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特許7046327断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20220328BHJP
【FI】
E04B1/76 400G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021070022
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2021-05-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521162746
【氏名又は名称】株式会社ダイシン
(74)【復代理人】
【識別番号】100208292
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 直己
(74)【復代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】井手口 修一
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-010987(JP,A)
【文献】特開2015-229849(JP,A)
【文献】実開平01-093547(JP,U)
【文献】特開2000-355987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00 - 1/99
E04B 2/00 - 2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部、支柱部、及び台座部からなり、全ての部材が合成樹脂製であることを特徴とする、建屋の内壁、天井、床、及び柱に設置するスペーサ部材を用いて、建屋内に内装材で隔離された断熱構造を構築するための施工方法であって、
前記スペーサ部材の前記台座部を固着する工程と、
前記スペーサ部材の前記把持部に桟木を固着する工程と、
前記桟木を固着した、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱に断熱材層を吹き付け形成する工程と、
前記断熱材層を形成した後、前記桟木と前記内装材を接合する工程を有する、断熱構造の施工方法。
【請求項2】
前記断熱材層を形成した後、前記建屋の天井に固着した前記スペーサ部材の前記把持部のコ型部分に断熱パネルを接合する工程を有する、請求項1に記載の断熱構造の施工方法。
【請求項3】
前記断熱材層を構成する断熱材は、ポリウレタンフォーム又はポリスチレンフォームである、請求項1又は2に記載の断熱構造の施工方法。
【請求項4】
前記建屋の内壁、天井、床、及び柱の表面に防湿材層を設ける工程を有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の断熱構造の施工方法。
【請求項5】
前記建屋の内壁、天井、床、及び柱に形成した断熱材層の上面に不燃材層を設ける工程を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の断熱構造の施工方法。
【請求項6】
前記建屋の柱に穿孔部を設け、前記柱の内部に前記穿孔部から断熱材を充填する工程を有する、請求項1乃至5のいずれかに記載の断熱構造の施工方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の、断熱構造の施工方法で使用するスペーサ部材であって、
前記スペーサ部材は、把持部、支柱部、及び台座部からなり、
前記把持部はテーパー構造で内面にスリット(滑り止め)が設けられたコ型部を有し、
前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部の全ての部材が合成樹脂製であり、
前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部は分離可能であり、
前記台座部に1つ以上の小貫通孔が穿設されており、
前記台座部には雄ネジが形設され、前記支柱部の長手方向両端には雌ネジが形設され、前記台座部の雄ネジと前記支柱部端部の雌ネジが螺合して、前記台座部と前記支柱部が結合され、
前記支柱部の長手方向の長さが変更可能である、スペーサ部材。
【請求項8】
前記台座部及び前記支柱部が予め一体に成型された、請求項7に記載のスペーサ部材。
【請求項9】
前記合成樹脂は、ポリアセタール又はABSである、請求項7又は8に記載のスペーサ部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材に係り、より詳しくは、全てを合成樹脂で作製したスペーサ部材を使用する断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、倉庫等の建屋内に冷蔵庫や冷凍庫等の断熱構造を構築する施工法において、建屋の内壁、天井、床、及び柱と、内装材間に断熱層を形成する間隙を設けるためにスペーサ部材が用いられる。
従来から、断熱構造構築用のスペーサ部材は、熱伝導性の観点から、一部の部材に合成樹脂製の規格既製品が使用されている他は、構造強度を考慮し金属製の部材が使用されている。
【0003】
従来の断熱構造施工法においては、断熱構造構築用のスペーサ部材は、金属製の部材が使用されていたため、スペーサ部材を作製する際、穿孔やネジ切等の加工に費用、及び時間を要していた。金属製と合成樹脂製の部材同士を連結させる際にも、成型もしくは切削精度の問題からか、お互いの部材の結合性が悪いことが多く、施工時の作業性が低下していた。また、金属製のスペーサ部材は重く、断熱構造施工時の運搬や取り扱いが不便である上、端部が鋭利な形状であると、作業員が手などを負傷する事故も多く発生していた。
さらには、施工後においても、金属製のスペーサ部材は、異なる材料からなる周辺構造との熱伝導性の違いから、結露発生の原因となることがあり、断熱構造内の断熱性能を維持できなくなるといった問題点があった。
【0004】
特許文献1には、断熱壁の施工法に関し、内装材と桟木を間隔をあけて設置し、断熱層である硬質ウレタンフォームを充填発泡しながら断熱壁を順次立ち上げていくことを特徴とする施工方法が開示されている。
しかし、この施工方法では、断熱層として吹き付け形成したウレタンフォーム等の発泡による膨張圧、及び施工後に断熱材に発生する収縮等により、内装材に亀裂や破損が発生する危険性があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-274932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、叙上の従来技術の問題点を解決すべく、スペーサ部材の構成部品を全て合成樹脂製とすることで、スペーサ部材作製時の加工時間短縮、スペーサ部材自体の軽量化、部品同士の結合性向上による断熱構造施工時の作業効率の向上、作業員の負傷防止、及び断熱構造施工後の結露発生を防止することができる、断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、把持部、支柱部、及び台座部からなり、全ての部材が合成樹脂製であることを特徴とする、建屋の内壁、天井、床、及び柱に設置するスペーサ部材を用いて、建屋内に内装材で隔離された断熱構造を構築するための施工方法であって、前記スペーサ部材の前記台座部を固着する工程と、
前記スペーサ部材の前記把持部に桟木を固着する工程と、前記桟木を固着した、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱に断熱材層を吹き付け形成する工程と、前記断熱材層を形成した後、前記桟木と前記内装材を接合する工程を有する、断熱構造の施工方法に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記断熱材層を形成した後、前記建屋の天井に固着した前記スペーサ部材の前記把持部のコ型部分に断熱パネルを接合する工程を有する、請求項1に記載の断熱構造の施工方法に関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記断熱材層を構成する断熱材は、ポリウレタンフォーム又はポリスチレンフォームである、請求項1又は2に記載の断熱構造の施工方法に関する。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱の表面に防湿材層を設ける工程を有する、請求項1乃至3のいずれかに記載の断熱構造の施工方法に関する。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱に形成した断熱材層の上面に不燃材層を設ける工程を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の断熱構造の施工方法に関する。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記建屋の柱に穿孔部を設け、前記柱の内部に前記穿孔部から断熱材を充填する工程を有する、請求項1乃至5のいずれかに記載の断熱構造の施工方法に関する。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の、断熱構造の施工方法で使用するスペーサ部材であって、前記スペーサ部材は、把持部、支柱部、及び台座部からなり、前記把持部はテーパー構造で内面にスリット(滑り止め)が設けられたコ型部を有し、前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部の全ての部材が合成樹脂製であり、前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部は分離可能であり、前記台座部に1つ以上の小貫通孔が穿設されており、前記台座部には雄ネジが形設され、前記支柱部の長手方向両端には雌ネジが形設され、前記台座部の雄ネジと前記支柱部端部の雌ネジが螺合して、前記台座部と前記支柱部が結合され、前記支柱部の長手方向の長さが変更可能である、スペーサ部材に関する。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記台座部及び前記支柱部が予め一体に成型された、請求項7に記載のスペーサ部材に関する。
【0015】
請求項9に係る発明は、前記合成樹脂は、ポリアセタール又はABSである、請求項7又は8に記載のスペーサ部材に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、把持部、支柱部、及び台座部からなり、全ての部材が合成樹脂製であることを特徴とする、建屋の内壁、天井、床、及び柱に設置するスペーサ部材を用いて、建屋内に内装材で隔離された断熱構造を構築するための施工方法であって、前記スペーサ部材の前記台座部を固着する工程と、前記スペーサ部材の前記把持部に桟木を固着する工程と、前記桟木を固着した、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱に断熱材層を吹き付け形成する工程と、前記断熱材層を形成した後、前記桟木と前記内装材を接合する工程を有するため、従来の断熱構造施工方法と比較し、作業性を向上させ、作業員の作業時間を短縮することができる。
前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部の全ての部材が合成樹脂製であるため、従来の金属製スペーサ部材と比較し、スペーサ部材作製時の加工時間短縮、スペーサ部材自体の軽量化、部品同士の結合性向上による断熱構造施工時の作業時間短縮、施工作業員の負傷防止、及び断熱構造構築後の結露発生を防止することができる。
また、前記断熱材層を形成した後、前記桟木と前記内装材を接合する工程を有する施工方法であるため、断熱層の吹き付け形成時に、断熱材の発泡による膨張圧で内装材に亀裂や破損が発生することを防ぐことができる。

【0017】
請求項2に係る発明によれば、前記断熱材層を形成した後、前記建屋の天井に固着した前記スペーサ部材の前記把持部のコ型部分に断熱パネルを接合する工程を有するため、建屋内の任意の場所に断熱パネルを設置することができ、断熱構造内の空間をより有効に利用することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、前記断熱材層を構成する断熱材は、ポリウレタンフォーム又はポリスチレンフォームであるため、効率良く断熱効果を得ることができる。

【0019】
請求項4に係る発明によれば、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱の表面に防湿材層を設ける工程を有するため、結露の発生を抑制し、結露水の凍結による断熱構造の破損や錆防止、断熱空間内のカビやダニ、シロアリ等の繁殖防止、断熱材に結露水が浸透することによる断熱性能の劣化を防止することができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、前記建屋の内壁、天井、床、及び柱に形成した断熱材層の上面に不燃材層を設ける工程を有するため、防火対策が必要な断熱構造の施工にも対応することができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、前記建屋の柱に穿孔部を設け、前記柱の内部に前記穿孔部から断熱材を充填する工程を有するため、断熱構造内への柱を介した熱の侵入、及び結露を防ぐことができる。
【0022】
請求項7に係る発明によれば、請求項1乃至6のいずれかに記載の、断熱構造の施工方法で使用するスペーサ部材であって、前記スペーサ部材は、把持部、支柱部、及び台座部からなり、前記把持部はテーパー構造で内面にスリット(滑り止め)が設けられたコ型部を有するため、施工時にコ型部と桟木を接合する際、桟木がずれることがないようにしっかりと把持することができる。
前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部の全ての部材が合成樹脂製であるため、従来の金属製スペーサ部材と比較し、スペーサ部材作製時の加工時間短縮、スペーサ部材自体の軽量化、部品同士の結合性向上による断熱構造施工時の作業時間短縮、施工作業員の負傷防止、及び断熱構造構築後の結露発生を防止することができる。
前記把持部、前記支柱部、及び前記台座部は分離可能であるため、桟木と把持部を接合する際に、桟木と把持部の細かな位置調整をおこなう必要が無く、施工時間を短縮することができる。
前記台座部に1つ以上の小貫通孔が穿設されているため、施工時に建屋の内壁、天井、床、及び柱に台座部を固着する際、小貫通孔にビス及びアンカーを挿入して固定できる。また、接着剤を用いて固着する場合は、接着剤が台座部の小貫通孔に入り込むことで、接着面にしっかりと固着することができる。
前記台座部には雄ネジが形設され、前記支柱部の長手方向両端には雌ネジが形設され、前記台座部の雄ネジと前記支柱部端部の雌ネジが螺合して、前記台座部と前記支柱部が結合される。台座部及び支柱部はどちらも合成樹脂で作製されているため、部材同士を螺合させる際、雄ネジと雌ネジが引っ掛かることなくスムーズな結合が可能であり、台座部と支柱部を結合させる際の作業性を向上させ、施工時の作業時間を短縮することができる。
前記支柱部の長手方向の長さが変更可能であるため、冷蔵用又は冷凍用等といった断熱構造に求められる温度帯により、支柱部の長手方向の長さを調節し、断熱材の厚みを変更することで、幅広い条件の断熱構造構築に簡単かつ柔軟に対応することができる。
【0023】
請求項8に係る発明によれば、前記台座部及び前記支柱部が予め一体に成型されていることで、台座部と支柱部を結合させる作業が不要となる上、より構造強度を備えたスペーサ部材を提供することができる。
また、台座部の固定部及び支柱部の接合部に強度を持たせるための補強部が形成されることで、さらに構造強度を備えたスペーサ部材を提供することができる。
【0024】
請求項9に係る発明によれば、前記合成樹脂は、ポリアセタール又はABSであるため、従来の金属製部材と比較し、断熱構造構築に必要な強度を維持しながら、加工が容易で作製時間がかからず、安価なスペーサ部材を提供することができる。
また、施工時において、作業員が金属製の部材の鋭利な角等で負傷することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係るスペーサ部材の斜視図である。
図2】本発明に係るスペーサ部材を構成する部品の斜視図であって、(a)は把持部、(b)は支柱部、(c)は台座部を示している。
図3】本発明の一実施形態に係るスペーサ部材の一部であって、支柱部と台座部が一体となったものの斜視図である。 図4から図8は、本発明に係るスペーサ部材を用いて、建屋の内壁に断熱構造を構築する工程を示した施工方法の一実施形態の説明図である。
図4】本発明に係るスペーサ部材を用いた施工方法において、内壁にスペーサ部材の台座部を固着する工程を示す図である。
図5】本発明に係るスペーサ部材を用いた施工方法において、内壁に固着したスペーサ部材の台座部に把持部を連結する工程を示す図である。
図6】本発明に係るスペーサ部材を用いた施工方法において、内壁に固着したスペーサ部材と桟木を接合する工程を示す図である。
図7】本発明に係るスペーサ部材を用いた施工方法において、内壁に断熱材層を吹き付け形成する工程を示す図である。
図8】本発明に係るスペーサ部材を用いた施工方法において、スペーサ部材に固着した桟木に内装材を接合する工程を示す図である。
図9】本発明に係るスペーサ部材を用いて、建屋内に断熱構造を構築する工程を示した施工方法の他の実施形態を示しており、天井に固着したスペーサ部材のコ型部を介して断熱パネルを設置した状態を示す図である。
図10】本発明に係るスペーサ部材を用いて、建屋内の柱に断熱構造を構築する工程を示した施工方法の一実施形態を示し、柱の周囲にスペーサ部材および桟木を固着した状態を示す上面図である。
図11図10で示した工程の後、柱の周囲に断熱材層を吹き付け形成した状態を示す斜視図である。
図12】本発明に係るスペーサ部材を用いて、建屋の内壁に断熱構造を構築する工程を示した施工方法の一実施形態において、内壁とスペーサ部材の間に防湿材層を設ける工程を示す図である。
図13】本発明に係るスペーサ部材を用いて、建屋の内壁に断熱構造を構築する工程を示した施工方法の一実施形態において、内装材の表面に不燃材層を設ける工程を示す図である。
図14】本発明に係るスペーサ部材を用いて、建屋の内壁に断熱構造を構築する工程を示した施工方法の一実施形態において、建屋内の柱に穿孔部を設け、前記柱の内部に前記穿孔部から断熱材を充填する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1図3を参照して本発明に係るスペーサ部材について説明する。
【0027】
図1に示すように、本発明に係るスペーサ部材(1)は、把持部(2)、支柱部(3)、及び台座部(4)から構成されている。
図2に示すように、本発明の一実施形態において、スペーサ部材(1)は、(a)把持部(2)、(b)支柱部(3)、及び(c)台座部(4)に分離できる。
(a)把持部(2)、(b)支柱部(3)、及び(c)台座部(4)を一体型として作製することも可能であるが、分離可能に作製した方が、施工時の作業性が良く、断熱構造施工時の条件や環境に従って支柱部の長さを選択でき、部分的な破損時等の交換対応が容易であるため、分離できることが好ましい。
【0028】
本発明に係るスペーサ部材(1)は、全体が合成樹脂で作製されている。スペーサ部材(1)の材質は特に限定されないが、加工容易性及びコストの観点から、ポリアセタール(POM)及びアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)等が好適に用いられるが、当業者に自明のものであれば、いかなるものでも用いることができる。
【0029】
スペーサ部材(1)の(a)把持部(2)は、コ型部(2a)及びネジ部(2b)からなり、図1及び図2(a)に示す如く、コ型部(2a)において、桟木(11)を把持する対辺部分は、桟木(11)との接合を強固にするためにテーパー形状をしている。桟木(11)は断面が四角形状で、一辺が36mm又は45mmのものが一般的であり、本発明の一実施形態におけるコ型部(2a)も規格値に合わせて、桟木(11)が接合するコ型部(2a)の奥の内径を45mmとしている。本発明の一実施形態におけるテーパー形状は、特に限定されるものではないが、奥の内径45mmに対し、コ型部(2a)手前の内径を42mmとすることが望ましい。
また、桟木(11)を把持するコ型部(2a)の内面にスリット(滑り止め)を設けることで、テーパー形状と併せて、桟木(11)をより強固に接合することができる。
スリット(滑り止め)の形状は、図示したように凹状の溝の他、例えば凸形状の突起を設けても良い。
さらに、コ型部(2a)の厚みは、桟木(11)を把持して固定するのに十分な強度を保つことができるよう、3~5mmであることが望ましい。
ネジ部(2b)は、図2(a)に示した雄ネジ形状の他、雌ネジ形状のものを用いても良い。
【0030】
スペーサ部材(1)の(b)支柱部(3)の長さは、目的とする断熱構造内部の温度帯によって変更可能である。目的の温度帯が低い冷凍庫等の構築時には長く設定し、反対に目的の温度帯が比較的高い冷蔵庫等の構築時には短く設定する。
また、支柱部(3)の長さは、断熱構造を構築する場所の外気温によっても左右されるため、断熱構造内部の温度帯及び外気温等を総合的に勘案して決定する必要がある。
支柱部(3)の長さは、25~500mmの範囲のものが好適に用いられる。特に限定されるものではないが、例えば、25、38、50、75、100、125、150、175、200、250、500mm等から選択できる。
ネジ部(3a)は、図2(b)に示した雌ネジ形状の他、雄ネジ形状のものを用いても良い。
【0031】
スペーサ部材(1)の(c)台座部(4)は、固定部(4a)及びネジ部(4b)からなり、図1及び図2(c)に示す如く、台座部(4)に1つ以上の小貫通孔(4c)が穿設されており、施工時に建屋の内壁、天井、床、及び柱に台座部(4)を固着する際、小貫通孔(4c)にビス及びアンカーを挿入して固定するか、接着剤を台座部(4)の小貫通孔(4c)に入り込ませることで、接着面に強固に固着することができる。小貫通孔(4c)の形状、数、大きさ、孔を開ける場所は特に限定されず、当業者に自明のものであればいかなる形状、数、大きさ、及び場所であってもよい。
また、固定部(4a)は、施工時において、ネジ部(4b)を介して支柱部(3)に固着されるが、台座部(4)及び支柱部(3)が予め一体に成型された図3に示すような形状の部材を用いてもよい。この一体型部材においては、固定部(4a)及び支柱部(3)の接合部に強度を持たせるための補強部(5a)が形成されているが、該補強部(5a)の形状は、補強効果が得られればいかなる形状でも良く、図3に示されたように略三角形状の他、例えば、支柱部(3)端部の周囲を覆うようなドーナツ形状等当業者に自明のものであれば、いかなる形状であってもよい。
ネジ部(4b)は、図2(c)に示した雄ネジ形状の他、図3に示すように台座部(4)と支柱部(3)が一体になった部材において、雌ネジ形状のものを用いても良い。
【0032】
次に、図4図8を参照して本発明に係るスペーサ部材を用いた断熱構造の施工方法について説明する。尚、以下に説明する工法は一例であって、これに限定されない。
【0033】
本発明に係るスペーサ部材を用いた施工方法の一実施形態において、先ずは図4のように、内壁(10)にスペーサ部材(1)の台座部(4)を固着する。
台座部(4)の固着は、例えばビス及びアンカー、又は接着剤等を用いるがこれに限定されない。固着に通常用いられる材料であり、当業者に自明である材料であれば、いかなるものでも用いることができる。内壁(10)の他、天井(20)、床、及び柱に台座部(4)を固着する場合も同様である。
【0034】
次に、図5に示すように、図4で内壁(10)に固着した台座部(4)と、支柱部(3)及び把持部(2)を連結させ、スペーサ部材(1)を完成させる。
【0035】
続けて、図6に示すように、完成させたスペーサ部材(1)に桟木(11)を接合させる。
桟木(11)の固着には、例えばビス及びアンカー等が好適に用いられるがこれに限定されない。固着に通常用いられる材料であり、当業者に自明である材料であれば、いかなるものでも用いることができる。
【0036】
スペーサ部材(1)と桟木(11)の固着が完了した後、図7に示すように、内壁(10)に断熱材層(12)を吹き付け形成する。
断熱材層(12)を吹き付ける前に、桟木(11)の内装材(13)と接合する面が断熱材層で覆われるのを防ぐため、養生テープ等を貼り付けておいてもよい。
断熱材として用いる材料については特に限定されず、断熱材層(12)形成に通常用いられ、当業者に自明の材料や方法であれば、いかなるものを用いても良い。
本発明における一実施形態においては、断熱材には吹き付け用のウレタンフォームを用いることが好ましい。例えば、株式会社ソフランウイズ製のソフラン-R S-220S、ソフラン-R SP-25FA(冷蔵用)、ソフラン-R SP-38FA(冷凍用)等が好適に用いられる。
支柱部(3)の長さは断熱材層の厚みに相当するため、断熱構造の施工条件に合わせて、支柱部(3)の長さを選択することができる。例えば、断熱構造内部の温度帯が低い冷凍庫等の構築時には長く設定し、反対に目的の温度帯が比較的高い冷蔵庫等の構築時には短く設定する。
また、支柱部(3)の長さは、断熱構造を構築する場所の外気温によっても左右されるため、断熱構造内部の温度帯及び外気温等を総合的に勘案して決定する必要がある。
【0037】
断熱材層(12)を形成した後、前もって貼り付けておいた養生テープを外し、例えば、コ型部(2a)と桟木(11)の境界部分等、養生テープが貼られていなかった部分に積層した突起状の断熱材層(12)を削り取る。その後、図8に示すように、桟木(11)と内装材(13)を接合し、断熱構造の構築が完了する。
内装材は、角波やキーストンプレート等の金属板、石膏ボード、及びケイ酸カルシウム板等が好適に用いられるが、当業者に自明である材料であれば、いかなるものでも用いることができる。
【0038】
本発明における他の実施形態においては、建屋内の天井(20)にスペーサ部材(1)を固着し、断熱材層(12)を吹き付け形成した後、スペーサ部材(1)の周りの断熱材層(12)を削り取り、図9に示すように、スペーサ部材(1)のコ型部(2a)の側面に断熱パネル(14)を固着し、仕切り板等として設置しても良い。
断熱パネル(14)には、ポリウレタン樹脂を板状に加工したポリウレタンフォーム、又はポリスチレン樹脂を板状に加工したポリスチレンフォームを使用しても良い。断熱パネル(14)に用いる材料は特に限定されないが、当業者に自明の材料であれば、いかなるものを用いても良い。例えば、スタイロフォームEKII(ダウ化工株式会社製 登録商標)等が用いられる。
【0039】
断熱構造を柱(15)の周囲に構築する場合は、図10に示すように、柱(15)の周囲にスペーサ部材(1)と桟木(11)を固着した後、図11に示すように、柱(15)の周囲に断熱材層(12)を吹き付け形成する。
【0040】
本発明における他の実施形態においては、図12に示すように、内壁(10)の上面に防湿材層(17)を設けても良い。防湿材層(17)に用いる材料は特に限定されないが、当業者に自明の材料であれば、いかなるものを用いても良く、例えば、ユニ石油株式会社製のDPコートαが好適に用いられる。
【0041】
本発明における他の実施形態においては、図13に示すように、内装材(13)の上面に不燃材層(18)を設けても良い。不燃材層(18)に用いる材料は特に限定されないが、当業者に自明の材料であれば、いかなるものを用いても良く、例えば、スチライト工業株式会社製のアロックシーラーバインダー、タイカ・アロック等が好適に用いられる。
【0042】
本発明における他の実施形態においては、図14に示すように、柱(15)の側面等に穿孔部(19)を設け、柱(15)の内部に穿孔部(19)から断熱材(16)を充填する。断熱材(16)に用いる材料は特に限定されず、当業者に自明の材料であれば、いかなるものを用いても良いが、吹き付け用のウレタンフォームを用いることが好ましい。例えば、株式会社ソフランウイズ製のソフラン-R S-220S、ソフラン-R SP-25FA(冷蔵用)、ソフラン-R SP-38FA(冷凍用)等が好適に用いられる。
【実施例
【0043】
(スペーサ部材における支柱部の長さ別引張強度の測定)
室温(23±2℃)及び氷点下温度(-40±2℃)において、本発明に係るスペーサ部材に対し、施工時等にかかる引張荷重に対する支柱部の長さ別の強度を測定した。
試料には、本発明に係るスペーサ部材の支柱部として、ポリアセタール製の円柱を用いた。測定には、断面の直径がφ18mmで、長さがそれぞれ75mm、100mm、150mmの3種の円柱を用いた。
それぞれの長さの支柱部の両端に雌ねじを形設し、ボルトのネジ部が45mm中の30mmまで支柱部に挿入されるように両端に螺合させた後、ボルトを治具に引っ掛けて10mm/minの速度で引張り、破断するまでの最大荷重(kN/本[kgf/本])を測定した。
測定は2回おこない、平均値を算出した。測定結果を表1に示す。
なお、氷点下温度(-40±2℃)においては、試験機測定容量を越えるため測定不能であった。
【0044】
【表1】
【0045】
(スペーサ部材における支柱部の長さ別曲げ強度の測定)
次に、室温(23±2℃)及び氷点下温度(-40±2℃)において、本発明に係るスペーサ部材に対し、施工時等にかかる曲げ荷重に対する支柱部の長さ別の強度を測定した。
試験資料には、前述の引張強度の測定に用いたものと同様に、ポリアセタール製の円柱の両端に雌ねじを形設し、ボルトのネジ部が45mm中の30mmまで支柱部に挿入されるように両端に螺合させた、それぞれ75mm、100mm、150mmの3種の長さのものを用いた。
螺合させたボルトを曲げ試験治具に引っ掛けて、支柱部の長手方向の中心線から10mm逸れた位置を10mm/minの速度で圧縮し、破断するまでの最大荷重(kN/本[kgf/本])を測定した。
測定は2回おこない、平均値を算出した。室温(23±2℃)における測定結果を表2に示し、氷点下温度(-40±2℃)における測定結果を表3示す。
なお、150mmのサンプルにおいては、全て破断が認められなかったため、ひずみ50mmまでの最大荷重を記載した。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
表1及び表2に記載の通り、本発明に係るスペーサ部材は、3種全ての長さの支柱部において、引張荷重及び曲げ荷重に関し、断熱構造構築に用いるための十分な強度を備えていることがわかった。
この結果より、本発明に係る合成樹脂製のスペーサ部材は、施工時及び施工後において、十分な強度を持つことがわかった。それゆえに、本発明に係るスペーサ部材は構造強度の観点において安全に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る断熱構造の施工方法で使用するスペーサ部材は、全ての部品が合成樹脂で作製されているため、スペーサ部材作製時の加工費用の削減、加工時間の短縮、及びスペーサ部材自体の軽量化を図ることができる。
また、断熱構造施工方法は、部品同士の結合性向上による断熱構造施工時の作業効率の向上、作業員の負傷防止による安全確保、作業時間や工期短縮のために有効である。
さらに、断熱構造施工後の結露発生を抑制し、結露水の凍結による断熱構造の破損や錆防止、断熱空間内のカビやダニ、シロアリ等の繁殖防止、断熱材に結露水が浸透することによる断熱性能の劣化を防止することができる。
それゆえに、本発明に係る断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材は、建屋内の断熱構造の施工に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 スペーサ部材
2 把持部
2a コ型部
2b ネジ部
3 支柱部
3a ネジ部
4 台座部
4a 固定部
4b ネジ部
4c 小貫通孔
5 支柱一体型台座部
5a 補強部
10 内壁
11 桟木
12 断熱材層
13 内装材
14 断熱パネル
15 柱
16 断熱材
17 防湿材層
18 不燃材層
19 穿孔部
20 天井
【要約】
【課題】 断熱構造の施工方法で使用するスペーサ部材の軽量化、加工時間短縮、部品同士の結合性向上により、作業員の負傷を防止し、断熱構造施工後の結露を防止し、作業効率を向上させることができる断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材の提供。
【解決手段】把持部、支柱部、及び台座部からなり、建屋の内壁、天井、床、及び柱に設置するスペーサ部材を用いて、建屋内に内装材で隔離された断熱構造を構築するための施工方法であって、スペーサ部材の前記台座部を固着する工程と、スペーサ部材の前記把持部に桟木を固着する工程と、桟木を固着した、建屋の内壁、天井、床、及び柱に断熱材層を吹き付け形成する工程と、断熱材層を形成した後、桟木と内装材を接合する工程を有する、断熱構造の施工方法及びこの方法で使用するスペーサ部材。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14