(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】複合体繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/94 20060101AFI20220328BHJP
D04H 1/4358 20120101ALI20220328BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20220328BHJP
【FI】
D01F6/94 A
D04H1/4358
D04H1/728
(21)【出願番号】P 2018517747
(86)(22)【出願日】2016-10-06
(86)【国際出願番号】 GB2016053112
(87)【国際公開番号】W WO2017060709
(87)【国際公開日】2017-04-13
【審査請求日】2019-10-04
(32)【優先日】2015-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521348889
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・ハダースフィールド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】ゴースワーミー,パリークシット
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ティモシー
(72)【発明者】
【氏名】ヘブデン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル,スティーヴン
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-509512(JP,A)
【文献】国際公開第2005/083163(WO,A1)
【文献】特表2008-525653(JP,A)
【文献】特表2008-536022(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0522447(EP,A1)
【文献】国際公開第98/36112(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/026861(WO,A1)
【文献】特開平10-212421(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1467314(CN,A)
【文献】特開平11-323662(JP,A)
【文献】特許第2934467(JP,B2)
【文献】特開平07-166425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 9/04
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~20μmの範囲の平均径を有する複合体繊維であって、
ポリウレタン、及び0.5~50μmの範囲の平均粒径を有する微粒子を含み、
微粒子は、銀、銅、金、チタン、亜鉛、鉄、アルミニウム、又はこれらの組合せから選択される金属を含み、
平均繊維径に対する微粒子の粒径の比率が0.05:1~2:5の範囲である
複合体繊維。
【請求項2】
複合体繊維の平均径が0.2~15μmの範囲であり、微粒子は平均粒径が0.7~10μmの範囲にある粒子を含む、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
微粒子が、顔料微粒子、無機化合物、ポリマー、又はこれらの組合せから選択される粒子をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の繊維。
【請求項4】
0.1~25重量%の範囲の微粒子を含む、請求項1~3のいずれかに記載の繊維。
【請求項5】
微粒子が0.7~1.5μmの平均粒径の粒子を含む、請求項1~4のいずれかに記載の繊維。
【請求項6】
微粒子が多峰性粒径分布の粒子を含む、請求項1~5のいずれかに記載の繊維。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の複数の繊維を含むウエブ。
【請求項8】
微粒子がさらに顔料微粒子を含む、請求項
7に記載のウエブ。
【請求項9】
ノンスリップ用途のための請求項
7又は請求項
8に記載のウエブの使用。
【請求項10】
水の存在下でのノンスリップ用途のための請求項
9に記載のウエブの使用。
【請求項11】
抗菌用途のための請求項
7に記載のウエブの使用。
【請求項12】
電界紡糸又はメルトブローから選択される技術を用いてポリウレタンと微粒子の複合体繊維を形成することを含む、請求項1~
6のいずれかに記載の繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、ポリウレタン繊維/ウエブ、特にポリウレタン及び微粒子の複合体繊維(composite fibres)/ウエブ、並びに使用及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]ナイロンのような合成ポリマー繊維の出現と共に、コポリマーなどの異なる物理特性を有する広範囲の繊維を製造する可能性が到来した。これらの繊維から製造される不織布は直ぐにポピュラーになって、数多くの技術分野にわたる用途において用いられている。
【0003】
[0003]本発明は、例えば(しかしながらこれに限定されないが)現在はシリコーンバンドが用いられている用途のためのノンスリップ製品の提供に関する。これらとしては、靴下(例えばホールドアップ)、並びに下着(例えばブラジャー及びシェイプウエア)が挙げられ、ここでは衣類が着用中にずれるのを防ぐためにシリコーンバンドが与えられている。例えば、ホールドアップは、ガーターベルトに代わってシリコーンバンドを用いて他の形態でストッキングを脚の上に保持するという理由で、唯一製品として可能である。更なる用途としては、スポーツウエア(例えば水着及びストラップトップス)、並びに医療用衣類用途(例えば圧迫帯又はサポーター、例えば膝又は足首用サポーター)が挙げられる。しかしながら、シリコーンバンドは、一部の着用者においてアレルギーを引き起こす可能性があり、柔軟性に欠けて不快感をもたらす可能性があり、容易に着色されないので、現在の技術を改良する要望が存在する。更に、通気性の欠如及びシリコーンの浸出に関する懸念によって、一部の消費者がシリコーンバンドを含む製品を着用するのを躊躇する可能性がある。本発明は、この問題の少なくとも幾つかの形態を克服又は改善することを目的とする。
【発明の概要】
【0004】
[0004]したがって、本発明の第1の形態においては、50nm~50μmの範囲の平均粒径のポリウレタンと微粒子の複合体繊維が提供される。ポリウレタン繊維に微粒子(粒子)を加えると繊維の摩擦特性が変化して、一般に摩擦係数が従来技術のポリウレタン繊維と比べて増加し、その結果として水、汗、又は他の水溶液のような湿分が存在して皮膚が濡れている場合であっても良好なノンスリップ/グリップ特性を有するウエブが得られることが見出された。更に、このウエブは優れた形状回復特性を有し、使用中の衣類のたるみ及び時間経過に伴うフィット感の損失が阻止される。これらのウエブは気体透過性(porous)であり、シリコーンバンドの使用と比べて増加した柔軟性及び通気性のために着用者に対して向上した快適性が与えられる。更に、この製品は着色した際に染色堅牢性であることが示され、浸出の兆候はなく(これはこの繊維が引き起こすアレルギーがシリコーン技術よりも少ないと考えられる1つの理由である)、医療の観点ではシリコーンバンドの跡が付かない。更なる有利性は、適当な添加剤を存在させる場合には繊維及び得られるウエブが抗菌性であることが見出されたことである。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】[0021]
図1は、電界紡糸ポリウレタンウエブのSEM画像である(倍率4480倍、平均繊維径1.8μm)。
【
図2】[0022]
図2は、
図1のものと同様であるが、銀粒子を導入してハイブリッド繊維を形成した電界紡糸ポリウレタンウエブのSEM画像である(倍率4970倍、平均繊維径1.8μm、粒径範囲0.5~1μm)。
【
図3】[0023]
図3は、一定範囲のウエブ組成物の、純綿試料に対して試験した際の静止摩擦力を示すグラフである。
【
図4】[0024]
図4は、一定範囲のウエブ組成物の綿モスリン試料に対して試験した際の静止摩擦力を示すグラフである。
【
図5a】[0025]
図5aは、一定範囲のウエブ組成物の乾燥状態のブタの皮膚に対して試験した際の静止摩擦力を示すグラフである。
【
図5b】
図5bは、一定範囲のウエブ組成物の乾燥状態のブタの皮膚に対して試験した際の静止摩擦力を示すグラフである。
【
図5c】
図5cは、一定範囲のウエブ組成物の乾燥状態のブタの皮膚に対して試験した際の静止摩擦力を示すグラフである。
【
図6a】[0026]
図6aは、一定範囲のウエブ組成物の湿潤状態のブタの皮膚に対して試験した際の静止摩擦力を示すグラフである。
【
図6b】
図6bは、一定範囲のウエブ組成物の、乾燥状態及び湿潤状態のブタの皮膚を用いて試験した際の静止摩擦力を比較するグラフである(左側のグラフは乾燥状態、右側のグラフは湿潤状態である)。
【
図7】[0027]
図7は、選択された粒度範囲の銀粒子を含むウエブ組成物のブタの皮膚の試料に対する静止摩擦力を示すグラフである。
【
図8】[0028]
図8は、(A)S. aureus及び(B)E. coliに対して試験した10%の銀粒子(0.5~1μm)を有する10%ポリウレタンの電界紡糸膜に関する抗菌試験の結果を示す。
【
図9】[0029]
図9は、洗濯堅牢度試験における寸法安定性テンプレートパターンを示す概要図である。
【
図10a】[0030]
図10aは、10%赤色顔料を有するポリウレタンウエブの染色堅牢性結果を示すグラフである。
【
図10b】
図10bは、10%バイオレット顔料を有するポリウレタンウエブの染色堅牢性結果を示すグラフである。
【
図10c】
図10cは、10%青色顔料を有するポリウレタンウエブの染色堅牢性結果を示すグラフである。
【
図10d】
図10dは、10%の青色顔料とCeliteを有するポリウレタンウエブの染色堅牢性結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[0005]上述したように、微粒子は繊維の摩擦係数を変化させ、それをノンスリップ用途において用いるのに好適にする。本明細書において用いる「変化(modify)」という用語は、繊維の摩擦係数を、任意の基材に関して、現在市販されているポリウレタン含有製品(即ち微粒子物質を有しないポリウレタン)と比べてその値に対して少なくとも±1.8%変化させることを意味するように意図される。通常は、摩擦係数は例えば少なくとも±1.8%増加させるが、この変化はしばしば遙かに大きく、例えば±20%、又は±50%、或いは更には±100%であり、しばしばこの変化は増加である。
【0007】
[0006]微粒子は、繊維の摩擦係数を変化させ、通常はこれを増加させる任意の微粒子であってよい。しかしながら抗菌性粒子を用いることが望ましい場合があり、したがって、粒子は、銀、銅、金、チタン、亜鉛、鉄、アルミニウム、又はこれらの組合せのような金属から選択することができる。繊維の抗菌特性を増大させるために、しばしば銀が用いられる。或いは、繊維の摩擦特性を変化させるのに加えて繊維を着色することができるため、顔料微粒子を用いてもよい。更に、安価で、皮膚に対して安全で、非毒性で、高い摩擦力値を与えることが示されているため、シリカ(例えばCelite)、リン酸カルシウム(例えばアイボリーブラック)、セラミック又はガラス微小粒子のような無機化合物を用いてもよい。また、同じ理由から、ポリマー粒子、例えばポリエチレン又はセルロースアセテート粒子を加えてもよい。
【0008】
[0007]5~10μmの粒度範囲の銀粒子を用いることは、0.5~1μmの範囲の銀を有する場合と同様に特に高い静止摩擦係数を与え、この後者の粒径は1~3重量%の範囲又は約2重量%のような低いレベルで用いると特に有効であることが見出された。
【0009】
[0008]繊維はしばしば、1~25重量%の範囲、しばしば2~10重量%の範囲の微粒子を含む。これらの範囲において、微粒子は、考えられるところでは繊維の全体的な強度を大きく低下させることなく、繊維及び得られるウエブの摩擦係数を増加させることが見出された。2~10重量%の粒子の範囲は、良好なノンスリップ特性を有するウエブを与えるのに特に有効であることが見出された。
【0010】
[0009]微粒子は、一般に50nm~50μmの範囲、しばしば0.5~25μmの範囲、0.5~10μmの範囲、又は0.7~1.5μmの範囲の平均粒径の粒子を含む。粒径は公知の技術を凌ぐ有利性の1つを与えると考えられるので重要であり、この範囲の粒径は非常に微細な表面形状を有するウエブを与えて、粒子が皮膚の小溝中に沈積して快適さを失うことなく密な接触を与える。このミクロスケールの接触は、皮膚を横切ってウエブが滑動するのを抑止するのに、シリコーンバンド技術によって与えられるマクロスケールの摩擦に基づく接触よりも遙かにより有効である。同様に、しばしば、粒子は毒性を回避することを確保するために、ナノスケールではなくミクロ又はサブミクロスケールである。
【0011】
[0010]ウエブが有効に機能する肌質の数を増加させるため、及び皮膚内のより広範囲の小溝との接触を更に与えることによってウエブのグリップ性を向上させるためには、微粒子が多峰性、幾つかの場合には二峰性の粒径分布を有する繊維を与えることが有益である可能性がある。
【0012】
[0011]本明細書において用いる「径」という用語は、その断面の最も大きな部分を横切る繊維又は粒子の幅を指すように意図される。通常は、繊維は、0.05~20μmの範囲、しばしば0.2~15μm又は1.5~5μmの範囲の平均径のものである。繊維の径は製造法を注意深く選択することによって制御することができ、例えばメルトブロープロセスによれば一般に電界紡糸技術よりも大きな径の繊維が生成する。上記に記載した径の繊維は、より大きな径の繊維と比べて大きな表面積のために、増加した皮膚との接触を与えることが見出された。この範囲内の径を有する繊維を与えることによってまた、より多くの微粒子を繊維の表面に存在させて、繊維の摩擦特性をより大きな径の繊維と比べて向上させることも可能になる。これらの技術の有利性は、これらが固有に一定範囲の径を有する繊維を生成させることである。この繊維径の範囲は皮膚において見られる小溝の寸法の範囲と相互作用させるのに良く適しているので、これにより、それらを皮膚とより有効に相互作用させることが可能になる。
【0013】
[0012]しばしば、粒径と平均繊維径との比は0.05:1~2:5の範囲である。かかる比においては皮膚との摩擦力が優れているため望ましい。
[0013]本発明の第2の形態においては、本発明の第1の形態による複数の繊維を含むウエブが提供される。
【0014】
[0014]本発明の第3の形態においては、本発明の第2の形態によるウエブの使用が提供され、この使用は、中でもノンスリップ用途、布帛の通気性が重要である用途、及び/又は抗菌用途のためであってよい。例えば、本ウエブは、靴下(例えばホールドアップ)、並びに下着(例えば、ブラジャー及びシェイプウエア)において用いることができる。更なる用途としては、スポーツウエア(例えば、水着及びストラップトップス)、並びに医療用衣類用途(例えば圧迫帯又はサポーター、例えば膝又は足首用サポーター)が挙げられる。本発明の特別な有利性は、基材、例えば皮膚が湿っているか又は乾燥しているかに関係なく、繊維によってそれらの摩擦力調節特性が与えられることである。このために、これらは水着及びスポーツウエア用途において用いるのに特に好適である。
【0015】
[0015]本発明の第4の形態においては、電界紡糸又はメルトブロー(しかしながらこれらに限定されない)から選択される技術を用いてポリウレタンと微粒子の複合体繊維を形成することを含む、本発明の第1の形態による繊維の製造方法が提供される。しばしば、電界紡糸が用いられ、製造されるウエブは電界紡糸型である。電界紡糸は、繊維の径がメルトブローなどの他の方法よりも小さいという有利性を与える。しばしば、繊維は、皮膚の小溝と相互作用するのに十分に薄く、微粒子と共に作用してウエブの摩擦係数を変化させる。しばしば、この方法は、
ポリウレタンの7.5~12.5重量%、しばしば9~11重量%、又は10重量%の溶液を与えること;
ポリウレタン溶液と微粒子を混合すること;そして
電界紡糸技術を適用すること;
を含む。
【0016】
ポリウレタンのこれらの濃度は、繊維径と繊維径の一貫性との間の最適なバランスを与えることが見出された。溶液中におけるポリウレタンのより高い濃度は、望ましくなく太い径の繊維を生成して、表面積(粒子の表面利用可能性)を減少させ、繊維マトリクスの強度を弱める可能性がある。ポリウレタンのより低い濃度は、繊維長さに沿って制御されていない繊維径を有するウエブをもたらして、ウエブの均一性を減少させる可能性がある。メルトブローを用いる場合には、この方法は、しばしば、
ポリウレタンと微粒子を混合すること;そして
メルトブロー技術を適用すること;
を含む。
【0017】
[0016]したがって、微粒子によって繊維の摩擦係数が変化している、50nm~50μmの範囲の平均粒径のポリウレタンと微粒子のハイブリッド繊維が提供される。繊維中において、微粒子は繊維の1~25重量%を構成し、これは、顔料微粒子、無機化合物(場合によっては、シリカ、リン酸カルシウム、セラミック、又はガラス微小粒子から選択される)、金属(場合によっては、銀、銅、金、チタン、亜鉛、鉄、アルミニウム、又はこれらの組合せから選択される)、ポリマー、又はこれらの組合せから選択される粒子であってよい。一般に、微粒子は50nm~50μmの範囲の平均粒径の粒子を含む。或いは、微粒子は、多峰性、幾つかの場合には二峰性の粒径分布の粒子を含む。一般に、繊維は0.2~20μmの範囲の平均径のものであり、粒径と平均繊維径との比は0.05:1~2:5の範囲である。
【0018】
[0017]他に記載していない限りにおいて、当業者に理解されるように、記載する整数のそれぞれは任意の他の整数と組み合わせて用いることができる。更に、本発明の全ての形態は、好ましくはその形態に関して記載した特徴を「含む(comprise)」が、これらは特許請求の範囲において述べられる特徴から「構成され(consist)」るか又は「実質的に構成され(consist essentially)」ていてよいと具体的に考えられる。更に、全ての用語は、本明細書において具体的に定義していない限りにおいて、当該技術におけるそれらの通常理解されている意味で与えられると意図される。
【0019】
[0018]更に、本発明の議論において、反対に述べていない限りにおいて、パラメーターの認められる範囲の上限又は下限に関する別の値の開示は、より小さい別の値とより大きい別の値の間にあるかかるパラメーターのそれぞれの中間値自体も、そのパラメーターに関して可能な値として開示されていることを読み取れると解釈すべきである。
【0020】
[0019]更に、他に示していない限りにおいて、本出願において登場する全ての数値は、「約」の語で修飾されていると理解すべきである。
[0020]本発明をより容易に理解することができるように、以下において図面及び具体例を参照して本発明を更に記載する。
【実施例】
【0021】
材料:
[0031]Selectophore(商標)ポリウレタン、Tecoflex(商標)ポリウレタン、ジメチルホルムアミド(DMF)、銀微細粒子(5.0~8.0μm)及び(2.0~3.5μm)、Celite(登録商標)545(粒子分布=0.02~0.10mm、メジアン径=36μm)を、Sigma Aldrichから購入した。テトラヒドロフラン(THF)をVWRから購入した。銀微細粒子(0.7~1.3μm)及び(4.0~7.0μm)を、Alfa Aesarから購入した。種々の粉末顔料は、全てL. Cornelissen & Sonからオンラインで購入した。純綿オプティックホワイト150cm、CD12(100%綿)を、Whaleys Bradford Ltd.から購入した。ブタの腹部からのブタ皮膚を、肉屋(Crawshaw肉店, Leeds)から入手した。メルトブローポリウレタンTPU Estane 58237を、velox.comから購入した。
【0022】
ポリウレタン溶液の調製:
[0032]ポリウレタン(Selectophore(商標)、所望の重量%)を、DMF:THF(15mL、60:40(v:v))中に撹拌しながら24時間かけて溶解した。下表1に示す微粒子を撹拌しながらゆっくりと加え、1時間かけて分散させた。
【0023】
【0024】
電界紡糸の基本手順(Nanospider):
[0033]60:40のDMF:THF溶媒比を用いて、Selectophore(商標)ポリウレタンの10重量%溶液を調製した。Selectophore(商標)ポリウレタン(1.5g)を、15mLの溶媒混合物に撹拌しながら加え、一晩放置して溶解させた。溶解したら、次に粒子/顔料添加剤を、(表1にしたがって)10分間連続的に撹拌しながら溶液に加え、次に溶液を10mLのシリンジに加え、約4時間電界紡糸した。アルミニウム箔の回収プレートを周期的に90°回転させて、より均一な繊維の被覆率を得た。ティッシュを用いてシリンジ及び針を拭って清浄にし、次にアセトン、次に蒸留水で洗浄した。
【0025】
メルトブローの基本手順:
[0034]それぞれ25g(5重量%)及び50g(10重量%)の銀、又は50g(10重量%)及び100g(20重量%)のCeliteを加えることによって、ハイブリッドポリウレタンペレットの500gのバッチを調製した。パイロットスケールのメルトブロー機を用いてメルトブロー実験を行った。試験全体にわたって径250μmの43孔の紡糸口金を用いた。75g・m-2(繊維径範囲=11.25~18.50μm;平均=14.69μm)、及び94g・m-2(繊維径範囲=6.69~14.88μm;平均=11.11μm)のポリウレタンウエブが製造された。
【0026】
手順:
[0035]摩擦試験:摩擦係数は、ヨーロッパ標準規格EN-ISO-8295:2004にしたがって求めた。80gのそりを介して1.96Nの力(Fp)を印加し、200gの合計重量に対して120gの重量を用いた。速度は100mm/分であった。試料の寸法は90×755mmであった。静止摩擦係数は、式:
【0027】
【0028】
によって規定することができる。式中、Fp=1.96N(試料の頂部に印加した200gの荷重から生起する垂直力)である。Fsは機械によって測定された静止摩擦力(N)を表し、常に静止摩擦係数に比例している。静止摩擦力は、ポリウレタン試料と試験表面との間の表面の凹凸の噛合から生起する。力を試験試料に対して水平方向に印加するにつれて、この噛合力が増加してそりの相対的な動きが阻止される。この力は、そりの移動が始まる閾値力に達するまで増加する。静的力(static force)を規定するのは、この動きの閾値点である。
【0029】
[0036]皮膚の水和、脂質膜、及び表面構造は全て、布と接触している際の摩擦挙動に影響を与える。例えば、湿潤した皮膚は高い摩擦係数を有し、乾燥した皮膚はより低い摩擦係数を有する。年齢はヒトの皮膚の摩擦係数に対して少ししか影響を与えないことが分かっており、一方で皮膚が位置する解剖学的領域は大きな影響を与える。性別に関しては、皮膚の粘弾性は同程度であることが分かっているが、女性の皮膚の摩擦力は男性のものよりも非常に高い湿分感受性を示す。ブタの皮膚は天然産物であるので、試験結果はバッチ間で変化することを留意すべきである。したがって、試験の有効性を確保するために、ブタの皮膚の単一の試料に対して複数の比較試験のそれぞれの組を実施した。しかしながら、静止摩擦力の絶対値は、それぞれのブタの皮膚試料に関して僅かに変化すると考えられる(そしてそのように観察された)。
【0030】
[0037]ウエブ:試験したウエブは、微粒子を添加して電界紡糸したポリウレタンであった。
[0038]抗菌試験:これらはAATCC-100にしたがった。ウエブの径3mmの試料を、37℃において24時間インキュベーションすることによってE. Coli(MacConkey寒天平板)及びS. Aureus(血液寒天平板)に対して試験した。平板に、3mLのPBS又は食塩水溶液中で希釈した30μLの0.5MaFarland標準E. Coli及びS. Aureusを接種した。嫌気試験は上記の方法を用いたが、選択したモデルバクテリアはC. difficile(CCEYL平板)であり、インキュベーション時間は嫌気性インキュベーター内37℃において48時間であった。全ての試験は3回繰り返した。
【0031】
[0039]走査電子顕微鏡検査:製造した紡糸繊維マットの構造及び形態を、Leeds Electron Microscopy and Spectroscopy(LEMAS)センターにおいて走査電子顕微鏡検査(SEM:Carl Zeiss EVO)によって調べた。比較のために、全ての電界紡糸繊維に関して異なる倍率で複数のSEM画像を撮影した。
【0032】
[0040]繊維の分析:Media Cybernetics Image Pro Analyzer Plusを用いて、SEMによって記録された画像を分析した。このソフトウエアを用いて試料の繊維径を測定した。それぞれの試料に関して最小で75の繊維径を記録し、それぞれの試料に関して平均、最大、及び最小の繊維径に関する値を得るためにデジタル化した。
【0033】
[0041]染色堅牢度:これらの測定は、360nm~700nmの間で測定される中口径を用いてdatacolor Spectraflash SF600 Plus-CT上で行い、それぞれの試料の正面を膜上の異なる位置で最小で4回試験して、材料全体の測定値の適正な平均値を得た。K/Sは特定の試料の色強度の尺度であり、材料の反射値を測定し、これらを式:
【0034】
【0035】
(式中、Rは特定の波長における反射率の値であり、Kは吸光係数であり、Sは散乱係数である)
にあてはめることによって計算することができる。
【0036】
[0042]洗濯堅牢度:これらの試験は、国際標準規格ISO-105-C06:2010にしたがってRoaches washtec機上で行った。SDC多繊布(multifibre)の片をそれぞれのポリウレタン試料に隣接して固定した。種々の布帛タイプへの色移りを比較するために、用いた多繊布には、綿、毛糸、ポリエステル、アセテート、ナイロン、及びアクリルの部分を含めた。更に、試料に対して同時に寸法安定性の測定を行って、これらの電界紡糸膜の収縮性を確認した。寸法安定性を用いて、洗濯後の試料において起こった収縮のレベルを規定した。これはテンプレートパターンを用いて行い、材料の未洗濯の片について固定測定点を設定し(
図8)、次に洗濯後にこれらの距離を再び測定して、最後に元のものと比較した。
【0037】
[0043]通気性:通気性試験は、BS-7209:1990標準規格にしたがって、空調管理した実験室(温度=20±2℃、及び相対湿度=65±5%)内で20時間行った。試験試料を秤量量の蒸留水の上に配置し、水を(布帛を通して)ゆっくりと蒸発させた後、設定時間後に再秤量した。この水損失量の算出値を次式にあてはめて、布帛の相対通気性を評価することができる。
【0038】
【0039】
WVPは水蒸気透過度(g/m2/日)であり、Δmは水の質量の変化量(g)であり、Aは試験材料の面積(m2)であり、tは実験に関する時間(時)に等しい。
[0044]ポリウレタン膜及びポリエステル参照布帛に関してこの計算を行った後、次に下式をあてはめてそれぞれの試料に関するWVP指数を与える。WVP指数は、試験試料を参照布帛と比較する通気度の比である。
【0040】
【0041】
Iは材料の水蒸気透過指数であり、WVPSは特定の試験試料の水蒸気透過度であり、一方でWVPRはポリエステル参照布帛に関して算出された水蒸気透過度値である。実験は、76mmの直径を有する試験皿(0.004537m2の材料試験面積を与える)を用いて20時間かけて行った。
【0042】
実施例1:綿を用いた摩擦試験:
[0045]皮膚の代用品として中程度の厚みの綿織布(100%純綿オプティックホワイト、150cm、CD12)に摩擦試験を適用した。皮膚に付着する布帛に関しては、少なくとも2.0の静的力(N)及び少なくとも1.1の摩擦係数(μS)が観察されることが知られている。試験結果を下表2に示し、
図3にまとめる。
【0043】
【0044】
[0046]摩擦試験は、綿ガーゼ(CX202綿ガーゼ L/State、96cm、CC28)に対しても行った。ガーゼは軽量のムスリンスタイルの布帛であり、繊維表面はそれらがより平滑であるようにサイジングされている。これらの試験においてはより低い摩擦力が観察されると予測される。結果を表3及び
図4に示す。
【0045】
【0046】
[0047]本発明の試料は、ノンスリップ衣類用途における有用性を示す良好な摩擦特性を有する。
実施例2:ブタの皮膚を用いた摩擦試験:
[0048]ヒトの皮膚とブタの皮膚は両方とも、真皮血管の同等の寸法、分布、及び交通と同時に、少ない被毛、厚い高分化した表皮、高分化した乳頭体を有する皮層、及び高含量の弾性組織を有するので、豚(ブタ)の皮膚モデルはヒトの化合物との相互作用と予測するために有用なツールである。また、2つの生命体の間には、免疫組織化学的及び生化学的類似点も存在する。ブタ及びヒトの皮膚は、大多数で存在する汗腺のタイプ(アポクリンとエクリン)において相違する。ヒトにおいては、アポクリン汗腺は、主として腋窩、生殖器部、及び乳頭の周りに位置し、ブタの皮膚試料中のアポクリン汗腺の数により、ブタの皮膚はこれらの領域においてヒトの皮膚の優れたモデルである。これらの試験の結果を下記の表4~6及び
図5a~cにおいて示す。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
[0049]幾つかの場合において、観察された静止摩擦力は皮膚粘着性に関して最小値よりも非常に高く、例えば5~8μmの10%銀により優れた静止摩擦係数が与えられる。更に、
図5cは、本発明の繊維が従来のシリコーン系、及びポリウレタン系(具体的には織成エラスタンで、ポリウレタンが経糸のみに存在しているナイロンとポリウレタンの系)の両方よりも性能が優れていることを明確に示している。また、この一連の試験により、顔料粒子によって複合体繊維をうまく形成することができ、顔料粒子はポリウレタンと共に単独で用いた場合にウエブの摩擦特性を増大させるのに十分であることも示された。
【0051】
実施例3:湿潤状態のブタ皮膚を用いた摩擦試験:
[0050]複合体繊維から形成されたウエブの水着或いは高いレベルの汗又は湿分が起こりうる他の運動着における使用可能性を求めるために、湿潤状態のブタ試料を用いて更なる試験を行った。摩擦試験法は従前の試験と同一であり、唯一の変更はそれぞれの試料を実験にかける前に皮膚表面上に1mLの蒸留水を噴霧した(皮膚面積=184cm
2、0.005mL・cm
-2)ことであった。それぞれの試料を測定した後、折り畳んだティッシュを皮膚の上に置いて過剰の水を除去し、それぞれの試料の間でこの方法を繰り返した。結果を下記の表7及び
図6aに示す。このデータは、表4及び
図5aに関するデータと同じブタ皮膚試料から得た。
【0052】
【0053】
[0051]
図6aは、試料がこの試験において従来技術のシリコーン製品(シリコーン)と比べて良好に機能したことを示し、これは、この材料が湿潤条件においてより高い摩擦力を与えることができることを示す。湿潤条件における良好な摩擦抵抗に対する主たる要因は、電界紡糸材料の間隙性(porous nature)であると考えられている。皮膚表面上に存在する水は膜中(繊維の間)に浸出することができ、これにより幾らかの表面水が有効に除去されて、膜が皮膚表面と相互作用するようになる。
【0054】
[0052]
図6bは、同じブタ皮膚試料に関して、湿潤状態における性能が乾燥状態におけるものよりも優れていることを示す。全てのこれらの試料の間の静止摩擦力値は、乾燥試験よりも変動度が小さい。これは、湿潤条件における高い摩擦力値を主としてもたらすものは、材料の間隙率であり、添加した粒子ではないという議論を裏付けるものである。結果を下表8に示す。
【0055】
【0056】
実施例4:多峰性粒子を用いた乾燥ブタ皮膚による摩擦試験:
[0053]ウエブ中に多峰性粒子を含めることの効果を求めるために、更なる試験を行った。摩擦試験法は従前の試験と同一であり、唯一の変更は選択した粒子であった。試料は下記のように示された。
【0057】
【0058】
[0054]3つの同じ試料から平均結果をとった。試験運転の結果を下記の表9及び
図7に示す。
【0059】
【0060】
[0055]皮膚試料の性質は全体的な摩擦力値に大きな影響を与える可能性があることが知られているが、このデータは、多峰性の粒径を存在させることによって単一の粒径に少なくとも匹敵する静止摩擦力が与えられ、これは単一の粒径を用いた場合と比べてより高い場合があることを明確に示している。
【0061】
実施例5:抗菌特性:
[0056]
図8に示すように、このウエブはバクテリアとの接触に対して抗菌効果を有する。ウエブの周囲には抑止区域は存在せず、これはウエブから粒子が浸出していないことを示している。
【0062】
実施例6:洗濯堅牢性:
[0057]
図9のテンプレートパターンを用いて寸法安定性を求めた。結果を表10に示す。
【0063】
【0064】
[0058]これらの試験によって、調べたいずれの試料に関しても、SDC多繊布への顔料の移動は観察されないことが示された。これは、電界紡糸膜内に導入された顔料は安定であり、標準的な洗濯条件では容易には移動しないことを示唆している。
【0065】
[0059]寸歩安定性の測定によって、試験した全ての試料において、最初の洗濯の後に収縮が起こることが示された。
[0060]電界紡糸繊維ポリウレタンウエブは、単一の工程で同時に生成物中に色を導入しながら製造することができ、これにより公知の多工程方法と比べて製造における大きな経済的有利性が与えられる。
【0066】
[0061]表10及び
図10a~10dから、7つの試料の5つの色強度(K/S)値は洗濯及び乾燥の後に増加すると思われることが分かる。染色した生成物の洗濯堅牢性試験は、通常は、染料又は顔料の全てがポリマーマトリクス内に固定されてとどまることはないために、元の試料と比べて材料からの色の損失を示す。第1に、これは、電界紡糸膜内からの顔料の損失は起こっていないことを示唆しており、紡糸及び着色を一緒にした一工程方法を成功裏に示している。これらの着色膜の一工程製造プロセスは、ポリマー溶液が固化する前に顔料をポリマー溶液内に混合することができることを意味する。固化させて繊維にすると、顔料分子は「閉じ込められ」て安定になり、除去がポリウレタン膜の溶融又は溶解のみによって可能になる。第2に、観察された色強度の増加はより多い顔料を得る試料によって説明することができず、これは収縮に起因すると思われる。
【0067】
実施例7:水蒸気透過性:
[0062]表11はWVP試験の結果を示す。
【0068】
【0069】
[0063]試料は、少なくともポリエステル参照試料と同等に通気性であり、一般にはポリエステル参照試料よりも通気性であることが分かる。
[0064]本発明の方法及び装置は種々の方法で実施することができ、そのほんの一部のみを上記に示し且つ記載したことを認識すべきである。