(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-25
(45)【発行日】2022-04-04
(54)【発明の名称】速度検出装置及び速度検出方法
(51)【国際特許分類】
G01P 3/54 20060101AFI20220328BHJP
G01P 3/49 20060101ALI20220328BHJP
G01P 3/48 20060101ALI20220328BHJP
【FI】
G01P3/54
G01P3/49
G01P3/48 Z
(21)【出願番号】P 2018102399
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル、フランクル
(72)【発明者】
【氏名】アルダ、トウスズ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン、ベー.コラー
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 和人
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-540414(JP,A)
【文献】特許第2653671(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の前記一主面上を通過する磁束を所定の周波数で変化させる磁束発生部と、
応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力する応力検出部と、
前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じて前記磁束発生部に発生されるローレンツ力を前記応力検出部に伝達する応力伝達部材と、
前記電気信号に含まれる、前記ローレンツ力に関連する周波数成分を抽出する特定周波数帯域抽出部と、
前記特定周波数帯域抽出部で抽出された周波数成分に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置。
【請求項2】
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記相対移動体の加減速に応じて前記応力検出部に作用する慣性力に関連する周波数帯域とは異なる周波数に設定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項3】
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記応力検出部で検出される外乱ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に設定する、請求項1に記載の速度検出装置。
【請求項4】
前記磁束発生部は、前記相対移動体の前記一主面上を通過する磁束を前記所定の周波数で変化させる励磁コイルを有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項5】
前記磁束発生部は、
前記相対移動体の前記一主面から離隔して対向配置される永久磁石と、
前記相対移動体の前記一主面と前記永久磁石とのギャップを前記所定の周波数で変化させるボイスコイルと、を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項6】
前記相対移動体の周囲の外乱ノイズを検出する外乱ノイズ検出部を備え、
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記外乱ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に設定する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項7】
前記応力伝達部材は、前記ローレンツ力を前記応力検出部に伝達する剛性体である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項8】
前記応力伝達部材は、前記ローレンツ力に応じた気圧を前記応力検出部に伝達する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項9】
前記応力検出部は、力センサ、歪センサ又は気圧センサである、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項10】
応力に応じた電気信号をそれぞれ出力する第1応力検出器及び第2応力検出器と、
前記第1応力検出器から出力された電気信号と、前記第2応力検出器から出力された電気信号との差分信号に基づいて、相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備え、
前記第1応力検出器は、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の一主面を通過する磁束を所定の周波数で変化させる磁束発生部と、
前記応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力する第1応力検出部と、
前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じて前記磁束発生部に発生されるローレンツ力を前記第1応力検出部に伝達する第1応力伝達部材と、を有し、
前記第2応力検出器は、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置される非着磁体と、
前記応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力する第2応力検出部と、
前記相対移動体の移動又は回転に応じた慣性力を含む前記相対移動体の周囲の外乱ノイズによる応力を前記第2応力検出部に伝達する第2応力伝達部材と、を有する、速度検出装置。
【請求項11】
前記相対移動体は、列車の車輪又はレールであり、
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数に設定する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の速度検出装置。
【請求項12】
相対移動体の一主面から離隔して配置される磁束発生部にて、前記相対移動体の前記一主面上を通過する磁束を所定の周波数で変化させ、
応力検出部にて応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力し、
前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じて前記磁束発生部に発生されるローレンツ力を前記応力検出部に伝達し、
前記電気信号に含まれる、前記ローレンツ力に関連する周波数成分を抽出し、
前記抽出された周波数成分に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する、速度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非接触で移動体の速度を検出する速度検出装置及び速度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で車両の走行速度を検出する車速センサが知られている(特許文献1参照)。特許文献1では、車両に設けた進行方向に変位する磁石と軌道との間に作用する電磁力を利用して車速の絶対速度を検知している。より具体的には、進行方向の電磁力と垂直方向の電磁力を検出し、検出した電磁力を走行速度に変換する演算式をテーブル化して走行速度を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両は走行中にたえず振動しており、検出される電磁力は車両の振動によるノイズ成分を含んでいる。特許文献1には、車両の振動等のノイズの影響を軽減する手法が開示されていないため、特許文献1の手法では、車両の走行速度を精度よく検出できないおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、相対移動体の移動又は回転速度を精度よく検出可能な速度検出装置及び速度検出方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態によれば、相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の前記一主面上を通過する磁束を所定の周波数で変化させる磁束発生部と、
応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力する応力検出部と、
前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じて前記磁束発生部に発生されるローレンツ力を前記応力検出部に伝達する応力伝達部材と、
前記電気信号に含まれる、前記ローレンツ力に関連する周波数成分を抽出する特定周波数帯域抽出部と、
前記特定周波数帯域抽出部で抽出された周波数成分に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備える、速度検出装置が提供される。
【0007】
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記相対移動体の加減速に応じて前記応力検出部に作用する慣性力に関連する周波数帯域とは異なる周波数に設定してもよい。
【0008】
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記応力検出部で検出される外乱ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に設定してもよい。
【0009】
前記磁束発生部は、前記相対移動体の前記一主面上を通過する磁束を前記所定の周波数で変化させる励磁コイルを有してもよい。
【0010】
前記磁束発生部は、
前記相対移動体の前記一主面から離隔して対向配置される永久磁石と、
前記相対移動体の前記一主面と前記永久磁石とのギャップを前記所定の周波数で変化させるボイスコイルと、を有してもよい。
【0011】
前記相対移動体の周囲の外乱ノイズを検出する外乱ノイズ検出部を備え、
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記外乱ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に設定してもよい。
【0012】
前記応力伝達部材は、前記ローレンツ力を前記応力検出部に伝達する剛性体であってもよい。
【0013】
前記応力伝達部材は、前記ローレンツ力に応じた気圧を前記応力検出部に伝達してもよい。
【0014】
前記応力検出部は、力センサ、歪センサ又は気圧センサであってもよい。
【0015】
応力に応じた電気信号をそれぞれ出力する第1応力検出器及び第2応力検出器と、
前記第1応力検出器から出力された電気信号と、前記第2応力検出器から出力された電気信号との差分信号に基づいて、相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度推定部と、を備え、
前記第1応力検出器は、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置され、前記相対移動体の一主面を通過する磁束を所定の周波数で変化させる磁束発生部と、
前記応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力する第1応力検出部と、
前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じて前記磁束発生部に発生されるローレンツ力を前記第1応力検出部に伝達する第1応力伝達部材と、を有し、
前記第2応力検出器は、
前記相対移動体の一主面から離隔して配置される非着磁体と、
前記応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力する第2応力検出部と、
前記相対移動体の移動又は回転に応じた慣性力を含む前記相対移動体の周囲の外乱ノイズによる応力を前記第2応力検出部に伝達する第2応力伝達部材と、を有してもよい。
【0016】
前記相対移動体は、列車の車輪又はレールであり、
前記磁束発生部は、前記所定の周波数を、前記列車の振動周波数帯域とは異なる周波数に設定してもよい。
【0017】
本発明の他の一態様では、相対移動体の一主面から離隔して配置される磁束発生部にて、前記相対移動体の前記一主面上を通過する磁束を所定の周波数で変化させ、
応力検出部にて応力を検出して、前記応力に応じた電気信号を出力し、
前記相対移動体の移動又は回転速度に応じて前記相対移動体上に発生される渦電流による磁束に応じて前記磁束発生部に発生されるローレンツ力を前記応力検出部に伝達し、
前記電気信号に含まれる、前記ローレンツ力に関連する周波数成分を抽出し、
前記抽出された周波数成分に基づいて、前記相対移動体の移動又は回転速度を推定する速度検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図2】磁束発生部に発生されるローレンツ力を説明する図。
【
図3】(a)は磁束発生部の励磁コイルに流れる電流の波形を示す図、(b)は磁束発生部に発生されるローレンツ力の波形図。
【
図5A】ヨークに励磁コイルを巻回した磁束発生部の一例を示す図。
【
図5B】ヨークに励磁コイルを巻回した磁束発生部の他の一例を示す図。
【
図5C】ヨークに励磁コイルを巻回した磁束発生部の他の一例を示す図。
【
図6】本発明の第2の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【
図7A】本発明の第3の実施形態による速度検出装置の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0020】
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図1の速度検出装置1は、磁束発生部2と、応力検出部3と、応力伝達部材4と、特定周波数帯域抽出部5と、速度推定部6とを備えている。
【0022】
磁束発生部2は、相対移動体7の一主面7aから離隔して配置され、相対移動体7の一主面7a上を通過する磁束を所定の周波数で変化させる。この所定の周波数は、例えば、相対移動体7の加減速に応じて応力検出部3に作用する慣性力に関連する周波数帯域とは異なる周波数に設定される。あるいは、所定の周波数は、相対移動体7の加減速に応じて応力検出部3で検出される外乱ノイズの周波数帯域とは異なる周波数に設定されてもよい。磁束発生部2は、相対移動体7の一主面7a上を通過する磁束を所定の周波数で変化させる励磁コイル8を有する。励磁コイル8の両端には例えば交流電源9が接続されており、励磁コイル8に流れる電流は、所定の周波数で切り替えられる。なお、交流電源9の代わりに、例えば直流電源とスイッチを用いて、キャパシタを励磁コイル8に直列接続して、共振回路を構成してもよい。励磁コイル8は、所定の磁性部材10の表面に沿って巻回されている。磁性部材10は、励磁コイル8に交流電流を流して、かつ相対移動体7を移動又は回転させると、相対移動体7の移動又は回転方向に応じた方向のローレンツ力を発生させる。
【0023】
応力検出部3は、応力を検出して、応力に応じた電気信号を出力する。応力検出部3は、例えば力センサや歪センサ、圧電センサ、気圧センサなどである。
【0024】
応力伝達部材4は、相対移動体7の移動又は回転速度に応じて相対移動体7上に発生される渦電流による磁束に応じて磁束発生部2に発生されるローレンツ力を応力検出部3に伝達する。応力伝達部材4は、例えば剛性体である。剛性体の具体的な材料は問わないが、磁束発生部2に発生したローレンツ力を損失なく応力検出部3まで伝達可能な剛性を持った材料が望ましい。より具体的には、剛性体は、金属材料や樹脂材料などの変形しにくい材料が望ましい。また、応力伝達部材4は、応力に応じた圧縮力で空気を圧縮するピストン等の気圧伝達部材でもよい。
【0025】
特定周波数帯域抽出部5は、電気信号に含まれる、ローレンツ力に関連する周波数成分を抽出する。特定周波数帯域抽出部5は、例えばバンドパスフィルタ11を有する。バンドパスフィルタ11は、ローレンツ力に関連する周波数成分を主に通過させる周波数特性を持っている。
【0026】
速度推定部6は、特定周波数帯域抽出部5で抽出された周波数成分に基づいて、相対移動体7の移動又は回転速度を推定する。
【0027】
相対移動体7は、その一主面7a上に渦電流を発生させることができる導体である。相対移動体7は、磁束発生部2の一端部から所定のギャップを隔てて配置されている。以下では、まず最初に、磁束発生部2が所定の周波数で磁束を変化させている状態で、相対移動体7が所定の方向に移動するときに、磁束発生部2にローレンツ力が発生する原理を説明する。
【0028】
相対移動体7の移動速度に応じて、相対移動体7の一主面7a上には渦電流12a,12bが発生する。渦電流12a,12bの向きは、相対移動体7の移動方向に依存する。磁束発生部2で発生される磁束は周期的に変化するため、渦電流12a,12bの大きさが周期的に変化する。なお、本明細書では、相対移動体7自身が移動する例を説明するが、相対移動体7の移動とは、相対移動体7自身が停止して、磁束発生部2が移動する場合も含まれる。すなわち、相対移動体7の移動とは、相対移動体7と磁束発生部2との相対移動の意味である。相対移動体7の一主面7aと磁束発生部2とのギャップは、磁束発生部2からの磁束が到達可能な範囲内に制限される。また、本明細書における「移動」とは、「回転」を含む意味で使われる場合もある。本明細書における相対移動体7は、所定方向に移動するものであっても、所定の回転軸回りに回転するものであってもよい。
【0029】
図2に示すように、相対移動体7の一主面7aに対向して配置される磁束発生部2で発生される磁束の向きと、相対移動体7の移動方向に応じて、相対移動体7の一主面7aに渦電流12a,12bが発生する。
図1では、紙面の表から裏に向かう渦電流12a,12bを「×」で示し、紙面の裏から表に向かう渦電流12a,12bを「●」で表している。なお、相対移動体7の一主面上には、磁束発生部2の交番磁束を打ち消す方向に、渦電流12a,12bとは別個の渦電流が発生するが、
図1と
図2では省略している。
【0030】
相対移動体7が移動又は回転すると、相対移動体7の一主面7aには、磁束発生部2からの磁束の変化を妨げる方向に渦電流12a,12bが生じ、この渦電流12a,12bによる磁束と磁束発生部2からの磁束との相互作用(反発力および誘引力)により、磁束発生部2にはローレンツ力が発生する。
【0031】
例えば、磁束発生部2に、相対移動体7の一主面7aに向かう方向の磁束が発生している場合、磁束発生部2における相対移動体7の移動方向前方のエッジe1からの磁束が到達する相対移動体7の一主面7aに発生する渦電流12aの向きと、磁束発生部2における相対移動体7の移動方向後方のエッジe2からの磁束が到達する相対移動体7の一主面7aに発生する渦電流12bの向きとは相違している。エッジe2からの磁束により発生する渦電流12bは、磁束発生部2からの磁束とは反対方向の磁束を発生させる向きに流れる。一方、エッジe1からの磁束が到達する相対移動体7の一主面7a部分に発生する渦電流12aは、磁束発生部2からの磁束と同方向の磁束を発生させる向きに流れる。いずれの渦電流12a,12bも、相対移動体7の回転に伴う磁束発生部2からの磁束の変化を妨げる方向に流れる。
【0032】
上述したように、磁束発生部2における相対移動体7の移動方向前方のエッジe1側では、渦電流12aによる磁束と磁束発生部2からの磁束との方向が同じになることから、互いに引き寄せ合う誘引力が働く。一方、磁束発生部2における相対移動体7の移動方向後方のエッジe2側では、渦電流12bによる磁束と磁束発生部2からの磁束とは反対方向になることから、互いに反発し合う反発力が働く。これら吸引力と反発力によって、磁束発生部2は相対移動体7の移動方向に沿った方向に応力すなわちローレンツ力を受ける。
【0033】
なお、上述した磁束発生部2に発生されるローレンツ力は、以下のように説明することもできる。磁束発生部2における相対移動体7の移動方向前方のエッジe1からの磁束による発生する渦電流12aと、磁束発生部2における相対移動体7の移動方向後方のエッジe2からの磁束による発生する渦電流12bとは、電流の向きが逆になっていて、磁束発生部2の直下には常に一定方向の電流が流れる。これら渦電流12a,12bによる電流は、相対移動体7が
図2の矢印の向きに移動する場合には、相対移動体7の移動方向とは反対方向のローレンツ力を受ける。よって、これら渦電流12a,12bによる磁束を受ける磁束発生部2は、相対移動体7の移動方向へのローレンツ力の反力を受ける。この反力が磁束発生部2に発生される応力すなわちローレンツ力である。
【0034】
図3(a)は磁束発生部2の励磁コイル8に流れる電流Iの波形を示す図、
図3(b)は磁束発生部2に発生されるローレンツ力Fの波形図である。
図3(a)に示すように、励磁コイル8に流れる電流Iは、所定の周波数で変化する正弦波波形になる。一方、磁束発生部2に発生されるローレンツ力Fは、
図3(b)に示すように、励磁コイル8に流れる電流の周波数の2倍の周波数となる。すなわち、励磁コイル8に流れる電流が最大及び最小になるときに、磁束発生部2に発生されるローレンツ力Fは最大になる。このローレンツ力Fは、相対移動体7の移動又は回転速度に応じて振幅が増減する正弦波波形になる。
図3(b)は理想的な正弦波波形を示しているが、相対移動体7の移動又は回転速度が変化する場合は、励磁電流の2倍の基本周波数成分と、相対移動体7の加減速による周波数成分とを合成した波形になる。なお、
図3(b)に示すように、励磁コイル8に流れる電流が最大及び最小になるタイミングと、磁束発生部2に発生されるローレンツ力が最大になるタイミングとは、理想的には一致するが、実際には、励磁コイル8のコアの磁性材料にヒステリシスがある等の理由で、両タイミングがずれる場合もありうる。
【0035】
したがって、
図3(b)のローレンツ力Fを検出すれば、相対移動体7の移動又は回転速度を推定できることになる。そこで、本実施形態では、磁束発生部2に発生されるローレンツ力を、応力伝達部材4で応力検出部3に伝達し、応力検出部3でローレンツ力に応じた電気信号を検出している。
【0036】
ところが、相対移動体7の加速又は減速時には慣性力が発生し、慣性力が発生すると、磁束発生部2に作用する応力が変化してしまう。よって、相対移動体7の加速又は減速時には、慣性力の分だけ、応力検出部3で検出される応力が変化し、応力検出部3で検出された応力では、磁束発生部2に発生されるローレンツ力を正しく抽出できなくなる。
【0037】
ここで、磁束発生部2に作用する慣性力は、周期関数で表すことができる。周期関数は、フーリエ級数展開により、複数の周波数の正弦波の和として表現できる。同様に、慣性力以外の外乱ノイズ(例えば、相対移動体7の振動など)の信号もすべて周波数解析をすることができる。
【0038】
本実施形態では、慣性力を含めた外乱ノイズの信号解析を行って、外乱ノイズの周波数帯域と重ならない周波数帯域に、励磁コイル8に流す電流の周波数を設定するとともに、バンドパスフィルタ11の通過周波数特性を設定する。
【0039】
慣性力は相対移動体7の加速度に応じて変化する。また、慣性力以外の外乱ノイズは時と場合により異なる可能性がある。よって、慣性力を含めた外乱ノイズを予めシミュレーションや実験等によって検出し、外乱ノイズの周波数帯域を把握しておくのが望ましい。
【0040】
バンドパスフィルタ11は、外乱ノイズの周波数帯域を遮断するような周波数特性を有する。これにより、応力検出部3が出力する応力に応じた電気信号に含まれる周波数成分のうち、外乱ノイズに起因する周波数成分を除去することができる。
【0041】
応力検出部3が出力する応力に応じた電気信号は、例えば応力によって信号振幅が変化する信号である。よって、磁束発生部2に発生される応力がローレンツ力であり、かつ外乱ノイズがないとすると、応力検出部3から出力される電気信号の信号振幅と、相対移動体7の移動又は回転速度とは、一対一に対応づけることができる。よって、予め、応力検出部3の電気信号の信号振幅と相対移動体7の移動又は回転速度との対応関係をテーブル化しておくか、あるいは演算式で表しておけば、速度推定部6は、テーブルを参照するか、あるいは演算式に応力検出部3の電気信号を入力することにより、相対移動体7の移動又は回転速度を推定することができる。
【0042】
図4は
図1に外乱ノイズ検出部13と周波数調整部14とを追加した一変形例による速度検出装置1のブロック図である。外乱ノイズ検出部13は、圧電素子や加速度センサ等を用いて速度検出装置11の周辺の外乱ノイズを検出する。なお、外乱ノイズの検出には種々の手法があり、いずれを採用してもよい。例えば、相対移動体7の振動を検出してもよい。外乱ノイズ検出部13は、慣性力を検出してもよいし、検出しなくてもよい。以下では、外乱ノイズ検出部13は、慣性力を検出しない代わりに、慣性力の周波数帯域は予め検出しておく例を説明する。
【0043】
周波数調整部14は、慣性力の周波数帯域と外乱ノイズ検出部13で検出された外乱ノイズの周波数帯域とは異なるように励磁コイル8の励磁周波数を調整するとともに、慣性力の周波数帯域と外乱ノイズの周波数帯域とは異なる通過特性を持つようにバンドパスフィルタ11の周波数特性を調整する。
【0044】
図1と
図4の速度検出装置1では、相対移動体7の一主面7aと磁束発生部2とのギャップの時間平均値が一定であることを前提としている。ギャップが変化すると、磁束発生部2に発生されるローレンツ力が変化し、応力検出部3から出力される電気信号も変化してしまう。よって、相対移動体7の移動又は回転の最中にギャップの時間平均値が変動するおそれがある場合は、ギャップを推定するギャップ推定部を追加して、速度推定部6は、推定されたギャップを考慮に入れた上で、相対移動体7の移動又は回転速度を推定するのが望ましい。
【0045】
図1及び
図4の磁束発生部2は、磁性部材10の表面に励磁コイル8を巻回した構造を備えているが、
図5A~
図5Cに示すように、種々の形状のヨーク20に励磁コイル8を巻回した構造を備えていてもよい。
図5Aは、コの字状のヨーク20の中央部に励磁コイル8を巻回した構造を備えている。
図5Bは、コの字状のヨーク20の両側の枝部に励磁コイル8を巻回した構造を備えている。
図5Cは、E字状のヨーク20の中央の枝部に励磁コイル8を巻回した構造を備えている。ヨーク20の形状及び励磁コイル8の巻回方法は、
図5A~
図5Cに示したものに限定されない。ヨーク20を設けることで、より小さい消費電力で大きな磁界を発生させることができ、磁気効率の向上が図れる。
【0046】
このように、第1の実施形態では、相対移動体7の一主面7a上に発生される渦電流12a,12bによる磁束により磁束発生部2に発生されるローレンツ力を、応力伝達部材4を介して応力検出部3に伝達させ、応力検出部3から出力される応力に応じた電気信号に含まれる慣性力を含めた外乱ノイズをバンドパスフィルタ11で除去した後に相対移動体7の速度を推定するため、慣性力等の外乱ノイズに依存せずに、相対移動体7の速度を精度よく検出できる。
【0047】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図6の速度検出装置1は、磁束発生部2の構成が
図1とは異なっているが、それ以外は
図1と同様に構成されている。
【0048】
図6の磁束発生部2は、永久磁石15と、この永久磁石15の表面に巻回されたボイスコイル16と、永久磁石15の一端側に接続されるバネ部材17とを有する。ボイスコイルに交流電流を流すことで、永久磁石15が力を受けてバネ部材17が伸縮し、永久磁石15の他端側の磁極と相対移動体7の一主面7aとのギャップが変化する。
【0049】
ギャップが小さいほど、相対移動体7の一主面7a上の磁界強度は大きくなり、ギャップが大きいほど、相対移動体7の一主面7a上の磁界強度は小さくなる。よって、相対移動体7の一主面7a上の磁界強度は周期的に変化する。この磁界強度の変化によって、相対移動体7の一主面7a上には周期的に大きさが変化する渦電流12a,12bが発生する。渦電流12a,12bの大きさが周期的に変化することにより、磁束発生部2に発生されるローレンツ力も周期的に変化する。このローレンツ力の周波数に合わせて、バンドパスフィルタ11の通過特性を設定することにより、応力検出部3で検出されるノイズ成分を除去できる。バンドパスフィルタ11を通過したローレンツ力の周波数成分は、速度推定部6に入力されて、相対移動体7の移動又は回転速度が推定される。
【0050】
相対移動体7が移動又は回転すると、
図2と同様に、永久磁石15における相対移動体7の移動方向前方のエッジと移動方向後方のエッジとで、これらエッジの直下の相対移動体7の一主面7a上に形成される渦電流12a,12bの向きが互いに逆になる。これにより、永久磁石15に、相対移動体7の移動又は回転方向にローレンツ力が発生される。
【0051】
図6の永久磁石15と応力検出部3とは応力伝達部材4で接続されている。よって、永久磁石15に発生されたローレンツ力は、応力伝達部材4を介して応力検出部3に伝達される。応力検出部3は、応力に応じた電気信号を出力する。この電気信号は、バンドパスフィルタ11でフィルタリングされる。上述したように、バンドパスフィルタ11の通過特性は、相対移動体7の一主面7a上に発生される渦電流12a,12bの大きさが変化する周波数に合わせて設定される。
【0052】
図6の速度検出装置1においても、慣性力を含めた外乱ノイズの影響を回避するために、外乱ノイズの周波数帯域を事前に検出しておき、交流電源9は、外乱ノイズの周波数帯域とは異なる周波数の電流をボイスコイル16に流す。また、バンドパスフィルタ11で外乱ノイズの周波数成分を除去できるように、外乱ノイズの周波数帯域に応じてバンドパスフィルタ11の通過周波数特性が調整される。
【0053】
これにより、
図6の速度推定部6は、慣性力等の外乱ノイズの影響を受けることなく、相対移動体7の移動又は回転速度を精度よく推定することができる。
図6の速度検出装置1においても、
図4と同様に、外乱ノイズ検出部13と周波数調整部14とを備えてもよい。
【0054】
このように、第2の実施形態では、永久磁石15とボイスコイル16を用いて磁束発生部2を構成することにより、第1の実施形態と同様に、慣性力等の外乱ノイズに依存せずに、相対移動体7の速度を精度よく検出できる。また、第2の実施形態では、永久磁石15を用いるため、相対移動体7とのギャップが大きい場合でも、相対移動体7の一主面7a上の磁界強度を強くすることができる。また、ボイスコイル16に流す電流が小さくても、相対移動体7の一主面7a上の磁界強度を十分に変化させて周期的に大きさが変化する渦電流12a,12bを発生させることができ、第1の実施形態よりも消費電力を削減できる。
【0055】
(第3の実施形態)
図7A及び
図7Bは本発明の第3の実施形態による速度検出装置1の概略構成を示す図である。
図7A及び
図7Bの速度検出装置1は、応力に応じた電気信号をそれぞれ出力する第1応力検出器21及び第2応力検出器22と、速度推定部6とを備えている。
図7Aと
図7Bの違いは、
図7Aはバンドパスフィルタを備えていないのに対し、
図7Bはバンドパスフィルタ11を備えている点である。
【0056】
第1応力検出器21は、磁束発生部2と、第1応力検出部23aと、第1応力伝達部材24aとを有する。磁束発生部2は、相対移動体7の一主面7aから離隔して配置され、相対移動体7の一主面7aを通過する磁束を発生させる。第1応力検出部23aは、応力を検出して、応力に応じた電気信号を出力する。第1応力伝達部材24aは、相対移動体7の移動又は回転速度に応じて相対移動体7上に発生される渦電流12a,12bによる磁束に応じて磁束発生部2に発生されるローレンツ力を第1応力検出部23aに伝達する。
【0057】
第2応力検出器22は、非着磁体25と、第2応力検出部23bと、第2応力伝達部材24bとを有する。非着磁体25は、相対移動体7の一主面7aから離隔して配置される。第2応力検出部23bは、応力を検出して、応力に応じた電気信号を出力する。第2応力伝達部材24bは、相対移動体7の移動又は回転に応じた慣性力を含む相対移動体7の周囲の外乱ノイズによる応力を第2応力検出部23bに伝達する。
【0058】
磁束発生部2は、例えば永久磁石15である。永久磁石15は、磁性体に強力な磁界を与えて着磁することにより形成される。非着磁体25は、永久磁石15を作製する母体となる磁性体を着磁しなかったものであり、主に慣性力を検出する目的で設けられることから、慣性体とも呼ばれる。
【0059】
第1応力検出器21の内部の磁束発生部2は永久磁石15を有し、相対移動体7の移動又は回転速度に応じたローレンツ力を発生させる。この磁束発生部2で発生される応力は、ローレンツ力だけでなく、慣性力等の外乱ノイズによる応力も含んでいる。
【0060】
一方、第2応力検出器22の内部の非着磁体25は、着磁されていないため、相対移動体7の一主面7a上に渦電流12a,12bが発生せず、非着磁体25にも相対移動体7の移動又は回転速度に応じたローレンツ力を発生されない。ただし、非着磁体25には、慣性力等の外乱ノイズによる応力が作用する場合がある。
【0061】
速度推定部6は、第1応力検出器21で検出された応力に応じた電気信号と、第2応力検出器22で検出された応力に応じた電気信号との差分信号に基づいて、相対移動体7の移動又は回転速度を推定する。
【0062】
第1応力検出器21で検出された応力は、相対移動体7の移動又は回転速度に応じて磁束発生部2に発生されるローレンツ力と、慣性力を含む外乱ノイズによる応力とを含んでいるのに対し、第2応力検出器22で検出された応力は、ローレンツ力を含まずに、慣性力を含む外乱ノイズによる応力を含んでいる。よって、第1応力検出器21と第2応力検出器22から出力された双方の電気信号の差分を取ることで、慣性力を含む外乱ノイズによる応力をキャンセルして、ローレンツ力だけを抽出できる。よって、本実施形態の速度検出装置1では、
図7Aのようにバンドパスフィルタ11を設けなくても、相対移動体7の移動又は回転速度を精度よく検出できる。なお、
図7Bの速度検出装置1がバンドパスフィルタ11を備えている理由は、慣性力以外の外乱ノイズをキャンセルするためである。
【0063】
このように、第3の実施形態では、第1応力検出器21と第2応力検出器22を設けて、第1応力検出器21と第2応力検出器22から出力された両方の電気信号の差分を取ることで、外乱ノイズをキャンセルできる。よって、バンドパスフィルタ11が必須でなくなり、簡易な構成で、精度よく相対移動体7の移動又は回転速度を検出できる。
【0064】
上述した第1~第3の実施形態における相対移動体6は、それ自体が移動又は回転するものだけでなく、速度検出装置1に対して相対的に移動するものも含む概念である。よって、第1~第3の実施形態においては、速度検出装置1が列車等に搭載されている場合、列車等に対して相対的に移動するレール等の固定物も相対移動体6に含めて解釈される。なお、第1~第3の実施形態における相対移動体6は、導電体である。
【0065】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 速度検出装置、2 磁束発生部、3 応力検出部、4 応力伝達部材、5 特定周波数帯域抽出部、6 速度推定部、7 相対移動体、8 励磁コイル、9 交流電源、10 磁性部材、11 バンドパスフィルタ、12a,12b 渦電流、13 外乱ノイズ検出部、14 周波数調整部、15 永久磁石、16 ボイスコイル、17 バネ部材、21 第1応力検出器、22 第2応力検出器、23a 第1応力検出部、23b 第2応力検出部、24a 第1応力伝達部材、24b 第2応力伝達部材、25 非着磁体