IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社青山製作所の特許一覧

<>
  • 特許-締結構造 図1
  • 特許-締結構造 図2
  • 特許-締結構造 図3
  • 特許-締結構造 図4
  • 特許-締結構造 図5
  • 特許-締結構造 図6
  • 特許-締結構造 図7
  • 特許-締結構造 図8
  • 特許-締結構造 図9
  • 特許-締結構造 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】締結構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 35/04 20060101AFI20220328BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20220328BHJP
   F16B 39/282 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
F16B35/04 S
F16B5/02 U
F16B39/282 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017106171
(22)【出願日】2017-05-30
(65)【公開番号】P2018200095
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一博
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝典
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-244903(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0003883(US,A1)
【文献】国際公開第2015/005347(WO,A1)
【文献】米国特許第04637766(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0108400(US,A1)
【文献】特開2011-241905(JP,A)
【文献】米国特許第05797175(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 35/04
F16B 35/00
F16B 37/00
F16B 39/282
F16B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉薄の金属板と肉薄の被締結物とを、かしめボルトとナットにより締結した締結構造であって、
前記かしめボルトは、頭部と、おねじが形成された軸部とを備え、
軸部の上端にはリング状突起と、このリング状突起の頭部側に位置するリング溝とが形成されており、
頭部は扁平であって、その座面には放射状に延びる複数の腕部を備えた回り止め突起が、頭部の座面からtの厚みで突設されており、
前記回り止め突起の各腕部間の最小径Dは前記リング状突起の外径dよりも大きく形成されており、
前記回り止め突起の最小径部の縦断面積Aであるt×(D-d)/2を、前記リング溝の縦断面積以上とし、
前記リング状突起と前記おねじとの間の部分の軸部の外径d1を、前記おねじの谷径d2以下としたものであり、
前記かしめボルトは、肉薄の金属板の下穴に、前記座面と前記金属板とが接する向きで挿入され、そのリング溝に金属材料を塑性流動させた状態で肉薄の金属板にかしめ固定されており、
前記ナットは、前記かしめボルトのおねじとリング状突起との間に形成されたねじなし部を超えて軸部に深くねじ込まれ、軸部に挿入された被締結物に密着して締結していることを特徴とする締結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手材である金属板の表面にかしめ固定され、他の部材を締結するために用いられるかしめボルトを用いた締結構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かしめボルトは、相手材である金属板の下穴に工具を用いて圧入され、金属材料を軸の周囲に形成されたリング溝に塑性流動させることにより、金属板にかしめ固定されるボルトである。かしめボルトには、抜き荷重(軸線方向への引き抜き荷重)が大きいことが求められている。また、かしめ固定されたかしめボルトにはその後に他の部材がナットを用いて締結されるため、空転トルク(かしめボルトが金属板に対して空転し始めるトルク)が大きいことが望ましく、特許文献1に示されるように、頭部の座面に回り止め突起を形成したものが用いられている。
【0003】
特許文献1に示される従来のかしめボルトは、図1に示したように、肉厚の頭部1の座面2に波型の回り止め突起3を形成し、この回り止め突起3の下側に、金属材料を塑性流動させるためのリング溝4を連続して形成したものである。しかしこのような従来の構造では、かしめ工程において、リング溝4の内部に金属材料を完全に充満させることが容易ではなく、かしめ後の空転トルクが10Nm以下と低かった。また特許文献1に示される従来のかしめボルトは、頭部1が大型であるため、肉厚の金属板5にしか、かしめ固定することができなかった。さらに特許文献1に示される従来のかしめボルトは、頭部1と軸部のおねじ6の始端位置が離れているためナットを頭部1付近まで締め込むことができず、金属板5と被締結物の合計厚さが十分厚くないと、ナットで固定できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第3967669号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、金属板と被締結物の合計厚さが従来より薄い場合にも、かしめボルトとナットにより確実に締結することができる締結構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の締結構造は、肉薄の金属板と肉薄の被締結物とを、かしめボルトとナットにより締結した締結構造であって、前記かしめボルトは、頭部と、おねじが形成された軸部とを備え、軸部の上端にはリング状突起と、このリング状突起の頭部側に位置するリング溝とが形成されており、頭部は扁平であって、その座面には放射状に延びる複数の腕部を備えた回り止め突起が、頭部の座面からtの厚みで突設されており、前記回り止め突起の各腕部間の最小径Dは前記リング状突起の外径dよりも大きく形成されており、前記回り止め突起の最小径部の縦断面積Aであるt×( D-d)/2を、前記リング溝の縦断面積以上とし、前記リング状突起と前記おねじとの間の部分の軸部の外径d1を、前記おねじの谷径d2以下としたものであり、前記かしめボルトは、肉薄の金属板の下穴に、前記座面と前記金属板とが接する向きで挿入され、そのリング溝に金属材料を塑性流動させた状態で肉薄の金属板にかしめ固定されており、前記ナットは、前記かしめボルトのおねじとリング状突起との間に形成されたねじなし部を超えて軸部に深くねじ込まれ、軸部に挿入された被締結物に密着して締結していることを特徴とするものである。
【0007】
【発明の効果】
【0008】
本発明の締結構造に用いられるかしめボルトは、頭部の座面に形成された回り止め突起の各腕部間の最小径Dを軸部に形成されたリング状突起の外径dよりも大きくし、回り止め突起の最小径部の縦断面積Aであるt×(D-d)/2を、リング溝の縦断面積以上としたものである。このため金属板にかしめたとき、回り止め突起の最小径部においても、縦断面積Aに相当する金属材料を塑性流動させて縦断面積Bであるリング溝の内部を完全に充満することができる。また扁平な頭部の座面に形成されたリング状突起が金属板の表面に圧入されるので、肉薄の金属板にかしめた場合にも、従来品よりも大きい空転トルクを得ることができる。
【0009】
またリング状突起とおねじとの間の部分の外径d1を、前記おねじの谷径d2以下としたので、ナットの内径は外径d1よりも大きくなる。このため、金属板にかしめられたかしめボルトの軸部に被締結物を締結するためのナットを、リング状突起の位置まで締付けることができ、金属板と被締結物の合計厚さが従来よりも薄くても、強固な締結が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来のかしめボルトを示す要部の部分断面図である。
図2】本発明の実施形態のかしめボルトを示す正面図である。
図3】本発明の実施形態のかしめボルトを示す底面図である。
図4】本発明の実施形態のかしめボルトを示す拡大断面図である。
図5】かしめ開始時の状態を示す断面図である。
図6】かしめ開始時の状態を示す要部の拡大断面図である。
図7】かしめ途中の状態を示す要部の拡大断面図である。
図8】かしめ完了時の状態を示す要部の拡大断面図である。
図9】被締結物をナットで締結した状態を示す要部の拡大断面図である。
図10】実施例における空転トルクのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明の締結構造は、以下に説明するかしめボルトを用いて、肉薄の金属板と肉薄の被締結物とを締結したものである。図2実施形態のかしめボルトを示す正面図、図3はその底面図である。これらの図に示されるように、本発明のかしめボルトは、頭部10と軸部11とを備え、軸部11にはおねじ12が形成されている。頭部10は扁平な形状である。
【0012】
頭部10の座面13には、回り止め突起14が座面13からtの厚みで突設されている。このかしめボルトは後記するように、金属板にかしめ固定されるものであり、座面13は頭部10が金属板に接する面である。tは頭部10の厚みの1/4~1/2とすることが好ましい。
【0013】
回り止め突起14は図3に示されるように、軸部11の中心から放射状に延びる複数の腕部15を備えたものである。この実施形態では8本の腕部15が等間隔に形成されているが、腕部15の本数はこれに限定されるものではなく、適宜増減することができる。各腕部15は略一定幅で座面13の外周付近まで延びており、先端部は傾斜面16となっている。また各腕部15の基部は円弧状部17によって連結されている。図3に示されるように、円弧状部17の最小径部18の位置は、軸部11から外側に離れた位置にある。図4に示すように、最小径部18、18間の距離である回り止め突起14の最小径をDとする。
【0014】
図2に示されるように、軸部11の上端には軸部11の全周にわたって、リング状突起20と、このリング状突起20の頭部側に隣接するリング溝21とが形成されている。図4に示すように、リング状突起20の外径dは、軸部11に形成されたおねじ12の山径d3よりも僅かに大きくなっている。リング溝21の上側は、頭部10の座面13の腕部15に滑らかに接続されている。またリング溝21の下側はリング状突起20と滑らかに接続されている。
【0015】
図4の拡大断面図において、リング状突起20の先端から軸部11の中心線に対して平行な線Lを引くと、この線Lの内側がリング溝21の縦断面積Bとなる。またこの線Lと、頭部10の座面13と、円弧状部17の最小径部を示す垂直線Mと、回り止め突起14の下面を示す線とで囲まれた長方形の面積が、回り止め突起14の最小径部18の縦断面積Aとなる。ここで回り止め突起14の最小径はDであるから、A=t×(D-d)/2となる。本発明では、上記した回り止め突起14の最小径部18の縦断面積Aであるt×(D-d)/2が、リング溝21の縦断面積B以上に設定されている。この意味については、以下に説明する。
【0016】
おねじ12の上端とリング状突起20との間には、ねじなし部22が形成されている。この実施形態では、このねじなし部22の軸部の外径d1はおねじの谷径d2以下となっている。
【0017】
上記のように構成されたかしめボルトは、図5に示されるように金属板30の下穴31に座面13と金属板30とが接する向きで挿入され、ダイス40とパンチ50によってかしめられる。図5に示されるように、下穴31の内径をリング状突起20の外径dよりも僅かに大きく設定しておけば、リング状突起20を利用してかしめボルトを下穴31の中心に正しく位置決めすることができる。前記したように、リング状突起20の外径dは、軸部11に形成されたおねじ12の山径d3よりも僅かに大きいため、おねじ12は下穴31に干渉することなく挿入することができる。ダイス40にも下穴31とほぼ同径の中心孔41が形成されている。
【0018】
パンチ50をダイス40に向かって下降させると、図5図6に示すように、先ずかしめボルトの頭部10の回り止め突起14の下面が、金属板30の上面に接する。さらにパンチ50が下降すると、回り止め突起14が金属板30の表面に食い込み、座面13が金属板30に表面に密着した図8の状態となる。
【0019】
このかしめ工程中において、腕部15、15の中間位置では、図7に黒塗りで示した部分が金属板30の下穴31の外周部に食い込み、その部分の金属材料が図7に矢印で示すようにリング溝21の内部に順次流入し、最終的には図8に示すように、リング溝21の内部を満たす。このとき本発明のかしめボルトでは回り止め突起14の最小径部18の縦断面積Aをリング溝の縦断面積B以上に設定してあるため、最小径部18の付近においても十分な量の金属材料を塑性流動させることができ、リング溝21の内部を金属材料で確実に満たすことができる。
【0020】
従って本発明のかしめボルトはかしめ後の抜き荷重が大きく、また回り止め突起14が金属板30の表面に食い込むため、大きい空転トルクを得ることができる。
【0021】
図9に、金属板30のかしめ固定された本発明のかしめボルトに、被締結物60をナット70によって締結した締結構造を示す。ナット70の内径はナット70のめねじの内径であり、それは軸部11に形成されたおねじ12の谷径にほぼ等しい。前記したように、軸部11のねじのない部分22の外径d1をおねじの谷径d2より小さくしておけば、図9に示すようにナット70を軸部11のおねじと干渉させることなく、おねじ12とリング状突起20との間に形成されたねじなし部22を超えて軸部11に十分深く捻じ込むことができ、軸部11に挿入された被締結物60が薄い場合にもナット70を被締結物60に密着させ、確実に締結することができる。また本発明のかしめボルトは頭部10も扁平であるので、金属板30と被締結物60の合計厚さが従来より薄い場合にも、確実な締結が可能となる。
【実施例
【0022】
上記した実施形態の形状のかしめボルトを、M6サイズで製造した。各部の寸法は、頭部の厚さは1.5mm、t=0.5mm、D=7.6mm、d=6.3mm、d1=4.55mm、d2=4.7mm、d3=6.0mmある。
【0023】
このかしめボルトを、厚さ1mmの鋼板に形成された内径が6.3mmの下穴に挿入し、ダイスとパンチを用いてかしめ固定した。その後に空転トルクを測定したところ、図10のグラフに示すように5本の平均値で18Nmであった。
【0024】
この値は、比較データとして示した従来のM6サイズのかしめボルトの空転トルクが10Nm以下であったのに対して、2倍近い優れた値であった。
【0025】
また、従来のM6サイズのかしめボルトは、金属板と被締結物の合計厚さが少なくとも3.2mm以上なければ締結できなかったが、実施形態の形状のかしめボルトは金属板と被締結物の合計厚さが2mmあれば強固に締結することが可能となった。
【0026】
以上に説明したように、本発明のかしめボルトは厚さが1mm程度の肉薄の金属板にかしめた場合にも、従来のかしめボルトよりも大きい空転トルクを得ることができ、肉薄の金属板と肉薄の被締結物とを強固に締結した締結構造とすることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 従来のかしめボルトの頭部
2 座面
3 回り止め突起
4 リング溝
5 金属板
6 おねじ
10 実施形態のかしめボルトの頭部
11 軸部
12 おねじ
13 座面
14 回り止め突起
15 腕部
16 傾斜面
17 円弧状部
18 最小径部
20 リング状突起
21 リング溝
22 ねじなし部
30 金属板
31 下穴
40 ダイス
50 パンチ
60 被締結物
70 ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10