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特許7046387ナノ力学的プロファイリングよって癌の進行を予測するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】ナノ力学的プロファイリングよって癌の進行を予測するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20220328BHJP
   G01Q 60/24 20100101ALI20220328BHJP
   G01Q 80/00 20100101ALI20220328BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220328BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20220328BHJP
   G01N 3/14 20060101ALI20220328BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20220328BHJP
【FI】
G01N3/00 K
G01Q60/24
G01Q80/00 121
G01N33/48 M
G01N33/483 A
G01N3/14
C12N5/09
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020100354
(22)【出願日】2020-06-09
(62)【分割の表示】P 2017517738の分割
【原出願日】2015-10-05
(65)【公開番号】P2020160078
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】14187685.4
(32)【優先日】2014-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515160921
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】ロパリック,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】プロディネク,マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】オバーマン,エレン
(72)【発明者】
【氏名】ラエズ,クリスチャン
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-545110(JP,A)
【文献】国際公開第2012/069095(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0018249(US,A1)
【文献】特表2014-506819(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0058260(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0145246(US,A1)
【文献】国際公開第2013/087726(WO,A1)
【文献】特表2013-541338(JP,A)
【文献】国際公開第2009/142661(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0266665(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08 、
G01N 3/00 - 3/62 、33/48 -33/98 、
G01Q10/00 -90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍から得られた組織試料を分類するための方法であって、
- 少なくとも100μmの空間分解能で前記試料上の複数の点の各々について剛性値を決定し、結果として剛性分布を得ること、
- 前記組織試料に悪性腫瘍の可能性を割り当てること、ただし、1kPa未満の最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す試料が悪性腫瘍である可能性が高いと割り当てられ、
ここで、
- 前記組織試料は原発腫瘍の核及び周辺又は境界、並びに原発腫瘍の隣接の組織を含み、
- 第1の剛性分布は前記組織試料の第1の部位から得られ、及び、第2の剛性分布は前記組織試料の第2の部から得られ、
- 前記第1の部位は、腫瘍組織として組織学的に分類された前記腫瘍の一部に対応し、及び、前記第2の部位は、前記腫瘍の境界を超えていると組織学的に分類される隣接組織に対応し、
- 前記第1の剛性分布が1kPa未満の最大頻度を有する不均一な剛性分布であり、及び、前記第2の剛性分布が1kPa未満の剛性分布最大頻度が存在しないことによって特徴付けられた場合、前記腫瘍が、前記隣接組織に広がっている可能性が低いと分類され、及び、
- 前記第2の剛性分布が1kPa未満の剛性分布頻最大頻度が存在することによって特徴付けられた場合、前記腫瘍が、前記隣接組織に広がっている可能性が高いと分類される、前記方法。
【請求項2】
前記組織試料が組織生検試料、または切除標本である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の点がn1×n2点のグリッドとして配置され、前記グリッドが領域を規定する、請求項1~2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記組織試料の少なくとも2つの異なる領域の剛性値が決定され、及び前記領域の幾何学的中心間の距離が前記空間分解能の倍数であり、少なくとも10倍である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の点が、100、400、900、1000、1600、2500、3600、4900、6400、8100または10000の剛性値を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記組織試料が少なくとも7μmの直径を有する円柱状または角柱状の生検であることによって特徴付けられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍が、ヒト乳癌若しくはリンパ節、肺、骨、肝臓または脳の転移である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記剛性値が生理学的条件下で決定されることによって特徴付けられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
0.5kPa未満の最大頻度を示す原発腫瘍試料は、隣接する組織へ広がっていると分類される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
原子間力顕微鏡及び該原子間力顕微鏡と接続されたコンピューターを備え、該コンピューターは請求項1~9のいずれかに1項に記載の方法を実施するプログラムを実行するように構成される、腫瘍試料診断用装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
乳癌は最も頻繁に発生する悪性腫瘍であり、先進国の女性における癌死亡の最も頻繁な原因の第2位である。しかし、原発腫瘍が致死的であることはまれである一方で、癌関連死の原因の大半が転移である。転移の進行の予後マーカーとして役立ついくつかのパラメーターがあるが、重要な試みにもかかわらず、依然として個人のリスクを正確に予測することは可能でない。したがって、補助療法は、手術及び抗ホルモン療法によって単独に治療した患者へ頻繁に行われる。予後及び予測マーカーを含む、乳癌の現在の分類は、いまだに主に臨床的及び病理組織学的基準、すなわち患者の年齢、腫瘍の大きさ、リンパ節の関与、腫瘍の組織学的型、エストロゲン-及びプロエストロゲンレセプターの発現、HER2/neu及びKi67、並びに腫瘍の等級に基づいている。
【0002】
しかし、臨床病理学パラメーターのみに基づくリスク階層化は、誤った方向に導く可能性がある。特に初期のHER2/neu陰性乳癌(即ち病期I、IIA、IIB及びIIIA)では、これらの臨床病理学的因子は、実質的過剰なまたは過小の治療が起こり得るため、特に補助化学療法に関して臨床的意思決定を行うためには十分ではない。2007年から、国際的ガイドラインは、確立されたリスクアセスメントにさらに検査を加えることを推奨している。
【0003】
したがって、乳癌における研究の主な目的は、品質保証試験によって評価され、日常的に使用され、かつコストが許容できる予後マーカーの開発である。これらのマーカーは癌の診断を最適化し、治療の選択を導き、かつ患者のフォローアップを支援するのに役立つはずである。
【0004】
しかし、現在利用可能なすべての検査は、いくつかの欠点で悩んでいる。一般的に、それらは、明確なサブグループの患者、例えば中程度に分化した腫瘍を有するリンパ節陰性患者に対してのみ有効である。さらに、該検査は主に、中枢機関で行われ、中央検査所に腫瘍試料を送達するのに時間がかかる。さらに、試料処理に対するその場での(品質)制御はない。遺伝的及び微小環境因子に加えて、最近のデータでは、癌細胞とその環境との物理的相互作用が転移過程における重要なパラメーターであると示されている。それにもかかわらず、癌の生体力学を理解する労力は、組織レベルと単一細胞レベルの実験の間で大きく偏っている。その結果として、研究結果は1)自然組織の前後関係の欠如、2)腫瘍内異質性の割合を占める不十分な測定/分析に起因して、論じられている。これは、サブ細胞内分解能を有する組織セグメント全体を調べることは、発癌に関連する機械的変化をより包括的に理解することを与えることを強調している。これは、我々が、自然な生理的条件に近い患者からの純粋な組織生検の剛性プロファイルを、ナノメートルスケールの空間分解能で、前例のない剛性感度解析で測定するARTIDS(商標登録)(「Automated and Reliable Tissue Diagnostics」、US 8,756,711 B2,US 2014338073 A1,WO 2014090971 A1, WO 2015001119 A1, WO 2015018865 A1、引用として本書に組み込む)原子間力顕微鏡(AFM)に基づく診断装置を開発する動機となった。継続する2時間までで、ARTIDAアッセイは、10nmまでの尖鋭な針または先端(tip)を使用し、生検表面に10,000までのごく小さな窪みを作製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
米国特許第8,756,711号公報
米国特許出願公開第2014338073号公報
国際公開第2014/090971号公報
国際公開第2015/001119号公報
国際公開第2015/018865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、この背景に基づき、本発明の課題は、癌を病期に分類する及び/または、癌についての予後及び/または予測の情報を与えるための信頼における簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、独立請求項の主題によって達成される。
【0008】
定義
本明細書の文脈における剛性または弾性という用語は、加えられた力によっての変形に対する組織試料または組織の抵抗性を指す。該剛性または弾性はパスカル(Pa)における組織試料の弾性係数として測定される。軟性組織試料は低い剛性値によって特徴付けられ、硬性組織は、高い剛性値によって特徴付けられる。
【0009】
そのような変形力は、組織試料または組織に衝突する針(例えば原子間力顕微鏡の一部)によって組織試料または組織へ与えられ、ここで、該針または、該組織試料のいずれかが、互いに相対的に垂直方向に移動する。試料上の複数の点を測定するために、該針または該試料をさらに横方向に移動することができ、ここで、本発明の意味における横方向とは、垂直方向に直交する方向を意味する。
【0010】
該針は尖鋭な先端または、プローブとして作用する付属されたコロイド粒子を有するカンチレバーでもよい。本発明の意味におけるカンチレバーとは一方の端部のみを固定したビームまたはアームを意味する。該試料表面と該先端との間の斥力または引力によって引き起こされる該カンチレバーの歪みは、例えば、干渉計によってまたは、カンチレバーの背面に収束されたレーザーによって光学的に検出されてもよく、そして分割フォトダイオード上で反射され、該フォトダイオードは該カンチレバーの歪みを電位差として記録し、それをナノメートルへ変換することが出来る。あるいは、該カンチレバーの歪みはカンチレバーの歪みを電荷に変換するピエゾ電極センサで検出してもよい。また、あるいは例えばピエゾ抵抗ブリッジ及び熱ヒーターを有するシリコンカンチレバーであるピエゾ抵抗センシングアクティブ(PRSA)カンチレバーのような自己センシングカンチレバーを用いてもよい。有利なこととして、そのようなカンチレバーを用いるとレーザーの調整は必要ない。
【0011】
本明細書の文脈における領域という用語は、(測定)点のグリッドによって定義される領域を指し、ここで各点は、上記の針の圧入の足跡に対応し、及び各点は、100μm以下、好ましくは50μm以下、20μm以下、10μm以下、または1μm以下、次の点から離れている。非限定的な例として、領域は25μm、50μm、100μm、200μm、300μm、400μm、500μm、600μm、750μm、1000μm、5000μmまたは10000μmの寸法を有した領域であり、及び2つの領域の幾何学的中心点は少なくとも100μm、200μm、300μm、400μm、500μmまたは1mm離れている。
【0012】
与えられた試料についての測定された力及び窪みの深さはカンチレバーのバネ定数及び先端の半径に依存する。
【0013】
本明細書の文脈における空間分解能という用語は、組織上または組織試料上の2つの点間の最小距離を指し、それによって2つの点はそれらの剛性に関して識別されることができる。少なくとも1mm、好ましくは100μm、10μmまたは1μmの空間分解能は、2つの点がまだ識別され得る最大の距離が1mm、好ましくは100μm、10μmまたは1μmであることを意味する。少なくとも100μm、好ましくは10μm、または1μmの空間分解能は高分解能も含む。1μmより高い分解能とは、1μmより小さい2点を依然識別することができることを意味する。100μmより高い分解能の例は、10μm及び1μmである。1μmより高い分解能の例は、0.5μm、0.1μm及び10nmである。
【0014】
本明細書の文脈における組織試料という用語は、隣接する細胞及び細胞外マトリックスを含む組織試料を指す。そのような組織試料は生検または切除によって得てよい。
【0015】
本明細書の文脈における切除標本という用語は、器官または体から取り出された、器官または体の少なくとも一部を表わす試料を指す。切除標本はまた器官全体または体の一部を含んでよい。
【0016】
本明細書の文脈における組織生検試料という用語は生検によって得られ、及び隣接する細胞及び細胞外マトリックスを含む組織試料を指す。
【0017】
本明細書の文脈における生検という用語は、検査のための組織部分または組織を切除するための方法を指す。そのような生検は針吸引生検、パンチ生検、真空補助コア生検、コア針生検または、鉗子生検であってもよい。該切除は、中空針、円形の鋭利なナイフまたはメスのような適切なツールの助けと共に行ってもよい。さらに組織生検サンプルは内視鏡または内視鏡法によって得てもよい。
【0018】
該生検の手順は、腫瘍または顕著な病変が検出または位置づけされ得る超音波やCT(X線コンピュータ断層撮影)といった適切な方法によって、先導されてもよい。
【0019】
本明細書の文脈における正常組織という用語は、正常で、制御された成長、並びに正常な細胞の及び細胞外の機能及び構造によって特徴付けられる同一の生理学的機能を有する隣接した細胞および細胞外マトリックスの集合を指す。
【0020】
本明細書の文脈における腫瘍という用語は、腫瘍性細胞の異常増殖によって形成される新生物または病変を指す。腫瘍は良性、前悪性または悪性であり得る。ヒト乳癌からの組織生検試料の分類が好ましい。本明細書の文脈における良性の病変または腫瘍という用語は、転移する能力を欠く腫瘍を指す。
【0021】
本明細書の文脈における原発腫瘍という用語は、周囲の器官または、組織と同じ組織型に由来する腫瘍を指す。
【0022】
本明細書の文脈における転移(metastasisまたはmetastases)という用語は、原発腫瘍から離れた部位(例えば、異なる器官)へ広がった腫瘍を指す。
【0023】
本明細書の文脈における悪性度または悪性腫瘍という用語は、基底膜を貫通し、隣接する組織に浸潤または、または体全体に広がる腫瘍の能力を指す。悪性腫瘍は、悪性新生物または癌、特に浸潤性癌と同義である。
【0024】
本明細書の文脈における腫瘍の境界という用語は、腫瘍と隣接する組織との間の、丸く、滑らかで、はっきりと明確な(大部分が良性腫瘍)、または不規則で、不十分に明確な(しばしば悪性腫瘍のおける場合)境界として定義される。組織学的には、腫瘍細胞が発見される腫瘍の最も外側の部分として定義される(図1B)。
【0025】
本明細書の文脈における隣接する組織とは、腫瘍以外の組織または器官の部分として定義される(図1C)。隣接する組織は、典型的には腫瘍を取り囲むが、腫瘍が存在しない器官の組織の任意の部分と考えることもできる。
【0026】
本明細書の文脈における隣接するリンパ節または原発腫瘍に隣接するリンパ節という用語は、特に腫瘍を排出するリンパ節を指す。そのような隣接するリンパ節はまた歩哨リンパ節(sentinel lymph nodes)をも指す。
【0027】
本明細書の文脈における腋窩リンパ節という用語は、胸の側方象限、胸壁及びへそ(臍)のレベルより上の腹の表面のリンパ管、並びに上肢からの血管からのリンパ管を排出するリンパ管を指す。腋窩リンパ節(Axillary lymph nodes)は脇の下のリンパ節(armpit lymph nodes)をも指す。
【0028】
本明細書の文脈における剛性分布という用語は、個々の組織生検試料から決定される異なる剛性値の頻度を指す。さらに、決定された剛性分布はガウス関数に適合しても良い。単峰性剛性分布は、均一の剛性を有する試料を示す、単一の最大値を有する分散した剛性値の分布である。二峰性分布関数は2つの最大値を有する。そのような分布は、2つの異なる堅い部分、例えば、柔らかい腫瘍核部分と堅い周辺部分を有する試料によって引き起こされ得る。本発明の意味における三峰性剛性分布は3つの極大値によって特徴付けられる分布を意味する。三峰性分布は、正常組織、硬性間質によって特徴付けられる境界領域、及び軟性腫瘍核が、分布を構成する値に寄与することを示し得る。少なくとも二峰性の剛性分布の試料とは、二峰性、三峰性またはn峰性(nは整数>1)分布関数を有する。
【0029】
本明細書の文脈における不均一な剛性分布という用語は、n峰性分布関数を指す。
【0030】
本明細書の文脈における複数の剛性値とは少なくとも、100、200、300,400、500、900、1000、1600、2500、3600、4900、6400、8100または10000の剛性値である。
【0031】
予後マーカーとは癌の発症及び/または再発のリスクを与える、または言い換えれば、疾患の進行の可能性の指標を与える。
【0032】
予測マーカーは、特定の治療に対する患者の応答の指標を提供する。
【0033】
本明細書の文脈におけるピークという用語は、剛性値分布における極大値を指し、そして、試料内の、または直接隣接する値内の最も高い頻度を有する剛性値を意味する。
【0034】
本明細書の文脈において、剛性値分布に関して使用される場合の最大頻度という用語は、剛性値に対して剛性値の頻度をプロットしたグラフの、局所的なまたは絶対的な最大によって特徴付けられる剛性値を指す。したがって、第1の最大頻度の剛性値と、第2の最大頻度の剛性値が同一または実質的に同一の場合、第1の最大頻度は第2の最大頻度と同一または実質的に同一である。
【0035】
本明細書の文脈における生理学的条件という用語は、任意の化学物質または物理的薬剤によって組織の生存度を維持し、生検組織試料の構造的完全性及び機械的特性を保存するために必要な条件を指し、特に試料の収集後は、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液といった生理学的緩衝液や、カストジオール(Custodiol)のような移植用緩衝液に保存し、剛性の決定は、20,25、30または37℃で行われる。該リンガー溶液は、さらにグルコース及びプロテアーゼカクテルを補充してもよい。さらに、生検組織試料の剛性の決定は、試料の機械的特性の変化がない採取後1時間、2時間、6時間、12時間、24時間、48時間または72時間以内に行ってもよい。「生理学的条件」は特に凍結組織若しくは解凍組織、またはパラフィン包埋試料を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】A-腫瘍、B-腫瘍と隣接する組織の境界、C-隣接する組織を示す。
図2】リンパ節転移において検出される共通の表現型を示す該原発腫瘍及び該隣接する組織の軟性ナノ力学的プロファイルを示す。(A)2人の癌患者のナノ力学的プロファイルは、特定の癌細胞集団について0.39+/-0.21kPaの、並びに周辺細胞及び組織の間質成分について10kPaまで減衰する3.66+/-2.14kPaの、ピーク値を有する患者1の場合、指数関数的減衰を有する二峰性分布を示す。正常な乳房組織の病理組織学的特徴を有する隣接する組織は、1.9+/-0.7kPaの一様な剛性ピークを示す(上部)。それぞれ0.45+/-0.18kPa及び1.05+/-0.55kPaに、細胞についてのピーク値を有する患者2について、鋭い分布及び全体的により軟性の表現型が測定される(下部)。該患者の隣接する組織は、0.4+/-0.2kPaの非常に顕著な軟性のピークと1.05+/-0.5kPaのより鋭いピークを有する二峰性分布を示す。病理組織学的分析においては、該組織は非悪性であると特徴付けられる。したがって、該組織剛性値及び二峰性分布は対照患者からの健康な乳房試料について測定された値に対応しないので、ここでは「汚染された」という用語を使用する。(B)患者1は、3.02+/-2.10kPaの剛性値を示す癌陰性リンパ節を有する(上部)。患者2からの乳癌転移を含むリンパ節は、原発腫瘍及び隣接する(「汚染された」健康な組織)に見られる「軟性」癌細胞表現型に直接的に対応する0.49+/-0.23kPaの癌領域についてピーク値を有する二峰性分布を示し、一方残りのリンパ節については2.11+/-0.78kPaの値が測定される(下部)。
図3】2人の乳癌患者からの切除標本のポスト-AFM組織学的概要を示す。両試料のH&E染色は類似した特徴を示す;すなわち結合組織及び正常な上皮は、健康な乳房と有意な差はない(上部)。両方の場合の原発腫瘍は、高密度繊維性組織応答を惹起した浸潤性細胞巣を有する浸潤性乳癌細胞を示す(中部)。患者2からの対応するリンパ節のH&E染色は、原発腫瘍に類似した乳癌細胞巣を示し(下部右)、一方、患者1からのリンパ節は癌細胞がはっきりしない(下部左)。
図4】リンパ節への浸潤がない患者N0(n=10)及びリンパ節への浸潤がある患者N+(n=11)の原発腫瘍(生検試料及び切除標本)のナノ力学的プロファイルを表わす正規化ヒストグラムを示す。N+患者は明らかに、癌領域(1kPa以下)でより軟性な値に変化している。彼らは、0.325kPaでピークに達し、N0患者らは0.625kPaでピークに達する。両方の分布はかなり幅広いままであり、2kPaを超えるヒストグラムの部分は両方の場合において非常に類似している。
図5図4に示す原発腫瘍に対応する非浸潤及び浸潤のリンパ節のナノ力学的プロファイルを表わす正規化ヒストグラムを示す。癌細胞陽性(N+)リンパ節はおよそ0.4kPaの強い軟性ピークを有し、一方、癌細胞陰性(N-)リンパ節は軟性ピークが欠けている。
【発明を実施するための形態】
【0037】
説明
本発明は、転移病変が、該転移病変の由来となる原発腫瘍と、類似するナノ力学的表現型によって特徴付けられるという驚くべき発見に基づいている。
【0038】
本発明の第1の側面によれば、腫瘍から得られた組織生検試料の分類のための方法が提供される。該方法は、少なくとも100μm(すなわち、複数の点の各々が、隣接する点に対して100μm以下の距離を有する)、50μm、20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で、該試料上の複数の点について剛性値を決定し、結果として剛性分布を得、及び試料に悪性腫瘍の可能性を割り当てることを含む。
【0039】
ある実施態様では、悪性である可能性が高いとは、少なくとも二峰性の剛性分布を示す試料に割り当てられ、ここで該少なくとも二峰性の剛性分布は、第2のピークより少なくとも2倍以上高い剛性値を示す第1のピークによって特徴づけられる。
【0040】
ある実施態様では、1kPa未満の最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す試料は浸潤性癌検体として分類されるか、または悪性である可能性が高いと割り当てられる。ある実施態様では、0.3kPaから0.8kPaの最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す試料は、浸潤性癌検体として分類されるか、または悪性である可能性が高いと割り当てられる。ある実施態様では、0.4kPaから0.8kPaの最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す試料は、浸潤性癌検体として分類されるか、または悪性である可能性が高いと割り当てられる。ある実施態様では、0.4kPaから0.7kPaの最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す試料は、浸潤性癌検体として分類されるか、または悪性である可能性が高いと割り当てられる。ある実施態様では、0.3kPaから0.6kPaの最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す試料は、浸潤性癌検体として分類されるか、または悪性である可能性が高いと割り当てられる。
【0041】
ある実施態様では、剛性分布における指数関数的な減衰を示す試料は、腫瘍組織として分類される。ある実施態様では、剛性分布における0.4kPから10kPaの指数関数的な減衰を示す試料は、腫瘍組織として分類される。ある実施態様では、剛性分布における0.4kPから15kPaの指数関数的な減衰を示す試料は、腫瘍組織として分類される。ある実施態様では、剛性分布における0.4kPから20kPaの指数関数的な減衰を示す試料は腫瘍組織として分類される。
【0042】
ある実施態様では、本発明の該方法は、第1の試料及び第2の試料に適用される。
【0043】
ある実施態様では、
第1の試料は原発腫瘍試料であり、及び第2の試料はサンプリング部位(原発腫瘍部分)に隣接するリンパ節から採取され、及び、
- 該第1の試料及び該第2の試料の両方が、1kPa以下、特に0.3kPaから0.8kPa、0.4kPaから0.8kPa、0.4kPaから0.7kPa、または0.3kPaから0.6kPaの最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す場合、及び
- 該第2の試料の最大頻度が該第1の試料の最大頻度と同一である場合、
該第2の試料は、リンパ節転移と分類される。
【0044】
ある実施態様では、
- 第1の頻度(または剛性)分布が該試料の第1の部位から得られ、及び第2の頻度(または剛性)分布が該試料の第2の部位から得られ、並びに、
- 該第1の部位は、腫瘍組織として組織学的に分類された腫瘍の一部に対応し、及び第2の部位は、腫瘍の境界を越えている(隣接組織)と組織学的に分類される組織に対応し、並びに、
- 該第1の頻度分布は、1kPa以下、特に0.3kPaから0.8kPa、0.4kPaから0.8kPa、0.4kPaから0.7kPa、または0.3kPaから0.6kPaの最大頻度を有する不均一な剛性分布によって特徴付けられ、並びに、
- 第2の頻度分布が1kPa以下の剛性分布最大頻度がないことによって特徴付けられる場合、
該腫瘍試料は、隣接するリンパ節に広がっている可能性は低いと分類される。
【0045】
ある実施態様では、第2の頻度分布最大値が、1kPa以下の剛性分布最大頻度の存在によって特徴付けられる場合、隣接するリンパ節へ広がっている可能性が高いと分類される。
【0046】
本発明のある側面によれば、患者から得られた組織試料を分類するための方法が提供され、ここで、該組織試料は二次腫瘍組織を含んでいるとの疑いがある。該方法は、
- 原発腫瘍試料上の第1の複数の点の各々について剛性値を決定し、結果として第1の剛性分布を得ること、
- 前記組織生検試料上の第2の複数の点の各々について剛性値を決定し、結果として第2の剛性分布を得ること、を含み、
ここで、
- 前記第1の剛性分布及び第2の剛性分布の両方が、1kPa以下の実質的に同一の剛性値で最大頻度を有する不均一な剛性分布を示す場合、該組織試料は、転移として分類される、
方法である。
【0047】
ある実施態様では、該組織試料は組織生検試料または切除標本である。
【0048】
ある実施態様では、該第1及び該第2の複数の点の両方は、少なくとも100μm、50μm、20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で決定される。
【0049】
ある実施態様では、該組織試料はリンパ節から、特に腫瘍のサンプリング部位に隣接するリンパ節、または腋窩リンパ節から採取または取得される。
【0050】
ある実施態様では、最大頻度が0.5kPa以下を示す原発腫瘍試料は、転移腫瘍と分類される。
【0051】
本発明のある側面では、腫瘍から得られた組織試料を分類するための方法が提供される。
該方法は、
- 少なくとも100μm、50μm、20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で、試料上の複数の点の各々について剛性値を決定し、結果として剛性分布を得ること、
- 該試料に悪性度の可能性を割り当てること、を含み、
ここで、
- 該方法は、第1の試料及び第2の試料に適用され、該第1の試料は原発腫瘍試料であり、及び該第2の試料はリンパ節、特に第1の腫瘍のサンプリング部位に隣接するリンパ節または腋窩リンパ節から採取または取得された試料であること、並びに、
- 該第1の試料及び該第2の試料の両方が1kPa以下の最大頻度を有する不均一な剛性分布を示し、及び該第2の試料の最大頻度が、該第1の試料の最大頻度と同一である場合、該第2の試料はリンパ節転移であると分類される、
方法である。
【0052】
ある実施態様では、該組織試料は組織生検試料または切除標本である。
【0053】
ある実施態様では、0.5kPa以下の最大頻度を示す原発腫瘍試料は転移性腫瘍と、または、隣接する組織、特に隣接するリンパ節または腋窩リンパ節へ広がっている可能性が高いと、分類される。
【0054】
ある実施態様では、原発腫瘍試料、特に原発腫瘍生検試料は、少なくとも腫瘍の核の一部または少なくとも腫瘍の周辺の一部を含む。
【0055】
ある実施態様では、原発腫瘍試料、特に原発腫瘍生検試料は、上記の腫瘍の断面の少なくとも半分を示し、腫瘍の核から周辺への明確な配向を示す。
【0056】
本発明のある側面によれば、腫瘍から得られた組織試料を分類するための方法が提供される。該方法は、
- 少なくとも100μm、50μm、20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で該試料上の複数の点についての剛性値を決定し、結果として剛性分布を得ること、
- 該試料へ悪性腫瘍の可能性を割り当てること、を含み、
ここで、
- 第1の頻度または剛性分布が、該試料の第1の部位から得られ、及び第2の頻度または剛性分布が前記試料の第2の部分から得られ、並びに、
- 第1の部位が腫瘍として組織学的に分類された該腫瘍の一部に対応し、及び該第2の部位は隣接する組織、特に該腫瘍の境界を越えていると組織学的に分類された組織に対応し、並びに、
- 該第1の頻度または剛性分布は、1kPa以下の最大頻度を有する不均一な剛性分によって特徴付けられ、及び第2の頻度または剛性分布が1kPa以下の最大頻度の剛性分布の存在によって特徴付けられる場合、該腫瘍試料は、隣接する組織、特に隣接するリンパ節、または腋窩リンパ節へ広がっている可能性は低いと分類され、並びに/または、
- 第2の頻度または剛性分布が、1kPa以下の最大頻度の剛性分布の存在によって特徴付けられる場合、該腫瘍試料は、隣接する組織、特に隣接するリンパ節または腋窩リンパ節へ広がっている可能性が高いと分類される、
方法である。
【0057】
ある実施態様では、該組織試料は組織生検試料または切除標本である。
【0058】
ある実施態様では、特に第1の頻度または剛性分布において0.5kPa以下の最大頻度を示す腫瘍試料は隣接する組織、特に隣接するリンパ節に広がっている可能性が高いと分類される。
【0059】
ある実施態様では、該腫瘍試料は、原発腫瘍及び該原発腫瘍に隣接する組織の核及び周囲または境界、並びに任意に1つ以上のリンパ節または腋窩リンパ節を含む。
【0060】
ある実施態様では、該複数の点はn×n点のグリッドとして配置され、該グリッドは領域として定義され、ここでn及びnは互いに独立して1より大きい整数である。
【0061】
ある実施態様では、5×5点のグリッド(結果として25点)、7×7点、10×10点、15×15点、20×20点、50×50点、または100×100点が1つの領域として測定される。ある実施態様では、該領域は、400μmの大きさを有する24×24点のグリッドで定義される。
【0062】
ある実施態様では、同じ試料の少なくとも2つの異なる領域の剛性値が決定され、及び領域の幾何学的中心間の距離は空間分解能の倍数であり、前記倍数は少なくとも空間分解能の10倍である。ある実施態様では、該倍数は20、30または50である。
【0063】
ある実施態様では、該生検試料の領域は、該試料の縦軸に沿って1mm、2mm、3mm、4mm、5mm、6mm、7mm、8mm、9mm、10mm、15mmまたは20mmの距離にわたって、該試料の表面上に配置される。
【0064】
ある実施態様では、複数の点は、100、400、900、1000、1600、2500、3600,4900、6400、8100、10000または20000の剛性値を含む。
【0065】
ある実施態様では、単峰性剛性分布を示す試料は非悪性である可能性が高いと割り当てられる。
【0066】
ある実施態様では、該組織生検試料は、少なくとも7μmの直径を有する円柱状または角柱状の生検である。ある実施態様では、該生検組織試料は、少なくとも0.5mmの直径を有する円柱状または角柱状の生検である。
【0067】
ある実施態様では、該腫瘍はヒト乳癌若しくはリンパ節、肺、骨、肝臓または脳の転移である。
【0068】
ある実施態様では、該剛性値は生理条件下で決定される。
【0069】
ある実施態様では、乳房生検試料の該剛性は決定され、及び
- 1.1kPaと1.5kPaの間のピークによって特徴付けられる剛性分布を示す試料は、正常乳房組織である可能性が高いと割り当てられ、
- 1.9kPaから3.7kPaの間のピークによって特徴付けられる剛性分布を示す試料は、良性疾病である可能性が高いと割り当てられ、
- 0.31kPaから0.75kPaの間のピークによって特徴付けられる剛性分布を示す試料は、悪性腫瘍である可能性が高いと割り当てられる。
【0070】
ある実施態様において、0.31kPaから0.75kPa及び1.2kPaから2.0kPaの間のピークを特徴とする剛性分布を示す試料は、悪性腫瘍の可能性が高いと割り当てられる。
【0071】
本発明の別の側面によれば、癌を病期に分類するための、または癌の発生を予測するための方法が提供される。該方法は、
- 原発腫瘍から第1の組織試料を、及び第2の組織試料、特に原発腫瘍に隣接する組織から、特に組織学的な腫瘍の境界の5mmから10mm以内、または組織学的な腫瘍の境界から5mmから10mm以下の距離、または隣接するリンパ節または腋窩リンパ節から、得ること、
- 複数の点の各々が少なくとも100μm、50μm,20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で、該第1の生検試料上の複数の点について、及び該第2の生検試料上の複数の点についての剛性値を決定し、結果として、第1及び第2の試料の各々について剛性値分布を得ること、
- 第1の試料に悪性腫瘍の可能性を割り当て、及び第2の試料に原発腫瘍により浸潤している可能性を割り当てること、
を含む。
【0072】
ある実施態様では、原発腫瘍から得られる第1の試料が提供される。ある実施態様では、原発腫瘍に隣接する組織、特に組織学的腫瘍の境界の5mmから10mm以内、または組織学的腫瘍の境界から5mm以内の距離の、または隣接したリンパ節または腋窩リンパ節から得られる第2の試料が提供される。
【0073】
ある実施態様では、該第1の試料は、上記の原発腫瘍の断面図の少なくとも半分を表し、原発腫瘍の核から周辺へ明確な配向を示す。
【0074】
ある実施態様では、該第1の組織試料及び/または該第2の組織生検試料は組織生検試料または切除標本である。
【0075】
ある実施態様では、
- 該第1の試料が、少なくとも第2のピークより2倍以上高い剛性分布を示す第1のピークを有する少なくとも二峰性剛性分布によって特徴付けられる場合、該第1の試料は悪性腫瘍である可能性が高いと割り当てられ、及び/または、
- 該第2の試料が、少なくとも第2のピークより2倍以上高い剛性値を示す第1のピーク(または不均一な剛性プロファイル)により特徴付けられる場合、該第2の試料は原発腫瘍によって浸潤している可能性が高いと割り当てられる。
【0076】
ある実施態様では、原発腫瘍に隣接する組織は、リンパ節、特に隣接する(原発腫瘍に隣接する)リンパ節、または腋窩リンパ節に含まれる。
【0077】
ある実施態様では、0.5kPa以下の第2を示す第1の試料は、転移した腫瘍であると分類される。
【0078】
本発明の別の側面によれば、癌を病期に分類するため、及び/または癌の発生率のための方法を提供する。該方法は、
- 原発腫瘍に隣接する組織から組織試料を得ること、
- 少なくとも100μm、50μm、20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で該組織試料上の複数の点についての剛性値を決定し、結果として剛性分布を得ること、
- 該試料に原発腫瘍によって浸潤している可能性を割り当てること、
を含む。
【0079】
ある実施態様では、原発腫瘍に隣接する組織からの組織試料が提供される。
【0080】
ある実施態様では、該剛性分布が、0.2kPaから1kPaの間、特に0.3kPaから0.8kPaの間の最大値によって特徴付けられる場合、該試料に該原発腫瘍によって浸潤している可能性が高いと割り当てられる。
【0081】
ある実施態様では、少なくとも二峰性である剛性分布を示す試料は、該原発腫瘍によって浸潤している可能性が高いと割り当てられ、ここで、該少なくとも二峰性である剛性分布は、第2のピークより少なくとも二倍以上高い剛性値を示す第1のピークによって特徴付けられる。
【0082】
ある実施態様では、組織試料は、組織生検試料または切除標本である。
【0083】
別の側面によれば、腫瘍から得られた組織試料を分類する方法が提供され、該方法は、
- 少なくとも100μm、50μm、20μm、10μmまたは1μmの空間分解能で、上記試料上の複数の点について該剛性値を決定し、結果として剛性分布を得ること、
- 上記試料へ悪性腫瘍の可能性を割り当てること、を含み、
ここで、
-0.5kPa以下のピークを有する少なくとも二峰性である剛性分布を示す試料は、転移した腫瘍であると分類される、
方法である。
【0084】
ある実施態様では、該組織試料は乳癌、特にヒト乳癌から得られる。
【0085】
ある実施態様では、該組織試料は、組織生検試料または、切除標本である。
【0086】
ある実施態様では、上記腫瘍または上記原発腫瘍は乳癌、腎臓腫瘍、前立腺腫瘍、脳腫瘍、肺腫瘍、卵巣腫瘍、膵臓腫瘍、腹部腫瘍、肝臓腫瘍、皮膚腫瘍または胃腫瘍である。
【0087】
本発明のさらなる側面によれば、腫瘍組織診断のための装置が提供される。該装置は、原子間力顕微鏡及び該原子間力顕微鏡に接続されたコンピューターを備え、該コンピューターは、上記本発明の方法のいずれか1つを行うためのプログラムを実行するように構成される。
【0088】
前述の方法のいずれかのある実施態様では、該空間分解能は20μm、10μm、5μmまたは、1μmである。
【0089】
単一に分離可能な特徴の代替物が、実施態様として本明細書に記載されている部分はどこでも、そのような代替物を、明細書に記載の発明の個々の実施態様から自由に組み合わせても良いと理解できる。
【0090】
本発明は、以下の実施例及び図面によって更に説明され、それらから更にある実施態様および利点を引き出すことができる。これらの実施例は本発明を説明することを意図し、その範囲を限定するものではない。
【実施例
【0091】
予備試験の結果を臨床条件に移行するために、該ARTIDIS技術は、腫瘍切除によって得られた固定化されていない(生理学的水溶性環境で測定された、または凍結組織)ヒト乳癌試料の分析のために、最適化された。この目的のために、乳腺切除術または、乳房切除術のいずれかの処置を受けた56人の患者の切除標本から、様々な病期及びグレードの原発乳癌、リンパ節転移、および非腫瘍性ヒト乳房組織を含む152の組織試料が集められた。
【0092】
該試料のナノ力学的測定は、米国特許US 8,756,711 B2号公報に開示されているとおりに行った。簡単に述べると、可能な不均一性を説明するために、試料表面全体にわたってFVマップを均一に分布することによって、統計的手法において各試料は検査された。マイクロメータースクリュー、または自動位置決めシステムのいずれかを用いて、走査する間、約500μmの規則的な距離が保持された。これは、結果として、総生検サイズに依存して標本あたり約10から15のFVマップを得た。
【0093】
AFMによる試料の分析のために、2成分性の5分速乾性エポキシ接着剤を用いて、生検材料を培養皿上に接着させた。2分間の予備乾燥の工程後(エポキシと該検体緩衝液との混合をさけるため)、圧入角を最適化するために、及び外部構成要素(例えばカンチレバーホルダー)の影響を避けるために、該接着剤の上に平らに検体を置いた。タラップとして作用するピペットチップを、高さの一貫性を維持するために各検体の平坦でない部分の直下に配置した。過度の力(例えば引き裂き、または引張り)の使用は、検体取扱中は常に最小限にした。汚染を防止するため、及び検体が生体内に近い状態に確実に維持されるためにプロテアーゼ阻害剤を補充した無菌緩衝液環境、または移植緩衝液のいずれかにおいて、全ての調製工程は行われた。該標本検体は、室温または37℃で実施されるナノ力学的試験まで、氷冷したリンガー溶液またはカストディオール(Custodiol)で保持した。
【0094】
鋭い錐体の先端(205-μm長のケイ素窒化物カンチレバー、名目上のカンチレバーバネ定数 k=0.06 Nm-1、共鳴周波数[空気]=18 kHz)について、該カンチレバーの正確なバネ定数kは各実験の前に熱調整法で決定し、一方、偏光感度は、無限剛性参照材料として固体ガラス基板を用いて流体中で決定した。
【0095】
生検試料の接触剛性(弾性率、E)測定は以下のようにして得た。力圧入曲線とも呼ばれる荷重-変位曲線を、荷重と非荷重の両方の間に指向した方法で所与の部位に記録した。マイクロメータースクリューまたは自動位置決めシステムのいずれかを用いて走査する間、約500μmの規則的な距離を保持した。個々のデータセットは16μm/sの圧入速度で、1024の荷重-変位曲線からなっていた。この結果、試料ごとに約15から20の力量マップが得られた。可能であれば、1秒あたり荷重と非荷重のおよそ1サイクルの割合で、20×20μmスキャンサイズで32×32点以上で力-体積図(FV)を作製した。各荷重-変位曲線は、Z長さが分析領域の特性に依存して5μmから8μmで設定された少なくとも512データ点から構成された。(i)実験時間の最適化だけでなく、(ii)組織内の全ての成分(例えば細胞及び細胞外マトリックス)を含む十分な大きさの領域を提供するために、各FV図は20×20μmに設定した。印加した最大付加力は1.8nNに、押し込み深さは約150から3000nmに設定した。目的の主領域上の空間分解能を増大させるために、追加の72×72FV図(図当たり5184の力-変位曲線及び277nmのピクセルサイズ)を得た。
【0096】
力圧入曲線は以前記載された方法(Loparicら.,Biophysical Journal,.98(11):p.2731-40,2010,Plodinec,et al., Journal of Structural Biology,.174(3):p.476-484,2011)を用いて分析した。簡単に述べると、ソフトウェアは、FVデータの自動解析のために、LabVIEW (National Instrument,US)で開発した。接触点を決定した。カンチレバーの曲げを考慮し、カンチレバーの変位dにバネ定数kを掛けて荷重Fを得ることにより、ピエゾ変位から先端-サンプル距離に変換する力曲線が得られた。非荷重力曲線は、最大荷重F=1.8nN及び荷重0.9nNの間の剛性を決定する、力曲線の上方50%に直線をフィットさせることによって、分析される。この手法によって、粘着といった力曲線の外部影響を避けることができる。該ポアソン比は0.5に設定した。ヤング率は、オリバーアンドファー(Oliver and Pharr)法(オリバーら, Journal of Materials Research,7(6),1564-1583,1992)に従って測定した。勾配値は空間的にプロットされ、分析され、ARTIDISオンラインソフトウェアに表示した。
【0097】
ポスト-AFM、組織試料は固定して、配向してパラフィンで包埋した。ARTIDISデータによって、全ての癌試料が周囲の非腫瘍性及び形態学的に正常な乳房組織と比較して特徴的なより2倍軟性な表現型を有する不均一な剛性表現型を示すという最初の知見が確認された。乳癌がない患者の健康な乳房組織は、平均剛性値は~1.6kPaを示す。
【0098】
もっとも重要なこととして、図2及び図3に示されたデータは以下のことを示す:
1)乳癌患者からの腫瘍組織は0.4kPaからの不均一な分布及び20kPaまでの範囲で起こりうる指数関数的減衰を示す。本発明者らは、0.4から0.8kPaの特徴的な軟性ピークによって浸潤性乳癌検体を同定した。同じ患者からの対応するリンパ節転移の剛性分布は、原発乳癌組織と同様に0.4から0.8kPaの特徴的な軟性ピークを有する不均一な剛性分布によって特徴づけられる。
2)組織学的に「非悪性」と評価されたこれらの患者の隣接する組織は0.4から0.8kPaの範囲の顕著な軟性剛性ピークを有する二峰性分布を示した。ナノ力学的分析によれば癌であるが、組織学的には非悪性であるそのよう組織の存在は、お粗末な予後予測の指標である。さらに、健常な乳房組織に対応する1.2から1.9kPaの剛性値も存在した。
3)隣接する組織には軟性ピークが検出されず、原発腫瘍のみに軟性剛ピークが検出された患者の場合、リンパ節への転移は存在しなかった。
4)脂肪組織を測定する場合、0.2kPaの特異的な剛性ピークが存在する。
5)加齢中の乳房組織内の脂肪成分の通常の増加により0.2kPaの脂肪特異的な剛性ピークが非常に頻繁に測定される。
【0099】
加えて、図4及び5において該データは、既に隣接するリンパ節まで広がった腫瘍は癌領域においてより軟性の値への変化を示すことを示している。
【0100】
したがって、乳癌患者における癌の侵略性及び予後の評価のためには、原発腫瘍だけでなく隣接する組織のナノ力学的応答も考慮することが重要である。
【0101】
本明細書で示されたデータは、以下について、臨床でARTIDISを用いたナノ力学的プロファイリングの適用の可能性を実証している。
1)癌発生、進行及び再発の予後
2)治療応答の予測
3)原発腫瘍と隣接する組織の併用したナノ力学的プロファイルに基づく適切な治療法とフォローアップ療法の決定
4)局所的浸潤癌細胞の存在並びに固形腫瘍増殖の前の腫瘍長の浸潤頻度及び徴候の存在を同定する目的で、軟性な剛性ピークについて、組織学的な「非悪性」組織(すなわち、局所生検を行ったあとに超音波検査、マンモグラフィまたはH&E染色といった標準的なスクリーニング法で観測される明白な病理学的変化を伴わない非悪性乳房組織)のスクリーニング
5)ARTIDISのナノ力学的プロファイルを用いたスクリーニングはBRCA1及びBRCA2といった遺伝子変異を有する患者または癌の進行のリスクが高いそのほかの患者に特に適している
【0102】
本発明のナノ力学的プロファイリング方法は、迅速な検体のオンサイト評価を可能にし、例えばKi-67といった他のマーカーのような観察者間の変動に悩まされないため、日々の使用において理想的に適している。
【0103】
本発明の方法は以下の原理に基づく:
1.組織(細胞及び細胞外マトリックス)は腫瘍(癌)が進行する前にナノメートルスケールで力学的/構造的変化を起こす。
2.ポイント1からの変化は臓器または隣接する組織に渡って存在する(びまん性/多巣性の概観)
3.癌が最初に発生する正確な位置は、特定の局所的な微小環境条件(例えば、細胞内及び周囲の細胞外マトリックス内及びそれらの間の、変化並びに相互作用)に依存する。
4.器官/隣接する組織のナノ力学的プロファイルの測定は、ポイント1からの特定の変化を検出することができる。
5.器官/隣接する組織のナノ力学的プロファイルの測定は、年齢に関連する力学的変化と、前駆腫瘍(pre-tumour)、腫瘍、炎症に関連する変化とを区別することができる。
6.器官/隣接する組織のナノ力学的プロファイルの測定は、力学的変化の様々な型及び/または程度を、進行及び/または播種転移する腫瘍の能力と相関されることができる。
7.ポイント6の結果は、腫瘍の発生及び進行の予後及び/またはマーカーとして使用することができる。これは、特定の疾患について患者のよりよい治療のために実際に使用することができる。
8.本発明の方法論は、通常は、乳房腫瘍の検出(例えばスクリーニング)及び既存の腫瘍または腫瘍に関連する転移の予後及びマーカーとして適用されるが、乳房組織に限られない。他の器官特異的腫瘍、前立腺癌、結腸直腸癌、肺癌、悪性黒色腫、肝臓癌、皮膚炎、胃炎などのような炎症性または医学的関連疾患についても使用することができる。
9.該提案した方法論を使用することによって、異形成、生化、過形成(前駆腫瘍変化)といった特異的な状態及び加齢に関連する変化は特異的に検出することができ、腫瘍関連変化から区別することができる。


図1
図2
図3
図4
図5