(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】アレイ半導体光素子、光送信モジュール、及び光モジュール、並びに、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20220328BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
H01S5/026 610
H01S5/343
(21)【出願番号】P 2016233431
(22)【出願日】2016-11-30
【審査請求日】2019-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北谷 健
(72)【発明者】
【氏名】足立 光一朗
【審査官】淺見 一喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-068918(JP,A)
【文献】特開2010-123643(JP,A)
【文献】特開平02-062090(JP,A)
【文献】特開平07-226563(JP,A)
【文献】特開平10-117040(JP,A)
【文献】特開2001-044571(JP,A)
【文献】特開2002-289971(JP,A)
【文献】特開2002-323628(JP,A)
【文献】特開2003-060285(JP,A)
【文献】特開2007-299791(JP,A)
【文献】特開2009-003310(JP,A)
【文献】特開2016-111263(JP,A)
【文献】特開2016-146406(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0081878(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1半導体光素子及び第2半導体光素子を含む複数の半導体光素子が半導体基板上にモノリシックに集積されるアレイ半導体光素子であって、
前記複数の半導体光素子のそれぞれは、多重量子井戸層を含む半導体層と、前記半導体層の上方に配置される回折格子層と、前記多重量子井戸層および前記回折格子層の間にあって前記回折格子層に接触するスペーサ層
と、前記半導体層と前記スペーサ層との間に配置されるエッチング停止層を含み、
前記第1半導体光素子の前記半導体層の層厚は、前記第2半導体光素子の前記半導体層の層厚より薄く、
前記第1半導体光素子及び前記第2半導体光素子の間で前記回折格子層および前記スペーサ層の層厚は実質的に一定であり、
前記第1半導体光素子の前記回折格子層の高さは、前記第2半導体光素子の前記回折格子層の高さより、前記第1半導体光素子の前記半導体層と前記第2半導体光素子の前記半導体層との層厚差に応じて低い、
ことを特徴とする、アレイ半導体光素子。
【請求項2】
請求項1に記載のアレイ半導体光素子であって、
前記複数の半導体光素子のそれぞれの前記半導体層は、前記多重量子井戸層の下側に接して配置される下側光ガイド層と、前記多重量子井戸層の上側に接して配置される上側光ガイド層と、をさらに含む、
ことを特徴とする、アレイ半導体光素子。
【請求項3】
請求項2に記載のアレイ半導体光素子であって、
前記複数の半導体光素子のそれぞれの前記半導体層は、前記下側光ガイド層と、前記多重量子井戸層と、前記上側光ガイド層と、からなる、
ことを特徴とする、アレイ半導体光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のアレイ半導体光素子であって、
前記第1半導体光素子の前記回折格子層の高さと、前記第2半導体光素子の前記回折格子層の高さと、の差は、実質的に、前記第1半導体光素子の前記半導体層と前記第2半導体光素子の前記半導体層との層厚差である、
ことを特徴とする、アレイ半導体光素子。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載のアレイ半導体光素子を、
備える、光送信モジュール。
【請求項6】
請求項
5に記載の光送信モジュールを、備える、光モジュール。
【請求項7】
第1半導体光素子及び第2半導体光素子を含む複数の半導体光素子が半導体基板上にモノリシックに集積されるアレイ半導体光素子の製造方法であって、
前記複数の半導体光素子のそれぞれは、多重量子井戸層を含む半導体層と、前記半導体層の上方に配置される回折格子層と、前記多重量子井戸層および前記回折格子層の間にあって前記回折格子層に接触するスペーサ層
と、前記半導体層と前記スペーサ層との間に配置されるエッチング停止層を含み、
前記第1半導体光素子の前記半導体層の層厚が、前記第2半導体光素子の前記半導体層の層厚より薄くなるよう、前記第1半導体光素子の前記半導体層と、前記第2半導体光素子の前記半導体層とを、選択領域成長により同時に積層する、半導体層積層工程と、
前記第1半導体光素子の前記回折格子層および前記スペーサ層と、前記第2半導体光素子の前記回折格子層および前記スペーサ層と、を層厚が実質的に一定になるように、同一の多層成長条件で同時に積層する、回折格子スペーサ層積層工程と、
を備える、アレイ半導体光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ半導体光素子、光送信モジュール、及び光モジュール、並びに、それらの製造方法に関し、特に、チャンネル間の素子性能のばらつきを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに発振波長が異なる複数の半導体光素子が搭載されるアレイ半導体光素子が、一般に用いられている。現在、アレイ半導体光素子の大容量化及び小型化の両立が望まれている。そのために、1つのアレイ半導体光素子に搭載される複数の半導体光素子の数(チャンネル数)を増やすとともに、それら複数の半導体光素子をより小さな領域に実装できる技術が必要となる。
【0003】
現在、アレイ半導体光素子の作製においては、対応する発振波長の半導体光素子をそれぞれ、別々のウエハ工程で作成し、実装時にハイブリッド集積してアレイ化する方法が、主に用いられている。この場合、各半導体光素子を個別に実装する必要があるので、実装に要するスペース等に鑑みると、高密度実装には限界がある。また、チャンネル数に対応した枚数のウエハを作製することとなり、コスト低減の観点でも問題となる。
【0004】
これに対して、1つのウエハ上に複数の半導体光素子を、共通する結晶成長工程で作製可能であるモノリシック集積技術が提案されている。当該手法を用いることにより、互いに発振波長が異なる複数の半導体光素子が例えば数百μm程度の素子間隔で形成されるアレイ半導体光素子を1枚のウエハ上に複数作製し、アレイ半導体光素子自体のサイズを小型化できる可能性がある。モノリシック集積技術の一例として、特許文献1に記載される選択成長(SAG:Selective-Area-Growth)法がある。
【0005】
特許文献1に開示されるモノリシック集積技術では、有機金属気相成長における選択成長効果を用いて、複数の半導体光素子がそれぞれ形成される領域に、異なるマスク幅を有するとともにストライプ状の対をなす1対の絶縁体マスクを形成する。その結果、マスクの間隔やマスク幅に応じて膜厚が増大し、組成変化が起きるので、互いに発光波長が異なる多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)層を、同一ウエハ上に共通する(一度の)結晶成長工程で形成することができる。例えば、マスク幅が広くなるのに伴って、マスク上に到達したIII族原子がより多く拡散し、マスク間の開口部の成長に寄与する量が増大し、膜厚増大率が大きくなり、より大きな発光波長の変化を起こすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、アレイ半導体光素子の各半導体光素子を、分布帰還型(DFB:Distibuted Feedback)レーザによって実現する場合に、同一発光波長の1枚のウエハを用いて、ウエハ面内で回折格子の周期を変化させて、互いに発振波長が異なる複数の半導体光素子が搭載されるアレイ半導体光素子を、同一基板上に実現することができる。しかしながら、各チャンネルの半導体光素子の発振波長と、MQW層(活性層)の発光波長(利得波長)との差(離長量)が各チャンネルの半導体光素子毎に異なってしまい、1つのアレイ半導体光素子における各半導体光素子の素子性能に大きなばらつきが生じてしまう。
【0008】
これに対して、特許文献1に、当該モノリシック集積技術を用いることにより、所望の発振波長を有する複数の半導体光素子を、1度の結晶成長工程で実現できることが記載されている。離長量を所定の範囲内に保持できる点で、SAG法のように、MQW層の発光波長そのものを変化できる手法を用いた作製法が望ましい。
【0009】
各半導体光素子がDFBレーザである場合に、発振波長の単一モード化のために、各半導体光素子の半導体多層構造に回折格子が設けられる。特許文献1に記載されるSAG法を用いるアレイ半導体光素子の作製法において、回折格子の形成は、回折格子をMQW層(活性層)より基板側にあらかじめ形成するか、MQW層(活性層)より基板側とは反対側に、MQW層と同一の行程で回折格子を選択成長させる層を用いて形成するか、いずれかである。前者(下側回折格子)では、MQW層が、下側に配置される回折格子の凹凸の影響を受けて結晶性が損なわれるという問題が生じ得る。後者(上側回折格子)では、前者にみられる結晶性劣化の問題が生じにくい。また、形成されるMQW層の発光波長を確認した上で、回折格子の形成条件を精密に決定することができる。それゆえ、上側回折格子を有する半導体光素子が複数モノリシックに集積されるアレイ半導体光素子が望ましい。
【0010】
しかしながら、MQW層と上側回折格子とを同一の行程で選択成長させると、各チャンネルの半導体光素子毎に、回折格子層の膜厚が異なってしまう。発明者らが鋭意検討したところ、回折格子層の膜厚が異なることに起因して、各チャンネルの半導体光素子の素子性能に、ばらつきが生じ得るとの知見を得ている。
【0011】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、チャンネル間の半導体光素子の性能ばらつきを低減しつつ、小型化が実現されるアレイ半導体光素子、光送信モジュール、及び光モジュール、並びに、それらの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係るアレイ半導体光素子は、第1半導体光素子及び第2半導体光素子を含む複数の半導体光素子が半導体基板上にモノリシックに集積されるアレイ半導体光素子であって、各前記半導体光素子は、多重量子井戸層を含む第1半導体層と、前記第1半導体層の上方に配置される回折格子層と、を含み、前記第1半導体光素子の前記第1半導体層の層厚は、前記第2半導体光素子の前記第1半導体層の層厚より薄く、前記第1半導体光素子の前記回折格子層の高さは、前記第2半導体光素子の前記回折格子層の高さより、前記第1半導体層の層厚差に応じて低い、ことを特徴とする。
【0013】
(2)上記(1)に記載のアレイ半導体光素子であって、各前記半導体光素子の前記第1半導体層は、前記多重量子井戸層の下側に接して配置される下側光ガイド層と、前記多重量子井戸層の上側に接して配置される上側光ガイド層と、をさらに含んでいてもよい。
【0014】
(3)上記(2)に記載のアレイ半導体光素子であって、各前記半導体光素子の前記第1半導体層は、前記下側光ガイド層と、前記多重量子井戸層と、前記上側光ガイド層と、からなるとしてもよい。
【0015】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のアレイ半導体光素子であって、前記第1半導体光素子の前記回折格子層の高さと、前記第2半導体光素子の前記回折格子層の高さと、の差は、実質的に、前記第1半導体層の層厚差であってもよい。
【0016】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアレイ半導体光素子であって、各前記半導体光素子は、前記第1半導体層と前記回折格子層との間に配置される、エッチング停止層を、さらに含んでいてもよい。
【0017】
(6)本発明に係る光送信モジュールは、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のアレイ半導体光素子を、備える、光送信モジュールであってもよい。
【0018】
(7)本発明に係る光モジュールは、上記(6)に記載の光送信モジュールを、備える、光モジュールであってもよい。
【0019】
(8)本発明に係るアレイ半導体光素子の製造方法は、第1半導体光素子及び第2半導体光素子を含む複数の半導体光素子が半導体基板上にモノリシックに集積されるアレイ半導体光素子の製造方法であって、各前記半導体光素子は、多重量子井戸層を含む第1半導体層と、前記第1半導体層の上方に配置される回折格子層と、を含み、前記第1半導体光素子の前記第1半導体層の層厚が、前記第2半導体光素子の前記第1半導体層の層厚より薄くなるよう、前記第1半導体光素子の前記第1半導体層と、前記第2半導体光素子の前記第1半導体層とを、同時に積層する、第1半導体層積層工程と、前記第1半導体光素子の前記回折格子層と、前記第2半導体光素子の前記回折格子層と、を共通する条件で同時に積層する、回折格子層積層工程と、を備えていてもよい。
【0020】
(9)上記(8)に記載のアレイ半導体光素子の製造方法であって、第1半導体層積層工程において、選択成長により、前記第1半導体光素子の前記第1半導体層と、前記第2半導体光素子の前記第1半導体層とを、同時に積層してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、チャンネル間の半導体光素子の性能ばらつきを低減しつつ、小型化が実現されるアレイ半導体光素子、光送信モジュール、及び光モジュール、並びに、それらの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る光送信モジュール1の構成を示す平面図である。
【
図3A】本発明の第1の実施形態に係る半導体光素子の半導体多層構造を示す模式図である。
【
図3B】本発明の第1の実施形態に係る半導体光素子の半導体多層構造を示す模式図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の構造を示す模式図である。
【
図5】半導体光素子の第1半導体層と回折格子層の膜厚増大率に対する、結合係数κ変化率の絶対値を示す図である。
【
図6A】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6B】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6C】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6D】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6E】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6F】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6G】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6H】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6I】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6J】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6K】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図6L】本発明の第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子の製造方法の過程を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係るアレイ半導体光素子の構造を示す模式図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係るアレイ半導体光素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態を具体的かつ詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、以下に示す図は、あくまで、実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光伝送装置101の構成を示す模式図である。光伝送装置101に、複数の光モジュール102が搭載される。光伝送装置101は、プリント回路基板111とIC112を備えている。光伝送装置101は、例えば、大容量のルータやスイッチである。光伝送装置101は、例えば交換機の機能を有しており、基地局などに配置される。光伝送装置101は、光モジュール102より受信用のデータ(受信用の電気信号)を取得し、IC112などを用いて、どこへ何のデータを送信するかを判断し、送信用のデータ(送信用の電気信号)を生成し、プリント回路基板111を介して、該当する光モジュール102へそのデータを伝達する。
【0025】
光モジュール102は、送信機能及び受信機能を有するトランシーバである。光モジュール102は、プリント回路基板121と、光ファイバ103Aを介して受信する光信号を電気信号に変換する光受信モジュール123Aと、電気信号を光信号に変換して光ファイバ103Bへ送信する光送信モジュール123Bと、を含んでいる。プリント回路基板121と、光受信モジュール123A及び光送信モジュール123Bとは、それぞれフレキシブル基板122A,122Bを介して接続されている。光受信モジュール123Aより電気信号がフレキシブル基板122Aを介してプリント回路基板121へ伝送され、プリント回路基板121より電気信号がフレキシブル基板122Bを介して光送信モジュール123Bへ伝送される。光モジュール102と光伝送装置101本体とは電気コネクタ105を介して接続される。
【0026】
当該実施形態に係る伝送システムは、2個以上の光伝送装置101と2個以上の光モジュール102と、1個以上の光ファイバ103を含む。各光伝送装置101に、1個以上の光モジュール102が搭載される。2個の光伝送装置101にそれぞれ搭載される光モジュール102の間を、光ファイバ103が接続している。一方の光伝送装置101が生成した送信用のデータが接続される光モジュール102によって光信号に変換され、かかる光信号を光ファイバ103へ送信される。光ファイバ103上を伝送する光信号は、他方の光伝送装置101に接続される光モジュール102によって受信され、光モジュール102が光信号を電気信号へ変換し、受信用のデータとして当該他方の光伝送装置101へ伝送する。
【0027】
ここで、各光モジュール102が送受信する電気信号のビットレートは100Gbit/sである。光送信モジュール123Bは、25Gbit/sの光を波長間隔約20nmで4波長多重化して100Gbit/sで伝送するようなCWDM(Course Wavelength Division Multiplexing)方式である。
【0028】
図2は、当該実施形態に係る光送信モジュール123Bの構成を示す平面図である。光送信モジュール123Bは、外装ケース10と、アレイ半導体光素子11(アレイ半導体光素子11に複数の半導体光素子12が搭載される)と、複数の集光レンズが搭載される光部品14と、光合波器15と、光ファイバコネクタ16と、を備え、アレイ半導体光素子11はフレキシブル基板122Bに接続される。電気信号がフレキシブル基板122Bを介して、アレイ半導体光素子11の複数の半導体光素子12それぞれへ入力される。各半導体光素子12は、対応する発振波長の光信号を出力する。光部品14において、各半導体光素子12が出力する光信号は、光部品14に搭載され半導体光素子12に対応する集光レンズによって平行化され、光合波器15にて多重光信号に合波される。かかる多重光信号は、光ファイバコネクタ16より接続される光ファイバへ出力される。当該実施形態に係る光送信モジュールは、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子を備え、当該実施形態に係る光モジュールは、当該実施形態に係る光送信モジュールを備え、当該実施形態に係る光伝送装置は、当該実施形態に係る光モジュールを備えている。
【0029】
図3A及び
図3Bは、当該実施形態に係る半導体光素子12の半導体多層構造を示す模式図である。
図3Aは、半導体光素子12の光軸方向を含む断面を示しており、半導体多層構造を模式的に示している。
図3Bは、
図3Aに示すIIIB-IIIB線による断面(光軸方向に直交する平面)を示しており、半導体光素子12の構造を示している。
【0030】
図3Aに示す通り、半導体光素子12の半導体多層構造は、半絶縁性のFeドープInP基板20上に、n型InP層21と、n型下側光ガイド層22aと、MQW層22bと、p型上側光ガイド層22cと、メサエッチング停止層23と、InPスペーサ層24aと、InGaAsP回折格子層24bと、p型InPクラッド層25と、p
+型コンタクト層26と、が積層方向に沿って順に積層されたものである。n型下側光ガイド層22a及びp型上側光ガイド層22cは、ともにInGaAlAs半導体層である。MQW層22bは、InGaAlAs井戸層とInGaAlAs障壁層とが交互に積層される半導体層である。メサエッチング停止層23は、InGaAsP半導体層である。p
+型コンタクト層26は、InGaAs半導体層である。
【0031】
図3Bに示す通り、半導体光素子12の半導体多層構造は、基板側より第1メサ構造乃至第3メサ構造からなる多段構造となっている。第1メサ構造は、n型下側光ガイド層22aと、MQW層22bと、p型上側光ガイド層22cと、メサエッチング停止層23と、により構成され、第2メサ構造は、InPスペーサ層24aと、InGaAsP回折格子層24bと、により構成され、第3メサ構造は、p型InPクラッド層25と、p
+型コンタクト層26と、により構成される。メサ幅は、第1メサ構造から第3メサ構造へ、順に狭くなっている。第1メサ構造において、メサエッチング停止層23は、n型下側光ガイド層22aと、MQW層22bと、p型上側光ガイド層22cと、の側面と上面とを覆って、形成されている。
【0032】
半導体多層構造に、一部を除いて全面に亘ってパッシベーション膜27が形成されている。p+型コンタクト層26と電気的に接続されるp側電極31と、n型InP層21と電気的に接続されるn側電極32とが、配置されている。p側電極31とp+型コンタクト層26とが物理的に接触するために、p+型コンタクト層26の上表面にパッシベーション膜27は形成されていない。n側電極32とn型InP層21とが物理的に接触するために、n型InP層21の上表面のうち、n側電極32が形成される領域(の少なくとも一部の領域)にパッシベーション膜27は形成されていない。
【0033】
ここで、第1半導体層22は、n型下側光ガイド層22aと、MQW層22bと、p型上側光ガイド層22cと、を含む。当該実施形態において、第1半導体層22は、n型下側光ガイド層22aと、MQW層22bと、p型上側光ガイド層22cと、により構成される。また、第2半導体層24は、InPスペーサ層24aと、InGaAsP回折格子層24bと、後述するInPキャップ層24cと、を含んでいる。当該実施形態において、第2半導体層24は、InPスペーサ層24aと、InGaAsP回折格子層24bと、InPキャップ層24cと、により構成される。
【0034】
図4は、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の構造を示す模式図である。当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11は、4チャンネル多波長レーザ素子アレイであり、各半導体光素子12それぞれは、リッジ構造型であり直接変調型の半導体レーザ素子であり、具体的には、DFBレーザである。
図4(a)に示す通り、アレイ半導体光素子11は、第1半導体光素子CH1と、第2半導体光素子CH2と、第3半導体光素子CH3と、第4半導体光素子CH4と、を含む。各チャンネルの半導体光素子12は、
図3Bに示す構造を有している。
図4(b)乃至
図4(e)に、第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4の半導体多層構造の主要部が、それぞれ示されている。各半導体光素子12の第1半導体層22は、選択成長(SAG法)により積層されており、第1半導体光素子CH1から第4半導体光素子CH4へ、順に第1半導体層22の層厚は厚くなっており、発光波長(利得波長)は順に長くなる。第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4の第1半導体層22の層厚は、第1半導体層の下表面の高さであるH0から、h1乃至h4それぞれまでの距離となる。それゆえ、第1半導体層22の上表面の高さは、第1半導体光素子CH1から第4半導体光素子CH4へ、h1からh4と順に高くなっている。メサエッチング停止層23と第2半導体層24とは、第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4において共通する工程で、ともに積層されるので、メサエッチング停止層23の層厚は第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4において実質的に等しく、第2半導体層24の層厚は第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4において実質的に等しい。よって、InGaAsP回折格子層24bの上表面の高さ(第2半導体層24の上表面の高さ)は、第1半導体光素子CH1から第4半導体光素子CH4へ、H1からH4と順に高くなっている。
【0035】
本発明の特徴は、第1半導体光素子及び第2半導体光素子を含む複数の半導体光素子が半導体基板上にモノリシックに集積されるアレイ半導体光素子であって、各半導体光素子は、多重量子井戸層を含む第1半導体層と、第1半導体層の上方に配置される回折格子層と、を含み、第1半導体光素子の第1半導体層の層厚は、第2半導体光素子の第1半導体層の層厚より薄く、第1半導体光素子の回折格子層の高さは、第2半導体光素子の前記回折格子層の高さより、第1半導体層の層厚差に応じて低いことにある。ここで言う回折格子層の高さとは、InP基板20の上面からの積層方向(基板面に垂直方向)に沿う高さで規定する。各半導体光素子の第1半導体層は、多重量子井戸層の下側に接して配置される下側光ガイド層と、多重量子井戸層の上側に接して配置される上側光ガイド層と、をさらに含んでいるのが望ましい。各半導体光素子の第1半導体層は、下側光ガイド層と、多重量子井戸層と、上側光ガイド層と、からなるのが、さらに望ましい。
【0036】
当該実施形態において、後述する通り、第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4において、第1半導体層は選択成長(SAG)により積層されており、第1半導体層の層厚は互いに異なっている。これに対して、第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4において、エッチング停止層及び第2半導体層は、共通する条件で同一の結晶成長行程で積層されており、エッチング停止層の層厚は実質的に等しく、同様に、第2半導体層の層厚は実質的に等しい。よって、第1半導体光素子の回折格子層の高さと、第2半導体光素子の回折格子層の高さと、の差は、実質的に、第1半導体層の層厚差となる。また、各半導体光素子は、第1半導体層と回折格子層との間に配置される、エッチング停止層を、さらに含んでいるのが望ましい。なお、複数の半導体光素子において、ある半導体層の層厚が実質的に等しいとは、複数の半導体光素子において、共通する条件で同一の結晶成長工程で当該半導体層が積層されることにより、かかる結晶成長工程における当該半導体層の層厚は実質的に等しくなっている。すなわち、結晶成長工程による当該半導体層の面内分布の範囲内において、当該半導体層の層厚が等しいことを意味している。
【0037】
近年のインターネット人口の爆発的増大により、情報伝送の大容量化が求められており、今後も光通信が重要な役割を果たすと考えられる。光通信に用いられる送信用光源に、半導体レーザ素子が用いられ、素子を駆動する電気回路等と共に、光モジュールとして規格化されたパッケージ内に搭載される。現在、光モジュールの伝送容量は既に100Gb/sに到達しており、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11のように、25Gb/sで動作し、互いに発振波長の異なる4個(4チャンネル)用いてアレイ化することにより、100Gb/sの伝送容量を実現している。各半導体光素子の伝送速度は25Gb/sに達し、素子の限界に近い性能であるとも考えられており、これ以上の急激な高速化は技術的に容易ではない。よって、光モジュールの大容量化に向けて、今後も複数のチャンネル数(n個)の半導体光素子をアレイ化して、光モジュールに実装することにより、伝送容量を(n倍に)増大させていく方法が望まれると考えられる。当該実施形態に係るアレイ半導体光素子は、アレイ半導体光素子の大容量化と小型化の要求に対して、最適な構造となっている。
【0038】
一方、データセンタ等で用いられる光伝送装置においては、光伝送装置に搭載する光モジュールのスペースが限られているため、伝送密度の向上も重要である。そのためには、光モジュール自体の小型化により、同一のスペースにおける光モジュールの搭載数を増大させるのが望ましい。よって、光モジュールの小型化の要求が急速に進展している。よって、当該実施形態に係る光モジュール及び光伝送装置は、光モジュールの大容量化と小型化の要求に対して、最適な構造となっている。
【0039】
図5は、半導体光素子の第1半導体層と回折格子層の膜厚増大率に対する、結合係数κ変化率の絶対値を示す図である。一般に、回折格子の性能は、結合係数κと共振器長Lとの積κLで表現されることが知られている。なお、κは、回折格子層がある領域とない領域の有効屈折率の差に比例する。ここでは、半導体光素子は標準的な素子構造を有するものと仮定しており、アレイ半導体光素子が4チャンネル(4個)の半導体光素子を搭載する場合を考える。
【0040】
特許文献1に示す選択成長により作製される半導体光素子では、第1半導体層と回折格子層とが選択成長により連続して積層されており、チャンネル間で第1半導体層の膜厚と回折格子層の膜厚とがともに増大する。かかる場合、κ変化率の絶対値は
図5に示す破線の通り、大きく変化し、チャンネル間で素子性能にばらつきが生じるとの知見を、発明者らは得ている。第1半導体層の膜厚の差及び回折格子層の膜厚の差がともに最大となる第1半導体光素子Ch1と第4半導体光素子CH4との間で、κ変化率の全体値の差が最も大きく、素子性能差も大きくことなることとなる。選択成長の波長変化の原理が膜厚の増大に起因しており、κの変化を低減させることは容易ではない。
【0041】
これに対して、当該実施形態に係る半導体光素子では、チャンネル間で回折格子層の層厚は実質的に一定であるので、チャンネル間で第1半導体層の膜厚のみが増大する。かかる場合、第1半導体層の膜厚と回折格子層の膜厚とがともに増大する(破線)と比較して、κ変化率の絶対値は、
図5に示す実線の通り、より小さくなっている。また、第1半導体層の膜厚増大率が1.2倍程度までは、κ変化率は実質的に無視できると見積もっている。屈折率が高い回折格子層での膜厚変化が抑制されたことにより、半導体多層構造全体の屈折率の変化量を、従来より大幅に低減することができている。その結果、従来に比べ、チャンネル間でのκ変化率のばらつきを小さくすることができており、チャンネル間に生じる素子性能のばらつきをより抑制することができている。
【0042】
また、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子では、チャンネル間で回折格子層の層厚は実質的に一定であることにより、従来の選択成長により第1半導体層と回折格子層とを連続して積層する場合と比べて、精度高く半導体光素子を作製することができ、チャンネル間での素子性能のばらつきをさらに抑制できている。以下、これについて説明する。
【0043】
InP半導体基板を用いる場合に、回折格子層は、InGaAsPやInGaAlAsなどの四元混晶層により形成され、InP層の中に埋め込まれる。半導体光素子の製造工程は、InP層に埋め込まれた回折格子層(典型的には層厚数十nmの四元混晶層)をエッチングするエッチング工程が含まれる。従来の選択成長によれば、チャンネル間で回折格子層の層厚が異なっており、チャンネル間でエッチング条件が異なってしまい、共通するエッチング工程で、すべてのチャンネルの半導体光素子において、所望のピッチや形状を有する回折格子を形成することが困難となる。チャンネル間で回折格子層の膜厚の差が大きくなると、均一に作製することがより難しくなり、回折格子形状の不均一が、チャンネル間での素子性能のばらつきを増大させる要因となる。なお、チャンネル毎に最適なエッチング条件を用いてエッチングすることも考えられるが、その場合、エッチングに係る工程数が増大し、コスト低減の点で望ましくない。当該実施形態に係るアレイ半導体光素子では、チャンネル間で回折格子層の層厚は実質的に一定であり、共通するエッチング工程で、回折格子を形成することができる。回折格子の形状をより均一に形成することができる上に、製造コストを低減することができる。
【0044】
以上、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の構造について説明した。次に、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の製造方法について説明する。半導体層の結晶成長方法としては、有機金属気相成長(MOVPE:Metal-organic vapor phase epitaxy)法を用いている。また、キャリアガスとして水素を用いている。III族元素の原料に、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルインジウム(TMI)、又はトリメチルアルミニウム(TMA)のいずれか又はそれらの組み合わせを用いている。V族元素の原料に、アルシン(AsH3)又はフォスフィン(PH3)のいずれか又はそれらの組み合わせを用いている。また、n型ドーパントとして、ジシラン(Si2H6)を用いている。p型ドーパントの原料として、ジメチル亜鉛(DMZn)を用いている。なお、p型ドーパントは、シクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)であってもよい。なお、当該実施形態に係る光送信モジュールの製造方法は、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子を、公知の方法により搭載することにより実現される。当該実施形態に係る光モジュールの製造方法は、当該実施形態に係る光送信モジュールを、公知の方法により搭載することにより実現される。当該実施形態に係る光伝送装置の製造方法は、当該実施形態に係る光モジュールを、公知の方法により搭載することにより実現される。
【0045】
なお、結晶成長法は、MOVPE法に限定されるものではない。分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、化学ビーム成長(CBE:Chemical Beam Epitaxy)法、有機金属分子線エピタキシー(MOMBE:Metal-organic Molecular Beam Epitaxy)法などを用いて同様の構造を作製できるのであれば、これら方法を適用しても、本発明の効果が得られるのはいうまでもない。また、III族、V族やドーパント他の原料についても、上記以外のものを用いてもよい。
【0046】
図6A乃至
図6Lは、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の製造方法の過程を示す図である。FeドープInP基板20上に、n型InP層21を形成する。n型InP層21の上表面に、所望の波長変化が実現されるよう、各チャンネルに1対の絶縁体マスク41(合計4対の絶縁体マスク41)を形成する(絶縁体マスク形成工程:
図6A)。1対の絶縁マスク41は、後の行程で積層する第1半導体層22が形成される領域を鋏んで配置される。第1半導体層22のMQW層22bの発光波長は、1対の絶縁体マスク41の間隔(開口部)及びマスク幅に依存する。よって、第1半導体光素子CH1から第4半導体光素子CH4へ、第1半導体層22の層厚が増大するように、各チャンネルの1対の絶縁体マスク41の間隔及びマスク幅が決定される。
【0047】
FeドープInP基板20上に、第1半導体層22を積層させる(SAG成長工程:
図6B)。なお、SAG成長工程において、第1半導体層22の上側に、保護層(InPキャップ層)が積層されるが、
図6Bに図示することは省略されている。絶縁体マスク形成工程により形成される各チャンネルの1対の絶縁体マスク41により、第1半導体光素子CH1から第4半導体光素子CH4へ、形成される第1半導体層22の層厚が増大している。すなわち、第1半導体光素子CH1の第1半導体層22の層厚が、第2半導体光素子CH2の第1半導体層22の層厚より薄くなるよう、第1半導体光素子CH1の第1半導体層22と、第2半導体光素子CH2の第1半導体層22とが、同時に積層される。なお、当該実施形態に係る第1半導体層積層工程は、絶縁体マスク形成工程とSAG成長工程とを含んでいる。なお、各チャンネルの第1半導体層22とともに、チャンネル間それぞれの領域には、ダミー半導体層42が同時に形成される。
【0048】
各チャンネルの1対の絶縁体マスク41と、チャンネル間それぞれの領域に形成されるダミー半導体層42を除去する(絶縁体マスク除去工程:
図6C)。また、第1半導体層22の上側に積層される保護層は、エッチング停止層積層工程が実施される前に、除去される。
【0049】
FeドープInP基板20上に、第1半導体層22を覆って、メサエッチング停止層23(エッチング停止層積層工程)と、第2半導体層24(回折格子層積層工程)と、を連続して積層する(
図6D)。メサエッチング停止層23及び第2半導体層24は、FeドープInP基板20上に、全面に亘って形成される。メサエッチング停止層23が積層され、第1メサ構造が形成される。各チャンネルの半導体光素子12のメサエッチング停止層23を、同一の多層成長条件で形成することができており、各チャンネルのメサエッチング停止層23の層厚は実質的に同一である。第1半導体光素子CH1乃至第4半導体光素子CH4それぞれの第2半導体層24が、共通する条件で同時に積層される。各チャンネルの半導体光素子12の第2半導体層24を同一の多層成長条件で形成することができ、各チャンネルの第2半導体層24の層厚は実質的に同一である。
【0050】
図6Eは、
図6Dに示すアレイ半導体光素子11のうち1つの半導体光素子12の構造を示している。
図6E(a)は、
図6Dと同様に、光軸方向に垂直な断面を示しており、
図6E(b)は、
図3Aと同様に、光軸方向を含む断面を示している。
図6Eに示す通り、第2半導体層24は、InPスペーサ層24aと、InGaAsP回折格子層24bと、InPキャップ層24cと、を含んでいる。
【0051】
全面に亘って形成されるInGaAsP回折格子層24bのうち、各チャンネルにおいてMQW層22bが光導波路となる領域の上方の領域に、回折格子パターンマスクである酸化膜マスク43を形成する(回折格子パターンマスク形成工程:
図6F)。酸化膜マスク43を積層し、さらに、干渉露光法や電子ビーム露光法などにより、積層される酸化膜マスク43が周期構造を有する回折格子パターンに形成される。
図6F(b)が示す通り、光軸方向に沿って、回折格子が形成される領域と形成されない領域とが周期的に繰り返しており、回折格子パターンとなっている。
【0052】
酸化膜マスク43をマスクとして、InPキャップ層24cをエッチングする(InPキャップ層エッチング工程:
図6G)。
図6Gに示す通り、エッチングがInGaAsP回折格子層24bの上表面で停止するよう、エッチングの条件を調整する。次に、酸化膜マスク43を除去する(酸化膜マスク除去工程:
図6H)。
【0053】
InPキャップ層24cをマスクとして、InGaAsP回折格子層24bをエッチングし、回折格子を形成する(回折格子形成工程:
図6I)。この際、InPスペーサ層24aがエッチング停止層として機能し、エッチングがInPスペーサ層24aの上表面で停止するよう、エッチングの条件を調整する。この工程において、第2メサ構造が形成される。
【0054】
FeドープInP基板20上に、全面に亘って、p型InPクラッド層25と、p
+型コンタクト層26と、を連続して積層する(上側クラッド層積層工程:
図6J)。かかる工程で結晶成長工程がすべて終了する。この際に、InGaAsP回折格子層24b(回折格子)の上部に配置されるInPキャップ層24cは、p型InPクラッド層25と一体化するので、InPキャップ層24cは図示されない。また、InPスペーサ層24aも同様に、p型InPクラッド層25と一体化するので図示されない。InGaAsP回折格子層24bの下側にはInPスペーサ層24aが形成されるが、かかる部分のInPスペーサ層24a及びInGaAsP回折格子層24bは、第2半導体層24として示される。
【0055】
p
+型コンタクト層26の上表面にマスクを形成し、かかるマスクを用いてエッチングを実施し、p
+型コンタクト層26及びp型InPクラッド層25のうちかかるマスクの両側にある領域を除去し、第3メサ構造(リッジ構造)を形成する(メサ形成工程:
図6K)。エッチングは、ウェットエッチングやドライエッチングなどより適切な方法が選択され、メサエッチング停止層23の上表面で停止するよう、エッチングの条件を調整する。なお、
図3Bに示す通り、InGaAsP回折格子層24bが形成される領域では、エッチングはInGaAsP回折格子層24bの上表面で停止する。InGaAsP回折格子層24bと同一層上であって形成されない領域では、エッチングはさらに進行し、メサエッチング停止層23の上表面で停止する。
【0056】
メサエッチング停止層23のうち第1メサ構造の外側となる領域を除去し、n型InP層21のうちn側電極32が形成される領域を露出される(メサエッチング停止層除去工程:
図6L)。さらに、チャンネル間を電気的に遮断するために、チャンネル間の領域に形成されるn型InP層22を除去し、さらに、FeドープInP基板20の内部に達するように、かかる領域にあるFeドープInP基板20の上部を除去する。FeドープInP基板20上に、全面に亘ってパッシベーション膜27を形成し、p側電極31との接触部分であるp
+型コンタクト層26の上表面と、露出されるn型InP層21の上表面のうちn側電極32との接触部分と、にあるパッシベーション膜27を除去し、p側電極31及びn側電極32を形成し、ウエハ工程が終了する。ウエハより劈開することにより、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11が作製される。
【0057】
こうして作製されるアレイ半導体光素子11は、隣り合うチャンネル間が電気的に絶縁されているので、差動駆動が可能である。アレイ半導体光素子11の素子性能を検出したところ、4チャンネル間の高温動作時の閾値電流やスロープ効率のばらつきは小さく、25Gbit/s駆動時の変調特性も良好であった。
【0058】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るアレイ半導体光素子11は、第1の実施形態と同様に、リッジ構造型の4チャンネル多波長レーザ素子アレイであるが、各半導体光素子12は、連続光(CW)を出力する半導体レーザ素子であり、具体的には、DFBレーザである。また、アレイ半導体光素子11には、複数の半導体光素子12それぞれが出力する連続光を、変調して出力する複数の電界吸収型(EA)変調器が、さらにモノリシックに集積されている。すなわち、各半導体光素子12は、EA変調器DFBレーザのレーザ部である。第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子11は、FeドープInP基板20を備え、n側電極32がp側電極31と半導体基板に対して同じ側に形成されているのに対して、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11は、n型InP基板50を備え、n側電極62が半導体基板に対してp側電極61とは反対側に形成されている。それに伴って、各半導体光素子12の半導体多層構造が、第1の実施形態と異なっているが、それ以外については、第1の実施形態と同じ構造をしている。
【0059】
図7は、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の構造を示す模式図である。半導体光素子12の半導体多層構造は、n型InP基板50上に、n型InP基板50上に、n型下側光ガイド層52aと、MQW層52bと、p型上側光ガイド層52cと、メサエッチング停止層53と、InPスペーサ層54aと、InGaAsP回折格子層54bと、p型InPクラッド層55と、p
+型コンタクト層56と、が積層方向に沿って順に積層されたものである。n型下側光ガイド層52a及びp型上側光ガイド層52cは、ともにInGaAsP半導体層である。MQW層52bは、InGaAsP井戸層とInGaAsP障壁層とが交互に積層される半導体層である。メサエッチング停止層53は、InGaAsP半導体層である。p
+型コンタクト層56は、InGaAs半導体層である。第1の実施形態と同様に、第1半導体層52は、n型下側光ガイド層52aと、MQW層52bと、p型上側光ガイド層52cと、を含み、第2半導体層54は、InPスペーサ層54aと、InGaAsP回折格子層54bと、InPキャップ層(図示せず)を含む。各半導体光素子12の一方側(
図7の左側)には、p型InPクラッド層55(及びp
+型コンタクト層56)の結晶成長工程において同時に積層される、バンク部59が配置される。尚、バンク部59の最上層にもp
+型コンタクト層56が形成されるが、後述するパッシベーション膜57の形成前に除去される。p側電極61との接触部分であるp
+型コンタクト層56の上表面を除いて、n型InP基板50上の全面に亘って、パッシベーション膜57が形成されている。p側電極61は、p
+型コンタクト層56の上表面に接するとともに、各半導体光素子12の一方側に延伸して、バンク部59の上面にパッド部が形成される。また、n側電極62は、n型InP基板50の裏面に形成される。
【0060】
当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の製造方法は、第1の実施形態に係るアレイ半導体光素子11の製造方法と、本発明に係る特徴となる工程は共通しているので、詳細については省略する。なお、半導体多層構造のうち、第3メサ構造(リッジ構造)をエッチングにより形成する際に、エッチングは、メサエッチング停止層53の上表面で停止するよう、エッチングの条件を調整する。また、半導体多層構造の第3メサ構造(リッジ構造)とバンク部59(p側電極61のパッド部)との間を、ポリイミドやBCB等で平坦化してもよい。
【0061】
当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の各チャンネルにおける接地電位(グランド)は、n型InP基板50(及びn側電極62)であり、全チャンネルで共通としている。こうして作製されるアレイ半導体光素子11は、CW光源として用いることができる。アレイ半導体光素子11の素子性能を検出したところ、4チャンネル間の高温動作時の閾値電流やスロープ効率のばらつきは小さく、チャンネル間で光出力のばらつきを低減することができている。なお、ここでは、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11は、n型InP基板50を備えているが、これに限定されることはなく、p型InP基板を備えていてもよい。
【0062】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係るアレイ半導体光素子11は、第1の実施形態と同様に、4チャンネル多波長レーザ素子アレイであるが、各半導体光素子12は、埋め込み構造型であり直接変調型の半導体レーザ素子であり、具体的には、DFBレーザである。埋め込み構造型としたことにより、当該実施形態に係る半導体光素子12の半導体多層構造が第1の実施形態と異なり、p側電極31の形状が同様に第1の実施形態と異なっているが、それ以外については、第1の実施形態と同じ構造をしている。
【0063】
図8は、当該実施形態に係るアレイ半導体光素子11の構造を示す模式図である。当該実施形態に係る半導体光素子12の半導体多層構造は、FeドープInP基板20上に、n型InP層21と、n型下側光ガイド層22aと、MQW層22bと、p型上側光ガイド層22cと、InPスペーサ層24aと、InGaAsP回折格子層24bと、p型InPクラッド層25と、p
+型コンタクト層26と、が積層方向に沿って順に積層されたものである。第1の実施形態では、第1半導体層22と第2半導体層24との間に配置されていたメサエッチング停止層23は、当該実施形態では配置されていない。
【0064】
また、第1の実施形態では、半導体多層構造は、多段構造となっていたが、当該実施形態では、p+型コンタクト層26からn型InP層21に至るまで、MQW22b層のうち光導波路が形成される領域の両側に位置する半導体多層が除去されて、メサストライプ構造を形成している。そして、メサストライプ構造の両側面が、埋め込み層28で埋め込まれている。ここで埋め込み層28は、鉄(Fe)がドープされる半絶縁性InP層であり、鉄の有機金属原料として、フェロセンが用いられる。また、埋め込み層28は、ルテニウム(Ru)がドープされる半絶縁性InP層であってもよい。
【0065】
こうして作製されるアレイ半導体光素子11は、隣り合うチャンネル間が電気的に絶縁されているので、差動駆動が可能である。アレイ半導体光素子11の素子性能を検出したところ、4チャンネル間の高温動作時の閾値電流やスロープ効率のばらつきは小さく、25Gbit/s駆動時の変調特性も良好であった。
【0066】
以上、本発明の実施形態に係る半導体光素子、アレイ半導体光素子、光送信モジュール、光モジュール、及び光伝送装置、並びに、それらの製造方法について説明した。上記実施形態では、半導体光素子は、直接変調型とCW型のDBRレーザを例に説明しているが、これに限定されることがないのは言うまでもなく、回折格子を第1半導体層の上方に備える半導体光素子に広く適用可能である。またメサエッチング停止層は必要に応じて設ければ良く、回折格子層をメサエッチング停止層として利用してメサ形成を行ってもよい。さらに、4チャンネルアレイに限定されず2個以上の半導体光素子12が集積されたアレイ素子であれば本発明は適用できる。また、上記実施形態に係るアレイ半導体光素子では、InP半導体基板を用いているが、これに限定されることはなく、他の半導体基板を用いていてもよい。上記実施形態に係る第1半導体層は、下側光ガイド層と、MQW層と、上側光ガイド層と、による3層構造としたが、これに限定されることはなく、必要に応じて、MQW層のみであってもよいし、当該3層に加えてさらに半導体層が積層されてもよい。
【0067】
半導体光素子の第1半導体層は選択成長(SAG法)により積層され、第2半導体層は、チャンネル間で共通の工程により積層されるとしているが、第1半導体層の結晶成長方法は、選択成長に限定されることはなく、第1半導体光素子の第1半導体層の層厚を、第2半導体光素子の第1半導体層の層厚より薄く、同時に積層することができるのであれば、他の結晶成長方法にも適用することができる。また、伝送されるビットレートが100Gbit/sのアレイ半導体光素子を例に説明したが、これに限定されることはなく、他のビットレート又はシンボルレートであっても適用可能であることは言うまでもない。広く本発明を適用することが出来る。
【符号の説明】
【0068】
10 外装ケース、11 アレイ半導体光素子、12 半導体光素子、14 光部品、15 光合波器、16 光ファイバコネクタ、20 FeドープInP基板、21 n型InP層、22 第1半導体層、22a n型下側光ガイド層、22b MQW層、22c p型上側光ガイド層、23 メサエッチング停止層、24 第2半導体層、24a InPスペーサ層、24b InGaAsP回折格子層、24c InPキャップ層、25 p型InPクラッド層、26 p+型コンタクト層、27 パッシベーション膜、28 埋め込み層、31 p側電極、32 n側電極、41 絶縁体マスク、42 ダミー半導体層、43 酸化膜マスク、50 n型InP基板、52 第1半導体層、52a n型下側光ガイド層、52b MQW層52、52c p型上側光ガイド層、53 メサエッチング停止層、54 第2半導体層、54a InPスペーサ層、54b InGaAsP回折格子層、55 p型InPクラッド層、56 p+型コンタクト層、57 パッシベーション膜、59 バンク部、61 p側電極、62 n側電極、101 光伝送装置、102 光モジュール、103,103A,103B 光ファイバ、111,121 プリント回路基板、112 IC、122A,122B フレキシブル基板、123A 光受信モジュール、123B 光送信モジュール。