(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】電流積分装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/14 20060101AFI20220328BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G01R31/14
G01N27/00 L
(21)【出願番号】P 2018020445
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】関口 洋逸
(72)【発明者】
【氏名】福間 眞澄
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150691(WO,A1)
【文献】特開2011-145132(JP,A)
【文献】特開平3-185373(JP,A)
【文献】特開昭61-189471(JP,A)
【文献】特開昭61-269300(JP,A)
【文献】特開平8-186230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/14
G01R 31/12
G01N 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料絶縁体に所定の印加条件で直流電圧を印加する直流電源と、
前記試料絶縁体に直列に接続される測定用キャパシタと、
前記測定用キャパシタに並列に接続され、前記測定用キャパシタの電圧を測定する電圧計と、を備える電流積分装置であって、
前記試料絶縁体と前記測定用キャパシタとの間で、かつ前記電圧計の結線箇所よりも前記試料絶縁体側の位置で前記測定用キャパシタに直列に接続され、前記測定用キャパシタに印加される電圧を下げる保護用キャパシタと、
前記測定用キャパシタ
及び前記保護用キャパシタと並列に接続され、前記試料絶縁体の健全時には非導通状態を維持し、前記試料絶縁体の絶縁破壊時には導通状態となる
スパークギャップとを備え、
前記保護用キャパシタの静電容量が、前記測定用キャパシタの静電容量よりも小さく、
前記スパークギャップは、前記測定用キャパシタ及び前記電圧計
が損傷する前に導通状態となる
、
電流積分装置。
【請求項2】
前記直流電源と前記試料絶縁体との間に直列に接続される保護抵抗を備える
、請求項1に記載の電流積分装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流積分装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高電圧の直流送電が検討されており、その電力ケーブルに備わる絶縁層の状態を診断する手法が必要になるものと考えられる。また、電力ケーブルだけでなく、種々の電気機器を直流で使用することが検討されている現状に鑑みても、直流電圧下の絶縁体の状態診断の手法が必要になると考えられる。その直流電圧の印加に伴う絶縁体の状態を診断する有効な方法として、特許文献1に記載される電流積分装置を用いた絶縁体の絶縁性能の評価方法が挙げられる。
【0003】
特許文献1の電流積分装置は、測定試料となる試料絶縁体に所定の印加条件で直流電圧を印加する直流電源と、試料絶縁体に直列に接続され、試料絶縁体に対して十分に大きな静電容量を持つ測定用キャパシタと、測定用キャパシタにかかる電圧を測定する電圧計と、を備える。測定用キャパシタの静電容量が既知であるため、測定用キャパシタの電圧を知ることができれば、測定用キャパシタに蓄積された電荷量が分かる。測定用キャパシタは試料絶縁体と直列に接続されているため、測定用キャパシタに蓄積された電荷量と、試料絶縁体に蓄積している電荷量及び試料絶縁体を通過した電荷量の合計と、が等しくなる。そのため、測定用キャパシタの電荷量を測定することで、試料絶縁体に流れる電荷量(電流の積分値)が分かり、その電荷量に基づいて試料絶縁体の絶縁性能の評価を行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電流積分装置は、試料絶縁体が絶縁破壊したときに破損する可能性がある。試料絶縁体が絶縁破壊すると、試料絶縁体に直列に接続される測定用キャパシタと、測定用キャパシタの電圧を測定する電圧計とに直流電源の電圧が直接印加される。このとき、測定用キャパシタと電圧計の耐電圧が印加電圧よりも低いと、測定用キャパシタと電圧計が破損してしまう。
【0006】
本開示は、電流積分装置による測定時に試料絶縁体が絶縁破壊しても、電流積分装置の測定用キャパシタや電圧計の破損を抑制できる電流積分装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の電流積分装置は、
試料絶縁体に所定の印加条件で直流電圧を印加する直流電源と、
前記試料絶縁体に直列に接続される測定用キャパシタと、
前記測定用キャパシタに並列に接続され、前記測定用キャパシタの電圧を測定する電圧計と、を備える電流積分装置であって、
前記測定用キャパシタと並列に接続され、前記試料絶縁体の健全時には非導通状態を維持し、前記試料絶縁体の絶縁破壊時には導通状態となる保護素子を備え、
前記保護素子は、前記測定用キャパシタ及び前記電圧計の耐電圧値よりも低い電圧で導通状態となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る電流積分装置の概略回路図である。
【
図2】実施形態2に係る電流積分装置の概略回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
<1>実施形態に係る電流積分装置は、
試料絶縁体に所定の印加条件で直流電圧を印加する直流電源と、
前記試料絶縁体に直列に接続される測定用キャパシタと、
前記測定用キャパシタに並列に接続され、前記測定用キャパシタの電圧を測定する電圧計と、を備える電流積分装置であって、
前記測定用キャパシタと並列に接続され、前記試料絶縁体の健全時(絶縁非破壊時)には非導通状態を維持し、前記試料絶縁体の絶縁破壊時には導通状態となる保護素子を備え、
前記保護素子は、前記測定用キャパシタ及び前記電圧計の耐電圧値よりも低い電圧で導通状態となる。
【0011】
上記構成によれば、試料絶縁体が絶縁破壊しても測定用キャパシタ及び電圧計の破損を抑制できる。測定用キャパシタに並列に保護素子が配置され、かつその保護素子が、測定用キャパシタ及び電圧計の耐電圧値よりも低い電圧で導通状態となるからである。試料絶縁体が絶縁破壊すると、互いに並列に配置される保護素子と測定用キャパシタと電圧計とに直流電源の電圧が印加される。その際、保護素子が導通状態となって直流電流を接地に逃がすので、測定用キャパシタと電圧計が破損を免れる。
【0012】
<2>実施形態に係る電流積分装置の一形態として、
前記保護素子はスパークギャップである形態を挙げることができる。
【0013】
保護素子としては、例えばバリスタやツェナーダイオード、スパークギャップなどを挙げることができる。特にスパークギャップは、試料絶縁体の健全時にスパークギャップに漏れ電流が殆ど流れないため、電流積分装置による測定を妨げない。
【0014】
<3>実施形態に係る電流積分装置の一形態として、
前記試料絶縁体と前記測定用キャパシタとの間で、かつ前記電圧計の結線箇所よりも前記試料絶縁体側の位置で前記測定用キャパシタに直列に接続され、前記測定用キャパシタに印加される電圧を下げる保護用キャパシタを備える形態を挙げることができる。
【0015】
複数のキャパシタを直列に配置すると、各キャパシタに印加される電圧を下げることができる。つまり、保護用キャパシタを設置することで、測定用キャパシタと測定用キャパシタに並列に接続される電圧計とに印加される電圧を下げ、測定用キャパシタ及び電圧計の破損の可能性を大幅に低減できる。ここで、キャパシタを直列に接続すると、各キャパシタに蓄積される電荷量は等しくなるので、保護用キャパシタを設置しても、測定用キャパシタによる測定に支障はない。
【0016】
<4>前記保護用キャパシタを備える実施形態に係る電流積分装置の一形態として、
前記保護用キャパシタの静電容量が、前記測定用キャパシタの静電容量よりも小さい形態を挙げることができる。
【0017】
測定用キャパシタと保護用キャパシタを直列に接続する場合、保護用キャパシタの静電容量をC1、測定用キャパシタの静電容量をC2、印加電圧をV0、測定用キャパシタの電圧をV2とすると、V2=[C1/(C1+C2)]×V0となる。この式から明らかなように、保護用キャパシタの静電容量C1を、測定用キャパシタの静電容量C2よりも小さくすることで、その逆とするよりも、測定用キャパシタに印加される電圧V2を小さくできる。
【0018】
<5>実施形態に係る電流積分装置の一形態として、
前記直流電源と前記試料絶縁体との間に直列に接続される保護抵抗を備える形態を挙げることができる。
【0019】
直流電源と試料絶縁体との間に保護抵抗を直列接続することで、試料絶縁体の絶縁破壊時に回路内に流れる電流量を制限できる。その結果、測定用キャパシタ及び電圧計の破損を効果的に抑制できる。
【0020】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、実施形態に係る電流積分装置を説明する。なお、本願発明は実施形態に示される構成に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0021】
<実施形態1>
図1に示す電流積分装置1は、絶縁体の絶縁性能に及ぼす直流電圧の印加の影響を測定する装置である。本例の電流積分装置1は、電極2A,2B、直流電源3、測定用キャパシタ4、アンプ5、電圧計6、スイッチ7A,7B、保護抵抗8、及び保護素子9を備える。以下、電流積分装置1に備わる各構成を詳細に説明する。
【0022】
試料絶縁体10の一面側に取り付けられる電極2Aは、保護抵抗8とスイッチ7Aとを介して直流電源3に繋がる高電位側の電極である。一方、電極2Bは、試料絶縁体10における電極2Aとは反対側の面に取り付けられる低電位側の電極である。電極2A,2Bで挟み込まれた試料絶縁体10には、直流電源3から直流電圧が印加される。試料絶縁体10への直流電圧の印加のON/OFFは、スイッチ7Aによって切り換えられる。
【0023】
ここで、試料絶縁体10を電極2A,2Bで挟み込んだ構成はまさにキャパシタと同じである。以降の説明では、部材10,2A,2Bをまとめてキャパシタ相当部材と呼ぶことがある。なお、試料絶縁体10に電圧を印加するための電極2A,2Bは、特に形状を選ばないが、シート状とすることが挙げられる。フィルム状の試料絶縁体10に電圧を印加する場合、高圧側の電極2Aと接地側の電極2Bの少なくとも一方には、ガード電極2Gを設けることが望ましい。ガード電極2Gを設けることで、電極エッジの影響(局所的な高電界部の発生、沿面放電など)を取り除くことができる。
図1,2のケースでは、接地側の電極2Bを高圧側の電極2Aよりも一回り小さくすると共に、その接地側の電極2Bを取り囲むように、接地側に環状のガード電極2Gを設けている。環状のガード電極2Gの外径は高圧側の電極2Aと同径とし、ガード電極2Gの内径は接地側の電極2Bの外径よりも大きくして、ガード電極2Gと電極2Bとの間に所定の間隔が空くようにしてある。本例とは異なり、ガード電極を高圧側に入れるケースや、高圧側と接地側の双方に入れるケースも考えられる。
【0024】
測定用キャパシタ4は、試料絶縁体10の低電位側で試料絶縁体10に直列に接続されている。つまり、本例の構成では、キャパシタ相当部材と測定用キャパシタ4とが直列に接続されている。そのため、試料絶縁体10に直流電圧を印加すると、試料絶縁体10に蓄積する電荷量と同じ電荷量が測定用キャパシタ4にも蓄積する。電荷量は電流の時間積分値であることから、測定用キャパシタ4の電荷量を測定することで、試料絶縁体10の電荷量、即ち時間の経過に伴って試料絶縁体10に流れた電流量を知ることができる。計測時間を長くとることにより、微小電流でも十分に検知することができる。
【0025】
電圧計6は、測定用キャパシタ4に並列に接続され、測定用キャパシタ4の電圧を経時的に測定する。本例では、電圧計6の上流側にアンプ5が配置されており、電圧計6の測定を容易にしている。このように、電圧計6で測定用キャパシタ4の電圧を経時的に測定することで、試料絶縁体10を流れた電流の積分値を得ることができる。測定用キャパシタ4の電圧を測定することで電流の積分値を得ることができるのは、Q=CVが成り立つからである。C(キャパシタの静電容量)は既知(本例では10μF)であり、電圧計6の電圧(V)が分かれば、電荷量(電流の積分値)を求めることができる。なお、測定用キャパシタ4の静電容量は、試料絶縁体10と電極2A,2Bとで構成されるキャパシタ相当部材の静電容量よりも十分に大きければ良く、特に限定されない。
【0026】
スイッチ7Bは、測定用キャパシタ4に並列に接続され、測定用キャパシタ4に蓄積された電荷をクリアするためのものである。スイッチ7Bは、試料絶縁体10の絶縁性能の測定時はOFFにされており、測定用キャパシタ4の電荷をクリアするときにONにされる。
【0027】
保護素子9は、測定用キャパシタ4及び電圧計6に並列に接続され、試料絶縁体10の絶縁破壊時に測定用キャパシタ4及び電圧計6を保護するためのものである。保護素子9は、試料絶縁体10の健全時には非導通状態を維持し、試料絶縁体10の絶縁破壊時には導通状態となる電気回路であれば特に限定されない。別の言い方をすれば、保護素子9は、所定値以上の電圧が印加されるまでは絶縁体として機能し、所定値以上の電圧が印加されたら導電体として機能する電気回路である。例えば、バリスタやツェナーダイオード、スパークギャップなどを利用することができる。特に、スパークギャップは、試料絶縁体10の健全時にスパークギャップに漏れ電流が殆ど流れないため好ましい。本例では保護素子9としてスパークギャップを例示している。
【0028】
上記保護素子9には、測定用キャパシタ4及び電圧計6の耐電圧値よりも低い電圧で導通状態となるものを利用する。例えば、保護素子9をスパークギャップとする場合、放電開始電圧(導通開始電圧)が、測定用キャパシタ4及び電圧計6の耐電圧値よりも低いスパークギャップを用いる。
【0029】
≪効果≫
実施形態1の構成によれば、試料絶縁体10が絶縁破壊しても測定用キャパシタ4及び電圧計6の破損を抑制できる。測定用キャパシタ4に並列に保護素子9が配置され、かつその保護素子9が、測定用キャパシタ4及び電圧計6の耐電圧値よりも低い電圧で導通状態となるからである。試料絶縁体10が絶縁破壊すると、互いに並列に配置される保護素子9と測定用キャパシタ4と電圧計6とに直流電源3の電圧が印加される。その際、保護素子9が導通状態となって直流電流を接地に逃がすので、測定用キャパシタ4と電圧計6が破損を免れる。
【0030】
実施形態1の構成では更に、直流電源3と試料絶縁体10との間に直列に接続される保護抵抗8を備えるため、測定用キャパシタ4と電圧計6の破損がより効果的に抑制されている。保護抵抗8が存在することで、試料絶縁体10の絶縁破壊時に回路内に流れる電流量を制限できるからである。その観点から、試料絶縁体10に対して測定のための適切な電流を通電できる限りにおいて保護抵抗8の抵抗値は高くすることが好ましい。例えば、保護抵抗8の抵抗値は、1MΩ以上、あるいは5MΩ以上、更には10MΩ以上とすることが挙げられる。
【0031】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1の構成に加えて保護用キャパシタ40を備える電流積分装置1を
図2に基づいて説明する。実施形態2では、実施形態1と同様の構成については実施形態1と同じ符号を付して説明を省略し、実施形態1との相違点を中心に説明を行なう。
【0032】
本例の電流積分装置1は、試料絶縁体10と測定用キャパシタ4との間で、かつ電圧計6の結線箇所よりも試料絶縁体10側の位置に、測定用キャパシタ4に直列に接続される保護用キャパシタ40を備える。保護用キャパシタ40は、測定用キャパシタ4に印加される電圧を下げ、測定用キャパシタ4及び電圧計6の破損の可能性を低減させる役割を持っている。
【0033】
ここで、キャパシタを直列に接続する場合、各キャパシタに蓄積される電荷量は等しくなるので、保護用キャパシタ40を設置しても、測定用キャパシタ4による測定に支障はない。
【0034】
保護用キャパシタ40の静電容量をC
1、測定用キャパシタ4の静電容量をC
2、印加電圧をV
0、測定用キャパシタ4の電圧をV
2とすると、V
2=[C
1/(C
1+C
2)]×V
0が成り立つ。つまり、保護用キャパシタ40の静電容量C
1を、測定用キャパシタ4の静電容量C
2よりも小さくすることで、その逆とするよりも、測定用キャパシタ4に印加される電圧V
2を小さくできる。
図2に例示するように、C
1(0.1μF)をC
2(1μF)の十分の一以下とすると、V
2をV
0の十分の一以下(約0.091V
0)とすることができ、測定用キャパシタ4及び電圧計6の破損を確実に抑制できる。
【0035】
その他、本例の電流積分装置1は、保護用キャパシタ40の電荷をクリアするスイッチ7Cを備える。両キャパシタ4,40の電荷をクリアする場合、スイッチ7B,7Cを共にONにする。
【0036】
≪効果≫
実施形態2の構成によれば、実施形態1の構成よりも効果的に、試料絶縁体10の絶縁破壊時の測定用キャパシタ4及び電圧計6の損傷を抑制できる。それは、保護用キャパシタ40を測定用キャパシタ4に直列に接続することで、測定用キャパシタ4と測定用キャパシタ4に並列に接続される電圧計6とに印加される電圧を下げられるからである。
【0037】
また、測定用キャパシタ4及び電圧計6に印加される電圧を下げられることから、本例の電流積分装置1では、実施形態1の構成よりも導通開始電圧が低い安価な保護素子9を使用できる。
【0038】
<試験例1>
本試験例1と後述する試験例2では、
図2の電流積分装置1に保護素子9を設けたことによる測定精度への影響を調べた。保護素子9はスパークギャップである。
【0039】
まず、試験例1では、
図2のキャパシタ相当部材(試料絶縁体10と電極2A,2B)を高電圧用のセラミックコンデンサに置換し、所定の印加条件でセラミックコンデンサに直流電圧を印加した。セラミックコンデンサの静電容量は280pF、耐電圧は20kVであった。また、電圧計6には、Keythley社製のエレクトロメーター(入力インピーダンス;10
14Ω以上)を使用した。スパークギャップ9は、90Vの放電開始電圧のガス放電管であり、測定用キャパシタ4の静電容量は1μF、保護用キャパシタ40の静電容量は0.1μFであった。
【0040】
本例では、次の三水準の印加条件で直流電圧を印加した。
(1)最終到達電圧;900V
(2)最終到達電圧;600V
(3)最終到達電圧;300V
図2のスイッチ7B,7Cを閉じてキャパシタ4,40を接地した後、スイッチ7B,7Cを開き、スイッチ7Aを閉じて電流の積分値の測定を開始した。電流の積分値の測定開始から60秒後に直流電圧の印加を開始し、上記最終到達電圧まで5秒で昇圧した後、その最終到達電圧を300秒保持した。その後、印加電圧を0Vとして、電流の積分値の測定開始から500秒後まで積分値の測定を行った。
【0041】
試験例1の測定結果を
図3に示す。
図3の横軸は時間t(秒)、縦軸は測定用キャパシタ4の電圧V
2(ボルト)である。実線は印加条件(1)の測定結果、破線は印加条件(2)の測定結果、点線は印加条件(3)の測定結果である。
【0042】
図3のグラフに示すように、いずれの印加条件においても測定用キャパシタ4の電圧は安定しており、スパークギャップ9に漏れ電流が流れて測定用キャパシタ4の電圧V
2が大きく変動することはなかった。つまり、スパークギャップ9が電圧V
2の測定に悪影響を及ぼさないことが分かった。
【0043】
<試験例2>
試験例2では、
図2のキャパシタ相当部材を高抵抗値の金属皮膜抵抗に置換し、所定の印加条件で金属皮膜抵抗に直流電圧を印加した。金属皮膜抵抗の抵抗値は10GΩであった。金属皮膜抵抗以外の構成は、試験例1と同じである。
【0044】
本例では、次の二水準の印加条件で直流電圧を印加した。
(1)最終到達電圧;200V
(2)最終到達電圧;100V
電流の積分値の測定手順は、試験例1と同じである。
【0045】
試験例2の測定結果を
図4に示す。
図4の横軸は時間t(秒)、縦軸は測定用キャパシタ4の電圧V
2(ボルト)である。実線は印加条件(1)の測定結果、破線は印加条件(2)の測定結果である。
【0046】
図4のグラフに示すように、測定用キャパシタ4の電圧V
2はほぼ直線的に増加しており、スパークギャップ9に漏れ電流が流れて測定用キャパシタ4の電圧V
2が大きく変動することはなかった。つまり、スパークギャップ9が電圧V
2の測定に悪影響を及ぼさないことが分かった。
【0047】
実線で示す印加条件(1)のグラフの途中で電圧V2が急落しているのは、スパークギャップ9にかかる電圧がスパークギャップ9の放電電圧に達し、測定用キャパシタ4の電荷もスパークギャップ9を通して放電されるからである。一方、点線で示す印加条件(2)のグラフでは、スパークギャップ9にかかる電圧がスパークギャップ9の放電電圧に達することはなく、測定開始から約360秒後に印加電圧を0Vにするまで電圧V2はほぼ直線的に増加した。その後、印加電圧を0Vとすると、測定用キャパシタ4の電荷が金属皮膜抵抗と保護抵抗8を通して放電され、充電時と同じ時定数(傾き)でV2が減少した。
【0048】
<試験例3>
試験例1,2の結果を踏まえて、保護素子9による電流積分装置1の保護について調査を行なった。本例では、試料絶縁体10として、厚さ7μmのポリイミドフィルム(カプトン:東レ・デュポン株式会社の登録商標)を使用した。
【0049】
本例では、次の三水準の印加条件で直流電圧を印加した。
(1)最終到達電圧;3kV
(2)最終到達電圧;2kV
(3)最終到達電圧;1kV
電流の積分値の測定手順は、試験例1と同じである。
【0050】
試験例3の測定結果を
図5に示す。
図5の横軸は時間t(秒)、縦軸は測定用キャパシタ4の電圧V
2(ボルト)である。実線は印加条件(1)の測定結果、破線は印加条件(2)の測定結果、点線は印加条件(3)の測定結果である。
【0051】
図5に示すように、印加条件(2)、(3)では試料絶縁体10の絶縁破壊は生じなかった。一方、印加条件(1)では、直流電圧の印加開始から約200s後の時点で試料絶縁体10が絶縁破壊した。試料絶縁体10の絶縁破壊によって測定用キャパシタ4の電圧V
2は瞬間的に増大したが、直ぐに急落した。これは、スパークギャップ9が動作したことを示している。また、電圧V
2の急落後にも電圧V
2の測定が行なえていることから、スパークギャップ9が動作することで測定用キャパシタ4と電圧計6は損傷を免れていることが分かる。
【0052】
測定用キャパシタ4と電圧計6の保護には、保護抵抗8の存在も重要な役割を果たしているものと推察される。試料絶縁体10の高電位側に保護抵抗8を設けることで、保護抵抗8を設けない場合に比べて、試料絶縁体10の絶縁破壊時に回路に流れる電流値が制限され、電圧V2の上昇割合が小さくなるからである。使用したスパークギャップ9の動作速度はナノ秒単位であるのに対して、保護抵抗8を設けた場合の電圧V2の上昇速度はミリ秒単位となる。
【0053】
<用途>
実施形態の電流積分装置1は、直流送電を行なう電力ケーブル、例えば超電導ケーブルの絶縁層の劣化診断や、油浸絶縁ケーブルの絶縁層(絶縁体)の劣化診断、固体絶縁ケーブルの固体絶縁体の劣化診断に利用できると期待される。実施形態の電流積分装置1に備わる電極2A,2Bの形状は限定されないため、ケーブル試料の測定も可能である。また、実施形態の電流積分装置1は、電力ケーブル以外の直流電圧を印加して使用する電気機器、例えばキャパシタや電池などに備わる絶縁体の劣化診断にも利用できると期待される。更に、交流で使用される電気機器であっても、その電気機器に備わる絶縁体の状態変化、例えば水トリー劣化や高温、放射線照射による絶縁体の劣化などが、実施形態の電流積分装置1にて捉えられる可能性がある。その場合、交流での絶縁体の状態変化の追跡手法として実施形態の電流積分装置を利用する手立てがあるものと考えられる。また、キャパシタやエナメル線のような極薄いフィルムや皮膜が用いられる電気機器では、フィルムや皮膜の空間電荷蓄積挙動などの誘電特性を評価することそのものが困難であったが、このような極薄試料についても電流積分装置1にて評価を行なうことができる。
【符号の説明】
【0054】
1 電流積分装置
2A,2B 電極 2G ガード電極
3 直流電源
4 測定用キャパシタ
5 アンプ
6 電圧計
7A,7B,7C スイッチ
8 保護抵抗
9 スパークギャップ(保護素子)
10 試料絶縁体
40 保護用キャパシタ