(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】注射可能な長時間作用性局所麻酔薬半固形製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/445 20060101AFI20220328BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20220328BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220328BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20220328BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220328BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220328BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220328BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220328BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
A61K31/445
A61K31/573
A61K31/192
A61K31/5415
A61K45/00
A61K9/06
A61K47/44
A61K47/14
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2020550043
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 US2018064325
(87)【国際公開番号】W WO2019113366
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-07-29
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520200517
【氏名又は名称】湖州惠中濟世生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUZHOU HUI ZHONG JI SHI BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 1366, Hongfeng Rd., HuZhou City, ZheJiang Province 313000 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】シン フイ ロン
(72)【発明者】
【氏名】ガン ナ
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-510041(JP,A)
【文献】特表2000-511941(JP,A)
【文献】特表2000-502728(JP,A)
【文献】特表2017-513871(JP,A)
【文献】Journal of Controlled Release,2002年,Vol.81,No.1-2,pp.145-154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 29/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリセリド混合物であって、(i)
ヒマシ油と;(ii)
融点が37℃~75
℃のグリセリドと;を比率(i):(ii)が10:1~6:3(w/w)であるように含むグリセリド混合物と;
(B)(i)鎮痛を少なくとも2日間提供する治療的有効量のブピバカインと;任意に(ii)コルチコステロイド、鎮痛剤または抗炎症剤と;を含む活性剤と;を含む医薬製剤。
ただし、活性剤は0.01~60重量%の濃度でグリセリド混合物に溶解される;ただし、医薬組成物は、生体適合性で、生体侵食性で、均質的で、且つ単相の半固形ゲルである;ただし、医薬組成物は半固形ゲルからなり、30℃での粘度が50~2000cPsである。
【請求項2】
活性剤はコルチコステロイド、鎮痛剤または抗炎症剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
コルチコステロイドはグルココルチコステロイドであることを特徴とする、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
抗炎症剤は、ケトプロフェン、ナプロキセン、メロキシカム、COX-1阻害剤、およびCOX-2阻害剤からなる群から選ばれる非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)であることを特徴とする、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項5】
融点が37℃~75℃のグリセリド(ii)が、融点が37℃~50℃のグリセリドである、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項6】
融点が37℃~75℃のグリセリド(ii)が、(a)融点が42.5℃~46℃のC
12
~C
18
トリグリセリドの混合物;(b)42℃~45℃のC
12
~C
18
トリグリセリドの混合物;(c)融点が37.8℃~39.8℃のC
12
~C
18
トリグリセリドの混合物;(d)融点が39℃~42℃のC
10
~C
18
脂肪酸のトリグリセリド;(e)融点が42℃~45℃のC
8
~C
18
脂肪酸のグリセリド;(f)融点が54℃~64℃のモノステアリン酸グリセリド;(g)融点が37℃~40℃のC
12
~C
18
脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドのグリセリド混合物;(h)融点が42℃~44℃のトリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドの混合物;および(i)融点37℃~39℃のトリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドの混合物からなる群より選ばれる、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項7】
融点が37℃~75℃のグリセリド(ii)が、SUPPOCIRE(登録商標)DM(SUP DM)、SUPPOCIRE(登録商標)D(SUP D)、SUPPOCIRE(登録商標)CM(SUP CM)、SOFTISAN(登録商標)378(S378)、GELUCIRE 43/01(G43/01)、GELEOL
TM
、GELUCIRE 39/01(G39/01)、WITEPSOL(登録商標)E85(WIT E85);およびWITEPSOL(登録商標)E76(WIT E76)からなる群より選ばれる、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項8】
比率(i):(ii)が、8:1.0、8:1.1、8:1.2、8:1.3、8:1.4、8:1.5、8:1.6、8:1.7、8:1.8、8:1.9、8:2.0、8:2.1、8:2.2、8:2.3、8:2.4、または8:2.5(w:w)である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項9】
融点が37℃~75℃のグリセリド(ii)の濃度(重量%)が、8~30重量%の範囲である、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項10】
融点が37℃~75℃のグリセリド(ii)の濃度(重量%)が、8~20重量%の範囲である、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
炎症の局所的な抑制のために抗炎症薬の濃度が、0.01~1重量%である、請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項12】
グリセリド混合物は
ヒマシ油、およびSUP DM
またはSUP CMを含むことを特徴とする、請求項1~
11のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項13】
インビトロで37℃で測定した場合、ブピバカインの80%未満が5日間内で半固形ゲルのデポから放出されることを特徴とする、請求項1~
12のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項14】
インビトロで37℃で測定した場合、ブピバカインの60%未満が5日間内で半固形ゲルのデポから放出されることを特徴とする、請求項1~
12のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項15】
粘度は30℃で701cPs未満であることを特徴とする、請求項1~
14のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項16】
インビトロで37℃で測定した場合、医薬組成物はブピバカインを少なくとも1週間放出することを特徴とする、請求項1~
14のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項17】
インビトロで37℃で測定した場合、医薬組成物はブピバカインを少なくとも2週間放出することを特徴とする、請求項1~
14のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項18】
グリセリド混合物は、37℃の生理的pHの緩衝液中で1mg/ml未満または0.1mg/ml未満の水溶解度を有することを特徴とする、請求項1~
17のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項19】
術後痛を治療するために用いられることを特徴とする、請求項1~
18のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項20】
医薬製剤の単回注射は、72時間の感覚遮断を提供するのに有効な量のブピバカインを含むことを特徴とする、請求項1~
19のいずれかに記載の医薬製剤。
【請求項21】
医薬製剤の単回注射は、実質的に限られた運動遮断を引き起こすことを特徴とする、請求項1~
20のいずれかに記載の医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御放出半固形医薬組成物であって、ヒマシ油およびゲル化剤を含む半固形脂質ビヒクル中に局所麻酔薬および抗炎症薬を含み、術後痛を治療するための局所麻酔薬の制御送達用の注射可能な製剤の形態である医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
米国では、毎年約1億回の手術が行われ、全身性オピオイドは術後痛を管理するために使用されているが、疼痛は患者の半数でしか十分に制御されていない。オピオイド術後痛管理処方で、オピオイドの濫用は加速されており、それは、毎年160万人の米国の外来外科手術患者が長期のオピオイド使用者となり、それらの10%がオピオイド中毒になってしまうからである。このような酷い状況は、オピオイド処方の許容と、特に術後24時間以内の不十分な疼痛制御の結果である。さらに、退院時に処方されたオピオイドは38%しか使用されておらず、濫用や違法な転用に利用できる錠剤の巨大な貯蔵庫として残される。
【0003】
オピオイド薬物の需要を減らすために、麻酔薬は、硬膜外注射、末梢神経ブロック、または局所浸潤によって局所的に投与される。残念ながら、現在承認された麻酔薬の作用持続期間は12時間未満である。手術直後の24時間が最も痛みを伴い、痛みの緩和とオピオイドの節制を確実にするために、強力な鎮痛効能が必要である。より多くの外来手術が行われているので、退院後の十分な疼痛制御が重要である。
【0004】
ブピバカイン水溶液に比べて、リポソーム内に封入された承認麻酔薬ブピバカインの徐放性製剤(EXPAREL(登録商標))は、より長い作用持続期間を提供し、痛みの緩和は一般に24時間しかなく、オピオイド使用のわずかな減少に関連する。
【0005】
Viscusi,2017,J Am Coll Surg,225(Supp 2):e37によると、HTX-011を用いた第2相腱膜瘤切除術の研究において、術後の痛みを治療するための抗炎症剤メロキシカムおよびブピバカインポリ(オルトエステル)を含む医薬製剤では、患者の16%が腱膜切除術後にもオピオイドを必要としなかったのに対し、ブピバカイン水溶液を単独で使用する場合、このような患者が7%であった。
【0006】
ブピバカインの徐放性製剤用の耐加水分解性ポリエステル-乳酸・ヒマシ油共重合体を合成するために、研究者の努力がなされてきた。Sokolsky-Papkov,2009; Pharma Res,3:7-10および2010,J Pharma Sci,99:2732-38によると、ブピバカインを10%(w/v)で疎水性の耐加水分解性ポリエステル-乳酸・ヒマシ油共重合体に配合した結果、分解速度が遅くなり、薬物の放出が延長され、神経ブロックが1~2日間続いた。該脂肪酸系の生分解性ポリマーは、薬物放出のバーストなしで、1週間の間に貯蔵されたブピバカインの60%を放出した。製剤を1回注射することで、64時間の運動遮断と96時間の感覚遮断が引き起こされた。しかしながら、該製剤には、全身毒性に繋がる酷いバースト放出という欠点がある。ブピバカイン濃度を15%(w/v)に増やすことで、感覚遮断の持続期間が96時間に延長され、バースト放出が10%ブピバカインよりも少なくなった。この効果は製剤密度と疎水性の増加に起因し、薬物-ポリマーマトリックスへの水の浸透の減少をもたらす。
【0007】
Shikanov,2007,J Control Release 117:97-103によると、注射可能な生分解性セバシン酸・リシノール酸共重合体における10%(w/v)のブピバカインは、坐骨神経遮断を8~30時間延長することが示された。ポリマー主鎖に無水物結合(加水分解を受けるもの)を導入することで、製剤が生分解性になった。インビトロで、導入された薬物の70%が1週間にわたって放出された。
【0008】
制御放出局所麻酔薬製品を開発するために多くの努力がなされてきた。薬物送達ビヒクルは通常、薬物がマトリックスの拡散および/または分解により放出されるポリマーマトリックスからなる。局所麻酔薬は通常、マイクロスフェアまたはマイクロ粒子に封入またはカプセル化されており、注射するまたはインプラントの形で注入することにより、手術腔に投与できる。以下のように、グリセリド媒体からの局所麻酔薬の放出特性は各種の出版物において説明される。
【0009】
Larsen,2008; Drug Develop Indust Pharm,34:297-304では、各種の油からのブピバカインの放出率を測定した結果が開示され、関節腔への関節内注射後の薬物放出をモデル化するために、非シンク条件下(回転透析セル)でのインビトロ測定を実施することが開示された。Larsenでは、分画ココナッツオイル(C8とC10飽和脂肪酸の混合物)からのブピバカインの放出率が開示され、2時間未満で、オイルからブピバカインが80%放出された。Larsenでは、ココナッツオイルに匹敵するMYRITOL(登録商標)318 PH(C8とC10飽和脂肪酸の混合物を含むトリグリセリド)からのブピバカインの放出を測定した結果も開示された。Larsenでは、ヒマシ油は、その非経口投与の歴史に基づいて、油溶液からの薬物放出を変更するための好ましい賦形剤と考えられることが開示された。Larsenではさらに、MYRITOL(登録商標)318 PH、ヒマシ油、SOFTIGEN(登録商標)701単独またはミリスチン酸イソプロピル(IPM)との組み合わせ、およびIMWITOR(登録商標)742とIPMとの組み合わせを含む、各種の油からのナプロキセンの放出率、並びに、ヒマシ油からの薬物放出率は他の植物油からの薬物放出率よりも遅く、リシノール酸ヒドロキシ基の水素結合供与能力を反映している可能性が最も高いことも開示された。
【0010】
O'Hanlon,2013,Lancet,special issue 1(S14) https://doi.org/10.1016/S2213-8587(13)70040-8によると、ヒマシ油は、筋肉内(殿筋)投与のための、テストステロン補充療法用の市販の医薬品AVEED(登録商標)(ウンデカン酸テストステロン)注射における溶媒として使用されている。米国食品医薬品局(FDA)は、AVEED(登録商標)の血管系への不慮の漏れが、主に咳を特徴とするが、他の関連する症状を伴うこともある肺閉塞症、および肺油微小塞栓症(POME)という短期(60分間以下)の結果に繋がる可能性があるため、血管内注射を避けるように注意すべきであることを発見した。油微小塞栓による肺血管系の機械的閉塞は、急性一過性肺高血圧症を引き起こし、軽度の咳から循環虚脱までの幅広い症状を引き起こす可能性がある。POMEは、肺の血管系に対する油滴の微小塞栓から生じ、呼吸器症状を引き起こすと想定される。他の医薬品にもヒマシ油が含まれるが、AVEED(登録商標)のヒマシ油の量は他の製品よりも比較的に多い。IM注射による大量のヒマシ油の即時/急速な放出/排出は、血管閉塞および潜在的な短期/一過性POMEに繋がる可能性がある。
【0011】
Sundberg,WO 2011/121082では、(a)麻酔有効量のブピバカインまたはリドカインから選ばれる1種または複数種の局所麻酔薬と、(b)15~70重量%の量の、長鎖脂肪酸のモノグリセリドまたはジグリセリド、またはそれらの混合物と、(c)遊離長鎖飽和または不飽和脂肪酸と、および/または(d)0~30重量%の量の、ポリソルベート、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールホルマールまたはポリオキシエチル化ヒマシ油からなる1種または複数種の可溶化剤と、を含む水性安定化医薬ゲル化組成物が開示された。これらの組成物は、インビトロ粘膜付着性試験の結果に裏付けられるように、局所投与用である。
【0012】
Richlin,US7,666,914号では、ブピバカインまたはメピバカインから選ばれる局所麻酔薬と、並びにケトプロフェン、メロキシカムおよびナプロキセンから選ばれる抗炎症剤とを含む、局所送達および局在化用の組成物が開示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記システムは有用であるが、それらの製造プロセスが複雑で、煩雑で、高価である。さらに、それらは注射直後の初期のより高い薬物放出(「バースト」とも呼ばれる)にしばしば関連し、その後の薬物放出動態が一致性のない劣ったものであるため、動物実験およびヒト試験における疼痛緩和の信頼性に欠けている。疼痛管理に適した薬物の制御放出は依然として必要とされている。 従って、最初の肝心な24時間にわたって効能を迅速に発現させ、その後の持続期間を72時間まで延長し、術後痛を効果的に管理するには、より効果的な徐放麻酔薬が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一つにおいて、
(A)グリセリド混合物であって、
(i)リシノール酸トリグリセリドと;
(ii)(a)より高い割合で長鎖脂肪酸を有するC12~C18脂肪酸トリグリセリドの混合物(SUP DM);(b)C12~C18脂肪酸グリセリドの混合物(G43/01);(c)トリグリセリド、ジグリセリドまたはモノグリセリドの混合物(WIT E85);および(d)C10~C18脂肪酸トリグリセリドの混合物(SUP D)からなる群から選ばれるグリセリド;或いは融点が37℃~75℃にある他の固形グリセリドと;を
比率(i):(ii)が10:1~6:3(w/w)であるように含むグリセリド混合物と;
(B)(i)鎮痛を少なくとも2日間提供する治療的有効量のブピバカインと;任意に(ii)コルチコステロイド、鎮痛剤または抗炎症剤と;を含む活性剤と;
を含む医薬組成物が提供され、
ただし、活性剤は0.01~60重量%の濃度でグリセリド混合物に溶解される;ただし、医薬組成物は、生体適合性で、生体侵食性で、均質で、且つ単相の半固形ゲルである;ただし、医薬組成物は半固形ゲルからなり、30℃での粘度が50~2000cPsである。
【0015】
医薬製剤の一つの実施形態において、活性剤はコルチコステロイド、鎮痛剤または抗炎症剤を含み、好ましくは、コルチコステロイドはグルココルチコステロイドであり、或いは、抗炎症剤は、ケトプロフェン、ナプロキセン、メロキシカム、COX-1阻害剤、およびCOX-2阻害剤からなる群から選ばれる非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。
【0016】
もう一つの実施形態において、グリセリド混合物はSUP DMを含み、好ましくは、グリセリド混合物はヒマシ油とSUP DMを8:1.0、8:1.1、8:1.2、8:1.3、8:1.4、8:1.5、8:1.6、8:1.7、8:1.8、8:1.9、8:2.0、8:2.1、8:2.2、8:2.3、8:2.4、8:2.5(w:w)で含む。
【0017】
もう一つの実施形態において、インビトロで37℃で測定した場合、ブピバカインの80%未満が5日間内で半固形ゲルのデポから放出される。
【0018】
もう一つの実施形態において、粘度は30℃で701cPs未満である。
【0019】
もう一つの実施形態において、インビトロで37℃で測定した場合、医薬組成物はブピバカインを少なくとも1週間放出する。
【0020】
もう一つの実施形態において、インビトロで37℃で測定した場合、医薬組成物はブピバカインを少なくとも2週間放出する。
【0021】
もう一つの実施形態において、グリセリド混合物は、37℃の生理的pHの緩衝液中で1mg/ml未満または0.1mg/ml未満の水溶解度を有する。
【0022】
本発明のもう一つにおいて、グリセリド混合物は(i)ヒマシ油を含み、且つ活性剤はコルチコステロイド、鎮痛剤または抗炎症剤を含み、好ましくは、コルチコステロイドはグルココルチコステロイドであり、或いは、抗炎症剤は、ケトプロフェン、ナプロキセン、メロキシカム、COX-1阻害剤、およびCOX-2阻害剤からなる群から選ばれる非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。好ましくは、グリセリド混合物はSUP DMを含み、且つグリセリド混合物はリシノール酸トリエステルとSUP DMを8:1.8(w:w)で含む。好ましくは、インビトロで37℃で測定した場合、ブピバカインの80%未満が5日間内で半固形ゲルのデポから放出され、粘度は30℃で701cPs未満であり、インビトロで37℃で測定した場合、医薬組成物はブピバカインを少なくとも1~2週間放出し、且つグリセリド混合物は、37℃の生理的pHの緩衝液中で1mg/ml未満または0.1mg/ml未満の水溶解度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、異なるレベルのSUP DMおよびSUP Dでゲル化されたヒマシ油ゲル製剤からのブピバカイン放出を示し、ただし: COコントロール:ヒマシ油/BUP (92/8)、 Gel 001 SupDM12:CO/SUP DM/BUP (80/12/8)、 Gel 002 SupDM20:CO/SUP DM/BUP (72/20/8)、 Gel 003 SupDM30:CO/SUP DM/BUP (62/30/8)、および Gel 004 SupD:CO/SUP D/BUP (77/15/8);いずれもPBS、pH 7.4、37°Cである。
【
図2】
図2は、WIT E85、G43/01、水添ヒマシ油、S378およびラノリンでゲル化されたヒマシ油ゲル製剤からのブピバカイン放出を示し、ただし: Gel 005 Wit E85:CO/ WIT E85/BUP (77/15/8)、 Gel 006 G4301:CO/ G4301/BUP (77/15/8)、 Gel 007 HCO:CO/ HCO /BUP (80/12/8)、 Gel 008 S378:CO/ S378 /BUP (52/40/8)、および Gel 009 Lan:CO/ Lan /BUP (74/18/8);いずれもPBS、pH 7.4、37°Cである。
【
図3】
図3は、SUP DMでゲル化されたヒマシ油ゲル製剤からのロテプレドノール放出を示す。Gel 001 Lote:CO/SupDM/ロテプレドノール(77.8/19.5/2.7);PBS、pH 7.4、37°Cである。
【
図4】
図4は、SUP DMでゲル化されたヒマシ油ゲル製剤からのラタノプロスト放出を示す。Gel 001 Lata:CO/SUP DM/ラタノプロスト(80/15/5);PBS、pH 7.4、37°Cである。
【
図5】
図5は、一連のブピバカインヒマシ油ゲル製剤の感覚機能の指標としてのホットプレート潜時-時間の関係を示し、ただし: COコントロール:ヒマシ油/BUP (92/8)、 Gel 001 SupDM:CO/SUP DM/BUP (72/20/8)、 Gel 002 SupD:CO/SUP D/BUP (72/20/8)、 Gel 003 Wit E85:CO/ WIT E85/BUP (72/20/8)、および Gel 004 G4301:CO/ G43/01/BUP (72/20/8)。感覚遮断は、56℃ホットプレートで記録された足潜時応答時間を使用して評価された。
【
図5a】
図5aは、一連のブピバカインヒマシ油ゲル製剤の感覚機能の指標としてのホットプレート潜時-時間の関係を示し、ただし: COコントロール:ヒマシ油/BUP (92/8)、 Gel 001 SupDM:CO/SUP DM/BUP (72/20/8)、 Gel 002 SupD:CO/SUP D/BUP (72/20/8)、 Gel 003 Wit E85:CO/ WIT E85/BUP (72/20/8)、および Gel 004 G4301:CO/ G43/01/BUP (72/20/8)。感覚遮断は、56℃ホットプレートで記録された足潜時応答時間を使用して評価された。
【
図6】
図6は、一連のブピバカインヒマシ油ゲル製剤の足運動能力測定値-時間の関係を示し、ただし: COコントロール:ヒマシ油/BUP (92/8)、 Gel 001 SupDM:CO/SUP DM/BUP (72/20/8)、 Gel 002 SupD:CO/SUP D/BUP (72/20/8)、 Gel 003 Wit E85:CO/ WIT E85/BUP (72/20/8)、および Gel 004 G4301:CO/ G43/01/BUP (72/20/8)。足運動能力テストは、1から4のスケールを使用して、動物が跳ねてその後肢に体重をかける能力を評価する。
【
図6a】
図6aは、一連のブピバカインヒマシ油ゲル製剤の足運動能力測定値-時間の関係を示し、ただし: COコントロール:ヒマシ油/BUP (92/8)、 Gel 001 SupDM:CO/SUP DM/BUP (72/20/8)、 Gel 002 SupD:CO/SUP D/BUP (72/20/8)、 Gel 003 Wit E85:CO/ WIT E85/BUP (72/20/8)、および Gel 004 G4301:CO/ G43/01/BUP (72/20/8)。足運動能力テストは、1から4のスケールを使用して、動物が跳ねてその後肢に体重をかける能力を評価する。
【
図7】
図7は、一連の抗炎症剤含有ブピバカインヒマシ油ゲル製剤の感覚機能の指標としてのホットプレート潜時-時間の関係を示し、ただし: Gel 005 SupDM:CO/SUP DM/BUP (80/12/8)、 Gel 005 SupDM + BetV:CO/SUP DM/BUP/ BetV(79.95/12/8/0.05)、 Gel 005 SupDM + Keto:CO/SUP DM/BUP/ Keto (79.85/12/8/0.15)、 Gel 006 SupDM + Bet::CO/SUP DM/BUP/ Bet (71.95/20/8/0.05)、 Gel 006 SupDM + MP:CO/SUP DM/BUP/MP (71.85/20/8/0.15)、および Gel 006 SupDM + TA:CO/SUP DM/BUP/ TA (71.85/20/8/0.15)。感覚遮断は、56℃ホットプレートで記録された足潜時応答時間を使用して評価された。
【
図8】
図8は、一連のブピバカインヒマシ油ゲル製剤の足運動能力測定値-時間の関係を示し、ただし: Gel 005 SupDM:CO/SUP DM/BUP (80/12/8)、 Gel 005 SupDM + BetV:CO/SUP DM/BUP/ BetV(79.95/12/8/0.05)、 Gel 005 SupDM + Keto:CO/SUP DM/BUP/ Keto (79.85/12/8/0.15)、 Gel 006 SupDM + Bet:CO/SUP DM/BUP/ Bet (71.95/20/8/0.05)、 Gel 006 SupDM + MP:CO/SUP DM/BUP/MP (71.85/20/8/0.15)、および Gel 006 SupDM + TA:CO/SUP DM/BUP/ TA (71.85/20/8/0.15)。足運動能力テストは、1から4のスケールを使用して、動物が跳ねてその後肢に体重をかける能力を評価する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<生体侵食性半固形ゲル技術の利点>
本明細書に記載される製剤は、薬物の治療濃度が迅速に達成され、且つ少なくとも72時間維持されるように、延長されたブピバカイン放出を提供する。延長された放出プロファイルの潜在的な利点は、痛みの迅速な緩和を達成し、痛みの部位でより高いレベルの活性薬物を経時的に維持し、痛みのより大幅の緩和を潜在的に提供し、手術後の痛みの緩和を72時間維持することである。
【0025】
本明細書に記載される動物モデル実験により、鎮痛剤ブピバカインの72時間の連続放出が実証される。
【0026】
<生体侵食性半固形ゲル技術のメリット>
本明細書に記載される製剤には、顕著な初期バーストが見られない。一般的に、制御放出注射剤は、初期バースト(注射直後の薬物のより高い放出)に関連する。インビトロでの薬物放出と動物実験により、我々の生体侵食性半固形ゲル技術に基づく注射剤は、他の市販の注射剤制御放出技術に通常関連する注射後バーストの発生が少ないことが示された。例えば、NUTROPIN(登録商標)(注射用のrDNA由来ソマトロピン)の薬物放出プロファイルは、バーストが非常に大きいが、その後の薬物放出が非常に遅い。
【0027】
本明細書に記載される半固形ゲル技術における薬物濃度は、20%とも高く、他の制御放出技術で典型的な薬物濃度よりかなり高い。例えば、この半固形薬物送達技術を使用して、長時間作用型メピバカインを開発したが、ビヒクルにおける薬物の低い溶解度のせいで、ポリオルトエステルビヒクルには、約3重量%のメピバカインしか担持できない。また、典型的な植物油におけるブピバカインの溶解度は3重量%未満である。オリーブオイル、コーンオイル、ゴマ油および植物油におけるブピバカインの溶解度は、それぞれ2.5重量%、2.8重量%、3.0重量%、2.5重量%と測定された。
【0028】
本明細書に記載される半固形ゲル製剤は、粘度が非常に低く、30℃で約10,000mPa.s以下、好ましくは1000mPa.s以下である。従って、21G、ひいては23Gの針などの小さな針を介して注射することができ、注射中に最小限の痛み(水溶液注射と同様)を示す。また、本明細書に記載されている半固形ゲル製剤は、薬物装填のためのより高い容量を有するので、注射に必要な薬物製品の容量がより少ない。注射量が少なく、粘度の低い半固形製剤により、投与が簡単で痛みが少ない。ポリオルトエステルの半固形製剤の粘度は数千mPa.sで、21Gの針で注射することは困難である。
【0029】
本明細書に記載されている製剤は天然脂肪酸のグリセリドを含む。これらの化合物は、リパーゼによってグリセロールと遊離脂肪酸に容易に加水分解される。これらの化合物は無毒であり、体内で優れた生体適合性を示す。本明細書に記載される製剤は、生分解性で、生体侵食性で、且つ完全に吸収可能である。動物実験において、投与後2週間で、創傷治癒に対する半固形製剤の悪影響は見られなかった。投与部位はピンクに見え、坐骨神経は正常に見え、炎症、壊死、潰瘍、または感染は見られなかった。
【0030】
マイクロスフェアおよび他のポリマー系の注射可能な制御放出システムに比べて、本明細書に記載される半固形ゲル製剤は、より低コストで容易に製造される。有効成分と半固形ゲルビヒクル成分は、比較的に低い高温で溶媒を使用せずに簡単に混合される。比較的に低融点の固形グリセリド(50℃未満)(ゲル化剤)が使用されるため、製造プロセスは約60℃であることに注意すべきである。
【0031】
さらに、本明細書に記載される製剤は、部位特異的送達のために直接的に投与できる。製剤は、数日から1か月の期間にわたって持続的な薬物放出を提供するため、薬理作用の持続期間が増加し、薬物投与の頻度が減少する。全身投与に比べて、製剤は(局所薬物送達による)副作用も軽減する。使い易さにより、患者のコンプライアンスが向上する。
【0032】
<定義>
技術的および科学的用語はいずれも、薬物送達分野の当業者によって一般的に使用および理解されるそれらの従来の定義に従って、本明細書で使用される。本明細書で用いられる専門用語は以下に定義される。
【0033】
「活性剤」とは、外用によって若しくは皮下、結膜下、皮内、筋肉内、眼内、または関節内注射によって対象に投与でき、局所的または全身的に作用するあらゆる活性剤を含む。これらの薬剤の例は、抗感染薬(抗生物質、抗ウイルス薬、イトラコナゾールなどの殺カビ剤、殺疥癬虫剤または殺シラミ剤を含む)、防腐剤(例えば塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ニトロフラゾン、またはニトロメルソル)、ステロイド(例えばエストロゲン、プロゲスチン、アンドロゲン、またはアドレノコルチコイド)、治療用ポリペプチド(例えばエクセナチド、オクトレオチド、インスリン、エリスロポエチン、または骨形成タンパク質などの形態形成タンパク質)、コルチコステロイド、鎮痛剤および抗炎症剤(NSAID)(例えばアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトロラック、インドメタシン、メロキシカム、COX-1阻害剤、またはCOX-2阻害剤)、化学療法薬および抗腫瘍薬(例えばパクリタキセル、メクロレタミン、シクロホスファミド、フルオロウラシル、チオグアニン、カルムスチン、ロムスチン、メルファラン、クロラムブシル、ストレプトゾシン、メトトレキサート、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ビンデシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、またはタモキシフェン)、化学療法に続く悪心および嘔吐の予防および治療のための5-ヒドロキシトリプトファン(セロトニン)3(5-HT3)受容体拮抗薬(例えばグラニセトロン、オンダンセトロン、またはパロノセトロン)、麻薬(例えばモルヒネ、メペリジン、またはコデイン)、典型的な抗精神病薬(例えばハロペリドールまたはフルフェナジン)および非定型抗精神病薬(例えばリスペリドン、クロザピン、オランザピン、またはパリペリドン)を含む抗精神病薬、血管新生阻害剤(例えばコンブレスタチン、コントルトロスタチン、または抗血管内皮増殖因子)、多糖類、ワクチン、抗原、DNAおよびその他のポリヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、またはsiRNAを含むが、これらに限定されない。
【0034】
使用される略語:ブピバカイン、BUP;ベタメタゾン、BET;ベタメタゾン吉草酸エステル、BETV;ケトプロフェン、KETO;メチルプレドニゾロン、MP;トリアムシノロンアセトニド、TA;メロキシカム、MELO。
【0035】
本明細書に記載される半固形製剤は、収斂剤、制汗剤、刺激剤、発紅剤、発疱剤、硬化剤、腐食剤、焼痂剤、角質溶解剤、日焼け防止剤、および色素沈着抑制剤および鎮痒剤を含む様々な外皮用薬などの他の局所作用活性剤にも適用できる。
【0036】
用語「半固形」は、中程度の圧力下で流動可能な材料の物理的状態を表す。より具体的には、半固形材料の粘度は、30℃で10,000cps(mPa.s)未満である。
【0037】
用語「生体侵食性」とは、インシチュで徐々に分解、溶解、加水分解および/または侵食される材料を指す。一般的に、本明細書に記載される「生体侵食性」半固形ゲルは、加水分解可能な材料であり、主に脂肪分解と加水分解の両方を介してインシチュで生体侵食される。
【0038】
本発明にかかる半固形脂質、溶媒および他の薬剤は、「生体適合性」でなければならず、即ち、使用環境で刺激や壊死を引き起こしてはいけない。使用環境は流動的な環境であり、皮下、結膜下、筋肉内、血管内(高/低流量)、心筋内・外膜、腫瘍内、または脳内の部分、創傷部位、人や動物の狭い関節腔または体腔を含んでも良い。
【0039】
<ヒマシ油およびゲル化剤>
ヒマシ油は、本明細書に記載される半固形製剤の好ましいトリグリセリド成分である。ヒマシ油は、脂肪酸鎖の約90%がリシノール酸エステルであるトリグリセリドである。オレイン酸エステルとリノールエステル酸は他の重要な成分である。ヒマシ油は、一部の注射可能な医薬品で(他の水不溶性物質を乳化および可溶化するための)溶媒として使用されているが、エモリエント効果のために使用される眼科用製剤を含む局所製剤で最も広く使用されている。
【0040】
ヒマシ油は、25℃で約700cPの粘度を有する液体である。比較的に粘性の高い植物油であるが、37℃で水またはPBSにヒマシ油を1滴加えると、すぐに広がり、水溶液の表面に散逸して最終的には小さな液滴を形成する。従って、ヒマシ油は徐放性デポに適合しない。
【0041】
しかしながら、ヒマシ油は触媒を用いたヒマシ油の水素化により、硬くて高融点(85~88℃)のワックスである水添ヒマシ油(ヒマシワックス)に変換されると、水素化ヒマシワックスは経口および局所医薬製剤において徐放剤として使用されている。経口製剤では、水添ヒマシ油は徐放性錠剤の製造に使用され、カプセル潤滑剤製剤として使用されている。局所製剤では、クリームやエマルションに剛性を与えるために使用されている。
【0042】
ブピバカインヒマシ油溶液製剤を使用した下記の実験結果により、ヒマシ油は、その比較的に高い粘度およびブピバカイン遊離塩基の体液への比較的に遅い溶解のせいで、臨床的に関連する疼痛モデルであるラット坐骨神経遮断において、ブピバカインの鎮痛効果を約2時間から4~6時間までにしか延長できないことが示された。
【0043】
驚くことに、本明細書では、SUPPOCIRE(登録商標)DM(SUP DM)などの固形ゲル化剤をヒマシ油に添加すると、ヒマシ油が柔らかい半固形ゲルに変換するということが見出された。SUP DMが5%である場合、ゲル化は室温で非常にゆっくり引き起こされる(体温37℃で流動性である)。SUP DMが10%以上である場合、室温でゲル化が引き起こされる。SUP DMの量が増えると、ゲル化が開始する時間は短くなる。20%のレベルでは、形成される半固形ゲルは依然としてソフトゲルであり、21Gの針で注射可能である。SUP DMの量が30%に増加すると、形成される半固形ゲルは比較的に硬いゲルになり、21Gの針で注射することが困難になる。
【0044】
形成されるヒマシ油ゲルは、室温の液体から室温のゲルに変換する特性を特徴として、且つ半固形ゲルは37℃の水中に置かれる時、明確なゲルとして保持される。
【0045】
さらに、多分ヒマシ油とゲル化剤の間の凝集相互作用および比較的に疎水性の半固形ゲル構造の原因で、ヒマシ油はゆっくり水中に放出される。本明細書の結果は、COを含む製剤からの活性薬物の放出動態を示す。安定したゲル製剤は、活性薬物の徐放を制御するために人体に投与された後、製剤が長期にわたる明確なデポとして持続することを保証し、且つ血管閉塞および潜在的な肺油微小塞栓症に繋がる動物またはヒトの血流へのヒマシ油の望ましくない急速な放出を防ぐことができる。さらに、形成される柔らかい半固形ゲル製剤の低粘度(30℃で約350cP)の性質により、21Gの針から簡単に注射できる、或いは局所薬物送達に適用できる。
【0046】
本明細書にかかるゲル化剤は、薬学的に許容されるヒマシ油適合性材料である。ヒマシ油はトリグリセリドの混合物であるため、固形または半固形のグリセリドはヒマシ油と適合性を有し、半固形ゲルを形成する。
【0047】
より具体的には、適切なゲル化剤は、混合エステルの固形トリグリセリド、脂肪酸の固形部分グリセリド、トリグリセリド、ジグリセリドまたはモノグリセリドの混合物、およびステロールエステルラノリンなどの他のヒマシ油適合性ゲル化剤であっても良い。これらのゲル化剤はヒマシ油と構造的に類似するので、それらは適合性があると予想される。物理的には、これらの材料は室温で固形または半固形脂質の形を取ることができ、且つ溶解度も低く、37℃の生理的pHの緩衝液中で1mg/mL未満、好ましくは0.1mg/mL未満の水溶解度を有するはず。ゲル化剤が親水的過ぎて水溶性である場合、活性薬剤の著しいバーストを引き起こし、特に活性薬剤が比較的に可溶性である場合、これで望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。ゲル化剤は主要な半固形脂質よりも著しく不溶性であると、活性薬物と主要な半固形脂質が完全に溶解して体内に吸収された時にも、体内にかなり長く滞在する。
【0048】
ヒマシ油と適合性を有して活性薬物用の半固形ゲル送達ビヒクルを形成するのに有用な固形または半固形脂質は、混合エステルの固形トリグリセリド、脂肪酸の固形部分グリセリド、トリグリセリド、ジグリセリドまたはモノグリセリドの混合物、および融点が100℃未満、好ましくは37℃~75℃、より好ましくは37℃~50℃のステロールエステルラノリンなどの他のヒマシ油適合性ゲル化剤を含む。特に高濃度(>20重量%)で融点が高くなり過ぎると、半固形ゲルが硬質となり、半固形ゲル製剤の注射可能性に影響する。
【0049】
ヒマシ油に添加して半固形ゲルを形成することができる固形トリグリセリドは、融点が42.5℃~46℃のC12~C18トリグリセリドの混合物であるSUP DM;融点が42℃~45℃のC12~C18トリグリセリドの混合物であるSUPPOCIRE(登録商標)D(SUP D);融点が37.8℃~39.8℃のC12~C18トリグリセリドの混合物であるSUPPOCIRE(登録商標)CM(SUP CM);融点が39℃~42℃のC10~C18脂肪酸のトリグリセリドであるSOFTISAN(登録商標)378(S378);並びに融点が85℃~88℃の水添ヒマシ油を含む。
【0050】
ヒマシ油に添加して半固形ゲルを形成することができる脂肪酸の固形部分グリセリドは、融点が42℃~45℃のC8~C18脂肪酸のグリセリドであるGELUCIRE 43/01(G43/01);融点が54℃~64℃のモノステアリン酸グリセリルであるGELEOLTM;融点が37℃~40℃のC12~C18脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドのグリセリド混合物であるGELUCIRE 39/01(G39/01);並びに融点が65℃~77℃のベヘン酸グリセリルであるCOMPRITOL(登録商標)888 ATOを含む。
【0051】
ヒマシ油に添加して半固形ゲルを形成することができるトリグリセリド、ジグリセリドまたはモノグリセリドの混合物は、融点が42℃~44℃のWITEPSOL(登録商標)E85(WIT E85);並びに融点37℃~39℃のWITEPSOL(登録商標)E76(WIT E76)を含む。
【0052】
さらに、他のヒマシ油適合性ゲル化剤、例えば融点が38℃のステロールエステルラノリンは、ヒマシ油に添加して半固形ゲルを形成することができる。
ヒマシ油に添加されるゲル化剤の濃度は変更できる。例えば、ゲル化剤の濃度(重量%)は、約8~30重量%、好ましくは約10~20重量%の範囲であっても良い。
【0053】
ゲル化剤と混合されたヒマシ油(最終送達ビヒクル)、および活性成分を有する送達ビヒクルは、37℃で体内に投与されると、明確な長期持続性デポを形成でき、徐々に分解/侵食し、そして体液に溶解することができ、且つ半固形脂質は最終的に、脂肪分解と呼ばれるプロセスを通じてリパーゼによって天然遊離グリセロールと遊離脂肪酸に加水分解される。
【0054】
<ヒマシ油半固形ゲル製剤の調製>
本明細書に記載される活性剤のヒマシ油半固形ゲル製剤は、ヒマシ油およびゲル化賦形剤と共に直接混合することによって、或いは既に形成された半固形ゲルと混合することによって調製できる。機械的混合プロセスを適切な温度、通常は60℃~90℃で行うことで、ゲル化賦形剤とヒマシ油を完全に溶融して溶液にし、任意の機械的手段で活性薬物を溶解または粉砕して、透明な溶液または均質な懸濁液にする。真空を適用して気泡を避けることができ、窒素を適用して活性薬物および送達ビヒクル成分の酸化を低減することができる。均質で均一な医薬組成物を達成した後、活性剤の半固形ゲル製剤を室温まで冷却することができる。
【0055】
<局所麻酔薬の半固形ゲル医薬組成物>
局所麻酔薬は、一時的な神経伝導ブロックを誘発し、外科的処置、歯科的処置、および創傷における疼痛緩和のための局所鎮痛効果をもたらす。
【0056】
臨床局所麻酔薬は、アミド型およびエステル型という2種類の局所麻酔薬のうちの1種に属する。アミド型局所麻酔薬は、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカイン、ジブカイン、エチドカイン、リドカイン、メピバカインを含む。エステル型局所麻酔薬は、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、プロパラカイン、テトラカインを含む。局所麻酔薬は、遊離塩基として、または酸付加塩として、またはそれらの混合物として存在しても良い。2つの異なる局所麻酔薬の混合物、または同じ局所麻酔薬の2つの形態(遊離塩基の形態と酸付加塩の形態)の混合物を使用して、所望の薬理効果と放出速度と持続期間を達成できる。
【0057】
活性剤(遊離塩基)は、脂肪酸および他の薬学的に許容される酸との塩に容易に変換できる。ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの飽和および不飽和脂肪酸はいずれも天然脂肪酸であり、使用できる。このような変換により、半固形ビヒクルへの適合性と溶解性を向上できる。選択された活性剤は、半固形ビヒクルに配合される前に予め塩に変換することができ、或いは製剤製造プロセスにおいて1:1のモル比または他のモル比で同時に半固形ビヒクルに添加することができる。
【0058】
組成物中に存在する活性剤の量は、活性薬物の治療的有効量、生物学的または治療的効果の所望の持続期間、および組成物の放出プロファイルなどのいくつかの要因によって、広い範囲内に変更できる。活性剤の濃度は、約0.01~60重量%、好ましくは約5~40重量%、より好ましくは約5~20重量%の範囲であっても良い。
【0059】
局所麻酔薬半固形ゲル製剤に、コルチコステロイド、鎮痛剤または抗炎症剤を添加することができ、好ましくは、コルチコステロイドはグルココルチコステロイドであり、或いは、抗炎症剤は、ケトプロフェン、ナプロキセン、メロキシカム、COX-1阻害剤、およびCOX-2阻害剤からなる群から選ばれる非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である。抗炎症薬の濃度は、薬物の効力とその臨床投与量に基づいて選択される。抗炎症薬の濃度は、炎症を局所的に抑制するために、約0.01~1重量%、好ましくは約0.03~0.5重量%、より好ましくは約0.03%~0.15%の範囲であっても良い。
【0060】
グリセリド混合物は、8:1.0、8:1.1、8:1.2、8:1.3、8:1.4、8:1.5、8:1.6、8:1.7、8:1.8、8:1.9、8:2.0、8:2.1、8:2.2、8:2.3、8:2.4、8:2.5(w:w)の相対濃度でヒマシ油とゲル化剤を含む。
【0061】
ゲル化剤の濃度(重量%)は、約8~30重量%、好ましくは約10~20重量%の範囲であっても良い。
また、オレイン酸、リノール酸などの天然浸透成分、およびアゾン、プロピレングリコール、N-メチルピロリドンなどの合成成分を含む浸透促進剤、酸化防止剤、防腐剤のような薬学的に許容される薬剤、および着色剤または香味剤などの他の不活性剤を添加しても良い。
【0062】
本明細書に記載される本半固形製剤の該半固形ゲル医薬組成物は、滑らかな半固形ゲル組織を有する。従って、組成物は、皮下、結膜下、皮内、筋肉内、硬膜外または髄腔内注射用の21G~25Gの針付きシリンジに充填することができ、或いは手術創/部位や露出した皮膚又は粘膜などの既に開いている部位にも便利に適用できる。
【0063】
注射または外用による投与後、活性剤は、持続的且つ制御された方式で組成物から放出される。放出速度は、治療効果の所望の持続期間に対応するために、各種の手段で調節することができる。例えば、異なるレベルのゲル化剤を使用することで、速度を増減できる。また、異なるゲル化剤を選択することによって、或いはそれらの量を変更することによって、或いはそれらの組み合わせによって変更することもできる。さらに、活性剤の水溶性がより低い形態、例えばそれらの塩基形態または脂肪酸との複合体を使用して、活性物質の放出を遅らせることができる。
【0064】
<医薬用途>
本明細書の局所麻酔薬半固形ゲル医薬組成物は、皮膚または粘膜などの既に開いている部位に局所的に適用すること、或いは注射器に充填して手術腔および創傷内の異なる層(腹膜の切開を横切り、皮膚の切開の真下など)に直接注射することができる。本医薬品は、通常中程度手術および大手術に伴う切開および深部内臓痛の両方の局所治療を可能にする。本医薬品は、痛みが最もヒトを衰弱させる手術後の最初の3日間、痛みを緩和させる。本製品には、腹部、婦人科、胸部、または整形外科などの中等度手術/大手術後の術後痛を管理するために広く使用される可能性がある。
【0065】
<他の半固形ゲル医薬製剤>
本明細書に記載される本半固形製剤の例示的な組成物およびそれらの使用は、以下のものを含む:目の炎症の治療用の眼科薬であるロテプレドノールなどのコルチコステロイドを含有する組成物;開放隅角緑内障または高眼圧症の治療用のラタノプロストなどの緑内障薬;黄斑変性症および網膜血管新生の治療用のコンブレスタチンなどの抗血管新生剤;および眼への眼科用薬物の制御放出用のその他の組成物。
【0066】
組成物中に存在する活性剤の量は、活性薬物の治療的有効量、生物学的または治療的効果の所望の持続期間、および組成物の放出プロファイルなどのいくつかの要因によって、広い範囲内に変更できる。活性剤の濃度は、約0.01~60重量%、好ましくは約1~10重量%の範囲であっても良い。
【0067】
主要な半固形脂質の濃度は、約1~99重量%、好ましくは約5~80重量%の範囲であっても良い。第1修飾賦形剤の濃度は、約1~50重量%、好ましくは約5~20重量%の範囲であっても良い。第2種類のゲル化剤の濃度は、約0.1~10重量%、好ましくは約0.5~5重量%の範囲であっても良い。さらに、酸化防止剤、防腐剤などの他の薬学的に許容される薬剤、および着色剤または香味剤などの他の不活性剤を添加しても良い。
【0068】
<1.背景>
〔a. S701〕
SOFTIGEN(登録商標)701(S701)は、水酸化ナトリウムの存在下でヒマシ油をグリセロールでエステル交換することにより製造される。ヒマシ油(CO)はS701の出発物質である。S701は、投与部位のみで軽度/中程度の可逆的な炎症反応を引き起こすが、ラット、ウサギ、およびイヌの実験において、創傷治癒や瘢痕形成に影響しない。
【0069】
発明者らは、S701のバッチが一致していないこと、即ち、外観が液体から部分的液体/部分的半固体、半固体、またはペーストに変化し、この変化が製剤の物理的状態およびインビトロ放出に影響を与えることを見出した。例えば、使用されるS701のバッチが液体である場合、インビトロでの薬物の放出はより速い。
【0070】
〔b.ヒマシ油(CO)〕
COは、組成および粘度などの物理的特性に関して一致性のある材料である。ヒマシ油は持続可能な「デポ」ではなく、油の溶液である。注射すると、特に大量のボーラス(3~5mL)を使用すると、血管閉塞と潜在的な肺油微小塞栓症を引き起こす可能性がある。比較的に大量のヒマシ油の急速な放出または排出は安全性の問題になる恐れがある。
【0071】
〔c.ゲル化剤〕
本明細書に記載される研究の1つの目的は、ヒマシ油を、可溶化薬物の放出を制御し、且つ周囲組織へのヒマシ油の放出を制御する安定なゲルに変換させることである。もう一つの目的は、薬物の急速な放出および/またはヒマシ油の排出を防ぐことである。
【0072】
薬学的に許容されるゲル化剤はテストされた。ステアリン酸アルミニウムやステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸のアルミニウム塩が一般的に使用される。カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンなどのポリマーも使用される。天然ペクチンやデンプンなどの多糖類は通常、水系に使用され、COと適合性がない。分子サイズと化学組成のばらつきにより、異なる由来のペクチンは異なるゲル化能力を提供することが分かった。他の天然ポリマーと同様に、ペクチンの主な問題はサンプル間の再現性の不一致であり、これにより、薬物送達特性の再現性が低下する可能性がある。
【0073】
ゲル化実験は以下のように行われた。目標量のゲル化剤とヒマシ油を秤量し、ガラスバイアルに移して密封した。混合物を水浴で約96℃に約10分間加熱し、次に1分間渦巻いた。該プロセスを合計30分間で3回繰り返したことで、ゲル化剤をヒマシ油に溶解した。カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンの3つのポリマーを0.2%のレベル(2mgのポリマーを1gのヒマシ油に加えること)でテストし、96℃で30分間加熱して渦巻いた。それらは全くヒマシ油に溶解できなかった。
【0074】
ヒマシ油において、ジステアリン酸アルミニウムを0.1%、0.5%および1%でテストした。結果により、96℃で30分間加熱して渦巻いた後、ヒマシ油におけるジステアリン酸アルミニウムの溶解度は0.1%未満であることが示された。一晩室温に冷却してもゲルは形成されなかった。
【0075】
テストされた上記の「ゲル化剤」はいずれもCOに可溶性がなく、COと適合性がなかった。
【0076】
次に、比較的に高い融点のグリセリドをテストし、ゲル化の開始からゲル化の完了までの時間、および37℃で水中へのヒマシ油の放出を測定した。インビトロおよびインビボの研究により、比較的に高い融点のグリセリドとCOを含む製剤は、顕著に優れたブピバカインの制御放出を提供したので、鎮痛効力が向上したことが示された。さらに、COはトリグリセリドであり、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドの混合物である市販のS701よりも炎症の発生が少なかった。
抗炎症剤の添加は効力を顕著に改善した。
【0077】
<2.ブピバカイン半固形ゲル製剤>
〔a.純ヒマシ油におけるブピバカインの溶解度〕
ヒマシ油におけるブピバカインの溶解度は、成分を70~80℃の高温で混合することでブピバカインをヒマシ油に溶解させ、周囲温度に冷却される時に透明な油溶液になる清澄な溶液を形成することにより測定される。5%~20%の範囲のブピバカインはヒマシ油に容易に溶解できる。
【0078】
〔b.ヒマシ油ゲルを形成するために必要なSUPDM量〕
8wt%のブピバカインの存在下でヒマシ油の半固形ゲル製剤を形成するために必要なゲル化剤の量は、70~80℃の高温で成分を混合しながら、室温に冷却後に均一で半透明または不透明なゲル製剤になる清澄な溶液を形成することにより測定される。表1の結果により、10%~30%の範囲のゲル化剤SUP DMは半透明または不透明な半固形ゲル製剤を形成できることが示された。
【0079】
ゲル化剤SUP DMが5重量%である場合、ゲル化は室温で非常にゆっくり引き起こされる(体温37℃で流動性である)。SUP DMが10重量%以上である場合、ゲル化は21℃で引き起こされる。SUP DMの量が増えると、ゲル化が開始する時間は短くなる。20%のレベルでは、形成される半固形ゲルは依然としてソフトゲルであり、21Gの針で注射可能である。SUP DMの量が30%に増加すると、形成される半固形ゲルは比較的に硬いゲルになり、21Gの針で注射することが困難になる。結果により、10%から20%のSUP DMをゲル化剤として使用し、優れた注射可能性を備える良好なブピバカイン半固形ゲル製剤を形成できることが示された。
【0080】
【0081】
形成されるヒマシ油ゲルは、室温の液体から室温のゲルに変換する特性を特徴として、且つ半固形ゲルは37℃の水中に置かれる時、明確なゲルとして保持される。37℃の水中に置いてテストされるヒマシ油ブピバカイン半固形ゲル製剤は、15%SUP DMで調製された。
【0082】
さらに、多分ヒマシ油とゲル化剤の間の凝集相互作用および比較的に疎水性の半固形ゲル構造の原因で、ヒマシ油は非常にゆっくり水中に放出されることが観察された。
5%~15%の範囲のブピバカインは、ヒマシ油とSUP DM混合物の半固形脂質混合物に容易に溶解できる。最大で15%のブピバカインが最終の半固形ゲル製剤混合物に可溶であったが、長期保存中の潜在的な薬物結晶化を回避するために10%未満が選択された。
【0083】
ブピバカインの濃度は、その効力および臨床投与量に基づいて選択される。典型的な長さ10~15cmの外科用開口部に対して、3~5mLの投与体積で、塩酸ブピバカイン(ブピバカインPI)の最大推奨単一成人投与量の400mgに基づいて、目標のブピバカイン濃度は80~130mg/mLである。
【0084】
〔c.他のゲル化剤〕
上記の実験的アプローチを使用して、ブピバカイン半固形ゲル製剤を形成するのに適切な他のヒマシ油適合性ゲル化剤を特定した。融点が42.5℃~46℃のC12~C18トリグリセリドの混合物であるSUP DMに加えて、他の固形または半固形トリグリセリドは、融点が42℃~45℃のC12~C18トリグリセリドの混合物であるSUPPOCIRE(登録商標)D(SUP D);融点が37.8℃~39.8℃のC12~C18トリグリセリドの混合物であるSUPPOCIRE(登録商標)CM(SUP CM);融点が39℃~42℃のC10~C18脂肪酸のトリグリセリドであるSOFTISAN(登録商標)378(S378);並びに融点が85℃~88℃の水添ヒマシ油を含む。これらは、ヒマシ油がブピバカインの存在下で半固形ゲル製剤を形成できるようにするゲル化剤としてもテストされた。
【0085】
下記の半固形局所麻酔薬医薬組成物は、以下のように調製された:局所麻酔薬、ヒマシ油、およびゲル化剤をガラス容器に入れ、次いで使用される局所麻酔薬とビヒクル成分の特性に応じて約60℃~90℃に加熱し、半固形脂質とゲル化剤を溶液に完全に溶融し、且つ活性薬物を送達ビヒクルに完全に溶解させ、混合中に透明な溶液を形成する。均質で均一な医薬組成物を達成した後、局所麻酔薬の半固形製剤を自然に周囲温度まで冷却することができる。
【実施例】
【0086】
GMP品質と量で入手可能な市販の製品は表2に従って使用された。
【0087】
【0088】
[実施例1]SUP D
C12~C18トリグリセリドの混合物であるSUP Dの融点は42℃~45℃である。COとSUP Dの比率の研究は表3に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0089】
SUP DMおよびSUP Dは、類似の特性および融点を示すため、ゲル化が開始して完了するのにほぼ同じ時間がかかった。約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。
【0090】
【0091】
[実施例2]SUP CM
C12~C18トリグリセリドの混合物であるSUP CMの融点は37.8℃~39.8℃である。COとSUP CMの比率の研究は表4に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0092】
SUP CMはより低い融点を有するため、SUP CMの方がSUP DMである場合よりも、ゲル化が開始して完了するのに時間がかかった。
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。
【0093】
【0094】
[実施例3]S378
C10~C18脂肪酸トリグリセリドの混合物であるS378の融点は39℃~42℃であり、且つ半固形の形態である。そのゲル化能は硬い固形のものよりも低く、他の固形トリグリセリドに比べてより高い量/濃度で使用された。40重量%のS378レベルでは、ゲル化の開始には約6:30分間かかったが、ゲル化の完了には36:00分間かかった。
【0095】
COとS378の比率の研究は表5に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0096】
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、30~50重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。20%のレベルでは、製剤は室温まで冷却した後も流動性があった。
【0097】
【0098】
[実施例4]水添ヒマシ油
水添ヒマシ油固形トリグリセリド(HCO)は、85~88℃の比較的に高い融点を有する。その融点が高いため、該ゲル化剤を完全に溶融し、ヒマシ油と均一に混合し、半固形ゲルを形成するためには、88℃以上に加熱する必要がある。
【0099】
COとHCOの比率の研究は表6に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約90℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~15重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。20%のレベルでは、ゲル化の開始には約1:25分間かかったが、ゲル化の完了には5分間かかった。製剤は比較的に硬いゲルになり、21Gの針で注射することが困難になった。
【0100】
【0101】
脂肪酸の固形部分グリセリドは、融点が42℃~45℃のC8~C18トリグリセリドの混合物であるG43/01;融点が54℃~64℃のモノステアリン酸グリセリルであるGELEOLTM;融点が65℃~77℃のベヘン酸グリセリルであるCOM;および融点が37℃~40℃のC12~C18脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリドおよびトリグリセリドのグリセリド混合物であるG39/01を含む。これらは、ヒマシ油がブピバカインの存在下で半固形ゲル製剤を形成できるようにするゲル化剤としてもテストされた。
【0102】
[実施例5]G43/01
C8~C18トリグリセリドの混合物であるG43/01の融点は42℃~45℃である。COとG43/01の比率の研究は表7に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0103】
15%および20%のG43/01の場合、ゲル化の開始にはそれぞれ約8:30分間および6:30分間かかり、ゲル化の完了にはそれぞれ15:00分間および13:00分間かかった。
【0104】
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。
【0105】
【0106】
[実施例6]COM
COとCOMの比率の研究は表8に示す。該固形ベヘン酸グリセリルの融点は65~77℃である。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約80℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0107】
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。10および15重量%のレベルでは、21Gの針で注射可能であった。20%のレベルでは、製剤は比較的に硬いゲルになり、21Gの針で注射することができなかった。
【0108】
【0109】
[実施例7]GEL
COとGELの比率の研究は表9に示す。該固形モノステアリン酸グリセリルの融点は54~64℃である。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0110】
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。
【0111】
【0112】
[実施例8]WIT E85およびWIT E76
トリグリセリド、ジグリセリドまたはモノグリセリドの混合物、例えば融点が42℃~44℃のWIT E85、および融点が37℃~39℃のWIT E76を、ゲル化剤としてテストし、ヒマシ油がブピバカインの存在下で半固形ゲル製剤を形成できるようにした。
【0113】
COとWIT E85の比率の研究は表10に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0114】
ゲル化の開始には約8:30分間および6:30分間かかり、ゲル化の完了には15:00分間および13:30分間かかった。
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。
【0115】
【0116】
[実施例9]天然ステロールエステル、ラノリン(LAN)
LANは「エステル」であり、構造的には「グリセリルエステル」に類似しており、トリグリセリドヒマシ油と適合性がある。その融点は38℃である。18重量%のLANでは、ゲル化の開始には約3:30分間かかったが、その粘度が高いせいで、ゲル化の完了には7:00分間かかった。
【0117】
COとLANの比率の研究は表11に示す。目標量の各成分をガラスバイアルに秤量し、水浴で約75℃に加熱し、全ての成分が完全に溶解して清澄な溶液を形成するまで混合した/渦巻いた。
【0118】
約1mLの熱溶液を5mLのプレフィルドシリンジに充填し、121℃で20分間蒸気滅菌した。それらは、10~20重量%のゲル化剤レベルで室温まで冷却した後、蒸気滅菌の有無にかかわらず、均一な不透明なゲルのように見え、21Gの針で注射可能であった。
【0119】
【0120】
[実施例10]ロテプレドノールエタボネート
ロテプレドノール(クロロメチル17-エトキシカルボニルオキシ-11-ヒドロキシ-10,13-ジメチル-3-オキソ-7,8,9,11,12,14,15,16-オクタヒドロ-6H-シクロペンタ[a]フェナントレン-17-カルボキシレート)(ALREX(登録商標)またはLOTEMAX(登録商標))のエステル形態のロテプレドノールエタボネートは、眼科で使用されるコルチコステロイドである。該薬の眼への適用は、アレルギーによる(処方箋による)眼の炎症の他、慢性型角膜炎(例えばアデノウイルスまたはサイゲソンの角膜炎)、春の角結膜炎、松果体炎、および上強膜炎への治療を含む。該薬は眼内圧に殆ど影響を与えない。
【0121】
半固形製剤であるGel 001 Lote:CO/SUP DM/ロテプレドノール(77.8/19.5/2.7)は、ヒマシ油、SUP DMおよび薬物をガラスバイアルに秤量し、蓋を閉めることにより調製した。ビヒクル成分を水浴で90℃に加熱することで溶融し、ロテプレドノールを溶解して清澄な溶液を形成し、室温に冷却後に半透明の柔らかいペーストになった。
【0122】
[実施例11]ラタノプロスト
ラタノプロスト(XALATAN(登録商標))は、眼内圧を低下させることにより緑内障または高眼圧症を治療するために使用される。
【0123】
半固形製剤であるGel 001 Lata:CO/SUP DM/ラタノプロスト(80/15/5)は、ヒマシ油、SUP DMおよび薬物をガラスバイアルに秤量し、蓋を閉めることにより調製した。ビヒクル成分を水浴で90℃に加熱することで溶融し、ラタノプロストを溶解して清澄な溶液を形成し、室温に冷却後に半透明の柔らかいペーストになった。
【0124】
[実施例12]インビトロ放出
下記の半固形局所麻酔薬の半固形医薬組成物は、以下のように調製された:局所麻酔薬、ヒマシ油、およびゲル化剤をガラス容器に入れ、次いで約70℃~90℃に加熱し、ゲル化剤を完全に溶融して溶液にし、且つ活性薬物を送達ビヒクルに完全に溶解させ、混合中に透明な溶液を形成した。均質で均一な医薬組成物を達成した後、局所麻酔薬の半固形製剤を自然に周囲温度まで冷却した。該半固形製剤は半透明または不透明の柔らかいゲルになった。
【0125】
COコントロール:CO/BUP (92/8)、
Gel 001 SupDM12:CO/SUP DM /BUP (80/12/8)、
Gel 002 SupDM20:CO/SUP DM /BUP (72/20/8)、
Gel 003 SupDM30:CO/SUP DM /BUP (62/30/8)、
Gel 004 SupD:CO/SUP D /BUP (77/15/8)、
Gel 005 Wit E85:CO/ WIT E85 /BUP (77/15/8)、
Gel 006 G4301:CO/ G4301 /BUP (77/15/8)、
Gel 007 HCO:CO/ HCO /BUP (80/12/8)、
Gel 008 S378:CO/ S378 /BUP (52/40/8)、
Gel 009 Lan:CO/ LAN /BUP (74/18/8)、
Gel 010 Azone:CO/ SUP DM/BUP/アゾン(77.5/12/8/2.5)、
Gel 001 Lote:CO/ SUP DM/ロテプレドノール(77.8/ 19.5 /2.7)、
Gel 001 Lata:CO/ SUP DM/ラタノプロスト(80/15/5)。
【0126】
ブピバカインのインビトロ放出プロファイルは、多孔質膜に封入された約50mgの製剤を、攪拌せずにpH7.4で100mLのPBS含有ガラス瓶に入れることによって評価された。それぞれの時点で、サンプルを採取し、ブピバカイン含有量を220nmのUV-Visで、ロテプレドノールを277nmでのUV-Visで、ラタノプロストを210nmでのUV-Visで解析した。
【0127】
リストされた全ての半固形組成物の薬物放出プロファイルは、
図1~4にまとめる。
ブピバカインヒマシ油ゲル製剤は、手術後最大で72時間、その部位で有効なブピバカインレベルを送達することにより、迅速でかつ持続的な疼痛緩和を達成することを目的とした。半固形ゲルは、通常の長さ10~15cmの外科用開口部に適した投与体積(最大で3~5mL)で同等のブピバカインレベルを送達し、且つ送達の終わりに、半固形脂質ゲルは溶解/侵食および吸収されると予期される。水性媒体が半固形ゲルに拡散すると、製剤表面のブピバカインが溶解することにより、即時かつ迅速な局所的な疼痛緩和がもたらされる。水性媒体が半固形脂質ゲルに浸透すると、半固形脂質は表面侵食とバルク侵食の両方で侵食され、徐々に周囲の水性媒体に溶解し、ブピバカインは徐々に拡散し、一定の期間にわたって持続的に周囲の水性媒体に放出される。
【0128】
図1に示すように、8重量%のブピバカインを含むブピバカインヒマシ油溶液製剤はコントロール製剤として使用された。ヒマシ油ブピバカイン油溶液は、静的条件下(攪拌なし)で4時間で20%以上、24時間で50%以上、48時間でほぼ70%の顕著なバーストをもたらした。2日目から5日目までの追加の10%の放出後、インビトロ放出曲線は平坦になった。100%未満の回収率は、サンプル前処理中のブピバカインのろ過損失およびUV-Vis法の不正確さが原因であることに注意すべきである。ヒマシ油からの不十分なブピバカイン放出動態は、その比較的に高い粘度およびブピバカイン遊離塩基の体液への比較的に遅い溶解のおかげで、ラットの坐骨神経遮断モデルで鎮痛反応を約4~6時間延長することができた。
【0129】
ヒマシ油が12%~30%の範囲のSUP DMおよびSUP Dのいずれかによってゲル化されると、4時間でブピバカインの約5%しか放出されず、24時間で16~18%、48時間で27~32%、および5日目で54~58%放出された。2つのゲル化剤の疎水性が高く、ゲルデポ構造が安定しているため、ブピバカインは徐々に周囲の水系に放出された。
【0130】
図2に示すように、WIT E85、G43/01、HCO、S378およびLANによってゲル化されたブピバカインヒマシ油ゲル製剤は、4時間でブピバカインの約5%しか放出されず、24時間で20%未満、48時間で29~34%、5日目で53~61%放出された。5つのゲル化剤はいずれも非常に疎水性であり、ゲルデポへの水の浸透を遅らせ、ブピバカインの放出を遅らせることができた。S378とLANの融点が低いため、形成されるゲルデポは柔らかく、ブピバカインの放出はわずかに速くなった。同様に、5つのブピバカインヒマシ油ゲル製剤では、ブピバカインが2~3週間にわたって徐々に周囲の水性媒体に放出された。
【0131】
図3は、SUP DMによってゲル化されたヒマシ油ゲル製剤からのロテプレドノールエタボネートの放出を示し、ロテプレドノールエタボネートは比較的に水溶性であるため、7日間のロテプレドノール放出プロファイルをもたらした。
【0132】
図4は、SUP DMによってゲル化されたヒマシ油ゲル製剤からのラタノプロストの放出を示す。ラタノプロストは非常に疎水性の高い薬剤であり、10日目に27%しか放出されなかった。ラタノプロストは、インビトロで1か月以上持続的に放出された。
【0133】
〔本明細書に記載される製剤の制御放出のメカニズム〕
半固形ゲル製剤が水性環境に置かれると、水は半固形脂質マトリックス中に拡散し、製剤表面の活性剤は最初に周囲の水性媒体に徐々に溶解する。水性媒体が半固形脂質ゲルに浸透すると、半固形脂質は表面侵食とバルク侵食の両方で侵食され、徐々に周囲の水性媒体に溶解し、活性剤は徐々に拡散し、一定の期間にわたって持続的に周囲の水性媒体に放出される。
【0134】
〔薬物放出速度に影響する要因〕
活性剤の放出速度は、半固形ゲルビヒクル成分および活性成分の両方によって影響され、治療効果の所望の持続期間に対応するために、各種の手段で調節することができる。
【0135】
半固形ゲルビヒクルについて、活性剤の放出速度は、異なる水溶解度および/または溶解速度を有する、異なるタイプ/レベル/量/比疎水性のグリセリドゲル化剤を使用することによって、向上または低下させることができる。半固形脂質の水溶解度と溶解速度が低下すると、半固形ゲルが溶解して吸収されるのに時間がよりかかるため、活性剤が十分に低い溶解性を示す限り、薬物放出の持続期間が長くなる。
【0136】
さらに、活性剤の水溶性がより低い形態、例えばそれらの塩基形態または脂肪酸との複合体を使用して、活性物質の放出を遅らせることができる。
ブピバカインは、遊離塩基または塩の形態にすることができ、例えば塩酸ブピバカインは、MARCAINETM、SENSORCAINE(登録商標)およびVIVACAINE(登録商標)を含む各種の商品名で広く市販されている。ブピバカインの塩酸(HCl)塩は600mg/mL(BASF MSDSシート)の水溶解度を有するが、ブピバカインの遊離塩基形態は0.0977mg/mLの予測水溶解度を有する(DrugBankデータ)。さらに、薬物ブピバカインの水溶解度をさらに低下させる必要がある場合は、ブピバカインを脂肪酸および他の低溶解度酸との塩に変換することができる。
【0137】
[実施例13]粘度測定
半固形製剤の粘度測定の目的は、本明細書に記載される半固形製剤が非常に低い粘度を有し、23Gから21Gの針を介して容易に注射できることを実証するためである。
【0138】
〔粘度測定手順〕
半固形製剤の粘度は、コーンスピンドルCPE-51を使用して、較正されたブルックフィールドRVDV-I Prime CPモデル粘度計で測定された。まず、密封されたガラスバイアルに保存された半固形製剤サンプルを、サンプルが流動性のある粘稠な液体になるまで、オーブンで約40℃~50℃に加熱した。次に、約0.5グラムの各サンプルを、温めたサンプルカップの中央に量り取った。泡を可能な限り避けた。サンプルカップを粘度計に取り付け、トルク百分率が10%~100%になるように適切な回転速度で粘度を測定した。目標温度での粘度とトルク百分率を記録した。室温でのこれらの材料の柔らかいペーストの性質により、半固形製剤の粘度を30℃で測定し、その時点で半固形製剤は圧力下で流動性のある粘稠な液体/半固体になった。センチポアズ(cP)およびミリパスカル・秒(mPa・s)は、粘度のCGSおよびSI単位である。1cP = 1mPa・s。全ての半固形製剤の粘度は30℃で測定された。
【0139】
〔粘度データ〕
(優れた生理化学的プロファイル-低粘度ゲル製剤)
ヒマシ油は、25℃で約700cP、30℃で451cPの粘度を有する液体である。
【0140】
抗炎症剤を含むおよび含まないブピバカインヒマシ油ゲル製剤の粘度値は、161cPs~701cPsの範囲の低粘度特性を示し、それらの大部分は30℃で400cPs未満であった。ゲル化剤は2つの役割を果たし、1つはヒマシ油をゲル化すること、もう1つは製剤の粘度を下げてシリンジ通過性と注射可能性を改善することである。
【0141】
これらの製剤はゲルの形態であっても、それらは21Gの針を介して容易に注射され、切開部位への単一の容易な点滴投与(針有りまたは無し)を可能にする。
【0142】
(ブピバカインヒマシ油ゲル製剤の粘度値)
抗炎症剤を含むおよび含まないブピバカインヒマシ油ゲル製剤の粘度結果を表12にまとめる。全ての半固形製剤の粘度は30℃で測定された。
【0143】
【0144】
CO/HCO/ブピバカイン(82/10/8)製剤は、高融点成分HCOの原因で、60℃で完全に溶融せず、その粘度は測定されなかった。
抗炎症剤を含むおよび含まないブピバカインヒマシ油ゲル製剤の粘度値は、161cPs~701cPsの範囲の低粘度特性を示し、それらの大部分は30℃で400cPs未満であった。ラノリンを除く全てのゲル化剤は、ワックス状の固体であり、脂肪酸の長いアルキル鎖から由来のワックス状の特性により、ゲル製剤の粘度を下げるために潤滑剤として機能する。活性成分ブピバカインは可塑剤としても機能し、ゲル製剤の粘度を下げることができる。非常に少量の抗炎症薬は、通常、ゲル製剤の粘度に影響を与えない。
【0145】
表12に挙げられる抗炎症剤を含むおよび含まないブピバカインヒマシ油ゲル製剤は全て、21Gの針を用いて機械的圧力(剪断力)で容易に注射可能である。
CO/HCO/ブピバカイン(82/10/8)製剤は、高融点成分HCOの原因で、60℃で完全に溶融せず、その粘度は測定されなかった。しかし、該製剤は依然として21Gの針で注射可能である。
【0146】
[実施例14]皮膚反応の評価
S701を使用して以前に開発された半固形製剤と共に、抗炎症剤を含むおよび含まない下記のブピバカインヒマシ油ゲル製剤を、胸部のきれいに剃った背部側面で皮下注射により各動物に投与した。
【0147】
半固形S701:S701/SUP A/BUP (79/13/8)、
半固形S701+ BetV: S701/SUP A/BUP (78.95/13/8/0.05)、
Gel DM:CO/SUP DM/BUP (81/11/8)、
Gel DM + BetV:CO/SUP DM/BUP /BetV(80.95/11/8/0.05)。
【0148】
浮腫/紅斑の注射部位反応データは表13に従って評価された。
【0149】
【0150】
テストされた製剤の注射部位の浮腫/紅斑の結果は表14および15に示す。半固形製剤の沈着に起因する触知可能な腫瘤(浮腫得点2~3)は、注射直後に全ての動物の投与領域で明らかであった。半固形S701は、1日目と2日目に浮腫を示し、3日目から8日目にかけて徐々に治まった。0.05%の吉草酸ベタメタゾンの存在下で、浮腫は解消された。半固形S701も、1日目と2日目に中程度の浮腫を示し、3日目から8日目にかけて徐々に治まった。0.05%の吉草酸ベタメタゾンの存在下で、紅斑は1日目と2日目に減少された。
【0151】
ブピバカインヒマシ油ゲル製剤であるGel DMは、注射部位のみで極わずかまたは最小限の浮腫および紅斑を示した。
【0152】
【0153】
【0154】
[実施例15]インビボラット坐骨神経遮断試験
体重が200g~250gの雄ラットを用いて、異なる半固形製剤のそれぞれによって誘発された神経伝導遮断の持続期間を評価した。ラットは毎日取り扱われ、検査の前にテストパラダイムに少なくとも60分間慣れた。感覚と運動の遮断を以下に説明するように調べた。感覚テストに加え、各時点で運動テストを行い、歩行姿勢と足の配置によってラットが後脚を動かす能力を調べた。施設、州、および連邦の動物福祉規制に準拠して、動物を取り扱い、世話をした。プロトコルはIACACによって承認された。
【0155】
全てのラットを、酸素中の3.5%~4.0%のイソフルランで麻酔し、1.5%~2.0%のイソフルランで維持した。無菌条件下で、左大腿部の毛を剃り、上部1/3部分を切開した。大腿筋を鈍的切開によって優しく切開し、坐骨神経を露出させた。半固形ゲル製剤を、ハムストリングと部位の深部での筋膜面における直視下で、坐骨神経に隣接して配置した。最も浅い筋膜層を1本の縫合糸で閉じた。外皮の端を近づけ、外科用ステープルで閉じた。全てのラットに対して、坐骨神経の左側に薬物含有半固形製剤を埋め込んだ。
【0156】
ホットプレート測定:各時点で、ラットを56℃のホットプレートに置き、後足を持ち上げる潜時を(動物の両方の足について)少なくとも5分間の間隔で3回記録した。痛覚過敏または損傷の発生を防止するために、10秒のカットオフ潜時を使用した。3つの測定値の平均を特定の時点の最終測定値として使用した。
【0157】
足の配置:両方の足について、訓練された研究者によって動物を優しく保持し、足を一度に1つずつ、足の指に到達するまでゆっくりと試験台の端を滑らせ、5回繰り返した。 各時点で、ラットがそのテスト用足をプラットフォームの表面に成功に配置できた場合、得点を1(従って、各足の最大得点は5)にし、失敗した場合は0にした。
【0158】
足運動能力測定:1~4のスケールを使用する足運動能力テストは、以下のレベルに従って、動物が跳ねてその後脚に体重をかける能力を評価した(Castillo、1996、Anesthesiology 85:1157- 66):
(1) 通常の外観。
(2) 無傷の背屈、しかしラットの尾を上げると爪先の開きに障害のある。
(3) 開く能力のない完全な足底屈曲。
(4) 3番の上で歩行障害もある。
各時点で足運動能力評価も採用した。両方の足について、動物を訓練された研究者によって背中に優しく抱いた。
【0159】
解剖:投与後2週間の時点で、手術部位の皮膚を検査して、創傷治癒への影響があるかどうかを観察した。その後、半固形製剤が投与された部位を再度切開し、麻酔下で肉眼観察した。検査終了後、ラットをCO2で安楽死させた。
【0160】
〔1.術後痛緩和のための所望の効力/鎮痛プロファイル〕
手術直後の初日が非常に痛みを伴い、痛みの緩和とオピオイドの節制を確実にするために、強力な鎮痛効能が必要である。製品が初日に十分な鎮痛を提供しない場合は、オピオイド救急薬が必要である。
【0161】
理想的には、ブピバカイン半固形ゲル製剤は、それらの達成が非常に困難であったが、(1)外傷後の最初の肝心な24時間にわたって所望の鎮痛効能を提供するための十分に迅速な放出、(2)効果の持続期間を72時間まで十分に延長するための十分に遅い放出、(3)長期間にわたって必要な速度で放出するために適切な使用量、および(4)便利な投与のための十分に小さい体積および十分に低い粘度、を提供する。
【0162】
〔2.ブピバカインヒマシ油ゲル製剤〕
ヒマシ油ゲル製剤から放出されたブピバカインの薬力学的活性は、ラットの坐骨神経遮断モデルで評価した場合、単独のブピバカインヒマシ油溶液に比べて、より大きな鎮痛活性をもたらした(
図5)。ブピバカインヒマシ油ゲル製剤の感覚機能の指標としてのホットプレート潜時-時間の関係は
図5に示す。感覚遮断は、56℃ホットプレートで記録された足潜時応答時間を使用して評価された。
【0163】
8重量%のブピバカインを含むブピバカインヒマシ油溶液製剤はコントロール製剤として使用された。ヒマシ油ブピバカイン油溶液は、その比較的に高い粘度とブピバカイン遊離塩基の体液への比較的に遅い溶解のおかげで、ラット坐骨神経遮断モデルで約4~6時間の限られた鎮痛反応をもたらした。
【0164】
しかしながら、ゲル化剤の助けを借りて、ヒマシ油ブピバカインゲル製剤は、最初の24時間にわたって強力な感覚および運動遮断を提供し、且つ鎮痛の程度に応じて最大で72時間まで部分的遮断を延長する(2日目は中程度の遮断、3日目の部分的遮断、これは、1日目が極度の痛み、2日目が中程度の痛み、3日目が軽度の痛みのみという典型的な外科手術患者の痛みの強さプロファイルに合致した。)
【0165】
ブピバカインヒマシ油ゲル製剤の足運動能力測定値-時間の関係は
図6に示す。足運動能力テストは、1~4のスケールを使用して、動物が跳ねてその後肢に体重をかける能力を評価する。
【0166】
ブピバカインヒマシ油ゲル製剤群は、最初の24時間にわたって強力な運動遮断をもたらし、鎮痛の程度に応じて最大で48時間まで部分的遮断を延長した(
図6)のに対し、ブピバカインヒマシ油溶液製剤は2時間の強力な運動遮断をもたらし、部分的遮断を6時間まで延長した。効果的な鎮痛を提供するには、外傷手術後の最初の24時間の強力な運動遮断が必要である。運動機能は、全ての群で可逆的であり、投与後72時間で正常値に戻った。
【0167】
(手術部位の創傷治癒と解剖)
投与後2週間の時点で、手術部位の皮膚を検査して、創傷治癒への影響があるかどうかを観察した。創傷治癒に対するゲル製剤の悪影響は観察されず、手術部位は約2週間で良好に治癒した。製剤投与後、ブピバカインヒマシ油ゲル製剤ではわずかな浮腫と紅斑しか観察されなかった。
【0168】
半固形製剤が投与された部位を再度切開し、麻酔下で肉眼観察した。投与部位はピンクに見え、坐骨神経は正常に見え、炎症、壊死、潰瘍、または感染は見られなかった。さらに、殆どのゲル製剤が溶解して吸収され、投与部位で少量のデポ残留物しか観察されなかった。
【0169】
〔3. 抗炎症剤を含むブピバカインヒマシ油ゲル製剤〕
外科的切開のような急性損傷後の炎症反応は、ブピバカインを含む局所麻酔薬が知覚神経伝導を遮断する能力を損なう術後炎症をもたらす。後者は、炎症反応によって生成される酸性環境の結果であり、鎮痛剤が神経細胞膜に浸透することを妨げる。BET、BETV、MP、KETO、またはTAなどの抗炎症剤を配合することで外科的炎症反応を克服し、72時間まで痛みの軽減を最大化するために、抗炎症剤を含むブピバカインヒマシ油ゲル製剤を調製した。
【0170】
抗炎症剤を含まないブピバカインヒマシ油ゲル製剤に比べて、抗炎症剤を含むブピバカインヒマシ油ゲル製剤には、神経遮断の増強が72時間にわたって観察された。
【0171】
抗炎症剤の添加で確認されたように、ブピバカインヒマシ油ゲル製剤は、抗炎症剤を含まないブピバカインヒマシ油ゲル製剤に比べて、最初の24時間で鎮痛効果がより大きく(強度が向上する)、且つ外傷後72時間にわたって強力な感覚と運動遮断および中程度の部分的遮断をもたらした。さらに、抗炎症剤を含むブピバカインヒマシ油ゲル製剤は、部分的な感覚遮断を96時間、ひいては最大で120時間まで延長した(
図7および8)。従って、抗炎症剤を含むブピバカインヒマシ油ゲル製剤は、中等度/大規模な腹部、婦人科、胸部、および整形外科などの各種の非常に痛みを伴う手術の術後痛の管理に使用することができ、臨床的有用性が拡大される。
【0172】
(ブピバカインCO半固形ゲル製剤の安定性)
ブピバカインCOゲル製剤は、オートクレーブによる熱処理および最終滅菌に対して、並びに-5℃、4℃、25℃、および40℃の各種の保管条件下で安定である。それらを調製し、ガラスのプレフィルドシリンジに充填し、得られた製剤をオートクレーブを使用して滅菌した(蒸気滅菌サイクル121℃x20分間)。ブピバカイン関連物質の総量は、製造および蒸気滅菌サイクル後、約0.10%であった。40℃で1か月保管した後、さらに0.1%のブピバカインが分解/酸化された。ブピバカインCOゲル製剤は、室温条件下で安定することが期待されている。さらに、上記の全ての保管条件下で1か月間、相分離、沈殿、薬物結晶化が発生しなかった。
【0173】
本出願は2017年12月6日に提出された米国出願第15/833,899号の優先権を主張する。