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特許7046381リポタンパク質代謝障害の治療のための化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】リポタンパク質代謝障害の治療のための化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/727 20060101AFI20220328BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/7024 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220328BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20220328BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220328BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220328BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220328BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220328BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
A61K31/727
A61K31/702
A61K31/7016
A61K31/7024
A61K31/7028
A61K31/704
A61K47/64
A61K47/59
A61P3/06
A61P3/10
A61P3/04
A61P3/00
A61P9/12
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P9/00
A61P31/04
A61K39/395 P
A61K39/395 D
C07K14/47 ZNA
C07K14/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019513787
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017073747
(87)【国際公開番号】W WO2018054959
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】PA201670733
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509168656
【氏名又は名称】オーフス ウニベルシテット
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グスタフセン,カミラ
(72)【発明者】
【氏名】マドセン,ソンダーガード,ペーダー
(72)【発明者】
【氏名】ペダーセン,グレロプ,シモン
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-164947(JP,A)
【文献】特開2016-069373(JP,A)
【文献】特表2015-524439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61K 39/395
A61P 3/06
A61P 3/10
A61P 3/04
A61P 3/00
A61P 9/12
A61P 9/10
A61P 9/00
A61P 31/04
C07K 14/47
C07K 14/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体におけるリポタンパク質代謝の障害の治療での使用のための
式(I):
【化1】
の一般構造を有する化合物、またはその医薬的に許容可能な塩、溶媒和物、多型、もしくは互変異性体を含む組成物であって、
ここで、
-R
a)式(XI):
【化2】
または
b)式(II):
【化3】
(ここでXはSOであり、mは独立して1以上の整数である)、
から選択される式を有する基を含み、
-各Rは独立して-OSO 、および-NHSO からなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、および-OHからなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、および-OHからなる群から選択され、
-各Rは独立して-CHOSO 、および-COOからなる群から選択され、
-nは3~10の整数であり、
ここで前記リポタンパク質代謝の障害は糖尿病、肥満、メタボリック症候群、黄色腫、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、脂質異常症、高トリグリセリド血症、高脂血症、シトステロール血症、高血圧、狭心症、急性冠状動脈症候群、冠状動脈性心臓病、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、血管炎症および敗血症からなる群から選択される、
組成物。
【請求項2】
、R、Rが-OSO であり、Rが-CHOSO である、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
前記化合物が一般構造式(XII):
【化4】
を有し、ここでR10が-O-Rであり、かつnが2~9の整数である、請求項1または請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
前記化合物が一般構造式(XXVI):
【化5】
を有し、ここでqが1~8の整数であり、Rは-SO であり、かつ
10は-O-Rである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
前記化合物が一般構造式(XIV):
【化6】
を有し、ここでR10が-O-Rである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
前記化合物が一般構造(III):
【化7】
を有し、ここで、
-R
a)式(XI):
【化8】
または
b)式(II):
【化9】
(ここでXはSOであり、mは独立して1以上の整数である)、
から選択される式を有する基を含み、
-Rは-OSO であり、
-Rは独立して-OSO 、および-OHからなる群から選択され、
-Rは独立して-CHOSO 、および-COOからなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、および-OHからなる群から選択され、
-Rは独立して-OSO 、および-NHSO3-からなる群から選択され、
-Rは独立して-OSO 、および-OHからなる群から選択され、
-Rは独立して-CHOSO であり、
-nは2~5の整数である、
請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
前記化合物が一般構造(IV):
【化10】
を有する、請求項1または請求項6に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
前記化合物が一般構造(V):
【化11】
を有する、請求項1または請求項6に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
前記化合物が一般構造(VII):
【化12】
を有する、または
前記化合物が一般構造(VIII):
【化13】
を有する、請求項1または請求項6~8のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
が式(XVII):
【化14】
の基を含む、または前記基からなる、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
前記化合物が
(1).式(X)の化合物である、
【化15】
(2).以下式のヘパリンである、または
【化16】
(3).以下式のヘパリンVIIである、
【化17】
請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
前記化合物が、前記式XXVIの化合物であって、かつqは2でありかつR10は-O-式(XVII)である、請求項4に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
前記化合物が、前記式XXVIの化合物であって、かつqは1でありかつR10は-O-式(XVII)である、請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
前記化合物が前記化合物に共役体化された、胆汁酸のアルブミン結合部分をさらに含む、または前記化合物が以下の式の樹状構造に末端アミノ基(R)を介して共有結合する、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【化18】
【請求項15】
前記化合物がPCSK9(SEQ ID NO:1)のR93、R96、R97、R104、R105、K136、H139、R165およびR167からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸に結合する、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リポタンパク質代謝障害の治療のための、プロタンパク質転換酵素サブチリシン様/ケキシン9型(PCSK9)の阻害剤としてのヘパリンアナログの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
アテローム性動脈硬化症によって生じる冠状動脈疾患は、欧州および米国における主要な死亡原因である。アテローム性動脈硬化症の発症における主なリスク因子は、循環におけるコレステロール含有低比重リポタンパク質(LDLコレステロールまたはLDL-C)粒子の増加した濃度を有する高コレステロール血症である。LDLコレステロール粒子の代謝は、コレステロールの合成と食事摂取を平衡化するように高度に調節されて、体内でのコレステロールに対する要求に応える。LDLコレステロールの代謝回転における主要な調節因子はLDL受容体(LDLR)であり、LDLRの欠如または機能障害によって生じる家族性高コレステロール血症を有する患者によって説明されるように、LDL粒子の細胞取り込みを仲介し、循環におけるLDLコレステロールの濃度を低下させる。
【0003】
LDLコレステロールの血漿中濃度を低下する有効な戦略は細胞中のLDLR濃度を増加することであり、LDLコレステロールを低下させるために現在最も幅広く使用されている医薬品はスタチンである。スタチンはコレステロールの合成を阻害しLDLRの発現を上方調節し、このため全体として循環LDLコレステロール量の低下をもたらす。しかし、かなりの数の患者がスタチンに応答しない、または様々な副作用のためにスタチンに耐容性がない。さらに、スタチンはまた、LDLRの強力な負の調節因子として最近同定されたプロタンパク質転換酵素サブチリシン様/ケキシン9型(PCSK9)の発現を増加し(Seidahら,2014)、これによってLDLコレステロールに対する有効な効果を妨げる。
【0004】
PCSK9を標的にすることは、血漿LDL-Cを低下するための最近の戦略である(Lagaceら,2006)。細胞中のLDLR濃度はLDLRを結合するPCSK9の能力によって低下され、これによってリサイクルを損ない、受容体のリソソーム分解を高める。PCSK9機能獲得変異は、増加したLDLRの分解によって循環LDL-Cの有意な増加をもたらす。これに反し、PCSK9機能喪失変異を有する個体は、LDL-C濃度の低下を示し、冠動脈性心臓疾患の事象をほとんど示さない。いくつかの主な製薬会社が高コレステロール血症の改善のためにPCSK9を標的とする治療戦略について承認を得ている。PCSK9のLDLR結合部位に対するPCSK9特異抗体の投与は、フェーズIII臨床試験においてLDL-Cの血漿中濃度を低下すると報告されている(Mullard (2015)Nat Rev Drug Discov;Sheridan(2015) Nature Biotechnology)。しかし、PCSK9血漿濃度は約6nMである(Lakoskiら,2009)のに対しPCSK9:LDLR結合定数は120~620nMの範囲であり(Cunninghamら,2007、Fisherら,2007)、PCSK9が生理学的に関連する濃度で直接的にLDLRを結合しない可能性を高くしている。さらに、PCSK9は肝臓でのみLDLRを標的にし、例えば、高量のLDLRも発現するステロイドホルモン産生組織では標的にせず、肝臓特異的共受容体の必要性を示唆する(Seidahら,2014)。このため、LDLRは主要なPCSK9受容体でありそうにない。代わりに、未知の受容体(受容体X)が循環PCSK9を捕捉し、続いてこれをLDLRに送達し得る。この受容体に対するPCSK9結合の阻害は従って、PCSK9:LDLR相互作用の阻害に比べて優れた戦略である。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らはPCSK9がヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)に対する結合モチーフを有することを発見した。このモチーフに導入される変異ならびにヘパリンによるHSPGへの結合の阻害は、PCSK9誘発性分解に対してLDLRを保護する。PCSK9とHSPGの間の相互作用の阻害は、PCSK9阻害抗体の臨床試験に比べて優れた治療能力を有する(Chanら,2009)。重要なことに、PCSK9におけるHSPG結合モチーフは、LDLR結合表面のものと異なる。HSPGは1つ以上のヘパラン硫酸グリコサミノグリカン鎖によって置換されるコアタンパク質からなる。ヘパリンはヘパラン硫酸(HS)と構造が密接に関連するグリコサミノグリカンの群である。ヘパリンおよびHSはともに、ウロン酸(グルクロン酸(GlcA)またはイズロン酸(IdoA))およびN-アセチルグルコサミン(GlcN)からなる反復するジサッカライド単位から構成され、それらはO-および/またはN-硫酸化され得る。ヘパリンはヘパラン硫酸の高度に硫酸化された変種である。HSPGは高度にグルコシル化されたタンパク質であり、HSPG結合モチーフを有するタンパク質リガンドを結合し、例えば成長因子などの限局的蓄積を生じる(XuおよびEsko,2014)。データは、PCSK9がHSPGを結合すること、およびその相互作用がPCSK9中のHSPG結合モチーフの部位特異的変異誘発によって消失され、ヘパリンを結合できないPCSK9変異体をもたらしLDLRを分解する能力の低下を示すことを示す。さらに、ヘパリンまたはヘパリンアナログとの細胞のインキュベーションは、培地中のPCSK9の増加した濃度を伴う、LDLRの増加した量を生じる。まとめると、本例で概説される結果は、PCSK9機能がHSPGの結合に依存し、PCSK9とHSPGの間の相互作用が抑制されるときに細胞のLDLR量が増加することを示す。
【0006】
このため、HSPGは細胞表面LDLRのPCSK9仲介分解に重要である。本結果は、HSPGがLDLRのPCSK9誘発性下方調節において重要な機能を有することを示す。
【0007】
PCSK9とHSPGの間の相互作用部位は、PCSK9機能をブロッキングする際、特にLDLR量に対するPCSK9の影響を阻害する際に標的にされ得る。このためリポタンパク質代謝の障害の治療における新規戦略が開示される。
【0008】
第一態様では、本発明は被験体におけるリポタンパク質代謝の障害の治療での使用のための、式(I)の一般構造を有する化合物、
【化1】
またはその医薬的に許容可能な塩、溶媒和物、多型、もしくは互変異性体を含む組成物に関し、
ここで、
-Rはアルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルキルスルホニル、置換アルキルスルホニル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アルコキシ、置換アルコキシ、エステル、アミド、アシル、置換アシル、アミノ、置換アミノ、チオアルキル、置換チオアルキル、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、水素、およびハロゲンからなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、-OH、-NH、-NHSO 、-NHOCHおよび-OPO 2-からなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、-OHおよび-OPO 2-からなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、-OH、-OPO 2-および-Hからなる群から選択され、
-各Rは独立して-CHOSO 、-CHOH、-COOおよび-CHOPO 2-からなる群から選択され、
-nは1以上の整数である。
【0009】
一つの態様では、本発明はLDLRの分解を阻害する方法に関し、当該方法は本明細書で定められる化合物を含む組成物を投与することを含む。
【0010】
別の態様では、本発明はそれを必要とする被験体における血漿リポタンパク質の濃度を低下するための方法に関し、当該方法は本明細書で定められる化合物または医薬組成物を当該被験体に投与するステップを含む。一つの実施形態では、リポタンパク質はLDL-Cである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】肝細胞表面でのHSPGによるPCSK9の捕捉およびLDLRに対するその後の提示を示す提唱モデルの図である。LDLRはLDL-C粒子を循環から取り込み、それらを分解のためにリソソームに送達し、一方、受容体(LDLR)はエンドソームでのカーゴの放出後に細胞表面に再循環される。PCSK9への結合時にLDLRそれ自体はリソソームで分解される。肝細胞表面上のHSPGは、PCSK9を捕捉しそれをLDLRに提示すると提唱され、これによってPCSK9:LDLR複合体形成のための最適な条件を確実にする。従って、PCSK9の高活性は、細胞表面でのLDLR量の低下および血漿コレステロールの増加をもたらし、一方、PCSK9活性の阻害は血漿コレステロール濃度を低下させ冠状動脈疾患の進行を遅らせる。
図2】(A)左右の矢印によってそれぞれ示されるLDLR結合部位およびHSPG結合部位を有するPCSK9の空間充填モデルを示す。(B)示される正電荷アミノ酸(R:アルギニン、H:ヒスチジン)を有するPCSK9(PDB ID:2PMW)中の予測されるHSPG結合部位(Piperら,2007)の静電表面(赤色が負、青色が正)でのヘパリンペンタサッカライド(SANORG、棒状)である。(C)PCSK9(リボン)中のHSPG結合部位へのSANORGの重ね合わせである。(D)ヘパリナーゼの有無における処理後にPCSK9を発現する非透過性HepG2細胞(白色)である。核をHoechstによって染色した(暗灰色)。(E)ヘパリンへのPCSK9結合をヘパリンアフィニティークロマトグラフィーによって分析した。PCSK9を500mMのNaCl濃度でカラムから溶出した。
図3】表示されるアミノ酸残基がアラニンに変異されたPCSK9変異体をCHO細胞で一時的に発現させた。(A)細胞溶解物および培地の抗PCSK9ウェスタンブロッティングは、すべてのPCSK9変異体の発現ならびに細胞溶解物中のプロタンパク質(プロPCSK9)から成熟PCSK9への正確なプロセシング、および細胞の培地中への成熟PCSK9の分泌を示した。偽トランスフェクション細胞ではPCSK9の発現は検出されなかった。(B)一時的にトランスフェクションされたCHO細胞の培地に分泌されたPCSK9変異体をアフィニティークロマトグラフィー、続いて抗PCSK9を用いる画分のウェスタンブロッティングによって分析した。すべての変異体は表示位置でアラニン置換を有する。野生型(WT)PCSK9および変異体R165R167は0.3~0.4MのNaClに相当する画分に溶出され、一方、PCSK9変異体R96R97およびR104R105はヘパリンに対する親和性低下を示し、通過画分または第一画分で認められた。PCSK9変異体R93R104R105H139およびR93R96R97R104R105H139はフロースルーにのみ認められ、ヘパリンに結合しなかった。(C)HSPG結合領域は、LDLRフラグメント(PDB:3P5B)との複合体でのPCSK9の表面描写でのPCSK9の空間充填モデルで示されるように、LDLR結合部位と反対側に位置する。LDLRフラグメントはβプロペラ領域、EGF領域AおよびB、ならびにL7を含み、PCSK9のC端、触媒領域、およびプロドメインが基本ラセンで示される。モデル化ヘパリンフラグメントは棒状で示される。(D)HepG2細胞の培養培地からの内因性PCSK9およびアポEは、アフィニティークロマトグラフィーおよびウェスタンブロッティングによって分析される場合、ヘパリンに対して同様な結合を示した。
図4】WT PCSK9(10nM)と18時間インキュベーションされたHepG2細胞は、変異体(R93R96R97R104R105H139)PCSK9(mut4)とインキュベーションされた細胞よりも有意に低い量のLDLRを示す。LDL受容体量をウェスタンブロッティングによって評価し(A)、GAPDH量をコントロールとして示す。棒グラフ(B)はデンシトメトリーによって定量されたLDLRの平均値(n=3)を、平均の標準誤差(SEM)とともに示す。結果はスチューデントt検定を用いて評価した。**P<0.01、****P<0.0001。
図5】ヘパリン(50U/mL)と24時間インキュベーションされたHepG2細胞はウェスタンブロッティングによって評価される、LDLR量の増加を示す(A)。GAPDH量をコントロールとして示す。棒グラフ(B)はデンシトメトリーによって定量されたLDLRの平均値(n=4)を平均の標準誤差(SEM)とともに示す。ヘパリンとのインキュベーションも、ELISAによって測定されるとき、培地中のPCSK9量の増加をもたらす(C)。棒グラフは平均PCSK9濃度をSEMとともに示す(n=4)。結果はスチューデントt検定を用いて評価した。***P<0.001、**** P<0.0001。(D)非透過処理HepG2細胞のPLA分析は、LDLRとPCSK9の間の共局在がヘパリン(50U/mL)との細胞のインキュベーションで著しく低下したことを示した。
図6】(A)細胞フリーPCSK9/LDLR結合アッセイ(BPS Bioscience)を用いて、ヘパリン(5および50U/mL)が、PCSK9のLDLR結合領域を標的にするコントロール阻害剤抗PCSK9抗体(5nM)(BPS Bioscience 71207)と対照的に、PCSK9のLDLRとの直接的相互作用を阻害しないことを認めた。結合アッセイにおいて、固定化LDLRに結合するビオチニル化PCSK9からの化学発光シグナルを定量し、結果はここで阻害剤を加えないサンプルからのシグナルに対して基準化して示される。棒グラフは平均値(n=3)を標準偏差誤差バーとともに示す。結果はスチューデントt検定を用いて評価した。*****p<0.00001、Y軸:阻害剤無添加に対する%。(B)ELISAによって測定された培地中のPCSK9に対するヘパリンの用量依存的効果(n=3)。Y軸:培地中のPCSK9(%)。(C)RT-PCRによる細胞溶解物中のmRNA量の定量的分析。
図7】ヘパリンアナログであるアリクストラ(フォンダパリヌクス,GlaxoSmithKline Pharma)の増加する濃度(0~250μg/mL)と24時間インキュベーションされたHepG2細胞はLDLR量を高めた。GAPDHのウェスタンブロッティングを負荷コントロールとして示す。
図8】(A)フラグミン(100U/mL)およびイノヘップ(100U/mL)と18時間ンキュベーションした後のHepG2細胞でのLDLRのウェスタンブロッティングは、低分子量ヘパリンのこれら2種の治療用調製物が、ヘパリン(50U/mL)の効果に匹敵して細胞のLDLR量を増加できることを示す。GAPDHのウェスタンブロッティングを負荷コントロールとして示す。(B)10μgのPCSK9単独でのまたは50Uヘパリンと組み合わせた静脈投与1時間後のマウスの肝臓中のLDLR量を示すウェスタンブロッティングである。50μgのメンブラン調製物を加えた。ウェスタンブロットでコントロールとして示されるソルチリンは、PCSK9誘発性分解の標的ではないことが以前に示されたPCSK9受容体である。(C)B)のバンドの定量をデンシトメトリーによって定量し、ドットプロットは各サンプルの個別量をビヒクル(0.9%NaCl)を注射されたコントロールに対するパーセントとして、平均値およびSEMとともに示す。PCSK9とヘパリンを共注射されたマウスは、LDLRの有意に高い量を示す(60.3±12.3%LDLR対24.0±4.04%、n=7マウス/群、p=0.0157、両側スチューデントt検定)。
図9】(A)ヘパリン模倣剤硫酸デキストラン(200μg/mL)と24時間インキュベーションした後のHepG2細胞でのLDLRのウェスタンブロッティングであり、この化合物が細胞のLDLR量を強力に増加し得ることを示す。比較のためヘパリン(50U/mL)を示す。GAPDHを負荷コントロールとして示す。(B)LDLR量のデンシトメトリー定量は、硫酸デキストラン(0~200μg/mL)とのインキュベーション後のHepG2細胞中のLDLR量の濃度依存的増加を示す。棒グラフはLDLR平均を未処理細胞に対する%としてSEM誤差バーとともに示す。(C)PCSK9および硫酸デキストランのマイクロスケール熱泳動(MST)結合曲線である。Y軸:蛍光シグナル。X軸:硫酸デキストランまたはデキストラン濃度、K=180μM。丸:硫酸デキストラン。正方形:デキストラン。(D)硫酸ペントサン(0~200μg/mL)と24時間インキュベーションした後のHepG2細胞でのLDLRのウェスタンブロッティングおよびデンシトメトリー定量(E)であり、50~200μg/mLの硫酸ペントサンで処理された細胞由来の溶解物中でのLDLRの4倍の増加を示す。棒グラフはLDLR平均を未処理細胞に対する%としてSEM誤差バーとともに示す。(F)PCSK9および硫酸ペントサンについてのMST結合曲線である。Y軸:蛍光シグナル。X軸:硫酸ペントサン濃度。丸:硫酸ペントサン、K=381μM。正方形:コントロール。(G)スラミン(0~200μg/mL)と24時間インキュベーションした後のHepG2細胞でのLDLRの定量である。棒グラフはLDLR平均を未処理細胞に対する%としてSEM誤差バーとともに示す。スラミンとインキュベーションしたHepG2細胞でのLDLRの代表的なウェスタンブロッティングを(A)に示す。(H)PCSK9およびスラミンについてのMST結合曲線である。Y軸:蛍光シグナル。X軸:スラミン濃度。丸:スラミン、K=190μM、正方形:コントロール。(I)ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドS-dC-36(0~5.0μM)と24時間インキュベーションした後のHepG2細胞でのLDLRのウェスタンブロッティングおよびデンシトメトリー定量(J)であり、細胞受容体量の濃度依存的増加を示す。棒グラフはLDLR平均を未処理細胞に対する%としてSEM誤差バーとともに示す。結果はスチューデントt検定を用いて評価した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。(K)PCSK9およびS-dC-36についてのMST結合曲線である。Y軸:蛍光シグナル。X軸:S-dC-36濃度。丸:S-dC-36、K=4.8μM。正方形:コントロール。
図10】PCSK9(10μg)の注射前のヘパリナーゼIの注入は、LDLRのPCSK9誘発性分解を完全に阻害する。代表的なサンプルのウェスタンブロッティング(A)およびLDLRの棒グラフ定量(B)を示す。ウェスタンブロッティングでは、GAPDHを負荷コントロールとして使用する。e:空レーン。コントロールはn=7、PCSK9はn=6、ヘパリナーゼはn=5、ヘパリナーゼ/PCSK9はn=5。PCSK9(10μg)およびヘパリン(50U)またはスラミン(300μg)を共注射されたマウスは、PCSK9を単独で注射されたマウスと比べて有意に高いLDLR量を示す(C)。コントロールはn=15、PCSK9はn=10、PCSK9/ヘパリンはn=7、PCSK9/スラミンはn=3。(D)ヘパリン(50U)の静脈内注射後に、ネズミPCSK9特異的ELISAによって評価したPCSK9の血漿中濃度である。
図11】10μgのPCSK9単独でのまたは50μgのPCSK9阻害抗体5E11と組み合わせた静脈内投与後1時間のマウスの肝臓中のLDLR量である。
図12】棒グラフは、蛍光色素Bodipyによって標識された10ng/mLのLDL粒子とインキュベーションした4時間後にスラミン(200μg/mL)と一昼夜インキュベーションした後のHepG2細胞中の相対的蛍光シグナルを示す。スラミンによるPCSK9の阻害はLDLの取り込みを2倍増加する。
図13】(A)および(B)の棒グラフは、100μMスラミンまたはHMG CoAレダクターゼ阻害剤であるメバスタチンおよびシンバスタチンとのインキュベーションの24および48時間後にウェスタンブロッティングによって評価したHepG2細胞中のLDLR量を示す。スラミンとインキュベーションされた細胞は、スタチンとインキュベーションされた細胞より高いLDLR量を示す。
図14】(A)PCSK9と細胞外マトリックスグリカンの間の相互作用の、合成グリカンマイクロアレイを用いた精査。異なるヘパリンフラグメントに対する結合のみを示す。天然ヘパリンは陽性コントロールとして含まれる。(B)グリカンマイクロアレイで使用されたヘパリン下位構造を示す。PCSK9と相互作用する構造は、[4)-α-GlcN-6,N-二硫酸(1→4)-α-IdoA-2-硫酸-(1→]の反復を含む。
図15】(A)変異されたHSPG結合部位(R93R96R97R104R105H139,mut4)を有するPCSK9(10μg)は、マウスにおける注射で肝LDLR分解(各n=3)を誘発するのに効果的ではない。ウェスタンブロットの定量を(B)に示す。(C)PCSK9は西欧型食餌で飼育されたマウス中の全コレステロールを有意に増加するが、PCSK9 mut4は増加しない(コントロールはn=25、PCSK9はn=12、PCSK9 mut4はn=9)。(D)注射されたPCSK9 mut4は、HSPGによる捕捉の低下およびLDLRによる排除に則して、PCSK9 WTに比べて高い濃度で循環に残存した。
図16】(A)化合物(X)のPCSK9-ヘパリン相互作用を阻害する能力を、PCSK9(1μg/mL)を阻害剤の存在下でヘパリン-セファロースビーズによって沈殿させるアッセイで試験した。一昼夜インキュベーション後、ビーズをペレット化し、上清中の非沈殿化PCSK9(遊離PCSK9)をELISAによって評価した。棒グラフは、表示のように増加する濃度の化合物(X)を含むサンプル中の遊離PCSK9(%)を、ヘパリン-セファロースビーズを添加しないサンプル中のPCSK9濃度(添加コントロール)に対して基準化して示す。陰性コントロールサンプルは阻害剤を加えずにインキュベーションし、陽性サンプルは可溶性ヘパリン(5mg/mL)とインキュベーションした。平均値をSEMとともに示す(n=2)。(B)化合物(X)の表示の濃度と一昼夜インキュベーションしたHepG2細胞におけるLDLRの代表的なウェスタンブロッティングである。棒グラフは、WBの定量を示す(SEMを伴う平均値、n=2)。コントロール細胞は阻害剤を無添加で(陰性コントロール)または500μg/mLヘパリンを添加して(陽性コントロール)インキュベーションした。(C)PCSK9(0.4mg/kg)による注射の1時間前に、PCSK9阻害剤化合物(X)(0.13mg/kg)またはエボロクマブ(8mg/kg)を注射されたマウス(BALB6/cJRj、雄、10週齢)の肝臓サンプル中のLDLR量である。肝臓サンプルをPCSK9注射の1時間後に収集した。コントロール群はPCSK9またはNaClの注射前にNaCl(0.9%)を注射された。棒グラフは、平均値をSEMとともに示す。NaCl/NaCl群はn=3、NaCl/PCSK9群はn=5、エボロクマブ/PCSK9群はn=5、化合物(X)/PCSK9群はn=8。
図17】(A)表示濃度でのヘパリンヘキサマーまたは18マーと一昼夜インキュベーションしたHepG2細胞中のLDLR量のウェスタンブロッティングである。(B)棒グラフは、WBの定量を示す(SEMを伴う平均値、n=2)。
図18】(A)イノヘップのサイズ排除クロマトグラフィーによって得られる溶出プロファイル。表示分画のPCSK9阻害活性を続いてHepG2細胞で試験した。(B)サイズ排除画分(20μM)とインキュベーションされたHepG2細胞中のLDLR量を示すウェスタンブロッティングである。画分H6との一昼夜インキュベーションは細胞LDLRを5倍増加し、この画分をさらに強アニオン交換(SAX)クロマトグラフィーを用いて分画した(図19)。
図19】(A)イノヘップ画分H6の強アニオン交換(SAX)クロマトグラフィーによって得られた溶出プロファイルである。(B)選択されたSAX画分と一昼夜インキュベーションされたHepG2細胞でのLDLRのウェスタンブロッティング。SAX画分I1、I8、およびI9はPCSK9阻害活性を有するヘパリンフラグメントを含み、試験した濃度(500nM)でLDLR量を最大で2倍増加する。
図20】ヘパリン-アルブミンへのPCSK9結合のビアコア分析。分析は、ヘパリン-アルブミン(シグマ、H0403)またはアルブミン(シグマ、A4503)のいずれかと結合されたセンサーチップを使用した。(A)PCSK9のヘパリン-アルブミンへの結合。(B)PCSK9のアルブミンへの結合。PCSK9はヘパリン-アルブミンに700pMの親和定数で結合し、アルブミンと結合されたセンサーチップへの結合は認められなかった。干渉アッセイを実施してPCSK9と化合物(X)の間の結合を評価した。(C)増加する濃度の化合物(X)とプレインキュベーションしたPCSK9を、ヘパリン-アルブミンと結合されたセンサーチップに注入した。結合曲線は、化合物(X)がPCSK9のヘパリン-アルブミンセンサーチップへの結合を50nMの推定IC50で阻害することを示した。
図21】(A)スクロースオクタ硫酸の構造。(B)棒グラフは、表示のスクロースオクタ硫酸濃度の存在下でのヘパリン-セファロースビーズによるPCSK9の沈殿を示す。非沈殿PCSK9(遊離PCSK9)のパーセントを、ヘパリン-セファロースビーズを加えないサンプル中のPCSK9濃度(添加コントロール)に対して計算した。陽性コントロールサンプルを可溶性ヘパリン(5mg/mL)とインキュベーションした。平均値をSEMとともに示す(n=3~2)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
用語「アシル」は、本明細書で使用されるとき、少なくとも1つのオキソ部分(-C=O)を含む後述のアルキル基を意味する。
【0013】
用語「アルカン」は、飽和の直鎖、分枝および/または環式カルボヒドリドを指す。当該アルカンは一般式C2n+2のものであり得る。いくつかの実施形態では、当該アルカンは環構造を含む。
【0014】
用語「アルケニル」は、本明細書で使用されるとき、アルケンから1つの-Hの除去によって得られる置換基を指す。アルケンは少なくとも1つの二重結合を含む任意の非環式炭化水素であり得る。しばしば、アルケニルは一般式-C2n-1を有する。
【0015】
用語「アルキル」はアルカンから1つの-Hの除去によって得られる置換基を指す。
【0016】
用語「アルキニル」は、本明細書で使用されるとき、アルキンから1つの-Hの除去によって得られる置換基を指す。アルキンは少なくとも1つの三重結合を含む任意の非環式炭化水素であり得る。しばしば、アルキニルは一般式-C2n-3を有する。
【0017】
用語「アルキルスルホニル」は、末端基または架橋基であり得る-S(O)-アルキル基を指す。
【0018】
用語「アミド」は、官能基RC(O)NR’R”を指す。
【0019】
用語「アミノ」は、本明細書で使用されるとき、一般式
【化2】
の置換基を指す。波線は置換基の結合点を示す。このためアミノは、例えば-NHまたは-NH-であり得る。
【0020】
用語「アレーン」は、本明細書で使用されるとき、芳香族単環または多環炭化水素を指す。
【0021】
用語「アリール」は、本明細書で使用されるとき、環中のCからの1つの-Hの除去によってアレーンから得られる置換基を指す。本発明で使用される有用なアリールの例は、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル、およびピレニルを含む。
【0022】
用語「エステル」は、官能基RCOOR’を指す。
【0023】
用語「ハロゲン」は、本明細書で使用されるとき、-F、-Cl、-Brおよび-Iからなる群から選択される置換基を指す。
【0024】
用語「ヘパリンアナログ」は、ヘパリンと構造的に類似する化合物を指す。
【0025】
用語「ヘパリン模倣剤」は、機能的にヘパリンのような、すなわちヘパリンを模倣する挙動を示す化合物を指す。本用語はこのため、構造的に類似している化合物だけでなく、異なる構造だがヘパリンと同様な機能性を有する化合物の両方を、本開示の文脈で含む。
【0026】
用語「ヘテロアルキル」は、本明細書で使用されるとき、1つ以上の炭素がS、O、P、およびNから選択されるヘテロ原子によって交換されているアルキル基を指す。
【0027】
用語「ヘテロアリール」は、本明細書で使用されるとき、ヘテロアレーンの環構造中の原子からの1つの-Hの除去によって当該ヘテロアレーンから得られる置換基を指す。ヘテロアレーンは、環構造に1つ以上のヘテロ原子を含む単環または多環芳香族化合物である。当該ヘテロ原子は、好ましくはS、N、およびOからなる群から選択される。本発明で使用される有用なヘテロアリールの非限定的な例は、アゾリル、ピリジニル、ピリミジニル、フラニル、およびチオフェニルを含む。
【0028】
LDLコレステロール(LDL-C)量:対象個体に対する最適なLDL-C量は、各個体の根底にある心臓疾患リスクに応じて変動する。健常個体では、LDL-Cコレステロール量は理想的には2.6~3.3mmol/L(または100~129mg/dL)未満である。3.4~4.1mmol/Lまたは130~159mg/dLの量は境界で高く、4.1~4.9mmol/Lまたは160~189mg/dLの量は高く、4.9mmol/Lまたは189mg/dLを超える量は非常に高い。心臓疾患のリスクのある個体では、2.6mmol/Lまたは100mg/dL未満の量が推奨され、一方、1.8mmol/Lまたは70mg/dL未満の量が心臓疾患の非常に高いリスクのある個体にとって望ましい。
【0029】
低比重リポタンパク質受容体(LDLR)量:細胞におけるLDLRの合成は、細胞内遊離コレステロールの量によって調節され、コレステロールが細胞の必要性に対して過剰である場合、LDLRの転写が阻害されるであろう。LDLR量は、限定されないが、ウェスタンブロッティング、RT-PCR、およびフローサイトメトリーなどの、従来技術で知られている方法によって推定できる。
【0030】
用語「低分子量ヘパリン」は、限定されたサイズのヘパリンの群を指す。天然ヘパリンは種々の長さまたは分子量の分子鎖からなる。例えば、5000~40,000ダルトン超である種々の分子量の鎖が、多分散系の医薬品グレードのヘパリンを構成する。低分子量ヘパリンはこれに反し、ポリサッカライドの短鎖のみからなる。低分子量ヘパリンは、8000Da未満の平均分子量を有するヘパリン塩として定められ、全鎖の少なくとも60%が8000Da未満の分子量を有する。これらは、ポリマーヘパリンの分画化または脱重合化などの、従来技術の当業者に知られている様々な方法によって得られる。
【0031】
用語「リポタンパク質代謝障害」は、脂質恒常性の障害およびこれらと関連する障害を指し、例として、糖尿病、肥満、メタボリック症候群、黄色腫、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、脂質異常症、高トリグリセリド血症、高脂血症、シトステロール血症、高血圧、狭心症、急性冠状動脈症候群、冠状動脈性心臓病、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、血管炎症および敗血症を含む。
PCSK9量:PCSK9の血漿中濃度は一般集団において30~3000ng/mLで変動し、中央値は一般的に男性より女性で高い。PCSK9量はLDL-C量と相関する。
【0032】
用語「モノサッカライド単位」は、本明細書で使用されるとき、炭水化物の最も基本的な単位を指し、アルドース、ケトースおよび幅広い種々の誘導体を含む。1つを超えるモノサッカライド単位が結合されるならば、結合は個別にαもしくはβ(1→2)、αもしくはβ(1→3)またはαもしくはβ(1→4)であり得る。好ましくは、結合はαまたはβ(1→4)である。モノサッカライド単位はアルドースまたはケトースであり得る。
【0033】
用語「置換された」は、化学化合物と関連して本明細書で使用されるとき、別の部分によって置換される水素基を指す。このため、「Xで置換された」は、化学化合物と関連して本明細書で使用されるとき、Xで置換される水素基を指す。同様に、「置換X」はXを指し、ここで1つの水素基が別の部分によって置換されている。例として、「置換アルキル」はアルキル-Rを指し、ここでRは-H以外の任意の部分である。
【0034】
用語「置換基」は、化学化合物と関連して本明細書で使用されるとき、水素原子の代わりに置換される原子または原子群を指す。
【0035】
用語「チオアルキル」は、本明細書で使用されるとき、一般式-S-アルキルの置換基を指す。
【0036】
用語「チオアリール」は、本明細書で使用されるとき、一般式-S-アリールの置換基を指す。
【0037】
本発明の詳細説明
本発明は請求項で定められる通りである。
【0038】
ヘパリンアナログ
本発明は、一つの態様では、被験体におけるリポタンパク質代謝の障害の治療に使用するための化合物を含む組成物に関する。化合物は一般的にはヘパリンアナログである。ヘパリンアナログの例は、本明細書に参考によって援用される、R.Lever et al.(編集),Heparin-A Century of Progress,Handbook of Experimental Pharmacology(ヘパリン-進歩の世紀、実験薬理学のハンドブック) 207,Springer-Verlag Berlin Heidelberg 2012に記載される。
【0039】
一つの態様では、本発明のヘパリンアナログは、被験体におけるリポタンパク質代謝の障害の治療での使用のための、式(I)の一般構造、
【化3】
またはその医薬的に許容可能な塩、溶媒和物、多型、もしくは互変異性体を有し、
ここで、
-Rはアルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルキルスルホニル、置換アルキルスルホニル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アルコキシ、置換アルコキシ、エステル、アミド、アシル、置換アシル、アミノ、置換アミノ、チオアルキル、置換チオアルキル、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、水素、およびハロゲンからなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、-OH、-NH、-NHSO 、-NHOCHおよび-OPO 2-からなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、-OHおよび-OPO 2-からなる群から選択され、--各Rは独立して-OSO 、-OH、-OPO 2-および-Hからなる群から選択され、
-各Rは独立して-CHOSO 、-CHOH、-COOおよび-CHOPO 2-からなる群から選択され、
-nは1以上の整数である。
【0040】
一つの実施形態では、nは1、2、3または4である。
【0041】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物におけるRは式(II)の基を含み、
【化4】
ここで、
-XはCHまたはSOであり、
-mは独立して1以上の整数である。
【0042】
一つの実施形態では、mは1、2、3、4、5または6である。一つの実施形態では、Rは式(XI)の基を含む。
【化5】
【0043】
いくつかの実施形態では、Rは置換ヘテロアルキルである。当該置換ヘテロアルキルはモノサッカライド単位を含み得る。いくつかの実施形態では、Rは少なくとも1つのモノサッカライド単位、少なくとも2つのモノサッカライド単位など、少なくとも3つのモノサッカライド単位など、少なくとも4つのモノサッカライド単位などを含む。好ましい実施形態では、式(I)におけるnは、Rが少なくとも1つのモノサッカライド単位を含むとき、1である。
【0044】
一つの実施形態では、Rはさらにアルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルキルスルホニル、置換アルキルスルホニル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アルコキシ、置換アルコキシ、エステル、アミド、アシル、置換アシル、アミノ、置換アミノ、チオアルキル、置換チオアルキル、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、水素、およびハロゲンからなる群から選択される部分を含む。
【0045】
一つの実施形態では、Rは式(XVI)、式(XVII)、式(XVIII)、式(XIX)、式(XX)、式(XXIX)、式(XXX)、式(XXXI)、-PEG2000-OMe、および-PEG5000-OMeからなる群から選択される基を含む。
【化6】
【0046】
別の実施形態では、Rは式(XVI)、式(XVII)、式(XVIII)、式(XIX)、式(XX)、式(XXIX)、式(XXX)、式(XXXI)、-PEG2000-OMe、および-PEG5000-OMeからなる群から選択される基からなる。
【0047】
いくつかの実施形態では、化合物はヘパリン模倣剤である。当該ヘパリン模倣剤はPI-88をベースとした誘導体であり得る。PI-88(式(XXIII)、ここでRは-PO 2-であり、Rは個別に-SO または-Hである、下記参照)は高度に硫酸化され、モノリン酸化されたマンノースオリゴサッカライドの混合物であり、ヘパラナーゼ阻害剤であることが知られている。
【化7】
【0048】
このため、いくつかの実施形態では、式(I)中のnは1であり、Rは式(XV)の基を含み、ここでsは1以上の整数である。一つの実施形態では、sは1、2または3である。
【化8】
【0049】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は式(XXIV)の化合物であり、ここでpは1以上の整数である。
【化9】
【0050】
好ましい実施形態では、化合物は、
A.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは2であり、Rは式(XX)である、
B.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは2であり、Rは式(XVII)である、
C.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは2であり、Rは式(XVIII)である、
D.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは3であり、Rは式(XVII)である、
E.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは0であり、Rは式(XVII)である、
F.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは1であり、Rは式(XVII)である、
G.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは1であり、Rは式(XIX)である、
H.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは3であり、Rは式(XX)である、または
I.式(XXIV)の化合物であり、ここでpは3であり、Rは式(XXIX)である。
【0051】
一つの実施形態では、pは1であり、式(I)の化合物は式(XXV)の化合物である。
【化10】
【0052】
好ましい実施形態では、化合物は、
J.式(XXV)の化合物であり、ここでRは式(XVII)である、または
K.式(XXV)の化合物であり、ここでRは式(XIX)である。
【0053】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は構造(IX)を有する。
【化11】
【0054】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は式(XXVI)の化合物であり、ここでqは1以上の整数である。一つの実施形態では、qは1、2または3である。
【化12】
【0055】
一つの実施形態では、R10は-O-Rである。別の実施形態では、R10は式(XXI)、式(XXII)、-O-式(XVI)、-O-式(XVII)、-O-式(XVIII)、-O-式(XIX)および-O-式(XX)からなる群から選択される基を含む。別の実施形態では、R10は式(XXI)、式(XXII)、-O-式(XVI)、-O-式(XVII)、-O-式(XVIII)、-O-式(XIX)、-O-式(XX)および-O-式(XXIX)からなる群から選択される基からなる。
【化13】
【0056】
好ましい実施形態では、化合物は、
L.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは2であり、R10は-O-式(XVII)である、
M.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは2であり、R10は式(XXI)である、
N.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは1であり、R10は式(XVII)である、
O.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは2であり、R10は-O-式(XXII)である、
P.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは1であり、R10は-O-式(XVII)である、
Q.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは2であり、R10は-O-式(XVIII)である、
R.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは1であり、R10は-O-式(XVIII)である、
S.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは0であり、R10は-O-式(XVII)である、または
T.式(XXVI)の化合物であり、ここでqは0であり、R10は-O-式(XXI)である。
【0057】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は式(XXVII)の化合物である。
【化14】
【0058】
好ましい実施形態では、化合物は式(XXVII)であり、R10は式(XVII)である。
【0059】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は式(XXVIII)の化合物である。
【化15】
【0060】
好ましい実施形態では、化合物は、
U.式(XXVIII)の化合物であり、ここでR10は-O-式(XVII)であり、R11はHであり、R12はORである、または
V.式(XXVIII)の化合物であり、ここでR10は式(XXI)であり、R11はORであり、R12はHである。
【0061】
一つの実施形態では、化合物は一般構造式(XII)を有する。
【化16】
【0062】
一つの実施形態では、Rは-OSO である。別の実施形態では、Rは-OSO である。別の実施形態では、Rは-OSO である。別の実施形態では、Rは-CHOSO である。好ましい実施形態では、R、RおよびRは-OSO であり、Rは-CHOSO である。一つの実施形態では、Rは-OSO である。
【0063】
一つの実施形態では、医薬的に許容可能な塩はナトリウム塩である。
【0064】
一つの実施形態では、化合物は一般構造式(XIII)を有する。
【化17】
【0065】
好ましい実施形態では、nは2、3または4である。
【0066】
一つの実施形態では、化合物は一般構造式(XIV)を有する。
【化18】
【0067】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物は式(X)の化合物である。
【化19】
【0068】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物は、3β-コレスタニル2,3,4,6-テトラ-O-スルホ-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-2,3,6-トリ-O-スルホ-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-2,3,6-トリ-O-スルホ-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-2,3,6-トリ-O-スルホ-β-D-グルコピラノシドトリデカナトリウム塩である。
【0069】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は一般構造(III)を有し、
【化20】
ここで、
-Rはアルキル、置換アルキル、ヘテロアルキル、置換ヘテロアルキル、アルキルスルホニル、置換アルキルスルホニル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アルコキシ、置換アルコキシ、エステル、アミド、アシル、置換アシル、アミノ、置換アミノ、チオアルキル、置換チオアルキル、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、水素、およびハロゲンからなる群から選択され、
-各RおよびRは独立して-OSO 、-OH、-NH、-NHSO 、-NHOCHおよび-OPO 2-からなる群から選択され、
-各RおよびRは独立して-OSO 、-OHおよび-OPO 2-からなる群から選択され、
-各RおよびRは独立して-CHOSO 、-CHOH、-COOおよび-CHOPO 2-からなる群から選択され、
-各Rは独立して-OSO 、-OH、-OPO 2-および-Hからなる群から選択され、
-nは1以上の整数である。
【0070】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は一般構造(IV)を有する。
【化21】
【0071】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は一般構造(V)を有する。
【化22】
【0072】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は一般構造(VI)を有する。
【化23】
【0073】
ヘパリンおよび硫酸ヘパリンは反復するジサッカライド単位からなる。一つの実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は1である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は2である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は3である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は4である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は5である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は6である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は7である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は8である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は9である。別の実施形態では、式(III)~(VI)の化合物における反復単位の数は10である。
【0074】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は一般構造(VII)を有する。
【化24】
【0075】
一つの実施形態では、化合物は一般構造(VIII)を有する。
【化25】
【0076】
特定の実施形態では、式(I)の化合物はヘパリンIであり、次の構造を有する。
【化26】
【0077】
特定の実施形態では、式(I)の化合物はヘパリンVIIであり、次の構造を有する。
【化27】
【0078】
いくつかの実施形態では、化合物はさらに当該化合物に共役体化されるアルブミン結合部分を含む。一つの実施形態では、アルブミン結合部分は脂肪酸であり、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸およびドコサヘキサエン酸からなる群から選択され得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、胆汁酸が式(I)の化合物に共役体化される。一つの実施形態では、共役体化胆汁酸は、コール酸、タウロコール酸、グリココール酸、タウロケノデオキシコール酸、グリコケノデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、およびリトコール酸からなる群から選択される。
【0080】
一つの実施形態では、式(I)の化合物は、式:
【化28】
の樹状構造に末端アミノ基(R)を介して共有結合される。
【0081】
ヘパリンアナログのPCSK9への結合
いくつかの実施形態では、ヘパリンアナログはHSPGのPCSK9への結合を阻害できる。いくつかの実施形態では、ヘパリンアナログは本明細書において後述されるようにPCSK9のアミノ酸残基のいずれかに結合する。HSPGが変異体へのPCSK9の結合を阻害できる化合物も本発明の範囲内であることが、本開示全体を通して理解されるであろう。PCSK9の変異体はSEQ ID NO:1と本質的に同じ配列を有するポリペプチドと理解され、例えば、変異体はSEQ ID NO:1のいくつかの残基の保存的置換を有する。
【0082】
いくつかの実施形態では、化合物はPCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~167位の少なくとも1個、PCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~92位の少なくとも1個など、アミノ酸残基93~97位の少なくとも1個など、アミノ酸残基98~103位の少なくとも1個など、アミノ酸残基104~105位の少なくとも1個など、アミノ酸残基106~135位の少なくとも1個など、アミノ酸残基136~139位の少なくとも1個など、アミノ酸残基140~164位の少なくとも1個など、アミノ酸残基165~167位の少なくとも1個などを含むPCSK9(SEQ ID NO:1)のHSPG結合領域内の領域を特異的に認識し結合する。
【0083】
本明細書において、PCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~167位の少なくとも1個、PCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~167位の少なくとも2個など、少なくとも5個など、少なくとも10個など、少なくとも15個など、少なくとも20個など、少なくとも25個など、少なくとも30個など、少なくとも35個など、少なくとも40個など、少なくとも45個など、少なくとも50個など、少なくとも55個など、少なくとも60個など、少なくとも65個など、少なくとも70個など、少なくとも75個など、少なくとも80個など、少なくとも85個など、すべてなどを含むPCSK9(SEQ ID NO:1)のHSPG結合部位内における領域を特異的に認識し結合する化合物が提供される。
【0084】
いくつかの実施形態では、化合物はPCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~92位の少なくとも1個、アミノ酸残基93~97位の少なくとも1個など、アミノ酸残基98~103位の少なくとも1個など、アミノ酸残基104~105位の少なくとも1個など、アミノ酸残基106~135位の少なくとも1個など、アミノ酸残基136~139位の少なくとも1個など、アミノ酸残基140~164位の少なくとも1個など、アミノ酸残基165~167位の少なくとも1個など、PCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~167位の少なくとも1個などを含む領域を特異的に認識し結合する。
【0085】
いくつかの実施形態では、化合物はPCSK9(SEQ ID NO:1)のアミノ酸残基78~92位、アミノ酸残基93~97位など、アミノ酸残基98~103位など、アミノ酸残基104~105位など、アミノ酸残基106~135位など、アミノ酸残基136~139位など、アミノ酸残基140~164位など、アミノ酸残基165~167位などの少なくとも1つを含む領域を特異的に認識し結合する。
【0086】
このため、一つの実施形態では、化合物はアミノ酸残基78~167位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基78~95位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基96~100位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基101~105位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基106~110位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基111~115位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基116~120位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基121~125位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基126~130位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基131~135位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基136~140位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基141~145位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基146~150位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基151~155位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基156~160位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。別の実施形態では、化合物はアミノ酸残基161~167位を含むPCSK9のHSPG結合部位内の領域を特異的に認識し結合する。
【0087】
このため、PCSK9(SEQ ID NO:1)のR93、R96、R97、R104、R105、K136、H139、R165およびR167からなる群から選択される1個以上のアミノ酸、PCSK9のR93、R96、R97、R104、R105、K136、H139、R165およびR167からなる群から選択される1個のアミノ酸など、2個のアミノ酸など、3個のアミノ酸など、4個のアミノ酸など、5個のアミノ酸など、6個のアミノ酸など、7個のアミノ酸など、8個のアミノ酸など、すべてなどに結合する化合物が提供される。
【0088】
このため一つの実施形態では、化合物はPCSK9のR93に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR96に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR97に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR104に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR105に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のK136に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のH139に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR165に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR167に結合する。
【0089】
一つの実施形態では、化合物はPCSK9のR96におよびR97に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR104およびR105に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のK136およびH139に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR93およびH139に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR93、R104、R105およびH139に結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR165およびR167と結合する。別の実施形態では、化合物はPCSK9のR93、R96、R97、R104、R105およびH139に結合する。
【0090】
LDLRおよびLDL-C量
本明細書で開示される化合物のPCSK9への結合は、当該化合物が存在しないときの結合と比べてLDLRへの低下されたPCSK9の結合をもたらす。これは次に、当該化合物の存在しないときの量と比べて、肝細胞由来細胞株などのLDLR発現細胞株から派生する細胞の、例えばそれらの表面における、増加されたLDLR量をもたらす。
【0091】
いくつかの実施形態では、化合物は前述で定められるヘパリンアナログであり、そのPCSK9への結合は、当該ヘパリンアナログが存在しない結合と比べてLDLRへの低下されたPCSK9の結合をもたらす。これは次に、当該化合物の存在しないときの量と比べて、肝細胞由来細胞株などのLDLR発現細胞株から派生する細胞の増加されたLDLR量をもたらす。
【0092】
いくつかの実施形態では、化合物のPCSK9への結合は、当該化合物が存在しないときの分解と比べて低下されたLDLRのリソソーム分解をもたらす。特定の実施形態では、化合物は前述で定められるヘパリンアナログであり、ヘパリンアナログのPCSK9への結合は、当該ヘパリンアナログが存在しないときの分解と比べて低下されたLDLRのリソソーム分解をもたらす。
【0093】
いくつかの実施形態では、化合物のPCSK9への結合は、当該化合物が存在しないときと比べて低下されたLDL-Cの血漿中濃度をもたらす。用語「血漿中LDL-C濃度」は、血漿中のLDL-Cの濃度、すなわちLDL-Cタンパク質の量を指すと理解される。特定の実施形態では、化合物は前述で定められるヘパリンアナログであり、ヘパリンアナログのPCSK9への結合は、当該ヘパリンアナログが存在しないときと比べて低下されたLDL-Cの血漿中濃度をもたらす。
【0094】
LDL-Cの血漿中濃度はインビボまたはインビトロで測定され得る。血漿LDL-Cの血漿中濃度を測定する方法は従来技術で知られており、限定されないが、ウェスタンブロット、免疫染色、ELISA、超遠心分離、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)および酵素比色測定が挙げられる。
【0095】
リポタンパク質代謝の障害
本明細書において、リポタンパク質代謝の障害の治療での使用のための化合物を含む組成物が提供される。従って、本明細書においてリポタンパク質代謝の障害の治療のための医薬品の調製のための、本明細書で定められる化合物の使用も提供される。また、それを必要とする被験体におけるリポタンパク質代謝の障害の治療方法での使用のための、前述で定められる化合物が開示される。PCSK9の配列は、被験体間で変化し得、例えば、保存的置換をもたらし得る個体特異的SNPがいくつかの個体で認められ得る。このようなPCSK9変異体へのHSPGの結合を阻害する化合物はまた本発明の範囲内であることが、本開示全体を通して理解されるであろう。
【0096】
いくつかの実施形態では、リポタンパク質代謝の障害は異常なPCSK9血漿中濃度に関連する。他の実施形態では、リポタンパク質代謝の障害は肝細胞などのLDLR発現細胞の表面における異常なLDLR量に関連する。リポタンパク質代謝の障害はまた、異常なPCSK9血漿中濃度および肝細胞などのLDLR発現細胞の表面における異常なLDLR量に関連し得る。PCSK9血漿中濃度はヒトでは30~3000ng/mLで変動する。異常なPCSK9血漿中濃度は、健常な個体における平均濃度と有意に異なるPCSK9の血漿中濃度を指す。いくつかの実施形態では、異常なPCSK9血漿中濃度は、健常な個体における平均濃度よりも有意に高い。同様に、肝細胞などの表面における異常なLDLR量は、健常な個体における平均量と有意に異なるLDLR量を指す。いくつかの実施形態では、肝細胞などのLDLR発現細胞の表面における異常なLDLR量は、健常な個体における平均量よりも有意に低い。
【0097】
いくつかの実施形態では、障害はLDL-Cの異常な量、特にLDL-Cの高い量によって特徴付けられる。
【0098】
リポタンパク質代謝の障害は、脂質恒常性の障害およびこれと関連する障害であり、例として、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、脂質異常症、高脂血症、高トリグリセリド血症、シトステロール血症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、冠状動脈性心臓病、メタボリック症候群、急性冠状動脈症候群、黄色腫、高血圧、狭心症、肥満、糖尿病、血管炎症および敗血症を含む。このような障害は、例えば、リポタンパク質粒子の構造的タンパク質における、様々な型のリポタンパク質を認識する細胞受容体における、または脂肪を分解する酵素における欠陥によって生じ得る。このような欠陥の結果として、脂質が血管の壁に沈着されるようになり得る。
【0099】
高コレステロール血症(または脂質異常症)は、血中コレステロールの高い量の存在である。それは高脂血症(血中脂肪の高量)および高リポタンパク質血症(血中リポタンパク質の高量)の形態である。混合脂質異常症は、しばしばHDLコレステロールの低い量を伴うLDLコレステロール量およびトリグリセリド量の上昇である。家族性高コレステロール血症はLDLR遺伝子中の変異によって生じる遺伝性障害であり、血中の高いコレステロール量、特にLDLコレステロールによって特徴付けられる。
【0100】
高トリグリセリド血症は、血中トリグリセリドの高い量を示す。トリグリセリドの高量はアテローム性動脈硬化症と関連し、高コレステロール血症が存在しない場合でさえ、心臓血管疾患に罹り易くする。非常に高いトリグリセリド量はまた、急性膵炎のリスクを増加する。
【0101】
シトステロール血症またはフィトステローム血症は、例えば高コレステロール血症、腱および結節黄色腫、アテローム動脈硬化症の早発をもたらす、食事性ステロールの過吸収および低下した胆汁排泄によって特徴付けられる稀な常染色体劣性遺伝性脂質代謝障害である。
【0102】
アテローム性動脈硬化症(動脈硬化性血管疾患またはASVDとしても知られる)は動脈硬化症の特定の型であり、動脈壁が生きた活性白血球(炎症を生じる)および死んだ細胞の残渣の両方を含む白血球の浸潤および蓄積の結果として肥厚し、コレステロールおよびトリグリセリドを含む。アテローム性動脈硬化症は従って、動脈壁における白血球の慢性炎症応答によって動脈血管に影響を及ぼす症候群である。
【0103】
動脈硬化症は、動脈壁の肥厚化、硬化、および弾性喪失を含む症状である。
【0104】
冠状動脈性心臓病は、アテローム硬化性動脈疾患、アテローム硬化性心臓血管病、冠状動脈心臓病または虚血性心臓病としても知られており、最も一般的なタイプの心臓病であり、心臓発作の原因である。本疾患は心臓の動脈の内壁に沿って蓄積するプラークによって生じ、動脈内腔を狭め心臓への血流を低下する。
【0105】
メタボリック症候群はエネルギーの利用および蓄積の障害であり、腹部(中心性)肥満、血圧の上昇、空腹時グルコースの上昇、高い血清トリグリセリド、および低い高比重コレステロール量の5つの医学的症状のうち3つの同時発生によって診断される。メタボリック症候群は心臓血管疾患、特に心不全、および糖尿病の発症リスクを高める。メタボリック症候群は、メタボリック症候群X、心血管代謝症候群、症候群X、インスリン抵抗性症候群、リーベン症候群、およびCHAOS(オーストラリアで)としても知られている。メタボリック症候群および前糖尿病は、異なる組み合わせのバイオマーカーで診断されるだけで、同じ障害であると考えられる。
【0106】
急性冠状動脈症候群は、冠状動脈における血流低下に起因する症状の一群を指し、心筋の一部が適切に機能できない、または機能しなくなる。
【0107】
黄色腫はリポドーシスの皮膚徴候であり、脂質が皮膚内の大型泡沫細胞に蓄積する。黄色腫は高脂血症と関連する。
【0108】
高血圧症または血圧上昇は、動脈性高血圧と呼ばれることもあり、動脈の血圧が上昇する慢性的な医学的症状である。
【0109】
狭心症(またはアンギナ)は、冠状動脈の閉塞または発作由来の心筋の虚血にしばしば起因する胸痛、圧迫、または圧搾の感覚を指す。狭心症は貧血症、不整脈および心不全から生じ得るが、その主な原因は冠状動脈疾患である。
【0110】
肥満は、過剰な体脂肪が健康に対して負の影響を有し得る程度まで蓄積されている医学的症状であり、平均寿命の短縮および/または健康問題の増加、例えば心臓疾患、2型糖尿病、閉塞性睡眠時無呼吸、ある種の癌、および骨関節炎のリスクの増加などをもたらす。
【0111】
真性糖尿病は、一般的に糖尿病と呼ばれ、長い期間にわたって高い血糖量である代謝疾患の一群である。いくつかの型の糖尿病があり、I型糖尿病、II型糖尿病および妊娠糖尿病が含まれる。1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島のインスリン産生β細胞の喪失によって特徴付けられ、インスリン欠乏をもたらす。2型糖尿病はインスリン抵抗性によって特徴付けられ、比較的低下したインスリン分泌と結び付けられ得る。インスリンに対する体組織の不完全な応答性は、インスリン受容体を含むと考えられる。妊娠糖尿病は2型糖尿病と類似しており、全妊婦の約2~10%で発生する。
【0112】
敗血症は、感染に対する体の応答がそれ自体の組織および器官を傷害するときに生じる、生命を脅かす可能性がある感染の合併症である。感染の際、LDL受容体も、循環からのリポポリサッカライドなどの細菌性脂質の除去に関与する。PCSK9阻害は、敗血症の患者の治療における病原性脂質排除を増加する有用な戦略であり得る(Walley et al., 2016)。
【0113】
リポタンパク質代謝障害の治療
リポタンパク質代謝の障害の治療を必要とする個体または被験体は、リポタンパク質代謝の障害を有する、有することが疑われる、または有するリスクのある個体である。いくつかの実施形態では、治療を必要とする個体は哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0114】
好ましい実施形態では、リポタンパク質代謝の障害は、脂質異常症、高コレステロール血症および冠状動脈性心臓病からなる群から選択される。好ましい実施形態では、リポタンパク質代謝の障害は冠状動脈性心臓病である。
【0115】
いくつかの実施形態では、治療は予防的である。
【0116】
いくつかの実施形態では、治療は本明細書で開示される化合物を当該被験体に投与するステップを含む。化合物は体重kgあたり0.1~1000mgの1日投与量で投与され得る。このためいくつかの実施形態では、化合物は体重kgあたり0.1~1000mgの1日投与量で投与され、体重kgあたり0.2~900mgなど、体重kgあたり0.3~800mgなど、体重kgあたり0.5~700mgなど、体重kgあたり1.0~500mgなど、体重kgあたり5~400mgなど、体重kgあたり10~300mgなど、体重kgあたり25~250mgなど、体重kgあたり50~200mgなど、体重kgあたり75~150mgなど、体重kgあたり100~125mgなどである。いくつかの実施形態では、化合物は体重kgあたり0.1~1000mgの1日投与量で投与され、体重kgあたり0.1~10mgなど、体重kgあたり10~25mgなど、体重kgあたり25~50mgなど、体重kgあたり50~100mgなど、体重kgあたり100~250mgなど、体重kgあたり250~500mgなど、体重kgあたり500~750mgなど、体重kgあたり750~1000mgなどである。
【0117】
本発明によって治療される徴候の根底にある病因は、患者の血中LDL-Cの増加された量である。このため、本発明の一つの態様は、LDLRの分解を阻害する方法に関し、それはLDLRに対するLDL-Cの増加された結合をもたらす。このため、患者は一般式(I)で定められる化合物を投与することによって治療される。
【0118】
従って、それを必要とする被験体における血漿LDL-C濃度を低下するための方法が本明細書において提供され、当該方法は本明細書で定められる化合物または医薬組成物を当該被験体に投与するステップを含む。血漿LDL-C濃度は、前述のように、従来技術で知られている任意の方法によってインビボまたはインビトロで測定できる。
【0119】
一つの態様では、本発明は、それを必要とする被験体における血漿リポタンパク質濃度を低下するための方法に関し、当該方法は本明細書で定められる化合物または医薬組成物を当該被験体に投与するステップを含む。
【0120】
医薬組成物
本明細書で定められる少なくとも1種類の化合物を含む医薬組成物も本明細書において開示される。いくつかの実施形態では、組成物は本明細書で開示される1種類の化合物を含む。他の実施形態では、組成物は2種類以上の化合物を含み、3種類以上の化合物など、4種類以上の化合物など、5種類以上の化合物などを含む。
【0121】
いくつかの実施形態では、組成物はさらに、
-PCSK9のLDLRとの結合を阻害する抗体、
-スタチン、
-コレスチラミン
-コレステロール吸収阻害剤、例えばエゼチミブ、
の少なくとも1種類を含む。
【0122】
いくつかの実施形態では、組成物は、PCSK9のLDLR結合部位に結合する抗体などの抗PCSK9抗体、またはスタチンなどの別の化合物と組み合わせて投与される。いくつかの実施形態では、組成物はロデルシズマブ、ラルパンシズマブ、アリロクマブ、エボロクマブおよびボコシズマブからなる群から選択される抗体とともに投与される。
【0123】
このためいくつかの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる少なくとも1種類の化合物、およびPCSK9のLDLRへの結合を阻害する抗体、スタチンまたはコレスチラミンからなる群から選択される少なくとも1種類の追加化合物を含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物、およびPCSK9のLDLRへの結合を阻害する抗体を含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物およびスタチンを含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物およびコレスチラミンを含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物、PCSK9のLDLRへの結合を阻害する抗体およびスタチンを含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物、PCSK9のLDLRへの結合を阻害する抗体およびコレスチラミンを含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物、コレスチラミンおよびスタチンを含む。一つの実施形態では、医薬組成物は本明細書で定められる1種類の化合物、PCSK9のLDLRへの結合を阻害する抗体、スタチンおよびコレスチラミンを含む。
【0124】
医薬組成物は任意に1種類以上の医薬的に許容可能な担体添加剤を含み、例えばRemington:The Science and Practice of Pharmacy(薬学の科学および実践)1995,edited by E. W. Martin,Mack Publishing Company,19th edition,Easton,Pa.で報告されているように、従来技術によって調製される。組成物は、例えば、カプセル、錠剤、エアゾール、溶液、懸濁液または局所適用などの標準的な剤形で提供され得る。一般的に、本発明の医薬組成物は、例えば静脈内または皮下注射などによる非経口投与用に製剤化され、アンプル、プレフィルドシリンジ、小容量注入における単位用量剤形、または添加される保存剤とともに多回用量容器で提供され得る。組成物は、油性または水性賦形剤中の懸濁液、溶液、またはエマルションなどの剤形、例えば水性ポリエチレングリコール中の溶液を用い得る。組成物は経口摂取に適したものであり得る。これは特に小分子組成物と関連する。油性または非水性の担体、希釈剤、溶媒または賦形剤の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物オイル(例えば、オリーブオイル)、および注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)を含み、保存剤、湿潤剤、乳化剤または懸濁剤、安定剤および/または分散剤などの製剤用薬剤を含み得る。あるいは、有効成分は、適切な賦形剤、例えば殺菌したパイロジェンフリー水を用いて使用前に構成するために、殺菌した固体の無菌分離、または溶液からの凍結乾燥によって得られる粉末剤形であり得る。オイルは非経口製剤において有用であり、石油、動物、植物、および合成オイルを含む。このような製剤で有用なオイルの具体的な例は、ピーナッツ、ダイズ、ゴマ、メンミ、コーン、オリーブ、石油、およびミネラルを含む。非経口製剤における使用に適した脂肪酸は、オレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルが適切な脂肪酸エステルの例である。非経口製剤は一般的に、溶液中に有効成分を重量で約0.5~約25%など、約0.0001~約25%含む。保存剤および緩衝剤が使用され得る。注射部位の刺激を最小限にする、または排除するために、このような組成物は約12~約17の親水性-親油性バランス(HLB)を有する1種類以上の非イオン性界面活性剤を含み得る。このような製剤における界面活性剤の量は、一般的に重量で約0.000001~約15%の範囲であり、重量で約0.000001~約5%または重量で約5~約15%などである。適切な界面活性剤は、ソルビタンモノオレエートなどのポリエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびプロピレンオキシドとプロピレングリコールの縮合によって生成される、疎水性塩基を有するエチレンオキシドの高分子量付加物を含む。非経口製剤は、アンプルおよびバイアルなどの容器に密封された単位用量または多回用量で提供され得、使用直前に注射のために例えば水などの無菌液体賦形剤の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。
【0125】
しかし、本発明による薬剤送達の主な経路は、薬剤を血流に導入して最終的に関連組織を標的にするために、非経口である。
【0126】
一つの実施形態では、薬剤は、生物学的に活性な物質が与えられる動物のいずれかの粘膜を通過するように投与され、例えば、鼻腔、膣、眼、口腔、生殖器、肺、胃腸管、または直腸など、好ましくは鼻腔または口腔で投与される。
【0127】
好ましい実施形態では、本発明の薬剤は非経口的、すなわち静脈内、筋肉内、脊髄内、皮下、鼻腔内、直腸内、膣内または腹腔内投与によって投与される。非経口投与の皮下および筋肉内剤形が一般的に好ましい。このような投与に適した投与剤形は、従来技術によって調製され得る。化合物はまた、吸入によって投与され得、それは鼻腔内および経口吸入投与による。このような投与に適した投与剤形、エアゾール製剤または計量式吸入器などは、従来技術によって調製され得る。
【0128】
一つの実施形態では、本発明による医薬組成物は、注射によるなどの非経口投与用に製剤化される。
【0129】
さらなる実施形態では、本発明による医薬組成物は、静脈内、筋肉内、脊髄内、腹腔内、皮下、ボーラスまたは持続投与のために製剤化される。
【0130】
投与の速度および頻度は症例ごとに基づき医師によって決定され得る。一つの実施形態では、投与は30分~24時間の間隔で行われ、1~6時間など、1日1回などである。
【0131】
治療期間は障害の重度に応じて変動し得る。一つの実施形態では、治療期間は1~28日であり、2~25日など、5~20日など、7~15日などである。慢性症例では、治療期間は終生であり得る。
【0132】
投与量は患者の特性、ならびに投与の手段および方式に基づいて担当の医師によって決定され得る。本発明の一つの実施形態では、前述で本明細書において定められる医薬組成物の有効化合物の投与量は、kg体重あたり0.1~1000mgである。
【0133】
投与量は、ボーラス投与として、または持続投与として投与され得る。ボーラス投与に関して、医薬組成物は1日1回など、30分~24時間の間隔で投与され得る。
【0134】
いくつかの実施形態では、組成物のpHはpH4~10である。
【0135】
いくつかの実施形態では、組成物は経口投与用に製剤化される。
【0136】
いくつかの実施形態では、組成物は非経口投与用に製剤化される。特定の実施形態では、非経口投与は注射による。このような非経口は、静脈内、筋肉内、脊髄内、腹腔内、皮下、ボーラスまたは継続投与であり得る。
【0137】
一つの実施形態では、本明細書で開示される組成物は血清中で安定なヘパリンアナログである。
【0138】
また本明細書において、特に投与後に非毒性である、前述で定められる化合物が提供される。いくつかの実施形態では、化合物は投与後に非毒性であるヘパリンアナログである。
【0139】

例1:PCSK9中のHSPG結合部位のマッピング。
PCSK9(PDB:2PMW)の静電表面を試験し(図2B)、PCSK9プロドメインに位置する6個の表面暴露された塩基性残基からなる推定ヘパリン結合部位を特定した。結合部位は93、96、97、104、および105位のアルギニン(R)残基および139位のヒスチジン(H)によって形成され、これはヘパリンペンタサッカライド(SANORG)の硫酸基と完全な対を示す(Herbertら,1996)(Herbertら,1996)(図2Bおよび2C)。この部位はPCSK9の不活性触媒領域に位置するLDLR結合表面の反対側に認められる(図2A)。LDLR(PDB:3P5B)との複合体におけるPCSK9の共結晶構造へのヘパリンフラグメントの結合は、硫酸ヘパラン結合がその後のPCSK9:LDLR複合体形成を可能にすることを示唆する(図3C)。
【0140】
例2:ヘパリナーゼ処理はインビトロでPCSK9細胞表面会合を阻害しかつインビボでPCSK9誘発性分解に対しLDL受容体を保護する。
本発明者らはHSPGがPCSK9の捕捉に関与し得ると推測した。このため、PCSK9を安定に発現するヒト肝細胞由来HepG2細胞をヘパリナーゼIで処理した。酵素ヘパリナーゼIは硫酸ヘパランGAG鎖をウロン酸とN-アセチル-D-グルコサミンの間の1,4O-結合で切断し、これによって細胞表面硫酸ヘパラン鎖を取り除く。
【0141】
PCSK9で安定にトランスフェクションされたHepG2細胞を、カバーガラスあたり50.000個で播種し一昼夜インキュベーションし、その後PBS中のヘパリナーゼI(シグマアルドリッチ、H2519)(0.0002UN/mL)またはPBSのみを添加した。細胞を37℃で1時間インキュベーションしてから4%パラホルムアルデヒドで固定し、非透過細胞を第一および第二抗体によって免疫染色した。核をHoechst色素(シグマアルドリッチ)で視覚化した。画像をZeiss LSM780で取得した。
【0142】
実際に、処理は表面PCSK9染色の強度の顕著な低下をもたらし、HSPGがPCSK9細胞結合にとって重要であることを示唆した(図2D)。
【0143】
インビボでのPCSK9活性に対する硫酸ヘパランGAGの酵素的除去の効果を試験するため、10~12週齢雄BALB6/cJRjマウスに、PCSK9(10μg)の注射5分前に、尾静脈カテーテルを通して投与するヘパリナーゼI(30U)を注入した。コントロールマウスでは、ヘパリナーゼ注射および/またはPCSK9注射を0.9%生理食塩水の注射に代えた。ヘパリナーゼ注入の間、マウスはマスクを通して継続的に投与されるイソフルランによって軽く麻酔された。注射1時間後、マウスを屠殺し肝細胞サンプルを収集し、タンパク質の抽出およびウェスタンブロットによるLDLR量の評価前に急速凍結した(図10A)。ヘパリナーゼIの注射はPCSK9誘発性分解からLDLRを完全に防ぎ、HSPGがインビボでのLDLRのPCSK9誘発性分解において有用であることを示す(図10AおよびB)。
【0144】
PCSK9と硫酸ヘパランGAG鎖の間の直接的な相互作用を確認するため、ヘパリンと共有結合されたセファロースビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーを使用した。
【0145】
精製PCSK9を、PBS中の5mLのHiTrapヘパリンHPカラム(GEヘルスケア)に加えた。カラムをAkta Primeに接続し、5カラム容量の10mMのNaHPO(pH7.4)で洗浄した。PCSK9を10mMのNaHPO(pH7.4)と2MのNaClの直線勾配を用いて溶出し、画分をSDS-PAGEによって分析した。測定された導電率に基づき、溶出プロファイルを変換係数0.065mS/mM NaClを用いてNaCl濃度の関数に変換した。精製PCSK9はヘパリンカラムに保持され約500mMのNaCl濃度で溶出され(図2E)、ヘパリンとの強くて高い特異的相互作用を示した。
【0146】
別の実験では、目的のPCSK9変異体でトランスフェクションしたHepG2細胞またはCHO細胞からの条件化培地を、10mM NaHPO(結合緩衝液)中のヘパリンセファロースCL-6Bビーズ(GEヘルスケア)とインキュベーションした。ローター上で4℃にて一昼夜インキュベーション後に、ビーズを結合緩衝液で洗浄し、その後NaClの濃度を高めてヘパリン結合タンパク質をバッチ溶出した。添加、フロースルー、および溶出画分中のPCSK9をウェスタンブロッティングによって評価した。
【0147】
HepG2細胞の条件化培地由来の内因性PCSK9もヘパリンと結合し、十分確立されているHSPG結合タンパク質であるアポEと同様の溶出プロファイルを示すことを認めた。(図3D)。
【0148】
例3:PCSK9/HSPG相互作用にとって重要な残基の同定。
PCSK9/HSPG相互作用に関与する重要な残基をさらに絞り込むため、HSPG結合モチーフに点変異を有するPCSK9変異体をクローニングし発現させた。変異はPCRによって導入し、3D構造モデル結合によって同定された荷電アミノ酸アルギン(Arg/R)、リジン(Lys/K)、およびヒスチジン(His/H)を、アラニン(Ala/A)などの中性残基によって置換した。
【0149】
ヒト野生型および下記のアラニン置換変異体を分析した。
野生型PCSK9(SEQ ID NO:1)
変異体R93
変異体R96R97
変異体R104R105
変異体R165R167
変異体R93R104R105H139A
変異体R93R96R97R104R105H139
【0150】
不適切に折り畳まれたPCSK9は一般的に、プロペプチドに切断されず、従って小胞体に留まるため、PCSK9変異体の正しい折り畳みを、それらのプロセシングおよび分泌をモニタリングすることによって評価できる。プロPCSK9の成熟タンパク質へのプロセシングおよび成熟PCSK9変異体の分泌を、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の一時的トランスフェクション、続いて細胞溶解物および周辺培地中のPCSK9のウェスタンブロット分析によって評価した(図3A)。
【0151】
ヘパリンに結合するPCSK9変異体タンパク質の能力を、アフィニティークロマトグラフィー、続いて抗PCSK9抗体によるウェスタンブロッティングによって評価した。目的のPCSK9変異体でトランスフェクションしたCHO細胞からの条件化培地を、10mM NaHPO(結合緩衝液)中のヘパリンセファロースCL-6Bビーズ(GEヘルスケア)とインキュベーションした。ローター上で4℃にて一昼夜インキュベーション後に、ビーズを結合緩衝液で洗浄し、その後NaClの濃度を高めてヘパリン結合タンパク質をバッチ溶出した。添加、フロースルー、および溶出画分中のPCSK9をウェスタンブロッティングによって評価した。
【0152】
変異体R93、R96R97およびR104R105は野生型PCSK9または変異体R165R167と比べてヘパリンに対して低い親和性を示し、変異体R93R104R105H139およびR93R96R97R104R105H139はヘパリンを結合せず、フロースルーにのみ認められる(図3B)。
【0153】
例4:変異されたHSPG結合領域を有するPCSK9変異体はLDL受容体分解を誘発できない。
精製PCSK9変異体を細胞アッセイで試験して、野生型PCSK9と比較してLDLRの分解を誘発するそれらの能力を試験した。LDLR分解の誘発は、野生型PCSK9(WT)または上記PCSK9変異体とのHepG2細胞のインキュベーションによって分析し、LDLR量をウェスタンブロッティングによって評価した。HepG2細胞を12ウェルプレートにウェルあたり250.000個の密度で接種した。一昼夜インキュベーション後、培地をPCSK9WTまたは変異体R93R96R97R104R105H139を含む新鮮な培地と交換した。細胞を収集し18時間インキュベーション後に溶解し、LDLR量をウェスタンブロッティングおよびデンシトメトリーによる定量によって評価した。
【0154】
変異体R93R96R97R104R105H139とインキュベーションされた細胞中のLDLR量は、WT PCSK9とインキュベーションされた細胞中で測定された量と比べて顕著に高く(約2倍)(図4AおよびB)、HSPG結合領域内の変異がPCSK9誘発性LDLR分解の低下をもたらしたことを示す。
【0155】
例5:ヘパリンおよびヘパリンアナログはPCSK9:LDLR複合体形成を妨げる。
近接ライゲーションアッセイ(PLA)を用いて、外因的に加えられたヘパリンが内因性PCSK9の結合に対し細胞表面HSPGと競合し、これによってPCSK9:LDLR複合体形成を妨げるかどうか試験した(Soderbergら,2006)。
【0156】
PLA(Duolink(登録商標)II,Olink Bioscience)を、第一抗体として抗PCSK9(R&D systems、AF3888)、および抗LDLR(Abcam、ab52818)を用いて、製造業者のプロトコルに従って実施した。互いに30nm以内に位置するPCSK9とLDLRを、環状オリゴヌクレオチドとハイブリダイゼーションしローリングサイクル増幅を開始させるオリゴヌクレオチド共役体化第二抗体によって視覚化する。増幅されたDNAを、相補的な蛍光標識オリゴヌクレオチドの添加によって視覚化する(Soderbergら,2006)。
【0157】
このアッセイを非透過処理HepG2細胞中の内因性の細胞表面PCSK9およびLDLRに対して用いて、PCSK9:LDLR複合体の多量なクラスターが観察された(図5D)。これらはヘパリンとのインキュベーションで数および強度の両方が顕著に低下され、HSPGへのPCSK9結合が、その後の細胞表面LDLRとの複合体形成において役に立つことを示唆する。
【0158】
HepG2細胞のヘパリン(50U/mL、18時間)とのインキュベーションはLDLRタンパク質の2~3倍高い量をもたらした(図5A~5B)ことを認め、同様な効果が低分子量ヘパリンの他の2種の治療用調製物で観察された(図8A)。
【0159】
ヘパリン処理したHepG2細胞中の細胞LDLRの増加は用量依存的であり、培地中のPCSK9の顕著な増加を伴った(図6B)。PCSK9濃度をR&D Systemsから入手したヒト(DPC900)Quantikine ELISAキットを用いて、製造業者のプロトコルに従って測定した。
【0160】
ヘパリンによって誘発された細胞LDLRおよび細胞外PCSK9の増加は、最も高いヘパリン濃度でのPCSK9以外、mRNAでの変化を認めなかったため、翻訳後の段階で生じた(図6C)。
【0161】
HepG2細胞からのRNA抽出をNucleoSpin RNA調製キット(Macherey-Nagel)を用いて行い、続いての0.5μgRNA鋳型からのcDNA合成をiScript(商標)cDNA合成キット(BIORAD)を用いて実施した。リアルタイムPCRを以下のプライマーを用いてiQ SYBR(登録商標)GreenスーパーミックスおよびiTaq(商標)ポリメラーゼにより実施して、LDLR(フォワードプライマー5’ACGGCGTCTCTTCCTATGACA3’、リバースプライマー5’CCCTTGGTATCCGCAACAGA3’)、PCSK9(フォワードプライマー5’CCTGGAGCGGATTAC-CCCT3’、リバースプライマー5’CTGTATGCTGGTGTCTAGGAGA3’)、およびGAPDH(フォワードプライマー5’ACAACTTTGGTATCGTGGAAGG3’、リバースプライマー5’GCCATCACGCCACA-GTTTC3’)の転写物を検出した。
【0162】
25U/mLヘパリンが、PCSK9 mRNAの2倍増加にも関わらず、LDLRの約2.5倍の増加から証明されるようにPCSK9活性と効果的に拮抗することを認めた(図8B)。
【0163】
ヘパリン(50U/mL)と24時間インキュベーションされたHepG2細胞はウェスタンブロッティングによって評価したとき、LDLR量の増加を示した(図5A)。LDLR量をデンシトメトリーによっても定量した(n=4)(図5B)。ヘパリンとのインキュベーションは、ELISAによって測定されるとき、培地におけるPCSK9量の増加ももたらした(図5C)。
【0164】
ヘパリンは、製造業者のプロトコルに従いPCSK9/LDLR結合アッセイ(BPS Bioscience)によって分析するとき、PCSK9とLDLRの間の直接的な相互作用に干渉しない(図6A)。簡単に説明すると、LDLR細胞外領域でコーティングされたマイクロタイタープレートウェルを、ヘパリン(5または50U/mL)またはPCSK9のLDLR結合領域に対する抗PCSK9抗体((BPS Bioscience No.71207)の存在下で、ビオチニル化PCSK9とインキュベーションした。洗浄後、ウェルをホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジンとインキュベーションし、PCSK9のLDLR細胞外領域への結合をHRP基質の添加および化学発光マイクロプレートリーダーを用いるシグナルの測定によって評価した。
【0165】
PCSK9とLDLRの間の相互作用はヘパリンの添加によって影響されず、ヘパリンのPCSK9への結合は、PCSK9と細胞表面HSPGの相互作用を妨げることによってLDLR分解の低下をもたらすことが示される。
【0166】
フォンダパリヌクス(アリクストラ)(25、100、または250μg/mL)と24時間インキュベーションしたHepG2細胞は、ウェスタンブロッティングによって評価したとき、LDLR量の増加を示した(図7)。これらの結果は、フォンダパリヌクスなどのヘパリンアナログのPCSK9との結合は、PCSK9と細胞表面HSPGの相互作用を妨げることによってLDLR分解の低下をもたらすことを示す。
【0167】
例6:ヘパリン模倣剤はPCSK9:LDLR相互作用を妨げる。
ヘパリンの構造を模倣するいくつかの分子が多くの治療適用のためにここ100年にわたって開発されており、いくつかが現在臨床使用されている。これらはヘパリン模倣剤と称され、様々なオリゴサッカライド、オリゴヌクレオチドおよびナフタレン誘導体を含む、多様な化学系統に属する。ヘパリン模倣剤のサブセットを、HepG2細胞中でPCSK9を結合しLDLRを増加するそれらの能力について試験した(図9)。
【0168】
PCSK9とリガンド(スラミン、硫酸デキストラン5000、デキストラン5000、硫酸ペントサンおよびS-dC-36)の間の平衡結合親和性を、マイクロスケール熱泳動(MST)(Jerabek-Willemsenら,2011)を用いて評価した。PCSK9をMO-L003 Monolith Blue-NHS標識キット(NanoTemper Technologies)によって標識し、色素に対するタンパク質のモル比1:1の標識効率を達成した。PCSK9を100nMの最終濃度で加えた。非標識結合パートナーを1:1希釈(PBS+0.05%ツイーン20)で用量設定し、最大濃度はスラミンで15.4mM、硫酸デキストラン5000で2.3mM、デキストラン5000で2.3mM、硫酸ペントサンで16.3mM、およびS-dC-36で250μMだった。MST測定を、20%LEDおよび80%MST出力を用いてMonolith NT.115装置(NanoTemper Technologies)によって標準処理したキャピラリー(NanoTemper Technologies)で実施した。レーザーのオンおよびオフ時間はそれぞれ5秒および35秒だった。陰性コントロールは、全16本のキャピラリーでMST緩衝液中の100nMの標識PCSK9を用いて、上記と同一条件で実施した。結合曲線を、スラミン、硫酸デキストラン5000およびS-dC-36について80%MST出力の温度ジャンプ相から、硫酸ペントサンについて80%MST出力の熱拡散+温度ジャンプ相から得た。各結合パートナーについて、シグモイド型用量-応答曲線をGraphPad Prism6によってフィッティングして平均KD値を得た。PCSK9の蛍光消失が高濃度のスラミンの存在下で観察されたため、変性試験を、PCSK9を10%SDSで前処理しサンプルを90oCで15分間加熱してからMST装置で分析することによって実施した。これは消失効果を排除し、非変性条件下のPCSK9の蛍光消失が実際のリガンド結合事象に起因することを示した。
【0169】
硫酸化オリゴサッカライドである硫酸デキストラン(図9C)および硫酸ペントサン(図9F)はMSTを用いて測定したとき、ともにPCSK9にそれぞれ179.5μMおよび381.3μMの親和性で結合し、細胞LDLRの用量依存的増加をもたらし(図9A~Bおよび図9D~E)、コントロールと比べて約400%のプラトーに達し、このアッセイにおいてスタチンの最大効果よりも著しく優れていた。相互反応は、非硫酸化デキストランがPCSK9に対する親和性を示さなかったように、硫酸基の存在に依存した。硫酸化ナフタレン誘導体であるスラミンは、アフリカ睡眠病の抗寄生虫剤であり、190μMの親和性でPCSK9と結合し(図9H)最大で15倍のLDLRの増加(図9A、9G)をもたらし、蛍光標識LDL粒子の細胞内取り込みの増加を伴うった(図12)。さらに36マー一本鎖DNA分子(ホスホロチオアートオリゴデオキシシチジン、S-dC-36)を試験し、それが4.8μMのKDでPCSK9を結合し(図9K)、この濃度範囲で強力な阻害効果を示したことを認めた(図9I~J)。
【0170】
例7:PCSK9は特定の糖組成物および硫酸化パターンに選択性を示す。
PCSK9の負電荷糖との相互作用の特異性および選択性を詳細に調査するため、ヘパリンの所定の鎖長および硫酸化パターンを含む固定された合成細胞外マトリックスグリカン(図14A)ならびに関連するグリコサミノグリカンである硫酸ケラタンおよび硫酸デルマタンからなるグリカンマイクロアレイへのPCSK9結合を分析した。
【0171】
硫酸ヘパラン/ヘパリンの合成オリゴサッカライド、硫酸ケラタン、硫酸デルマタンおよび5kD天然ヘパリン(Santa Cruz)を含む細胞外マトリックスグリカンマイクロアレイを、250μMスポッティング溶液を用いて既に報告されているように調製した(Hechtら,2009、de Pazら,2006)。スポッティング後に、マイクロアレイスライドを湿潤なチャンバー中で一昼夜インキュベーションし、続いて水で3回洗浄し、50mMエタノールアミン溶液、pH9.により50℃で1時間クエンチングして残存反応基を除いた。スライドを水で3回洗浄し、PBS中の1%(w/v)BSA、pH7.4で室温で1時間ブロッキングし、遠心分離(5分、300×g)により乾燥した。1%(w/v)BSA-PBSで希釈したPCSK9(25μg/mL)を湿潤なチャンバー中で4℃一昼夜インキュベーションした。0.1%(v/v)ツイーン-PBSによる3回洗浄ステップ後、1%BSA-PBSで希釈されプレインキュベーションされた0.1μg/mLヒト化抗PCSK9mAbおよび5μg/mLヤギ抗ヒトIgGAlexa Fluor647 (Life Technologies)とのインキュベーションを室温で1時間実施した。スライドを0.1%(v/v)ツイーン-PBSで3回洗浄し、水で1回すすぎ遠心分離により乾燥した。データ取得のため、スライドをGenePix4300マイクロアレイスキャナー(Molecular Devices,Sunnyvale,Ca,USA)を用いて、Alexa Fluor 647を635nmで励起してスキャンした。光増幅装置(PMT)値を、飽和なしにスキャンを示すように設定した。中央蛍光値をGenePix Pro7ソフトウェア(Molecular Devices)により決定した。
【0172】
PCSK9は、それぞれ3回および2回の反復を含む硫酸ヘパラン/ヘパリン構造IおよびVIIの結合から明らかなように、[4)-α-GlcN-6,N-二硫酸(1→4)-α-IdoA-2-硫酸-(1→]からなるヘパランジサッカライド反復に対する選択性を示した(図14B)。1つの反復のみからなる硫酸ヘパラン/ヘパリン下位構造では結合が観察されず、効率的な結合には最小限2回反復が必要とされた。GlcNのアミノ基における硫酸基およびGlcNの炭素6位およびIdoAの炭素2位におけるエステル結合した硫酸基の必要性も、硫酸ヘパラン/ヘパリン下位構造であるヘパランI、ヘパランIIおよびヘパランIIIへの結合を比較することにより明らかだった。
【0173】
これらの結果は、特定の糖組成および硫酸化パターンに対するPCSK9の優先性を実証した(図14B)。
【0174】
例8:低分子量ヘパリンの治療用調製物はLDLRをPCSK9により誘発される分解に対して保護する。
低分子量ヘパリン調製物であるフラグミン(1~100U/mL)またはイノヘップ(1~100U/mL)と一昼夜インキュベーションされたHepG2細胞は、ウェスタンブロッティングで評価したとき、増加したLDLR量を示した(図8A)。フラグミンおよびイノヘップの効果は、ヘパリン(図5A)およびペンタサッカライドであるアリクストラ(図7)の効果に匹敵した。
【0175】
これらの結果は、鋳型としてヘパリン:PCKS9複合体を用いる構造をベースとした薬剤設計が、小分子PCSK9阻害剤の開発に適していることを示す。
【0176】
例9:ヘパリンはインビボでLDLRをPCSK9により誘発される分解から保護する。
マウス(BALB6/cJRj)に10μgのヒト組換えPCSK9単独のまたはヘパリン(50U)と組み合わせた単回静脈投与(尾静脈)を実施した。注射の1時間後、マウスを屠殺し肝組織を収集した。膜タンパク質調製物でのLDLRのウェスタンブロット分析は、ヘパリンとの共注射を受けたマウスは、PCSK9単独を注射されたマウスと比べて有意に高い肝LDLR量を示した(図8B図8Cで定量)。
【0177】
これらの結果は、PCSK9:ヘパリン相互作用が小分子PCSK9阻害剤の開発のための枠組みをもたらし得ることを示す。
【0178】
例10:スタチン治療に応答しない患者においてLDLコレステロールを低下する。
増加したLDLコレステロールを有する患者はスタチン治療を処方される。患者はスタチン治療に応答しない。患者は次いでヒトPCSK9中のHSPG結合部位をブロックするように設計されるヘパリンアナログを含む組成物の25~500mgの皮下注射による治療を処方される。注射を1~28日の間隔で実施する。LDL-C量の顕著な低下が認められ、ヘパリンアナログの非経口投与がスタチン治療に応答しない患者においてLDL-C量の低下をもたらし得ることを示す。
【0179】
例11:PCSK9のHSPG結合部位に対するヘパリンアナログを用いてLDLコレステロールを低下する。
増加したLDLコレステロールを有する患者は、ヒトPCSK9中のHSPG結合部位をブロックするように設計されるヘパリンアナログの投与を処方される。化合物は0.1~30mg/kgの用量にて経口で投与される。LDL-C量の顕著な低下が認められ、ヒトPCSK9中のHSPG結合部位をブロックするように設計されるヘパリンアナログの経口投与が患者においてLDL-C量の低下をもたらし得ることを示す。
【0180】
例12:スタチン治療に応答しない患者においてLDLコレステロールを低下する。
患者は増加したLDL-C量に対してスタチン治療を受ける。しかし、LDL-Cの最初の低下後に、スタチンにより誘発されたPCSK9の発現増加によって、治療はLDL-C量を有意に低下させることに成功しない。
【0181】
スタチンに加えて、患者はHSPGのPCSK9への結合を阻害する化合物を投与される。投与は毎週、スタチンと組み合わせた化合物の低用量(25~150mg)で行われる。LDL-C量の顕著な低下が認められ、所望のLDL-C量にいたる。
【0182】
この例は、スタチンをベースとする治療にヘパリンアナログの投与を補充することによって、LDL-C量をうまく低下し得ることを示す。
【0183】
例13:変異されたHSPG結合部位を有するPCSK9はLDLコレステロール量を増加できない。
野生型PCSK9およびPCSK9のHSPG結合変異体を、CGジヌクレオチドフリー発現プラスミド(Invivogen)の流体力学尾注射によってマウスの肝臓で過剰発現させ、これらのプラスミドはCG塩基対のメチル化によって不活性化する傾向がある従来のプラスミドと比べて長期の発現を示す。野生型PCSK9の過剰発現は、LDLRの分解の増加を誘発し、血清LDLコレステロールの上昇をもたらし、これによって「機能獲得」変異体として作用する。PCSK9のHSPG変異体は、「機能喪失」変異体として作用し、LDL受容体の分解低下によって血清LDLコレステロール量増加を低く上昇させる。
【0184】
結果は、動物におけるLDL受容体の分解におけるPCSK9のHSPG結合領域の重要な役割を実証する。
【0185】
例14:ヘパリンおよびヘパリン模倣剤とのPCSK9の相互作用に基づいた小分子PCSK9阻害剤の構造をベースとした設計。
小分子量ヘパリンおよびヘパリンアナログの中から選択された候補化合物を、HepG2細胞培養アッセイでPCSK9機能を阻害しLDLR量を増加するそれらの能力について試験する。ヘパリンアナログであるフォンダパリヌクス(商標名アリクストラ)を対照化合物として使用する。得られる構造情報を使用して3~5種のファルマコフォアモデルを導き、それを使用して3百万の入手可能な化合物の既存データベースをスクリーニングする。多様性に基づく50種の化合物のコレクションを、HepG2細胞における機能的試験のために選択する。良好な阻害剤は分子結合モデルの校正および購入可能な化合物の第二スクリーニングを促進する。50種の化合物を、購入およびインビトロ試験のために選択する。3種の最も有望な候補を引き続きマウスモデルで試験して、肝臓中のLDLR量および血漿中のコレステロールに対する影響をインビボで評価する。
【0186】
例15:PCSK9阻害剤候補の試験。
PCSK9阻害剤候補の前臨床試験を、LDLRについてヘテロ接合(LDLR+/-)であり、内因性ネズミPCSK9プロモーターの制御下でヒトPCSK9の発現を有する冠状動脈疾患マウスモデルを用いて実施する。西洋型食餌で飼育されたマウスをPCSK9阻害剤により6~8ヶ月間治療し、解剖した大動脈での脂肪沈着のオイルレッドO染色後に顕微鏡によりアテローム硬化性プラーク領域を評価する。コレステロールの血漿濃度を実験期間中2ヶ月毎にELISAにより評価する。
【0187】
これらの試験は、血清コレステロールを低下するPCSK9阻害剤候補物質の能力評価を可能にする。
【0188】
例16:硫酸デキストランおよびペントサンはLDLRをPCSK9誘発性分解から保護する。
修飾ポリサッカライド化合物のヘパリン模倣剤系で、硫酸デキストラン(図9A~B)およびペントサン(図9D~E)を、HepG2細胞をベースとしたインビトロ細胞アッセイで試験した。一昼夜インキュベーション後の、LDLR量をウェスタンブロッティングによって評価し、硫酸デキストラン(0~200μg/mL)による治療でLDLRの最大で3倍の上方調節を伴うLDLRの濃度依存的増加を示した。ペントサン(0~200μg/mL)インキュベーションは、50μg/mLからの濃度で4倍のLDLR増加をもたらした。
【0189】
例17:肝LDLR量に対するペントサンの効果。
ポリ硫酸ペントサンを、ヒトPCSK9を発現するマウスに注射して、PCSK9誘発性分解に対してLDLRを保護する本物質の能力を評価する。
【0190】
これらの試験は、ペントサンの投与がインビボでLDLR量の増加をもたらすことを確証する。
【0191】
例18:血清コレステロール量に対するペントサンの効果。
増加した血清コレステロールを有する患者をポリ硫酸ペントサンの経口または皮下注射によって治療して、血清コレステロールを低下させる本物質の能力を評価する。ポリ硫酸ペントサンは、製造業者による経口用量の摂取後2時間の中央値で消化管から吸収される。コレステロール量を次いで測定する。
【0192】
これらの試験は、ペントサンが血清コレステロール量の低下をもたらすことを確証する。
【0193】
例19:イノヘップ画分のPCSK9阻害効果。
イノヘップ(低分子量ヘパリン)は5000~8000Daのサイズ範囲のヘパリンフラグメントを含み、PCSK9活性の強力な阻害剤である。PCSK9阻害フラグメントをさらに同定するため、イノヘップをサイズ排除クロマトグラフィーにより分画した(図18A)。得られた画分を、PCSK9を阻害し細胞のLDLR量を増加するそれらの能力についてHepG2細胞をベースとしたアッセイで試験した(図18B)。このアッセイでは、多くの画分がサッカライド濃度20μMとの一昼夜インキュベーション後にLDLR量を増加する(2~5倍)ことが認められた。最も高いLDLR量はサイズ除外画分H6で得られ、これを続いて強アニオン交換(SAX)クロマトグラフィーに供した(図19A)。HepG2細胞を得られたSAX画分(500nM)とインキュベーションし、LDLR量を評価した(図19B)。SAX画分I1、I8、およびI9はPCSK9阻害活性を有するヘパリン画分を含み、試験した濃度(500nM)でLDLR量を最大で2倍増加する。
【0194】
例20:化合物(X)はビアコアアッセイにおいてヘパリンへのPCSK9の結合を阻害する。
アルブミン(シグマ、A4503)またはヘパリン-アルブミン(シグマ、H0403)のいずれかと結合されたセンサーチップを用いるビアコア分析を使用して、PCSK9とヘパリンの間の相互作用を評価した。分析は、PCSK9が700pMの親和定数でヘパリン-アルブミンに結合し(図20A)、アルブミンと結合されたコントロールセンサーチップへの結合は認められない(図20B)ことを示した。ビアコア分析を用いる干渉アッセイを実施して化合物(X)とPCSK9の間の結合を評価した。100nMのPCSK9溶液を増加する濃度(0nM、10nM、100nM、1μMおよび10μM)の化合物(X)とインキュベーションし、溶液をついでヘパリン-アルブミンと結合されたセンサーチップに注入した。結合曲線は、化合物(X)が50nMの推定IC50でヘパリン-アルブミンセンサーチップへのPCSK9の結合を阻害することを示した(図20C)。
【0195】
例21:化合物(X)はヘパリン-セファロースビーズへのPCSK9の結合を阻害する。
ヘパリン/硫酸ヘパランへのPCSK9の結合の化合物(X)阻害をヘパリン-セファロース結合アッセイで試験した。ヘパリン-セファロースビーズ(2μL)を、150μLの10mM NaHPOの全容量中で増加する濃度(0~500μg/mL)の化合物(X)を加えてPCSK9(1μg/mL)とインキュベーションした。4℃で一昼夜回転後に、ビーズをペレット化し上清中の非沈殿化PCSK9(遊離PCSK9)の濃度をELISAによって評価した。各サンプル中の遊離PCSK9の濃度を、ヘパリン-セファロースビーズ無添加サンプル中のPCSK9(添加コントロール)に対して基準化した。陽性コントロールとして、可溶性ヘパリン(5mg/mL)を含むサンプルを含めた(図16A)。化合物(X)(500~200μg/mL)は本アッセイにおいて、ヘパリン-セファロースとのPCSK9の相互作用を完全に阻害した。比較として、可溶性ヘパリンの添加は50%阻害をもたらした。これらの結果は、化合物(X)がインビトロでヘパリンへのPCSK9の結合を効率的に阻害することを示す。
【0196】
例22:化合物(X)はインビトロでPCSK9に対してLDLRを保護する。
化合物(X)(0~200μg/mL)と24時間インキュベーションされたHepG2細胞は、細胞溶解物のウェスタンブロッティングにより評価しデンシトメトリーにより定量したときに、濃度依存的に増加するLDLR量を示した(図16B)。コントロール細胞を添加剤無添加(陰性コントロール)または500μg/mLヘパリン添加(陽性コントロール)とインキュベーションした。LDLR量を添加剤無添加でインキュベーションされたHepG2細胞の溶解物中で認められる量に対して計算した。化合物(X)インキュベーションは、最大で12倍高いLDLR量をもたらした。比較のため、ヘパリン(500μg/mL)とインキュベーションされた細胞は、約3倍高いLDLRを示した。
【0197】
これらの実験は、化合物(X)がHepG2細胞中でPCSK9誘発性分解に対してLDLRを保護することを示す。
【0198】
例23:化合物(X)はインビボでLDLRのPCSK9誘発性分解を阻害する。
マウス(BALB6/cJRj)にPCSK9(10μg)を注射する60分前に、3.2μg化合物(X)の単回静脈内(尾静脈)投与を実施した。肝LDLRのPCSK9誘発性分解をPCSK9注射の60分後にウェスタンブロッティングによって評価し、デンシトメトリーによって定量した(図16C)。コントロールマウスは、NaClまたは市販のPCSK9阻害モノクローナル抗体(Amgen)であるコントロール阻害剤エボロクマブ(200μg)を注射された。LDLR量をNaClのみ注射されたマウスでのLDLR量に対して算出した。LDLR量は阻害剤の前注射なしにPCSK9を注射されたマウスで50%低下し、一方、化合物(X)(0.13mg/kg)またはエボロクマブ(8mg/kg)を注射されたマウスで低下は認められなかった。これらの試験は、PCSK9注射前の化合物(X)の投与が、非常に低い投与量でエボロクマブと同様に効率よくLDLRを保護することを示す。
【0199】
例24:HepG2細胞におけるLDL-コレステロール排除に対する化合物(X)の効果。
96ウェルに接種したHepG2細胞を化合物(X)(200μg/mL)と一昼夜インキュベーションする。翌日にDiI蛍光色素(Thermo Fisher Scientific)で標識されたLDL粒子(5μg/mL)を加え、37℃で4時間インキュベーションする。PBSによる細胞の洗浄後に、LDL粒子の細胞取り込みを励起/放出552/573nmで評価する。-80℃での一昼夜インキュベーション後に、ウェルあたりの細胞数をCyQuant Cell Proliferation Assay(Thermo Fisher Scientific)を用いて定量する。
これらの試験は、PCSK9活性の化合物(X)阻害が、インビトロでLDLコレステロールの取り込みを増加することを確証する。
【0200】
例25:ヒトにおける血清LDL-コレステロール量に対する化合物(X)の効果。
増加した血清LDL-コレステロール量を有する患者を化合物(X)(適量)の週1回静脈内注射によって6週間治療して、LDL-コレステロール低下治療としての化合物(X)の能力を評価する。LDL-コレステロール(HPLC)を、治療前および治療期間中に週1回サンプリングされる血液で測定する。
これらの試験は、化合物(X)が高コレステロール血症を有するヒトで血清LDL-コレステロールを低下することを確証する。
【0201】
例26:硫酸化ヘキサマーおよび18マーヘパリンはインビトロでPCSK9機能を阻害する。
HepG2細胞を、ジサッカライドあたり平均1.3の硫酸を含む不均一に硫酸化されたヘキサマーまたは18マーのオリゴサッカライドの0~200μg/mLとインキュベーションした。一昼夜インキュベーション後に、細胞を収集し細胞のLDLR量をウェスタンブロッティングにより分析し(図17A)デンシトメトリーにより定量した(図17B)。これらのヘパリンのいずれかとインキュベーションされた細胞は、試験した最高濃度(200μg/mL)でコントロールと比べて6~8倍増加した細胞LDLR量を示す。さらに、ヘキサマーは10μg/mLの低い濃度で強力なPCSK9阻害効果を有する。
【0202】
例27:スクロースオクタ硫酸はヘパリン-セファロースビーズへのPCSK9の結合を阻害する。
ヘパリン/硫酸ヘパランへのPCSK9の結合のスクロースオクタ硫酸(図21A)阻害を、ヘパリン-セファロース結合アッセイで試験した。ヘパリン-セファロースビーズ(2μL)を、150μLの10mM NaHPOの全容量中でPCSK9(1μg/mL)および増加する濃度(0~500μg/mL)のスクロースオクタ硫酸とインキュベーションした。4℃で一昼夜回転後に、ビーズをペレット化し上清中の非沈殿化PCSK9(遊離PCSK9)の濃度をELISAによって測定した。遊離PCSK9のパーセントは、ヘパリン-セファロースビーズ無添加のサンプル中のPCSK9濃度(添加コントロール)に対して計算した(図21B)。500~250μg/mL濃度でスクロースオクタ硫酸は、本アッセイにおいてヘパリン-セファロースならびに5mg/mL可溶性ヘパリン(陽性コントロール)によるPCSK9沈殿を阻害した。これらの結果は、スクロースオクタ硫酸がインビトロでヘパリンへのPCSK9の結合を効率的に阻害することを示す。
【0203】
配列
SEQ ID NO:1:PCSK9タンパク質-NCBI登録番号:NG_009061.1
MGTVSSRRSWWPLPLLLLLLLLLGPAGARAQEDEDGDYEELVLALRSEEDGLAEAPEHGTTATFHRCAKDPWRLPGTYVVVLKEETHLSQSERTARRLQAQAARRGYLTKILHVFHGLLPGFLVKMSGDLLELALKLPHVDYIEEDSSVFAQSIPWNLERITPPRYRADEYQPPDGGSLVEVYLLDTSIQSDHREIEGRVMVTDFENVPEEDGTRFHRQASKCDSHGTHLAGVVSGRDAGVAKGASMRSLRVLNCQGKGTVSGTLIGLEFIRKSQLVQPVGPLVVLLPLAGGYSRVLNAACQRLARAGVVLVTAAGNFRDDACLYSPASAPEVITVGATNAQDQPVTLGTLGTNFGRCVDLFAPGEDIIGASSDCSTCFVSQSGTSQAAAHVAGIAAMMLSAEPELTLAELRQRLIHFSAKDVINEAWFPEDQRVLTPNLVAALPPSTHGAGWQLFCRTVWSAHSGPTRMATAVARCAPDEELLSCSSFSRSGKRRGERMEAQGGKLVCRAHNAFGGEGVYAIARCCLLPQANCSVHTAPPAEASMGTRVHCHQQGHVLTGCSSHWEVEDLGTHKPPVLRPRGQPNQCVGHREASIHASCCHAPGLECKVKEHGIPAPQEQVTVACEEGWTLTGCSALPGTSHVLGAYAVDNTCVVRSRDVSTTGSTSEGAVTAVAICCRSRHLAQASQELQ*
【0204】
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図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図9-5】
図9-6】
図9-7】
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図15
図16-1】
図16-2】
図17
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
図20-1】
図20-2】
図21
【配列表】
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