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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】クランプユニット
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/04 20060101AFI20220328BHJP
【FI】
B23B29/04 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020208244
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2020-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(73)【特許権者】
【識別番号】519453250
【氏名又は名称】株式会社ベルブルー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】千葉 眞文
(72)【発明者】
【氏名】森 建二
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-176006(JP,U)
【文献】特開2000-033502(JP,A)
【文献】特開2014-157313(JP,A)
【文献】米国特許第05683197(US,A)
【文献】独国特許出願公開第04244603(DE,A1)
【文献】実開平02-117801(JP,U)
【文献】米国特許第05199836(US,A)
【文献】米国特許第05551795(US,A)
【文献】米国特許第06082234(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0018854(US,A1)
【文献】中国実用新案第210121687(CN,U)
【文献】特開2010-131720(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104015086(CN,A)
【文献】特開平06-254706(JP,A)
【文献】特開平11-084195(JP,A)
【文献】特開2000-158213(JP,A)
【文献】特開2001-315009(JP,A)
【文献】特開平07-237004(JP,A)
【文献】実開平07-031203(JP,U)
【文献】特開2017-036713(JP,A)
【文献】実開昭52-059990(JP,U)
【文献】特開平05-177477(JP,A)
【文献】米国特許第09895781(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00-25/06
B23B 27/00-29/34
B23Q 3/00-3/154
F16B 2/00-2/26
F16B 23/00-43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軸方向と前記第1軸方向に直交する第2軸方向とで規定される平面方向へ移動可能なテーブルに固定されて利用される、切削工具のクランプユニットであって、
前記テーブルに対して固定される第1部材と、
前記切削工具を支持すると共に前記第1部材に対して固定される第2部材と、
前記第1部材を前記テーブルへ固定するための第1固定具と、
前記第2部材を前記第1部材へ固定するための第2固定具と、
前記第2固定具を緩めた状態で、前記第1軸方向と前記第2軸方向に直交する第3軸方向へ前記第1部材に対する前記第2部材の位置調整を行うための調整機構と
を備え、
前記調整機構は、
前記第1部材と前記第2部材のうちの一方に設けられた第1傾斜面および第2傾斜面と、
前記第1部材と前記第2部材のうちの他方から突出される第1突出部材および第2突出部材と
前記第2部材を前記第1部材に対して前記第3軸方向に沿ってガイドするガイドキーと
を有し、
前記第1突出部材と前記第2突出部材は、前記第3軸方向に並んで設けられており、
前記第1突出部材が前記他方の部材から突き出されてその先端部が前記第1傾斜面を押圧すると前記第2部材が前記第1部材に対して前記第3軸方向の一方側へ変位し、前記第2突出部材が前記他方の部材から突き出されてその先端部が前記第2傾斜面を押圧すると前記第2部材が前記第1部材に対して前記第3軸方向の他方側へ変位することにより、前記切削工具の刃先の前記第3軸方向に対する位置を調整でき
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記第1部材と前記第2部材のうちの前記一方に一つのすり鉢面の一部として形成され、
前記ガイドキーの前記第3軸方向に沿う中心線は、前記すり鉢面の開口円の前記第3軸方向に沿う中心線と一致するクランプユニット。
【請求項2】
前記第1突出部材は、前記第1部材と前記第2部材のうちの前記他方に設けられた第1雌ネジ孔に螺入され、先端部が前記第1雌ネジ孔の開口から突出する第1雄ネジ部材であり、前記第2突出部材は、前記第1部材と前記第2部材のうちの前記他方に設けられた第2雌ネジ孔に螺入され、先端部が前記第2雌ネジ孔の開口から突出する第2雄ネジ部材である請求項1に記載のクランプユニット。
【請求項3】
前記第1突出部材の先端部は、前記すり鉢面の傾斜角に合致する傾斜面を有する請求項またはに記載のクランプユニット。
【請求項4】
前記第1固定具は、
前記テーブルに設けられた前記第2軸方向に平行なTスロットへ挿通されるTスロットナットと、
前記Tスロットナットから前記第3軸方向へ延出し、前記第1部材に設けられた嵌合孔と嵌合する軸部材と、
前記嵌合孔の側面に連通する側孔に挿通され、前記嵌合孔に先端部が突出して前記軸部材に設けられた傾斜面を押圧する押圧部材と
を含み、
前記押圧部材の先端部が前記傾斜面を押圧することにより前記Tスロットナットが前記第1部材の方向へ引き込まれて前記第1部材が前記テーブルに固定される請求項1からのいずれか1項に記載のクランプユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具のクランプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば旋盤などの工作機械において、刃物台に一旦装着した切削工具の高さを調整するには、装着を再び緩めてシムを介在させるなど、非常に煩雑な手順を要していた。これに対して、特許文献1の刃物台は、切削工具の装着を緩める必要がなく、ネジと楔を用いて刃先の高さ調整を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-254706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つのワークに対して加工の目的に応じて複数の切削刃を使い分けて切削加工を行うような場合には、それぞれの切削刃の高さを精確かつ容易に調整したいという要請がある。また、工作機械の大きさ等に応じて、並置する切削工具の数も調整したいという要請もある。
【0005】
本発明は、このような要請に応えるためになされたものであり、切削刃を支持した状態で高さ方向の調整を精確かつ容易に行える、工作機械の可動テーブルに取り付け可能な小型のクランプユニットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様におけるクランプユニットは、第1軸方向と第1軸方向に直交する第2軸方向とで規定される平面方向へ移動可能なテーブルに固定されて利用される、切削工具のクランプユニットであって、テーブルに対して固定される第1部材と、切削工具を支持すると共に第1部材に対して固定される第2部材と、第1部材をテーブルへ固定するための第1固定具と、第2部材を第1部材へ固定するための第2固定具と、第2固定具を緩めた状態で、第1軸方向と第2軸方向に直交する第3軸方向へ第1部材に対する第2部材の位置調整を行うための調整機構とを備え、調整機構は、第1部材と第2部材のうちの一方に設けられた第1傾斜面および第2傾斜面と、第1部材と第2部材のうちの他方から突出される第1突出部材および第2突出部材とを有し、第1傾斜面が第1突出部材の先端部に押圧されると第2部材が第1部材に対して第3軸方向の一方側へ変位し、第2傾斜面が第2突出部材の先端部に押圧されると第2部材が第1部材に対して第3軸方向の他方側へ変位するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、切削工具を支持した状態で高さ方向の調整を精確かつ容易に行える、小型のクランプユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の第1の実施例に係るクランプユニットの全体斜視図である。
図2】工具側部材と関連部材の斜視図である。
図3】台側部材と関連部材の斜視図である。
図4】台側部材と関連部材の正面図である。
図5】高さ方向の調整を説明するための主に台側部材の部分断面図である。
図6】台側部材と、台側部材をテーブルへ固定するための固定具の斜視図である。
図7】第2の実施例に係るクランプユニットの分解斜視図である。
図8】第3の実施例に係るクランプユニットの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。また、各図において、同一又は同様の構成を有する構造物が複数存在する場合には、煩雑となることを回避するため、一部に符号を付し、他に同一符号を付すことを省く場合がある。
【0010】
図1は、本実施形態の第1の実施例に係るクランプユニット100の全体斜視図である。本実施形態におけるクランプユニット100は、旋盤のチャックに固定された被切削物を切削する切削工具300を支持する刃物台であって、旋盤の送り台であるテーブル200に固定されて使用される。以下の説明においては、図示するように、テーブル200が移動可能な平面方向のうち、任意の一方向をz軸方向、z軸方向に直交する方向をx軸方向とし、x軸方向およびz軸方向に直交する方向をy軸方向と定める。また、y軸方向を高さ方向と称し、特に図示するプラス側を上部側、マイナス側を下部側と称する場合がある。以降の図面においても各部材の向きを示すために同様の座標軸を併記する。
【0011】
クランプユニット100は、主に、テーブル200に対して固定される台側部材120と、切削刃を有する切削工具300を支持すると共に台側部材120に対して固定される工具側部材110を備える。また、台側部材120をテーブル200へ固定するための第1固定具、工具側部材110を台側部材120へ固定するための第2固定具、y軸方向へ台側部材120に対する工具側部材110の位置調整を行うための調整機構を備える。
【0012】
台側部材120は、x軸方向から観察した場合に略L字状を成す。テーブル200は、x軸方向へ平行に伸延する2本のTスロット210を有し、台側部材120は、Tスロット210と上述の第1固定具の一部である固定ネジ141の作用により、テーブル200へ固定される。具体的な構成については、後に詳述する。
【0013】
工具側部材110は、略直方体の形状を成す。工具側部材110のx軸方向の幅は、台側部材120のx軸方向の幅と略同一であり、工具側部材110は、台側部材120のL字状の内側に配置されて、クランプユニット100全体としては、およそ直方体の外観を呈する。
【0014】
工具側部材110は、切削工具300の後端部を挿入して固定するための装着孔111を有する。工具側部材110は、くし刃式旋盤用のPSC(ポリゴンシャンクカップリング)規格に則った装着機構を備え、装着孔111の内周面は、z軸方向に沿ったポリゴン面となっている。切削工具300の後端部が装着孔111へ挿通されy軸方向から装着ネジ151で締着されると、切削工具300は、工具側部材110に固定される。切削工具300の先端部には切削刃が設けられているので、工具側部材110は、切削刃を支持する支持部材としての機能を担うと言える。
【0015】
固定ネジ131は、上述の第2固定具であり、例えば六角穴付きボルトである。調整機構を作用させて工具側部材110をy軸方向へ変位させる場合には、固定ネジ131は一時的に緩められる。
【0016】
図2は、工具側部材110と関連部材の斜視図である。工具側部材110は、z軸方向から観察した場合に、固定ネジ131を貫通させる通し孔112が上部の二隅に、通し孔113が下部の二隅に設けられている。通し孔112は、工具側部材110のうち上部へ延在する薄板部110aに設けられており、通し孔113は、装着孔111と共にブロック部110bに設けられている。通し孔113は、固定ネジ131の頭部を収容する座ぐりを有する。それぞれの通し孔112、113のxy断面は、調整機構によるy軸方向の調整代に合わせてy軸方向が長手方向となる長円形状を成す。
【0017】
工具側部材110は、2つの通し孔113の間の位置に、上下に並んで上部雌ネジ孔115と下部雌ネジ孔116が設けられている。上部雌ネジ孔115、下部雌ネジ孔116は、それぞれブロック部110bをz軸方向に貫通し、全長に亘って内部に雌ネジ加工が施されている。上部雌ネジ孔115には、六角穴付きのイモネジである上部突出ネジ155が噛合され、下部雌ネジ孔116には、同じく六角穴付きイモネジである下部突出ネジ156が噛合される。具体的には後述するが、上部突出ネジ155は、作業者の作業により雄ネジとして上部雌ネジ孔115を進退し、その先端部155aは、工具側部材110の背面から突出し得る。同様に、下部突出ネジ156は、作業者の作業により雄ネジとして下部雌ネジ孔116を進退し、その先端部156bは、工具側部材110の背面から突出し得る。
【0018】
工具側部材110の背面には、薄板部110aからブロック部110bへかけて、y軸方向と平行にガイド溝117が設けられている。ガイド溝117は、工具側部材110をy軸方向に沿って変位させるための案内として機能する。
【0019】
図3は、台側部材120と関連部材の斜視図である。具体的には、台側部材120へガイドキー160とゴムリング130が装着されている様子を示す。上述のように、台側部材120は、全体としてL字状を成し、垂直部120aと水平部120bに区分される。
【0020】
台側部材120の垂直部120aには、z軸方向に沿って穿設された4つの雌ネジ穴121を有する。雌ネジ穴121の雌ネジ部は、固定ネジ131の雄ネジ部と噛合し、工具側部材110を台側部材120へ固定する機能を担う。雌ネジ穴121が設けられた垂直部120aの同一面には、z軸方向に沿って貫通するように設けられたクーラント孔122が開口しており、その開口部を取り囲むようにゴムリング130が嵌設されている。クーラント孔122は、切削工具300へクーラントを導通させるための流通孔である。工具側部材110にもクーラント孔が設けられており、工具側部材110が台側部材120へ固定されると、それぞれの開口部が対向する。このとき、ゴムリング130は、圧潰されて、クーラントの漏出を防止する。なお、両開口部は、調整機構によるy軸方向の調整代に合わせてその大きさが調整されている。
【0021】
すり鉢穴123は、工具側部材110の背面から突出し得る上部突出ネジ155と下部突出ネジ156の位置に対応して、垂直部120aの表面に設けられている。すり鉢穴123は、z軸方向に平行な中心軸を有する円錐台形状(いわゆるすり鉢状)に穿設された穴であり、z軸方向に深くなるほど断面円の直径が小さくなるようにその側面が傾斜面で形成されている。すり鉢穴123は、調整機構の一部を構成する。具体的な作用については後述する。
【0022】
ガイドキー160は、垂直部120aの垂直面から突出するように固設されたガイド部材であり、工具側部材110のガイド溝117に嵌り込んで、工具側部材110を台側部材120に対してy軸方向に沿ってガイドする。ガイドキー160は、固定ネジ161によって垂直部120aへ固定されている。
【0023】
水平部120bには、テーブル200のTスロット210と遊嵌するガイドリブ127が突設されている。また、ガイドリブ127と水平部120bを貫通するように、後述するスロットボルトを挿通するための嵌合孔125がx軸方向に沿って2つ設けられている。また、それぞれの嵌合孔125にz軸方向から連通するように、水平部120bの端面から、2つの雌ネジ孔126が設けられている。雌ネジ孔126は、全長に亘って内部に雌ネジ加工が施されている。垂直部120aには、y軸方向に沿って貫通するように、通し孔124が設けられている。通し孔124、嵌合孔125、雌ネジ孔126は、台側部材120をテーブル200へ固定するための固定具により利用される。
【0024】
図4は、台側部材120と関連部材の正面図である。特に、関連部材として上部突出ネジ155と下部突出ネジ156を、すり鉢穴123との相対位置がわかるように重ねて示している。
【0025】
図示するように、これらの部材をz軸方向から観察すると、ガイドキー160のy軸方向に沿う中心線は、すり鉢穴123のすり鉢面が形成する開口円のy軸方向に沿う中心線と一致する。また、上部突出ネジ155のz軸方向に沿う中心軸、および下部突出ネジ156のz軸方向に沿う中心軸は、この一致する中心線上に位置する。このような配置により、後述するように上部突出ネジ155または下部突出ネジ156がすり鉢穴123のすり鉢面を押圧した場合に、工具側部材110はガイドキー160にガイドされて円滑にy軸方向へ変位する。
【0026】
図5は、調整機構による高さ方向の調整を説明するための、主に台側部材120の部分断面図であり、具体的には図4のA-A断面図である。特に、図5(A)は、上部突出ネジ155が下部突出ネジ156よりも台側部材120側へ突出している状態を示し、図5(B)は、下部突出ネジ156が上部突出ネジ155よりも台側部材120側へ突出している状態を示している。
【0027】
図5(A)に示すように、上部突出ネジ155が工具側部材110の背面より台側部材120側へ所定量突出し、下部突出ネジ156の突出量よりも大きい場合には、上部突出ネジ155の先端部155aは、すり鉢穴123の上部傾斜面123aと接触する。作業者は、工具側部材110の上部雌ネジ孔115内に上部突出ネジ155を噛合させ、さらに、例えば六角レンチを回して上部雌ネジ孔115内をすり鉢穴123へ向かって推進させると、やがて先端部155aを上部傾斜面123aへ接触させることができる。さらに六角レンチを回して上部突出ネジ155を押し出すと、先端部155aが上部傾斜面123aを押圧し、その押圧力は上部傾斜面123aからの反作用として上部突出ネジ155を、ひいては工具側部材110を押し下げる力となって作用する。この作用により、工具側部材110は、下向きに変位する。なお、このとき、下部突出ネジ156は、下向きの変位を妨げないように、下部雌ネジ孔116の内側に退避されている。
【0028】
図5(B)に示すように、下部突出ネジ156が工具側部材110の背面より台側部材120側へ所定量突出し、上部突出ネジ155の突出量よりも大きい場合には、下部突出ネジ156の先端部156bは、すり鉢穴123の下部傾斜面123bと接触する。作業者は、工具側部材110の下部雌ネジ孔116内に下部突出ネジ156を噛合させ、さらに、例えば六角レンチを回して下部雌ネジ孔116内をすり鉢穴123へ向かって推進させると、やがて先端部156bを下部傾斜面123bへ接触させることができる。さらに六角レンチを回して下部突出ネジ156を押し出すと、先端部156bが下部傾斜面123bを押圧し、その押圧力は下部傾斜面123bからの反作用として下部突出ネジ156を、ひいては工具側部材110を押し上げる力となって作用する。この作用により、工具側部材110は、上向きに変位する。なお、このとき、上部突出ネジ155は、上向きの変位を妨げないように、上部雌ネジ孔115の内側に退避されている。
【0029】
本実施形態においては、このような調整機構により、基準位置より上部側へ0.5mm、下部側へ0.5mmの範囲で、台側部材120に対する工具側部材110のy軸方向の位置調整を行うことができる。すなわち、切削工具300が装着された状態で切削刃の高さをこの範囲で微調整することができる。すり鉢穴123の深さ、換言すれば上部傾斜面123aと下部傾斜面123bの長さは、この設定される調整代に応じて決定される。作業者は、このように微調整を行った後に、緩めていた固定ネジ131を締めて工具側部材110を台側部材120へ強固に固定する。
【0030】
なお、それぞれの傾斜面の角度は、垂直方向への作用力の変換の観点から、z軸方向に対して10°から40°の範囲であることが好ましい。また、図5(A)に示すように、上部突出ネジ155の先端部155aの傾斜角は、すり鉢穴123の上部傾斜面123aの傾斜角と合致するように形成されているので、両者は互いに線接触する。同様に、図5(B)に示すように、下部突出ネジ156の先端部156bの傾斜角は、すり鉢穴123の下部傾斜面123bの傾斜角と合致するように形成されているので、両者は互いに線接触する。このように互いに線接触させれば、作用力を効率よく垂直方向へ変換することができるが、例えばそれぞれの先端部を球面状や他の曲面に形成しても構わない。
【0031】
図6は、台側部材120と、台側部材120をテーブル200へ固定するための固定具の斜視図である。このような固定具のうち、垂直部120aに設けられた通し孔124を貫通するように挿通されるスロットボルト190は、六角穴付きボルトであって、一般的な引き込み構造によりTスロットナット170をTスロット210の上面へ引き込む。
【0032】
一方、同じく台側部材120をテーブル200へ固定する固定具のうち、水平部120bに設けられた2つの嵌合孔125にそれぞれ挿通されるスロットボルト180は、固定ネジ141の作用によりTスロットナット170をTスロット210の上面へ引き込む。スロットボルト180は、胴部181と雄ネジ部182から構成され、胴部181には、側面方向からすり鉢穴183が設けられている。スロットボルト180は、雄ネジ部182がTスロットナット170の雌ネジ穴172に噛合され、胴部181が嵌合孔125へ挿通されたときにすり鉢穴183が雌ネジ孔126へ向くように調整される。
【0033】
作業者は、Tスロットナット170を装着したスロットボルト180の胴部を嵌合孔125へ挿通する。そして、六角穴付きのイモネジである固定ネジ141を雌ネジ孔126に噛合させ、その内部をすり鉢穴183へ向かって推進させると、やがてその先端部141aは、嵌合孔125に突出し、すり鉢穴183の上部の傾斜面183aと接触する。さらに固定ネジ141を回転して先端部141aを傾斜面183aへ押圧すると、その押圧力はスロットボルト180を上部側へ押し上げる力となって作用する。すなわち、Tスロットナット170をTスロット210の上面へ引き込む力となって作用する。
【0034】
このような固定具の構造は、一般的な引き込み構造に比べてx軸方向の幅を必要としないので、図示するように2組の固定具をx軸方向に沿って配列しても、クランプユニット100のx軸方向の幅を小さくすることができる。クランプユニット100のx軸方向の幅を小さくできれば、テーブル200により多くのクランプユニット100を固定することができる。なお、ここではTスロットナット170とスロットボルト180が別体の例を説明したが、一体的に形成されていてもよい。
【0035】
次に、本実施形態に係る第2の実施例を説明する。図7は、第2の実施例に係るクランプユニット100’の分解斜視図である。第1の実施例に係るクランプユニット100と同様の構造については、その説明を省略する。
【0036】
第1の実施例に係るクランプユニット100は、工具側部材110に上部雌ネジ孔115および下部雌ネジ孔116を有し、台側部材120にすり鉢穴123を有する構造であった。しかし、調整機構は工具側部材110と台側部材120をy軸方向へ相対的に変位させればよいので、雌ネジ孔とすり鉢穴の配置は逆であってもよい。第2の実施例に係るクランプユニット100’は、雌ネジ孔とすり鉢穴の配置が第1の実施例に係るクランプユニット100における配置と逆である。
【0037】
すなわち、工具側部材110’の背面側にすり鉢穴118が設けられており、台側部材120’の垂直部に上部雌ネジ孔128と下部雌ネジ孔129が設けられている。そして、上部雌ネジ孔128に上部突出ネジ155が噛合され、下部雌ネジ孔129に下部突出ネジ156が噛合されている。上部突出ネジ155が上部雌ネジ孔128から突出してその先端部155aがすり鉢穴118の上部傾斜面118aを押圧すると、工具側部材110’はy軸方向に沿って押し上げられる。下部突出ネジ156が下部雌ネジ孔129から突出してその先端部156bがすり鉢穴118の下部傾斜面118bを押圧すると、工具側部材110’はy軸方向に沿って押し下げられる。したがって、このような構造であっても、第1の実施例に係る調整機構と同様に、工具側部材110’を台側部材120’に対してy軸方向へ変位させ、切削刃の高さを微調整することができる。
【0038】
さらに、本実施形態に係る第3の実施例を説明する。図8は、第3の実施例に係るクランプユニット100”の分解斜視図である。第1の実施例に係るクランプユニット100と同様の構造については、その説明を省略する。
【0039】
第1の実施例に係るクランプユニット100は、上部突出ネジ155が押圧する上部傾斜面123a、および下部突出ネジ156が押圧する下部傾斜面123bを、すり鉢穴123の側面の一部、すなわち一つのすり鉢面の一部として形成した。すり鉢形状の穴は比較的加工がしやすく、上部傾斜面と下部傾斜面を別々に加工するより手間が省ける点で都合がよい。しかし、上部傾斜面と下部傾斜面は、すり鉢面の一部として形成する場合に限らない。第3の実施例に係るクランプユニット100”は、すり鉢穴123に代えて横断溝123”を台側部材120”に設けた点で、第1の実施例に係るクランプユニット100と異なる。なお、クランプユニット100”において、工具側部材110、上部突出ネジ155、下部突出ネジ156は、クランプユニット100と同様である。
【0040】
台側部材120”に設けられる横断溝123”は、x軸方向に貫通する1つの凹溝であり、その断面は台形形状を成す。すなわち、横断溝123”は、斜め下方を法線とする平面である上部傾斜面123”aと、斜め上方を法線とする平面である下部傾斜面123”bを有する。上部突出ネジ155が上部雌ネジ孔115から突出してその先端部155aが横断溝123”の上部傾斜面123”aを押圧すると、工具側部材110はy軸方向に沿って押し下げられる。下部突出ネジ156が下部雌ネジ孔116から突出してその先端部156bが横断溝123”の下部傾斜面123”bを押圧すると、工具側部材110はy軸方向に沿って押し上げられる。したがって、このような構造であっても、第1の実施例に係る調整機構と同様に、工具側部材110を台側部材120”に対してy軸方向へ変位させ、切削刃の高さを微調整することができる。
【0041】
また、それぞれの傾斜面が平面で形成されているので、突出ネジの先端部が予定された接触位置から多少ずれても、それぞれの押圧力は、y軸方向へ作用する力に効率よく変換される。なお、この観点においてはそれぞれの傾斜面が平面である場合に限らず、x軸方向と平行な線分の集合である曲面であってもよい。また、加工の観点から横断溝123”はx軸方向に貫通する1つの凹溝として形成したが、貫通させない凹部として形成してもよく、上部傾斜面123”aを形成するための凹部と下部傾斜面123”bを形成するための凹部を別々に形成してもよい。
【0042】
以上、3つの実施例を通して本実施形態を説明したが、他にも様々なバリエーションが存在することは言うまでもない。以上説明した各実施例においては、調整機構の突出部材として六角穴付きのイモネジを採用したが、突出部材はこれに限らず、傾斜面を押圧できる部材であればよい。また、以上説明した各実施例においては、固定具として多くネジを用いたが、固定具はこれに限らず他の部材を採用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
100、100’、100”…クランプユニット、110、110’…工具側部材、110a…薄板部、110b…ブロック部、111…装着孔、112…通し孔、113…通し孔、115…上部雌ネジ孔、116…下部雌ネジ孔、117…ガイド溝、118…すり鉢穴、118a…上部傾斜面、118b…下部傾斜面、120、120’、120”…台側部材、120a…垂直部、120b…水平部、121…雌ネジ穴、122…クーラント孔、123…すり鉢穴、123a…上部傾斜面、123b…下部傾斜面、123”…横断溝、123”a…上部傾斜面、123”b…下部傾斜面、124…通し孔、125…嵌合孔、126…雌ネジ孔、127…ガイドリブ、128…上部雌ネジ孔、129…下部雌ネジ孔、130…ゴムリング、131…固定ネジ、141…固定ネジ、141a…先端部、151…装着ネジ、155…上部突出ネジ、155a…先端部、156…下部突出ネジ、156b…先端部、160…ガイドキー、161…固定ネジ、170…Tスロットナット、172…雌ネジ穴、180…スロットボルト、181…胴部、182…雄ネジ部、183…すり鉢穴、183a…傾斜面、190…スロットボルト、200…テーブル、210…Tスロット、300…切削工具
【要約】
【課題】切削工具を支持した状態で高さ方向の調整を精確かつ容易に行える、小型のクランプユニットを提供する。
【解決手段】クランプユニットは、テーブルに対して固定される第1部材と、切削工具を支持すると共に第1部材に対して固定される第2部材と、第2部材を第1部材へ固定するための固定具を緩めた状態で、高さ方向へ第1部材に対する第2部材の位置調整を行うための調整機構とを備え、調整機構は、第1部材と第2部材のうちの一方に設けられた第1傾斜面および第2傾斜面と、第1部材と第2部材のうちの他方から突出される第1突出部材および第2突出部材とを有し、第1傾斜面が第1突出部材の先端部に押圧されると第2部材が第1部材に対して高さ方向の一方側へ変位し、第2傾斜面が第2突出部材の先端部に押圧されると第2部材が第1部材に対して高さ方向の他方側へ変位する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8