IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-インプラントにおける漏出の検出 図1
  • 特許-インプラントにおける漏出の検出 図2
  • 特許-インプラントにおける漏出の検出 図3
  • 特許-インプラントにおける漏出の検出 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】インプラントにおける漏出の検出
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/12 20060101AFI20220328BHJP
【FI】
A61F2/12
【請求項の数】 27
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017182100
(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公開番号】P2018047243
(43)【公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】15/274,107
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517156539
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel) Ltd.
【住所又は居所原語表記】4 Hatnufa Street, P.O. BOX 275, Yokneam, ISRAEL 2066717
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】イェフダ・アルガウィ
(72)【発明者】
【氏名】ヤロン・エフラス
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・トーマス・ビークラー
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0114729(US,A1)
【文献】特表平11-509457(JP,A)
【文献】米国特許第06679832(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントであって、
患者の器官内に埋め込まれるように構成されている中空の生体適合性シェルと、
前記シェルの内側に配置された第一の電極と、
前記シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している第二の電極と、
カーボンナノチューブ(CNT)を含み、かつ、前記シェルを満たしており、前記シェル内で破裂部が発生するのに応じて、前記CNTの空間的配向を変化させることにより、前記第一の電極と前記破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせるように構成されている充填材料と、
前記第一及び第二の電極に電気的に接続されており、前記充填材料の導電率の変化を感知することによって前記破裂部を検出し、前記検出した破裂部を示す出力を生成するように構成されている回路とを含む、インプラント。
【請求項2】
前記充填材料は、前記CNTがドーピングされたシリコーンゲルを含む、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記第二の電極は、前記充填材料から電気的に絶縁されており、前記シェルの周囲の前記器官の組織に電気的に接続されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項4】
前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスに、前記破裂部を示す警告を発するように構成されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項5】
前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスから、電力をワイヤレスで受信するように構成されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
前記第一及び第二の電極にそれぞれ電気的に接続された第一及び第二の端子を有し、前記破裂部に応じて、前記第一及び第二の電極と前記シェルの周囲の前記器官の組織とを介して、電流を駆動させるように構成されている電源を含む、請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
前記電源は、前記シェルの内側に配置されている、請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスから、前記電源をワイヤレスで充電するように構成されている、請求項6に記載のインプラント。
【請求項9】
前記電源は、前記回路に電力を供給するように構成されている、請求項6に記載のインプラント。
【請求項10】
前記シェルは、前記充填材料を前記器官から電気的に絶縁するように構成されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項11】
前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている、請求項1に記載のインプラント。
【請求項12】
インプラントを製造するための方法であって、
患者の器官内に埋め込まれる中空の生体適合性シェルを提供することと、
第一の電極を前記シェルの内側に配置することと、
少なくとも1つの表面が前記シェルの外側に配置されている第二の電極を、前記シェルに連結することと、
前記シェルの内側に回路を配置し、前記回路を前記第一及び第二の電極に電気的に接続させることと、
前記シェルを、カーボンナノチューブ(CNT)を含んでいる充填材料で満たし、前記シェルを密封することとを含む、方法。
【請求項13】
前記第二の電極を連結することは、前記第二の電極を前記充填材料から電気的に絶縁することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第一及び第二の電極にそれぞれ電気的に接続された第一及び第二の端子を有する電源を配置することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記電源を配置することは、前記電源を前記シェルの内側に配置することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記シェルを密封することは、前記充填材料を前記器官から物理的及び電気的に絶縁することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記回路を配置することは、前記回路を前記充填材料から電気的に絶縁することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記充填材料は、前記CNTがドーピングされたシリコーンゲルを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記回路を配置することは、前記患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている回路を配置することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
インプラント内の回路の作動方法であって、
前記インプラントは、患者の器官内に埋め込まれ、中空の生体適合性シェルと、前記シェルを満たすカーボンナノチューブ(CNT)を含み、かつ、前記シェル内で破裂部が発生するのに応じて、前記CNTの空間的配向を変化させることにより、前記シェルの内側に配置された第一の電極と前記破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせる充填材料とを含み、前記回路は、前記第一の電極と、前記シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している第二の電極とに電気的に接続される、ことと、
前記回路、前記充填材料の導電率の変化を感知することによって、前記シェルにおいて発生した破裂部を検出することと、
前記回路が、前記検出した破裂部を示す出力を生成することとを含む、方法。
【請求項21】
前記出力を生成することは、前記患者の体の外部にあるデバイスに、前記破裂部を示す警告を発することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記回路、電力をワイヤレスで受信するコイルを有し、前記患者の体の外部にあるデバイスは、電力をワイヤレスで発信する、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記破裂部を検出することは、前記破裂部に応じて、電源から、前記第一及び第二の電極と前記シェルの周囲の前記器官の組織とを介して電流を駆動させることを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記回路が、前記電源をワイヤレスで充電するように構成されており、前記患者の体の外部にあるデバイスは、電力をワイヤレスで発信する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
システムであって、
インプラントであって、
患者の器官内に埋め込まれるように構成されている中空の生体適合性シェルと、
前記シェルの内側に配置された第一の電極と、
前記シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している第二の電極と、
カーボンナノチューブ(CNT)を含み、かつ、前記シェルを満たしており、前記シェル内で破裂部が発生するのに応じて、前記CNTの空間的配向を変化させることにより、前記第一の電極と前記破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせるように構成されている充填材料と、
前記第一及び第二の電極に電気的に接続されており、前記充填材料の導電率の変化を感知することによって前記破裂部を検出し、前記検出した破裂部を示す出力を生成するように構成されている回路とを含むインプラントと、
前記インプラントからの前記出力を受信し、前記検出した破裂部を示す警告を発するように構成されている外部デバイスとを含む、システム。
【請求項26】
前記外部デバイスは、前記回路に電力をワイヤレスで誘導するように構成されている、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている、請求項26に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して美容用インプラントに関し、詳細には医療用インプラントにおける漏出を検出するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
乳房インプラントなどの様々な種類のインプラントが広範な治療及び美容用途で使用されている。
【0003】
例えば、参照によってその開示内容が本明細書に援用される米国特許出願公開第2009/0012372号には、体の組織又は患者の器官内に埋め込まれたインプラント(例えば、乳房インプラント)の破裂を感知するための方法が記載されている。一実施形態では、あるシステムが、インプラントの外側表面に連結され、かつ、そのインプラントの外側表面の特性(例えば、インプラントの破裂部が発生したか否かを示す、電気伝導、化学成分、又は光学特性)を測定するように構成されているセンサーを含んでいる。このセンサーはまた、体の外部にあるデバイスに無線信号を送信するようにも構成されており、それによって、患者又はヘルスケア提供者に、測定した特性が、インプラントの破裂部の発生の可能性を示しているか否かを警告する。
【0004】
参照によってその開示内容が本明細書に援用される米国特許出願公開第2006/0111632号には、膨張可能なプロテーゼにおける壁部の破損を、体液又は膨張媒体の侵入による信号伝送回路への電気的な変化によって検出するための方法及びシステムが記載されている。一実施形態では、回路の断線部分を閉じて、送信信号をイネーブルにする、又は変化させる。別の実施形態では、電流を発生させて、電気伝達を行わせる。
【0005】
参照によってその開示内容が本明細書に援用されるPCT特許出願WO 2006/135857には、患者及び/又はヘルスケア従事者に、インプラント内の障壁の故障、破裂、又は破損を知らせるデバイス及び方法が記載されている。このデバイスは、埋め込み式のセンサー及び警告メカニズムから成る。このデバイスは、内部電源を含んでいる場合があり、また、デバイスの外部からのプログラミング及び/又は問い合わせを可能とするソフトウェアを用いている場合がある。このデバイスはまた、外部ソースを介して再充電及び/又は電力供給を受ける場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で述べられる本発明のある実施形態により、中空の生体適合性シェルと、第一及び第二の電極と、充填材料と、回路とを含むインプラントが提供される。中空の生体適合性シェルは、患者の器官内に埋め込まれるように構成されている。第一の電極は、シェルの内側に配置されている。第二の電極は、シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している。カーボンナノチューブ(CNT)を含んでいる充填材料は、シェルを満たしており、シェル内で破裂部が発生するのに応じて、CNTの空間的配向を変化させることにより、第一の電極と破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせるように構成されている。回路は、第一及び第二の電極に電気的に接続されており、CNTの導電率の変化を感知することによって破裂部を検出し、検出した破裂部を示す出力を生成するように構成されている。
【0007】
いくつかの実施形態では、充填材料は、CNTがドーピングされたシリコーンゲルを含んでいる。他の実施形態では、第二の電極は、充填材料から電気的に絶縁されており、シェルの周囲の器官の組織に電気的に接続されている。更に他の実施形態では、回路は、患者の体の外部にあるデバイスに、破裂部を示す警告を発するように構成されている。
【0008】
ある実施形態では、回路は、患者の体の外部にあるデバイスから、電力をワイヤレスで受信するように構成されている。別の実施形態では、インプラントは、更に、第一及び第二の電極にそれぞれ電気的に接続された第一及び第二の端子を有する電源を含んでいる。破裂部に応じて、電源は、第一及び第二の電極とシェルの周囲の器官の組織とを介して、電流を駆動させるように構成されている。更に他の実施形態では、電源は、シェルの内側に配置されている。
【0009】
いくつかの実施形態では、回路は、患者の体の外部にあるデバイスから、電源をワイヤレスで充電するように構成されている。他の実施形態では、電源は、回路に電力を供給するように構成されている。更に他の実施形態では、シェルは、充填材料を器官から電気的に絶縁するように構成されている。ある実施形態では、回路は、患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている。
【0010】
更に、本発明のある実施形態により、インプラントを製造するための方法であって、患者の器官内に埋め込まれる中空の生体適合性シェルを提供することを含む方法が提供される。第一の電極がシェルの内側に配置されている。第二の電極がシェルに連結されており、第二の電極の少なくとも1つの表面が、シェルの外側に配置されている。回路が、シェルの内側に配置されており、回路と第一及び第二の電極とは電気的に接続されている。シェルは、カーボンナノチューブ(CNT)を含む充填材料で満たされ、密封されている。
【0011】
更に、本発明のある実施形態により、患者の器官内に埋め込まれたインプラント内の回路を動作させることを含む方法が提供される。インプラントは、中空の生体適合性シェルと、カーボンナノチューブ(CNT)を含む充填材料とを含んでいる。充填材料は、シェルを満たしており、シェル内で破裂部が発生するのに応じて、CNTの空間的配向を変化させることにより、シェルの内側に配置された第一の電極と破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせる。回路は、第一の電極と、シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有する第二の電極とに、電気的に接続されている。シェルにおいて発生した破裂部の検出は、回路を用いて、CNTの導電率の変化を感知することにより行われ、検出した破裂部を示す出力が生成される。
【0012】
更に、本発明のある実施形態により、インプラントと外部デバイスとを備えたシステムが提供される。インプラントは、中空の生体適合性シェルと、第一及び第二の電極と、充填材料と、回路とを含んでいる。中空の生体適合性シェルは、患者の器官内に埋め込まれるように構成されている。第一の電極は、シェルの内側に配置されている。少なくとも1つの表面を有する第二の電極は、シェルの外側に配置されている。カーボンナノチューブ(CNT)を含んでいる充填材料は、シェルを満たしており、シェル内で破裂部が発生するのに応じて、CNTの空間的配向を変化させることにより、第一の電極と破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせるように構成されている。回路は、第一及び第二の電極に電気的に接続されており、CNTの導電率の変化を感知することによって破裂部を検出し、検出した破裂部を示す出力を生成するように構成されている。外部デバイスは、インプラントからの出力を受信し、検出した破裂部を示す警告を発するように構成されている。
【0013】
本発明は、図面と総合すれば、以下の発明を実施するための形態からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に基づく、乳房インプラントにおける漏出を検出するためのシステムの概略的描写図である。
図2】本発明の実施形態に基づく、乳房インプラントの概略的描写図である。
図3】本発明のある実施形態に基づく、漏出検出回路を概略的に示すブロック図である。
図4】本発明の代替的な実施形態に基づく、乳房インプラントの概略的描写図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
概要
乳房インプラントは、ヒト乳房の切除後の再建、又は美容用途における乳房のサイズ及び輪郭の成形の目的で一般的に使用されている。乳房インプラントは、一般的に、乳房の天然組織の感触と同じである、シリコーンゲルなどの充填材料(埋め込み可能な材料としても知られる)を含んでいる。インプラントは、更に、埋め込み可能な材料を封入して、ヒト乳房内に埋め込まれて乳房組織と似た感触となるように適合された生体適合性シェルを含んでいる。シェルは、通常、周囲の組織と物理的にも化学的にも相互作用しない柔軟な可撓性の材料を含む。乳房インプラントは、長年持続するように設計されているが、それでもやはり、物理的なダメージには弱く、穴(puncture)に対する耐久性には限界がある。
【0016】
外側シェルにおけるある種の穴(puncture)又は破損によるシリコーンゲルの漏出は、通常目に見えず、そのインプラントを有する患者には感じられない。このような漏出は、特にそのゲルが乳房組織に長期間接触した場合、深刻な医学的な問題を引き起こす場合がある。このような問題を回避するために、乳房インプラントを有する患者は、通常、ゲルの漏出を見つけるための定期的な健康診断を受ける必要がある。例えば、米国食品医薬品局(FDA)は、起こり得る破裂部を検出するために、インプラント処置から3年後に磁気共鳴像(MRI)スキャンを実施し、その後は一年おきにスキャンを繰り返し実施することを推奨している。
【0017】
本明細書に記載の本発明の実施形態により、インプラントからの漏出を検出するための技術が提供される。本開示の実施形態では、インプラントは、充填材料(典型的には、シリコーンゲル)で満たされた中空のシェルを含んでいる。いくつかの実施形態では、ゲルは、その導電率に影響を与えるカーボンナノチューブ(CNT)を含んでいる。インプラントが機能的である場合は、CNTはランダムに配向しており、導電率は特定のベースライン値を有している。インプラントが破裂して充填材料が漏出すると、CNTは、その長手方向軸が漏出方向と平行になるように整列する。その結果、破裂部の近傍にある充填材料の導電率が、ベースライン値と比べて著しく向上(増加)する。
【0018】
いくつかの実施形態では、漏出は、CNTの再配向によって起こった充填材料の導電率の変化を感知することによって検出される。ある実施形態では、インプラントは、シェルの内側に配置された第一の電極と、シェルの外側に少なくとも1つの表面を有する第二の電極とを含んでいる。第一の電極は、充填材料に電気的に接触している。第二の電極は、充填材料から電気的に絶縁されており、インプラントの周囲の組織に電気的に接触している。インプラントは、更に、これら2つの電極間の導電率の変化を感知することによって破裂部を検出する回路を含んでいる。
【0019】
破裂部が発生した場合、ゲルの一部が破裂部を通って漏出し、乳房組織に物理的に接触する。カーボンナノチューブは破裂部に向かって整列し、その結果、第一の電極と破裂部との間のゲルの導電率が増加する。つまり、導電性パスが、第一の電極から、充填材料、破裂部、及び周囲の組織を介して、第二の電極まで形成される。そのため、回路は、これら2つの電極間の導電率の増加を感知することによって、破裂部を検出することができる。破裂部を検出すると、回路は、警告又はその他の指示を外部デバイスに発して、患者に警告することができる。
【0020】
本開示の技術は、破裂部及び漏出の早期検出を提供することにより、患者の安全を改善する。更に、これらの技術により、定期的なMRIチェックの必要性が低減され、それによって、コスト及び放射線被曝が低減される。
【0021】
システムの説明
図1は、本発明のある実施形態に基づく、女性の乳房22内に埋め込まれた乳房インプラント20の概略的描図である。典型的には、インプラント20は、乳房22のサイズ及び輪郭を成形するために用いられるプロテーゼである。
【0022】
乳房22は、インプラント20の周囲に天然組織28を含んでいる。インプラント20は、組織28の感触に似せた軟質充填材料であるゲル26を封入したシェル24を含んでいる。いくつかの実施形態では、シェル24によって、ゲル24と組織28との間に、物理的かつ電気的な絶縁が形成されている。ゲルは乳房22のサイズ及び輪郭を成形するように構成されている。ゲル26は、電気絶縁性のシリコーンゲル又はその他の任意の好適な充填材料を含み得る。いくつかの実施形態では、ゲル26は、図2にて詳細が説明されるように、その濃度及び空間的配向に応じてゲルの導電率を増加させるカーボンナノチューブ(CNT)でドーピングされている。
【0023】
図1の例では、インプラント20は、右下の区域で破裂している。シェル24における破裂部30により、ある量のゲル26Aが、インプラント20から組織28へと漏出している。ゲル26Aの組成はゲル26と実質的に同じものであり、インプラントから組織28内に漏れ出したゲル26の部分を示すために26Aとして示されている。漏出したゲル26Aは、組織28に直接接触している。
【0024】
いくつかの実施形態では、インプラント20は、シェル24の内側に配置された内部電極34を含んでいる。生体適合性電気絶縁体(例えば、シリコーン、ガラス、セラミック、又は液晶ポリマー(LCP))でできた層38が、ゲル26と第二の電極36との間に配置されており、それによって、ゲル26と電極36との間における物理的接触を阻止している。電極36の表面36Aが、組織28に物理的に接触しており、その結果、電極36は、組織28に電気的に接続されているが、ゲル26からは電気的に絶縁されている。
【0025】
インプラント20は、更に、2つの端子を有するバッテリー32などの電源を含んでいる。ワイヤー42により、バッテリー32の一方の端子(例えば、正)が電極34に接続され、他方(例えば、負)の端子が電極36に接続されている。ワイヤー42は、バッテリーと電極との間で電流を電気的に伝導するように構成されているが、ゲル26からは電気的に絶縁されている。
【0026】
電気回路40が、バッテリー32と電極36との間に配置され、ワイヤー42を介してバッテリー32と電極36とに接続されており、バッテリーを介して電極34と電極36との間を流れる電流のレベルを感知するように構成されている。いくつかの実施形態では、回路40は、感知した電流レベルを示す無線周波数(RF)信号50を、外部ユニット44にワイヤレスで送信するように構成されている。
【0027】
いくつかの実施形態では、外部ユニット44は、インプラント20が埋め込まれた患者又は医師(図示せず)によって使用される、RF信号の受信及び復号が可能な携帯用デバイス(例えば、専用デバイス又は好適なアプリケーションを有する携帯電話)であり得る。いくつかの実施形態では、ユニット44は、RF信号50の受信に加え、RF信号48の送信を、例えば、回路40にワイヤレスで電力を供給するために行う。更に、ユニット44は、破裂部が検出されたときに患者に警告を提供するように構成されている。破裂部検出メカニズムの詳細は、以下の図2に描かれており、説明されている。
【0028】
代替的な実施形態では、回路40は、バッテリー32がワイヤー42を介して回路40に電力を供給できるように、ユニット44からワイヤレスで受信したRF信号48を使用してバッテリーを充電するように構成されている。
【0029】
図1に示されたインプラント20の構成は、単に概念的理解を容易にするために示された例示的構成である。代替的な実施形態では、他の任意の好適な構成を用いることができる。例えば、他の任意の好適な電源、例えば、交流(AC)電圧源を、上記の図1中のバッテリー32の代わりに使用することができる。
【0030】
図2は、本発明のある実施形態に基づく、穴の開いた乳房インプラント20の概略的描写図である。破裂部30により、ゲル26Aが、インプラント20から組織28へと漏出している。区域26Bにおいて示すように、カーボンナノチューブが、破裂部において長手方向に整列している。これによって、電極34と破裂部30との間のゲル26の導電率が増加する。電流がバッテリー32の正端子から電極34へ流れて、破裂部30を通ってインプラント20から出る。電流は、矢印44によって示すように、更に外側を流れて、ゲル26A及び組織28を介してインプラント20へと向かい、電極36に入る。電流は、ワイヤー42及び回路40を介してインプラント20内に入り、バッテリー32の負端子へ向かう電気回路を閉じる。回路40は、電極36とバッテリー32との間の電流のレベルを測定し、導電率に顕著な変化を検出すると、警告を発する。
【0031】
いくつかの実施形態では、図1に示すように、回路40は、導電率の変化指示を、RF信号50を使用して、外部ユニット44にワイヤレスで送信する。
【0032】
他の実施形態では、回路40は、電流レベルを外部ユニット44に定期的に報告する。外部ユニットは、電流レベルに顕著な変化が発生すると、破裂部を示すことを決定する。
【0033】
図3は、本発明のある実施形態に基づく、漏出検出回路70を概略的に示すブロック図である。回路70は、例えば、上記の図1のバッテリー32及び回路40と交換可能である。この実施形態では、インプラント20内にバッテリーが存在しない。代わりに、回路70は、外部ユニット44からRF信号48を受信し、信号48から内部動作電力を発生させるように構成されている。動作電力は、回路70によって、インプラント20内の電流レベルを感知するために、また、感知した電流レベルを示すRF信号50を外部ユニット44にワイヤレスで送信するために使用される。
【0034】
いくつかの実施形態では、回路70は、ユニット44から送信される信号48を受信するように構成されたRF電力コイル60を含んでいる。回路70は、更に、信号48によってコイル60を介して誘導される電圧を整流するように構成された整流器62を含んでいる。本例の整流器62は、ダイオードD1及びコンデンサーC3を含んでいる。本例では、C3の容量は4.7ナノファラッド(nF)であるが、他の任意の好適な容量を用いることができる。整流された電流は、コンデンサーC3を、回路70を動作させるために使用されるVCC電圧(例えば、3V~5V)の電圧レベルまで充電するために使用される。
【0035】
回路70は、プログラマブル発振器64を含んでいる。この発振器は、発振器に提供された入力制御電圧に応じて決定される周波数を有する信号を生成するように構成されている。図3の回路においては、この入力制御電圧は、R2として示されている抵抗器66の定抵抗(例えば、100kΩ)と、感知した電流レベルを示す電極34と電極36との間の可変抵抗との間の比率によって決まる。このように、発振器64は、電極34と電極36との間の電流レベルを示す周波数を有する出力信号を生成する。
【0036】
回路70は、更に、感知した電流レベルを示すRF信号50をユニット44に送信するように構成されたトランスミッター電力コイル68を含んでいる。代替的な実施形態では、信号50の周波数は、可聴周波数領域などのRF領域より低い周波数領域に属している場合がある。
【0037】
いくつかの実施形態では、信号48の受信及び信号50の送信は、別々のコイル60及び68をそれぞれ使用して行われ得る。代替的な実施形態では、信号48及び50は、負荷変調などの技術を使用して、1つのコイルを介して受信及び送信され得る。
【0038】
図4は、本発明の代替的な実施形態に基づく、乳房インプラント80の概略的描写図である。インプラント80は、例えば、上記の図2のインプラント20と交換可能である。この実施形態では、インプラント80は、(上記の図2に示す)ゲル26を封入するように構成されたシェル82を含んでいる。
【0039】
インプラント80は、更に、例えば、上記の図2の電極36と交換可能な電極84を含んでいる。いくつかの実施形態では、電極84は、シェル82の大部分を覆うようにシェル82の外周面上に延在し得る。ある実施形態では、電極84は、シェルを包む複数のストライプを含んでいる。シェル82が破裂した場合、典型的には、カーボンナノチューブが、破裂位置に最も近い電極84の延在部(例えば、ストライプのうちの1つ)に向かってゲルの導電率を増加させる。このように、図4の電極構成によって、シェル82における破裂部の検出における高い感度がもたらされる。
【0040】
本明細に記載される実施形態は、主として乳房インプラントに関するが、本明細に記載される方法及びシステムは、ヒトの体内の他の任意の軟質組織内へのインプラントなど他の用途にも用いることができる。
【0041】
上に述べた実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し、説明したものに限定されない点は理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、従来技術において開示されていない変形及び修正を含むものである。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、これらの援用文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0042】
〔実施の態様〕
(1) インプラントであって、
患者の器官内に埋め込まれるように構成されている中空の生体適合性シェルと、
前記シェルの内側に配置された第一の電極と、
前記シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している第二の電極と、
カーボンナノチューブ(CNT)を含み、かつ、前記シェルを満たしており、前記シェル内で破裂部が発生するのに応じて、前記CNTの空間的配向を変化させることにより、前記第一の電極と前記破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせるように構成されている充填材料と、
前記第一及び第二の電極に電気的に接続されており、前記CNTの導電率の変化を感知することによって前記破裂部を検出し、前記検出した破裂部を示す出力を生成するように構成されている回路とを含む、インプラント。
(2) 前記充填材料は、前記CNTがドーピングされたシリコーンゲルを含む、実施態様1に記載のインプラント。
(3) 前記第二の電極は、前記充填材料から電気的に絶縁されており、前記シェルの周囲の前記器官の組織に電気的に接続されている、実施態様1に記載のインプラント。
(4) 前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスに、前記破裂部を示す警告を発するように構成されている、実施態様1に記載のインプラント。
(5) 前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスから、電力をワイヤレスで受信するように構成されている、実施態様1に記載のインプラント。
【0043】
(6) 前記第一及び第二の電極にそれぞれ電気的に接続された第一及び第二の端子を有し、前記破裂部に応じて、前記第一及び第二の電極と前記シェルの周囲の前記器官の組織とを介して、電流を駆動させるように構成されている電源を含む、実施態様1に記載のインプラント。
(7) 前記電源は、前記シェルの内側に配置されている、実施態様6に記載のインプラント。
(8) 前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスから、前記電源をワイヤレスで充電するように構成されている、実施態様6に記載のインプラント。
(9) 前記電源は、前記回路に電力を供給するように構成されている、実施態様6に記載のインプラント。
(10) 前記シェルは、前記充填材料を前記器官から電気的に絶縁するように構成されている、実施態様1に記載のインプラント。
【0044】
(11) 前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている、実施態様1に記載のインプラント。
(12) インプラントを製造するための方法であって、
患者の器官内に埋め込まれる中空の生体適合性シェルを提供することと、
第一の電極を前記シェルの内側に配置することと、
少なくとも1つの表面が前記シェルの外側に配置されている第二の電極を、前記シェルに連結することと、
前記シェルの内側に回路を配置し、前記回路を前記第一及び第二の電極に電気的に接続させることと、
前記シェルを、カーボンナノチューブ(CNT)を含んでいる充填材料で満たし、前記シェルを密封することとを含む、方法。
(13) 前記第二の電極を連結することは、前記第二の電極を前記充填材料から電気的に絶縁することを含む、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記第一及び第二の電極にそれぞれ電気的に接続された第一及び第二の端子を有する電源を配置することを含む、実施態様12に記載の方法。
(15) 前記電源を配置することは、前記電源を前記シェルの内側に配置することを含む、実施態様14に記載の方法。
【0045】
(16) 前記シェルを密封することは、前記充填材料を前記器官から物理的及び電気的に絶縁することを含む、実施態様12に記載の方法。
(17) 前記回路を配置することは、前記回路を前記充填材料から電気的に絶縁することを含む、実施態様12に記載の方法。
(18) 前記充填材料は、前記CNTがドーピングされたシリコーンゲルを含む、実施態様12に記載の方法。
(19) 前記回路を配置することは、前記患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている回路を配置することを含む、実施態様12に記載の方法。
(20) 方法であって、
インプラント内の回路を動作させることであって、前記インプラントは、患者の器官内に埋め込まれ、中空の生体適合性シェルと、前記シェルを満たすカーボンナノチューブ(CNT)を含み、かつ、前記シェル内で破裂部が発生するのに応じて、前記CNTの空間的配向を変化させることにより、前記シェルの内側に配置された第一の電極と前記破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせる充填材料とを含み、前記回路は、前記第一の電極と、前記シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している第二の電極とに電気的に接続される、ことと、
前記回路を用いて、前記CNTの導電率の変化を感知することによって、前記シェルにおいて発生した破裂部を検出することと、
前記検出した破裂部を示す出力を生成することとを含む、方法。
【0046】
(21) 前記出力を生成することは、前記患者の体の外部にあるデバイスに、前記破裂部を示す警告を発することを含む、実施態様20に記載の方法。
(22) 前記回路を動作させることは、前記患者の体の外部にあるデバイスから、電力をワイヤレスで受信することを含む、実施態様20に記載の方法。
(23) 前記破裂部を検出することは、前記破裂部に応じて、電源から、前記第一及び第二の電極と前記シェルの周囲の前記器官の組織とを介して電流を駆動させることを含む、実施態様20に記載の方法。
(24) 前記患者の体の外部にあるデバイスから、前記電源をワイヤレスで充電することを含む、実施態様23に記載の方法。
(25) システムであって、
インプラントであって、
患者の器官内に埋め込まれるように構成されている中空の生体適合性シェルと、
前記シェルの内側に配置された第一の電極と、
前記シェルの外側に配置された少なくとも1つの表面を有している第二の電極と、
カーボンナノチューブ(CNT)を含み、かつ、前記シェルを満たしており、前記シェル内で破裂部が発生するのに応じて、前記CNTの空間的配向を変化させることにより、前記第一の電極と前記破裂部との間における充填材料の導電率に変化を生じさせるように構成されている充填材料と、
前記第一及び第二の電極に電気的に接続されており、前記CNTの導電率の変化を感知することによって前記破裂部を検出し、前記検出した破裂部を示す出力を生成するように構成されている回路とを含むインプラントと、
前記インプラントからの前記出力を受信し、前記検出した破裂部を示す警告を発するように構成されている外部デバイスとを含む、システム。
【0047】
(26) 前記外部デバイスは、前記回路に電力をワイヤレスで誘導するように構成されている、実施態様25に記載のシステム。
(27) 前記回路は、前記患者の体の外部にあるデバイスによって誘導された場から、内部動作電力をワイヤレスで発生させるように構成されている、実施態様26に記載のシステム。
図1
図2
図3
図4