(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】速度検出装置及び速度検出方法
(51)【国際特許分類】
G01P 3/54 20060101AFI20220328BHJP
G01P 3/48 20060101ALI20220328BHJP
G01P 3/49 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G01P3/54
G01P3/48 Z
G01P3/49
(21)【出願番号】P 2018102397
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、フランクル
(72)【発明者】
【氏名】アルダ、トウスズ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン、ベー.コラー
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4380708(JP,B2)
【文献】特許第6639810(JP,B2)
【文献】米国特許第3462675(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出する磁束検出部と、
前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御する磁束周波数制御部と、
前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束周波数制御部で制御された前記所定の周波数に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置。
【請求項2】
前記磁束発生部は、回転軸回りに回転自在な永久磁石を有する回転体を有し、
前記永久磁石は、前記回転体の周方向に配置される複数の磁極を有し、
前記着磁パターンは、前記回転体の回転に応じて前記相対移動体の前記一主面に離隔して対向配置される前記磁極からの磁束により形成され、
前記磁束検出部は、前記相対移動体の一主面上に形成される前記着磁パターンの間隔に応じた径の検出コイルを有し、
前記磁束周波数制御部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記相対移動体の移動又は回転速度と、前記回転体の回転速度とを一致させる、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項3】
前記磁束周波数制御部は、前記相対移動体が移動又は回転している期間内に継続して、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように前記回転体の回転速度を制御する、請求項2に記載の速度検出装置。
【請求項4】
前記磁束発生部が磁束を変化させる前記所定の周波数を検出する磁束変化速度検出部を備え、
前記速度推定部は、前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束変化速度検出部で検出された前記所定の周波数に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項5】
相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出する磁束検出部と、
前記磁束発生部が磁束を変化させる前記所定の周波数を検出する磁束変化速度検出部と、
前記磁束変化速度検出部で検出される前記所定の周波数と、前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置。
【請求項6】
前記磁束発生部と前記相対移動体の前記一主面とのギャップを推定するギャップ推定部を備え、
前記速度推定部は、前記推定されたギャップと、前記磁束変化速度検出部で検出される前記所定の周波数と、前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項5に記載の速度検出装置。
【請求項7】
前記磁束発生部は、回転軸回りに回転自在な永久磁石を有する回転体を有し、
前記永久磁石は、前記回転体の周方向に配置される複数の磁極を有し、
前記着磁パターンは、前記回転体の回転に応じて前記相対移動体の前記一主面に離隔して対向配置される前記磁極からの磁束により形成され、
前記ギャップ推定部は、前記回転体の外周面と前記相対移動体の前記一主面とのギャップを推定し、
前記磁束変化速度検出部は、前記回転体の回転速度を検出し、
前記磁束検出部は、所定の径を持つ検出コイルを有し、
前記速度推定部は、前記推定されたギャップと、前記回転体の回転速度と、前記検出コイルで発生される誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項6に記載の速度検出装置。
【請求項8】
前記ギャップと、前記回転体の回転速度と、前記誘起電圧と、前記相対移動体の移動又は回転速度との相関関係データを記憶する記憶部を備え、
前記速度推定部は、前記ギャップ推定部で推定されたギャップと、前記磁束変化速度検出部で検出された前記回転体の回転速度と、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧と、に基づいて、前記相関関係データを参照することにより、対応する前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項7に記載の速度検出装置。
【請求項9】
前記速度推定部は、前記ギャップ推定部で推定されたギャップと、前記磁束変化速度検出部で検出された前記回転体の回転速度と、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧と、を所定の演算式に代入して演算処理を行った演算結果に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項7に記載の速度検出装置。
【請求項10】
前記磁束発生部は、前記相対移動体の前記一主面上に形成される前記着磁パターンの極性を前記所定の周波数で変化させる磁束を発生させる励磁コイルを有し、
前記磁束検出部は、所定の径を持つ検出コイルを有し、
前記磁束周波数制御部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御し、
前記速度推定部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束周波数制御部が前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように制御した前記所定の周波数と、前記検出コイルの径とに基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項11】
前記磁束周波数制御部は、前記所定の周波数を前記相対移動体の移動又は回転速度よりも低い所定の初期周波数から徐々に大きくしていき、最初に前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるときの周波数で前記励磁コイルの磁束を変化させ、
前記速度推定部は、前記検出コイルの径と、前記磁束周波数制御部で制御後の前記所定の周波数とを乗じた値により、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項10に記載の速度検出装置。
【請求項12】
前記磁束発生部は、前記相対移動体の前記一主面上に形成される前記着磁パターンの着磁の強さを前記所定の周波数で変化させる磁束を発生させる励磁コイルを有し、
前記磁束検出部は、所定の径を持つ検出コイルを有し、
前記磁束周波数制御部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御し、
前記速度推定部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束周波数制御部で制御された前記所定の周波数と、前記検出コイルの径とに基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項13】
前記磁束発生部は、
前記相対移動体の前記一主面から離隔して対向配置される永久磁石と、
前記相対移動体の前記一主面と前記永久磁石とのギャップを前記所定の周波数で変化させるボイスコイルと、を有する、請求項12に記載の速度検出装置。
【請求項14】
前記相対移動体は、列車の車輪又はレールであり、
前記所定の周波数は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有する、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項15】
相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させ、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出し、
前記検出された前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御し、
前記誘起電圧がゼロの状態で、前記制御された所定の周波数に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、速度検出方法。
【請求項16】
相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させ、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出し、
前記一主面上に前記着磁パターンが形成されるように発生させた前記磁束が変化する前記所定の周波数を検出し、
前記検出された前記所定の周波数と、前記検出された前記誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、速度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で速度を検出する速度検出装置及び速度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、非接触で発電する自転車用ダイナモが開示されている。特許文献1の自転車用ダイナモは、自転車のホイールの回転軸と直交する方向に延びる回転軸周りに回転する円環状の永久磁石の外周面を、ホイールの外周面に連なる一側面から離隔して配置している。
【0003】
永久磁石は、複数の磁極を周方向に並べて配置したものであり、隣接する磁極では、磁化方向が逆になっている。例えば、永久磁石のN極がホイールの一側面に対向配置された状態でホイールが回転すると、永久磁石からの磁束の変化を妨げる方向に、ホイールの一側面に渦電流が発生する。この渦電流による磁束と永久磁石からの磁束との反発力および誘引力により、永久磁石は、ホイールの回転方向に回転する。
【0004】
よって、永久磁石の周囲をコイルで巻回して、永久磁石からの磁束がコイルを鎖交するようにすれば、コイルから誘導電力を取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許公開公報 2014/0132155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の永久磁石の回転速度を検出することで、自転車の移動速度を推定することもできるが、永久磁石はスリップすることがあり、永久磁石がスリップした場合には、自転車の移動速度を精度よく推定できなくなる。特許文献1には、永久磁石のスリップを防止する対策は何ら開示されておらず、特許文献1の手法では、自転車の移動速度を精度よく推定できないおそれがある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、相対移動体の移動又は回転速度を精度よく推定可能な速度検出装置及び速度検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出する磁束検出部と、
前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御する磁束周波数制御部と、
前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束周波数制御部で制御された前記所定の周波数に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置が提供される。
【0009】
前記磁束発生部は、回転軸回りに回転自在な永久磁石を有する回転体を有し、
前記永久磁石は、前記回転体の周方向に配置される複数の磁極を有し、
前記着磁パターンは、前記回転体の回転に応じて前記相対移動体の前記一主面に離隔して対向配置される前記磁極からの磁束により形成され、
前記磁束検出部は、前記相対移動体の一主面上に形成される前記着磁パターンの間隔に応じた径の検出コイルを有し、
前記磁束周波数制御部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記相対移動体の移動又は回転速度と、前記回転体の回転速度とを一致させてもよい。
【0010】
前記磁束周波数制御部は、前記相対移動体が移動又は回転している期間内に継続して、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように前記回転体の回転速度を制御してもよい。
【0011】
前記磁束発生部が磁束を変化させる前記所定の周波数を検出する磁束変化速度検出部を備え、
前記速度推定部は、前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束変化速度検出部で検出された前記所定の周波数に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0012】
本発明の他の一態様では、相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させる磁束発生部と、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出する磁束検出部と、
前記磁束発生部が磁束を変化させる前記所定の周波数を検出する磁束変化速度検出部と、
前記磁束変化速度検出部で検出される前記所定の周波数と、前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置が提供される。
【0013】
前記磁束発生部と前記相対移動体の前記一主面とのギャップを推定するギャップ推定部を備え、
前記速度推定部は、前記推定されたギャップと、前記磁束変化速度検出部で検出される前記所定の周波数と、前記磁束検出部で検出される前記誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0014】
前記磁束発生部は、回転軸回りに回転自在な永久磁石を有する回転体を有し、
前記永久磁石は、前記回転体の周方向に配置される複数の磁極を有し、
前記着磁パターンは、前記回転体の回転に応じて前記相対移動体の前記一主面に離隔して対向配置される前記磁極からの磁束により形成され、
前記ギャップ推定部は、前記回転体の外周面と前記相対移動体の前記一主面とのギャップを推定し、
前記磁束変化速度検出部は、前記回転体の回転速度を検出し、
前記磁束検出部は、所定の径を持つ検出コイルを有し、
前記速度推定部は、前記推定されたギャップと、前記回転体の回転速度と、前記検出コイルで発生される誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0015】
前記ギャップと、前記回転体の回転速度と、前記誘起電圧と、前記相対移動体の移動又は回転速度との相関関係データを記憶する記憶部を備え、
前記速度推定部は、前記ギャップ推定部で推定されたギャップと、前記磁束変化速度検出部で検出された前記回転体の回転速度と、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧と、に基づいて、前記相関関係データを参照することにより、対応する前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0016】
前記速度推定部は、前記ギャップ推定部で推定されたギャップと、前記磁束変化速度検出部で検出された前記回転体の回転速度と、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧と、を所定の演算式に代入して演算処理を行った演算結果に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0017】
前記磁束発生部は、前記相対移動体の前記一主面上に形成される前記着磁パターンの極性を前記所定の周波数で変化させる磁束を発生させる励磁コイルを有し、
前記磁束検出部は、所定の径を持つ検出コイルを有し、
前記磁束周波数制御部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御し、
前記速度推定部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束周波数制御部が前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように制御した前記所定の周波数と、前記検出コイルの径とに基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0018】
前記磁束周波数制御部は、前記所定の周波数を前記相対移動体の移動又は回転速度よりも低い所定の初期周波数から徐々に大きくしていき、最初に前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるときの周波数で前記励磁コイルの磁束を変化させ、
前記速度推定部は、前記検出コイルの径と、前記磁束周波数制御部で制御後の前記所定の周波数とを乗じた値により、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0019】
前記磁束発生部は、前記相対移動体の前記一主面上に形成される前記着磁パターンの着磁の強さを前記所定の周波数で変化させる磁束を発生させる励磁コイルを有し、
前記磁束検出部は、所定の径を持つ検出コイルを有し、
前記磁束周波数制御部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御し、
前記速度推定部は、前記検出コイルで検出される前記誘起電圧がゼロの状態で、前記磁束周波数制御部で制御された前記所定の周波数と、前記検出コイルの径とに基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0020】
前記磁束発生部は、
前記相対移動体の前記一主面から離隔して対向配置される永久磁石と、
前記相対移動体の前記一主面と前記永久磁石とのギャップを前記所定の周波数で変化させるボイスコイルと、を有してもよい。
【0021】
前記相対移動体は、列車の車輪又はレールであり、
前記所定の周波数は、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数を有してもよい。
【0022】
本発明の他の一態様では、相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させ、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出し、
前記検出された前記誘起電圧がゼロになるように、前記所定の周波数を制御し、
前記誘起電圧がゼロの状態で、前記制御された所定の周波数に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、速度検出方法が提供される。
【0023】
本発明の他の一態様では、相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の移動又は回転に応じて前記一主面上に着磁パターンが形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させ、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記一主面上の前記着磁パターンによる磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出し、
前記一主面上に前記着磁パターンが形成されるように発生させた前記磁束が変化する前記所定の周波数を検出し、
前記検出された前記所定の周波数と、前記検出された前記誘起電圧と、に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、速度検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、相対移動体の移動又は回転速度を精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図2】
図1の速度検出装置に磁束変化速度検出部を追加した図。
【
図3】回転体の永久磁石から発生される磁力線を模式的に示す図。
【
図4】検出コイルを鎖交する磁束密度を示すグラフ。
【
図5】第2の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図7】第3の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図8A】検出コイルが2つの着磁パターンと上下に重なる場合の磁束密度のグラフ。
【
図8B】検出コイルが2つの着磁パターンと上下方向の位置がずれる場合の磁束密度のグラフ。
【
図9】第4の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図10】相対移動体の一主面を所定のギャップを維持しつつ、回転体の外周面に対向配置した例を示す図。
【
図11】
図9にギャップ推定部を追加した速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図12】検出コイルを鎖交する磁束密度を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0027】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0028】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図1の速度検出装置1は、磁束発生部2と、磁束検出部3と、磁束周波数制御部4と、速度推定部5とを備えている。
【0029】
磁束発生部2は、相対移動体6の一主面6aから離隔して配置され、相対移動体6の移動又は回転に応じて一主面6a上に着磁パターン7が形成されるように所定の周波数で変化する磁束を発生させる。より具体的には、磁束発生部2は、回転軸回りに回転自在な永久磁石8aを有する回転体8であってもよい。永久磁石8aは、回転体8の周方向に配置される複数の磁極8bを有する。着磁パターン7は、回転体8の回転に応じて相対移動体6の一主面6aに離隔して対向配置される磁極8bからの磁束により形成される。ここで、着磁パターン7とは、着磁の強さが略同一の範囲であり、着磁パターン7内の着磁の強さは、着磁パターン7の外側の領域の着磁の強さとは異なっている。相対移動体6の一主面6a上に複数の着磁パターン7がある場合、個々の着磁パターン7ごとに着磁の強さは異なっている可能性がある。
【0030】
磁束検出部3は、相対移動体6の一主面6aから離隔して配置され、着磁パターン7による磁束に応じて誘起される誘起電圧を検出する。より具体的には、磁束検出部3は、磁束発生部2内の永久磁石8aの各磁極8bの間隔に応じた径の検出コイル3aを有する。検出コイル3aの巻数は任意である。なお、磁束検出部3は、必ずしも検出コイル3aを用いる必要はなく、相対移動体6の一主面6aに形成された着磁パターン7からの磁束を検出する部材(例えば、ホール素子等)であればよい。以下では、磁束検出部3として検出コイル3aを用いる例を説明する。
【0031】
磁束周波数制御部4は、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロになるように、磁束発生部2が磁束を変化させる周波数を制御する。より具体的には、磁束周波数制御部4は、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロになるように、相対移動体6の移動又は回転速度と、回転体8の回転速度とを一致させる。磁束周波数制御部4は、相対移動体6が移動又は回転している期間内に継続して、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロになるように回転体8の回転速度を制御してもよい。
【0032】
速度推定部5は、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロの状態で、磁束周波数制御部4で制御された周波数に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。速度推定部5は、回転体8の回転速度を検出しなくても、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロになるときの磁束発生部2で発生される周波数に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定できる。
【0033】
相対移動体6は、その一主面6a上に磁束発生部2にて着磁パターン7を形成可能な磁性体である。
【0034】
図2は
図1の速度検出装置1に磁束変化速度検出部9を追加した図である。磁束変化速度検出部9は、磁束発生部2が磁束を変化させる周波数を検出する。磁束発生部2が回転体8の場合、磁束変化速度検出部9は、不図示のホール素子等を用いて、回転体8の回転速度を検出する。この場合、速度推定部5は、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロの状態で、磁束変化速度検出部9で検出された周波数(より具体的には、回転体8の回転速度)に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。相対移動体6の移動又は回転速度は、以下の(1)式で推定することができる。
相対移動体6の移動(回転)速度=回転体8の周速度
=2×π×回転体8の半径×回転体8の回転数 …(1)
【0035】
回転体8は、理想的には、相対移動体6の移動又は回転速度と同じ回転速度で回転するはずであるが、摩擦等により、実際には、回転体8の回転速度は、相対移動体6の移動又は回転速度よりも遅くなる。本明細書では、回転体8の回転速度とが相対移動体6の移動又は回転速度よりも遅くなる状況を回転体8のスリップと呼ぶ。
【0036】
図3は回転体8の永久磁石8aから発生される磁力線を模式的に示す図である。
図3の永久磁石8aは、周方向に配置された4つの磁極(2つのN極と2つのS極)を有する。なお、永久磁石8aの磁極数は特に問わない。N極から出た磁力線は、相対移動体6の一主面6aを通過した後に、隣接するS極に向かう。これらの磁極により、相対移動体6の表面には、相対移動体6の移動方向に沿ってN極に着磁された着磁パターン7とS極に着磁された着磁パターン7が近接して交互に形成される。各着磁パターン7からは、極性に応じた方向に磁力線が出ている。各着磁パターン7からの磁力線は、空中を通って相対移動体6の内部を進行し、元の着磁パターン7に戻る経路に設けられている。
【0037】
着磁パターン7のサイズは、相対移動体6の移動又は回転速度と、回転体8の回転速度に依存する。相対移動体6の移動又は回転速度が回転体8の回転速度に等しければ、相対移動体6の移動又は回転速度によらずに、各着磁パターン7のサイズは一定になる。
【0038】
検出コイル3aは、例えば、回転体8の回転速度と相対移動体6の移動速度が同じ場合に、極性が逆で隣接する2つの着磁パターン7の領域を合わせた径を有する。したがって、これら2つの着磁パターン7からの磁力線はほぼ等量ずつ検出コイル3aを鎖交するが、2つの着磁パターン7からの磁力線の向きは互いに逆であるため、検出コイル3aを鎖交する磁束は互いに相殺されて、ほぼゼロになる。よって、検出コイル3aには、誘起電圧は発生せず、誘起電流も流れなくなる。
【0039】
なお、検出コイル3aの径は、偶数個分の着磁パターン7のサイズを合わせた径を有していればよい。例えば、検出コイル3aの径が2n個(nは1以上の整数)分の着磁パターン7のサイズを合わせた径を有する場合、検出コイル3aを鎖交するn個の正方向の磁束とn個の負方向の磁束とが互いに相殺されて、検出コイル3aの誘起電圧がゼロになる。以下では、説明の簡略化のために、検出コイル3aが2個の着磁パターン7のサイズを合わせた径を有する例を説明する。
【0040】
図4は検出コイル3aを鎖交する磁束密度を示すグラフである。
図4のグラフの横軸は相対移動体6の移動又は回転方向の座標位置、縦軸は磁束密度B[T]である。
図4のハッチ領域が検出コイル3aを鎖交する磁束密度を表している。検出コイル3aを鎖交する磁束密度は正方向と負方向の面積が同一であり、両者が相殺し合うことから、検出コイル3aには誘起電圧は発生せず、誘起電流も流れなくなる。
【0041】
本実施形態では、磁束周波数制御部4による磁束の周波数制御により、回転体8の回転速度が相対移動体6の移動又は回転速度に一致するように制御している。したがって、着磁パターン7のサイズは一定に制御される。よって、予め検出コイル3aの径を2つの着磁パターン7のサイズに合わせておくことで、検出コイル3aに流れる電流がゼロ、すなわち、検出コイル3aに誘起される誘起電圧がゼロであれば、回転体8の回転速度が相対移動体6の移動又は回転速度に一致したと判断できる。
【0042】
磁束周波数制御部4は、例えば回転体8の回転軸を回転駆動させる不図示のモータを有する。磁束周波数制御部4は、モータの回転駆動力を調整することで、回転体8の回転速度を制御する。より具体的には、磁束周波数制御部4は、検出コイル3aに誘起される誘起電圧を磁束検出部3にて検出し、この検出結果に基づいて、誘起電圧がゼロになるように、回転体8の回転速度を制御する。
【0043】
図1の速度推定部5は、検出コイル3aの誘起電圧がゼロの状態で、磁束周波数制御部4が制御している磁束の周波数に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。一方、
図2の速度推定部5は、検出コイル3aの誘起電圧がゼロの状態で、磁束変化速度検出部9にて検出された回転体8の回転速度に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。検出コイル3aの誘起電圧がゼロであれば、回転体8の回転速度は相対移動体6の移動又は回転速度と同一とみなせるため、速度推定部5は、容易に相対移動体6の移動又は回転速度を推定できる。
【0044】
このように、第1の実施形態は、相対移動体6と磁束発生部2の距離が変化したとしても、磁束検出部3で検出される誘起電圧がゼロになるときの磁束発生部2で発生される周波数に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定できる。本実施形態は、相対移動体6の一主面6aに離隔して回転体8を対向配置させ、相対移動体6の移動又は回転に応じて回転する回転体8の回転速度から相対移動体6の移動又は回転速度を推定する場合、回転体8と相対移動体6の速度差(スリップ)によって、相対移動体6の移動又は回転速度を精度よく速度を推定することはできないことに着目したものである。本実施形態では、回転体8のスリップがゼロの状態を検出するために、回転体8を磁束周波数制御部4にて意図的に回転駆動し、検出コイル3aの誘起電圧がゼロになるようにする。検出コイル3aの誘起電圧がゼロになると、回転体8の回転速度が相対移動体6の移動又は回転速度に一致したと判断できるため、回転体8の回転速度から、相対移動体6の移動又は回転速度を容易に推定できる。
【0045】
また、本実施形態は、回転体8の永久磁石8aの磁力によって相対移動体6の一主面6a上に形成される着磁パターン7を積極的に利用している。回転体8の回転速度を相対移動体6の移動又は回転速度に一致させることで、相対移動体6の一主面6a上の各着磁パターン7のサイズを同一にしている。そして、検出コイル3aの径を2つの着磁パターン7のサイズにすることで、回転体8の回転速度が相対移動体6の移動又は回転速度に一致するときの検出コイル3aを鎖交する着磁パターン7からの正方向の磁束量と負方向の磁束量を相殺させることができる。よって、ギャップ変動の影響を受けることなく、簡易な構成で、相対移動体6の移動又は回転速度を精度よく推定できる。
【0046】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、磁束発生部2の構成が第1の実施形態とは異なるものである。
【0047】
図5は第2の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図5の速度検出装置1は、
図1の速度検出装置1と同様に、磁束発生部2と、磁束検出部3と、磁束周波数制御部4と、速度推定部5とを備えている。
【0048】
図5の磁束発生部2は、相対移動体6の一主面6a上に形成される着磁パターン7の極性を所定の周波数で変化させる磁束を発生させる励磁コイル2aと、励磁コイル2aに交流電流を流す交流電源2bとを有する。交流電源2bは、磁束周波数制御部4からの制御信号により、交流電流の周波数を切り替える。励磁コイル2aに流れる電流の方向が変化することで、励磁コイル2aから発生される磁束の向きが逆になる。励磁コイル2aから発生された磁束は、相対移動体6の一主面6a上を通過する。その際、相対移動体6の一主面6a上に、励磁コイル2aに流れる電流の向きに応じた極性の着磁パターン7が形成される。
【0049】
図6は交流電源2bの一具体例を示す回路図である。磁束発生部2は、
図6に示すように、発振回路2cと、電流計2dとを有する。発振回路2cは、直流電圧Udcが印加される二端子間に直列接続された2つのキャパシタC1,C2と、同じく直流電圧Udcが印加される二端子間に直列接続された2つのスイッチSW1,SW2とを有する。2つのスイッチSW1,SW2の接続ノードには、電流計2dを介して励磁コイル2aの一端が接続され、励磁コイル2aの他端は2つのキャパシタC1,C2の接続ノードに接続されている。スイッチSW1,SW2の切替周波数は、磁束周波数制御部4からの制御信号により制御することができる。
【0050】
磁束周波数制御部4は、検出コイル3aで検出される誘起電圧がゼロになるように、励磁コイル2aに流す電流の向きを切り替える周波数を制御する。
【0051】
励磁コイル2aに流れる電流の向きによって、相対移動体6の一主面6a上の着磁パターン7の極性が変化するため、励磁コイル2aに流れる電流の向きを切り替える周波数によって、相対移動体6上の着磁パターン7のサイズを調整できる。
【0052】
本実施形態では、検出コイル3aの径を予め定めた長さに設定しておく。磁束周波数制御部4にて、励磁コイル2aに流す電流の周波数を可変させて、検出コイル3aの誘起電圧がゼロになる周波数を検出し、検出された周波数に基づいて、以下の(2)式にて、相対移動体6の移動又は回転速度を計算(推定)する。
相対移動体6の移動(回転)速度=検出コイル3aの径×励磁コイル2aに流す電流の周波数
…(2)
【0053】
より具体的には、磁束周波数制御部4は、励磁コイル2aに流す電流の周波数を、所定の低周波数を初期値として、徐々に高くし、最初に検出コイル3aの誘起電圧がゼロになる周波数を選択する。
【0054】
このように、第2の実施形態では、検出コイル3aの誘起電圧がゼロになるように励磁コイル2aに流れる電流の向きを切り替える周波数を制御し、検出コイル3aの誘起電圧がゼロになるときの励磁コイル2aの電流切替周波数により、相対移動体6の移動又は回転速度を簡易かつ精度よく推定できる。
【0055】
第1の実施形態では、磁束発生部2として回転体8を用いているため、回転体8を回転させる機械的な機構が必要となるのに対し、第2の実施形態では、磁束発生部2として励磁コイル2aを用いており、励磁コイル2aを流れる電流の向きを切り替えるだけであり、機械的な機構が不要であり、より壊れにくくなり、保守性により優れている。
【0056】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、磁束発生部2としてボイスコイル部を用いたものである。
【0057】
図7は第3の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図7の速度検出装置1は、
図1の速度検出装置1と同様に、磁束発生部2と、磁束検出部3と、磁束周波数制御部4と、速度推定部5とを備えている。
【0058】
図7の磁束発生部2は、ボイスコイル部21を有する。ボイスコイル部21は、相対移動体6の一主面6aの法線方向に沿って2つの磁極が配置された永久磁石21aと、永久磁石21aに巻回されたボイスコイル21bと、この永久磁石21aの一端側に接続されるバネ部材21cとを有する。ボイルコイル21bに交流電流を流すことで、永久磁石21aが力を受けてバネ部材21cが伸縮し、永久磁石21aの他端側の磁極と相対移動体6の一主面6aとのギャップが変化する。
【0059】
ボイスコイル21bに電流を流すと、ボイスコイル21bと永久磁石21aの磁界との間に働くローレンツ力により、永久磁石21aが力を受ける。ボイスコイル21bに流れる電流の向きに応じて、このローレンツ力の向きも変わるため、これによって、永久磁石21aは、ボイスコイル21bの電流切替周波数により振動し、永久磁石21aの他端側の磁極の先端部と相対移動体6の一主面6aとのギャップが変化する。
【0060】
ギャップが小さいほど、相対移動体6の一主面6a上の着磁パターン7の着磁の強さは強くなり、ギャップが大きいほど、相対移動体6の一主面6a上の着磁パターン7の着磁の強さは弱くなる。よって、相対移動体6の一主面6a上には、永久磁石21aの振動に同期して、着磁の強さが異なる2種類の着磁パターン7が交互に形成される。
【0061】
第1及び第2の実施形態では、相対移動体6の一主面6a上に、極性の異なる2種類の着磁パターン7が交互に形成されたが、本実施形態では、着磁の強弱が異なる2種類の着磁パターン7が交互に形成される。
【0062】
検出コイル3aは、例えば、隣接する2つの着磁パターン7のサイズ分の径を有する。よって、検出コイル3aには、隣接する2つの着磁パターン7からの磁束が鎖交することになる。これらの磁束の方向は同じであるため、第1及び第2の実施形態のように、磁束が相殺されることはない。
【0063】
図8A及び
図8Bは検出コイル3aを鎖交する磁束密度のグラフである。これらのグラフの横軸は相対移動体6の移動又は回転方向の座標位置、縦軸は磁束密度B[T]である。検出コイル3a間に、着磁パターン7の強弱の一周期が含まれる場合、検出コイル3aを鎖交する磁束密度は
図8Aのようなグラフになる。この場合、検出コイル3aを鎖交する磁束量が常に一定となり磁束の変化が発生しないため、検出コイル3aに誘起電圧は発生しない。検出コイル3a間に、着磁パターン7の強弱の一周期が含まれない場合、検出コイル3aを鎖交する磁束密度は
図8Bのようなグラフになる。この場合、検出コイル3aを鎖交する磁束量が時間と共に変化するため、検出コイル3aに誘起電圧が発生する。
【0064】
よって、磁束周波数制御部4は、検出コイル3aで検出される誘起電圧がゼロになるようにボイスコイル21bの電流切替周波数を制御し、誘起電圧がゼロの時のボイスコイル21bの電流切替周波数と、検出コイル3aの直径に基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。
【0065】
このように、第3の実施形態では、検出コイル3aで検出される誘起電圧がゼロになるようにボイスコイル21bの電流切替周波数を制御することにより、誘起電圧がゼロのときのボイスコイル21bの電流切替周波数と検出コイル3aの直径とに基づいて相対移動体6の移動又は回転速度を推定できる。第3の実施形態は、強力な磁力を持った永久磁石21aを用いていることで、ボイスコイル21bに流す電流が小さくても、相対移動体6の一主面6a上に着磁パターン7を形成でき、第1及び第2の実施形態よりも、消費電力を削減できる可能性がある。
【0066】
(第4の実施形態)
第1及び第2の実施形態では、相対移動体6の移動又は回転速度に合わせて、回転体8の回転速度を制御、あるいは励磁コイル2aの電流切替周波数を制御したが、このような制御を行わない構成も考えられる。
【0067】
図9は第4の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図9の速度検出装置1は、磁束発生部2と、磁束検出部3と、磁束変化速度検出部9と、速度推定部5と、を備えている。磁束発生部2と磁束検出部3は、
図5と同様である。
【0068】
磁束発生部2は、例えば回転軸回りに回転自在な回転体8であるが、本実施形態の回転体8は、相対移動体6の移動又は回転速度に応じて相対移動体6の一主面6aに発生される渦電流による磁束により回転されるものである。
図9の速度検出装置1は、
図1の磁束周波数制御部4を備えていないため、回転体8は、相対移動体6の移動又は回転速度に応じた回転速度で回転する受動的な回転動作を行う。このため、回転体8の回転速度は、相対移動体6の移動又は回転速度以下になる。すなわち、回転体8の回転速度と相対移動体6の移動又は回転速度とに差があることが、回転体8が回転するための必須条件である。
【0069】
図10は相対移動体6の一主面6aを所定のギャップを維持しつつ、回転体8の外周面に対向配置した例を示している。相対移動体6の一主面6aは、平坦面でもよいし、曲面でもよい。典型的な一例としては、相対移動体6は回転体であり、相対移動体6の一主面6aは回転体の外周面である。
【0070】
回転体8の永久磁石8aの各磁極8bからの磁束中を相対移動体6が移動することにより、相対移動体6の一主面6a上に渦電流が発生する。渦電流の向きは、相対移動体6の移動方向に依存する。なお、本明細書では、相対移動体6自身が移動する例を説明するが、相対移動体6の移動とは、相対移動体6自身が停止して、回転体8が移動する場合も含まれる。すなわち、相対移動体6の移動とは、相対移動体6と回転体8との相対移動の意味である。相対移動体6の一主面6aと回転体8とのギャップは、回転体8の永久磁石8aの各磁極8bからの磁束が到達可能な範囲内に制限される。
【0071】
永久磁石8aの各磁極8bは、対向する相対移動体6の一主面6aに向かう方向またはその反対方向に磁化されている。また、永久磁石8aの隣接する磁極8b同士の磁化方向は逆である。
図10では、永久磁石8aの各磁極8bの磁化方向を矢印で示している。
【0072】
図10に示すように、相対移動体6の一主面6aに対向して配置される永久磁石8aの磁極の極性に応じて、相対移動体6の一主面6aに渦電流が発生する。相対移動体6が移動又は回転すると、相対移動体6の一主面6aには、回転体8からの磁束の変化を妨げる方向に渦電流が生じ、この渦電流による磁束と回転体8からの磁束との相互作用(反発力および誘引力)により、回転体8は回転する。ただし、回転体8の一主面6aの表面速度は、対向する相対移動体6の一主面6aの表面速度よりも遅くなる。
【0073】
例えば、回転体8のN極が相対移動体6の一主面6aに対向配置されている場合、N極の回転方向前方のエッジe1からの磁束が到達する相対移動体6の一主面6a部分に発生する渦電流12aの向きと、N極の回転方向後方のエッジe2からの磁束が到達する相対移動体6の一主面6a部分に発生する渦電流12bの向きとは相違している。N極の回転方向後方のエッジe2からの磁束により発生する渦電流12bは、N極からの磁束とは反対方向の磁束を発生させる向きに流れる。一方、N極の回転方向前方のエッジe1からの磁束が到達する相対移動体6の一主面6a部分に発生する渦電流12aは、N極からの磁束と同方向の磁束を発生させる向きに流れる。いずれの渦電流12a,12bも、相対移動体6の回転に伴う回転体8からの磁束の変化を妨げる方向に流れる。
【0074】
上述したように、回転体8のN極の回転方向前方のエッジe1側では、渦電流12aによる磁束と回転体8のN極からの磁束との方向が同じになることから、互いに引き寄せ合う誘引力が働く。一方、回転体8のN極の回転方向後方のエッジe2側では、渦電流12bによる磁束と回転体8のN極からの磁束とは反対方向になることから、互いに反発し合う反発力が働く。回転体8の外周面の表面速度が、対向する相対移動体6の一主面6aの表面速度より遅い場合には、上述した、回転体8と渦電流12a,12bの関係が常に成り立つ。これにより、回転体8は、対向する相対移動体6の一主面6aの移動表面を追いかけるようにして、対向する相対移動体6の一主面6aの表面速度よりも遅い表面速度で回転することになる。
【0075】
なお、上述した回転体8の回転の原理は、ローレンツ力による反力にて説明することもできる。上述したように、回転体8のN極の回転方向前方のエッジe1からの磁束による発生する渦電流12aと、回転体8の回転方向後方のエッジe2からの磁束による発生する渦電流12bとは、電流の向きが逆になっていて、N極の直下には常に一定方向の電流が流れる。これら渦電流12a,12bによる電流は、相対移動体6が
図10の矢印の向きに回転する場合には、相対移動体6の回転方向とは反対方向のローレンツ力を受ける。よって、これら渦電流12a,12bによる磁束を受ける回転体8は、相対移動体6の回転方向への、ローレンツ力の反力を受けて回転する。このように、回転体8と相対移動体6は、両者の対向面同士では同一方向に移動する。
【0076】
図9の磁束変化速度検出部9は、磁束発生部2が磁束を変化させる周波数を検出する。速度推定部5は、磁束発生部2が磁束を変化させる周波数と、相対移動体6の移動又は回転速度との対応関係を予め調べて例えばテーブル化しておき、磁束変化速度検出部9で検出された周波数からテーブルを参照して、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。テーブル化する代わりに、上述した対応関係を示す関数式を用意しておき、この関数式に磁束変化速度検出部9で検出された周波数を代入して、相対移動体6の移動又は回転速度を推定してもよい。
【0077】
ところで、回転体8の回転速度は、相対移動体6の一主面6aと回転体8の外周面との距離(ギャップ)によって変化する。このため、
図11に示すように、速度検出装置1内にギャップ推定部11を設けてもよい。
【0078】
ギャップ推定部11は、例えば、回転体8の永久磁石8aの磁束と鎖交する位置に不図示のコイルを設けて、このコイルに流れる電流と誘起電圧に基づいて、相対移動体6と励磁コイル2aとのギャップを推定する。
【0079】
ギャップ推定部11は、インピーダンス解析手法によってギャップを推定する。より具体的には、ギャップ推定部11は、上述したコイルに流れる電流及び誘起電圧に基づいて算出したコイルのインダクタンスと、予め定めたギャップの基準値に対応するコイルのインダクタンスとの対比に基づいてギャップを推定する。
【0080】
図12は検出コイル3aを鎖交する磁束密度を示すグラフである。
図12のグラフの横軸は相対移動体6の移動又は回転方向の座標位置、縦軸は磁束密度B[T]である。
図4のグラフと異なり、
図12のグラフでは、検出コイル3aを鎖交する磁束量が正負で等量にはならず、検出コイル3aに誘起電圧が誘起される。
【0081】
ギャップを考慮に入れる場合の速度推定部5は、磁束変化速度検出部9で検出される回転体8の回転速度と、磁束検出部3で検出される検出コイル3aの誘起電圧と、ギャップ推定部11で推定されたギャップとに基づいて、相対移動体6の移動又は回転速度を推定する。予め、回転体8の回転速度と、検出コイル3aの誘起電圧と、ギャップと、相対移動体6の移動又は回転速度の対応関係をテーブル化しておき、このテーブルを参照することで、相対移動体6の移動又は回転速度を推定してもよい。あるいは、上記の対応関係を数式化した演算式に、回転体8の回転速度、検出コイル3aの誘起電圧、及びギャップを入力して、相対移動体6の移動又は回転速度を演算してもよい。
【0082】
このように、第4の実施形態では、回転体8の回転制御を行わずに、相対移動体6の移動又は回転速度を推定できるため、第1~第3の実施形態による速度検出装置1よりも構成を簡略化できる。また、回転体8と相対移動体6の一主面6aとのギャップを考慮に入れて相対移動体6の移動又は回転速度を推定することもでき、推定精度を向上できる。
【0083】
上述した第1~第4の実施形態における相対移動体6は、それ自体が移動又は回転するものだけでなく、速度検出装置1に対して相対的に移動するものも含む概念である。よって、第1~第4の実施形態においては、速度検出装置1が列車等に搭載されている場合、列車等に対して相対的に移動するレール等の固定物も相対移動体6に含めて解釈される。
【0084】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 速度検出装置、2 磁束発生部、3 磁束検出部、4 磁束周波数制御部、5 速度推定部、6 相対移動体、7 着磁パターン、8 回転体、8a 永久磁石、8b 磁極、9 磁束変化速度検出部、11 ギャップ推定部、21 ボイスコイル部、 21a 永久磁石、21b ボイスコイル