば、遺伝子は、CD133、DOCK4、PTPRK、CKDN1A、CKDN2AまたはBIN1であり得る。
【0038】
本開示はまた、EZH2阻害剤と細胞を接触させることにより遺伝子発現を阻害する方法を提供する。EZH2阻害剤は、ヘッジホッグシグナル伝達を阻害するのに十分な量である。たとえば、遺伝子はGLI1またはPTCH1であり得る。
【0039】
たとえば、細胞にはSNF5、ARID1A、ATRX、および/または、SWI/SNF複合体の成分、の機能の喪失があってもよい。
【0040】
たとえば、機能の喪失はSNF5の欠失により引き起こされる。
【0041】
たとえば、細胞は癌細胞である。好ましくは、癌は髄芽腫である。
【0042】
たとえば、EZH2阻害剤は、
【化7】
またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0043】
たとえば、EZH2阻害剤は、
【化8】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶媒和物を含む。
【0044】
たとえば、EZH2阻害剤は、
【化9】
またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0045】
たとえば、EZH2阻害剤は、
【化10】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶剤和物を含む。
【0046】
たとえば、EZH2阻害剤は、
【化11】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶剤和物を含む。
【0047】
たとえば、EZH2阻害剤は、
【化12】
その立体異性体、薬学的に許容される塩および/または溶媒和物を含む。
【0048】
SWI/SNF複合体の成分のヒト核酸およびアミノ酸の配列は、以前に記載されている。たとえば、各々を全体として本明細書に援用するSNF5のGenBankアクセッション番号NP_003064.2、NM_003073.3、NP_001007469.1およびNM_001007468.1、ATRXのGenBankアクセッション番号NM_000489.3、NP_000480.2、NM_138270.2およびNP_612114.1、ARID1AのGenBankアクセッション番号NP_006006.3、NM_006015.4、NP_624361.1およびNM_139135.2を参照されたい。
【0049】
ヒトのhSNF5体細胞突然変異のスペクトルも、その全体を本明細書に援用するSevenet et al.,Human Molecular Genetics,8:2359-2368,1999に記載されている。
【0050】
それを必要とする被検体は、SNF5の発現の減少、ハプロ不全および/または機能の喪失、を有してもよい。たとえば、被検体は、SNF5ポリペプチドまたはSNF5ポリペプチドをコードする核酸配列のSNF5の欠失を有してもよい。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
それを必要とする被検体は、ATRXの発現の減少、ハプロ不全および/または機能の喪失、を有してもよい。たとえば、被検体は、配列番号5のアミノ酸位置688の野生型残基リジン(K)のアスパラギン(N)による置換(K688N)および配列番号5のアミノ酸位置366の野生型残基メチオニン(M)のイソロイシン(I)による置換(M366I)からなる群から選択される突然変異を含んでもよい。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
それを必要とする被検体は、ARID1Aの発現の減少、ハプロ不全および/または機能の喪失、を有してもよい。たとえば、被検体は、配列番号11のアミノ酸位置884の野生型残基システイン(C)のナンセンス突然変異(C884*)、アミノ酸位置966の野生型残基グルタミン酸(E)のリジン(K)による置換(E966K)、配列番号11のアミノ酸位置1411の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q1411*)、配列番号11のアミノ酸位置1720の野生型残基フェニルアラニン(F)のフレームシフト突然変異(F1720fs)、配列番号11のアミノ酸位置1847の野生型残基グリシン(G)後のフレームシフト突然変異(G1847fs)、配列番号11のアミノ酸位置1874の野生型残基システイン(C)のフレームシフト突然変異(C1874fs)、アミノ酸位置1957の野生型残基アスパラギン酸(D)のグルタミン酸(E)による置換(D1957E)、配列番号11のアミノ酸位置1430の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q1430*)、配列番号11のアミノ酸位置1721の野生型残基アルギニン(R)のフレームシフト突然変異(R1721fs)、アミノ酸位置1255の野生型残基グリシン(G)のグルタミン酸(E)による置換(G1255E)、配列番号11のアミノ酸位置284の野生型残基グリシン(G)のフレームシフト突然変異(G284fs)、配列番号11のアミノ酸位置1722の野生型残基アルギニン(R)のナンセンス突然変異(R1722*)、配列番号11のアミノ酸位置274の野生型残基メチオニン(M)のフレームシフト突然変異(M274fs)、配列番号11のアミノ酸位置1847の野生型残基グリシン(G)のフレームシフト突然変異(G1847fs)、配列番号11のアミノ酸位置559の野生型残基Pのフレームシフト突然変異(P559fs)、配列番号11のアミノ酸位置1276の野生型残基アルギニン(R)のナンセンス突然変異(R1276*)、配列番号11のアミノ酸位置2176の野生型残基グルタミン(Q)のフレームシフト突然変異(Q2176fs)、配列番号11のアミノ酸位置203の野生型残基ヒスチジン(H)のフレームシフト突然変異(H203fs)、配列番号11のアミノ酸位置591の野生型残基アラニン(A)のフレームシフト突然変異(A591fs)、配列番号11のアミノ酸位置1322の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q1322*)、配列番号11のアミノ酸位置2264の野生型残基セリン(S)のナンセンス突然変異(S2264*)、配列番号11のアミノ酸位置586の野生型残基グルタミン(Q)のナンセンス突然変異(Q586*)、配列番号11のアミノ酸位置548の野生型残基グルタミン(Q)のフレームシフト突然変異(Q548fs)、および配列番号11のアミノ酸位置756の野生型残基アスパラギン(N)のフレームシフト突然変異(N756fs)からなる群から選択される突然変異を含んでもよい。本明細書に使用される「*」は、終止コドンをいう。本明細書に使用される「fs」はフレームシフトをいう。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
本明細書に使用される「ニューロン分化を誘導すること」は、細胞を細胞にならしめることをいう
【0076】
本開示の方法によれば、「正常な」細胞は、SNF5、ATRXおよび/またはARID1Aの発現および/または機能を含め、癌細胞の1つまたは複数の特徴の比較の基準として使用してもよい。本明細書で使用する場合、「正常な細胞」は、「細胞増殖性障害」の一部として分類できない細胞である。正常な細胞には、望ましくない状態または疾患の発症に至る可能性がある、制御不能な成長もしくは異常な成長またはその両方が見られない。好ましくは、正常な細胞は、癌細胞と比較可能な量のEZH2を発現する。好ましくは正常な細胞は、SNF5遺伝子、ATRX遺伝子および/またはARID1A遺伝子の野生型配列を含み、突然変異を有さないSNF5、ATRXおよび/またはARID1Aの転写物を発現し、かつすべての機能を正常な活性レベルに保持し突然変異を有さないSNF5タンパク質、ATRXタンパク質および/またはARID1Aタンパク質を発現する。
【0077】
本明細書で使用する場合、「細胞を接触させること」は、化合物または他の組成物が、細胞と直接接触しているまたは細胞に所望の生物学的作用を誘導するのに十分に接近している状態をいう。
【0078】
本明細書で使用する場合、「処置すること」または「処置する」は、疾患、状態または障害の対処を目的とした被検体の管理およびケアをいい、癌の症状もしくは合併症を緩和するためまたは癌を排除するため、本開示のEZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物、多形もしくは溶媒和物を投与することを含む。
【0079】
本明細書で使用する場合、「緩和する」という用語は、癌の徴候または症状の重症度を低下させるプロセスを説明することを意図している。重要な点として、徴候または症状は、除去することなく緩和することができる。好ましい実施形態では、本開示の医薬組成物を投与すると徴候または症状が除去されるが、しかしながら、除去は必須ではない。効果的な投薬量は徴候または症状の重症度を低下させると予想される。たとえば、複数の部位で起こり得る癌などの障害の徴候または症状は、複数の部位の少なくとも1つで癌の重症度が低下する場合、緩和される。
【0080】
本明細書で使用する場合、「重症度」という用語は、癌が前癌性または良性状態から悪性状態に変化する可能性を説明することを意図している。あるいは、またはさらに、重症度は、たとえば、TNM方式(International Union Against Cancer(UICC)およびAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)により認められた)により、あるいは他の当該技術分野において承認されている方法により癌の病期を説明することを意図している。癌の病期とは、原発腫瘍の位置、腫瘍の大きさ、腫瘍数およびリンパ節転移(癌のリンパ節への広がり)などの因子に基づく癌の程度または重症度をいう。あるいは、またはさらに、重症度は、当該技術分野において承認されている方法により腫瘍グレードを説明することを意図している(米国国立癌研究所(National Cancer Institute)、www.cancer.govを参照されたい)。腫瘍グレードは、癌細胞が顕微鏡下でどのように異常に見えるか、そして腫瘍がいかに急速に増殖し広がる傾向があるかという観点から癌細胞を分類するのに使用するシステムである。腫瘍グレードを判定する際は、細胞の構造および増殖パターンなど多くの因子が考慮される。腫瘍グレードの判定に使用される具体的な因子は、各癌型によって異なる。重症度はまた、腫瘍細胞が同じ組織型の正常な細胞にどの程度類似しているかを示す、分化とも呼ばれる組織学的グレードもいう(米国国立癌研究所(National Cancer Institute)、www.cancer.govを参照されたい)。さらに、重症度は、腫瘍細胞の核の大きさおよび形状と、分裂している腫瘍細胞の割合とを示す核グレードについてもいう(米国国立癌研究所(National Cancer Institute)、www.cancer.govを参照されたい)。
【0081】
本開示の別の態様では、重症度は、腫瘍が増殖因子をどの程度分泌したか、細胞外マトリックスをどの程度分解したか、どの程度血管新生化したか、隣接した組織への接着をどの程度失ったか、あるいはどの程度転移したかをいう。さらに重症度は、原発腫瘍が転移した部位の数も示す。最後に、重症度は、様々な型および部位の腫瘍の処置のしにくさを含む。たとえば、手術不能な腫瘍、複数の器官に到達しやすい癌(血液系および免疫系の腫瘍)、および伝統的な処置に最も抵抗性があるものが、最も重度と見なされる。これらの状況において、被検体の平均余命の延長および/または疼痛の低下、癌性細胞の比率の低下または細胞が1つの系に限定されること、および癌の病期/腫瘍グレード/組織学的グレード/核グレードの改善は、癌の徴候または症状の緩和と見なされる。
【0082】
本明細書で使用する場合、「症状」という用語は、体内における疾患、疾病、障害または適切でないものの兆しと定義される。症状は、症状を経験している個体が感じあるいは気付くものであるが、他人は容易に気付くことができない。他人は、非医療専門家と定義される。
【0083】
本明細書で使用する場合、「徴候」という用語も、体内における適切でないものの兆しと定義される。ただし、徴候は、医師、看護師または他の医療専門家により確認することができるものと定義される。
【0084】
癌は、ほとんどすべての徴候または症状を引き起こし得る疾患群である。徴候および症状は、癌がどこにあるか、癌の大きさ、および癌が近くの器官または構造にどの程度影響を与えるかによって異なる。癌が広がる(転移する)場合、症状は体の様々な部分で現れることがある。
【0085】
癌が増殖すると、癌は近くの器官、血管および神経を押し始める。この圧力により癌の徴候および症状の一部が出る。癌は、非常に大きく成長するまで何ら症状を引き起こさない場所に生じることもある。
【0086】
癌はさらに、発熱、疲労または体重減少などの症状を引き起こすこともある。これは、癌細胞が、身体のエネルギー供給の多くを使い尽くす、あるいは身体の代謝を変化させる物質を放出するためではないかと考えられる。あるいは癌は、こうした症状を起こすように免疫系を反応させることもある。頻度がより低く、本明細書に列挙していない他の症状も多くあるものの、上記に列挙した徴候および症状は、癌に高頻度に見られるものである。ただし、当該技術分野において承認されている癌の徴候および症状はすべて、本開示に包含されることを意図している。
【0087】
癌を処置すると、腫瘍の大きさが小さくなることがある。腫瘍の大きさが小さくなることは、「腫瘍退縮」という場合もある。好ましくは、本開示の方法による処置後、腫瘍の大きさは、処置前のその大きさと比較して5%またはそれより多く小さくなり;一層好ましくは、腫瘍の大きさは10%またはそれより多く小さくなり;一層好ましくは20%またはそれより多く小さくなり;一層好ましくは30%またはそれより多く小さくなり;一層好ましくは40%またはそれより多く小さくなり;なお一層好ましくは、50%またはそれより多く小さくなり;最も好ましくは、75%超またはそれより多く小さくなる。腫瘍の大きさは、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。腫瘍の大きさは、腫瘍の直径として測定してもよい。
【0088】
癌を処置すると、腫瘍容積が縮小することがある。好ましくは、本開示の方法による処置後、腫瘍容積は、処置前のその大きさと比較して5%またはそれより多く縮小し;一層好ましくは、腫瘍容積は10%またはそれより多く縮小し;一層好ましくは20%またはそれより多く縮小し;一層好ましくは30%またはそれより多く縮小し;一層好ましくは40%またはそれより多く縮小し;なお一層好ましくは50%またはそれより多く縮小し;最も好ましくは75%超またはそれより多く縮小する。腫瘍容積は、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。
【0089】
癌を処置すると、腫瘍の数が減少することがある。好ましくは、本開示の方法による処置後、腫瘍数は、処置前の数と比較して5%またはそれより多く減少し;一層好ましくは、腫瘍数は10%またはそれより多く減少し;一層好ましくは20%またはそれより多く減少し;一層好ましくは30%またはそれより多く減少し;一層好ましくは40%またはそれより多く減少し;なお一層好ましくは50%またはそれより多く減少し;最も好ましくは75%より多く減少する。腫瘍の数は、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。腫瘍の数は、肉眼または特定の倍率で観察できる腫瘍をカウントすることにより測定することができる。好ましくは、特定の倍率は2×、3×、4×、5×、10×または50×である。
【0090】
癌を処置すると、原発腫瘍部位から離れた他の組織または器官の転移病変の数が減少することがある。好ましくは、本開示の方法による処置後、転移病変の数が処置前の数と比較して5%またはそれより多く減少し;一層好ましくは、転移病変の数は10%またはそれより多く減少し;一層好ましくは、20%またはそれより多く減少し;一層好ましくは、30%またはそれより多く減少し;一層好ましくは、40%またはそれより多く減少し;なお一層好ましくは、50%またはそれより多く減少し;最も好ましくは、75%より多く減少する。転移病変の数は、任意の再現可能な測定手段により測定することができる。転移病変の数は、肉眼または特定の倍率で目視可能な転移病変をカウントすることにより測定してもよい。好ましくは、特定の倍率は、2×、3×、4×、5×、10×または50×である。
【0091】
本開示の有効量のEZH2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物、多形もしくは溶媒和物は、正常な細胞に対して大きな細胞毒性を示さない。たとえば、本開示の治療有効量のEZH2阻害剤は、本開示の治療有効量のEZH2阻害剤の投与により細胞死が正常な細胞の10%より多く誘導されない場合、正常な細胞に対して大きな細胞毒性を示さない。本開示の治療有効量のEZH2阻害剤は、治療有効量の化合物の投与により細胞死が正常な細胞の10%より多く誘導されない場合、正常な細胞の生存率に大きな影響を与えない。
【0092】
本開示のEZH2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物、多形もしくは溶媒和物を細胞と接触させると、癌細胞のEZH2活性を選択的に阻害することができる。それを必要とする被検体に本開示のEZH2阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、プロドラッグ、代謝物、多形もしくは溶媒和物を投与すると、癌細胞のEZH2活性を選択的に阻害することができる。
【0093】
髄芽腫
髄芽腫は、成長の速い浸潤性の高悪性度脳腫瘍である。亜型に関係なく、髄芽腫は常に脳の小脳に、さらに詳しくは小脳の後頭蓋窩内に発生する。小脳は、平衡および他の複雑な運動機能を制御する。
【0094】
髄芽腫は、中枢神経系(CNS)(すなわち、脳および脊髄)を超えて広がることはほとんどない。ただし、転移性髄芽腫は、骨および骨髄に広がることがある。髄芽腫細胞は、頻繁に正常状態で分裂して細胞をつくり小脳の細胞に取って代わる、小脳の未熟細胞から起こる。
【0095】
髄芽腫は比較的稀であり、全原発性脳腫瘍の2%未満、および全小児脳腫瘍の18%を占める。全小児髄芽腫の70%超は、10歳未満の小児で診断される。髄芽腫は、成人に発生することがあり、認められる場合、20~44歳の成人に最も多く発生する。髄芽腫は、女性より男性で発生する頻度が高い。
【0096】
髄芽腫の亜型には、以下に限定されるものではないが、古典的髄芽腫、線維形成結節性髄芽腫、大細胞または退形成性髄芽腫、神経芽細胞または神経細胞への分化を含む髄芽腫、グリアへの分化を含む髄芽腫、髄筋芽種および色素性髄芽腫がある。本開示に使用する場合、「髄芽腫」という用語は、この癌のすべての亜型を含んでもよい。髄芽腫はまた、小脳性原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)ということもある。
【0097】
髄芽腫の症状には、以下に限定されるものではないが、行動の変化、食欲の変化および脳への圧力亢進症状(たとえば、頭痛、悪心、嘔吐および傾眠のほか、協調運動障害(たとえば不器用、書字障害および視覚障害))がある。さらに異常な眼球運動が起こることもある。癌が脊髄に広がった場合、症状として、背部痛、歩行困難ならびに/または膀胱および腸機能の調節障害を挙げることができる。
【0098】
髄芽腫は、多くの場合、第一選択治療としての手術を放射線療法および/または化学療法と組み合わせて、あるいは、第一選択治療としての手術に続き放射線療法および/または化学療法で処置される。EZH2阻害剤による処置、好ましくはタゼメトスタットによる処置を必要とする本開示の被検体は、手術、放射線および/または化学療法と組み合わせてEZH2阻害剤により処置してもよい。EZH2阻害剤による処置、好ましくはタゼメトスタットによる処置を必要とする本開示の被検体は、本開示のEZH2阻害剤による処置の前に手術、放射線または1回の化学療法を行ってもよい。EZH2阻害剤による処置、好ましくはタゼメトスタットによる処置を必要とする本開示の被検体は、本開示のEZH2阻害剤による処置の前に手術、放射線または1回の化学療法を行っていてもよく、手術、放射線および/または化学療法から利益を得られなかったかもれしれない。本開示のEZH2阻害剤、以下に限定されるものではないが、タゼメトスタットは、被検体に手術、放射線および/または化学療法を推奨または実施する前に第一選択治療として使用してもよい。
【0099】
EZH2阻害剤
本開示のEZH2阻害剤は、下記タゼメトスタット(EPZ-6438または化合物A):
【化13】
またはその薬学的に許容される塩を含む。
【0100】
タゼメトスタットは、米国特許第8,410,088号明細書、同第8,765,732号明細書および同第9,090,562号明細書にも記載されている(それらの内容をそれぞれ全体として援用する)。
【0101】
本明細書に記載するようなタゼメトスタットまたはその薬学的に許容される塩は、WTおよびミュータントEZH2の両方を標的とするのに有効である。タゼメトスタットは、経口吸収性があり、他のヒストンメチルトランスフェラーゼと比較してEZH2に対して高い選択性を有する(すなわちKiで>20,000倍の選択性)。重要な点として、タゼメトスタットは、インビトロで遺伝的に定義された癌細胞の殺傷を引き起こすメチルマーク阻害を標的としている。動物モデルでも、標的メチルマークの阻害後に持続性のインビボ有効性が示されている。本明細書に記載の臨床試験結果からも、タゼメトスタットの安全性および有効性が立証される。
【0102】
一実施形態では、タゼメトスタットまたはその薬学的に許容される塩は、NHLを処置するため1日約100mg~約3200mg、たとえば約100mg BID~約1600mg BID(たとえば、100mg BID、200mg BID、400mg BID、800mg BIDまたは1600mg BID)の用量で被検体に投与される。一実施形態では用量は800mg BIDである。
【0103】
本開示のEZH2阻害剤は、
【化14】
あるいはその立体異性体またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物を含んでも、それらから本質的になってもあるいはそれらからなってもよい。
【0104】
本開示のEZH2阻害剤は、下記化合物E:
【化15】
またはその薬学的に許容される塩を含んでも、それらから本質的になってもあるいはそれらからなってもよい。
【0105】
本開示のEZH2阻害剤は、以下の式:
【化16】
を有するGSK-126、その立体異性体またはその薬学的に許容される塩または溶媒和物を含んでも、それらから本質的になってもあるいはそれらからなってもよい。
【0106】
本開示のEZH2阻害剤は、下記化合物F:
【化17】
もしくはその立体異性体またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物を含んでも、それらから本質的になってもあるいはそれらからなってもよい。
【0107】
本開示のEZH2阻害剤は、下記化合物Ga~Gc:
【化18】
またはそれらの立体異性体、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物いずれか1つを含んでも、それから本質的になってもあるいはそれからなってもよい。
【0108】
本開示のEZH2阻害剤は、CPI-1205またはGSK343を含んでも、それから本質的になってもあるいはそれからなってもよい。
【0109】
追加の好適なEZH2阻害剤は、当業者に明らかになるであろう。本明細書で提供される戦略、処置方式、方法、組み合わせおよび組成物のいくつかの実施形態では、EZH2阻害剤は、各々の内容全体を本明細書に援用する米国特許第8,536,179号明細書(数ある化合物の中でもGSK-126について記載し、国際公開第2011/140324号パンフレットに対応する)に記載されたEZH2阻害剤である。
【0110】
本明細書で提供される戦略、処置方式、方法、組み合わせおよび組成物のいくつかの実施形態では、EZH2阻害剤は、各々の内容全体を本明細書に援用する、国際公開第2014/124418号パンフレットとして公開された国際出願PCT/US2014/015706号パンフレット、国際公開第2013/120104号パンフレットとして公開された国際出願PCT/US2013/025639号パンフレット、および米国特許出願公開第2015/0368229号明細書として公開された米国特許出願第14/839,273号明細書に記載されたEZH2阻害剤である。
【0111】
一実施形態では、本明細書に開示された化合物は、本明細書に開示された化合物それ自体、すなわち、遊離塩基または「裸の」分子である。別の実施形態では、化合物は、その塩、たとえば、裸の分子のモノHClまたはトリHCl塩、モノHBrまたはトリHBr塩である。
【0112】
窒素を含む本明細書に開示される化合物は、本明細書に開示されるいずれかの方法に好適な他の化合物を得るため、酸化剤(たとえば、3-クロロペルオキシ安息香酸(mCPBA)および/または過酸化水素)を用いた処理によりN-オキシドに変換してもよい。したがって、図示し特許請求の範囲に記載されているすべての窒素含有化合物は、原子価および構造が許容される場合、図示した化合物およびそのN-オキシド誘導体(N→OまたはN+-O-と表記することがある)の両方を含むものと見なされる。さらに、他の例では、本明細書に開示される化合物中の窒素は、N-ヒドロキシ化合物またはN-アルコキシ化合物に変換してもよい。たとえば、N-ヒドロキシ化合物は、酸化剤、たとえばm-CPBAによる親アミンの酸化により調製することができる。図示し特許請求の範囲に記載されているすべての窒素含有化合物はさらに、原子価および構造が許容される場合、図示した化合物とそのN-ヒドロキシ(すなわち、N-OH)誘導体およびN-アルコキシ(すなわち、N-OR(式中、Rは置換もしくは非置換C1~C6アルキル、C1~C6アルケニル、C1~C6アルキニル、3~14員炭素環または3~14員複素環である))誘導体との両方を包含する。
【0113】
「異性」は、化合物が同一の分子式を有するものの、その原子の結合順序またはその原子の空間配置が異なることを意味する。原子の空間配置が異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる。互いに鏡像でない立体異性体は「ジアステレオ異性体」と呼ばれ、互いに重ね合わせることができない鏡像である立体異性体は「エナンチオマー」と呼ばれ、光学異性体と呼ばれることもある。逆のキラリティーの各エナンチオマー型を等量含む混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0114】
同一でない4つの置換基に結合した炭素原子は「キラル中心」と呼ばれる。
【0115】
「キラル異性体」は、少なくとも1つのキラル中心を有する化合物を意味する。2つ以上のキラル中心を有する化合物は、個々のジアステレオマーとして存在しても、あるいは「ジアステレオマー混合物」と呼ばれるジアステレオマーの混合物として存在してもよい。1つのキラル中心が存在する場合、立体異性体は、そのキラル中心の絶対配置(RまたはS)により特徴付けてもよい。絶対配置とは、キラル中心に結合した置換基の空間配置をいう。検討対象のキラル中心に結合した置換基は、Sequence Rule of Cahn,Ingold and Prelogに従いランク付けされる。(Cahn et al.,Angew.Chem.Inter.Edit.1966,5,385;errata 511;Cahn et al.,Angew.Chem.1966,78,413;Cahn and Ingold,J.Chem.Soc.1951(London),612;Cahn et al.,Experientia 1956,12,81;Cahn,J.Chem.Educ.1964,41,116)。
【0116】
「幾何異性体」は、存在する原因が二重結合またはシクロアルキルリンカー(たとえば、1,3-シルコブチル)の周りの回転障壁であるジアステレオマーを意味する。これら配置は、接頭辞シスおよびトランス、またはカーン-インゴルド-プレローグ順位則に従い各基が分子の二重結合に関して同じ側または反対側にあることを示すZおよびEにより、その名称により区別される。
【0117】
本明細書に開示される化合物は、異なるキラル異性体または幾何異性体として図示し得ることが理解されよう。さらに、化合物がキラル異性体型または幾何異性体型を有する場合、すべての異性体型が本開示の範囲に含まれることを意図しており、化合物の名称は任意の異性体型を除外するものではないことも理解されるべきである。
【0118】
さらに、こうした構造および本開示で考察された他の化合物は、そのすべてのアトロピック(atropic)異性体を含む。「アトロピック(atropic)異性体」は、2つの異性体の原子が空間で異なって配置されている立体異性体の1種である。アトロピック(atropic)異性体が存在する原因は、中心結合の周りの大きな基の回転障壁により引き起こされる回転の束縛である。こうしたアトロピック(atropic)異性体は典型的には混合物として存在するが、クロマトグラフィー技術の最近の進歩の結果、特定の場合、2つのアトロピック(atropic)異性体の混合物を分離することが可能になっている。
【0119】
「互変異性体」は、2つ以上の構造異性体が平衡状態で存在し、ある異性体型から別の異性体型に容易に変換される、それらの構造異性体の1つである。この変換の結果、水素原子が、隣接する共役二重結合の変化を伴って形式的に移動する。互変異性体は、溶液中で互変異性体のセットの混合物として存在する。互変異性が可能である溶液においては、互変異性体の化学平衡に達する。互変異性体の正確な比率は、温度、溶媒およびpHを含むいくつかの要因によって異なる。互変異性化により相互変換可能な互変異性体の概念は、互変異性と呼ばれる。
【0120】
考えられる様々なタイプの互変異性のうち、2つが一般に観察される。ケト-エノール互変異性では、電子および水素原子の同時移動が起こる。環鎖互変異性は、糖鎖分子のアルデヒド基(-CHO)が同じ分子のヒドロキシ基(-OH)の1つと反応して、分子にグルコースに見られるような環式(環状)形態が生じた結果として起こる。
【0121】
一般的な互変異性ペアとして、ケトン-エノール、アミド-ニトリル、ラクタム-ラクチム、複素環式環における(たとえば、グアニン、チミンおよびシトシンなどの核酸塩基における)アミド-イミド酸互変異性、イミン-エナミンおよびエナミン-エナミンがある。ケト-エノール平衡の例として、下記に示すようなピリジン-2(1H)-オンと、対応するピリジン-2-オールとの間の平衡がある。
【化19】
【0122】
本明細書に開示される化合物は、様々な互変異性体として図示し得ることが理解されよう。さらに、化合物が互変異性形を有する場合、すべての互異性形が本開示の範囲に含まれることを意図しており、化合物の名称は任意の互変異性体形を除外するものではないことも理解されるべきである。
【0123】
本明細書に開示された化合物は、化合物自体のほか、妥当である場合、それらの塩およびそれらの溶媒和物を含む。塩は、たとえば、アニオンと、アリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物の正電荷を帯びた基(たとえば、アミノ)との間で形成することができる。好適なアニオンとして、クロリド、ブロミド、ヨージド、スルフェート、ビスルフェート、スルファメート、ニトレート、ホスフェート、シトレート、メタンスルホネート、トリフルオロアセテート、グルタメート、グルクロネート、グルタレート、マレート、マレエート、スクシネート、フマレート、タルトレート、トシレート、サリチレート、ラクテート、ナフタレンスルホネートおよびアセテート(たとえば、トリフルオロアセテート)が挙げられる。「薬学的に許容されるアニオン」という用語は、薬学的に許容される塩を形成するのに好適なアニオンをいう。同様に、塩は、カチオンとアリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物の負電荷を帯びた基(たとえば、カルボキシレート)との間でも形成することができる。好適なカチオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムカチオン、たとえばテトラメチルアンモニウムイオンが挙げられる。アリールまたはヘテロアリール置換ベンゼン化合物は、第四級窒素原子を含む塩をさらに含む。塩形態では、塩のカチオンまたはアニオンに対する化合物の比率が1:1、または1:1以外の任意の比率、たとえば、3:1、2:1、1:2もしくは1:3であってもよいことが理解される。
【0124】
加えて、本明細書に開示される化合物、たとえば、化合物の塩は、水和もしくは非水和(無水)形態で存在しても、あるいは他の溶媒分子との溶媒和物として存在してもよい。水和物の非限定的な例として、一水和物、二水和物等が挙げられる。溶媒和物の非限定的な例として、エタノール溶媒和物、アセトン溶媒和物等が挙げられる。
【0125】
「溶媒和物」は、化学量論量あるいは非化学量論量の溶媒を含む溶媒付加形態を意味する。一部の化合物は、結晶性固体状態で一定のモル比の溶媒分子を捕捉する傾向があり、したがって溶媒和物を形成する。溶媒が水の場合、形成される溶媒和物は水和物であり、溶媒がアルコールの場合、形成される溶媒和物はアルコラートである。水和物は1つの物質分子と1つまたは複数の水分子の組み合わせにより形成され、水はその分子状態をH2Oとして維持する。
【0126】
本明細書で使用する場合、「アナログ」という用語は、別の化学化合物と構造的に類似しているが、組成がやや異なる(異なる元素の原子による1つの原子の置き換え、または特定の官能基の存在、または別の官能基による1つの官能基の置き換えのように)化学化合物をいう。したがって、アナログは、参照化合物と機能および外観が類似または同様であるが、構造または起源が類似または同様でない化合物である。
【0127】
本明細書で定義した、「誘導体」という用語は、共通のコア構造を有するが、本明細書に記載するような様々な基で置換されている化合物をいう。たとえば、式(I)で表される化合物はすべて、アリール置換またはヘテロアリール置換化合物であり、共通のコアとして式(I)を有する。
【0128】
「生物学的等価体」という用語は、ある原子または原子団と、別の概ね類似した原子または原子団との交換により生じる化合物をいう。生物学的等価性置換の目的は、親化合物に類似した生物学的特性を有する新しい化合物を作ることにある。生物学的等価性置換は、物理化学をベースにしても、あるいは位相幾何学をベースにしてもよい。カルボン酸の生物学的等価体の例として、アシルスルホンイミド、テトラゾール、スルホネートおよびホスホネートがあるが、これに限定されるものではない。たとえば、Patani and LaVoie,Chem.Rev.96,3147-3176,1996を参照されたい。
【0129】
本開示は、本化合物に生じる原子の同位体をすべて含むことを意図している。同位体は、同じ原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子を含む。一般的な例として、限定するものではないが、水素の同位体としてトリチウムおよびジュウテリウムがあり、炭素の同位体としてC-13およびC-14がある。
【0130】
医薬製剤
本開示はまた、本明細書に記載の少なくとも1つのEZH2阻害剤を、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤またはキャリアと組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0131】
「医薬組成物」は、被検体への投与に好適な形態で本開示のEZH2阻害剤を含む製剤である。一実施形態では、医薬組成物はバルクまたは単位剤形である。単位剤形は、たとえば、カプセル、IVバッグ、錠剤、エアロゾル吸入器の単一ポンプまたはバイアルなど種々の形態のいずれかである。単位用量の組成物における活性成分(たとえば、開示された化合物またはその塩、水和物、溶媒和物または異性体の製剤)の量は有効量であり、関連する個々の処置に応じて変化する。当業者であれば、患者の年齢および状態によって投薬量を日常的に変える必要があることもあることを理解するであろう。投薬量はまた投与経路によって異なる。経口、経肺、直腸、非経口、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、吸入、口腔内、舌下、胸膜内、髄腔内、鼻腔内および同種のものなど種々の経路を意図している。本開示の化合物の局所投与または経皮投与用の剤形として、散剤、スプレー剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、溶液剤、パッチ剤および吸入薬が挙げられる。一実施形態では、活性化合物は、滅菌条件下で薬学的に許容されるキャリアと、必要とされる任意の防腐剤、バッファーまたは噴霧剤と混合される。
【0132】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」という語句とは、化合物、材料、組成物、キャリアおよび/または剤形が、適切な医学的判断の範囲内において、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を回避しつつ、合理的なベネフィット/リスク比に見合ってヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに好適であることをいう。
【0133】
「薬学的に許容される賦形剤」は、医薬組成物の調製に有用であり、かつ一般に安全で無毒性であり、生物学的にもあるいは他の点でも望ましい賦形剤を意味し、動物用途のほか、ヒトの医薬用途に許容可能な賦形剤を含む。本明細書および特許請求の範囲に使用される「薬学的に許容される賦形剤」は、そうした賦形剤の1種および2種以上の両方を含む。
【0134】
本開示の医薬組成物は、その目的の投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例として、非経口投与、たとえば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(たとえば、吸入)、経皮投与(局所)、および経粘膜投与が挙げられる。非経口用途、皮内用途または皮下用途に使用される溶液または懸濁液として、以下の成分:無菌希釈液、たとえば食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒;抗菌薬、たとえばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;酸化防止剤、たとえばアスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウム;キレート化剤、たとえばエチレンジアミン四酢酸;バッファー、たとえばアセテート、シトレートまたはホスフェート、および張度調整剤、たとえば塩化ナトリウムまたはブドウ糖を挙げることができる。pHは、酸または塩基、たとえば塩酸または水酸化ナトリウムで調整することができる。非経口調製物は、ガラスもしくはプラスチック製のアンプル、ディスポーザブルシリンジまたはマルチドーズバイアルに封入してもよい。
【0135】
本開示の化合物または医薬組成物は、化学療法処置に現在使用されるよく知られた方法の多くで被検体に投与することができる。たとえば、癌の処置では、本開示の化合物を腫瘍に直接注射しても、血流中もしくは体腔に注射しても、あるいは経口投与しても、あるいはパッチを用いて経皮適用してもよい。選択される用量は効果的な処置となるのに十分であるが、許容できない副作用を引き起こすほど高くないようにすべきである。病状の状況(たとえば、癌、前癌および同種のもの)および患者の健康については好ましくは、処置中および処置後相当期間、詳細にモニターすべきである。
【0136】
「治療有効量」という用語は、本明細書で使用する場合、特定された疾患または状態の処置、軽減または予防に有効な、あるいは検出可能な治療効果または阻害効果を示すEZH2阻害剤、組成物、またはその医薬化合物の量をいう。効果は、当該技術分野において公知の任意のアッセイ方法により検出することができる。被検体の正確な有効量は、被検体の体重、大きさおよび健康;その状態の性質および程度;ならびに投与のために選択した治療法または治療法の組み合わせによって異なる。ある状況に対する治療有効量は、臨床医の技能および判断の範囲内にある通常の実験により決定することができる。好ましい態様では、処置対象の疾患または状態は癌であり、限定はされないが髄芽腫を含む。
【0137】
いずれの本開示のEZH2阻害剤でも、治療有効量は、たとえば、腫瘍性細胞の細胞培養アッセイ、または動物モデル、通常ラット、マウス、ウサギ、イヌもしくはブタを用いて最初に推定することができる。動物モデルはさらに、適切な濃度範囲および投与経路を判定するのに使用してもよい。次いでこうした情報を使用して、ヒトの投与に有用な用量および経路を判定することができる。治療/予防有効性および毒性は、細胞培養または実験動物を対象とした標準的な薬学的手順、たとえば、ED50(集団の50%で治療効果のある用量)およびLD50(集団の50%致死用量)により判定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は治療係数であり、LD50/ED50比で表すことができる。好ましいのは、大きな治療係数を示す医薬組成物である。投薬量は、利用する剤形、患者の感受性および投与経路によってこの範囲内で変わってもよい。
【0138】
投薬量および投与は、十分なレベルの活性剤(単数または複数)を与えるか、または所望の効果を維持するように調整される。考慮に入れてもよい因子として、病状の重症度、被検体の一般的な健康状態、被検体の年齢、体重および性別、食事、投与の時間および頻度、薬剤組み合わせ、反応感受性、ならびに治療に対する忍容性/反応が挙げられる。長時間作用性医薬組成物は、特定の製剤の半減期およびクリアランス速度によって3~4日毎、毎週あるいは2週に1回投与してもよい。
【0139】
本開示のEZH2阻害剤を含む医薬組成物は、一般に知られた方法で、たとえば、従来の混合プロセス、溶解プロセス、造粒プロセス、糖衣錠製造プロセス、研和プロセス、乳化プロセス、カプセル化プロセス、封入プロセスまたは凍結乾燥プロセスによって製造することができる。医薬組成物は、活性化合物を薬学的に使用することができる調製物に加工しやすくする賦形剤および/または助剤を含む、1種もしくは複数種の薬学的に許容されるキャリアを用いて従来の方法で製剤化してもよい。言うまでもなく、適切な製剤は選択された投与経路によって異なる。
【0140】
注射用途に好適な医薬組成物は、無菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および必要に応じて調製される無菌注射用溶液または分散液用の無菌粉末を含む。静脈内投与では、好適なキャリアとして、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF,Parsippany,N.J.)またはリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。すべての場合において、組成物は無菌でなければならず、シリンジ操作が容易である程度の流動性があるべきである。組成物は、製造および保存条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの混入微生物の作用を防止しなければならない。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールならびに同種のもの)およびこれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、たとえば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には、必要とされる粒度の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールおよび同種のものの使用により達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、たとえば、糖、多価アルコール、たとえばマンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の吸収の持続化は、組成物に吸収を遅らせる薬、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを含ませることにより行うことができる。
【0141】
無菌注射溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上記に列挙した1つの成分または成分の組み合わせと共に適切な溶媒に加え、続いて濾過滅菌を行うことにより調製することができる。一般に、分散液は、基本的な分散媒および上記に列挙したものから必要とされる他の成分を含む無菌ビヒクルに活性化合物を加えることにより調製される。無菌注射溶液の調製用の無菌粉末の場合、調製方法は真空乾燥およびフリーズドライであり、これにより活性成分と任意の所望の追加成分との、前もって滅菌濾過した溶液から、活性成分と任意の所望の追加成分との粉末が得られる。
【0142】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤または食用の薬学的に許容されるキャリアを含む。経口組成物はゼラチンカプセルに封入しても、あるいは錠剤に圧縮してもよい。経口治療投与の目的上、活性化合物を賦形剤と混合し、錠剤、トローチ剤またはカプセル剤の形態で使用してもよい。経口組成物はさらに、洗口剤として使用される液体キャリアを用いて調製してもよく、液体キャリア中の化合物は経口適用し、すすいで吐き出すかまたは飲み込む。薬学的に適合する結合剤および/または補助剤を組成物の一部として含めてもよい。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤および同種のものは、性質の類似した以下の成分または化合物:バインダー、たとえば微結晶性セルロース、トラガントゴムまたはゼラチン;賦形剤、たとえばデンプンまたはラクトース、崩壊剤、たとえばアルギン酸、Primogelまたはコーンスターチ;滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウムまたはSterotes;流動促進剤、たとえばコロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、たとえばスクロースまたはサッカリン;または着香剤、たとえばペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香味料のいずれかを含んでもよい。
【0143】
吸入による投与では、化合物は、好適な噴射剤、たとえば、二酸化炭素などのガスを含む加圧容器もしくはディスペンサー、またはネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0144】
全身投与はまた、経粘膜または経皮手段によるものでもよい。経粘膜または経皮投与では、透過対象のバリアに適した浸透剤を製剤に使用する。こうした浸透剤は一般に当該技術分野において公知であり、たとえば、経粘膜投与の場合、界面活性剤、胆汁酸塩およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻スプレーまたは坐剤の使用により達成することができる。経皮投与では、活性化合物を一般に当該技術分野において公知の軟膏、膏薬、ゲルまたはクリームに製剤する。
【0145】
活性化合物(すなわち、本開示のEZH2阻害剤)は、化合物の身体からの急速な排除を防ぐ薬学的に許容されるキャリア、たとえばインプラントおよびマイクロカプセル化送達系などの放出制御製剤と共に調製してもよい。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの生分解性生体適合性ポリマーを使用してもよい。こうした製剤を調製するための方法は、当業者に明らかであろう。こうした材料はさらに、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から市販品として入手することができる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を用いて感染細胞を標的としたリポソームを含む)も、薬学的に許容されるキャリアとして使用することができる。これらは、たとえば米国特許第4,522,811号明細書に記載されているような当業者に公知の方法に従い調製することができる。
【0146】
投与のしやすさおよび投薬量の均一性のため、経口または非経口組成物を投薬単位剤形で製剤化すると特に有利である。投薬単位剤形とは、本明細書で使用する場合、単位投薬量として処置対象の被検体に適した物理的に分離した単位をいい、各単位は、必要とされる薬学的キャリアと共に、所望の治療効果を発揮するように計算された所定量の活性化合物を含む。本開示の投薬単位剤形の規格は、活性化合物の特有の特徴および達成されるべき個々の治療効果により決定され、それらに直接左右される。
【0147】
治療用途では、本開示に従い使用される医薬組成物の投薬量は、選択した投薬量に影響を与える数ある要因の中でも、薬、レシピエント患者の年齢、体重および臨床状態、ならびに治療を行う臨床医または開業医の経験および判断によって異なる。一般に、用量は、腫瘍の増殖を遅延させる、そして好ましくは退縮させる、さらに好ましくは癌を完全に退縮させるのに十分であるべきである。医薬剤の有効量は、臨床医または他の適格な観察者により認められる改善が客観的に特定できる量である。たとえば、患者の腫瘍の退縮は、腫瘍の直径を基準に測定してもよい。腫瘍の直径の減少は退縮を示す。退縮はさらに、処置を中止した後に再発する腫瘍がないことによっても示される。本明細書で使用する場合、「投薬量効果的方法」という用語は、活性化合物の量が被検体または細胞で所望の生物学的作用を発揮することをいう。
【0148】
医薬組成物は、投与説明書と共に容器、パックまたはディスペンサーに含めてもよい。
【0149】
本開示の化合物はさらに塩を形成することができる。こうした形態もすべて、特許請求の範囲に記載されている開示の範囲内にあることを意図している。
【0150】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される塩」は、親化合物がその酸性塩または塩基性塩を作ることにより修飾された本開示の化合物の誘導体をいう。薬学的に許容される塩の例として、アミンなどの塩基性残基の鉱酸塩または有機酸塩、カルボン酸などの酸性残基のアルカリ塩または有機塩、および同種のものがあるが、これに限定されるものではない。薬学的に許容される塩は、たとえば、無毒性無機酸または有機酸から形成された親化合物の従来の無毒性塩または第四級アンモニウム塩を含む。たとえば、そうした従来の無毒性塩として、2-アセトキシ安息香酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、炭酸、クエン酸、エデト酸、エタンジスルホン酸、1,2-エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコリアルサニル酸、ヘキシルレゾルシン酸、ヒドラバム酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナプシル酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、ポリガラクツロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、サブ酢酸(subacetic)、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸および一般に存在するアミン酸、たとえば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン等から選択される無機酸および有機酸から得られるものがあるが、これに限定されるものではない。
【0151】
薬学的に許容される塩の他の例として、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ピルビン酸、マロン酸、3-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、4-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ-[2.2.2]-オクト-2-エン-1-カルボン酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、第三級ブチル酢酸、ムコン酸および同種のものが挙げられる。本開示はさらに、親化合物に存在する酸性プロトンが金属イオン、たとえば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、またはアルミニウムイオンに置き換えられている場合、あるいは有機塩基、たとえばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N-メチルグルカミンおよび同種のものと配位している場合に形成される塩を包含する。
【0152】
薬学的に許容される塩への言及にはすべて、本明細書で定義した同じ塩の溶媒付加体(溶媒和物)または結晶形(多形)が含まれることを理解すべきである。
【0153】
本開示のEZH2阻害剤はさらに、エステル、たとえば、薬学的に許容されるエステルとして調製してもよい。たとえば、化合物のカルボン酸官能基をその対応するエステル、たとえば、メチル、エチルまたは他のエステルに変換してもよい。さらに、化合物のアルコール基をその対応するエステル、たとえば、アセテート、プロピオネートまたは他のエステルに変換してもよい。
【0154】
本開示のEZH2阻害剤はさらに、プロドラッグ、たとえば、薬学的に許容されるプロドラッグとして調製してもよい。「プロドラッグ(pro-drug)」および「プロドラッグ(prodrug)」という用語は、本明細書において同義で使われ、活性親薬剤をインビボで放出する任意の化合物をいう。プロドラッグは医薬品の多くの望ましい性質(たとえば、溶解性、バイオアベイラビリティー、製造等)を高めるので、本開示の化合物は、プロドラッグ形態で送達してもよい。したがって、本開示は、本特許請求の範囲に記載された化合物のプロドラッグ、それを送達する方法、およびそれを含む組成物を包含することを意図している。「プロドラッグ」は、そうしたプロドラッグが被検体に投与されたときに、本開示の活性親薬剤をインビボで放出する任意の共有結合したキャリアを含むことを意図している。本開示のプロドラッグは、修飾が通常の操作またはインビボで親化合物に切断されるように、化合物に存在する官能基を修飾することにより調製される。プロドラッグは、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシ基またはカルボニル基がインビボで切断されて、それぞれ遊離ヒドロキシル、遊離アミノ、遊離スルフヒドリル、遊離カルボキシまたは遊離カルボニル基を形成し得る任意の基に結合した本開示の化合物を含む。
【0155】
プロドラッグの例として、本開示の化合物のヒドロキシ官能基のエステル(たとえば、アセテート、ジアルキルアミノアセテート、ホルメート、ホスフェート、スルフェートおよびベンゾエート誘導体)およびカルバメート(たとえば、N,N-ジメチルアミノカルボニル)、カルボキシル官能基のエステル(たとえば、エチルエステル、モルホリノエタノールエステル)、アミノ官能基のN-アシル誘導体(たとえば、N-アセチル)N-マンニッヒ塩基、シッフ塩基およびエナミノン、ケトン官能基およびアルデヒド官能基のオキシム、アセタール、ケタールおよびエノールエステル、ならびに同種のものがあるが、これに限定されるものではない。Bundegaard,H.,Design of Prodrugs,p1-92,Elesevier,New York-Oxford(1985)を参照されたい。
【0156】
EZH2阻害剤またはその薬学的に許容される塩、エステルもしくはプロドラッグは、経口投与、経鼻投与、経皮投与、経肺投与、吸入投与、口腔内投与、舌下投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、直腸内投与、胸膜内投与、髄腔内投与および非経口投与される。一実施形態では、化合物は経口投与される。当業者であれば、特定の投与経路の利点を認識するであろう。
【0157】
化合物を利用する投与レジメンは、患者のタイプ、種、年齢、体重、性別および医学的状態;処置対象の状態の重症度;投与経路;患者の腎機能および肝機能;ならびに利用される個々の化合物またはその塩など種々の因子に従い選択される。通常の知識を有する医師または獣医師であれば、当該状態の進行を予防、防止または停止するのに必要な薬剤の有効量を容易に判定し、処方することができる。
【0158】
投与レジメンは、本開示の化合物の連日投与(たとえば24時間毎)であってもよい。投与レジメンは、数日間連続、たとえば、少なくとも2日間連続、少なくとも3日間連続、少なくとも4日間連続、少なくとも5日間連続、少なくとも6日間連続または少なくとも7日間連続の連日投与であってもよい。投与は、1日2回以上、たとえば、1日(24時間あたり)2回、3回または4回であってもよい。投薬レジメンは、連日投与後に少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日または少なくとも6日投与しなくてもよい。
【0159】
開示した本開示の化合物の製剤および投与のための技術は、Remington:the Science and Practice of Pharmacy,19th edition,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1995)で確認することができる。一実施形態では、本明細書に記載の化合物およびその薬学的に許容される塩は、薬学的に許容されるキャリアまたは希釈薬と組み合わせて医薬調製物に使用される。好適な薬学的に許容されるキャリアとして、不活性な固体充填剤または希釈薬、および無菌水溶液または有機溶液が挙げられる。本化合物は、本明細書に記載の範囲の所望の投薬量を与えるのに十分な量でそうした医薬組成物中に存在する。
【0160】
本明細書に使用されるパーセンテージおよび比率はすべて、他に記載がない限り、重量による。
【0161】
本開示の他の特徴と利点は様々な例から明らかである。提示した例は、本開示を実施する際に有用な様々な要素および方法を説明するものである。こうした例は、特許請求の範囲に記載されている開示を限定するものではない。本開示に基づき、当業者であれば、本開示を実施するのに有用な他の要素および方法を特定し、利用することができる。
【実施例】
【0162】
本明細書に開示された本発明をより効率的に理解するため、下記に例を提供する。これらの例は、説明のみを目的としたものであり、いかなる形においても本開示を限定するものと解釈してはならないことを理解すべきである。
【0163】
実施例1:タゼメトスタットは、髄芽腫細胞成長を低下させる。
髄芽腫細胞を、陰性対照(DMSO)あるいは異なる濃度:0.5μM、2μMおよび6μMのタゼメトスタット(EPZ 6438)のいずれかで処理する。培養物の1ミリリットルあたりの総細胞数を10日間毎日カウントした。各々のタゼメトスタット処理から、野生型と比較して髄芽腫細胞成長の著しい低下が立証された一方(
図26C)、効果は濃度依存性であった。
【0164】
GSK-126およびUNC 1999を含む他の小分子EZH2阻害剤の有効性と比較すると、タゼメトスタットは、髄芽腫細胞成長を低下させる優れた能力が立証された(
図26D)。
【0165】
実施例2:タゼメトスタットは、エキソビボでスライス培養の髄芽腫細胞成長を低下させる。
髄芽腫を有する5歳の患者に手術を行い、試験用に腫瘍組織のスライスを採取した。髄芽腫スライスを組織支持インサート上でエキソビボにて培養した(
図28A)。スライス培養の各部分を未処理とするか、より低濃度のタゼメトスタット(500nM)またはより高濃度のタゼメトスタット(2μM)で4日間処理した。処理期間後、スライス培養の細胞を解離およびフローサイトメトリーで分取する前にBrdUで4時間処理した。
【0166】
図28Bは、各々の処理条件後の細胞周期ステージの4つの段階(sub G0/G1、Go/G1、SまたはG2/M)各々の細胞のパーセントを図示することで処理の結果を提示する。データから、未処理対照と比較して、G0/G1期ではタゼメトスタットで処理した髄芽腫細胞の割合が増加し、G2/M期ではタゼメトスタットで処理した髄芽腫細胞の割合が低下することが実証される。データから、タゼメトスタットによる処理で、細胞分裂を妨害することにより髄芽腫細胞の増殖/成長が阻害されることが示される。
【0167】
図28Cから、DNAを合成する細胞の数がタゼメトスタット処理細胞内で著しく低下することがBrdUの取り込みの低下により証明されることが示され、
図28Bの結果が確認される。
【0168】
本明細書に引用する刊行物および特許文書はすべて、そうした刊行物または文書を本明細書に援用するために具体的に個々に示しているかのように本明細書に援用する。刊行物および特許文書の引用は、いずれかが適当な従来技術であること認めることを意図するものではなく、その内容または日付について何ら承認することにならない。これまで本発明を書面による記載により説明してきたが、当業者であれば、本発明を種々の実施形態で実施することができること、および前述の記載および下記の例は説明を目的としたものであり、以下の特許請求の範囲の限定を目的としたものでないことを認識するであろう。細胞株または遺伝子の名称が使用される場合、略語および名称は、他に記載がない限りあるいは文脈から明らかである場合を除き、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC:American Type Culture Collection)または米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI:National Center for Biotechnology Information)の命名法に準ずる。
【0169】
本発明は、その精神または本質的な特徴を逸脱することなく他の特定の形態で実施することができる。したがって前述の実施形態は、あらゆる点で本明細書に記載の本発明に関する限定ではなく、例示と見なすべきである。このため本発明の範囲は、明細書本文ではなく添付の特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲の均等範囲に属するすべての変更をすべてその範囲内に包含することを意図している。