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  • 特許-アルコキシフェノール類の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】アルコキシフェノール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/26 20060101AFI20220328BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20220328BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220328BHJP
【FI】
C07C41/26
C07C43/23 A
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017081209
(22)【出願日】2017-04-17
(65)【公開番号】P2018177715
(43)【公開日】2018-11-15
【審査請求日】2020-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】鍋田 貴司
(72)【発明者】
【氏名】福井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】岡部 仁
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-170684(JP,A)
【文献】特開平06-040977(JP,A)
【文献】特開2001-009291(JP,A)
【文献】特開平04-066546(JP,A)
【文献】特開2005-075772(JP,A)
【文献】米国特許第04396783(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/
C07C 43/
C07B 61/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタノシリケート、過酸化水素および水の存在下、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する工程において、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールであるアルコール類から選ばれる少なくとも1種を用い、アルコール類および水の総重量に対する水の重量濃度が10重量%以上98重量%以下であることを特徴とする、アルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項2】
3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールが、t-ブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-メチル-2-ブタノールおよび3-メチル-2-ブタノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項3】
アルコール類および水の総重量に対する水の重量濃度が10重量%以上96重量%以下である請求項1または2に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【請求項4】
アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する工程における反応温度が30℃以上150℃以下である請求項1~3のいずれか1項に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタノシリケート、過酸化水素および水の存在下、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシフェノール類は、様々な化学製品の中間体または原料となる重要な化合物であり、使用用途は、医薬、農薬、香料、重合禁止剤など多岐にわたる。例えば、アルコキシ基がメトキシ基の場合、p-メトキシフェノールは重合禁止剤として有用であり、o-メトキシフェノールは香料の原料として有用である。
【0003】
従来、アルコキシフェノール類を製造する方法として、フェノール類と低級脂肪族アルコールとを反応させる方法(例えば、特許文献1参照)、アルコキシベンゼン類と過酸化水素とを反応させる方法(例えば、特許文献2~4および非特許文献1参照)が知られている。アルコキシベンゼン類と過酸化水素とを反応させる方法の場合、生成されるアルコキシフェノール類は主にo-置換体およびp-置換体となる。工業的な観点から、生成物の選択性は高いことが好ましく、o-置換体およびp-置換体それぞれの生成割合を制御する技術が望まれている。また、逐次反応の抑制および省エネルギーの観点から、反応温度は低温であることが好ましい。
【0004】
例えば、特許文献4には、触媒として硫酸を用いて、メトキシベンゼンからメトキシフェノールを製造する方法が記載されている。この方法ではo-メトキシフェノールが優先されて生成するが、メトキシフェノールの生成比率はo-メトキシフェノール/p-メトキシフェノール=2.35~2.84であり、十分な形状選択性を有しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-103756号公報
【文献】米国特許第5786519号
【文献】特開2005-75772号公報
【文献】特開2007-15929号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ind. Eng. Chem. Res. 2007, 46, 8657-8664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したような背景の下、本発明が解決しようとする課題は、高い形状選択性を有し、またエネルギーコストに優れる、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造するに際し、チタノシリケートを触媒として用い、過酸化水素および水の存在下、アルコール類および環状エーテル類から選ばれる少なくとも1種を用いることにより、高い形状選択性および省エネルギーを実現可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、例えば以下の[1]~[5]に関する。
[1]チタノシリケート、過酸化水素および水の存在下、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する工程において、アルコール類および環状エーテル類から選ばれる少なくとも1種を用い、アルコール類、環状エーテル類および水の総重量に対する水の重量濃度が5重量%以上98重量%以下であることを特徴とする、アルコキシフェノール類の製造方法。
【0010】
[2]アルコール類が、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールである前記[1]に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【0011】
[3]3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールが、t-ブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-メチル-2-ブタノールおよび3-メチル-2-ブタノールから選ばれる少なくとも1種である前記[2]に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【0012】
[4]アルコール類、環状エーテル類および水の総重量に対する水の重量濃度が10重量%以上96重量%以下である前記[1]~[3]のいずれか1項に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【0013】
[5]アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する工程における反応温度が30℃以上150℃以下である前記[1]~[4]のいずれか1項に記載のアルコキシフェノール類の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チタノシリケートを触媒として用い、過酸化水素および水の存在下、アルコール類および環状エーテル類から選ばれる少なくとも1種を用いることにより、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する方法において高い形状選択性および省エネルギーを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、SUS製反応管を用いた実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、チタノシリケート、過酸化水素および水の存在下、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する方法に関し、前記製造する工程において、アルコール類および環状エーテル類から選ばれる少なくとも1種を用い、アルコール類、環状エーテル類および水の総重量に対する水の重量濃度が特定範囲にあることを特徴とする。
【0017】
本発明により、アルコキシベンゼン類を酸化してアルコキシフェノール類を製造するに際し、従来の方法と比較して高効率でアルコキシフェノール類を製造することが可能となる。
【0018】
<アルコキシベンゼン類>
本発明において、アルコキシベンゼン類は、アルコキシフェノール類を製造するための出発物質である。アルコキシベンゼン類とは、アルコキシ基を有するベンゼンを意味する。ベンゼン上のアルコキシ基数は、通常は1~3、好ましくは1~2であり、特に好ましくは1である。
【0019】
アルコキシ基は、アルキル基が酸素原子に結合した構造である。アルキル基は非常に広範囲にわたり、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(非環状アルキル基)であっても、環状のアルキル基(シクロアルキル基)であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、t-ブチル基等の非環状アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、非環状の場合は好ましくは1~4、より好ましくは1~3であり、環状の場合は好ましくは3~6、より好ましくは6である。
【0020】
アルコキシベンゼン類として具体的には、メトキシベンゼン、エトキシベンゼン、i-プロポキシベンゼン、シクロヘキシルオキシベンゼン等が挙げられ、特に限定されないが、メトキシベンゼンが好ましい。
【0021】
<チタノシリケート>
本発明において、チタノシリケートは、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造するための触媒として用いられる。チタノシリケートとは、通常は結晶性チタノシリケートを意味し、例えば(SiO2x・(TiO2(1-x) の組成で示される構造を有する。x/(1-x)の値の範囲は、通常は5~1000、好ましくは10~500である。
【0022】
結晶性チタノシリケートは、公知の方法により製造することができる。例えば、US4,410,501号公報、Catalysis Today 147 (2009) 186-195に記載されているように、ケイ素のアルコキシドとチタンのアルコキシドとを4級アンモニウム塩などの存在下、水熱合成する方法が一般的である。4級アンモニウム塩がテトラプロピルアンモニウム塩の場合、得られる結晶性チタノシリケートがMFI構造となり、好適に使用される。またMFI型チタノシリケートは、(SiO2x・(TiO2(1-x) が所定の範囲のものであれば、市販されているものを用いても差し支えない。
【0023】
本発明において、反応活性が低下した触媒は、必要に応じて再生処理を施すことが可能である。再生処理は、乾燥、焼成、洗浄等が好適に利用できる。乾燥する場合のガス雰囲気はN2等の不活性ガスでもよいし、酸素を含むガス(例えば空気)でもよい。乾燥時の温度は特に限定されないが、50℃以上200℃未満が好ましく、80℃以上150℃以下がより好ましい。乾燥時の圧力は特に限定されない。焼成する場合のガス雰囲気はN2等の不活性ガスでもよいし、酸素を含むガス(例えば空気)でもよいが、酸素を含むガスが好ましい。例えば空気雰囲気下で焼成する場合、焼成する温度は特に限定されないが、200℃以上800℃以下が好ましく、250℃以上700℃以下がより好ましく、300℃以上600℃以下が最も好ましい。焼成時の圧力は特に限定されない。再生処理は、複数の処理を組み合わせて実施することも可能である。再生処理により、触媒は繰り返し利用可能となる。
【0024】
<過酸化水素>
過酸化水素とは、化学式H22で表される化合物であり、通常は水溶液で使用される。水溶液中の過酸化水素の濃度は特に限定されないが必要に応じて濃縮または希釈して使用することが可能である。希釈する場合の溶媒としては、出発物質であるアルコキシベンゼン類、水、アルコール類、環状エーテル類の他、目的生成物であるアルコキシフェノール類、反応副生物、本反応に不活性な溶媒等が挙げられる。
【0025】
本発明の製造方法において、過酸化水素の使用量は、アルコキシベンゼン類1モルに対して、0.01~1モルが好ましく、より好ましくは0.02~0.5モルである。前記使用量が0.01モル以上であるとアルコキシフェノール類の生産性が高くなり好ましく、1モル以下であると過酸化水素の効率が向上するため好ましい。
【0026】
<アルコール類および環状エーテル類>
本発明では、チタノシリケート、過酸化水素および水の存在下、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する工程において、アルコール類および環状エーテル類から選ばれる少なくとも1種を用いる。ここで「用いる」とは、例えば、反応系内にアルコール類及び/又は環状エーテル類を存在させればよく、例えば後述する反応液にアルコール類及び/又は環状エーテル類を含有させればよい。
【0027】
アルコール類とは、炭化水素の少なくとも1つの水素原子、好ましくは1つの水素原子をOH基に置き換えた化合物を示す。アルコール類は、特に限定されないが、R-OHで表される化合物が挙げられ、ここでRは、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(非環状アルキル基)であっても、環状のアルキル基(シクロアルキル基)であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基等の非環状アルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、非環状の場合は好ましくは1~6、より好ましくは2~5であり、環状の場合は好ましくは3~8、より好ましくは3~6である。
【0028】
アルコール類としては、生成物の選択性の観点から、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールが好ましい。3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールとしては、t-ブチルアルコール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、2-メチル-2-ブタノールおよび3-メチル-2-ブタノールが好ましく、t-ブチルアルコールおよび2,2-ジメチル-1-プロパノールがより好ましく、t-ブチルアルコールが最も好ましい。
【0029】
アルコール類としては、3級または4級炭素を有する炭素数4~5のアルコールの他、例えば、エタノール、シクロヘキサノールが挙げられる。
環状エーテル類とは、環状の炭化水素の少なくとも1つの環状炭素、好ましくは1つまたは2つの環状炭素が酸素で置換された構造を持つ化合物を示す。2つ以上の環状炭素が酸素で置換された構造の場合、-O-O-ではないことが好ましい。環状エーテル類の炭素数は、好ましくは2~6、より好ましくは3~4である。環状エーテル類は、特に限定されないが、ジオキサン、テトラヒドロフラン等が好ましい。
【0030】
本発明では、アルコール類を1種用いても2種以上用いてもよく、環状エーテル類を1種用いても2種以上用いてもよく、1種または2種以上のアルコール類と1種または2種以上の環状エーテル類とを用いてもよい。
【0031】
<アルコール類、環状エーテル類および水の使用量>
本発明において、反応系内に存在する、アルコール類、環状エーテル類および水の総重量に対する水の重量濃度は、5重量%以上98重量%以下であり、10重量%以上96重量%以下であることが好ましい。水の前記重量濃度が5重量%未満であると、反応速度(例えば過酸化水素転化率)が低下することとなり好ましくない。一方、98重量%より大きいと、生成物の形状選択性が充分に発現されず好ましくない。なお、連続流通式の場合の水の前記重量濃度は、アルコール類、環状エーテル類および水の単位時間当たりの総流通量における水の重量濃度を意味する。
アルコール類、環状エーテル類および水は、溶媒に包含される。
【0032】
本発明では、反応開始時において、反応系内に存在する、アルコキシベンゼン類、アルコール類、環状エーテル類および水の総重量に対する、アルコキシベンゼン類の重量濃度は、20重量%以上90重量%以下であることが好ましく、30重量%以上80重量%以下であることがより好ましい。アルコキシベンゼン類の前記重量濃度が20重量%以上であると、アルコキシフェノール類の生産性が高くなり好ましい。一方、90重量%以下であると、反応速度が高くなり好ましい。なお、連続流通式の場合のアルコキシベンゼン類の前記重量濃度は、アルコキシベンゼン類、アルコール類、環状エーテル類および水の単位時間当たりの総流通量におけるアルコキシベンゼン類の重量濃度を意味する。
【0033】
<反応条件>
本発明を実施するに際して、その方法はバッチ式、セミバッチ式または連続流通式のいずれの方法においても実施することが可能である。触媒であるチタノシリケートの充填方式としては、固定床、流動床、懸濁床、棚段固定床等の種々の方式を採用可能であり、いずれの方式で実施しても差し支えない。また、反応器は1つでもよいし、複数の反応器を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
チタノシリケートの使用量は、バッチ式あるいはセミバッチ式の場合、反応液の総重量に対して、外率で好ましくは0.1~30重量%、より好ましくは0.4~20重量%の範囲である。0.1重量%以上であると反応時間が短時間となり好ましく、30重量%以下であると反応液の攪拌や触媒の分離が容易となり好ましい。連続流通式の場合、チタノシリケート1g当りの反応液の総流通量が1g/時間~400g/時間であることが好ましく、2g/時間~200g/時間であることがより好ましい。1g/時間以上であると目的物の生産性が向上するため好ましく、400g/時間以下であると原料が充分に反応するため好ましい。
【0035】
本発明において、反応液の総重量および総流通量とは反応系内の液状成分の総重量および総流通量である。即ちチタノシリケート等の触媒の重量を含まない。反応系内の液状成分としては、アルコキシベンゼン類、過酸化水素、アルコール類、環状エーテル、水、目的生成物であるアルコキシフェノール類、反応副生物などが挙げられる。反応液は、必要に応じて他の溶媒を本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。反応の進行に伴い、反応生成物であるアルコキシフェノール類の重量が増えるが、反応中の反応液の総重量および総流通量は実質的に一定である。
【0036】
本発明において、アルコキシベンゼン類からアルコキシフェノール類を製造する工程における反応温度は、30℃以上150℃以下が好ましく、35℃以上120℃以下がより好ましく、40℃以上100℃以下が最も好ましい。反応温度が30℃以上であると、反応速度が高くなり好ましい。一方、150℃以下であると、逐次反応による反応阻害物質の生成や過酸化水素の熱分解が顕著とならず好ましい。
【0037】
本発明において、バッチ式の反応形式の場合、反応時間は、10分以上600分以下が好ましく、20分以上480分以下がより好ましく、30分以上300分以下が最も好ましい。反応時間が前記範囲にあると、充分に過酸化水素が反応し、かつ逐次反応を抑制する点で好ましい。
本発明において、反応圧力は特に限定されない。高温での反応では、使用するアルコール類および環状エーテル類の蒸発を防止するため、加圧下で反応を行ってもよい。
【0038】
<アルコキシフェノール類>
本発明の製造方法で得られるアルコキシフェノール類とは、アルコキシ基を有するフェノール類を意味する。アルコキシ基の意味、基数および具体例は、<アルコキシベンゼン類>の欄に記載した。フェノール類には、フェノール性水酸基を1つ持つフェノールに加えて、ハイドロキノンやカテコールのようにフェノール性水酸基を2つ持つ2価フェノール類も含まれる。
【0039】
アルコキシフェノール類として具体的には、メトキシフェノール、エトキシフェノール、i-プロポキシフェノール、シクロヘキシルオキシフェノール等が挙げられ、特に限定されないが、メトキシフェノールが好ましい。
【0040】
本発明において、アルコキシフェノールを製造する場合、アルコキシフェノールの生成比率において、p-アルコキシフェノール/o-アルコキシフェノール(モル比)が、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上である。本発明ではこのように、アルコキシフェノール類のo-置換体およびp-置換体それぞれの生成割合を制御することができ、すなわち形状選択性が高い。前記比率を高くするには、例えば、水以外の溶媒と水との組成比を変更することが挙げられる。
【0041】
本発明により得られたアルコキシフェノール類に対しては、必要に応じて、濾過、蒸留、抽出、晶析等の処理を行い、触媒、未反応のアルコキシベンゼン類、アルコール類および/または環状エーテル類、過酸化水素、水、副生物との分離精製処理を行うことが出来る。また、触媒、未反応のアルコキシベンゼン類、アルコール類および/または環状エーテル類、水等は、回収して、再度反応に用いてもよい。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
過酸化水素転化率(%)=
(消費された過酸化水素のモル数)÷(加えた過酸化水素のモル数)×100
アルコキシフェノール類の収率(%)=(生成したアルコキシフェノール類のモル数)÷(加えた過酸化水素のモル数)×100
比:p-アルコキシフェノール/o-アルコキシフェノール=(生成したp-アルコキシフェノールのモル数)÷(生成したo-アルコキシフェノールのモル数)
【0043】
[実施例1]
冷却器、温度計、フィードポンプおよびマグネチックスターラーチップを備えた内容積100mlのフラスコに、Catalysis Today 147 (2009) 186-195 に記載の方法で調製したチタノシリケート(TS-1)触媒:1.3g、メトキシベンゼン:13.0g、t-ブチルアルコール:6.2g、および水:12gを仕込み、スターラーで攪拌しながら油浴中で50℃に加熱した。ここに、35%過酸化水素水:0.83gをフィードポンプから10分間かけて滴下し、そのまま180分間保持した(保持時間)。反応液を冷却後、触媒を濾別し、反応液の一部を取り、残存過酸化水素をヨードメトリーで、生成物をガスクロマトグラフィーで定量した。
その結果、過酸化水素転化率=97.9%、メトキシフェノール類の収率=84.4%、比:p-メトキシフェノール/o-メトキシフェノール=8.84であった。
【0044】
[ガスクロマトフラフィーの分析条件]
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
カラム:DB-5(Agilent J&W)、内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm
カラム温度:80℃ 昇温速度7℃/分 130℃まで昇温 10分保持、昇温速度10℃/分、300℃まで昇温 15.86分保持
注入口温度:280℃
検出器温度:300℃
キャリアーガス:N2
流速:32.4ml/min
【0045】
[実施例・参考例2~12および比較例5~8]
アルコール類および環状エーテル類の種類および量、水の使用量、反応温度、ならびに35%過酸化水素水をフィードポンプから滴下した後の保持時間の少なくとも1つの条件を表1に記載したとおりに変更した以外は実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0046】
[実施例13]
実施例1に記載の方法で調製したチタノシリケート(TS-1)触媒を内径6mmのSUS製反応管に図1のように4.1g充填した。メトキシベンゼン:0.487g/分、t-ブチルアルコール:0.223g/分、および水:0.448g/分を流通させながら、ヒーターの温度が80℃になるまで昇温した。ヒーターの温度が80℃となった後、35%過酸化水素水:0.032g/分を追加供給し、メトキシベンゼンの酸化反応を開始した。反応開始後5時間経過した時点では、過酸化水素転化率=99.2%、メトキシフェノール類の収率=80.0%、比:p-メトキシフェノール/o-メトキシフェノール=10.2であり、さらに反応を継続し反応開始後200時間経過した時点では、過酸化水素転化率=96.5%、メトキシフェノール類の収率=75.9%、比:p-メトキシフェノール/o-メトキシフェノール=13.0であった。
【0047】
[比較例1]
冷却器、温度計、フィードポンプおよびマグネチックスターラーチップを備えた内容積100mlのフラスコに、47%硫酸:0.033g、85%リン酸:0.018g、メトキシベンゼン:20.0gを仕込み、スターラーで攪拌しながら油浴中で90℃に加熱した。ここに、35%過酸化水素水:0.90gをフィードポンプから10分間かけて滴下し、そのまま180分間保持した。以降は実施例1と同様に行った。
【0048】
[比較例2]
反応温度を90℃から50℃とする以外は比較例1と同様の方法で反応を実施した。
【0049】
[比較例3]
冷却器、温度計、フィードポンプおよびマグネチックスターラーチップを備えた内容積100mlのフラスコに、47%硫酸:0.022g、85%リン酸:0.012g、メトキシベンゼン:13.0g、t-ブチルアルコール:15.6gを仕込み、スターラーで攪拌しながら油浴中で90℃に加熱した。ここに、35%過酸化水素水:0.84gをフィードポンプから10分間かけて滴下し、そのまま180分間保持した。以降は実施例1と同様に行った。
【0050】
[比較例4]
冷却器、温度計、フィードポンプおよびマグネチックスターラーチップを備えた内容積100mlのフラスコに、60%過塩素酸:0.025g、85%リン酸:0.018g、メトキシベンゼン:20.0gを仕込み、スターラーで攪拌しながら油浴中で90℃に加熱した。ここに、35%過酸化水素水:0.90gをフィードポンプから10分間かけて滴下し、そのまま180分間保持した。以降は実施例1と同様に行った。
表1中に記号の意味は以下のとおりである。
TBA:t-ブチルアルコール
EtOH:エタノール
CHA :シクロヘキサノール
THF :テトラヒドロフラン
Diox:ジオキサン
i-C5OH:2,2-ジメチル-1-プロパノール
GL:o-メトキシフェノール
MQ:p-メトキシフェノール
【0051】
【表1】
【符号の説明】
【0052】
1 原料液
2 生成液
3 SUS製反応管
4 触媒層
5 フィルター
6 ヒーター
図1