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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】治療薬の腸内送達のための製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20220325BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220325BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220325BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220325BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K9/19
A61K31/7088
A61K35/76
A61K38/02
A61K38/28
A61K39/00 H
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/00
A61K47/30
A61K47/32
A61K48/00
A61P3/10
A61P29/00
A61P35/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019541672
(86)(22)【出願日】2017-10-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 US2017056320
(87)【国際公開番号】W WO2018071655
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】15/291,480
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519135286
【氏名又は名称】キュリックス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CURIRX INC.
【住所又は居所原語表記】205 Lowell Street, Suite 1C, Wilmington, MA 01887(US)
(74)【代理人】
【識別番号】100062225
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 輝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【弁理士】
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】ハベリ,インドゥー
(72)【発明者】
【氏名】ネリアッパン,カリアパナダール
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-517023(JP,A)
【文献】特表2012-501305(JP,A)
【文献】特開2008-163009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0215747(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0297237(US,A1)
【文献】国際公開第2016/016665(WO,A1)
【文献】特表2017-523205(JP,A)
【文献】国際公開第2010/113177(WO,A2)
【文献】特表2015-503613(JP,A)
【文献】特開2010-031003(JP,A)
【文献】特表2009-512631(JP,A)
【文献】特表2011-529100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0206741(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0034589(US,A1)
【文献】特表2017-524726(JP,A)
【文献】特表2011-519893(JP,A)
【文献】International Journal of Nanomedicine,2011年,6,2429-2435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/51
A61K 9/19
A61K 31/7088
A61K 35/76
A61K 38/02
A61K 38/28
A61K 39/00
A61K 39/395
A61K 45/00
A61K 47/30
A61K 47/32
A61K 48/00
A61P 3/10
A61P 29/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子サイズが50nm以下を有する複数のナノ粒子を含み、
前記ナノ粒子がpH感受性ポリマーおよび10000ダルトン以下の分子量を有する治療薬を含み、
前記pH感受性ポリマーが、酸性pHでは不溶性であり、中性又はアルカリ性pHでは可溶性であり、
前記ナノ粒子が、前記pH感受性ポリマーおよび前記治療薬からなる、治療薬の経口製剤。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、界面活性剤、脂質、粘膜付着性ポリマーならびにそれらの組合せからなる群から選択される成分をさらに含み、
前記製剤が5.0より高いpHにおいて水性媒体をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記ナノ粒子が10nm~30nmの平均粒子サイズを有する、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
前記治療薬がペプチド、タンパク質、核酸、小分子薬、またはそれらの組合せであり、
前記治療薬がインシュリンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記pH感受性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネート、またはメチルメタクリレート/メタクリレート共重合体である、請求項1から4のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
平均粒子サイズが100nm以下を有する複数のナノ粒子を含み、前記ナノ粒子がpH感受性ポリマーおよび10000ダルトンを超える分子量を有する治療薬を含み、
前記pH感受性ポリマーが、酸性pHでは不溶性であり、中性又はアルカリ性pHでは可溶性であり、
前記ナノ粒子が、前記pH感受性ポリマーおよび前記治療薬からなる、治療薬の経口製剤。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、界面活性剤、脂質、粘膜付着性ポリマーならびにそれらの組合せからなる群から選択される成分をさらに含み、
前記製剤が5.0より大きいpHにおいて水性媒体をさらに含む、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記治療薬が、タンパク質、核酸、抗体、ウイルス様粒子、ベクター、ワクチン、およびそれらの組合せからなる群から選択され、
前記治療薬が、抗EGFR、抗Her2、抗RSV、抗インターロイキン、および抗TNFからなる群から選択されるか、またはセツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブ、トシリズマブ、およびアダリムマブからなる群から選択される抗体である、請求項6又は7に記載の製剤。
【請求項9】
前記pH感受性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネート、またはメチルメタクリレート/メタクリレート共重合体である、請求項6から8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項10】
治療薬の経口投与製剤を調製する方法であって、
(a)治療薬および酸性pHでは不溶性であり、中性又はアルカリ性pHでは可溶性であるpH感受性ポリマーを含む水性媒体を調製し、その溶液は5.5より大きいpHを有し、それによって前記pH感受性ポリマーは治療薬と会合したナノ粒子を形成する工程と、
(b)前記溶液のpHを4.0未満に下げる工程と、
(c)工程(b)、または工程(b)が行われない場合は工程(a)からもたらされる前記製剤を凍結乾燥する工程と、を含む前記方法。
【請求項11】
工程(a)が、5.5未満のpHで治療薬およびpH感受性ポリマーを含む水溶液を提供し、次いで界面活性剤、脂質、および緩衝剤を含有する溶液を添加することによってpHを5.5より大に上昇させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記治療薬が10000ダルトン以下の分子量を有し、かつ得られる製剤が50nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含むか、または前記治療薬が、10000ダルトンより大きい分子量を有し、かつ得られる製剤が100nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記pH感受性ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネート、またはメチルメタクリレート/メタクリレート共重合体であり、
前記治療薬が、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、ワクチン、ベクターおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
疾患を処置する方法に使用するための請求項1から9のいずれか一項に記載の製剤であって、
前記製剤は、それを必要とする対象に経口投与されるものであり、前記疾患の処置を補助する治療薬を含み、
前記治療薬がインシュリンであり、前記疾患が、糖尿病、インシュリン欠乏に関連するメタボリック症候群、および乳児、小児、または青年期の糖尿病性ケトアシドーシスからなる群から選択されるか、
又は、前記治療薬が抗腫瘍抗体であり、前記疾患ががんであるか、
又は、前記治療薬が抗炎症性抗体であり、前記疾患が抗炎症性疾患である、製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療薬の腸内送達のためのpH感受性ナノ粒子を含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質およびペプチドは、糖尿病、心臓病、およびがんなどの疾患を処置するために長年にわたって使用されてきており、ワクチンに使用されている。ほとんどの場合、これらの薬剤の経口送達は胃の中の酸性条件のために失敗して来た。さらに、インビトロ実験は、消化管内に天然に存在する酵素の存在下で多くのタンパク質およびペプチドが急速に不活性化または破壊されることを示していた。最後に、治療用タンパク質またはペプチドは、過剰の水素イオンまたはヒドロキシルイオンの存在下で化学的にまたは物理的に不安定になり得る。したがって、治療用タンパク質またはペプチドは一般に非経口的に患者に送達される。
【0003】
糖尿病は慢性的な高血糖値を特徴としている。2014年現在、世界中で推定3億8,700万人が糖尿病に罹患しており、特に低開発途上国および発展途上国でその数が多くなっている。2035年までに5億9,200万人の糖尿病患者がいると推定されている。したがって、糖尿病は重大な世界的問題である。
ペプチドホルモンであるインシュリンは、糖尿病のいくつかの形態を処置するために使用されている。それは一般にその短い半減期および胃腸管における分解のために液体注射形態で送達される。インシュリンは注射可能な形態で頻繁に投与されなければならないので、患者、特に子供はそれが不便であると感じる。したがって、経口剤形などのより便利な非注射可能形態のインシュリンの開発に対する大きな需要がある。
【0004】
ペプチド、タンパク質、および他の生物配合物の経口送達は望ましい一方で、適切な製剤は設計が困難である。pH感受性ポリマーの使用を含む、治療用タンパク質を胃酸による分解から保護するためのさまざまなコーティングが提案されて来た。ヒト胃腸管のpHは、胃(pH2~3)から小腸(pH6.5~7.0)、大腸(7.0~7.8)まで次第に増加する。胃の中では、pH感受性ポリマーは理想的には胃液の分解作用に抵抗し、そして薬物分子はこうして保護される。胃を空にした後、薬物は腸に移動し、pH感受性ポリマーは可溶性になる。こうして、薬物は、薬物の溶解とポリマーマトリックスの孔を通る拡散との組み合わせによって腸内で制御された方法で放出され得る。
【0005】
タンパク質またはペプチド治療薬の経口送達のためにpH感受性粒子を調製するためのさまざまな方法が使用されてきた。その方法には、凍結乾燥、噴霧乾燥、多重エマルジョン-溶媒蒸発、ナノ沈殿、およびコアセルベーションが含まれる(Current Drug Therapy, 7:219-234, 2012)。しかしながら、これらの方法の各々はその欠点を有する。
【0006】
溶媒蒸発は、薬物および担体を溶媒に溶解し、次いで溶媒を蒸発させることによって固溶体または分散液を調製するための一般的な方法である。得られた固体塊を粉砕しそして篩分けする。しかしながら、この方法ではスケールアップしそして物理的および化学的安定性を達成することは困難である。
親油性薬物の溶解を増加させる手段として薬物とポリマーの共沈が使用されてきた。ナノ沈殿物は、水混和性溶媒中の薬物とポリマーの溶液を安定剤を含有する水溶液に移すことによって調製される。急速な溶媒拡散によって、共沈物が瞬時に形成される。
【0007】
乳化蒸発法においては、水と混和しない溶媒(例えば、ジクロロメタンまたはクロロホルム)中に薬物およびポリマーを含有する溶液を乳化剤を含有する水溶液に乳化する。その後の油/水エマルジョンからの溶媒の蒸発は、微粒子および/またはナノ粒子の形成をもたらす。乳化拡散法は乳化蒸発法と同様であるが、部分的に水溶性の溶媒(例えば、ベンジルアルコール)を使用する。油/水エマルジョンから溶媒を拡散させて粒子を形成するためには大量の水が必要である。
【0008】
塩析プロセスにおいて、ポリマーと薬物の有機溶液は、電解質(例えば、MgCl)と安定剤(例えば、ポリビニルアルコール)を含有する水相に乳化される。続いて十分量の水をエマルジョンに添加して有機溶媒の水への拡散を誘導し、ポリマーの沈殿および微粒子および/またはナノ粒子の形成をもたらす。多量の乳化剤および電解質を除去するためには複雑な精製段階が必要である。
【0009】
PCT出願WO 2010/113177は、インシュリンおよびメタクリル酸/メタクリル酸メチルコポリマー(EUDRAGIT L 100)を含有する経口インシュリンpH感受性送達剤を開示している。薬剤は、流動パラフィンを使用する二重乳化技術によって調製され、これは不安定である。
米国公開特許出願第2010/021549号は、インシュリンと、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネート(HPMCAS)などのpH感受性ポリマーとを含有するコア-シェル粒子を記載している。粒子からのインシュリンの放出は、酸性媒体中では遅いが中性媒体中では速い。粒子は流動床噴霧技術により調製され、約2mmの直径を有する粒子をもたらす。
【0010】
Jelvehgariら(AAPS PharmSciTech、第11巻、第3号、2010年9月、Eudragit L 100-55および異なる分子量を有するキトサンを用いたpH感受性インシュリンナノ粒子の開発)は、メタクリル酸/メタクリル酸メチルコポリマー(EUDRAGIT L 100)および分子量の異なるキトサンを使用したインシュリン含有ナノ粒子の形成を記載する。簡単に説明すると、0.4mLの10mg/mLインシュリンを0.2%キトサンと混合し、次いで24mLの0.2%(重量/体積)Eudragit L 100-55エタノール溶液に注入した。注入中、混合物を500RPMで撹拌して薬物およびポリマーを沈殿させ、得られた乳白色の分散液を20μm孔フィルターを通して濾過した。インシュリン負荷効率は18~30%であった。粒子の大きさは、約135nmから約200nmの範囲であった。
【0011】
粒子サイズは、経口送達用のポリマーベースの製剤の吸収、分布、およびインビボ性能を決定するための重要な因子である。一般に、ナノ粒子は、微粒子よりも高い細胞内取り込み効率を有する。Bakhruら(生分解性ナノ粒子によるタンパク質の経口送達、Adv Drug Deliv Rev 2013年; 65:811)およびPanyam、J.およびLabhasetwar,V.(細胞および組織への薬物および酵素送達のための生分解性ナノ粒子、Adv Drug Deliv Rev 2003年;55:329)は、100nmの粒子サイズを有するポリ(ラクチド-コグリコリド)(PLGA)ナノ粒子の細胞内取り込みが、Caco-2細胞中で1μm微粒子より2.5倍高く、10μm微粒子より6倍高いことを報告した。同様の現象がラットで観察されており、PLGAナノ粒子の細胞内取り込みは、1μmおよび10μmの微粒子よりもそれぞれ15倍および250倍高かった。<100nmの粒子サイズを有するナノ粒子は、パイエル板(Peyer's patch)に効率的に取り込まれ、次いで体循環に吸収される(Woitiski CB.ら、消化管取り込みおよび転座を介したインシュリンナノ粒子の改善された経口送達に対する戦略 BioDrug 2008年;22:223)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
経口送達用のpH感受性粒子の工業生産のためにも費用対効果が高くかつ容易に拡大可能である改良された方法が必要とされている。水不溶性または有毒な有機溶媒を含まない、または有機溶媒の使用を完全に回避するpH感受性粒子を調製する方法もまた必要とされている。さらに、高い負荷効率および良好な生物学的利用能を有するタンパク質、ペプチド、および他の治療薬の経口送達のためのpH感受性粒子が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、治療薬の腸内送達のためのナノ粒子を含有する組成物、およびナノ粒子の製造方法を提供する。
本発明の一態様は、治療薬の経口製剤に使用するための組成物である。組成物は、50nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含み、それによって高い生物学的利用能を提供する。組成物は、pH感受性ポリマーおよび約10000ダルトン以下の分子量を有する治療薬を含む。好ましい実施態様において、治療薬は約1000から約10000ダルトンの間の分子量を有する。特定の実施態様において、治療薬は、ナノ粒子と会合しているか、ナノ粒子に付着しているか、またはナノ粒子内に埋め込まれている。特定の実施態様において、ナノ粒子は本質的にpH感受性ポリマーおよび治療薬からなる。いくつかの実施態様において、組成物は、界面活性剤、脂質、粘膜付着性ポリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される成分をさらに含む。特定の実施態様において、組成物は約5.0を超えるpHで解離する。特定の好ましい実施態様において、約2.0未満のpHの水溶液中で2時間で5%未満の治療薬がナノ粒子から放出される。
【0014】
いくつかの実施態様において、上記のナノ粒子は、約10nmから約30nmの平均粒子サイズを有する。いくつかの実施態様において、治療薬はペプチド、タンパク質、核酸、小分子薬、またはそれらの組み合わせである。特定の好ましい態様において、治療薬はインシュリンである。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、カルボキシル基を含有するアニオン性ポリマーを含むか、またはそれから構成される。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、メチルメタクリル酸とメタクリル酸とのアニオン性コポリマー、例えば、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:1、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:2である。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートなどのヒドロキシプロピルメチルセルロースのアニオン性ポリマーである。
【0015】
本発明の別の態様は、100nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含む治療薬の経口製剤用の組成物である。組成物は、pH感受性ポリマーと、約10000ダルトンを超える分子量を有する治療薬とを含む。好ましい実施態様において、治療薬は、約10000ダルトン超から約400000ダルトンの分子量を有する。特定の実施態様において、組成物は本質的にpH感受性ポリマーおよび治療薬からなる。いくつかの実施態様において、組成物は、界面活性剤、脂質、粘膜付着性ポリマー、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される成分をさらに含む。好ましい実施態様において、組成物は約5.0を超えるpHで解離する。特定の好ましい実施態様において、約2.0未満のpHの水溶液中で2時間で5%未満の治療薬がナノ粒子から放出される。いくつかの実施態様において、治療薬は、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、ベクター、ウイルス様粒子、ワクチン、またはそれらの組み合わせである。特定の好ましい実施態様において、治療薬は抗体である。
【0016】
いくつかの実施態様において、抗体は、抗EGFR、抗Her2、抗RSV、抗インターロイキン、および抗TNFからなる群から選択される。いくつかの実施態様において、抗体は、セツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブ、トシリズマブ、およびアダリムマブからなる群から選択される。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、メチルメタクリル酸とメタクリル酸とのアニオン性コポリマー、例えば、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:1、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:2である。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートなどのヒドロキシプロピルメチルセルロースのアニオン性ポリマーである。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、治療薬の経口投与用製剤を調製する方法である。この方法は、以下の工程を含む:(a)治療薬およびpH感受性ポリマーを含み、約5.5を超えるpHを有し、ナノ粒子を含有する水溶液を提供する工程;および(b)溶液のpHを約4.0未満に低下させることにより、治療薬とポリマーとが共沈し、ポリマーが治療薬を捕捉し、当該ポリマーは、約5.0より高いpHで解離し、治療薬を放出することができる。特定の実施態様において、工程(a)は、5.0未満のpHで治療薬およびpH感受性ポリマーを含む水溶液を提供し、次いでpH5.5~8の緩衝液、またはタウロコール酸塩または他の胆汁酸などの界面活性剤、脂質、緩衝剤、および任意に治療薬の活性を維持するための1つ以上の安定剤を含有する溶液を添加することによってpHを5.5以上に上昇させることを含む。いくつかの実施態様において、pHは、界面活性剤として約3mMのタウロコール酸ナトリウム、脂質として約0.75mMのホスファチジルコリン、約106mMの塩化ナトリウム、およびNaOHでpH6.5に調整された約28mMのリン酸ナトリウムを含有する溶液の添加によって5.5を超えるまで上昇する。いくつかの実施態様において、酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリスなどの緩衝剤を使用するか、または水酸化ナトリウムなどの塩基を使用して、pHを5.0超に上げる。いくつかの実施態様において、工程(b)でpHをHClの添加によって下げる。特定の実施態様において、当該方法は、工程(b)から得られる製剤を凍結乾燥することをさらに含む。
【0018】
上記の方法のいくつかの実施態様において、治療薬は約10000ダルトン未満の分子量を有し、得られる製剤は約50nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含む。いくつかの実施態様において、治療薬は約10000ダルトンを超える分子量を有し、得られる製剤は約100nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含む。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、メチルメタクリル酸とメタクリル酸とのアニオン性コポリマー、例えば、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:1、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:2である。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートなどのヒドロキシプロピルメチルセルロースのアニオン性ポリマーである。いくつかの実施態様において、治療薬はペプチド、タンパク質、核酸、小分子薬、またはそれらの組み合わせである。好ましい実施態様において、治療薬の経口製剤は上記の方法によって調製される。
【0019】
本発明の別の態様は、疾患を処置する方法、または疾患の処置を補助する方法である。この方法は、それを必要とする対象に上記の組成物のいずれかを経口投与することを含む。組成物は、疾患の処置を補助する治療薬を含む。いくつかの実施態様において、治療薬はインシュリンであり、疾患は糖尿病、インシュリン欠乏に関連するメタボリック症候群、または乳児、小児もしくは青年期の糖尿病性ケトアシドーシスである。他の実施態様において、治療薬は抗腫瘍抗体であり、そして疾患はがんである。特定の実施態様において、治療薬は抗炎症性抗体であり、そして疾患は炎症性疾患である。
【0020】
本発明は、以下の実施態様のリストに要約され得る。
1.平均粒子サイズが50nm以下の複数のナノ粒子を含み、pH感受性ポリマーと約10000ダルトン以下の分子量を有する治療薬とを含むナノ粒子を含む、治療薬の経口製剤。
【0021】
2.ナノ粒子が本質的に前記pH感受性ポリマーおよび前記治療薬からなる、実施態様1に記載の製剤。
【0022】
3.ナノ粒子がさらに、界面活性剤、脂質、軟膜付着性ポリマー、およびそれらの組合せからなる群から選択される成分を含む、実施態様1に記載の製剤。
【0023】
4.ナノ粒子が約5.0より高いpHにて解離し、治療薬を放出する、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0024】
5.5%未満の治療薬が約2.0未満のpHで水溶液中において2時間後にナノ粒子から放出される、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0025】
6.ナノ粒子が約10nm~約30nmの平均粒子サイズを有する、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0026】
7.治療薬がペプチド、タンパク質、核酸、小分子薬、またはそれらの組合せである、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0027】
8.治療薬がインシュリンである、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0028】
9.pH感受性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートまたはメチルメタクリレート/メタクリレートコポリマーである、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0029】
10.ナノ粒子が、約45nm以下、または約40nm以下、または約35nm以下、または約30nm以下、または約25nm以下、または約5nmから約50nm、または約5nmから約20nm、または約5nmから約30nm、または約5nmから約40nm、または約10nmから約40、または約20nmから約40nm、または約20nmから約50nmの平均粒子サイズを有する、先行する実施形態のいずれかに記載の製剤。
【0030】
11.pH感受性ポリマーが、pH約5.0からpH約8.0、または約4.5から約8.5、または約5.5から約8.0、または約6.0から約8.5、または約6.5から約8.5の約37℃で水に実質的に可溶性である、先行する実施態様のいずれかに記載の製剤。
【0031】
12.pH感受性ポリマーが、約1.5から約3.5、または約1.0から約4.0、または約2.0から約4.0、または約1.0から約6.0、または約1.0から約6.5、または約1.0から約7.0、または約1.0から約7.5のpHにて約37℃で水に実質的に不溶性である、先行する実施形態のいずれかに記載の製剤。
【0032】
13.100nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含み、ナノ粒子がpH感受性ポリマーと10000ダルトンを超える分子量を有する治療薬とを含む、治療薬の経口製剤。
【0033】
14.ナノ粒子が本質的に前記pH感受性ポリマーおよび前記治療薬からなる、実施態様13に記載の製剤。
【0034】
15.ナノ粒子が、界面活性剤、脂質、粘膜付着性ポリマー、およびそれらの組合わせからなる群から選択される成分をさらに含む、実施形態13または実施形態14に記載の製剤。
【0035】
16.ナノ粒子が約5.0より高いpHで解離または溶解して治療薬を放出する、実施形態13~15のいずれかに記載の製剤。
【0036】
17.5%未満の治療薬が約2.0より低いpHで水溶液中で2時間後にナノ粒子から放出される、実施態様13~16のいずれかに記載の製剤。
【0037】
18.治療薬が、タンパク質、核酸、抗体、ベクター、ウイルス様粒子、ワクチン、およびそれらの組合わせからなる群から選択される、実施形態13~17のいずれかに記載の製剤。
【0038】
19.治療薬が、抗EGFR、抗Her2、抗RSV、抗インターロイキン、および抗TNFからなる群から選択されるか、またはセツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブ、トシリズマブ、およびアダリムマブからなる群から選択される抗体である、実施形態18に記載の製剤。
【0039】
20.pH感受性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートまたはメチルメタクリレート/メタクリレートコポリマーである、実施態様13~19のいずれかに記載の製剤。
【0040】
21.ナノ粒子が約90nm以下、または約80nm以下の平均粒子サイズを有する、実施態様13~20のいずれかに記載の製剤。
【0041】
22.pH感受性ポリマーが約37℃でpH約5.0から約8.0、または約4.5から約8.5、または約5.5から約8.0、または約6.0から約8.5、または約6.5から約8.5で実質的に水に可溶である、実施形態13~21のいずれかに記載の製剤。
【0042】
23.pH感受性ポリマーが、pH約1.5から約3.5、または約1.0から約4.0、または約2.0から約4.0、または約1.0から約6.0、または約1.0から約6.5、または約1.0から約7.0、または約1.0から約7.5で、約37℃にて水に実質的に不溶性である、実施形態13~22のいずれかに記載の製剤。
【0043】
24.治療薬の経口投与製剤を調製する方法であって、
(a)治療薬と、pH感受性ポリマーを含むナノ粒子とを含む水性媒体を提供することで、前記媒体は、約5.0以上のpHを有し、
(b)媒体のpHを約4.0未満に低下させ、それによってポリマーが治療薬と緊密に会合するようになる、
工程を含む前記方法。
【0044】
25.工程(a)が、5.0未満のpHで治療薬およびpH感受性ポリマーを含む水溶液を提供し、次いで界面活性剤、脂質および緩衝液を含有する溶液を添加することによってpHを5.0以上に上昇させることを含む、実施形態24に記載の方法。
【0045】
26.pHが5~8の緩衝液および1以上の安定化賦形剤を含有する溶液、または界面活性剤として0~約10mMのタウロコール酸ナトリウム、脂質として0~約1.5mMのホスファチジルコリン、0~約150mMの塩化ナトリウム、および緩衝剤として0~約50mMのリン酸ナトリウムを含有する溶液の添加によってpHが5.0を超えるまで上昇させる、実施形態25に記載の方法。
【0046】
27.HClの添加によって工程(b)においてpHが低下される、実施態様24~27のいずれかに記載の製剤。
【0047】
28.さらに、(c)工程(b)からもたらされる製剤を凍結乾燥させることを含む、実施態様24~27のいずれかに記載の方法。
【0048】
29.治療薬が約10000ダルトン以下の分子量を有し、得られる製剤が約50nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含み、治療薬は、約10000ダルトンを超える分子量を有し、得られた製剤は、約100nm以下の平均粒径子サイズ有する複数のナノ粒子を含む、実施形態24~28のいずれかに記載の方法。
【0049】
30.pH感受性ポリマーが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートまたはメチルメタクリレート/メタクリレートコポリマーである、実施態様24~29のいずれかに記載の方法。
【0050】
31.治療薬が、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体、ベクター、ワクチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、実施形態24~30のいずれかに記載の方法。
【0051】
32.実施態様24~31のいずれかに記載の方法を含む方法によって調製された治療薬の経口製剤。
【0052】
33.疾患の処置を補助する方法であって、実施態様1~23のいずれかに記載の製剤をそれを必要とする対象に経口投与することを含み、該製剤は前記疾患の処置を補助する治療薬を含む方法。
【0053】
34.治療薬がインシュリンであり、疾患が糖尿病、インシュリン欠乏症に関連するメタボリック症候群、および乳児、子供または青年期の糖尿病性ケトアシドーシスからなる群から選択される、実施形態33に記載の方法。
【0054】
35.治療薬が抗腫瘍抗体で、疾患ががんである実施態様33に記載の方法。
【0055】
36.治療薬が抗炎症性抗体で、疾患が炎症性疾患である実施態様33に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1は、本発明によるナノ粒子経口送達製剤を製造するための無溶媒方法のフローチャートである。
図2図2は、本発明によるナノ粒子経口送達製剤を製造するための改変された無溶媒方法のフローチャートである。
図3図3は、本発明によるナノ粒子経口送達製剤を製造するための溶媒ベースの方法のフローチャートである。
図4図4は、無溶媒法によって製造されたインシュリン製剤からのインシュリン放出の時間経過を示す。放出媒体は、模擬胃液(SGF)または模擬腸液(SIF)であった。インシュリン濃度は、媒体のHPLC分取によって得られたインシュリンピークについて曲線下面積(AUC)の単位で表される。
図5図5は、絶食状態の模擬胃液(FaSSGF)および絶食状態の模擬腸液(FaSSIF)におけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の時間経過を示す。放出されたインシュリンの量は、インシュリン特異的ELISAを用いて測定された。
図6図6は、ELISAを用いたFaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の時間経過を示す図である。
図7図7は、HPLCを用いたFaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の時間経過を示す。
図8図8は、動的レーザー光散乱(DLS)を用いた粒子サイズ測定を示す。
図9図9は、ELISAを用いた、FaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の時間経過を示す図である。
図10図10は、ELISAを用いたFaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の時間経過を示す図である。
図11図11は、HPLCを用いた、FaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の経時変化を示す。
図12図12は、ELISAを用いた、FaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の経時変化を示す。
図13図13は、HPLCを用いた、FaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の経時変化を示す。
図14図14は、DLSを用いた粒子サイズ測定を示す。
図15図15は、ELISAを用いた、FaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の経時変化を示す。
図16図16は、HPLCを用いたFaSSGFおよびFaSSIFにおけるインシュリン製剤からのインシュリン放出の経時変化を示す。
図17図17は凍結乾燥圧力プロファイルを示す。
図18図18は凍結乾燥温度プロファイルを示す。
図19図19は、インシュリン製剤の投与および対照に対するヒト対象の食後血糖の変化を示す。
図20図20は、種々のインシュリン製剤の投与後の3匹のイヌの平均標準化血糖を示す。
図21図21は、サイズ排除(SEC)HPLCを用いたpH2.1およびpH6.5における抗EGFR抗体の放出プロファイルを示す。
図22図22は、ELISAを用いたFaSSGFおよびFaSSIFにおける抗Her2抗体の放出プロファイルを示す。
図23図23は、SEC-HPLCを用いたpH2.1およびpH6.5における抗RSV抗体の放出プロファイルを示す。
図24図24は、ELISAを用いたpH2.1およびpH6.5における抗RSV抗体の放出プロファイルを示す。
図25図25は、ELISAを用いたpH2.1およびpH6.5における抗TNF抗体の放出プロファイルを示す。
図26図26は、ELISAを用いたpH2.1およびpH6.5における抗IL6抗体の放出プロファイルを示す。
図27図27は、A 280を用いて分光光度的に測定されたFASSIFおよびFASSIFにおけるアスコルビン酸の放出プロファイルを示す。
図28図28は、DLSを用いたアスコルビン酸含有ナノ粒子の粒子サイズの測定を示す。
図29図29は、溶媒ベースの方法によってカプセル化されたアルブミンの放出プロファイルを示す。
図30図30は、溶媒ベースの方法によってカプセル化されたインシュリンからのインシュリン放出の経時変化を示す。
図31図31は、溶媒ベースの方法によってカプセル化されたインシュリンおよび2%アルギン酸を含有するナノ粒子製剤からのインシュリン放出の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明を任意の特定の機構または分子構造に限定することを意図することなく、本発明のナノ粒子は、ナノ粒子のポリマー鎖と治療薬の分子との間に安定な会合を与えると考えられ、治療薬は低いpHでポリマー鎖と緊密に結合し、それによって治療薬を低pHでの分解から保護する。本発明で使用されるpH感受性ポリマーは、典型的には、低pHでは中性(プロトン化)であるが中性pHでは負に帯電(脱プロトン化)し、粒子サイズがpH依存的な変化を導くような置換基を含み、粒子は中性pHではナノスケールであるが、低pHではマイクロスケールサイズである。ナノ粒子を生成するために超音波処理または加熱などの外部エネルギーは必要ない。低pHで(例えば、胃内環境において)のより大きな粒径は、治療薬の保護を強化し得るが、中性pHでのより小さな粒径は、治療薬の吸収を促進する。いくつかの実施態様において、ナノ粒子は完全に解離し得、そしてそれらの分子成分は中性pHで完全に可溶化する。他の実施態様において、ナノ粒子は中性pHでは解離しないが、細胞吸収または傍細胞輸送による良好な生物学的利用能を可能にするほど小さいサイズのものである。
【0058】
本発明のナノ粒子組成物の重要な特性はそれらの非常に小さいサイズであり、これは以前の粒子組成物で得られたものよりも高い生物学的利用能をもたらす。中性pHにおけるナノ粒子のサイズは、治療薬の分子サイズによってある程度決定される。一般に、治療薬の分子サイズが大きいほど、中性pHで存在するナノ粒子のサイズは大きくなるだろう。原則として、ポリマーのpH依存性と共に治療薬の分子サイズの連続体を反映して、ナノ粒子サイズの連続体を本発明の方法で製造することができるが、便宜上、ナノ粒子組成物は、治療薬の分子量に応じて、本明細書では「低分子量」または「高分子量」のいずれかであると区別される。
【0059】
本発明の低分子量実施態様において、ナノ粒子配合物は、50nm以下、または約45nm以下、または約40nm以下、または約35nm以下、または約30nm以下、または約25nm以下の平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含む。本明細書で使用されるように、「粒子サイズ」は、粒子の流体力学的直径を指す。平均流体力学的直径は、例えば動的光散乱(DLS)を用いて決定することができる。好ましくは、低分子量の実施態様のナノ粒子は、約50nm未満、または約10nmから約30nm、または約15nmから約25nmの平均粒子サイズを有する。他の実施態様において、ナノ粒子は、約5nmから約50nm、または約5nmから約20nm、または約5nmから約30nm、または約5nmから約40nm、または約10nmから約40nm、または約20nmから約40nm、または約20nmから約50nmの平均粒子サイズを有する。ナノ粒子は、pH感受性ポリマーおよび約10000ダルトン以下、または約9000ダルトン以下、8000ダルトン以下、7000ダルトン以下、6000ダルトン以下、5000ダルトン以下、4000ダルトン以下、3000ダルトン以下、2000ダルトン以下、または1500ダルトン以下の平均分子量を有する治療薬を含む。いくつかの実施態様において、治療薬は、約1000から約10000ダルトン、または約1000ダルトンから約5000ダルトン、または約1000ダルトンから約3000ダルトン、または約1000ダルトンから約4000ダルトン、約500ダルトンから約5000ダルトン、または約3000ダルトンから約5000ダルトン、または約5000ダルトンから約10000ダルトンの分子量を有する。さらに他の実施態様において、低分子量形態のナノ粒子組成物は、約1000ダルトンから約15000ダルトン、または約5000ダルトンから約15000ダルトン、または約3000ダルトンから約8000ダルトンの分子量を有する1つ以上の治療薬を含有する。
【0060】
本発明の高分子量実施態様において、ナノ粒子配合物は、約100nm以下、または約90nm以下、または約80nm以下、または約110nm以下、または約120nm以下、または約130nm以下、または約140nm以下、または約150nm以下、または約30nmから約90nm、または約30nmから約100nm、または約40nmから約100nm、または約50nmから約100nm、または約60nmから約90nmの平均粒子サイズを有する複数のナノ粒子を含む。ナノ粒子は、pH感受性ポリマーおよび約10000ダルトン以上、例えば15000ダルトン以上、20000ダルトン以上、25000ダルトン以上、30000ダルトン以上、40000ダルトン以上、または50000ダルトン以上の分子量を有する治療薬を含む。いくつかの実施態様において、治療薬は、約50000ダルトン以上、例えば、60000ダルトン以上、70000ダルトン以上、80000ダルトン以上、または90000ダルトン以上の分子量を有する。他の実施態様において、治療薬は、約11000ダルトンから約20000ダルトンまで、または約30000ダルトンまで、約40000ダルトンまで、約50000ダルトンまで、約70000ダルトンまで、約100000ダルトンまで、約150000ダルトンまで、約200000ダルトンまで、約300000ダルトンまで、または約500000ダルトンまでの分子量を有する治療薬を含む。
【0061】
本発明のナノ粒子のpH依存性溶解度は、ナノ粒子と共に含有され、ナノ粒子のマトリクスを形成する1つ以上のポリマーまたはコポリマーのpH依存性溶解度によって決定される。医薬組成物に使用するのに適しているさまざまなpH依存性ポリマーが知られている。そのようなポリマーは、無毒性、非アレルギー性、純粋な形で入手可能でありそして生理学的にも薬理学的にも不活性であるべきである。好ましくはそれらはまた非代謝性である。特定の好ましい実施態様において、pH感受性ポリマーは、ポリマー骨格の長さに沿って周期的に分布している複数のカルボキシル基を所有するアニオン性ポリマーである。いくつかの実施態様において、ポリマーの水溶性、およびポリマーによって形成されるナノ粒子または微粒子のサイズのpH依存性は、ポリマー鎖上のカルボキシル基または他の置換基の量または分布を調整することによって微調整することができる。特定の実施態様において、pH感受性ポリマーは、メタクリル酸とアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとのコポリマーである。特定の実施態様において、pH感受性ポリマーは、メタクリル酸-メタクリル酸メチルコポリマー、またはメタクリル酸-アクリル酸エチルコポリマーである。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:1、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)1:2、または両方の組み合わせであり、ポリ(メタクリル酸-コ-メチルメタクリレート)のエステル基に対するカルボキシル基の比(カルボキシル/エステル比)を操作してポリマーのpH感受性を制御することができる。
【0062】
特定の実施態様において、pH感受性ポリマーは、好ましくはメチルメタクリレート-メタクリル酸コポリマー、例えば、約1:1のモル比のメチルメタクリレート対メタクリル酸を有するメチルメタクリレート-メタクリル酸コポリマーである。特定の実施態様において、pH感受性ポリマーは、約60,000から約200,000ダルトンの分子量を有する。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸コハク酸セルロース(CASE)、酢酸トリメリット酸セルロース(CAT)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(またはヒプロメロースフタレート)(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネート(またはヒプロメロースアセテートサクシネート)(HPMCAS)、シェラックガム、またはポリ酢酸ビニルフタレート(PVAP)などのセルロース誘導体である。特定の実施態様において、pH感受性ポリマーは、好ましくは、例えば、約10,000ダルトン~約500,000ダルトンの分子量を有する、ヒドロキシプロピルメチルセルロース・アセテート・サクシネートである。上述のポリマーの全ては、所望のpH感受性を達成し、薬物放出または粒子サイズを制御し、そして経口投与時の薬物の生物学的利用能を改善するために、個々にまたは組み合わせて使用され得る。
【0063】
本発明で使用するためのpH依存性ポリマーは、酸性pHでは不溶性であり、中性および/またはアルカリ性pHでは可溶性である。いくつかの実施態様において、pH感受性ポリマーは、約37℃で、約5.0~約8.0、または約4.5~約8.5、または約5.5~約8.0、または約6.0~約8.5、または約6.5~約8.5のpHにおいて水に実質的に可溶性である。pH感受性ポリマーはまた、約1.5~約3.5、または約1.0~約4.0、または約2.0~約4.0、または約1.0~約6.0、または約1.0~約6.5、または約1.0~約7.0、または約1.0~約7.5のpHにおいて約37℃で水に実質的に不溶性である。
【0064】
pH感受性ポリマーの溶解度の1つの有用な尺度は、pHまたは他の条件の関数としての治療薬の放出である。本明細書中で使用される場合、治療薬の「放出」とは、会合治療薬を含有する微粒子から会合治療薬を含有する小型ナノ粒子を放出すること、または微粒子もしくはナノ粒子から治療薬の個々の分子を放出することをいう。放出は、数秒または数分以内のように非常に迅速であるか、または遅くなり得て、実質的な量の治療薬が放出されるのに数時間またはそれ以上かかる。重要なパラメータは、治療薬を酸性pHにおいて保持する微粒子および/またはナノ粒子の能力である。
【0065】
特定の実施態様において、粒子を0.01NのHClの溶液に23℃で約6時間曝露すると、粒子から約33質量%未満の治療薬が放出される。他の実施態様において、pH約6.8、約23℃で約1時間、粒子をリン酸緩衝食塩水の溶液に曝露すると、40質量%を超える治療薬が粒子から放出される。好ましくは、微粒子/ナノ粒子は、これらの両方の性質(すなわち、低pHでの非常に遅い放出および高pHでの急速で完全な放出)を有する。高pHでは、治療薬は高い度合いに(例えば30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上)、生理学的または薬理学的に適切な時間枠内(例えば、10分、30分、60分、90分、または120分以内)に放出されるべきである。低pHでは、治療薬は胃を通過するのに必要な時間中に実質的に放出されるべきではない。特定の実施態様において、約2.0未満のpHで2時間で5%未満の治療薬が粒子から放出される。
【0066】
特定の実施態様において、治療薬とpH感受性ポリマーとの質量比は、約10:1から約1:12、例えば、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:11、または約1:12である。いくつかの実施態様において、該質量比は約5:1から約1:5、または約3:1から約1:3、または約2:1から約1:2、または約1:1である。
【0067】
いくつかの実施態様において、ナノ粒子は本質的にpH感受性ポリマーおよび治療薬からなる。いくつかの実施態様において、ナノ粒子および/またはナノ粒子組成物および/または医薬組成物は本質的に溶媒を含まない。他の実施態様において、ナノ粒子は、緩衝剤、界面活性剤、脂質、粘膜付着性ポリマー、安定化賦形剤、およびそれらの組み合わせなどの1つ以上の成分をさらに含むことができる。これらの追加の成分は、ナノ粒子の調製中またはナノ粒子からの薬剤の放出後に治療薬の溶解性を維持するのに有用であり得るか、またはナノ粒子の凝集を防止するか、水溶液または水中でのナノ粒子の懸濁性を促進するのに有用であり得、そしてまた治療薬の生物学的利用能を改善することができる。それらはまた、ナノ粒子の保存性または有用な半減期を改善し得、そしてナノ粒子の構造および/または凍結乾燥後の治療薬の生物学的利用能を維持するのを助けることができる。粘膜付着性ポリマーは、腸粘膜の表面へのナノ粒子の付着を改善し、腸上皮細胞への、そして最終的には血液への吸収を改善に導くことができる。
【0068】
界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸塩(またはエステル)またはデオキシコール酸ナトリウム、タウロコール酸塩(またはエステル)、またはタウロコール酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、およびステアリルフマル酸ナトリウムを含むアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンエーテル、ポリソルベート80、およびアルキルグリコシドを含む非イオン性界面活性剤、第四級アンモニウム化合物を含むカチオン性界面活性剤を含み得る。
【0069】
脂質としては、例えば、リン脂質(中性、カチオン性、またはアニオン性)、脂肪酸(例えば、オレイン酸、カプリル酸、リノール酸、リノレン酸、オレイン酸ナトリウム、リノール酸ナトリウム、またはカプリル酸ナトリウム)、脂肪アルコール、および/またはステロールを含む。脂質には、スフィンゴミエリンを含むがこれに限定されないスフィンゴ脂質、ガングリオシド、グロボサイドおよびセレブロシドを含むスフィンゴ糖脂質、ステアリル、オレイルおよびリノレイルアミンを含むがこれらに限定されない界面活性剤アミンが含まれる。
【0070】
本明細書中で使用される場合、「リン脂質」は、そのヒドロキシル基の一方がリン酸でエステル化され、そして他の2つのヒドロキシル基が等しいか互いに異なり、飽和または不飽和であり得る長鎖脂肪酸でエステル化された、グリセロールの両親媒性誘導体であると理解される。中性リン脂質は、一般に、他のリン酸ヒドロキシルが極性基(通常はヒドロキシルまたはアミノ)で置換されたアルコールによってエステル化されており、かつその正味電荷がゼロであるものである。電荷を有するリン脂質は、一般に、他のリン酸ヒドロキシルが極性基で置換されたアルコールによってエステル化され、その正味電荷が正または負であるものである。
【0071】
リン脂質の例には、ホスファチジン酸(‘PA’)、ホスファチジルコリン(‘PC’)、ホスファチジルグリセロール(‘PG’)、ホスファチジルエタノールアミン(‘PE’)、ホスファチジルイノシトール(‘PI’)、ホスファチジルセリン(‘PS’)、スフィンゴミエリン(脳のスフィンゴミエリンを含む)、レシチン、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、セレブロシド、ジアラキドイルホスファチジルコリン(‘DAPC’)、ジデカノイル-L-アルファ-ホスファチジルコリン(‘DDPC')、ジエライドイルホスファチジルコリン(‘DEPC’)、ジラウロイルホスファチジルコリン(‘DLPC’)、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(‘DMPC’)、ジオレオイルホスファチジルコリン(‘DOPC’)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(‘DPPC’)、ジステアロイルホスファチジルコリン(‘DSPC’)1-パルミトイル-2-オレオイル-ホスファチジルコリン(‘POPC’)、ジアラキドイルホスファチジルグリセロール(‘DAPG’)、ジデカノイル-L-α-ホスファチジルグリセロール(‘DDPG‘)、ジエライドイルホスファチジルグリセロール(‘DEPG’)、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(‘DLPG’)、ジリノレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(‘DMPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(‘DOPG’)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(‘DPPG’)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(‘DSPG’)、1-パルミトイル-2-オレオイル-ホスファチジルグリセロール(‘POPG’)、ジアラキドイルホスファチジルエタノールアミン(‘DAPF’)、ジデカノイル-L-αホスファチジルエタノールアミン(‘DDPE’)、ジエライドイルホスファチジルエタノールアミン(‘DEPE’)、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン(‘DLPE’)、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(‘DMPE’)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(‘DOPE’)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(‘DPPE’)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(‘DSPE’)、1-パルミトイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(‘POPE’)、ジアラキドイルホスファチジルイノシトール(‘DAPI’)、ジデカノイル-L-α-ホスファチジルイノシトール(‘DDPI’)、ジエライドイルホスファチジルイノシトール(‘DEPI’)、ジラウロイルホスファチジルイノシトール(‘DLPI’)、ジリノレイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(‘DMPI’)、ジオレオイルホスファチジルイノシトール(‘DOPI’)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(‘DPPI’)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(‘DSPI’)、1-パルミトイル-2-オレオイル-ホスファチジルイノシトール(‘POPI’)、ジアラキドイルホスファチジルセリン(‘DAPS’)、ジデカノイル-L-α-ホスファチジルセリン(‘DDPS’)、ジエライドイルホスファチジルセリン(‘DEPS’)、ジラウロイルホスファチジルセリン(‘DLPS’)、ジリノレオイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン(‘DMPS’)、ジオレオイルホスファチジルセリン(‘DOPS’)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(‘DPPS’)、
ジステアロイルホスファチジルセリン(‘DSPS’)、1-パルミトイル-2-オレオイル-ホスファチジルセリン(‘POPS’)、ジアラキドイルスフィンゴミエリン、ジデカノイルスフィンゴミエリン、ジエライドイルスフィンゴミエリン、ジラウロイルスフィンゴミエリン、ジリノレオイルスフィンゴミエリン、ジミリストイルスフィンゴミエリン、スフィンゴミエリン、ジオレオイルスフィンゴミリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、ならびに1-パルミトイル-2-オレオイル-スフィンゴミエリンを含む。
【0072】
本明細書で使用されるとき、「脂肪酸」は、その構造が、1個以上の炭素原子を有する炭化水素鎖に結合したカルボキシル基である化合物を意味する。炭化水素鎖は飽和または不飽和であり得る(すなわち、アルキル、アルケニルまたはアルキニル炭化水素鎖)。また、炭化水素鎖は直鎖状でも分枝状でもよい。さらに、いくつかの態様において、炭化水素鎖中の水素は置換されていてもよい。
【0073】
本明細書で使用されるとき、「脂肪アルコール」は、その構造が、1個以上の炭素原子を有する炭化水素鎖に結合したアルコール基である化合物を意味する。炭化水素鎖は飽和でも不飽和でもよい(すなわち、アルキル、アルケニルまたはアルキニル炭化水素鎖)。炭化水素鎖は直鎖状でも分枝状でもよい。さらに、いくつかの実施態様において、炭化水素鎖中の水素は置換されていてもよい。
【0074】
本明細書で使用されるように、そして他に特定されない限り、用語「脂肪酸塩」は、脂肪酸と無機/有機塩基との間の反応から形成される化合物を意味する。さらに、この用語は、脂肪族アルコールと無機/有機酸との間の反応から形成される化合物を包含する。そのような酸の例には、硫酸およびリン酸が含まれる。脂肪酸塩の炭化水素鎖は飽和でも不飽和でもよい(すなわち、アルキル、アルケニルまたはアルキニル炭化水素鎖)。また、炭化水素鎖は直鎖状でも分枝状でもよい。さらに、いくつかの実施態様において、炭化水素鎖中の水素は置換されていてもよい。
【0075】
好ましくは脂質対pH感受性ポリマーの質量比は約1:10から約8:1、例えば約1:10、約1:9、約1:8、約1:7、約1:6、約1:5、約1:4、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、または約8:1である。
【0076】
粘膜付着性ポリマーは、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸、およびポリキサマーを含み得る。好ましくは、粘膜付着性ポリマーは、約10,000ダルトン~約150,000ダルトン、または約10,000ダルトン~約300,000ダルトン、または約10,000ダルトン~約600,000ダルトンの分子量を有する。
【0077】
いくつかの実施態様において、低分子量治療薬は、ペプチド、タンパク質、核酸、小分子薬(すなわち、1500ダルトン以下の分子量を有する任意の種類の医薬品)、またはそれらの組み合わせである。ペプチドは、抗腫瘍ペプチド(例えば、ロイプロリド)、代謝性疾患を処置するペプチド(例えば、インシュリングラルギン、グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト)、ペプチドホルモン(例えば、EPO)、抗感染薬(例えば、テラバンシン、プロテアーゼ阻害剤)、鎮痛剤/麻酔ペプチド(例えばエンケファリン)、および抗炎症ペプチドを含む。タンパク質は、抗腫瘍タンパク質(例えば、抗VEGF剤、インターフェロン、サイトカイン)、代謝性疾患を処置するタンパク質(例えば、インシュリン、グルカゴン)、タンパク質ホルモン(例えば、カルシトニン、ゴナドトロピン放出ホルモン)、抗感染性タンパク質(例えば、(インターフェロン)、抗炎症性タンパク質(抗TNFアルファ剤)、モノクローナル抗体、ワクチン、酵素、および酵素阻害剤を含み得る。核酸には、アプタマー、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ならびにアデノウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを含む、遺伝子編集および遺伝子治療のための核酸が含まれ得る。好ましい低分子量治療薬はインシュリンである。
【0078】
本明細書で使用される「インシュリン(またはインスリン)」という用語は、任意の天然に存在するまたは組換えのインシュリンを指す。したがって、本発明で使用されるインシュリンは、例えばインシュリン類似体および誘導体を含む。ヒト、ブタ、ウシ、イヌ、ヒツジなどの任意の適切な種由来のインシュリンを使用することができる。好ましい実施態様において、インシュリンは組換えヒトインシュリンである。天然インシュリンまたは合成インシュリンは、単量体、重合体、および/または原線維様インシュリンを含み得、インシュリン分子はpHに応じて異なる形態を取り得ることが理解される。
【0079】
高分子量の実施態様において、治療薬は、例えば、タンパク質、核酸、抗体、ウイルス様粒子、ワクチン、またはそれらの組み合わせであり得る。タンパク質(本明細書で定義されるように、高分子量であれ低分子量であれ)には、抗腫瘍タンパク質(例えば抗VEGF剤、インターフェロン、サイトカイン)、代謝疾患を処置するタンパク質(例えばインシュリン、グルカゴン)、タンパク質ホルモン(例えばカルシトニン、ゴナドトロピン放出ホルモン)、抗感染性タンパク質(例えば、インターフェロン)、抗炎症性タンパク質(抗TNFアルファ剤)、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ワクチン、酵素、および酵素阻害剤を含み得る。核酸(本明細書で定義されるように高分子量であれ低分子量であれ)には、アプタマー、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子編集および遺伝子治療が含まれる。
【0080】
抗体は、本発明における使用のための好ましい高分子量治療剤である。そのような抗体は、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト、ヒト化、キメラ、または組換えであり得、そしてまたそのような抗体の抗原結合フラグメントであり得る。モノクローナル抗体は、天然または組換え免疫グロブリン分子であり得る。抗体は、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEなどの任意の種類の免疫グロブリンであり得る。本発明で使用するための抗体は、抗体フラグメント(Fab、Fc、Fv)、ダイアボディ、トリアボディ、ミニボディ、ナノボディ、scFvなどの単一ドメイン抗体、および抗体融合タンパク質などの抗体類似体および誘導体を含む。好ましい抗体は、それぞれセツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブ、トシリズマブ、およびアダリムマブを含む、EGFR、Her2、RSV、インターロイキン、およびTNFに結合する抗体を含む。
【0081】
ある好ましい実施態様において、本発明の組成物は、水性媒体中に懸濁した状態で、または凍結乾燥材料としてのいずれかで、本発明の複数の任意のナノ粒子または微粒子を、1つ以上の担体、充填剤、結合剤、緩衝剤、流動促進剤、溶液、溶媒、界面活性剤、電解質、塩、潤滑剤、崩壊剤、膨潤剤、酸化防止剤、またはナノ粒子状または微粒子状形態ではない追加の治療剤などの1以上の賦形剤と一緒に含有する医薬組成物である。医薬組成物はまた、異なる治療薬を有する2つ以上の異なる種類の本発明のナノ粒子、または異なる放出プロファイルを有する異なるナノ粒子中の同じ治療薬を含み得る。医薬組成物はまた、治療薬を担持しない「空の」pH依存性ナノ粒子を含有し得る。医薬組成物は、好ましくは、カプセル剤、錠剤、または液体中の経口懸濁液剤の形態などの経口送達用に処方される。医薬組成物の特定の実施態様は、小児用に処方されている。一実施態様において、製剤は飲料であるか、またはオレンジジュースなどの果物または野菜ジュースなどの飲料として、あるいはミルクまたはヨーグルトなどの乳製品中の再構成に適している。
【0082】
充填剤としては、ラクトース、サッカロース、グルコース、デンプン、微結晶セルロース、極細セルロース、マンニトール、ソルビトール、リン酸水素カルシウム、ケイ酸アルミニウム、非晶質シリカ、塩化ナトリウム、デンプン、および二塩基性リン酸カルシウム無水物を含む。特定の実施態様において、充填剤は水を吸収し得るが、水溶性ではない。他の特定の実施態様において、充填剤は球状化助剤である。球状化助剤は、クロスポビドン、カラギーナン、キトサン、ペクチン酸、グリセリド、β-シクロデキストリン、セルロース誘導体、微結晶セルロース、粉末セルロース、ポリプラスドン、クロスポビドン、およびポリエチレンオキシドのうちの1つ以上を含み得る。一実施態様において、充填剤は微結晶セルロースを含む。
【0083】
結合剤としては、セルロースエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース、例えばヒプロメロース2910、METHOCEL E)、カルボキシメチルセルロース、デンプン、アルファ化デンプン、アカシア、トラガカントゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、架橋ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、微結晶セルロース、および低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む。特定の実施態様において、結合剤は湿式結合剤から選択される。一実施態様において、結合剤はセルロースエーテル、例えばヒプロメロースから選択される。
【0084】
崩壊剤には、デンプン、ナトリウム架橋カルボキシメチルセルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、架橋ポリビニルピロリドン、デンプングリコール酸ナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシプロピルデンプンが含まれる。
流動促進剤としては、さまざまな分子量のポリエチレングリコール、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、煙霧状二酸化ケイ素、炭酸マグネシウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸、パルミチン酸、セタノール、ステアロール、およびタルクが含まれる。
潤滑剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、およびシリコーン処理タルクが含まれる。
【0085】
医薬組成物はまた、水性媒体、例えば任意の水系媒体、例えば水、食塩水、糖溶液、輸液、または緩衝液を含み得る。水性媒体は、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどの1種以上の水溶性有機溶媒を含み得るが、特定の実施態様において、医薬組成物は無溶媒である。水性媒体は無菌であるのが好ましくそして活性剤の担体として使用するのに適しており、そして有機溶媒がどうしても存在するのならば低濃度の水溶性有機溶媒を有するのが好ましい。水性媒体の例としては、注射用水、食塩水、リンゲル液、D5W、または他の水混和性物質の溶液、例えばデキストロースおよび他の電解質を含むが、これらに限定されない。
【0086】
医薬組成物は、無機酸および塩基、ならびに有機酸および塩基を含む、薬学的に許容し得る無毒の酸または塩基から調製される塩などの薬学的に許容し得る塩を含有し得る。本明細書で提供される組成物に適した薬学的に許容し得る塩基付加塩には、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、および亜鉛から作られる金属塩、またはリジン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)およびプロカインから作られる有機塩が含まれる。適切な無毒の酸としては、酢酸、アルギン酸、アントラニル酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、フロン酸、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルクロン酸、グルタミン酸、グリコール酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、スルファニル酸、硫酸、酒石酸、およびp-トルエンスルホン酸などの無機、有機酸が含まれる。非毒性酸には、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、およびメタンスルホン酸が含まれる。したがって、特定の塩の例には、塩酸塩およびメシル酸塩が含まれる。
【0087】
本発明は、治療薬の経口製剤を製造するためのいくつかの方法を提供する。1つの方法は、治療薬とpH感受性ポリマーとを会合させて該治療薬およびポリマーを含有するナノ粒子を形成することを含む無溶媒法である。可溶性治療薬およびpH感受性ポリマーを含有する水溶液が提供される。溶液は最初に約5.0~5.5のpHを有し、その後溶液のpHは約4.0未満に下げられ、それによって治療薬とポリマーとが会合する。そのようにして形成されたポリマー-治療薬複合体は酸性pHで安定なままである。複合体が哺乳動物対象に経口投与される場合、治療薬は胃環境中で実質的に分解されず、そしてより高いpHの腸環境中で生物学的に利用可能な形態で放出される。
【0088】
この方法の一実施態様において、治療薬およびポリマーを最初に酸性水溶液(すなわち、約5.5未満のpH)に添加し、次に界面活性剤、脂質、および酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリスなどの緩衝剤、または水酸化ナトリウムなどの塩基を含有する溶液を添加することによってpHを約5.5より大に上昇させる。ポリマーは酸性pHで不溶性であり、治療薬と会合した微粒子またはナノ粒子(pHに応じて)を形成する。微粒子は、5.5を超えるpHで水溶液中で小さなナノ粒子になり、いくつかの実施態様において、ナノ粒子は解離し、可溶性治療薬を分子形態またはポリマーの粒子と会合していない形態で放出する。一実施態様において、pHは、約3mMのタウロコール酸ナトリウム、約0.75mMのホスファチジルコリン、約106mMの塩化ナトリウム、およびNaOHで約pH6.5に調整された約28mMのリン酸ナトリウムを含有する溶液を添加することによって5.5を超えるまで上昇させる。
【0089】
いくつかの実施態様において、HClの添加によってpHを約4.0未満に下げる。この方法は、緊密に会合された治療薬を有する非常に小さいナノ粒子の生成および経口投与時の高い生物学的利用能を可能にする。実施態様において、治療薬はインシュリンであり、形成されたナノ粒子は50nm未満、好ましくは30nm未満、例えば平均サイズ約18nmなどの小さいサイズを有し、ナノ粒子の形成はインシュリンと約100%の会合を達成する。場合により、配合物は次に凍結乾燥され、貯蔵され、そして後に経口投与のために水性媒体中で再構成されてもよい。凍結乾燥ナノ粒子は、経口投与用の懸濁液剤、カプセル剤、または錠剤剤形として処方することができる。凍結乾燥ナノ粒子は、凍結乾燥前と比較して同じまたは類似のサイズのナノ粒子として再構成時に放出される。このようにして形成されたナノ粒子は解離せず、治療薬がインシュリンのような酸性pHで非常に可溶性であるものであっても、治療薬は酸性pHで放出されないであろう。
【0090】
本明細書で「改変無溶媒」法と呼ばれる別の実施態様において、治療薬およびポリマーを、治療薬を処方するのに適した第1の水性媒体に加え、およびアセテート、サクシネート、クエン酸エステル、ヒスチジン、ホスフェート、トリスなどの緩衝剤、または水酸化ナトリウムなどの塩基を含有する、約6.5のpHを有する第2の水性媒体を、第1の水性媒体に添加してpHを5.0より大に上昇させ、そして第3の水性媒体を形成する。次いで、第3の水性媒体を凍結乾燥する。ナノ粒子は、凍結乾燥プロセスの前に形成され、そして凍結乾燥材料の再構成後になお存在する。このようにして形成されたナノ粒子は溶解または解離せず、該治療薬が酸性pHで非常に可溶性であっても、胃内環境の酸性pHでは治療薬が粒子から放出されないであろう。凍結乾燥ナノ粒子は、経口投与用の懸濁液剤、カプセル剤、または錠剤剤形として処方することができる。
【0091】
上記の無溶媒方法の好ましい実施態様において、水性媒体中の治療薬の濃度は、約0.05%から約1.0%重量/体積、より好ましくは約0.1%から約0.3%重量/体積である。上記の無溶媒方法の好ましい実施態様において、水性媒体中のポリマーの濃度は、約0.5%から約10%重量/体積、より好ましくは約1.0%から約3.0%重量/体積である。
【0092】
本発明の別の態様は、経口投与可能な治療薬の製剤を調製するための溶媒ベースの方法である。この方法は、有機溶媒などの水混和性非水性溶媒に溶解したpH感受性ポリマーを含む約2~10体積の水性媒体に、治療薬を含む1体積の水性媒体を加えることを含み、それによって薬剤およびpH感受性ポリマーが、治療薬を含有するナノ粒子または微粒子を形成する。次に懸濁液を遠心分離し、沈殿したナノ粒子または微粒子が貯蔵または他の水性媒体への再懸濁のために回収される。
【0093】
溶媒ベースの方法の好ましい実施態様において、水溶液中の治療薬の濃度は約0.05%から約1.0%重量/体積、より好ましくは約0.1%から約0.3%重量/体積である。好ましい実施態様において、水溶液中のポリマーの濃度は、約0.5%から約10%重量/体積、より好ましくは約1.0%から約3.0%重量/体積である。
【0094】
溶媒ベースの方法において、水混和性溶媒は、1~6個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖、または環状アルコールなどの任意の極性有機溶媒であり得るか、または少なくとも1つのケトン、ジケトン、不飽和ケトンまたはシクロケトンを含み得る。好ましい態様において、溶媒はエタノールである。
【0095】
本発明の別の態様は、疾患または病状を処置する方法、あるいは疾患または病状の処置を補助する方法である。この方法は、本発明によるナノ粒子配合物を含む医薬組成物などの組成物をそれを必要とする対象に経口投与することを含む。配合物は、前記疾患の処置を補助する治療薬を含む。好ましくは、治療薬は、単独で経口投与した場合、または従来の経口医薬製剤を使用した場合に分解されるかまたは吸収され難いであろうものである。対象はヒトなどの哺乳動物であり得る。
【0096】
いくつかの実施態様において、治療薬はインシュリンであり、本発明のインシュリン含有組成物は、乳児、小児または青年における糖尿病、インシュリン欠乏に関連するメタボリック症候群、または糖尿病性ケトアシドーシスを処置するために経口投与される。糖尿病は1型または2型であり得、そして対象はインシュリン投与を必要とする任意の哺乳動物またはヒトであり得る。本発明の組成物の経口投与は、対象の従来のインシュリン治療(例えば、非経口投与されるインシュリン)の全部または一部を置き換えることができる。
【0097】
他の実施態様において、治療薬は抗腫瘍抗体(すなわち、任意の機序によって腫瘍細胞の死をもたらす抗体)であり、それは対象のがんを処置するために対象に投与される。抗腫瘍抗体としては、抗EGFR(例えば、セツキシマブ)、抗Her2(例えば、トラスツズマブ)、抗RSV(例えば、パリビズマブ)、抗インターロイキン(例えば、トシリズマブ)が含まれるが、これらに限定されない。がんは、乳癌、結腸直腸癌、または頭頸部癌などの、1つまたは複数の抗体による処置に感受性のある任意のがんであり得る。
【0098】
さらに他の実施態様において、治療薬は抗炎症性抗体であり、そして疾患は炎症性疾患である。抗炎症性抗体としては、腫瘍壊死因子(TNF)に対する抗体およびインターロイキン-6(IL-6)受容体アンタゴニストが含まれるが、これらに限定されない。炎症性疾患としては、クローン病、慢性関節リウマチ、多関節性若年性特発性関節炎、および全身性若年性特発性関節炎が含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
この方法によって形成されたナノ粒子または微粒子は、丸剤、錠剤、カプセル剤、飲料剤、液体懸濁剤または凍結乾燥粉末を含む任意の剤形で使用することができる。この組成物は、経口、吸入、口腔内、舌下、鼻腔内、坐薬または非経口を含む任意の投与経路で使用することができる。好ましくは、配合物は経腸投与用であり、さらにより好ましくは経口投与用である。
「製剤(配合物)」および「組成物」という用語は本明細書では互換的に使用される。
【実施例
【0100】
実施例1 材料と方法
絶食状態模擬胃液(FaSSGF):ヒトFaSSGFは、Biorelevant(英国ロンドン)から入手した。それは0.08mMのタウロコール酸ナトリウム、0.02mMのレシチン、34.2mMの塩化ナトリウム、および25.1mMの塩酸を含んでいた。溶液のpHは1.6であった。
絶食状態模擬腸液(FaSSIF):ヒトFaSSIFは、Biorelevant(英国ロンドン)から入手した。それは、3mMタウロコール酸ナトリウム、0.75mMレシチン、105.9mM塩化ナトリウム、28.4mM一塩基性リン酸ナトリウム、および8.7mM水酸化ナトリウムを含有していた。溶液のpHは6.5であった。
【0101】
無溶媒法:治療薬を溶解し、pH感受性ポリマーを治療薬が可溶である酸性水性媒体中に懸濁した。次いで、3mMのタウロコール酸ナトリウム、0.75mMのホスファチジルコリン、106mMの塩化ナトリウム、および28mMのリン酸ナトリウムを含有する溶液を添加することによってpHを5.5以上に上昇させるか、または酢酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリスなどの緩衝液を用いてpHを5.0より大に上昇させるか、またはpHをNaOHで6.5に調整した。pH6.5では、ポリマーのナノ粒子が存在した。その後、pHをHClで4.0未満に下げて、治療薬を粒子と緊密に会合させた。場合により、この懸濁液を次いで凍結乾燥した。
【0102】
改変された無溶媒法:高分子量治療薬およびpH感受性ポリマーを水性媒体中で混合し、続いてこれにpH6.5の溶液を添加し、会合した治療薬と共にナノ粒子を形成し、次いで懸濁液を凍結乾燥した。凍結乾燥したサンプルを次いで適切な水溶液または緩衝液で再構成した。
【0103】
溶媒ベース法:pH感受性ポリマーを100%エタノールに可溶化して、溶液中で約1%から約5%の最終濃度を達成した。次いで、水溶液中の1容量の治療薬を、ポリマーを含有する2~10容量の有機溶液に添加した。次いで溶液を遠心分離し、沈殿したナノ粒子を回収した。
改変された溶媒ベース法:pH感受性ポリマーを100%エタノールに可溶化して、溶液中で約1%から約5%の最終濃度を達成した。薬剤が可溶性である酸性pH(pH約4.0以下)の水溶液中の1容量の治療薬を採取し、pHを約5.0以上に上昇させて、治療薬を沈殿させた。次いで、そのように調製した治療薬を、ポリマーを含有する2~10容量の有機溶液に添加したところ、ポリマーは沈殿した治療薬と会合した。次いで溶液を遠心分離し、ポリマーおよび治療薬を含有するナノ粒子を回収した。
【0104】
インシュリン酵素結合免疫吸着測定法(ELISA):インシュリンの検出および定量化は、ヒトイソインシュリンインスタントELISAキット(Affymetrix /eBioscience Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)を使用して実施した。分析前にサンプルを100,000倍に希釈し、キットのプロトコルによって推奨されるように段階的にさらに希釈した。
【0105】
インシュリン高性能液体クロマトグラフィー(HPLC):インシュリンの検出および定量化は、Agilent Zorbax C8カラムを使用してHPLCにより行った。使用した溶媒はアセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸であり、溶出したインシュリンピークは280nmの吸光度としてモニターした。溶出プロファイルは以下の表1に示す通りであった。
【表1】
【0106】
凍結乾燥:凍結乾燥のために、アリコートの溶液を-50℃で2時間凍結し、そして次に1℃の傾斜速度で、75ミリトール(mTorr)の圧力で20℃に加熱した。凍結乾燥は、試料と接触しているピラニ真空計が75ミリトール以下に達するまで行った。
【0107】
インシュリンナノ粒子配合物:表2は、治療薬としてインシュリンおよびpH感受性ポリマーとしてEUDRAGIT L 100を含有するようにされた種々のナノ粒子配合物の組成物を示す。配合物は、さらに以下の実施例において説明される。
【0108】
【表2】
【0109】
実施例2:凍結乾燥後のインシュリンナノ粒子の溶解度
インシュリン配合物1の組成を表2に記載する。配合物を凍結乾燥し、次いで凍結乾燥粉末(1mgのインシュリンを含有する)10mgをpH6.5の緩衝液1mLで再構成し、ナノ粒子を形成した。次いで、100μLの1N HClを溶液に添加し、それによってポリマー(EUDRAGIT L 100)およびインシュリンを含有する粒子を沈殿させた。遠心分離後の上清のHPLC分析は、インシュリンがHClに非常に溶けやすいとしてもインシュリンを全く示さず、インシュリンが粒子と緊密に会合したことを実証した。それにもかかわらず、遠心分離後の沈殿物をpH7.2のPBSに可溶化すると、以前に沈殿したポリマーが懸濁し、RP-HPLC分析に基づいてPBS中の可溶化または懸濁形態のインシュリン(1mg)を完全に回収することができた。
【0110】
実施例3:インシュリンナノ粒子のサイズ分布および溶解度
配合物2の2つの5ml試料をpH2.5に調整したところ、それが微粒子の沈殿を引き起こした。次にサンプルを3000rpmで遠心分離して粒子を沈降させた。上清をHPLCで分析したところ、インシュリンは示されず、沈殿した粒子とインシュリンの緊密な会合が示された。各試料のペレットに、5mLのFaSSIFまたはFaSSGFのいずれかを添加して粒子をpH6.5(FaSSIF)または2.0未満のpH(FaSSGF)で再懸濁した。インシュリン放出プロファイルをモニターし、そしてデータを図4に示す。データは、インシュリンがFaSSIF(pH6.5)で放出されたがFaSSGF(酸性pH)ではほとんど放出されなかったことを示す。再懸濁粒子のサイズは、Zetasizer(Malvern Instruments、Malvern、英国)および製造業者によって提供されたソフトウェアを使用して分析した。再懸濁粒子は20.76nmのZ平均直径を有していた。
【0111】
実施例4:酸性および中性pHでのインシュリンナノ粒子のHPLC分析
配合物3は、ポリマーとしてEUDRAGIT S-100を用いて無溶媒法に従って調製した。溶液のpHが3.5に低下したとき、粒子は可溶性ではなかった。粒子をpH7.2のPBSに移したとき、沈殿した粒子は完全に懸濁または可溶性になり、PBS中のインシュリンを完全に回収した。
【0112】
実施例5:オレンジジュースの凍結乾燥配合物の再構成
配合物4は、無溶媒法に従って調製した。pHが3.5に低下したとき、たとえインシュリンが酸性pHに非常に可溶性であっても、粒子は可溶性ではなかった。粒子を遠心分離によって沈殿させ、次いで沈殿物をpH7.2のPBSに可溶化し、RP-HPLC分析に基づいてインシュリン含有量を完全に回収した。沈殿物はまた、通常の市販のオレンジジュース中に再構成され、そしてオレンジジュースの分析は、液体中に遊離インシュリンが存在しないことを示した。しかしながら、pHを6.0に調整した場合、インシュリン含有粒子は上清中に残った。この結果は、オレンジジュースまたは他のフルーツジュースまたは酸性飲料に再構成された配合物が、糖尿病患者用の小児用配合物として使用できることを示唆している。
【0113】
実施例6:粘膜付着性ポリマーを含有するインシュリンナノ粒子配合物
配合物5を無溶媒法に従って調製した。次に配合物を3mLフリントガラスバイアル中の1.2mLアリコートに分け、そして凍結乾燥した。HPLC分析は、インシュリンで捕捉されたポリマーがpH5.9で可溶性であるため、再構成された凍結乾燥粉末がインスリンを完全に放出することを示した。
【0114】
粘膜付着性ポリマーポロキサマーを含有する配合物6を、改変無溶媒法に従って調製した。pHを3.5に調整した。次に製剤を3mLフリントガラスバイアル中の1.2mLアリコートに分け、そして凍結乾燥した。HPLC分析は、インシュリンと共に捕捉されたポリマーがpH3.5では可溶性ではないので、再構成された凍結乾燥粉末はインスリンを放出しないことを示した。
【0115】
粘膜付着性ポリマーポロキサマーを含有する配合物7を、無溶媒方法に従って調製した。次に配合物を3mLフリントガラスバイアル中の1.2mLアリコートに分け、そして凍結乾燥した。HPLC分析は、インシュリンで捕捉されたポリマーがpH5.9で可溶性であるため、再構成された凍結乾燥粉末がインシュリンを完全に放出することを示した。
【0116】
粘膜付着性ポリマーアルギン酸塩、ヒプロメロース、およびポロキサマーを含有する配合物8を、改変無溶媒ナノ粒子形成方法に従って調製した。次に配合物を3mLフリントガラスバイアル中の1.2mLアリコートに分け、そして凍結乾燥した。最終pHは5.9であった。HPLC分析は、インシュリンで捕捉されたポリマーがpH5.9で可溶性であるため、再構成された凍結乾燥粉末がインシュリンを完全に放出することを示した。
【0117】
実施例7:脂肪酸透過性促進剤を含有するナノ粒子のサイズ
透過性促進剤としてカプリル酸を含有する配合物9は、インスリンおよびEUDRAGITを酸性水溶液に添加し、続いてNaOH、次いでpH6.5の緩衝液を添加することによって調製した。この溶液に、透過性促進剤のカプリル酸を添加し、配合物のpHを5.6に調整した。配合物の平均粒子サイズは23nmであった。配合物の1mLアリコートを20mLバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。HPLC分析は、インシュリンと共に捕捉されたポリマーがpH5.6で可溶性であるので、再構成された凍結乾燥粉末がインシュリンを完全に放出することを示した。
透過性促進剤としてオレイン酸を含有する配合物10は、インスリンおよびオイドラギット(Eudragit)を酸性水溶液に添加し、続いてNaOH、次いでpH6.5の緩衝液を添加することによって調製した。この溶液に、透過性促進剤のオレイン酸を添加し、そして配合物のpHは5.6に達した。配合物の粒子サイズは18.6nmであった。配合物の1mLアリコートを20mLバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。HPLC分析は、インシュリンで捕捉されたポリマーがpH5.9で可溶性であるため、再構成された凍結乾燥粉末がインスリンを完全に放出することを示した。
【0118】
実施例8:FaSSIFまたはFaSSGFで再構成された凍結乾燥ナノ粒子配合物からのインシュリン放出
配合物11は、DLSによって測定されたときに18.28nmの平均粒子サイズを有していた。1mlの試料を2つの20mlバイアルに分配しそして凍結乾燥した。1つのバイアルをFaSSGFで再構成し、そしてpHを2.0未満に調整した。第二のバイアルをpH 6.5にてFaSSIFで再構成した。インスリン放出プロファイルは、インスリン特異的ELISAを用いて24時間モニターした。各時点で、サンプルを10,000rpmで5分間遠心分離し、上清をELISAによってそのインスリン含有量についてアッセイした。図5に示す放出プロファイルは、インスリンがpH6.5でのみ上清中に放出され、2.0未満の酸性pHでは放出されないことを示した。
【0119】
粘膜付着性ポリマーHPMCを含有する配合物12は、DLSにより測定したところ23.11nmの平均粒子サイズを有していた。1mlアリコートを2つの20mlバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。1つのバイアルをFaSSGFで再構成し、そしてpHを2.0未満に調整した。第二のバイアルをpH 6.5にてFaSSIFで再構成した。インスリン放出プロファイルを24時間モニターした。各時点で、試料を10,000rpmで5分間遠心分離し、上清をHPLCおよびELISAの両方を用いてそのインスリン含有量についてアッセイした。図6および7は、2つの異なる方法によって測定された放出プロファイルを示す。HPLCおよびELISAの両方は、インスリンがpH6.5でのみ上清に放出され、粘膜付着性ポリマーのナノ粒子中に包含されることで、2.0未満の酸性pHでは放出されないことを示した。
【0120】
粘膜付着性ポリマーアルギン酸塩を含有する配合物13は、DLSによって測定したところ18.79nmの平均粒子サイズを有していた(図8)。1mlアリコートを2つの20mlバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。1つのバイアルをFaSSGFで再構成し、そしてpHを2.0未満に調整した。第二のバイアルをpH 6.5にてFaSSIFで再構成した。インスリン放出プロファイルをELISAにより24時間モニターした。各時点で、試料を10,000rpmで5分間遠心分離し、上清をそのインスリン含有量についてアッセイした。放出プロファイルを図9に示す。インスリンはpH6.5でのみ上清に放出され、ナノ粒子にアルギン酸塩を含めることで、2.0未満の酸性pHでは放出されなかった。
【0121】
粘膜付着性ポリマーキトサンを含有する配合物14は、DLSにより測定したところ1577nmの平均粒子サイズを有していた。大きな粒径は、pH6.5でのキトサンの不溶性によるものであり得る。1mlアリコートを2つの20mlバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。1つのバイアルをFaSSGFで再構成し、そしてpHを2.0未満に調整した。第二のバイアルをpH6.5のFaSSIFで再構成した。インスリン放出プロファイルを24時間モニターした。各時点で、試料を10,000rpmで5分間遠心分離し、上清をELISAおよびHPLCの両方によってそのインスリン含有量についてアッセイした。図10および11は両方の方法の放出プロファイルを示す。インスリンはpH6.5でのみ上清中に放出され、ナノ粒子中にキトサンを含めることで、2.0未満の酸性pHでは放出されなかった。
【0122】
透過性促進剤としてカプリル酸を含有する配合物15は、DLSにより測定したところ23.67nmの平均粒子サイズを有していた。1mlアリコートを2つの20mlバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。1つのバイアルをFaSSGFで再構成し、そしてpHを2.0未満に調整した。第二のバイアルをpH6.5のFaSSIFで再構成した。インスリン放出プロファイルを24時間モニターした。各時点で、試料を10,000rpmで5分間遠心分離し、上清をELISAおよびHPLCによってそのインスリン含有量についてアッセイした。放出プロファイルを図12および図13に示す。インスリンはpH6.5でのみ上清中に放出され、カプリル酸がナノ粒子中に包含されていることで、2.0未満の酸性pHでは放出されなかった。
【0123】
透過性促進剤としてオレイン酸を含有する配合物16は、DLSによって測定したところ18.55nmの平均粒子サイズを有していた(図14)。1mlアリコートを2つの20mlバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。1つのバイアルをFaSSGFで再構成し、そしてpHを2.0未満に調整した。第二のバイアルをpH6.5のFaSSIFで再構成した。インスリン放出プロファイルを24時間モニターした。各時点で、試料を10,000rpmで5分間遠心分離し、上清をELISAおよびHPLCによってそのインスリン含有量についてアッセイした。図15および16は放出プロファイルを示す。インスリンはpH6.5でのみ上清に放出され、オレイン酸のナノ粒子に含まれていたことで、2.0未満の酸性pHでは放出されなかった。
【0124】
実施例9:経口インシュリン製剤を用いた糖尿病の処置
溶媒ベースの方法によって調製された配合物の有効性は、2型糖尿病を有し、夜間に100mgのメトホルミンおよび42単位のインスリンの一日量を服用しているヒト対象において試験された。この投薬プロトコルは陽性対照と見なされた。陰性対照のために、投薬は一日悉く止められた。
ナノ粒子配合物は以下のように調製した。212mgのインスリンを150mLのビーカーに量り取り、続いて5mLの0.01N HClを加えてインスリンを溶解させた。次に、エタノール中1.072gのEUDRAGIT L 100を加え、続いて105mLのpH6.5緩衝液を加えた。混合物のpHは5.71であった。 次にそれを5N NaOHを用いて5.95(配合物16を得る)またはHClを用いてpH3.3(配合物17を得る)のいずれかに調整した。各配合物16mLを50mLバイアル6本に分注し、ゴム栓で部分的に栓をして凍結乾燥した。凍結乾燥の完了は、試料と接触しているピラニ真空計によって測定された圧力が棚設定圧力に達したときであると考えられた(図17および18)。次に配合物を注射用水15mLで再構成して、最終濃度2mg/mLを得た。2mg/mLのインスリンを含有する15mLのこの配合物を、一晩に1配合物ずつ、対象によって経口摂取させた。すべての薬は食事の直後に服用させた。食事の2時間後に、OneTouch Ultra(登録商標)テストストリップ(LifeScan, Inc.)を備えたOneTouch Ultra(登録商標)グルコース計を使用して血糖値を測定した。最初の読みは、時間0であった。データは、血糖がメトホルミンおよびインスリンの投与後に着実に減少したが(陽性対照)、血糖値は投薬の非存在下で200mg/dlより高いことを示した(陰性対照)。実験データは、配合物17(pH5.9)または配合物18(pH3.5)のいずれかの経口投与が食後血糖を減少させることができることを示した。約2時間目から血糖値は正常血糖値(約100 mg/dl)まで着実に低下した(図19)。
【0125】
実施例10:経口インシュリン製剤での血糖の制御
単回経口投与量のEUDRAGIT L 100-インスリン(製剤16)に対するイヌにおける血糖反応と、市販のHUMULIN Rインスリン(Lilly、米国)の単回皮下注射の血糖反応とを比較するために実験を行った。
3匹の非ナイーブ雌ビーグル犬に、2日目に経口胃管栄養法によりUSP注射用無菌水中2mg/kg用量の配合物16を投与し、4日目に皮下注射により0.5U/kg用量のHUMULIN Rインスリンを投与した。血糖値を、給餌直前、食物除去直後、食物除去後1、2、3、4、および6時間に測定した。2日目および4日目に、摂食直前、食物除去直後であるが投薬前、ならびに投薬の1、2、3、4、6および24時間後(給餌前)に血糖値を測定した。5日目の試験データ収集の完了後に動物をストックに戻した。試験デザインを表3に示す。犬に死亡率および試験品関連の臨床観察または有害作用は認められなかった。結果を図20に示す。
【0126】
経口インスリン製剤の経口投与後の3匹のイヌの血糖は、給餌後6時間で対照グルコースレベルの80~98%の範囲であった。対照的に、HUMULINの皮下投与は、対照グルコースレベルの80~134%をもたらし、したがって、HUMULINの皮下投与と比較して、ナノ粒子インスリン製剤の経口投与後の低血糖の長期維持を示唆する。配合物16の経口投与は、投与後2時間以内に3匹の犬のうち2匹について正常化血糖値をもたらした。HUMULINの投与は、投与後1時間以内に血糖値の低下をもたらしたが、1日目(非投与)の値と比較した場合、投与後3~6時間の血糖値の上昇(対照値の120%~174%)をもたらした。これらの観察は、ナノ粒子-インスリン配合物の経口投与が分泌後の体内の内因性インスリンの効果をよりよく模倣し、より良いグルコース恒常性を提供することを示唆している。全体として、血糖値は、HUMULINの皮下投与後よりも配合物16の経口投与後の方が低く、より安定していた(変動が少なかった)。
【0127】
【表3】
【0128】
実施例11:無溶媒法による抗-EGFR抗体経口製剤の調製
ERBITUX(セツキシマブ)は、頭頸部癌および結腸直腸癌の処置に適応される上皮成長因子受容体(EGFR)拮抗薬である。推奨される初期用量は、120分の静脈内注入として投与される400mg/mである(最大注入速度10 mg/分)。セツキシマブは、8.48mg/mLの塩化ナトリウム、1.88mg/mLのリン酸ナトリウム二塩基性七水和物、0.41mg/mLのリン酸ナトリウム一塩基性一水和物、および米国薬局方注射用水を含有する5mg/mLの溶液として商品化されている。この剤形中の400μLのセツキシマブを10mLバイアル中の20mgのEUDRAGIT L 100に添加し、続いて2mLのpH6.5緩衝液を添加した(表4)。
【0129】
この溶液を1.2mLのサンプルに等分し、それを10mLバイアルに入れて凍結乾燥した。1つのサンプルは1mLのFaSSGFで再構成し、2つ目のサンプルは1mLのFaSSIFで再構成した。120μLのサンプルを0、1、2、4、8および24時間で採取し、1.5mLの遠心分離管に入れ、10,000rpmで5分間遠心分離した。サイズ排除クロマトグラフィー-HPLC分析のために、各サンプルの上清40μLを注入した。Tosohaas G3000SWXLカラムを使用してSEC-HPLCを実施した。放出プロファイルは、セツキシマブがFaSSGF(酸性pH)中の上清中に放出されなかったが、FaSSIF(pH6.5)中の上清中に放出されたことを示した(図21)。24時間のFaSSGFサンプルの遠心分離後、ペレットを1mLのPBSでpH7.4にて再構成したところ、抗体が上清中に放出された。
【0130】
【表4】
【0131】
実施例12:無溶媒法による抗Her2抗体経口製剤の調製
ハーセプチン(トラスツズマブ)は、乳がんの補助処置として適応される。トラスツズマブは、静脈内投与用の無菌の白色~淡黄色の防腐剤を含まない凍結乾燥粉末である。トラスツズマブの各市販の多用途バイアルは、440mgのトラスツズマブ、400mgのα、α-トレハロース二水和物、9.9mgのL-ヒスチジンHCl、6.4mgのL-ヒスチジン、および1.8mgのポリソルベート20、米国薬局方を凍結乾燥形態で含有していた。注射用水20mLで再構成すると、pH約6.0の21mg/mLトラスツズマブを含有する溶液が得られた。この試験のために、200μLの市販のトラスツズマブを10mLバイアル中の70mgのEUDRAGIT L 100に加えた。この溶液に、7.5mLのpH6.5緩衝液を添加した。次に、1.45mLアリコートの溶液を10mLバイアルに入れて凍結乾燥した。1つのサンプルはpH2.1の1mLのFaSSGFで再構成し、2つ目のサンプルはpH6.5のFaSSIFで再構成した。120μLのサンプルを0、1、2、4、8、および24時間で採取し、1.5mLの遠心分離管に入れ、10,000rpmで5分間遠心分離した。回収したトラスツズマブの活性を機能的ELISAアッセイで評価した。この目的のために、FaSSGF(pH1.5~2)またはFaSSIF(pH6.5)で再構成した後、トラスツズマブ配合物緩衝液の緩衝能力のために最終pHをそれぞれpH1.5および6.5に調整した。次にサンプルをELISAアッセイ緩衝液で20,000倍に希釈した。トラスツズマブの検出および定量化は、その後、ヒトIgG全Ready-Set-Go!(登録商標)キット(Affymetrix/eBioscience Inc.、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用して実施した。24時間後でさえも酸性pHで上清中へのトラスツズマブの放出は観察されなかった。しかしながら、pH6.5では、ほとんどの抗体が1時間以内に上清に放出された(図22)。
【0132】
【表5】
【0133】
実施例13.無溶媒法による抗RSV抗体経口製剤の調製
SYNAGIS(パリビズマブ)は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のFタンパク質のA抗原部位中のエピトープに向けられた、組換えDNA技術によって産生されたヒト化モノクローナル抗体(IgG1k)である。各100mg単回用量のパリビズマブ液体溶液は、pH約6.0で1mLの容量中に、100mgのパリビズマブ、3.9mgのヒスチジン、0.1mgのグリシン、および0.5mgの塩化物を含有する。剤形は筋肉内注射である。98μLのパリビズマブを10mLバイアル中の98mgのEUDRAGIT L 100に加えた。この溶液に、9.8mLのpH6.5緩衝液を添加した。次いで、2つの1.1mL試料を10mLバイアルに入れ、そして凍結乾燥した。1つのサンプルは1mLのFaSSGF(pH2.1)で再構成し、2つ目のサンプルは1mLのFaSSIF(pH6.5)で再構成した。120μLのサンプルを0、1、2、4、8、および24時間で採取し、1.5mLの遠心分離管に入れ、10,000rpmで5分間遠心分離した。Tosohaas G3000SWXLカラムを使用して行われたSEC-HPLC分析のために、各試料の上清40μLを注入した。24時間後でさえも、トラスツズマブの放出は酸性pHで観察されなかった。しかしながら、この抗体の完全な放出は、pH6.5のFaSSIFにおいて観察された。24時間のFaSSGFサンプルの遠心分離後、ペレットをpH7.4にて1mLのPBSで再構成した。パリビズマブは、酸性媒体中に24時間保持した後でも、溶液が中性pHに達したときにのみ放出された(図23)。SECデータに加えて、抗体活性を機能的ELISAアッセイで評価した。この目的のために、FaSSGFまたはFaSSIFで再構成した後、最終pHをそれぞれpH1.5および6.5に調整した。次にサンプルをELISAアッセイ緩衝液で20,000倍に希釈した。次に、ヒトIgG全Ready-Set-Go!(登録商標)キット(Affymetrix/eBioscience Inc.、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて、パリビズマブの検出および定量化を行った。24時間後でさえも、酸性pHで上清中へのパリビズマブの放出は観察されなかった。しかしながら、pH6.5では、ほとんどの抗体が1時間以内に上清中に放出された(図24)。
【0134】
【表6】
【0135】
実施例14:無溶媒法による抗TNF抗体経口製剤の調製
HUMIRA(アダリムマブ)は、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、およびプラーク乾癬の処置に適応される腫瘍壊死因子(TNF)遮断薬である。アダリムマブは皮下投与のためのアダリムマブの無菌の、保存料を含まない溶液として供給されている。薬物製品は、使い捨てのプレフィルドペンとして、または使い捨ての1mLプレフィルドガラスシリンジとして供給される。ペンの中には、使い捨ての1mLのプレフィルドガラスシリンジが入っている。アダリムマブの溶液は無色透明で、pHは約5.2である。各注射器は0.8mL(40mg)の医薬品を送達する。この剤形の各0.8mLは、40mgのアダリムマブ、4.93mgの塩化ナトリウム、0.69mgの一塩基性リン酸ナトリウム二水和物、1.22mgの二塩基性リン酸ナトリウム二水和物、1.04mgのクエン酸一水和物、9.6mgのマンニトール、0.8mgのポリソルベート80、ならびに注射用水・米国薬局方を含有する。pHを調整するために必要に応じて水酸化ナトリウムを添加する。この剤形は筋肉内注射用である。配合物をそれぞれの配合物緩衝液で1mg/mLに希釈した。2mLのアダリムマブを10mLバイアル中の20mgのEUDRAGIT L 100に添加した。この溶液の1.0mL試料を10mLバイアルに入れて凍結乾燥した。
【0136】
1つのサンプルは1mLのFaSSGF(pH2.1)で再構成し、第2のサンプルは1mLのFaSSIF(pH6.5)で再構成した。120μLのサンプルを0、1、2、4、8、および24時間で採取し、1.5mLの遠心分離管に入れ、10,000rpmで5分間遠心分離した。機能的ELISAアッセイを用いて、上清をTNFに対するその活性について分析した。この目的のために、各サンプルをFaSSGFまたはFaSSIFのいずれかで10,000倍希釈し、さらにキットのAdalimumab(HUMIRA)ELISAアッセイキット(Eagle Biosciences, Inc., 米国ニューハンプシャー州ナシュア)からの希釈サンプル緩衝液で6倍希釈した。24時間後でさえ、酸性媒体中の上清中へのアダリムマブの放出はなかった。しかしながら、pH6.5では、ほとんどの抗体が1時間以内に上清中に放出された(図25)。
【0137】
【表7】
【0138】
実施例15:無溶媒法による抗IL-6抗体経口製剤の調製
ACTEMRA(トシリズマブ)は、関節リウマチ、多関節型若年性特発性関節炎、および全身性若年性特発性関節炎の処置に適応されるインターロイキン-6(IL-6)受容体拮抗薬である。これは、0.9mL中162mgの抗体を提供する使い捨てプレフィルドガラスシリンジとして商品化されている。不活性成分は、L-アルギニン、L-アルギニン塩酸塩、L-メチオニン、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩一水和物である。この剤形は皮下注射用である。この試験のために、製剤をそれぞれの製剤緩衝液で2mg/mLに希釈した。1mLのトシリズマブを10mLバイアル中の20mgのEUDRAGIT L 100に加え、次いで1mLのpH6.5緩衝液を加えた。次いでpHを6.8に調整した。溶液の1.0mL試料を10mLバイアルに入れ、そして凍結乾燥した。
【0139】
1つのサンプルは1mLのFaSSGF(pH2.1)で再構成し、もう1つのサンプルは1mLのFaSSIF(pH6.5)で再構成した。120μLのサンプルを0、1、2、4、8、および24時間で採取し、1.5mLの遠心分離管に入れ、10,000rpmで5分間遠心分離した。回収したトシリズマブの活性を機能的ELISAアッセイで評価した。この目的のために、FaSSGF(pH1.5~2.0)またはFaSSIF(pH6.5)で再構成した後、最終pHをそれぞれpH1.5および6.5に調整した。次にサンプルをELISAアッセイ緩衝液で20,000倍に希釈した。次いで、トシリズマブの検出および定量化を、ヒトIgGトータルReady-Set-Go!(登録商標)キット(Affymetrix/eBioscience Inc.、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を使用して行った。24時間後でさえも、酸性pHで上清中へのトシリズマブの放出は観察されなかった。しかしながら、pH6.5では、ほとんどの抗体が1時間以内に上清中に放出された(図26)。
【0140】
【表8】
【0141】
実施例16:無溶媒法によるアスコルビン酸経口製剤の調製
10mLのアスコルビン酸溶液を以下の組成で調製した:
75gアスコルビン酸
100mgEudragit
1.75g大豆レシチン
2.7mMタウロコール酸ナトリウム
0.7mM大豆レシチン
28.36mM一塩基性リン酸ナトリウム
105.85mM塩化ナトリウム
1N-NaOHをpH6.5にする量
【0142】
100Kdaのカットオフ透析膜を使用して1mlの上記配合物を100mlのFASSIFに対してpHで透析し、腸の状態で放出プロファイルを試験した。1mlの第2のアリコートをpH2.0に調整し、pH1.5にて100mLのFASSGFに対して透析し、胃状態での放出プロファイルを試験した。試料のアリコートを異なる時点で採取し、アスコルビン酸含有量を、それぞれのFASSIFまたはFASSGF溶液で100倍希釈した後、Molecular Device UV-VIS分光光度計を使用して260nmで測定した。pH6.5でFASSIFに溶解したアスコルビン酸を標準として使用した。ブランクとしてFASSIFまたはFASSGFが使用された。
【0143】
データ(図27参照)は、アスコルビン酸はpH6.5でのみ放出され、強酸性pHでは有意には放出されないことを示した。DLSによる最終配合物の平均粒子サイズは34.9nmであった(図28)。結果は、配合物がビタミンCの経口送達に有用であり、175mg/mLの高負荷を提供することを示唆している。配合物は容易に凍結乾燥可能であり、そして懸濁液、錠剤、もしくはカプセルのための粉末として送達され得るか、または小児用配合物のための安定な水性懸濁液として送達され得る。
【0144】
実施例17:溶媒ベース法によるウシ血清アルブミン含有ナノ粒子の調製
1mLの10mg/mLウシ血清アルブミンをエタノール中の10mLの1%EUDRAGIT L 100に希釈した。試料を-20℃に30分間保ち、次いで3200rpmで遠心分離した。ペレットを一晩乾燥し、1mg/mLのFaSSGF(pH1.5~2.0)またはFaSSIF(pH6.5)のいずれか中で再構成した。図29に示す放出プロファイルは、アルブミンが中性pH(FaSSIF)では急速に上清中に放出され、酸性pH(FaSSGF)ではゆっくりとのみ放出されたことを示している。
【0145】
実施例18:溶媒ベース法によるインシュリンナノ粒子の調製
インスリンは酸性pHでは可溶性であるが中性pHでは可溶性ではないことが知られている。最初にインスリンを0.01NのHClに溶解することによって10mg /mLのインスリン溶液を調製した。0.1mLのインスリン溶液を1mLのエタノール中の2%EUDRAGIT L 100に添加した場合、目に見える沈殿は見られず、酸性pHでインスリンが90%の有機溶媒でも可溶性であることを示している。配合物を0.1N NaOHで中和すると、インスリンとEUDRAGITが共沈した。沈殿物は、約1110nmのZ平均粒子サイズを有するナノ粒子を含んでいた。試料を-20℃に30分間保ち、次いで3200rpmで遠心分離した。ペレットを真空遠心機を用いて2時間乾燥し、そしてFaSSGFおよびFaSSIF中で放出プロファイルについて試験した。図30に示すデータは、インスリンが好ましくは中性のpHで上清中に放出されたことを示している。
【0146】
実施例19:インシュリン-アルギン酸含有ナノ粒子の溶媒ベース法による調製
水中の2%アルギン酸100μLをエタノール中の1%EUDRAGIT L 100 1mLに加え、ボルテックスした。インスリンを0.01NのHClに溶解することによって10mg/mLのインスリンを調製した。続いて、0.01N HCl中の10mg/mLインスリン0.1mLをエタノール溶液に添加した。目に見える沈殿は起こらなかった。しかしながら、配合物を0.1NのNaOHで中和すると、インスリンとEUDRAGITが共沈した。試料を-20℃に30分間保ち、次いで3200rpmで遠心分離した。ペレットを真空遠心機を用いて2時間乾燥し、FaSSGFおよびFaSSIF中のインスリン放出について試験した。データを図31に示し、インスリンが中性pHで上清中に優先的に放出されたことを示している。
【0147】
実施例20:Eudragitナノ粒子とのインシュリンの会合
インシュリン含有ナノ粒子が以下のように、無溶媒法によって形成された。以下の組成を有する配合物が調製された。
1mLの20mg/mlインシュリン備蓄品
100mgのEudragit L-100
100μLの0.2N NaOHをpH6.5まで
2.7mMのタウロコール酸ナトリウム
0.7mMの大豆レシチン
28.36mMの一塩基性リン酸ナトリウム
105.85mMの塩化ナトリウム
【0148】
配合物は、DLS分析に基づいて18nmの粒子サイズを有していた。1mlアリコートを20mlバイアルに分配し、そして凍結乾燥した。一方のバイアルをFASSGFで再構成し、pHをpH1.6に調整した。得られた懸濁液は濁っていた。第二のバイアルをFASSIFで再構成し、再構成した溶液のpHはpH5.5であった。得られた懸濁液は白色の乳白色であった。第三のバイアルをFASSIFで再構成し、pHを6.5に調整した。得られた懸濁液は透き通った透明であった。サンプルを、50,000Daのカットオフ分子量を有する透析チューブに移した。サンプルを2mLのFASSGF pH1.6、FASSIF pH5.5、またはpH6.5のFASSIFに対して透析し、透析チューブからのインスリン放出をRP-HPLCによって0、0.15、0.30、1.0、2.0、4.0、および24時間でモニターした。HPLCデータは、インシュリンが24時間の間どのpHでもナノ粒子と緊密に会合したままであることを示していた。24時間後、FASSIF pH6.5サンプルを透析バッグの内側から取り出し、RP-HPLC法によってインスリン含有量について試験した。データは、透析バッグ内のサンプルについて2mg/mLのインスリンの完全回収が見られたことを示した。
【0149】
本明細書で使用されるとき、「から本質的になる」は、請求項の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを除外しない。特に組成物の成分の説明または装置の要素の説明における「含む」という用語の本明細書における任意の記述は、「から本質的になる」または「からなる」と交換することができる。
本発明を特定の好ましい実施態様に関連して記載したが、当業者であれば、前述の明細書を読んだ後に、本明細書に記載の組成物および方法に対してさまざまな変更、均等物の置換、および他の修正を生じさせることができる。
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