(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】有機系脱酸素剤
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20220328BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220328BHJP
A23L 3/3436 20060101ALI20220328BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
B01D53/14 311
B01J20/22 A
A23L3/3436 501
C01B33/18 Z
(21)【出願番号】P 2021025114
(22)【出願日】2021-02-19
(62)【分割の表示】P 2017070454の分割
【原出願日】2017-03-31
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】菊地 悠矢
(72)【発明者】
【氏名】横倉 久男
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-221065(JP,A)
【文献】特開2015-062854(JP,A)
【文献】特開2008-264665(JP,A)
【文献】特開平04-215842(JP,A)
【文献】特開平04-267845(JP,A)
【文献】特開平11-207177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0207042(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18
B01J 20/00-20/28、
20/30-20/34
A23L 3/00- 3/3598
C01B 33/00-33/193
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリソルビン酸塩からなる主剤と、炭酸カリウムからなるアルカリ剤と、水と、反応触媒と、活性炭以外の成分からなる担持体と、予め水分を30質量%~65質量%含む含水活性炭と、を含む造粒物からなる有機系脱酸素剤であって、
前記含水活性炭が含む水分を除いて、前記主剤100質量部に対して、前記水を10質量部以上80質量部以下含み、
炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムを含まないこと、
を特徴とする有機系脱酸素剤。
【請求項2】
前記主剤100質量部に対して、前記水を20質量部以上50質量部以下含む請求項1に記載の有機系脱酸素剤。
【請求項3】
前記主剤100質量部に対して、前記担持体を30質量部以上60質量部以下、前記アルカリ剤を15質量部以上40質量部以下含む請求項1又は請求項2に記載の有機系脱酸素剤。
【請求項4】
前記担持体は、平均細孔径が300Å以上600Å以下の湿式シリカである請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の有機系脱酸素剤。
【請求項5】
当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対して、前記主剤を40質量%以上50質量%以下、前記アルカリ剤を10質量%以上15質量%以下、水を15質量%以上20質量%以下、前記反応触媒を3質量%以上6質量%以下、前記担持体を17質量%以上22質量%以下、含水活性炭を0.1質量%以上10質量%以下含む請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の有機系脱酸素剤。
【請求項6】
前記反応触媒は、硫酸第1鉄水和物である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の有機系脱酸素剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、有機系脱酸素剤に関し、詳しくは、金属探知機に検知されず、安全性が高い炭酸ガス発生型の有機系脱酸素剤に関する。
【背景技術】
【0002】
流通過程において、食品等の酸化等を防止するため、食品等を脱酸素剤と共に包装容器(包装袋含む)内に封入することが行われている。脱酸素剤を用いることにより、包装容器内の酸素を吸収して、食品等を無酸素雰囲気中で保存することが可能になる。このため、食品業界等では、食品等の酸化等による品質低下を防止して、長期に渡って良好な状態で食品等を流通するために脱酸素剤が広く用いられている。
【0003】
脱酸素剤には、鉄粉を主剤とする鉄系脱酸素剤と、有機系の易酸化物質を主剤とする有機系脱酸素剤とがある。従来、安価であり、且つ、安定した酸素吸収能を有することから、鉄系脱酸素剤が広く使用されてきた。しかしながら、近年では、食品等の流通過程において金属探知機による金属製異物混入検査が行われる場合があることから、金属探知機に検知されない有機系脱酸素剤の需要が伸びている。
【0004】
このような有機系脱酸素剤として、例えば、アスコルビン酸を主剤とする脱酸素剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。アスコルビン酸を主剤とする脱酸素剤は、アルカリ剤、反応触媒、水などを含み、アスコルビン酸を雰囲気中の酸素と反応させて、雰囲気中の酸素を除去する。これを脱酸素反応と称する。このような脱酸素剤には、アルカリ剤として炭酸塩などが用いられることから、雰囲気内に炭酸ガスを放出する。つまり、包装容器のいわゆるバキューム現象が生じないため、柔らかい食品等と共に用いる脱酸素剤として好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アスコルビン酸を主剤とする脱酸素剤は、鉄系脱酸素剤と比較すると酸素吸収能が低く、より酸素吸収能の高い有機系脱酸素剤が求められている。また、アスコルビン酸を主剤とする脱酸素剤では、脱酸素反応の進行と共に炭酸ガスを発生する。炭酸ガスが発生すると脱酸素剤が充填された包装袋等が膨らみ、その内圧が高くなると包装袋等の破裂を招く恐れもある。そのため、炭酸ガスの発生量が脱酸素剤により雰囲気中の酸素が吸収された量(以下、「酸素吸収量」と称する。)を超えて多くなることは好ましくない。
【0007】
本件発明の課題は、炭酸ガス発生型の有機系脱酸素剤であって、良好な酸素吸収能を有し、且つ、炭酸ガスの発生量が酸素吸収量と同程度である有機系脱酸素剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本件発明に係る有機系脱酸素剤は、エリソルビン酸塩からなる主剤と、炭酸カリウムからなるアルカリ剤と、水と、反応触媒と、活性炭以外の成分からなる担持体と、予め水分を30質量%~65質量%含む含水活性炭と、を含む造粒物からなる有機系脱酸素剤であって、前記含水活性炭に含浸させた水分を除いて、前記主剤100質量部に対して、前記水を10質量部以上80質量部以下含み、炭酸ナトリウム及び炭酸カルシウムを含まないことを特徴とする。
【0009】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、前記主剤100質量部に対して、前記水を20質量部以上50質量部以下含むことが好ましい。
【0010】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、前記主剤100質量部に対して、前記担持体を30質量部以上60質量部以下、前記アルカリ剤を15質量部以上40質量部以下含むことが好ましい。
【0011】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、平均細孔径が300Å以上600Å以下の湿式シリカであることが好ましい。
【0012】
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対して、前記主剤を40質量%以上50質量%以下、前記アルカリ剤を10質量%以上15質量%以下、水を15質量%以上20質量%以下、前記反応触媒を3質量%以上6質量%以下、前記担持体を17質量%以上22質量%以下、含水活性炭を0.1質量%以上10質量%以下含むことが好ましい。
【0013】
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、前記反応触媒は、硫酸第1鉄水和物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本件発明に係る有機系脱酸素剤によれば、炭酸ガス発生型の有機系脱酸素剤であって、十分な酸素吸収能を有し、且つ、炭酸ガスの発生量が酸素吸収量と同程度である有機系脱酸素剤を提供することができ、それを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明に係る有機系脱酸素剤の好ましい実施の形態を説明する。
【0016】
1.有機系脱酸素剤
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、主剤と、アルカリ剤と、水と、反応触媒と、担持体を含む造粒物からなる有機系脱酸素剤であって、主剤として、エリソルビン酸塩を用い、アルカリ剤として、炭酸カリウムを用いることを特徴とする。
【0017】
本件発明に係る有機系脱酸素剤によれば、主剤として、エリソルビン酸塩を用い、アルカリ剤として、炭酸カリウムを用いることにより、炭酸ガス発生型の有機系脱酸素剤であって、十分な酸素吸収能を有し、且つ、炭酸ガス(二酸化炭素)の発生量を雰囲気から酸素を除去した量(以下、「酸素吸収量」と称する。)と同程度にすることができる。なお、本件発明において、「酸素吸収能」とは、酸素吸収速度及び酸素吸収量により評価するものとし、酸素吸収能が高いとは、酸素吸収速度が速く、且つ、酸素吸収量が多いことを意味する。評価方法は後述するが、酸素吸収速度が速いとは、24時間後の酸素濃度が1.0%以下であることを意味し、酸素吸収量が多いとは、168時間後の酸素吸収量が200mL以上であることを意味する。また、「炭酸ガスの発生量が酸素吸収量と同程度である」とは、炭酸ガスの発生量が酸素ガス吸収量の105%以下であり、且つ、炭酸ガスの発生量が酸素ガス吸収量の75%以上であることを意味する。炭酸ガスの発生量が酸素ガス吸収量の105%を超えると包装袋等が膨らみ、75%未満になると包装袋が収縮しバキューム現象が生じる。炭酸ガスの発生量が酸素ガス吸収量の100%以下であることが好ましく、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。当該範囲内で炭酸ガスの発生量と酸素ガス吸収量との差は小さいことが好ましい。
【0018】
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、上記主剤、アルカリ剤、水、反応触媒及び担持体の他に、タンニン化合物、含水活性炭を含むことが好ましい。以下、当該有機系脱酸素剤の構成成分について、主剤、水、アルカリ剤、反応触媒、タンニン化合物、含水活性炭の順に説明する。
【0019】
(1)主剤
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、主剤として、エリソルビン酸塩を用いる。本件発明において、主剤とは、当該有機系脱酸素剤において脱酸素反応に寄与する成分のうち、含有量の最も多い成分であることを意味する。エリソルビン酸塩はエリソルビン酸のアルカリ金属塩などを意味し、本件発明では特にエリソルビン酸ナトリウムを好ましく用いることができる。エリソルビン酸ナトリウムは、入手が容易であり、アスコルビン酸と比較すると安価であるため、アスコルビン酸を主剤として用いる場合と比較すると安価に当該有機系脱酸素剤を製造することができる。また、エリソルビン酸ナトリウムは、食品添加物としても用いられている化合物であるため、食品等の経口品と共に用いられる有機系脱酸素剤の主剤として用いた場合にも安全性が高い。
【0020】
さらに、エリソルビン酸塩は、易酸化性の化合物であり、アルカリ剤、水の存在下において、雰囲気中の酸素と良好に反応して、雰囲気中の酸素を除去する。このエリソルビン酸塩の脱酸素反応に伴い、酸素吸収量と同程度の炭酸ガスが雰囲気中に放出される。そのため、バキューム現象の生じない炭酸ガス発生型の脱酸素剤でありながら、アスコルビン酸を主剤として用いたときのように酸素吸収量を超えて炭酸ガスが雰囲気中に放出されることがなく、当該有機系脱酸素剤が充填された包装が袋等の内圧が高くなるのを防止することができる。なお、アスコルビン酸を主剤として用いた場合、炭酸ガス発生量は酸素吸収量の110%を超える。また、本件発明に係る有機系脱酸素剤において、アスコルビン酸塩を用いた場合、酸素吸収能が悪く、実用に耐えるものではない。
【0021】
(2)アルカリ剤
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、アルカリ剤は脱酸素反応を進めるために必須の成分である。本件発明では、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いることを特徴とする。有機系脱酸素剤の脱酸素反応は水(液相)を反応場として塩基性条件下で行われる。そのため、従来よりアルカリ剤として、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属或いはアルカリ土類金属の炭酸塩などが用いられてきた。しかしながら、本件発明者等の鋭意研究の結果、エリソルビン酸塩を主剤として用いる場合、炭酸カリウムを用いることにより、他のアルカリ剤を用いた場合と比較して、粉体特性(流動性、見掛密度等)が良好で酸素吸収能が高く、且つ、炭酸ガス発生量の少ない有機系脱酸素剤が得られることを見出した。その理由は定かではないが、例えば、次のように推測される。
【0022】
エリソルビン酸塩の水に対する溶解性は低い。例えば、エリソルビン酸ナトリウムの水に対する溶解度は16g/100g(25℃)であり、エリソルビン酸ナトリウムは水に対して難溶性の化合物である。これに対して、炭酸カリウムの水に対する溶解度は113.5g/100g(25℃)と高く、易溶性の化合物である。上述したとおり、脱酸素剤による脱酸素反応は、水(液相)を反応場として塩基性条件下で行われる。ここで、主剤及びアルカリ剤共に水に対する溶解性の低い化合物を用いた場合、上記脱酸素反応に好ましい反応場を調整することが困難になり、主剤による脱酸素反応を進行させることが困難になり、酸素吸収能が低下する。一方、主剤及びアルカリ剤共に水に対する溶解性の高い化合物を用いた場合、これらを混合した際にアルカリ剤により主剤が加水分解されたり、主剤による脱酸素反応が過剰に進行するなどして、脱酸素剤を製造するまでの間に主剤の酸素吸収能が低下したり、造粒物の流動性が低下するため、好ましくない。
【0023】
本件発明では、主剤として水に対する溶解性の低いエリソルビン酸塩を用い、アルカリ剤として水に対する溶解性の高い炭酸カリウムを用いることにより、製造工程の間に主剤が加水分解されたり、脱酸素反応が過剰に進行するのを防止することができ、且つ、造粒物の流動性を良好に維持することができる。特に、当該有機系脱酸素剤を後述する方法で製造すると、製造工程の間における酸素吸収能の低下を防止すると共に、製造効率が良好であり、製品として使用された際に酸素吸収能の高い有機系脱酸素剤を得ることができる。
【0024】
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、アルカリ剤としての炭酸カリウムは、主剤であるエリソルビン酸塩100質量部に対して、15質量部以上40質量部以下含まれることが好ましく、20質量部以上35質量部以下含まれることがより好ましい。
【0025】
(3)水
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、水は必須成分である。水は、当該有機系脱酸素剤を構成する構成成分を馴染ませ、反応の場を提供するものであり、主剤を100質量部としたとき、水を10質量部以上100質量部以下含むものが好ましい。特に、造粒物の流動性を維持するという観点から、主剤を100質量部としたときの水の含有量は、80質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。水の含有量が多くなると、後述する担持体によって水分等を保持させることが困難になるため、好ましくない。一方、脱酸素反応を良好に進行させるためには、水の含有量は15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。
【0026】
(4)反応触媒
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、エリソルビン酸塩による脱酸素反応を促進するための反応触媒を含む。反応触媒として、例えば、クエン酸鉄、フタロシアニン鉄等の有機金属系触媒を用いることもできるが、鉄、ニッケル、銅、マンガン等の遷移金属の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、又は複塩、或いはこれらの水和物等の無機系触媒を用いることが好ましい。反応触媒を含む構成とすることにより、酸素吸収能の高い有機系脱酸素剤を得ることができる。
【0027】
当該有機系脱酸素剤において、後述するタンニン化合物を含む構成とする場合、これらの中でも、鉄の塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩又は複塩等、或いはこれらの水和物、すなわち鉄触媒を用いることが好ましい。鉄触媒は、タンニン化合物と錯体を容易に形成する。そのためか、酸素吸収能が高く、造粒物の流動性がより良好な有機系脱酸素剤を得ることができる。このような効果を得る上で、鉄触媒の中でも、特に、硫酸第1鉄水和物を用いることが好ましい。
【0028】
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、反応触媒の含有量は、反応触媒の種類等に応じて適宜調整することができるが、主剤であるエリソルビン酸塩100質量部に対して、反応触媒を3質量部以上20質量部以下含むことが好ましい。反応触媒の含有量が3質量部未満では、脱酸素反応を促進する効果が低く好ましくない。脱酸素反応を促進する上で、反応触媒の含有量は5質量部以上であることがより好ましく、7質量部以上であることがさらに好ましい。一方、反応触媒の含有量が20質量部を超えて多くなると、水の含有量を後述する量よりも増加させなければ、反応触媒を水に溶解させることが困難になる。水の含有量を後述する量よりも増加させると、造粒することが困難になる。一方、水の含有量を造粒可能な適切な範囲内とした場合、反応触媒全量を水に溶解させることができなくなる。そのため、余剰の反応触媒は粉体の状態で他の成分と混合されることになり、脱酸素反応を促進する効果が飽和してしまう。当該観点から、反応触媒の含有量は16質量部以下であることがより好ましく、14質量部以下であることがさらに好ましい。
【0029】
(5)担持体
本件発明に係る有機系脱酸素剤は、水を構成成分として含むため、水分を担持することのできる担持体を含む。担持体を含む構成とすることにより、当該有機系脱酸素剤の構成成分を造粒して、粉体として取り扱うことが可能になる。担持体としては、湿式シリカ、活性炭、ゼオライト、バーミキュライト、モンモリロナイト等の多孔質物質を用いることができる。これらの多孔質物質の中から1種類以上を単独で又は混合して用いることができる。
【0030】
特に、本件発明に係る有機系脱酸素剤では、担持体として湿式シリカを用いることが好ましい。湿式シリカとは、沈降法或いはゲル法などの湿式製法で製造された合成シリカをいう。気相法などで製造された乾式シリカは粒子内部に細孔を有さないのに対して、湿式シリカは粒子内部に細孔を有する。このような細孔を有するシリカを用いることにより、当該有機系脱酸素剤の構成成分を細孔内に保持させることができる。また、湿式シリカを担持体として用いることで、造粒効果も得られ、有機系脱酸素剤を充填包装機等により包装袋に充填する際における粉立ちが抑制され、流動性も良好になる。さらに、湿式シリカの細孔内に水分を含む当該有機系脱酸素剤の構成成分を保持することができるため、包装材に有機系脱酸素剤を封入した場合にも、この包装材の表面に水分などが染み出したように色が濃く見える、いわゆる「染み出し」を抑制することができる。
【0031】
当該有機系脱酸素剤において、上述のような効果を得る上で、平均細孔径が300Å以上600Å以下の湿式シリカを用いることが好ましい。平均細孔径が600Åを超えて大きくなると、上記造粒物の見掛密度が小さくなるため、上記粉立ちが生じやすくなり、流動性も低下する。そのため、製造効率が低下するため好ましくない。当該観点から、平均細孔径は550Å以下であることがより好ましく、500Å以下であることがさらに好ましい。一方、平均細孔径が300Å未満になると、湿式シリカの細孔内に当該有機系脱酸素剤の構成成分を十分に保持させることが困難になる。そのため、主剤、アルカリ剤、反応触媒、水などの当該有機系脱酸素剤の脱酸素反応に関与する構成成分に比して、当該有機系脱酸素剤における湿式シリカの含有量を増加させる必要がある。その場合、主剤と雰囲気中の酸素とを効率よく接触させることができず、当該有機系脱酸素剤の単位質量当たりの酸素吸収量が低下するため好ましくない。当該観点から、平均細孔径は350Å以上であることがより好ましく、400Å以上であることがさらに好ましい。なお、「平均細孔径」は水銀圧入法で測定した値の体積平均をいうものとする。
【0032】
当該湿式シリカの平均粒径は、50μm以上200μm以下であることが好ましく、80μm以上180μm以下であることがより好ましい。平均細孔径が上記好ましい範囲内であるとしたときに、湿式シリカの平均粒径が50μm未満になると、平均粒径が50μm以上である場合と比較すると、湿式シリカの比重が小さくなる。そのため、上記造粒物の見掛密度が小さくなり、上記と同様の理由から、製造効率が低下するため好ましくない。一方、平均細孔径が上記好ましい範囲内であるとしたときに、平均粒径が200μmを超えると、平均粒径が200μm以下である場合と比較すると比重が大きくなる。そのため、造粒物の見掛密度が大きくなり、製造効率は向上する。しかしながら、湿式シリカの単位質量当たりの細孔容積が少なくなる。そのため、主剤、アルカリ剤、反応触媒、水などの当該有機系脱酸素剤の脱酸素反応に関与する構成成分に比して、当該有機系脱酸素剤における湿式シリカの含有量を増加させる必要がある。その場合、当該有機系脱酸素剤の単位質量当たりの酸素吸収量が低下するための好ましくない。なお、「平均粒径」はレーザー回折散乱法で測定される値の体積平均をいうものとする。
【0033】
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、担持体の含有量は、主剤であるエリソルビン酸塩100質量部に対して、30質量部以上60質量部以下含まれることが好ましい。担持体の含有量が30質量部未満では、脱酸素反応に要する水等を十分に担持することができず、酸素吸収能の高い有機系脱酸素剤を得ること及び造粒物の粉体としての特性を維持することが困難になる。これらの観点から、担持体の含有量は35質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましい。一方、担持体の含有量が60質量部を超えて多くなると、主剤に対する担持体の含有量が多く、主剤と雰囲気中の酸素とを効率よく接触させることができなくなる。そのため、当該有機系脱酸素剤の単位質量当たりの酸素吸収量が低下するため好ましくない。これらの観点から、担持体の含有量は55質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。
【0034】
(6)タンニン化合物
本件発明に係る有機系脱酸素剤では、上記造粒物を、主剤、アルカリ剤、水、反応触媒及び担持体の他に、タンニン化合物を含む構成とすることが好ましい。主剤、アルカリ剤、水、反応触媒及び担持体と共にタンニン化合物を用いることで、酸素吸収能が向上する。また、当該造粒物の見掛密度及び比重が大きくなり、造粒効果が向上する。
【0035】
タンニン化合物は、フェノール性水酸基を1個以上含有するベンゼン環が化学構造式中に2個以上含まれる複合化合物(ポリフェノール化合物)である。タンニン化合物は、化学的合成により製造されたもの、植物の果実、葉や花、樹皮等より抽出されたもののいずれでも良い。植物より抽出されたタンニン化合物としては、例えば、ケブラチョ、ワットル(ミモザ)、栗材、ミロバラン、ガンビール、ヘムロック、オーク等から抽出したものが挙げられる。入手の容易さや安価であること、安全性が高く、造粒効果が高い観点から、特に植物より抽出されたタンニン化合物である縮合型タンニン又は加水分解型タンニンを用いることが好ましい。
【0036】
ここで、縮合型タンニンは、フラバノール骨格を有する化合物が重合したもので、その構造は多種多様で複雑である。数百種類以上に及ぶ縮合型タンニンが存在するが、本件発明ではそのいずれの種類の縮合型タンニンを用いてもよい。
【0037】
加水分解型タンニンは、没食子酸やエラグ酸等の芳香族化合物とエステル結合を形成したもので、その構造は多種多様で複雑である。加水分解型タンニンについても、数百種類以上に及ぶが、本件発明ではそのいずれの種類の加水分解型タンニンを用いてもよい。
【0038】
ここで、タンニン化合物自体も、空気中の酸素により容易に酸化される易酸化性の化合物である。そのためか、上述したとおり、タンニン化合物を含む構成とすることにより、タンニン化合物を含まない場合と比較すると酸素吸収能が向上する。なお、実施例において後述するとおり、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いた場合に、タンニン化合物を添加することで酸素吸収能の向上が認められる。
【0039】
本件発明に係る有機系脱酸素剤において、タンニン化合物を含む構成とする場合、主剤であるエリソルビン酸塩100質量部に対して、タンニン化合物を0.5質量部以上10質量部以下含むことが好ましい。上記造粒効果を得る上で、タンニン化合物は主剤100質量部に対して1.0質量部以上含むことがより好ましく、2.0質量部以上含むことがさらに好ましい。また、各成分を良好に混練することがより容易になるという観点から、タンニン化合物は主剤100質量部に対して8質量部以下含むことがより好ましく、6質量部以下含むことがさらに好ましい。
【0040】
(7)含水活性炭
さらに、本件発明に係る有機系脱酸素剤は、その構成成分として担持体とは別に含水活性炭を含有してもよい。本件発明において、含水活性炭は予め水分を含む活性炭を意味する。上述したとおり、脱酸素反応を進行させる上で、水は必須成分である。しかしながら、液体としての水の含有量が増加すると、当該有機系脱酸素剤を造粒することが困難になる。また、液体としての水の含有量が増加すると、当該有機系脱酸素剤の製造工程において、主剤の脱酸素反応が進行してしまう場合がある。含水活性炭として、造粒物に水を含ませることにより、当該有機系脱酸素剤が使用されるときに、脱酸素反応に必要な水分を含水活性炭から得ることができる。
【0041】
ここで、含水活性炭の含水率は30質量%~65質量%であることが好ましい。また、含水活性炭の体積平均粒径は、5μm~15μmであることが好ましい。本件発明に係る有機系脱酸素剤において、造粒物に含水活性炭を含む構成とする場合、含水活性炭の含有量は、主剤100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
【0042】
(8)各構成成分の含有割合
次に、当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対する各構成成分の含有割合を説明する。まず、本件発明に係る有機系脱酸素剤の構成成分全量に対して、主剤を40質量%以上50質量%以下、アルカリ剤を10質量%以上15質量%以下、水を15質量%以上20質量%以下、反応触媒を3質量%以上6質量%以下、担持体を17質量%以上22質量%以下含むことが好ましい。このような含有割合で、これらの必須成分を含有することにより、炭酸ガス発生型の有機系脱酸素剤であって、酸素吸収能が高く、且つ、炭酸ガスの発生量が酸素吸収量と同程度である有機系脱酸素剤を得ることができる。
【0043】
ここで、当該有機系脱酸素剤がタンニン化合物を含む場合、当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対するタンニン化合物の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上6質量%以下であることがより好ましく、さらに1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
また、当該有機系脱酸素剤が含水活性炭を含む場合、当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対する含水活性炭の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上6質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
2.有機系脱酸素剤の製造方法
次に、本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造方法について説明する。本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造方法では、主剤として、エリソルビン酸塩を用い、アルカリ剤として、炭酸カリウムを用い、主剤を含む第一の混合成分と、反応触媒と水とを含む第二の混合成分とを混合し、この混合物に対して、アルカリ剤を含む第三の混合成分を混合して造粒するものとし、第一の混合成分は前記担持体を含むこと特徴とする。当該方法を採用することにより、上述した本件発明に係る有機系脱酸素剤を製造することができる。
【0046】
ここで、第一の混合成分は主剤と担持体とが予め混合されていることが好ましい。また、第二の混合成分についても反応触媒と水とを予め混合しておき、反応触媒溶液として調製したものであることが好ましい。上述したとおり、主剤として用いるエリソルビン酸塩は水に対する溶解性が低い。また、当該主剤による脱酸素反応は、アルカリ剤、水の存在下において行われる。各成分が予め混合された状態で、第一の混合成分と第二の混合成分とを混合することにより、主剤の脱酸素反応に要する水分を第一の混合成分に含まれる担持体に保持させることができ、両者を良好に混合することができる。その一方、第一の混合成分及び第二の混合成分にはアルカリ剤が含まれないため、両者を混合しても、主剤による脱酸素反応が進行しない。そのため、大気下で第一の混合成分及び第二の混合成分を混合することができる。
【0047】
ここで、第一の混合成分にタンニン化合物を上述した範囲で混合することにより、タンニン化合物による造粒効果で、第一の混合物の粉立ちを抑制することが可能になり、第一の混合成分と第二の混合成分を十分に混合することが可能になる。第一の混合成分と第二の混合成分とをよく混合し、第二の混合成分を湿式シリカ等の担持体に十分に保持させることにより見掛密度の高い造粒物を得ることが容易になり、酸素吸収能の高い有機系脱酸素剤を得ることができる。
【0048】
そして、第一の混合成分と第二の混合成分とを混合した混合物に対して、アルカリ剤を含む第三の混合成分を混合する。第三の混合成分には、水が含まれない。従って、第一の混合成分と第二の混合成分との混合物に対して、第三の混合成分は粉体として混合される。第二の混合成分に含まれる水は、上述のとおり、第一の混合成分に含まれる担持体に保持されている。そのため、大気下で、両者の混合物に対して第三の混合成分を混合しても、当該造粒物を製造するまでの間に主剤が加水分解されたり、脱酸素反応が過剰に進行するのを防止することができる。これらのことから、脱酸素剤を製造するまでの間に、主剤の酸素吸収能が低下することを抑制することができる。
【0049】
本件発明に係る有機系脱酸素剤の製造方法において、第三の混合成分は担持体を含み、担持体は前記第一の混合成分と第三の混合成分にそれぞれ配合されることがより好ましい。第一の混合成分と第三の混合成分のそれぞれに担持体を配合することにより、第一の混合成分にのみ担持体を配合したときと比較すると酸素吸収能のより良好な有機系脱酸素剤が得られる。
【0050】
また、当該有機系脱酸素剤が含水活性炭を含む場合、含水活性炭は第三の混合成分に含まれることが好ましい。第三の混合成分に含水活性炭を含有させることにより、アルカリ剤を溶解させるための水分を含水活性炭により供与することができる。
【0051】
第三の混合成分がアルカリ剤だけでなく、アルカリ剤以外の成分(担持体、含水活性剤)を含む場合、これらを予め混合した状態で第一の混合成分と第二の混合成分との混合物に添加してもよいし、第三の混合成分を構成する各成分を予め混合することなく、第一の混合成分と第二の混合成分との混合物に各成分を順次添加してもよい。
【0052】
ここで、主剤、アルカリ剤、水、反応触媒、担持体、タンニン化合物、含水活性炭については上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。主剤100質量部に対する各構成成分の含有量、当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対する各構成成分の含有割合については、上述したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0053】
なお、担持体に関して、当該有機系脱酸素剤に含まれる担持体全量を第一の混合成分に配合してもよいが、上述したとおり、担持体を第一の混合成分と第三の混合成分に分配することが酸素吸収能のより良好な有機系脱酸素剤を得る上で好ましい。当該観点から、第一の混合成分に含まれる担持体の含有量は、当該有機系脱酸素剤に含まれる担持体全量の70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。また、第一の混合成分に含まれる担持体の含有量は10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
以上のように第一の混合成分~第三の混合成分を混合することにより造粒した造粒物を通気性包装材に充填包装する。通気性包装材は、酸素透過性を有するシート状、或いはフィルム状の包装材であればどのようなものであってもよく、有孔樹脂フィルム、紙、不織布などの適度な通気性を有するものであればいずれも使用することができる。特に、通気性に加えて、ヒートシール性を兼ね備えた包装材が好適であり、例えば、有孔(ポリエステル/ポリエチレン)フィルム、紙、有孔ポリエチレンフィルムの順にラミネートした積層体や、紙又は不織布と、有孔ポリエチレンフィルムとをラミネートした積層体等であることが好ましい。その他、ポリエチレン不織布等も使用することができる。当該通気性包装材に、上記有機系脱酸素剤を所定量ずつ充填し、開口部を閉じることにより、製品としての有機系脱酸素剤包装体が得られる。
【0055】
上記のように有機系脱酸素剤包装体を得る際には、原料となる造粒物の見掛密度が製造効率の良さに大きな影響を与える。
【0056】
造粒物の見掛密度は、JIS Z 2504:2012に準拠して、次のようにして測定するものとする。試料(造粒粉)をオリフィス径5mmのロートの開口部を塞ぎ、ロートに試料を投入し25ccのステンレスカップに試料を落として入れ、25ccカップに詰まった試料重量をステンレスカップ容積で除す。得られた値を、当該試料の見掛密度とする。
【0057】
見掛密度が0.55g/cm3未満である場合、充填包装時に粉立ちが生じやすくなり、流動性も低下する。そのため、製造効率の観点からは、造粒物の見掛密度0.55g/cm3以上であることが好ましい。また、当該有機系脱酸素剤では、造粒物の見掛密度が低い程、単位あたりの酸素吸収可能量に対する当該有機系脱酸素剤の製品としての大きさが大きくなる。その場合、製品の使い勝手が悪く、また、コスト増になる。よって、製品の使い易さ及びコスト面からも、造粒物の見掛密度は上記範囲内であることが好ましい。
【0058】
以下、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0059】
エリソルビン酸ナトリウム(主剤)18g、水6.5g、硫酸第1鉄水和物(反応触媒)1.8g、湿式シリカ(担持体)7.5g、アルカリ剤(炭酸カリウム)4.5g、含水活性炭(含水率60質量%)0.5gを用いて、次のようにして本件発明に係る有機系脱酸素剤を製造した。湿式シリカとして、平均細孔径が448Å、比表面積が201m2/g、平均粒子径が150μm、細孔容積が2.41mL/g、吸油量が250mL/gのもの(オリエンタルシリカコーポレーション製の湿式シリカ(トクシールPR))を用いた。
【0060】
まず、主剤全量と湿式シリカの一部(湿式シリカ全量の40質量%)とを混合して、第一の混合成分を得た。また、水全量と硫酸第1鉄水和物全量とを混合して、第二の混合成分を得た。さらに、残りの湿式シリカと、アルカリ剤全量と、含水活性炭全量とを第三の混合成分とした。
【0061】
大気下において、上記第一の混合成分と上記第二の混合成分とを混合(混練)し、第一の混合成分及び第二の混合成分からなる混合物を得た。次に、当該混合物に対して、上記第三の混合成分を混合(混練)して、造粒物を得た。得られた造粒物の見掛密度は、0.612g/cm3であった。この造粒物からなる有機系脱酸素剤を外寸65mm×55mmの三方をシールした通気性包装材袋(シール幅5mm)に所定量(2.8g)ずつ充填し、開口部を熱ラミネートによりシールして封入し、有機系脱酸素剤包装体とした。また、通気性包装材として、有孔(ポリエステル/ポリエチレン)/紙/有孔ポリエチレンの4層ラミネート構造で、ガーレ式透気度が6000~10000秒/100mlを示すものを用いた。
【実施例2】
【0062】
実施例2では、第一の混合成分を得る際に、縮合型タンニン化合物0.5gを添加した以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.611g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例3】
【0063】
実施例3では、第一の混合成分を得る際に、加水分解型タンニン化合物1.0gを添加し、第二の混合成分を得る際に硫酸第1鉄水和物の含有量を2.0gとし、第三の混合成分を得る際にアルカリ剤としての炭酸カリウムの含有量を6.0gとした以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.622g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例4】
【0064】
実施例4では、第一の混合成分を得る際に、縮合型タンニン化合物0.5gを添加し、第二の混合成分を得る際に硫酸第1鉄水和物の含有量を2.0gとし、第三の混合成分を得る際にアルカリ剤としての炭酸カリウムの含有量を6.0gとし、湿式シリカとして以下のものを用いた以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.605g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【0065】
実施例4では、湿式シリカとして、平均細孔径が482Å、比表面積が191m2/g、平均粒子径が100μm、細孔容積が2.18mL/g、吸油量が280mL/gのもの(オリエンタルシリカコーポレーション製の湿式シリカ(トクシールNR))を用いた。
【実施例5】
【0066】
実施例5では、第一の混合成分を得る際に、縮合型タンニン化合物0.5gを添加し、第二の混合成分を得る際に硫酸第1鉄水和物の含有量を1.7gとし、第三の混合成分を得る際にアルカリ剤としての炭酸カリウムの含有量を6.0gとした以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.614g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例6】
【0067】
実施例6では、第一の混合成分を得る際に、主剤としてのエリソルビン酸ナトリウムの含有量を16gとし、縮合型タンニン化合物0.5gを添加した以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.612g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例7】
【0068】
実施例7では、第二の混合成分を得る際に、硫酸第1鉄水和物の含有量を2gとし、アルカリ剤である炭酸カリウムの含有量を6.0gとし、縮合型タンニン化合物0.5gを添加した以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.630g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例8】
【0069】
実施例8では、第一の混合成分を得る際に、縮合型タンニン化合物0.5gを添加し、第二の混合成分を得る際に硫酸第1鉄水和物の含有量を2.0gとし、第三の混合成分を得る際にアルカリ剤としての炭酸カリウムの含有量を6.0gとし、湿式シリカとして以下のものを用いた以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.530g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。なお、湿式シリカの種類が異なることを除いては、実施例8の造粒物は実施例4の造粒物と同様にして製造したものである。
【0070】
実施例8では、湿式シリカとして、平均細孔径が690Å、比表面積が262m2/g、平均粒子径が12.3μm、細孔容積が2.43mL/g、吸油量が230mL/gのもの(オリエンタルシリカコーポレーション製の湿式シリカ(ファインX12))を用いた。
【実施例9】
【0071】
実施例9では、第一の混合成分を得る際に、湿式シリカを全量用い、第三の混合成分を得る際には湿式シリカを添加しなかったことを除いては、実施例7と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.592g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例10】
【0072】
実施例10では、窒素雰囲気下で第一の混合成分と第二の混合成分とを混合して、上記混合物を得、当該混合物に対して窒素雰囲気下で第三の混合成分を混合したこと以外は、実施例7と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.585g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【実施例11】
【0073】
実施例11では、第一の混合成分を得る際に、湿式シリカ全量の60質量%とした以外は、実施例2と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.662g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【比較例】
【0074】
[比較例1]
比較例1では、アルカリ剤として炭酸カリウムに代えて、炭酸ナトリウムを同量(4.5g)用いたこと以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.513g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【0075】
[比較例2]
比較例2では、アルカリ剤として炭酸カリウムに代えて、炭酸カルシウムを同量(4.5g)用いたこと以外は、実施例1と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.444g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【0076】
[比較例3]
比較例3では、アルカリ剤として炭酸カリウムに代えて、炭酸ナトリウムを同量(4.5g)用いたこと以外は、実施例2と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.549g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【0077】
[比較例4]
比較例4では、アルカリ剤として炭酸カリウムに代えて、炭酸カルシウムを同量(4.5g)用いたこと以外は、実施例2と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.512g/cm3であった。そして、実施例1と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【0078】
[比較例5]
比較例5では、主剤としてエリソルビン酸ナトリウムに代えて、アスコルビン酸ナトリウムを用いたこと以外は、実施例11と同様にして造粒物を得た。当該造粒物の見掛密度は、0.570g/cm3であった。そして、実施例11と同様にして当該造粒物を所定量通気性包装材袋に充填し、有機系脱酸素剤包装体を製造した。
【0079】
〈評価〉
各実施例及び各比較例で製造した各有機系脱酸素剤包装体を用いて、本件発明に係る有機系脱酸素剤の酸素吸収能及び炭酸ガス発生量を評価した。評価方法及び評価結果はそれぞれ以下のとおりである。また、表1及び表2にそれぞれ各実施例及び各比較例における主剤100質量部に対する各構成成分の含有量、当該有機系脱酸素剤の構成成分全量に対する各構成成分の含有割合、見掛密度、酸素吸収能、炭酸ガス発生量等を示す。
【0080】
1.評価方法
各有機系脱酸素剤の酸素吸収能及び炭酸ガス発生量等は次のようにして評価した。
(1)酸素吸収速度及び炭酸ガス発生速度
この有機系脱酸素剤包装体を、ポリ塩化ビニリデンコート/ポリエチレンラミネートフィルムのガスバリア性の袋(220×180mm)に入れ、空気500mlを充填して密封した密封袋を複数個作製した。
【0081】
得られた有機系脱酸素剤包装体の室温における酸素吸収速度及び炭酸ガス発生速度を評価するため、各密封袋を25℃に保持し、24時間後の各袋内の酸素濃度(体積%)及び炭酸ガス濃度(体積%)をPBI Dansensor製Check Mate3を用いて測定した。結果を表1及び表2において、「24h後」と表示する欄に示す。
【0082】
(2)酸素吸収量及び炭酸ガス発生量
各有機系脱酸素剤包装体1包当たりの酸素吸収量を測定するために、上記と同様にして各有機系脱酸素剤包装体を空気1500ml充填して密封した密封袋を作製し、これを25℃に保持し、168時間経過後の酸素吸収量及び炭酸ガス発生量を測定した。結果を表1及び表2において、「168h後」と表示する欄に示す。
【0083】
2.評価結果
(1)酸素吸収速度、酸素吸収量及び炭酸ガス発生速度、炭酸ガス発生量
実施例1~実施例11で作製した造粒物からなる有機系脱酸素剤は、比較例1~比較例5で作製した造粒物からなる有機系脱酸素剤と比較すると、酸素吸収速度及び酸素吸収量が高く、実用上十分な酸素吸収能を有する。
【0084】
また、実施例1~実施例11及び比較例1~比較例4の有機系脱酸素剤はいずれもエリソルビン酸ナトリウムを主剤としており、168時間後の炭酸ガス発生量は168時間後の酸素吸収量と概ね同程度であり、いわゆるバキューム現象が生じるのを防止しつつ、発生した炭酸ガスによって当該有機系脱酸素剤包装体や、当該有機系脱酸素剤包装体が封入された密封袋が過剰に膨らむことはなかった。
【0085】
一方、比較例5は主剤をアスコルビン酸ナトリウムとしており、その点を除いては実施例11と同様である。比較例5は実施例11と同様に168時間後の炭酸ガス発生量は168時間後の酸素吸収量と概ね同程度であったが、酸素吸収速度が遅く、また酸素吸収量が低いため、実用に耐えるものでは無い。
【0086】
(2)アルカリ剤の種類
実施例1と、比較例1及び比較例2とを対比する。実施例1と比較例1及び比較例2の有機系脱酸素剤は、アルカリ剤の種類において相違する。実施例1では、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いているのに対し、比較例1では炭酸ナトリウム、比較例2では炭酸カルシウムを用いている。比較例1の有機系脱酸素剤は、脱酸素速度は実施例1と同等であるが、酸素吸収量は実施例1よりも80mL以上少なく、実施例1と比較すると酸素吸収能が低い。比較例2の有機系脱酸素剤は、脱酸素速度及び酸素吸収能共に実施例1よりも低い。
【0087】
(3)タンニン化合物の有無及びタンニン化合物の種類
実施例1、比較例1及び比較例2と、実施例2、比較例3及び比較例4とを対比する。実施例2と、比較例3及び比較例4は、それぞれ実施例1、比較例1及び比較例2とタンニン化合物の有無において相違する。実施例1よりも実施例2の有機系脱酸素剤の方が酸素吸収能の高い脱酸素剤であることが確認できる。また、実施例2と比較すると、比較例3及び比較例4は酸素吸収能が低い点についても確認できる。
【0088】
ここで、アルカリ剤として炭酸カリウムを用いた実施例1及び実施例2では、タンニン化合物を添加することにより、その酸素吸収能が著しく向上することが確認される。しかしながら、他のアルカリ剤(炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム)を用いた比較例1及び比較例3と比較例2及び比較例4とをそれぞれ対比すると、タンニン化合物を添加することにより、タンニン化合物を添加しなかった場合と比較すると、実施例の場合とは異なり酸素吸収能が低下することが確認された。
【0089】
さらに、実施例2では、縮合型タンニン化合物を用い、実施例3では加水分解型タンニン化合物を用いた。どちらも同等の酸素吸収能ではあるが、縮合型タンニン化合物を用いた方が酸素吸収能が幾分高いことが確認される。
【0090】
(4)担持体の種類
実施例2、実施例4、実施例8を対比する。これらの実施例では、それぞれ物性の異なる湿式シリカを担持体として用いている。実施例2及び実施例4等では、平均粒径が100μm又は150μmの湿式シリカを用いているのに対し、実施例8では、平均粒径が12.3μmの極めて小さい湿式シリカを用いている。平均細孔径も690Åであり、600Åよりも大きい。実施例8の有機系脱酸素剤は酸素吸収能は良好である。しかしながら、通気性包装材に充填する際に、粉立ちが生じたり、流動性も悪く、製造効率の点では好ましいものではない。
【0091】
(5)製造方法
実施例5と実施例9を対比する。実施例9では坦持体全量を第一の混合成分に配合し、第一の混合成分及び第二の混合成分の混合物に対して、第三の混合成分を混合することにより造粒物を作製している。一方、実施例5では担持体を第一及び第三の混合成分にそれぞれ配合し、第一の混合成分及び第二の混合成分の混合物に対して、第三の混合成分を混合することにより造粒物を作製している。どちらも酸素吸収能の高い有機系脱酸素剤が得られることが確認されたが、実施例5のように、坦持体全量を第一の混合成分に配合するよりも、坦持体を第一及び第三の混合成分にそれぞれ配合した方が、造粒物の見掛密度が高くなり、製造効率の観点から粉体特性が良好な有機系脱酸素剤が得られることが確認された。
【0092】
最後に、実施例5と実施例10とを対比する。実施例5では大気下で造粒物を作製したのに対し、実施例10では窒素雰囲気下で造粒物を作製した。各構成成分の含有量及び造粒物の作製方法が同じであっても、大気下で造粒物を作製することにより、より酸素吸収能が高く、造粒物の見掛密度の高い粉体特性が良好な有機系脱酸素剤が得られることが確認された。
【0093】
【0094】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本件発明によれば、炭酸ガス発生型の有機系脱酸素剤であって、良好な酸素吸収能を有し、且つ、炭酸ガスの発生量が酸素吸収量と同程度である有機系脱酸素剤及びその製造方法を提供することができる。