(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】防水樹脂シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20220328BHJP
E04B 5/40 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
E04B1/68 Z
E04B5/40 A
(21)【出願番号】P 2017226805
(22)【出願日】2017-11-27
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514224105
【氏名又は名称】日本躯体処理株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】東 郁乃
(72)【発明者】
【氏名】久世 正彦
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-053254(JP,A)
【文献】特開2001-294830(JP,A)
【文献】特開2012-092213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
E04B 5/00 - 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートを打設する鋼鈑の接合部分を防水するために貼着する熱可塑性樹脂シートであって、
シート面内の一方向に引裂易く
形成され、
10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であるとともに厚みが350μm以下である防水層を有し、
クロスシートまたは1軸延伸フィルムを含むことを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項2】
コンクリートを打設する鋼鈑の接合部分を防水するために貼着する熱可塑性樹脂シートであって、
シート面内の一方向に引裂易く形成され、
10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であるとともに厚みが350μm以下である防水層を有
し、
前記防水層がVAコンテント15%以上であるEVA樹脂からなることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の防水樹脂シートが、直角形引裂き強さでの切断強度が140N/mm以下であることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の防水樹脂シートであって、前記防水層と粘着層とが積層されていることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の防水樹脂シートであって、前記防水層の直角形引裂き強さでの切断強度が85N/mm以下であり、かつ、引裂き弾性率が65N/mm
2
以下であることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項6】
請求項4または5に記載の防水樹脂シートであって、前記防水層と前記粘着層と間の接着力が5N/15mm以上であることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項7】
請求項4から6のいずれかに記載の防水樹脂シートであって、前記鋼鈑と前記粘着層と間の接着力が5N/15mm以上であることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の防水樹脂シートであって、前記引裂易くされた方向を幅方向とするテープ状に形成されていることを特徴とする防水樹脂シート。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合せて、前記鋼鈑の接合部分に対する目止めとする工程と、
前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込む工程と、を有することを特徴とするデッキプレートの施工方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合すことで、前記鋼鈑の接合部分に対して接着層と熱可塑性樹脂が順に積層された目止めとした状態で、前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込んだことを特徴とするデッキプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防水樹脂シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法に関し、特に防水に優れたデッキプレート・合成スラブ構造の施工に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートによる建造物の建築に際しては、デッキプレートをコンクリートの型枠として利用するとともに構造部材として用いるデッキプレート工法が採用されている。
【0003】
ここで、本発明において、デッキプレートとは、デッキプレートと、上述したように、それに打設したコンクリートとが結合された合成スラブ構造も含むものとする。
【0004】
デッキプレート・合成スラブ構造の施工は、現代の建築物の床や屋根などの構造部材として幅広く使用されている。プレートに使用される鋼鈑は、JIS G3352 4.(非特許文献1)でも記載があるように、腐食防止のために亜鉛メッキをした鋼鈑が使用される。
【0005】
デッキプレート・合成スラブ構造では、施工面積に対して亜鉛鋼鈑を重ねて敷き詰め、コンクリートを打設する。亜鉛鋼鈑とコンクリートを一体化させるため、シヤコネクタ(ずれ止め)またはアンカー(はく離止め)が設けられる(非特許文献2)。
【0006】
コンクリートには、一般的には水/セメント比が50%前後で使用されており、セメントが水と接触するとCaが溶け出す。Caイオンにより水酸化カルシウムCa(OH)2が析出され水溶液として強いアルカリ性を示す。
デッキプレートとなる亜鉛鋼鈑は、何枚かを重ねて敷き詰めているため、コンクリート打設時およびその後の経時変化により、そのつなぎ目から水酸化カルシウム水溶液が漏れ出す。漏れ出したアルカリ液は、作業員に対しての危険性を有するだけでなく、鋼鈑の腐食をもたらす原因となる。打設時およびその後の経時変化によるコンクリート漏れは見栄的にも悪くなるとともに、錆の発生に対して、つなぎ目への漏れ対策が必要となる。
【0007】
そのため、このデッキプレート建築物の現場では、従来から、このような問題点を未然に防止するために、デッキプレート工法において、デッキプレートの隙間を養生テープで埋めることで防水を行う防水工法が採用されている。例えば簡易的な施工現場では、布テープ(ガムテープ)等による目止めが行われている。
【0008】
また、デッキプレートのつなぎ部分に対して防水材の塗布を行い漏れ防止を行う施工も実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-122370号公報
【文献】特開平10-292542号公報
【文献】特開平5-44222号公報
【文献】実開平7-43188号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】JIS G 3352 4.めっきの種類及び記号
【文献】日本建築学会 各種合成構造設計指針・同解説 第2編 デッキプレートとコンクリートとの合成スラブ構造設計指針・同解説 125ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、布テープ(ガムテープ)による目止めをおこなった場合には、例えばデッキプレートの汚れや作業員が接触することによりテープが容易に剥離する場合があり、あるいは作業員が接触することにより破損してしまい、デッキプレートのつなぎ目部分との密着性が低下し、防水性を維持できないという問題があった。
また、このようなテープではアルカリ性に対しての耐性も無いため、アルカリ液の漏れ防止としては不十分である。
【0012】
さらに、施工現場や施工時期にもよるが、直射日光に曝されるなどデッキプレートの温度が上昇する可能性があり、その場合、このようなテープではテープが容易に剥離してしまうため、デッキプレートのつなぎ目部分との密着性が低下し、防水性を維持できなくなるという問題もあった。
【0013】
また、デッキプレートのつなぎ部分に対してシールを行い漏れ防止を行う施工では、作業工程が増加し、施工時間も長くなるため、作業効率が悪く、材料コストや施工コストがかかってしまうという問題がある。また、従来の防水シートでは、コストがかかる上、施工するコンクリートとの接着性が無く、結果的にデッキプレートとコンクリートが一体化しないために構造的に問題が発生するという欠点も考えられた。
【0014】
特に、店舗や駐車場あるいは物流センタ等の大規模建築における屋根や上層階の床となる天井部分では、デッキプレートが露出しており、見栄えが悪くなるため、デッキプレート鋼板のつなぎ目における漏れ防止を確実におこないたいという要求があった。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な施工作業により、デッキプレート・合成スラブ構造の鋼板つなぎ目部分における密閉性を向上させ、アルカリ液の漏れを手軽に防止可能とする施工方法を提供するとともに、このデッキプレートのつなぎ目部分に対する目止め材として最適な防水樹脂シートを提供するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の防水樹脂シートは、コンクリートを打設する鋼鈑の接合部分を防水するために貼着する熱可塑性樹脂シートであって、
シート面内の一方向に引裂易くされ、
10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であるとともに厚みが350μm以下である防水層を有し、
クロスシートまたは1軸延伸フィルムを含むこと、または前記防水層がVAコンテント15%以上であるEVA樹脂からなることにより上記課題を解決した。
本発明の防水樹脂シートは、直角形引裂き強さでの切断強度が140N/mm以下であることができる。
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層と粘着層とが積層されていることができる。
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層の直角形引裂き強さでの切断強度が85N/mm以下であり、かつ、引裂き弾性率が65N/mm2以下であることができる。
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層と前記粘着層と間の接着力が5N/15mm以上であることができる。
本発明の防水樹脂シートは、前記鋼鈑と前記粘着層と間の接着力が5N/15mm以上であることができる。
本発明の防水樹脂シートは、前記引裂易くされた方向を幅方向とするテープ状に形成されていることができる。
本発明のデッキプレートの施工方法は、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合せて、前記鋼鈑の接合部分に対する目止めとする工程と、
前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込む工程と、を有することができる。
本発明のデッキプレートは、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合すことで、前記鋼鈑の接合部分に対して接着層と熱可塑性樹脂が順に積層された目止めとした状態で、前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込んだことができる。
【0017】
本発明の防水樹脂シートは、コンクリートを打設する鋼鈑の接合部分を防水するために貼着する熱可塑性樹脂シートであって、
シート面内の一方向に引裂易くされていることにより、デッキプレートの施工時に鋼鈑の接合部分に対して貼着した防水樹脂シートが上述した特性を有する熱可塑性樹脂からなることで、接合部分に防水樹脂シートを貼着する貼着工程において、防水樹脂シートを手で切断することを容易に可能として貼着工程における作業性を向上するとともに、作業員が当接するなどの外力が作用する場合、あるいは、貼り着け箇所に凹凸があった場合でも、容易に防水樹脂シートが断裂することで密着性を向上して、さらに、シート上にコンクリートを打設した場合にも、シートが接合部分から剥離してしまうことを防止でき、これにより、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0018】
本発明の防水樹脂シートは、10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であるとともに厚みが350μm以下である防水層を有することにより、デッキプレートの施工において、コンクリート打設時およびそのコンクリート打設後において、このコンクリートに起因するアルカリに暴露された場合でも、防水樹脂シートにおける防水性を維持して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。なお、この耐アルカリ性試験条件は、JIS A 1193に準拠するものとする。
【0019】
本発明の防水樹脂シートは、直角形引裂き強さでの切断強度が140N/mm以下であることにより、貼着工程において、防水樹脂シートを手で切断することを容易に可能として貼着工程における作業性を向上するとともに、接合部分に貼着した防水樹脂シートに対して、貼着工程における作業性を向上するとともに、作業員が当接するなどの外力が作用する場合、あるいは、貼り着け箇所に凹凸があった場合でも、容易に防水樹脂シートが断裂することで密着性を向上でき、同時に、シート上にコンクリートを打設した場合にも、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止でき、これにより、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0020】
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層と粘着層とが積層されていることにより、接着剤塗布等の工程が必要なく、防水樹脂シートを手で切断するだけで接合部分に防水樹脂シートを貼着することができ、貼着工程における作業性を向上することができる。
【0021】
本発明の防水樹脂シートは、クロスシートまたは1軸延伸フィルムを含むことにより、防水樹脂シートを手で切断することを容易に可能として貼着工程における作業性を向上すること、および、作業員が当接するなどの外力が作用する場合、あるいは、貼り着け箇所に凹凸があった場合でも、容易に防水樹脂シートが断裂することで密着性を向上することができる。
【0022】
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層の直角形引裂き強さでの切断強度が85N/mm以下であり、かつ、引裂き弾性率が65N/mm2以下であることにより、防水樹脂シートを手で切断することを容易に可能として貼着工程における作業性を向上すること、および、作業員が当接するなどの外力が作用する場合、あるいは、貼り着け箇所に凹凸があった場合でも、容易に防水樹脂シートが断裂することで密着性を向上することができる。
なお、直角形引裂き強さの試験条件は、JIS K7128-3(直角形引裂法)の基準に準拠するもとする。
【0023】
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層がVAコンテント15%以上であるEVA樹脂からなることにより、防水樹脂シートを手で切断することを容易に可能として貼着工程における作業性を向上すること、および、防水樹脂シートが充分な柔軟性を有して、作業員が当接するなどの外力が作用する場合、あるいは、貼り着け箇所に凹凸があった場合でも、容易に防水樹脂シートが断裂することで密着性を向上することができる。
【0024】
本発明の防水樹脂シートは、前記防水層と前記粘着層と間の接着力が5N/15mm以上であることにより、防水層と粘着層とが必要な接着状態を維持することが可能となり、防水層と粘着層とが剥離してしまうことを防止できる。
【0025】
本発明の防水樹脂シートは、前記鋼板と前記粘着層と間の接着力が5N/15mm以上であることにより、防水層と粘着層とが必要な接着状態を維持することが可能となり、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止できる。
【0026】
本発明の防水樹脂シートは、前記引裂易くされた方向を幅方向とするテープ状に形成されていることにより、接着剤塗布等の工程が必要なく、防水樹脂シートを手で切断するだけで、必要な所定長さとするとともに、その状態で接合部分に必要なだけ防水樹脂シートを貼着することができ、貼着工程における作業性を向上することができる。
なお、粘着層側には剥離紙を位置した状態でロール状に形成することも可能である。
【0027】
本発明のデッキプレートの施工方法は、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合せて、前記鋼鈑の接合部分に対する目止めとする工程と、
前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込む工程と、を有することにより、シートを貼着する工程において、作業性を向上するとともに、作業員が当接するなどの外力が作用してもシートの防水性を維持して、シート上にコンクリートを打設した場合にも、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止することができる。これにより、作業工程数を削減し、作業時間を短縮した状態で、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0028】
本発明のデッキプレートは、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合すことで、前記鋼鈑の接合部分に対して接着層と熱可塑性樹脂が順に積層された目止めとした状態で、前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込んだことにより、製造コストを低減して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0029】
本発明の防水樹脂シートは、鋼鈑に凹凸があった場合にも、防水樹脂シートがシート面内の一方向に引裂易くされていることにより、防水樹脂シート(目止めシート)の剥がれ発生を防止することが可能となるとともに、防水樹脂シートを貼着する際にヨレなどの発生を防止でき、鋼鈑との間で隙間なく貼着施工を実施することが可能となる。また、デッキプレートの凹部等に防水樹脂シートを貼着する場合に、シート面内の一方向に引裂易くされていることにより、防水樹脂シートのハンドリング性を向上し、シートが鋼板表面から浮いた部分が発生する、あるいは、接着不良の部分が発生することを防止して、鋼鈑との隙間なく貼着施工を実施することが可能となる。
【0030】
さらに、防水樹脂シートに使用される熱可塑性樹脂の融点が60℃以上であることにより、デッキプレートの施工時に、この施工部分である鋼鈑の接合部分が日照その他によって温度上昇した場合でも、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止でき、これにより、高温状態の施工現場においても、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、デッキプレート・合成スラブ構造の施工に関する工法において、鋼板の接合部分に用いられる防水用の目止め工法として使用されることで、防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り付ける施工を施すことで、耐アルカリ性を有して、安価でかつ容易な施工方法により、コンクリートが硬化する際に発生する水酸化カルシウム水溶液の漏れを確実に防止することが可能となるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る防水樹脂シートの第1実施形態を示す模式斜視図である。
【
図2】本発明に係るデッキプレートの第1実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るデッキプレートの第1実施形態における鋼板の重ね合わせ部分を示す斜視図である。
【
図4】本発明に係るデッキプレートの施工方法の第1実施形態におけるシート貼着工程を示す断面図である。
【
図5】本発明に係るデッキプレートの施工方法の第1実施形態における工程を示すフローチャートである。
【
図6】本発明に係るデッキプレートの施工方法の第2実施形態における接合部分を示す模式断面図である。
【
図7】本発明に係るデッキプレートの施工方法の第3実施形態における接合部分を示す模式断面図である。
【
図8】本発明に係るデッキプレートの施工方法の第4実施形態におけるシート貼り着け前の接合部分を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る防水樹脂シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における防水樹脂シートを示す模式斜視図であり、
図2は、本実施形態におけるデッキプレートを示す断面図であり、
図3は、本実施形態におけるデッキプレートにおける鋼板の重ね合わせ部分を示す斜視図であり、
図4は、本実施形態におけるデッキプレートの施工方法におけるシート貼着工程を示す断面図であり、
図5は、本実施形態におけるデッキプレートの施工方法における工程を示すフローチャートであり、図において、符号10は、デッキプレートである。
【0034】
本実施形態に係るデッキプレートの施工方法は、デッキプレートとそれに打設したコンクリートとが適切に結合されることにより、両者が一体となって曲げに抵抗する合成スラブ構造(以下合成スラブという)を対象とする。ここで、合成スラプは,主として床または屋根構造に使用する。なお、本実施形態では、これらを含めてデッキプレートと称するが、構造物の工法や形状などは特に限定されるものではない。
【0035】
本実施形態に係るデッキプレート10は、
図2に示すように、断面において台形が凹凸を上下に反転させながら連続することで複数の突条が平行に形成された波板形状の鋼板(亜鉛メッキ鋼板)11をその端部位置で重ねるものとされる。本実施形態においては、鋼板11の重ね合わせ部分12は突条の上側位置とされている。
【0036】
プレートに使用される鋼鈑は、JIS G3352 4.に記載があるように、腐食防止のために亜鉛メッキをした鋼鈑が使用されるが、これに限定されるものではなく、溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融アルミニウムメッキ鋼板、ステンレス鋼板、ガルバリウム鋼板(新日鐵住金株式会社 登録商標)、溶融亜鉛-アルミ系合金メッキ鋼板、溶融亜鉛-アルミ-マグネシウム系合金メッキ鋼板、あるいはフッ素樹脂や塩化ビニル樹脂を被覆した表面処理鋼板等を適用することもできる。
【0037】
本実施形態に係るデッキプレート10は、
図2~
図4に示すように、重ね合わせられた鋼板11の接合部分に防水樹脂シート14が貼り付けられ、これら全体にコンクリート15が打設されている。
【0038】
本実施形態に係る防水樹脂シート14は、
図1に示すように、打設するコンクリートのアルカリ液に対する防水性を有する防水層14Aと、この防水層14Aを鋼板11の接合部分に貼り着けて密閉するとともに防水層14Aにおける幅方向の易切断性を縦方向全長にわたって有する粘着層13と、粘着層13が不必要に接着しないようにハンドリング性を高める剥離紙16とが積層されて、これらがロール状に形成されている。
【0039】
防水樹脂シート14は、シート幅方向Aの寸法が30mm以上200mm以下、より好ましくは、50mm以上100mm以下とすることができる。なお、シート長さ寸法は、鋼板11の接合部分長さ寸法以上であればよく、その端部からのはみ出し寸法が、30mm以上200mm以下、より好ましくは、50mm以上100mm以下とすることができる。
【0040】
防水樹脂シート14は略均一幅の長尺テープをロール状に形成したものとされ、
図1に矢印Aで示す幅方向において、直交する方向に比べて引裂易く設定されている。
具体的には、粘着層13がクロスシートを粘着剤で挟んだ構成とされており、クロスシートの繊維方向が幅方向Aに沿った状態とされている。粘着層13のクロスシートは、繊維方向に切断しやすくなっている。
粘着層13と防水層14Aと剥離紙16とは、互いにほぼ全面で接着されている。
【0041】
防水層14Aは、亜鉛メッキ鋼鈑11の接合部分を防水するために粘着層13との接着力にすぐれたものが望ましく、さらにはアルカリに対しての耐性が強い熱可塑性樹脂からなるものとされる。
【0042】
防水層14Aは、フィルムの厚みが80μm以上350μm以下、好ましくは、100μm以上200μm以下、あるいは、140μm以上160μm以下であり、直角形引裂き強さでの切断強度が85N/mm以下であり、かつ引裂き弾性率が65N/mm2以下であるものとされる。
防水層14Aの直角形引裂き強さでの切断強度が85N/mm以下であり、かつ、引裂き弾性率(引張弾性率)が65N/mm2以下であるように設定される。
【0043】
同時に、防水層14Aは、融点が60℃以上である熱可塑性樹脂からなる。また、防水樹脂シート14は、10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上である。ここで、耐アルカリ性試験条件は、JIS A 1193に準拠するものとする。
【0044】
熱可塑性樹脂としては、典型的にはポリスチレン系樹脂を挙げることができるが、耐アルカリ性に耐性がある樹脂であればポリプロピレン、ポリウレタン、変成アクリル、ポリ塩化ビニル、フッ素系樹脂なども使用可能であり、具体的には、EVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)、高密度ポリエチレン(HDPE;High Density Polyethylene)、低密度ポリエチレン(LDPE;Low Density Polyethylene)とされることができる。
防水層14Aは、VAコンテント15%以上であるEVA樹脂からなる。
【0045】
粘着層13は、防水樹脂シート14に塗布形成されるもの、または、防水層14Aに貼り付けられる粘着シート状のものとされ、防水樹脂シート14の易引き裂き方向を設定するクロスシートを有することができる。
【0046】
具体的には、粘着剤の層が一面に形成されたクロスシートと、接着剤が一面に塗布形成された防水層14Aとなるフィルムとを貼り合わせることや、クロスシートの両面に接着剤または粘着剤が形成され、これを防水層14Aとなるフィルムとを貼り合わせることによって、粘着層13を形成することができる。
【0047】
なお、クロスシートに粘着剤または接着剤が浸透した状態、あるいは、クロスシートを粘着剤からなる層の内部に配置した状態とすることもできる。さらに、クロスシートの両面で、使用する粘着剤または接着剤を同一組成とすること、あるいは、異なる組成とすること、また、これらクロスシート両面の粘着剤または接着剤の層を同時に形成すること、あるいは、順番に形成することが可能である。
【0048】
粘着層13としては、クロスシートに換えて、一軸延伸した樹脂フィルム等、一方向に易切断性を有するものを採用することができる。
【0049】
粘着層13における粘着剤または接着剤は、耐アルカリ性を有し、接着性を喪失する限界温度が60以上、あるいは、可使時間が23℃で30分以上となる耐温度性能を有し、さらには、23℃での粘度が5000mPas以上であることが好ましい。
粘着層13は、この粘着層13と防水層14Aと間の接着力が5N/15mm以上であるとともに、粘着層13と鋼板11と間の接着力が5N/15mm以上であるように設定される。
【0050】
粘着層13の接着剤または粘着剤としては、具体的に、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、ゴム系の接着剤および粘着剤とされることができる。
また、接着層13の形成厚さとしては、100μm~800μm程度、より好ましくは200μm~500μm程度とされることができる。
【0051】
本実施形態における防水樹脂シート14は、後述するシート貼着工程S4において、必要長さだけロールから引き出して幅方向に手でちぎり、所定の位置に貼り着けるものとされる。この際、粘着層13のクロスシートによって、幅方向Aに易切断方向が設定されているこことで、作業員が手でちぎることが容易になり、作業性を向上することができる。同時に、接着剤を塗布する工程が必要ないため、作業工程数を削減し、デッキプレート製造における作業性を向上することが可能となる。
【0052】
本実施形態におけるデッキプレートの施工方法は、
図5に示すように、鋼板配置工程S1と、前処理工程S2と、シート手切り工程S3と、シート貼着工程S4と、コンクリート打設工程S5と、を有するものとされる。
【0053】
本実施形態におけるデッキプレートの施工方法は、まず、
図5に示す鋼板配置工程S1として、
図3に示すように、デッキプレートとなる鋼板11の端部を重ね合わせて、接合部分12を形成する位置に配置する。
【0054】
次いで、
図5に示す前処理工程S2として、鋼板11表面の接合部分12近傍を洗浄する。ここで、この洗浄とは、接着層13が後工程で剥離しない程度でよく、アルコール等で鋼板表面の油膜を除去したり、あるいは、鋼板11表面を拭って砂、ほこり等の異物を除去する程度でよい。
【0055】
次いで、
図5に示すシート手切り工程S3として、鋼板11表面の接合部分12における密閉すべき領域寸法に対応した長さとして、ロール状の防水樹脂シート14を引き出した後、手で幅方向Aに切断線が形成されるように防水樹脂シート14と接着層13をちぎる。本実施形態の防水樹脂シート14においては、作業現場にて着用される軍手などの手袋を着用したままでも容易にちぎることが可能である。
【0056】
なお、このシート手切り工程S3としては、防水樹脂シート14を互いに領域が複数重なる部分を有することが可能な複数枚に切断する、あるいは、幅方向Aのみならず縦方向に切断する、など、現場における、鋼板11表面の接合部分12における密閉すべき領域に対応して、適宜おこなうことができる。また、鋼板11表面の接合部分12における凹凸等の有無に応じて、複数枚貼り着ける防水樹脂シート14を準備するように切断形成してもよい。
また、作業性を考慮して、貼着工程S4と手切り工程S3を同時に行うことも可能であり、この場合、鋼板11表面の接合部分に防水樹脂シート14を貼着させながら、密閉すべき領域を貼り終えたところでちぎることも可能である。
【0057】
次いで、
図5に示すシート貼着工程S4として、所定の寸法に切断された防水樹脂シート14を接合部分12に貼着して、
図5に示すように、接合部分12として重ね合わせされた両側の鋼板11と、それぞれの表面に位置する防水樹脂シート14とを密着させる。この防水樹脂シート14を接合部分12に貼着後に、養生工程として、時間を経過させることもできる。
【0058】
最後に、
図5に示すコンクリート打設工程S5として、鋼板11上に所定の厚さのコンクリート15を打設して、
図2に示すように、鋼板11、接着層13と防止層14Aとからなる防水樹脂シート14が積層された接合部分12を形成して、デッキプレート10とする。
【0059】
本実施形態のデッキプレートの施工方法においては、コンクリート打設前に、亜鉛メッキ鋼鈑11の接合部分12に対して貼着した防水樹脂シート14が上述した特性を有する熱可塑性樹脂からなり幅方向Aに易切断性を有することで、シート手切り工程S3において、防水樹脂シート14を切断治具を使用することなく手でちぎって長さを調節し、所望の大きさとしてシート貼着工程S4での貼り付けをおこなうことが可能となるため、これらの工程におけるハンドリング性と作業性とを向上することができる。
【0060】
同時に、防水樹脂シート14が上述した特性を有する熱可塑性樹脂からなり幅方向Aに易切断性を有することで、貼着する接合部分12及びその近傍にバリ等の凹凸がある場合でも、防水樹脂シート14に対して作業員が当接するなどの外力が作用しても、防水樹脂シート14のシート厚みを上記の範囲として防水樹脂シート14が易切断性と柔軟性とを有するように設定したことで、密着性が保持され、同時に、防水樹脂シート14上にコンクリートを打設した場合にも、防水樹脂シート14が接合部分12から剥離してしまうことや、アルカリ液がしみこんでしまうことを防止できる。これにより、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0061】
本実施形態のデッキプレートの施工方法においては、また、鋼鈑11に凹凸があった場合にも、防水樹脂シート14を貼着する際にヨレなどの発生を防止でき、鋼鈑11との間で隙間なく貼着施工を実施することが可能となる。
【0062】
本実施形態の防水樹脂シート14に使用される熱可塑性樹脂の融点が60℃以上であることにより、デッキプレート10の施工時に、この施工部分である亜鉛メッキ鋼鈑11の接合部分12が日照その他によって温度上昇した場合でも、防水樹脂シート14が接合部分12において剥離してしまうことや防水樹脂シート14が破損してしまうことを防止でき、これにより、高温状態の施工現場においても、デッキプレート10の施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0063】
本実施形態の防水樹脂シート14および接着層13が、上述した耐アルカリ性を有することにより、デッキプレート10の施工において、コンクリート打設時およびそのコンクリート打設後において、このコンクリートに起因するアルカリに暴露された場合でも、防水樹脂シート14および接着層13における防水性を維持して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0064】
本実施形態のデッキプレートの施工方法は、鋼板配置工程S1と、前処理工程S2と、シート手切り工程S3と、シート貼着工程S4と、コンクリート打設工程S5と、の工程のみで、デッキプレートを施工することが可能となる。これにより、作業工程数を削減し、作業時間を短縮することができる。本施工方法では、接着剤や粘着材からなる世着層13により熱可塑性樹脂からなる防止樹脂シート14を接合部分12に貼り合せるだけの簡易作業で、高い目止め効果を発揮し、材料面でも従来の施工方法に比べ安価な施工を提供可能とすることができる。
【0065】
以下、本発明に係る防水シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態におけるデッキプレートの接合部分を示す模式断面図である。
本実施形態において上述した第1実施形態と異なるのは接合部分に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0066】
本実施形態においては、
図6に示すように、接合部分12Aが、波板状の鋼板11の凹部に形成されている。
【0067】
本実施形態における防水樹脂シート14は、第1実施形態における熱可塑性樹脂と同等の樹脂からなるが、防水層14A厚みが150μm~200μm程度とされている。これは、鋼板11の凹部において、鋼板11との密着性を向上し、かつ、防水樹脂シート14のハンドリング性を向上するためである。これにより、接合部分12Aにおいて、防水樹脂シート14が鋼板11表面から浮いた部分が発生する、あるいは、接着不良の部分が発生することを防止して、鋼鈑11との隙間なく防水樹脂シート14を貼着することが可能となる。
【0068】
本実施形態においては、第1実施形態と同等の効果を奏することができるとともに、さらに、防水樹脂シート14のハンドリング性を向上し、鋼板11凹部の接続部分12Aにおいても、防水樹脂シート14および接着層13における防水性を維持して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0069】
また、鋼板11凹部に接続部分12Aが設けられることにより、防水樹脂シート14の破損発生を低減することが可能となる。
なお、波板状の鋼板11における傾斜した側面に接続部分を設けることにより、さらに、防水樹脂シート14の破損発生を低減することが可能となる。
【0070】
以下、本発明に係る防水シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
図7は、本実施形態におけるデッキプレートの接合部分を示す模式断面図である。
本実施形態において上述した第1および第2実施形態と異なるのは鋼板の形状に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0071】
本実施形態においては、鋼板11Bが、
図7に示すように、平板形状とされて、接合部分12Bでその端部どうしが突き合わされて、表面が面一となっている。なお、平板形状となっているのは、接合部分12B付近のみであり、これ以外の範囲における鋼板11Bの形状は、上述した波板形状、あるいは、他の形状であっても構わない。
【0072】
本実施形態における防水樹脂シート14は、第1および第2実施形態における熱可塑性樹脂と同等の樹脂からなるが、防水層14A厚さが200μm~250μm程度(平板突き合わせの場合)とされている。これは、鋼板11Bの突き合わせ状態となった接合部分12Bにおいて、鋼板11Bどうしの引張力が作用した場合でも、防水樹脂シート14の密着性を維持し、鋼板11Bから剥離してしまうことを防止するためである。これにより、接合部分12Bにおいて、防水樹脂シート14が鋼板11B表面から剥離した部分が発生する、あるいは、接着不良の部分が発生することを防止して、鋼鈑11Bとの隙間なく防水樹脂シート14を貼着することが可能となる。
【0073】
以下、本発明に係る防水シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第4実施形態を、図面に基づいて説明する。
図8は、本実施形態におけるデッキプレートの接合部分におけるシート貼り着け工程前を示す斜視図である。
本実施形態において上述した第1から第3実施形態と異なるのは接合部分の形状に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0074】
本実施形態においては、
図8に示すように、コンクリート打設前において柱11Dの周囲等で、鋼板11そのものに隙間11Eがあいている。なお、柱11D付近以外の範囲における鋼板11Bの形状は、上述した波板形状、あるいは、他の形状であっても構わない。
【0075】
本実施形態における防水樹脂シート14は、第1実施形態における熱可塑性樹脂と同等の樹脂からなるが、第3実施形態と同様に、防水層14A厚さが200μm~250μm程度(隙間ふさぎの場合)とされている。
【0076】
本実施形態のデッキプレートの施工方法においては、隙間11Eに鋼板片11Cを載置するとともに、鋼板11および鋼板片11Cさらに隙間11Eを含めて接合部分12Bとする。
なお、図において、防水樹脂シート14の配置・貼り着け方は、一例であり、適宜、現場での判断により設定することが可能である。
【0077】
さらに、本実施形態の防水樹脂シート14を複数枚重ねて、この隙間11Eを塞ぐように鋼板11および鋼板片11C、さらに、柱11Dの周囲にも貼り着けることで、柱11Dの周囲に密着するように、鋼板11および鋼板片11Cさらに隙間11Eを含めて上からコンクリート15を打設して、デッキプレート10とすることができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0079】
<実験例1;耐アルカリ性試験>
防水層として使用される熱可塑性樹脂シートは、コンクリートと直接接触し、発生する水酸化カルシウム水溶液の影響を受けるため、シート単体として耐アルカリ性能が必要となる。
【0080】
耐アルカリ性試験として、JIS A 1193の規格に従い、10%水酸化ナトリウム水溶液に防水層として使用される各種熱可塑性樹脂シートを28日間浸漬させた。ただし、試験温度は25℃として実施した。浸漬前後の評価は、JIS K7127に沿って、引っ張り強さの測定を実施し、強度保持率を算出した。 また、アルカリ液浸漬における外観への影響を観察した。
【0081】
防水層として使用される熱可塑性樹脂のシートは、HDPE、LDPE、EVA、PCの4種類において比較を実施し、それぞれのシートの厚みは300μmのものを使用した。
【0082】
・引っ張り強さ試験条件
ダンベル形状:JIS K7127タイプ5
引張速度:200mm/min
【0083】
・引っ張り強さ(MPa)
引っ張り強さ = (最大強度(N))/(試験サンプルの厚さ(mm)×試験サンプルの幅(mm)試験サンプルの厚さ(mm)×試験サンプルの幅(mm))
【0084】
・強度保持率(%)
強度保持率 = 浸漬しないサンプルの引っ張り強さ/浸漬したサンプルの引っ張り強さ ×100
アルカリ性試験の結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
この結果から、防水層として使用される熱可塑性樹脂において、PCは耐アルカリ性が弱く、浸漬後にクラックが発生した。破断強度も低下しており、目止めシートとしてアルカリ性水溶液の漏れ防止機能としては適さない。シートが破断しやすくなり、クラックにより 亀裂が発生し漏れの原因となる。耐アルカリ性としては、強度保持率が50%以上であることが望ましく、さらには70%以上のアルカリ性に耐性がある樹脂を使用することが最適である。
【0087】
<実験例2;引裂き強度試験>
デッキプレート・合成スラブ構造の施工は、足場が不安定、高所といった作業性が悪い場所における施工が多い。目止めとして使用する防水樹脂シート(防水テープ)も簡易な施工を可能とするために、手切れ性の付与が求められる。
本発明の防水テープの構成では、粘着層にクロスシート基材もしくは1軸延伸フィルム基材を積層することで手切れ性が良いテープとしているが、防水層の影響により手切れ性が悪化する。
【0088】
実験例1で耐アルカリ性が良いHDPE、LDPE、EVAに対して、手切れ可能な防水テープとなる熱可塑性樹脂を検討するため、引裂き強さの検証を実施した。それぞれの熱可塑性樹脂シートの厚みは300μmのものを使用し、熱可塑性樹脂に寺岡製作所製のPEクロス両面テープNo.710を貼り合せたものを防水テープとして比較した。
【0089】
・引裂き強度試験条件(JIS K7128-3)
ダンベル形状:直角形引裂試験片
引張速度:200mm/min
【0090】
・引裂き強度(N/mm)
引裂き強度 = 最大引裂荷重(N)/試験片の厚さ(mm)
【0091】
・引裂き弾性率(N/mm2)
引裂き試験における応力0N~10N時における弾性率
【0092】
・手切れ性評価
防水テープ(剥離紙付き)を手で引き千切った状態を官能評価。
比較を行った樹脂の種類と引裂き強度試験の結果を表2に示す。
表における官能評価として、
容易に引裂ける:二重丸
引裂ける:一重丸
引裂けない:バツ
として示した。
【0093】
【0094】
この結果から、防水テープとして手切れ性が認められるのは、防水テープとしての引裂き強度が140N/mm以下のものであり、望ましくは70N/mm以下であることが簡易な施工性に優れたテープとなる。防水層単体では、引裂き強度が85N/mm以下望ましくは60N/mm以下であり、引裂き弾性率が65N/mm2以下、望ましくは35N/mm2以下であると、簡易な手切れ性が得られる。
【0095】
さらに、防水層の樹脂としてはEVAがもっとも望ましく、VAコンテントが15wt%以上、望ましくは25wt%以上であると、良好な手切れ性が得られる。
【0096】
<実験例3;接着力試験>
デッキプレート、合成スラブ構造の施工において実際に目止めテープとして施工を実施した際に、必要となる接着力の確認を実施した。デッキは亜鉛メッキ鋼板が一般的であるため、亜鉛メッキ鋼板への接着力と、防水テープを構成する防水層と粘着層との界面密着を各種粘着層を用いて評価を実施した。
防水層には実験例2で使用したEVA樹脂(VA28%、MFR7)を用いて、厚み300μmのものを使用した。粘着層には、表3で示すアクリル系、ブチルゴム系、シリコーン系の粘着材を有する両面テープを使用し、上記防水層に貼り合せた際の防水層/粘着層(粘着剤)界面の接着力と、両面テープを貼り合せた防水テープを亜鉛メッキ鋼板に貼り合せた際の粘着層(粘着剤)/亜鉛メッキ鋼板界面での接着力を測定した。
【0097】
測定方法
・防水層/粘着層界面 :
測定サンプル(防水テープ)を15mm幅×150mmに切り出し界面での接着力を引張り試験機にて200mm/minの速度、180°剥離にて測定。
・粘着層/亜鉛メッキ鋼板界面 :
測定サンプル(防水テープ)を15mm幅×150mmに切り出し、亜鉛メッキ鋼板と貼り合せた後、貼り合せた界面での接着力を引張り試験機にて200mm/minの速度、180°剥離にて測定。
【0098】
※接着力の判断として、実使用における官能評価を実施した。
亜鉛メッキ鋼板を折り曲げ、7mm段差を作製し、段差部に防水シートを貼り合せ、界面状態を観察した。
粘着層として使用した両面テープの種類と接着力の測定結果を表3に示す。
また、表において官能評価は以下のように示す。
良好(浮き、剥離無し):二重丸
使用上問題なし(浮き、剥離無し):一重丸
実使用上接着力が乏しい(浮き、剥離が生じる):バツ
【0099】
【0100】
この結果から、防水層/粘着剤の界面接着力としては、シリコーン系の3.7N/15mmでは容易に剥離が生じてしまい、実使用としてデッキの凹凸部分に貼り合わせを実施した場合、界面で浮きが生じてしまう。浮きが発生した場合、アルカリ液が浸透し、アルカリ耐性が無い粘着剤を使用した場合には防水機能が保てない。
したがって、防水層/粘着剤界面の接着力としては、5N/15mm以上、さらに詳細には10N/15mm以上が望ましい。
【0101】
粘着剤/亜鉛メッキ鋼板の接着力としてはいずれの粘着層でも問題なく使用可能であることを確認した。
したがって、粘着剤/亜鉛メッキ鋼板の接着力としては5N/15mm以上、さらに詳細には10N/15mm以上が望ましい。
【0102】
<実験例4;引裂き強度試験>
防水テープとして、さらに手切れ性を向上させるために、防水層の厚みについての検証を行った。
防水層が薄くなれば手切れ性は向上するが、目止めテープとして施工した際の強度が低下する恐れがあり、また、防水テープとして必要な防水機能性についても厚みの影響を確認を実施した。
【0103】
検証に使用する防水層には、実験例2で使用したEVA樹脂(VA28%、MFR7)を用いて、厚みを500μm、400μm、300μm、250μm、200μm、150μm、100μmに製膜したフィルムを使用した。
上記防水層に寺岡製作所製のPEクロス両面テープNo.710を貼り合せ、防水テープとしての引裂き強度測定、テープの強度測定として踏みつけ試験、および防水性の評価を実施した。
【0104】
・引裂き強度試験条件(JIS K7128-3)
ダンベル形状:直角形引裂試験片
引張速度:200mm/min
【0105】
・引裂き強さ(N) = 引裂き強度試験における最大引裂荷重(N)
なお、手切れ性の評価は、剥離紙込みの実験例2に準ずる。
【0106】
・踏みつけ試験
防水層の厚みが違う各防水テープを、デッキプレート(JIS G3352)の角部にくの字型に貼り、貼り合せた防水テープ上で、50回足踏みを実施した後の外観変化を観察した。
なお、踏みつける際の靴は、ミドリ安全社製安全靴(HG ISA-805)を使用した。
表における評価として、
使用上問題なし:一重丸
外観の損傷が大きいが使用可能:三角
穴、裂けがあり使用上問題有り:バツ
として示した。
【0107】
・防水性評価
20cm角のアルミパンの中央に、幅2mm×長さ15cmのスリットを設けた容器を作成し、スリット部分に防水テープを貼り、目止めした後、容器内を水で満たす。
この状態で2時間放置し、スリット部分からの水漏れが発生していないかを確認する。
防水層の厚みを変えた各防水テープの引裂き強さ、踏みつけ試験、防水性評価の結果を表4に示す。
【0108】
【0109】
この結果から、防水層の厚みが薄くなれば引裂き強さが低下して手切れ性が向上していく。
防水層の厚みが100μmまで薄くなっても、防水性能としては問題なく使用が可能であるが、デッキプレートの施工現場を想定し踏みつけられても穴や裂けが起こらずに、防水性能を保てる厚みは100μm以上が望ましい。
【0110】
上記の検証の結果、防水層が400μm厚であると、ちぎれ性が悪く、切断治具を用いないと、多数枚を切断することが難しいことがわかった。
【0111】
以上より、防水層厚みは100μm以上350μm以下が望ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0112】
10…デッキプレート
11,11A,11B…亜鉛メッキ鋼板(鋼板)
11C…鋼板片
11D…隙間
11E…柱
12,12A…接合部分
13…粘着層
14…防水樹脂シート
14A…防水層
15…コンクリート
16…剥離紙