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特許7046066紙又は板紙の製造における堆積物形成を抑制するためのポリマー製品の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】紙又は板紙の製造における堆積物形成を抑制するためのポリマー製品の使用
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/02 20060101AFI20220325BHJP
   D21H 17/44 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
D21H21/02
D21H17/44
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2019527427
(86)(22)【出願日】2017-11-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 FI2017050807
(87)【国際公開番号】W WO2018096211
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】20165884
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】504186286
【氏名又は名称】ケミラ ユルキネン オサケイティエ
【氏名又は名称原語表記】KEMIRA OYJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】特許業務法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】ヒエタニエミ、マッティ
(72)【発明者】
【氏名】カルッピ、アスコ
(72)【発明者】
【氏名】ラトヴァネン、マーリット
(72)【発明者】
【氏名】オルモス、エルサ
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139656(JP,A)
【文献】特開2010-077567(JP,A)
【文献】特表2018-509492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 21/02
D21H 17/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維ウェブが水性繊維懸濁液から形成される、紙又は板紙の製造において疎水性物質に起因する堆積物形成を抑制するために、両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品を使用する方法であって、該両性ポリアクリルアミドが
pH7で中性又はカチオン性の正味電荷、
2,5 00,000~18,000,000g/molの重量平均分子量及び
- 513モル%の全イオン性
を有し、
ポリマー製品中の該両性ポリアクリルアミドが5~9モル%の、カチオン性モノマーから誘導される構造単位、及び1~4モル%の、アニオン性モノマーから誘導される構造単位を含む
ことを特徴とする使用する方法
【請求項2】
両性ポリアクリルアミドが3,000,000~18,000,000g/mol、好ましくは3,500,000~11,000,000g/mol、さらにより好ましくは4,000,000~8,000,000g/molの範囲の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の使用する方法。
【請求項3】
両性ポリアクリルアミドの全イオン性が6~12モル%、好ましくは6~10モル%の範囲にある、請求項1又は2に記載の使用する方法。
【請求項4】
両性ポリアクリルアミド中の荷電基の50~95%、好ましくは60~90%、より好ましくは70~85%がカチオン性である、請求項1、2又は3に記載の使用する方法。
【請求項5】
両性ポリアクリルアミドがpH7で測定してカチオン性の正味電荷を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項6】
両性ポリアクリルアミドが線状ポリアクリルアミドである、請求項1~のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項7】
両性ポリアクリルアミドのカチオン基が、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(ADAM)、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートベンジルクロリド、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートジメチルスルフェート、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート(MADAM)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MADAM-Cl)、2-ジメチルアミノエチルメタクリレートジメチルスルフェート、[3-(アクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)及びジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)から選択されるモノマーに由来する、請求項1~のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項8】
両性ポリアクリルアミドのアニオン基が、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸又はチグリン酸などの不飽和モノ-又はジカルボン酸から選択されるモノマーに由来する、請求項1~のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項9】
両性ポリアクリルアミドが、反応混合物中の非水性溶媒の含有量が10質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満である、ゲル重合によって得られたものである、請求項1~のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項10】
ポリマー製品が少なくとも25質量%、好ましくは少なくとも60質量%のポリマー含有量を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項11】
両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品を水に溶解して、2.5~5のpH値を有する水性処理溶液を得る、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項12】
無機微粒子、好ましくはベントナイト微粒子をさらに繊維懸濁液に添加する、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項13】
繊維懸濁液が、乾燥紙又は板紙に基づいて、少なくとも50質量%のリサイクル繊維材料、好ましくは段ボール箱古紙又は混合廃棄物を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項14】
繊維懸濁液がリサイクル繊維材料を含み、該リサイクル繊維材料が、乾燥リサイクル繊維材料に基づいて計算して10~150μmの範囲の粒径を有する、0.02mg/gを超え、好ましくは0.2mg/gを超える疎水性物質を含むものである、請求項1~13のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項15】
繊維懸濁液がクラフト法及び/又は機械パルプ化法によって得られる繊維を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項16】
両性ポリアクリルアミドを、14g/lを超えるコンシステンシーを有する繊維懸濁液に又は繊維懸濁液を調製するために使用するストック成分に、好ましくは抄紙機又は板紙抄紙機の抄紙機チェストの前で、より好ましくは抄紙機又は板紙抄紙機のミキシングチェストの前で添加する、請求項1~15のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項17】
両性ポリアクリルアミドを、製造する紙又は板紙1トン当たり100~2000gの量で、好ましくは製造する紙又は板紙1トン当たり300~1500gの範囲で、より好ましくは製造する紙又は板紙1トン当たり400~900gの範囲で使用する、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用する方法。
【請求項18】
繊維ウェブが水性繊維懸濁液から形成される、紙又は板紙の製造方法であって、
- 水性繊維懸濁液を用意すること、
- 任意で、水性繊維懸濁液を希釈すること、
- 水性繊維懸濁液をヘッドボックスに送達し、水性繊維懸濁液をワイヤースクリーン上で脱水して湿った、紙又は板紙のウェブを形成すること、及び
- 湿ったウェブをプレスして乾燥させて紙又は板紙のウェブを得ること
を含み、
pH7で中性又はカチオン性の正味電荷、2,500,000~18,000,000g/molの重量平均分子量及び5~13モル%の全イオン性を有する両性ポリアクリルアミドであって、5~9モル%の、カチオン性モノマーから誘導される構造単位及び1~4モル%の、アニオン性モノマーから誘導される構造単位を有する両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品を繊維懸濁液に添加して、疎水性物質に起因する堆積物形成を抑制することを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添付した独立請求項の前文に記載したように、紙又は板紙の製造における堆積物形成を抑制するためのポリマー製品の使用、堆積物形成を抑制するための両性水溶性ポリマー製品を使用する改良された紙又は板紙の製造方法、並びに紙製品又は板紙製品に関する。
【背景技術】
【0002】
高速抄紙機(マシン)を用いた最新の製紙プロセスは障害に対して非常に敏感である。高速抄紙機の生産性を制限する重要な要素の一つは、堆積物(付着物:deposits)の形成にある。堆積物が形成するとウェブ破断(web breakages)を引き起こす可能性があるため、その予防策として、乾燥用シリンダー、カレンダー、ワイヤ、フェルトなどの最も影響を受けるそれぞれの表面については定期的に洗浄及び清掃を行うが、これが稼働停止時間(ダウンタイム)と製造ロスにつながる。また、堆積物が形成すると、ウェブ破断が生じるような量だけ紙品質を低下させる可能性があり、及び/又は、製造した紙が意図する最終用途に適さず使用を拒絶しなければならない程度に穴(孔)や黒い斑点を生じさせる可能性がある。たとえ堆積物が低レベルであっても、製造する紙品質の低下を招く可能性があり、最終製品の品質低下を、又は製造した紙を更に処理する場合の問題を引き起こす。例えば、ペーパーウェブ内の堆積物は、印刷中に突然、ウェブ破断及び印刷機の汚染を引き起こす可能性がある。
【0003】
堆積物は、製紙においては、プロセス処理表面(process surface)上に堆積し得る材料に起因して生じる。また、堆積物は、典型的には、いわゆるスティキィ(粘着性異物:stickies)及びピッチ(pitch)を含む疎水性物質によって引き起こされる。
【0004】
紙及び板紙の製造関連では、例えば、段ボール箱古紙(OCC)及びその他のリサイクル紙及び板紙等級などの安価な繊維源の使用が、過去数十年にわたって増加している。原材料としてのリサイクル繊維材料の使用が、紙及び板紙製造における疎水性物質、いわゆるスティキィの主な供給源である。これらの疎水性物質は、その幾分か又は大半が、リサイクル繊維原料のパルプ化中に除去されるが、その相当量は依然として紙又は板紙製造工程に持ち越される。一般に、疎水性物質は、パルプ化段階でリサイクル原料から放出され、次の段階で、例えばスクリーニング(ふるい分け)、遠心洗浄、浮選(フローテーション)、洗浄、又は溶解空気浮選による濃縮化濾液処理の間にパルプから除去される。疎水性物質は、また、抄紙機損紙、特にコーテッド損紙から生じる可能性がある。
【0005】
疎水性物質のさらに別の供給源としては、繊維それ自体であり、特にクラフトパルプ化法、完全機械パルプ化法、サーモメカニカルパルプ化法又はセミメカニカルパルプ化法に由来する。クラフトパルプ化法及び機械パルプ化法に由来する繊維は、天然の疎水性物質、いわゆるピッチの主な供給源であり、このピッチには、塩形態又は遊離形態のいずれかの、木材抽出物、ステロール、脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステルが含まれる。
【0006】
スティキィ(粘着性異物)及びピッチは、両方とも本来疎水性であるが、製紙プロセスにおいては異なった挙動をする。例えば、ピッチは、高温でタッキィ(粘着性:tacky)が低下し分散性が高まり、一方、スティキィは、高温でさらにスティキィ(粘着性・固着性:stickier)になり、したがって一層プロセス処理表面上に堆積し易くなる。疎水性物質の異なるサイズ画分もまた異なった挙動を行うことがある。いわゆるマクロスティキィ(macrostickies)は、堆積物を形成する傾向が高いが、例えばスクリーニング又は遠心洗浄によって機械的に除去可能である。粒径(粒子サイズ:particle size)が約150μm未満のスティキィは、マイクロスティキィ(microstickies)と呼ばれるが、特にpH、温度、導電率、電荷(charge)などが急激に変化するプロセスポイントでは、凝集、堆積物、ウェブ破断、汚れの堆積を生じる原因となる可能性もある。マイクロスティキィはパルプから機械的に容易には除去されない。脱墨の際の浮選又は洗浄段階では幾分かのマイクロスティキィを除去することができるが、その各プロセスはインク除去を目的に最適化されており、マイクロスティキィ除去に対する各プロセスの効率が低下する。マイクロスティキィは一般的には繊維及び微粉に追従し溶解空気浮選法で処理することができる濾液の方に分離されないので、マイクロスティキィの除去は濃縮段階においても効率的ではない。
【0007】
紙及び板紙製造に使用されるパルプは、また、通常、疎水性の溶解したコロイド状物質を含有している。これらの物質は、工程水中にとどまる傾向があり、堆積物を形成し得る、より大きな疎水性粒子になるように凝集する可能性がある。
【0008】
脱墨段階又はその他のリサイクル繊維処理段階で除去されなかった疎水性物質、及びスクリーンに捕捉されなかった疎水性物質は、抄紙機又は板紙抄紙機に入り、工程水中を循環する。環境意識の高揚と規制とにより、製紙プロセスはますます閉鎖化し、使用する淡水が少なくなっている。これにより、繊維懸濁液及び工程水中に疎水性物質を含む妨害物質が大量に蓄積するような結果になっている。
【0009】
疎水性物質の堆積傾向を減少させるため、すなわち、疎水性物質の粘着性(タッキィ:tacky)を減じるため、製紙プロセスに化学物質を添加して疎水性粒子の周りに親水性材料の境界層を構築することによって、循環疎水性物質を抑制することができる可能性がある。小さい疎水性粒子のコロイド安定性は界面活性剤及び分散剤によって向上させることができ、こうすることで、それら粒子の凝集及び表面への堆積を防止する。スティキィ、すなわち、マイクロスティキィ及びマクロスティキィは、両方とも、界面活性剤を用いて効果的に安定化するには粒子サイズ(寸法)が大き過ぎる傾向がある。
【0010】
ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)のホモポリマーのようなカチオン性高荷電ポリマーが、ピッチ及びスティキィなどの疎水性物質を固定(定着:fixation)化させて制御するために、従来から、固定剤として使用されている。ポリビニルアルコールのような非イオン性ポリマー、及びポリアクリルアミド-酢酸ビニルのようなコポリマーが、粘着性低減(detackification)によるスティキィ抑制のために使用されてきた。また、ミョウバン、デンプン及び低分子量カチオン性凝固剤が堆積物の抑制のために従来から使用されている。アニオントラシュ並びにピッチ及びスティキィを少なくとも部分的に含む有害な物質をコンプレックス(complex)の形成によって中和することができるからである。しかしながら、これらのコンプレックスはプロセス中で濃縮され、更なる堆積の問題を引き起こす可能性があることが観察された。したがって、紙及び板紙製造において、疎水性物質の制御を改良すること、及び堆積物形成を効果的に抑制及び防止することが継続して必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一目的は、従来技術に存在する欠点を最小限にするか、又はさらには解消することである。
【0012】
本発明の他の目的は、紙又は板紙の製造において疎水性物質が原因で起こる堆積物形成に対する効果的な抑制を提供することである。
【0013】
本発明の更なる目的は、特に繊維上への疎水性物質の固定を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的は、独立請求項の特徴部分に提示した特徴事項を具備する発明によって達成される。本発明の幾つかの好適な実施形態は従属請求項に提示する。
【0015】
また、従属請求項に記載した特徴及び明細書中の実施形態は、特に明記しない限り互いに自由に組み合わせることができる。
【0016】
本明細書に提示した例示的な実施形態及びその利点は、必ずしも個々に言及するとは限らないが、適用可能な部分を通じて本発明に係る使用、方法及び紙又は板紙にも関連する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
pH7で中性又はカチオン性の正味電荷、2,500,000~18,000,000g/molの重量平均分子量及び4~28モル%の全イオン性を有する両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品(剤:polymer product)についての、本発明に係る典型的な使用は、繊維ウェブが水性繊維懸濁液から形成される紙又は板紙の製造において疎水性物質に起因する堆積物形成を抑制するためのものである。
【0018】
本発明に係る典型的な製紙方法にあっては、繊維ウェブが水性繊維懸濁液から形成される紙又は板紙の製造において、当該方法は、
- 水性繊維懸濁液を用意すること、
- 任意で、水性繊維懸濁液を希釈すること、
- 水性繊維懸濁液をヘッドボックスに送達し(delivering)、水性繊維懸濁液をワイヤースクリーン上で脱水して湿った、紙又は板紙のウェブを形成すること、及び
- 湿ったウェブをプレス(圧搾:pressing)して乾燥させて紙又は板紙のウェブを得ること
を含み、
pH7で中性又はカチオン性の正味電荷、2,500,000~18,000,000g/molの重量平均分子量及び4~28モル%の全イオン性(total ionicity)を有する両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品を繊維懸濁液に添加して、疎水性物質に起因する堆積物形成を抑制することを特徴とする方法である。ポリマー製品を繊維懸濁液に添加する前に、ポリマー製品を水に溶解するか又は水で希釈して水性処理溶液を得るのが好ましい。
【0019】
本発明に係る典型的な紙又は板紙は、本発明の方法又は水溶性両性ポリマーについての本発明の使用により得られる。
【0020】
今や、驚くべきことに、特定の両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品が堆積物形成の抑制に有効であることが判明した。該両性ポリアクリルアミドが、疎水性物質を繊維上に、したがって紙ウェブ又は板紙ウェブ上にうまく固定させ、すなわち付着又は会合させ、それによってプロセス処理表面及び/又は工程水に当該物質が蓄積及び付着堆積するのを削減することができると考えられる。両性ポリアクリルアミドの全イオン性、特にカチオン性は低く、それによって紙又は板紙製造工程の過剰カチオン化(overcationiaation)の危険性を減少することができる。さらに、ポリアクリルアミドの両性構造中に少なくとも局所的なカチオン電荷が存在すると、一般にスティキィ中に存在するアクリレートのようなアニオン性に帯電したポリマーに対する親和性が得られるが、一方、両性ポリアクリルアミド構造中の局所アニオン電荷は、凝集スティキィ及び/又はピッチ中に度々存在するカルシウムイオンとイオン結合を形成する可能性がある。
【0021】
また、従来の堆積物抑制剤よりも高い分子量の両性ポリアクリルアミドを堆積物抑制に使用した場合、予想外にも、該両性ポリアクリルアミドは、マイクロスティキィから凝集コロイドまで、さらにはマクロスティキィも含めて、粒子の大きさが大きく変化する疎水性物質を繊維上に固定化することができることが観察された。このような、粒径の大きい疎水性物質をも固定する能力は明らかな利点を提供する。これまで、典型的には、マクロスティキィのような大きい粒径を有する疎水性粒子は繊維懸濁液又はリサイクル繊維材料画分のスクリーニングによって除去することに頼ってきた。しかしながら、マイクロスティキィ及びコロイド疎水性物質のような小さな疎水性物質は、製紙工程中に凝集してその大きさを増大させることがあり、それによって100ミクロンを超える又は150ミクロンをも超えるような粒径を有する疎水性物質が、スクリーニングの後でも、繊維懸濁液中に存在する可能性がある。
【0022】
本発明は、1~150ミクロン、例えば3~100ミクロンの粒径を有する疎水性物質を特に繊維上に固定することによって当該疎水性物質の堆積物形成を抑制するのに特に有効である。これは、カチオン性無機固定剤のような、又は高カチオン性低分子量有機ポリマー(ポリエピアミン又はポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(ポリ-DADMAC)のような)のような従来の固定剤を超える利益である。従来の固定剤は、1~3ミクロンの粒径を有する疎水性物質の堆積物形成を抑制することができるが、それより大きいサイズの疎水性粒子を繊維上に固定することは、少なくとも効率的には、できないものである。
【0023】
驚くべきことに、両性ポリマーを含むポリマー製品の本発明に係る使用は、3~150μmの粒径を有するマイクロスティキィ、及び同時にピッチ又は0.2~3μmの粒径を有するコロイド状スティキィのような疎水性粒子の両方の固定化に効果的である。この実現は、水循環(water loops)内及び抄紙機又は板紙抄紙機のアプローチシステム内での疎水性物質の凝集によって引き起こされる堆積を抑制及び防止するのに有利である。本発明は、また、スティキィのような疎水性物質を繊維と共に紙ウェブに(改善された効率で)保持するのに役立つ。疎水性物質の歩留まり(retention)を改善することで白水中での疎水性物質の凝集が減少する。
【0024】
用語「疎水性物質(hydrophobes)」又は「疎水性物質(hydrophobic substances)」は、本明細書中では完全に交換可能で同義語であり、製紙中に存在する、スティキィ及びピッチを含み、潜在的に堆積物の原因となる、全ての疎水性妨害物質を包含するべく使用する。用語「スティキィ(stickies)」は、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンビニル及びポリビニルアセテート、ポリビニルアクリレート、ポリエチレン, ポリイソプレン、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルプロピオネート、ポリビニルエーテル、ポリエステル、アクリル酸エステル、ブロックコポリマー、ワックス、天然又は変性樹脂を含む、感圧接着剤、ホットメルト接着剤、分散接着剤、及び溶媒接着剤などの接着剤;鉱油、ワックス、炭化水素及びアルキド樹脂、ロジンエステル、不飽和脂肪酸、エポキシ、ポリオール、ウレタン、ポリエステル、ポリビニル及びスチレンアクリレート、ポリエステル及びヒドロキシルポリエステル、SBR及びポリビニルブチラールを含む、吸収性、酸化性、放射線硬化性印刷インク及び電子写真用トナーなどの印刷インク;SBR、及びポリビニルアセテート及びアクリレートを含む、ラテックスなどのコーティングバインダー;包装用カートンに使用されるワックス;及び 疎水性の内部及び表面サイズ剤に由来する合成疎水性物質を意味する。用語「ピッチ」は、木材抽出物、ステロール、脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル(これらの塩及びその他の形態を含む)などの天然疎水性物質及び木材誘導体を意味する。
【0025】
疎水性物質は大きさによっても分類することができる。ここで使用するように、用語「マクロスティキィ」は、通常、例えばスクリーンによって機械的に除去可能な、150ミクロンを超える直径を有する疎水性粒子を意味する。用語「マイクロスティキィ」は、直径3~150ミクロンの疎水性粒子を意味し、通常はスクリーンでは除去できない。溶解疎水性物質及びコロイド状疎水性物質とは、溶解しているか又は3ミクロン未満の粒径を有する疎水性物質を意味する。
【0026】
ここで使用するとき、「疎水性物質の堆積物形成の抑制」という概念は、疎水性物質を繊維懸濁液から除去することによって、特に疎水性物質を繊維上に固定して除去することによって紙又は板紙製造工程における疎水性物質に起因する堆積物形成を防止又は低減することを意味する。本明細書において、用語「固定(fixation)」、「固定すること(fixing)」及び「固定する(fix)」は、疎水性物質を繊維上に少なくとも一時的又は恒久的に結合又は付着させることを意味する。
【0027】
本出願との関連では、用語「両性ポリアクリルアミド」は、カチオン基とアニオン基の両方がpH7の水溶液中に存在するポリアクリルアミドを意味する。両性ポリアクリルアミドは、アクリルアミド又はメタクリルアミドとアニオン性及びカチオン性モノマーの両方との共重合によって得られる。両性ポリアクリルアミドはアクリルアミドとアニオン性及びカチオン性モノマーの両方との共重合によって得ることが好ましい。
【0028】
用語「水溶性」は、本出願との関連では、ポリマー製品、結果として両性ポリアクリルアミドは水と完全に混和性であることと理解されたい。過剰の水と混合した場合、ポリマー製品中の両性ポリアクリルアミドは完全に溶解することが好ましく、得られたポリマー溶液は各々分離したポリマー粒子又は顆粒を本質的に含まないのが好ましい。過剰の水は、得られたポリマー溶液が飽和溶液とならないことを意味する。
【0029】
両性ポリアクリルアミドはpH7で中性又はカチオン性の正味電荷を有する。これは、pH7において、ポリアクリルアミド中に存在するアニオン性及びカチオン性荷電基の電荷が互いに打ち消し合うことを意味し、それにより両性ポリアクリルアミドが中性の正味電荷を有することを意味する。あるいは、両性ポリアクリルアミドがpH7でアニオン電荷よりも多くのカチオン電荷を有し、それによって両性ポリアクリルアミドがカチオン性の正味電荷を有することを意味する。一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミド中の荷電基の50~95%、好ましくは60~90%、より好ましくは70~85%がカチオン性である。両性ポリアクリルアミドと繊維との相互作用、それによって疎水性物質の固定を改善するためには、アニオン性に荷電した基よりもカチオン性に荷電した基を多く有することが好適である。したがって、好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドは、pH7で測定してカチオン性の正味電荷を有する。このことは、両性ポリアクリルアミドの正味電荷は、たとえ両性ポリアクリルアミドがアニオン基を含んでいても正のままであることを意味する。両性ポリアクリルアミドの正味電荷は、存在するカチオン基とアニオン基の電荷の合計として計算される。
【0030】
一実施形態によれば、ポリマー製品中の両性ポリアクリルアミドは、3~25モル%、好ましくは5~14モル%、より好ましくは5~9モル%の、カチオン性モノマーから誘導される構造単位を含む。一実施形態によれば、ポリマー製品中の両性ポリアクリルアミドは、0.5~5モル%、好ましくは1~4モル%、より好ましくは1~2.5モル%の、アニオン性モノマーから誘導される構造単位を含む。
【0031】
両性ポリアクリルアミドは、2,500,000~18,000,000g/molの重量平均分子量を有する。両性ポリアクリルアミドがゲル重合プロセスによって調製したものであるとき、ポリアクリルアミドの重量平均分子量は、好ましくは4,000,000~18,000,000g/molであってもよい。好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドは、3,000,000~18,000,000g/mol、好ましくは3,500,000~11,000,000g/mol、より好ましくは4,000,000~8,000,000g/mol、より好ましくは4,000,000~6,000,000g/molの範囲の重量平均分子量を有する。両性ポリアクリルアミドの分子量は、その挙動と性能に大きな影響を与える。両性ポリアクリルアミドの重量平均分子量が2,500,000g/mol以上であるときは、より大きな疎水性粒子であっても、繊維への当該疎水性粒子の固定化が改善することが観察された。重量平均分子量が18,000,000g/mol以下であるときは、繊維の間により均等にスペースが設けられ、過剰フロキュレーションの危険性が減少するので、ポリマー投与量がより高い場合であっても、ウェブ形成が妨げられることもないことが観察された。これは、また、アニオン電荷とカチオン電荷の両方が最適に存在することによるものであって、両性ポリマーは製紙用繊維懸濁液に、特に中性製紙pHにループを形成することができ、それによって形成ウェブの地合い(formation)を損なう可能性がある過度に広範なフロキュレーションを防止する。
【0032】
両性ポリアクリルアミドは、6.7~27dl/gの範囲の固有粘度を有することができ、この粘度範囲は約2,500,000~18,000,000g/molの重量平均分子量にほぼ相当する。好適な一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドの固有粘度は、7.5~27dl/g、好ましくは8.5~19dl/g、より好ましくは9.3~15.2dl/g、さらにより好ましくは9.3~12.5dl/gの範囲とすることができる。固有粘度は分子サイズを反映するものであり、これから、以下に説明するように重量平均分子量を計算することができる。
【0033】
「重量平均分子量」の値は、本書との関連ではポリマー鎖長の大きさを説明するのに使用される。重量平均分子量値は、ウベローデ型(Ubbelohde)毛細管粘度計を用いて25℃で1N NaCl中で既知の方法で測定した固有粘度の結果から計算するのが好ましい。毛細管を適切に選び、この出願の測定においては、定数K=0.005228を有するウベローデ型毛細管粘度計を使用した。次いで、平均分子量は、固有粘度の結果から、Mark-Houwinkの式[η]=K・Mを用いて既知の方法で計算する。上記式中、[η]は固有粘度、Mは分子量(g/mol)であり、K及びaは、Polymer Handbook(第4版、第2巻、編集者:J.Brandrup、E.H.Immergut及びE.A.Grulke、John Wiley & Sons,Inc.、USA、1999年、ポリ(アクリルアミド)についてp.VII/11)に記載のパラメータである。したがって、パラメータKの値は0.0191ml/gであり、パラメータ「a」の値は0.71である。使用条件下で、これらのパラメータについて与えられた平均分子量範囲は490,000~3,200,000g/molであるが、この範囲外の分子量の大きさを記述するためにも同じパラメータが使用される。固有粘度測定用のポリマー溶液のpHは、両性ポリアクリルアミドについて想定されるポリイオンコンプレックスの形成を避けるためにギ酸によって2.7に調整される。
【0034】
両性ポリアクリルアミドは、4~28モル%の全イオン性を有することができる。好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドの全イオン性は、4~18モル%、好ましくは5~13モル%、より好ましくは6~12モル%、さらにより好ましくは6~10モル%の範囲である。ポリマー製品の両性ポリアクリルアミドは、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドモノマーから誘導される、少なくとも72モル%、好ましくは少なくとも82モル%の構造単位、及び、アニオン性モノマー及びカチオン性モノマーに由来する、最大で28モル%、好ましくは最大で18モル%の構造単位を含むものとすることがよい。全イオン性は、pH7で両性ポリアクリルアミド中の、イオン電荷を有する基の全てを包含するものであり(その荷電基の大部分はイオン性モノマー単位に由来する)、連鎖停止剤などに由来するその他の荷電基をも包含する。このことが効果的なのは、ポリマーの全イオン性が最大で18モル%である場合、特にポリマーの重量平均分子量が2,500,000~18,000,000g/mol、又は好ましくは3,500,000~11,000,000g/molである場合であることが観察されている。イオン性、特にカチオン性がより高いと、ポリマー製品の投与量を増加させて使用するときには過剰カチオン化を引き起こす可能性がある。したがって、両性ポリアクリルアミドのイオン性が比較的低いと、たとえパルプがゼロに近いゼータ電位値を有していても、繊維懸濁液に対してポリマー製品を高投与量で使用することが可能となる。両性ポリアクリルアミドのイオン性は、紙料中のゼータ電位の問題、すなわちパルプのゼータ電位が正の値にシフトするのを回避する見地から最適化することができる。
【0035】
好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドは線状ポリアクリルアミドである。言い換えれば、両性ポリアクリルアミドは非分枝状であり、好ましくは架橋されていないものである。その重合において、架橋剤の量は0.002モル%未満、好ましくは0.0005モル%未満、より好ましくは0.0001モル%未満である。一実施形態によれば、その重合には架橋剤を全く含まない。線状両性ポリアクリルアミドは、製造する紙又は板紙の品質を低下させるおそれのある不溶性ポリマー粒子の可能性を効果的に削減するものである。
【0036】
一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミド中のカチオン基は、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(ADAM)、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートベンジルクロリド、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレートジメチルスルフェート、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート(MADAM)、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(MADAM-Cl)、2-ジメチルアミノエチルメタクリレートジメチルスルフェート、[3-(アクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(APTAC)、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)及びジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)から選択されるモノマーに由来する。第四級アミンは、その電荷がpH依存性ではないので、好適なカチオン性モノマーである。また、そのカチオン性モノマーは[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド(ADAM-Cl)であることがより好ましい。
【0037】
一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドのアニオン基が、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸又はチグリン酸などの不飽和モノ-又はジカルボン酸から選択されるモノマーに由来する。
【0038】
ポリマー製品の両性ポリアクリルアミドは、フリーラジカル重合によって、溶液重合;分散重合、例えば無機塩及び/又は有機高分子電解質の存在下での分散重合;乳化重合、特に逆乳化重合;又はゲル重合などの任意の適切な重合方法を使用して、特定の範囲内の分子量を有する水溶性ポリアクリルアミドを製造することにより、得ることができる。このようにして得られたポリマー製品は、例えば、水溶液、水性分散液、エマルション、又は乾燥粒子状ポリマー製品の形態であることができる。逆乳化重合などの乳化重合、及びゲル重合では、少なくとも25質量%などのより高いポリマー含有量を有するポリマー製品、及び、さらには、特定された全分子量範囲内の任意の分子量を有するポリマーを得ることができる。
【0039】
一実施形態によれば、ポリマー製品の両性ポリアクリルアミドは、好ましくはゲル重合によって得ることができる。一実施形態によれば、この調製方法では、アクリルアミドなどの非イオン性モノマーと、荷電したアニオン性モノマー及びカチオン性モノマーとを含む反応混合物を使用することができる。反応混合物中のモノマーは開始剤の存在下でフリーラジカル重合を用いることにより重合させる。重合開始時の温度は40℃未満でもよく、時には30℃未満でもよい。さらに、時には、重合開始時の温度が5℃未満であってもよい。反応混合物のフリーラジカル重合により、ゲル形態又は高粘性液体の両性ポリアクリルアミドが生成する。ゲル重合の後、得られたゲル形態の両性ポリアクリルアミドを破砕(シュレッディング:shred)又は細断する(チョッピング:chop)などして粉砕する(comminuted)と共に乾燥させることによって、粒状ポリマー製品が得られる。使用する反応装置に応じて、重合を行うのと同じ反応装置内で破砕又は細断を行うこともできる。例えば、重合をスクリューミキサーの第1の領域で実施することができ、得られたポリマーの破砕を該スクリューミキサーの第2の領域で実施する。また、破砕、細断又はその他の粒径調整を反応装置とは別の処理装置で行うことも可能である。例えば、得られた水溶性(hydrosoluble)、すなわち水溶性ポリマーをベルトコンベアである反応装置の第2の端部から回転式孔スクリーン(hole screen)などを通って移送し、ここで小さな粒子状に破砕又は細断される。破砕又は細断した後、粉砕ポリマーを乾燥し、所望の粒度に粉砕し(ミリング:milled)、そして貯蔵及び/又は輸送のため梱包する。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドはゲル重合プロセスによって得られる。この場合、重合開始時の反応混合物中のモノマーの含有量は、少なくとも29質量%、好ましくは少なくとも30質量%、より好ましくは少なくとも32質量%である。
【0041】
一実施形態によれば、ポリマー製品は、少なくとも25質量%、好ましくは少なくとも60質量%のポリマー含有量を有する。ポリマー含有量がより低いポリマー製品、例えば溶液重合で得られるポリマー製品の場合、使用濃度まで容易に希釈又は溶解できるという利点を有する。高いポリマー含有量を有するポリマー製品、例えばゲル重合で得られるポリマー製品の場合、製品の物流の観点からより費用効率が高い。高ポリマー含有量である場合は、微生物安定性を改善できるという追加的な利点を有する。例えば、ポリマー製品のポリマー含有量が少なくとも60質量%である場合(この場合、ゲル重合によって得られるポリマー製品の場合典型的である)、微生物活性が低下し、したがって温暖な気候で、かつ、保管期間が長期であっても、ポリマー製品はより安定である。
【0042】
本発明の好ましい一実施形態によれば、ポリマー製品中の両性ポリアクリルアミド含有量は、60~98質量%、好ましくは70~98質量%、より好ましくは75~95質量%、さらにより好ましくは80~95質量%、時にはさらにより好ましくは85~93質量%の範囲である。ポリマー製品の両性ポリアクリルアミド含有量が高いので、当然ながら活性両性ポリアクリルアミドの量も多い。このことはポリマー製品の輸送及び貯蔵コストに良い影響を与える。ポリマー製品の水分含有量は、典型的には5~12質量%である。
【0043】
好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品は粒子形態である。本出願との関連では、用語「粒子形態」は、離散的な(discrete)固体粒子又は顆粒を意味する。本発明の一実施形態によれば、ポリマー製品は、2.5mm未満(<)、好ましくは2.0mm未満(<)、より好ましくは1.5mm未満(<)の平均粒度を有する両性ポリアクリルアミドの粒子又は顆粒を含む。これらの粒子は、ゲル重合によって得られた両性ポリアクリルアミドに、切断(cutting)、粉砕(milling)、破砕、細断などの機械的粉砕を施すことによって得られる。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、粒子形態のポリマー製品の固形分は、80質量%を超え(>)、好ましくは85質量%を超え(>)、より好ましくは80~97質量%の範囲、さらにより好ましくは85~95質量%の範囲であることができる。固形分が高い場合は、ポリマー製品の貯蔵及び輸送特性の観点から有益である。
【0045】
両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品は、使用に際し、通常、水に溶解し及び/又は希釈し、こうすることで水性処理溶液を得る。当該水性処理溶液のポリマー含有量は、0.1~4質量%、好ましくは0.3~3質量%、より好ましくは0.5~2質量%とすることができる。一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品は、pH2.5~5の水に溶解し又は希釈して、水性処理溶液を得る。適切なpHの調整は、例えば酸又は塩基を添加することによって行うことができる。ポリマーの溶解にこのようなわずかに酸性のpHを使用すると、当該ポリマーはその完全な機能性を維持する。
【0046】
本発明の好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品は、紙又は板紙の製造において疎水性物質によって引き起こされる堆積物形成を制御するために使用される。ここで、その、紙又は板紙の製造では、リサイクル繊維材料を含む繊維の水性懸濁液から繊維ウェブが形成されるものである。一実施形態によれば、繊維懸濁液は、乾燥紙又は板紙に基づいて、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも70質量%のリサイクル繊維材料を含む。幾つかの実施形態では、繊維懸濁液は、80質量%を超える(>)、又は100質量%の、リサイクル繊維材料に由来する繊維を含んでもよい。好ましい一実施形態によれば、リサイクル繊維材料は、古段ボール箱、混合オフィス廃棄物(waste)、古新聞、古雑誌、ダブルライナークラフト、及びこれらの任意の混合物から選択することができる。好ましい一実施形態によれば、リサイクル繊維材料としては、脱墨段階を経ていない、古段ボール箱又は混合廃棄物又は古新聞紙から選択してもよい。古段ボール箱(OCC)は、テストライナー、ジュート又はクラフトのライナーを有する段ボール箱を含むリサイクル繊維材料を意味し、この用語はまた二重選別段ボール箱(DS OCC)も含むことがある。混合廃棄物(MXW)は、OCC、裏白チップボール及び/又は折り畳み箱用板紙のようなリサイクル板紙、並びに古新聞紙、古雑誌及び/又はオフィス廃紙のようなリサイクル紙とのリサイクル混合物を表す。混合オフィス廃棄物(MOW)は、主にコピー用紙、プリンター用紙、オフセット用紙を含むリサイクル繊維材料を表す。ダブルラインクラフト(double lined kraft)は、例えばクラフト又はジュートライナーの、きれいな選別した未印刷の段ボールカートン、箱、シート又は裁ち落とし(trimmings)を含むリサイクル繊維材料を意味する。裏白チップボール(WLC)は、例えばOCC、混合オフィス廃棄物、又は古新聞(ONP)に由来する、脱墨繊維材料及び/又は未脱墨リサイクル繊維材料を1つ又は複数の層で含む多層すき合わせ板紙を意味する。繊維懸濁液中にこれらのリサイクル繊維材料のいずれかが存在すると、通常、脱水性及び紙強度が低下し、そして疎水性の溶解したコロイド状物質によるかなりの負荷がプロセスにもたらされる。リサイクル繊維を使用し、繊維懸濁液中に負荷の高い疎水性物質を有するプロセスでは、特に本発明に係るポリマー製品を使用ことにより利益を得る。堆積物の形成が削減するだけでなく、疎水性物質と従来のカチオン性歩留り向上剤、乾燥強度剤及び湿潤強度剤との干渉も減少することが観察されている。ワイヤやフェルトなどのプロセス処理表面の洗浄を削減することができる可能性がある。
【0047】
一実施形態によれば、繊維懸濁液は、抄紙機又は板紙抄紙機のヘッドボックスで測定して、少なくとも1.5mS/cm、好ましくは少なくとも2.0mS/cm、より好ましくは少なくとも3.0mS/cmの導電率を有する。高導電率は、疎水性物質の高い負荷を有している、リサイクル繊維を含む繊維懸濁液及び/又は閉じた製紙プロセスにとって典型的である。両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品は、堆積物抑制の有効性を顕著に低下させることなく、高導電率でも使用することができる。
【0048】
本発明の好適な一実施形態によれば、繊維懸濁液はリサイクル繊維材料を含み、この材料は、乾燥したリサイクル繊維材料に基づいて計算して10~150μmの範囲の粒径を有する疎水性物質を0.02mg/gを超える、好ましくは0.2mg/gを超える量含有する。疎水性粒子の量は、この出願における実験の部に記載されている抽出方法を使用することによって測定する。特に、浮選法段階及び/又は洗浄段階なしで処理されるリサイクル繊維材料が、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品を用いる本発明に係る使用から利益を得る。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、繊維懸濁液は、クラフト法及び/又は機械的パルプ化法によって得られる繊維を含む。繊維懸濁液がクラフト及び/又は機械的パルプ化法からの繊維を含むとき、プロセス中のピッチの量は増加する可能性がある。本発明に係る使用は、また、ピッチに起因する堆積物形成の抑制に対しても改善を実現する。
【0050】
両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品の水性処理溶液は、ウェットエンド薬品として繊維懸濁液に、好ましくは濃厚ストックに添加することができる。ここで濃厚ストックは、20g/lより高い、好ましくは25g/lを超える、より好ましくは30g/lを超えるコンシステンシーを有する繊維質ストック又は完成紙料と理解される。一実施形態によれば、20g/lを超えるコンシステンシーを有する繊維懸濁液に両性ポリアクリルアミドを添加する。一実施形態によれば、処理溶液の添加場所としては、ストック貯蔵塔の後であって、濃厚ストックをワイヤピット(オフマシンサイロ)内で短経路(short loop)白水により希釈する前に配置する。繊維懸濁液への両性ポリアクリルアミドの添加は、抄紙機又は板紙抄紙機のマシンチェストの前で行うことが好ましく、より好ましくはミキシングチェストの前で行うことである。このようにして、両性ポリアクリルアミドは、疎水性物質と相互作用し疎水性物質を繊維上に固定するためより多くの時間を有する。リサイクル繊維を使用する場合、両性ポリマーを含むポリマー製品は、リサイクル繊維を含むストック成分に(当該ストック成分が、例えば損紙、クラフトパルプ又は機械パルプのような、他のストック成分と混合される前に)添加するのが好ましい。他方、両性ポリアクリルアミドは、その構造中にアニオン電荷が存在するために、そのポリマーが、ポンプ類、洗浄器類、又はスクリーン類などの後続の装置類による剪断力により切断又は変形される場合に再凝集することができる。
【0051】
一実施形態によれば、ポリマー製品は、両性ポリアクリルアミドの量が、製造する紙又は板紙1トン当たり100~2000g、より好ましくは、製造する紙又は板紙1トン当たり300~1500gの範囲、より好ましくは、製造する紙又は板紙1トン当たり400~900gの範囲にあるような量で使用される。好適な一実施形態によれば、マシンチェストの前、より好ましくはミキシングチェストの前で添加される両性ポリアクリルアミドの量は、製造する紙又は板紙1トン当たり、100~2000g、好ましくは300~1500gの範囲、より好ましくは400~900gの範囲である。
【0052】
一実施形態によれば、無機微粒子、好ましくはベントナイト微粒子を繊維懸濁液にさらに添加する。微粒子と両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品との相互作用によって、疎水性物質の堆積物形成を一層抑制する上で追加の利点がもたらされる。無機微粒子は、抄紙機又は板紙抄紙機のマシンチェストの前、より好ましくはミキシングチェストの前で繊維懸濁液に添加すると良い。好ましい一実施形態によれば、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品は、無機微粒子の添加前に繊維懸濁液に添加する。ポリマー製品及び微粒子の添加は、濃厚ストック又は希薄ストックに対して行われてもよく、又はポリマー製品を濃厚ストックに添加し、続いて希薄ストックに微粒子を添加してもよい。両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品及び無機微粒子の両方とも濃厚ストックに添加するのが好ましい。好ましい一実施形態によれば、ポリマー製品及び微粒子の添加に続いて、500,000Daを超える(>)分子量を有する高分子量ポリアクリルアミドなどのような、1種以上の歩留まり向上剤を添加する。希薄ストックは、ここでは20g/lの未満の(<)コンシステンシーを有する繊維懸濁液を意味する。
【0053】
本文脈では、また上記で使用したように、用語「繊維懸濁液」は、繊維、好ましくはリサイクル繊維、及び任意で填料を含む水性懸濁液と理解される。両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品は、塗工前、もしあれば、10%を超える(>)、好ましくは15%を超える(>)、より好ましくは20%を超える(>)灰分を有する紙及び/又は板紙等級の製造に、特に適している。灰分の測定には、規格ISO 1762、温度525℃が使用される。例えば、繊維懸濁液は、少なくとも5%、好ましくは10~30%、より好ましくは11~19%の無機填料(mineral filler)を含んでもよい。無機填料の量は繊維懸濁液を乾燥させて計算され、灰分は規格ISO 1762を用いて温度525℃で測定する。無機填料は、製紙及び板紙製造において慣用的に使用される任意の填料、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、粘土、タルク、石膏、二酸化チタン、合成ケイ酸塩、アルミニウム三水和物、硫酸バリウム、酸化マグネシウム又はこれらの混合物のいずれでもよい。
【0054】
好ましい一実施形態によれば、製造する板紙がライナー、フルーティング、石膏ボードライナー、紙管用板紙、折り畳み箱用板紙(FBB)、裏白チップボール(WLC)、無地漂白クラフト(SBS)板紙、無地未漂白クラフト(SUS)板紙又は液体容器用板紙(LPB)から選択されるとき、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品は、板紙製造において疎水性物質によって引き起こされる堆積物形成を抑制するのに使用される。板紙は、120~500g/mの坪量(grammage)を有することができ、また、一次繊維を100%、リサイクル繊維を100%、又は一次繊維とリサイクル繊維との間の使用可能な混合物をベースとすることができる。
【0055】
両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品は、ゼータ電位値-35~-1mV、好ましくは-10~-1、より好ましくは-7~-1mVを有する濃厚ストック中の疎水性物質によって引き起こされる堆積物形成を抑制するのに特に適している。このゼータ電位は、ミュテック(Muetek)SZP-06装置を用いて測定したものであって、両性ポリアクリルアミドを含む水溶性ポリマー製品を繊維懸濁液に添加する直前に測定したものである。
【0056】
本発明に係るポリマー製品は、また、紙又は板紙製造プロセスでの繊維懸濁液の脱水結果を維持するか又はさらには改善するという更なる利点を示すことができる。
【実施例
【0057】
実験例
本発明について、いくつかの実施形態を以下の非限定的な実施例で説明する。
【0058】
以下の方法を使用して分析した。
疎水性物質、例えばスティキィの量を測定するための抽出測定方法
スティキィについての測定は、パルプ試料を採取し、1%のコンシステンシーに希釈して行う。500mlの当該パルプ試料について、25℃の温度でM80ワイヤを備えたダイナミックドレネージジャー(Dynamic Drainage Jar)(DDJ)中でふるい分けを行った。DDJは1200rpmで連続的に運転する。パルプ試料の90%をふるい分けした後、500mlの洗浄水を添加する。さらに500mlの水で洗浄を繰り返す。50mlのパルプスラリーがワイヤの頂部に残ったときにDDJを停止する。ワイヤ上に残っている上部フラクション及びワイヤを通してふるい分けした下部フラクションを、ブフナー漏斗を用いた真空濾過により濾紙に集める。Munktell、Ahlstroem M00ドレージ(drage)125mm直径の濾紙を使用する。パルプを有する濾紙をオーブン中、温度110℃で4時間乾燥する。試料について、乾燥質量測定のために秤量する。濾紙を凍結乾燥し、テトラヒドロフランで抽出する。重量(gravimetric)分析、それに続くHPLC SEC測定は、フィンランドのオウル大学からのティナ・サージャの博士論文(脱墨パルプ中のスティキィについての測定及び性質及び除去、Acta Universitatis Ouluensis、C Technica 275、Oulu大学プレス、2007年)に提示された方法に従って行う。上部フラクションを起源とする粘着性抽出物は、150μmを超える(>)粒径のマクロスティキィを表し、下部フラクションを起源とする(粘着性抽出物)は、粒径10~150μmのマイクロスティキィを表すと考えられる。結果は、繊維試料の全乾燥質量当たりで算出したものである。
【0059】
フローサイトメトリー法
固定用の化学物質を添加したパルプ試料10mlを蒸留水40mlと混合する。試料は長繊維を分離するために濾過する。そうしないと、長繊維が測定を妨げると思われる。濾液を蒸留水で希釈し、蛍光着色剤を添加する。フローサイトメトリー測定は、Partec GmbHから供給されるSL Blue装置を用いて行う。粒子が蛍光シグナルに基づいて識別されるように着色剤量について試験する。粒子サイズは、標準サイズの球状ポリスチレン粒子を使用することで較正した側方散乱(side scattering)によって分析する。1mlの試料チューブをフローサイトメーターに使用し、その200μlを分析する。各粒子は蛍光強度及びサイズによって特徴付けられる。より高い蛍光強度によって検出できるスティキィ又はピッチの疎水性集団は、ゲーティング(gating)することで、微粉(fines)及び顔料を含む他の粒子から分離される。スティキィ及びピッチが少なくとも80%少ないサンプルは、疎水性ポピュレーション(集団)ゲートにおいて、約80%少ない量の粒子をもたらす。分離された疎水性集団は、0.2μm~20μmのサイズを有する。この疎水性集団からの結果は、粒子の数、粒子の平均サイズ、粒子のサイズ分布、又は形状を球形と仮定することによって粒子の面積又は体積として計算する。
【0060】
パルプ試料についてのその他の測定方法
濁度試験のために、30mlのパルプ試料を重力濾過漏斗中のブラックリボン濾紙を通して濾過し、濾液を測定のため保存した。濁度は濾液から直ちに濁度を測定した。
【0061】
パルプ/濾液特性の特徴付けに使用した測定装置及び/又は規格を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
ポリマー製品調製の一般的説明
両性ポリアクリルアミド用モノマー溶液の調製
モノマー溶液は、248.3gの50%アクリルアミド溶液、0.01gの40%DTPA Na塩溶液、2.9gのグルコン酸ナトリウム、4.4gのジプロピレングリコール、1.9gのアジピン酸、及び7.2gのクエン酸を20~25℃の温度制御実験室用ガラス反応器内で混合することによって調製する。固体物質が溶解するまでその混合物を撹拌する。この溶液に32.6gの80%ADAM-Clを添加する。溶液のpHをクエン酸で3.0に調整し、2.8gのアクリル酸を溶液に添加する。pHは2.5~3.0に調整する。
【0064】
乾燥ポリマー製品の調製
モノマー溶液を上記説明に従って調製した後、酸素を除去するためにモノマー溶液を窒素流でパージする。開始剤をモノマー溶液に添加する。開始剤溶液は、ポリエチレングリコール-水(質量で1:1)中6%2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン溶液4mlである。モノマー溶液をトレー上に置き、紫外線(UV光)下で約1cmの層を形成する。UV光は主に350~400nmの範囲にあり、例えば、Philips Actinic BL TL 40Wの光管を使用することができる。光の強度は、重合が完了するよう重合の進行につれて増加させる。最初の10分間の光強度は550μW/cmで、30分後の光強度は2000μW/cmである。得られたゲルを押出機に通過させ、60℃の温度で10%未満の含水率まで乾燥させる。乾燥したポリマーを粉砕し、粒径0.5~1.0mmまでふるいにかける。
【0065】
ポリマー製品の固有粘度は、25℃で1M NaCl中でウベローデ毛細管粘度計によって測定した。粘度測定のために、ポリマー製品を1M NaClに0.01~0.5g/dlの範囲の適切な濃度の一連の希釈物に溶解した。毛細管粘度測定用のポリマー溶液のpHは、粘度に対して予想されるポリイオンコンプレックス形成の影響を避けるためにギ酸により2.7に調整した。分子量の計算は、ポリアクリルアミドの「K」及び「a」パラメータを用いて行った。パラメータ「K」の値は0.0191ml/gであり、パラメータ「a」の値は0.71である。測定した固有粘度は9.9dl/gであり、計算した分子量は4,400,000g/molであった。
【0066】
実施例で使用した化学物質
実施例で使用した化学物質を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例1:固定試験
使用したパルプ
板紙抄紙機の透明濾液で2%コンシステンシーに希釈した、ヨーロッパ段ボール箱古紙(OCC)を含有するリサイクル繊維パルプ
【0069】
クラフトパルプは、板紙抄紙機の透明濾液で2%コンシステンシーに希釈した、未漂白トウヒ属(spruce)パルプであった。
【0070】
パルプ及び濾液について測定した特性を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
測定時、パルプ試料は50℃の温度に加熱した。パルプ試料及び添加した化学物質を、その化学物質の添加後2分間200rpmで羽根つき撹拌機により500mlビーカー中で混合した。分散剤を使用する場合には、最初にその分散剤を試料に添加し、次いで試料を15分間混合した後に化学物質を添加した。
混合後にパルプ試料からフローサイトメトリー用試料を採取した。
【0073】
表4に、リサイクル繊維パルプ試料について上記のフローサイトメトリー法を使用することによって測定した固定試験結果を示す。この結果から、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品(AMF)が、濁りの原因となるコロイド粒子、及び、0.2~3.0μm及び3.0~20μmの別々の範囲の疎水性粒子を固定するのに最も効率的であることが分かる。得られた効果は両方のサイズ領域に関し同時に優れたものであるが、他の固定化剤及び不動態化剤は小さい方のサイズ範囲に対してのみ、又は大きい方のサイズ範囲に対してのみ有効である。また、疎水性材料の全面積(total area)及び全体積(total volume)が減少しており、これは抄紙機における堆積物形成の危険性が減少したことを示している。試験#1及び試験#6についてフローサイトメトリーによって測定した疎水性粒子の粒度分布を図1に示す。その結果は、固定効率が広い粒度範囲で良好であることを示している。同じ試験#1及び#6についての疎水性分布を図2に示す。これは、両性ポリマーを含むポリマー製品の使用が様々な疎水性レベルの粒子にとって有効であることを明らかにしている。このことはスティキィの固定化にとって有益である。スティキィは様々な化学物質に由来する可能性があり、広範囲に変動する疎水性を有する場合があるからである。
【0074】
【表4】
【0075】
表5に、クラフトパルプ又はクラフトパルプとリサイクルパルプとの混合物を含む様々な試験パルプ試料について上記のフローサイトメトリー法を使用することによって測定した固定試験結果を示す。化学物質は、パルプを混合する前又は後に、パルプに添加した。表5の結果は、ポリ塩化アルミニウム、及び両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品を添加することで、クラフトパルプ中の0.2~20μmのサイズを有する疎水性粒子が固定したことを示す。この結果は、また、成分を一緒に混合する前に、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品をポリ塩化アルミニウムと共にリサイクル繊維パルプ又はクラフトパルプに添加したときの、当該ポリマー製品の効率も示している。これは、ミキシングチェストの前でのストック成分へのポリマー製品の添加を示す。明らかな利益が、0.2~20μmの疎水性粒子、これらの粒子の体積及び濁度で観察された。
【0076】
表5中の化学物質添加量は、全て、kg活性物質/トン(乾燥パルプ)として示す。パルプ試料は、PAC添加後5分間及びAMF添加後1分間混合した。
【0077】
【表5】
【0078】
実施例2
使用したパルプ
乾燥漂白カンバ属(birch)パルプ、1.5%コンシステンシーに湿式離解したもの。
【0079】
パルプ及び濾液について測定した特性を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
パルプは45℃に加熱した。パルプから100mlの試料を採取し、化学物質を添加し、化学物質の添加後15秒間、半分充填した容器を振盪することにより混合した。分散剤を使用した場合、分散剤を最初に添加し、次に15分間混合した後に化学物質の添加を続けた。フローサイトメトリー用試料は、混合後に試験用試料から採取した。濁度試験としては、30mlの試料を重力濾過漏斗中ブラックリボン濾紙に通して濾過した。
【0082】
表7は、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品が、1~3μm及び3~20μmのサイズ区分の両方で疎水性粒子固定を改善することを示し、一方、ポリアミン(PA)は、1~3μmのサイズ区分では高投与量でのみ有効であることを示している。また、両性ポリアクリルアミドを含むポリマー製品を使用すると、疎水性粒子の全面積及び全体積も減少した。
【0083】
【表7】
【0084】
本発明について、現時点で最も実用的で好適な実施形態であると思われるものについて説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではないと解釈すべきであり、また、本発明は、添付した特許請求の範囲に記載した範囲内で各種の変形例及び均等な技術解決手段を包含することを意図している。