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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20220328BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20220328BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20220328BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220328BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220328BHJP
   B29B 7/90 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEQ
C08L9/06
C08L7/00
C08K3/04
B60C1/00 A
B29B7/90
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017020221
(22)【出願日】2017-02-07
(65)【公開番号】P2018080316
(43)【公開日】2018-05-24
【審査請求日】2019-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2016219330
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】向口 大喜
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-007186(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009775(WO,A1)
【文献】特開2014-094988(JP,A)
【文献】特開2016-056236(JP,A)
【文献】特開2001-323108(JP,A)
【文献】特開2016-199723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08L
C08K
B29B 7/00-11/14,13/00-15/06
B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40PHR以下の天然ゴムおよび60PHR以上の合成ゴムから構成されるゴム成分100PHRと、カーボンブラック30PHR~100PHR、しゃく解剤0.3PHR以上、および所定量の加硫薬品を含む配合材料とを、密閉型混練機を用いて混練することによりゴム組成物を製造するゴム組成物の製造方法であって、
前記ゴム成分および前記配合材料の内から前記加硫薬品を除く配合材料を、同時に、前記密閉型混練機に投入して、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出するベース練り工程と、
前記ベース練り工程で得られたゴムの全量を密閉型混練機に投入すると共に、前記加硫薬品を投入し、90~110℃の混練温度で混練りする仕上げ練り工程とを備えていることを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ベース練り工程が、
前記ゴム成分と共に、前記カーボンブラックと前記加硫薬品とを除く配合材料を、前記密閉型混練機に投入して、混練温度が110~130℃となるまで混練する工程と、
前記カーボンブラックを追加投入して所定のゴム温度となるまでさらに混練して、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出する工程とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記合成ゴムが、スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記スチレンブタジエンゴムが、乳化重合スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記密閉型混練機が、バンバリーミキサーであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記密閉型混練機における前記ゴム成分および前記配合材料の充填率を、60~80%とすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法を用いて製造されたゴム組成物を用いて、空気入りタイヤ用ゴム部材を成形加工することを特徴とする空気入りタイヤ用ゴム部材の製造方法。
【請求項8】
前記空気入りタイヤ用ゴム部材がトレッドゴムであることを特徴とする請求項7に記載の空気入りタイヤ用ゴム部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の空気入りタイヤ用ゴム部材の製造方法によって製造された空気入りタイヤ用ゴム部材を用いて空気入りタイヤを製造することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分として天然ゴムの配合比率が小さなゴム成分が配合されたゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、従来より、トレッドゴムなど様々なゴム部材を用いて製造されている。これらのゴム部材は、通常、要求される各特性に応じて処方された配合に従って混練されたゴム組成物を成形加工することにより製造されている。
【0003】
具体的には、ゴム成分と加硫薬品を除く配合材料を密閉型混練機に投入して、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練されたゴム(混練ゴム)を排出するベース練り工程と、排出されて冷却された混練ゴムと共に加硫薬品を密閉型混練機に投入して、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練ゴムを排出する仕上げ練り工程とにより、ゴム組成物の製造を行う。
【0004】
このとき、得られたゴム組成物は、ゴム部材の成形加工性を考慮すると、粘度が十分に低減されている必要がある。
【0005】
従来のゴム配合においては、耐摩耗性の観点から天然ゴムを主成分とするゴム成分が使用されており、しゃく解剤を添加することにより天然ゴムの分子量を低減させていたため、上記したベース練り工程と仕上げ練り工程とで十分にゴム部材の粘度低減が図れていた。
【0006】
しかし、近年、空気入りタイヤにおけるウェットグリップ性の向上や耐カット性の向上に対するユーザーからの要望が強くなっており、これらの要請に応えるために、ゴム成分として、天然ゴムを減量する一方、合成ゴムを増量することが検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
このように、ゴム成分において天然ゴムが減量されたゴム配合の場合、従来と同様に、しゃく解剤を使用して天然ゴムを素練りしてゴム組成物の粘度低減を図っても、ゴム組成物全体では十分な粘度低減効果を得ることが難しい。
【0008】
そこで、仕上げ練り工程に先立って、ベース練り工程で得られた混練ゴムを再度密閉型混練機に投入して混練することにより、混練ゴムにせん断力を掛けてさらなる粘度低減を図っている(リミル練り工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-1681号公報
【文献】特開2016-56236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のように、ベース練り工程と仕上げ練り工程との間にリミル練り工程を設けて、混練を3段階に分けて行った場合、混練加工に時間が掛かり、作業性の悪化を招く。また、ゴム組成物における粘度の低減も未だ十分とは言えなかった。
【0011】
そこで、本発明は、天然ゴム量が少ないゴム配合であっても、混練加工に時間を掛けることなく十分に粘度低減が図られたゴム組成物を製造することができるゴム組成物の製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
請求項1に記載の発明は、
40PHR以下の天然ゴムおよび60PHR以上の合成ゴムから構成されるゴム成分100PHRと、カーボンブラック30PHR~100PHR、しゃく解剤0.3PHR以上、および所定量の加硫薬品を含む配合材料とを、密閉型混練機を用いて混練することによりゴム組成物を製造するゴム組成物の製造方法であって、
前記ゴム成分および前記配合材料の内から前記加硫薬品を除く配合材料を、同時に、前記密閉型混練機に投入して、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出するベース練り工程と、
前記ベース練り工程で得られたゴムの全量を密閉型混練機に投入すると共に、前記加硫薬品を投入し、90~110℃の混練温度で混練りする仕上げ練り工程とを備えていることを特徴とするゴム組成物の製造方法である。
【0014】
請求項2に記載の発明は
記ベース練り工程が、
前記ゴム成分と共に、前記カーボンブラックと前記加硫薬品とを除く配合材料を、前記密閉型混練機に投入して、混練温度が110~130℃となるまで混練する工程と、
前記カーボンブラックを追加投入して所定のゴム温度となるまでさらに混練して、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出する工程とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の製造方法である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
前記合成ゴムが、スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴム組成物の製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
前記スチレンブタジエンゴムが、乳化重合スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物の製造方法である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、
前記密閉型混練機が、バンバリーミキサーであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、
前記密閉型混練機における前記ゴム成分および前記配合材料の充填率を、60~80%とすることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法を用いて製造されたゴム組成物を用いて、空気入りタイヤ用ゴム部材を成形加工することを特徴とする空気入りタイヤ用ゴム部材の製造方法である。
【0020】
請求項8に記載の発明は、
前記空気入りタイヤ用ゴム部材がトレッドゴムであることを特徴とする請求項7に記載の空気入りタイヤ用ゴム部材の製造方法である。
【0021】
請求項9に記載の発明は、
請求項7または請求項8に記載の空気入りタイヤ用ゴム部材の製造方法によって製造された空気入りタイヤ用ゴム部材を用いて空気入りタイヤを製造することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、天然ゴム量が少ないゴム配合であっても、混練加工に時間を掛けることなく十分に粘度低減が図られたゴム組成物を製造することができるゴム組成物の製造技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[1]本発明について
本発明者は、上記課題の解決について、種々の実験と検討を行った。
【0024】
具体的には、天然ゴム量が少ないゴム配合のゴム組成物の製造において、リミル練り工程を設けることなく、十分にゴム組成物の粘度低減を図ることができる混練方法について、鋭意検討した。
【0025】
前記したように、天然ゴム量が少ないゴム配合のゴム組成物の製造において、従来と同様にベース練りを行った場合には、しゃく解剤を使用して天然ゴムを素練りしてゴム組成物の粘度低減を図っても、混練ゴム全体の粘度を十分に低減させることができず、リミル練り工程を設けて、密閉型混練機により混練ゴムにせん断力を掛け、粘度を低減させなければならず、混練加工に時間が掛かる。
【0026】
そこで、本発明者は、このリミル練り工程を設けなくても、粘度が十分に低減されたゴム組成物が製造できる方法について検討を行い、天然ゴム量が少ないゴム配合であっても、特定の混練条件で混練した場合、短時間で十分な粘度低減効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
即ち、本発明が対象とするウェットグリップ性や耐カット性の向上を目的とするゴム配合としては、天然ゴム量が少ないゴム成分が用いられ、具体的には、40PHR以下の天然ゴムおよび60PHR以上の合成ゴムから構成されるゴム成分100PHRと、カーボンブラック30PHR~100PHR、しゃく解剤0.3PHR以上を含む配合材料とを含むゴム配合が用いられる。
【0028】
そして、このようなゴム成分における天然ゴム量が少ないゴム配合の混練条件について検討した結果、ベース練り工程において、ゴム成分および配合材料の内から加硫薬品を除く配合材料を、同時に、密閉型混練機に投入して、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練されたゴムを150℃以上の温度で密閉型混練機から排出することにより、十分に粘度低減が図られた混練ゴムとすることができることが分かった。
【0029】
そして、ベース練り工程において得られた混練ゴムは、既に混練ゴムの粘度が十分に低減されているため、従来のようなリミル練り工程を必要とせず、天然ゴム量が多いゴム配合の混練と同様に、直接に仕上げ練り工程に進んで、加硫薬品(硫黄、加硫促進剤)と共に混練することにより、適切な粘度のゴム組成物とすることができる。
【0030】
即ち、本発明は、
天然ゴム0~40PHRを含むゴム成分100PHRと、カーボンブラック30PHR~100PHR、しゃく解剤0.3PHR以上を含む配合材料とを、密閉型混練機を用いて混練することによりゴム組成物を製造するゴム組成物の製造方法であって、
前記ゴム成分および前記配合材料の内から加硫薬品を除く配合材料を、同時に、前記密閉型混練機に投入して、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出するベース練り工程と、
前記ベース練り工程で得られたゴムの全量を密閉型混練機に投入すると共に、硫黄および加硫促進剤を投入し、90~110℃の混練温度で混練りする仕上げ練り工程とを備えていることを特徴とするゴム組成物の製造方法である。
【0031】
以上のように、本発明においては、天然ゴム量が少ないゴム配合であっても、リミル練り工程を設ける必要がないため、混練加工に時間を掛けることなく十分に粘度低減が図られたゴム組成物を製造することができる。
【0032】
そして、本発明者が、さらに検討を進めたところ、上記のベース練り工程においては、ゴム成分の密閉型混練機への投入時、カーボンブラックを他の配合材料と同時に投入しているが、このベース練り工程を2つの工程に分けて、カーボンブラックだけを後から投入するようにした場合、さらなる粘度の低下や混練時間の短縮が可能となることが分かった。
【0033】
即ち、本発明者は、ゴム成分と同時にカーボンブラックを投入した場合には、天然ゴム以外のゴム成分に対するしゃく解剤のしゃく解反応がカーボンブラックによって阻害されており、しゃく解剤の効果を最大限に引き出すためには、カーボンブラックの投入前に混練温度が110~130℃となるまで混練しておくことが好ましいことを見出した。
【0034】
具体的には、上記ベース練り工程を、ゴム成分、しゃく解剤と共に、カーボンブラックと加硫薬品とを除く配合材料を密閉型混練機に投入して、混練温度が110~130℃となるまで混練する工程と、カーボンブラックを追加投入して所定のゴム温度となるまでさらに混練して、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出する工程とに分けることにより、さらなる粘度の低下や混練時間の短縮を図ることができる。
【0035】
即ち、カーボンブラックを投入せずに混練した場合には、しゃく解剤のしゃく解反応がカーボンブラックによって阻害されず、しゃく解剤の効果を最大限に引き出して、混練ゴムの粘度を十分に低下させることができる。そして、粘度が十分に低下した状態でカーボンブラックの追加投入が行われてベース練り工程が進行するため、2つの工程に分けずにベース練りする場合と同じ排出温度、同じベース練り時間(トータル)で混練した場合には、より粘度が低下する。
【0036】
また、粘度が十分に低下した状態でカーボンブラックの投入が行われることにより、その後のベース練り工程において、2つの工程に分けずにベース練りした場合の排出温度まで混練温度を上げなくても同等の粘度が得られるため、ベース練り時間をより短縮することができる。
【0037】
[2]本発明の実施の形態
以下、本発明の実施の形態に基づいて、上記した本発明を具体的に説明する。
【0038】
1.本実施の形態において用いられる各種材料
本実施の形態において製造されるゴム組成物は、前記したように、空気入りタイヤにおけるウェットグリップ性の向上や耐カット性の向上性を図ることができるゴム組成物であり、以下に示す各材料を適宜配合して混練することにより製造される。
【0039】
(1)ゴム成分
本実施の形態において、ゴム成分としては、ゴム成分100PHRが40PHR以下の天然ゴムおよび60PHR以上の合成ゴムから構成されるゴム成分が使用される。ゴム成分100PHR中における天然ゴムが40PHRを超えてしまうと、混練されたゴム組成物から作製されたゴム部材において、十分なウェットグリップ性や耐カット性を確保することができない恐れがある。好ましいゴム成分の構成は、天然ゴムが0~30PHR、合成ゴムが70~100PHRである。
【0040】
天然ゴムとしては特に限定されず、SIR20、RSS#3、TSR20など、ゴム工業において一般的な天然ゴムだけでなく、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク天然ゴム(DPNR)などの改質天然ゴムも使用できる。なお、これらの天然ゴムは単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。
【0041】
また、合成ゴムについても特に限定されず、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、イソブチレンとp-メチルスチレンとの共重合体のハロゲン化物などを使用することができる。これらの内でも、ウェットグリップ性、耐カット性、耐摩耗性のバランスを考慮すると、SBRを使用することが好ましい。
【0042】
(2)カーボンブラック
カーボンブラックは補強剤として機能し、本実施の形態においては、ゴム成分100PHRに対して30~100PHRが使用される。30PHR未満であると十分な補強効果が発揮されず、100PHRを超えるとゴム成分への分散性が悪化する恐れがある。
【0043】
カーボンブラックについても特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど、ゴム工業において一般的に使用されるカーボンブラックを使用することができ、単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。
【0044】
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、100m/g以上が好ましく、105m/g以上がより好ましく、110m/g以上が更に好ましく、130m/g以上が特に好ましい。100m/g未満では、ウェットグリップ性能が低下する傾向がある。一方で、NSAは、600m/g以下が好ましく、250m/g以下がより好ましく、180m/g以下が更に好ましい。600m/gを超えると、良好な分散が得られにくく、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0045】
また、カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、50ml/100g以上が好ましく、100ml/100g以上がより好ましい。50ml/100g未満では、十分な耐摩耗性が得られないおそれがある。一方で、DBPは、250ml/100g以下が好ましく、200ml/100g以下がより好ましく、135ml/100g以下が更に好ましい。250ml/100gを超えると、ウェットグリップ性能が低下するおそれがある。
【0046】
(3)しゃく解剤
しゃく解剤はゴムの粘度を低減させて素練り時間を短縮する目的で使用され、本実施の形態においては、ゴム成分100PHRに対して0.3PHR以上が使用される。0.3PHR未満であると粘度低減の効果を得られず、生産性を阻害する恐れがある。なお、使用量を多くしても、本実施の形態においては天然ゴム量が少ないために粘度低減の効果には限度があり、1.5PHR程度を上限とすることが好ましい。
【0047】
しゃく解剤としては、例えば、芳香族メルカプタン系、芳香族ジスルフィド系、芳香族メルカプタン金属塩系等、ゴム工業において一般的に使用されるしゃく解剤を使用することができ、単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。
【0048】
芳香族メルカプタン系のしゃく解剤としては、例えば、キシレンチオール、ペンタクロロチオフェノール、β-ナフチルメルカプタン、p-t-ブチルチオフェノール、t-ブチル-o-チオクレゾール、o-ベンズアミドチオフェノール等が挙げられる。芳香族ジスルフィド系としては、例えば、o,o’-ジベンズアミドジフェニルジスルフィド、ビス(2,4-ジメチルフェニル)ジスルフィド等が挙げられる。芳香族メルカプタン金属塩系としては、上記芳香族メルカプタン系の金属塩(亜鉛塩等)が挙げられる。
【0049】
しゃく解剤の融点としては、40~160℃が好ましく、45~150℃であるとより好ましい。40℃未満であると環境温度が高い場合にブロッキングが生じる恐れがあり、160℃を超えるとゴム練り中に溶解しない恐れがある。
【0050】
(4)加硫薬品
加硫薬品としては、加硫剤である硫黄及び加硫促進剤が、ゴム成分に合わせて適宜使用される。なお、これらの加硫薬品は、ベース練り工程において投入されると、高い混練ゴム温度によってゴムの加硫が開始される恐れがあるため、仕上げ練り工程において投入される。
【0051】
硫黄としては、粉末硫黄を使用してもよいが、ゴムへの分散性を考慮すると、オイル処理粉末硫黄を使用することが好ましい。
【0052】
加硫促進剤としては、ゴム工業において一般的に粉末硫黄と組み合わせて使用される加硫促進剤が使用でき、具体的な加硫促進剤として、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系またはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤を挙げることができ、単独で使用することもできるが、2種以上を併用してもよい。
【0053】
(5)その他の配合材料
本実施の形態においては、上記したゴム成分及び各配合材料以外に、ゴム工業において一般的に使用される他の配合材料、例えば、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛などが適宜配合される。
【0054】
2.本実施の形態におけるゴム組成物の製造
本実施の形態においては、上記ゴム成分及び各配合材料を密閉型混練機に投入して、前記した特定の混練条件で混練することにより、ゴム組成物を製造している。具体的には、ベース練り工程において、所定のゴム温度となるまで混練した後、混練されたゴムを150℃以上の温度で密閉型混練機から排出した後、従来のようなリミル練り工程を経由することなく仕上げ練り工程に入り、90~110℃の混練温度で混練りすることにより、短時間で十分な粘度低減効果を得ている。以下、工程順に説明する。
【0055】
(1)ベース練り工程
ベース練り工程では、上記した配合のうち、加硫薬品以外の各配合材料を、密閉型混練機に投入して混練する。密閉型混練機としては特に限定されないが、バンバリーミキサーが好ましい。
【0056】
投入された各配合材料を混練することにより混練ゴムの温度が上昇する。そして、混練ゴムの温度が十分に上昇して、密閉型混練機から排出する際の混練ゴムの温度が、従来よりも高い150℃以上となるまで、混練を行う。
【0057】
このように、従来よりも高い温度で混練することにより、しゃく解剤による粘度低減効果をより効率的に発揮させることができ、粘度の低減に寄与することができる。
【0058】
なお、本実施の形態においては、上記したベース練り工程を、A、B2つの工程に分けて、混練することが好ましい。
【0059】
最初に、ゴム成分と共に、カーボンブラックと加硫薬品とを除く配合材料を密閉型混練機に投入して、混練温度が110~130℃となるまで混練を行う(A工程)。A工程においては、カーボンブラックが投入されていない状態で混練が行われるため、混練に際して、カーボンブラックによるしゃく解反応の阻害が発生しない。この結果、しゃく解剤の効果が最大限に引き出されるような混練を行うことができ、混練ゴムの粘度が素早く低減される。
【0060】
その後、カーボンブラックを追加投入して所定のゴム温度になるまでさらに混練して、混練されたゴムを150℃以上の温度で前記密閉型混練機から排出する(B工程)。このB工程においては、A工程でしゃく解剤の効果が最大限に引き出されて混練されて粘度が十分に低減された混練ゴムにカーボンブラックが投入されることになるため、混練加工における効果を短時間で発揮させることが可能となる。
【0061】
この結果、2つの工程に分けずにベース練りする場合と同じ排出温度、同じベース練り時間(トータル)で混練した場合には、粘度が十分に低下した状態でカーボンブラックの投入が行われることにより、ベース練り工程後のゴム組成物において、2つの工程に分けずにベース練りした場合に比べて粘度のさらなる低下を図ることができる。
【0062】
一方、粘度が十分に低下した状態でカーボンブラックの投入が行われることにより、その後のB工程においては、2つの工程に分けずにベース練りした場合の排出温度まで混練温度を上げなくても、2つの工程に分けずにベース練りした場合と同等の粘度とすることができるため、B工程における混練時間が短縮でき、トータルのベース練り時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0063】
なお、このとき、本実施の形態において、密閉型混練機には、カーボンブラックが投入された後のゴム成分及び配合材料の混練機全体における充填率が60~80%となるように投入することが好ましい。このような充填率とすることにより、混練時、ゴムに適切なせん断力が掛かり、この面からも、粘度の低減に寄与することができる。
【0064】
以上、上記加熱条件下で混練を行うことにより、天然ゴム量が少ないゴム配合であっても、混練ゴムに対して、しゃく解剤による粘度低減効果に加えて、せん断力による粘度低減効果を与えることができる。
【0065】
なお、上記において、排出時の混練ゴムの温度が150℃未満となるように混練した場合には、十分な粘度低減効果を発揮させることができず、従来と同様に、リミル練り工程が必要になり、作業性を向上させることができない。
【0066】
(2)仕上げ練り工程
ベース練り工程の最後に、密閉型混練機から排出された混練ゴムは、混練ゴムの温度が30~50℃となるまで空冷した後、再び、密閉型混練機に投入し、さらに、加硫薬品を共に投入して、90~110℃の温度で混練する。
【0067】
そして、仕上げ練りが完了した混練ゴムを密閉型混練機から排出することにより、ゴム組成物の製造を完了する。
【0068】
そして、このようにして製造されたゴム組成物を用いて成形されたゴム部材は、ウェットグリップ性や耐カット性に優れているため、トレッドなどのゴム部材として好ましい。
【実施例
【0069】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0070】
[1]実験例1
本実験例においては、ゴム成分の投入時にカーボンブラックを同時に投入して、混練加工に及ぼす効果を確認した。
【0071】
1.ゴム配合
比較例1~6、実施例1~4のゴム組成物の製造にあたって、表1に示すゴム成分及び配合材料を使用した。
【0072】
【表1】
【0073】
2.ゴム組成物の製造
(1)ベース練り工程
上記したゴム成分及び配合材料を、表2の比較例1~6、実施例1~4に示す配合でベース練りを行った。
【0074】
具体的には、ゴム成分と、加硫薬品(硫黄及び加硫促進剤)以外の配合材料とを、神戸製鋼社製バンバリーミキサーBB24011Dローターに、充填率が72%となるように投入して、ローター回転数60rpmで、混練ゴムの温度が表2に示す各排出温度(ベース練り)に達するまで混練りし、その後、混練ゴムをバンバリーミキサーから排出した。
【0075】
得られた混練ゴムは、比較例1~4ではリミル練り工程へと送り、上記ベース練り工程と同様にして再度混練、排出し、その後、仕上げ練り工程へと送った。一方、比較例5、6、及び実施例1~4では、リミル練り工程を行わず、そのまま、仕上げ練り工程へと送った。
【0076】
(2)仕上げ練り工程
上記で得られた混練ゴムを、30~50℃となるまで空冷した後、再び、密閉型混練機に投入すると共に、加硫薬品の硫黄および加硫促進剤を投入して、ローター回転数30rpmで、混練ゴムの温度が表2に示す各排出温度(仕上げ練り)となるまで混練りし、その後、混練ゴムをバンバリーミキサーから排出し、各ゴム組成物を得た。
【0077】
(3)混練時間
なお、上記の各実施例及び比較例において、混練の開始から終了までの時間(混練時間)は、表2に示すように設定した。なお、表2においては、比較例1を100とする指数で示しており、数値が大きいほど総混練時間が長かったことを示している。
【0078】
3.粘度の評価
得られた各ゴム組成物を、(縦)4cm×(横)4cm×(厚み)7~9mmに切り抜き、島津製作所製ムーニービスコメーターSMV-202を用いて、130℃の条件下で、測定開始から1分間予熱し、その後4分経過した時点でのゴム組成物の粘度を測定した。
【0079】
評価は、各測定結果について、比較例1を100として指数で評価した。数値が大きいほど粘度が高いことを示す。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示す結果より、まず、しゃく解剤を使用しない同一配合の比較例1、比較例6から、リミル練り工程を省略した場合には、混練時間は短縮できるものの、ゴム組成物の粘度は却って上昇することが分かる。
【0082】
そして、しゃく解剤を0.5PHR使用した同一配合の比較例4、比較例5でも、リミル練り工程を省略した場合には、混練時間は短縮できるものの、ゴム組成物の粘度は却って上昇している。一方、実施例1のように、ベース練り工程における混練ゴムの排出温度を高くした場合には、しゃく解剤を0.5PHR使用することにより、リミル練り工程を省略して混練時間を短縮しても、ゴム組成物の粘度が低減されていることが分かる。
【0083】
また、各実施例においては、リミル練り工程を省略したことにより、比較例1に比べて70%の短時間で混練しているにも拘らず、ゴム粘度が十分低減されていることが分かる。
【0084】
[2]実験例2
本実験例においては、ベース練り工程を上記したA工程およびB工程の2工程に分けて、カーボンブラックをB工程において投入することにして、実験例1に示した各実施例に対して、どの程度、混練加工に及ぼす効果が変化するかを調べた。
【0085】
1.ゴム配合
実施例5~12のゴム組成物の製造にあたって、上記実験例1と同様に、表1に示すゴム成分及び配合材料を使用した。
【0086】
2.ゴム組成物の製造
(1)ベース練り工程
上記したゴム成分及び配合材料を、表3の実施例5~12に示す配合でベース練りを行った。
【0087】
具体的には、A工程において、ゴム成分と共に、カーボンブラックと加硫薬品(硫黄及び加硫促進剤)とを除く配合材料を投入して、混練温度が110℃となるまで混練し、カーボンブラックはB工程において投入し、実施例9~12で混練時温度、即ち、B工程における最終到達温度を160℃としたこと以外は、実施例1~4と同様にして混練を行い、混練ゴムをバンバリーミキサーから排出した。
【0088】
(2)仕上げ練り工程
得られた混練ゴムを用いて、実施例1~4と同様にして仕上げ練りし、混練ゴムをバンバリーミキサーから排出し、各ゴム組成物を得た。
【0089】
(3)混練時間
なお、各実施例における混練の開始から終了までの時間(混練時間)は、表3に示す通りである。なお、表3においては、実験例1における実施例1を100とする指数で示した。
【0090】
3.粘度の評価
実験例1と同様にして、各実験例のゴム組成物の粘度を測定し、実験例1における実施例1を100とする指数で評価した。結果を、実施例1~4の結果と併せて表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示す結果より、ベース練り工程を2つに分けて、排出温度およびトータルの混練時間を実施例1~4(2つの工程に分けずにベース練り)と同じにした場合(実施例5~8)、ゴム組成物の粘度が実施例1~4に比べさらに低下していることが分かる。
【0093】
一方、ベース練り工程を2つに分けて、ベース練り工程からの排出温度を実施例1~4よりも低くした場合(実施例9~12)、実施例1~4に比べ短い混練時間で同程度のゴム組成物の粘度が得られていることが分かる。
【0094】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。