(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】消防用ホース
(51)【国際特許分類】
A62C 33/00 20060101AFI20220328BHJP
F16L 11/12 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
A62C33/00 C
F16L11/12 J
(21)【出願番号】P 2018087915
(22)【出願日】2018-04-30
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082027
【氏名又は名称】竹安 英雄
(72)【発明者】
【氏名】本間 毅
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-189239(JP,A)
【文献】特開2004-132443(JP,A)
【文献】特開2001-141127(JP,A)
【文献】登録実用新案第3025050(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 33/00
F16L 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に配置されたたて糸(5)と、当該たて糸(5)に対して螺旋状に織り込んだよこ糸(6)とにより、前記たて糸(5)が密になるように斜文織組織により織成してなるジャケット(2)の内面に、内張り(3)を施してなる消防用ホース(1)において、前記ジャケット(2)の周方向の一部に、斜文線の方向が前記斜文織組織(以下「正斜文」と言う)とは逆となる斜文織組織(以下「逆斜文」と言う)を形成し、当該正斜文と逆斜文との一方の境界(9)から両側にたて糸(5)のほゞ同一本数に亙って、着色したたて糸(11)と、当該着色したたて糸(11)より断面積において5~40%太い未着色又は別の色彩に着色したたて糸(14)とを、交互に使用したことを特徴とする、消防用ホース
【請求項2】
前記着色したたて糸(11)が、蓄光糸又は反射糸であることを特徴とする、請求項1に記載の消防用ホース
【請求項3】
前記ジャケット(2)が、たて糸(5、11)とよこ糸(6)とを2/1斜文織組織により織られていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の消防用ホース
【請求項4】
前記逆斜文を形成した部分全体に亙って、着色したたて糸(11)と未着色又は別の色彩に着色したたて糸(5)とを交互に使用したことを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の消防用ホース
【請求項5】
前記ジャケット(2)の周方向の複数個所に逆斜文を形成し、当該すべての逆斜文の箇所においても、前記正斜文と逆斜文との一方の境界(9)から両側に、たて糸(5)のほゞ同一本数に亙って、着色したたて糸(11)と未着色又は別の色彩に着色したたて糸とを交互に使用したことを特徴とする、請求項1、2、3又は4に記載の消防用ホース
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は環状に配置されたたて糸と当該たて糸に対して螺旋状に織り込んだよこ糸とよりなるジャケットの内面に、内張り材を施してなる消防用ホースに関するものであって、特に当該消防用ホースの一部に退避方向を示すV字指標を、前記ジャケットの織りにより表してなる、消防用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に消防用ホースは火災の際に消火活動に使用されるが、当該消火活動において消防士が煙に巻かれて方向を失うことが少なくない。特に建物内での消火活動においては、消防士が退避するべき方向を失い、それによって火に巻かれて焼死するといった痛ましい事故も生じている。
【0003】
かかる事故を防ぐために、火災現場において必ず存在する消防用ホースは、一方が必ず火災現場の外において消防ポンプに接続されているため、当該消防用ホースに消防士が退避すべき方向を表示することが提案されている。
【0004】
例えば特許第4979845号公報、特開2004-132443号公報、実用新案登録第3091291号公報などにおいては、消防用ホースに矢印指標を設けることが提案されているが、この矢印指標は反射材や夜光塗料などの塗布材で表示するものであり、ホースが摩耗されたときなどに消えてしまう可能性があった。
【0005】
また特許第6093893号公報や特許第6116732号公報においては、前記矢印指標をジャケットの織りにより表現することが提案されている。これらのものにおいては摩耗で消えてしまうことはないが、矢印指標が不明瞭であって、退避方向が判りにくいものであった。
【0006】
これらの事情に鑑み、出願人は先に特願2018-71960号として、たて糸とよこ糸とにより、前記たて糸が密になるように斜文織組織により織成してなるジャケットの内面に内張りを施してなる消防用ホースにおいて、前記ジャケットの周方向の一部に、斜文線の方向が前記斜文織組織とは逆となる斜文織組織を形成し、当該正斜文と逆斜文との一方の境界から両側にたて糸のほゞ同一本数に亙って、着色したたて糸と未着色又は別の色彩に着色したたて糸とを交互に使用することにより、明瞭なV字指標を表示したものを提案した。
【0007】
しかしながらこのものにおいては、前記着色したたて糸により退避方向を示すV字指標を形成するので、消防用ホースを引き摺ってジャケットが摩耗されたとき、前記着色したたて糸が摩耗されて色彩が薄くなったり、V字指標が不鮮明となったりする可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4979845号公報
【文献】特開2004-132443号公報
【文献】実用新案登録第3091291号公報
【文献】特許第6093893号公報
【文献】特許第6116732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、消防用ホースの一部に退避方向を示すV字指標を、前記ジャケットの織りにより表してなると共に、そのV字指標を美しく且つ明瞭に表示すると共に、摩耗によりV字指標が不鮮明となることを防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して本発明は、環状に配置されたたて糸と、当該たて糸に対して螺旋状に織り込んだよこ糸とにより、前記たて糸が密になるように斜文織組織により織成してなるジャケットの内面に、内張りを施してなる消防用ホースにおいて、前記ジャケットの周方向の一部に、斜文線の方向が前記斜文織組織(以下正斜文と言う)とは逆となる斜文織組織(以下逆斜文と言う)を形成し、当該正斜文と逆斜文との一方の境界から両側にたて糸のほゞ同一本数に亙って、着色したたて糸と、当該着色したたて糸より断面積において5~40%太い未着色又は別の色彩に着色したたて糸とを、交互に使用したことを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記着色したたて糸が、蓄光糸又は反射糸とすることができる。また本発明においては、前記ジャケットが、たて糸とよこ糸とを2/1斜文織組織により織られていることが好ましい。また本発明においては、前記逆斜文を形成した部分全体に亙って、着色したたて糸と未着色又は別の色彩に着色したたて糸とを交互に使用することが好ましい。
【0012】
また本発明においては、前記ジャケットの周方向の複数個所に逆斜文を形成し、当該すべての逆斜文の箇所においても、前記正斜文と逆斜文との一方の境界から両側に、たて糸のほゞ同一本数に亙って、着色したたて糸と未着色又は別の色彩に着色したたて糸とを交互に使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】
図2のジャケットに着色たて糸を織り込んだ組織図
【
図4】
図3のジャケットの組織を模式的に示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の消防用ホース1を示すものであって、2はジャケットであり、そのジャケット2の内面には柔軟なゴム又はプラスチックの内張り3が施されている。そして本発明においては、前記ジャケット2の表面に退避方向(
図1においては右方)を示すV字指標4が、ジャケット2の織り組織により表示されている。
【0015】
而して
図2は本発明におけるジャケット2の組織図を示すものであって、このジャケット2は環状に配置されたたて糸5と、当該たて糸5に対して螺旋状に織り込まれたよこ糸6とにより、全体として2/1斜文織組織により織成されており、当該斜文織組織により大部分に左上がりの斜文線7が現れている。
【0016】
なおこの明細書における以下の説明においては、前記左上がりの斜文線が現れる斜文織組織を「正斜文」と言い、これと逆方向の右上がりの斜文線が現れる斜文織組織を「逆斜文」と称する。
【0017】
而してこのジャケット2における周方向の一部に、前記正斜文の斜文織組織とは逆の逆斜文による2/1斜文織組織により織られており、当該逆斜文の部分には右上がりの斜文線8が現れており、その正斜文と逆斜文との境界9、10においては、斜文線7、8が山形に現れている。
【0018】
而して本発明においては
図3に示すように、前記正斜文と逆斜文との一方の境界9から左右両側に、たて糸5の同一本数に亙って、着色したたて糸11と未着色のたて糸5とが交互に使用されている。
【0019】
なお
図3においては、前記逆斜文の部分全体に亙って着色したたて糸11を配置し、前記正斜文と逆斜文との一方の境界9から正斜文側に、前記逆斜文の部分のたて糸11と同一本数のみ着色したたて糸11を使用しているが、かかる構成に限らず、逆斜文の部分の一部にのみ着色したたて糸11を使用し、前記正斜文と逆斜文との一方の境界9から正斜文側に、前記逆斜文の部分のたて糸11とほゞ同一本数に亙って着色したたて糸11を使用することも可能である。
【0020】
図4は前記
図3に示されるジャケット2の組織を、たて糸5、11及びよこ糸6を判りやすいように間隔を開けて模式的に示した図面であって、織り組織としては
図3と全く同一の組織を示している。
【0021】
そして
図5は、
図3及び
図4に示されるジャケット2の表面図であって、前記着色したたて糸11と未着色のたて糸5とにより前記ジャケット2の表面に現れる模様を表示した表面図であり、当該
図5も織り組織としては前記
図3および
図4と同一の組織を示したものである。
【0022】
ところで一般に消防用ホース1においては、地上で激しく引き摺って使用されることが多く、またジャケット2のよこ糸6が主として耐圧力を負担するので、消防用ホース1を引き摺ったときによこ糸6が損傷することがあってはならない。
【0023】
そのためよこ糸6がジャケット2から露出しないようにするために、主としてジャケット2のたて糸5、11が密になるように織成し、当該たて糸5、11のみが表面に露出し、よこ糸6はたて糸5、11に隠されてジャケット2の表面に露出しないように構成されるのである。
【0024】
従って
図4においてはよこ糸6がたて糸5、11の間から大きく露出しているのであるが、現実のジャケット2においては、そのよこ糸6が露出した部分に両側からたて糸5、11がせり出し、
図5に示されるようによこ糸6はたて糸によって覆い隠され、たて糸5、11のみがジャケット2の表面を覆った状態となるのである。
【0025】
そのため着色されたたて糸11がよこ糸6の両側からせり出して互いに接し、また未着色のたて糸5も同様によこ糸6の両側からせり出して接し、斜文線7,8とは逆方向の斜めの縞模様を現し、正斜文の部分では右上がりの縞模様12を、逆斜文の部分では左上がりの縞模様13を表現することとなり、
図5に示すように上向きの矢印となるV字指標4を表現することとなるのである。
【0026】
そして本発明においては、
図6に示すようにV字指標4を表した部分において、未着色のたて糸として、着色されたたて糸11よりも断面積において5~40%太いたて糸14が使用されている。
【0027】
例えばたて糸5及び着色されたたて糸11が、200texの糸条を6本撚り合わせた糸条を使用する場合において、太いたて糸14として200texの糸条を7本又は8本撚り合わせた糸条を使用するのが適当である。7本撚り合わせた場合には6本より合わせた糸条より16.6%太く、8本撚り合わせた場合には6本撚り合わせた糸条より33.3%太くなる。
【0028】
なお以上に説明においては、着色したたて糸11以外のたて糸はすべて未着色のたて糸であるものとして記載しているが、V字指標4を形成する部分においては、未着色のたて糸に代えて、前記着色したたて糸11における色彩と別の色彩に着色したたて糸を使用することも可能である。
【0029】
また以上の説明においては、ジャケット2の周方向の一箇所のみに逆斜文を形成することとしているが、かかる構成に限らず、ジャケット2の周方向の複数個所に逆斜文を形成し、当該すべての逆斜文の箇所においても以上の説明と同様にV字指標4を設けることもできる。
【0030】
このようにすることにより、消防用ホース1がねじれた場合においても、いずれかのV字指標4が常に消防士の視界に入るので、常に消防士の退避方向を示すことができるので安全である。
【0031】
本発明によれば、正斜文と逆斜文とにより左右対称の縞模様12、13を形成し、その縞模様12、13により
図1に示すような美しく且つ明瞭な左右対称のV字指標4を表現することができるのであって、消防士は一目見て退避方向を知ることができ、安全に退避することが可能となるのである。
【0032】
図1において消防用ホース1の右方を消防ポンプに、左方を筒先に接続すれば、前記V字指標4により消防士は自然に右方すなわちポンプに接続した端末方向に誘導され、安全に退避することができる。
【0033】
また本発明によれば前記V字指標4をジャケット2の織りにより表現しており、着色したたて糸11により表現しているので、摩耗などにより前記V字指標4が見えなくなるようなことがない。
【0034】
さらに本発明によれば、前記V字指標4を表した部分において、未着色のたて糸が着色されたたて糸11よりも太いたて糸14を使用しているので、この部分が地面に擦られて摩耗した場合においても、未着色のたて糸14のみが摩耗され、着色されたたて糸11が摩耗されることが少なく、前記V字指標4が不鮮明となることがなく、より安全に退避することができるのである。
【0035】
特に着色したたて糸11として蓄光糸又は反射糸を使用する場合には、これらの糸は摩耗により機能を失いがちであるが、本発明においてはその着色したたて糸11に隣接して太いたて糸14があるため、着色したたて糸1が太いたて糸14により保護され、摩耗されることがないのである。
【符号の説明】
【0036】
1 消防用ホース
2 ジャケット
3 内張り
4 V字指標
5 たて糸
6 よこ糸
7 正斜文の斜文線
8 逆斜文の斜文線
9、10 正斜文と逆斜文の境界
11 着色したたて糸
12、13 縞模様
14 太いたて糸