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特許7046593トランス-2-ノネナール等による酸化臭が低減したビールテイスト飲料
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  • 特許-トランス-2-ノネナール等による酸化臭が低減したビールテイスト飲料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】トランス-2-ノネナール等による酸化臭が低減したビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20220328BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20220328BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220328BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220328BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/04
A23L2/00 B
A23L2/38 J
A23L2/68
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017245387
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019110787
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】太田 麗子
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】川橋 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】竹村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】森木 博之
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-290024(JP,A)
【文献】特開2016-106586(JP,A)
【文献】特開2017-093332(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115438(WO,A1)
【文献】特開2016-208986(JP,A)
【文献】特開2017-000104(JP,A)
【文献】特開2016-168039(JP,A)
【文献】特開2016-082978(JP,A)
【文献】日本醸造協会誌,2015年,110(7),pp.479-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,C12C,C12G,C12H
Google Scholar
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を用いて製造されるビールテイスト飲料であって、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、
Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすことを特徴とする前記ビールテイスト飲料。
【請求項2】
Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.04を満たすことを特徴とする請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
苦味価(BU)が7.5~25である請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
飲料中のリン酸濃度が80~700ppmである請求項1~3のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
ビールテイスト飲料が、ビールテイスト発酵アルコール飲料である請求項1~4のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦芽を用いて製造されるビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを特徴とするビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
麦芽を用いて製造されるビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを特徴とするビールテイスト飲料の酸化臭の低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス-2-ノネナール等による酸化臭が低減したビールテイスト飲料、及びその製造方法、並びに、ビールテイスト飲料において、トランス-2-ノネナール等による酸化臭を低減する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
オフフレーバー(不快臭)とは食品の劣化により生じる、その食品に好ましくないとされる臭気のことをいう。ビールテイスト飲料はオフフレーバーが問題となり易い食品の一種であり、オフフレーバーが生じたビールテイスト飲料は、その飲料本来の美味しさが損なわれてしまう。ビールテイスト飲料のオフフレーバーとしては、金属臭、カビ臭、焦げ臭、ゴム臭、酸化臭など様々な臭いがあるが、酸化臭が官能上の問題となることが多い。酸化臭は、麦芽等の原料に由来する脂肪酸が、ビールテイスト飲料の製造時やその製品飲料の保存中に酸化することにより生じる酸化臭成分が原因とされている。代表的な酸化臭成分として、トランス-2-ノネナール(以下、「T2N」とも表示する。)が知られている。T2N由来の酸化臭は、紙臭等と表現されることもある。
【0003】
ビール劣化臭対策として、発酵前のビール原料に処理を加える方法も検討されている。具体的には、脂肪酸類の酸化反応に着目し、発芽穀物中のリポキシゲナーゼ等の酵素を失活させる。例えば、特許文献1には、発芽穀物を水蒸気と接触させることにより発芽穀物中の酵素活性を低減させることによって、T2Nやストレッカーアルデヒド等のアルデヒド類の生成を抑制し、劣化による異臭の発生を抑制する方法が提案されている。また、特許文献2には、発芽穀物にマイクロ波加熱処理を行って、リポキシゲナーゼ等の活性を低減させることによって、T2Nやストレッカーアルデヒド等のアルデヒド類の生成を抑制し、劣化による異臭の発生を抑制する方法が提案されている。しかし、いずれの方法も、ビール醸造前に発芽穀物を加熱処理する工程が必要であり、それにより発芽穀物が本来有する芳醇な香気の損失や、前処理にかかる煩雑な処理が必要であるなど、完全な劣化臭対策とはなっていない。
【0004】
また、特許文献3には、ビールテイスト飲料におけるトランス-2-ノネナールの生成又はシトラールの劣化による香味劣化を、ビールテイスト飲料にδカジネンを添加することにより抑制する方法が提案されている。また、特許文献4には、ハトムギの臭み成分を合成吸着剤で吸着除去したハトムギ抽出液を有効成分とするビール劣化臭抑制剤組成物をビールに添加することにより、2-ノネナールによるビール劣化臭や、紫外線による日光臭を消臭する方法が提案されている。しかし、ハトムギの抽出処理や、合成吸着剤での吸着処理には、コストや手間がかかるなど、問題があった。
【0005】
一方、ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対する外観エキス(AE)(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整すると、T2N等による酸化臭を低減できることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2007/072780号パンフレット
【文献】WO2008/156051号パンフレット
【文献】特開2014-217347号公報
【文献】特開2017-153371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、T2N等による酸化臭が簡便にかつ低コストで効果的に低減されたビールテイスト飲料;及びその製造方法;並びに、ビールテイスト飲料において、T2N等による酸化臭を簡便にかつ低コストで効果的に低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYをビールテイスト飲料を調整すると、T2N等による酸化臭を簡便にかつ低コストで効果的に低減することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ビールテイスト飲料であって、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、
Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすことを特徴とする前記ビールテイスト飲料;
(2)Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.04を満たすことを特徴とする上記(1)に記載のビールテイスト飲料;
(3)苦味価(BU)が7.5~25である上記(1)又は(2)に記載のビールテイスト飲料;
(4)飲料中のリン酸濃度が80~700ppmである上記(1)~(3)のいずれかに記載のビールテイスト飲料;
(5)ビールテイスト飲料が、ビールテイスト発酵アルコール飲料である上記(1)~(4)のいずれかに記載のビールテイスト飲料;
(6)ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを特徴とするビールテイスト飲料の製造方法;及び、
(7)ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを特徴とするビールテイスト飲料の酸化臭の低減方法;
等に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、T2N等による酸化臭が簡便にかつ低コストで効果的に低減されたビールテイスト飲料;及びその製造方法;並びに、ビールテイスト飲料において、T2N等による酸化臭を簡便にかつ低コストで効果的に低減する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例の表3の酸化臭の低減効果の評価を、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比(「X」)を横軸とし、BUに対するAEの比(AE/BU)(「Y」)を縦軸とする座標にプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
[1]ビールテイスト飲料であって、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、
Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすことを特徴とする前記ビールテイスト飲料(以下、「本発明の飲料」とも表示する。);
[2]ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを特徴とするビールテイスト飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);
[3]ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを特徴とするビールテイスト飲料の酸化臭の低減方法(以下、「本発明の酸化臭の低減方法」とも表示する。);
などの実施態様を含んでいる。
なお、本明細書において、「~」で表された数値範囲には、特に言及がない限り、「~」の両端の数値も当然含まれる。
【0013】
(ビールテイスト飲料)
本発明において「ビールテイスト飲料」とは通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを有する飲料を意味し、「ビールテイストアルコール飲料」と「ビールテイストノンアルコール飲料」が含まれる。本発明における「ビールテイスト飲料」としては、T2N等による酸化臭が問題となることが多く、本発明の効果をより多く享受する観点から、「ビールテイストノンアルコール飲料」よりも、「ビールテイストアルコール飲料」が好ましく挙げられ、「ビールテイスト発酵アルコール飲料」がより好ましく挙げられる。
【0014】
上記の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」とは、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させた、ビールテイストの発酵アルコール飲料を意味する。かかる「ビールテイストの発酵アルコール飲料」としては、ビール、発泡酒、原料として麦または麦芽を使用しないビールテイスト発泡アルコール飲料(例えば、酒税法上、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」に分類される醸造系新ジャンル飲料)および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。
【0015】
上記の「ビールテイストノンアルコール飲料」とは、未発酵のため発酵に由来するアルコール成分を含まない又は、発酵由来のアルコールを除去したノンアルコール飲料でありながらビール様の風味を持つ飲料をいう。また、本発明において「ノンアルコール飲料」とは、アルコールが全く含まれない、すなわち、エタノール濃度が0.00v/v%である飲料を意味し、「完全無アルコール飲料」と同義である。
【0016】
本発明のビールテイスト飲料は、麦芽及び/又は未発芽の麦類を原料の一部として含んでいなくてもよいが、T2N等による酸化臭がより強くなり、本発明の効果をより多く享受する観点から、麦芽使用比率が5%以上、15%以上、30%以上、50%以上、3分の2以上であることが好ましい。また、麦芽使用比率の上限としては80%未満、3分の2未満、50%未満が挙げられる。本発明において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。
【0017】
本発明のビールテイスト飲料中のトランス-2-ノネナール濃度は特に制限されないが、酸化臭がより強くなり、本発明の効果をより多く享受する観点から、好ましくは0.05ppb以上、より好ましくは0.1ppb以上、さらに好ましくは0.15ppb以上が挙げられる。
【0018】
本発明のビールテイスト飲料は、非発泡性であってもよいが、発泡性であることが好ましい。発泡性とする場合はガス圧を1.8kg/cm2(20℃)以上とするのが好ましく、2.0kg/cm2以上(20℃)とするのがより好ましい。なお、発泡性とする場合のガスは炭酸ガスを用いるのが好ましい。発酵させて製造したビールテイスト飲料のガス圧が1.8kg/cm2未満であるときはカーボネーションを行ったり、炭酸ガス含有水を添加したりすることによってガス圧を1.8kg/cm2以上とすることができる。
【0019】
本発明のビールテイスト飲料は、加熱殺菌処理を経ていなくてもよいが、T2N等による酸化臭が問題となることが多く、本発明の効果をより多く享受する観点から、加熱殺菌処理を経ていることが好ましい。
【0020】
T2N等による酸化臭が問題となることが多く、本発明の効果をより多く享受する観点から、本発明のビールテイスト飲料は、密封容器に充填された容器詰ビールテイスト飲料であることが好ましい。本発明の飲料に使用される容器としては、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは、金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、ビンが挙げられる。
【0021】
(X及びY)
本発明において、「X」は「飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比」を表し、「Y」は「苦味価(BU)に対するAE(°P)の比」を表す。本発明におけるXとYとしては、「Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たす」数値である限り特に制限されないが、酸化臭の低減効果をより多く得る、及び/又は、ビールテイスト飲料としてより好適な香味を得る観点から、「Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.04を満たす」数値であることが好ましく、「Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.05を満たす」数値であることがより好ましい。
なお、一般的に、ビールテイスト飲料にはpH調整剤としてリン酸が用いられることが多く、ビールテイスト飲料に乳酸を配合することは通常行われておらず、ましてや、ビールテイスト飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比を1.5以上とすることは従来行われていない。また、ビールの中には、乳酸発酵を伴うものがある。本発明のビールテイスト飲料は、乳酸発酵を伴うビールテイスト飲料であってもよいが、乳酸発酵を伴わないビールテイスト飲料であることが好ましい。
【0022】
本発明に用いるリン酸としては、食品に添加可能なリン酸であればいずれのリン酸であってもよく、また、リン酸の塩であってもよい。リン酸やその塩は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。リン酸の塩としては、リン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく挙げられる。本発明で用いるリン酸の塩の好適な例として、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウムが挙げられる。なお、本発明に用いるリン酸は、1種類であっても2種類以上であってもよい。なお、本発明の飲料中の「リン酸濃度」は、飲料中のリン酸及びリン酸塩を、「リン酸(無水物)」に換算して表示される。
【0023】
リン酸やその塩等は、市販されているものを用いることができる。
【0024】
本発明の飲料中のリン酸濃度としては、例えば80~700ppmが挙げられ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から、好ましくは110~500ppm、より好ましくは125~500ppm、さらに好ましくは125~375ppm、より好ましくは125~250ppmが挙げられる。
【0025】
本発明に用いる乳酸としては、食品に添加可能な乳酸であればいずれの乳酸であってもよく、また、乳酸の塩であってもよい。乳酸やその塩は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。乳酸の塩としては、乳酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく挙げられる。本発明で用いる乳酸の塩の好適な例として、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウムが挙げられる。なお、本発明に用いる乳酸は、1種類であっても2種類以上であってもよい。なお、本発明の飲料中の「乳酸濃度」は、飲料中の乳酸及び乳酸塩を、「乳酸(無水物)」に換算して表示される。
【0026】
乳酸やその塩等は、市販されているものを用いることができる。
【0027】
本発明の飲料中の乳酸濃度としては、例えば160~1400ppmが挙げられ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適な飲料を得る観点から、好ましくは210~1000ppm、より好ましくは250~1000ppm、さらに好ましくは250~750ppm、より好ましくは250~500ppmが挙げられる。
【0028】
本発明の飲料中のリン酸と乳酸の合計濃度としては、例えば240~2100ppmが挙げられ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から、好ましくはおよそ310~1500ppm、より好ましくは375~1500ppm、さらに好ましくは375~1125ppm、より好ましくは375~750ppmが挙げられる。
【0029】
本発明において、「飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比」である「X」の調整方法としては特に制限されないが、例えば、本発明の飲料の製造時に用いるリン酸や乳酸の量を調整する方法が挙げられる。用いる乳酸の量を増加し、及び/又は、用いるリン酸の量を減少させると、Xが高くなるように調整することができ、用いる乳酸の量を減少させ、及び/又は、用いるリン酸の量を増加すると、Xが低くなるように調整することができる。
【0030】
本発明において、「苦味価(BU)」とは、BCOJ ビール分析法(1997年発行)8.15 苦味価の項に記載の方法にしたがって測定される値のことを言う。具体的には、サンプル飲料に酸を加えたのち、イソオクタンで抽出し、イソオクタン層の吸光度(275nm)を測定し、かかる測定値に50を乗じて求めることができる。
【0031】
本発明の飲料の苦味価(BU)としては、例えば5~30が挙げられ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から、好ましくはおよそ7.5~25、より好ましくは10~25、さらに好ましくは10~20、より好ましくは10~15が挙げられる。
【0032】
本発明において、苦味価(BU)の調整方法としては特に制限されないが、ビールテイスト飲料の製造に用いるホップ及び/又はホップ加工品の使用量及び/又は煮沸時間を調整する方法が好適に挙げられる。一般に、ホップ及び/又はホップ加工品の使用量及び/又は煮沸時間を増加すると、製造されるビールテイスト飲料中のイソα酸等の濃度が高くなる結果、ビールテイスト飲料のBUを高くすることができ、ホップ及び/又はホップ加工品の使用量及び/又は煮沸時間を減少させると、製造されるビールテイスト飲料中のイソα酸等の濃度が低くなる結果、ビールテイスト飲料のBUを低くすることができる。上記のホップとしては、例えば、生ホップ、予め粉砕してペレット状に加工したホップペレット、当該加工に際して予めルプリン粒をふるいわけ、ルプリンを多く含んだホップペレット、また、ルプリンの苦味質、精油などを抽出したホップエキスなどを用いることができる。また、ホップ加工品としては、例えば、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、異性化ホップエキス(イソ化ホップエキス)などを用いることができる。
【0033】
ホップやホップ加工品は、市販されているものを用いることができる。
【0034】
本発明において、「外観エキス(AE)(°P)」とは、BAJ ビール分析法(1990年発行)7.2 エキスの項に記載の方法にしたがって測定される値のことを言う。具体的には、サンプル飲料の比重を測定し、その比重の値に基づいて、エキス表からエキスの値(AE;°P)を求めることができる。AEは、ビールテイスト飲料においては、麦芽等の炭素源に由来する可溶性糖分の濃度をおおむね表す。
【0035】
本発明の飲料のAEとしては、例えば0.65~3.9が挙げられ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から、好ましくはおよそ1~3.25、より好ましくは1.3~3.25、さらに好ましくは1.3~2.6、より好ましくは1.3~1.95が挙げられる。
【0036】
本発明において、AEの調整方法としては特に制限されないが、ビールテイスト飲料の製造に用いる炭素源(例えば、麦芽、米、コーンスターチ、コーングリッツ、糖類(例えば、果糖ブドウ糖液糖などの液糖)等)の使用量を調整する方法が好適に挙げられる。一般に、炭素源の使用量や糖化条件、原料を糖化させる際の酵素の使用の有無、発酵条件等によって製造されるビールテイスト飲料のAEを増減させることができる。、
【0037】
上記の炭素源としては、市販されているものを用いることができる。
【0038】
本発明において、飲料中の「苦味価(BU)に対するAE(°P)の比」である「Y」の調整方法としては特に制限されないが、例えば、AEを高くし、及び/又は、BUを減少させると、Yが高くなるように調整することができ、AEを減少させ、及び/又は、BUを増加させると、Yが低くなるように調整することができる。
【0039】
本発明において、「酸化臭(好ましくはT2Nによる酸化臭)が低減された」ビールテイスト飲料とは、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5未満であるか、又は、Yが0.07未満であるか、又は、Y<0.02X+0.03を満たすように調整すること以外は、同じ製法で製造したビールテイスト飲料(以下、「コントロール飲料」とも表示する。)と比較して、酸化臭(好ましくはT2Nによる酸化臭)が低下したビールテイスト飲料を意味する。
【0040】
あるビールテイスト飲料における酸化臭(好ましくはT2Nによる酸化臭)が、コントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、低下しているかどうか)は、訓練されたパネリストであれば容易かつ明確に決定することができる。パネリストの人数は、1名であってもよいが、好ましくは2名以上、より好ましくは3名以上、さらに好ましくは4名以上であり、上限の人数は特に制限されないが、例えば20名以下、10名以下、8名以下が挙げられる。評価の基準や、パネリスト間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができ、例えば、後述の実施例2に記載されているような評価基準サンプル飲料の酸化臭強度を参照した酸化臭強度評価(例えば1~9の9段階)等を用いた方法と同様の方法を好適に用いることができる。より具体的には、コントロール飲料における酸化臭(好ましくはT2Nによる酸化臭)を、後述の実施例2に記載されているような評価基準サンプル飲料の酸化臭強度を参照した酸化臭強度評価(例えば1~9の9段階)と比較して、酸化臭強度評価(例えば1~9の9段階)が低下しているビールテイスト飲料は、ビールテイスト飲料が低減されたビールテイスト飲料に含まれる。なお、パネリストが2名以上の場合のパネリスト間の評価のまとめ方としては、それらのパネリストの評価の平均的な評価(好ましくは、それらのパネリストの酸化臭強度評価の平均値)を、そのサンプルの評価として採用する方法が挙げられる。
【0041】
本発明において、酸化臭を含めた香味全体がより好適なビールテイスト飲料とは、あるビールテイスト飲料における、酸化臭を含めた香味全体が、コントロール飲料と比較してどのようであるか(例えば、より好適かどうか)は、訓練されたパネリストであれば容易かつ明確に決定することができる。パネリストの人数は、1名であってもよいが、好ましくは2名以上、より好ましくは3名以上、さらに好ましくは4名以上であり、上限の人数は特に制限されないが、例えば20名以下、10名以下、8名以下が挙げられる。評価の基準や、パネリスト間の評価のまとめ方は、一般的な方法を用いることができる。評価の基準としては、酸化臭(好ましくはT2Nによる酸化臭)に加えて、後述の実施例2、3の表4~6における「酸化臭以外の香味へのコメント」に記載された香味の種類(例えば、ざらつき、苦味、アルコール感、後エグ味、ボディ感、甘み、苦味、酸味、甘みと苦味のバランス、甘みと酸味のバランス、後酸味、後渋み)に着目し、ビールテイスト飲料としての香味全体として好適か評価することが挙げられる。なお、パネリストが2名以上の場合のパネリスト間の評価のまとめ方としては、それらのパネリストの評価の平均的な評価を採用する方法が挙げられる。例えば、コントロール飲料における、酸化臭を含めた香味全体と比較して、香味全体の評価が向上しているビールテイスト飲料は、酸化臭を含めた香味全体がより好適なビールテイスト飲料に含まれる。
【0042】
本発明のビールテイスト飲料は、本発明の所期の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維、着色料などの任意成分を含有することができる。
【0043】
(本発明のビールテイスト飲料の製造方法)
本発明のビールテイスト飲料の製造方法(本発明の製造方法)としては、ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整すること以外は、通常のビールテイスト飲料の製造手順に従って製造することができる。なお、XやYの調整方法は前述したとおりである。
【0044】
例えば、ビールテイスト発酵アルコール飲料については、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された麦汁に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、発酵液を醸成させて製造することができる。また、必要に応じて後述する各種添加物を原料として添加することができる。なお、ビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。
【0045】
上記製造手順において麦汁の作製は常法に従って行うことができる。例えば、醸造原料と醸造用水の混合物を糖化し、濾過して、麦汁を得、その麦汁にホップを添加した後、煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を調製することができる。また、麦汁は、糖化工程中に市販の酵素製剤を添加して作製することもできる。例えば、タンパク分解のためにプロテアーゼ製剤を、糖質分解のためにα-アミラーゼ製剤、グルコアミラーゼ製剤、プルラナーゼ製剤等を、繊維素分解のためにβ-グルカナーゼ製剤、繊維素分解酵素製剤等をそれぞれ用いることができ、あるいはこれらを混合して用いることもできる。
【0046】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外に、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物;果実、香辛料(及びその原料)、ハーブ、野菜、そば、ごま、ハチミツその他の含糖質物、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(又は、花、茶、コーヒー、ココアの調製品)、かき、こんぶ、わかめ、かつお節等の素材;を醸造原料として使用することができる。すなわち、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽、未発芽の麦類(好ましくは、未発芽大麦)及びホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。
【0047】
また、ビールテイストノンアルコール飲料については、麦芽、ホップ、その他の原料(例えば、香料、色素、食物繊維、タンパク加水分解物、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤など)、水等の原料から仕込み液を調製し、該仕込み液から静置により固形分を取り除いた後、濾過を行うことでビールテイストノンアルコール飲料を製造することができる。上記仕込み液の調製は上述のビールテイストアルコール飲料の麦汁の調製方法と同様に常法に従って行うことができる。糖化工程においては、エンド型プロテアーゼとエキソ型プロテアーゼを含む酵素製剤をタンパク分解のために使用できる。
【0048】
本発明の飲料は、場合によっては炭酸ガスを添加する工程に付し、さらに、充填工程、殺菌工程などの工程を経て容器詰飲料として提供することができる。殺菌は容器への充填前であっても充填後であってもよい。また、飲料のpHが5未満に調整されている場合には殺菌工程を経ずにそのまま充填工程を行って容器詰飲料とすることもできる。
【0049】
ビールテイスト飲料の製造工程において、リン酸や乳酸を添加する時期は特に制限されず、糖化処理前の麦汁や、糖化処理後の糖液や、発酵後の発酵液や、濾過後の濾液に添加することが挙げられる。より詳細には、糖液に添加する場合には、糖化処理後に直ちに添加してもよく、煮沸後の糖液(煮汁)に添加してもよく、煮沸後沈殿物除去後の糖液に添加してもよく、酵母接種前の冷却済の糖液に添加してもよい。また、発酵工程を経ずに、炭酸ガスを導入する場合には、炭酸ガス導入前の糖液に添加してもよく、炭酸ガス導入後の糖液に添加してもよい。
【0050】
また、ビールテイスト飲料の製造工程において、BUを調整するためにホップ及び/又はホップ加工品を用いる場合、ホップ及び/又はホップ加工品の添加によりBUを調整することができる限り、その添加時期は特に制限されないが、仕込液や、糖化処理後の糖液が挙げられる。なお、異性化されていないホップやホップエキスを用いる場合は、いずれかの段階で異性化して用いることが好ましい。
【0051】
また、ビールテイスト飲料の製造工程において、AEを調整するために液糖等の糖類を用いる場合、糖類を添加する時期は特に制限されず、糖化処理前の麦汁や、糖化処理後の糖液や、発酵後の発酵液や、濾過後の濾液に添加することが挙げられる。また、ビールテイスト飲料の製造工程において、AEを調整するために、麦芽、未発芽麦類、米、とうもろこしを用いる場合、麦芽等の添加によりAEを調整することができる限り、その添加時期は特に制限されないが、糖化処理前の仕込液に添加することが挙げられる。
【0052】
(本発明のビールテイスト飲料の酸化臭の低減方法)
本発明のビールテイスト飲料の酸化臭の低減方法(本発明の酸化臭の低減方法)としては、ビールテイスト飲料の製造において、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比をXとし、苦味価(BU)に対するAE(°P)の比をYとした場合に、Xが1.5以上であり、Yが0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たすように、X及びYを調整することを含んでいる限り特に制限されない。かかる調製方法は、上記の(本発明のビールテイスト飲料の製造方法)に記載した方法と同様の方法を挙げることができる。
【0053】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
1.[酸化臭強度をより客観的に評価するための評価基準サンプル飲料]
酸化臭強度をより客観的に評価するために、酸化臭強度の評価の基準となるサンプル飲料(「評価基準サンプル飲料」)を以下の方法で調製した。
【0055】
(評価基準サンプル飲料の調製)
市販のビール(アルコール度数5%、pH4.38)50mlに、原料用アルコールと、リン酸溶液、乳酸溶液、異性化ホップエキス、液糖を添加し、炭酸水で100mlにメスアップしてアルコール度数5%に調整した。リン酸濃度及び乳酸濃度がそれぞれ後述の表1記載の濃度となるようにリン酸溶液及び乳酸溶液を添加し、また、BU(苦味価)が表1記載の数値となるように異性化ホップエキスを添加し、また、AE(外観エキス)が表1記載の数値となるように液糖を添加し、また、トランス-2-ノネナール(T2N)濃度が表1記載の濃度となるようにT2N溶液(T2N濃度50ppb)を添加し、評価基準サンプル飲料a、b、cを調製した。なお、リン酸溶液としては、水酸化カリウムでpH4.3に調整したリン酸溶液(リン酸濃度50000ppm)を用い、乳酸溶液としては、水酸化カリウムでpH4.3に調整した乳酸溶液(乳酸濃度50000ppm)を用いた。なお、評価基準サンプル飲料のpHは、4.37~4.49の範囲内であった。
【0056】
BU(苦味価)の測定は、BCOJ ビール分析法(1997年発行)8.15 苦味価の項に記載の方法にしたがって行った。具体的には、サンプル飲料に酸を加えたのち、イソオクタンで抽出し、イソオクタン層の吸光度(275nm)を測定して求めた。また、AE(°P)の測定は、BAJ ビール分析法(1990年発行)7.2 エキスの項に記載の方法にしたがって行った。具体的には、サンプル飲料の比重を測定し、その比重の値に基づいて、エキス表からエキスの値(AE;°P)を求めた。
【0057】
【表1】
【0058】
(酸化臭強度の基準の設定)
評価基準サンプル飲料a、b、cのT2N濃度は、それぞれ0ppb、0.25ppb、0.5ppbである。これらの評価基準サンプル飲料a、b、cの酸化臭強度をそれぞれ1、4、7と設定し、以降の官能評価試験において各パネリストがサンプル飲料の酸化臭強度を1~9の9段階で評価する際には、酸化臭強度の基準として常に参照した。
【実施例2】
【0059】
2.[ビールテイスト発酵アルコール飲料の酸化臭強度への乳酸、リン酸、BU、AEの影響]
ビールテイスト発酵アルコール飲料の酸化臭強度への乳酸、リン酸、BU、AEの影響を調べるために、以下の評価試験を行った。
【0060】
(サンプル飲料の調製)
実施例1記載の方法にてビールに、リン酸溶液、乳酸溶液、異性化ホップエキス、液糖、炭酸水を添加して、リン酸濃度、乳酸濃度、BU(苦味価)、AE(外観エキス)がそれぞれ表3記載の数値となるように調整して、各サンプル飲料を調製した。なお、サンプル飲料のpHは、4.37~4.49の範囲内であった。
【0061】
(官能評価)
調製した各サンプル飲料の酸化臭に関する官能評価は以下の方法で行った。
訓練されたパネリスト5名が、評価基準サンプル飲料a、b、cの酸化臭強度を参照しつつ、各サンプル飲料の酸化臭強度を1~9の9段階で評価した。各サンプル飲料について評価した酸化臭強度の平均値とその標準誤差を表3に示す。また、各サンプル飲料の酸化臭強度の平均値に基づいて、酸化臭の低減効果を表2の3段階(〇、△、×)の基準で評価した。その結果も表3に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表3の酸化臭の低減効果の評価を、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比(「X」)を横軸とし、BUに対するAEの比(AE/BU)(「Y」)を縦軸とする座標にプロットした図を図1に示す。
【0065】
表3及び図1の結果から、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比(乳酸/リン酸)(「X」)が1.5以上であり、BUに対するAEの比(AE/BU)(「Y」)が0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.03を満たす数値であると酸化臭低減効果が得られること、さらに、Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.04を満たす数値であるとより高い酸化臭低減効果が得られることが示された。
【0066】
また、表3の評価試験で調製したサンプル飲料について、訓練されたパネリスト5名が酸化臭以外の香味を評価したコメントを表4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4の結果から、飲料中のリン酸濃度に対する乳酸濃度の比(乳酸/リン酸)(「X」)が1.5以上であり、BUに対するAEの比(AE/BU)(「Y」)が0.07~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.04を満たす数値であると、酸化臭を含めた香味全体が好適となること、さらに、Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.04を満たす数値であると、酸化臭を含めた香味全体がより好適となること、さらに、Xが2.0以上であり、Yが0.08~0.17であり、かつ、Y≧0.02X+0.05を満たす数値であると、酸化臭を含めた香味全体がさらに好適となること
が示された。
【実施例3】
【0069】
3.[ビールテイスト発酵アルコール飲料の酸化臭強度への、乳酸及びリン酸の合計濃度の影響]
ビールテイスト発酵アルコール飲料の酸化臭強度への、乳酸及びリン酸の合計濃度の影響を調べるために、以下の評価試験を行った。
【0070】
(サンプル飲料の調製)
市販のビール(アルコール度数5%、pH4.38)をサンプル1-1は16.7ml、サンプル1-2及び2-1は25ml、その他のサンプルは50ml計量し、原料用アルコールと、リン酸溶液、乳酸溶液、異性化ホップエキス、液糖を添加し、炭酸水で100mlにメスアップしてアルコール度数5%に調整した。リン酸濃度、乳酸濃度、BU(苦味価)、AE(外観エキス)がそれぞれ表5又は表6記載の数値となるように調整して、各サンプル飲料を調製した。表5では、AE/BUが0.13であり、また、乳酸/リン酸を2に維持したまま、乳酸濃度及びリン酸濃度を変化させたサンプル飲料を調製した。また、表6では、乳酸/リン酸が2であり、また、AE/BUを0.13に維持したまま、AE及びBUを変化させたサンプル飲料を調製した。
【0071】
(官能評価)
調製した各サンプル飲料の酸化臭に関する官能評価は、実施例2と同じ方法で、表2の3段階(〇、△、×)の基準で評価した。その結果を表5及び表6に示す。また、各サンプル飲料について、訓練されたパネリスト5名が酸化臭以外の香味を評価したコメントも表5及び表6に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
表5の結果から、飲料中のリン酸濃度に着目すると、例えばおよそ80~700ppmの範囲で酸化臭低減効果が認められ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から好適なリン酸濃度として、好ましくはおよそ110~500ppm、より好ましくは125~500ppm、さらに好ましくは125~375ppm、より好ましくは125~250ppmが挙げられることが示された。また、飲料中の乳酸濃度に着目すると、例えばおよそ160~1400ppmの範囲で酸化臭低減効果が認められ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から好適な乳酸濃度として、好ましくはおよそ210~1000ppm、より好ましくは250~1000ppm、さらに好ましくは250~750ppm、より好ましくは250~500ppmが挙げられることが示された。また、飲料中のリン酸と乳酸の合計濃度に着目すると、例えばおよそ240~2100ppmの範囲で酸化臭低減効果が認められ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から好適なリン酸と乳酸の合計濃度として、好ましくはおよそ310~1500ppm、より好ましくは375~1500ppm、さらに好ましくは375~1125ppm、より好ましくは375~750ppmが挙げられることが示された。
【0075】
表6の結果から、飲料中のBU(苦味価)に着目すると、例えば5~30の範囲で酸化臭低減効果が認められ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から好適なBUとして、好ましくはおよそ7.5~25、より好ましくは10~25、さらに好ましくは10~20、より好ましくは10~15が挙げられることが示された。また、飲料中のAE(外観エキス)に着目すると、例えば0.65~3.9の範囲で酸化臭低減効果が認められ、酸化臭低減効果やその他の香味の点でより好適なビールテイスト飲料を得る観点から好適なAEとして、好ましくはおよそ1~3.25、より好ましくは1.3~3.25、さらに好ましくは1.3~2.6、より好ましくは1.3~1.95が挙げられることが示された。
図1