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特許7046608高強度シリコーンエラストマー及びそのための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】高強度シリコーンエラストマー及びそのための組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220328BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220328BHJP
   C08K 5/5425 20060101ALI20220328BHJP
   C08K 5/5445 20060101ALI20220328BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220328BHJP
   C09D 183/05 20060101ALI20220328BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20220328BHJP
   A61F 2/12 20060101ALI20220328BHJP
   A61L 27/48 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/36
C08K5/5425
C08K5/5445
C08L83/05
C09D183/05
C09D183/07
A61F2/12
A61L27/48
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017563585
(86)(22)【出願日】2016-06-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 US2016037801
(87)【国際公開番号】W WO2016205468
(87)【国際公開日】2016-12-22
【審査請求日】2019-04-08
(31)【優先権主張番号】62/181,712
(32)【優先日】2015-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516290357
【氏名又は名称】ヌシル テクノロジー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・キハラ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス・ランバート
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/133639(WO,A1)
【文献】特開平10-219115(JP,A)
【文献】特開平09-328615(JP,A)
【文献】特開2015-052026(JP,A)
【文献】特開2015-052027(JP,A)
【文献】特開2012-180526(JP,A)
【文献】特開2012-211232(JP,A)
【文献】特開2013-227474(JP,A)
【文献】特開2013-082907(JP,A)
【文献】特開2013-198718(JP,A)
【文献】特開2013-067677(JP,A)
【文献】特開2013-064090(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017579(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/042707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C09D183/00-183/16
C09J183/00-183/16
A61F 2/00- 17/00
A61L 2/00-101/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100部;
(B)分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン 0.1~5部;
(C)無機フィラー 10~50部;及び
(D)フィラー処理剤 2~8部
を含む組成物の硬化生成物である、シリコーンエラストマーであって、
成分(A)のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、
・分子末端が、ケイ素結合アルケニル基を有するトリオルガノシロキシ基によってキャッピングされ、主鎖が、繰り返されるジオルガノシロキサン単位を含む直鎖構造を有する構造と、
・3000~8000の数平均重合度と
を有し、
但し、前記組成物は、非末端繰り返し単位がビニル基を有するジオルガノビニルシロキシ末端ポリジオルガノシロキサンを含まないことを条件とし、
成分(B)のオルガノハイドロジェンシロキサンが、両方の分子末端においてトリメチルシロキシ基でキャッピングされている、ジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサンのオルガノハイドロジェンシロキサンコポリマーであり、
成分(C)の無機フィラーが、100平方メートル/グラム以上の範囲のBET比表面積を有するフュームドシリカを含み、それが成分(C)の総量の30質量%以上を占め、
成分(D)のフィラー処理剤が、(D1)アルケニルを有しないオルガノシラン又はオルガノシラザン及び(D2)アルケニル含有オルガノシラン又はオルガノシラザンの混合物を含み、D1及びD2が、15:1~5:1の質量部比(D1:D2)を有する、シリコーンエラストマー。
【請求項2】
前記組成物が、(E)触媒として有効量の付加反応触媒をさらに含む、請求項1に記載のシリコーンエラストマー。
【請求項3】
前記組成物が、硬化遅延剤をさらに含む、請求項1に記載のシリコーンエラストマー。
【請求項4】
D1がアルキル置換シラザンであり、D2がビニル置換シラザンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシリコーンエラストマー。
【請求項5】
前記組成物が、溶媒をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のシリコーンエラストマー。
【請求項6】
前記無機フィラーが、前記組成物中に25~50部存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載のシリコーンエラストマー。
【請求項7】
(i)タイプAデュロメータ硬さ試験機を使用してASTM D2240に準拠して測定して2~45のショアA硬度;
(ii)ASTM D412に準拠して測定して少なくとも800%の破断時伸び;及び
(iii)少なくとも15.0MPaの引張強度
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のシリコーンエラストマー。
【請求項8】
(1)
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100部;
(B)分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン 0.1~5部;
(C)無機フィラー 10~50部;及び
(D)フィラー処理剤 2~8部
を含む組成物を形成させる工程であって、
成分(A)のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、
・分子末端が、ケイ素結合アルケニル基を有するトリオルガノシロキシ基によってキャッピングされ、主鎖が、繰り返されるジオルガノシロキサン単位を含む直鎖構造を有する構造と、
・3000~8000の数平均重合度と
を有し、
前記組成物は、非末端繰り返し単位がビニル基を有するジオルガノビニルシロキシ末端ポリジオルガノシロキサンを含まず、
成分(B)のオルガノハイドロジェンシロキサンが、両方の分子末端においてトリメチルシロキシ基でキャッピングされている、ジメチルシロキサンとメチルハイドロジ
ェンシロキサンのコポリマーであり、
成分(C)の無機フィラーが、100平方メートル/グラム以上の範囲のBET比表面積を有するフュームドシリカを含み、それが成分(C)の総量の30質量%以上を占め、
成分(D)のフィラー処理剤が、(D1)アルケニルを有しないオルガノシラン又はオルガノシラザン及び(D2)アルケニル含有オルガノシラン又はオルガノシラザンの混合物を含み、D1及びD2が、15:1~5:1の質量部比(D1:D2)を有する、工程と、
(2)
前記組成物を硬化させて、シリコーンエラストマーを形成させる工程と
を含む、シリコーンエラストマーの製造方法。
【請求項9】
前記組成物を硬化させる前に、前記組成物を溶媒と混合して前記組成物の分散液又は溶液を形成する工程;及び/又は、
前記組成物を基材上に浸漬コーティング又はスプレーコーティングし、かつ前記組成物を硬化させて、硬化シリコーンエラストマーを形成する工程
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載のシリコーンエラストマーからなるコーティング又は部材を含む医療デバイス。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載のシリコーンエラストマーからなるコーティング又は部材を含む外殻を含む医療デバイス。
【請求項12】
シリコーンゲル又は含水媒体から選択される充填材をさらに含む、請求項11に記載の医療デバイス。
【請求項13】
乳房インプラントである、請求項12に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
この出願は、2015年6月18日に出願した米国仮出願第62/181,712号の利益を主張し、その全開示を本明細書に参照により援用する。
【0002】
ここでの開示は、シリコーンエラストマー組成物、及び医療デバイス、例えば、乳房インプラント、医療用バルーン、及び医療用チューブなどに使用するのに適した、その組成物からの製品に関する。
【背景技術】
【0003】
シリコーンエラストマーは、その多様かつ望ましい特性によって、幅広い適用可能性を有している。シリコーンエラストマーは、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、触媒、及び任意選択により場合によって無機フィラーを含む組成物から調製することができる。
【0004】
例えば、国際公開第2013/137473号は、医療デバイス及び医療用チューブのためのシリコーンエラストマー組成物及び弾性材料に関する。この刊行物は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、無機フィラー、及び触媒を含むエラストマー組成物を開示している。硬化した生成物は、40以上の硬さ、500%以上の破断時伸び、降伏点がなく、7.0MPa以上の引張強度を有すると特徴づけられている。引張強度は、特に、好ましくは8.25~14.0MPaである。このシリコーンエラストマー製品は、その他の用途のなかでもとりわけ医療用チューブに使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/137473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、とりわけ医療デバイス用途のために適切な特性を有するシリコーンエラストマーに対する継続的な必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この開示の利点は、シリコーンエラストマーを形成するための組成物、及び改善された特性を有しかつ医療デバイスのために使用できる、その組成物からのシリコーンエラストマーを含む。
【0008】
これらの及びその他の利点は、少なくとも部分的には、シリコーンエラストマーを形成するための組成物によって満足され、その組成物は、(A)ケイ素結合アルケニル基(silicon-bonded alkenyl group、ケイ素に結合したアルケニル基)を有するオルガノポリシロキサン;(B)分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子(silicon-bonded hydrogen atom、ケイ素に結合した水素原子)を有するオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)無機フィラー;及び(D)アルケニル基含有基(alkenyl-containing group)を含むフィラー処理剤、を含む。アルケニル基を有するフィラー処理剤と無機フィラーは別々の成分として組成物中に含まれることができる一方で、ここで開示するシリコーンエラストマー組成物は、別個の成分として無機フィラー及び処理剤に変えて、又は無機フィラー及び処理剤に加えて、(C1)アルケニル基を有する無機フィラーを有利に含むことができる。組成物は、(E)触媒として有効な量の付加反応触媒及び/又は硬化遅延剤をさらに含むことができる。
【0009】
組成物の態様は、以下の特徴の1つ以上を別個に又は組み合わせて有する。例えば、いくつかの態様では、無機フィラーが約100平方メートル/グラム以上の範囲、例えば約100~400平方メートル/グラムのBET比表面積を有するヒュームドシリカを含む場合に、それは成分(C)の総量の約30質量%以上を占めることができる。別の態様では、フィラー処理剤は、(D1)アルケニルを含まない、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせと(D2)アルケニルを含む、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせの混合物であることができ、例えば、フィラー処理剤は、(D1)アルケニルを含まないオルガノシラン又はオルガノシラザンと(D2)アルケニルを含むオルガノシラン又はオルガノシラザンの混合物であることができる。なおさらなる態様では、D1/D2の質量比は、約99/1~約50/50である。
【0010】
ここでの開示の別の側面は、シリコーンエラストマーを調製する方法を含む。その方法は、ここで開示したシリコーンエラストマー組成物を硬化させる工程を含み、その組成物を圧縮成形、トランスファー成形、又は射出成形する工程及び/又はその組成物を基材上に浸漬コーティング(ディップコーティング)又はスプレーコーティングし、その組成物を硬化させて硬化したシリコーンエラストマーを形成する工程を含むことができる。
【0011】
ここでの開示の別の側面は、(i)タイプAデュロメータ硬さ試験機を使用してASTM D2240に準拠して測定して約20~約45のショアA硬度;(ii)ASTM D412に準拠して測定して少なくとも約800%の破断時伸び;及び(iii)少なくとも約15.0MPaの引張強度、を有するシリコーンエラストマーを含む。ここでの開示する態様において、上記シリコーンエラストマーは、ここに記載したシリコーンエラストマー組成物から調製される。
【0012】
ここでの開示の別の側面は、ここで開示するシリコーンエラストマーを組み込んだ医療デバイス(medical device)を含む。そのような医療デバイスには、例えば、組織拡張器、胃制限又は胃内バルーン、薬物送達容器又は薬剤分配デバイス、人工装具、例えば乳房インプラントが含まれる。人工装具(補綴デバイス)としては、ここで開示するシリコーンエラストマーは、そのデバイスの外殻(シェル)又は外殻の構成物として含まれることができる。そのようなデバイスは、典型的には、充填材、例えば、シリコーンゲル、含水媒体、例えば、生理食塩水などの水溶液、複合材料、空気などの気体等も含む。
【0013】
本発明の追加の利点は、以下の詳細な説明から当業者に容易に明らかになるだろう。詳細な説明では、本発明の好ましい態様のみが示され、説明されており、それは単に本発明を実施することを考えた最良の態様(ベストモード)を説明することを目的とするものである。理解されるとおり、本発明は別の異なる態様であることができ、そのいくつかの詳細な点は全て本発明から離れることなしに様々な自明な点で変更することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[ここでの開示の詳細な説明]
ここでの開示は、シリコーンエラストマー製品へ硬化させることができる付加硬化性シリコーンエラストマー組成物に関する。この硬化したシリコーンエラストマーは、例えば、埋め込み可能な又は非埋め込み型の医療デバイスに用いるために適した特性を有することができる。さらに、ここでの開示は有利には、医療デバイス、例えば、乳房インプラント、医療用バルーン、又は医療用チューブの部分としての、前記シリコーンエラストマー組成物の成形硬化製品に関する。
【0015】
ここでの開示によるシリコーンエラストマー組成物は、タイプAデュロメータ硬さ試験機を使用してASTM D2240に準拠して測定して約20~約45の硬度(以下では、「ショアA硬度」又は「硬度」という)を有し、800%以上の破断時伸びを有し、ある形状に成形した場合に、15.0MPaより大きな優れた引張強度を示すことによって、破壊の危険を避けることができる生成物に硬化させることができる。このシリコーンエラストマーはまた、良好な引裂強度(これは医療ポンプチューブ又は埋め込み可能なもしくは非埋め込み型医療デバイスを形成するために特に有利である)、並びに低モジュラス(広い範囲の引張値にわたる低い応力)、低い引張ひずみ、好ましい圧縮ひずみ、及び低いヒステリシスを有することもできる。そのような特性は、シリコーンエラストマーを例えば様々な医療デバイスの一部として用いるときに有利である。
【0016】
ここでの開示の一つの側面では、シリコーンエラストマー組成物は以下のものを含む:
(A)ケイ素結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン;(B)分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)無機フィラー;及び(D)少なくとも1つのフィラー処理剤、好ましくは複数のフィラー処理剤の混合物。この組成物は、(E)触媒として有効な量の付加反応触媒をさらに含むことができるか、あるいは触媒は、成分(A)~(D)を含む組成物に後で加えることができる。組成物が触媒(E)を含む場合、硬化遅延剤(すなわち抑制剤)をさらに含むことが好ましい。
【0017】
シリコーンエラストマー組成物中に、アルケニル基(例えばビニル基)を有するフィラー処理剤を含有させることは、優れた特性をもつ硬化したシリコーンエラストマーを作り出すことを驚くべきことに発見した。アルケニル基を有するフィラー処理剤が、組成物の中の他の成分、例えばオルガノハイドロジェンシロキサンとの化学的反応に利用可能なアルケニル基を有する無機フィラーを作り出すと考えられる。さらに、そのような無機フィラーが、硬化したシリコーンエラストマーの高分子網目中に化学的に組み込まれることができ、これが生成物の改善された特性をもたらすと考えられる。
【0018】
アルケニル基を有するフィラー処理剤と無機フィラーは、別々の成分として組成物中に含有されることができる一方、ここで開示するシリコーンエラストマー組成物は、別々の成分としての無機フィラー及び処理剤の代わりに又はそれらに加えて、(C1)アルケニル基を有する無機フィラーを含有させることができる。ここでの開示の別の側面では、シリコーンエラストマー組成物は、(A)ケイ素結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン;(B)分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン;及び(C1)アルケニル基を有する無機フィラーを含む。この組成物は、(E)触媒として有効な量の付加反応触媒をさらに含むことができ、又はその触媒は成分(A)から(C1)を含む組成物に後で加えることができる。組成物が触媒(E)を含む場合、硬化遅延剤(すなわち抑制剤)をさらに含むことが好ましい。
【0019】
(C1)アルケニル基をする無機フィラーは、(C)無機フィラーを(D)フィラー処理剤、例えば、少なくとも1つアルケニル基を含むオルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせと混合することによって調製することができる。好ましくは、(C1)は、(C)無機フィラーを処理剤の混合物と混合することによって調製され、処理剤の混合物は(D1)アルケニルを含まない、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせと(D2)アルケニルを含む、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせを含むことができる。ここでの開示のある態様では、無機フィラーはヒュームドシリカを含み、フィラー処理剤はアルキルシラザン及びアルケニル含有シラザンの混合物を含み、(C1)アルケニル基を有する無機フィラーは、ヒュームドシリカとそのフィラー処理剤の混合物とから調製される。
【0020】
ここでの開示によるシリコーンエラストマー組成物の成分は、通常、(A)約100質量部の、ケイ素結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン;(B)約0.3~約20部の、分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)約10~約50質量部の無機フィラー;及び(D)約0.05~約20部の、アルケニルを含むオルガノシラン又はオルガノシラザンを含むフィラー処理剤である。ここでの開示のある態様では、組成物は(D)を約2~約8部で含む。あるいは、シリコーンエラストマー組成物は、100部の成分(A);約0.3~約20部の成分(B);及び、約10~約50部の、アルケニル基を有する無機フィラー(C1)を含むことができる。成分(A)、(B)、(C)、(C1)、及び(D)についての組成の質量部は、成分(A)に対する質量部をいう。組成物は、(E)触媒として有効量の付加反応触媒及び/又は硬化遅延剤をさらに含むことができる。
【0021】
ここでの開示によるある態様では、シリコーンエラストマー組成物は以下のものを含む:(A)100質量部の、ケイ素結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン(好ましくは、成分(A)は、室温において原料ゴムの状態又はガムの状態を示し、かつ、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定して、ポリスチレン換算分子量での数平均分子量に基づいて、2000以上の数平均重合度、並びに、オルガノポリシロキサン上の平均で2以上のケイ素結合アルケニル基、及び0.10質量%未満のアルケニル基含有量を有する);(B)0.3~20部の、分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン;(C)10~50質量部の無機フィラー;及び(D)0.05~20部の、(D1)アルケニルを含まない、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせと(D2)アルケニルを含む、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせとの混合物を含むフィラー処理剤;及び(E)触媒として有効量の付加反応触媒、例えば、混合された全ての他の成分に対する、元素金属の質量比に基づいて約0.00001~約0.1部の付加反応触媒、例えば白金。
【0022】
ここでの開示の別の態様では、シリコーンエラストマー組成物は以下のものを含む:(A)100質量部の、ケイ素結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン;(B)0.3~20部の、分子中に平均で2以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンシロキサン;及び(C1)10~50部の、アルケニル基を有する無機フィラー。
【0023】
ここでの開示による組成物は、成分(A)を含み、成分(A)は組成物の最も多い質量部を構成する。そのようにして、成分(A)は、組成物の物理特性を実現する特徴的成分であることができる。ここでの開示のある態様では、成分(A)は、室温において原料ゴムの状態又はガムの状態を示し、ケイ素結合アルケニル基を含み、かつケイ素結合アルケニル基の低い含有量を有するオルガノポリシロキサンである。
【0024】
成分(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定して、標準ポリスチレン換算の数平均分子量に基づいて2000以上の数平均重合度(以下、「数平均重合度」という)を好ましくは有し、室温において原料ゴムの状態又はガムの状態を示すオルガノポリシロキサンである。そのうえ、周知の手段、例えばストリッピングを用いることによって、予めこれらの成分(A)から低分子量シロキサンの濃度を低減することができ、かつ低減することが好ましい。
【0025】
オルガノポリシロキサンは、炭化水素基Rを有するシロキサン単位(例えば、-SiOR-)を含むことができ、ここで各Rは同じであるか異なることができ、置換又は非置換の一価の炭化水素基である。そのようなR基は1~10個の炭素、好ましくは1~8個の炭素を有することができる。
【0026】
Rで表される、ケイ素原子に結合した置換又は非置換の一価の炭化水素基の例には、アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基;アリール基、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基;アラルキル基、例えば、ベンジル基、フェネチル基、及びフェニルプロピル基;アルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、及びオクテニル基;前述の基中の水素原子のいくつか又は全てをハロゲン原子、例えばフッ素原子、臭素原子、及び塩素原子、シアノ基などで置換することによって得られる基、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、及びシアノエチル基が含まれるが、R基の90%以上がメチル基であることが好ましい。
【0027】
成分(A)は、2000以上の数平均重合度を有し、平均で2以上のケイ素結合アルケニル基を有し、室温において原料ゴムの状態又はガムの状態を示すオルガノポリシロキサンであることができる。この成分の構造に関しては、ケイ素結合アルケニル基の含有量は、重合度及び主鎖上の分枝の存在/不存在によって決定されるが、成分(A)は、好ましくは直鎖又は部分的に分岐したオルガノポリシロキサンであって、そのアルケニル基含有量が0.001~0.1質量%であり、さらに好ましくは、両方の分子末端において、平均して2つ以上のケイ素結合アルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0028】
ここでの開示のある側面では、成分(A)の構造は、分子末端が、ケイ素結合アルケニル基を有するトリオルガノシロキシ基によってキャッピングされ、主鎖が、繰り返えされるジオルガノシロキサン単位を含む直鎖構造を有するものであるが、部分的に分岐した鎖構造であってもよい。成分(A)の分子量は、数平均重合度が2000以上(2000~100000)であり、成分(A)が原料ゴムの状態又はガムの状態を示すようなものであり、数平均重合度は好ましくは3000以上(3000~8000)である。数平均重合度が前述した下限よりも小さい場合には、満足できるゴムの感触を得ることが困難であり、表面が粘着性又はべたつくようになりうる。
【0029】
成分(B)のオルガノポリシロキサンは、本組成物のための架橋剤であって、分子中に平均で2個以上のケイ素結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。成分(B)中のケイ素結合水素原子の結合位置は特に限定されないが、分子末端、又は分子鎖に対する(分子鎖に沿った)ペンダント(ぶら下がり)、又は分子末端及び分子鎖に対するペンダントであってよい。加えて、成分(B)中の水素原子以外のケイ素結合基の例には、一価炭化水素基、例えば、アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基;シクロアルキル基、例えば、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基;アリール基、例えば、フェニル基、トリル基、及びキシリル基;アラルキル基、例えば、ベンジル基及びフェネチル基;ハロゲン化アルキル基、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基及び3-クロロプロピル基;アルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、及びオクテニル基が含まれ、アルキル基及びアリール基が好ましく、メチル基及びフェニル基が特に好ましい。
【0030】
成分(B)の分子構造は限定されず、例えば、直鎖、分岐鎖、いくらか分岐を有する直鎖、環状、樹木状(デンドリマー状)、又はレジン状であることができる。成分(B)はこれらの分子構造を有するホモポリマー、これらの分子構造を含むコポリマー、又はそれらの混合物であってよい。
【0031】
成分(B)の粘度は限定されないが、(回転式粘度計などを使用して測定して)25℃における粘度が好ましくは1~100000mPa-s、さらに好ましくは1~10000mPa-s、特に好ましくは1~5000mPa-sである。
【0032】
このタイプの成分(B)の例には、両方の分子末端においてトリメチルシロキシ基でキャッピングされているメチルハイドロジェンンポリシロキサン、両方の分子末端においてトリメチルシロキシ基でキャッピングされているジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサンのコポリマー、両方の分子末端においてジメチルハイドロジェンシロキシ基でキャッピングされているジメチルポリシロキサン、両方の分子末端においてジメチルハイドロジェンシロキシ基でキャッピングされているメチルハイドロジェンポリシロキサン、両方の分子末端においてジメチルハイドロジェンシロキシ基でキャッピングされているジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサンのコポリマー、環状のメチルハイドロジェンポリシロキサン;式(CHSiO1/2で表されるシロキサン単位、式(CHHSiO1/2で表されるシロキサン単位、及びSiO4/2で表されるシロキサン単位を含むオルガノシロキサン;テトラ(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シラン、及びメチルトリ(ジメチルハイドロジェンシロキシ)シランが含まれる。
【0033】
本組成物においては、成分(B)の含有量は成分(A)100質量部当たり0.1~20質量部であり、かつ好ましくは、成分(B)中のケイ素結合水素原子の量は、成分(A)中のケイ素結合アルケニル基1モル当たり、1.0~20モル、さらに好ましくは1.0~10モル、特に好ましくは1.0~6モルとなる量である。これは、成分(B)の量が上述した範囲の下限より低いと、架橋が不十分になり、得られた硬化したシリコーンエラストマー生成物の硬度が不足し、表面が粘着性又はべたつくようになりうる。一方で、成分(B)の含有量が上述した範囲の上限を超える場合、水素ガスが、得られた硬化したシリコーンエラストマー生成物から発生し、発泡が成形製品中で生じ、型から成形製品を取り外すことが困難になりうる。成分(B)の好ましい配合量は、成分(A)100質量部当たり、0.1~10質量部、特に0.1~5質量部である。
【0034】
成分(C)は無機フィラーであり、これはシリコーンエラストマーにその他の特性のなかでもとりわけ強度を付与する。フィラーは、下で説明するように、そのフィラーがシリコーンエラストマーに硬度及び永久伸びを付与する限り限定されない。一種以上の無機フィラーを用いることができ、成分(C)は、強化フィラー、例えば、シリカ微粉末もしくはヒュームド酸化チタン;非強化フィラー、例えば、珪藻土、アルミノシリケート、酸化鉄、酸化亜鉛、もしくは炭酸カルシウム;又は、熱伝導性フィラー、例えば、酸化アルミニウムもしくは窒化ホウ素であることができる。シリカ微粉末は、乾式タイプのシリカ、例えば、ヒュームドシリカ、又は合成シリカ、例えば、湿式シリカであることができ、好ましくは、BET法を用いて測定して、約100平方メートル/グラム以上、より好ましくは100~400平方メートル/グラム、例えば、約130~350平方メートル/グラム、例えば、約200~約325平方メートル/グラムの比表面積を有する。ここで開示するある態様では、無機フィラーは成分(C)の総量の少なくとも30質量%を占めるヒュームドシリカを含み、例えば、無機フィラーは成分(C)の総量の50質量%以上、80質量%以上含む。
【0035】
加えて、成分(C)の無機フィラーの配合量は、成分(A)100質量部当たり、10~100質量部、好ましくは10~50質量部、例えば、25~35質量部である。その配合量が前述した下限より少ない場合、満足できる硬度又は物理的強度を達成することが困難であり、弾性が低下し、引張強度及び破断時伸びが特に低下し、また、その配合量が前述した上限を超える場合には、その組成物は医療デバイスとしての使用に適していないおそれがある。
【0036】
成分(C)の無機フィラー(例えば、ヒュームドシリカ)はさらなる変性なしに使用できるが、予め表面処理剤、例えば、成分(D)で処理して、アルケニル基を有する無機フィラーを形成することもできる。表面処理剤の例は、成分(D)について下に提供されている。
【0037】
成分(D)は、アルケニル含有を含む無機フィラーのための表面処理剤である。そのようなフィラー処理剤の例には、アルケニルを有する、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせを含む。ここで開示する一つの側面では、フィラー処理剤である成分(D)は、(D1)アルケニルを含まない、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせと(D2)アルケニルを含む、オルガノシラン、オルガノシラザン、オルガノシラノール、アルコキシオルガノシラン、又はそれらの任意の組み合わせとの混合物、例えば、(D1)アルケニルを含まないオルガノシラン又はオルガノシラザンと(D2)アルケニルを含むオルガノシラン又はオルガノシラザンとの混合物である。例えば、フィラー処理剤は、(D1)アルキル、アリール、ハロアルキル、又はハロアリール基を含み、かつアルケニル官能基が0質量%のオルガノシラン又はオルガノシラザン、例えば、シラン、クロロシラン、シラザン、アルキル置換された、シラン、クロロシラン、シラザンと、(D2)アルケニル官能基を、又は(i)アルキル(例えばC1-8アルキル)、アリール、ハロアルキル、又はハロアリールと(ii)アルケニル官能基の両方を含むオルガノシラン又はオルガノシラザン(例えば、C1-8アルキル、アリール、ハロアルキル、又はハロアリールとビニルとで置換されたシラン又はシラザン)との混合物を含むことができる。この混合物は、約99/1~約50/50、好ましくは約99/5~約80/20、例えば、約92/8~約88/12のD1/D2の質量比を含む。ここで開示するある態様では、D1及びD2は、約15:1~約5:1の質量部比(D1:D2)を有する。
【0038】
上で説明したとおり、無機フィラーの上に形成されたアルケニル基は、組成物中の他の成分と化学的に反応することができ、例えば、組成物中の他の成分と共有結合を形成して、硬化したシリコーンエラストマー中に組み込まれた化学的に結合したフィラーを形成することができると考えられる。この網目の他の部分の構造又は「アーキテクチャ」も考慮すべき事項であり、それにはその共有結合によるポリマー-シリカ結合に加えて、ポリマーとポリマーの架橋及び非共有結合によるポリマーとシリカの相互作用(主に、表面の濡れ及び水素結合)が含まれる。これらの因子のバランスが、ここでの開示によるシリコーンエラストマーの最終的かつ望ましい特性をもたらす。下の実施例で示すとおり、アルケニル基をもつフィラー処理剤を含んだ組成物(例1~4)は、フィラー処理剤を含むがアルケニル基がない比較例(比較例1)に対して優れた引張強度をもたらした。
【0039】
成分(E)の付加反応触媒は、本組成物の硬化を促進するために用いられる触媒であり、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などであることができる。白金金属タイプの触媒が特に好ましい。
【0040】
成分(E)の例には、白金系触媒、例えば、白金微粉末、白金ブラック、塩化白金酸、四塩化白金、アルコール変性塩化白金酸、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、白金のカルベン錯体、微細に分割した支持体、例えばシリカ上の白金、これらの白金系触媒を含む粉末化熱可塑性有機樹脂及びシリコーン樹脂;ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、その他の遷移金属系触媒が含まれる。
【0041】
本組成物中の成分(E)の含有量は触媒量であるが、より具体的には、成分(E)中の白金族金属の量が、成分(A)の総量に対して質量で0.01~1000ppm、好ましくは質量で0.1~500ppmとなる量である。これは、成分(E)の含有量が前述の範囲の下限未満である場合、得られたシリコーンエラストマー組成物は十分に硬化されず、成分(E)の含有量が前述した範囲の上限より上である場合、得られたシリコーンエラストマー組成物の硬化速度が有意には改善されないからである。
【0042】
ここでの開示にしたがうシリコーンエラストマー組成物は、上述した成分(A)~(E)を含むことができるが、(F)不活性溶媒を含むこともできる。
【0043】
最終的に使用する製品が低粘度であることが必要である場合、例えば、組成物を基材、例えば医療デバイス上にスプレー又は浸漬コーティングする場合、成分(F)を用いることが特に好ましい。成分(F)は、必要な場合には配合してもよい任意成分であり、その配合量は、成分(A)100質量部当たり、100質量部より多く、好ましくは100~1000質量部である。
【0044】
ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマーは、硬化速度又はポットライフを調節するために硬化遅延剤を含んでもよい。硬化遅延剤の例には、炭素-炭素三重結合を有するアルコール誘導体、例えば、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、フェニルブチノール、及び1-エチニル-1-シクロヘキサノール;エン-イン化合物、例えば、3-メチル-3-ペンテン-1-イン及び3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン;アルケニル基含有低分子量シロキサン、例えば、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン及びテトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサン;並びに、アルキン含有シラン、例えば、メチル-トリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン及びビニル-トリス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シランが含まれる。
【0045】
硬化遅延剤の配合量は、その付加硬化性シリコーンエラストマー組成物の使用方法、成形方法などにしたがって適切に選択することができる。通常使用される配合量は、組成物の総量に対して0.001~5質量%である。
【0046】
ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物は、エラストマーの特性を損なわない限り、カーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、又はチャンネルブラックを含んでもよい。さらに、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物は、必要な場合には、添加剤、例えば、顔料(赤色酸化鉄及び有機顔料、二酸化チタンなどの着色剤)、耐熱性改良剤、難燃剤、内部離型剤、可塑剤、非官能性シリコーンオイルなどを含んでもよい。さらに、内部離型剤の例には、高級脂肪酸塩、例えば、ステアリン酸カルシウムが含まれる。さらに、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物が高温に、例えば、加熱殺菌において又は熱電対において高温に曝される環境中で医療用チューブとして使用される場合、耐熱性改良剤及び難燃剤などの添加剤を用いることが特に好ましい。
【0047】
ここで開示するシリコーンエラストマー組成物は、成分(A)から(E)を場合によってはいずれか任意の成分とともに均一に混合することによって容易に調製できる。成分及び材料を混合することは、任意の慣用手段、例えば、モアハウス・カウレスミキサー(Morehouse Cowles mixer)、二本ロールミル、又はニーダーミキサーによって達成されうる。
【0048】
ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物を成形又は硬化させる方法は、通常使用される方法であってよいが、成形方法は好ましくは射出成形法、圧縮又はトランスファー成形法、押出成形法(熱空気硬化)、浸漬(ディップ)成形法、スプレー成形法、又は回転成形法である。加えて、硬化温度及び硬化時間などの硬化条件は特に限定されず、良好な硬化は一般に室温から220℃の温度で実施される。医療デバイス、例えば、医療用チューブ用の弾性材料の工業生産の展望からは、3秒~60分の間80~230℃、好ましくは5秒~30分の間100~200℃の熱硬化条件を用いることができる。加えて、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物を150℃で10分間プレス硬化(圧縮硬化)させることによって、上で記載したとおり、医療デバイス用の弾性材料は適切な硬度及び永久伸び特性を示すことができるが、段階的な加硫(ステップ硬化)によって、例えば、一次加硫を行い、次に二次加硫を行うことによって、組成物を硬化させることもできる。しかし、そのような場合には、生産に必要とされるサイクルタイムは増大し、生産性が低下しうる。
【0049】
特に、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物は、上述した温度において一工程で硬化することができる。さらに、永久伸びなどの特性は、組成物を室温から150℃、好ましくは60℃~150℃の温度に最初に加熱し、次に80~200℃に、好ましくは100~180℃に加熱するステップ硬化によってさらに向上されうる。加えて、少量又は微量の揮発成分を除去し、さらに永久伸びなどの特性をさらに向上させるために、硬化の完了に続いて150~250℃で10分~8時間のあいだ二次加硫(ヒートエージング)を行うことが好ましい。
【0050】
上述した構成を有することによって、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物は、タイプAデュロメータ硬さ試験機を使用してASTM D2240に準拠して測定して約20~約45の硬度(ショアA硬度)を有する硬化生成物をもたらすことによって特徴付けられる。このショアA硬度は好ましくは25~45である。硬度が前述した範囲から外れると、硬化生成物の強度及び柔軟性が不十分になるおそれがあり、硬化生成物が医療デバイスとしての使用に適しなくなりうる。
【0051】
さらに、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物の硬化生成物は、約15.0MPa以上、より好ましくは約15.0~約21.0MPa、特に好ましくは約17.0~約21.0MPaの、ASTM D412で特定される引張強度を有する。
【0052】
加えて、医療デバイス用の弾性材料としての強度の視点からは、硬化生成物は、約800%以上、好ましくは約800~約1300%の、ASTM D412で特定される破断時伸びを有する。さらに、破断時伸びは、上述した硬度が35~45である場合に好ましくは約800~約1000%、さらに好ましくは上述した硬度が約20~約35である場合に約800~約1200%である。
【0053】
上述した硬度、破断時伸び、及び引張強度などの物理特性は、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物の構成の直接の結果として、特に、規定した成分(A)、(B)、(C)、及び(D)、又は(A)、(B)、及び(C1)を用いる結果として達成される物理特性である。さらに、医療デバイス、例えば、医療用チューブ用の弾性材料としての使用の視点からは、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物は、ASTM D412に準拠して測定して、150℃で10分間のプレス硬化後に0.30~5.0MPaの、特に好ましくは0.3~2MPaの100%モジュラス(M100)を有する。
【0054】
同様に、医療デバイス用の弾性材料としての強度及び耐用期間の視点からは、ここでの開示にしたがう付加硬化性シリコーンエラストマー組成物は、好ましくは、三日月形モールドを使用するASTM D684に準拠して測定して、30kN/m以上、特に30~50kN/mの引裂強度を有する。
【0055】
ここでの開示の別の側面は、ここで開示するシリコーンエラストマーを含む医療デバイスを含む。ここで開示するシリコーンエラストマーは、組織拡張器、胃制限又は胃内バルーン、人工尿道括約筋、薬物送達容器又は薬剤分配デバイス、人工装具、例えば乳房インプラント、人工精巣、人工ペニス、人工カーフ(子牛皮)、人工臀部、眼の人工硝子体、膨張式の顔用補綴具として機能する医療デバイスの構成部分であることができる。ここで開示するシリコーンエラストマーは、埋め込み可能な機械装置、例えば、弁(バルブ)、手指関節、又は足指関節などの構成部分としても使用することができる。ここで開示するシリコーンエラストマーは、医療デバイス、例えば、ステント、電子デバイス、例えばペースメーカーの筐体、又は機械デバイス、例えば圧力変換器もしくはひずみゲージについてはそれらのコーティング又は部材、又はカテーテルに、あるいはドレインもしくはポンプの管として用いることができる。
【0056】
人工装具(補綴デバイス)としては、ここで開示するシリコーンエラストマーは、そのデバイスの外殻(シェル)又は外殻の構成物として含まれることができる。そのようなデバイスは、典型的には、充填材、例えば、シリコーンゲル、含水媒体、例えば、生理食塩水などの水溶液、複合材料、空気などの気体等も含む。外殻(シェル)は、典型的には、充填材を包み、その外殻の中に充填材を封じこめる構成要素、例えば、その充填材材料を含むための連続的な障壁を確立するためのパッチ、弁(バルブ)、又はシーラントをさらに含むことができる。ある態様では、医療デバイスは、ここで開示するシリコーンエラストマーを含む外殻を含み、例えば、乳房インプラントなどの人工装具である。医療デバイス、例えば、乳房インプラントなどの人工装具は、フィラー材料、例えば、シリコーンゲル、又は水含有媒体、例えば、生理食塩水をさらに含むことができる。
【実施例
【0057】
以下の実施例は、本発明のいくつかの好ましい態様をさらに説明することが意図されており、限定するものでは全くない。当業者は、ただの決まりきった実験をするだけで、本明細書に記載した具体的な物質及び方法と等価な多くのものを認識し、あるいは確定することができるだろう。
【0058】
数平均分子量及び平均重合度の測定
実施例等において、オルガノポリシロキサンの平均重合度は、下で説明する分析装置を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定し、以下の条件:測定温度:35℃(カラムオーブン温度);サンプル:オルガノポリシロキサンの1質量%トルエン溶液;検出器:屈折率検出器;校正曲線のためのポリマー:標準ポリスチレン、で測定した、ポリスチレン換算の数平均分子量に基づいた数平均重合度である。
【0059】
GPC分離は、屈折率(RI)検出器及びChemStationソフトウェアを備えたAgilent 1260 infinity HPLCシステムで実施した。2つのPhenomenex Phenogel固定細孔GPCカラム(300 x 7.8 mm)を直列につないだ:インジェクター-Phenogel 10,000A-Phenogel 500A-検出器。移動相は、1.0mL/分の流速のトルエンだった。カラムは35℃の温度に保った。
【0060】
成分
例及び比較例で用いた成分は、下の表1で報告されているとおり、以下のとおりである:(A)オルガノポリシロキサン1(ガムのような状態)、両方の分子末端においてビニルジメチルシリル基でキャッピングされているジメチルシロキサン(数平均重合度:3290)(Nusilから市販、カタログNo. MED-4502);(B)両方の分子末端においてトリメチルシリル基でキャッピングされている、ジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサンのオルガノハイドロジェンシロキサンコポリマー(粘度:5.2 mPa-s、 Si-H含有量:7.2 mmol Si-H/グラム、一分子当たり50%のメチルハイドロジェン単位(Nusilから市販されている、カタログNo. XL-110);(C)200平方メートル/グラムのBET比表面積を有するヒュームドシリカ、Cabotコーポレイションから購入したもの;(D1)ヘキサメチルジシラザン、Sigma Aldrichを含めた多数の供給元から入手可能であり、これはオルガノシラン上にアルキル(メチル)基を含み、アルケニル官能基が0質量%であるフィラー処理剤とした作用した;(D2)対称なテトラメチルジビニルジシラザン、Sigma Aldrichを含めた多数の供給元から入手でき、これはオルガノシラン上にアルキル(メチル)とアルケニル(ビニル)官能基を両方とも含むフィラー処理剤として作用した;(E)付加反応触媒である白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(組成物において用いられた元素白金の量は、全シリコーンエラストマー組成物に対して質量で5 ppm (parts per million) だった);(F)組成物の成分を分散させるための媒体として作用するキシレン。硬化遅延剤は1-エチニル-1-シクロヘキサノールだった。
【0061】
【表1】
【0062】
サンプル調製及び硬化条件
例1~3及び比較例1については、表1に報告されている成分A、C、及びDを、80℃の温度で最低限30分間、一定のかき混ぜをしながら、ミキサー中で混合し、次に160℃の温度で最低限3分間真空にした。冷却後、この「ベース」コンパウンドを2つの部分に分けた。成分Eをその第一の部分に2本ロールミル上で添加してパートAを作った。成分B及び硬化遅延剤をその第二の部分に2本ロールミル上で添加してパートBを作った。パートA及びパートBを2本ロールミル上で均一に混合し、次に、150℃において10分間プレス加硫して、約2mmの厚さを有する試料を得た。例4(これはキシレン(成分(F))を含む分散組成物の例である)については、表1に報告した成分を上のようにして混合し、次にパートA及びパートBを別々にキシレン中に分散させた。パートA及びパートBの分散液を混合し、非粘着性の型に流し込み、以下の傾斜硬化スケジュールにより、クラスAオーブン中でその混合物を硬化させて0.75mmの厚さのエラストマーの平板を得た。
50℃で60分
75℃で60分
150℃で180分
【0063】
例4は、組成物をデバイスの上に浸漬コーティング(ディップコーティング)又はスプレーコーティングし、次に硬化させることによって、コーティングされた医療デバイス(特に医療インプラントの外殻)を製造するために、分散液又は溶液の形態のシリコーンエラストマー組成物を用いる例である。
【0064】
例1~4及び比較例1の硬化したシリコーンエラストマー生成物の以下の物理特性を以下の方法で測定した。
【0065】
(1)タイプA硬度:硬化したシリコーンエラストマーサンプルの硬度を、ASTM D2240(ゴム特性のための標準試験法-デュロメータ硬度)に準拠して測定した(ショアタイプAデュロメータを使用して測定した、タイプA硬度)。
【0066】
(2)引張強度、100%モジュラス:MTS Systems Corporationによって生産されたUniversal Test Systemを使用して、ASTM D412(加硫ゴム及び熱可塑性エラストマーのための標準試験法-張力)。そのうえ、100%伸びにおける引張ひずみを、100%モジュラスとして記録した。
【0067】
(3)引裂強度:ASTM D684(従来の加硫ゴム及び熱可塑性エラストマーの引裂強度のための標準試験法)に記載されている三日月形のサンプルを、上述したエラストマーから切り出し、サンプルとして用いた。このサンプルを用いて、MTS Systems Corporationによって生産されたUniversal Test Systemを使用してASTM D684に準拠して引裂強度を測定した。
【0068】
(4)破断時伸び:これは、MTS Systems Corporationによって生産されたUniversal Test Systemを使用してASTM D412に準拠して測定し、サンプルが壊れた時点での伸びを、初期値に対する割合(%)として表した。
【0069】
表1に示されているように、例1~3の組成物は硬化して、25~35の硬度、1000%より大きな高い破断時伸び、17.0MPaより大きな高い引張強度を有するシリコーンエラストマーを形成した。例4は、39の硬度、900%を超える高い破断時伸び、及び18.0MPaより大きな高い引張強度を有するシリコーンエラストマーをもたらした。そのようなシリコーンエラストマーは、浸漬コーティング又はスプレーコーティング法によって調製することができ、医療デバイスに適している(特に医療用インプラントの外殻)。
【0070】
表1に示されているように、比較例1は、劣る引張強度(12.0MPa未満)及び劣る硬度(25未満)を有していた。比較例#1は、組成物中においてアルケニル基を有するフィラー処理剤を省くことは、フィラー処理剤が組成物中に含まれていたという事実にもかかわらず、かなり悪い特性をもつシリコーンエラストマーをもたらすことを実証している。この比較例は、アルケニル基を有するフィラー処理剤の重要性を実証している。
【0071】
表1に示されているように、例1~4はアルケニル基を有するフィラー処理剤を含むシリコーンエラストマー組成物だった。例1~4のシリコーンエラストマー組成物を用いることによって、弾性医療用材料のために適した物理特性を有する硬化生成物を得ることができる。特に、例1~4の硬化した生成物は、特に高い引張強度及び引裂強度を有し、したがって、埋め込み可能な医療デバイスとして使用するのに非常に適している。
【0072】
本発明の好ましい態様及びその汎用性の例のみが、ここでの開示において示され、説明されている。本発明は、様々なその他の組み合わせ及び環境中で使用することができ、ここに示した発明概念の範囲内で変化又は修飾することができることが理解されるべきである。したがって、例えば、当業者は、ただの決まりきった実験をするだけで、本明細書に記載した具体的な物質、方法、配置と多くの等価物を認識し、あるいは確定することができるだろう。そのような等価物は、本発明の範囲内であると考えられ、添付した特許請求の範囲によってカバーされる。