IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッドの特許一覧

特許7046139高効率なインビボゲノム編集のための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】高効率なインビボゲノム編集のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220325BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20220325BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220325BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20220325BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20220325BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20220325BHJP
   C12N 9/22 20060101ALN20220325BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/13 ZNA
G01N33/48 M
G01N33/483 C
C12N15/11 Z
C12N15/55
C12N9/22
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020162773
(22)【出願日】2020-09-29
(62)【分割の表示】P 2017534947の分割
【原出願日】2015-12-31
(65)【公開番号】P2021036866
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】62/099,014
(32)【優先日】2014-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509262736
【氏名又は名称】シンセティック ジェノミクス インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ベールト ジョン
(72)【発明者】
【氏名】メラーリング エリック
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/204724(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0068797(US,A1)
【文献】"Optimization of Genome Engineering Approaches with the CRISPR/Cas9 System.",PLOS ONE,2014年08月28日,e105779,https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0105779
【文献】「thermofisher」のウェブサイト上の「GeneArt(R) CRISPR Nuclease Vector Kit」のカタログ,ライフテクノロジーズジャパン株式会社,2013年,https://www.thermofisher.com/content/dam/LifeTech/Documents/PDFs/jp/materials/geneart-crispr-nuclease-vector-kit.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12N 9/00- 9/99
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする少なくとも1つの非天然の核酸分子と、
b.前記少なくとも1つの非天然の核酸分子を含む形質転換体を得るための蛍光検出可能マーカーをコードする少なくとも1つの核酸配列と
c.前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする非天然の核酸分子配列に連結された核局在化シグナルをコードする核酸配列と
を含む、完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株であって、
前記完全浸透性の藻類株が、フローサイトメトリーのヒストグラムにおいて単一の蛍光強度ピークを示し、かつ該単一の蛍光強度ピークが、非形質転換細胞の自己蛍光ピークよりも大きく;かつ
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Casヌクレアーゼであり、任意でCas9ヌクレアーゼである
、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項2】
少なくとも1つのガイドRNAまたは少なくとも1つのガイドRNAを発現するための少なくとも1つのコンストラクトをさらに含む、請求項1に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項3】
前記ガイドRNAが細胞のゲノム内の部位を標的とする、請求項2に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項4】
gRNAと、選択可能マーカーを含むドナーフラグメントとを用いたときに、少なくとも80%の標的変異率を有する、請求項2~3のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項5】
前記藻類株の属が、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、デスモデスムス(Desmodesmus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Elipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ハンチア(Hantzschia)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノダス(Monodus)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パリエトクロリス(Parietochloris)属、パスケリア(Pascheria)属、パブロバ(Pavlova)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(Pseudochlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、シゾクラミデラ(Schizochlamydella)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラクロレラ(Tetrachlorella)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属、及びボルボックス(Volvox)属からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項6】
外因性の選択可能マーカー遺伝子を含まない、請求項4に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項7】
部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項8】
前記部位特異的リコンビナーゼが、cre、frt、またはdreである、請求項7に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項9】
部位特異的リコンビナーゼをコードする前記外因性遺伝子が、誘導性プロモーターに機能的に連結されている、請求項7~8のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項10】
前記形質転換した藻類株が、前記ゲノム内の前記標的部位の改変についてスクリーニングされる、請求項1~9のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項11】
前記少なくとも1つのガイドRNAが、キメラガイドRNAであるか、またはcrRNAである、請求項2~10のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項12】
tracrRNAをコードするコンストラクトをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項13】
前記スクリーニングが、表現型スクリーニングを用いることを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項14】
標的部位への挿入のための外因性ドナーDNAをさらに含み、任意で、前記ドナーDNA分子が、前記標的部位への組み換えのための1つ以上の相同領域を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項15】
前記ドナーDNA分子が、選択可能マーカーを含み、任意で、前記ゲノム内の前記標的部位の改変についてスクリーニングすることが、前記ドナーDNA分子の前記選択可能マーカーを発現する形質転換体を同定することを含む、請求項14に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項16】
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、タイプIIまたはタイプV Casエンドヌクレアーゼである、請求項1~15のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項17】
前記CasエンドヌクレアーゼがCas9またはCpf1である、請求項16に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項18】
前記藻類株が検出可能マーカーを含み、RNA誘導型エンドヌクレアーゼの完全浸透度での発現を同定するために、フローサイトメトリーを用いて、培養物において、前記検出可能マーカーを完全浸透度で発現する少なくとも1つの形質転換藻類株を同定する、請求項1~17のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項19】
前記非天然の核酸分子が、選択可能マーカー遺伝子をさらに含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項20】
前記異種RNA誘導型エンドヌクレアーゼがCas9であり、前記蛍光検出可能マーカーが、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、オレンジ色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、およびシアン蛍光タンパク質からなる群より選択される、請求項1に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項21】
前記蛍光検出可能マーカーが緑色蛍光タンパク質である、請求項20に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項22】
少なくとも50%のゲノム編集効率を有する、請求項1に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項23】
少なくとも80%のゲノム編集効率を有する、請求項1に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【請求項24】
蛍光検出可能マーカーを持たない対照細胞と比較して蛍光検出可能マーカー由来の1つの蛍光ヒストグラムピークを示す、請求項1に記載の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現藻類株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、U.S.C.119(e)の下、2014年12月31日に提出された米国仮特許出願第62/099,014号に対する優先権の利益を主張するものであり、この仮出願の内容の全体は、参照により、本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本願には、2015年12月30日に作成した配列表テキストファイル「SGI1850_1WO_Sequence_Listing_ST25.txt」(ファイルサイズ237キロバイト(kb))として、本明細書と同時に提出した核酸配列とアミノ酸配列への言及が含まれ、このテキストファイルは、37C.F.R.1.52(e)(iii)(5)に従って、その全体が、参照により援用される。
【0003】
本発明は、真核生物の遺伝子操作、具体的には、cas/CRISPRシステムを用いるゲノム編集に関する。
【背景技術】
【0004】
CRISPRシステムのゲノム編集能は、最近開発されたに過ぎないが、遺伝子操作できる細胞及び生物の範囲を飛躍的に拡大させている(Sander & Joung (2014) Nature Biotechnology(非特許文献1))。US 2014/0068797(特許文献1:参照により、本明細書に援用される)は、Cas9/CRISPRシステムとゲノム編集での使用方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US 2014/0068797
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sander & Joung (2014) Nature Biotechnology
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明は、Cas/CRISPRシステムのようなRNA誘導型エンドヌクレアーゼを用いて、高効率ゲノム編集に使用できる細胞株と微生物株の作製方法を提供する。この細胞株と微生物株は、RNA誘導型ヌクレアーゼをコードする遺伝子を含み、このRNA誘導型ヌクレアーゼは、例えば、Casヌクレアーゼ(例えばCas9ヌクレアーゼ)であることができ、このRNA誘導型ヌクレアーゼは、この細胞株または微生物株の集団において、完全浸透度での発現を示す。RNA誘導型ヌクレアーゼの完全浸透度での発現は、検出可能マーカー、例えば蛍光タンパク質をコードする連結遺伝子の発現を評価することによって判断する。
【0008】
本明細書に示されている、完全浸透性のcas発現細胞株または微生物株の単離方法は、また、検出可能マーカー(好ましくは蛍光マーカー)をコードする遺伝子を含む核酸分子に、RNA誘導型ヌクレアーゼ遺伝子を導入することを含む。Casタンパク質のようなRNA誘導型ヌクレアーゼをコードする遺伝子と検出可能マーカーの遺伝子を含む核酸分子を含む形質転換細胞株をフローサイトメトリーによってスクリーニングして、その培養物の細胞の基本的に全てが、検出可能マーカー(例えば、蛍光タンパク質であることができる)を発現する株または細胞株を選択する。培養物全体にわたって、検出可能マーカーが発現したものとして選択した株または細胞株を、完全浸透性の株または細胞株として同定する。
【0009】
すなわち、本発明は、Cas遺伝子(例えばCas9遺伝子)のような異種のRNA誘導型ヌクレアーゼに関して完全浸透性の細胞株と微生物株を提供する。本発明で提供する完全浸透性のCas株及びCas細胞株は、高効率ゲノム編集を実現する。例えば、目的の遺伝子座を標的とするガイドRNAで、完全浸透性の株または細胞株の細胞を形質転換すると、そのガイドRNA(例えば、キメラガイドRNA、またはトランス活性化型RNA(tracrRNA)と連動して部位特異的なDNA編集を促すcrRNA)で形質転換した細胞の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%または少なくとも約50%の遺伝子が、その標的遺伝子座において遺伝子的に改変される。例えば、様々な例では、ガイドRNAとドナーフラグメントで形質転換すると、このガイドRNAで形質転換した細胞の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%または少なくとも約40%に、ドナーDNAが標的遺伝子座で組み込まれる。いくつかの例では、ガイドRNAとドナーフラグメントで形質転換した完全浸透性のCas細胞株の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または95%超に、ドナーDNAが標的遺伝子座で組み込まれる。
【0010】
一態様では、本発明においては、外因性のRNA誘導型ヌクレアーゼを発現する高効率ゲノム編集用細胞株の生成方法を提供し、この方法は、RNA誘導型ヌクレアーゼをコードする核酸配列と、検出可能マーカーをコードする核酸配列とを含む非天然の核酸分子を宿主細胞の集団に導入して、その非天然の核酸分子を少なくとも1つ含む1つ以上のRNA誘導型ヌクレアーゼ形質転換細胞株を得る工程;そのRNA誘導型ヌクレアーゼ形質転換細胞株の少なくとも1つを個別に培養する工程;フローサイトメトリーを用いて、そのRNA誘導型ヌクレアーゼ形質転換細胞株の培養物における、検出可能マーカーの発現を評価する工程;ならびに、高効率ゲノム編集用細胞株を同定するために、培養物において、検出可能マーカーの完全浸透度での発現を示したRNA誘導型ヌクレアーゼ形質転換細胞株を同定する工程;を含む。検出可能マーカーは、蛍光タンパク質であることができる。「完全浸透度での発現」とは、フローサイトメトリーによって解析したときに、RNA誘導型ヌクレアーゼ形質転換細胞株が、単一の蛍光強度ピークを示し、その形質転換細胞の蛍光強度ピークが、非形質転換細胞の示す蛍光ピークよりも強度が高いこと、すなわち、バックグラウンド強度よりも高いことを意味する。本発明の実施例に示されているように、非天然のRNA誘導型ヌクレアーゼタンパク質遺伝子に物理的に結合している検出可能マーカー遺伝子の浸透度が完全である細胞株は、ゲノム標的化ガイドRNAで形質転換すると、高効率ゲノム編集を示す。高効率ゲノム編集は、ドナーDNAで形質転換した細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%において、変異(標的部位の改変)をうまく起こすことができる。
【0011】
この方法は、原核細胞(細菌及び古細菌)、ならびに真核細胞(限定されないが、メソミセトゾア、真菌、不等毛類及び藻類を含め、植物細胞、動物細胞及び原生動物が挙げられるが)を含め、培養できるいずれかの細胞で行うことができる。
【0012】
このRNA誘導型ヌクレアーゼは、例えば、Cas9タンパク質のようなCasタンパク質(多数、同定されている)であることができるとともに、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)またはナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)のCas9タンパク質であることができる。対象となる他のCasタンパク質としては、限定されないが、Cpf1 RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(Zetsche et al.(2015)Cell 163:1-13)と、C2c1、C2c2、C2c3 RNA誘導型ヌクレアーゼ(Shmakov et al.(2015) Molecular Cell 60:1-13が挙げられる。Casタンパク質をコードする核酸配列は、目的の宿主細胞用にコドン最適化できる。いくつかのケースでは、宿主細胞に導入された核酸分子によってコードされるCas9タンパク質は、野生型Cas9タンパク質に対する変異を少なくとも1つ含むことができ、例えば、このCas9タンパク質は、そのタンパク質の切断ドメインの1つにおいて不活性化でき、それにより、「ニッカーゼ」バリアントが得られる。変異の非限定例としては、D10A、H840A、N854A及びN863Aが挙げられる。
【0013】
本発明の方法を用いて、casタンパク質以外のタンパク質の完全浸透度についてスクリーニングでき、その結果、目的の遺伝子の発現に関して完全浸透性の細胞株の生成方法が提供され、この方法は、目的の遺伝子と、検出可能マーカーをコードする核酸配列とを含む非天然の核酸分子を宿主細胞の集団に導入して、その非天然の核酸分子を少なくとも1つ含む形質転換細胞株を1つ以上得る工程;その形質転換細胞株の少なくとも1つを個別に培養する工程;フローサイトメトリーを用いて、その形質転換細胞株の培養物における検出可能マーカーの発現を評価する工程;ならびに、目的の遺伝子を完全浸透度で発現する細胞株を同定するために、培養物において、検出可能マーカーの完全浸透度での発現を示した形質転換細胞株を同定する工程;を含む。この検出可能マーカーは、蛍光タンパク質であることができる。「完全浸透度での発現」とは、フローサイトメトリーによって解析したときに、形質転換細胞株が、単一の蛍光強度ピークを示し、その形質転換細胞の蛍光強度ピークが、非形質転換細胞の示す蛍光ピークよりも強度が高い側にシフトすること、すなわち、バックグラウンド強度よりも高いことを意味する。
【0014】
Casポリペプチドをコードする遺伝子は、cas酵素をコードする配列に加えて、組み換えcasタンパク質の一部としての核局在化配列(NLS)を少なくとも1つコードする配列を含むことができる。NLSは、任意で、cas酵素のN末端部分またはC末端部分に位置することができ、あるいは、cas酵素は、そのタンパク質のN末端またはN末端の近くにNLSを少なくとも1つと、そのタンパク質のC末端またはC末端の近くにNLSを少なくとも1つ有することができる。この代わりにまたはこれに加えて、上記の核酸分子は、ヒスチジンタグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、FLAGタグまたはMycタグなど(しかしこれらに限らない)のエピトープタグを含むcasタンパク質をコードできる。
【0015】
casタンパク質をコードする配列を含む非天然の核酸分子は、選択可能マーカー遺伝子を更に含むことができる。この選択可能マーカーは、栄養要求性マーカーであることも、抗生物質または毒素に対する耐性を付与することもでき、この選択可能マーカー遺伝子は、意図する宿主細胞用にコドン最適化することができる。
【0016】
casタンパク質をコードする配列も含む核酸分子によってコードされる検出可能マーカーは好ましくは、蛍光タンパク質であり、その蛍光タンパク質は、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質、「フルーツバスケット」蛍光タンパク質または「ペイントボックス」(DNA2.0)蛍光タンパク質を含むいずれかの蛍光タンパク質であることができる。非限定例として、casタンパク質もコードする核酸分子によってコードされる蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、BFP、Cherry、Tomato、Venus、Cerulean蛍光タンパク質、またはこれらのいずれかのバリアント(蛍光タンパク質の単量体バリアントが挙げられるが、これに限らない)であることができる。
【0017】
Casタンパク質、例えばCas9タンパク質をコードする核酸分子は、検出可能マーカータンパク質、例えば蛍光タンパク質をコードして、そのcasタンパク質と検出可能マーカータンパク質が、同じプロモーターによって調節され、1つのRNAとして転写されるようにできる。例えば、このcas酵素と検出可能マーカーは、融合タンパク質として産生させることができる。あるいは、このCas酵素と検出可能マーカーは、一緒に翻訳できるが、別々のcasと検出可能マーカータンパク質が得られるように、その翻訳産物は、それらの2つのポリペプチド部分を切断させるFMDV 2A配列のような切断配列を含むことができる。更に、この代わりに、コンストラクト内に、IRESをそれらの2つのコード領域の間に設けて、それらのコード領域が1つの転写産物として転写されるが、別々のポリペプチドとして翻訳されるようにできる。更に別の構成では、casタンパク質と検出可能マーカーは、別々のプロモーターに機能的に連結させることができる。これらのプロモーターは、任意で、宿主細胞種に由来する(「相同である」)ことができるとともに、任意で、構成的プロモーターであることができる。
【0018】
本発明の更なる態様は、高効率のゲノム編集用細胞株である。この高効率ゲノム編集用組み換え細胞株は、REN誘導型エンドヌクレアーゼをコードする外因性遺伝子を含み、異種の(導入された)そのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ遺伝子に関して完全浸透性である。連結された蛍光タンパク質に関して完全浸透性の株での高効率なCas9ゲノム編集を示す、本明細書に記載の結果に基づき、その高効率なCas9ゲノム編集用細胞株は、コード遺伝子がRNA誘導型エンドヌクレアーゼ遺伝子をコードする遺伝子に物理的に連結している蛍光タンパク質の完全浸透性の(培養物全体にわたる)発現に関するスクリーニングによる細胞株の同定に基づき、「完全浸透性のCas9細胞株」であるといわれる。本発明を特定の機構に限定することなく、連結された蛍光マーカーを用いて、浸透度に関して選択した細胞株は、培養物の細胞全体にわたって、Cas9遺伝子の発現も示し、その結果、高効率の標的変異が観察されるものとみなす。本発明で提供する完全浸透性のCas9細胞株または微生物株は、ガイドRNA(gRNA)とドナーフラグメントを用いると、標的変異率が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%であることができ、この効率は、ドナーフラグメントを受け取ったとともに、標的変異も有する細胞の割合である。
【0019】
この高効率ゲノム編集用細胞株は、蛍光タンパク質をコードする外因性遺伝子を含むことができ、あるいは、蛍光タンパク質をコードする外因性遺伝子を含まなくてもよい。本明細書に開示されている方法を用いて、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子などの、連結された導入遺伝子の完全浸透度についてスクリーニングする目的で用いる検出可能マーカー遺伝子、例えば蛍光タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、creリコンビナーゼのような部位特異的リコンビナーゼを用いて、後で、高効率ゲノム編集用細胞株のゲノムから切除することができる。
【0020】
本発明には更に、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする外因性遺伝子と、creリコンビナーゼのような部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子とを含む高効率ゲノム編集用細胞株が含まれる。部位特異的リコンビナーゼをコードする遺伝子は、任意で、誘導性及び/または抑制性プロモーターに機能的に連結できる。RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする外因性遺伝子と、部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子とを含む高効率ゲノム編集用細胞株は、蛍光タンパク質をコードする外因性遺伝子を含んでも含まなくてもよい。例えば、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする外因性遺伝子と、部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子を含む高効率ゲノム編集用細胞株は、蛍光タンパク質をコードする外因性遺伝子であって、部位特異的リコンビナーゼの作用によって後で切除される外因性遺伝子も含んでよい。更に、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする外因性遺伝子と、部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子とを含む高効率ゲノム編集用細胞株は、「マーカーレス」であってよく、すなわち、選択可能マーカーが欠損していてよい。RNA誘導型エンドヌクレアーゼ及び/または部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子を含むコンストラクトで株を形質転換するのに用いる選択可能マーカーは、部位特異的リコンビナーゼの作用によって後で切除することができる。
【0021】
本発明では、インビボでの細胞ゲノムの改変方法も提供し、この方法は、完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株に、ガイドRNAを少なくとも1つ導入することであって、そのガイドRNAが、その細胞ゲノム内の部位を標的とすることと、そのガイドRNAで形質転換した細胞を、ゲノム内の標的部位の改変についてスクリーニングすることとを含む。標的ゲノム部位の改変は、例えば、PCRまたは表現型スクリーニングによって検出できる。RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、Cas9タンパク質のようなCasタンパク質であることができる。
【0022】
任意で、ガイドRNAとともに、ドナーフラグメントも宿主細胞に形質転換し、このドナーフラグメントは、任意で、ただし好ましくは、選択可能マーカー遺伝子を含む。ドナーフラグメントの選択可能マーカー遺伝子は、形質転換体の選択のために用いる。ドナーフラグメントは、任意で、相同組み換えによって標的部位への挿入を仲介する相同領域を含むことができる。
【0023】
完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または株は、いずれかのタイプの細胞、例えば、植物または動物、後生動物または原生動物の細胞であることができる。例えば、casタンパク質をコードするコンストラクトで、植物、哺乳動物、両生動物、魚類、鳥類、有袋動物、爬虫類、線虫類、甲殻類、クモ形類または昆虫に由来する細胞を形質転換でき、このコンストラクトは、好ましくは、ただし任意で、casコード配列に機能的に連結したプロモーターのような遺伝子調節配列を含む。微細藻類、不等毛類(ラビリンチュラ及び卵菌など)、メソミセトゾアならびに真菌など(しかしこれらに限らない)の原生動物種の細胞株及び株も考えられる。古細菌と細菌も、ゲノム編集のためにcas9を発現する宿主であることができる。
【0024】
本発明では、宿主細胞のゲノムの編集方法であって、宿主細胞のゲノム内の部位を標的とする少なくとも1つのガイドRNAと、少なくとも1つのドナーDNAとで、完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現宿主菌株を形質転換して、宿主細胞ゲノムの標的部位において少なくとも1つの変異を起こすことを含む方法も提供する。この方法は汎用的であり、標的遺伝子座へ組み込むためのホモロジーアームをドナーDNAが含むことができるようにしたり、または宿主ゲノムに相同である配列をドナーDNAが含まないようにしたりできる。例えば、ドナーDNAは、環状または直鎖状であることができ、選択可能マーカー遺伝子及び/もしくは調節因子、代謝酵素、トランスポーター、RNAiコンストラクト、アンチセンスRNAコンストラクトなどをコードする1つ以上の遺伝子を含むことができ、または、DNA結合タンパク質、転写因子などが結合する配列を含むことができる。
【0025】
ガイドRNAは、キメラガイドRNAであることができ、または、宿主細胞ゲノム内の遺伝子座のうち、ゲノム改変の標的である遺伝子座に対して相同性を有するcrRNAと、好ましくは、tracrRNAに相同である配列(「tracrメイト配列」)とを含むガイドRNAであることができる。tracrRNAは、別に供給することができる。更に、ガイドRNA、tracrRNA、及び/またはキメラガイドRNAは、宿主細胞に形質転換したコンストラクトによってコードできる。
【0026】
本発明における細胞株、微生物株及び方法のいずれにおいても、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、限定されないが、Cas9、Cpf1、C2c1、C2c2またはC2c3というRNA誘導型ヌクレアーゼ、それらのいずれかのホモログまたはそれらのいずれかの改変型などのCasヌクレアーゼであることができる。
【0027】
宿主細胞は、原核細胞、動物細胞、植物細胞または単細胞真核微生物(真菌細胞、不等毛類細胞もしくは藻類細胞など)であることができる。不等毛類細胞は、例えば、ラビリンチュラ(例えば、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属、アウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、ディプロフリス(Diplophrys)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属、ラビリンチュラ(Labryinthula)属、ラビリンチュロイデス(Labryinthuloides)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属もしくはウルケニア(Ulkenia)属のいずれかの一種)であることができ、または珪藻(例えば、Acnanthes、アンフォラ(Amphora)属、キートケロス(Chaetoceros)属、キクロテラ(Cyclotella)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilariopsis)属、ハンチア(Hantzschia)属、ナビクラ(Navicula)属、Nitzchia、Phaedactylumまたはタラシオシラ(Thalassiosira)属の一種)であることができる。不等毛類は、ユースティグマトファイト(例えば、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、モノダス(Monodus)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属またはヴィシェリア(Vischeria)属の種など)であることもできる。
【0028】
提供する方法は、「ゲノム編集」に関するものであるが、本明細書で開示されているような「ゲノム編集」には、宿主細胞内で標的になるいずれかのDNA分子、例えば、天然の染色体、合成的染色体、天然または合成のエピソーム分子、ウイルスコンストラクトなどのインビボ編集(例えば、ミス修復、挿入または標的部位のその他の改変)が含まれることを理解すべきである。限定されないが、ゲノム編集は、遺伝子を「ノックアウトする」か、または破壊されると遺伝子の発現が低下する非コード配列を破壊するドナーフラグメントの挿入によって、遺伝子破壊を行うことができる。この代わりにまたはこれに加えて、ゲノム編集は、遺伝子の発現を増大できるプロモーターのような遺伝子発現エレメントを導入できる。本明細書に開示されているようなゲノム編集は更に、外因性遺伝子のような遺伝子を遺伝子座に導入するのに用いることができる。本発明におけるゲノム編集方法を用いて、多数の遺伝子をドナーフラグメント上でゲノム標的部位に導入できる。このドナーフラグメントは、任意で、検出可能マーカー遺伝子、例えば蛍光タンパク質遺伝子を含むことができ、その検出可能マーカー遺伝子は、本明細書に示されている方法を用いて、その検出可能マーカー遺伝子に物理的に結合している1つまたは複数の導入遺伝子の浸透度を評価するのに用いることができる。
【0029】
本発明では、導入遺伝子の完全浸透度に関する、組み換え細胞株のスクリーニング方法も提供する。この導入遺伝子は、機能的なRNAまたはポリペプチドをコードできる。本明細書における実施例に開示されているように、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ及び部位特異的リコンビナーゼの完全浸透度での発現に関するスクリーニングに加えて、1つの蛍光ピークを有する細胞株であって、その蛍光ピークが、非形質転換細胞で見られるピークの蛍光強度よりも高い細胞株を同定するために、フローサイトメトリーによって形質転換体をスクリーニングする方法を用いて、RNAi分子などの機能的なRNAと、酵素などのポリペプチドとをコードする遺伝子を完全浸透度で発現する細胞株を単離できる。更に、様々な形質転換細胞株の蛍光強度レベルの比較により、全体的に発現レベルが高いかまたは低い方の細胞株を選択可能にできる。このように培養物全体にわたるスクリーニングは、発現タンパク質のレベルを割り出すなどの他の方法よりも信頼性が高いことができる。
[本発明1001]
以下の工程を含む、目的の外因性遺伝子を完全浸透度で発現する細胞株の生成方法:
目的の遺伝子および検出可能マーカー遺伝子を含む非天然の核酸分子を宿主細胞の集団に導入して、前記非天然の核酸分子を含む1つ以上の形質転換細胞株を得る工程;
前記1つ以上の形質転換細胞株の少なくとも1つを培養して、少なくとも1つの形質転換細胞株の培養物をもたらす工程;ならびに
前記目的の外因性遺伝子の完全浸透度での発現を同定するために、フローサイトメトリーを用いて、培養物において、前記検出可能マーカーを完全浸透度で発現する少なくとも1つの形質転換細胞株を同定する工程。
[本発明1002]
前記検出可能マーカーを完全浸透度で発現する形質転換細胞株を同定する工程が、前記少なくとも1つの形質転換細胞株の培養物のフローサイトメトリーの波形を、前記検出可能マーカーを発現しない対照培養物のフローサイトメトリーの波形と比較することを含み、形質転換細胞株の培養物のフローサイトメトリーの波形が、前記対照培養物の前記フローサイトメトリーの波形よりも高い蛍光レベルにシフトしている単一のピークを示すことによって、前記目的の遺伝子を完全浸透度で発現する形質転換細胞株が同定される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記非天然の核酸分子が、選択可能マーカー遺伝子を更に含む、本発明1001の方法。
[本発明1004]
前記選択可能マーカー遺伝子が、抗生物質耐性を付与する、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記非天然の核酸分子を含む1つ以上の形質転換細胞株を得る工程が、選択培地上の形質転換コロニーを選択することによる、本発明1003の方法。
[本発明1006]
目的の遺伝子をコードする前記遺伝子および前記検出可能マーカー遺伝子が、別々のプロモーターに機能的に連結している、本発明1001の方法。
[本発明1007]
目的の遺伝子をコードする前記遺伝子および前記選択可能マーカー遺伝子が、別々のプロモーターに機能的に連結している、本発明1001の方法。
[本発明1008]
目的の遺伝子が、機能的なRNAまたはポリペプチドをコードする、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
目的の遺伝子が、トランス活性化RNA(tracrRNA)、crisprRNA(crRNA)、シングルガイドRNA、キメラガイドRNA、RNAiコンストラクト、shRNA、siRNA、アンチセンスRNA配列、リボザイム、またはマイクロRNAからなる群より選択される機能的なRNAをコードする、本発明1008の方法。
[本発明1010]
目的の遺伝子が、酵素、リボソームタンパク質、構造タンパク質、分泌系の成分、トランスポーター、ポーリン、膜レセプター、DNA結合タンパク質、リコンビナーゼ、エンドヌクレアーゼ、トランスポザーゼ、転写因子、または細胞シグナル伝達タンパク質からなる群より選択されるポリペプチドをコードする、本発明1008の方法。
[本発明1011]
前記検出可能マーカーが、蛍光タンパク質である、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記検出可能マーカー遺伝子が、部位特異的リコンビナーゼによって認識される部位に隣接している、本発明1001の方法。
[本発明1013]
前記選択可能マーカー遺伝子が、部位特異的リコンビナーゼによって認識される部位に隣接している、本発明1002の方法。
[本発明1014]
前記選択可能マーカー遺伝子および前記検出可能マーカー遺伝子を含む配列が、部位特異的リコンビナーゼによって認識される部位に隣接している、本発明1002の方法。
[本発明1015]
前記非天然の核酸分子が、目的の遺伝子を2つ以上含む、本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
目的の遺伝子を3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれより多く含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
少なくとも1つの目的の遺伝子が、部位特異的リコンビナーゼをコードする、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記部位特異的リコンビナーゼが、誘導性プロモーターに機能的に連結している、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記部位特異的リコンビナーゼが、cre、flp、またはDreである、本発明1017または1018の方法。
[本発明1020]
前記検出可能マーカー遺伝子が、部位特異的リコンビナーゼによって認識される部位に隣接している、本発明1017~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
前記部位特異的リコンビナーゼの発現を誘発する工程を更に含み、それによって、前記検出可能マーカー遺伝子を前記核酸分子から切除する、本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記核酸分子が選択可能マーカー遺伝子を含み、更に、前記選択可能マーカー遺伝子が、部位特異的リコンビナーゼによって認識される部位に隣接している、本発明1017~1019のいずれかの方法。
[本発明1023]
前記部位特異的リコンビナーゼの発現を誘発する工程を更に含み、それによって、前記選択可能マーカー遺伝子を前記核酸分子から組み換え切除する、本発明1018の方法。
[本発明1024]
前記核酸分子が選択可能マーカー遺伝子を含み、前記検出可能マーカー遺伝子および前記選択可能マーカー遺伝子を含む前記核酸配列が、部位特異的リコンビナーゼによって認識される部位に隣接している、本発明1017~1019のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記リコンビナーゼの発現を誘発する工程を更に含み、それによって、前記検出可能マーカー遺伝子および前記選択可能マーカー遺伝子を前記核酸分子から切除する、本発明1024の方法。
[本発明1026]
前記宿主細胞が真核宿主細胞である、本発明1001の方法。
[本発明1027]
前記宿主細胞が、植物細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、クモ形類細胞、魚類細胞、爬虫類細胞、両生動物細胞、鳥類細胞、甲殻類細胞、または原生動物細胞である、本発明1026の方法。
[本発明1028]
前記宿主細胞が、真菌細胞、任意で、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ピキア(Pichia)属、プルラリア(Pullularia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、及びヤロウイア(Yarrowia)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1027の方法。
[本発明1029]
前記宿主細胞が、メソミセトゾア細胞、不等毛類細胞、または藻類細胞である、本発明1027の方法。
[本発明1030]
前記宿主細胞が藻類細胞である、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記藻類細胞が、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、デスモデスムス(Desmodesmus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Elipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ハンチア(Hantzschia)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノダス(Monodus)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パリエトクロリス(Parietochloris)属、パスケリア(Pascheria)属、パブロバ(Pavlova)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(PseudoChlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、シゾクラミデラ(Schizochlamydella)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラクロレラ(Tetrachlorella)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属、及びボルボックス(Volvox)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記藻類細胞が、珪藻類細胞、任意で、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフォラ(Amphora)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、キートケロス(Chaetoceros)属、キクロテラ(Cyclotella)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilariopsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ニッチア(Nitzschia)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、及びタラシオシラ(Thalassiosira)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1030の方法。
[本発明1033]
前記藻類細胞が、ユースティグマトファイト細胞、任意で、エリプソイジオン(Ellipsoidion)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、モノダス(Monodus)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、及びヴィシェリア(Vischeria)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1031の方法。
[本発明1034]
前記宿主細胞が、ラビリンチュラ類細胞、任意で、ラビリンチュラ(Labryinthula)属、ラビリンチュロイデス(Labryinthuloides)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属、アウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属、ディプロフリス(Diplophrys)属、及びウルケニア(Ulkenia)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1029の方法。
[本発明1035]
以下の工程を含む、高効率ゲノム編集用細胞株の生成方法:
RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする核酸配列と、検出可能マーカーをコードする核酸配列とを含む非天然の核酸分子を宿主細胞の集団に導入して、前記非天然の核酸分子を含む1つ以上のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ形質転換細胞株を得る工程;
前記1つ以上のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ形質転換細胞株の少なくとも1つを培養して、少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ形質転換細胞株の培養物をもたらす工程;
フローサイトメトリーを用いて、前記少なくとも1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ形質転換細胞株の培養物を、前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼ形質転換細胞株の培養物の細胞における前記検出可能マーカーの発現について評価する工程;ならびに
高効率ゲノム編集用細胞株を同定するために、前記細胞株の培養物において前記検出可能マーカーを完全浸透度で発現するRNA誘導型エンドヌクレアーゼ形質転換細胞株を同定する工程。
[本発明1036]
前記検出可能マーカーを完全浸透度で発現する形質転換細胞株を同定する工程が、前記検出可能マーカーを発現しない対照培養物のフローサイトメトリーの波形を、前記少なくとも1つの形質転換細胞株の培養物のフローサイトメトリーの波形と比較することを含み、形質転換細胞株の培養物のフローサイトメトリーの波形が、前記対照培養物の前記フローサイトメトリーの波形よりも高い蛍光レベルにシフトしている単一のピークを示すことによって、前記目的の遺伝子を完全浸透度で発現する形質転換細胞株が同定される、本発明1035の方法。
[本発明1037]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、前記宿主細胞に対して異種である、本発明1035の方法。
[本発明1038]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Casタンパク質である、本発明1035の方法。
[本発明1039]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、タイプIIまたはタイプV Casタンパク質である、本発明1038の方法。
[本発明1040]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、Cbf1、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Cpf1、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、C2c1、C2c2、C2c3、これらのホモログ、及びこれらの改変型からなる群より選択されている、本発明1035の方法。
[本発明1041]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Cas9、Cpf1、C2c1、C2c2、またはC2c3である、本発明1039の方法。
[本発明1042]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Cas9である、本発明1041の方法。
[本発明1043]
前記Cas9タンパク質が、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、またはナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)のCas9タンパク質である、本発明1042の方法。
[本発明1044]
前記Cas9タンパク質が、野生型Cas9タンパク質に対して少なくとも1つの変異を含む、本発明1042の方法。
[本発明1045]
少なくとも1つの変異が、D10A、H840A、N854A、及びN863Aからなる群より選択されている、本発明1044の方法。
[本発明1046]
RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする前記核酸配列が、前記宿主菌株における発現用にコドン最適化されている、本発明1035の方法。
[本発明1047]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、少なくとも1つの核局在化配列(NLS)を含む、本発明1035の方法。
[本発明1048]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、少なくともエピトープタグを含む、本発明1035の方法。
[本発明1049]
前記エピトープタグが、ヒスチジンタグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、FLAGタグ、またはMycタグである、本発明1048の方法。
[本発明1050]
前記非天然の核酸分子が、選択可能マーカーを更に含む、本発明1035の方法。
[本発明1051]
前記選択可能マーカーが、抗生物質または毒素に対する耐性を付与する、本発明1050の方法。
[本発明1052]
前記検出可能マーカーをコードする前記核酸配列が、前記微生物株における発現用にコドン最適化されている、本発明1051の方法。
[本発明1053]
前記検出可能マーカーが、蛍光タンパク質である、本発明1035の方法。
[本発明1054]
前記蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、BFP、Cherry、Tomato、Venus、Cerulean、またはこれらのうちいずれかのバリアントであり、前記バリアントとしては、単量体バリアントが挙げられるが、これに限らない、本発明1053の方法。
[本発明1055]
前記検出可能マーカーおよび前記Cas9タンパク質が、別々のタンパク質として産生される、本発明1054の方法。
[本発明1056]
前記選択可能マーカーをコードする前記遺伝子、および前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする前記遺伝子が、異なるプロモーターに機能的に連結されている、本発明1055の方法。
[本発明1057]
前記宿主細胞が、原核生物の宿主細胞である、本発明1035の方法。
[本発明1058]
前記宿主細胞が、古細菌、シアノバクテリア、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、紅色硫黄細菌、もしくは紅色非硫黄細菌の群のいずれか;または、アルスロバクター(Arthrobacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、バシラス(Bacillus)属、ブレビバクテリア(Brevibacteria)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリア(Corynebacteria)属、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)属、ジェオトガリコッカス(Jeotgalicoccus)属、キネオコッカス(Kineococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、パントエア(Pantoea)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドスピリラム(Rhodospirillium)属、ロドミクロビウム(Rhodomicrobium)属、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)属、ビブリオ(Vibrio)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、もしくはザイモモナス(Zymomonas)属のいずれか;に属する種の細胞である、本発明1057の方法。
[本発明1059]
前記宿主細胞が、真核宿主細胞である、本発明1035の方法。
[本発明1060]
前記宿主細胞が、植物細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、クモ形類細胞、魚類細胞、爬虫類細胞、両生動物細胞、鳥類細胞、甲殻類細胞、または原生動物細胞である、本発明1059の方法。
[本発明1061]
前記宿主細胞が、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Cvl細胞、MDCK細胞、293細胞、3T3細胞、またはPC12細胞である、本発明1059の方法。
[本発明1062]
前記宿主細胞が、真菌細胞、任意で、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ピキア(Pichia)属、プルラリア(Pullularia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、及びヤロウイア(Yarrowia)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1059の方法。
[本発明1063]
前記宿主細胞が、メソミセトゾア細胞、不等毛類細胞、または藻類細胞である、本発明1059の方法。
[本発明1064]
前記宿主細胞が、藻類細胞、任意で、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、デスモデスムス(Desmodesmus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Elipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ハンチア(Hantzschia)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノダス(Monodus)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パリエトクロリス(Parietochloris)属、パスケリア(Pascheria)属、パブロバ(Pavlova)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(Pseudochlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、シゾクラミデラ(Schizochlamydella)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラクロレラ(Tetrachlorella)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属、及びボルボックス(Volvox)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1063の方法。
[本発明1065]
前記宿主細胞が、不等毛類細胞、任意で、ラビリンチュラ(Labryinthula)属、ラビリンチュロイデス(Labryinthuloides)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属、アウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属、ディプロフリス(Diplophrys)属、及びウルケニア(Ulkenia)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1063の方法。
[本発明1066]
完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1067]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Casヌクレアーゼである、本発明1066の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1068]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである、本発明1067の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1069]
gRNAと、選択可能マーカーを含むドナーフラグメントとを用いたときの、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株の標的変異率が、少なくとも10%である、本発明1066~1068のいずれかの完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1070]
gRNAと、選択可能マーカーを含むドナーフラグメントとを用いたときの、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株の標的変異率が、少なくとも25%である、本発明1069の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1071]
gRNAと、選択可能マーカーを含むドナーフラグメントとを用いたときの、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株の標的変異率が、約50%以上である、本発明1070の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1072]
gRNAと、選択可能マーカーを含むドナーフラグメントとを用いたときの、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株の標的変異率が、約80%以上である、本発明1071の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1073]
gRNAと、選択可能マーカーを含むドナーフラグメントとを用いたときの、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株の標的変異率が、約90%以上である、本発明1072の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1074]
微生物株である、本発明1066~1073のいずれかの完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1075]
前記微生物株が、真菌、メソミセトゾア、不等毛類、または藻類である、本発明1074の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1076]
前記微生物株が、真菌株、任意で、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ピキア(Pichia)属、プルラリア(Pullularia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、及びヤロウイア(Yarrowia)属からなる群より選択される属の株である、本発明1074の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1077]
前記微生物株が、藻類株、任意で、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、デスモデスムス(Desmodesmus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Elipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ハンチア(Hantzschia)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノダス(Monodus)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パリエトクロリス(Parietochloris)属、パスケリア(Pascheria)属、パブロバ(Pavlova)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(Pseudochlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、シゾクラミデラ(Schizochlamydella)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラクロレラ(Tetrachlorella)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属、及びボルボックス(Volvox)属からなる群より選択される属の株である、本発明1074の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1078]
前記微生物株が、不等毛類株、任意で、ラビリンチュラ(Labryinthula)属、ラビリンチュロイデス(Labryinthuloides)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属、アウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属、ディプロフリス(Diplophrys)属、及びウルケニア(Ulkenia)属からなる群より選択される属の株である、本発明1074の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1079]
外因性の選択可能マーカー遺伝子を含まない、本発明1066~1078のいずれかの完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1080]
外因性の検出可能マーカー遺伝子を含まない、本発明1066~1079のいずれかの完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1081]
部位特異的リコンビナーゼをコードする外因性遺伝子を含む、本発明1079または1080の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1082]
前記部位特異的リコンビナーゼが、cre、frt、またはdreである、本発明1079または1080の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1083]
前記部位特異的リコンビナーゼがcreである、本発明1079または1080の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1084]
部位特異的リコンビナーゼをコードする前記外因性遺伝子が、宿主生物における発現用にコドン最適化されている、本発明1079または1080の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1085]
部位特異的リコンビナーゼをコードする前記外因性遺伝子が、誘導性プロモーターに機能的に連結されている、本発明1079または1080の完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株。
[本発明1086]
以下の工程を含む、細胞のゲノムのインビボ改変方法:
少なくとも1つのガイドRNAまたは少なくとも1つのガイドRNAを発現させるための少なくとも1つのコンストラクトを、完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現細胞株または微生物株に導入する工程であって、前記ガイドRNAが、前記細胞のゲノム内の部位を標的とする、工程;および
前記ガイドRNAで形質転換した細胞を、前記ゲノム内の前記標的部位の改変についてスクリーニングする工程。
[本発明1088]
RNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸配列と、検出可能マーカーをコードする少なくとも1つの核酸配列とを含む少なくとも1つの非天然の核酸分子を細胞に導入して、前記少なくとも1つの非天然の核酸分子を含む形質転換体を得ること;
少なくとも1つの形質転換体を培養すること;ならびに
少なくとも1つの形質転換体の培養物についてフローサイトメトリーを行って、前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現コンストラクトに関して完全浸透性の細胞株を同定すること;
によって、前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現株を得る、本発明1086の方法。
[本発明1089]
前記少なくとも1つのガイドRNAが、キメラガイドRNAである、本発明1086または1087の方法。
[本発明1090]
前記少なくとも1つのガイドRNAが、crRNAである、本発明1086または1087の方法。
[本発明1091]
前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現株が、tracrRNAをコードするコンストラクトを更に含む、本発明1086の方法。
[本発明1092]
tracrRNAを前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現株に導入する工程を更に含む、本発明1086の方法。
[本発明1093]
前記tracrRNAが、少なくとも1つの化学修飾を含む、本発明1091の方法。
[本発明1094]
前記スクリーニングする工程が、PCRを行って、前記標的部位における変異を検出することを含む、本発明1086~1092のいずれかの方法。
[本発明1095]
前記スクリーニングする工程が、表現型スクリーニングを用いることを含む、本発明1086~1092のいずれかの方法。
[本発明1096]
前記標的部位への挿入のために、ドナーDNAを前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現株に形質転換する工程を更に含む、本発明1086~1043のいずれかの方法。
[本発明1097]
前記ドナーDNA分子が、選択可能マーカーを含む、本発明1095の方法。
[本発明1098]
前記ドナーDNA分子が、前記標的部位への組み換えのための1つ以上の相同領域を含む、本発明1095の方法。
[本発明1099]
前記ドナーDNA分子が、前記標的部位への組み換えのための相同領域を含まない、本発明1095の方法。
[本発明1100]
前記ゲノム内の前記標的部位の改変についてスクリーニングする工程が、前記ドナーDNA分子の前記選択可能マーカーを発現する形質転換体を同定することを含む、本発明1095の方法。
[本発明1101]
tracrRNAと前記crRNAを前記完全浸透性のRNA誘導型エンドヌクレアーゼ発現株に導入する前に、前記tracrRNAと前記crRNAをアニーリングさせる、本発明1091または1092の方法。
[本発明1102]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Casエンドヌクレアーゼである、本発明1086~1100のいずれかの方法。
[本発明1103]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、タイプIIまたはタイプV Casエンドヌクレアーゼである、本発明1101の方法。
[本発明1104]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、Cbf1、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Cpf1、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、C2c1、C2c2、C2c3、これらのホモログ、及びこれらの改変型からなる群より選択されている、本発明1102のいずれかの方法。
[本発明1105]
前記RNA誘導型エンドヌクレアーゼが、Cas9 RNA誘導型エンドヌクレアーゼである、本発明1103の方法。
[本発明1106]
前記細胞が、植物細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、クモ形類細胞、魚類細胞、爬虫類細胞、両生動物細胞、鳥類細胞、甲殻類細胞、または原生動物細胞である、本発明1086~1104のいずれかの方法。
[本発明1107]
前記細胞が、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Cvl細胞、MDCK細胞、293細胞、3T3細胞、またはPC12細胞である、本発明1105の方法。
[本発明1108]
前記細胞が、真菌細胞、任意で、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ピキア(Pichia)属、プルラリア(Pullularia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、及びヤロウイア(Yarrowia)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1105の方法。
[本発明1109]
前記細胞が、メソミセトゾア細胞、不等毛類細胞、または藻類細胞である、本発明1105の方法。
[本発明1110]
前記細胞が、藻類細胞、任意で、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、デスモデスムス(Desmodesmus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Elipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ハンチア(Hantzschia)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノダス(Monodus)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パリエトクロリス(Parietochloris)属、パスケリア(Pascheria)属、パブロバ(Pavlova)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(Pseudochlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、シゾクラミデラ(Schizochlamydella)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラクロレラ(Tetrachlorella)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属、及びボルボックス(Volvox)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1108の方法。
[本発明1111]
前記細胞が、不等毛類細胞、任意で、ラビリンチュラ(Labryinthula)属、ラビリンチュロイデス(Labryinthuloides)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属、アウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属、ディプロフリス(Diplophrys)属、及びウルケニア(Ulkenia)属からなる群より選択される属の細胞である、本発明1108の方法。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属用にコドン最適化したCas9タンパク質であって、核局在化配列(NLS)とFLAGタグを含むCas9タンパク質を含むベクターpSGE-6133の図である。このpSGE-6133コンストラクトは、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子を標的とするキメラCRISPRガイドRNA配列であって、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 U6プロモーターの制御下にある配列も含む。
図2】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属のCHORD-3266遺伝子に対するホモロジーアームであって、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属用にコドン最適化されているとともに、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 RPL24プロモーターに機能的に連結されているGFP遺伝子と、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属用にコドン最適化されているとともに、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 EIF3プロモーターに機能的に連結されているハイグロマイシン耐性遺伝子とを含むカセットに隣接しているホモロジーアームを含むChord3-KOベクターの図である。このGFP遺伝子とHygR遺伝子は、それらの3’末端において、同じ双方向ターミネーターに機能的に連結されている。
図3】CRISPRシステムを用いて、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 CHORD-3266遺伝子を破壊する方策を示している。図2に示されているChord3-KO(ノックアウト)ベクターは、ゲノム内のCHORD-3266 CRISPR標的配列に隣接する相同領域を用いて二重相同組み換えを行うように設計されている。このノックアウトベクターとともに、CHORDを標的とするガイドRNA分子を導入する。ガイドRNA・Cas9複合体は、ハサミとして示されている。ドナーフラグメントは、Chord3-KO(ノックアウト)ベクターから放出される相同組み換えフラグメント(HR frag)であることができ、または、その完全ベクターを宿主細胞に導入して、組み換え体を生成できる。診断PCRプライマーは、ドナーフラグメントを含む遺伝子座の上に並べて示されており、この遺伝子座では、約4kbのPCR産物が生じることになり、ドナーフラグメントが挿入されなかった場合には、天然の遺伝子座では、約125bpのフラグメントが生じることになる。
図4】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属用にコドン最適化されたCas9タンパク質であって、核局在化配列(NLS)を含むとともに、GFP遺伝子も含むCas9タンパク質を含むベクターpSGE-6206の図である。
図5】A)は、コンストラクトpSGE6202で形質転換した宿主細胞株に対して行ったフローサイトメトリーからの測定値であって、完全浸透度を示すデータ情報(対照に対してシフトしている単一のピーク)を示している。B)は、コンストラクトpSGE6202で形質転換した宿主細胞株に対して行ったフローサイトメトリーからの測定値であって、完全浸透度を示さないデータ情報(2つのピークが現れており、そのうちの1つが、対照のピークと一致している)を示している。
図6】FLAGタグの付いたcas9タンパク質を認識する抗体によるウエスタンブロットである。「S」は、浸透度を評価する目的で行ったフローサイトメトリーにおいて、シフトした単一のピークを示した細胞から得たタンパク質を示し、「D」は、フローサイトメトリー解析において、2つのピークを示した細胞から得たタンパク質を示している。
図7】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属のCHORD遺伝子に対するホモロジーアームであって、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むカセットに隣接しているホモロジーアームを含むベクター(pSGE-6281)の図である。
図8】高効率なCas9ゲノム編集株を作製する方策を示しており、この方策では、選択可能マーカー(形質転換体を単離する目的で使用する)と、Cas9ヌクレアーゼと、蛍光タンパク質のそれぞれの発現カセットを含むコンストラクトでコロニーを形質転換する。個々の形質転換体(1つのコロニーに起因する)の培養物をフローサイトメトリーによって、Cas9の完全浸透度での発現を示す1つのシフトピークについてスクリーニングする。この方法では、ウエスタン工程を含む必要はない。
図9】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属のアシル-CoAオキシダーゼ遺伝子に対するホモロジーアームであって、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むカセットに隣接しているホモロジーアームを含むベクターの図である。
図10】パラクロレラ(Parachlorella)属での発現のために最適化したcas9ポリペプチドをコードする遺伝子を含むベクター(pSGE-6709)の図である。このコンストラクトは、GFPをコードする遺伝子と、blast遺伝子をコードする遺伝子であって、パラクロレラ(Parachlorella)属での発現のために最適化した遺伝子も含む。cas9遺伝子、GFP遺伝子及びblast遺伝子はそれぞれ、別々のパラクロレラ(Parachlorella)属プロモーターに機能的に連結している。
図11】pSGE-6709で形質転換したパラクロレラ(Parachlorella)属株であって、cas9に対する抗体を用いて、フローサイトメトリーによって、完全浸透性であることが確認されているパラクロレラ(Parachlorella)属株(6709-1、6709-2、及び6709-3)のウエスタンブロットである。WT1185は、野生型パラクロレラ(Parachlorella)属株である。
図12】完全浸透性のcas9発現パラクロレラ(Parachlorella)属株GE-15699におけるCRISPR標的cpSRP54遺伝子座へのbleRカセットの挿入を検出するために、プライマーセットを用いたPCR産物のゲルを示している。プライマー596及び597の産物は、野生型(非改変)遺伝子座であり、プライマー405/597及び406/597の産物は、bleRカセットの標的化された挿入に起因するものである。
図13】A)は、プロモーター強化のためのドナーDNAコンストラクトの図である。B)は、コード領域上流のACCase遺伝子座におけるドナーDNAの挿入部位を示している。
図14】A)は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属におけるZnCys-2845遺伝子座の概略的なマップを示しており、矢印は、Cas9によって仲介される、HygRカセットの挿入の標的部位を示している。遺伝子座1のみ、標的化された挿入が行われなかった。B)は、様々な標的挿入変異体のZnCys-2845遺伝子のノックダウンのレベルを示している。
図15】ZnCys-2845遺伝子の減弱発現のためのRNAiコンストラクトを含んでいたベクターの概略図である。このベクターは、選択用のblast遺伝子と、挿入されたRNAiコンストラクトの遺伝子の浸透度を評価するためのGFP遺伝子を含んでいた。
図16】6個の遺伝子を含んでいたとともに、それぞれの遺伝子が、別個のプロモーターを有する22.3kbのドナーDNAの図を示している。
図17】アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子座を標的とした22.3kbの組み込みフラグメントの存在について、PCR産物を診断した写真を示しており、クローン5、6、7、8、9、20、27、38及び31で、指向性組み込みイベントが示されている。
図18】Cas9遺伝子、GFP遺伝子及びHygR遺伝子に加えて、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属での発現のために最適化したcreリコンビナーゼ遺伝子を含むベクターpSGE-6483の概略図である。Cas9、GFP、HygR及びcre遺伝子のそれぞれは、別個のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属プロモーターに機能的に連結されていた。creリコンビナーゼ遺伝子は、アンモニア抑制性亜硝酸/亜硫酸レダクターゼプロモーターに機能的に連結されていた。
図19】pSGE-6483で形質転換した細胞のフローサイトメトリー浸透度スクリーニングの結果と、アンモニア対ナイトレートの増殖した細胞のピーク蛍光強度の差を示している。
図20】RT/PCR産物のゲルの写真であり、異なる窒素条件下でのGFP転写産物のレベルを評価している。
図21】形質転換体A11、B11、C12、D12、E12及びF12における、異なる窒素条件下でのCre転写産物のレベルのグラフ表示を示している。
図22】形質転換体A11、B11、C12、D12、E12及びF12における、異なる窒素条件下でのCreタンパク質を検出するためのウエスタンブロットを示している。
図23】形質転換体A11、B11、C12、D12、E12及びF12における、異なる窒素条件下でのCas9タンパク質を検出するためのウエスタンブロットを示している。
図24】フロックスGFPとBlastR遺伝子カセットが無傷であるか、Creの仲介による組み換えによって切除されたか判断するための、F12及びC12の培養物のPCR産物のゲルの写真である。
図25】フロックスGFPとBlastR遺伝子カセットのインビボ切断を判断するためのPCRの産物のゲルの写真である。
図26】フロックスGFPとBlastR遺伝子カセットが無傷であるか、Creの仲介による組み換えによって切除されたか判断するための、F12及びC12の培養物のPCR産物のゲルの写真である。
図27】フロックスGFPとBlastR遺伝子カセットの概略図である。
図28】Cas9の仲介によってフロックス破壊カセットが挿入され、その挿入の確認後にcre発現が誘導され、その結果、レポーター(蛍光タンパク質)及び選択可能マーカーが切断され、それらの成分を、それ以降の操作工程でリサイクル可能にすることを示す図である。
図29】藻類細胞に導入するためのコンストラクトであって、動物種に由来するタイプI FASをコードするコンストラクトの図を示している。このコンストラクトは、パンテテインホスホトランスフェラーゼ(PPT)をコードする遺伝子も含む。この遺伝子は、藻類プロモーターに機能的に連結されている。このコンストラクトは、外因性のFAS遺伝子とPPT遺伝子の培養物全体にわたる発現を評価するための蛍光タンパク質をコードする遺伝子を更に含む。
図30】藻類細胞に導入するためのコンストラクトであって、ラビリンチュラ種に由来するタイプI FASをコードするコンストラクトの図を示している。この遺伝子は、藻類プロモーターに機能的に連結されている。このコンストラクトは、外因性のFAS遺伝子の培養物全体にわたる発現を評価するための蛍光タンパク質をコードする遺伝子を更に含む。
図31】フローサイトメトリーの波形(ヒストグラム)を示しており、ダニオ・レリオ(Danio rerio)タイプI FAS遺伝子を含むナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属形質転換体のフローサイトメトリープロファイルが、野生型(非形質転換)藻類細胞培養物のフローサイトメトリープロファイルと重ねられている。この図は、プロファイル化した形質転換体株におけるFASタンパク質の発現レベルを示すウエスタンブロットも示している。株6201-38(右端のフローサイトメトリーの波形)では、非形質転換細胞との蛍光プロファイル差は示されておらず、ウエスタンブロット(右から3つ目のレーン)においては、検出可能なFASタンパク質は示されていない。他の形質転換体株では、完全浸透度での発現が示されており、蛍光ピークは、野生型のピークとは異なる。これらの株は、ウエスタンブロットで証明されたように、検出可能なFASタンパク質も有する。WE3730は、タイプ1FASタンパク質を含まない野生型株である。
図32】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属形質転換体のフローサイトメトリーの波形(ヒストグラム)を示しており、ダニオ・レリオ(Danio rerio)タイプI FAS遺伝子を含む形質転換体のフローサイトメトリープロファイルが、野生型(非形質転換)藻類細胞培養物のフローサイトメトリープロファイルと重ねられている。この図は、プロファイル化した形質転換体株におけるFASタンパク質の発現レベルを比較するウエスタンブロットも示している。WE3730は、タイプ1FASタンパク質を含まない野生型株である。
図33】ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属形質転換体のフローサイトメトリーの波形(ヒストグラム)を示しており、ラビリンチュラタイプI FAS遺伝子を含む形質転換体のフローサイトメトリープロファイルが、野生型(非形質転換)藻類細胞株のフローサイトメトリープロファイルと重ねられている。この図は、プロファイル化した形質転換体株におけるFASタンパク質の発現レベルを比較するウエスタンブロットも示している。WE3730は、タイプ1FASタンパク質を含まない野生型株である。
図34】形質転換体の細胞抽出物からアッセイしたFAS活性のグラフを示している。ラビリンチュラタイプI FAS遺伝子を有する藻類形質転換体の活性が最も高い。
図35】光栄養条件(A)と混合栄養条件(B)で増殖したChytFASトランスジェニック株に関して、同位体トレーサー(13C)の導入を用いて、インビボでFASの割合を割り出したグラフを示している。光独立栄養条件(A)では、ChytFAS株6167-Bの方が、野生型株を上回っていた。株6167-Aは、混合栄養条件で試験し、この場合に、FAME産生において野生型を上回った(B)。
図36】光独立栄養条件(A、13Cバイカーボネートで標識)とアセテート強化混合栄養条件(B、13Cアセテートで標識)で増殖したDrFAS過剰発現株に関して、同位体トレーサーの導入を用いて、インビボでFASの割合を割り出したグラフを示している。混合栄養条件において、全てのDrFAS形質転換体が、野生型株を上回ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
別段の定めのない限り、本明細書で用いられている全ての技術用語、表記及びその他の科学用語または専門用語は、本発明の属する当業者によって一般に理解されている意味を有するように意図されている。いくつかのケースでは、明確化のために及び/または参照のしやすさのために、一般に理解されている意味を有する用語が本明細書で定義されており、このような定義が本明細書に含まれていることは、当該技術分野において概ね理解されている意味との実質的な差異を表すものと必ずしも解釈すべきではない。当業者は、本明細書に記載されているかまたは参照されている技法と手順の多くをよく理解しており、従来の方法を用いて、よく利用している。
【0032】
文脈によって別段に明示されていない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」には、複数の言及物が含まれる。例えば、「細胞(a cell)」という用語には、その混合物を含め、1つ以上の細胞が含まれる。本明細書では、「A及び/またはB」は、「A」、「B」、「AまたはB」、ならびに「A及びB」という代替表現の全てを含める目的で用いる。
【0033】
「約」は、示されている値のプラスマイナス10%以内、または有効数字一桁となるよう四捨五入した値のいずれかを意味し、いずれのケースにおいても、示されている値が含まれる。範囲が示されている場合、その範囲には境界値が含まれる。
【0034】
本明細書で使用する場合、「アミノ酸」とは、天然のアミノ酸及び合成のアミノ酸、ならびに天然のアミノ酸と同様の形で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体を指す。天然のアミノ酸は、D/L光学異性体を含め、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、及び後で改変されるアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、y-カルボキシグルタメート及びO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然のアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基及びR基に結合している炭素を有する化合物を指す(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)。このような類似体は、修飾されたR基(例えばノルロイシン)または修飾されたペプチド骨格を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸模倣体とは、本明細書で使用する場合、アミノ酸の一般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然のアミノ酸と同様の形で機能する化学化合物を指す。
【0035】
「ヌクレオチド」は、核酸分子の基本単位であり、典型的には、リン酸基に結合しているリボースまたはデオキシリボースのような五炭糖に結合したアデニン、グアニン、シトシン、チミンまたはウラシルのような塩基を含む。ヌクレオチドは、天然のDNAまたはRNAでは見られない代替的なまたは非天然の塩基または糖も含むことができる。ペプチド核酸では、1つ以上の糖がアミノ酸によって置換されている場合があり、いくつかの核酸類似体では、フォスフェートの少なくとも一部分が、ヒドロキシル基によって置き換わっている場合がある。ヌクレオチドを用いて、一本鎖の核酸分子の長さを示すことが多いとともに、「塩基対」(すなわち、塩基対合したヌクレオチド)を用いて、二本鎖の核酸分子の長さを示すことも多いが、本願では、「ヌクレオチド」または「nt」を「塩基対」または「bp」と同義的に用いることもあり、一方の用語またはもう一方の用語を使用することは、記載されている核酸分子のタイプを一本鎖または二本鎖のいずれかに制限することを意味するのではない。「キロベース」または「kb」を長さの単位として使用することも、一本鎖の核酸分子と二本鎖の核酸分子に平等に適用される。
【0036】
「核酸コンストラクト」、「DNAコンストラクト」または単に「コンストラクト」は、組み換え手段によって生成される核酸分子であって、並置されているかまたは機能的に連結されている少なくとも2つの核酸配列であって、天然では互いに並置されたりまたは機能的に連結されたりしない核酸配列を含む核酸分子である。
【0037】
「エピソームDNA分子」または「EDM」は、独立して複製する核酸分子であって、そのEDMが存在するとともに複製する宿主生物のゲノムには組み込まれない核酸分子である。EDMは、安定している場合もあり、その際には、何世代にもわたって存続し、あるいは、EDMは、不安定である場合もあり、その際には、EDMは、連続的な細胞分裂によって徐々に希釈され、集団からなくなる。安定したEDMは、選択圧(例えば、抗生物質の存在)によって、細胞集団内に保持し得る。
【0038】
「検出可能マーカー」は、その遺伝子を発現する細胞上に、いくつかの検出可能な表現型を付与する遺伝子またはその遺伝子によってコードされるポリペプチドである。検出は、比色検出(例えば、発色基質の存在におけるβガラクトシダーゼもしくはβグルクロニダーゼの発現による青色)であることも、発光または蛍光の検出によることもできる。検出可能マーカーは概して、検出可能ポリペプチド、例えば、緑色蛍光タンパク質またはシグナル生成酵素(ルシフェラーゼなど)をコードし、これらは、適切な作用物質(具体的には、緑色蛍光タンパク質の場合には特定の波長の光、ルシフェラーゼの場合にはルシフェリン)と接触すると、肉眼によってまたは適切な計器を用いて検出できるシグナルを生成する(Giacomin,Plant Sci.116:59-72,1996、Scikantha,J.Bacteriol.178:121,1996、Gerdes,FEBS Lett.389:44-47,1996、またJefferson,EMBO J.6:3901-3907,1997も参照されたい)。
【0039】
「選択可能マーカー」または「選択マーカー」という用語は、その遺伝子を発現する生物が、選択的な条件下で生存できるようにする表現型を付与する遺伝子(またはそのコードされたポリペプチド)を指す。例えば、選択可能マーカーは概して、細胞に存在するかまたは細胞内で発現すると、そのマーカーを含む細胞に、選択的利点(またはネガティブ選択可能マーカーの場合には、欠点)、例えば、選択可能マーカーがなければその細胞を死滅させる作用物質の存在下で増殖する能力、または特定の栄養素の非存在下で増殖する能力をもたらす分子である。
【0040】
「cDNA」は、mRNA分子の少なくとも一部分のヌクレオチド配列を含むDNA分子である。ただし、このDNA分子は、mRNA配列で見られるウリジン、すなわちUの代わりに、核酸塩基のチミン、すなわちTを用いる。cDNAは、一本鎖であることも、二本鎖であることもできるとともに、mRNA配列の相補物であることができる。好ましい実施形態では、cDNAは、そのcDNAが対応する天然の遺伝子(生物のゲノム内の遺伝子)で見られる1つ以上のイントロン配列を含まない。例えば、cDNAは、天然の遺伝子のイントロンの下流(3’)の配列に並置された状態で、天然の遺伝子のイントロンの上流(5’)に配列を有することができ、天然においては、DNA分子(すなわち、天然の遺伝子)では、この上流配列と下流配列は並置されていない。cDNAは、ポリメラーゼ(例えば、逆転写酵素)によるmRNA分子の逆転写によって生成でき、またはそのcDNA配列に関する知見に基づき、例えば、化学合成によって及び/もしくは1つ以上の制限酵素、1つ以上のリガーゼ、1つ以上のポリメラーゼ(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で使用できる高温耐性ポリメラーゼが挙げられるが、これに限らない)、1つ以上のリコンビナーゼなどを用いることによって合成でき、そのcDNA配列に関する知見は、任意で、ゲノム配列及び/または1つ以上のcDNAの配列からコード領域を同定することに基づくことができる。
【0041】
「コード配列」または「コード領域」とは、本明細書においてmRNAまたはDNA分子に関して使用する場合、mRNAまたはDNA分子の部分のうち、ポリペプチドをコードする部分を指す。この用語は、典型的には、その分子のヌクレオチド残基のうち、mRNA分子の翻訳中に、トランスファーRNA分子のアンチコドン領域と対合するか、または終止コドンをコードするヌクレオチド残基からなる。コード配列は、mRNA分子によってコードされる成熟タンパク質には存在しないアミノ酸残基(例えば、タンパク質の移行シグナル配列におけるアミノ酸残基)に対応するヌクレオチド残基を含んでよい。
【0042】
「~に由来する」とは、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の起源を指し、典型的には、その核酸分子、タンパク質またはペプチドの配列が、言及されている核酸分子、タンパク質またはペプチドの配列に基づくことを意味する。その核酸分子、タンパク質またはペプチドは、言及されている核酸分子、タンパク質もしくはペプチドに対する同一性が少なくとも60%(様々な例では、同一性が少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%または少なくとも85%)であるバリアント、及び/または言及されている核酸分子、タンパク質もしくはペプチドの切断型もしくは内部欠損型バリアントのいずれかである。例えば、タンパク質またはペプチドは、その由来元のタンパク質またはペプチドと比べて、C末端もしくはN末端が切断されているか、または内部が欠損されていてもよいとともに、C末端、N末端または内部に、いずれかの数のアミノ酸、例えば、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、10個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個または100個のアミノ酸の欠損を有してよい。核酸分子は、その由来元の核酸分子と比べて、5’または3’が切断されているか、または内部が欠損されていてよいとともに、5’、3’または内部に、いずれかの数のヌクレオチド、例えば、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、10個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、150個または200個のヌクレオチドの欠損を有してよい。
【0043】
「内因性」という用語は、本開示の文脈においては、細胞または生物の天然部分であるいずれかのポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列を指す。
【0044】
「外因性」核酸分子または遺伝子は、宿主細胞に導入された核酸分子または遺伝子である。例えば、外因性核酸分子または遺伝子は、ある1つの種に由来し、人間の介入、例えば、組み換え核酸コンストラクトによって、別の生物、微生物または細胞に導入(「形質転換」)されたものである。外因性核酸は、ある1つの種に由来する配列であって、別の種に導入された配列、すなわち、異種の核酸分子であることができる。外因性核酸分子も、宿主細胞または生物に対して相同である(すなわち、その核酸配列が、天然において、その種で見られるか、または天然において、宿主種で見られるポリペプチドをコードする)とともに、その生物の細胞に再導入された配列であることもできる。宿主生物に対して相同である(同じ種のものである)配列を含む外因性(導入)核酸分子は、その相同な核酸配列に結合させた配列、例えば、宿主生物に天然には備わっていない調節配列であって、組み換え核酸コンストラクトにおける内因性遺伝子配列に隣接している調節配列の存在によって、天然の配列と区別できることが多い。この代わりにまたはこれに加えて、安定的に形質転換された外因性核酸分子は、その分子が組み込まれたゲノム内の配列に並置することによって、天然遺伝子から検出できるか、または天然遺伝子と区別できる。核酸分子が、考慮対象の細胞、生物、または株の前駆体に導入されたものである場合、その分子は外因性とみなす。
【0045】
「発現カセット」とは、本明細書で使用する場合、適切な宿主細胞において特定のヌクレオチド配列の発現を誘導できるDNA配列を意味し、目的のヌクレオチド配列に機能的に連結したプロモーターを含み、このプロモーターは、任意で、終結シグナル及び/またはその他の調節エレメントに機能的に連結できる。発現カセットは、ヌクレオチド配列の翻訳を実現、仲介または促進する配列も含んでよい。コード領域は通常、目的のタンパク質をコードするが、センスまたはアンチセンス方向に、目的の機能的なRNA、例えばアンチセンスRNAまたは非翻訳RNAもコードしてよい。発現カセットは、完全に細胞外で(例えば、組み換えクローニング技法によって)組み立ててよい。しかしながら、発現カセットは、部分的に内因性成分を用いて組み立ててもよい。例えば、発現カセットは、内因性配列の上流にプロモーター配列を配置する(または挿入する)ことによって得てよく、これにより、内因性配列は、前記プロモーター配列によって機能的に連結され、制御されることになる。発現カセット内のヌクレオチド配列の発現は、構成的プロモーター、または宿主細胞がいくつかの特定の外的刺激にさらされたときのみに転写を開始させる誘導性プロモーターの制御下にあってよい。
【0046】
「発現ベクター」とは、発現させるヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組み換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のために十分なシス作動性エレメントを含み、発現のための他のエレメントを宿主細胞によって、またはインビトロ発現系内に供給することもできる。当該技術分野において既知の発現ベクターの例としては、組み換えポリヌクレオチドが組み込まれたコスミド、プラスミド及びウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0047】
「オリゴヌクレオチド」とは、本明細書で使用する場合、ヌクレオチド長が200以下の核酸分子である。オリゴヌクレオチドは、RNA、DNAもしくはDNAとRNAとの組み合わせ、核酸誘導体、または合成核酸であることができ、例えば、オリゴヌクレオチドは、ペプチド核酸またはロックト核酸であることができるとともに、一本鎖、二本鎖または部分的に一本鎖で部分的に二本鎖であることができる。オリゴヌクレオチドは、例えば、ヌクレオチド長が約4~約200、ヌクレオチド長が約6~約200、ヌクレオチド長が約10~約200、ヌクレオチド長が約15~約200、ヌクレオチド長が約17~約200、ヌクレオチド長が約20~約200、またはヌクレオチド長が約40~約200であることができる。更なる例では、オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチド長が約15~約180、ヌクレオチド長が約15~約160、ヌクレオチド長が約15~約140、ヌクレオチド長が約15~約120、ヌクレオチド長が約17~約100、ヌクレオチド長が約17~約80、またはヌクレオチド長が約17~約70、例えば、ヌクレオチド長が約20~約65であることができる。
【0048】
ポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチドまたは酵素に関して用いるときには、「異種の」という用語は、宿主種に由来せず、例えば、宿主細胞とは異なる種に由来するポリヌクレオチド、遺伝子、核酸、ポリペプチドまたは酵素を指す。例えば、テトラセルミス(Tetraselmis)属微生物に由来するかまたは植物に由来する脂肪酸不飽和化酵素に対するコード配列で形質転換したナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属トランスジェニック微生物は、異種の不飽和化酵素遺伝子で形質転換されている。核酸コンストラクトまたは分子内で機能的に連結しているかまたは別段の形で繋がり合っている(「並置されている」)核酸配列に言及するときには、「異種の配列」とは、本明細書で使用する場合、天然では、機能的に連結していないか、または近接もしくは隣接し合っていない配列である。例えば、テトラセルミス属(Tetraselmis sp.)に由来するプロモーターは、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属コード領域配列に対して異種であるとみなす。また、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に由来するチューブリン遺伝子をコードする遺伝子に由来するプロモーターに機能的に連結したナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属脂肪酸不飽和化酵素コード配列は、異種のプロモーターに機能的に連結しているとみなす。同様に、遺伝子配列を保持または操作するのに用いる遺伝子調節配列または補助的な核酸配列(例えば、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域、Kozak配列、ポリA付加配列、イントロン配列、スプライス部位、リボソーム結合部位、内部リボソーム侵入配列、ゲノム相同領域、組み換え部位など)に言及するときには、「異種の」とは、その調節配列または補助配列が、コンストラクト、ゲノム、染色体またはエピソームにおいて、その調節配列または補助的な核酸配列と並置されているか機能的に連結している遺伝子と異なる起源(例えば、宿主生物と同じ種か異なる種にかかわらず、異なる遺伝子)に由来していることを意味する。
【0049】
「ハイブリダイゼーション」という用語は、本明細書で使用する場合、概ね、相補的な塩基鎖対合によって結合する核酸分子の能力を指す。核酸分子が適切な条件下で接触すると、このようなハイブリダイゼーションが生じ得る。本明細書で使用する場合、2つの核酸分子が、アンチパラレル型の二本鎖核酸構造を形成できる場合、これらの2つの分子は、互いに特異的にハイブリダイズできるという。核酸分子は、別の核酸分子と完全な相補性を示す場合、すなわち、これらの分子の一方の全てのヌクレオチドが、もう一方の分子の塩基対合パートナーのヌクレオチドと相補的であるとき、別の核酸分子の「相補物」であるという。2つの分子は、少なくとも従来の低ストリンジェントな条件下で、互いにアニーリングした状態を保持させるのに十分な安定性で、互いにハイブリダイズできる場合には、「最小限の相補性を有する」という。分子は、従来の高ストリンジェントな条件下で、互いにアニーリングした状態を保持させるのに十分な安定性で、互いにハイブリダイズできる場合には、「相補的である」という。従来のストリンジェントな条件は、Sambrookら(上記の1989年の文献)によって、及びHaymesらによってNucleic Acid Hybridization,A Practical Approach,IRL Press,Washington,D.C.(1985)において記載されている。したがって、完全な相補性がなくても、それらの分子が二本鎖構造を形成する能力を完全に失っていなければ、許容可能である。すなわち、本発明の核酸分子またはそのフラグメントが、プライマーまたはプローブとして機能するためには、用いる特定の溶媒及び塩濃度ならびに温度下で、安定な二本鎖構造を形成できるように、配列において十分に相補的でさえあればよい。
【0050】
核酸のハイブリダイゼーションを促す適切なストリンジェントな条件としては、例えば、約45℃で6.0×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)に次いで、約50℃で2.0×SSCでの洗浄が挙げられる。加えて、洗浄工程の温度は、室温(約22℃)の低ストリンジェントな条件から約65℃の高ストリンジェントな条件まで上昇させることができる。温度と塩の両方を変化させても、温度または塩濃度のいずれかを一定に保ちながら、もう一方を変化させてもよい。これらの条件は、当業者に知られており、あるいは、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.(1989),6.3.1-6.3.6に見ることができる。例えば、低ストリンジェントな条件を用いて、標的核酸配列に対する配列同一性のより低い核酸配列を選択してよい。約0.15M~約0.9Mの塩化ナトリウムと、約20℃~約55℃の範囲の温度のような条件の採用を望んでもよい。高ストリンジェントな条件を用いて、開示されている核酸配列に対する同一性がより高度な核酸配列について選択してよい(Sambrookらによる上記の1989年の文献)。本発明の一実施形態では、高ストリンジェントな条件には、約2×SSC~約10×SSC(蒸留水中で3Mの塩化ナトリウムと0.3Mのクエン酸ナトリウムを含む20×SSCストック溶液(pH7.0)から希釈)、約2.5×~約5×デンハート液(蒸留水中で1%(w/v)のウシ血清アルブミン、1%(w/v)のフィコール及び1%(w/v)のポリビニルピロリドンを含む50×ストック溶液から希釈)、約10mg/mL~約100mg/mLの魚類精子DNA、ならびに約0.02%(w/v)~約0.1%(w/v)のSDSでの核酸ハイブリダイゼーションと、約50℃~約70℃で、数時間から一晩インキュベートすることが含まれる。高ストリンジェントな条件は典型的には、6×SSC、5×デンハート液、100mg/mLの魚類精子DNA及び0.1%(w/v)のSDSと、55℃で数時間インキュベートすることによって実現される。ハイブリダイゼーションの後には概ね、数回の洗浄工程を行う。洗浄組成物は概して、0.5×SSC~約10×SSCと、0.01%(w/v)~約0.5%(w/v)のSDSを含むとともに、15分、約20℃~約70℃でインキュベートを行う。典型的には、相補的な核酸セグメントは、0.1×SSC中で65℃において少なくとも1回洗浄後も、ハイブリッドしたままである。
【0051】
「配列同一性の割合」は、本明細書で使用する場合、同定されたセントロメア配列に関しては、示されているヌクレオチド配列(例えばセントロメアフラグメント)の特定の長さによって定義される比較ウィンドウにわたって、特定のセントロメア配列またはそのフラグメントを、局所アラインメントを最適に行った配列と比較することによって割り出す。別の文脈では、2つの配列間の配列同一性の割合に関する比較ウィンドウは、2つの配列間の局所アラインメントによって定義される。例えば、比較ウィンドウ内のアミノ酸またはヌクレオチド配列は、基準配列(付加または欠失を含まない)と比べて、その2つの配列の最適な配列について、付加または欠失(例えば、ギャップまたはオーバーハング)を含んでよい。この関連では、2つの配列間の局所アラインメントには、各配列のセグメントのうち、アラインメントを行うのに使用するアルゴリズム(例えばBLAST)に依存する基準に従って、十分に類似しているとみなされるセグメントのみが含まれる。同一性の割合は、両方の配列で、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が見られる位置の数を割り出して、一致した位置の数を求め、一致した位置の数を、比較ウィンドウ内の位置の総数で除し、その結果に100を乗じることによって算出する。比較のための、配列の最適なアラインメントは、Smith及びWatermanの局所相同性アルゴリズム(Add.APL.Math.2:482,1981)、Needleman及びWunschの全体的相同性アラインメントアルゴリズム(J.Mol.Biol.48:443,1970)、Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444,1988)、これらのアルゴリズムのヒューリスティックな方法の実施(NCBI BLAST、WU-BLAST、BLAT、SIM、BLASTZ)または検証によって行ってよい。例えば、GAP及びBESTFITを用いて、比較のために同定された2つの配列の最適なアラインメントを割り出すことができる。典型的には、ギャップウェイトは、デフォルト値の5.00、ギャップウェイト長は0.30を使用する。ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列間の「実質的な配列同一性」という用語は、これらのプログラムを用いた場合の基準配列に対する配列同一性が少なくとも50%、例えば、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%であるか、または配列同一性が少なくとも96%、97%、98%もしくは99%である配列を含むポリヌクレオチドまたはポリペプチドを指す。加えて、ペアワイズ配列相同性または配列類似性は、使用する場合、アラインメントした2つの配列間で類似している残基の割合を指す。類似の側鎖を持つアミノ酸残基ファミリーは、当該技術分野において十分に明らかにされている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を持つアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖を持つアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を持つアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖を持つアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を持つアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。
【0052】
例えば、照会する核酸及びアミノ酸配列は、公衆または私有のデータベースに存在する目的の核酸またはアミノ酸配列に対して検索できる。このような検索は、National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool(NCBI BLAST v2.18)のプログラムを用いて行うことができる。NCBI BLASTプログラムは、インターネット上で、National Center for Biotechnology Information(blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)から入手可能である。NCBI BLASTの例示的なパラメーターとしては、「デフォルト」に設定したFilterオプション、「BLOSUM62」に設定したComparison Matrix、「Existence:11、Extension:1」に設定したGap Cost、3に設定したWord Size、1e~3に設定したExpect(E閾値)、及び照会配列長の50%に設定した局所アラインメント最短長が挙げられる。配列同一性及び類似性は、GENOMEQUEST(商標)というソフトウェア(Gene-IT、米国マサチューセッツ州ウースター)を用いて割り出してもよい。
【0053】
本明細書で使用する場合、「単離」核酸分子またはタンパク質は、その天然の状態、またはその核酸分子もしくはタンパク質が天然に存在する状況から取り出したものである。例えば、単離タンパク質または核酸分子は、その天然または自然な環境において付随している細胞または生物から取り出したものである。すなわち、「単離」核酸分子は典型的には、その核酸の由来元である生物の細胞において天然ではその核酸に隣接している配列(すなわち、その核酸の5’末端及び3’末端に位置する配列)を含まない。単離核酸分子またはタンパク質は、いくつかのケースでは、部分的または実質的に精製することができるが、単離には特定の精製レベルが必須なわけではない。例えば、単離核酸分子は、天然においてその分子が組み込まれている染色体、ゲノムまたはエピソームから切除した核酸配列であることができる。したがって、単離核酸としては、精製分子として存在する核酸、またはベクターもしくは組み換え細胞に組み込まれている核酸分子が挙げられるが、これらに限らない。
【0054】
「微生物(microbe)」及び「微生物(microorganism)」という用語は、肉眼では見えないほど小さい生物を指す目的で同義的に用いる。微生物(microbe)または微生物(microorganism)には、細菌と原虫(単細胞の原虫と群体を形成する原虫を含む)が含まれ、真菌、アメーバ、メソミセトゾア、単細胞不等毛類(例えば、ラビリンチュラ、卵菌)及び微細藻類などがあるが、これらに限らない。
【0055】
「精製」核酸分子またはヌクレオチド配列は、細胞物質と細胞成分を実質的に含まない。精製核酸分子は、例えば、バッファーまたは溶媒以外の化学物質を含まないこともある。「実質的に含まない」とは、新規の核酸分子以外の他の成分が検出不能であることを意味するようには意図されていない。いくつかの状況においては、「実質的に含まない」とは、その核酸分子またはヌクレオチド配列が、少なくとも95%(w/w)の細胞物質及び細胞成分を含まないことを意味する場合もある。
【0056】
「天然」という用語は、本明細書では、天然において宿主で見られる場合の核酸配列またはアミノ酸配列を指す目的で用いる。「非天然」という用語は、本明細書では、天然においては宿主で見られないか、または宿主で天然に構成されているものとして構成されていない核酸配列またはアミノ酸配列を指す目的で用いる。例えば、非天然遺伝子としては、宿主に対して相同である(すなわち、宿主と同じ種の)導入遺伝子であって、異種のプロモーターとともに、及び/または天然遺伝子で見られる1つ以上のイントロンが欠損した状態で、宿主に再導入された導入遺伝子が挙げられる。宿主細胞から取り出し、実験室で操作を行い、宿主細胞に導入または再導入した核酸配列またはアミノ酸配列は、「非天然」とみなす。非天然遺伝子には更に、宿主微生物に対して内因性の遺伝子であって、1つ以上の異種の調節配列に機能的に連結しており、宿主ゲノムに再び組み込んだ遺伝子、または宿主生物に対して内因性の遺伝子であって、天然で見られるゲノム遺伝子座以外のゲノム遺伝子座に位置する遺伝子が含まれる。
【0057】
核酸分子またはポリペプチドについては、「天然」及び「野生型」という用語は、天然で見られる形態を指す。例えば、天然または野生型の核酸分子、ヌクレオチド配列またはタンパク質は、天然の起源に存在してよいとともに、天然の起源から単離してよく、人の操作によって意図的に改変されていない。
【0058】
「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド分子」という用語は、本明細書では、同義的に使用し、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、及びDNAまたはRNAを含む核酸類似体を含め、DNA分子とRNA分子の両方を指す。ポリヌクレオチドは、いずれかの3次元構造を有することができる。ポリヌクレオチドは、天然または合成の起源であることができる。核酸分子は、二本鎖または一本鎖であることができる。ポリヌクレオチドの非限定例としては、遺伝子、遺伝子フラグメント、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、siRNA、マイクロRNA、リボザイム、tracrRNA、crRNA、キメラガイドRNA、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分岐型ポリヌクレオチド、核酸プローブ及び核酸プライマーが挙げられる。ポリヌクレオチドは、従来型ではないか、または改変されたヌクレオチドを含んでよい。
【0059】
本明細書で使用する場合、「機能的に連結した」とは、一方の配列におけるかまたは一方の配列上の活性が、もう一方の配列におけるかまたはもう一方の配列上の活性に影響を及ぼすようになっている、2つ以上の配列間の機能的な連結を意味するように意図されている。例えば、目的のポリヌクレオチドと調節配列(例えばプロモーター)との機能的な連結は、目的のポリヌクレオチドを発現させる機能的な連結である。この意味では、「機能的に連結した」という用語は、調節領域が、目的のコード配列の転写または翻訳を調節するのに有効なように、調節領域と、転写されるコード配列を配置することを指す。例えば、コード配列と調節領域を機能的に連結するには、典型的には、コード配列の翻訳リーディングフレームの翻訳開始部位を、調節領域の1~約50ヌクレオチド下流に配置する。しかしながら、調節領域は、翻訳開始部位の約5,000ヌクレオチドほども上流、または転写開始部位の約2,000ヌクレオチド上流に配置することもできる。機能的に連結したエレメントは、隣接していても、隣接していなくてもよい。2つのタンパク質コード領域の連結を指す目的で使用するときには、「機能的に連結した」は、それらのコード領域が同じリーディングフレームにあることを意図している。エンハンサーの作用を指す目的で使用するときには、「機能的に連結した」は、そのエンハンサーが、目的の特定のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの発現を増大させることを示した。核酸配列の文脈における「~と並置された」とは、言及されている配列が、細胞に導入された核酸コンストラクトなど、同じ連続的核酸分子の一部であることを意味する。「物理的に連結された」という用語は、本明細書で使用する場合、核酸配列について言及するときには、核酸配列が、例えば、細胞に導入された核酸コンストラクトなど、同じ連続的核酸分子の一部であるか、または、本発明の目的上、互いに対して200kb以内、概して、互いに対して100kb以内、互いに対して50kb以内、もしくは互いに対して25kb以内で、ゲノムDNA(例えば、染色体)上に配置されているかのいずれかであることを意味する。
【0060】
「浸透度」という用語は、遺伝学では、その表現型に影響を及ぼすことが知られている所定の遺伝子が遺伝学的に同一である生物で観察される表現型のばらつき変動性を示す目的で用いる。浸透度、すなわち、生物において形質が発現される程度の差は、個々の生物の遺伝的背景に依存し得るか、または、環境的要因もしくはエピジェネティックな要因の影響を受け得る。本願では、「浸透度」は、その形質転換遺伝子が同一であり、同じプロモーターに機能的に連結されている(同じプロモーターによって調節される)場合に、微生物または細胞に導入した遺伝子の発現レベルの差の有無を指す目的で使用する。単一の形質転換体から得られた細胞集団において、導入遺伝子の発現が不完全浸透性である場合、その導入遺伝子をバックグラウンドを上回るレベルでは発現しない亜集団が生じる。例えば、導入遺伝子が蛍光タンパク質をコードする場合、不完全浸透性は、フローサイトメトリーによって、典型的には、非形質転換細胞の自己蛍光ピークと一致する単一の蛍光ピークか、または2つの発現(蛍光強度)ピーク(そのうちの1つは、非形質転換細胞の自己蛍光ピークと一致しており、すなわち、形質転換集団の一部が導入遺伝子を発現していない)のいずれかとして観察できる。本発明をいずれかの特定の機構に限定することなく、導入遺伝子の発現差が観察されるのは、少なくとも部分的には、その遺伝子が組み込まれたゲノムの部位、例えば、クローン培養物全体にわたって導入遺伝子を一貫性なく発現させる「位置作用」(例えば、培養物全体にわたるいずれかの所定の時点における細胞の細胞周期ステージ、培養物全体にわたる細胞の栄養状況または環境状況、または未知のエピジェネティックな要因、確率的な要因、もしくは環境的要因に起因し得る)によるものと思われる。「完全浸透度での」発現は、導入遺伝子が蛍光タンパク質をコードする場合、フローサイトメトリーのヒストグラムにおいて、非形質転換細胞の自己蛍光ピークよりも大きい単一の蛍光強度ピークとして観察できる。
【0061】
「ポリヌクレオチド配列」及び「核酸配列」という用語は、本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチド分子の配列を同義的に指し、例えば、DNA配列またはRNA配列を指すことができる。37 CFR §1.822に定められているようなヌクレオチド塩基の命名法が、本明細書で用いられている。
【0062】
「プロモーター」とは、宿主細胞において転写を開始できるとともに、本発明のヌクレオチド配列またはそのフラグメントの転写を駆動または促進できる転写制御配列を指す。このようなプロモーターは、天然の配列のものである必要はない。加えて、このようなプロモーターは、目的の宿主細胞または宿主生物に由来する必要がないことが分かるであろう。
【0063】
「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では、同義的に使用するとともに、翻訳後修飾、例えば、リン酸化またはグルコシル化にかかわらず、2つ以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸類似体またはその他のペプチド模倣体の化合物を指す。これらのサブユニットは、ペプチド結合またはその他の結合(例えば、エステル結合もしくはエーテル結合など)によって連結されていてよい。完全長ポリペプチド、切断型ポリペプチド、点変異体、挿入変異体、スプライスバリアント、キメラタンパク質及びこれらのフラグメントが、この定義に含まれる。様々な実施形態において、ポリペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸、または少なくとも25個、または少なくとも50個、または少なくとも75個、または少なくとも100個、または少なくとも125個、または少なくとも150個、または少なくとも175個または少なくとも200個のアミノ酸を有することができる。
【0064】
本明細書で使用する場合、「子孫」とは、生物の子孫または誘導体を意味する。例えば、トランスジェニック藻に由来する娘細胞は、そのトランスジェニック藻の子孫である。継代においては、変異または環境的影響により、ある特定の改変が見られることがあるので、このような子孫または誘導体は、実際には、親細胞と同一ではないこともあるが、それでも、本明細書で使用する場合には、この用語の範囲に含まれる。
【0065】
「組み換えられた」または「操作された」という用語は、本明細書で使用する場合、核酸分子に関しては、人間の介入によって改変された核酸分子を指す。非限定例としては、インビトロポリメラーゼ反応によって生成されたか、リンカーが結合されたか、またはクローニングベクターもしくは発現ベクターのようなベクターに組み込まれたいずれかの核酸分子のように、cDNAは、組み換えDNA分子である。非限定例としては、組み換え核酸分子は、1)例えば、核酸分子の化学的もしくは酵素的技法を用いて(例えば、化学的な核酸合成の使用によって、または複製、高分子化、エキソヌクレアーゼ消化、エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、逆転写、転写、塩基修飾(例えば、メチル化を含む)もしくは組み換え(相同組み換えと部位指向性組み換えを含む)用の酵素の使用によって)、インビトロで合成または改変されたものであり、2)天然では結合されていない結合ヌクレオチド配列を含み、3)天然の核酸分子配列に対して、1つ以上のヌクレオチドが欠損するように、分子クローニング技法を用いて操作されたものであり、及び/あるいは4)天然の核酸配列に対して、1つ以上の配列の変化または転位を有するように、分子クローニング技法を用いて操作されたものである。「組み換えタンパク質」は、遺伝子操作、例えば、遺伝子操作された核酸分子の細胞内での発現によって生成したタンパク質である。
【0066】
「調節領域」、「調節配列」、「調節エレメント」または「調節エレメント配列」という用語は、本発明で使用する場合、転写または翻訳の開始または速度、ならびに転写産物または翻訳産物の安定性及び/または移動性に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。このような調節領域は、天然の配列のものである必要はない。調節配列としては、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答エレメント、タンパク質認識部位、誘導性エレメント、タンパク質結合配列、5’及び3’非翻訳領域(UTR)、転写開始部位、終結配列、ポリアデニル化配列、イントロン及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限らない。調節領域は典型的には、少なくともコア(基礎的な)プロモーターを含む。調節領域は、エンハンサー配列、上流エレメントまたは上流活性化領域(UAR)のような制御エレメントも少なくとも1つ含んでよい。
【0067】
本明細書で使用する場合、「合成的染色体コンストラクト」は、セントロメアと少なくとも1つのARSとを含むDNAコンストラクトである。「合成的染色体」という用語は、本明細書では、宿主細胞において、自律的に複製するとともに、正確に分離する合成的染色体コンストラクトを指す目的で使用する。「正確に分離する」とは、合成的染色体が、細胞分裂中に、2つの娘細胞に均等に分かれる(すなわち、セントロメアが宿主細胞内で活性化される)ことを意味する。
【0068】
本明細書で使用する場合、「トランスジェニック生物」とは、異種のポリヌクレオチドを含む生物を指す。生物に適用するときには、「トランスジェニック」、「組み換えられた」、「操作された」、または「遺伝子操作された」という用語は、本明細書では同義的に用いられており、外因性の核酸配列または組み換え核酸配列をその生物に組み込むことによって操作された生物を指す。概して、その異種のポリヌクレオチドは、ゲノム内に安定的に組み込まれていて、そのポリヌクレオチドが、後続の世代に受け継がれるようになっているが、エピソームに存在することもでき、そのトランスジェニック生物の合成的染色体に存在してもよい。非天然のポリヌクレオチドは、単独で、または組み換え発現カセットの一部として、ゲノムに組み込まれていてもよい。更なる例では、トランスジェニック微生物は、導入された外因性の調節配列であって、そのトランスジェニック微生物の内因性遺伝子に機能的に連結されている調節配列を含むことができる。このような操作の非限定例としては、遺伝子ノックアウト、標的変異及び遺伝子置換、プロモーター置換、欠失または挿入、ならびに導入遺伝子の生物への組み込みが挙げられる。組み換えたかまたは遺伝子操作された生物は、遺伝子「ノックダウン」用のコンストラクトが導入された生物であることもできる。このようなコンストラクトとしては、RNAi、マイクロRNA、shRNA、アンチセンス及びリボザイムコンストラクトが挙げられるが、これらに限らない。また、メガヌクレアーゼ、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼまたはCRISPRヌクレアーゼの活性によってゲノムが改変された生物も含まれる。本明細書で使用する場合、「組み換え微生物」または「組み換え宿主細胞」には、本発明の組み換え微生物の子孫または誘導体が含まれる。継代においては、変異または環境的影響のいずれかから、ある特定の改変が見られることがあるので、このような子孫または誘導体は、実際には、親細胞と同一ではないこともあるが、それでも、本明細書で使用する場合には、この用語の範囲に含まれる。
【0069】
核酸及びポリペプチドに関しては、「バリアント」という用語は、本明細書では、基準のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対する、そのバリアントの配列同一性が少なくとも70%となるように、それぞれ、基準のポリペプチドまたはポリヌクレオチドと比べて、合成的にまたは天然に生じたいくつかの差異を塩基配列またはアミノ酸配列に持つポリペプチド、タンパク質またはポリヌクレオチド分子を示す目的で使用する。他の実施形態では、基準のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対する、そのバリアントの配列同一性は、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%であることができる。この代わりにまたはこれに加えて、バリアントは、基準のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、1つ以上の挿入または欠失を有することができる。例えば、タンパク質バリアントは、基準配列に対して、N末端が切断されているか、またはC末端が切断されていてもよく、あるいは、1つ以上の内部欠損を有することができる一方で、核酸バリアントは、5’末端及び/もしくは3’末端配列のトランケーションを有してもよく、ならびに/または、1つ以上の内部欠損を有することができる。更に、タンパク質バリアントは、基準配列に対して、N末端及び/またはC末端に付加された追加の配列を有してよく、あるいは、1つ以上の内部追加配列を有することができる一方で、核酸バリアントは、5’末端及び/もしくは3’末端配列の付加を有することができ、ならびに/または1つ以上の内部配列の付加を有することができる。バリアントは、基準のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、置換、挿入及び/または欠失のいずれかの所望の組み合わせを有することができる。ポリペプチド及びタンパク質バリアントは更に、翻訳後修飾(グルコシル化、メチル化、リン酸化など)の差異を含むことができる。「バリアント」という用語を微生物に関して用いるときには、典型的には、その属する種の特徴が同定されている微生物株であって、親株に対して、少なくとも1つのヌクレオチド配列変異または同定可能に異なる形質を有し、その形質が、遺伝に基づく(遺伝性である)微生物株を指す。
【0070】
「ベクター」は、宿主細胞における外来のポリヌクレオチドの遺伝的移入、発現または複製の媒体として機能できるいずれかの遺伝的エレメントである。例えば、ベクターは、人工の染色体またはプラスミドであってよく、宿主細胞ゲノムに安定的に組み込むことができてよいか、または、独立した遺伝的エレメント(例えば、エピソーム、プラスミド)として存在してよい。ベクターは、1つのポリヌクレオチドとして、または2つ以上の別個のポリヌクレオチドとして存在してよい。ベクターは、宿主細胞に存在するとき、シングルコピーベクターまたはマルチコピーベクターであってよい。
【0071】
「RNA誘導型ヌクレアーゼ」は、本明細書では、CRISPRシステムの酵素を総称的に指す目的で使用し、言及されているそのヌクレアーゼは、部位特異的な形でDNAを加水分解し、その標的部位は、そのヌクレアーゼと相互作用するRNA分子によって決定される。RNA誘導型ヌクレアーゼの例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9、Cas10、Cbf1、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Cpf1、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、C2c1、C2c2、C2c3、これらのホモログ及びこれらの改変型が挙げられるが、これらに限らない。
【0072】
「CRISPRシステム」または「CRISPR-casシステム」とは、Cas9タンパク質もしくはそのバリアント、またはCasタンパク質をコードする核酸分子など(しかしこれらに限らない)のCasタンパク質とともに、遺伝子座を標的とし及び/または改変するのに必要な1つ以上のRNAを指す。例えば、CRISPR-casシステムは、Casタンパク質またはCasタンパク質をコードする核酸分子と、少なくとも1つのtracrRNA(「トランス活性化CRISPR RNA」)またはtracr RNAをコードする遺伝子と、少なくとも1つのcrRNA、すなわち「CRISPR RNA」、またはcrRNAをコードする遺伝子とを含むことができ、このcrRNAは、標的核酸配列に相同である配列を含む。crRNAは、tracrRNAとハイブリダイズできる「tracrメイト」配列を更に含んでよい。あるいは、CRISPRシステムは、casタンパク質(またはcasタンパク質をコードする遺伝子もしくは転写産物)と、tracrRNA配列とcrRNA配列の両方を含む遺伝子または転写産物とを含むことができる。tracr配列とcr(標的と相同な)配列の両方を含む1つのRNA分子は、本明細書では、「キメラガイドRNA」または単純に「ガイドRNA」という。crRNAまたはガイドRNAは、tracrメイト配列(内因性CRISPRシステムにおけるように、「ダイレクトリピート」及び/またはtracrRNAで処理される部分的ダイレクトリピートを含む)を更に含むことができる。いくつかの実施形態では、CRISPRシステムの1つ以上のエレメントは、タイプI、タイプIIまたはタイプIII CRISPRシステムに由来する。CRISPR-casシステムと、そのゲノム編集における利用は、Jinek et al.(2012)Science 337:816-821、Brouns(2012) Science 337:808、Gaj et al.(2013)Trends in Biotechnol.31:397-405、Hsu et al.(2013)Cell 157:1262-1278、Mali et al.(2013)Science 339:823-826、Qi et al.(2013)Cell 152:1173-1183、Walsh&Hochedlinger(2013)Proc Natl Acad Sci 110:155414-155515、Sander&Joung(2014)Nature Biotechnology、Sternberg et al.(2014) Nature 507:63-67、米国特許出願公開第2014/0068797号、米国特許第8,697,359号、米国特許出願公開第20140170753号、米国特許出願公開第20140179006号、米国特許第20140179770号、米国特許出願公開第20140186843号及び米国特許出願公開第20150045546号に開示されており、これらは全て、参照により、その全体が援用される。
【0073】
概して、CRISPRシステムは、標的配列の部位(内因性CRISPRシステムの関連においては、プロトスペーサーともいう)で、CRISPR複合体の形成を促すエレメントによって特徴付けられる。CRISPR複合体の形成の関連においては、「標的配列」とは、ガイド配列がその配列と相補性を有するように設計されている配列を指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションにより、CRISPR複合体の形成が促される。完全相補性は必ずしも必要ではなく、ハイブリダイズさせて、CRISPR複合体の形成を促すのに十分な相補性があればよい。標的配列は、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドのようないずれかのポリヌクレオチドを含んでよい。標的配列を含む標的遺伝子座への組み換えに用いてよい配列または鋳型は、「編集鋳型」または「編集配列」、「ドナー配列」または「ドナーDNA」という。本発明の態様では、外因性の鋳型ポリヌクレオチドは、ドナーDNA分子ということがある。
【0074】
本明細書で使用する場合、「メガヌクレアーゼ」(「ホーミングエンドヌクレアーゼ」としても知られている)は、少なくとも12塩基対の認識部位を有するエンドデオキシヌクレアーゼである。ホーミングエンドヌクレアーゼは、当該技術分野において周知である(例えば、Stoddard,Quarterly Reviews of Biophysics,2006,38:49-95)。ホーミングエンドヌクレアーゼは、DNA標的配列を認識し、一本鎖または二本鎖切断を引き起こす。ホーミングエンドヌクレアーゼは、特異性が高く、12~45塩基対(bp)長の範囲、通常は14~40bp長の範囲のDNA標的部位を認識する。このようなエンドヌクレアーゼの例としては、I-SceI、I-ChuI、I-CreI、I-CsmI、PI-Sce I、PI-TliI、PI-MtuI、I-CeuI、I-SceII、I-SceIII、HO、PI-CivI、PI-CtrI、PI-AaeI、PI-BsuI、PI-DhaI、PI-DraI、PI-MavI、PI-MchI、PI-MfuI、PI-MflI、PI-MgaI、PI-MgoI、PI-MinI、PI-MkaI、PI-MleI、PI-MmaI、PI-MshI、PI-MsmI、PI-MthI、PI-MtuI、PI-MxeI、PI-NpuI、PI-PfuI、PI-RmaI、PI-SpbI、PI-SspI、PI-FacI、PI-MjaI、PI-PhoI、PI-TagI、PI-ThyI、PI-TkoI、PI-TspI及びI-Msolが挙げられる。
【0075】
本明細書で使用する場合、「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」は、例えばメガヌクレアーゼまたは制限ヌクレアーゼFokIのような制限エンドヌクレアーゼに融合したジンクフィンガーDNA結合ドメインを含む、操作された制限酵素である。ジンクフィンガードメインは、特定のゲノム部位を標的とするための特定のDNA配列に結合するように操作することができる。
【0076】
「TALE」、すなわち「転写活性化因子様エフェクター」は、その中央のリピートドメイン内のアミノ酸の配列によって、DNA配列における特定の塩基を認識できるDNA結合タンパク質である。すなわち、TALEタンパク質は、特定のDNA配列と結合するように操作でき、「TALEN」、すなわち「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ」として、ヌクレアーゼドメイン(例えば、FokIヌクレアーゼ)に融合してよい。
【0077】
本明細書で言及されている全ての文献及び特許出願は、個々の文献及び特許出願がそれぞれ、参照により援用されることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、参照により、本明細書に援用される。
【0078】
いずれの参照も、先行技術を構成すると認めるものではない。参照文献の考察は、執筆者の主張するものを提示しており、本出願者は、引用文献の正確性と妥当性に異議を申し立てる権利を持っている。本明細書では、多くの先行技術文献に言及しているが、この言及により、これらの文献のいずれも、当該技術分野における周知の一般的知識の一部を形成すると認めることにはならないことは、明らかに分かるであろう。
【0079】
本明細書に示されている一般的な方法に関する考察は、例示することのみを意図している。他の代替的な方法と実施形態は、本開示を検討すれば、当業者には明らかであろう。
【0080】
CRISPRシステム
CRISPRシステムは、cas9ヌクレアーゼに加えて、標的部位配列との相補性によってゲノム標的部位と相互作用する標的化RNA(「crRNA」ということが多い)と、cas9ポリペプチドと複合体を形成するトランス活性化RNAとを含み、(相補性によって)標的化crRNAと結合する領域も含む。
【0081】
ヌクレアーゼ活性は、標的DNAを切断して、二本鎖切断を引き起こす。続いて、これらの切断部は、非相同末端結合と相同配向性修復という2つの方法のうちの1つで、細胞によって修復される。非相同末端結合(NHEJ)では、二本鎖切断は、切断末端を相互に直接ライゲーションすることによって修復される。このケースでは、この部位には新たな核酸物質は挿入されないが、いくつかの核酸物質が喪失することがあり、その結果、欠失する。相同配向性修復では、切断された標的DNA配列の修復用の鋳型として、切断された標的DNA配列に対する相同性を有するドナーポリヌクレオチドを使用し、その結果、ドナーポリヌクレオチドからの遺伝情報が標的DNAに移入される。すなわち、切断部位に新たな核酸物質を挿入/コピーすることができる。いくつかのケースでは、ドナーDNA、例えば、宿主細胞に導入したドナーDNAと標的DNAを接触させる。NHEJ及び/または相同配向性修復による標的DNAの改変により、例えば、遺伝子補正、遺伝子置換、遺伝子のタギング、導入遺伝子の挿入、ヌクレオチドの欠失、遺伝子破壊、遺伝子変異などをもたらすことができる。
【0082】
いくつかのケースでは、部位指向性改変ポリペプチドによるDNAの切断を用いて、標的DNA配列を切断して、外部から供給されるドナーポリヌクレオチドの非存在下で、その配列を細胞に修復させることによって、核酸物質を標的DNA配列から欠損させてよい。
【0083】
あるいは、DNA標的化RNAとcasポリペプチドをドナーDNAとともに、同時に細胞に与える場合には、本主題の方法を用いて、核酸物質を標的DNA配列に付加、すなわち、挿入または置換して(例えば、挿入突然変異によって「ノックアウト」するか、またはタンパク質、siRNA、miRNAなどをコードする核酸を「ノックイン」して)、タグ(例えば、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質など)、ヘマグルチニン(HA)、FLAGなど)を付加したり、調節配列(例えば、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入配列(IRES)、2Aペプチド、開始コドン、終止コドン、スプライスシグナル、局在化シグナルなど)を遺伝子に付加したり、核酸配列を改変したり(例えば、変異を導入する)などしてよい。
【0084】
本発明は、ゲノム編集用に宿主菌株に共形質転換できる2つのRNA分子(「crRNA」と「tracrRNA」)の使用、または、本明細書において実施例に開示されているように、標的配列に相補的な配列と、cas9タンパク質と相互作用する配列とを含むシングルガイドRNAの使用を想定している。すなわち、本発明で用いるCRISPRシステムは、2つの別個のRNA分子(「アクチベーターRNA」と「ターゲッターRNA」というRNAポリヌクレオチド。下記を参照)を含むことができ、本明細書では、「二重分子型DNA標的化RNA」または「二分子型DNA標的化RNA」という。あるいは、実施例に示されているように、DNA標的化RNAは、1つのRNA分子(1つのRNAポリヌクレオチド)であることができ、本明細書では、「キメラガイドRNA」、「シングルガイドRNA」または「sgRNA」という。「DNA標的化RNA」または「gRNA」という用語は、包含的であり、二重分子型DNA標的化RNAと、一分子型DNA標的化RNA(すなわち、sgRNA)の両方を指す。
【0085】
例示的な二分子型DNA標的化RNAは、crRNA様(「CRISPR RNA」または「ターゲッターRNA」または「crRNA」または「crRNAリピート」)分子と、対応するtracrRNA様(「トランス活性化CRISPR RNA」または「アクチベーターRNA」または「tracrRNA」)分子を含む。crRNA様分子(ターゲッターRNA)は、DNA標的化RNAのDNA標的化セグメント(一本鎖)と、DNA標的化RNAのタンパク質結合セグメントのdsRNAの二重鎖の片方を形成する一連のヌクレオチド(「二重鎖形成セグメント」)の両方を含む。対応するtracrRNA様分子(アクチベーターRNA)は、DNA標的化RNAのタンパク質結合セグメントのdsRNAの二重鎖のもう片方を形成する一連のヌクレオチド(二重鎖形成セグメント)を含む。換言すると、crRNA様分子の一連のヌクレオチドは、tracrRNA様分子の一連のヌクレオチドと相補的であり、tracrRNA様分子の一連のヌクレオチドとハイブリダイズして、DNA標的化RNAのタンパク質結合ドメインのdsRNAの二重鎖を形成する。すなわち、各crRNA様分子は、対応するtracrRNA様分子を有するということができる。加えて、crRNA様分子は、一本鎖DNA標的化セグメントを備える。したがって、crRNA様分子とtracrRNA様分子は、(対応する対として)ハイブリダイズして、DNA標的化RNAを形成する。所定のcrRNAまたはtracrRNA分子の正確な配列は、そのRNA分子が見られる種に特有のものである。
【0086】
「アクチベーターRNA」という用語は、本明細書では、二重分子型DNA標的化RNAのtracrRNA様分子を意味するものとして使用する。「ターゲッターRNA」という用語は、本明細書では、二重分子型DNA標的化RNAのcrRNA様分子を意味するものとして使用する。「二重鎖形成セグメント」という用語は、本明細書では、対応するアクチベーターRNAまたはターゲッターRNA分子の一連のヌクレオチドにハイブリダイズすることによって、dsRNAの二重鎖の形成に寄与するアクチベーターRNAまたはターゲッターRNAの一連のヌクレオチドを意味するものとして使用する。換言すると、アクチベーターRNAは、対応するターゲッターRNAの二重鎖形成セグメントに相補的である二重鎖形成セグメントを含む。すなわち、アクチベーターRNAは、二重鎖形成セグメントを含む一方で、ターゲッターRNAは、二重鎖形成セグメントと、DNA標的化RNAのDNA標的化セグメントの両方を含む。したがって、本主題の二重分子型DNA標的化RNAは、いずれかの対応するアクチベーターRNAおよびターゲッターRNAのペアから構成できる。
【0087】
「宿主細胞」とは、本明細書で使用する場合、インビボまたはインビトロの真核細胞、原核細胞(例えば、細菌細胞もしくは古細菌細胞)、または単細胞体として培養した多細胞生物細胞(例えば細胞株)であって、その真核細胞もしくは原核細胞を核酸の受容細胞として使用できるか、または使用したものを示す。「宿主細胞」には、核酸によって形質転換した、元の細胞の子孫も含まれる。1つの細胞の子孫は、自然変異、偶発的変異または意図的な変異により、必ずしも形態、またはゲノムもしくは全DNA相補物が、元の親細胞と完全に同一でなくてもよいことが分かる。「組み換え宿主細胞」(「遺伝子改変宿主細胞」ともいう)は、外因性の核酸、例えば、発現カセットまたはベクターが導入された宿主細胞である。
【0088】
一分子型ガイドRNAと2つのRNAシステムの両方については、参照により本明細書に援用される文献、例えばUS20140068797に詳細に説明されている。2つ以上のcas9タンパク質由来のドメインを兼ね備えてよいキメラCas9タンパク質と、同定されているcas9タンパク質のバリアント及び変異体を含め、いずれかのCas9タンパク質を本発明の方法で用いることができる(例えば、US20140068797に配列番号1~256及び795~1346として示されているcas9タンパク質を参照されたい)。
【0089】
例えば、Cas9ポリペプチドの変異体の1つは、標的DNAの相補鎖を切断できるが、標的DNAの非相補鎖を切断する能力が低下している(その結果、二本鎖切断(DSB)ではなく、一本鎖切断(SSB)が行われる)D10A(10位のアミノ酸におけるアスパルテートからアラニンへの)変異(または、US20140068797の配列番号1~256及び795~1346に示されているタンパク質のいずれかの、対応する変異)である。いくつかの実施形態では、Cas9ポリペプチドの改変形態は、標的DNAの非相補鎖を切断できるが、標的DNAの相補鎖を切断する能力が低下している(その結果、DSBの代わりに、SSBが行われる)H840A(840位のアミノ酸におけるヒスチジンからアラニンへの)変異(または、配列番号1~256及び795~1346に示されているタンパク質のいずれかの、対応する変異)である。Cas9のD10AまたはH840Aバリアント(または、US20140068797の配列番号1~256及び795~1346として示されているタンパク質のいずれかの、対応する変異)の使用により、予想される生物学的結果を変化させることができる。SSBではなく、DSBが存在すると、非相同末端結合(NHEJ)が行われる可能性がかなり高くなるからである。他の残基を変異させて、同じ効果を得る(すなわち、一方または他方のヌクレアーゼ部分を不活性化する)ことができる。非限定例として、D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986及び/もしくはA987の残基(または、配列番号1~256及び795~1346として示されているタンパク質のいずれかの、対応する変異)を変更する(すなわち、置換する)ことができる(Cas9アミノ酸残基の保存性に関する更なる情報については、図3図5図11A及び表1を参照されたい)。また、アラニン置換以外の変異も好適である。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチド(例えば、部位指向性改変ポリペプチド)の触媒活性が低下しているときには(例えば、Cas9タンパク質が、D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、及び/またはA987の変異、例えば、D10A、G12A、G17A、E762A、H840A、N854A、N863A、H982A、H983A、A984A及び/またはD986Aを有するときには)、そのポリペプチドは、DNA標的化RNAと相互作用する能力を保持している限りは、依然として、部位特異的な形で標的DNAに結合できる(依然として、DNA標的化RNAによって、標的DNA配列に誘導されるからである)。
いくつかの例では、Cas9ポリペプチドが標的DNAの相補鎖と非相補鎖の両方を切断する能力が低下するように、Cas9ポリペプチドの改変形態は、D10A変異とH840A変異の両方(または、US20140068797の配列番号1~256及び795~1346として示されているタンパク質のいずれかの、対応する変異)を有する(すなわち、そのバリアントは、実質的に、ヌクレアーゼ活性を有さないことができる)。
【0090】
Casタンパク質
宿主細胞に導入された核酸分子によってコードされるCasタンパク質は、例えば、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても知られる)、Cas10、Cpf1、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、C2c1、C2c2、C2c3、これらのホモログまたはこれらの改変型のようないずれかのcasタンパク質であることができる。非限定例として、Casタンパク質は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(S.pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(S.pneumonia)またはナイセリア・メニンジティディス(Neisseria meningitidis)のCas9タンパク質のようなCas9タンパク質であることができる。Cas9酵素は、標的配列内及び/または標的配列の相補物内などの標的配列の位置で、DNAの一方または両方の鎖を切断できる。例えば、cas9酵素は、標的配列の最初または最後のヌクレオチドから約1塩基対、2塩基対、3塩基対、4塩基対、5塩基対、6塩基対、7塩基対、8塩基対、9塩基対、10塩基対、15塩基対、20塩基対、25塩基対、50塩基対、100塩基対または200塩基対以内で、一方または両方の鎖の切断を方向づけることができる。
【0091】
いくつかの例では、変異cas9酵素が、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を切断する能力が欠損するように、高効率ゲノム編集用細胞株を産生させるために宿主細胞に導入した核酸分子は、対応する野生型酵素と比べて変異しているcas9酵素をコードする。例えば、S.pyogenes由来のCas9の触媒ドメインRuvC Iにおけるアスパルテートからアラニンへの置換(D10A)により、Cas9が、両方の鎖を切断するヌクレアーゼから、ニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換される。Cas9をニッカーゼにする変異の他の例としては、H840A、N854A及びN863Aが挙げられるが、これらに限らない。いくつかの実施形態では、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えば、DNA標的のセンス鎖とアンチセンス鎖をそれぞれ標的とする2つのガイド配列と組み合わせて用いてよい。この組み合わせにより、両方の鎖にニックを入れて、NHEJを誘導するのに用いることができるようになる。2つのニッカーゼ標的(近接範囲内であるが、DNAの異なる鎖を標的とする)を用いて、変異原性のNHEJを誘導できる。対向鎖をずれた位置で切断する酵素を用いて、遺伝子座をこのように標的化すると、標的外での切断を低減することもできる。ゲノム変異を実現するには、両方の鎖は、正確かつ特異的に切断しなければならないのである。
【0092】
更なる例としては、Cas9の2つ以上の触媒ドメイン(RuvC I、RuvC II及びRuvC III)を変異させて、実質的に全てのDNA切断活性が欠損している変異Cas9を産生させてよい。いくつかの実施形態では、D10A変異をH840A、N854AまたはN863A変異の1つ以上と組み合わせて、実質的に全てのDNA切断活性が欠損しているCas9酵素を産生させる。いくつかの実施形態では、CRISPR酵素は、その変異酵素のDNA切断活性が、その非変異体に対して約25%未満、10%未満、5%未満、1%未満、0.1%未満、0.01%未満であるか、またはそれよりも低いときに、実質的に全てのDNA切断活性が欠損しているとみなす。他の変異が有用である場合もあり、その場合、Cas9またはその他のCRISPR酵素は、S.pyogenes以外の種に由来し、対応するアミノ酸の変異を行って、同様の効果を得てよい。
【0093】
いくつかのケースでは、バリアントCas9の部位指向性ポリペプチドは、融合ポリペプチド(「バリアントCas9融合ポリペプチド」)であり、すなわち、i)バリアントCas9の部位指向性ポリペプチドと、b)共有結合している異種のポリペプチド(「融合パートナー」ともいう)とを含む融合ポリペプチドである。異種の核酸配列を、別の核酸配列に(例えば、遺伝子操作によって)連結させて、キメラポリペプチドをコードするキメラヌクレオチド配列を生成してよい。いくつかの実施形態では、バリアントCas9融合ポリペプチドは、細胞内に局在化させる異種の配列(すなわち、この異種の配列は、細胞内局在化配列、例えば、核に導く核局在化シグナル(NLS)、ミトコンドリアに導くミトコンドリア局在化シグナル、葉緑体に導く葉緑体局在化シグナル、ER
保留シグナルなどである)と、バリアントCas9ポリペプチドを融合することによって生成する。いくつかの実施形態では、この異種の配列は、トラッキング及び/または精製をしやすくするためのタグをもたらすことができる(すなわち、異種の配列は、検出可能な標識である)(例えば、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomatoなど)、ヘマグルチニン(HA)タグ、FLAGタグ、Mycタグなど)。いくつかの実施形態では、RNA誘導型ヌクレアーゼは、宿主細胞での最適な発現用にコドン最適化できる。
【0094】
高効率ゲノム編集用の宿主細胞
本発明では、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを発現するとともに、ゲノム編集効率が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%または少なくとも80%である細胞株と微生物株を含む宿主細胞を提供する。ゲノム編集効率は、ドナーDNAで形質転換されている細胞であって、標的遺伝子座で改変される細胞の割合である。典型的には、その編集コンストラクトを受容する細胞を選択できるように、ドナーDNA(編集DNAともいう)は、選択可能マーカーを含む。改変された標的遺伝子座を有する選択済み形質転換体の割合は、その細胞株または株におけるゲノム編集効率を表す。
【0095】
特定の遺伝子座を標的とすることは、キメラガイド(宿主ゲノム内の標的部位に対して相同性を有するcrRNA配列に加えて、RNA誘導型エンドヌクレアーゼと相互作用するtracrRNA配列を含む)またはゲノム標的部位と相同である、約16~約20ヌクレオチドの配列を含むとともに、tracrRNAと相互作用する配列(「tracrメイト配列」)も含むcrRNAのいずれかであることもできるガイドRNAを細胞に共形質転換することによって行われる。あるいは、発現コンストラクトを宿主細胞に形質転換することによって、キメラガイドRNAまたはcrRNA+tracrRNAを宿主細胞において発現させることができる。別の変形形態では、宿主細胞は、その細胞内に操作されたコンストラクトからtracrRNAを発現でき、標的化crRNAをその細胞に形質転換でき、例えば、crRNAは、ドナーDNAとともに、宿主細胞に共形質転換できる。
【0096】
導入したRNA誘導型エンドヌクレアーゼ遺伝子を完全浸透性で、すなわち培養物全体にわたって発現する細胞株と株を単離することによって、これらの高い効率を得ることができることを本発明者は発見した。RNA誘導型エンドヌクレアーゼ遺伝子、例えば、タイプII Cas遺伝子(Cas9遺伝子など)を完全浸透度で発現させる宿主株は、同じコンストラクト上で、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子を、検出可能マーカー(蛍光タンパク質など)をコードする遺伝子とともに細胞集団に導入し、物理的に連結された検出可能マーカー遺伝子の発現レベルを評価することによって単離できる。RNA誘導型エンドヌクレアーゼ、例えばCas9をコードする遺伝子を含むとともに、蛍光タンパク質をコードする遺伝子も含むコンストラクトで形質転換した細胞株または微生物株を、フローサイトメトリーによって解析する。1つの蛍光強度ピークを示す形質転換細胞株であって、フローサイトメトリーのヒストグラム上のその1つの蛍光ピークの蛍光レベルが、対照細胞(蛍光タンパク質遺伝子を持たない細胞)の示すピークよりも高い形質転換細胞株を、完全浸透性の細胞株として同定する。
【0097】
本明細書における実施例に示されているように、1つの形質転換コロニーに由来する細胞培養物のフローサイトメトリーから得られるヒストグラム(蛍光がx軸に、典型的には対数スケールで示されており、細胞数がy軸に示されている)には、その培養物における発現レベルの分布が示されている。蛍光タンパク質遺伝子を発現しない対照細胞(例えば、非形質転換細胞)であって、バックグラウンド(自己蛍光)レベルで単一のピークを示す細胞の蛍光レベルと比べると、形質転換細胞株は、対照細胞のピークと一致する単一のピークを示すことができる(その細胞株が、非発現体であることを示す)か、または、2つのピークを示すことができ、そのうちの1つは、対照細胞のピークと一致する(その細胞株が、蛍光タンパク質遺伝子の発現に関して完全浸透性ではないことを示す)ことが分かっている。本発明における実施例では、GFP導入遺伝子に物理的に連結している導入遺伝子(例えば、Cas9、Creリコンビナーゼ、タイプI FAS、ZnCys-2845RNAi)の発現は、その連結GFP遺伝子が完全浸透度での発現を示すと、完全浸透度での発現を示すことが示されている。
【0098】
完全浸透性の細胞株または株の単離方法では、独立した形質転換イベントに由来する細胞集団ではなく、クローン細胞株または株を解析する。フローサイトメトリー法には、単一クローンに由来する、解析細胞培養物の亜集団の選択は含まれない。すなわち、様々な好ましい実施形態における方法は、セルソーティングを含まない。
【0099】
導入遺伝子を完全浸透度で発現する細胞株または微生物株の同定方法を用いて、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを完全浸透度で発現する細胞株または株を同定できる。
【0100】
標的細胞
本明細書に示されている方法を用いて、インビボ及び/またはエキソビボ及び/またはインビトロで、有糸分裂細胞または分裂終了細胞におけるDNAの切断、DNAの改変及び/または転写調節を誘導してよい(例えば、個体に再導入できる遺伝子改変細胞を生成してよい)。DNA標的化RNAは、標的DNAにハイブリダイズすることによって、特異性をもたらすので、開示されている方法において対象となる有糸分裂細胞及び/または分裂終了細胞は、いずれかの生物由来の細胞(例えば、細菌細胞、古細菌細胞、単細胞真核生物の細胞、植物細胞、藻類細胞、真菌細胞(例えば、酵母細胞)、動物細胞、無脊椎動物(例えば、ミバエ、刺胞動物、棘皮動物、線虫類など)由来の細胞、脊柱動物(例えば、魚類、両生動物、爬虫類、鳥類、哺乳動物)由来の細胞、哺乳動物由来の細胞、齧歯類由来の細胞、ヒト由来の細胞など)を含んでよい。
【0101】
いずれかのタイプの細胞を対象としてよい(例えば、幹細胞(例えば、胚幹(ES)細胞、誘導多能性幹(iPS)細胞、生殖細胞)、体細胞(例えば、線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、肝細胞、膵臓細胞)、いずれかの段階における胚のインビトロまたはインビボ胚細胞(例えば、1細胞期、2細胞期、4細胞期、8細胞期などのゼブラフィッシュ胚)など)。細胞は、樹立細胞株由来であってよく、あるいは、初代細胞であってよく、「初代細胞」、「初代細胞株」及び「初代培養物」は、本明細書では、対象から得たとともに、限られた継代数、すなわち分裂数の培養でインビトロ増殖できる細胞及び細胞培養物を指す目的で同義的に使用する。例えば、初代培養物は、0回、1回、2回、4回、5回、10回または15回継代したものであってよいが、クライシス期を経るのに十分な回数ではない培養物である。典型的には、本発明の初代細胞株は、インビトロで10継代未満維持される。標的細胞は、多くの実施形態では、単細胞生物であり、または培養物中で増殖させる。
【0102】
ゲノム改変用の宿主細胞は、植物細胞、動物細胞または微生物細胞であることができるとともに、任意で、藻類細胞(アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Ellipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、Halocafeteria、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パブロバ(Pavlova)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パスケリア(Pascheria)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(Pseudochlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属またはボルボックス(Volvox)属の種の細胞など)であってよい。
【0103】
例示的な珪藻としては、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフォラ(Amphora)属、キートケロス(Chaetoceros)属、Coscinodiscus属、Cylindrotheca属、キクロテラ(Cyclotella)属、Cymbella属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、ハンチア(Hantzschia)属、ナビクラ(Navicula)属、ニッチア(Nitzschia)属、シュードニッチア(Pseudo-Nitzschia)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、Psammodictyon属、スケレトネマ(Skeletonema)属、Thalassionema属及びタラシオシラ(Thalassiosira)属のメンバーが挙げられる。本明細書に示されているような合成的染色体コンストラクトと合成的染色体のための宿主であってよいユースティグマトファイトの例としては、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の種のみならず、モノダス(Monodus)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ヴィシェリア(Vischeria)属及びユースチグマトス(Eustigmatos)属の種も挙げられる。いくつかの例では、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属(N.ガディタナ(N.gaditana)、N.granulata、N.limnetica、N.oceanica、N.oculata及びN.salinaなどがあるが、これらに限らない)の種の藻が、本明細書に示されているような合成的染色体コンストラクトで形質転換されている。
【0104】
この代わりにまたはこれに加えて、本発明の合成的染色体コンストラクトまたは合成的染色体を含む宿主細胞は、任意で、不等毛類細胞、動物細胞、植物細胞、酵母細胞、真菌細胞または原生生物であってよい。例えば、不等毛類としては、上に列挙されているようなユースティグマトファイトと珪藻のみならず、ラビリンチュリッド及びスラウストキトリッドを含むツボカビ種も挙げられる。いくつかの例では、本発明で使用されることが検討される不等毛類の種としては、珪藻類、ユースティグマトファイト、ラビリンチュリッド及びスラウストキトリッドが挙げられるがこれらに限らない。いくつかの例では、株は、ラビリンチュラ(Labryinthula)属、ラビリンチュロイデス(Labryinthuloides)属、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、アプラノキトリウム(Aplanochytrium)属、アウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属、ジャポノキトリウム(Japonochytrium)属、ディプロフリス(Diplophrys)属またはウルケニア(Ulkenia)属の種であってよい。例えば、株は、トラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、オブロンギキトリウム(Oblongichytrium)属またはアウランチオキトリウム(Aurantiochytrium)属の種であってよい。
【0105】
原核生物の宿主細胞も考えられ、例えば、宿主細胞は、古細菌、シアノバクテリア、緑色硫黄細菌(例えばChlorobium)、緑色非硫黄細菌、紅色硫黄細菌もしくは紅色非硫黄細菌の群のいずれか、またはアルスロバクター(Arthrobacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、バシラス(Bacillus)属、ブレビバクテリア(Brevibacteria)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリア(Corynebacteria)属、デスルフォビブリオ(Desulfovibrio)属、ジェオトガリコッカス(Jeotgalicoccus)属、キネオコッカス(Kineococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属、パントエア(Pantoea)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属、ロドスピリラム(Rhodospirillium)属、ロドミクロビウム(Rhodomicrobium)属、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)属、ビブリオ(Vibrio)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属もしくはザイモモナス(Zymomonas)属のいずれかに属する種のものであることができる。
【0106】
宿主細胞は、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ピキア(Pichia)属、プルラリア(Pullularia)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、ヤロウイア(Yarrowia)属の群のいずれかの細胞であることができ、あるいは、メソミセトゾア(例えば、Sphaeroforma)、不等毛類または藻の細胞であることができる。
【0107】
藻の宿主細胞は、任意で、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフィプローラ(Amphiprora)属、アンフォラ(Amphora)属、アンキストロデスムス(Ankistrodesmus)属、アステロモナス(Asteromonas)属、ボエケロビア(Boekelovia)属、ボリドモナス(Bolidomonas)属、ボロジネラ(Borodinella)属、フウセンモ(Botrydium)属、ボトリオコッカス(Botryococcus)属、ブラクテオコッカス(Bracteococcus)属、キートケロス(Chaetoceros)属、カルテリア(Carteria)属、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、クロロコックム(Chlorococcum)属、クロロゴニウム(Chlorogonium)属、クロレラ(Chlorella)属、クロオモナス(Chroomonas)属、クリソスファエラ(Chrysosphaera)属、クリコスフェラ(Cricosphaera)属、クリプテコディニウム(Crypthecodinium)属、クリプトモナス(Cryptomonas)属、キクロテラ(Cyclotella)属、デスモデスムス(Desmodesmus)属、ドナリエラ(Dunaliella)属、エリプソイドン(Elipsoidon)属、エミリアニア(Emiliania)属、エレモスファエラ(Eremosphaera)属、エルノデスミウス(Ernodesmius)属、ユーグレナ(Euglena)属、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、フランケイア(Franceia)属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilaropsis)属、グロエオサムニオン(Gloeothamnion)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属、ハンチア(Hantzschia)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属、ヒメノモナス(Hymenomonas)属、イソクリシス(Isochrysis)属、レポシンクリス(Lepocinclis)属、ミクラクチニウム(Micractinium)属、モノダス(Monodus)属、モノラフィディウム(Monoraphidium)属、ナンノクロリス(Nannochloris)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、ナビクラ(Navicula)属、ネオクロリス(Neochloris)属、ネフロクロリス(Nephrochloris)属、ネフロセルミス(Nephroselmis)属、ニッチア(Nitzschia)属、オクロモナス(Ochromonas)属、サヤミドロ(Oedogonium)属、オオキスティス(Oocystis)属、オストレオコッカス(Ostreococcus)属、パラクロレラ(Parachlorella)属、パリエトクロリス(Parietochloris)属、パスケリア(Pascheria)属、パブロバ(Pavlova)属、ペラゴモナス(Pelagomonas)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、ファガス(Phagus)属、ピコクロラム(Picochlorum)属、プラチモナス(Platymonas)属、プレウロクリシス(Pleurochrysis)属、プレウロコッカス(Pleurococcus)属、プロトテカ(Prototheca)属、シュードクロレラ(Pseudochlorella)属、シュードネオクロリス(Pseudoneochloris)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、ピラミモナス(Pyramimonas)属、ピロボトリス(Pyrobotrys)属、セネデスムス(Scenedesmus)属、シゾクラミデラ(Schizochlamydella)属、スケレトネマ(Skeletonema)属、スピロギラ(Spyrogyra)属、スチココッカス(Stichococcus)属、テトラクロレラ(Tetrachlorella)属、テトラセルミス(Tetraselmis)属、タラシオシラ(Thalassiosira)属、トリボネマ(Tribonema)属、フシナシミドロ(Vaucheria)属、ビリジエラ(Viridiella)属、ヴィシェリア(Vischeria)属、及びボルボックス(Volvox)属からなる群より選択される属のものであることができる。
【0108】
例えば、本明細書に示されているようなCas9発現宿主は、珪藻(例えば、アクナンテス(Achnanthes)属、アンフォラ(Amphora)属、キートケロス(Chaetoceros)属、Coscinodiscus属、Cylindrotheca属、キクロテラ(Cyclotella)属、Cymbella属、フラジラリア(Fragilaria)属、フラジラリオプシス(Fragilariopsis)属、ハンチア(Hantzschia)属、ナビクラ(Navicula)属、ニッチア(Nitzschia)属、パブロバ(Pavlova)属、シュードニッチア(Pseudo-Nitzschia)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、Psammodictyon属、スケレトネマ(Skeletonema)属、Thalassionema属及びタラシオシラ(Thalassiosira)属のいずれかの一種など)であることができる。高効率なcas9エディター株であることができるユースティグマトファイトとしては、ユースチグマトス(Eustigmatos)属、モノダス(Monodus)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、シュードスタウラストルム(Pseudostaurastrum)属、及びヴィシェリア(Vischeria)属の種が挙げられるが、これらに限らない。例えば、本明細書に開示されているような遺伝子改変または核酸単離用の微生物としては、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属のメンバーが挙げられる。好適な種としては、N.ガディタナ(N.gaditana)、N.granulata、N.limnetica、N.maritime、N.oceanica、N.oculata及びN.salinaが挙げられるが、これらに限らない。ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属のいくつかの好ましい種としては、N.ガディタナ(N.gaditana)、N.oceanica、N.oculata及びN.salinaが挙げられるが、これらに限らない。
【0109】
対象となってよい他のタイプの細胞としては、例えば、幹細胞(例えば、胚幹(ES)細胞、誘導多能性幹(iPS)細胞、生殖細胞)、体細胞(例えば、線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、肝細胞、膵臓細胞)、いずれかの段階における胚のインビトロまたはインビボ胚細胞(例えば、1細胞期、2細胞期、4細胞期、8細胞期などのゼブラフィッシュ胚など)が挙げられる。細胞は、樹立細胞株由来であってよく、あるいは、初代細胞であってよく、「初代細胞」、「初代細胞株」及び「初代培養物」は、本明細書では、対象に由来するとともに、限られた継代数、すなわち分裂数の培養でインビトロ増殖できる細胞及び細胞培養物を指す目的で同義的に使用する。例えば、初代培養物は、0回、1回、2回、4回、5回、10回または15回継代したものであってよいが、クライシス期を経るのに十分な回数ではない培養物である。初代細胞株は、インビトロで10継代未満維持することができる。標的細胞は、多くの実施形態では、単細胞生物であり、または培養物中で増殖させる。
【0110】
細胞が初代細胞である場合、その細胞は、いずれかの利便的な方法によって、個体から採取してよい。例えば、白血球は、アフェレーシス、白血球除去療法、密度勾配分離などによって、利便的に採取できる一方で、皮膚、筋肉、骨髄、脾臓、肝臓、膵臓、肺、腸、胃などの組織に由来する細胞は、最も利便的には、生検によって採取する。採取した細胞の分散または懸濁には、適切な溶液を用いてよい。このような溶液は概ね、低濃度、例えば5~25mMの許容可能なバッファーと併せて、ウシ胎児血清または他の天然の因子を利便的に添加した平衡塩類溶液、例えば、通常生理食塩溶液、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液などとなる。利便的なバッファーとしては、HEPES、リン酸バッファー、乳酸バッファーなどが挙げられる。細胞は、すぐに用いても、長期間にわたって保管、凍結し、解凍し、再利用できてもよい。このようなケースでは、細胞は通常、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)、50%血清、40%緩衝化媒体またはこのように凍結する温度で細胞を保存する目的で、当該技術分野において一般に用いられているいずれかの他の同様の溶液中で凍結し、凍結培養細胞を解凍するためとして当該技術分野で広く知られているような形式で解凍される。
【0111】
核酸の宿主細胞への導入
DNA標的化RNA、またはトランス活性化RNA(tracrRNA)、キメラガイドRNA(キメラgRNA)もしくはゲノム遺伝子座を標的とするcrispr RNA(crRNA)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、様々な周知の方法のいずれかによって、宿主細胞に導入できる。Casポリペプチド(Cas9ポリペプチドなど)またはそのバリアントをコードする遺伝子など、RNAガイドエンドヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸の宿主細胞への導入は、様々な周知の方法のいずれかによるものであることができる。
【0112】
核酸の宿主細胞への導入方法は、当該技術分野において周知であり、いずれかの既知の方法を用いて、核酸(例えば発現コンストラクト)を幹細胞、前駆細胞、細胞株、初代細胞または微生物細胞に導入できる。好適な方法としては、例えばウイルスまたはバクテリオファージ感染、トランスフェクション、コンジュゲーション、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)仲介トランスフェクション、DEAE-デキストラン仲介トランスフェクション、リポソーム仲介トランスフェクション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子仲介核酸送達(例えば、Panyam et.,al Adv Drug Deliv Rev.2012 Sep.13. pii:50169-409X(12)00283-9.doi:10.1016/j.addr.2012.09.023を参照されたい)などが挙げられる。
【0113】
遺伝子形質転換により、導入遺伝子またはtracrRNAの安定した挿入及び/または発現を実現でき、いくつかのケースでは、導入遺伝子、tracrRNAまたはガイドRNAの一過性発現を実現できる。編集(ドナー)DNAの導入にも、形質転換法を用いることができる。藻類を含む微生物で使用できる形質転換法の非限定例としては、例えば、Dunahay,Biotechniques,15(3):452-460,1993、Kindle,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1990、Michael and Miller,Plant J.,13,427-435,1998に報告されているような、ガラスビーズまたは炭化ケイ素ウィスカーの存在下での細胞の攪拌が挙げられる。ナンノクロロプシス(Nannochloropsis sp.)属(例えば、Chen et al.,J.Phycol.,44:768-76,2008を参照されたい)、クロレラ属(Chlorella sp.)(例えば、Chen et al.,Curr.Genet.,39:365-370,2001、Chow and Tung,Plant Cell Rep.Vol.18,No.9,778-780,1999を参照されたい)、クラミドモナス(Chlamydomonas)属(Shimogawara et al.,Genetics,148:1821-1828,1998)、ドナリエラ(Dunaliella)属(Sun et al.,Mol.Biotechnol.,30(3):185-192,2005)を含むいくつかの微細藻類種の遺伝形質転換に、エレクトロポレーション技法が良好に用いられてきている。例えば、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属(Apt et al.,Mol.Gen.Genet.,252:572-579,1996)、キクロテラ(Cyclotella)属及びナビクラ(Navicula)属(Dunahay et al.,J.Phycol.,31:1004-1012,1995)、Cylindrotheca(Fischer et al.,J.Phycol.,35:113-120,1999)、ならびにキートケロス属(Chaetoceros sp.)(Miyagawa-Yamaguchi et al.,Phycol.Res.59:113-119,2011)のような珪藻種と、クロレラ(Chlorella)属(El-Sheekh,Biologia Plantarum,Vol.42,No.2:209-216,1999)及びボルボックス(Volvox)種(Jakobiak et al.,Protist,155:381-93,2004)のような緑藻種とを含むいくつかの藻類種には、マイクロプロジェクタイルボンバードメント(微粒子ボンバードメント、遺伝子銃形質転換またはバイオリスティックボンバードメントともいう)が良好に用いられてきている。加えて、例えば、Kumar,Plant Sci.,166(3):731-738,2004及びCheney et al.,J.Phycol.,Vol.37,Suppl.11,2001によって報告されているように、微細藻類の遺伝子形質転換には、Agrobacterium仲介遺伝子移入技法も有用であり得る。
【0114】
本明細書に記載されているような形質転換ベクターもしくはコンストラクト、及び/または本明細書に開示されている方法で用いられているようなドナー(編集)DNAは典型的には、目的の宿主細胞に選択可能またはスコア化可能な表現型を付与するマーカー遺伝子を含むことになる。一般的な選択可能マーカーとしては、抗生物質耐性の蛍光マーカー及び生化学的マーカーが挙げられ、一般的な選択可能マーカーは、当該技術分野において周知である。微細藻類の形質転換体の選択には、ブラストサイジン、ブレオマイシン(例えば、Aptらによる上記の1996年の文献、Fischerらによる上記の1999年の文献、Fuhrmann et al.,Plant J.,19, 353-61,1999、Lumbreras et al.,Plant J.,14(4):441-447,1998、Zaslavskaia et al.,J.Phycol.,36:379-386,2000を参照されたい)、スペクチノマイシン(Cerutti et al.,Genetics,145:97-110,1997、Doetsch et al.,Curr.Genet.,39,49-60,2001、Fargo,Mol.Cell.Biol.,19:6980-90,1999)、ストレプトマイシン(Berthold et al.,Protist,153:401-412,2002)、パロモマイシン(Jakobiakらによる上記のProtistの文献、Sizova et al.,Gene,277:221-229,2001)、ノウルセオスライシン(Zaslavskaiaら2000年の文献)、G418(Dunahayらによる上記の1995年の文献、Poulsen and Kroger, FEBS Lett.,272:3413-3423,2005、Zaslavskaiaらによる上記の2000年の文献)、ハイグロマイシン(Bertholdらによる上記の2002年の文献)、クロラムフェニコール(Poulsen及びKrogerによる上記の2005年の文献)などを含むいくつかの様々な抗生物質に対する耐性遺伝子が良好に用いられてきている。クラミドモナス(Chlamydomonas)属のような微細藻類用の更なる選択可能マーカーは、カナマイシンに対する耐性及びアミカシン耐性(Bateman,Mol.Gen.Genet.263:404-10,2000)、ゼオマイシン及びフレオマイシン(例えばZEOCIN(商標)フレオマイシンD1)耐性(Stevens,Mol.Gen.Genet.251:23-30,1996)、ならびにパラモマイシン及びネオマイシン耐性(Sizovaによる上記の2001年の文献)をもたらすマーカーであることができる。
【0115】
用いられてきた蛍光マーカーまたは発色マーカーとしては、ルシフェラーゼ(Falciatore et al.,J.Mar.Biotechnol.,1:239-251,1999、Fuhrmann et al.,Plant Mol.Biol., 2004、Jarvis and Brown,Curr.Genet.,19:317-322,1991)、β-グルクロニダーゼ(Chenらによる上記の2001年の文献、Cheneyらによる上記の2001年の文献、Chow及びTungによる上記の1999年の文献、El-Sheekhによる上記の1999年の文献、Falciatoreらによる上記の1999年の文献、Kubler et al.,J.Mar. Biotechnol.,1:165-169,1994)、β-ガラクトシダーゼ(Gan et al.,J.Appl.Phycol.,15:345-349,2003、Jiang et al.,Plant Cell Rep.,21:1211-1216,2003、Qin et al.,High Technol.Lett.,13: 87-89,2003)、ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)(Cheneyらによる上記の2001年の文献、Ender et al.,Plant Cell,2002、Franklin et al.,Plant J.,2002;56,148-210)が挙げられる。
【0116】
形質転換システム用には、微細藻類種において有用なプロモーターを含め、様々な既知のプロモーター配列を有益に配置することができる。例えば、微細藻類において導入遺伝子の発現を駆動する目的で用いるプロモーターとしては、渦鞭毛藻類及び緑藻植物の両方で用いられてきている様々な型のカリフラワーモザイクウイルスプロモーター35S(CaMV35S)(Chow et al,Plant Cell Rep.,18:778-780,1999、Jarvis and Brown,Curr.Genet.,317-321,1991、Lohuis and Miller,Plan tJ.,13:427-435,1998)が挙げられる。シミアンウイルス由来のSV40プロモーターも、いくつかの藻類において活性を持つことが報告されている(Gan et al.,J.Appl.Phycol.,151 345-349,2003、Qin et al.,Hydrobiologia 398-399,469-472,1999)。RBCS2(リブロースビスフォスフェートカルボキシラーゼ、小サブユニット)のプロモーター(Fuhrmann et al.,Plant J.,19:353-361,1999)及びクラミドモナス(Chlamydomonas)属由来のPsaD(光化学系I複合体の豊富なタンパク質、Fischer and Rochaix,FEBS Lett.581:5555-5560,2001)も有用であり得る。HSP70A/RBCS2及びHSP70A/β2TUB(チューブリン)の融合プロモーター(Schroda et al.,Plant J.,21:121-131,2000)も、導入遺伝子の発現の向上に有用であり得、このHSP70 Aプロモーターは、他のプロモーターの上流に配置すると、転写活性化因子として機能できる。目的の遺伝子の高レベル発現は、例えば珪藻種においては、珪藻フコキサンチン-クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするfcp遺伝子(Falciatore et al., Mar.Biotechnol.,1:239-251,1999、Zaslavskaia et al.,J.Phycol.36:379-386,2000)またはユースティグマトファイトビオラキサンチン-クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするvcp遺伝子(米国特許第8,318,482号(参照により、本明細書に援用される)を参照されたい)のプロモーターの制御下において実現することもできる。
【0117】
誘導性プロモーターは、本発明の様々な態様(creのような部位特異的リコンビナーゼの発現が挙げられるが、これに限らない)において有用であり得る。例えば、硝酸レダクターゼをコードするNR遺伝子のプロモーター領域は、微細藻類を含む微生物において、誘導性プロモーターとして使用できる。NRプロモーター活性は典型的には、アンモニウムによって抑制され、アンモニウムがナイトレートによって置換されると誘導される(Poulsen and Kroger,FEBS Lett 272:3413-3423,2005)ので、アンモニウム/ナイトレートの存在下で微細藻類細胞を増殖させると、遺伝子発現のオン/オフを切り替えることができる。本明細書に示されているコンストラクト及び形質転換システムで使用できる更なる藻類プロモーターとしては、米国特許第8,883,993号、米国特許出願公開第2013/0023035号、米国特許出願公開第2013/0323780号及び米国特許出願公開第2014/0363892号に開示されているものが挙げられ、これらはいずれも、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0118】
いくつかの実施形態では、方法は、DNA標的化RNA及び/またはバリアントCas9の部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む1つ以上の核酸を宿主細胞(または宿主細胞の集団)に導入することを含むことができる。DNA標的化RNA及び/または部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む好適な核酸としては、発現ベクターが挙げられ、DNA標的化RNA及び/または部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターは、「組み換え発現ベクター」である。
【0119】
使用する宿主/ベクターシステムに応じて、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどを含め、多くの好適な転写及び翻訳制御エレメントのいずれかを、発現ベクターにおいて用いてよい(例えば、Bitter et al.(1987)Methods in Enzymology,153:516-544を参照されたい)。
【0120】
いくつかの実施形態では、DNA標的化RNA及び/またはバリアントCas9の部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、制御エレメント、例えば、転写制御エレメント(プロモーターなど)に機能的に連結している。この転写制御エレメントは、真核細胞、例えば、哺乳動物細胞、または原核細胞(例えば、細菌もしくは古細菌細胞)のいずれかにおいて機能的であってよい。いくつかの実施形態では、DNA標的化RNA及び/またはバリアントCas9の部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、DNA標的化RNA及び/またはバリアントCas9の部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の原核細胞と真核細胞の両方での発現を可能にする多数の制御エレメントに機能的に連結している。
【0121】
プロモーターは、構成的活性型プロモーター(すなわち、構成的に活性/「オン」状態であるプロモーター)であることができ、誘導性プロモーター(すなわち、その活性/「オン」状態または不活性/「オフ」状態が、外的刺激、例えば、特定の温度、化合物またはタンパク質の存在によって制御されるプロモーター)であってもよく、空間制限型プロモーター(すなわち、転写制御エレメント、エンハンサーなど)(例えば、組織特異的プロモーター、細胞種特異的プロモーターなど)であってもよく、時間制限型プロモーター(すなわち、そのプロモーターは、胚発生の特定の段階中、または生物学的プロセス、例えば、マウスの毛包サイクルの特定の段階中に、「オン」状態または「オフ」状態である)であってもよい。
【0122】
好適なプロモーターは、ウイルスに由来することができるので、ウイルスプロモーターということができ、あるいは、原核生物または真核生物を含むいずれかの生物に由来することができる。好適なプロモーターを用いて、いずれかのRNAポリメラーゼ(例えばpol I、pol II、pol III)による発現を駆動できる。例示的なプロモーターとしては、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス長鎖末端リピート(LTR)プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMV前初期プロモーター領域(CMVIE)など)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ヒトU6低分子核内プロモーター(U6)(Miyagishi et al.,Nature Biotechnology 20,497-500(2002))、増強U6プロモーター(例えばXia et al.,Nucleic Aci
ds Res.2003 Sep.1;31(17))、ヒトH1プロモーター(H1)などが挙げられるが、これらに限らない。
【0123】
誘導性プロモーターの例としては、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、T3 RNAポリメラーゼプロモーター、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)調節型プロモーター、ラクトース誘導型プロモーター、ヒートショックプロモーター、テトラサイクリン調節型プロモーター(例えばTet-ON、Tet-OFFなど)、ステロイド調節型プロモーター、金属調節型プロモーター、エストロゲンレセプター調節型プロモーターなどが挙げられるが、これらに限らない。したがって、誘導性プロモーターは、ドキシサイクリン、RNAポリメラーゼ、例えば、T7 RNAポリメラーゼ、エストロゲンレセプター、エストロゲンレセプター融合体などを含む(しかしこれらに限らない)分子によって調節することができる。
【0124】
選択可能マーカー
選択可能マーカーは、非限定例としては、ブラストサイジン、ブレオマイシン、クロラムフェニコール、G418、ゲンタマイシン、グライフォセート、ハイグロマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ノウルセオスライシン、パロモマイシン、フレオマイシン、ピューロマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシンまたはゼオマイシンのような抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子であることができる。選択可能マーカーは、メトトレキサートもしくはDFMO、またはフォスフィノスライシン、グライフォセート、イミダゾリノン、スルフォニル尿素、アトラジン、グルフォシネートまたはスルフォンアミドのような除草剤に対する耐性も付与することができる。例えば、アルギニン合成のためのアルギノサクシネートリアーゼ、窒素同化(ナイトレートを利用する能力)のためのナイトレートレダクターゼ、チアミン生合成のためのthi10またはニコチンアミド生合成のためのnicをコードする遺伝子のように、選択可能マーカーは、栄養要求性宿主株の独立栄養増殖も可能にできる。
【0125】
検出可能マーカーまたはレポーター遺伝子は、様々な蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質、青色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質、オレンジ色蛍光タンパク質及び赤色蛍光タンパク質、ならびにこれらのバリアントが挙げられるが、これらに限らない)をコードする遺伝子を含むことができる。用いることができるその他のマーカーとしては、ルシフェラーゼ(Falciatore et al.,J. Mar.Biotechnol.,1:239-251,1999、Fuhrmann et al.,Plant Mol.Biol.,2004、Jarvis and Brown,Curr.Genet.,19:317-322,1991)、β-グルクロニダーゼ(Chenらによる上記の2001年の文献、Cheneyらによる上記の2001年の文献、Chow及びTungによる上記の1999年の文献、El-Sheekhらによる上記の1999年の文献、Falciatoreらによる上記の1999年の文献、Kubler et al.,J.Mar.Biotechnol.,1:165-169,1994)、ならびにβ-ガラクトシダーゼ(Gan et al.,J.Appl.Phycol.,15:345-349,2003、Jiang et al.,Plant Cell Rep.,21:1211-1216,2003、Qin etal.,High Technol.Lett.,13:87-89,2003)を含め、蛍光または発色産物を生成させる酵素が挙げられる。着色または標識産物を検出するのに用いることのできる酵素の更なる非限定例としては、アリールスルファターゼ(Davies et al.(1992)Nucl.Acids.Res.20:2959-2965、Hallman and Sumper(1994)Eur.J.Biochem.221:143-150)、アルカリホスファターゼ(El-Sankary et al.(2001)Drug Metab.Disposition 29:1499-1504)及びクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(Sekiya et al.(2000)J.Biol.Chem.275:10738-10744)が挙げられる。
【0126】
選択可能マーカーは、そのマーカーを発現する、すなわち、合成的染色体コンストラクトを含む不等毛類細胞、藻類細胞、酵母細胞、植物細胞またはこれらの組み合わせを得るための手段をもたらすことができるので、本開示の合成的染色体の成分として有用であり得る。選択可能マーカーの例としては、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来のデアミナーゼのようなデアミナーゼをコードする遺伝子であって、ブラストサイジンSに対する耐性を付与する遺伝子(Tamura,Biosci.Biotechnol.Biochem.59:2336-2338,1995)と、ブレオマイシン、ゲンタマイシン、グライフォセート、ハイグロマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、フレオマイシン、ピューロマイシン、スペクチノマイシン及びストレプトマイシンのような抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子が挙げられる。例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼは、アミノグリコシドネオマイシン、カナマイシン及びパロマイシンに対する耐性を付与し(Herrera-Estrella,EMBO J. 2:987-995,1983)、「ハイグロ」遺伝子は、ハイグロマイシンに対する耐性を付与する(Marsh,Gene 32:481-485,1984)。微細藻類の形質転換体の選択には、ブラストサイジン、ブレオマイシン(例えば、Aptらによる上記の1996年の文献、Fischerらによる上記の1999年の文献、Fuhrmann et al.,Plant J.,19,353-61,1999、Lumbreras et al.,Plant J.,14(4):441-447,1998、Zaslavskaia et al.,J.Phycol.,36:379-386, 2000を参照されたい)、スペクチノマイシン(Cerutti et al.,Genetics,145:97-110,1997、Doetsch et al.,Curr.Genet.,39,49-60,2001、Fargo,Mol.Cell.Biol.,19:6980-90,1999)、ストレプトマイシン(Berthold et al.,Protist,153:401-412,2002)、パロモマイシン(Jakobiakらによる上記のProtistの文献、Sizova et al., Gene,277:221-229,2001)、ノウルセオスライシン(Zaslavskaiaらによる上記の2000年の文献)、G418(Dunahayらによる上記の1995年の文献、Poulsen and Kroger,FEBS Lett., 272:3413-3423,2005、Zaslavskaiaらによる上記の2000年の文献)、ハイグロマイシン(Bertholdらによる上記の2002年の文献)、クロラムフェニコール(Poulsen及びKrogerによる上記の2005年の文献)などを含むいくつかの様々な抗生物質耐性遺伝子が良好に用いられてきている。微細藻類で用いる更なる選択可能マーカーは、カナマイシン及びアミカシン(Bateman,Mol.Gen.Genet.263:404-10,2000)、ゼオマイシン及びフレオマイシン(例えば、ZEOCIN(商標)フレオマイシンD1)(Stevens,Mol.Gen.Genet.251:23-30,1996)、ならびにパラモマイシン及びネオマイシン(Sizovaらによる上記の2001年の文献)に対する耐性をもたらすマーカーであることができる。
【0127】
メトトレキサート等の代謝拮抗物質に対する耐性を付与する遺伝子、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(Reiss,Plant Physiol.(Life Sci. Adv.)13:143-149,1994)、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用できるようにするtrpB、細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用できるようにするhisD(Hartman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:8047,1988)、細胞がマンノースを利用できるようにするマンノース-6-フォスフェートイソメラーゼ(WO94/20627)、オルニチンデカルボキシラーゼインヒビターに対する耐性を付与するオルニチンデカルボキシラーゼ、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン(DFMO、McConlogue,1987,In:Current Communications in Molecular Biology,Cold Spring Harbor Laboratory ed.)をコードする遺伝子も考えられる。更なる選択可能マーカーとしては、除草剤耐性を付与するもの、例えば、フォスフィノスライシンに対する耐性を付与するフォスフィノスライシンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(White et al.,Nucl.Acids Res.18:1062,1990、Spencer et al.,Theor.Appl.Genet.79:625-631,1990)、グライフォセート耐性を付与する変異体EPSPV-シンターゼ(Hinchee et al.,BioTechnology 91:915-922,1998)、イミダゾリノンもしくはスルフォニル尿素耐性を付与する変異体アセトラクテートシンターゼ(Lee et al.,EMBO J.7:1241-1248,1988)、アトラジンに対する耐性を付与する変異体psbA(Smeda et al.,Plant Physiol.103:911-917,1993)、もしくは変異体プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(米国特許第5,767,373号を参照されたい)、またはグルフォシネート、スルフォンアミド、フォスフィノスライシンもしくはスルフォニル尿素のような除草剤に対する耐性を付与するその他のマーカー(例えば、Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology, Cold Spring Harbor Laboratory Press,1995,page 39を参照されたい)が挙げられる。E. coliのような原核生物における合成的染色体コンストラクトの選択には、テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン及びクロラムフェニコールのような抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子を用いることができる。
【0128】
栄養要求性マーカーは、例えば、アルギニン合成のためのアルギノサクシネートリアーゼ、窒素同化(ナイトレートを用いる能力)のためのナイトレートレダクターゼ、チアミン生合成のためのthi10及びニコチンアミド生合成のためのnicのような代謝酵素をコードする遺伝子において変異を有する宿主で使用できる選択可能マーカーである。
【0129】
合成的染色体コンストラクトまたは合成的染色体に含めてよいネガティブ選択マーカーとしては、チミジンキナーゼ(Lupton et al.(1991)Molecular and Cellular Biology 11:3374-3378)、DAOO(Erikson et al.(2004)Nature Biotechno logy 22:455-458)、URA及びsacB(Quenee et al.(2005)Biotechniques 38:63-67)が挙げられるが、これらに限らない。
【0130】
微細藻類種及び不等毛類種の形質転換システム用に、様々な既知のプロモーター配列を有益に配置することができる。例えば、微細藻類において導入遺伝子の発現を駆動する目的で一般的に用いられているプロモーターとしては、渦鞭毛藻類及び緑藻植物の両方で用いられてきている様々な型のカリフラワーモザイクウイルスプロモーター35S(CaMV35S)(Chow et al,Plant Cell Rep.,18: 778-780,1999、Jarvis and Brown,Curr.Genet.,317-321,1991、Lo huis and Miller,Plant J., 13:427-435,1998)が挙げられる。シミアンウイルス由来のSV40プロモーターも、いくつかの藻類において活性を持つことが報告されている(Gan et al.,J.Appl.Phycol.,151 345-349,2003、Qin et al.,Hydrobiologia 398-399,469-472,1999)。RBCS2(リブロースビスフォスフェートカルボキシラーゼ、小サブユニット)のプロモーター(Fuhrmann et al.,Plant J.,19:353-361,1999)及びクラミドモナス(Chlamydomonas)属由来のPsaD(光化学系I複合体の豊富なタンパク質、Fischer and Rochaix,FEBS Lett.581:5555-5560,2001)も有用であり得る。HSP70A/RBCS2及びHSP70A/β2TUB(チューブリン)の融合プロモーター(Schroda et al.,Plant J.,21:121-131,2000)も、導入遺伝子の発現の向上に有用であり得、このHSP70 Aプロモーターは、他のプロモーターの上流に配置すると、転写活性化因子として機能できる。目的の遺伝子の高レベル発現は、不等毛類、例えば珪藻種において、珪藻フコキサンチン-クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするfcp遺伝子(Falciatore et al.,Mar.Biotechnol.,1:239-251,1999、Zaslavskaia et al.,J.Phycol.36:379-386,2000)またはユースティグマトファイトビオラキサンチン-クロロフィルa/b結合タンパク質をコードするvcp遺伝子(米国特許第8,318,482号を参照されたい)のプロモーターの制御下において実現することもできる。所望される場合、誘導性プロモーターは、トランスジェニック微細藻類において、遺伝子を迅速かつ厳密に制御した形で発現させることができる。例えば、ナイトレートレダクターゼをコードするNR遺伝子のプロモーター領域をそのような誘導性プロモーターとして用いることができる。NRプロモーター活性は典型的には、アンモニウムによって抑制され、アンモニウムがナイトレートによって置換されると誘導される(Poulsen and Kroger,FEBS Lett 272:3413-3423,2005)ので、アンモニウム/ナイトレートの存在下で微細藻類細胞を増殖させると、遺伝子発現のオン/オフを切り替えることができる。ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来の他の調節可能なプロモーターとしては、米国特許出願公開第2013/0023035号(参照により、本明細書に援用される)に開示されているものが挙げられる。本明細書に示されているコンストラクト及び形質転換システムで使用できる更なるナンノクロロプシス(Nannochloropsis)藻類プロモーターとしては、米国特許第8,709,766号、米国特許出願公開第2013/0323780号、2012年12月4日に提出された米国特許出願第13/693,585号及び2013年6月11日に提出された米国特許出願第13/915,522号に開示されているものが挙げられ、これらはいずれも、参照により、本明細書に援用される。
【実施例
【0131】
実施例1.Cas9発現型ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)株の構築
pCC1BAC骨格に基づくベクターを用いて、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes) Cas9エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子を発現させるように、コンストラクトを操作した。このベクターは、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化した配列を有する操作されたCas9遺伝子(配列番号1)であって、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9タンパク質(配列番号2)をコードする、遺伝子を含んでいた。SV40由来の核局在化シグナル(NLS)ペプチド(配列番号3)をコードする配列であって、同様にナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化した配列(配列番号4)を、Cas9コード配列の5’末端に連結し、FLAGタグペプチド(配列番号6)をコードする配列(配列番号5)をCas9コード配列の3’にクローニングした。操作されたNLS-Cas9-C末端FLAGタンパク質(配列番号8)をコードする操作されたCas9遺伝子の全体(配列番号7)をN.ガディタナ(N.gaditana) RPL7プロモーター(配列番号9)の3’と、N.ガディタナ(N.gaditana) 6487ターミネーター(配列番号42)の5’にクローニングした。このコンストラクトは、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化されているアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来ブラストサイジンSデアミナーゼ(「blast」)遺伝子(配列番号10)であって、N.ガディタナ(N.gaditana) TCTPプロモーター(配列番号11)によって駆動される遺伝子を含む選択可能マーカー発現カセットも含んでいた。EIF3ターミネーター(配列番号12)をblast遺伝子の3’末端に配置した。加えて、このベクターは、N.ガディタナ(N.gaditana)アシル-coAオキシダーゼ遺伝子(配列番号14)を標的とする20bp配列を含むように設計されたキメラガイドRNA(配列番号13)の発現を駆動するように設計された発現カセットであって、N.ガディタナ(N.gaditana)推定U6プロモーター(配列番号15)及びU6ターミネーター(配列番号16)によって駆動される発現カセットを含んでいた。このコンストラクト(pSGE-6133という)の図は、図1に示されている。
【0132】
N.ガディタナ(N.gaditana)アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子を標的とするために、SwaI制限酵素でpSGE-6133コンストラクトを線状化し、当該技術分野において既知の方法(例えば、米国特許出願公開第2015/0183838号(参照により、本明細書に援用される)を参照されたい)に基本的に従って、エレクトロポレーションによってナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属細胞に形質転換した。ブラストサイジン耐性コロニーを得て、コロニーに対してコロニーPCRを行い、Cas9遺伝子の存在についてスクリーニングした。PCRによるコロニースクリーニングのために、スクリーニング対象のコロニーから得た少量の細胞を、5%のChelex100 Resin(BioRad、カリフォルニア州ハーキュリーズ)/TE溶液100μlに懸濁させ、その懸濁液を10分間、99℃で煮沸した後、その試験管を軽く回転させた。その溶解液上清を1マイクロリットル、PCR反応混合物に加え、そのPCR混合物と反応物を設置し、メーカーから得たQIAGEN Fast Cycling PCR Master Mix Protocol(Qiagen、メリーランド州ジャーマンタウン)(qiagen.comで入手可能なHandbook)に従って、操作されたCas9コンストラクトの配列に由来するプライマーを用いて行った。
【0133】
続いて、Cas9遺伝子を含んでいることが分かった12個の形質転換株をウエスタンブロットによってスクリーニングして、その細胞におけるCas9タンパク質のレベルを割り出した。選択した株の液体培養物から試料を取り出し、Accuriフローサイトメーターを用いて細胞を計数した。その細胞数に基づき、2×10個の細胞のアリコートを各試料培養物から取り出し、微量遠心機において最高速度で遠心分離した。その上清を破棄し、100mMのDTTを含む2×LDSバッファーに、ペレット化された細胞を再懸濁させた。その試料を10分間(99℃で)煮沸した。その溶解液(10μl)をトリス-アセテート/SDSランニングバッファーとともに3~8%トリス-アセテートゲルにかけ、タンパク質を分離した後、iBlotウエスタントランスファー装置(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)をメーカーの説明書に従って用いて、タンパク質をPVDF膜に転写した。FLAGタグの付いたCas9タンパク質の検出のために、まず、TBST(50mMのトリス、pH7.4、150mMのNaCl、0.15%のTween20)中の5%のミルクのブロッキング溶液で膜をブロックしてから、抗FLAGアルカリホスファターゼコンジュゲート抗体(ブロッキング溶液で1~4000倍に希釈した)とともに一晩インキュベートした。その膜をTBSTで3回洗浄してから、その膜を色原体BCIP/NBTで発色させ、乾燥して、その抗体結合タンパク質を可視化した。
【0134】
Cas9タンパク質が最高レベルであることが分かった株は、GE-6571であった。この株は、Cas9タンパク質の発現レベルが最も高かったうえに、N.ガディタナ(N.gaditana)アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子(配列番号48)を標的とするキメラガイドRNA(配列番号13)を発現するように操作したので、残りのウエスタン陽性菌株とともに、上記のように、GE-6571株をコロニーPCRによって、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子内の変異に関して解析した。PCRのために、用いたプライマーは、ACO2-upstreamF(配列番号17)とACO2-downstreamR(配列番号18)であり、これらは、併せて、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子の標的部分を含む852bpのPCRフラグメント(配列番号19)を産生した。同じプライマーを用いて、PCRフラグメントをサンガーシーケンシングにかけ、いずれかの変異の存在を割り出した。アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子の標的部位では、変異が検出されなかった。その後のノーザンブロットとRT-PCR実験では、いずれのガイドRNA転写産物も検出されなかった。
【0135】
実施例2.インビトロで合成したガイドRNAと選択可能ドナーDNAの共形質転換によって、標的とするCHORD-3266変異体を生成するための、GE-6571株の使用
続いて、インビトロで合成したキメラガイドRNA(gRNA)(配列番号20)であって、CHORD(システイン及びヒスチジンリッチ)ドメインを有するCHORD-3266ポリペプチドをコードするナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属遺伝子内の配列(配列番号21)を標的とするキメラガイドRNAと、1)N.ガディタナ(N.gaditana) EIF3プロモーター(配列番号23)の制御下にあるハイグロマイシン耐性(HygR)遺伝子(配列番号22)と、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化されており、N.ガディタナ(N.gaditana) RPL24プロモーター(配列番号25)の制御下にあるTurboGFP遺伝子(Evrogen、ロシアのモスクワ)(配列番号24)とのみを含み、この両方の遺伝子が、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)によって終端し、N.ガディタナ(N.gaditana)ゲノムにおいてNADH依存性フマレートリダクターゼ遺伝子とD-チロシル-tRNA(Tyr)デアシラーゼ遺伝子との間に見られるフラグメント、2)上記のフラグメントのエレメントの全てを含むが、このケースでは、それらのエレメントが、CRISPR標的配列(配列番号30)の上流及び下流の配列に相同である2kbの「上流」アーム(配列番号28)と「下流」アーム(配列番号29)に隣接している、「Chord3-KOベクター」という名称の環状形態のベクター(配列番号27、図2)であって、puc19ベクター骨格を含むベクター、または3)「Chord3-KOベクター」からPmeI消化によって放出させた直鎖状DNA分子であって、puc19骨格を除き、環状の相同ベクターの全てのエレメントを含む直鎖状DNA分子という3つの形態の選択可能DNAのうちの1つとを共形質転換することによって、GE-6571 Cas9発現菌株が標的遺伝子に変異を起こす能力について試験した。対照として、gRNAなしで、同じDNAシリーズをGE-6571に形質転換した。
【0136】
CHORD-3266遺伝子のコード領域を標的とするように設計したキメラガイドRNAは、トランス活性化CRISPR(tracr)配列を含む103個の全キメラガイドRNA配列(配列番号32)内に、S.pyogenes Cas9 PAM配列(NGG)の上流のCHORD-3266遺伝子におけるCRISPR標的(配列番号30)に対する相同性を有する20ヌクレオチドの配列(配列番号31)を含んでいた。全キメラガイド配列は、まず、相補的なDNAオリゴヌクレオチド(配列番号33及び配列番号34)で構成されているDNA鋳型であって、ガイドRNA分子をコードするDNA配列がT7プロモーター配列(配列番号35)の下流に含まれるDNA鋳型を作製することによって合成した。これらのオリゴをアニールして、二本鎖のDNA鋳型を作製し、MEGAshortscript(商標)T7 Kit(Life Technologiesカタログ番号AM1354M、カリフォルニア州カールズバッド)をメーカーのプロトコールに従って用いて行ったインビトロ転写反応の鋳型として用いた。Zymo-Spin(商標)V-Eカラム(Zymo Research、カリフォルニア州アーバイン、カタログ番号C1024-25)をメーカーのプロトコールに従って用いて、得られたRNAを精製した。
【0137】
CHORD-3266遺伝子を標的とする精製キメラガイドRNAを5μgと、この実施例において既に述べた選択可能ドナーDNA(1、2または3)の形態のうちの1つを1μg用いて、GE-6571 Cas9発現株をエレクトロポレーションによって形質転換した。エレクトロポレーション後、ハイグロマイシンを含む寒天培地に細胞を播種して、ハイグロマイシンカセットが組み込まれた形質転換体を選択した。形質転換体は、CHORD-CRISPR標的(配列番号36及び配列番号37)にわたって増幅するように設計したプライマーを用いたコロニーPCRによってスクリーニングし、DNAが挿入されておらず、NHEJによる修復ミスがなかったか、わずかしかなかった場合には、100bpのバンドが現れ、NHEJまたは相同組み換えによって、選択可能マーカーとレポーターカセットが挿入された場合には、4kbのバンドが1本現れた(図3)。NHEJによる修復ミスによる小規模な挿入または欠失は、100bpの産物において小さいシフトとして見られる可能性が高くなり、3%アガロースゲル電気泳動を用いれば、検出可能だったはずである。しかしながら、NHEJによる修復ミスによる、小規模かつ検出のしにくいいずれかの挿入または欠失を排除するために、最初に100bpのバンドが1本現れた株に対して、プライミング部位がCRISPR標的部位から更に遠くに位置する別のプライマーセットを用いて、コロニーPCRをもう1ラウンド行い、同じプライマーを用いて、PCR産物をサンガーシーケンシングにかけた。異なる形質転換策(すなわち、この実施例において上述したような3つの異なる形態の選択可能ドナーDNAを用いた)についてスクリーニングした555個のハイグロマイシン耐性コロニーのうち、変異体は5個しか見られず、変異率は約1%であった。更に、5個の変異体は全て、相同なアームを有する選択可能DNAの共形質転換によって得られ(すなわち、環状のドナーDNA形態及び直鎖状のドナーDNA形態の両方において、DNAの挿入は、遺伝子ホモロジーアーム内の二重組み換えによるものであった)、CHORD-3266相同アームが欠損しているフラグメントを用いたときには、変異体は得られなかった。ホモロジーアームを含まないこのフラグメントでは、NHEJの「ノックイン」による挿入は観察されなかったうえに、明らかなNHEJによる修復ミスによっては、変異体は生じなかった。gRNAが除外された対照の形質転換によって生成した形質転換体からは、変異体は得られなかった。
【0138】
実施例3.完全浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株の作製
ゲノム改変を行う効率を向上させるために、改良型のCas9発現株を作製した。これを行うために、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属株を操作し、増殖培養物の細胞集団の基本的に100%で、導入されたCas9遺伝子が発現した株を単離した。
【0139】
完全浸透性のCas9株を生成する際の第1の工程は、Cas9遺伝子を含むベクターに、蛍光タンパク質をコードする遺伝子を導入することであった。ベクターのpSGE-6206(配列番号38)(図4)は、1)ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化したストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来Cas9遺伝子(配列番号1)を、N末端FLAGタグ(配列番号5)と、核局在化シグナル(配列番号4)と、ペプチドリンカー(配列番号39)とともに含み、N.ガディタナ(N.gaditana) RPL24プロモーター(配列番号25)によって駆動され、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)によって終端するCas9発現カセットと、2)N.ガディタナ(N.gaditana)用にコドン最適化したアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来blast遺伝子(「BSD」、配列番号10)を含み、N gaditana TCTPプロモーター(配列番号11)に駆動され、EIF3ターミネーター(配列番号12)が続いている選択可能マーカー発現カセットと、3)ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化されているTurboGFP遺伝子(Evrogen、ロシアのモスクワ)(配列番号24)を含み、N.ガディタナ(N.gaditana) 4A-IIIプロモーター(配列番号40)によって駆動され、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター5(配列番号41)(N.ガディタナ(N.gaditana)ゲノムにおいて、グルコサミン6-フォスフェートイソメラーゼ2遺伝子と、YVTNリピート様キノプロテインアミンデヒドロゲナーゼ遺伝子との間に見られる)が続いているGFPレポーター発現カセットという3つのエレメントを含んでいた。
【0140】
GFPでトラッキング可能な追加のCas9ベクター(pSGE-6202)であって、pSGE-6202においては、pSGE-6133ベクター(実施例1)でも使用したN.ガディタナ(N.gaditana) RPL7プロモーター(配列番号9)とN.ガディタナ(N.gaditana) 6487ターミネーター(配列番号42)によってCas9遺伝子が駆動される以外は、pSGE-6206と同様のベクターを作製した。
【0141】
100mg/Lのブラストサイジンを含むPM74寒天培地に、pSGE-6206またはpSGE-6202のいずれかで形質転換した株を播種した。解析と保存のために、コロニーを選択培地にパッチした。そのパッチから少量のバイオマスを採取し、1×Instant Ocean液(Aquatic Eco Systems、フロリダ州アポップカ)300μlに完全に再懸濁させた。バイオマスを加えすぎないように注意して、薄緑色の再懸濁液が得られるようにした。488nmのレーザーと530/10nmのフィルターを用いたBD Accuri C6フローサイトメーターを使用して、フローサイトメトリーによって、この液体を直接解析して、細胞1個当たりのGFP蛍光を測定した。遅いフルイディクス設定を用いて、試料ごとに、10,000~30,000イベントを記録した。得られたヒストグラムを、別に実施した野生型細胞(すなわち、蛍光タンパク質を発現しない細胞)のヒストグラムと重ねた。培養物における完全浸透度で発現した株のみを引き継ぎ、これは、フローサイトメトリーのGFP蛍光ヒストグラムにおいて、単一のピークまたは釣鐘形状の曲線が現れ、ログスケールでプロットしたところ、その蛍光ピークが、野生型自己蛍光(バックグラウンド蛍光)ピークよりも完全に高くシフトしたことを意味する(図5A及びB)。これらの株は、その株の培養物の細胞全体にわたってGFP遺伝子の発現が見られたという点で、「完全浸透性の」Cas9発現株として定めた。すなわち、いずれかの所定の時点において、GFPの量(すなわち、蛍光)が、細胞間で多少異なり、その結果、複数のピークまたは釣鐘形状の曲線が現れ得たが、シフトしたそのピークに対して別個のGFP発現分布を示した細胞亜集団は存在しなかった。したがって、完全浸透性株は、単一のピーク(またはピークが1つの釣鐘形状の曲線)が現れ、そのピークが、非発現細胞(例えば、GFP発現コンストラクトで形質転換しなかった細胞)のバックグラウンドピークとは別で、非発現細胞よりも高い蛍光値であった株であった。GFP遺伝子は、導入されたコンストラクトにおいて、Cas9遺伝子と物理的に関連付けられていたので、完全浸透性のGFP株においては、Cas9遺伝子も、その株の培養物の細胞全体にわたって発現する可能性が高いものと想定した。
【0142】
続いて、非形質転換細胞に対して明らかにシフトした1つの蛍光ピークが現れた、完全GFP浸透性のCas9株(図5A及び表1(ピークが1つか2つかに従って、「X」によってクローンがスコアリングされている)を参照されたい)を、Cas9発現の証明のために、抗FLAG抗体によるウエスタンブロットによって試験した。非形質転換細胞の自己蛍光ピークとは別の単一のピークが現れた菌株(クローンp1-27)の例が図5Aに示されており、また、2つのピークが現れたとともに、その1つが対照(非GFPコンストラクト)のピークと一致していたクローンp2-02(図5B)と比較されている。各ベクター(pSGE-6206及びpSGE-6202)で形質転換して得られた株であって、GFP蛍光レベルを記録するフローサイトメトリーによって、単一のピークのみが現れ、その単一のピークが、非GFP対照よりも高い蛍光レベルにシフトしていたとともに、ウエスタンによってCas9タンパク質の発現も示された(図6)1つの株を、ゲノム編集試験のために引き継いだ。pSGE-6202による形質転換から得られた完全浸透性のCas9株として、GE-6594株を選択し、pSGE-6206による形質転換から得られた完全浸透性のCas9株として、GE-6791株を選択した。
【0143】
(表1)フローサイトメトリーによって、2つまたは1つの蛍光ピークの出現について、Cas9発現ベクターpSGE-6202で形質転換したナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属株をスコアリングした結果
【0144】
実施例4.完全浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株を用いたCHORD-3266遺伝子の高頻度ノックアウト
完全浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9株GE-6594及びGE-6791を、ゲノム編集能について試験するために、同じインビトロ合成キメラgRNAを用いて、実施例2で説明したものと同様のゲノム編集アプローチを取った。しかしながら、新たな完全浸透性株を用いたこの例では、共形質転換で用いた選択可能ドナーDNAには、GFP遺伝子と、関連するプロモーター及びターミネーターは含まれていなかった。これらの株は、CHORD-3266遺伝子(CHORD(システイン及びヒスチジンリッチ)ドメインを有するタンパク質産物をコードする)を標的とするgRNAと、1)N.ガディタナ(N.gaditana) EIF3プロモーター(配列番号23)の制御下にあり、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)によって終端するハイグロマイシン耐性(HygR)遺伝子(配列番号22)のみを含む(機能的に連結したHygR遺伝子と、プロモーターと、ターミネーターは、本明細書では、HygRカセットという)とともに、ID配列に隣接したHygRカセットフラグメント(配列番号46)をもたらすように、上記の遺伝子の5’末端にある27塩基対の識別配列(配列番号43)と3’末端にある27塩基対の識別配列(配列番号44)に隣接したHygRフラグメント、または2)上記のフラグメントの全てのエレメントを含むが、それらのエレメントが、N.ガディタナ(N.gaditana)ゲノムにおけるCRISPR標的
(配列番号30)の上流及び下流の配列に対して相同である2kbの「上流」アーム(配列番号28)と「下流」アーム(配列番号29)に隣接している環状形態のベクターpSGE-6281(配列番号47)(図7)であって、puc19ベクター骨格も含むベクターという選択可能DNA分子のうちの1つで形質転換した。対照群として、gRNAなしで、同じDNAシリーズを形質転換した。
【0145】
CHORD-3266遺伝子を標的とする精製キメラガイドRNAを5μgと、上記の選択可能DNAの形態のうちの1つを1μg用いて、エレクトロポレーションによって、完全浸透性のCas9発現株GE-6594及びGE-6791を形質転換した。エレクトロポレーション後、ハイグロマイシンを含む寒天培地に細胞を播種して、ハイグロマイシンカセットが組み込まれた形質転換体を選択した。実施例2で説明したように、コロニーPCRによって、形質転換体をスクリーニングした。結果は表2に示されている。
【0146】
(表2)完全浸透性のCas9エディター株における選択による、遺伝子座CHORD-3266を標的とするインビボゲノム編集の割合
【0147】
これらの新しいCas9親株における変異頻度は、元の親株GE-6571よりも大幅に向上した。更に、相同組み換えベクターpSGE-6281をドナーDNAとして用いたところ、完全浸透性のCas9株GE-6791では、解析した9個のハイグロマイシン耐性形質転換体から、ドナーDNAが標的遺伝子座に組み込まれたクローンが8個得られ、完全浸透性のCas9株GE-6594では、解析した5個のハイグロマイシン耐性形質転換体から、DNAが標的遺伝子座に組み込まれた変異体が5個得られた。HygRカセットフラグメント(配列番号46、標的遺伝子座に対して相同性を有するフランキング配列が欠損している)を用いたところ、GE-6791では、解析した61個から、ドナーフラグメントによって破壊された標的遺伝子座を有するクローンが19個得られ、GE-6594では、解析した17個のハイグロマイシン耐性形質転換体から、標的遺伝子座への組み込みによる変異体が6個得られた。gRNAを除外した対照の形質転換によって生成された形質転換体からは、変異体は得られなかった。野生型のサイズのPCR産物をサンガーシーケンシングにかけて、NHEJによる修復ミスによる、小規模かつ検出のしにくいいずれかの挿入または欠失を探したが、観察されなかった。
【0148】
この例では、完全浸透性のCas9株を用いて、標的遺伝子座に対する相同性が欠損しているHygRカセットのみによる共形質転換によって変異体が得られたので、標的遺伝子変異は、相同組み換え(HR)ベクターの使用に依存していなかった。これは、目的の遺伝子に隣接するドナーフラグメントにホモロジーアームが存在するときのみに、ドナーフラグメントの組み込みが行われる元の親株GE-6571(実施例2)では観察されなかった。それにもかかわらず、相同組み換えによっては生成されないこの新しい型の変異体では、コロニーPCRによって、標的遺伝子座における挿入を示す大きなバンドが現れることが分かったとともに、そのPCR産物のサンガーシーケンシングによって、これらの変異体の全てで、標的遺伝子座にHygRカセットが挿入されたことが確認された。ドナーフラグメントの組み込みは、いずれかの配向で行われたことが分かっており、NHEJによる修復の最中に(すなわち、NHEJ「ノックイン」によって)挿入されたと推定される。これらのNHEJによる組み込みイベントは、PCR産物のシーケンシングによって配列を確認した。
【0149】
この新しいCas9発現株の変異頻度が、元株よりも向上していることは、これらの新株をプレスクリーニングしたところ、基本的に、形質転換前において、GFPに関して、表現型的に100%浸透性であったと判断されたことによって最も的確に説明される。元株GE-6571は、GFPカセットを有さず、このコンストラクトで形質転換した完全浸透性の株は単離しなかった。ウエスタンブロットによると、ほぼ間違いなくGE-6571の方が、Cas9発現量が高かったが(図8)、浸透性が部分的に過ぎなかった可能性が高い(すなわち、集団における発現レベルが一貫していなかったと考えられる)。図8には、完全浸透性のCas9発現株を単離する大まかなスキーマであって、Cas9遺伝子に加えて、選択可能マーカーとレポーター遺伝子(好ましくは蛍光タンパク質をコードする)を含むコンストラクトで株を形質転換することと、選択培地上の形質転換体を単離することと、フローサイトメトリーによって浸透度スクリーニングを行って、蛍光タンパク質の浸透度が100%である株を同定することと、例えばウエスタンブロットによって、Cas9の発現を確認することとを含むスキーマが示されている。興味深いことに、図8のウエスタンブロットでは、浸透度についてスクリーニングしなかったとともに、Cas9変異頻度が非常に低かったGE-6571(実施例2)のCas9タンパク質レベルが、完全浸透性の2つのエディター株GE-6594及びGE-6791(Cas9変異率が大幅に高い(実施例4))よりも高かったことが示されており、Cas9タンパク質レベルを評価するよりも、浸透度の方がはるかに信頼できるスクリーニングであることが分かった。
【0150】
実施例5.完全浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株を用いた、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子の高頻度ノックアウト
浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株GE-6594及びGE-6791のゲノム編集能について更に試験するために、実施例4と同様の編集アプローチを取り、このアプローチでは、CHORD-3266遺伝子を良好かつ効率的に標的とした。N.ガディタナ(N.gaditana)アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子(配列番号48)を標的とするために、aco2標的配列を標的とするようにキメラガイドRNAを設計し、このキメラガイドRNAは、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子内に見られるS.pyogenes Cas9 PAM配列のすぐ上流にあるアシル-CoAオキシダーゼ遺伝子配列(配列番号49、20ヌクレオチドの標的配列+PAM)に対する相同性を有する20ヌクレオチドの配列を含み、この20ヌクレオチドの標的化配列は、トランス活性化CRISPR(tracr)配列を含む103塩基のキメラガイドRNA配列(配列番号50)内に存在していた。キメラガイド配列全体は、まず、相補的なDNAオリゴヌクレオチド(配列番号51及び配列番号52)で構成されるDNA鋳型を作製することによって合成し、その際、ガイドRNA分子をコードするDNA配列は、T7プロモーター(配列番号35)の下流に含まれていた。これらのオリゴをアニールして二本鎖のDNA鋳型を作製し、MEGAshortscript(商標)T7 Kit(Life Technologies番号AM1354M)をメーカーのプロトコールに従って用いて行うインビトロ転写反応の鋳型として用いた。Zymo-Spin(商標)V-Eカラム(Zymo Research番号C1024-25)をメーカーのプロトコールに従って用いて、得られたRNAを精製した。
【0151】
aco2を標的とするgRNAと、1)N.ガディタナ(N.gaditana) EIF3プロモーター(配列番号23)の制御下にあり、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)によって終端するハイグロマイシン耐性(HygR)遺伝子(配列番号22)(機能的に連結したHygR遺伝子と、プロモーターと、ターミネーターは、本明細書では、HygRカセットという)のみを含むHygRカセット、または2)puc19骨格に基づく環状形態のベクターpSGE-6282(配列番号53)(図9)であって、1)に記載されているフラグメントの全てのエレメントを含むが、それらのエレメントが、aco2標的(配列番号49)の上流及び下流の配列に相同である1.7kbの「上流」アーム(配列番号54)と0.8kbの「下流」アーム(配列番号55)に隣接したベクターという選択可能DNA分子のうちの1つとで、株を形質転換した。ホモロジーアームは、aco2標的部位の周囲の113bpのDNAを除外する。対照として、gRNAなしで、同じドナーDNA(1)及び2))をCas9エディター株GE-6594及びGE-6791に形質転換した。
【0152】
aco2標的部位を標的とする精製キメラガイドRNAを5μgと、上記の選択可能ドナーDNAの形態のうちの1つを1μg用いて、エレクトロポレーションによって、Cas9発現菌株GE-6594及びGE-6791を形質転換した。エレクトロポレーション後、ハイグロマイシンを含む寒天培地に細胞を播種して、ハイグロマイシンカセットが組み込まれた形質転換体に関して選択した。形質転換体は、上記のようなコロニーPCR(実施例2を参照されたい)によって、ただし、aco2標的に隣接するプライマー(配列番号17及び配列番号18)を用いてスクリーニングした。結果は表3に示されている。
【0153】
(表3)アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子座を標的とする完全浸透性のCas9エディター株におけるインビボゲノム編集の割合
【0154】
これらの新しいCas9エディター株における変異頻度は、元の親株GE-6571の変異頻度よりも大幅に向上した。相同組み換えベクターpSGE-6282を用いたところ、GE-6791では、解析した61個から、43個の陽性クローンが得られ、GE-6594では、解析した62個から、46個の陽性変異体が得られた。HygRカセットのみを用いたところ(ホモロジーアームなし)、GE-6791では、解析した160個から、90個の陽性クローンが得られ、GE-6594では、解析した96個から、44個の陽性変異体が得られた。gRNAを除外した対照の形質転換によって生成された形質転換体からは、変異体は得られなかった。野生型サイズのPCR産物をサンガーシーケンシングにかけて、NHEJによる修復ミスによる、小規模かつ検出のしにくいいずれかの挿入または欠失を探したが、観察されなかった。
【0155】
この例では、実施例4におけるように、HygRカセットフラグメントのみの共形質転換によって、変異体が得られたとともに、耐性カセットに隣接する標的遺伝子座に相同である配列を有するHRベクターの使用に依存しなかった。これは、元の親株GE-6571では観察されなかった(実施例2を参照されたい)。更に、これにより、これらの新株をプレスクリーニングしたところ、形質転換前に、GFPに関して表現型について完全浸透性であることが分かったことによって、新しいCas9エディター株が元株よりも変異頻度が向上したことが説明できる可能性が高いことが示されている。
【0156】
実施例6.完全浸透性のCas9発現パラクロレラ(Parachlorella)属株の作製
パラクロレラ(Parachlorella)属においてストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes) Cas9遺伝子を発現させるように、ベクターpSGE-6709(図10)を操作した。このベクターは、1)パラクロレラ(Parachlorella)属用にコドン最適化されているとともに、パラクロレラ(Parachlorella)属由来のイントロンを含む操作されたCas9遺伝子を含むとともに、N末端FLAGタグと、核局在化シグナルと、ペプチドリンカーとも含むCas9発現カセット(配列番号56)であって、パラクロレラ(Parachlorella)属 RPS17プロモーター(配列番号57)に機能的に連結しており、パラクロレラ(Parachlorella)属 RPS17ターミネーター(配列番号58)によって終端する発現カセットと、2)パラクロレラ(Parachlorella)属用にコドン最適化したアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来ブラストサイジン耐性遺伝子であって、パラクロレラ(Parachlorella)属イントロンを含む遺伝子(配列番号59)を含む選択可能マーカー発現カセットであって、パラクロレラ(Parachlorella)属 RPS4プロモーター(配列番号60)に機能的に連結しており、パラクロレラ(Parachlorella)属 RPS4ターミネーター(配列番号61)によって終端する発現カセットと、3)TurboGFP遺伝子(Evrogen、ロシアのモスクワ)(配列番号24)を含むGFPレポーター発現カセットであって、パラクロレラ(Parachlorella)属 ACP1プロモーター(配列番号62)によって駆動され、パラクロレラ(Parachlorella)属 ACP1ターミネーター(配列番号63)によって終端する発現カセットという3つのエレメントを含んでいた。
【0157】
このベクターを遺伝子銃によってパラクロレラ(Parachlorella)に形質転換した。パラクロレラ(Parachlorella)属野生株WT-1185の形質転換は、基本的に米国特許出願公開第2014/0154806号(参照により、本明細書に援用される)に記載されているように、BioRad Helios(登録商標)Gene Gun Systemを用いて行った。形質転換用のDNAを金粒子上に析出し、その金粒子をチューブの丈の内側に付着させ、遺伝子銃内に配置したチューブに、高圧のヘリウムガスを噴射して、固体の非選択培地(PM074藻増殖培地を含む2%寒天平板)に接着したパラクロレラ(Parachlorella)属株WT-1185細胞に、DNA被覆金粒子を打ち込んだ。Helios(登録商標)Gene Gunを用いて、細胞環当たり2発を600psiで、平板から3~6cmの距離から撃った。翌日、形質転換コロニーの増殖のために、細胞を選択培地に移した。
【0158】
実施例3で説明したように、フローサイトメトリーによって、完全なGFP浸透度と、野生型蛍光ピークよりも高い値にシフトした1つの蛍光ピークが現れた形質転換菌株の同定について、コロニーをスクリーニングした。非形質転換細胞に対して明らかにシフトした蛍光ピークを示した完全浸透性のCas9株のCas9発現について、Cas9発現の証明のために、抗Cas9ウエスタンブロッティングによって試験した(図11)。これらのスクリーニングに基づき、単離体6709-2を引き継ぎ、識別株GE-15699を得た。
【0159】
実施例7.完全浸透性のパラクロレラ(Parachlorella)属 Cas9エディター株を用いた、SRP54のノックアウト
新株GE-15699のゲノム編集能を試験するために、実施例2及び4に説明されているものと類似の編集アプローチを取った。パラクロレラ(Parachlorella)属における葉緑体SRP54遺伝子(配列番号65)を標的とするように、キメラgRNA(配列番号64)を設計して、インビトロで合成した。GE-15699をエレクトロポレーションによって、精製キメラガイドRNA、1~2μgと、パラクロレラ(Parachlorella)属用にコドン最適化されているとともに、パラクロレラ(Parachlorella)属由来のイントロンを含むブレオマイシン耐性「BleR」遺伝子(配列番号66)を含む選択可能マーカーDNA、1μgとで形質転換した。BleR遺伝子は、パラクロレラ(Parachlorella)属 RPS4プロモーター(配列番号60)に機能的に連結したとともに、パラクロレラ(Parachlorella)属 RPS4ターミネーター(配列番号61)によって終端した。
【0160】
形質転換の2日前に、形質転換を用いて1Lの培養物を1×10細胞/mLに播種する6日前に、1×10細胞/mLに播種した種培養物を100mL播種することによって、エレクトロポレーションを行った。形質転換の日に、5000×gで20分、遠心分離することによって細胞をペレット化し、0.1umのろ過済み385mMソルビトールで3回洗浄し、再懸濁させて、385mMソルビトール中、5×10細胞/mLにした。BioRad Gene Pulser Xcell(商標)内の0.2cmのキュベットで、様々な条件下で、100μLの濃縮細胞のエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションの最適化に用いたDNAは、ble及びTurboGFP発現カセットを含む線状化pSG6640であった。TurboGFPカセットは、TurboGFP遺伝子(配列番号24)に機能的に連結したパラクロレラ(Parachlorella)属 ACPプロモーター(配列番号62)と、パラクロレラ(Parachlorella)属 ACPターミネーター(配列番号63)を含んでいた。予冷した細胞とキュベットのエレクトロポレーションを行った直後に、1mLの冷ソルビトールを加えて、細胞を10mLのPM074に移すのに用いた。一晩回収後、細胞を濃縮し、250mg/Lでゼオシンを含む直径13cmのPM074培地上に拡散し、遺伝子銃の項で列挙されている条件下で増殖させた。
【0161】
様々な電圧、抵抗及び静電容量を試験した後、最適なエレクトロポレーション条件は、1.0~1.2kV(5000~6000V/cm)、200~300オーム及び25~50μFであることが分かった。大量のDNAの使用により、得られるゼオシン耐性コロニーの数が増えたが、4μgを超える量では、効果は横ばいであった。
【0162】
エレクトロポレーション後、250μg/mlのゼオシンを含む寒天培地(PM130)に細胞を播種して、bleRカセットが組み込まれた形質転換体について選択した。天然の標的遺伝子座にわたって増幅するように設計したプライマー(oligo-AE596(配列番号67)及びoligo-AE597(配列番号68))を用いたコロニーPCRによって、形質転換体をスクリーニングした。これらのプライマーは、遺伝子座への組み込み(例えば、BleRカセットのノックイン)の非存在下では、700bpのバンドが現れるように、または、1つのBleRカセットが標的遺伝子座に組み込まれる場合には、4.3kbのバンドが現れるように設計した。加えて、コロニーPCRは、cpSRP54遺伝子(oligo-AE597、配列番号68)から選択可能マーカー(oligo-AE405(配列番号69)及びoligo-AE406(配列番号70))までに及ぶフラグメントを増幅するように設計したプライマーを用いて行った。組み込まれたbleカセットの配向に応じて、bleRカセット内でcpSRP54遺伝子まで及ぶプライマー405/597または406/597によるいずれかの増幅から、1.2kbのバンドが現れることになる。これらの結果から、ホモロジーアームの非存在下で、標的遺伝子座へのBleRカセットのノックインが高頻度(この試料において40~45%)に生じることが示されている(図12)。cpSRP54のノックアウトにより、薄緑色の表現型が現れるので、この画像では、これらのコロニーパッチが、PCRの結果と重ねられている。
【0163】
実施例8.Cas9/CRISPRを用いて、天然のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Accase遺伝子の発現を向上させるためのプロモーター強化
N.ガディタナ(N.gaditana) Accase遺伝子のプロモーター領域を標的として、そのプロモーターの機能を高めた。実施例4に記載されているようなハイグロマイシン耐性カセットを含むが、5’及び3’識別配列が欠損しているコンストラクトを設計した(配列番号45)。このHygRカセットは、外方向に配向した強力プロモーターに隣接していた(図13A)。この外向きのデュアルプロモーターデザインは、そのドナーフラグメントをAccase遺伝子の上流領域に標的化したときに、HygRカセットが組み込まれた配向にかかわらず、それらのプロモーターの1つが、Accase遺伝子の発現を促進するように配置されるようにした(図13B)。このコンストラクトは、組み込み領域に対するホモロジーアームが欠損していたので、意図する挿入形態は、NHEJによるものであった。HygRカセットの「上流」に位置する外向きのプロモーターは、TCTPプロモーター(配列番号11)であった。HygRカセットの「下流」に位置する外向きのプロモーターは、RPL24プロモーター(配列番号25)であり、これにより、デュアルプロモーターHygRカセットというDNAフラグメント(配列番号71)が得られた。
【0164】
4つのキメラガイドRNAを、実施例2で説明したように合成し(それぞれ20ヌクレオチド長(配列番号72~75))、図13Bに示されているように、プロモーターに隣接するハイグロマイシンカセット(配列番号71)を様々な標的部位(Acc1~Acc4)に組み込むことを対象とした。基本的に実施例4で説明したようにエレクトロポレーションを用いて、実施例3で説明したN.ガディタナ(N.gaditana)エディター株GE-6791の形質転換を行い、その際、4つのガイドRNAをそれぞれ、プロモーターに隣接するハイグロマイシンカセット(配列番号71)と個別に共形質転換した。各形質転換において、ハイグロマイシン耐性コロニーを選択し、PCRによって解析して、Accase遺伝子の5’領域にHygRカセットが組み込まれたか否かを同定した。破壊遺伝子座を確実に確認するために、PCR産物をシーケンシングした。使用したプライマーは、Accase遺伝子の標的上流領域に隣接するAccase-F(配列番号76)とAccase-R(配列番号77)であった。
【0165】
プロモーター領域の改変が確認された2つの形質転換体(ACC-KI-1及びACC-KI-2という)を更なる解析のために選択した。ACC-KI-1では、挿入は、推定転写開始部位の13bp上流のAcc1ガイドRNA部位を標的とし、ACC-KI-2では、推定転写開始部位の28bp上流のAcc2ガイドRNA部位を標的としていた。「プロモーター強化」コンストラクトの効果を割り出すために、2つの株ACC-KI-1及びACC-KI-2において、Roessler P.(1988) Archives of Biochemistry and Biophysics 267:521-528)に記載されているように、Accase酵素活性を正確に測定し、それらの酵素活性を野生型細胞の酵素活性と比較した。ACC-KI-1及びACC-KI-2の両方において、総タンパク質1ミリグラム当たりをベースとする総ACCase酵素活性の増大が観察され(表4)、説明したような遺伝子プロモーターの改変により、遺伝子の発現が増大し、コードされたタンパク質のレベルが増大したことが示された。
【0166】
(表4)
【0167】
実施例9.ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属におけるZnCys-2845遺伝子座のノックアウト
CRISPR技術を用いて、ZnCys-2845脂質レギュレーター遺伝子もノックアウトした。挿入によるノックアウト用のキメラガイドRNAとドナーDNAで形質転換する宿主として、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes) Cas9ヌクレアーゼをコードする遺伝子を発現するナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株GE-6791を使用した。
【0168】
ZnCys-2845遺伝子を破壊の標的とするために、ガイドRNAを産生させるように、DNAコンストラクトを作製し(SGI-DNA、カリフォルニア州ラホヤ)、そのDNA分子は、T7プロモーター(配列番号35)の下流に、操作されたキメラガイドの配列を含んでいた。そのキメラガイド配列は、S.pyogenes Cas9 PAM配列(NGG)の上流にあるZnCys-2845遺伝子配列内の配列に相同である18bpの標的配列(配列番号78)を含んでいたとともに、トランス活性化CRISPR(tracr)配列も含んでいた。このキメラガイド配列は、まず、相補的なDNAオリゴヌクレオチド(配列番号79及び配列番号80)で構成されるDNA鋳型を作製することによって合成し、それらのオリゴヌクレオチドをアニーリングして、T7プロモーター配列を含む二本鎖のDNA鋳型を作り、その鋳型を、MEGAshort script(商標)T7 Kit(Life Technologies番号AM1354M)をメーカーの説明書に従って用いるインビトロ転写反応で用いて、ガイドRNAを合成した。Zymo-Spin(商標)V-Eカラム(Zymo Research番号C1024-25)をメーカーのプロトコールに従って用いて、得られたRNAを精製した。
【0169】
標的ZnCys-2845遺伝子座に挿入するドナーフラグメント(配列番号46)は、N.ガディタナ(N.gaditana) EIF3プロモーター(配列番号23)の下流に、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HygR、配列番号22)を含み、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)が続く選択可能マーカーカセットを含んでおり、このプロモーター-ハイグロマイシン耐性遺伝子-ターミネーター配列の全体を、5’末端の27塩基対の識別配列(配列番号43、5’ID)と3’末端の27塩基対の識別配列(配列番号44、3’ID)と隣接させ、「Hyg耐性カセット」(配列番号46、HygRカセット)というDNAフラグメントを得た。
【0170】
ZnCys-2845遺伝子座を標的どおりノックアウトするために、基本的にUS2014/0220638に記載されているようにして、ZnCys-2845遺伝子を標的とする精製キメラガイドRNAを5μgと、選択可能ドナーDNA(HygRカセット、配列番号46)を1μg用いて、エレクトロポレーションによって、Cas9エディター株GE-6791を形質転換した。エレクトロポレーション後、ハイグロマイシンを含むPM124寒天培地に細胞を播種して、ハイグロマイシン耐性カセットが組み込まれた形質転換体について選択した。形質転換体を新鮮なプレートにパッチし、コロニーPCRによって、ドナーフラグメントのZnCys-2845遺伝子への挿入についてスクリーニングした。
【0171】
コロニーPCRスクリーニングは、実施例1で説明したように行った。ZnCys-2845遺伝子の標的遺伝子座へのドナーフラグメントの挿入を検出するのに用いたプライマーは、配列番号81及び配列番号82であった。PCRベースのコロニースクリーニングに基づき、標的ZnCys-2845遺伝子に挿入されたドナーDNA(HygRカセット)を有するノックアウト株GE-8564及びGE-8565(図14A)を産生性アッセイで試験した。
【0172】
バッチ産生性アッセイでは、細胞が利用可能な唯一の窒素源として15mMのナイトレートを含む窒素の豊富な培地PM123(すなわち、この培養培地は、還元窒素源を有していなかった)において、ZnCys-2845ノックアウト株GE-8564及び野生型前駆株WT-3730を培養した。ZnCys-2845変異体は、還元窒素の非存在下では増殖しないことが分かっているので、8.8mMのナイトレートに加えて、5mMのアンモニウムを含むPM124培地で増殖させた種(スケールアップ)培養物から、産生培養物を開始OD730=0.5で播種した。
【0173】
播種後、バッチアッセイにおいて、トリプリケート培養で、唯一の窒素源として15mMのナイトレートを含む175mlのPM123培地の入った75cm2の組織培養用角型フラスコで、7日間、ZnCysノックアウト株GE-8564と野生型株WT-3730を増殖させた。これらのフラスコは、その「幅」が最も狭い部分に対して、自然照明を模倣するように設計した曲線に沿った光強度で、16時間の点灯と8時間の消灯というサイクルにプログラムしたLED光源が当たるように配置し、その光源の光強度は、明期の中間に約1200μEでピークに達するものであった。毎日、培養物に脱イオン水を加え、蒸発損失分を補った。培養物の温度は、25℃に設定したウォーターバスによって調節した。培養物を0日目に播種し、細胞密度、脂質の尺度としての脂肪酸メチルエステル(FAME)及び全有機体炭素(TOC)を評価するために、試料(5ml)を3日目、5日目及び7日目に採取した。
【0174】
FAME解析は、GeneVac HT-4Xを用いて乾燥した2mLの試料で行った。各乾燥ペレットに、メタノール中の500mMのKOHを500μLと、0.05%のブチル化ヒドロキシルトルエンを含むテトラヒドロフランを200μLと、2mg/mlのC11:0遊離脂肪酸/C13:0トリグリセリド/C23:0脂肪酸メチルエステル内部標準混合液を40μLと、ガラスビーズ(直径425~600μm)を500μL加えた。このバイアルをオープントップのPTFEセプタム付きキャップで閉じ、1.65krpmのSPEX GenoGrinder内に7.5分置いた。続いて、試料を80℃で5分加熱し、放冷した。誘導体化のために、メタノール中の10%の三フッ化ホウ素を500μL、試料に加えてから、80℃で30分加熱した。それらの試験管を放冷してから、ヘプタンを2mLと、5MのNaClを500μL加えた。それらの試料を5分、2000rpmでボルテックスし、最後に、3分、1000rpmで遠心分離した。Gerstel MPS Autosamplerを用いて、ヘプタン層をサンプリングした。計量では、C23:0 FAME内部標準物質を80μg用いた。
【0175】
2mLの細胞培養物をDI水で総体積20mLまで希釈することによって、全有機体炭素(TOC)を割り出した。全炭素(TC)と全無機炭素(TIC)を割り出すために、1測定当たり、3回の注入をShimadzu TOC-Vcsj Analyzerに行った。燃焼炉は、720℃に設定し、TOCは、TCからTICを減じることによって割り出した。4点較正範囲は、非希釈培養物の20~2000ppmに対応する2ppm~200ppmであり、相関係数はr2>0.999であった。
【0176】
これらの解析の結果は、表5~7に示されている。野生型及びノックアウトGE-8564変異体について示されている値は、3つの培養物の平均と、標準偏差(sd)である。
【0177】
(表5)ナイトレートのみの培養培地によるバッチアッセイにおいて、ZnCys-2845ノックアウト変異体と野生型培養物によって産生された脂質(FAME)
【0178】
(表6)ナイトレートのみの培養培地によるバッチアッセイにおいて、ZnCys-2845ノックアウト変異体及び野生型培養物によって産生されたバイオマス(TOC)
【0179】
(表7)ナイトレートのみの培養培地によるバッチアッセイにおけるZnCys-2845ノックアウト変異体と野生型株のFAME/TOC比
【0180】
ナイトレートのみの培地におけるZnCys-2845ノックアウト変異体培養物のFAME含有量は、培養3日目(アッセイ初日)に加え、5日目と7日目にも、野生型よりも高いレベルであったが(表5)、ZnCys-2845ノックアウト株の3日目~7日目における1日当たりのFAMEの増加率は、野生型株よりも低かった。表6には、この期間にわたって、ナイトレートのみの培地で培養したZnCys- 2845遺伝子破壊変異体では、野生型に比べて、その全有機体炭素の増加率がかなり低かったことが示されており、これにより、TOCの蓄積によって評価した場合に、安定した培養が示された。すなわち、ZnCys-2845ノックアウト株は、唯一の窒素源としてナイトレートを含む培地で培養すると、窒素飢餓状態にあるような挙動を見せた。表7によって、このことが確認されており、1週間の産生性アッセイにわたって、ZnCys-2845ノックアウト株GE-8564のFAME/TOC比が、野生型のFAME/TOC比よりも有意に高かった(野生型のFAME/TOC比の約3倍)ことが示されている。
【0181】
実施例10.挿入によるCas9 ZnCys-2845ノックダウンコンストラク

Cas9/CRISPRゲノム操作を用いて、追加の変異株を操作して、ZnCys-2845遺伝子の発現が低下するようにした。そのオープンリーディングフレームの最初のアミノ酸をコードするATGの上流、その遺伝子のイントロン内、その遺伝子の3’末端内であるが、コード配列内、またはその遺伝子の3’非翻訳領域内の配列を標的とするように、12個のキメラガイドRNAを設計した(図14A)。これらのコンストラクトは、その遺伝子の領域内の部位にドナーフラグメントを挿入するように設計されており、その挿入によって、天然の配列が破壊されて、標的遺伝子の発現レベルが野生型よりも低下することが見込まれるので、本明細書では、「Bashノックダウンコンストラクト」または簡潔に「Bashコンストラクト」という。(これに応じて、このような挿入部を含む株は、「Bash株」、「Basher」または「Bashノックダウン変異体」という。)ZnCys-2845遺伝子(標的部位配列)に対して相同性を有する12個の18ヌクレオチド配列は、表8に示されている。
【0182】
(表8)ZnCys-2845の発現を減弱させる標的配列及びキメラガイド配列
【0183】
キメラガイドDNAコンストラクトは、2本の相補鎖として合成し、それらの相補鎖をアニーリングして、そのガイド配列(18ヌクレオチドの標的配列を含む)の上流に配置されたT7プロモーターとともに、二本鎖コンストラクトを生成し、それを用いて、キメラガイドRNAをインビトロ転写によって生成し、実施例3で説明したようにして精製した。実施例3で説明したように、Hyg耐性(「HygR」)カセット(配列番号46)を含むドナーフラグメントとともに、各キメラガイドRNAを個々にナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属エディター株GE-6791に形質転換した。ハイグロマイシン耐性コロニーを選択して、説明したように、ZnCys-2845遺伝子の標的領域に隣接するプライマーを用いて、コロニーPCRによってスクリーニングした(プライマーMA-ZnCys-FP(配列番号81)及びMA-ZnCys-RP(配列番号82)を用いて、ノックアウト(GE-8564)とドナーフラグメントのイントロンへの挿入を確認し、プライマーMA-5’Bash-ZnCys-FP(配列番号95)及びMA-5’Bash-ZnCys-RP(配列番号96)を用いて、ZnCys-2845遺伝子の5’領域へのドナーフラグメントの挿入を確認し、プライマーMA-3’Bash-ZnCys-FP(配列番号97)及びMA-3’Bash-ZnCys-RP(配列番号98)を用いて、ZNCys-2845遺伝子の3’領域へのドナーフラグメントの挿入を確認した。12個のガイドRNAのうち11個によって、標的遺伝子座にHyg遺伝子が挿入されたことがコロニーPCRによって判断された単離体が得られた。
【0184】
ノックダウン株から単離したRNAに対して、定量的逆転写-PCR(qRT-PCR)を行って、それらの株において、ZnCys-2845遺伝子の発現が実際に低下したか確かめた。窒素を豊富に含む標準的な条件(PM074(ナイトレートのみの)培地)で、ZnCys-2845Bashノックダウン株を増殖させ、定常期初期中に回収した。ZnCys-2845 Bashノックダウン細胞から全RNAを単離し、BioRadのiScript(商標)Reverse TranscriptionSupermixキットをメーカーのプロトコールに従って用いて、cDNAに変換した。PCRのために、Ssofast EvaGreen Supermix(Bio-Rad、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を遺伝子特異的プライマーとともに用いた。CFX Real-time System(BioRad)と連結したC1000 Thermal CyclerでPCR反応を行った。プライマーとcDNAの濃度は、メーカーの推奨に従った。ZnCys-2845転写産物の配列を増幅するためのプライマーは、配列番号99及び配列番号100であった。異なる培養条件下で、一貫した発現レベルを有するハウスキーピング遺伝子(1T5001704、配列番号101)に対して、各試料の転写産物レベルを正規化し、BioRadのCFX Managerというソフトウェアを用いて、ddCT法を使用して、相対的な発現レベルを算出した。
【0185】
図14Bには、上記の株のいくつかで、ZnCys-2845転写産物のレベルが低下したことが示されている。これらのうち、GE-13108株(ZnCys-2845 Bash-3)及びGE-13109株(ZnCys-2845 Bash-4)(ZnCys-2845遺伝子の5’末端を標的とする)、ならびにGE-13112株(ZnCys-28453 Bash-12)(ZnCys-2845遺伝子の3’末端を標的とする)を産生性アッセイ用に選択した。
【0186】
実施例11.ZnCys-2845 RNAiノックダウンコンストラクト
ZnCys-2845遺伝子の発現低下により、それらの細胞が、依然として野生型よりも多くの脂質量を産生しながら、Cas9仲介ZnCys-2845ノックアウト(実施例9)よりも多くの炭素を蓄積できるようになるのか判断する別の策では、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属細胞での発現用に、干渉性RNA(RNAi)コンストラクト(図15に示されている)を設計した。このコンストラクトは、ヘアピンを形成するように設計された配列であって、ZnCys-2845遺伝子の領域(配列番号102)に相同である配列を含み、その後にループ配列が続き、続いてZnCys-2845遺伝子に相同な配列に対する逆配列が続き、N.ガディタナ(N.gaditana) EIF3プロモーター(配列番号45)によって駆動され、N.ガディタナ(N.gaditana)「ターミネーター9」(配列番号103)が続く配列を含む。このRNAi発現カセットを含むコンストラクトは、TurboGFP(Evrogen、ロシアのモスクワ)をコードするナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属コドン最適化遺伝子(配列番号24)であって、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属用にコドン最適化されており、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 4AIIIプロモーター(配列番号40)の制御下にあり、「ターミネーター5」(配列番号41)が続いている遺伝子とともに、ハイグロマイシン耐性を付与する遺伝子(配列番号44)であって、TCTPプロモーター(配列番号11)によって駆動され、EIF3ターミネーター(配列番号12)によって終端する遺伝子も含んでいた。このコンストラクトのRNAi発現カセットは、ハイグロマイシン耐性発現カセット(RNAiコンストラクトの5’に配置したとともに、RNAiコンストラクトの転写方向と反対の転写方向に配向させた)と、GFP発現カセット(RNAiカセットの3’に配置したとともに、RNAiカセットと同じ転写方向に配向させた)との間に配置した。このコンストラクトは、線状化して、説明したとおりに、エレクトロポレーションによって、野生型ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana) WT-3730に形質転換した。
【0187】
ハイグロマイシン耐性コロニーをPCRによって、RNAiコンストラクトの存在についてスクリーニングし、上記の実施例3で説明したように、フローサイトメトリーを用いて、GFPの完全浸透度について更にスクリーニングした。フローサイトメトリーを行って、RNAiコンストラクトについて陽性であった形質転換体から単離した株6、7、10、12、13、21、25及び30の浸透度を試験し、野生型対照の波形と重ねた。
【0188】
RNAiを用いて、異なるレベルの遺伝子減弱を試験したので、異なる浸透度パターンを示す株の表現型を試験することが重要であった。例えば、RNAiコンストラクトを有するいくつかの株(株10、13、21及び30など)は、完全浸透性ではなかった。すなわち、これらの蛍光波形は、基本的に野生型の波形と一致していた。興味深いことに、野生型レベルに対するRNAレベルの低下は、株25が最も大きく、続いて、株7、10、6及び12であった。ZnCys-2845遺伝子の減弱の特徴は、窒素源としてナイトレートのみを含む培地で増殖できないこと(または、ZnCys2845遺伝子発現の減弱レベルによっては、この増殖の軽減)である。ノックアウトでは、増殖は見られず(右端のフラスコ)、株1及び株12でも、わずかな増殖が見られるか、または増殖は見られなかった。株7及び25では、ナイトレートのみの培地において増殖が軽減され、株10、13、21及び30では、野生型と同様の増殖が見られた。特に、株10(RNAレベルにより、(少なくとも株6と同程度に)高レベルで遺伝子を減弱すると見られる)は、株6ほどの強さで表現型を示さない。この表現型の差は、RNAレベルから予測不能であるが、株10のGFP発現の不完全浸透性と、株6におけるGFPの完全浸透度での発現とはよく相関していた。すなわち、クローン集団における結合蛍光タンパク質遺伝子の蛍光の評価は、目的の遺伝子を一貫して発現する株を単離するための信頼性の高い方法であった。
【0189】
株7(完全浸透度を示したが、ナイトレートのみの培地において、ノックアウト株よりも増殖軽減度が小さかった)は、GE-13103株という名称を新たに付けて、プロモーターと、実施例10において単離した3’末端破壊株とともに、更なる評価のために選択した。
【0190】
実施例12.ZnCys-2845ノックダウンコンストラクトの表現型の解析
脂質調節因子の表現型を厳密に試験するために、バッチ産生性アッセイにおいて、培養培地PM124(NHとNOの両方を窒素源として含む)で培養物をスケールアップするとともに、ナイトレートを唯一の窒素源として含むPM123培養培地でアッセイを行うことによって、ZnCys-2845 RNAi株GE-13103、ならびにZnCys-2845ノックダウンによる挿入「basher」株GE-13108、GE-13109及びGE-13112を試験した。
【0191】
顕著なことに、サンプリングした全ての日に、ナイトレートを唯一の窒素源として用いて培養したところ、元のノックアウト変異体GE-8564を含む全ての遺伝子減弱変異体が、野生型を上回る量でFAMEを産生した(表9)。しかしながら、これらの条件では、元のノックアウト株GE-8564では、野生型よりも全有機体炭素の蓄積速度が有意に低かったが(表10)、ZnCys-2845遺伝子の発現が低下した減弱ノックダウン株(「Bash」株及びRNAi株)のTOC蓄積速度は、野生型と近いかまたは(例えば、GE-13112の場合)基本的に同一であった(表10)。顕著なことに、これらのZnCys-2845ノックダウン変異体では、TOCに対するFAMEの比が、野生型よりも有意に高まった(表11)。
【0192】
(表9)NOを含む培養培地によるバッチアッセイにおけるZnCys-2845ノックダウン株のFAME産生性の野生型との比較(培養物1L当たりのmg)
【0193】
(表10)NOを含む培養培地によるバッチアッセイにおけるZnCys-2845ノックダウン株のTOC産生性の野生型との比較(培養物1L当たりのmg)
【0194】
(表11)NOを含む培養培地によるバッチアッセイにおけるZnCys-2845ノックダウン株のFAME/TOC比の野生型との比較
【0195】
実施例13.完全浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株を用いた、導入遺伝子の標的組み込み
実施例3のCas9エディター株GE-6791を用いて、トランスジェニック経路の特定の遺伝子座への標的組み込みも評価した。アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子内のaco2 CRISPR標的遺伝子座を再度選択した(配列番号48)。実施例5のHygRカセットを用いると、良好に破壊されるとともに、遺伝子を標的とするgRNA(配列番号49)が既に入手可能であったからである(実施例5を参照されたい)。aco2部位への標的組み込み用に、ベクターpSGE-6337(配列番号104)のAsc/Not制限消化とゲル精製によって得た22.3kbフラグメントを選択した。このフラグメントは、代謝操作用の6個の発現カセットを含んでおり、タンデムに並んだこの6個の発現カセットは、一方の末端はHygRカセットに、もう一方の末端はGFPカセットに隣接していた(図16)。
【0196】
aco2標的部位を標的とする精製キメラガイドRNAを5μgと、pSGE-6337-Asc/Notフラグメント(配列番号104)の1つを1μg用いて、エレクトロポレーションによって、GE-6791 Cas9発現株を形質転換した。エレクトロポレーション後、ハイグロマイシンを含む寒天培地に細胞を播種して、22.3kbのDNA分子が組み込まれた形質転換体について選択した。上で説明したようにして(実施例2を参照されたい)、ただし、aco2標的に隣接するプライマー(配列番号17)(配列番号18)を用いるコロニーPCRと、HygR遺伝子(配列番号105)をプライムオフする第3のプライマー(このフラグメントの一方の末端の近くに位置するとともに、外側に向いている)を含む別の反応とによって、形質転換体をスクリーニングした。PCRの結果は、詳細に示されており(図17)、コロニー5、6、7、8、9、20、27、28及び31において、22.3kbのドナーDNAが標的aco2部位に組み込まれたようである。
【0197】
実施例14.tracrRNAを発現するナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属エディター株
1)ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化したストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来Cas9遺伝子(配列番号1)とともに、N末端FLAGタグ(配列番号5)と、核局在化シグナル(配列番号4)と、ペプチドリンカー(配列番号39)とを含むCas9発現カセットであって、N.ガディタナ(N.gaditana) RPL24プロモーター(配列番号25)によって駆動され、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)によって終端する発現カセットと、2)tracrRNA(配列番号106)の発現を駆動するように設計された発現カセットであって、crRNAにハイブリダイズする20bp配列と、Cas9タンパク質と相互作用する16~22ヌクレオチド配列を含み、N.ガディタナ(N.gaditana)推定U6プロモーター(配列番号15)によって駆動され、U6ターミネーター(配列番号16)が続いている発現カセットと、4)N.ガディタナ(N.gaditana)用にコドン最適化したアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来blast遺伝子(配列番号10)を含む選択可能マーカー発現カセットであって、N.ガディタナ(N.gaditana)TCTPプロモーター(配列番号11)によって駆動され、EIF3ターミネーター(配列番号12)が続く発現カセットと、4)ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化したTurboGFP遺伝子(Evrogen、ロシアのモスクワ)(配列番号24)を含むGFPレポーター発現カセットであって、N.ガディタナ(N.gaditana) 4A-IIIプロモーター(配列番号40)に駆動され、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター5(配列番号41)(N.ガディタナ(N.gaditana)ゲノムにおいては、グルコサミン6-フォスフェートイソメラーゼ2遺伝子とYVTNリピート様キノプロテインアミンデヒドロゲナーゼ遺伝子との間に見られる)が続く発現カセットとを含むコンストラクトで、野生型ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属を形質転換することによって、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属エディター株を操作することもできる。
【0198】
ブラストサイジンを含むPM74寒天培地に、このコンストラクトで形質転換した株を播種した。解析と保存のために、コロニーを選択培地にパッチし、任意で、コンストラクトの存在について、PCRによってスクリーニングする。実施例3で説明したようにして、フローサイトメトリーによって、1つのコロニー単離体から得た形質転換体をスクリーニングする。得られたヒストグラムを、別に実施した野生型細胞(すなわち、蛍光タンパク質を発現しない細胞)のヒストグラムと重ねる。培養物における完全浸透度で発現した株のみを更に調べ、これは、フローサイトメトリーのGFP蛍光ヒストグラムにおいて、単一のピークまたは釣鐘形状の曲線が現れ、ログスケールでプロットしたところ、その蛍光ピークが、野生型自己蛍光(バックグラウンド蛍光)ピークよりも完全に高くシフトしたことを意味する。これらの株は、その株の培養物の細胞全体にわたって、物理的に連結されたGFP遺伝子の発現が見られたという点で、「完全浸透性の」Cas9及びtracrRNA発現株として定められる。すなわち、いずれかの所定の時点において、GFPの量(すなわち、蛍光)が、細胞間で多少異なることがあり、その結果、複数のピークまたは釣鐘形状の曲線が現れたが、シフトしたそのピークに対して別個のGFP発現分布を示す細胞亜集団は、これらの株では観察されない。
【0199】
続いて、非形質転換細胞に対して明らかにシフトした1つの蛍光ピークが現れた、完全にGFP浸透性のCas9株(例えば、図5A及び5B、ならびに表1(ピークが1つか2つかに従って、「X」によってクローンがスコアリングされている)を参照されたい)を、Cas9発現の証明のために、抗FLAG抗体によるウエスタンブロットによって試験したとともに、核酸プローブによって、tracrRNAの存在について試験した。
【0200】
ゲノム編集のために、特定のゲノム遺伝子座を標的とするcrRNAと、編集遺伝子座への挿入用のドナーDNAで、完全浸透性のCas9及びtracrRNA発現株を形質転換する。用いるcrRNAは、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子(配列番号14)を標的とする20ヌクレオチド配列であって、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子標的化RNA全体(配列番号107)をもたらすように、20ヌクレオチドのtracrRNA認識配列または「tracrメイト」配列と並置された配列を含む。このドナーDNAは、N.ガディタナ(N.gaditana) EIF3プロモーター(配列番号23)の制御下で、ハイグロマイシン耐性(HygR)遺伝子(配列番号22)を含んでおり、N.ガディタナ(N.gaditana)双方向ターミネーター2(配列番号26)によって終端していた(機能的に連結したHygR遺伝子、プロモーター及びターミネーターは、本明細書では、HygRカセットという)。
【0201】
形質転換後、HygRコロニーを、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子の遺伝子座におけるHygRカセットの存在についてスクリーニングする。
【0202】
実施例15.tracrRNAが発現され、crRNAが導入されたクロレラ(Chlorella)属エディター株
別の例では、遺伝子カセットを標的遺伝子座に組み込むために、tracrRNAとcrRNAの両方を完全浸透性のパラクロレラ(Parachlorella)属 Cas9エディター株GE-15699に形質転換する。このケースでは、tracrRNAとcrRNAは、別々の分子である。標的化crRNA(配列番号108)は、葉緑体SRP54遺伝子(その破壊によって、色素表現型が軽減される)を標的とするように設計されている。crRNAとトランス活性化RNA(配列番号109)の両方を化学的に合成する。これらの2つのRNAは、1:1のモル比で、それぞれ約3μMの濃度で、10mMのトリス、1mMのEDTA(pH7.5)(RNase無添加)において組み合わせる。その体積は、例えば、約20μl~約200μlの範囲であることができる。そのRNA溶液を温度ブロックで94~99℃まで約2分加熱した後、その温度ブロックをオフにする。温度ブロックが25℃以下に達するまで、ハイブリダイゼーション混合物を温度ブロック内で放冷する。続いて、実施例7に従って、エレクトロポレーション用に調製したパラクロレラ(Parachlorella)属 Cas9エディター株GE-15699細胞(0.2cmのキュベット内に約5×10細胞)の入ったキュベットに、約1~約5μgの範囲の量のアニール済みRNAを加える。続いて、パラクロレラ(Parachlorella)属での発現のために最適化したBleRカセット(配列番号66)を含むドナーDNA(約1μg)をキュベットに加え、実施例7で示した方法に従って、細胞に対してエレクトロポレーションを行う。ゼオシン耐性コロニーを、色素の減少について目視で調べる。天然の標的遺伝子座にわたって増幅するように設計したプライマー(oligo-AE596(配列番号67)及びoligo-AE597(配列番号68))を用いて、コロニーPCRによって、薄緑色のコロニーを、cpSRP54遺伝子座におけるドナーフラグメントの存在についてスクリーニングする。
【0203】
実施例16.ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株とQdotを用いたマーカーレス形質転換
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株での非常に効率の高いゲノム編集により、マーカーレス形質転換が可能になる。1つの方策においては、光合成調節因子遺伝子Lar1(同時係属の米国特許出願公開第2014/0220638号(参照により、本明細書に援用される)に開示されている)を変異の標的とした。Lar1遺伝子の変異により、非濃縮法よりも容易に識別可能な表現型(クロロフィルの減少)であって、変異体回収率のいずれかの向上が見られるか割り出すために目視でスコアリングできる表現型が生じるからである。Lar1を標的とするキメラgRNA(配列番号109)とQDot585「Qtracker」ナノ粒子(Life Tech番号Q25011MP)でCas9エディター株GE-6791を形質転換した。予め混合したQtracker(メーカーの説明書に従った)2μlとgRNA、5μgを混合し、上で説明したように、エレクトロポレーションによってナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属細胞に形質転換した。形質転換後、細胞を1)寒天培地に直接播種するか、2)FACによって選別して、Qdot陽性細胞について濃縮してから播種するか、または3)メーカーの説明書に従ってLive/Dead Blue染色液(Life Technologies番号L-23105)とともにインキュベートし、FACによって選別し、Qdot陽性細胞について濃縮する一方で、染色された「死」細胞を除外してから播種した。
【0204】
PCRシーケンシング用に、最小かつ最も薄いコロニーをパッチし、それらのコロニーに対して配列確認を行い、NHEJによる修復ミスによる小さな挿入または欠失(平均で1または2塩基)があるか検証した。変異体回収率の向上は、直接播種した場合の0.05%から、QdotをFACSで濃縮し、死細胞を除外した場合の0.13%まで向上した(表4)。この向上は有意であるが、偽陽性率がかなり高かった。若干の割合のQdot陽性細胞は、細胞壁に伴うQdotを有していたと考えられ、必ずしも細胞内部に存在していたわけではないと仮定した。
【0205】
(表12)完全浸透性のCas9エディター株を用いたマーカーレス変異頻度
【0206】
実施例17.ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株と、インビトロで転写したGFP用mRNAを用いたマーカーレス形質転換
これらの実験では、Qdotの代わりに、インビトロ合成したメッセンジャーRNAであって、TagGFP(Evrogen、ロシアのモスクワ)のような蛍光タンパク質をコードするメッセンジャーRNAとともに、キメラガイドRNAをナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に形質転換する。これにより、実施例9で見られた高い偽陽性率が排除されることになる。GFP mRNAが細胞内部に存在して、そのリボソーム機構と接触しなければ、蛍光タンパク質が作られないからである。この実験では、形質転換後、例えば、試験できる期間、ただし、形質転換後4~48時間であり得る期間に、細胞を回収可能となり、その後、細胞をフローサイトメトリーによって選別することになる。バックグラウンドを上回る蛍光(バックグラウンド蛍光は、GFPをコードするRNAなしで形質転換した細胞によって割り出す)を示した細胞を選択するとともに、選択なしで播種して、後で、標的ゲノム遺伝子座に隣接する配列に対して相同性を有するプライマーを用いるPCRによってスクリーニングする。更に、TagGFP(GFPの単量体型である)をCas9遺伝子のN末端またはC末端のいずれかに、翻訳によって融合することもでき、Cas9遺伝子も、宿主細胞に組み込む代わりに、一過性に発現させて、ゲノム編集機能を果たすようにしてもよい。これにより、Cas9編集に対して、非GMO的アプローチが可能になる。
【0207】
実施例18.抑制性Creリコンビナーゼ発現能を有するマーカーレス・レポーターレスナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 Cas9エディター株の作製
ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)におけるCas9ヌクレアーゼの構成的発現と、Creリコンビナーゼの抑制的発現のために、ベクターのpSG6483を設計及び操作した(図18)。このベクターは、1)実施例3(「完全浸透性のナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属Cas9エディター株の作製」)で説明したCas9発現カセットと、2)実施例3で説明した選択可能マーカーカセット(「HygRカセット」)と、3)実施例3で既に説明した同じGFPレポーターカセットと、4)ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)用にコドン最適化したP1バクテリオファージ由来Creリコンビナーゼであって、Cas9コンストラクトで用いた同じN末端NLSを含むとともに、Creコード領域に挿入されたN.ガディタナ(N.gaditana)イントロンも含むCreリコンビナーゼ((配列番号111に示されているような操作されたCre遺伝子)を含む抑制性CRE発現カセットという4つのエレメントを含んでいた。このナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属の操作されたCre遺伝子は、そのCre遺伝子の5’末端においては「アンモニア抑制性亜硝酸/亜硫酸レダクターゼ」プロモーター(配列番号112)に、そのCre遺伝子の3’末端においては、「亜硝酸/亜硫酸レダクターゼ」ターミネーター(配列番号113)に機能的に連結されていた。BlastR選択可能マーカーとGFPレポーターカセットは、コンストラクトにおいてタンデムに並んでいるとともに、同じ配向で同一のlox部位に隣接している。loxP部位に隣接する機構は一般的に、「フロックス」という。アンモニア抑制性プロモーターは、抗生物質耐性コロニーが生成され、GFPの表現型浸透度が100%になるまで、可能な限り、Cre遺伝子の発現を抑制するものであった。加えて、lox部位を含むベクターにCreをクローニングすることは、問題があることが明らかになっている。Creをクローニングすると、E.coliにおける基底レベルのCre発現でも、フロックスBlastRとGFPがループアウトしたからでる。このハードルを避けるために、イントロンをCre遺伝子に挿入して、触媒ドメインと求核ドメインを破壊した。これにより、E.coliにおいてそのフロックスマーカーを自己切除しない最終的な安定ベクターpSGE-6483(図18)が得られた。
【0208】
pSGE-6483をナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)に形質転換し、アンモニアを含むが、ナイトレートを含まないPM128寒天培地に播種した(この培地は、ブラストサイジンを100mg/L含んでいた)。解析と保存のために、コロニーを同じ選択PM128培地に再度パッチし、GFPの表現型の完全浸透度について、実施例3で説明したように、フローサイトメトリーによってスクリーニングした。アンモニウムを唯一の窒素源として含む培地(PM128)、または硝酸ナトリウムを唯一の窒素源として含む培地(PM129)のいずれかで、いずれの培地でもブラストサイジンによる選択なしに、並行連続培養するために、6個の株を引き継いだ。連続培養の2週間後、それらの株をフローサイトメトリーによって、GFPシグナルの喪失について調べ、診断用PCRによって、フロックスGFP/BlastRカセットの切断について調べ、ウエスタンブロットとqRT-PCRによって、Creの発現について調べ、ウエスタンブロットによって、Cas9の発現について調べた。
【0209】
GFPヒストグラムにより、異なる株において入り混じった結果が明らかになった。株6483-F12は、NH培養物とNO培養物との間でGFPシグナルが明らかに切り替わった唯一の株であった。株Bll及びC12は、NHとNOの両方でGFPシグナルが喪失したようであったが、株A11、D12及びE12は、NHとNOの両方でGFPシグナルが保持されたようであった(図19)。
【0210】
これらの株からmRNAを抽出し、RT-PCR及びqRT-PCRの実験のために、cDNAを生成した。Cre、GFP及びナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属由来のポジティブ対照遺伝子(「1704」、発現レベルが実質的にその細胞の環境的条件及び窒素状態の影響を受けないことが分かっている遺伝子)における転写産物を検出及び増幅する迅速な方法として、RT-PCRを用いた。ゲルイメージにより、NO培地で増殖した株B11、C12及びF12におけるGFP転写産物の喪失と、NO培地で増殖したCre転写産物におけるシグナルの増強が示されているが、ただし、株E12では、いずれの条件でも、検出可能なCre転写産物は見られなかった(図20)。qRT-PCRを用いて、抑制が予測される条件(NH)で培養した株と、非抑制/誘発条件(NO)で培養した株との間の転写産物量の倍数変化を定量化した。NHとNOにおける抑制の変化レベルを全ての株について観察した(図21)。基底レベルのCre発現は、株によって異なり、全ての株において、F12の転写産物が最も少なかった。このデータは、GFPヒストグラムデータとよく一致していた。F12が、NHでの連続培養後に、GFP陽性ヒストグラムを有する唯一の株であった一方で、NOにおいて連続培養後にGFPシグナルを喪失したからである。これにより、導入されたCre遺伝子が全体に、比較的抑制されると(すなわち、誘発条件でも)、Cre活性の良好な抑制が行われる可能性が高くなるが、このような低発現株でも、Cre発現が誘発されると、フロックス配列を十分に切除することが示されている。
【0211】
抗Creウエスタンブロットを行い(図22)、RT-PCRによって転写産物が検出されなかったE12を除き、全ての培養物から、38kDaのCREタンパク質が検出された。興味深いことに、NH条件とNO条件の両方で、同程度の量のCreタンパク質が検出された。すなわち、培養物の様々な増殖期に、試料を取ったので、qRT-PCRによって検出されたRNAレベルの差が、タンパク質レベルに反映されなかった可能性がある。抗Cas9ウエスタンブロットも行い、形質転換細胞でCas9酵素も検出された(図23)。
【0212】
F12培養物と誘発C12培養物の両方で、診断用PCRを行い、フロックスGFP及びBlastR遺伝子カセットが無傷であるか、またはCreの仲介による組み換えによって切除されたかを割り出し、環状組み換え産物の存在を検出したとともに、GFP及びBlastR遺伝子のみの存在を検出した(図24)。F12-NH(抑制)培養物は、ある程度の平衡レベルにあるようである。いずれの無傷のフロックスカセットが存在するようである(プライマーセットA、B、C)とともに、環状組み換え産物(プライマーセットD)によって、抑制条件下でも、ある程度のレベルの組み換えが見られたことが示されたからである。F12-NO培養物では、フロックス遺伝子が組み込み部位からほぼ切除されたようである。プライマーセットAが、無傷領域全体にわたって増幅せず(3.7kbのバンドは現れず、切断により、185bpのバンドが増幅されたか否か見極めるのは困難であった)、プライマーセットB及びCでは、極めて薄いバンドが現れ、プライマーセットD、F及びGでは、中程度に薄いバンドが現れたからである。C12-NO培養物は、切断プロセスにおいて更に進んでいるようであるが、それ自体において、BlastR及びGFPが依然として検出できた(プライマーセットF、G)。切断によって遺伝子座が改変されるか確実に検出するために、新たなプライマーセットを用いて、フロックス領域(図25)にわたって増幅し、その際、無傷の遺伝子座では、4.9kbのバンドが現れ、切除された遺伝子座では、1.3kbのバンドが現れた。F12-NH培養物について、同じ平衡及び/または異種培養物を観察した。無傷のバンドと切除されたバンドの両方が見られた一方で、F12-NO培養物では、切除されたバンドのみが見られたからである。NO培養物では、F12とC12の両方で、微弱なGFP及びBlastRシグナルが依然として観察されたので、F12、C12及びB11でNO培養から得られた細胞を希釈し、NOを含み、ブラストサイジンを含まない寒天平板上で、1つの単離コロニーに播種して、その後の株の均質性を高めるようにした。C12及びF12から得た3つの単離コロニーをPCRによって、Cre、BlastR及びGFP遺伝子の存在について試験した(図26)。GFP及びBlastR遺伝子は喪失したようであり(プライマーセットE及びF)が、CRE遺伝子は依然として容易に検出される(プライマーセットG)。
【0213】
CREの発現が最も抑制的であったので、Creによる新しいエディター株として更に試験するために、F12株を選択した。この株をGE-13630とした。
【0214】
実施例19.抑制性Creリコンビナーゼ能を有するナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属 cas9エディター株においてマーカーをリサイクルすることによるマーカーレスノックアウト
アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子を標的とするgRNA(既に実施例5で説明したようなもの)と、ドナーフラグメントとしてのフロックス破壊カセット(図27)(配列番号115)でGE-13630を形質転換した。このカセットは、ハイグロマイシン耐性遺伝子とGFP遺伝子を含んでおり、これらの遺伝子が、タンデムに並べられていたとともに、同じ配向でloxP部位に隣接していた。これらのloxP部位の外側には、3つのフレームの終止コドンがある。これらのフレームは、上流では、正配向であり、下流では、逆配向である。カセットの遠端には、カセットを識別しやすいように、また、組み込み中に、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属のDNA末端修復機構による損傷から終止コドンとloxP部位を保護するDNAバッファーとして機能するように、特有の「マーク」もある。ハイグロマイシンを500mg/L含むPM128寒天培地に、形質転換体を播種した。この培地は、Creの発現を抑制するためのアンモニウムを含み、形質転換体を耐性コロニーとして識別できるとともに、単離できるようになっている。コロニーを同じ選択培地にパッチし、ジェノタイピングし、(実施例5で説明したように)GFPの発現とコロニーPCRについて解析した。DNAシグナルの混合が見られ、4.5kbのフラグメント全体が挿入されたことと、170bpの最終的な切断産物が見られた。これにより、アンモニウムの存在下でも、切断が既に進行中であったことが示された。切断を完了させるために、これらの株を選択から外し、ナイトレートを含む培地(PM129)で増殖し、これにより、Cre発現の部分抑制を除去し、培養を通じて、完全な切断プロセスを促した。続いて、それらの株をジェノタイピングし、GFPシグナルの喪失についてモニタリングした。これらの基準(PCRによって観察されるようなHygR-GFPフラグメントの喪失と、蛍光シグナルの喪失)をパスした1つの株を、均質性のために、ハイグロマイシンによる選択なしに、ナイトレートプレート上で画線した。4つの単離コロニーに最後のジェノタイピングを行い、これらの株のアシル-CoAオキシダーゼ遺伝子組み込み遺伝子座のPCR産物をシーケンシングした。これにより、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子のオープンリーディングフレームを破壊するための翻訳停止部を含んでいた残りの170bpの傷跡のみによって、アシル-CoAオキシダーゼ遺伝子が破壊されたことが明確に示された。この株は、ハイグロマイシンへの感受性を持つことが立証され、HygR遺伝子を含むフロックスフラグメントの切断と一致していた。このスタッキングプロセスの概要が示されている(図28)。
【0215】
実施例20.ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)における異種のタイプI FAS遺伝子の発現
浸透度スクリーニングを用いて、RNAiの発現により、培養物全体にわたって、所望のレベルで遺伝子が減弱した形質転換菌株を選択した実施例11で示されたように、Cas9またはその他のゲノム編集ヌクレアーゼ以外の分子をコードするコンストラクトを発現する形質転換体のスクリーニングにも、浸透度スクリーニングが有益であることが明らかになっている。この例では、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属遺伝子調節エレメントに機能的に連結した異種のタイプI脂肪酸シンターゼ遺伝子を含むように操作されたコンストラクトでナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属を形質転換することから得た単離体で、浸透度スクリーニングを行った。ゼブラフィッシュ ダニオ・レリオ(Danio rerio)タイプI脂肪酸シンターゼ(タイプ1FAS)をコードする核酸配列(配列番号116)と、独自の単離スラウストキトリッド株のタイプI FASをコードする核酸配列(配列番号118)を、ユースティグマトファイト藻ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)でのそれらの遺伝子の発現用に設計したコンストラクトにクローニングして、藻の細胞質において異種のタイプI FAS酵素の機能を示す株を初めて単離可能にした。
【0216】
C.レリオ(C.rerio)タイプI FAS発現用コンストラクトpSGE-6200(図29)は、N.ガディタナ(N.gaditana)用にコドン最適化されている、D.レリオ(D.rerio)タイプI FAS(「DrFAS」という)をコードする遺伝子(配列番号116)を含んでおり、当該遺伝子は、当該DrFASコード配列の5’に位置するN.ガディタナ(N.gaditana) RPL7プロモーター(配列番号Z)と、当該DrFASコード配列(配列番号116)の3’末端に位置するN.ガディタナ(N.gaditana)「ターミネーター2」配列(配列番号Q)とに機能的に連結されていた。この発現コンストラクトは、DrFASタンパク質のACPドメインの活性化に必要なD.レリオ(D.rerio)パンテテインホスホトランスフェラーゼ(PPT)をコードする核酸配列(配列番号117)も含んでいた。このコンストラクトで用いたPPT遺伝子(配列番号117)も、N.ガディタナ(N.gaditana)用にコドン最適化されており、その5’末端において、N.ガディタナ(N.gaditana) 4AIIIプロモーターに機能的に連結されており、その3’末端において、N.ガディタナ(N.gaditana)ターミネーター4に機能的に連結されていた。DrFAS及びPPT遺伝子の上流には、その5’末端がTCTPプロモーター(配列番号11)(DrFAS遺伝子の発現を駆動するように配置されたRPL7プロモーターと反対方向に配向していた)に機能的に連結されているとともに、その3’末端がEIF3ターミネーターに機能的に連結されているコドン最適化「blast」遺伝子発現用カセットがあった。DrFAS及びPPT遺伝子の下流には、TurboGFPのコード配列(N.ガディタナ(N.gaditana)用にコドン最適化されていた。配列番号24)がEIF3プロモーターとN.ガディタナ(N.gaditana)ターミネーター5に機能的に連結されているGFP発現用カセットがあった。このGFP発現カセットは、DrFAS及びPPT遺伝子と同じ5’~3’方向に配向していた。
【0217】
スラウストキトリッドのタイプI FASの発現用コンストラクトpSGE-6167(図30)は、スラウストキトリッドのタイプI FASをコードする遺伝子(「ChytFAS」という)(配列番号118)であって、N.ガディタナ(N.gaditana)用にコドン最適化されており、そのChytFASコード配列の5’においてN.ガディタナ(N.gaditana) RPL7プロモーター(配列番号Z)に機能的に連結しており、そのDrFASコード配列の3’末端においてN.ガディタナ(N.gaditana)「ターミネーター2」配列(配列番号Q)に機能的に連結している遺伝子を含んでいた。このコンストラクトは、別のPPT遺伝子を含んでいなかった。ツボカビFASは、その酵素活性を含むからである。ChytFAS遺伝子の上流には、DrFASコンストラクトで示したのと同じblast発現カセットがあり(転写方向がFAS遺伝子と反対になるように配向していた)、ChytFAS遺伝子の下流には、DrFASコンストラクトで用いたものと同じGFP発現カセットがあった(FAS遺伝子と同じ方向に配向していた)。
【0218】
基本的にUS2014/0220638(参照により、本明細書に援用される)に説明されているようにして、エレクトロポレーションによって、DrFAS発現コンストラクトpSGE-6200及びChytFASコンストラクトpSGE-6167のこれらの発現カセットを含むDNAフラグメントを別々に、直鎖状分子(ベクター骨格が、コンストラクトのAscI及びNotI消化によって除去され、ゲル電気泳動によって、その直鎖状フラグメントが単離された状態)として、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に形質転換した。ブラストサイジンを含むプレート上で形質転換体を選択し、PCRによって、コンストラクトの存在についてスクリーニングした。
【0219】
続いて、コンストラクトを含むクローンを、実施例3で説明したように、GFP蛍光についてモニタリングするフローサイトメトリーによって、浸透度についてスクリーニングし、DrFAS形質転換体では、動物タイプI FASまたはFLAGタグ(いくつかのコンストラクトに存在する)に対する反応性を持つ抗体、またはChytFAS形質転換体では、ツボカビFASに対する反応性を持つ抗体を用いて、ウエスタンブロットによって、FASタンパク質の発現についてスクリーニングした。図31には、形質転換体が、野生型蛍光ピークに対してシフトした1つの蛍光ピークを示したことから、完全浸透度を有することが分かった6個のDrFAS形質転換体のフローサイトメトリーの波形が示されている。図31には、完全浸透性の各クローンが、タンパク質の発現も示したことを見て取れるウエスタンブロットが示されている。ゲル上の非標識レーンは、完全浸透性ではないことが分かったクローンのタンパク質反応性を示している(すなわち、それらのクローンは、2つ以上のピークを示し、そのピークのうちの1つが、野生型、すなわちバックグラウンドの蛍光と一致したか、または、それらのクローンは、野生型、すなわちバックグラウンドのピークと一致した単一のピークを示した)。したがって、タンパク質レベルに関するスクリーニングのみでは、完全浸透性の株(培養物全体にわたる発現)が同定されない。図32には、完全浸透度を示した6個のDrFAS株のフローサイトメトリーの波形が示されており、図32には、これらの株の抗動物FAS抗体によるウエスタンブロットが示されている。興味深いことに、これらの完全浸透性の株では、タンパク質レベルは、ウエスタンシグナル強度によって評価した場合、形質転換体ピークのバックグラウンド(野生型)ピークからの分離の程度に対応する。例えば、株6200-33及び6200-37は、ウエスタンバンドの強度が最大で、フローサイトメトリー蛍光ピークの野生型蛍光ピークからの分離の程度が最も大きかったことから、GFP遺伝子の発現が、連結遺伝子の発現の程度に反映されることが示された。
【0220】
完全浸透性でChytFASを発現した2つの株を、ウエスタンによって、FASタンパク質の発現についても評価した(図33)。6167-BのGFP蛍光ピークは、6167-AのGFP蛍光ピークのシフト具合よりも右側に(高い蛍光値で)シフトしていたが(図37A)、この差は、ウエスタンブロットによって検出した場合のタンパク質量には反映されなかった。しかしながら、興味深いことに、株6167は、下記のように、アッセイにおいて、6167A株よりも高いFAS活性を示した。
【0221】
選択した形質転換体におけるFAS活性を解析するために、ツボカビFASを発現する株である6167-A及び6167-B、ならびにDrFASを発現する株である6200-33、6200-38、6200-43、6201-43、及び6201-48(全て、完全浸透度を示したものとして選択した)(図33及び図34)の細胞抽出物をアッセイした。清澄化脱塩抽出物で、ABS 340nmで測定したマロニル-CoA依存性のNADPHの酸化をトリプリケートで割り出した。細胞培養物のアリコートをペレット化し、それらのペレット(約200~400μlの充填体積)を2mlの氷冷抽出バッファー(50mMのHEPES(pH7.0)(またはトリス(pH8.0))、100mMのKC1、2mMのDTT(新鮮な1Mのストック由来)、的確な濃度の1個のRoche製プロテアーゼインヒビターカクテル(例えば10mlにつき1錠)に再懸濁させた。ポジティブ対照抽出物として、同様のサイズの酵母ペレットを同じ方法で処理した。
【0222】
約500μlのベッドボリュームのジルコニウムビーズの入った2mlのスクリューキャップバイアルに、その再懸濁液を移した。予冷したブロックで、再懸濁液にビーズビーティングを3回、1分間行って、細胞を破壊した。溶解細胞を20,000×gで4℃にて20分遠心分離し、抽出バッファー(上記)で平衡化後、Zebaミニカラム(Pierce、製品89882)で上清を脱塩した。Pierce BCA検出キットでタンパク質濃度を測定した。基本的にLynen(1969) Meth Enzymol 14:17-33の手順に従って、脂肪酸シンターゼ(FAS)アッセイを行った。すなわち、0.2MのKHPO(pH6.6)、2mMのEDTA及び0.6mg/mlのBSAを含む2×バッファーストックを用いて、0.1MのKHPO(pH6.6)、1mMのEDTA、1mMのDTT、40μMのアセチル-CoA、110μMのマロニル-CoA(ネガティブ対照アッセイでは除外した)、180μMのNADPH及び1mg/LのBSAからなる作業ストックアッセイを作製した。続いて、上記のように調製した抽出物由来の総可溶性タンパク質50~100μgを各反応混合物に加えた。340nmにおける1分当たりの吸光度の変化を測定し、それを用いて、酸化したNADPHの1分当たりのμmolを算出した(図34)。興味深いことに、形質転換株で示された活性量は、GFP蛍光曲線が右側にシフトしている程度とよく相関していた(図35A)。ツボカビFAS形質転換株6167-Aは、GE-6889という株名に、6167-BはGE6890という株名にし、DrFAS形質転換株6200-33は、GE-6947という株名にし、DrFAS形質転換株6200-33は、GE-6947という株名にし、DrFAS形質転換株6200-38は、GE-6948という株名にし、DrFAS形質転換株6200-43は、GE-6949という株名にし、DrFAS形質転換株6201-43は、GE-6950という株名にし、DrFAS形質転換株6201-48は、GE-6951という株名にした。
【0223】
次に、培地に13Cバイカーボネートまたは13C標識アセテートのいずれかを加えた光栄養及び混合栄養増殖条件下で、これらの株を、インビボFAS率の決定のために解析した。培養物(各培養条件において、デュプリケートで行った)を約275μEの光で16:8の明暗サイクルに適合させ(光制限増殖)、約3.0のOD730までAdaptisチャンバーで増殖させた。明期の開始前に、培養物を遠心分離し、20mMのHEPES(pH7.4)で緩衝したとともに、10mMの13C酢酸ナトリウムまたは20mMの13Cバイカーボネートのいずれかを含むPM074培地に、1.0のOD730まで再懸濁させた(終体積250ml)。約275μEの光を一方向から供給するLEDアレイの前に培養物を置き、0時間後、1時間後、2時間後及び4時間後に、50mlの培養体積からFAME試料を採取した。基本的に米国特許出願公開第2015/0191515号(参照により、本明細書に援用される)に記載されているようにして、FAMEを解析した。図35Aには、無機炭素が、培養培地における実質的に唯一の炭素源であった光独立栄養条件下で、GE-6890株が、ツボカビFASの完全浸透度での発現を示し(図35Aを参照されたい)、新たに合成された脂肪酸(FAMEとして表されている)が対照よりも多く産生されたことが示されている。新たに合成された脂肪酸は、高い標識度合を示すとともに、標識実験中にデノボ合成された脂肪酸であり、伸長した脂肪酸は、既存の16:x及び18:x脂肪酸の伸長に起因する1~4個の標識炭素を持つC20:x脂肪酸である。
【0224】
GE-6890株は、図33における浸透度プロファイルにおいて、野生型に対して右側にシフトした単一のピークが見られるChytFAS形質転換体株6167-Bである。GE-6889株(ChytFAS形質転換体株6167-Aである)も、完全浸透度を示したが、図33におけるGE-6889(6167-A)の浸透度プロファイルにおいては、GE-6890の蛍光ピークほどは、野生型に対して右側にシフトしていない単一のピークが現れている。無機炭素源のみを用いて、それらの株を培養する放射線標識実験においては、GE-6889株は、野生型を上回るFAME産生のいずれの増加も示さない。しかしながら、培養物が有機炭素源(10mMのアセテート)を含む混合栄養条件下で培養すると、GE-6889株は、野生型細胞よりも脂肪酸合成が向上し、これにより、この完全浸透性の株は、形質転換体GE-6890よりも活性が低いものの、混合栄養条件においてはFAS活性が向上することが示された(図35B)。
【0225】
DrFASを発現する形質転換株に対して、FAS活性について、13Cバイカーボネートまたは13C標識アセテートのいずれかを培地に加えた光栄養及び混合栄養増殖条件を用いて、それぞれ、完全浸透性の株GE-6947(形質転換株6200-33)、完全浸透性の株GE-6949(形質転換株6200-43)及び完全浸透性の株GE-6950(形質転換株6201-43)の培養物で、同じ培養アッセイを行った。これらのアッセイは、上に詳述されているとおりに、各株においてデュプリケートの培養で行った。図36Aには、細胞質で発現するタイプI FASが、脂肪酸の光独立栄養での産生を増加させなかったことが示されているが、異種のタイプI FASコンストラクトを完全浸透度で発現する3個の株の全てが、野生型細胞よりも多くの脂肪酸(FAMEとして測定)を産生した(図36B)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
【配列表】
0007046139000001.app