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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-24
(45)【発行日】2022-04-01
(54)【発明の名称】軌間可変電車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20220325BHJP
   B61F 7/00 20060101ALI20220325BHJP
【FI】
B60L15/20 Y
B60L15/20 A
B61F7/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020546585
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2018033680
(87)【国際公開番号】W WO2020053969
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591146893
【氏名又は名称】九州旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 幸平
(72)【発明者】
【氏名】角井 伸翼
(72)【発明者】
【氏名】森光 毅
(72)【発明者】
【氏名】味村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡一郎
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-033241(JP,A)
【文献】特開平08-084405(JP,A)
【文献】特開平03-265487(JP,A)
【文献】特開2002-233005(JP,A)
【文献】特開2004-236469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-15/42
B61F 1/00-99/00
B61L 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌間変換区間において軌間が可変する軌間可変電車の制御装置であって、
複数の主電動機のトルクを一括制御するインバータと、
前記インバータの出力電圧を制御する電圧制御部と、
を備え、
前記電圧制御部は、
複数の前記主電動機によって駆動される複数の車軸のうち、少なくとも一つの前記車軸が前記軌間変換区間の内部にあり、少なくとも一つの前記車軸が前記軌間変換区間の外部にあるとき、
複数の前記車軸のうち前記軌間変換区間の外部にある前記車軸の回転周波数の平均値を、前記主電動機の電気周波数に換算したものを基準周波数とし、前記基準周波数とすべり周波数指令とを加算して、前記出力電圧の周波数とする
ことを特徴とする軌間可変電車の制御装置。
【請求項2】
前記電圧制御部は、
電流指令に基づいて電圧指令を演算する電圧指令演算部と、
複数の前記主電動機に流れる電流値と前記電流指令との偏差に基づいて前記電圧指令に対する補正量を演算する電流フィードバック制御部と、
を備え、
複数の前記車軸のうち、
少なくとも一つの前記車軸が前記軌間変換区間の内部にあるとき、
前記補正量をゼロとし、もしくは、前記電流フィードバック制御部の出力を遮断する
ことを特徴とする請求項1に記載の軌間可変電車の制御装置。
【請求項3】
軌間変換区間において軌間が可変する軌間可変電車の制御装置であって、
複数の主電動機のトルクを一括制御するインバータと、
前記インバータの出力電圧を制御する電圧制御部と、
を備え、
前記電圧制御部は、
電流指令に基づいて電圧指令を演算する電圧指令演算部と、
複数の前記主電動機に流れる電流値と前記電流指令との偏差に基づいて前記電圧指令に対する補正量を演算する電流フィードバック制御部と、
を備え、
複数の前記主電動機によって駆動される複数の車軸のうち、
少なくとも一つの前記車軸が前記軌間変換区間の内部にあるとき、
前記補正量をゼロとし、もしくは、前記電流フィードバック制御部の出力を遮断すると共に、
複数の前記車軸のうち、少なくとも一つの前記車軸が前記軌間変換区間の内部にあり、少なくとも一つの前記車軸が前記軌間変換区間の外部にあるとき、
複数の前記車軸の回転周波数のうちの最小値を、前記主電動機の電気周波数に換算したものを基準周波数とし、前記基準周波数とすべり周波数指令とを加算して、前記出力電圧の周波数とする
ことを特徴とする軌間可変電車の制御装置。
【請求項4】
前記電圧制御部は、
トルク指令と、前記軌間変換区間の内部にある前記車軸の数とに基づいて、前記電流指令を演算する電流指令演算部を備えた
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の軌間可変電車の制御装置。
【請求項5】
前記電圧制御部は、トルク指令を演算するトルク指令演算部を備え、
前記トルク指令演算部は、複数の前記車軸のうち、すべての前記車軸が前記軌間変換区間の内部にあるとき、
前記トルク指令をゼロとする
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の軌間可変電車の制御装置。
【請求項6】
前記電圧制御部は、
複数の前記車軸のうち、すべての前記車軸が前記軌間変換区間の外部にあるとき、
複数の前記車軸の回転周波数の最小値又は平均値を、前記主電動機の電気周波数に換算したものを基準周波数とする
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の軌間可変電車の制御装置。
【請求項7】
前記インバータに用いられるスイッチング素子の素材は、ワイドバンドギャップ半導体であることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の軌間可変電車の制御装置。
【請求項8】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、又はダイヤモンドであることを特徴とする請求項7に記載の軌間可変電車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌間可変電車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軌間可変電車では、軌間が異なる線路を接続する軌間変換装置を車両が通過することによって、当該車両に設けられた車輪の間隔が変換される。軌間変換装置は、車体の荷重が車輪にかからないように車体を支持する。また、軌間変換装置は、車体が支持された状態で車輪をガイドレールに沿って車軸方向に移動させることによって、車輪の間隔を変換する。そのため、車輪の間隔を変換する間、当該車輪は空転する。
【0003】
下記特許文献1には、軌間変換動作を円滑に行うため、車両が軌間変換装置を通過する際に車輪の駆動力を抑制する制御装置が開示されている。駆動力を抑制する具体的な方策としては、軌間変換動作中は、軌間変換装置を通過中でない台車の車輪速度のうち最小の速度を、空転滑走制御の基準速度とすることが開示されている。これによって、軌間変換装置を通過中の車輪の空転が検知され、当該車輪を駆動する主電動機のトルクが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-233005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、1台のインバータで複数の主電動機を一括制御する方式(以下「一括制御方式」と称する)を軌間可変電車に採用したとすると、空転滑走制御によって主電動機のトルクが抑制されるとき、同一のインバータで駆動されるすべての主電動機のトルクが抑制される。この場合、軌間変換装置の外部でレールと接している車輪の駆動力まで抑制され、編成全体としての推進力が低下してしまう。空転滑走制御によってトルクを抑制する他に、インバータを停止する場合にも同様の問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、一括制御方式を採用した軌間可変電車において、1台のインバータによって駆動力が制御される複数の車輪のうち、軌間変換装置の内部で空転している車輪と、軌間変換装置の外部でレールと接している車輪とが混在する場合においても、空転している車輪の過回転を抑制しつつ、レールと接している車輪の駆動力を発揮できる軌間可変電車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明による軌間可変電車の制御装置は、複数の主電動機のトルクを一括制御するインバータ及びインバータの出力電圧を制御する電圧制御部を備える。電圧制御部は、複数の主電動機によって駆動される複数の車軸のうち、少なくとも一つの車軸が軌間変換区間の内部にあり、少なくとも一つの車軸が軌間変換区間の外部にあるとき、複数の車軸のうち軌間変換区間の外部にある車軸の回転周波数の平均値を、主電動機の電気周波数に換算したものを基準周波数とし、基準周波数とすべり周波数指令とを加算して、出力電圧の周波数とする。もしくは、電圧制御部は、複数の主電動機によって駆動される複数の車軸のうち、少なくとも一つの車軸が軌間変換区間の内部にあり、少なくとも一つの車軸が軌間変換区間の外部にあるとき、複数の車軸の回転周波数のうちの最小値を、主電動機の電気周波数に換算したものを基準周波数とし、基準周波数とすべり周波数指令とを加算して、出力電圧の周波数とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軌間可変電車が軌間変換装置を通過するとき、空転している車輪の過回転を抑制しつつ、レールと接している車輪の駆動力を発揮できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る軌間可変電車の構成を示す図
図2】実施の形態1に係る制御装置の構成を示すブロック図
図3】実施の形態1の制御装置における要部動作を説明するためのフローチャート
図4】実施の形態2の制御装置における要部動作を説明するためのフローチャート
図5】実施の形態3に係る制御装置の構成を示すブロック図
図6】実施の形態3の制御装置における要部動作を説明するためのフローチャート
図7】実施の形態4に係る制御装置の構成を示すブロック図
図8】実施の形態4の制御装置における電流指令演算部の構成を示すブロック図
図9】実施の形態5に係る制御装置の構成を示すブロック図
図10】実施の形態5の制御装置における要部動作を説明するためのフローチャート
図11】軌間変換区間に進入する際の実施の形態5に係る車軸の動作を説明するためのタイムチャート
図12】軌間変換区間から退出する際の実施の形態5に係る車軸の動作を説明するためのタイムチャート
図13】実施の形態1から実施の形態5の電圧制御部に係る機能をソフトウェアで実現する際のハードウェア構成の一例を示すブロック図
図14】実施の形態1から実施の形態5の電圧制御部に係るハードウェア構成の他の例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態に係る軌間可変電車の制御装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る軌間可変電車の構成を示す図である。実施の形態1に係る軌間可変電車100は、図1に示すように、軌間が異なる線路101aと線路101bとを直通運転する電気車である。軌間可変電車100は、図1に示すように、車体の幅方向に互いに対向して配置される4対の車輪102a~102dと、車輪102a~102dの各対の回転中心となる4つの車軸103a~103dと、4つの車軸103a~103dのそれぞれに対応付けて設けられた4台の主電動機104a~104dと、主電動機104a~104dのトルクを制御するための制御装置200とを備える。ここで、4台の主電動機104a~104dのトルクとは、主電動機104a~104dの各々に出力させるトルクを意味する。なお、軌間可変電車100は複数の車両が連なる列車であってもよく、主電動機104a~104dのうちの一部が、別の車両に搭載される構成であってもよい。
【0012】
また、軌間可変電車100は、図1に示すような軌間変換装置106を通過する間に、各対の車輪102a~102dの車軸方向の間隔を変換するための図示しない機構を備える。
【0013】
軌間変換装置106は、線路101aの通常走行区間と線路101bの通常走行区間との間に設けられる。以下、軌間変換装置106を含む区間を軌間変換区間と称する。軌間変換装置106は、軌間変換区間を通過する車体を下方から支持する車体支持部107と、軌間変換区間を通過中の車輪102a~102dを案内するガイドレール108とを備える。
【0014】
車体支持部107は、車体の荷重が軌間変換区間を通過中の車輪102a~102dにかからないように車体を下方から支持する。これにより、車輪102a~102dのうち、軌間変換区間を通過中の車輪は、線路101a,101bのレールと非接触となり、宙に浮いた状態となる。車体支持部107は、軌間可変電車100の長さ方向に、4対の車輪102a~102dを宙に浮かせるだけの長さを有する。
【0015】
ガイドレール108は、軌間変換区間を通過中の車輪102a~102dと当接して当該車輪102a~102dを車軸方向に移動させる。軌間変換区間を通過中の車輪102a~102dは、軌間可変電車100の進行とともにガイドレール108に沿って移動する。その結果、軌間変換区間を通過中の車輪102a~102dは、車軸方向に移動する。したがって、軌間可変電車100が軌間変換装置106を通過することによって、軌間可変電車100の進行方向に応じて、車輪102a~102dの各対の車軸方向の間隔を広げ又は狭めることができる。
【0016】
具体的に説明すると、軌間可変電車100が同図の矢印で示す進行方向へ進み、線路101aの通常走行区間から軌間変換装置106へ進入したとする。すると、軌間可変電車100が車体支持部107により支持され、その結果、車体の荷重が、軌間変換区間を通過中の車輪102a及び102bにかからない状態となる。この場合、車輪102a及び102bがガイドレール108と当接することによって、車輪102a及び102bの各対の車軸方向の間隔は、軌間可変電車100の進行に伴って次第に狭くなる。車輪102c及び102dの各対の車軸方向の間隔も同様に、軌間可変電車100の進行に伴って次第に狭くなる。そのため、軌間可変電車100が同図の矢印で示す進行方向へ進むことによって、車輪102a~102dの各対の車軸方向の間隔を狭めることができる。軌間可変電車100が同図の矢印とは逆の方向へ進行した場合、上記とは逆に、車輪102a~102dの各対の車軸方向の間隔は、広がることになる。
【0017】
本実施の形態に係る制御装置200は、軌間可変電車100に搭載される制御装置であって、図2に示すように、1台のインバータ2が複数台の主電動機104a~104dを駆動制御する一括制御方式を採用している。なお、一括制御方式の制御装置200において、1台のインバータ2が駆動制御する主電動機104a~104dは、2台以上であれば何台であってもよい。
【0018】
軌間可変電車100に搭載される制御装置(以下、単に「制御装置」と称する)200は、図2に示すように、直流電源1と、4台の主電動機104a~104dのトルクを一括制御するインバータ2と、インバータ2の出力電圧を制御する電圧制御部3と、を備える。また、電圧制御部3は、トルク指令演算部30、電流指令演算部31、すべり周波数演算部32、電圧指令演算部33、電流フィードバック制御部34、電流処理部35、基準周波数演算部36及び位相演算部37を備える。制御装置200には、位置検出部109からの位置情報と、4台の主電動機104a~104dに流れる電流の合計値を検出するために設けられた電流センサ118からの検出情報と、図示を省略した運転台からの運転指令とが入力される。なお、以下の説明では、主電動機104a~104dのトルクを制御する際に、検出した静止座標系における三相電流値、すなわちU相電流i、V相電流i、及びW相電流iを、直交2軸回転座標系、すなわちdq軸座標系における磁束軸成分の電流値であるd軸電流id及びトルク軸成分の電流であるq軸電流iqに分解して制御を行うベクトル制御を例示するが、本発明がベクトル制御以外にも適用できることは言うまでもない。
【0019】
トルク指令演算部30は、運転指令に含まれるノッチ情報に基づいて、主電動機104a~104dの1台あたりに発生すべきトルクの指令値であるトルク指令τを演算する。電流指令演算部31は、トルク指令τに基づいて、主電動機104a~104dに流すd軸電流指令i 及びq軸電流指令i を演算する。なお、電流指令演算部31が演算するd軸電流指令i 及びq軸電流指令i は、1台の主電動機に流す電流指令でもよいし、4台の主電動機に流す電流指令でもよい。
【0020】
すべり周波数演算部32は、電流指令演算部31からのd軸電流指令i 及びq軸電流指令i に基づいて、主電動機104a~104dに付与すべきすべり周波数である、すべり周波数指令fを演算する。電圧指令演算部33は、d軸電流指令i 及びq軸電流指令i に基づくd軸電圧指令vd0、並びに、d軸電流指令i 及びq軸電流指令i に基づくq軸電圧指令vq0を演算する。電流処理部35は、後述する位相演算部37が演算した制御位相角θ、並びに、電流センサ118が検出したU相電流i、V相電流i及びW相電流iに基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを演算する。
【0021】
電流フィードバック制御部34は、電流指令演算部31からのd軸電流指令i 及びq軸電流指令i 、並びに、電流処理部35からのd軸電流id及びq軸電流iqに基づいて、電流フィードバック制御のためのd軸電圧指令に対する補正量(以下「d軸補正量」と称する)Δvd0及びq軸電圧指令に対する補正量(以下「q軸補正量」と称する)Δvq0を演算する。電圧指令演算部33が演算したd軸電圧指令vd0と、電流フィードバック制御部34が出力するd軸補正量Δvd0とは加算され、インバータ2に付与する補正後のd軸電圧指令v となる。また、電圧指令演算部33が演算したq軸電圧指令vq0と、電流フィードバック制御部34が出力するq軸補正量Δvq0とは加算され、インバータ2に付与する補正後のq軸電圧指令v となる。
【0022】
位置検出部109は、位置情報を出力する装置又はセンサからの出力に基づき、4つの車軸103a~103dの位置情報を演算し、演算結果を基準周波数演算部36に出力する。なお、位置情報を出力する装置又はセンサとしては、ATS(Automatic Train Stop)の地上子、又は、GPS(Global Positioning System)の受信機が例示される。
【0023】
車軸103a~103dのそれぞれには、図2に示すように、回転センサ50a~50dが設けられている。回転センサ50a~50dは、車軸103a~103dにおける各々についての回転周波数を計測して基準周波数演算部36に出力する。なお、本実施の形態において、回転センサ50a~50dが計測する回転周波数の情報は、主電動機104a~104dにおける各々についての回転周波数fm1~fm4とする。主電動機の回転周波数と、車軸の回転周波数とは、ギア比によって換算できることは言うまでもない。また、主電動機の回転周波数には、回転子の機械的な機械角の回転速度を表す機械角周波数と、機械角周波数を固定子回路の電気量(電気角)の周波数に換算した電気角周波数の2種類があるが、両者は主電動機の極対数によって容易に換算できる。したがって以下の説明では、車輪、車軸、及び車軸に接続される主電動機の機械角周波数と電気角周波数は、それぞれ定数で換算できるものとして扱い、厳密な区別をしない。
【0024】
基準周波数演算部36は、位置検出部109からの位置情報及び回転センサ50a~50dからの回転周波数の情報に基づいて基準周波数fを演算する。なお、基準周波数fの算出要領については、後述する。基準周波数演算部36が演算した基準周波数fと、すべり周波数演算部32が演算したすべり周波数指令fとは加算され、インバータ周波数fとして位相演算部37に付与される。インバータ周波数fは、インバータ2の出力電圧の周波数である。
【0025】
位相演算部37は、インバータ周波数fに基づいて制御位相角θを演算する。制御位相角θは、静止座標系と回転座標系との座標変換を行う際に参照される位相角であり、インバータ周波数fを積分することで求めることができる。
【0026】
次に、実施の形態1の制御装置200における要部動作について、図1図3の図面を適宜参照して説明する。図3は、実施の形態1の制御装置200における要部動作を説明するためのフローチャートである。
【0027】
制御装置200は、図3に示す演算処理、詳細には、軌間変換区間における基準周波数の演算処理を実行する。図2に示すように、基準周波数演算部36は、位置検出部109からの位置情報を受領する。
【0028】
図3において、基準周波数演算部36は、4つの車軸103a~103dのうち、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき(ステップS101,Yes)、軌間変換区間の外部にある車軸の回転周波数の平均値を、主電動機の電気角周波数に換算したものを基準周波数fとし(ステップS102)、図3のフローを抜ける。一方、基準周波数演算部36は、4つの車軸103a~103dのうち、すべての車軸が軌間変換区間の外部にあるとき(ステップS101,No)、4つの車軸103a~103dの回転周波数の平均値を、主電動機の電気角周波数に換算した基準周波数fとし(ステップS103)、図3のフローを抜ける。
【0029】
次に、上述した図3に示す処理を行うことの意義について説明する。軌間変換区間の内部で車輪が空転するとき、当該車輪の過回転を防ぐ必要がある。例えば、左右輪独立駆動あるいは車軸ごとの個別制御が可能な制御方式(以下「個別制御方式」と称する)を採用した車両システムでは、軌間変換区間へ進入した車輪の駆動力を順次絞っていけばよい。具体的な手法は、上記特許文献1に示されているように、空転滑走制御により主電動機のトルクを抑制するか、あるいは、当該車輪を駆動しているインバータをゲートオフすればよい。ところが、一括制御方式を採用した車両システムでは、トルクを抑制するようにインバータが制御されると、当該インバータが一括制御するすべての主電動機のトルクが抑制される。その結果、軌間変換区間の内部で空転している車輪の過回転は抑制できるが、軌間変換区間の外部でレールに接している車輪の駆動力も抑制されてしまい、編成全体の推進力が低下してしまう。
【0030】
一方、実施の形態1では、上述のように、一つのインバータで駆動力が制御される複数の車軸のうち、軌間変換区間の内部で空転している車軸と、軌間変換区間の外部でレールに接している車軸とが混在する場合には、主電動機のトルクを抑制する制御を行わない。このとき、基準周波数演算部36が4台の主電動機104a~104dの回転周波数の平均値を基準周波数とした場合、基準周波数は、空転している車軸の回転周波数よりも小さく、レールに接している車軸の回転周波数よりも大きくなる。これにすべり周波数指令が加算されてインバータの出力電圧の周波数が決定されるため、主電動機に実際に発生するすべり周波数と、すべり周波数指令との間に差が生じてしまう。
【0031】
そこで、実施の形態1では、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき、軌間変換区間の外部にある車軸の回転周波数の平均値を、主電動機の電気角周波数に換算したものを基準周波数とする。こうすることで、軌間変換区間の外部でレールに接している車軸の回転周波数をもとに基準周波数が演算されるので、レールに接している車軸に接続される主電動機に実際に発生するすべり周波数が、指令値通りに制御される。一方、軌間変換区間の内部で空転している車軸に接続される主電動機は、すべり周波数指令の分だけ大きい周波数で回転する。
【0032】
なお、軌間変換区間の外部にある車軸の回転周波数の平均値を算出する方法は特に限定しない。例えば車軸103aのみが軌間変換区間の内部にあるとすると、車軸103b~103dの回転周波数を加算して3で除すればよい。また、車軸103aの回転周波数を、車軸103b~103dの回転周波数の何れかに読み替えて、車軸103a~103dの回転周波数を加算して4で除してもよい。
【0033】
また、上述の軌間変換動作が行われている最中は、従来の空転滑走制御は無効化される。空転滑走制御とは、車輪の空転を検知したときに、主電動機のトルクを抑制して、車輪の再粘着を促す制御のことを指す。空転滑走制御の構成には様々な形態があるが、代表的なものとしては、ある代表速度(列車速度など)と個々の車輪の回転速度を比較し、その速度差が拡大したときに空転を検知するものや、個々の車輪の加速度の急変をもとに空転を検知するものなどがある。
【0034】
以上より、実施の形態1に係る制御装置によれば、空転車輪の過回転を抑制しつつ、非空転車輪における駆動力を継続して出力できるので、編成全体の推進力の低下を抑制することが可能となる。
【0035】
実施の形態2.
実施の形態1では、4つの車軸103a~103dのそれぞれの位置情報に基づいて、軌間変換区間の外部にある車軸を選択し、それらの回転周波数の平均値を主電動機の電気角周波数に換算して基準周波数とする制御を行う。しかし、位置情報の種類によっては、4つの車軸103a~103dのそれぞれの位置情報を判別することが困難なケースも想定される。
【0036】
例えば、制御装置200が受け取る位置情報が、列車の進行方向に対して最も先頭にある車軸103aの位置情報だけという場合が考えられる。この場合、列車速度を積分するなどして列車の移動距離を演算し、あらかじめ用意しておいた列車における車軸の位置関係を示す情報をもとに、残る3つの車軸103b~103dのそれぞれの位置を推定することになる。制御装置200が取得できる列車速度の情報は分解能が低く、更新周期が遅い場合もあり、4つの車軸103a~103dのそれぞれの位置の推定結果に誤差を含むこととなる。
【0037】
そこで、実施の形態2における制御装置200は、図4に示す演算処理、詳細には、軌間変換区間における基準周波数の演算処理を実行する。図2に示すように、基準周波数演算部36は、位置検出部109からの位置情報を受領する。
【0038】
図4において、基準周波数演算部36は、4つの車軸103a~103dのうち、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき(ステップS201,Yes)、4つの車軸103a~103dの回転周波数のうちの最小値を、主電動機の電気角周波数に換算したものを基準周波数fとし(ステップS202)、図4のフローを抜ける。一方、基準周波数演算部36は、4つの車軸103a~103dのうち、すべての車軸が軌間変換区間の外部にあるとき(ステップS201,No)、4つの車軸103a~103dの回転周波数の平均値を、主電動機の電気角周波数に換算した基準周波数fとし(ステップS203)、図4のフローを抜ける。
【0039】
次に、上述した図4に示す処理を行うことの意義について説明する。軌間変換区間の内部で、車体支持部107によって支持された車軸及び車輪が空転することは、上述の通りである。このとき、実施の形態2における制御装置200は、編成全体の推進力の低下を防ぐために主電動機のトルクを抑制する制御を行わない。すなわち、運転指令に応じて、ゼロではないすべり周波数指令が演算され、すべり周波数指令と基準周波数とが加算されて、インバータの出力電圧周波数となる。
【0040】
すべり周波数指令がゼロではない正の値をとったまま、4つの車軸103a~103dの何れかが軌間変換区間へ進入すると、軌間変換区間へ進入した車軸はすべり周波数指令の分だけ加速して空転する。上述したように、実施の形態2における制御装置200で、基準周波数演算部36は、4つの車軸103a~103dのうち、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき、4つの車軸103a~103dの回転周波数のうちの最小値を、主電動機の電気角周波数に換算したものを基準周波数fとする。したがって、自動的に軌間変換区間の外部にある車軸のうちの、何れかの回転周波数が選択されることとなる。これによって、制御装置200が4つの車軸103a~103dのそれぞれの位置情報を取得できない場合にも、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
【0041】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3に係る制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態3に係る制御装置200は、図2に示す実施の形態1に係る制御装置200の構成において、電流フィードバック制御部34に位置検出部109から出力される位置情報を入力する構成としているのが実施の形態1との相違点である。なお、その他の構成は、図2に示す実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
図5において、位置検出部109の出力は、基準周波数演算部36に加え、電流フィードバック制御部34にも出力される。電流フィードバック制御部34は、位置情報に基づいて、d軸補正量Δvd0及びq軸補正量Δvq0の演算結果を切り替える。
【0043】
実施の形態3の要部動作については、更に図6を用いて説明する。図6は、実施の形態3の制御装置200における要部動作を説明するためのフローチャートである。
【0044】
上述したように、位置検出部109は、4つの車軸103a~103dの位置情報を演算し、演算結果を基準周波数演算部36と電流フィードバック制御部34に出力している。
【0045】
ここで、電流フィードバック制御部34は、図6に示すように、4つの車軸103a~103dのうち、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき(ステップS301,Yes)、電流フィードバック制御部による出力電圧補正を停止する制御を行って(ステップS302)、図6のフローを抜ける。
【0046】
また、電流フィードバック制御部34は、図6に示すように、4つの車軸103a~103dのうち、すべてが軌間変換区間の外部にあるとき(ステップS301,No)、電流フィードバック制御部による出力電圧補正を開始又は継続する制御を行って(ステップS303)、図6のフローを抜ける。
【0047】
なお、電流フィードバック制御部による出力電圧補正を停止する制御は、d軸補正量Δvd0及びq軸補正量Δvq0をゼロとすれば良い。また、電流フィードバック制御部の内部に、積分演算処理やラッチ処理などがある場合には、それらの処理結果をリセットしてもよい。
【0048】
次に、上述した電流フィードバック制御を停止することの意義について説明する。まず、軌間変換区間では、車輪の空転が発生することは上述の通りである。空転車輪を駆動する主電動機は、非空転車輪を駆動する主電動機に比べて負荷トルクが小さいので、空転車輪を駆動する主電動機に流れる電流は、著しく減少する。
【0049】
実施の形態1における電圧制御部3では、4つの車軸103a~103dの位置情報に関わらず、電流フィードバック制御部34による出力電圧補正が実行される。一方、上述した通り、車輪の空転が発生しているとき、空転車輪を駆動する主電動機に流れる電流は減少し、4台の主電動機104a~104dに実際に流れる電流の合計値も減少する。そして、電流の減少分を補うべく、電流フィードバック制御部34が生成するd軸補正量Δvd0及びq軸補正量Δvq0が変化する。その結果として、インバータの出力電圧が増加する動作となる。
【0050】
このとき、電圧の増加分は、主として非空転車輪を駆動する主電動機に集中するため、主電動機に過大な電流が流れたり、トルク指令を超える過大なトルクが発生したりするおそれがある。過電流は、主電動機の過熱、破損又は故障などの問題を生じさせるおそれがあり、過大なトルクはレールに接している車輪の空転を引き起こす可能性がある。
【0051】
このような現象を防止するため、実施の形態3では、4つの車軸103a~103dのうち、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき、電流フィードバック制御部34による出力電圧補正を停止する制御を行う。そのため、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過する際に、電流フィードバック制御部34による電圧補正制御によって、主電動機104a~104dへの印加電圧が増大するのを抑止できるので、主電動機の過熱、破損、又は故障の発生を抑制することが可能になる。
【0052】
また、実施の形態3に係る制御装置200によれば、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過する際に、主電動機104a~104dに実際に流れる電流の合計値が変化しても、インバータ2の出力電圧が変化しないので、非空転車輪の駆動力を適切に制御して、運転指令に従った推進力を列車に付与することが可能となる。
【0053】
なお、実施の形態3では、電流フィードバック制御部の停止処理を実行する構成を実施の形態1に係る制御装置200に適用する場合について説明したが、この構成を実施の形態2に係る制御装置200に適用できるのは言うまでもない。
【0054】
実施の形態4.
図7は、実施の形態4に係る制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態4に係る制御装置200は、図2に示す実施の形態1に係る制御装置200の構成において、位置検出部109から出力される位置情報を電流指令演算部31に入力しているのが実施の形態1との相違点である。なお、その他の構成は、図2に示す実施の形態1の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0055】
上述の通り、空転車輪と非空転車輪が混在する場合には、主電動機ごとに電流のばらつきが生じる。このとき電流フィードバック制御が有効であると、空転車輪を駆動する主電動機の電流が減少し、電流の減少分を補うべくインバータの出力電圧が増加し、非空転車輪を駆動する主電動機に過大な電流及び過大なトルクが発生してしまう。そこで、実施の形態3に係る制御装置200は、4つの車軸103a~103dのうち、一つ以上の車軸が軌間変換区間の内部にあるとき、電流フィードバック制御部34による出力電圧補正を停止する制御を行う。
【0056】
これと同等の効果を奏するためには、軌間変換区間の内部にある車軸の数に応じて、d軸電流指令i 及びq軸電流指令i を調整してもよい。そこで、実施の形態4における電流指令演算部31は、トルク指令演算部30からのトルク指令τ及び位置検出部109から出力される位置情報に基づいて、d軸電流指令i 及びq軸電流指令i を演算する。
【0057】
実施の形態4における電流指令演算部31の要部動作を、図8を用いて説明する。図8における単位電流指令演算部31aは、トルク指令τに基づき、主電動機1台あたりに発生すべき電流の指令値を表す、q軸単位電流指令iq0 及びd軸単位電流指令id0 を演算する。また、軌間変換軸カウント部31bは、位置情報に基づき、軌間変換区間の内部にある車軸の数Nを出力する。そして、一つのインバータが駆動する主電動機の数をNで表すと、id0 とNの乗算結果がd軸電流指令i として出力される。また、iq0 と(N-N)の乗算結果がq軸電流指令i として出力される。なお、図8に示す電流指令演算部31の動作は、電流処理部35の出力であるd軸電流i及びq軸電流iが、4台の主電動機の合計電流を出力していると仮定したときのものである。仮に電流処理部35が主電動機1台あたりの電流を出力しているのであれば、図8のd軸電流指令i 及びq軸電流指令i も、Nで除して主電動機1台あたりの電流に換算した値を出力すればよい。このような換算は、電流フィードバック制御部34の内部で行われてもよいということは、言うまでもない。
【0058】
上記の演算の結果、軌間変換区間の内部で空転している車軸があるときは、軌間変換区間の内部で空転している車軸の数に応じてq軸電流指令i が減少することとなる。これによって、非空転車輪に接続された主電動機に電流が集中するのが抑制され、実施の形態3と同様の効果を奏することができる。
【0059】
なお、実施の形態4では、軌間変換区間の内部にある車軸の数に応じて電流指令値を演算する構成を、実施の形態1に係る制御装置200に適用する場合について説明したが、この構成を実施の形態2に係る制御装置200に適用できるのは言うまでもない。
【0060】
実施の形態5.
図9は、実施の形態5に係る制御装置の構成を示すブロック図である。実施の形態5に係る制御装置200は、図5に示す実施の形態3に係る制御装置200の構成において、位置検出部109から出力される位置情報をトルク指令演算部30に入力する構成としているのが実施の形態3との相違点である。なお、その他の構成は、図5に示す実施の形態3の構成と同一又は同等であり、同一又は同等の構成部には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0061】
実施の形態5におけるトルク指令演算部30の動作を、図10のフローチャートを用いて説明する。トルク指令演算部30は、4つの車軸103a~103dのうち、すべての車軸が軌間変換区間の内部にあるとき(ステップS501,Yes)、トルク指令をゼロとする制御を行って(ステップS502)、図10のフローを抜ける。また、4つの車軸103a~103dのうち、少なくとも一つ以上の車軸が軌間変換区間の外部にあるとき(ステップS501,No)、運転指令に基づくトルク指令を出力し(ステップS503)、図10のフローを抜ける。
【0062】
実施の形態5の要部動作については、更に図11図12を用いて説明する。図11は、軌間可変電車100が軌間変換区間に進入する際の、実施の形態5に係る車軸の動作を説明するためのタイムチャートであり、図12は、軌間可変電車100が軌間変換区間から退出する際の、実施の形態5に係る車軸の動作を説明するためのタイムチャートである。以下の説明では、「回転周波数に換算した列車速度」を「周波数換算列車速度」と呼称する。
【0063】
まず、図11の上段部には、車軸103a~103dの挙動として、車軸1~車軸4の駆動力が実線で示され、車軸1~車軸4の回転周波数が破線で示されている。さらに、図11の下段部には、基準周波数と、電流フィードバック制御のオン又はオフの状態と、トルク指令のオン又はオフの状態が示されている。何れの波形も、横軸は時間であり、縦軸は駆動力又は回転周波数を表している。また、車軸1は図1における車軸103aに対応し、車軸2は図1における車軸103bに対応し、車軸3は図1における車軸103cに対応し、車軸4は図1における車軸103dに対応する。
【0064】
軌間可変電車100が軌間変換区間に進入し、車軸1が軌間変換区間の内部に最初に踏み入れたとき、車軸1は図示の破線のように、周波数換算列車速度よりも、すべり周波数指令に相当する分だけ周波数が増加して空転する。このとき、電流フィードバック制御がオフされる。そして、車軸1の周波数が増加したことによって、軌間変換区間の外部にある車軸2~4の周波数の平均値が、基準周波数となる。その結果、軌間変換区間の外部でレールと接している車軸2~4の駆動力が安定に制御される。続いて車軸2,3が軌間変換区間の内部に踏み入れたときも同様な挙動である。そして、車軸4が軌間変換区間の内部に踏み入れたとき、トルク指令演算部30はトルク指令をオフする。すなわち、実施の形態5に係る制御装置200は、車軸1~4のすべてが軌間変換区間の内部にあるとき、トルク指令演算部30がトルク指令をゼロとする。その結果、基準周波数として車軸4の周波数が選択されたまま、すべり周波数指令がゼロとなり、4つの車軸のすべてが周波数換算列車速度と等しい周波数で回転し続ける。したがって、空転車輪の過回転が抑制される。
【0065】
図12は、上述したように、軌間可変電車100が軌間変換区間から退出する際の車軸1~車軸4の挙動を示している。図12の上段部には、車軸1~車軸4の駆動力が実線で示され、車軸1~車軸4の回転周波数が破線で示されている。さらに、図12の下段部には、基準周波数と、電流フィードバック制御のオン又はオフの状態と、トルク指令のオン又はオフの状態が示されている。何れの波形も、横軸は時間であり、縦軸は駆動力又は回転周波数を表している。なお図12は、図11に示す軌間変換区間への進入時の挙動に続く動作を表している。
【0066】
軌間可変電車100が軌間変換区間から退出するとき、進行方向に向かって前方に位置する車軸1が最初に軌間変換区間から退出し粘着する。また、車軸1の退出と共にトルク指令の出力が再開されている。このとき、車軸2~4の周波数は周波数換算列車速度に対してすべり周波数指令の分だけ増加する。したがってこの時点では、車軸1の周波数が基準周波数として選択され、車軸1の駆動力が安定に制御される。そして、車軸2~3についても同様に、軌間変換区間から退出すると同時に駆動力が発生する。さらに、進行方向に向かって最後方に位置する車軸4が軌間変換区間から退出したとき、電流フィードバック制御がオンされる。
【0067】
以上の説明では、説明を簡単にするため、軌間変換区間と車体支持部107の範囲は一致するものと仮定した。すなわち、車軸の空転・再粘着が起きるタイミングと同時に、基準周波数の演算、電流フィードバック制御の切り替え、トルク指令のオン及びオフが実施されている。実際には軌間変換動作をより円滑に行うため、車軸の空転又は再粘着が起きるタイミングより、時間的な余裕をもって制御の切り替えが行われてもよい。その場合は、車体支持部107より、軌間変換区間の方が距離が長く、軌間変換区間は車体支持部107を包含する位置関係に設定すればよい。
【0068】
以上に説明したように、実施の形態5に係る制御装置200によれば、一つのインバータが駆動するすべての車軸が軌間変換区間の内部にあるとき、トルク指令をゼロとする制御を行ったので、空転車軸の過回転を防止できる。
【0069】
なお、実施の形態5では、トルク指令の停止処理を実行する構成を実施の形態3に係る制御装置200に適用する場合について説明したが、この構成を実施の形態1、実施の形態2あるいは実施の形態4に係る制御装置200に適用できるのは言うまでもない。
【0070】
実施の形態6.
実施の形態1から実施の形態5の電圧制御部3に係る機能をソフトウェアで実現する際のハードウェア構成について、図13を参照して説明する。なお、ここでいう機能とは、電圧制御部3における、トルク指令演算部30、電流指令演算部31、すべり周波数演算部32、電圧指令演算部33、電流フィードバック制御部34、電流処理部35、基準周波数演算部36及び位相演算部37が該当する。
【0071】
上述した機能をソフトウェアで実現する場合には、図13に示すように、演算を行うCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)300、CPU300によって読みとられるプログラムが保存されるメモリ302及び信号の入出力を行うインタフェース304を含む構成とすることができる。なお、CPU300は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、又はDSP(Digital Signal Processor)などと称されるものであってもよい。また、メモリ302とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性又は揮発性の半導体メモリなどが該当する。
【0072】
具体的に、メモリ302には、制御機能を実行するプログラムが格納されている。CPU300は、インタフェース304を介して、必要な情報の授受を行うことにより、本実施の形態で説明された各種の演算処理を実行する。
【0073】
また、図13に示すCPU300及びメモリ302は、図14のように処理回路303に置き換えてもよい。処理回路303は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0074】
最後に、実施の形態1から実施の形態5の制御装置におけるインバータに用いられるスイッチング素子について説明する。実施の形態1から実施の形態5のインバータで用いられるスイッチング素子としては、Si(珪素)を素材とする半導体素子(IGBT、MOSFET、ダイオードなど、以下「Si素子」と称する)を用いる構成が一般的である。一方、最近では、Siに代え、近年注目されているSiC(炭化珪素)を素材とする半導体素子(以下「SiC素子」と称する)が注目されている。
【0075】
SiC素子の特徴として、スイッチング時間を従来素子(例えばSi素子)に対して非常に短くする(約1/10以下)ことができる。このため、スイッチング損失が小さくなる。また、SiC素子は導通損失も小さい。このため、定常時の損失も従来素子に比して大幅に低減する(約1/10以下)ことが可能である。
【0076】
実施の形態1から実施の形態5に係る手法の特徴として、上述したように、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過するときでもインバータをゲートオンし続ける制御を行う。このため、軌間可変電車100が軌間変換区間を通過するときにインバータをゲートオフする場合と比べて、スイッチング素子のスイッチング回数が増加する。また、空転車輪を駆動する主電動機の電流は減少するが、励磁電流は流れ続ける。このため、スイッチング損失及び導通損失が小さいSiC素子は、本実施の形態に係る制御装置に用いて好適である。
【0077】
なお、SiCは、Siよりもバンドギャップが大きいという特性を捉えて、ワイドバンドギャップ半導体と称される半導体の一例である。このSiC以外にも、例えば窒化ガリウム系材料又は、ダイヤモンドを用いて形成される半導体もワイドバンドギャップ半導体に属しており、それらの特性も炭化珪素に類似した点が多い。したがって、SiC以外の他のワイドバンドギャップ半導体を用いる構成も、本発明の要旨を成すものである。
【0078】
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 直流電源、2 インバータ、3 電圧制御部、30 トルク指令演算部、31 電流指令演算部、31a 単位電流指令演算部、31b 軌間変換軸カウント部、32 すべり周波数演算部、33 電圧指令演算部、34 電流フィードバック制御部、35 電流処理部、36 基準周波数演算部、37 位相演算部、50a~50d 回転センサ、100 軌間可変電車、101a,101b 線路、102a~102d 車輪、103a~103d 車軸、104a~104d 主電動機、106 軌間変換装置、107 車体支持部、108 ガイドレール、109 位置検出部、118 電流センサ、200 制御装置、300 CPU、302 メモリ、303 処理回路、304 インタフェース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14