(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】フェニルマロン酸ジニトリルの調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/08 20060101AFI20220325BHJP
C07C 57/58 20060101ALI20220325BHJP
C07C 253/30 20060101ALI20220325BHJP
C07D 471/10 20060101ALI20220325BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
C07C51/08
C07C57/58
C07C253/30
C07D471/10 101
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019502626
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2017068345
(87)【国際公開番号】W WO2018015489
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-07-17
(32)【優先日】2016-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300091441
【氏名又は名称】シンジェンタ パーティシペーションズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100183379
【氏名又は名称】藤代 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】ツェラー マルティン
(72)【発明者】
【氏名】フェドウ ニコラス
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-509006(JP,A)
【文献】特表2003-502403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0318776(US,A1)
【文献】国際公開第2015/007640(WO,A1)
【文献】特表2012-511541(JP,A)
【文献】Synlett,2006年,No.18,pp.3167-3169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III):
の化合物の調製方法であって、水の存在下、式(I):
の化合物
を酸と反応させるステップを含み、
塩基およびパラジウム触媒の存在下における、式(II):
の化合物とマロノニトリルとの反応を含
む方法によって式(I)の化合物を調製し、
式中、
Lは脱離基である
、
方法。
【請求項2】
式(I)の化合物の調製方法が
(i)マロノニトリルを塩基と反応させて、マロノニトリルアニオン([NCCHCN]
-)を形成するステップ(i)と、
(ii)パラジウム触媒の存在下、式(II)の化合物をステップ(i)のマロノニトリルアニオンと反応させて、式(I)の化合物を形成するステップ(ii)と
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Lがブロモである、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記塩基がアルカリ金属水酸化物
である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パラジウム触媒が、ホスフィン配位子との錯体形成によってパラジウム(II)またはパラジウム(0)化合物からその場で調製される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(I)の化合物の調製方法が、双極性非プロトン性溶媒
の存在下で実行される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記双極性非プロトン性溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
式(I)の化合物の調製方法が110~150℃で実行される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式(VIII)
の化合物の調製方法であって、以下のステップ、
(i)式(I):
の化合物を調製するステップであって、塩基およびパラジウム触媒の存在下における、式(II):
の化合物とマロノニトリルとの反応を含み、
式中、Lは脱離基である、ステップ、
(ii)水、および任意選択的にさらなる希釈剤の存在下、式(I)の化合物を酸と反応させて、式(III):
の化合物を形成するステップ、
(i
ii)
式(IV)
(式中、R
2
は、フェニルまたはC
1-4
アルキル、C
1-4
ハロアルキル、C
1-4
アルコキシ、ハロゲンおよびニトロからなる群から選択される1つもしくは複数の置換基によって置換されたフェニルである)の化合物を調製するステップであって、式(III)の化合物と、式(V)
の化合物、式(VI)
の化合物、およびCH
3-NH
2を反応させ
ることを含む、ステップ、
(i
v)
式(VII)
の化合物を調製するステップであって、適切な溶媒(または希釈剤)中で式(IV)の化合物を適切な塩基で処理
することを含む、ステップ、及び
(
v)
式(VIII)
の化合物を調製するステップであって、式(VII)の化合物をEtOC(O)Clと反応させ
ることを含む、ステップ、
を
含む、
方法。
【請求項11】
ステップ(V)において、少なくとも1当量の塩基の存在下で、式(VII)の化合物をEtOC(O)Clと反応させる、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のフェニル酢酸誘導体の調製方法と、特定のフェニル酢酸誘導体の調製方法において有用な中間体ジニトリル化合物と、中間体ジニトリル化合物の調製方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
フェニル酢酸誘導体は、昆虫、ダニ、軟体動物および線虫有害生物などの有害生物に対抗し、そして防除するために有用なスピロ複素環ピロリジンジオンの調製における中間体として、国際公開第97/002243号および国際公開第2015/007640号に開示されている。フェニル酢酸誘導体、特にハロゲン化(例えば、一塩素化または二塩素化)フェニル酢酸誘導体の改善された調製方法は、引き続いて探索されている。
【0003】
国際公開第00/78712号および国際公開第2004/050607号は、フェニルマロン酸ジニトリルの調製を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0004】
本発明によると、式(I):
【化1】
の化合物の調製方法が提供されており、本方法は、塩基およびパラジウム触媒の存在下における、式(II):
【化2】
(式中、
X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはC
1-4アルキルを表し、かつ
Lは脱離基であるが、
ただし、XおよびYのうちの1つまたは2つは互いに独立してフルオロまたはクロロである)
の化合物とマロノニトリルとの反応を含む。
【0005】
本発明の第2の態様によると、式(III):
【化3】
の化合物の調製方法が提供されており、本方法は、水、および任意選択的にさらなる希釈剤の存在下における、本発明に従う式(I)の化合物と酸(または塩基)との反応を含む。
【0006】
本発明の第3の態様によると、式(I):
【化4】
(式中、
X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはC
1-4アルキルを表すが、
ただし、XおよびYのうちの1つまたは2つは互いに独立してフルオロまたはクロロである)
の化合物が提供されている。
【0007】
本発明に従う方法は、式(I)および(III)に従う化合物の高収率の合成をもたらすことが見出された。さらに、本発明に従う方法は、加速された反応速度を提供し得る。さらに、本発明に従う方法は、式(I)および(III)に従う化合物の大規模調製に適している。
【0008】
式(III)の化合物は、いわゆるウギ多成分反応(Ugi-MCR)において有用性を見出すことができ、この反応は、カルボン酸(例えば、式(III)に従う化合物)、別のカルボニル含有部分、イソシアニドおよびアミン(例えば、メチルアミンなどのアルキルアミン)のワンポット縮合反応であり、これらはそれぞれ同時にまたは任意の順序で反応容器に導入され、ジアミド化合物を形成することができる(例えば、国際公開第2015/007640号を参照)。このようなジアミド化合物は閉環されて、スピロン化合物(潜在基(latentiating group)の付加により誘導体化され得る)、例えば昆虫、ダニ、軟体動物および線虫有害生物などの有害生物に対抗し、そして防除するために有用な化合物などをもたらすことができる(例えば、国際公開第2010/066780号を参照)。
【0009】
好ましくは、式(I)の化合物の調製方法は、
(i)マロノニトリルを塩基と反応させて、マロノニトリルアニオン([NCCHCN]-)を形成するステップ(i)と、
(ii)パラジウム触媒の存在下、式(II)の化合物をステップ(i)のマロノニトリルアニオンと反応させて、式(I)の化合物を形成するステップ(ii)と
を含む。
【0010】
本発明に従う式(I)、(II)および(III)の化合物において、X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはC1-4アルキルを表す。好ましくは、X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはメチルを表す。より好ましくは、X、YおよびZは、互いに独立して、クロロまたはメチルを表す。最も好ましくは、Xはメチルであり、Yはクロロであり、かつZはメチルである。
【0011】
式(II)の化合物において、Yは脱離基である。脱離基は、ハロゲン、RS(O)2O-(式中、RはC1-4アルキル、好ましくは、メチル、C1-4ハロアルキル、好ましくは、ハロメチルまたはn-C4F9-、アリール、好ましくは、フェニル、またはハロゲン、メチルによりもしくはハロメチルにより1~3回置換されたフェニル、ならびにモノ-、ジ-およびトリ-アリールメトキシから選択され得る。モノ-、ジ-およびトリ-アリールメトキシ基のアリールラジカルは好ましくはフェニルラジカルであり、これは、例えば、メチルにより1~3回置換されていてもよく、置換基は、好ましくは、フェニル環の2位、4位および/または6位にある。このような脱離基の例は、メチルスルホニルオキシ(メシレート)、トリフルオロメチルスルホニルオキシ(トリフレート)、p-トリルスルホニルオキシ(トシレート)、CF3(CF2)3S(O)2O-(ノナフレート)、ジフェニルメトキシ、ジ(メチルフェニル)メトキシ、トリフェニルメトキシ(トリチル)およびトリ(メチルフェニル)メトキシである。好ましくは、Yはハロゲンであり、最も好ましくはブロモである。
【0012】
本発明に従う式(I)の化合物の調製に適した希釈剤(例えば、溶媒、懸濁化剤)には、脂肪族、脂環式および芳香族炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエンまたはキシレン、脂肪族ハロ炭化水素、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、またはジ-もしくはテトラ-クロロエタン、ニトリル、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルまたはベンゾニトリル、エーテル、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランまたはジオキサン、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテルまたはジエチレングリコールモノメチルもしくはモノエチルエーテル、ケトン、例えば、アセトンまたはメチルイソブチルケトン、エステルまたはラクトン、例えば、酢酸エチルもしくはメチルまたはバレロラクトン、N置換ラクタム、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMPまたは1-メチル-2-ピロリドン)、アミド、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルアセトアミド(DMA)、非環式尿素、例えば、N,N’ジメチルエチレン尿素(DMI)、スルホキシド、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、またはこのような希釈剤の混合物が含まれる。また二相混合物の成分として水が使用されてもよい。好ましくは、式(I)の化合物の調製方法は、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N’-ジメチルエチレン尿素などの双極性非プロトン性希釈剤の存在下で実行される。N-メチル-2-ピロリドンが最も好ましい。
【0013】
式(I)の化合物の調製方法は一般に2段階で進行し、第1に、マロノニトリルと塩基(例えば、水酸化物)との反応によって生じるマロノニトリルアニオンの生成を含み、そして第2に、マロノニトリルアニオン(その場)と式(II)の化合物とが反応して、アニオンが式(II)の化合物のフェニル環に炭素結合され、脱離基L(例えば、ブロモ)が失われることを含む。好ましくは、本方法は、50~200℃の温度、より好ましくは80~170℃、最も好ましくは110~150℃で実施される。いくつかの実施形態では、反応条件に圧力の上昇が適用され得る。
【0014】
マロノニトリルアニオンの調製のために、無機または有機塩基が使用され得る。特に、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属水酸化物の混合物、アルカリ金属アルコキシドまたは炭酸塩(例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム)が使用され得る。アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ金属の水酸化物の混合物が好ましい。水酸化ナトリウムおよびカリウム(ならびにこれらの混合物)が好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。好ましくは、塩基は、マロノニトリルに関して1モル当量から、10当量を超えて使用される。より好ましくは、塩基は、マロノニトリルに関して2~5当量、または2~4当量の量で使用される。
【0015】
式(I)の化合物の調製方法は、パラジウム触媒の存在下(すなわち、マロノニトリルアニオンの炭素カップリング反応を触媒するために)で実行される。炭素カップリングアニオンのため有用であり得るパラジウム触媒は、一般に、パラジウム(II)またはパラジウム(0)錯体、例えば、二ハロゲン化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、二塩化ビス-(トリシクロペンチルホスフィン)パラジウム(II)、二塩化ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)パラジウム(II)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)またはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)である。好ましくは、パラジウム触媒は、ホスフィン配位子との錯体形成によってパラジウム(II)またはパラジウム(0)化合物からその場で調製される。
【0016】
このような配位子の例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリス(tert-ブチル)ホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy
3)、トリ(メチルシクロヘキシル)ホスフィン、メチル(テトラメチレン)ホスフィン、tert-ブチル(ペンタメチレン)ホスフィン、トリフェニルホスフィン(PPh
3)、トリ(メチルフェニル)ホスフィン、1,2-ジフェニルホスフィンシクロヘキサン、1,2-ジフェニルホスフィンシクロペンタン、2,2’-(ジフェニルホスフィン)-ビフェニル、1,2-ビス(ジフェニルホスフィン)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィン)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィン)ブタン、3,4-ビス(ジフェニルホスフィン)ピロリジン、2,2’-(ジフェニルホスフィン)-ビスナフチル(Binap)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィン)-フェロセン、1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィン)フェロセン、ジフェニルエーテルビスジフェニルホスフィン
【化5】
(式中、R
Aは水素またはジメチルアミノであり、かつR
Bはシクロヘキシルまたはtert-ブチルである)
が挙げられる。
【0017】
式(I)の化合物の調製において使用されるパラジウム触媒は有効な触媒量で存在し、例えば、式(II)の化合物に対するモル比が1:100~1:500、好ましくは1:200~1:400であり得る。
【0018】
式(III)の化合物の調製方法は、式(I)の化合物のニトリル基の酸加水分解に関する。無機酸が使用され得る。好ましくは、酸は塩酸または硫酸であり、より好ましくは硫酸である。さらに、好ましくは、酸は、式(I)の化合物に対して少なくとも2モル当量で存在する。より好ましくは、酸は、式(I)の化合物に対して2~5モル当量、さらにより好ましくは3~4モル当量で存在する。
【0019】
式(III)の化合物の調製方法は、水(好ましくは、少なくとも4モル当量)および任意選択的にさらなる希釈剤の存在下で実行される。いくつかの実施形態では、酸は水溶液形態で存在し、式(I)の化合物はベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、好ましくはトルエンまたはキシレンなどの炭化水素溶媒中の溶液として存在するであろう。反応は、トルエン/キシレンを低減して反応混合物中の含水量を高めるような蒸留条件下、水/トルエンまたは水/キシレン共沸混合物中で実行され得る。
【0020】
好ましくは、式(III)に従う化合物の調製方法は、100~180℃、より好ましくは110~160℃、最も好ましくは120~155℃の温度で実施される。いくつかの実施形態では、反応条件に圧力の上昇が適用され得る。
【0021】
式(II)の化合物は、文献、例えば国際公開第2010/102761号および国際公開第2006/084663号において知られている方法から調製され得る。
【0022】
スキーム1:式(I)および(III)の化合物の調製方法の一般的な反応スキーム
【化6】
【0023】
表1:この表は、本発明の式(I)に従う化合物1.1~1.6(式中、X、YおよびZは以下の表において定義される通りである)を開示する。
【化7】
【0024】
【0025】
好ましくは、式(I)の化合物は、2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリルである。
【化8】
【0026】
好ましくは、式(II)の化合物は、2-ブロモ-5-クロロ-1,3-ジメチル-ベンゼンである。
【化9】
【0027】
好ましくは、式(III)の化合物は、2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)酢酸である。
【化10】
【0028】
本発明の方法は、以下のようにステップ(i)~(v)に従って(そして特に、国際公開第2009/049851号、国際公開第2010/066780号および国際公開第2015/007640号の開示および実施例を参照して)、式(IV)、(VII)または(VIII)の化合物のいずれかの調製において使用され得る:
(i)塩基およびパラジウム触媒の存在下における式(II)
【化11】
(式中、X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはC
1-4アルキルを表すが、ただし、XおよびYのうちの1つまたは2つは互いに独立してフルオロまたはクロロであり、かつLは脱離基である)
の化合物とマロノニトリルとの反応を含む、式(I)
【化12】
の化合物の調製;
(ii)水、および任意選択的にさらなる希釈剤の存在下、式(I)の化合物を酸(または塩基)と反応させて、式(III)
【化13】
(式中、X、YおよびZは、ステップ(i)について定義される通りである)
の化合物を形成すること;
(iii)式(III)の化合物と、式(V)
【化14】
の化合物、式(VI)
【化15】
の化合物、および式A-NH
2のアミンとを反応させることを含む、式(IV)
【化16】
(式中、AはC
1-4アルキル(好ましくは、メチル)であり、R
1はC
1-4アルコキシ(好ましくは、メトキシ)であり、R
2はフェニルまたはC
1-4アルキル、C
1-4ハロアルキル、C
1-4アルコキシ、ハロゲンおよびニトロからなる群から選択される1つもしくは複数の置換基によって置換されたフェニルであり、かつX、YおよびZは、ステップ(i)について定義される通りである)
の化合物の調製;
(iv)適切な溶媒(または希釈剤)の存在下において式(IV)の化合物を適切な塩基で処理することを含む、式(VII)
【化17】
(式中、X、Y、Z、AおよびR
1は、ステップ(iii)について定義される通りである)
の化合物の調製;ならびに
(v)好ましくは少なくとも1当量の塩基の存在下、式(VII)の化合物を酸ハロゲン化物、特に式RC(O)Clの酸ハロゲン化物と反応させることを含む、式(VIII)
【化18】
(式中、X、Y、Z、AおよびR
1は、ステップ(iv)について定義される通りであり、Gは潜在基C(O)Rであり、ここで、RはC
1-4アルコキシ(好ましくは、エトキシ)である)
の化合物の調製。
【0029】
本発明に従うX、YおよびZの好ましい実施形態は、ステップ(i)~(v)に等しく適用され得ることが理解される。
【実施例】
【0030】
調製実施例:
以下の実施例は、本発明を説明するのに役立つ。
【0031】
式(I)の化合物は、市販のマロノニトリル(N≡C-CH2-C≡N)を用いて調製される。調製実施例に従って使用される他の試薬も市販されている。2-ブロモ-5-クロロ-1,3-ジメチル-ベンゼンおよび2-ヨード-5-クロロ-1,3-ジメチル-ベンゼンは、例えば国際公開第2006/084663号に記載されるような文献方法に従って調製され得る。
【0032】
実施例1:
2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリルの調製
【化19】
メカニカルスターラー、温度計、蒸留ヘッドおよび滴下漏斗を備えた400mLの容器に、不活性雰囲気下で、固形水酸化ナトリウム(10.9g、0.27mol、直径0.5~1mmの微小粒(microprill))を入れる。
【0033】
この容器に、1-メチル-2-ピロリドン(NMP、137g)を滴下漏斗から一度に添加し、反応混合物を攪拌しながら10~15℃に冷却する。温度を10~15℃に保持して、マロノニトリル(N≡C-CH2-C≡N)(6.6g、0.10mol)のNMP(8.9g)中の溶液を10~15分間かけて滴下漏斗から添加する。次に、反応混合物を100℃に加熱し、真空(30mbar)を適用し、この際、溶媒(40g)が留去される。
【0034】
次に、温度を100~110℃に保持しながら、2-ブロモ-5-クロロ-1,3-ジメチル-ベンゼン(20g、0.089mol)を5~10分間かけて滴下漏斗から添加する。次に、塩化パラジウム(II)(0.19g、濃塩酸中の溶液、分析結果(assay)20%Pd、0.36mmol)、トリフェニルホスフィン(0.45g、1.6mmol)およびNMP(18g)を含有する混合物を5~10分間かけて滴下漏斗から添加する。温度を124℃まで上昇させ、反応混合物をこの温度で2~3時間攪拌する。サンプルを抜き取り、続いてHPLC分析を行うことにより、転化をモニターする。
【0035】
転化が完了したら、真空(20~40mbar)を適用して溶媒(90g)を留去する。得られた残渣を100℃よりも低温まで冷却し、水(95g)を添加する。室温まで冷却したら、得られた混合物をハイフロ(hyflo)(Hyflo(登録商標)SuperCel(登録商標)ケイ藻土、約10g)によりろ過し、フィルターケーキを水(20g)で洗浄する。合わせたろ液に、塩酸(20.6g、分析結果32%、0.18mol)を添加して、pHを13.3から2.7に調整する。
【0036】
得られた混合物をtert-ブチル-メチルエーテル(2x110g)で抽出する。有機相を水(2x50g)で洗浄し、合わせた有機相を蒸発乾固させる。得られた固形残渣をイソ-プロパノール(63g)から再結晶させ、得られた結晶をろ過し、冷イソ-プロパノール(5g)で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリル(融点(m.p.)145~147℃)が得られる。
1H-NMR(CDCl3)δ(ppm):2.6(s),6H;5.3(s),1H;7.2(s),2H.
【0037】
実施例2:
2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリルの調製
メカニカルスターラー、温度計、蒸留ヘッド、ポンプにより液体を投入するためのジョイント、および気体注入管(表面下)を備えた1リットルの容器に、不活性雰囲気下で、固形水酸化ナトリウム(87.1g、2.18mol、直径0.5~1mmの微小粒)を入れる。
【0038】
1-メチル-2-ピロリドン(NMP、682g)を攪拌しながら一度に添加し、得られた混合物を10~14℃に冷却する。温度を10~14℃に保持しながら、マロノニトリル(49.2g、0.736mol)のNMP(65g)中の溶液を15~20分間かけてポンプにより添加する。真空(30mbar)を適用して、得られた混合物を溶媒(198g)が留去されるまで100~110℃に加熱する。次に、混合物を130℃に加熱し、窒素流(4.5リットル/時)を通す。
【0039】
塩化パラジウム(II)(1.15g、濃塩酸中の溶液、分析結果20%Pd、2.17mmol)、トリフェニルホスフィン(1.50g、5.72mmol)およびNMP(147g)を含有する混合物をポンプにより70分以内に投入する。20分後に、上述の混合物、2-ブロモ-5-クロロ-1,3-ジメチル-ベンゼン(160g、0.715mol)もポンプにより50分以内に並行して投入する。
【0040】
両方の添加が完了したら、反応混合物をさらに3時間130℃に保持する。真空(20~30mbar)を適用して、溶媒(603g)を留去する。得られた残渣を100℃よりも低温まで冷却し、水(450g)を添加する。得られた混合物を40℃に冷却する。pHを13.1から2.0に低下させるために塩酸(180g、分析結果32%、1.58mol)を添加する。生成物を抽出するためにトルエン(535g)を添加する。
【0041】
2相混合物をハイフロ(約15g)によりろ過し、フィルターケーキをトルエン(45g)で洗浄する。合わせたろ液を分液漏斗に移し、水相を分離し、有機相を水(400g)で洗浄する。全ての水相をトルエン(360g)で再抽出し、全ての有機相を合わせ、蒸発乾固させる。固形残渣をイソ-プロパノール(650g)で再結晶させる。得られた結晶をろ過し、イソ-プロパノール(55g)で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリル(m.p.145~147℃)が得られる。
【0042】
実施例3:
2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリルの調製
メカニカルスターラー、温度計、蒸留ヘッドおよび滴下漏斗を備えた250mLの容器に、不活性雰囲気下で、固形水酸化ナトリウム(3.9g、0.10mol、直径0.5~1mmの微小粒)を入れる。
【0043】
この容器に、1-メチル-2-ピロリドン(NMP、68g)を滴下漏斗から一度に添加し、反応混合物を攪拌しながら10~15℃に冷却する。温度を10~15℃に保持して、マロノニトリル(N≡C-CH2-C≡N)(2.27g、0.034mol)のNMP(2.7g)中の溶液を5分間かけて滴下漏斗から添加する。次に、反応混合物を100℃に加熱し、真空(30mbar)を適用し、この際、溶媒(32g)が留去される。次に、混合物を130℃に加熱し、窒素流を通す。
【0044】
次に、2-ヨード-5-クロロ-1,3-ジメチル-ベンゼン(9.0g、95%純度、0.032mol)を130℃において5分間かけて滴下漏斗から添加する。次に、塩化パラジウム(II)(0.150g、濃塩酸中の溶液、分析結果20%Pd、0.281mmol)、トリフェニルホスフィン(0.186g、0.709mmol)およびNMP(13.7g)を含有する混合物を2分間かけて滴下漏斗から添加する。温度を130℃まで上昇させ、反応混合物をこの温度で80分間攪拌する。サンプルを抜き取り、続いてHPLC分析を行うことにより、転化をモニターする。次に、塩化パラジウム(II)(0.103g、濃塩酸中の溶液、分析結果20%Pd、0.194mmol)、トリフェニルホスフィン(0.132g、0.504mmol)およびNMP(9.76g)を含有する混合物の第2の部分を2分間かけて滴下漏斗から添加し、反応混合物を130℃で40分間攪拌する。
【0045】
転化が完了したら、真空(20~40mbar)を適用し、溶媒(38g)を留去する。得られた残渣を80℃に冷却し、水(30g)を添加する。室温まで冷却したら、得られた混合物をろ紙によりろ過し、フィルターケーキを水(10g)で洗浄する。合わせたろ液に塩酸(9.6g、分析結果32%、0.084mol)を添加して、pHを13.3から1.3に調整する。
【0046】
得られた混合物をトルエン(50g)で抽出する。有機相を水(2x20g)で洗浄し、蒸発乾固させる。得られた固形残渣を1-ペンタノール(17g)から再結晶させ、得られた結晶をろ過し、1-ペンタノール(4g)で洗浄し、真空下で乾燥させて、2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリル(融点(m.p.)145~147℃)が得られる。
【0047】
実施例4:
2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)酢酸の調製
【化20】
温度計、メカニカルスターラー、ウォータートラップ付き蒸留ヘッドおよび滴下漏斗を備えた500mLの反応容器に、水(100g)および濃硫酸(分析結果98%、179g、1.79mol)を添加する。
【0048】
この混合物を攪拌し、120~130℃に加熱し、2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリル(分析結果92.8%、91.5g、0.415mol)のトルエン(1070g)中の溶液を2時間かけて投入する。溶媒(トルエン/水共沸混合物)を留去し、ウォータートラップ内に分離された水を反応混合物に戻す。有機溶媒の全てが留去されたら、得られた反応塊をさらに4時間140℃に加熱する。サンプリングおよびHPLC分析により転化をモニターする。
【0049】
転化の完了後に、反応塊を60℃に冷却し、十分に攪拌した水(900g)中に導入する。得られた混合物(懸濁液)を25℃に冷却し、ろ過した。フィルターケーキ(所望の生成物)を水(2x220g)で洗浄し、真空下で乾燥させる。粗2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)酢酸が得られ、これをトルエン(608g)から再結晶させて、純粋な2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)酢酸(m.p.187~189℃)が提供される。
1H-NMR(CDCl3)δ(ppm):2.2(s),6H;3.6(s),2H;7.0(s),2H.
【0050】
実施例5:
2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)酢酸の調製
温度計、メカニカルスターラーおよび還流冷却器を備えた300mLの反応容器に、水(41g)および濃硫酸(分析結果98%、72g、0.72mol)を添加する。混合物を攪拌し、140℃に加熱する。
【0051】
温度を140℃に保持しながら、固形2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリル(分析結果98.4%、50g、0.24mol)を等量ずつ10回に分けて70分間にわたって添加する。反応混合物を140℃でさらに2~3時間攪拌し、サンプリングおよびHPLC分析により転化を管理する。転化が完了したら、得られた混合物(懸濁液)を室温に冷却する。水(100g)を添加し、懸濁液をろ過する。フィルターケーキ(所望の生成物)を水(2x50g)で洗浄し、真空下で乾燥させる。粗2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)酢酸が得られる。
本発明の好ましい態様は、下記の通りである。
〔1〕式(I):
の化合物の調製方法であって、塩基およびパラジウム触媒の存在下における、式(II):
の化合物とマロノニトリルとの反応を含み、
式中、
X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはC
1-4
アルキルを表し、かつ
Lは脱離基であるが、
ただし、XおよびYのうちの1つまたは2つは互いに独立してフルオロまたはクロロである、
方法。
〔2〕(i)マロノニトリルを塩基と反応させて、マロノニトリルアニオン([NCCHCN]
-
)を形成するステップ(i)と、
(ii)パラジウム触媒の存在下、式(II)の化合物をステップ(i)のマロノニトリルアニオンと反応させて、式(I)の化合物を形成するステップ(ii)と
を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕Xがメチルであり、Yがクロロであり、Zがメチルである、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕Lがブロモである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕前記塩基がアルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウムである、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕前記パラジウム触媒が、ホスフィン配位子との錯体形成によってパラジウム(II)またはパラジウム(0)化合物からその場で調製される、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の方法。
〔7〕前記方法が、双極性非プロトン性溶媒、好ましくはN-メチル-2-ピロリドンの存在下で実行される、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の方法。
〔8〕前記方法が110~150℃で実行される、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
〔9〕水、および任意選択的にさらなる希釈剤の存在下、式(I)の化合物を酸と反応させて、式(III)
(式中、X、YおよびZは、前記〔1〕または〔3〕に定義される通りである)
の化合物を形成するステップをさらに含む、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔10〕式(I):
(式中、
X、YおよびZは互いに独立してフルオロ、クロロまたはC
1-4
アルキルを表すが、
ただし、XおよびYのうちの1つまたは2つは互いに独立してフルオロまたはクロロである)
の化合物。
〔11〕2-(4-クロロ-2,6-ジメチル-フェニル)プロパンジニトリルである、前記〔10〕に記載の化合物。
〔12〕式(III):
の化合物の調製方法であって、水、および任意選択的にさらなる希釈剤の存在下における、前記〔10〕または〔11〕に記載の式(I)の化合物と酸との反応を含む方法。
〔13〕前記酸が硫酸である、前記〔9〕または〔12〕に記載の方法。
〔14〕前記方法が、トルエンまたはキシレンの存在下でさらに実行される、前記〔12〕または〔13〕に記載の方法。
〔15〕前記方法が120~155℃で実行される、前記〔12〕~〔14〕のいずれか一項に記載の方法。