(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】手術訓練装置用の人体モデル装置
(51)【国際特許分類】
G09B 23/34 20060101AFI20220328BHJP
【FI】
G09B23/34
(21)【出願番号】P 2019215319
(22)【出願日】2019-11-28
(62)【分割の表示】P 2015153256の分割
【原出願日】2015-08-03
【審査請求日】2020-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】508195545
【氏名又は名称】イービーエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】朴 栄光
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0030682(US,A1)
【文献】特表2013-544373(JP,A)
【文献】Thoraco Box,腹腔鏡トレーニングボックスのお店,InternetArchive WaybackMachine[online],2015年03月07日,https://web.archive.org/web/20150307125415/https://www.tech-kg-shop.com/SHOP/TRC1.html,<検索日:2020年12月22日>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/28-34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術訓練装置用の人体モデル装置であって、
人体の表面を模擬するカバー部材を有し、
このカバー部材は、
可撓性平板部材からなり、
このカバー部材のトレーニング術者と対向する面と反対側の面で模擬体内を区画するものであり、この模擬体内に所定の手術訓練装置が設置されるように構成されており、
上記カバー部材の長さ方向の中途部には、トレーニング術者が手若しくは器具を前記区画された模擬体内に挿入するための貫通孔が設けられているものであり、
前記カバー部材は、上記模擬体内方向の弾性率が上記術者の手を乗せたときに、上記手術訓練装置とこのカバー部材が干渉することを防止するのに十分な硬さであるものであり、
前記カバー部材は、上記カバー部材の不要な変形を防ぐための変形規制部を有
し、
前記変形規制部は、この人体モデル装置の組み立て時に、上記カバー部材の一部を折り曲げて立ち上げることで構成されるものであり、
この人体モデル装置の分解収納時には、上記折り曲げて立ち上げた状態から上記カバー部材と面一の平板状に戻すことが可能になっている
ことを特徴とする人体モデル装置。
【請求項2】
請求項1記載の人体モデル装置において、
前記カバー部材が着脱可能に取り付けられるベース部材を更に有し
上記カバー部材は、上記ベース部材よりも弾性が高い可撓性平板部材からなり、長さ方向の中途部を撓ませた状態で両端部を上記ベース部材の縁片部にそれぞれ着脱可能なファスナー部材を介して取り付けられるものである
ことを特徴とする人体モデル装置。
【請求項3】
請求項
2記載の人体モデル装置において、
前記ファスナー部材は、スナップボタンであり、
前記スナップボタンは、
このスナップボタンを構成する受側部品及び凸側部品のうちどちらか一方が前記カバー部材の前記両端部に設けられ、他方が前記ベース部材の前記縁片部に設けられており、
上記受側部品と凸側部品を互いに位置合わせしてスナップ嵌合することで上記カバー部材と上記ベース部材とを着脱自在に結合するものである
ことを特徴とする人体モデル装置。
【請求項4】
請求項
3記載の人体モデル装置において、
上記ベース部材の縁片部は、この人体モデル装置の組み立て時に、上記スナップボタンの受側部品と凸側部品とを位置合わせするために、前記ベース部材から折り曲げて立ち上げ可能に構成されており、
かつ、この人体モデル装置の分解収納時には、前記折り曲げて立ち上げた状態からカバー部材と面一の平板状に戻すことができるようになっている
ことを特徴とする人体モデル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管吻合手術のトレーニング等に使用される人体モデル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管縫合は原則全層一層縫合で、内膜同士を接合させることが必須である。内膜の連続性が保たれない場合、血液凝固や閉塞の原因となる。これは、心臓血管外科手術はもちろんのこと、腹腔内・胸腔内手術、出血時の血管修復などにも必要になり、医師、特に外科医医師としては必ず習得しておきたい基本的手技である。
【0003】
しかしながら、現在のところ、外科医のトレーニング環境においては、外科医1人当たりが執刀する手術数は極めて少ない。しかし、一般に、臨床経験によらずして高度な手術手技の習得さらに向上をはかるのは非常に困難であるため、実際の手術に頼らずに血管吻合手術の手技を向上させるためのトレーニング装置が求められている。
【0004】
従来の血管吻合手術のためのトレーニング装置としては、例えば特許文献1及び2に示すものがある。これらの装置は、人体の胸壁部に相当する天板部からその天板部に形成された切開部に相当する開口部にメス及び鉗子などの手術器具を差し入れ、胸腔部内で血管吻合が成されるという実際の手術の模擬体験を可能とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-005378
【文献】特開2005-202267
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来のトレーニング装置は、非常に重量が重くかつサイズも大きいため、装置を携帯するのが困難であった。
【0007】
また、いずれも硬質プラスチックもしくは軽合金等で形成されていること及びその構造上により本来成体の持つ硬度及び弾性において、実際の手術状況との近似性に著しい相違が見られ、実際の術野の再現として不十分であるということがあった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、携帯性に優れ井かつ、手術環境を忠実に再現することのできるトレーニング用人体モデル装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の主要な観点によれば、手術訓練装置用の人体モデル装置であって、ベース部材と、このベース部材に着脱可能に取り付けられるカバー部材とを有し、カバー部材は、長さ方向の中途部を撓ませた状態で両端部を上記ベース部材の縁片部にそれぞれ着脱可能なファスナー部材を介して取り付けられるものであり、このカバー部材と長さ方向の中途部が撓んだ前記ベース部材との間に形成される空洞部分が模擬胸腔部を構成するものであり、この空洞部分内のベース部材上に手術訓練手技適用対象が載置されるように構成されており、上記カバー部材の長さ方向の中途部には、トレーニング術者が手若しくは器具を胸腔部に挿入するための貫通孔が設けられていることを特徴とする手術訓練装置用の人体モデル装置が提供される。
【0010】
このような構成によれば、工具を用いずに容易に分解、且つ組み立てが可能で、場所を選ぶことなく何時でも何処でも血管吻合の訓練が可能であると同時に、解剖学的及び胸郭弾性において限りなく人体に近く、血管吻合手技の訓練をするのに最適な構成の人体モデル装置を得ることができる。
【0011】
この発明の一実施形態によれば、前記カバー部材は、上記ベース部材に取り付けられた状態において、上下方向の弾性率が上記術者の手を乗せたときに、上記空洞部にある装置とこのカバー部材が干渉することを防止するのに十分な硬さである。この場合、前記上記カバー部材は、このカバー部材の変形を所定方向及び所定量に規制するための変形規制部を有するものであることが好ましい。そして、この変形規制部は、この人体モデル装置に組み立て時に、上記カバー部材の縁部を折り曲げて立ち上げることで構成されるものであり、この人体モデル装置の分解収納時には、上記折り曲げて立ち上げた状態から上記カバー部材と面一の平板状に戻すことが可能になっていることがさらに望ましい。
【0012】
この発明の他の一の実施形態によれば、前記ファスナー装置は、スナップボタンであり、前記スナップボタンは、このスナップボタンを構成する受側部品及び凸側部品のうちどちらか一方が前記カバー部材の前記両端部に設けられ、他方が前記ベース部材の前記縁片部に設けられており、上記受側部品と凸側部品を互いに位置合わせしてスナップ嵌合することで上記カバー部材と上記ベース部材とを着脱自在に結合するものである。この場合、上記ベース部材の縁片部は、この人体モデル装置の組み立て時に、上記スナップボタンの受側部品と凸側部品とを位置合わせするために、前記ベース部材から折り曲げて立ち上げ可能に構成されており、かつ、この人体モデル装置の分解収納時には、前記折り曲げて立ち上げた状態からカバー部材と面一の平板状に戻すことができるようになっていることが好ましい。
【0013】
この発明の更なる他の一の実施形態によれば、上記ベース部材及びカバー部材は平板状の部材であり、上記カバー部材はベース部材よりも弾性が高い可撓性平板部材からなるものである。
【0014】
この発明の更なる他の一の実施形態によれば、前記カバー部材の長さはベース部材の幅の1.5倍以上である。
【0015】
なお、この発明の更なる他の特徴と顕著な効果は次の発明を実施するための最良の形態の項に記載された実施形態及び図面を参照することによって当業者に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る手術訓練装置用の人体モデル装置全体を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、同じく、ベース部材を示す図である。
【
図3】
図3は、同じく、カバー部材を示す図である。
【
図4】
図4は、同じく、カバー部材をベース部材に取り付ける工程を示す図である。
【
図5】
図5は、同じく、人体モデル装置を示す正面図である。
【
図6】
図6は、同じく、人体モデル装置を示す右側面図である。
【
図7】
図7は、同じく、人体モデル装置を示す上面図である。
【
図8】
図8は、同じく、人体モデル装置を示す底面図である。
【
図9】
図9は、同じく、人体モデル装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付した図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
(全体構成)
図1は、この実施形態の手術訓練装置用の人体モデル装置1を示す全体図である。この人体モデル装置1は、ベース部材2と、このベース部材2に着脱可能に取り付けられたカバー部材3とを有し、カバー部材3は、長さ方向の中途部3aを撓ませた状態で両端部3b、3cを上記ベース部材2の縁片部2a、2bにそれぞれ着脱可能なスナップボタン(ファスナー部材)4を介して取り付けられるものである。このカバー部材3と前記ベース部材2との間に形成される空洞部分5が模擬胸腔部を構成するものであり、この空洞部分5内のベース部材2上に後述するように手術訓練対象保持装置が載置されるように構成されている。また、上記カバー部材3の長さ方向の中途部3aには、トレーニング者が手若しくは器具を模擬胸腔部(空洞部分5)内に挿入するための貫通孔7が設けられている。
【0019】
以下、各部品、すなわちベース部材2及びカバー部材3の構成についてさらに詳しく説明する。
【0020】
(ベース部材)
図2は、ベース部材2を示す平面図である。このベース部材2は、外形が例えば直径約15cmの円盤状の部材で、中央部を挟んで対向する両側部に折り曲げ溝9a、9bが設けられている。そして、この折り曲げ溝9a、9bに沿って両側部を折り曲げることで、この部分が上記カバー部材3を取り付けるための縁片部2a、2bを形成するようになっている。この縁片部2a、2bには、前記スナップボタン4の受側部品4aが上記曲げ溝に沿って所定間隔で3つ取り付けられている。
【0021】
そして、この縁片部2a、2bを立ち上げた状態で、このベース部材2の幅寸法は例えば約11cmとなるように構成されている。
【0022】
(カバー部材)
図3は、前記カバー部材3を示す平面図である。このカバー部材3は、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタラート等の可撓性プラスチック素材で形成されており、その長さ方向の寸法が、上記幅方向の寸法の少なくとも1.5倍に形成されてなり、その長さ方向の中途部3aに前記貫通孔7が、両端部3b、3cにスナップボタン4の凸側部品4bが設置されてなる。
【0023】
また、このカバー部材3には、このカバー部材3の変形を規制するための6つのリブ部10~15がそれぞれ、上記貫通孔7の湾曲する内周部10及び11、及び、このカバー部材3の両端部3b、3cの湾曲する外縁12~15に沿って設けられ、それぞれカバー部材3を撓ませた時に内側に折り込むことで、このカバー部材3の不要な変形を防ぐための規制部材として機能するように構成されている。
【0024】
(組み立て)
次に、この人体モデル装置1の組み立てを説明する。
【0025】
図4に示すように、まず、ベース部材2を平坦な場所に設置して、縁片部2a、2bを立ち上げる。ついで、カバー部材3のリブ部10~15を立ち上げると共に、長さ方向の中途部3aを上方に撓ませて、両端部3b、3cを立てた状態に保持し、この状態でベース部材2に被せる形でスナップボタン4の受側部品4aと凸側部品4b同士を位置合わせする。そして、6つのスナップボタン4の受側部材4aと凸側部品4bを嵌合させて、両者を着脱自在に固定する。このことで、
図1に示すように手術訓練装置用の人体モデル装置1が完成する。
【0026】
図5~
図8は、この人体モデル装置1の正面図、側面図、上面図、及び底面図を示すものである。
【0027】
(使用方法)
この人体モデル装置1の使用に際しては、
図9に示すように、ベース部材2の略中央部に手術訓練装置17が載置される。この手術訓練装置17は、例えば、血管吻合手術のトレーニングに使用されるものであり、上面に保持した模擬血管18を図に19で示す駆動部により所望の振幅や振動数で拍動させることが可能になっている。
【0028】
使用方法としては、カバー部材3に設けられた貫通孔7(斜視図及び上面図参照)から手術訓練装置17に設置された冠動脈を模した模擬血管18に対しメス及び鉗子を用いて血管吻合の手技を施すことで、手術訓練を行えるようになっている。
【0029】
これにより、心臓拍動下の血管吻合という難度の高い手術環境を忠実に再現するもので、主に心臓外科医の手術手技習得を効率的かつ効果的に行うために使用される。
【0030】
(分解)
この人体モデル装置1は、上記スナップボタン4を外すことで容易に分解が可能である。そして、上記ベース部材2の折り曲げていた縁片部2a、2bを元の面一状態に戻すと共に、上記カバー部材3の立ち上げていたリブ部10~15を同様に元の面一に戻すことで、ベース部材2、カバー部材3共に平面の形状態に戻すことができる。その上で両者を重ねてケースに入れて保管等することできる。
【0031】
このことで、持ち運び時には平面状に、組み立て時には立体形状に簡単に組み立てることができる人体モデル装置1を得ることができる。
【0032】
尚、この発明は上記一実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で種々変形可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態のカバー部材3は、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタラート等の可撓性プラスチック素材を使用しているが、
図1に示すように、カバー部材3の長さ方向の中途部3aを撓ませることによりベース部材2との間に空洞部分5を形成し、模擬胸腔部を構成するのに十分な弾性を有する素材であれば、上記素材以外であっても良い。
【0034】
また、上記実施形態のカバー部材3は、トレーニング術者が手若しくは器具を胸腔部に挿入するための貫通孔7が設けられているが、
図3及び
図9に示すように、空洞部分5内のベース部材2上に設置される手術訓練対象保持装置の大きさや位置に合わせて、貫通孔7のサイズや形を変えても良い。
【0035】
さらに、上記実施形態のベース部材2は、
図2に示すように、外形が直径約15cmの円盤状の部材で、中央部を挟んで対向する両縁片部2a、2bを立ち上げた状態の幅寸法は約11cmとなるよう構成されているが、上記寸法に限定されるものではない。また、上記実施形態のカバー部材3の長さは、
図3に示すように、上記ベース部材2の幅方向の寸法の1.5倍に形成されているが、前記寸法に限定されるものではない。要は、ベース部材2とカバー部材3を接続した状態において、カバー部材3上に術者が手を乗せても、空洞部分5に設置された手術訓練装置17とカバー部材3が干渉することなく、さらに不要な変形を防ぐことができる寸法であれば、それぞれの寸法は、変更することが可能である。
【0036】
加えて、ベース部材2及びカバー部材3に取り付けられたファスナー部材4は、スナップボタン4に限定されるものではなく、着脱自在である条件を満たせば、上記実施形態で用いた素材を含め面ファスナーまたは両面シート等種々のものからも選択可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…人体モデル装置
2…ベース部材
2a、2b…縁片部
3…カバー部材
3a…中途部
3b、3c…両端部
4…スナップボタン(ファスナー部材)
4a…受側部品
4b…凸側部品
5…空洞部分
7…貫通孔
9a、9b…溝
10~15…リブ部(変形規制部)
17…手術訓練装置
18…模擬血管
19…駆動部