(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】溶接装置及び溶接装置の板厚検査方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/24 20060101AFI20220328BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B23K11/24 338
B23K11/24 340
B23K11/11 520
(21)【出願番号】P 2018144388
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品川 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹内 忠義
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-35951(JP,A)
【文献】特開2011-110578(JP,A)
【文献】特開昭59-54913(JP,A)
【文献】特開2007-212380(JP,A)
【文献】実開平5-17501(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
G01B 5/00 ー 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極と可動電極とを有するサーボガンを備え、該固定電極と該可動電極とで被検査物を挟持することで該被検査物の板厚を検査可能な溶接装置であって、
上記サーボガンの作動制御を行うガン制御部と、
上記固定電極に対する上記可動電極の移動量から上記被検査物の厚みを算出して、その算出結果が、所望の板厚に対して、板厚が所定量以上薄いか又は該所定量以上厚いときに異常を検出する検出部と、
上記検出部を利用した上記被検査物の板厚検査が正常に行われているか否かを判定する判定部と、
空間内の治具固定位置に固定され、予め設定された特定板厚に対して上記所定量以上薄い板厚を有する第1板部と、上記特定板厚に対して上記所定量以上厚い板厚を有する第2板部とを有する板状の治具とを備え、
上記ガン制御部は、上記判定部による判定を行うときに、上記サーボガンを作動させて、上記第1板部の板厚の測定と第2板部の板厚の測定とを行うように構成され、
上記判定部は、所望の板厚を上記特定板厚として上記検出部が上記第1及び第2板部の板厚を検査したときに、それぞれの検査において上記検出部が異常を検出したときには、上記板厚検査が正常に行われていると判定する一方、少なくとも一方の検査において上記検出部が異常を検出しないときには、上記板厚検査に不具合があると判定することを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置において、
上記治具は、板厚が上記特定板厚に設定された基準板部を更に有することを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接装置において、
複数のアームを有し、上記サーボガンが取り付けられたロボットと、
上記ロボットを作動制御するロボット制御部とを更に備え、
上記治具は、板厚方向の2つの面のうち一側の面が平坦な面である一方、他側の面に段差が形成されることで、少なくとも上記第1及び第2板部が形成されているとともに、板厚方向が水平方向又は上下方向となるように固定されており、
上記ロボット制御部は、少なくとも生産ラインの非稼働時には、上記サーボガンが所定の待機位置に位置するように上記ロボットを作動させるとともに、上記第1及び第2板部の板厚を測定するときには、上記固定電極が上記板厚方向の上記一側に位置するように、上記サーボガンを上記待機位置から上記治具固定位置に移動させるべく、上記ロボットを作動させるように構成されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の溶接装置において、
上記治具は、ロックウェル硬さHRCが60以上のものであることを特徴とする溶接装置。
【請求項5】
固定電極と可動電極とを有するサーボガンを備える溶接装置において、該固定電極と該可動電極とで被検査物を挟持することで該被検査物の板厚を検査する、溶接装置の板厚検査方法であって、
上記溶接装置は、空間内の治具固定位置に固定されかつ予め設定された特定板厚に対して所定量以上薄い板厚を有する第1板部と上記特定板厚に対して上記所定量以上厚い板厚を有する第2板部とを有する板状の治具を更に備え、
上記溶接装置による板厚検査が正常に行われているか否かの判定工程として、
上記第1板部を上記固定電極と上記可動電極とで挟持して、該第1板部の板厚の測定を行う第1測定工程と、
上記第1測定工程の測定結果に基づいて、板厚の異常を検出する第1検出工程と、
上記第2板部を上記固定電極と上記可動電極とで挟持して、該第2板部の板厚の測定を行う第2測定工程と、
上記第2測定工程の測定結果に基づいて、板厚の異常を検出する第2検出工程と、
を含み、
上記第1及び第2検出工程は、上記特定板厚に対して、板厚が所定量以上薄いか又は該所定量以上厚いときに異常を検出する工程であり、
上記判定工程は、上記第1及び第2検出工程の両検出工程で異常を検出したときには、上記板厚検査が正常に行われていると判定する一方、上記第1及び第2検出工程のうち少なくとも一方の検出工程において異常を検出しないときには、上記板厚検査に不具合があると判定する工程であることを特徴とする溶接装置の板厚検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、溶接装置及び溶接装置の板厚検査方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固定電極と可動電極とを有するサーボガンを備えた溶接装置が知られている(例えば、特許文献1)。この溶接装置では、電極間の距離が溶接条件等を決定するための1つの要素になる。このため、上記溶接装置では、電極間の距離を測定する機能を有するものが多い。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の溶接装置では、サーボモータにより駆動されるガン軸側の第1電極(可動電極)と、ガンアームの先端部に固定された第2電極(固定電極)とを有するスポット溶接用ガンを備えたスポット溶接装置において、サーボモータの回転量を検出するロータリエンコーダの検出信号に応じて第1電極の移動量を検出するとともに、該第1電極の移動量に応じて両電極間の間隔を検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載のように電極間の距離を測ることができれば、被溶接物の板厚を測定することが可能となる。例えば、固定電極を被溶接物の一面に接触させた状態で、可動電極を被溶接物の他面に接触するまで移動させたときの移動量によって、被溶接物の板厚を測定することができる。このように、被溶接物の板厚を測定することができれば、被溶接物の板厚が正しいか否か、すなわち、所望の部材と異なる板厚の部材を誤って溶接しようとしていないかを検出することができる。
【0006】
しかしながら、電極が磨耗してすり減ったときには、被溶接物に接触するまでの可動電極の移動量が変化するため、上記のような板厚検査が正常に行われないおそれがある。
【0007】
これに対して、例えば、実際に被溶接物の溶接作業を行う前に、被溶接物を模したダミーワークを用いて、板厚検査が正常に行われるか否かを確認することが考えられる。しかし、被溶接物の種類毎にダミーワークを準備する必要があり、コストが高くなる上、保管場所の確保のために作業スペースを拡大させる必要が生じる。また、ダミーワーク毎に検査基準を設定する必要があるとともに、ダミーワークを生産ライン上に投入して検査をしなければならないため、作業効率の悪化を招くおそれがある。
【0008】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ワークの板厚を検査可能な溶接装置において、板厚検査が正常に行われるか否かを、作業スペースを抑えつつ、低コストでかつ効率良く確認できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様は、固定電極と可動電極とを有するサーボガンを備え、該固定電極と該可動電極とで被検査物を挟持することで該被検査物の板厚を検査可能な溶接装置を対象として、上記サーボガンの作動制御を行うガン制御部と、上記固定電極に対する上記可動電極の移動量から上記被検査物の厚みを算出して、その算出結果が、所望の板厚に対して、板厚が所定量以上薄いか又は該所定量以上厚いときに異常を検出する検出部と、上記検出部を利用した上記被検査物の板厚検査が正常に行われているか否かを判定する判定部と、空間内の治具固定位置に固定され、予め設定された特定板厚に対して上記所定量以上薄い板厚を有する第1板部と、上記特定板厚に対して上記所定量以上厚い板厚を有する第2板部とを有する板状の治具とを備え、上記ガン制御部は、上記判定部による判定を行うときに、上記サーボガンを作動させて、上記第1板部の板厚の測定と第2板部の板厚の測定とを行うように構成され、上記判定部は、所望の板厚を上記特定板厚として上記検出部が上記第1及び第2板部の板厚を検査したときに、それぞれの検査において上記検出部が異常を検出したときには、上記板厚検査が正常に行われていると判定する一方、少なくとも一方の検査において上記検出部が異常を検出しないときには、上記板厚検査に不具合があると判定することを特徴とする。
【0010】
ここに開示された技術の第2の態様は、上記第1の態様において、上記治具は、板厚が上記特定板厚に設定された基準板部を更に有することを特徴とする。
【0011】
ここに開示された技術の第3の態様は、上記第1又は第2の態様において、複数のアームを有し、上記サーボガンが取り付けられたロボットと、上記ロボットを作動制御するロボット制御部とを更に備え、上記治具は、板厚方向の2つの面のうち一側の面が平坦な面である一方、他側の面に段差が形成されることで、少なくとも上記第1及び第2板部が形成されているとともに、板厚方向が水平方向又は上下方向となるように固定されており、上記ロボット制御部は、少なくとも生産ラインの非稼働時には、上記サーボガンが所定の待機位置に位置するように上記ロボットを作動させるとともに、上記第1及び第2板部の板厚を測定するときには、上記固定電極が上記板厚方向の上記一側に位置するように、上記サーボガンを上記待機位置から上記治具固定位置に移動させるべく、上記ロボットを作動させるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
ここに開示された技術の第4の態様は、上記治具は、ロックウェル硬さHRCが60以上のものであることを特徴とする。
【0013】
ここに開示された技術は、溶接装置の板厚検査方法をも対象とする。具体的には、ここに開示された技術の第5の態様は、固定電極と可動電極とを有するサーボガンを備える溶接装置において、該固定電極と該可動電極とで被検査物を挟持することで該被検査物の板厚を検査する、溶接装置の板厚検査方法を対象として、上記溶接装置は、空間内の治具固定位置に固定されかつ予め設定された特定板厚に対して所定量以上薄い板厚を有する第1板部と上記特定板厚に対して上記所定量以上厚い板厚を有する第2板部とを有する板状の治具を更に備え、上記溶接装置による板厚検査が正常に行われているか否かの判定工程として、上記第1板部を上記固定電極と上記可動電極とで挟持して、該第1板部の板厚の測定を行う第1測定工程と、上記第1測定工程の測定結果に基づいて、板厚の異常を検出する第1検出工程と、上記第2板部を上記固定電極と上記可動電極とで挟持して、該第2板部の板厚の測定を行う第2測定工程と、上記第2測定工程の測定結果に基づいて、板厚の異常を検出する第2検出工程と、を含み、上記第1及び第2検出工程は、上記特定板厚に対して、板厚が所定量以上薄いか又は該所定量以上厚いときに異常を検出する工程であり、上記判定工程は、上記第1及び第2検出工程の両検出工程で異常を検出したときには、上記板厚検査が正常に行われていると判定する一方、上記第1及び第2検出工程のうち少なくとも一方の検出工程において異常を検出しないときには、上記板厚検査に不具合があると判定する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
ここに開示された技術の第1及び第5の態様によると、治具固定位置に固定された板状の治具の板厚を検査するだけで、検出部を利用した板厚検査が正常に行われているか否かを確認することができるため、作業効率の悪化を抑制することができる。特に、同じ治具を用いることから、検査基準を変更する必要がないため、作業効率の向上が期待できる。
【0015】
また、特定板厚に対して所定量以上薄い板厚を有する第1板部と、特定板厚に対して所定量以上厚い板厚を有する第2板部との両方を測定して、板厚検査が正常に行われているか否かを判定するため、板厚が薄い場合と厚い場合との両方で板厚検査の確認をすることができる。このため、高い判定精度を得ることができる。
【0016】
さらに、従来のように、多数のダミーワークを容易する必要がなく、板状の治具を1つ用意すればよいため、作業スペースを抑えるとともに、コストを低くすることもできる。
【0017】
ここに開示された技術の第2の態様によると、検出部に不具合があるときには、基準板部の測定結果を利用してキャリブレーションを行うことができる。また、基準板部についても板厚の測定を行うようにすれば、判定部による判定精度をさらに向上させることができる。
【0018】
ここに開示された技術の第3の態様によると、板厚方向が水平方向となるように治具が配置されていれば、サーボガンの両電極が治具を挟持するときに、固定電極の水平方向の座標が一定になる。一方で、板厚方向が上下方向となるように治具が配置されていれば、サーボガンの両電極が治具を挟持するときに、固定電極の上下方向の座標が一定になる。このため、ロボットの動作を単純化することができる。これにより、検査の作業効率を一層向上させることができる。
【0019】
さらに、サーボガンの両電極が治具を挟持するときの、固定電極の座標が一定になっていれば、例えば、ロボットのガタつきによりサーボガンの座標がずれているときには、治具を挟持する際の固定電極の位置を確認することで、その座標ずれを確認することができる。また、治具の位置を基準にワークW等の位置にずれが生じているか否かを確認することもできる。
【0020】
ここに開示された技術の第4の態様によると、サーボガンの両電極に複数回に亘って挟持されたとしも治具が変形しにくい。このため、治具の変形に基づく判定の不具合が抑えられ、判定部による判定精度を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係る溶接装置を概略的に示す図である。
【
図3】ワークの板厚を測定する際のサーボガンの動作を示す動作図であり、電極間に治具が位置するようにサーボガンを配置した状態を示す。
【
図4】
図3の状態から可動電極を変位させて、治具に接触させた状態を示す図である。
【
図5】
図4の状態から固定電極と可動電極とで治具を挟持した状態を示す図である。
【
図8】治具の板厚を測定する際に、固定電極と可動電極とで治具を挟持した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0023】
〈全体構成〉
図1は、本発明の実施形態に係る溶接装置1を概略的に示す。この溶接装置1は、生産ライン上に設けられていて、板状部材を複数枚重ねてなるワークW(
図3等参照)に対してスポット溶接を行い、板状部材同士を接合するためのスポット溶接装置である。
【0024】
図1に示すように、溶接装置1は、変位可能なアーム11を有するロボット10と、サーボガン20と、ロボット10及びサーボガン20を作動制御する制御装置100とを有している。また、詳しくは後述するが、本実施形態の溶接装置1は、所定の治具固定位置に固定された検査治具30を有している。
【0025】
ロボット10は、互いに回動可能に連結された3つのアーム11と、基台12とを有する多関節の産業用ロボットである。3つのアーム11は、基端が基台12に接続された基台側アーム11aと、先端にサーボガン20が保持されたガン側アーム11bと、基台側アーム11aの先端部とガン側アーム11bの基端側とを連結する中間アーム11cとで構成されている。基台12は、工場の床面等に設置されており、これにより溶接装置1が工場の床面等に対して固定される。
【0026】
基台側アーム11aは、鉛直方向に延びる軸周りに回動可能に上記基台12と接続されている。基台側アーム11aが上記軸周りに回動したときには、サーボガン20ごと各アーム11a~11cが水平方向に回動するようになっている。
【0027】
基台12と基台側アーム11aの基端部、基台側アーム11aの先端部と中間アーム11cの長手方向の一端部、及び、ガン側アーム11bの基端部と中間アーム11cの上記長手方向の他端部とは、水平方向に延びる軸13周りに回動可能にそれぞれ連結されている。サーボガン20は、各アーム11a~11cを上記軸13周りに回動させることにより、鉛直方向の軸及び軸13の両方に直交する方向に進退させることができる。
【0028】
また、図示を省略しているが、サーボガン20は、ガン側アーム11bに沿って延びる軸周りに回転可能に、該ガン側アーム11bの先端部に取り付けられている。
【0029】
尚、以下の説明では、軸13の延びる方向を左右方向、鉛直方向及び軸13の軸方向の両方に直交する方向を前後方向という。また、前後方向については、サーボガン20が基台12から離れる側を前側、サーボガン20が基台12に近づく側を後側という。
【0030】
サーボガン20は、U字状のガンアーム21と、該ガンアーム21の2つの先端のうち一方の先端に設けられた固定電極22と、該固定電極22と対向するようにガンアーム21の他方の先端に設けられかつサーボモータ25(
図2参照)により固定電極22に対して接離可能な可動電極23と、固定電極22と可動電極23との間に電圧を印加する電圧印加回路26(
図2参照)とを有している。可動電極23は、電極ケース23aの先端から突出するように設けられている。また、サーボガン20には、固定電極22と可動電極23により上記ワークを挟持したときに、サーボモータ25にかかる負荷(トルク)を検出するトルクセンサ24(
図2参照)が設けられている。
【0031】
ワークW(
図4等参照)を接合するときには、固定電極22と可動電極23とで、ワークWを挟持する。その後、両電極22,23間に電流を流してワークWを構成する板状部材同士を接合させる。ワークWを挟持する際のサーボガン20の動作は後述する。
【0032】
図2に示すように、制御装置100は、CPU101、メモリ102、インターフェース103及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサを備えている。
【0033】
CPU101は、サーボガン20の作動制御を行うガン制御部101aを構成する。CPU101は、ロボット10の作動制御を行うロボット制御部101bを構成する。CPU101は、固定電極22と可動電極23とで被検査物を挟持するときに、固定電極22に対する可動電極23の移動量から上記被検査物の厚み(板厚)を算出して、該算出結果が、予め設定された設定板厚に対して、板厚が所定量以上薄いか又は該所定量以上厚いときに異常を検出する検出部101cを構成する。CPU101は、検出部101cの板厚異常の検出機能が正常に機能しているか否かを判定する判定部101dを構成する。
【0034】
CPU101のガン制御部101aは、サーボモータ25及び電圧印加回路26の作動制御をする。CPU101のロボット制御部101bは、ロボット10の各アーム11の作動制御をする。
【0035】
メモリ102には、ワークWの溶接作業において、サーボガン20をセットすべき位置や、ワークWの溶接条件(電極間に印加すべき電圧など)が記憶されている。
【0036】
制御装置100は、溶接装置1の他に、サーボガン20により被検査物(ワークWや後述する検査治具30)の厚み(板厚)を検査したときの検査結果を示すディスプレイ104に接続されている。
【0037】
〈板厚検査〉
本実施形態に係る溶接装置1は、ワークW等の板厚を検査する板厚検査機構を有している。ワークWを構成する板状部材には種々の板厚のものがあり、ワークWの種類毎に板厚が異なり得る。また、板状部材を何枚重ねるかによっても、ワークW全体としての板厚は異なり得る。このため、溶接するワークWの板厚が所望の板厚を検査することで、所望のワークWとは異なるワークWが生産ラインに流れていないか、板状部材自体に不良がないか等を確認することができる。
【0038】
本実施形態に係る溶接装置1の板厚検査機構は、被検査物を固定電極22と可動電極23とで挟持するときの可動電極23の移動量から該被検査物の板厚を測定して、所望の板厚であるか否かを検査する。このときのサーボガン20の動作及び制御装置100の制御について、
図3~
図5を参照して説明する。
【0039】
まず、
図3に示すように、CPU101のロボット制御部101bにより、サーボガン20の固定電極22と可動電極23との間にワークWが位置するように、ロボット10を作動させて、サーボガン20を移動させる。このときには、固定電極22及び可動電極23は共にワークWには接触していない。
【0040】
次に、
図4に示すように、CPU101のガン制御部101aにより、サーボモータ25を駆動させて可動電極23をワークWに当接するまで移動させる。ワークWは、通常、位置決め装置等により位置決めされているため、ワークWに当接した後は、可動電極23の位置自体は変化しない。
【0041】
図4の状態から、CPU101のガン制御部101aにより、更に可動電極23を固定電極22に近付けようとサーボモータ25を駆動させると、その反力によって、
図5に示すように、電極ケース23aが取り付けられたガンアーム21が移動する。これにより、ワークWが固定電極22と可動電極23とによってワークWが挟持される。このとき、可動電極23の位置は変化しないが、可動電極23の電極ケース23aからの突出量は大きくなるので、ガンアーム21が移動した量も可動電極23の移動量とみなすことができる。尚、固定電極22と可動電極23とによりワークWが挟持されたか否かは、トルクセンサ24により検出されるトルクが所定トルクに到達したか否かにより判定される。具体的には、CPU101は、トルクセンサ24により検出されるトルクが所定トルクに到達したときには、固定電極22と可動電極23とによりワークWが挟持されたと判定する。
【0042】
そして、CPU101の検出部101cにより、可動電極23の固定電極22に対する移動量を算出して、ワークWを挟持したときの固定電極22と可動電極23との間の距離を算出することで、ワークWの板厚を算出する。可動電極23の固定電極22に対する移動量については、例えば、ワークWを挟持するまでに、サーボモータ25が回転した数を求めることで算出することができる。
【0043】
ワークWの板厚を算出した後は、CPU101の検出部101cにより、算出された板厚に基づいて異常を検出する。すなわち、予め設定された設定板厚に対して、所定量以上薄いか、又は、該所定量以上厚いときには、検出部101cにより異常を検出する。検出部101cにより異常が検出されたときには、例えば、溶接作業を停止させて、ディスプレイ104に異常が検出されたこと表示する。尚、上記設定板厚や上記所定量は、ワークW毎に異なり得るものであり、作業者が任意に設定することができる。
【0044】
このように、溶接装置1に板厚検査機構を設けることにより、誤った板厚の板状部材が重ね合わされていたときや、板状部材自体の不良によって板厚が薄く若しくは厚くなっていたときなどには、作業者がそれを確認することができる。これにより、不良品が製造されてしまうのを事前に防止することができる。
【0045】
しかしながら、サーボガン20の両電極22,23は磨耗するため、磨耗により可動電極23の移動量が正確に算出することができなくなる。このため、例えば、ワークWの板厚が、上記設定板厚よりも上記所定量以上厚いときでも検出部101cが異常を検出しないようになり、検出部101cを利用した板厚検査が正常に行われなくなってしまう。また、両電極22,23によりワークWを挟持したときに、ガンアーム21に撓みが生じたときにも、可動電極23の移動量が正確に算出することができなくなって、上記板厚検査が正常に行われなくなってしまうおそれがある。
【0046】
両電極22,23の磨耗量を計測して、補正することも可能であるが、このときの補正値が正確でない場合には、やはり上記板厚検査が正常に行われなくなる。
【0047】
そこで、本実施形態に係る溶接装置1では、ワークWを生産ライン上に投入する前に、検査治具30を用いて、CPU101の判定部101dにより、検出部101cを利用した板厚検査が正常に行われているか否かを判定するようにしている。
【0048】
検査治具30は、
図6及び
図7に示すように、長方形状の1枚の金属板を、その板厚が異なる部分が形成されるように加工したものである。検査治具30を構成する金属板は、両電極22,23により挟持されたとしても変位及び変形をしないような材質及び厚みに設定されている。本実施形態では、検査治具30は、ロックウェル硬さHRCが60以上の金属板である。具体的には、例えば、JIS規格の高速度工具鋼鋼材(SKH)を焼入れして、焼入れ後のロックウェル硬さがHRC60~66になるように構成されたものとすることができる。尚、検査治具30の材料としては、炭素工具鋼鋼材(SK)や機械構造用炭素鋼鋼材(SXXC)を用いてもよい。
【0049】
検査治具30は、
図6に示すように、短辺方向の一側の約半部分に検査部31が形成され、該短辺方向の他側の半部分に治具固定位置に固定される固定部32が形成されている。検査部31及び固定部32はそれぞれ短辺方向の幅を変えることなく、長辺方向に延びている。
【0050】
上記検査部31は、予め設定された特定板厚の板厚を有する基準板部33と、上記特定板厚に対して上記所定量以上薄い板厚を有する第1板部34と、上記特定板厚に対して上記所定量以上厚い板厚を有する第2板部35とを有する。基準板部33は、長辺方向の中央に形成され、第1板部34は基準板部33に対して長辺方向の一側に形成され、第2板部35は基準板部33に対して長辺方向の他側に形成されている。これにより、検査部31は、
図7に示すように、長辺方向の上記一側から上記他側に向かって板厚が段々厚くなるような形状となっている。検査部31は、
図7に示すように、板厚方向の2つの面のうち一側の面(以下、平坦面31aという)が平坦な面である一方、他側の面(以下、段差面31bという)に段差が形成されることで、基準板部33、第1板部34及び第2板部35がそれぞれ形成されている。
【0051】
基準板部33の、長辺方向の上記一側でかつ短辺方向の上記他側の部分は、短辺方向の上記他側に向かって長辺方向の上記一側に湾曲傾斜した湾曲部33aとなっている。また、第2板部35も上記基準板部33と同様に、長辺方向の上記一側でかつ短辺方向の上記他側の部分が、短辺方向の上記他側に向かって長辺方向の上記一側に湾曲傾斜した湾曲部35aとなっている。この湾曲部33a,35aは、必ずしも設ける必要はない。
【0052】
固定部32には、ボルトが挿入されるボルト孔32aが2つ設けられている。詳細な図示は省略するが、溶接装置1の作業空間内の治具固定位置に設けられた支持部に、固定部32がボルト等の締結具により締結固定されることで、検査治具30が治具固定位置に固定される。本実施形態では、
図1及び
図8に示すように、検査治具30は、板厚方向が前後方向(水平方向)となり、長辺方向が上下方向となるように治具固定位置に固定されている。
【0053】
次に、検査治具30を用いて判定部101dにより判定を行う際の溶接装置1の動作について説明する。尚、検査治具30を用いて判定部101dにより判定を行う際には、検出部101cの検出基準となる上記設定板厚は上記特定板厚に予め設定されている。また、検査治具30を用いた判定部101dによる判定は、少なくとも、生産ラインが稼働された直後であって、ワークWが生産ライン上に投入される前に、自動的に実行されるようになっている。
【0054】
まず、生産ラインが稼働される直前の非稼働時には、
図1に示すように、ロボット制御部101bにより、サーボガン20が所定の待機位置に位置するようにロボット10が作動されている。この状態から、生産ラインが稼働されると、検査治具30の板厚を測定すべく、ロボット制御部101bにより、サーボガン20を待機位置から治具固定位置に移動させるように、ロボット10が作動される。このとき、ロボット制御部101bは、
図8に示すように、サーボガン20の固定電極22が、検査治具30の平坦面31a側に位置する一方、サーボガン20の可動電極23が、検査治具30の段差面31b側に位置するようにロボット10を作動させる。
【0055】
次に、ガン制御部101aにより、サーボガン20を作動させて、検査治具30の板厚を検査する。本実施形態では、判定部101dによる判定において、少なくとも第1板部34及び第2板部35の板厚をそれぞれ検査する。ガン制御部101aは、ワークWを挟持するときと同様にサーボガン20を作動させて、
図8に示すように、第1板部34及び第2板部35を順次挟持させる。検出部101cは、第1板部34及び第2板部35の板厚をそれぞれ算出する。
【0056】
上述したように、判定部101dによる判定では、上記設定板厚は上記特定板厚に設定されている。このため、検出部101cが正常に機能すれば、検出部101cは、上記特定板厚よりも上記所定量以上薄い第1板部34の検査、及び、上記特定板厚よりも上記所定量以上厚い第2板部35の検査の両方で異常を検出する。よって、判定部101dは、第1板部34及び第2板部35の板厚を検査したときに、それぞれの検査において検出部101cが異常を検出したときには、検出部101cを利用した板厚検査が正常に行われていると判定する。一方で、判定部101dは、少なくとも一方の測定において検出部101cが異常を検出しないときには、上記板厚検査に不具合があると判定する。これにより、検査治具30を用いた判定部101dによる判定が完了する。
【0057】
CPU101は、判定部101dにより上記板厚検査に不具合があると判定したときには、アラームやディスプレイ104への表示などにより、作業者に上記板厚検査に不具合があることを伝達する。当該不具合の伝達後は、上記作業者が、上記板厚検査の不具合が、両電極22,23の磨耗で発生したのか、ガンアーム21の異常な撓みにより発生したのか、又は、磨耗補正を行っている場合には該磨耗補正の補正値が誤っていたのか等の原因を探り、上記板厚検査の不具合が解消される操作(キャリブレーション)を行えばよい。このときには、作業者は、例えば、ロボット10及びサーボガン20により、基準板部33の板厚を測定させて、該測定結果からキャリブレーションを行うことができる。
【0058】
したがって、本実施形態によると、固定電極22に対する可動電極23の移動量から被検査物の厚みを算出して、該算出結果が、所望の板厚に対して、板厚が所定量以上薄いか又は該所定量以上厚いときに異常を検出するCPU101の検出部101cと、検出部101cを利用した板厚検査が正常に行われているか否かを判定するCPU101の判定部101dと、空間内の治具固定位置に固定され、予め設定された特定板厚に対して上記所定量以上薄い板厚を有する第1板部34と、上記特定板厚に対して上記所定量以上厚い板厚を有する第2板部35とを有する板状の検査治具30とを備え、判定部101dは、所望の板厚を上記特定板厚として検出部101cが第1及び第2板部34,35の板厚を検査したときに、それぞれの検査において検出部101cが異常を検出したときには、上記板厚検査が正常に行われていると判定する一方、少なくとも一方の検査において検出部101cが異常を検出しないときには、上記板厚検査に不具合があると判定する。これにより、治具固定位置に固定された検査治具30の板厚を検査するだけで、上記板厚検査が正常に行われているか否かを確認することができるため、作業効率の悪化を抑制することができる。特に、従来のように、ダミーワーク毎に検査基準を変更する必要がないため、作業効率の向上が期待できる。
【0059】
また、上記特定板厚に対して所定量以上薄い板厚を有する第1板部34と、上記特定板厚に対して所定量以上厚い板厚を有する第2板部35との両方を測定して、上記板厚検査が正常に行われているか否かを判定するため、板厚が薄い場合と厚い場合との両方で上記板厚検査の確認をすることができる。このため、高い判定精度を得ることができる。
【0060】
さらに、従来のように、多数のダミーワークを容易する必要がなく、検査治具30を1つ用意すればよいため、作業スペースを抑えるとともに、コストを低くすることもできる。
【0061】
また、本実施形態では、検査治具30は、板厚方向が前後方向(水平方向)となり、長辺方向が上下方向となるように上記治具固定位置に固定されており、CPU101のロボット制御部101bは、固定電極22が平坦面31a側に位置するように、サーボガン20を上記待機位置から上記治具固定位置に移動させる。これにより、サーボガン20の両電極22,23が検査治具30を挟持するときに、固定電極22の水平方向の座標が一定になる。このため、ロボット10の動作を単純化することができる。これにより、上記板厚検査が正常に行われているか否かの判定を、より効率良く行うことができる。
【0062】
さらに、サーボガン20の両電極22,23が検査治具30を挟持するときの、固定電極22の水平方向の座標が一定になっていれば、例えば、ロボット10のガタつきによりサーボガン20の座標がずれているときには、検査治具30を挟持する際の固定電極22の位置を確認することで、その座標ずれを確認することができる。また、検査治具30の位置を基準にワークW等の位置にずれが生じているか否かを確認することもできる。
【0063】
また、本実施形態では、検査治具30は、ロックウェル硬さHRCが60以上のものである。このため、サーボガン20の両電極22,23に複数回に亘って挟持されたとしも検査治具30が変形しにくい。このため、検査治具30の変形に基づく判定の不具合が抑えられ、上記板厚検査が正常に行われているか否かの判定の精度を一層向上させることができる。
【0064】
ここに開示された技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、検査治具30を用いた判定部101dによる判定の際には、第1板部34及び第2板部35を検査対象としていたが、これに限らず、基準板部33も検査対象としてもよい。基準板部33の板厚を検査するときには、判定部101dは、検出部101cが異常を検出しなかったときには、該検出部101cを利用した板厚検査が正常に行われていると判定する一方、検出部101cが異常を検出したときには、上記板厚検査に不具合が生じていると判定する。
【0066】
また、上記実施形態では、検査治具30は、板厚方向が前後方向となり、長辺方向が上下方向となるように上記治具固定位置に固定されていたが、これに限らず、検査治具30を、板厚方向が上下方向となり、長辺方向が前後方向となるように配置してもよい。
【0067】
さらに、上記実施形態では、検査治具30を用いた判定部101dによる判定は、生産ラインが稼働された直後に実行されるものとしていたが、これに加えて、作業者が任意のタイミングで実行できるようにしてもよい。
【0068】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
ここに開示された技術は、固定電極と可動電極とを有するサーボガンを備え、固定電極と可動電極とで被検査物を挟持することで被検査物の板厚を検査可能な溶接装置において、板厚検査が正常に行われているか否かを確認する際に有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 溶接装置
10 ロボット
20 サーボガン
22 固定電極
23 可動電極
30 検査治具(被検査物、治具)
31a 平坦面(治具の板厚方向の2つの面のうち一側の面)
31b 段差面(治具の板厚方向の2つの面のうち他側の面)
33 基準板部
34 第1板部
35 第2板部
101a ガン制御部
101b ロボット制御部
101c 検出部
101d 判定部