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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂成形品及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/04 20060101AFI20220328BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20220328BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20220328BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C08L33/04
C08L53/02
C08L51/04
C08F279/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017201399
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019073645
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏紀
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-298836(JP,A)
【文献】特開2007-039670(JP,A)
【文献】特開平06-080855(JP,A)
【文献】特開2010-209218(JP,A)
【文献】特開2017-109312(JP,A)
【文献】特開2007-056172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/04
C08L 53/02
C08F 279/02
C08L 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム部分(a1)と樹脂部分(a2)と含んでなるゴム強化ビニル系樹脂(A)、及び、熱可塑性エラストマー(B)を含む熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、
前記樹脂部分(a2)は、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含み、さらに、前記樹脂部分(a2)は、前記ゴム部分(a1)にグラフト重合していない、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体(A´)を含有し、
前記樹脂部分(a2)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合が、前記樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上であり、
前記成分(B)は、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックとをそれぞれ1つ以上含むブロック共重合体の水素添加物からなるエラストマーであり、
前記ゴム強化ビニル系樹脂(A)のゴム部分(a1)の含有割合が、ゴム強化ビニル系樹脂(A)及び熱可塑性エラストマー(B)の合計100質量%に対して3~9質量%であり、
前記成分(B)を、前記成分(A)及び(B)の合計100質量%に対して20~95質量%含有する成形品。
【請求項2】
前記成分(B)を、前記成分(A)及び(B)の合計100質量%に対して25~80質量%含有する、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
人体接触用の部品である、請求項1又は2に記載の成形品。
【請求項4】
ゴム部分(a1)と樹脂部分(a2)と含んでなるゴム強化ビニル系樹脂(A)、及び、熱可塑性エラストマー(B)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記樹脂部分(a2)は、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含み、さらに、前記樹脂部分(a2)は、前記ゴム部分(a1)にグラフト重合していない、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体(A´)を含有し、
前記樹脂部分(a2)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合が、前記樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上であり、
前記成分(B)は、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックとをそれぞれ1つ以上含むブロック共重合体の水素添加物からなるエラストマーであり、
前記ゴム強化ビニル系樹脂(A)のゴム部分(a1)の含有割合が、ゴム強化ビニル系樹脂(A)及び熱可塑性エラストマー(B)の合計100質量%に対して3~9質量%であり、
前記成分(B)を、前記成分(A)及び(B)の合計100質量%に対して20~95質量%含有する、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記成分(A)5~80質量%及び上記成分(B)20~95質量%を含む(但し、成分(A)及び(B)の合計量を100質量%とする)、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度及び表面光沢等の成形品外観に優れ、かつ、滑り難く、グリップ感に優れた触感を備えた熱可塑性樹脂成形品及びその成形材料として有用な熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂に代表されるゴム強化芳香族ビニル系樹脂は、耐衝撃性と成形加工性との物性バランスや、成形品外観に優れることから、OA機器、家電製品、雑貨、建材等に幅広く利用されている。
【0003】
これらのうち、手に持って使用又は操作することの多いOA機器、家電製品等や、乗車する者の体が触れる機会の多いドアトリムやグローブボックス等の自動車内装部品は、部品の剛性を維持しつつ、クッション性や手触り感等の触感が良いことが要求されている。
【0004】
上記一部製品は、剛性を有する芯材に、柔軟性を有する表皮材を接合して、スラッシュ成形等により製造されている(特許文献1)。しかしながら、このスラッシュ成形は工程数が多く、且つ、原材料が高価であるため、限られた製品の製造に用いられるに過ぎなかった。
【0005】
一方、熱可塑性エラストマーは、優れた柔軟性を持つ成形品を与える成形材料として、建材、雑貨、機械部品等の用途で幅広く使用されており、具体例としては、塩化ビニル系、オレフィン系、ウレタン系、スチレン系、ポリエステル系およびそれらのアロイ等の各種エラストマーが挙げられる(特許文献2)。しかしながら、これらから得られた成形品は、クッション性及びソフトタッチ感が高いものの、機械的強度及び成形品外観に優れたものは得られていなかった。
【0006】
また、ゴム部分がジエン系ゴムとシリコーンゴム又はエチレン・α-オレフィン系ゴムとからなるゴム強化芳香族ビニル系樹脂に熱可塑性エラストマーを配合することにより、機械的強度及び成形品外観に優れるだけでなく、クッション性及びソフトタッチ感が高く、かつ、ベタツキ感が少ないため、表面の触感に優れた成形品が得られることは知られているが(特許文献3~5参照)、表面光沢が優れ、かつ、滑り難く、グリップ感に優れた触感を備えた成形品は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-159122号公報
【文献】特開2004-238551号公報
【文献】特開2016-199729号公報
【文献】特開2017-8227号公報
【文献】特開2017-109312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械的強度及び表面光沢等の成形品外観に優れ、かつ、滑り難く、グリップ感に優れた触感を備えた熱可塑性樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を所定量含有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)に熱可塑性エラストマー(B)を配合した熱可塑性樹脂組成物から得られた成形品が、高い表面光沢を維持しながら、成形品表面の滑り難さの指標であるMIU値を0.4以上に維持するため、表面が滑り難く且つグリップ感に優れた触感が要求される成形品として好適であり、したがって上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明の一局面によれば、ゴム部分(a1)と樹脂部分(a2)と含んでなるゴム強化ビニル系樹脂(A)、及び、熱可塑性エラストマー(B)を含む熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であって、
前記樹脂部分(a2)は、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含み、
前記樹脂部分(a2)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合が、前記樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上であり、
成形品のMIU値が0.4以上である成形品が提供される。
【0011】
また、本発明の成形品は下記熱可塑性樹脂組成物を成形材料として用いて成形することにより製造できる。
すなわち、本発明の他の局面によれば、ゴム部分(a1)と樹脂部分(a2)と含んでなるゴム強化ビニル系樹脂(A)、及び、熱可塑性エラストマー(B)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記樹脂部分(a2)は、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含み、
前記樹脂部分(a2)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合が、前記樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上であり、
該熱可塑性樹脂組成物を成形した場合の成形品のMIU値が0.4以上である、熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の熱可塑性樹脂組成物、上記成分(A)及び上記成分(B)を、成形品のMIU値を0.4以上とするに十分な比率で含有していればよいが、通常、上記成分(A)5~80質量%及び上記成分(B)20~95質量%、好ましくは、上記成分(A)20~75質量%及び上記成分(B)25~80質量%、より好ましくは、上記成分(A)30~70質量%及び上記成分(B)30~70質量%を含む(但し、成分(A)及び(B)の合計量を100質量%とする)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合が、樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上であるゴム強化芳香族ビニル系樹脂に熱可塑性エラストマーを配合することとしため、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂又は熱可塑性エラストマーのそれぞれから得られた成形品よりも、表面光沢等の外観に優れ、かつ、滑り難く、グリップ感に優れた触感を備えた成形品、具体的には、成形品の表面の滑り難さの指標であるMIU値が0.4以上の成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0014】
本発明の成形品は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)、及び、熱可塑性エラストマー(B)を含む熱可塑性樹脂組成物を成形材料として用いて成形することにより得られる。
1.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(成分(A))
本発明で使用するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、ゴム部分(a1)と芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含有する樹脂部分(a2)と含む。ゴム部分(a1)は、本発明の目的を達成できるものであれば特に限定されず、ジエン系ゴム及び非ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも一種に由来するものであればよい。
【0015】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)において、ゴム部分(a1)と樹脂部分(a2)とは、互いに結合していても結合していなくてもよいが、相溶性の点から、ゴム部分(a1)は樹脂部分(a2)と結合して複合体を形成していること、特に、グラフト重合してグラフト重合体を形成していることが好ましい。したがって、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、上記グラフト共重合体と、ゴム部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)とから少なくとも構成されることが好ましく、さらに、樹脂部分(a2)がグラフトしていないゴム部分(a1)、又は、添加剤等のその他の成分を含んでもよい。なお、上記ゴム部分(a1)は、25℃でゴム質であるもの即ちゴム弾性を有するものであればよく、同温度でこのような性質を示さない樹脂部分(a2)と区別される。
【0016】
上記ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体ゴム;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体ゴム;天然ゴム等が挙げられる。これらの共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。また、これらの共重合体は水素添加(但し、水素添加率は95%未満。)されたものであってもよい。上記ジエン系ゴムは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
上記非ジエン系ゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ブテン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・1-オクテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン・α-オレフィン系共重合体ゴム;アクリル系ゴム;シリコーン系ゴム;シリコーン・アクリル系複合(IPN)ゴム、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、上記水素添加してなる(共)重合体の水素添加率は95%以上である。
【0018】
本発明において、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)中のゴム部分(a1)の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)全体100質量%に対して、好ましくは3~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらにより好ましくは7~30質量%である。ゴム部分(a1)の含有量が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性、グリップ感等の触感、表面光沢等の成形品外観等がさらに優れて好ましい。
【0019】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のゴム部分(a1)の含有量は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)及び熱可塑性エラストマー(B)の合計100質量%に対して、好ましくは3~35質量%であり、より好ましくは3.5~30質量%、更により好ましくは4~25質量%である。ゴム部分(a1)の含有量が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂成形品の耐衝撃性、グリップ感等の触感、表面光沢等の成形品外観等がさらに優れて好ましい。
【0020】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)の樹脂部分(a2)は、ビニル系単量体の一種である芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を必須成分として備え、所望により、上記2つのビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体に由来する構造単位を備えてよい。
【0021】
上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリル酸メチル又はメタクリル酸メチルが好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0023】
上記樹脂部分(a2)において、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は好ましくは2~50質量%、より好ましくは5~45質量%、更により好ましくは15~35質量%であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合は、好ましくは50~98質量%、より好ましくは55~95質量%、更により好ましくは65~85質量%である(なお、上記の2種類の構造単位の含有割合の合計を100質量%とする)。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ゴム強化ビニル系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)との相溶性を高め、機械的強度及び表面光沢等の成形品外観を良好に維持するために、樹脂部分(a2)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合は、前記樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上とすることが必要であり、55質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましく、65~85質量%とすることが更により好ましい。
【0024】
上記2つのビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体としては、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0026】
上記マレイミド系化合物の具体例としては、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2、6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2、6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。尚、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)に、マレイミド系化合物に由来する構造単位を導入する方法として、上記マレイミド系化合物を原料として重合を行う方法の他に、例えば、無水マレイン酸の不飽和ジカルボン酸無水物を原料として重合を行った後、イミド化する方法を使用することもできる。
【0027】
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルにε-カプロラクトンを付加して得られた化合物等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、m-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、p-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、2-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、3-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、4-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、4-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、7-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、8-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、4-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、7-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、8-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、p-ビニルベンジルアルコール、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記エポキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記オキサゾリン基含有不飽和化合物の具体例としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。
【0031】
本発明においては、機械的強度(靱性)及び耐薬品性を向上させるために、上記他のビニル系単量体として、シアン化ビニル化合物を用いることが好ましい。上記樹脂部分(a2)において、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は、上記樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して、好ましくは0~36質量%、より好ましくは1~25質量%、更により好ましくは2~20質量%、特に好ましくは3~15質量%である。
【0032】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)の製造方法としては、例えば、ジエン系ゴム及び非ジエン系ゴムからなる群より選ばれたゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物から少なくとも構成されるビニル系単量体を重合(特に、グラフト重合)して製造する方法が挙げられる。この製造方法における重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法が挙げられる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。これらの重合方法を用いたグラフト重合において、原料であるゴム質重合体及びビニル系単量体は、全量一括して反応系に添加して重合しても、分割して又は連続的に反応系に添加しながら重合を行ってもよい。
【0033】
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)を乳化重合により製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
【0034】
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシラウレイト、tert-ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体全量に対し、通常、0.1~1.5質量%である。上記重合開始剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0035】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、tert-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類、α-メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体全量に対し、通常、0.05~2.0質量%である。上記連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0036】
乳化剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;高級脂肪族カルボン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル型化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体全量に対し、通常、0.3~5.0質量%である。
【0037】
乳化重合は、ビニル系単量体、重合開始剤等の種類に応じ、公知の条件で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、樹脂成分、即ち、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この際に用いる凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が挙げられる。
【0038】
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)の製造方法によれは、通常、ビニル系単量体同士の(共)重合体がゴム質重合体の粒子にグラフト重合したグラフト共重合体と、ゴム質重合体にグラフト重合していないビニル系単量体同士の(共)重合体との混合生成物が得られる。場合により、上記混合生成物は、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体の粒子を含むこともある。本発明のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、上記ゴム質重合体の粒子に由来するゴム部分(a1)と上記ビニル系単量体に由来する構造単位を有する樹脂部分(a2)とからなり、ゴム部分(a1)は樹脂部分(a2)がグラフト重合したグラフト共重合体を形成していることが好ましいので、上記のようにして製造されたグラフト共重合体と(共)重合体との混合生成物を、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)としてそのまま使用することができる。
【0039】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系化合物に由来する構造単位とからなる(共)重合体(A´)が添加されたものであってもよい。この(共)重合体(A´)は、ゴム質重合体(a)の不存在下に、芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系化合物からなるビニル系単量体を重合することにより製造できる。この(共)重合体(A´)は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)に添加されると、ゴム部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)を構成することになる。芳香族ビニル化合物、及び、該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系化合物としては、樹脂部分(a2)に関して上記したものを使用することができる。
【0040】
本発明における好ましい(共)重合体(A´)としては、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位、及び、所望によりシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む共重合体が挙げられる。これらの(共)重合体(A´)において、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は、好ましくは2~50質量%、より好ましくは5~45質量%、更により好ましくは15~35質量%であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合は、好ましくは50~98質量%、より好ましくは55~95質量%、更により好ましくは65~85質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は、好ましくは0~36質量%、より好ましくは1~25質量%、更により好ましくは2~20質量%、特に好ましくは3~15質量%である(なお、上記の3種類の構造単位の含有量の合計を100質量%とする)。
【0041】
本発明において、(共)重合体(A´)をゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)に配合する場合、(共)重合体(A´)の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合は、上記グラフト共重合体を製造する際に生成した樹脂部分(a2)の同含有割合と同じでも異なってもよく、樹脂部分(a2)全体の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位の含有割合が、当該樹脂部分(a2)を構成する構造単位の全量に対して50質量%以上であれば、前者の含有割合が50質量%以下で、後者の含有割合が50質量%以上、または、その逆であってもよいが、上記両方の含有割合が何れも50質量%以上であることが好ましい。前者の含有割合と後者の含有割合とが異なる場合、両者の差は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0042】
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のグラフト率は、通常10~200%、好ましくは10~150%、より好ましくは15~120%、さらにより好ましくは20~100%、である。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のグラフト率が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械的強度、成形性、成形品外観がさらに良好となる。
【0043】
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S-T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sはゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、アセトン不溶分とアセトン可溶分とを分離して得られるアセトン不溶分の質量(g)であり、Tはゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)1グラムに含まれるゴム部分(a1)の質量(g)である。このゴム部分(a1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトルにより求める方法等により求めることができる。なお、上記アセトン不溶分は、本発明の成分(A)においてゴム部分(a1)と樹脂部分(a2)とがグラフト重合により結合しているグラフト重合体及び樹脂部分(a2)に結合していない遊離のゴム部分(a1)の混合物に相当し、上記アセトン可溶分は、本発明の成分(A)においてゴム部分(a1)に結合していない遊離の樹脂部分(a2)に相当する。
【0044】
かかる視点から、(A)成分は、ゴム部分に樹脂部分(a2)が結合したグラフト重合体5~50質量%、及び、ゴム部分(a1)に結合していない樹脂部分(a2)50~95質量%を含むことが好ましく、上記グラフト重合体8~40質量%、及び、ゴム部分(a1)に結合していない樹脂部分(a2)60~92質量%を含むことがより好ましく、上記グラフト重合体10~35質量%、及び、ゴム部分(a1)に結合していない樹脂部分(a2)65~90質量%を含むことが特に好ましい(但し、これら2者の合計は100質量%とする)。ここで、上記グラフト重合体は上記アセトン不溶分に相当し、ゴム部分(a1)に結合していない樹脂部分(a2)は上記アセトン可溶分に相当する。
【0045】
グラフト率は、例えばゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)を製造する際のグラフト重合で用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のアセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.05~0.9dl/g、好ましくは0.07~0.8dl/g、より好ましくは0.1~0.7dl/gである。極限粘度が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより良好となる。
【0047】
極限粘度[η]の測定は下記方法で行うことができる。まず、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0048】
極限粘度[η]は、例えば、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)をグラフト重合する際に用いる連鎖移動剤、重合開始剤、乳化剤、溶剤等の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)に、このアセトン可溶分の極限粘度[η]と異なる極限粘度[η]を備える(共)重合体(A´)を混合して調整することができる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中、成分(A)の含有量は、成分(A)及び(B)の合計量を100質量%とした場合、5~80質量%であることが好ましく、20~75質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることが更により好ましい。成分(A)の含有量が上記範囲内にあると、成形品のMIU値が0.4以上となり、グリップ感等の触感が良好に改善される。
【0050】
2.熱可塑性エラストマー
本発明で使用する熱可塑性エラストマー(B)は、加熱溶融して成形することにより、ゴム弾性を有する成形品を与えることができる重合体であれば特に限定されない。この熱可塑性エラストマー(B)は、加熱溶融して成形できるが、上記成分(A)で用いるジエン系ゴム及び非ジエン系ゴムは、加熱溶融して成形できない点で、両者は異なる。熱可塑性エラストマー(B)のムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)は30~75が好ましい。また、熱可塑性エラストマー(B)のMFR(200℃、49.0N)は1~30g/10minであることが好ましく、2~20g/10minがより好ましい。
【0051】
熱可塑性エラストマー(B)の具体例としては、スチレン系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー等のジエン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素樹脂系エラストマー、イオン架橋エラストマー(アイオノマー)などが挙げられる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
スチレン系エラストマーの具体例としては、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックAと共役ジエン化合物の重合体ブロックBとをそれぞれ1つ以上含有するブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。重合体ブロックAと重合体ブロックBは、直鎖型に結合していても、ラジアル型に結合していてもよい。また、重合体ブロックBは、少量の芳香族ビニル化合物を構成単位として含有するランダム共重合体であってもよいし、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量が漸増する、いわゆるテーパー型ブロックであってもよい。
【0053】
ブロック共重合体の構造については特に制限はなく、(A-B)n 型、(A-B)n -A型、または(A-B)n -C型のいずれでも使用できる。式中、Aは芳香族ビニル化合物の重合体ブロック、Bは共役ジエン化合物の重合体ブロック、Cはカップリング剤残基、nは1以上の整数を示す。
【0054】
スチレン系エラストマーの重合体ブロックAの構成単位となる芳香族ビニル化合物としては、上記成分(A)のビニル系単量体として挙げた芳香族ビニル化合物を全て使用することができるが、好ましくはスチレンが使用される。これらの芳香族ビニル化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。また、スチレン系エラストマーの重合体ブロックBの構成単位となる共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、直鎖および側鎖共役ヘキサジエンなどが挙げられるが、そのうち、1,3-ブタジエン、イソプレン及び2-メチル-1,3-ブタジエンが好ましい。
【0055】
スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、好ましくは10,000~800,000、さらに好ましくは20,000~500,000である。また、重合体ブロックA中の芳香族ビニル化合物の含有量は、5~60重量%が好ましく、15~50重量%がさらに好ましい。上記ブロック共重合体は、1種単独で、又は、異なる構造や、芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量が異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0056】
スチレン系エラストマーの上記水素添加物は、上記で得たスチレン系エラストマーの共役ジエン化合物の重合体ブロックBを公知の方法で水素添加反応することにより得ることができる。具体的な方法としては、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公昭63-5401号公報、特願昭63-285774号、特願昭63-127400号に示されている方法がある。
【0057】
上記重合体ブロックBが1,3-ブタジエンの重合体ブロックである共役ジエン系重合体の場合、非選択的に水素添加すると、1,4-ビニル結合で重合した部分からはエチレンが、1,2-ビニル結合で重合した部分からはブチレンが生成し、スチレン―エチレン―ブチレン―スチレン共重合体(SEBS)などが水素添加物として生成し、1,2-ビニル結合を選択的に水素添加すると、スチレン―ブタジエン―ブチレン―スチレン共重合体(SBBS)などが水素添加物として生成する。SEBSは市販品を用いてもよく、その具体例としては、ダイナロン シリーズ(商品名、JSR社製)、ラバロン シリーズ(商品名、三菱化学社製)、タフテック シリーズ(商品名、旭化成社製)、TPE-SB シリーズ(商品名、住友化学工業社製)等を挙げることができる。
【0058】
本発明で使用されるポリブタジエン系エラストマーは、1,2-ビニル結合量が70%以上、好ましくは80%以上、結晶化度が5~50%、好ましくは10~35%、および極限粘度〔η〕(30℃、トルエン中で測定)が0.5dl/g以上、好ましくは0.6dl/g以上ものである。また、異なる1,2-ビニル結合量、結晶化度、極限粘度〔η〕を有する1,2-ポリブタジエンを組み合わせて用いたものでもよい。
【0059】
その他のエラストマーとしては、例えば高シスおよび低シスブタジエンゴム(BR)、高シスイソプレンゴム(IR)、乳化重合および溶液重合スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴム(NR)などが挙げられる。
【0060】
上記スチレン系エラストマーの好ましい具体例としては、スチレン―ブタジエン―スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン―エチレン―ブチレン―スチレン共重合体(SEBS)、スチレン―ブタジエン―ブチレン―スチレン共重合体(SBBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)などが挙げられる。
【0061】
上記ウレタン系エラストマーとしては、
一般に、ジイソシアネートと鎖延長剤から成るハードセグメントブロックとポリオールとジイソシアネートから成るソフトセグメントブロックを繰り返し単位とするブロック共重合体が挙げられる。
【0062】
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0063】
上記のポリエステルポリオールとしては、ジカルボン酸またはそのエステル化合物もしくは酸無水物とジオールとの縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。そして、上記のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環族ジカルボン酸が使用され、上記のジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等が使用される。
【0064】
また、ポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上とジエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。また、ポリカプロラクトンポリオールとポリヘキサメチレンカーボネートとの共重合体であってもよい。
【0065】
更に、ポリエステルエーテルポリオールとしては、前記の脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、または、そのエステル若しくは酸無水物と、ジエチレングリコール、プロピレンオキサイド付加物などのグリコールとの縮合反応物などが挙げられる。
【0066】
更に、ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)の他、これらのコポリエーテル等が挙げられる。
【0067】
前記した各種ポリオールの中では、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールが好ましい。
【0068】
イソシアネートとしては、トリレンジオソシアネート(TDI)、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等が挙げられる。これらの中では、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI;HMDI)が好ましい。
【0069】
鎖延長剤としては,低分子量ポリオールが使用され、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール、1,4-ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などの芳香族グリコールが挙げられる。
【0070】
なお、本発明で使用されるポリウレタンエラストマーの硬度(ショアA硬度)は70~99が好まし。かかるポリウレタンエラストマーは、ディーアイシーバイエルポリマー社製のエステル(アジペート)系として「T-1000シリーズ」の「T-1180」、「T-1185」;エステル(ラクトン)系として「T-2000シリーズ」の「T-2180」、「T-2185」;エーテル系として「T-8000シリーズ」の「T-8180」、「T-8185」、「TP-6000シリーズ」の「TP-6580A」等として入手できる。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中、成分(B)の含有量は、成分(A)及び(B)の合計量を100質量%とした場合、20~95質量%であることが好ましく、25~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることが更により好ましい。成分(B)の含有量が上記範囲内にあると、成形品のMIU値が0.4以上となり、グリップ感等の触感が良好に改善される。
【0072】
3.その他の配合剤
【0073】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物には、上記した成分(A)及び成分(B)の他に、必要に応じて、摺動性付与剤、酸化防止剤、加工安定剤、紫外吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、金属不活性剤、着色顔料、各種無機充填剤、ガラス繊維、強化剤、難燃剤、離型剤、発泡剤などの各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0074】
4.本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。更に、各々の成分を混練するに際しては、それらの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練したあと、押出機によりペレット化することもできる。溶融混練温度は、通常180~240℃、好ましくは190~230℃である。
【0075】
5.本発明の成形品の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、プレス成形、シート押出成形、真空成形、異形押出成形、発泡成形等の公知の成形法により、樹脂成形品とすることができる。本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成された樹脂成形品の表面は、グリップ感等の触感に優れ、手で操作することが必要な物品などの各種物品の成形材料として好適である。本発明の樹脂成形品の表面のグリップ感は、上記成形品の表面を、摩擦感テスターKES-SE(商品名:カトーテック株式会社製)を用いて測定したMIU値(平均摩擦係数)で数値化することができる。本発明の成形品は、従来の成形品よりも滑り難く、グリップ感等の触感に優れているが、上記のとおり測定したMIU値は0.4以上であり、0.5以上が好ましく、0.6~1.0がより好ましい。また、本発明の成形品のISO 178に基づいて測定した弾性率は300~1500MPaであることが好ましく、400~1200MPaであることが更に好ましいい。また、本発明の成形品のISO 2039に基づいて測定した、室温におけるロックウェル硬さ(硬度スケールは、R-スケール)は20~60であることが好ましく、25~50であることがより好ましい。
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品は、上記のような触感を有するので、人体接触用の部品、例えば、シェーバーの持ち手、ドアトリム、グローブボックス、ハンドルなどの自動車内装部品、ドアノブ、手すり等の建築材料、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、スマートフォン、タブレットパソコン、ノートパソコン等の携帯電気製品の筐体、ケース、カバー等として使用することができる。
【実施例
【0077】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0078】
1.成分〔A〕
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂の原料として、下記の合成例1~2で得られたジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料MABS及び原料ABS)と、下記の合成例3で得られたスチレン-アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体(原料MAS)と、下記の合成例4で得られたスチレン―アクリロニトリル共重合体(原料AS)とを用いた。
【0079】
1-1.合成例1(原料MABS(ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂)の合成)
攪拌機を備えた内容積10リットルのガラス製フラスコに、体積平均粒子径300nmのポリブタジエン45部(固形分換算)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、およびイオン交換水100部を仕込み、次いで、スチレン3部、アクリロニトリル1部、およびメタクリル酸メチル11部を仕込んだ。これら混合物を攪拌しながら43℃まで昇温後、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.02部、硫酸第1鉄・7水和物0.001部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.08部およびイオン交換水6部よりなる水溶液、並びにクメンハイドロパーオキサイド0.04部を添加し、1時間反応を続けた。
【0080】
その後、スチレン9部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸メチル29部、t-ドデシルメルカプタン1.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.1部からなる単量体混合物、及びエチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.01部、硫酸第1鉄・7水和物0.001部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.05部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、およびイオン交換水30部よりなる水溶液を4時間にわたって連続的に添加し、重合反応を続けた。添加終了後、さらにエチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.003部、硫酸第1鉄0.0002部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.01部、クメンハイドロパーオキサイド0.02部、及びイオン交換水1部を添加し、更に1時間攪拌を続けた後、冷却して反応を終了した。
【0081】
その後、反応生成物にp-クレゾール・ジシクロペンタジエン・イソブチレンの反応生成物(東邦化学製「SANDWIN-45」)0.67部、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.5部を添加し、硫酸マグネシウムで凝固した。反応生成物を良く水洗し、脱水した後、80℃で24時間乾燥し、白色粉末の共重合体(原料MABS)を得た。重合転化率は、97.0%、グラフト率は52%、アセトン可溶分の極限粘度〔η〕は、0.24dl/g(30℃、メチルエチルケトン中で測定)であった。
【0082】
1-2.合成例2(原料ABS(ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂)の合成)
攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水42部、ロジン酸カリウム0.35部、tert-ドデシルメルカプタン0.2部、平均粒子径300nmのポリブタジエンゴム(ゲル含有率80%)45部を含むラテックス100部、スチレン11部及びアクリロニトリル4部を収容し、攪拌しながら昇温した。内温が40℃に達したところで、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。
30分間重合させた後、イオン交換水45部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン29部、アクリロニトリル11部、tert-ドデシルメルカプタン0.17部及びクメンハイドロパーオキサイド0.1部を、3時間かけて連続的に添加した。その後、更に1時間重合を継続し、反応系に、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を完結させた。
次いで、反応生成物を含むラテックスに、硫酸水溶液を添加して、樹脂成分を凝固し、水洗した。その後、水酸化カリウム水溶液を用いて、洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥し、ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(原料ABS)を得た。重合転化率は98%、この樹脂に含まれるグラフト樹脂におけるグラフト率は50%であり、このアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.35dl/gであった。
【0083】
1-3.合成例3(原料MAS(スチレン-アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体)の合成)
スチレン21部、アクリロニトリル7部、メチルメタクリレート72部、t-ドデシルメルカプタン0.3部、及びジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部を混合して、単量体混合物を調製した。
【0084】
攪拌装置、原料及び助剤添加装置、温度計、加熱装置などを備えた、容量10Lのガラス製反応器に水150部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部を仕込み、攪拌しつつ、窒素気流下で、内温を55℃まで昇温した。55℃に達した時点で、上記単量体混合物及び24部の水に、エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム・二水塩0.09部、硫酸第一鉄七水和物0.003部及びナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部を溶解した水溶液を5時間にわたって連続添加した。
【0085】
単量体混合物の添加開始時点から1時間後までに内温を67℃に昇温し、その後67℃を保持した。連続添加終了後、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.05部を添加し、更に1時間内温を保持し、重合反応を終了した。この共重合体ラテックスを、塩化カルシウムを用いて凝固し、水洗、乾燥し、粉末状の共重合体(原料MAS)を得た。重合転化率は98%、極限粘度〔η〕は、0.33dl/g(30℃、メチルエチルケトン中で測定)であった。
【0086】
1-4.合成例4(原料AS(スチレン―アクリロニトリル共重合体)の合成)
リボン翼を備えたジャケット付き重合用反応器を、2基連結した合成装置を用いた。各反応器内に、窒素ガスをパージした後、1基目の反応器に、スチレン73部、アクリロニトリル27部及びトルエン20部からなる混合物と、分子量調節剤であるtert-ドデシルメルカプタン0.15部をトルエン5部に溶解した溶液と、重合開始剤である1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カーボニトリル)0.1部をトルエン5部に溶解した溶液とを連続的に供給し、110℃で重合を行った。供給した単量体等の平均滞留時間は2時間であり、2時間後の重合転化率は56%であった。
次いで、得られた重合体溶液を、1基目の反応器の外部に設けられたポンプにより、連続的に取り出して、2基目の反応器に供給した。連続的に取り出す量は、1基目の反応器に供給する量と同じである。尚、2基目の反応器においては、130℃で2時間重合を行い、2時間後の重合転化率は74%であった。
その後、2基目の反応器から、重合体溶液を回収し、これを、2軸3段ベント付き押出機に導入した。そして、直接、未反応単量体及びトルエン(重合用溶媒)を脱揮し、スチレン・アクリロニトリル共重合体(原料AS)を回収した。このスチレン・アクリロニトリル共重合体の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、0.34dl/gであった。
【0087】
2.成分〔B〕
熱可塑性エラストマーの原料として、下記の製品を用いた。
【0088】
2-1.原料B-1(SEBS)
JSR株式会社製の水添ポリマ-「DR8903P」(商品名)を用いた。スチレン/ブタジエン比は35/65であった。MFR(230℃、21.2N)は、10g/10minであった。MFR(200℃、49.0N)は、4g/10minであった。
【0089】
3.成分〔C〕
3-1.原料C
ADEKA社製アデカスタブA-60(商品名)(テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン)。混練時に0.2部配合。
【0090】
実施例1~5及び比較例1~3
1.熱可塑性樹脂組成物の作製
下記表に示す成分〔A〕及び〔B〕を同表に示す配合割合で混合した。その後、成分〔C〕を上記のとおり配合し、二軸押出機(型式名「TEX44、日本製鋼所」)を用いて、バレル温度220℃で溶融混練してペレット化した。得られた樹脂組成物を用い、下記の測定及び評価に供した。結果を下記表に示す。
【0091】
2.成形品の作成
樹脂組成物を成形して120mm×80mm×2mmの試験片を作製した。成形は射出成形機IS100GN(商品名:東芝機械製)を用いて、樹脂温度220℃、金型温度50℃、射出速度40mm/s、射出圧力100MPaの条件で行った。成形用金型としては、内表面に凹凸(凹部の深さが100μm)を有した革シボ用金型(シボNo;TH-894)を用いた。
【0092】
3.硬度の測定
ISO 2039に基づいて、室温におけるロックウェル硬さ(硬度スケールは、R-スケール)を測定した。試験片は、シリンダーの設定温度を220℃、金型温度を50℃とした日本製鋼所社製射出成形機「J110AD-180H」(型式名)を用いて作製した。
【0093】
4.曲げ弾性率の測定
ISO 178に基づいて、島津製作所製の精密万能試験機「オートグラフAG5000E型」を用いて曲げ弾性率を測定した。測定値の単位は、MPaであった。試験片は、上記3(硬度の測定)と同様にして作製した。
【0094】
5.成形品外観の評価
上記2で作成した成形品のシボ面及び鏡面の両方を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:(i)フローマーク、(ii)剥離、(iii)白化の何れも発生しない。
△:(i)フローマーク、(ii)剥離、(iii)白化の何れかが成形品の一部に発生した。
×:(i)フローマーク、(ii)剥離、(iii)白化の何れかが成形品の全面に発生した。
【0095】
6.触感(グリップ感)
上記2で作成した成形品のシボ面を常温23℃にて指でなぞったときの触感を、下記の基準で評価した。
○:滑り難い。
△:やや滑り難い。
×:滑り易い。
【0096】
7.MIU値の測定(KES風合い計測)
上記2で作成した成形品のシボ面のMIU値を摩擦感テスターKES-SE(商品名:カトーテック株式会社製)を用いて測定した。MIU値(平均摩擦係数)は滑り難さの指標であり、数値が高い程、滑り難いことを意味する。
【0097】
8.表面光沢
上記2で作成した成形品の鏡面を目視で観察したときの光沢を、下記の基準で評価した。
○:光沢があり、室内の明かりが映る
×:光沢がなく、室内の明かりが映らない
【0098】
9.屈曲皺より性
上記2で作成した成形品をシボ面の反対側(光沢面側)に20度曲げ、曲げた側(光沢面側)を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:皺が発生しない
×:皺が発生する
【0099】
【表1】
【0100】
上記表から以下のことがわかる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた実施例1~5は、硬度、曲げ弾性率及び成形品外観に優れるだけでなく、触感(グリップ感)及び滑り難さ(MIU値)、表面光沢、屈曲シワより性に優れていた。これに対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の含有量が本発明の範囲に満たない比較例1及び2は、表面光沢、屈曲シワより性が劣り、本発明の成分(B)を含有しない比較例3は、触感(グリップ感)及び滑り難さ(MIU値)が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の成形品は、機械的強度及び成形品外観に優れ、かつ、表面が滑り難く、グリップ感等の触感が良いので、手で操作したり、手から容易に滑り落ちたりしないようにする必要のある物品として好適に利用できる。