(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】イオン注入システム、イオン注入装置及び抽出プレート
(51)【国際特許分類】
H01J 37/317 20060101AFI20220325BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
(21)【出願番号】P 2020523369
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 US2018054945
(87)【国際公開番号】W WO2019089191
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-05-13
(32)【優先日】2017-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239188
【氏名又は名称】ヴァリアン セミコンダクター イクイップメント アソシエイツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】アダム エム マクラフリン
(72)【発明者】
【氏名】クレイグ アール チェニー
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-193141(JP,A)
【文献】特開平11-204238(JP,A)
【文献】特開2005-259571(JP,A)
【文献】特開2007-207715(JP,A)
【文献】特開2007-305485(JP,A)
【文献】特表2007-518221(JP,A)
【文献】特開2014-235814(JP,A)
【文献】特表2014-509446(JP,A)
【文献】特表2017-523562(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0357151(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの構成要素を具えるイオン注入システムであって、前記構成要素は熱勾配及び熱エネルギーの流れを制御するように構成された高密度領域及び低密度領域を有しており、
前記高密度領域は前記低密度領域よりも大きな相対密度を有し、相対密度は、前記少なくとも1つの構成要素の一部を形成するのに用いた材料の体積をこの一部の全体積で除したものとして規定し
、前記少なくとも1つの構成要素を抽出プレートとしたイオン注入システム。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン注入システムにおいて、前記低密度領域の内部が、前記少なくとも1つの構成要素を形成するのに用いた少なくとも1つのパラメータを変えることにより生ぜしめた格子パターン及びボイドの双方又は何れか一方を有するようにしたイオン注入システム。
【請求項3】
チャンバを画成する複数の壁部であって、前記複数の壁部の1つの壁は抽出孔を有している抽出プレートである、複数の壁部と、
前記チャンバ内にイオンを形成するイオン源と、を具えるイオン注入装置において、
前記抽出プレートが低密度領域及び高密度領域を有しており、
前記高密度領域は前記低密度領域よりも大きな相対密度を有し、相対密度は、前記抽出プレートの一部を形成するのに用いた材料の体積をこの一部の全体積で除したものとして規定したイオン注入装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の装置において、前記抽出孔を囲む領域が前記高密度領域を有している装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の装置において、前記抽出プレートの残りの部分が前記低密度領域を有している装置。
【請求項6】
請求項
4に記載の装置において、前記抽出プレートが更に、他の高密度領域と、前記高密度領域及び前記他の高密度領域を互いに接続する高密度チャネルとを有している装置。
【請求項7】
請求項
3に記載の装置において、前記低密度領域が格子パターンを有している装置。
【請求項8】
請求項
3に記載の装置において、前記低密度領域の内部が、前記抽出プレートを形成するのに用いた少なくとも1つの動作パラメータを変えることにより生ぜしめたボイドを有している装置。
【請求項9】
請求項
3に記載の装置において、前記低密度領域の相対密度を前記高密度領域の相対密度よりも少なくとも0.2だけ小さくした装置。
【請求項10】
抽出孔を有する抽出プレートであって、この抽出プレートが低密度領域及び高密度領域を有しており、
前記高密度領域は前記低密度領域よりも大きな相対密度を有し、相対密度は、前記抽出プレートの一部を形成するのに用いた材料の体積をこの一部の全体積で除したものとして規定し
、前記低密度領域の内部が格子パターンを有している抽出プレート。
【請求項11】
請求項1
0に記載の抽出プレートにおいて、前記抽出孔を囲む領域が前記高密度領域を有している抽出プレート。
【請求項12】
請求項1
1に記載の抽出プレートにおいて、この抽出プレートの残りの部分が前記低密度領域を有している抽出プレート。
【請求項13】
抽出孔を有する抽出プレートであって、この抽出プレートが低密度領域及び高密度領域を有しており、
前記高密度領域は前記低密度領域よりも大きな相対密度を有し、相対密度は、前記抽出プレートの一部を形成するのに用いた材料の体積をこの一部の全体積で除したものとして規定し、前記低密度領域の内部が、前記抽出プレートを形成するのに用いた少なくとも1つの動作パラメータを変えることにより生ぜしめたボイドを有している抽出プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱(温度)管理の目的で構成要素の密度を変化させるシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造には、複数の個別的で複雑な処理が含まれる。これらの処理は、ワークピース処理システムを用いて実行することができる。このワークピース処理システムは、例えば、ビームラインイオン注入システム又はプラズマ処理チャンバ(処理室)とすることができる。ある実施態様では、ワークピース処理システムにおける構成要素の温度が、実行される処理に著しく関連している。
【0003】
例えば、供給ガスは、イオン源においてイオン化されるとともに抽出プレート上に配置した抽出孔を介して抽出させることができる。この抽出プレートは金属から形成することができる。抽出孔の付近における抽出プレートの温度が十分に低い場合には、供給ガスはこの抽出プレート上で抽出孔の付近において凝縮するおそれがある。この凝縮した供給ガスは抽出プレート上で堆積体を構成する。この堆積体が抽出孔を形成する壁部に沿って生じると、抽出イオンビームが部分的に遮断され、その結果、処理が不均一となるおそれがある。凝縮による抽出孔を囲む堆積が問題であると説明されているが、ワークピース処理システムにおける他の構成要素も同様な温度感受性を有している可能性がある。例えば、ある実施態様では、構成要素を又はその特定の部分をある温度よりも高く保つのが有利である場合がある。これとは逆に、他の構成要素を又はその一部分をある温度よりも低く保つのが有利である場合がある。温度管理に対する1つの手法は、構成要素の種々の部分における材料の量を変化させることにある。ある所定の材料の場合、肉厚領域が肉薄領域よりも熱伝導率において良好となる。しかし、構成要素の厚さを変えることによりその強度及び脆弱性に影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
従って、強度又は耐久性を損なうことなく所望の熱勾配及び流れパターンを達成する構成要素を採用しているシステムが存在すれば有利なことであろう。又、この構成要素が製造しやすければ有利であろう。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、密度を変化させることにより熱勾配及び熱エネルギーの流れを制御するようにした構成要素を用いるシステムを開示する。又、この構成要素を製造する方法も開示する。構成要素はアディティブ製造処理を用いて製造する。このようにすることにより、構成要素の種々の領域の密度を所望通りに変更(カスタマイズ)しうる。例えば、構成要素の領域の内部に格子パターンを形成し、これにより使用する材料の量を減少させることができる。この格子パターンは、この領域の重量を減少させるとともに、この領域の熱伝導率をも減少させる。低密度領域及び高密度領域を用いることにより、設計制約に適合するように熱エネルギーの流れを制御しうる。
【0006】
本発明の一実施態様によれば、イオン注入システムを開示する。このイオン注入システムは少なくとも1つの構成要素を具え、この構成要素は熱勾配及び熱エネルギーの流れを制御するように構成された高密度領域及び低密度領域を有する。ある実施態様では、構成要素を抽出プレートとする。又、ある実施態様では、低密度領域の内部が格子パターンを有するようにする。又、ある実施態様では、低密度領域の内部が、構成要素を形成するのに用いた少なくとも1つのパラメータを変えることにより生ぜしめたボイド(気泡)を有するようにした。
【0007】
本発明の他の実施態様によれば、装置を開示する。この装置は、チャンバを画成する複数の壁部と、チャンバ内にイオンを形成するイオン源と、チャンバの一端に配置され、抽出孔を有している抽出プレートとを具える装置において、抽出プレートが低密度領域及び高密度領域を有しているようにする。ある実施態様では、イオン源が、間接的に加熱される陰極を有し、この陰極はチャンバ内に配置されているようにする。ある実施態様では、イオン源がRFアンテナを有するようにする。ある実施態様では、抽出孔を囲む領域が高密度領域を有するようにする。ある実施態様では、抽出プレートの残りの部分が低密度領域を有するようにする。ある実施態様では、抽出プレートが更に、他の高密度領域と、前述した高密度領域及びこの他の高密度領域を互いに接続する高密度チャネルとを有しているようにする。ある実施態様では、この他の高密度領域が抽出プレートのエッジ付近に配置されているようにする。ある実施態様では、低密度領域の内部が格子パターンを有しているようにする。ある実施態様では、低密度領域の内部が、抽出プレートを形成するのに用いた少なくとも1つの動作パラメータを変えることにより生ぜしめたボイドを有するようにする。ある実施態様では、低密度領域の相対密度を高密度領域の相対密度よりも少なくとも0.2だけ小さくし、相対密度は、抽出プレートの一部を形成するのに用いた材料の体積をこの一部の全体積で除したものとして規定した。
【0008】
本発明の他の実施態様によれば、抽出プレートを開示する。この抽出プレートは抽出孔を有するとともに、低密度領域及び高密度領域を有するようにする。ある実施態様では、抽出孔を囲む領域が高密度領域を有するようにする。ある実施態様では、抽出プレートの残りの部分が低密度領域を有するようにする。ある実施態様では、低密度領域の内部が格子パターンを有しているようにする。ある実施態様では、低密度領域の内部が、抽出プレートを形成するのに用いた少なくとも1つの動作パラメータを変えることにより生ぜしめたボイドを有するようにする。
【0009】
本発明をより一層良好に理解するために、参考のために導入した添付図面を以下で参照する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の一実施形態による構成要素の低密度領域を示す断面図である。
【
図1B】他の実施形態による構成要素の低密度領域を示す断面図である。
【
図1C】更に他の実施形態による構成要素の低密度領域を示す断面図である。
【
図1D】更に他の実施形態による構成要素の低密度領域を示す断面図である。
【
図2】
図2Aは、高密度領域及び低密度領域を用いて設計した本発明の一実施形態による構成要素を示す説明図である。
図2Bは、同じく高密度領域及び低密度領域を用いて設計した本発明の他の一実施形態による構成要素を示す説明図である。
【
図3】
図3Aは、高密度領域及び低密度領域を用いて設計した本発明の更に他の実施形態による構成要素を示す説明図である。
図3Bは、同じく高密度領域及び低密度領域を用いて設計した本発明の更に他の実施形態による構成要素を示す説明図である。
【
図4A】本明細書に記載した抽出プレートを用いることができ、間接的に加熱される陰極イオン源を示す線図的説明図である。
【
図4B】本明細書に記載した抽出プレートを用いることができるプラズマチャンバを示す線図的説明図である。
【
図5】高密度領域及び低密度領域を用いる抽出孔を有する抽出プレートを示す線図的説明図である。
【
図6】高密度領域及び低密度領域を有する構成要素を用いるイオン注入システムを示す線図的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前述したように、材料の量を変えることは、構成要素において温度勾配を生ぜしめる1つの方法である。従来のサブトラクティブ処理によれば、ある領域から材料を除去して薄肉領域を形成することができる。ある実施形態では、構成要素のある領域の全体に亘って孔を配置して、この領域の熱伝導率を低減させるようにしうる。しかし、上述したように、構成要素を薄肉にすることによりその強度及び耐久性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
アディティブ処理による製造技術によれば、構成要素を上述したのと異なるように製造することができる。このアディティブ処理による製造技術によれば、従来行われているように材料を除去するのとは相違して、層ごとに構成要素を形成する。このようなアディティブ処理による一種の製造技術は、粉末ベッド及びレーザを用いる直接金属レーザ焼結(Direct Metal Laser Sintering (DMLS))として知られている。この場合、粉末の薄肉層をワークピースのスペースに被着させる。レーザを用いて、構成要素を形成すべき領域においてのみ、粉末を焼結させる。残りの金属粉末はそのままにして粉末ベッドを形成するようにする。レーザ処理が終了した後、金属粉末の他の薄肉層を現存する粉末ベッドの上面上に被着する。レーザを再び用いて特定の箇所を焼結させる。この処理は任意の回数だけ繰り返すことができる。
【0013】
DMLSは1つの技術であり、他の多くの技術が存在する。例えば、金属結合剤噴射法は、粉末を焼結させるのにレーザを用いずに、構成要素を形成すべき領域に液体結合剤を被着することを除いて、DMLSに類似している。アディティブ処理による製造技術の他の例は電子ビーム印刷法である。この実施形態では、細い金属フィラメントをノズルから押し出し、レーザ又は電子ビームを用いて押し出された金属を溶融させる。この実施形態では、この金属を構成要素の一部とすべき領域にのみ被着させる。他の種類のアディティブ処理による製造技術をも用いうること勿論である。
【0014】
層ごとに構成要素を構成する為、従来のサブトラクティブ処理による製造技術によっては不可能である形状やその他の観点を達成させることができる。
【0015】
図1A~1Dは、内部が非固形である種々の構成要素を示す断面図である。これらの
図1A~1Dに示すパターンは、格子又は格子パターンと称することができる。
図1Aは、複数の隣接する正方形10を有する格子を示している。各正方形10は隣接の正方形と壁部を共有している。従って、この格子では、各正方形が4つの他の正方形により囲まれている。
図1Bは、複数の隣接する菱形11を有する格子を示している。各菱形11は、
図1Aと同様に隣接の菱形と壁部を共有している。従って、各菱形が4つの他の菱形により囲まれている。
図1Cは、複数の隣接する六角形12を有する格子を示している。各六角形12は、隣接の六角形と壁部を共有している。従って、この格子では、各六角形が6つの他の六角形により囲まれている。
図1Dは、複数の隣接する円形13を有する格子を示している。格子は、八角形、五角形、楕円形(oval ; ellipse)及び不規則な形状のような他の形状で形成しうること勿論である。更に、格子は2つ以上の異なる形状を用いて形成しうる。格子パターンの選択は所望の強度、重量及びその他の要因に基づくようにしうる。これらの格子パターンにより構成要素の内部を規定することができる。これらの各実施例では、格子内の空間は、通常空気のような気体で満たされている。
【0016】
相対密度の概念は、ある材料で形成した構成要素の密度をこの材料の理論的密度と比較して表した比である。例えば、
図1Aの場合、格子の壁部及び外面を形成するのに用いる材料の体積を構成要素の全体積で除することにより相対密度をもたらすことができる。換言すれば、相対密度は、構成要素の一部を形成するのに用いた材料の体積をこの構成要素のこの一部の実際の体積で除して比較した比である。相対密度は構成要素内の空間の体積を変更することにより変えることができる。例えば、
図1Aにおける正方形10の壁部の厚さを変えずにこれらの正方形10をより一層大きくすると、相対密度は減少する。これとは逆に、正方形10の壁部の厚さを増大させるか又は壁部の厚さを変えずに正方形10の大きさを減少させることにより、相対密度を増大させる。
【0017】
相対密度は熱伝導度と相関関係にある。特に、同じ材料を有する構成要素の場合、相対密度が高い構成要素ほど熱伝導度が大きくなる。
【0018】
アディティブ処理による製造技術のもう1つの利点は、同じ構成要素内に互いに異なる相対密度を生ぜしめることができるということである。例えば、構成要素のある領域を、相対密度が1である完全なる固体とすることができる。これと同じ構成要素の他の領域には、
図1A~1Dに示すどれか1つの格子構造体のような格子構造体を形成することができる。この他の領域は一層低い相対密度を、従って、一層低い熱伝導率を有するようにする。
【0019】
又、アディティブ処理による製造技術によれば、密度に影響を及ぼしうる他の方法が得られる。上述したように、DMLSは材料を溶融及び焼結するレーザを用いる。DMLS処理に際して使用する動作パラメータが相対密度に影響を及ぼす。例えば、レーザに対して用いる出力及び走査速度が構成要素の相対密度に影響する。以下の表1は1つの試験による相対密度に関する走査速度及びレーザ出力の影響を示している。走査速度は横方向の表見出しに沿って示してあり、レーザ出力は縦方向の表見出しに示してある。この試験では、その全体に亘り同じ材料を用いており、この試験における唯一の変更はこの表に示す動作パラメータにおける変更とした。
【表1】
【0020】
この表から明らかなように、レーザ出力を低下させるか、又は走査速度を高めるか、又はこれらの双方を達成することにより相対密度を低くすることができる。少なくとも1種類の動作パラメータのこれらの変更により構成要素内にボイド(気泡)を生ぜしめるものである。これらのボイドは構成要素の相対密度を、又は構成要素のある部分の相対密度を低下させる。この方法は、
図1A~1Dに示すような格子の使用と組み合わせるか、又は独立して用いることができる。
【0021】
これらの2つの技術によれば、不均一な密度を有する構成要素を可能にする。このことにより、この構成要素内で熱の流れを制御しうる。
【0022】
図2Aは、高密度領域と低密度領域とを有する構成要素を示している。用語“高密度領域”と“低密度領域”とは相対的な用語である。高密度領域は、低密度領域の相対密度よりも大きな相対密度を有している。ある実施形態では、高密度領域は0.75以上の相対密度を有する如何なる領域にもすることができる。又、ある実施形態では、高密度領域は0.85以上の相対密度を有する如何なる領域にもすることができる。又、ある実施形態では、高密度領域は0.90以上の相対密度を有する如何なる領域にもすることができるが、他のしきい値を用いることもできる。
【0023】
低密度領域は、高密度領域よりも小さい相対密度を有する領域である。ある実施形態では、低密度領域が0.60以下の相対密度を有するようにしうるが、他のしきい値を用いることもできる。又、ある実施形態では、2つの領域の相対密度間の関係を用いて2つの異なる領域を規定するようにしうる。例えば、ある実施形態では、低密度領域の相対密度を高密度領域の相対密度よりも少なくとも0.2だけ低くすることができる。換言すれば、構成要素における高密度領域が0.9の相対密度を有する場合、0.7よりも低い相対密度を有する如何なる領域も低密度領域とみなされる。他の実施形態では、低密度領域の相対密度を高密度領域の相対密度よりも少なくとも0.1だけ低くすることができる。
【0024】
図2Aでは、第1の高密度領域100と、第2の高密度領域101と、第1の高密度領域100を第2の高密度領域101に接続する高密度チャネル102とが存在する。構成要素の他の全ての領域は低密度領域110である。本例では、第1の高密度領域100は、直接加熱されるようにしうる。このことは、イオンビーム、抵抗加熱器、加熱ランプ、又はその他の機構との相互作用により達成させることができる。第1の高密度領域100における熱エネルギーは高密度チャネル102に沿って第2の高密度領域101に伝達される。換言すれば、熱エネルギーは構成要素に沿って均等に分布されるものではない。むしろ、熱エネルギーは殆ど構成要素の高密度領域内に集中される。
【0025】
図2Aは第1の高密度領域100を加熱領域として示しているが、他の実施形態も可能である。例えば、第1の高密度領域100を
図2Bに示すように冷却領域とすることができる。この実施形態では、熱エネルギーが第2の高密度領域101から高密度チャネル102を介して第1の高密度領域100の方向に伝達される。従って、この実施形態では、高密度領域及び高密度チャネルが構成要素の残りの部分よりも低い温度にある。
【0026】
図2A及び2Bは単一の高密度チャネル102を示しているが、本発明はこのことに限定されるものではない。例えば、より一層多くの高密度チャネルを設けることができるものである。更に、追加の高密度領域をも設けて、熱エネルギーがそれぞれの高密度チャネルを介してこれらの高密度領域に分布されるようにしうる。
【0027】
熱エネルギーを構成要素における他の領域に分布させるのが有利である場合には、高密度チャネルを用いるのが有益である。
【0028】
しかしながら、熱的に異なる領域を生ぜしめるようにすることもできる。例えば、
図3Aには第1の高密度領域120及び第2の高密度領域121を示してある。これらの高密度領域は、
図2A及び2Bの実施形態とは相違して、高密度チャネルにより互いに接続されていない。それどころか、これらの高密度領域は互いに熱的に分離されている。低密度領域130を介する熱伝導率は低い為、高密度領域120における殆どの熱エネルギーはこの高密度領域内に保持される傾向にある。同様に、第2の高密度領域121が冷却領域である場合には、この第2の高密度領域は周囲の低密度領域から僅かな熱エネルギーを抽出する。換言すれば、高密度領域を囲む低密度領域を使用することにより熱的分離を達成しうるものである。
【0029】
このようにすることにより、熱エネルギーがより一層多く高密度領域内に保持されるようにすることができ、しかも低密度領域に流れるのを制限されるようにすることができる。
図3Aは2つの高密度領域を示しているが、単一の高密度領域を用いることができることを理解すべきである。この実施形態では、この高密度領域は周囲の低密度領域よりも高温又は低温となる。
【0030】
他の実施形態では、低密度領域から熱的に分離された領域を形成することができる。
図3Bは第1の低密度領域140及び第2の低密度領域141を示している。これらの低密度領域を囲む領域は高密度領域142とすることができる。この高密度領域142は構成要素の強度を保つのに用いることができる。上述した2つの低密度領域は互いに熱的に分離されている。第1の低密度領域140を通る熱導電率は悪い為、この第1の低密度領域140における殆どの熱エネルギーはこの第1の低密度領域内に保持される傾向にある。同様に、第2の低密度領域141が冷却領域である場合、この低密度領域は周囲の高密度領域142から僅かな熱エネルギーを抽出する。換言すれば、高密度領域142により囲まれている低密度領域を用いることにより熱分離を達成することができる。
【0031】
更に、
図2A及び2B並びに
図3A及び3Bに示すパターンを組み合わせることができる。換言すれば、1つの構成要素が、互いに熱的に分離された高密度領域と、1つ以上の高密度チャネルにより接続された他の高密度領域とを有するようにしうる。これに加えて又はこれに代えて、構成要素が、互いに熱的に分離された低密度領域と、1つ以上の高密度チャネルにより接続された高密度領域とを有するようにしうる。
【0032】
アディティブ処理による製造技術を、より具体的には格子及び動作パラメータにおける変化を用いることにより、少なくとも1つの高密度領域及び少なくとも1つの低密度領域を有する構成要素を形成することができる。これらの高密度領域及び低密度領域を適切に配置することにより、予め決定した熱勾配及び所望の熱エネルギー流を有するように構成要素を製造しうる。
【0033】
高密度領域及び低密度領域を生ぜしめる処理を上述し且つこれらの領域を適切に配置することの熱的な利点を上述したが、これに応じてワークピース処理システム内の特定の構成要素を製造することができる。
【0034】
図4Aは、間接的に加熱される陰極を用いる従来のイオン源を示す。
図4Bは従来のプラズマチャンバを示す。
【0035】
図4AはIHCイオン源290を示す断面図である。このIHCイオン源290は、互いに対向する2つの端部と、これらの端部に連結された側壁部201とを有するチャンバ200を具えている。このチャンバ200は底部壁部及び抽出プレートをも有している。チャンバ200の壁部は、導電性材料から構成しうるとともに、互いに電気通信状態としうる。陰極210はチャンバ200内でこのチャンバ200の第1の端部に配置されている。フィラメント260は陰極210の背後に配置されている。このフィラメント260はフィラメント電源265と通信状態にある。このフィラメント電源265は、電流をフィラメント260に流して、このフィラメント260が熱電子を放出するように構成されている。陰極バイアス用の電源215はフィラメント260を陰極210に対して負にバイアスし、従って、これらの熱電子がフィラメント260から陰極210に向かって加速され、これらの熱電子が陰極210の裏面に当るとこの陰極210を加熱するようになっている。この陰極バイアス用の電源215はフィラメント260をバイアスし、これによりフィラメントが、例えば陰極210の電圧よりも負の200Vから1500Vまでの間の電圧を有するようにすることができる。この場合、陰極210はその表面上の熱電子をチャンバ200内に放出する。
【0036】
従って、フィラメント電源265は電流をフィラメント260に供給する。陰極バイアス用の電源215は、フィラメント260をこれが陰極210よりも負となるようにバイアスし、電子がフィラメント260から陰極210に向けて引き付けられるようになっている。更に、陰極210は陰極電源270を用いてチャンバ200に対して電気的にバイアスされるようになっている。
【0037】
この実施形態では、チャンバ200内で陰極210とは反対側のチャンバ200の第2の端部に反射電極(リペラ)220が配置されている。この反射電極220は反射電極電源225と通信することができる。反射電極220は、その名称が示すように、陰極210から放出された電子をチャンバ200の中央に向けて戻すように反射させる作用をする。例えば、反射電極220はチャンバ200に対して負電圧にバイアスして電子を反射するようにしうる。例えば、反射電極電源225は0~-150Vの範囲内の出力を有するようにしうるが、他の電圧を用いることもできる。ある実施形態では、反射電極220をチャンバ200に対して0V及び-150V間の電圧でバイアスする。他の実施形態では、反射電極220を接地又はフロート状態にすることができる。
【0038】
動作中は、チャンバ200に気体が供給される。陰極210から放出される熱電子は気体がプラズマ250を生ぜしめるようにする。次いで、このプラズマ250からのイオンが抽出プレート内の抽出孔240を経て抽出される。次いで、これらのイオンが処理されてワークピースの方向に向かうイオンビームが形成されるようになる。
【0039】
図4Bは、イオン源300を有するプラズマチャンバを示している。RFイオン源300はイオン源チャンバ310を画成する複数のチャンバ壁部311を有している。RFアンテナ320は誘電体窓313に対向して配置することができる。この誘電体窓313は1つのチャンバ壁部311の一部又は全てを有するようにしうる。RFアンテナ320は、銅のような導電性材料を有するようにしうる。RF電源330はRFアンテナ320と電気通信状態にある。このRF電源330はRF電圧をRFアンテナ320に供給することができる。このRF電源330により供給される電力は0.1及び10kW間にできるとともに1及び15MHz間のような適切な任意の周波数とすることができる。更に、このRF電源330により供給される電力をパルス化することができる。
【0040】
ある実施形態では、チャンバ壁部311を導電性にするとともに金属から構成することができる。又、ある実施形態では、これらのチャンバ壁部311をバイアス電源340により電気的にバイアスするようにすることができる。チャンバ壁部311に印加するバイアス電圧はイオン源チャンバ310内にプラズマの電位を確立する。プラズマの電位と接地電極380の電位との間の差は、抽出されたイオンが有するエネルギーを決定するのに役立ちうる。
【0041】
抽出プレート312と称する1つのチャンバ壁部は抽出孔315を有している。この抽出孔315は、イオン源チャンバ310内で発生されたイオンを抽出してワークピースの方向に向ける開口とすることができる。この抽出孔315は、適切な如何なる形状にもすることができる。ある実施形態では、この抽出孔315は、長さと称するその一方の寸法が高さと称するその他方の寸法よりも著しく大きくしうる楕円形又は長方形とすることができる。上述したように、ある実施形態では、チャンバ壁部311の全てと抽出プレート312とを導電性とする。他の実施形態では、抽出プレート312のみを導電性にするとともにバイアス電源340と通信状態にする。残りのチャンバ壁部311は誘電体材料から形成することができる。バイアス電源340により、0.5kVと10kVとの間のRF電圧及び0.1MHzと50MHzとの間の周波数でチャンバ壁部311及び抽出プレート312をバイアスすることができる。
【0042】
動作中は、RFアンテナ320が附勢されており、これによりイオン源チャンバ310内の供給気体がプラズマを形成するようにする。抽出プレート312と接地電極380との間の電位差によりイオンが抽出孔315を経て出るようになる。
【0043】
図5には抽出プレート400を示してある。この抽出プレート400は
図4AのIHCイオン源290又は
図4Bに示すイオン源300において用いることができる。これらの双方の実施形態においては、抽出プレート400はイオンを通す抽出孔410を有する。この抽出プレート400は代表的には、
図4A及び4Bに示すように、チャンバの側壁部及び端部に物理的に連結されている。
【0044】
ある実施形態では、抽出孔410を囲む領域が高温状態に維持されるようにするのが有利となるようにしうる。例えば、イオンを発生するのに用いる気体の種類に基づいて、抽出孔410を囲む領域の温度を変えることにより、抽出孔410に沿う堆積を最少化することができる。ある実施形態では、抽出孔410を囲む領域の温度を極めて高温度に維持するのが有利となるようにしうる。他の実施形態では、抽出孔410を囲む領域からできる限り多くの熱エネルギーを除去するのが有利となるようにしうる。
【0045】
図5では、抽出孔410を囲む領域が高密度領域420である。抽出プレート400の残りの部分は低密度領域である。上述したように、
図1A~1Dに示すような格子パターンを用いるか、又は表1に示すような動作パラメータを変えることにより、或いはこれらの双方を達成することにより低密度領域を形成することができる。このようにすることにより、抽出孔410において又はその付近において発生される熱エネルギーが高密度領域420内に保持される傾向にある。このことにより、高密度領域420を高温度に維持する。このことにより、抽出孔の周囲の領域を囲む堆積の可能性を最少化しうる。
【0046】
他の実施形態も可能であること勿論である。例えば、ある実施形態では、抽出孔を囲む領域から熱エネルギーを転送させるのが有益となる場合がある。このようにすることは、
図2A及び2Bに示すような高密度チャネルを用いることにより、ヒートシンクと接触している1つのエッジ付近の領域のような抽出プレート400の他の領域に熱エネルギーを転送するようにすることにより達成しうる。更に、高密度領域420から複数の他の高密度領域に熱エネルギーを転送するのが有利である場合には、複数の高密度領域チャネルを形成することができる。例えば、一実施形態では、チャンバの壁部に付着されているか、又は接着されているか、又はそれ以外で固着されている抽出プレートのエッジ付近に1つ以上の高密度領域を形成することができる。又、1つ以上の高密度チャネルを用いて、抽出孔を囲む領域をこれらの他の高密度領域に熱的に接続することができる。
【0047】
図5は、少なくとも1つの高密度領域及び1つの低密度領域を有する抽出プレートを形成するために、アディティブ処理による製造技術を用いることを示しているが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0048】
図6はビームラインイオン注入システムを示す。一実施形態では、タングステンチャンバ内に収容された間接的に加熱される陰極(IHC)をイオン源510に含めることができる。このイオン源510は、より一層大きなハウジング500内に収容することができる。このイオン源510は代表的に相当大きな電圧でバイアスされる為、このイオン源510をハウジング500から電気的に絶縁させることが必要となる場合がある。このことは電源ブッシング515を用いることにより達成しうる。
【0049】
イオン源510の外側には1つ以上の電極520が存在し、これらの電極はイオン源510内で発生されたイオンを引き付けるように適切にバイアスされる。これらの電極520はこれらのイオンを引き付け、その後これらのイオンがこれらの電極520を通過するようにする。ある実施形態では、抽出電極521及び抑制電極522のような複数の電極520を設けることができる。これらの電極520は互いに異なる電圧にすることができ、従って、互いに電気的に絶縁させる。これらのことは、電極520を適所に保持する絶縁マニピュレータアセンブリ525を用いることにより達成しうる。
【0050】
抽出されたイオンビーム530はその後、質量分析器540に入れることができる。このイオンビームはこの質量分析器におけるガイドチューブ(図示せず)を通って流れる。ある実施形態では、四極子レンズ544又はアインツェル(Einzel)レンズのような集束レンズを用いてイオンビームを集束させることができる。質量分析器540の出力側には分析スリット545を配置し、所望の電荷/質量比を有するイオンのみが抽出されるようにする。従って、関心のあるイオンのみを含む分析されたイオンビーム550が、その後、基板支持体580上に装着しうる基板590内に注入される。ある実施形態では、1つ以上の加速又は減速ステージ570を採用して、分析されたイオンビーム550の速度を調整することができる。これらの加速又は減速ステージ570は処理チャンバ585の近接位置に配置することができる。基板590及び基板支持体580は処理チャンバ585内に配置することができる。
【0051】
イオン注入システムの一部として説明した何れの構成要素も、上述したように、少なくとも1つの低密度領域及び1つの高密度領域を含むように製造しうる。
【0052】
更に、上述したところでは、金属と関連しうる種々のアディティブ製造処理を説明したが、上述した技術及び構成要素は非金属材料から形成するものとしうる。例えば、上述した技術を用いてプラスチック又はセラミック部品を製造するようにしうる。
【0053】
上述したシステム、構成要素及び構成要素製造方法は多くの利点を有する。上述したように、ある実施形態では、構成要素が特定の熱勾配特性を有するようにするのが有益である。構成要素の種々の領域の密度を変えることにより、熱伝達経路をより一層厳密に制御しうる。例えば、局所的な高温(又は低温)領域を形成しうる。或いはまた、熱エネルギーを構成要素の2つ以上の領域間の特定の経路に沿って転送することができる。上述した構成要素は更なる利点を有している。サブトラクティブ製造処理を用いる場合、熱勾配を制御する唯一の方法は、孔を形成するか又は構成要素を薄肉にすることにより材料を除去することである。これらの双方の作業は構成要素の強度を弱め、その耐久性を低減させ、且つその脆弱性を高める。これらの危険性は、上述したようなアディティブ製造処理を用いることにより回避しうる。アディティブ製造処理を用いて製造した構成要素の低密度領域及び高密度領域は同じ厚さにして、その脆弱性を低減させると同時に強度を保つことができる。
【0054】
本発明の範囲は、上述した特定の実施形態により制限されるものではない。実際、本明細書に記載した実施形態以外に本発明に対する他の種々の実施形態及び変形例が可能であること、上述した説明及び添付図面から当業者にとって明らかである。従って、このような他の実施形態及び変形例は本発明の範囲内に含まれることを意図するものである。更に、本発明は特定の目的のための特定の環境における特定の観点で本明細書に開示したが、その有用性はこれに限定されず且つ本発明は種々の目的のための種々の環境において有益に実施しうることを当業者は認識するであろう。従って、本発明の特許請求の範囲は本明細書に開示した本発明の全容及び精神を考慮して解釈されるべきである。